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感度係数について
1
産業技術総合研究所 計測標準研究部門
物性統計科 応用統計研究室
城野 克広 <k.shirono@aist.go.jp>
モデル式、そして感度係数
2
例 ある液体の体積vを、その質量と密度から求めることにした。まず、液体の質量を質量計で5回反復測定し、測定データ{100.0,100.3, 99.9, 99.7, 100.1 g}を得た。一方液体の密度については「この液体の密度の値は2.00 g/cm3である。この値の誤差は±0.01 g/cm3を越えない。」という情報をハンドブックから得た。
不確かさの見積もり例不確かさの見積もり例
3
不確かさの評価をするために下のようなバジェット表と呼ばれる表が準備されることが好ましい。今回は体積を求める例について、バジェット表の穴埋めをしながら、不確かさの求め方を説明する。
バジェット表バジェット表
不確かさ要因 記号標準不確かさ
u(xi)感度係数
ci
測定量の標準不確かさ|ci|u(xi) (cm3) 備考
質量測定の繰返し性
密度の値の不確かさ
合成標準不確かさ
uc(v)
拡張不確かさ
U
4
例 ある液体の体積vを、その質量と密度から求めることにした。まず、液体の質量を質量計で5回反復測定し、測定データ{100.0,100.3, 99.9, 99.7, 100.1 g}を得た。一方液体の密度については「この液体の密度の値は2.00 g/cm3である。この値の誤差は±0.01 g/cm3を越えない。」という情報をハンドブックから得た。
液体の体積v、液体の質量m、液体の密度0の間にどのような関係があるか?
4.1.1 多くの場合、測定量Yは直接には測定されず、他のN個の量X1、X2、…、XNから次の関数関係fにより決定される。
Y=f(X1、X2、…、XN) …(1)
モデル式モデル式
5
モデル式モデル式
0
0,
mmfv
m:5回測った質量の平均値0:ハンドブックから得られた密度
まず体積v を求める式を立てる。
この定式化を「測定のモデル化」と言う。立てられた式は、測定のモデル式と呼ばれる。
まず、どの値の標準不確かさを求めるのか明確化する上でモデル式は、重要である。ここでは、mと0の標準不確かさを求める。
4.1.1(の要約) Y=f(X1、X2、…、XN)
6
7
測定値の計算測定値の計算
g 0.1001.1007.999.993.1000.100511
1
n
kkm
nm
平均値を求める
30 cmg 00.2
密度はハンドブックから得られている。
3
0
cm 00.5000.2
0.100
mv
モデル式を用いて測定値を計算する。
不確かさ要因 記号標準不確かさ
u(xi)感度係数
ci
測定量の標準不確かさ|ci|u(xi) (cm3) 備考
質量測定の繰返し性
u(m)
密度の値の不確かさ
u(0)
合成標準不確かさ
uc(v)
拡張不確かさ
U
0
0,
mmfv m:5回測った質量の平均値0:ハンドブックから得られた密度
バジェット表バジェット表
体積v のモデル式
モデル式を立てて、不確かさの要因を明らかにする。それに相当する枠を作る。(それ
ぞれの入力が複数の不確かさ要因をもつときには、段組みを工夫する必要がある。)
8
バジェット表バジェット表
9
不確かさ要因 記号標準不確かさ
u(xi)感度係数
ci
測定量の標準不確かさ|ci|u(xi) (cm3) 備考
質量測定の繰返し性
u(m) 0.1000 g 5回繰返し
密度の値の不確かさ
u(0)
合成標準不確かさ
uc(v)
拡張不確かさ
U
m:5回測った質量の平均値
g 2236.01
11
2
n
kkk mm
nms
g 1000.0nmsmsmu
Aタイプ評価ではこの
欄に算出された平均値の実験標準偏差を単位付きで書き込む。
特記事項を備考欄に記入しておく。
バジェット表バジェット表
10
不確かさ要因 記号標準不確かさ
u(xi)感度係数
ci
測定量の標準不確かさ|ci|u(xi) (cm3) 備考
質量測定の繰返し性
u(m) 0.1000 g 5回繰返し
密度の値の不確かさ
u(0)0.005774
g/cm3 ハンドブック
合成標準不確かさ
uc(v)
拡張不確かさ
U
Bタイプ評価では統計的以
外の何らかの方法で求めた標準偏差相当の値を単位付きで記入する。
0:ハンドブックから得られた密度
30 g/cm 005774.0
301.0
u
特記事項を備考欄に記入しておく。
例 ある液体の体積vを、その質量と密度から求めることにした。まず、液体の質量を質量計で5回反復測定し、測定データ{100.0,100.3, 99.9, 99.7, 100.1g}を得た。一方液体の密度については「この液体の密度の値は2.00g/cm3である。この値の誤差は±0.01g/cm3を越えない。」という情報をハンドブックから得た。
合成標準不確かさ合成標準不確かさ
0
0,
mmfv
m:質量の平均値
体積v のモデル式
g 1.0mu
30 g/cm 005774.0u
体積vの影響量の評価はできた。vの不確かさ自体はどのように求めるか?
g 0.100m3
0 g/cm 00.20:密度
11
合成標準不確かさ合成標準不確かさ
xがu(x)だけ変わるとき、xに関係する量y=f(x)はどれだけ変わるだろうか?
u(y)=c×u(x) 係数cを感度係数という。
x
y例えばy = 0.5×x + bなら、c = 0.5。(右図参照) u(x)
b
u(y)=0.5×u(x)
12
合成標準不確かさ合成標準不確かさ
しかし、普通は変化量を計算しようとすると、方向が二つある。
f(x+u(x))-f(x)
u(x)
f(x)-f(x-u(x))
u(x)
13
yとxの関係が直線(前ページの例)でない限り、方向によって、感度係数cの値が変わってしまう!!
合成標準不確かさ合成標準不確かさ
u(x)
c×u(x)
そこで、
14
読み値の点で接線を引くと、両方向の中間の特徴を持つ。
接線の傾きを感度係数とする。
こちらの方向で言えば、接線の変化は過小評価
こちらでは過大評価
15
感度係数cはモデル式の微分f'(x)で表わされる。
合成標準不確かさ合成標準不確かさ
接線の傾きは微分で表わされるから、
z = f(x,y) = 3x+y は、xがu(x)だけ変わるとき、
3
xfcx
いくつも変数がある場合の微分の記号は、
ではなく、 と書く。 dxyxdf , xyxf ,
から、 xuxuczux 3
としたのと同じ。
これは、
ux(z) = f(x+u(x),y) – f(x,y) = 3u(x)
例えば、
16
m
v
u(m)
um(v)=1/0×u(v)
m:重さ測定の平均値 g 1000.0mug 0.100m
合成標準不確かさ合成標準不確かさ
0
0,
mmfv 0
0 1,
mmf
m:質量測定の平均値
合成標準不確かさ合成標準不確かさ
33 cm 05000.0g 1000.0gcm 5000.0
mucvu mm
「質量測定の繰り返し」 (不確かさ要因)に由来する液体の体積(測定量)の標準不確かさは、
17
g 1000.0mug 0.100m
0=2.00 g/cm3から、感度係数は、cm = 0.5000 cm3/g。
0
0 1,
m
mfcm感度係数には単位がある。
18
0
v
u(0)
u0(v)= -m/0
2×u(0)
0:引用された密度
0
0,
mmfv 2
00
0,
mmf
合成標準不確かさ合成標準不確かさ
30 g/cm 005774.0u3
0 g/cm 00.2
合成標準不確かさ合成標準不確かさ
33
6
cm 1444.0cmg 005774.0
gcm 2500.000
mucvu
「密度のずれ」 (不確かさ要因)に由来する液体の体積(測定量)の標準不確かさは、
19
m=100.0 g、0=2.00 g/cm3から、感度係数はc0 = -25.0 cm6/g 。
2
00
0,0
mmfc
0:引用された密度 30 g/cm 005774.0u3
0 g/cm 00.2
不確かさ要因 記号標準不確かさ
u(xi)感度係数
ci
測定量の標準不確かさ|ci|u(xi) (cm3) 備考
質量測定の繰返し性
u(m) 0.10 g 0.50 cm3/g 0.05000 5回繰返し
密度の値の不確かさ
u(0)0.005774
g/cm3-25.0cm6/g 0.1444 ハンドブック
合成標準不確かさ
uc(v)
拡張不確かさ
U
バジェット表バジェット表
感度係数を微分を計算することで、求める。
感度係数と標準不確かさを掛け合わせた値。これによって、測定量の単位に変換された標準不確かさが求まる。
0の感度係数 c0= -25.0 cm6/gmの感度係数 cm = 0.50 cm3/g
測定量の単位を( )内に記載しておくなどする。
20
バジェット表バジェット表
21
1528.01444.00500.0 220
20
2 umuvu mc
合成標準不確かさ
不確かさ要因 記号標準不確かさ
u(xi)感度係数
ci
測定量の標準不確かさ|ci|u(xi) (cm3) 備考
質量測定の繰返し性
u(m) 0.10 g 0.50 cm3/g 0.050 5回繰返し
密度の値の不確かさ
u(0)0.005774
g/cm3-25.0cm6/g 0.1444 ハンドブック
合成標準不確かさ
uc(v) 0.1528
拡張不確かさ
U
に従って、合成標準不確かさを求めて記入する。
N
iiic xuyu
1
2
バジェット表バジェット表
22
不確かさ要因 記号標準不確かさ
u(xi)感度係数
ci
測定量の標準不確かさ|ci|u(xi) (cm3) 備考
質量測定の繰返し性
u(m) 0.10 g 0.50 cm3/g 0.050 5回繰返し
密度の値の不確かさ
u(0)0.005774
g/cm3-25.0cm6/g 0.1444 ハンドブック
合成標準不確かさ
uc(v) 0.1528
拡張不確かさ
U 0.31 k=2
標準不確かさに包含係数kを掛けた値を拡張不確かさとして記入する。
包含係数kに関する
情報は書きとめておく必要がある。
3cm 3056.02 vuvU c
拡張不確かさ(k=2)
6.モデル式の実際
23
例 ある液体の体積vを、5回反復測定し、測定データ{100.0,100.3, 99.9, 99.7, 100.1 cm3}を得た。実験の最中に、温度は一定であったが、設定温度の20.0 ºCから、1 ºCを越えない範囲でず
れていることが分かっている。この液体の体積膨張係数が5.0×10-3 /ºCである。この液体の20.0 ºCでの体積を報告する。
モデル式の実際モデル式の実際
24
このモデル式がどうなるか考え、そこから感度係数を計算してみる。
25
モデル式の実際モデル式の実際
3
1cm 0.100 1
n
kkv
nv
この場合、温度の影響は補正できない。5回の反復測定についてのみ考えて、
モデル式は以下のように思える。
vvfv m:5回測った重さの平均値 (g)
温度のずれは?
モデル式の実際モデル式の実際
このとき、温度のずれTは、「0であ
ることが期待されるが、不確かさはある」という特徴をもっている。
26
不確かさ評価を行おうとするときに、非常によく使われる。 T/ oC
温度のずれを考慮するために、以下のように書くとよい。
TvvTvfv ,v: 5回測った体積の平均値 (cm3): 体積膨張係数 (/oC)T: 温度のずれ (oC)
0
27
感度係数の計算感度係数の計算
Tv
TvfcV
1,
温度のずれTは0であることが期待される。
1Vc
モデル式を微分すると感度係数が求まる。
vT
Tvfc T
,
= 5.0×10-3 /ºC、v = 100.0 cm3を代入
Ccm 5000.0 o3Tc
繰返し
温度
まとめ
28
29
モデル式の実際モデル式の実際
物理的に曖昧なモデルほど、感度係数を求めるために調査や実験が必要であったり、感度係数を1の原因不
明のばらつきを実験によって確かめたりすることが必要になる。計測のコストをなるべく小さくするように、モデル式を立て、実験を計画する必要がある。
(時に工夫が必要だが、)感度係数はモデル式の微分で表わされ、不確かさ要因の測定値への影響の尺度になる。
モデル式を立てることは測定量を定義することとも言える。これは計測において不確かさ評価以前に本質的な作業であり、モデル式を立てることがいつも勧められる。
微分の例
30
31
baxxf axxf
baxxf 2 ax
xxf 2
bxaxf log bx
axxf
byaxyxf , ax
yxf
, b
yyxf
,
axyyxf , ayx
yxf
, ax
yyxf
,
32
yxayxf ,
ya
xyxf
, 2
,yxa
yyxf
zyzxayxf
,
zy
ax
yxf
, 2
,zyzxa
yyxf
2
,zyyxa
zyxf
zxyayxf ,
zya
xyxf
, zxa
yyxf
, 2
,zxya
zyxf
この資料は、産業技術総合研究所内のサーバに設置されている
城野克広のホームページ http://staff.aist.go.jp/k.shirono/ 内ダウンロード http://staff.aist.go.jp/k.shirono/download_j.html
にて、公開しているものです。上記サイトでは、他にも不確かさ関連の資料を公開しております。このサイトでは初歩的なセミナーなどでは飛ばしてしまいがちな話やトピカルな話題、研究レベルの話題をとりあげております.基本的には個人的な勉強などの私的利用を想定してアップロードしております.私的利用の範囲を越えると判断される場合にはご一報下さい.プログラムは自分が分かればよいというつもりで書いているので,あまり綺麗なものではありません.プログラム含め資料に誤りがあった場合にも責任は持ちません.ご自身で内容をよく精査してお使い下さい.
また、不確かさに関する一般的な情報は「不確かさWeb http://www.nmij.jp/~mprop-stats/stats-partcl/uncertainty/uncerta inty.php 」をご参照下さい.
産業技術総合研究所 計測標準研究部門ナノ材料計測科 粒子計測研究研究室 城野克広
Katsuhiro Shirono @ AIST, NMIJ, JAPANe-mail: k.shirono*aist.go.jp (*を@に置き換えて下さい。)
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