2016年 日本写真測量学会 学会賞 受賞論文 ... ·...

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1.はじめに 現代の都市空間は超高層ビルの建設に伴って垂直方向に拡大しており,都市の緑に関しても屋上緑化や壁面緑化の割合が増えています。緑は都市に住む人々にうるおいと安らぎを与える貴重な環境資源であり,その維持には定期的な調査による緑量把握が必要です。都市空間の緑量調査方法として一般的な緑被率は地域面積に占める草木面積の割合を示すものであり,上空から垂直撮影された空中写真等を基に計測された草木面積比です。しかし最近の緑量調査では,壁面緑化等の人々の視覚に入りやすい緑を評価することができない緑被率よりも,人間の視野に占める草木の割合を示す緑視率調査の重要性が徐々に高まっています。例えば大阪府は緑視率による緑量評価を推進しており,独自に調査マニュアルを整備しています。 緑視率は景観写真を基に草木の割合を計測するため,都市空間全体の緑量評価指標とするためには,あらゆる場所で撮影された景観写真が必要となります。したがって,緑視率調査は景観写真を撮影できる特定の場所の緑量をピンポイント的にモニタリングするために用いられてきました。そこで本研究は,空中写真を基にした緑被率調査によって得られた緑被ポリゴンデータと既往のGISデータを使って緑視率を計測する手法を開発し,緑視率を都市空間全体の緑量評価指標に拡張しました。本稿は実際の調査で整備された緑被ポリゴンデータ等による実例を基に開発手法の概要をご紹介します。

2.対象領域 東京都渋谷区は空中写真を基にした緑被率調査とともに区内の33交差点において緑視率調査を実施しました(2013年実施)。本研究は渋谷区による調査成果を活用さ

せていただき,図-1に示す場所を対象に検討しました。

3.三次元都市空間の構成  立方体のブロックを地面や空中に配置して自由な形の建造物や地形を作っていく「Minecraft」というゲームがあります。本研究では「Minecraft」の立体空間表現を参考にして,実際の地形データや緑被ポリゴンデータに基づいてvoxel(立方体)を積み上げるとともに,樹木や道路などの土地被覆コードを属性としてvoxelに付与することで三次元都市空間を構築しました。ここで地形データは基盤地図情報(数値標高モデル)の5mメッシュ標高データを用い,樹高や枝下高は東京都による街路樹調査の数値を一定値として与えました。このようにして構築した渋谷区広尾3丁目付近の三次元都市空間を図-2に示します。ここで図-2では,多数のvoxelの集合によって都市空間が構成されていることがわかりやすいように,voxelを球体で表現しています(これ以降,立体図ではvoxelを球体で表現します)。

4. 景観写真CGの作成と立体緑視率の集計

 三次元都市空間と同様に,任意の場所から見たときの視野と視線を図-3のようにvoxelで表現します。ここで大きな球体は視野に含まれるvoxelを表し,大きな球体を結ぶ黄色のネットワーク線は視線を表しています。また図-3の視野角は渋谷区の調査で用いられた35mmフルサイズカメラと焦点距離50mmレンズの組み合わせを想定し,垂直27.0°,水平39.6°としました。 図-3の視野角と視線のvoxel配置を図-2の任意地点・方向に当てはめ,特定の視線が串刺しにした三次元都市空間のvoxelをカメラ位置から奥行き方向に順番に

2016年 日本写真測量学会 学会賞 受賞論文

都市空間の緑景観評価のための立体緑視率の研究

株式会社 パスコ 洲濱 智幸

12 THE JOURNAL OF SURVEY 測量 2017.3

図-1 調査の対象領域(2013年の渋谷区調査成果を基に作成)

図-2 広尾3丁目付近の三次元都市空間

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探索し,最も手前に位置するvoxelの土地被覆コードを調べます。全ての視線に対して調べた土地被覆コードを景観写真のように再配列することにより,図-4のように景観写真に近い視環境画像を合成することができます。最後に視環境合成画像のなかで緑被が占める割合を計算することにより,任意地点・方向の緑視率を計算することができます。本研究では特定地点における東西南北4方向の緑視率の平均値をその場所の緑視率としました。この緑視率は地上だけでなく視点高を変えて計算することができることから,本研究では地上で計測する従来の

緑視率と区別して立体緑視率と呼んでいます。

5.実測値との比較 図-1に示した6地点において計算した立体緑視率と実測緑視率を比較した結果を図-5に示します。視環境画像の合成では最長視距離(遠くまで見通せる距離)を設定することができますが,立体緑視率と実測緑視率を比較して最も相関の高かった100mを最長視距離と設定しました。図-5を見ると両指標の相関係数rは0.851で,

図-4 景観写真と視環境合成画像の比較a)景観写真(渋谷区調査) b)視環境合成画像

図-3 視線と視野の概念

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両指標の大小の関係は概ね1対1に対応しており,立体緑視率が実態をよく表していることがわかります。

6.まとめ 立体緑視率の計算には,緑被ポリゴンデータや標高メッシュデータのほかに,建物ポリゴンデータや建物高さデータを使っています。このうち,建物ポリゴンデータについては,東京都都市計画基礎調査の成果を使いましたが,都市計画基礎調査データが使えない場合には,

国土地理院による基盤地図情報(建築物の外周線)を使うことができます。建物高さデータも本研究で使った都市計画基礎調査による建物階層情報以外に,空中写真測量や航空LiDARによる建物高さの実測値を使うことができます。 自然景観は近景域,中景域,遠景域の3段階に分けられるとされており,高層階になるほど遠くまで見通すことができ,遠景の地形のありさまが景観へ強く影響するようになります。本研究では,立体緑視率と実測緑視率を比較して最も相関の高かった100mを最長視距離と設定しましたが,視点高が高くなるほど最長視距離を長く設定し,緑視率における遠景の寄与を高くしないといけません。また,遠景になるほど大気混濁度による空気遠近法の影響も考慮しなければなりませんから,視点高と最長視距離の関係を決めるルールは複雑なものになります。立体緑視率によって最近増えてきた超高層マンションの窓から見える眺望を評価することもできますが,そのためには人間による遠景の認識をさらに深く検討したうえで,適切な最長視距離を設定する必要があると考えています。

謝辞 本研究の緑被ポリゴンデータおよび緑視率調査結果は,平成25年度渋谷区自然環境調査(渋谷区都市整備部)において整備されたものを利用させていただきました。記して謝意を表します。

執筆者略歴博士(工学),株式会社パスコ 衛星事業部に所属,人工衛星および航空機リモートセンシングによる各種調査および行政への利活用に関するコンサルティングに従事。2016年日本写真測量学会 学会賞受賞。

洲濱 智幸(すはま ともゆき)

図-5 実測緑視率(渋谷区調査)と立体緑視率の比較

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