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桟橋上部工の電気防食工法による維持管理事例の紹介
東亜建設工業技術研究開発センター 黒米郁氏
「桟橋上部工の電気防食工法による維持管理事例」と題して、電気防食工事の概要、施
工方法、施工上で苦労した点などを紹介したい。工事概要に加え、コンクリートに適用す
る電気防食のメカニズムや概念、実際に行った工事の施工方法、さらに今回の工事で使用
した工法ではないが、新しい流電陽極方式としてアルミシート方式について説明する。
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まず、電気防食工法の適用工事の概要だが、発注者は国土交通省中部地方整備局の清水
港湾事務所である。施工場所は、駿河湾内に位置した清水港内の日の出岸壁で、冷凍マグ
ロの陸揚げや大型旅客船、定期運航フェリーなどの流通拠点として利用率が高い場所であ
る(3P)。
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日の出岸壁は、昭和 58 年~昭和 63 年に構築された直杭式桟橋で、供用から約 30 年が経
過している。延長は約 480m、水深は約 12m(4P)である。岸壁は、平均水面がプラス 1m
に対して、天端高はプラス 2.9m と低く、上部工は塩害の影響を受けやすい状況にある。近
年の調査でも、上部工コンクリートにひび割れや剥落が顕在化していた。
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このため、国交省はコンクリートの劣化調査を行い、劣化した上部工コンクリートに対
し、補修および電気防食工法による延命化対策事業を実施した。本報告は延命化対策事業
の最終年度(4年目)に行った事業内容である。
これが桟橋全体の平面図である(5P)。4号岸壁に隣接した5号岸壁の合計6ブロックが、
劣化コンクリートの補修、および電気防食の施工範囲である。1 ブロックの形状は延長約
20m、幅約 22m であった。これが標準断面図(6P)であり、コンクリートの梁とスラブに
電気防食、劣化対策を行う。これが劣化状況を示す写真である(7P)。
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補修内容について、電気防食を行うにあたっては、劣化したコンクリートをはつり取っ
て健全な状態に補修することが重要だ。劣化したコンクリートの断面修復、ひび割れ補修
を行い、全域に電気防食を行う流れになる。
このフロー図で、黄色で記載してある部分が電気防食の工程である(8P)。まず、ひび
割れなどの劣化箇所のマーキングを行い、劣化したコンクリートを撤去して健全な状態に
補修してから、アンカーボルトを打設して防食板を取り付ける。防食板間の隙間を端部処
理として埋め戻し、適正に電気防食がされているかをモニタリングして工事が完了する。
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次に、コンクリートの電気防食工法に関し、塩害による鉄筋腐食のメカニズムを説明す
る。コンクリートは高アルカリ状態にあり、コンクリートに埋め込まれた鉄筋の表面には
不動態皮膜と呼ばれる保護膜が存在する。塩化物イオンが、ある一定濃度以上に達すると
不動態皮膜は破壊される。港湾施設だと、およそ 1 ㎥当たり 2 ㎏程度の塩化物イオンで不
動態皮膜は破壊される。不動態皮膜が破壊されたアノード部から電子が失われ、健全なカ
ソード部との間に電位差が生じ、電流が流れることで、鉄筋が腐食するメカニズムになっ
ている。(9P)
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鉄筋の腐食を抑制するために信頼ある工法として近年、電気防食工法が用いられるよう
になったが、その概念を説明する。鋼管杭の水中部にアルミ合金陽極を取り付け、鉄より
溶解しやすいアルミを先に腐食させることで、鋼管杭を防食する犠牲陽極をイメージして
ほしい。
上部工コンクリートでは、コンクリート表面に陽極を取り付け、コンクリートを介して
防食電流を流す。電位差により鉄筋が腐食していたが、防食電流を流すことで電子を過剰
に供給し、電位をマイナス側に下げることで、電位差をなくすというのが電気防食の概念
である(10P)。
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電気防食工法は、外部電源方式と流電陽極方式の二つの種類がある(11P)。外部電源方
式は、外部に電源装置を設け強制的に電流を流す方式であり、面状、線状、点状の陽極の
種類がある。一方、流電陽極方式は、鋼材よりも溶解しやすい材料を陽極として活用する
方式で、外部に電源装置は必要ない。今回の工事では、実績の多い亜鉛シート方式を採用
している。陽極材として使用した亜鉛材は鋼材よりも溶解しやすいため、防食電流が流れ
る。やがて、腐食部と同じレベルまで電位が下がるため電位差はなくなり、腐食電流が消
滅することで鋼材の腐食は抑制される。
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今回、使用した亜鉛シートの構成は、FRP保護板、亜鉛シート、バックフィルの 3 層
構造になっている(12P)。バックフィルは亜鉛シートとコンクリートの間に存在し、均一
に鉄筋に電流を流す役割を果たす。
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施工の手順は、まずコンクリートを健全な状態に戻すのが大前提である。配置計画に沿
ってマーキングを行い、防食板を取り付けるためのアンカーボルトを設置する(14P)。次
に、近隣に小屋(加工場)を確保し、亜鉛シートにバックフィル材を充てんし、現場へと
搬入する。
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防食板は重さが 15 キロ程度あるため、狭隘な作業空間での床板の下面に取り付けるのは
大変な作業であった。それぞれの防食板を電気的につなげる必要があるため、各々を結線
し端部処理を行う。その後、アンカーボルト部分からバックフィル材が流出し、空洞化し
て電気が流れなくならないよう、ボルトキャップを設置する。
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電気防食工法の施工のポイントは、まず、断面修復に使う材料は無機系で電気抵抗の少
ないものとし、オリジナルの母体コンクリートと同程度の電気抵抗を有しているものが望
ましい。
2 番目に、鉄筋がコンクリートの中で全て電気的につながっている必要があるため、劣化
したコンクリートの断面修復を行う時に、はつり個所を利用して鉄筋が電気的につながっ
ているか確認が必要である。鉄筋のかぶりが薄いとコンクリート表面の陽極材と接する可
能性があるので、絶縁の確認も必要である。
3 番目に防食板の取り付けでは、コンクリートに防食電流を流す必要があるため、不陸整
正やアンカーボルトの管理を確実に行う必要がある。防食板を取り付けた後も維持管理と
して、1~2 年に 1 回程度はパネルの脱落やアンカーボルトを点検する必要がある。亜鉛シ
ートの耐用年数は 15 年程度であるが、耐用年数の 7~8 割が経過した時に、部分的に防食
板を取り外し、陽極消耗量調査を行うことも重要である。
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施工時の工夫・苦労では、潮待ち作業を考慮したため、足場と梁下面のクリアランスが
約 65 センチと狭隘な作業空間であった。吊りチェーンを少なくするため、PC鋼線を受桁
材とした足場を採用しているほか、防食板は単管パイプをレールとした運搬台車で運搬す
るなどの工夫を行っている。
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また、防食板の取付や結線、端部処理は厳しい体勢での作業になるため、施工の簡素化
が課題であった。
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このため亜鉛シート方式よりも効率良く施工が可能なアルミシート方式を紹介する(21
P)。比重は亜鉛 7.1 ㎏、アルミ 2.7 ㎏で、陽極材の軽量化によって施工性が向上する。電
気発生量も非常に高く、長寿命で陽極間の配線が不要なのも特徴である。
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アルミシート方式の施工方法は、コンクリート面にベース金具を取り付け、真ん中にア
ンカーを設置する(22P)。亜鉛板は重量があるため、アンカーボルトが数本必要であるが、
アルミシートは亜鉛板に比べ非常に軽量なのでボルト 1 本で取り付けが可能である。先ほ
どアルミシート方式は陽極間の配線が不要だと述べたが、アルミシート間に取り付けられ
ているベース金具が配線の役割を果たし、導通が確保できる。その後、化粧金具を取り付
けて作業は終了する。
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アルミシートは連絡橋や配管橋の橋台、桟橋、道路橋などで施工事例がある(23P)。た
だし、亜鉛シート方式は 1989 年くらいから実績があるのに対し、アルミシート方式は 2007
年からの開発であるため実績が少ない。これから実績を増やしていきたいと考えている。
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(文責:協会事務局)
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