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中央大学大学院理工学研究科情報工学専攻修士論文

駅構内における群集歩行シミュレーションモデルの研究

A Study of Simulation Model for Pedestrian Movement

in a Station Yard

学籍番号  04N8100002L

阿久澤 あずみAzumi AKUZAWA

指導教員 田口 東 教授

2006年 3月

概 要

本研究は,追従・追い越しといった個人単位の人の動き (ミクロな動き) と,障害物回避・歩行流といった群集としての人の流れ (マクロな動き) を表現する群集歩行シミュレーションモデルを構築することを目的とする.コンピュータによる群集歩行シミュレーションは,現実では実測が困難な状態での歩行流動を視覚的に予測・分析できるため,安全な都市空間や施設の実現に対する有用な方法のひとつとされている.しかし,既存研究においては,空間を細かく分割することによって進行方向が限定されるなど,かなり限定的な条件の下でのモデルとなっている.また,空間を分割しないモデルであっても,鉄道駅のように経路が複数存在する空間に適用され,ミクロ・マクロな動きまで表現できるモデルは少ない.本研究では,ネットワークとポテンシャルモデルを組み合わせることによって,進行方向を限定することなく,歩行行動の特徴を表現する群集歩行シミュレーションモデルを構築する.ネットワークによって,鉄道駅のような歩行者の歩行経路が一意でない複雑な形状の領域にも適用可能となる.出口やホームへの移動手段として,エスカレータあるいは階段を選ぶといった歩行者の行動を,ロジットモデルに基づいてモデル化する.これにより,時々刻々と変化する各移動施設の効用に合わせて,歩行者の混雑を回避した歩行経路選択を表現する.また,駅特有の待ち行動である改札回りの歩行行動をモデル化する.最後に,本モデルを実在する鉄道駅構内に適用し,実測データを用いた現状の再現,および本モデルの評価を行なう.そのうえで,密度と歩行速度の関係について考察する.

キーワード: 群集歩行,ネットワーク,ポテンシャルモデル,流体力学的ポテンシャル,待ち行動

i

目 次

第 1章 序論 11.1 研究背景 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11.2 研究目的 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2

第 2章 群集歩行シミュレーションモデル 42.1 歩行者パラメータ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

2.1.1 人体円 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 52.1.2 自由歩行速度 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 52.1.3 目的地 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

2.2 歩行者・壁・柱の可視判定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 62.2.1 視野 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 62.2.2 歩行者の可視判定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 82.2.3 壁の可視判定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 102.2.4 柱の可視判定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

2.3 位置座標の決定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 112.3.1 引力の決定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 112.3.2 反発力の決定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 152.3.3 速度ベクトルの決定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

2.4 追従 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 202.4.1 歩行流 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 202.4.2 追従ベクトル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21

2.5 流体力学的ポテンシャル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23

第 3章 駅構内への群集歩行シミュレーションモデルの適用 263.1 対象とする鉄道駅 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 263.2 駅構内移動ネットワーク . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 283.3 混雑を考慮したリンクコストの決定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 29

3.3.1 リンクコスト . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 293.3.2 移動施設選択確率 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 303.3.3 エスカレータ・階段への歩行者配分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 33

3.4 ネットワークによる経路選択の表現 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 343.5 群集歩行シミュレーションモデルの拡張 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 35

3.5.1 目的地への引力の決定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 353.5.2 流体力学的ポテンシャル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 363.5.3 エスカレータ・階段における速度ベクトルの決定 . . . . . . . . . . 37

3.6 改札 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 383.6.1 待ち行動 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 38

ii

3.6.2 改札ネットワーク . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 393.6.3 アルゴリズム . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 41

第 4章 群集歩行シミュレーションモデルの実装 424.1 シミュレーションの設定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 424.2 シミュレーション実験 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 434.3 解析 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 44

4.3.1 計算時間 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 444.3.2 群集歩行の特性量 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 474.3.3 密度と歩行速度の関係式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 48

第 5章 結論 515.1 まとめ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 515.2 今後の課題 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 51

謝辞 53

参考文献 54

iii

第1章 序論

本研究は,追従・追い越しといった個人単位の人の動き (ミクロな動き) と,障害物回避・歩行流といった群集としての人の流れ (マクロな動き) を表現するモデルを構築することを目的とする.具体的には,ネットワークとポテンシャルモデルを組み合わせ,群集歩行シミュレーションモデルを構築する.ここで,ネットワークは,ミクロな歩行行動を表現するために用いるのではなく,歩行者の経路選択,すなわち目的地の設定にのみ用い,ポテンシャルモデルによって求まる速度ベクトルを用いてミクロな歩行行動を表現する.

1.1 研究背景

安全な都市空間や施設を実現するためには,構造的に十分な強度を有することはもちろん,利用者の安全性・利便性・快適性確保のための適切な空間設計と,災害やイベント等の非日常時の適切なオペレーションが必要となる.特に,鉄道駅,地下街,デパート,大規模展示場などの都市施設においては,不特定多数の利用者が混在するとともに,地理に不案内であることも多いため,効果的なオペレーションの重要性は高くなる.このような問題に対し,コンピュータによる群集歩行シミュレーションは,現実では実測が困難な状態での歩行流動を視覚的に予測・分析できるため,有用な方法のひとつとされている.具体的には,群集歩行シミュレーションにより,混雑時における歩行流動予測や,施設の処理能力評価,歩行空間の計画・設計におけるサービス水準の評価,混雑緩和策の考案などが可能となる.群集歩行シミュレーションモデルについては,幾つかの既存研究が存在する.主に,空間に速度などの属性を設定するモデルと,歩行者に速度などの属性を設定するモデルがある.以下に,主なシミュレーションモデルを示す.

(1) セルオートマトンモデル空間をセルと呼ばれる格子状の領域に分割し,次の時間ステップのセルの状態を,その近傍 (回りのセル) の状態によって決定するという単純なルールに従って,各セルの状態を変化させシミュレートするモデルである.ルールは単純であるが,多数のセルを使うことで複雑なパターンを形成することができる.セルオートマトンモデルの特徴は,単純なルールを用いて,定性的なパターンの分類や全体像を定量的に把握することができる点である.群集歩行を例にとると,密度,歩行速度といった変数の空間的分布の時間的変動を調べることができる.

(2) ネットワークモデル空間をネットワークとして捉え,ネットワーク上 (線上) を歩行者が移動するという,大局的な立場からシミュレートするモデルである.線上を移動する歩行者の交通量を調べることができる.

1

(3) 流体モデル群集の流れを連続した流体のように考え,連続方程式や運動方程式に基づいて解析するモデルである.群集流動の物理的振る舞いが必ずしも流体と一致するわけではないが,大局的・定性的な把握を行なうのに向いている.

(4) ポテンシャルモデル歩行者と障害物に正の電荷,目的地に負の電荷を与え,クーロンの法則に基づき歩行者が目的地に向かって進むようシミュレートするモデルである.歩行者と障害物に正の電荷,目的地に負の電荷を与えるため,歩行者同士,歩行者と障害物の間には距離に依存する反発力が作用し,歩行者と目的地との間には引力が作用する.時間ステップ毎に,周囲の状況に応じて各歩行者の速度と位置を決定する.

(5) 磁気モデル歩行者と障害物に正の磁極,目的地に負の磁極を与え,各種の磁場から任意の歩行者に働く磁力の緩和によって,歩行者の行動をシミュレートするモデルである [17],[18].運動方程式に基づき,単位時間後の歩行者の速度,移動距離や位置等を決定する.

(6) その他非衝突領域と歩行のしやすさ (ポテンシャル) を組み合わせて速度ベクトルを決定するモデル [26],[16]などがある.

(1) から (3) のモデルは,密度や歩行速度,交通量といった変数の大局的な視点からの把握に向いている.(4) から (6) のモデルは,局所的なところまで表現できるようにしたモデルである.しかし,既存研究においては,空間を細かく分割することによって進行方向が限定されるなど,かなり限定的な条件の下でのモデルとなっている.また,空間を分割しないモデルであっても,鉄道駅のように経路が複数存在する空間に適用され,ミクロ・マクロな動きまで表現できるモデルは少ない.

(4) のポテンシャルモデルは,時間は離散的に扱うが,目的地への引力と障害物からの反発力から速度ベクトルを求めるため,進行方向を限定することなく単位時間後の位置を計算することができる.そこで,本研究では,ネットワークとポテンシャルモデルを組み合わせることによって,進行方向を限定することなく,歩行行動の特徴を表現する.ネットワークを用いることによって,鉄道駅のような複数の経路が存在する領域にも適用可能となる.

1.2 研究目的

本研究では,ポテンシャルモデルをもとにした安西 [3]のモデルを参考に,歩行者を群集として捉えるのではなく,独立して歩行する 1つの動体として捉え,個人単位の人の動き (ミクロな動き) と,群集としての人の流れ (マクロな動き) を表現するモデルを構築することを目的とする.具体的には,ネットワークとポテンシャルモデルを組み合わせ,群集歩行シミュレーションモデルを構築する.これは,進行方向を限定することなく,歩行者自身がその場の状況に応じて経路を選択していくという行動を合理的にモデル化したものである.また,不特定多数の利用者が混在する鉄道駅構内 (改札を含むコンコース階)を対象に,群集歩行シミュレーションを行なう.

2

まず本研究では,ポテンシャルモデルを参考に,単純な形状を対象とした群集歩行シミュレーションモデルを構築する (第 2 章).続く第 3 章では,第 2 章の拡張として,鉄道駅構内にモデルを適用する.駅構内では歩行者の歩行経路が一意でないことを表現するために,駅構内の歩行経路を表すネットワークを新たに組み込む.続いてネットワークのリンクコストを設定する.出口やホームへの移動手段として,エスカレータあるいは階段を選ぶという歩行者の行動をロジットモデルに基づいてモデル化し,混雑を考慮した各歩行者の経路選択を表現する.そして最後に,駅特有の待ち行動である改札回りの歩行行動をモデル化する.第 4 章では,実測データを用いた現状の再現,および本モデルの評価を行なう.そのうえで,密度や歩行速度といった群集歩行の特性量間の関係について考察する.

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第2章 群集歩行シミュレーションモデル

人は,目的地に向かう際,目的地に向かって直進するだけでなく,加速・減速したり,障害物を回避したり,歩きやすい経路を選択するといった行動をとる.また,一見ばらばらに見える各個人の歩行は,全体として見ると,進行方向別に帯状の流れを形成していることがわかる.本章では,ポテンシャルモデルを参考に,上記のような歩行行動を表現する群集歩行シミュレーションモデルを構築する.以下に本モデルの流れを述べる.まず,歩行者にパラメータを与える (2.1 節).次に,

歩行者の視野を定義し,歩行者に,視野に入る他の歩行者や壁などの障害物を,微小な時間ステップ毎に認識させる (2.2 節).歩行者と壁にプラスの電荷,目的地にマイナスの電荷を与え,これらの電荷の間に働く引力,反発力を計算し,速度ベクトルを決定する.速度ベクトルから単位時間後の位置座標を決定し,一連の歩行行動を得る (2.3 節).また,2.4 節,2.5 節では,群集歩行の特徴を表現するために導入した追従ベクトル,流体力学的ポテンシャルについて説明し,その効果を考察する.

2.1 歩行者パラメータ

本モデルでは,セルオートマトンモデルのように,領域を細かく分割することによって歩行者の進行方向を限定しないよう,微小時間毎に各歩行者の速度ベクトルを決定し,その速度ベクトルから微小時間後の位置を決定する.速度ベクトルを決定するために,各歩行者に以下の 7種類のパラメータ (以下,歩行者パラメータとする) を与える [26].

• 人体円の半径 R [m]

• パーソナルスペース比 c

• 位置座標 P = (x, y)

• 速度ベクトル V [m/sec] = (u, v)

• 自由歩行速度 Vs [m/sec]

• 最大速度比 k

• 目的地 D

位置座標と速度ベクトルは時間とともに変化していく値である.本節では,各パラメータについて説明する.

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2.1.1 人体円

一般に歩行者をモデル化する場合,人の体を真上から見た形として,歩行者を三角形や円,楕円などで表現する.Fruin[1]は,楕円の長軸・短軸を人体の肩幅と厚みの寸法で表現した人体楕円を用いている.本研究では,モデルを単純にし,シミュレート時の計算量を少なくするため,歩行者の体を円 (人体円) で表現する (図 2.1).人体円の半径 R は,[20]の肩幅の寸法を用いて,R = 0.225m とする.また,歩行者は,厚着をしたり,物を持ちながら歩行したり,他の歩行者との接触を避けたり,体を揺らしたりしながら歩行している.人体円のみを用いてシミュレーションを行なうということは,歩行者同士が完全に触れ合う状態を許すことになる.そこで,本モデルでは,個人の身体を取り巻く目に見えない境界線で囲まれた空間領域,パーソナル・スペース (個人空間) を導入する.パーソナル・スペースは,他者が入り込むことによって不快感を感じる自分自身の占有空間であり,周囲の状況や自己防衛に対する意識的・無意識的な知覚に応じて伸縮する [21].パーソナル・スペースを用いることにより,衣類や荷物,他者との接触回避による空間 (余裕) を持たせた歩行者の動きを表現する.パーソナル・スペースの形状は円形とし,人体円の半径に対するパーソナル・スペースの半径の比 c(> 1.0) をモデルに導入する.本研究では,[26]を参考に,c = 1.2 とする.

R

2R

2cR

人体円

パーソナル・スペース

図 2.1 人体円

2.1.2 自由歩行速度

人は,周囲の障害物等の影響から,一定速度ではなく,加速・減速を繰り返しながら歩行している.しかし,周囲の障害物等から物理的・心理的影響を受けることがない場合には,無理に加速・減速することなく,歩行者自身の最も歩きやすい速度で歩行する.このような歩行を自由歩行という.この自由歩行時の速度を自由歩行速度 Vs と定義する.本研究では,Vs = 1.33 + σ [m/sec] とする.σ は,平均 0,標準偏差 0.1の正規分布に従う乱数である.また,歩行者が他の歩行者との衝突を回避する際,瞬間的に加速し,自由歩行速度より

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速い速度で進むことがある.このとき歩くことのできる最大の歩行速度を最大歩行速度とし,自由歩行速度に対する最大歩行速度の比を最大速度比 k とする.本研究では,[26]を参考に,k = 1.2 とする.

2.1.3 目的地

歩行者は,ある場所を目指し歩行する.このとき,ある一点を目指すのではなく,ある領域を目指していると考えられる.そこで本研究では,目的地を点ではなく線分で表す.歩行者の歩行経路は,周囲の障害物からの影響がなければ,目的地への最短経路となると考えられる.本モデルでは,この仮定の下で,歩行者は目的地に最も近い点へ向かう最短歩行経路を選択するものとする.したがって,図 2.2のような線分 ST を目的地とする歩行者A,B,Cは,それぞれ図の矢印の方向へ進む.ただし,目的地の端点 S (T ) を中心とする半径 cR の円 OS (OT ) と線分 ST の交点を通る,円 OS (OT ) の接線 lS (lT ) に関して,点 S (T ) 側に位置する歩行者A (C) は,現在地から円 OS (OT ) への接線ベクトルの方向へ進む.これは,歩行者の現在地 (位置座標) が人体円の中心を表しているためである.点 S (T ) から現在地までの距離がパーソナル・スペースの半径 cR 未満であることは,パーソナル・スペース内に壁が入り込んでいることを意味している.さらに,人体円の半径 R 以下であれば,壁への衝突を意味する.

lS

S

OS

lT

T

OT

A

B C

図 2.2 目的地と自由歩行

2.2 歩行者・壁・柱の可視判定

2.2.1 視野

人は,前方にいる他の歩行者や壁,柱などの障害物を認知すると,衝突の危険を察知し,回避行動を行なう.このとき,前方の障害物すべてから影響を受けるわけではなく,ある空間に入った障害物からのみ影響を受ける.この空間を視野と定める.既存研究において,この視野に相当する空間として,円や扇形,長方形など,様々な形状が考えられているが,本研究では,扇形を用いる.また,壁・柱は人間の身長よりも高いため,人は,遠くにある壁・柱も認識することができる.しかし,歩行者の場合,他者との重なりなどによって,

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壁・柱ほど遠くまで他の歩行者を認識することはできない.このように,歩行者を認識する範囲と壁・柱を認識する範囲とでは,距離に差があると考えられる.そこで,本研究では,他の歩行者に対する視野と壁 (柱) に対する視野を個別に定義する.すなわち歩行者は,歩行者を認識するための視野と,壁 (柱) を認識するための視野の 2種類の視野をもつことになる.人間学者Hallは,人間の感覚特性に基づいて,人間間隔距離を公衆距離,社会距離,個体距離,密接距離の 4種類に分類した [1].本研究では,歩行者に対する視野を,公衆距離の近接相を用いて半径 Rped = 7.5m の扇形,壁に対する視野を,公衆距離の遠方相を用いて半径 Rwall = 25m の扇形とする.また,歩行時の視野はおよそ左右 60◦ であることから,扇形の中心角はそれぞれ 120◦ とする [1].しかし,視野の大きさは常に一定ではなく,周囲の状況によって変化すると考えられる.また,歩行者周辺の密度が高い場所や,改札前やエスカレータ前などの何かに集中する・注意を払う場所においては,歩行者の速度は減少する.そこで,速度が減少した場合,近くの障害物にのみ注意を向けるよう,パラメータ γ を導入する.扇形の半径が速度 V に依存するよう,γ を

γ =

1 (||V || ≥ Vsのとき)||V ||Vs

(それ以外のとき)(2.1)

とする.γ を用いて,歩行者に対する視野 (扇形) の半径 rped と壁に対する視野 (扇形)の半径 rwall は,それぞれ以下のようになる.

rped = Rped × γ + 3R × (1 − γ) [m], (2.2)

rwall = Rwall × γ + 2.1 × (1 − γ) [m]. (2.3)

つまり,歩行者の速度が速いほど (密度が低いほど) 遠くの障害物まで認識し,歩行者の速度が遅いほど (密度が高いほど) 近くの障害物のみを認識する.自由歩行時 (γ = 1 のと

Rped

Rwall

3R2.1m

60◦

γ = 1γ = 0

図 2.3 視野

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き) には,7.5[m] 前方の歩行者まで認識することができ (図 2.3の紫色実線),停止する必要があるとき (γ = 0 のとき) には,歩行者自身の人体円の半径 (R) に歩行者 1人分の人体円の直径 (2R) を加えた 3R の範囲内の歩行者のみ認識することになる (図 2.3の紫色点線).同様に壁・柱も,自由歩行時 (γ = 1 のとき) には,25[m] 前方の壁・柱まで認識することができ (図 2.3の緑色実線),停止する必要があるとき (γ = 0 のとき) には, 社会距離である 2.1[m] 前方の壁・柱のみ認識する (図 2.3の緑色点線).上記で定義した視野を用いて,視野に入る歩行者や壁などの障害物を微小な時間ステップ毎に各歩行者に認識させる.

2.2.2 歩行者の可視判定

他の歩行者の体が一部でも視野に入る場合,その歩行者は視野に入るものとする (図 2.4).歩行者の現在地 (位置座標) が人体円の中心を表しているため,半径 rped の扇形から R

離れた範囲内に他の歩行者の現在地が含まれれば,その歩行者は認識されることになる.歩行者同士の重なりによって隠れる歩行者であっても,半径 rped の扇形から R 離れた範囲内に位置していれば認識されるものとする.

II

J

l r

j

視野内の歩行者

視野外の歩行者

図 2.4 他の歩行者の認識

歩行者 i の位置を I,他の歩行者 j の位置を J,歩行者 i の視野を表す左右のベクトルを l, r とする.歩行者 j が歩行者 i の視野内にいる場合,歩行者 i の進行方向に対し R

後ろの位置 I

I = I − 2√3R · V

||V ||(2.4)

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から歩行者 j へのベクトル j は以下を満たす.

j = λ1l + λ2r, (2.5)

λ1 > 0, (2.6)

λ2 > 0, (2.7)

||j|| ≤ rped + 2R. (2.8)

上式を満たす歩行者 j を歩行者 i に記憶させる.ただし,すべての歩行者を対象に可視判定を行なう場合,歩行領域内の歩行者を N とすると,その計算量は O(N2) となり,莫大な計算時間がかかる.そこで,計算時間を削減するために,以下の方法を行なう.

歩行者の可視判定方法

領域を,一辺 7.5[m] (歩行者を認識するための視野である扇形の半径の最大値 Rped) の正方形の領域 (以下,セルとする) に分割する.歩行者の属するセルと周囲 8セルの,9セルに属する歩行者のみを対象に,可視判定を行なう (図 2.5).

7.5m

図 2.5 歩行者の可視判定方法

上記の方法によって,すべての歩行者を対象に可視判定を行なう場合よりも,計算時間を削減することが可能となる.計算時間については,4.3.1 節で詳しく述べる.

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2.2.3 壁の可視判定

壁が一部でも視野に入る場合,その壁は視野に入るものとする (図 2.6).まず,歩行者の視野には入るが実際には見えない壁を,単純な計算方法により除去する.歩行者 i の位置を I,I から各壁 j への最短ベクトルを j とする.ベクトル j と壁の

法線ベクトル n との内積より,歩行者側から見える壁か判定する.

j · n > 0, (歩行者側から見えない壁の場合)

j · n ≤ 0. (歩行者側から見える壁の場合) (2.9)

上記の判定条件より,歩行者側から見える壁を対象に,可視判定を行なう.歩行者 i の視野を表す左右のベクトルを l,r とする.壁 j が視野内にある場合,壁 j と l,r が交差する.もしくは,ベクトル j が,

j = λ1l + λ2r, (2.10)

λ1 > 0, (2.11)

λ2 > 0, (2.12)

||j|| ≤ rwall (2.13)

を満たす.上記を満たす壁 j を歩行者に記憶させる.これにより,歩行者側から見て裏側になるため実際に見えない壁を含まず,視野に入る壁を障害物として記憶させることができる.図 2.6の例では,緑色で表示した壁が歩行者の視野に入る.

I

jV

n

l r

図 2.6 壁の認識

2.2.4 柱の可視判定

本研究では,柱は円柱とする.円柱でないものは,壁として扱う.したがって,柱を真上から見た形は円となるため,柱の可視判定は,壁と同様の判定ではなく,歩行者と同様の判定を行なう.ただし,視野の扇形の半径は rwall を用いる.

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2.3 位置座標の決定

歩行者と壁にプラスの電荷,目的地にマイナスの電荷を与え,これらの電荷の間に働く引力 E,反発力 F を計算し,速度ベクトルを決定する.求めた速度ベクトルから単位時間後の位置座標を決定する.

2.3.1 引力の決定

電荷の間に働く引力を E とする.引力 E の決定には,歩行者の現在地 P から目的地 D への位置ベクトル eD を用いる.ここで,位置ベクトル eD を単に目的地までの距離が最短となるベクトルとすると,経路途中に障害物が存在した場合,位置ベクトル eD

は障害物と衝突するベクトルとなる.そこで,障害物との衝突を回避するベクトルを位置ベクトル eD とするために,現在地から障害物 (多角形および円) への接線を用いて,位置ベクトル eD を以下のように決定する.step 1,step 2は壁によって遮られる場合の位置ベクトル eD の変更方法,step 3,step 4は柱によって遮られる場合の位置ベクトル eD の変更方法を表している.ここで,歩行者から見た目的地の左端点を l,右端点をr,柱 i の半径を Rporli とする.

位置ベクトル eD の決定アルゴリズム

step 0 歩行者は目的地への最短経路を選択すると仮定し (2.1.3節),歩行者の現在地 P

から目的地 D への距離が最短となる位置ベクトルを eD とする (図 2.7,図 2.8の桃色破線矢印) .

step 1 歩行者の視野に入る壁のうち,eD と交差する壁があるならば,step 2を行なう.そうでなければ,step 3を行なう.

step 2 eD と交差する壁の中で,歩行者の現在地から壁までの距離が最短となる壁を j

とする.壁 j を一辺とする n 角形のポリゴンの頂点 pi (xi, yi) (i = 1, 2, · · · , n) が,順序のついた列で与えられたとき,以下の (a) ~ (d) を行なう.

(a) m := 0 とおく.

(b) i := 1 から 1ずつ増やし n になるまで以下の (i) を繰り返す.

(i) 歩行者の現在地から頂点 pi へ向けて有向線を延ばしたとき,この有向線の片側に他の頂点がすべて存在するならば,頂点 pi を qm とし,m := m+1とする.

(c) m = 1 ならば,k := q0 とする.m > 1 ならば,頂点 qi (0 ≤ i < m) のうち,目的地により近い方向に位置する頂点を k とするために,歩行者の現在地から頂点 qi へのベクトルと,歩行者の現在地から目的地の端点 l,r へのベクトルのなす角 θqil,θqir を用いて, k を

k := {qi|θqil + θqir ≤ θqj l + θqjr, i 6= j, 0 ≤ i, j < m}

とする.

(d) 歩行者の現在地から,頂点 k を中心とする半径 cR の円への接線ベクトルをeD として更新する (図 2.7の桃色実線矢印) .

11

V

l

r

D

eD

l

rkθkl

θkr

図 2.7 引力の決定 (壁との交差判定)

step 3 歩行者の視野に入る柱のうち,eD と交差する柱があるならば,step 4を行なう.そうでなければ,終了する.

step 4 eD と交差する柱の中で,歩行者の現在地から柱までの距離が最短となる柱を j

とする.柱 j に対して以下の (a),(b) を行なう.

(a) 歩行者から見て,歩行者の現在地から,柱 j の中心を中心とする半径 Rporlj+cR

の円への左右の接線ベクトルを T l,T r,左右の接点を pl,pr とする (図 2.8).

(b) 線分 plpr によって,目的地の端点 l,r のどちらか一方が見えないならば以下の (i) を行なう.両方とも見える,もしくは両方とも見えないならば以下の (ii)を行なう.

(i) 目的地の端点 l のみ見えるならば eD := T l として終了する.目的地の端点 r のみ見えるならば eD := T r として終了する.

(ii) 歩行者の現在地から目的地の端点 l,r の方向の密度を,それぞれKl,Kr

とする.Kl < Kr ならば eD := T l として終了する.そうでなければeD := T r として終了する.

step 4の (ii) は,柱の左右の混雑を考慮した上で進行方向を選択する歩行行動を表現している.密度 Kl,Kr は,2.2.2 節の歩行者の可視判定で用いた一辺 7.5[m] のセルを使い,図 2.9のように定める.まず,歩行者の属するセルを 4つの領域に分割する (図 2.9).各領域を第 1象限,第 2象限,第 3象限,第 4象限とみなす.歩行者が第 1象限に位置する場合は図 2.9の赤色で囲まれた 4つのセル,第 2象限に位置する場合は緑色で囲まれた4つのセル,第 3象限に位置する場合は黄色で囲まれた 4つのセル,第 4象限に位置する場合は青色で囲まれた 4つのセルを対象に密度を決定する.歩行者の現在地から目的地の端点への方向と,密度を求めるために用いるセルとの対応を表 2.1,図 2.10に示す.歩行者が第 1象限に位置する,図 2.10(b)を例に,密度の決定方法について述べる.歩行者の現在地 P (x, y) を基準として水平右方向を 0◦ とし,図 2.10(b)のように 8方向に分割す

12

る.表 2.1より,目的地の端点への方向と対応するセルを用いて,密度を求める.ただし,対応するセルが存在しない場合,歩行者が現在属するセル内の密度を用いる.図 2.8を例にすると,歩行者は 4つの領域のうち,第 1象限に位置し,端点 l (r) への方向は 22.5◦

から 67.5◦ (292.5◦ から 337.5◦) の範囲にあるため,図の青色 (紫色) のセル内の密度が密度 Kl (Kr) となる.

V

l

r

D

T l

T r

l

r

Kl

Kr

pl

pr

22.5◦

67.5◦

292.5◦

337.5◦

図 2.8 引力の決定 (柱との交差判定)

歩行者

7.5m

7.5m

2 1

3 4

図 2.9 密度の決定

13

表 2.1 方向とセルの対応

方向 セル0◦~22.5◦,337.5◦~360◦ A,D

22.5◦~67.5◦ A67.5◦~112.5◦ A,B

112.5◦~157.5◦ B157.5◦~202.5◦ C202.5◦~247.5◦ C247.5◦~292.5◦ C292.5◦~337.5◦ D

292.5◦

337.5◦0◦22.5◦

67.5◦

112.5◦

157.5◦ 202.5◦

247.5◦

A D

B C

(a) 第 2象限

0◦

22.5◦

67.5◦112.5◦

157.5◦

202.5◦

247.5◦ 292.5◦

337.5◦

B A

C D

(b) 第 1象限

157.5◦

202.5◦

247.5◦292.5◦

337.5◦

0◦

22.5◦

67.5◦ 112.5◦

D C

A B

(c) 第 3象限

67.5◦

112.5◦

157.5◦202.5◦

247.5◦

292.5◦

337.5◦ 0◦ 22.5◦

C B

D A

(d) 第 4象限

図 2.10 方向とセルの対応

14

上記で求めた位置ベクトル eD と目的地に与える電荷 QD を用いて,引力 E は

E = QD · eD

||eD||(2.14)

とする.歩行者が目的地からどれだけ離れた場所に位置していようと,目的地に引き寄せられる力は変わらないとし,引力 E の大きさは,目的地までの距離にかかわらず一定とする.以上の流れをフローチャートにまとめたものを,図 2.11に示す.

引力の決定

円 O の接線より端点側に位置するYes

No円 O への接線ベクトルの算出目的地までの最短ベクトルの算出

視野内の壁と交差No

Yes交差する壁を回避するベクトルの算出

(位置ベクトルの更新)

視野内の柱と交差No

Yes交差する柱を回避する接線ベクトルの算出

(位置ベクトルの更新)

引力の算出

終了

図 2.11 フローチャート (引力の決定)

2.3.2 反発力の決定

人は,他の歩行者の現在の速度 (ベクトル)から,“自分の方へ向かってきている ”,“速い速度で歩いている ”,“ このまま歩くとぶつかる ” といった予測をしていると考えられる.そこで,反発力の決定に t 秒後の歩行者 i の位置を用いることによって,他の歩行者の歩行行動予測を表現する.本研究では,歩行者の現在地から,t 秒後の他の歩行者 i の位置への位置ベクトルを fpedi

とし,t = 1[sec]とする.また,歩行者の現在地から,視野内の壁 i への距離が最短となる位置ベクトルを fwalli,柱 i の中心への位置ベクトルをfporli とする.

15

各障害物への位置ベクトル fpedi,fwalli,fporli を用いて,他の歩行者,壁,柱からの

反発力は,それぞれ

F pedi=

Qped

||fpedi||2

·fpedi

||fpedi||· cos θpedi

, (cos θpedi> 0) (2.15)

F ped =nped∑

i=1

F pedi, (2.16)

F walli =Qwall

||fwalli ||2 ·

fwalli

||fwalli ||· 1 + cos θwalli

4, (2.17)

F wall =nwall∑

i=1

F walli , (2.18)

F porli =Qporl

||fporli||2

·fporli

||fporli||· cos θporli , (cos θporli > 0) (2.19)

F porl =nporl∑

i=1

F porli (2.20)

とする.Qped,Qwall,Qporl は各障害物に与える電荷の大きさ,θped,θwall,θporl は引力 E と各位置ベクトルとのなす角,nped,nwall,nporl は視野内の各障害物の数である.式 (2.15),式 (2.17),式 (2.19) において余弦を乗ずるのは,障害物に向かって進めば進むほど反発力を大きく,平行もしくは遠ざかる方向へ進むほど反発力を小さくするためである.ただし,壁 i と壁 j のなす歩行者側の角 θi,j が

θi,j ≥ 180◦ (2.21)

となる壁は,1枚の同じ壁として扱う.歩行者の現在地から壁 i,j への距離が最短となる位置ベクトル fwalli,fwallj を求め,

||fwalli || < ||fwallj || (2.22)

となる壁 i を対象に,式 (2.17) を計算する.図 2.12を例にすると,θ1,2 は 180◦ より小さいため,歩行者は壁 1と壁 2から反発力を受ける.しかし,θ2,3 は 180◦ 以上であり,||fwall2 || より ||fwall3 || の方が大きいため,歩行者は壁 3からは反発力を受けないことになる.他の歩行者からの反発力と壁・柱からの反発力を用いて,反発力 F は

F = F ped + F wall + F porl (2.23)

となる.

16

E

fwall1 fwall2

fwall3

fporl1

fpedj

l

r

j

wall1

wall2

wall3

porl1

θwall1

θwall2

θ1,2

θ2,3

図 2.12 反発力の決定

2.3.3 速度ベクトルの決定

単位時間 dt 後の速度 V new は,現在の速度 V および,2.3.1 節,2.3.2 節で求めた引力 E,反発力 F を用いて

V = V + (E − F ) · dt, (2.24)

V new = Vs ·V

V0(2.25)

とする.V0 は,自由歩行時のシミュレーションにおいて算出される式 (2.24) の ||V || の最大値である.これにより,V new は 0 から Vs の大きさをもつベクトルとなる.上式を用いて,単位時間 dt 後の位置座標 Pnew は,現在の位置座標 P を用いて

Pnew = P + V new · dt (2.26)

となる.式 (2.26) を用いて,シミュレーションを行なう.

シミュレーション 1

縦 30[m],横 30[m] の平面領域において,左および下から歩行者を 1人ずつ同時刻に発生させる.シミュレーションにおける単位時間 dt は 0.05[sec]とする.図 2.13は,歩行者 A,Bが交差するときの挙動であり,0.1秒毎の歩行軌跡を拡大して図示している.各

17

歩行者の自由歩行速度はともに 1.33[m/sec] とする.平面領域の左側を出発地とする歩行者 Aは,右側の辺を目的地とし,平面領域の下側を出発地とする歩行者 Bは,上側の辺を目的地とする.図 2.13(a)は,他の歩行者から受ける反発力として,歩行者の現在地から他の歩行者の現在地への位置ベクトルを用いた結果であり,図 2.13(b)は,他の歩行者から受ける反発力として,歩行者の現在地から t 秒後の他の歩行者の位置へのベクトルを用いた結果である.図 2.13(a)では,歩行者 Aが,歩行者 Bに接近した際進路を急に変更していることがわかる.これに対し,図 2.13(b)では,予め進路を横に逸らしているため,急な進路変更をしていない.他の歩行者の t 秒後の位置から反発力を受けるとすることによって,他の歩行者の歩行行動を予測した上での動きを表現していることがわかる.

歩行者 A →

↑ 歩行者 B

(a) 他の歩行者の現在地からの反発力

歩行者 A →

↑ 歩行者 B

(b) 他の歩行者の t 秒後の位置からの反発力

図 2.13 シミュレーション (交差時の歩行軌跡)

シミュレーション 2

縦 10[m],横 50[m] の平面領域の中心に縦 4[m],横 4[m] の凹形状の障害物が存在する領域において,到着率 2[人/sec] のポアソン過程に従い,歩行者を左右から発生させる(図 2.14).また,縦 10[m],横 50[m] の平面領域において,到着率 4[人/sec] のポアソン分布に従い,歩行者を左右から発生させたときの歩行行動を図 2.15に示す.シミュレーションにおける単位時間 dt を 0.05[sec],自由歩行速度を 1.33 + σ[m/sec] とする.σ は,平均 0,標準偏差 0.1の正規分布に従う乱数である.平面領域の左側を出発地とする歩行者 (黒い円) は,右側の辺を目的地とし,平面領域の右側を出発地とする歩行者 (白い円)は,左側の辺を目的地とする.図 2.14より,障害物が凹形状であっても,障害物への接線を用いて引力を決定してい

18

るため,凹部に閉じ込められることなく,移動していることがわかる.しかし,図 2.15より,群集歩行の特徴の 1つである歩行流が再現できていないことがわかる.これは,混雑した場所においては,人の流れに逆らうことを避け,自分と同じ方向へ進む前方の歩行者について歩くという追従の概念がモデルに組み込まれていないためと考えられる.そこで次節では,追従・歩行流を表現するために用いた追従ベクトルについて述べる.

図 2.14 シミュレーション (凹形状の障害物)

図 2.15 シミュレーション (対向流)

次に,歩行者が障害物を回避するときの 0.5秒毎の歩行軌跡を図 2.16に示す.図 2.16より,経路途中に障害物が存在した場合,障害物回りでの速度が非常に遅くなり,滑らかな動きを表現できていないことがわかる.2.5 節では,滑らかな歩行を表現するために,流体力学的ポテンシャルを導入する.

19

図 2.16 シミュレーション (凹形状の障害物回りの歩行軌跡)

2.4 追従

2.4.1 歩行流

[22],[26]によると,二方向の歩行流 (対向流) は次のように変化していく.まず,歩行者は自分の目指す方向へまっすぐに歩きだす.このとき,歩行速度の速い歩行者が集団をリードする形となり,三角形の流れが双方向にできる (図 2.17(a)).両方向の先頭同士がぶつかると,先頭にいる歩行者は互いに回避し合い,後ろに続く集団はその先頭にいる歩行者の背後について,矢尻のような隊形をとる (図 2.17(b),図 2.17(c)).少し進むと流れは何本かの筋に帯状化していき,互いに行き違い,スムーズに交差する (図 2.17(d)).歩行者数が減少すると,前方の歩行可能領域が広くなるため,各々目的地に従い歩行経路の範囲が広がっていく (図 2.17(e),図 2.17(f)).

(a) (b) (c)

(d) (e) (f)

図 2.17 歩行流

20

2.4.2 追従ベクトル

追従を表現するために,追従ベクトルを導入する.追従ベクトルとは,自分の進みたい方向に近い方向へ進む視野内の歩行者へ向かうベクトルであり,これを引力 E2 とする.2.3.1 節で求めた引力 E を E1 とし,速度ベクトルの計算に用いる引力 E を E1 と E2

の合力として表す.ここで,歩行者 i の速度ベクトルと,視野内の他の歩行者 j の速度ベクトルとのなす角 θij が,

cos θij > 0.95 (2.27)

となる歩行者 j を,自分の進みたい方向に近い方向へ進む歩行者とし,

cos θij ≤ 0 (2.28)

となる歩行者 j を対向者とする.式 (2.27) を満たす歩行者の中から,歩行者 i の自由歩行速度に最も近い速度で進む歩

行者を選び,その歩行者へ向かう位置ベクトルを ef とする.求めた位置ベクトル ef と電荷 Qf を用いて,引力 E2 は

E2 = Ko · Qf ·ef

||ef ||(2.29)

とする.ここで,Ko は単位面積あたりの対向者数であり,

密度Ko =視野内の対向者数No

視野の面積 S(2.30)

となる.したがって式 (2.29)は,歩行者周辺に対向者が多く,歩行流に逆らうように進んでいる場合,群集の波を避ける力がより強く働くことを意味している.シミュレーション実験の結果,引力 E1 の決定に用いた電荷 QD と Qf の比は,歩行流の幅が歩行者 1, 2 人分程度となった

QD : Qf = 1 : 0.0633 (2.31)

とする.

i

ef

図 2.18 追従ベクトル

21

シミュレーション 3

図 2.17のような歩行流が,これまでに作成したモデルで再現できているか確認するために,シミュレーション 2同様,縦 10[m],横 50[m] の平面領域において,到着率 4[人/sec]のポアソン分布に従い,歩行者を左右から発生させる (図 2.19).シミュレーションにおける単位時間を 0.05[sec],自由歩行速度を 1.33 + σ[m/sec] とする.σ は,平均 0,標準偏差 0.1の正規分布に従う乱数である.出発地および目的地は,シミュレーション 2と同様であり,左から右へ向かう歩行者を黒い円,右から左へ向かう歩行者を白い円で表す.図 2.19より,対向者を回避しながら追従する歩行者が見られる.大局的には,帯状の

流れが交互に形成され,歩行流が見られる.

図 2.19 シミュレーション (歩行流)

22

2.5 流体力学的ポテンシャル

障害物周辺での動きを滑らかに表現するために,流体力学的ポテンシャルを用いる.流体力学的ポテンシャルとは,物体回りの空間に感じる近寄りにくさや危険度,あるいは魅力的引力といった大きさを表すものである (図 2.20).具体的には,目的地に向かってポテンシャルは低くなり,逆に障害物の回りではポテンシャルは高くなる.このような場において,流体は,ポテンシャルの高いほうから低い方へ,物体を回避しながら滑らかに流れていく.(これは,標高の高い場所から低い場所へと水が流れることと同様である.) 障害物が複数存在する場合には,個々の障害物や目的地によるポテンシャルは合成され,1つのポテンシャル場が形成される.このポテンシャル場から求まる勾配ベクトルを引力 E3

として引力 E に合成することにより,ポテンシャルの山々を回避した滑らかな歩行行動を表現する.

高 低

図 2.20 流体力学的ポテンシャル

本研究では,完全流体の支配方程式より求まるラプラス方程式を,境界値問題として差分法を用いて解く [7],[8].連続式を離散化するため,対象領域を格子幅 0.1m の格子に分割する.打ち切り誤差は 10−6 とする.境界条件はNeumann条件 (自然境界条件) を用いる.出発地となる辺に流入条件,目的地となる辺に流出条件を与えることにより,出発地から目的地へ流れるポテンシャル場を求めることができる.ただし,出発地・目的地の組合せの数だけポテンシャル場が存在するため,経路毎にポテンシャル場を算出する必要がある.すなわち,シミュレーション 2のような平面領域においてシミュレーションを行なう場合,左から右,右から左の 2通りのポテンシャル場を予め計算することが必要となる.ポテンシャル場より求まる勾配ベクトル ep を用いて,引力 E3 は

E3 = Qp ·ep

||ep||(2.32)

とする.シミュレーション実験の結果,引力 E1 の決定に用いた電荷 QD と Qp の比は,障害物回りにおいて流体力学的ポテンシャルの効果が見られた

QD : Qp = 1 : 0.0625 (2.33)

とする.引力 E1,E2,E3 を用いて,引力 E は,

E = E1 + E2 + E3 (2.34)

23

となる.以上の流れをフローチャートにまとめたものを,図 2.21 に示す.

前処理 (データ読み込み,ポテンシャル場の算出)

視野に入る歩行者と障害物の判定

引力の計算

反発力の計算

dt 後の速度・位置の計算

障害物と交差Yes

No 速度の更新

目的地に到達No

Yes終了

図 2.21 フローチャート

シミュレーション 4 (凸形状の障害物)

縦 10[m],横 50[m] の平面領域の中心に縦 4[m],横 4[m] の凸形状の障害物が存在する領域において,到着率 2[人/sec] のポアソン分布に従い,歩行者を左右から発生させる(図 2.22).シミュレーションにおける単位時間を 0.05[sec],自由歩行速度を 1.33+σ[m/sec]とする.σ は,平均 0,標準偏差 0.1の正規分布に従う乱数である.出発地および目的地は,シミュレーション 2と同様であり,左から右へ向かう歩行者を黒い円,右から左へ向かう歩行者を白い円で表す.また,歩行者が障害物を回避するときの 0.5秒毎の歩行軌跡を図 2.23に示す.図 2.16では障害物回りでの滑らかな動作を表現することができなかったが,流体力学的ポテンシャルを導入することにより,障害物回りでの動作が滑らかになっている.また,2.4 節で導入した追従ベクトルの効果により,障害物の両側においても歩行流ができることがわかる.

24

図 2.22 シミュレーション (凸形状の障害物)

図 2.23 シミュレーション (凸形状の障害物回りの歩行軌跡)

単純な形状の領域における群集歩行は,本章のモデルで表現できる.しかし,鉄道駅のような,目的地までの経路が複数存在する領域においては,上記のモデルだけでは表現することができない.第 3 章では,鉄道駅を対象としたシミュレーションモデルの構築について説明する.

25

第3章 駅構内への群集歩行シミュレーションモデルの適用

一本道のような単純な形状の領域においては,第 2 章で構築したモデルを用いて群集歩行を表現することができる.しかし,鉄道駅のような複数の経路が存在する場所においては,第 2 章で構築したモデルだけでは,現実的な群集歩行を表現することができない.そこで本研究では,群集としてのマクロな動きを表現するために,第 2 章で構築したモデルとネットワークを組み合わせる.ネットワークは,歩行者がネットワーク上 (線上) を移動するというミクロな歩行行動を表現するために用いるのではなく,歩行者の経路選択にのみ用いる.具体的には,混雑を考慮したリンクコストを設け,Dijkstra法より求まる最短経路を歩行者の歩行経路とする.これは,進行方向を限定することなく,歩行者自身がその場の状況に応じて経路を選択していくという行動を合理的にモデル化したものである.本章では,まず,シミュレーションの対象とするA線B駅のコンコース階を例に,ネッ

トワークの作成方法 (3.2節),および経路選択方法 (3.3節,3.4節)について述べる.このとき,出口やホームへの移動手段として,エスカレータあるいは階段を選ぶという歩行者の行動を,ロジットモデルに基づいてモデル化し,歩行者の混雑を考慮した経路選択を記述する.また,3.6 節では,駅特有の待ち行動である改札回りの歩行行動をモデル化する.

3.1 対象とする鉄道駅

本研究で対象とする A線 B駅は,乗降客の多い大規模なターミナル駅となっている.A 線 B 駅構内の平面図を図 3.1に示す.

南口 正面口

図 3.1 A線 B駅構内の平面図

A線 B駅において,改札口は正面口と南口の 2 箇所存在する.本研究では,正面口のみを対象に,群集歩行シミュレーションを行なう (図 3.2).本研究で対象とする正面口は,縦 25.9[m],横 65.0[m] の領域である.改札が対象領域を真横に二分するという特徴のある形状をしており,図 3.2の改札の上側 (青) が改札外コンコース,下側 (黄) が改札内コンコースとなっている.正面口において,コンコース階からホーム階への移動手段,コンコース階から出口または他路線への連絡通路への移動手段は,ともに,エスカレータ・階

26

券売機

改札 1

改札 2

図 3.2 正面口 (対象領域) の平面図

段 (以下,移動施設とする) となっている.また,改札は 2 箇所存在し,図 3.2の改札 1には 8 台の改札機,改札 2には 6 台の改札機が設置されている.券売機は,図 3.2の右上の領域 (桃) に 10台設置されている.A線 B駅構内の実際の寸法をもとに,Javaを用いて対象領域を表示したものを図 3.3に示す.各線分,ポリゴンと色の対応を表 3.1に示す.

表 3.1 駅構内の各施設と線分・ポリゴンの色の対応

駅構内の各施設 線分・ポリゴンの色壁・柱 黒

エスカレータ (入) 桃エスカレータ (出) 橙

階段 黄改札 緑通路 白

図 3.3 正面口の平面図 (Java)

27

正面口を対象に,ネットワークの作成を行なう.

3.2 駅構内移動ネットワーク

本研究では,鉄道駅における歩行者は合理的に経路を選択すると仮定し,ネットワーク(以下,駅構内移動ネットワークとする) を用いて群集としてのマクロな動きを表現する.ただし,歩行者の単独行動に限定し,待合室やトイレ,売店,ロッカーへ行くなどの副次的行動は対象としない.ここで,歩行者が,エスカレータを経由する歩行経路と階段を経由する歩行経路のどちらも選択することができるよう,3.1 節で述べた対象領域に,各出入口を表すポリゴンgeteway,platformを新たに追加する (図 3.4).このポリゴンを歩行者の最終的な目的地(以下,最終目的地とする) と設定することにより,出口までの移動手段をエスカレータ・階段と固定することなく,混雑を考慮した歩行者の経路選択を表現することができる.

gateway1 gateway2

platform1

platform2

図 3.4 出入口

駅構内移動ネットワークの作成方法を以下に示す.

1. 次の 4点を満たすように,駅構内を面の役割ごとにポリゴンに分割し,属性 (階段,エスカレータ,改札,通路,壁) を持たせる.

(a) 面の属性が異なる領域は,必ず分割する.

(b) 同じ属性を持つ連続した領域を,異なるポリゴンに分割しない.

(c) 歩行経路の分岐点となる領域を分割する.

(d) 歩行流に対し,なるべく直角に分割する.

2. 歩行者の最終目的地となる,対象領域への出入口を表すポリゴン gateway1,gate-way2,platform1,platform2を作成する (図 3.4).

3. 通行可能な各ポリゴンにノードを対応させ,隣接するポリゴン間の境界辺が通行可能であれば各ノード間にリンクをはり,ネットワークを作成する (図 3.5).

28

図 3.5 駅構内移動ネットワークの作成

本研究の対象領域において作成した駅構内移動ネットワークは,ノード数 22,リンク数 40である.ただし,上記のノードは,歩行者が通るポリゴンを決定するための仮想的なものであり,歩行者は,駅構内移動ネットワークより経路として選択されたポリゴン内であればどこを歩いても構わないものとする.ネットワーク・フローのソース (出発地) は,各通路,エスカレータ,階段の計 7 箇所

である.シンク (最終目的地) は,各 gateway,platformの 4 箇所である.

3.3 混雑を考慮したリンクコストの決定

歩行経路を決定するにあたり必要となる,駅構内移動ネットワークのリンクコストの設定について述べる.駅構内移動ネットワークのリンクコストとして,距離だけでなく,各ポリゴン内の混雑度を用いることにより,混雑を考慮した歩行経路選択を表現する.具体的には,ポリゴンの重心間距離と各ポリゴン内の密度より定まる値を,リンクコストとして用いる.

3.3.1 リンクコスト

密度が高い領域においては,歩行速度が下がり目的地までの所要時間が延びることを表現するために,ポリゴン Pli から,ポリゴン Pli に隣接するポリゴン Plj へのリンクコストの決定に,Fruin[1]の密度と速度の関係式

速度 V [m/sec] = 1.356 − 0.341 ×密度K[人/m2

](3.1)

を利用する.ポリゴン Plj 内において,歩行者は,式 (3.1) の第 1項を歩行者の自由歩行速度 Vs,第 2項をポリゴン Pli,Plj 内の密度 Kij に変更した

速度 V [m/sec] = Vs − 0.341Kij

[人/m2

](3.2)

で進むと仮定し,ポリゴン Pli から,ポリゴン Pli に隣接するポリゴン Plj へのリンクコストは

d(Gi, Gj)Vs − 0.341Kij

(3.3)

29

とする.ここで,Gi はポリゴン Pli の重心であり,d(Gi, Gj) は,ポリゴン Pli とポリゴン Plj の重心間距離である (図 3.6).すなわち,重心間距離を式 (3.3) の速度で除すことによって,密度 Kij を考慮した速度で進んだ場合にかかるポリゴン Pli,Plj 間の所要時間をリンクコストとして設定する.ただし,歩行者が現在属するポリゴン Pli から,Pli に隣接するポリゴン Plj へのリン

クコストは

d(P, Gj)Vs − 0.341Kij

(3.4)

とする.d(P, Gj) は,歩行者が現在いる地点 P からポリゴン Plj の重心 Gj までの距離である.また,最終目的地となるポリゴンへのリンク (図 3.7の点線のリンク) コストは0とする.

d(Gi, Gj)Gi Gj

d(P, Gj)P

図 3.6 通路

歩行者の経路選択の例を,図 3.7に示す.図の左下の通路を出発地,右上の出入口を最終目的地とした場合,緑色の経路,すなわち薄緑色の領域が歩行経路として決定される.

図 3.7 歩行者の経路選択

3.3.2 移動施設選択確率

歩行者は,最終目的地に到達するまでに,エスカレータ・階段といった移動施設を使用する場合がある.しかし,移動施設を選択する要因は移動距離だけでなく,待ち時間や肉

30

体的負荷などが関係すると考えられるため,3.3.1節で述べたリンクコストでは現実的な移動施設の選択を表現することができない.そこで本節では,目指す移動施設が視野に入っている歩行者が,エスカレータまたは階段を選択するモデルを考える.2項ロジットモデルに基づいて,時刻 t において目指す移動施設が視野に入っている歩行者のうち,エスカレータ E・階段 Sをそれぞれ選択する歩行者の占める割合 (以下,移動施設選択確率とする) を求める.すなわち,移動施設毎に移動施設選択確率を算出する.いま,目指す移動施設が視野に入っている歩行者は,各自の効用を最大化するように移動施設を選択すると仮定する.ただし,時刻 t において歩行者が移動施設 i を選択したときの効用 Ui(t) は,次のように与えられるものとする.

Ui(t) = Vi(t) + X i ∈ {E, S}. (3.5)

ここで,Vi(t) は効用の確定項であり,X は位置母数 η,尺度母数 1/λ のガンベル分布に従う確率変数である.

X は,そのときの歩行者の心理状況や時間などによって引き起こされる,効用の確率的な揺らぎを意味している.

Vi(t)は,時刻 tにおける移動施設前までの移動時間 Xi1(t),移動施設の昇降時間 Xi2(t),移動施設前での待ち時間 Xi3(t),肉体的負荷 Xi4(t),およびパラメータ θ1,θ2,θ3,θ4

を用いて

Vi(t) = θ1Xi1(t) + θ2Xi2(t) + θ3Xi3(t) + θ4Xi4(t) i ∈ {E, S} (3.6)

と表現できるものとする.つまり,各移動施設を選択する効用を,目的地までの所要時間や肉体的負荷に依存させることで,効用が利用者を配分し,また,利用者数が効用を決定するという相互連関を明示的に取り入れている.ここで,確定項として用いた 4つの特性変数について以下に述べる (図 3.8).

d(G0,Mi)

G0 Mi

30◦h

1.3

VE

1.65

(a) エスカレータ

d(G0,Mi)

G0 Mi

h

VS

(b) 階段

図 3.8 特性変数

移動施設前までの移動時間 Xi1 [sec] は

Xi1(t) =d(G0,Mi)

1.33 − 0.341K0(t)i ∈ {E, S} (3.7)

31

とする.d(G0,Mi) は移動施設前のポリゴンの重心 G0 から移動施設 i の入り口の中点 Mi

までの距離,K0(t) は時刻 t における移動施設前のポリゴン内の密度である.移動施設前までの移動時間は,3.3.1 節で定義したリンクコストと同様,Fruin[1]の密度と速度の関係式を用いて,混雑を考慮した移動時間とする.移動施設の昇降時間 Xi2 [sec] は

XE2(t) =1.3 + 2h + 1.65

VEl

, (エスカレータ) (3.8)

XS2(t) =h

VSv − 0.075KS(t)(階段) (3.9)

とする.h は移動施設の高さ,VElはエスカレータの水平移動速度,VSv は階段における

昇降時垂直移動速度,KS(t) は時刻 t における階段内の密度である.密度が高い階段においては,歩行速度が下がり移動施設の昇降時間が延びるため,移動施設前までの移動時間と同様,[10]の昇降時における密度と速度の関係式

垂直移動速度 V [m/sec] = 0.5 − 0.075 ×密度K[人/m2

](3.10)

を利用する.階段内では,歩行者は,式 (3.10) の第 1項を歩行者の昇降時垂直移動速度VSv,第 2項を階段内の密度 KS(t) に変更した

垂直移動速度 V [m/sec] = VSv − 0.075KS(t)[人/m2

](3.11)

で進むと仮定し,密度 KS(t) を考慮した速度で進んだ場合にかかる階段の昇降時間を設定する.本研究では,上り下りにかかわらず VSv = 0.5[m/sec] ,VEl

= 0.5[m/sec] とする.また,移動施設内の移動速度が低下するのに伴い,移動施設前での待ち時間も延びると考えられるため,移動施設前での待ち時間 Xi3 [sec] も移動施設内の密度に依存する値とし,

XE3(t) =0.8NE(t)/LE

VEl

, (エスカレータ) (3.12)

XS3(t) =0.68NS(t)/LS

VSv − 0.075KS(t)(階段) (3.13)

とする.NE(t),NS(t)は移動施設前における各移動施設選択者数,LE,LS は各移動施設の列数である.待ち行列に加わっている歩行者の前後の間隔は,エスカレータの場合,1人当たりエスカレータ 2段分 (0.8[m])とし,階段の場合,1人当たり階段 2段分 (0.68[m])とする.したがって,待ち行列の長さはそれぞれ,式 (3.12),式 (3.13)の分子である 0.8NE(t)/LE,0.68NS(t)/LS となる.肉体的負荷 Xi4 は,移動施設の高さ h に依存する値とし,

XE4(t) = 0, (エスカレータ) (3.14)

XS4(t) = h (階段) (3.15)

とする.以上より,式 (3.5) がロジットモデルの定義そのものであることから,エスカレータ,階

段の選択確率は,それぞれ

pE(t) =exp(VE(t))

exp(VE(t)) + exp(VS(t)), (3.16)

pS(t) = 1 − pE(t) (3.17)

32

表 3.2 パラメータ

パラメータ θ

移動施設前までの移動時間 昇降時間 待ち時間 肉体的負荷θ1 θ2 θ3 θ4

-0.1011 -0.1750 -0.6500 -1.1000

となる.効用を決定するパラメータ θ は,[19]および [4]を参考に決定する.各パラメータの値を表 3.2に示す.移動施設前までの移動時間,昇降時間,待ち時間に対するパラメータは負である.これは,目的地までの所要時間が小さい経路ほど効用が大きいことを表しており,この符号は適切であるといえる.また,肉体的負荷に対するパラメータも負である.これは,階段の高さが高い経路ほど肉体的負荷が大きく,効用が小さいことを表しており,この符号も適切であるといえる.歩行者は,中間目的地である移動施設が視野に入ると,どちらの移動施設を使用するか選択する.式 (3.16),式 (3.17) で求まる確率にしたがって,歩行者を各移動施設へ配分することにより,混雑を考慮した歩行者の経路選択を表現する.

3.3.3 エスカレータ・階段への歩行者配分

3.3.2 節で決定した移動施設選択確率を用いて,歩行者を各移動施設へ配分する.なお,移動施設選択において,過去に行なった選択を頻繁に変更しないよう,選択した移動施設の選択確率が低下した時刻のみ,各歩行者に再度乱数を与える.移動施設選択確率が低下した場合に乱数を再度与えることにより,途中で移動施設を変更する歩行者を表現する.以下に,配分方法について説明する.時刻 t におけるエスカレータ選択確率を pE(t),

階段選択確率を pS(t)とする.時刻 t から時刻 t+dt の間,目指す移動施設が視野に入っている歩行者数を N(t) 人とする.そのうち,エスカレータを選択している歩行者 E をNE(t) 人,階段を選択している歩行者 S を NS(t) 人,まだどちらの移動施設も選択していない歩行者 I を Nin(t) 人とする (N(t) = NE(t) + NS(t) + Nin(t)).また,移動施設が視野に入った時刻から現時刻までに歩行者 j が移動した距離を dj とする.なお,bxc はx 以下の最大の整数を意味する.

step 1 pE(t+dt) > pE(t) ならば,歩行者 I,S の中からエスカレータへ選択肢を変更する歩行者を決定するため,以下の (a),(b) を行なう.

(a) 0 < bN(t) · pE(t+dt) − NE(t)c ≤ Nin(t) ならば,歩行者 I に対し,[0, 1] 上の一様乱数 σ を与える.

σ <bN(t) · pE(t+dt) − NE(t)c

Nin(t)

であればエスカレータを選択し,そうでなければ階段を選択する.歩行者 S は,選択肢を変更せず終了する.

(b) bN(t) · pE(t+dt) − NE(t)c > Nin(t) ならば,以下の (i),(ii) を行なう.

33

(i) 歩行者 I はエスカレータを選択する.

(ii) dj < 10 かつ,0 < bN(t) · pE(t+dt) − NE(t) − Nin(t)c ならば,歩行者 S

に対し,[0, 1] 上の一様乱数 σ を与える.

σ <bN(t) · pE(t+dt) − NE(t) − Nin(t)c

NS(t)

であれば,歩行者の選択肢をエスカレータへ変更し,そうでなければ,選択肢を変更せず終了する.

step 2 pE(t+dt) ≤ pE(t) ならば,歩行者 I,E の中から階段へ選択肢を変更する歩行者を決定するため,以下の (a),(b) を行なう.

(a) 0 < bN(t) · pS(t+dt) − NS(t)c ≤ Nin(t) ならば,歩行者 I に対し,[0, 1] 上の一様乱数 σ を与える.

σ <bN(t) · pS(t+dt) − NS(t)c

Nin(t)

であれば階段を選択し,そうでなければエスカレータを選択する.歩行者 E

は,選択肢を変更せず終了する.

(b) bN(t) · pS(t+dt) − NS(t)c > Nin(t) ならば,以下の (i),(ii) を行なう.

(i) 歩行者 I は階段を選択する.

(ii) dj < 10 かつ,0 < bN(t) · pS(t+dt) − NS(t) − Nin(t)c ならば,歩行者 E

に対し,[0, 1] 上の一様乱数 σ を与える.

σ <bN(t) · pS(t+dt) − NS(t) − Nin(t)c

NE(t)

であれば,歩行者の選択肢を階段へ変更し,そうでなければ,選択肢を変更せず終了する.

各歩行者が選択した移動施設へのリンクコストを 0 とすることにより,最短経路を求めた際,歩行者が選択した移動施設を経路として選択することになる.

3.4 ネットワークによる経路選択の表現

まず,どの出口へ向かいたいのか,最終目的地を各歩行者にパラメータとして与える.次に,3.2 節で作成したネットワークを利用し,現在属するポリゴンから最終目的地までの最短経路をDijkstra法を用いて求め,歩行者の歩行経路とする.歩行経路として選択したノードの属するポリゴン間の境界辺を中間目的地と定義する.図 3.9を例にとると,図の左下の通路を出発地,右上の出入口を最終目的地とした場合に求まる緑色の最短経路に対し,青色の線が中間目的地となる.

34

図 3.9 中間目的地

マイナスの電荷を配置する場所を中間目的地とすることによって,第 2 章で述べたポテンシャルモデルでの動きとネットワークでの動きを関連させる.ただし,曲がり角での挙動を表現するために,目的地への引力 E1 を,2つの中間目的地への引力の合力として表す.また,流体力学的ポテンシャルより求まる引力 E3 の算出方法を変更する.そして,エスカレータ・階段における速度の決定方法を変更する.3.5 節では,第 2 章で構築した群集歩行シミュレーションモデルを駅に適用するにあたり変更する上記の 3点について述べる.

3.5 群集歩行シミュレーションモデルの拡張

3.5.1 目的地への引力の決定

歩行者が現在属するポリゴン Pl1 から経路として選択したポリゴンを,順に Pl1, P l2, P l3とする.引力 E1 の決定には,ポリゴン Pl1 とポリゴン Pl2 との境界辺である中間目的地 Dm1 と,ポリゴン Pl2 とポリゴン Pl3 との境界辺である中間目的地 Dm2 を用いる.現在地から各中間目的地への位置ベクトルをそれぞれ eDm1,eDm2 とする.中間目的地 Dmi (i = 1, 2) が障害物によって遮られる場合を考慮し,位置ベクトル eDmi の決定には,2.3.1 節の位置ベクトル eD の決定アルゴリズムと同様の計算を用いる.ただし,中間目的地 Dm2 が障害物によって完全に遮られる場合,位置ベクトル eDm2 は 0 とする.この 2つの位置ベクトルの合力として,引力 E1 は

e =eDm1

||eDm1 ||+

eDm2

||eDm2 ||, (3.18)

E1 = QD · e

||e||(3.19)

とする.QD は目的地に与える電荷の大きさである.引力 E1 の大きさは,目的地までの距離にかかわらず一定とする.引力 E1 の決定方法を,フローチャートを用いて図 3.10に示す.図中の位置ベクトル eDmi (i = 1, 2) の決定は,2.3.1 節の位置ベクトル eD の決定アルゴリズムと同様の計算を意味する.

35

引力 E1 の決定

位置ベクトル eDm1 の決定

e = eDm1||eDm1

||

中間目的地 Dm2 が視野に入る

位置ベクトル eDm2 の決定

e += eDm2||eDm2

||

引力 E1 の算出

終了

図 3.10 フローチャート (引力 E1 の決定)

3.5.2 流体力学的ポテンシャル

第 2 章で述べた流体力学的ポテンシャルを,鉄道駅のような大きな領域を対象に算出した場合,歩行者の歩行経路以外の経路へ流れる勾配ベクトルが得られることがある.そこで,群集歩行シミュレーションモデルの拡張として,1つの経路ではなく 2つの隣接するポリゴンを対象に,流体力学的ポテンシャルを予め算出する.したがって,隣接するポリゴンの組合せの数だけ流体力学的ポテンシャルを算出することになる.本研究の対象領域において算出した流体力学的ポテンシャルは 77通りである.流体力学的ポテンシャルの算出方法および利用方法を図 3.11に示す.歩行経路 r として選択されるポリゴンを,順に Pl0, P l1, P l2, P l3, · · · , P lnr−1, P lg

(g = nr) とする.Pl0 は出発地,Plg は最終目的地である.2つのポリゴン Pli,Pli+1

(i = 1, 2, · · · , nr − 1) を対象に流体力学的ポテンシャルを算出する.Pli−1 と Pli の境界辺に流入条件,Pli+1 と Pli+2 の境界辺に流出条件を与える.ただし,Pli+1 = Plg ならば,ポリゴン Pli のみを対象に流体力学的ポテンシャルを算出し,Pli−1 と Pli の境界辺に流入条件,Pli と Pli+1 の境界辺に流出条件を与える.Pli,Pli+1 と他のポリゴンの境界辺にはNeumann条件 (自然境界条件) を与える.したがって,図 3.11を例にすると,全部で 12通りのポテンシャル場を算出することになる (表 3.3).算出方法は,2.5 節と同様である.歩行者は,算出したポテンシャル場を用いて,引力 E3 を決定する.歩行者が現在属す

るポリゴンを Pli,Pli の前に属していたポリゴンを Pli−1,Pli の次に目指すポリゴンを順に Pli+1,Pli+2 とする.歩行者は,ポリゴン Pli−1 とポリゴン Pli との境界辺に流入

36

条件,ポリゴン Pli+1 とポリゴン Pli+2 との境界辺である中間目的地 Dm2 に流出条件を与えたポリゴン Pli,Pli+1 を対象としたポテンシャル場から求まる勾配ベクトルを,引力 E3 として用いる.

Plg1

Pl1

Pl2 Pl3

Plg2

Plg3

3© 4© 5©

図 3.11 流体力学的ポテンシャル

表 3.3 流入条件・流出条件の組合せ

対象ポリゴン 流入 流出

1 Pl1,Pl2 1© 3©2 Pl1,Pl2 1© 4©3 Pl1 2© 1©4 Pl2 2© 3©5 Pl2,Pl3 2© 5©6 Pl2,Pl1 3© 1©7 Pl2,Pl3 3© 5©8 Pl2,Pl1 4© 1©9 Pl2 4© 3©

10 Pl3 4© 5©11 Pl3,Pl2 5© 2©12 Pl3,Pl2 5© 3©

3.5.3 エスカレータ・階段における速度ベクトルの決定

実際のエスカレータ・階段内の行動は 3次元であり,水平方向だけでなく垂直方向にも移動する.しかし,本モデルは 2 次元表示であるため,本節では,水平移動速度を用いてエスカレータおよび階段における単位時間 dt 後の速度 V new を決定する.ただし,歩行者は,エスカレータを停止した状態で利用するものとし,エスカレータを歩行しての利用は考慮しない.エスカレータにおける水平移動速度 VEl

は,上り下りともに 0.5[m/sec] とする.階段における水平移動速度 VSl

(t) は,[10]の昇降時における密度と速度の関係式

垂直移動速度 V [m/sec] = 0.5 − 0.075 ×密度K[人/m2

](3.20)

を利用して,

水平移動速度 VSl(t) [m/sec] =

√3 VSv × Vs

1.33− 0.075 × KS(t)

[人/m2

](3.21)

とする.ここで,KS(t) は時刻 t における階段内の密度である.式 (3.21) は,歩行者自身の自由歩行速度 Vs と階段内の密度 KS(t) を考慮した速度を意味する.

37

2.3.3 節で述べた速度の決定式 (2.24),(2.25)

V = V + (E − F ) · dt,

V new = Vs ·V

V0

の自由歩行速度 Vs を,上記の各移動施設における水平移動速度に置き換えた

V new = VEl· V

V0, (エスカレータ) (3.22)

V new = VSl· V

V0(階段) (3.23)

を,各移動施設における速度ベクトルとする.V0 は,自由歩行時のシミュレーションにおいて算出される式 (2.24) の ||V || の最大値である.これにより,V new は 0 から移動施設内の自由歩行速度の大きさをもつベクトルとなる.

3.6 改札

本節では,構築した群集歩行シミュレーションモデルに改札前の待ち行動を組み込み,通常の群集歩行と待ち行動が同時に起こる状況を再現する.

3.6.1 待ち行動

待ち行動は,主に

(1) カウンター型歩行者がカウンター窓口の前に並び,待ち行列を形成し,前から順にサービスを受けた後,待ち行列の後方または横へ退去し,次の目的地へ向かう行動

(2) ラッチ型サービスを受けるまではカウンター型と同様の行動をし,サービスを受けた後はそのまま前進し,ラッチを通り抜ける行動

(3) 乗降口型乗り物の乗降口前に待ち行列ができ,乗り物内の乗客が降車してから待ち客乗車する行動

の 3種類に分類される [11].本研究で対象とする鉄道駅においては,券売機,精算機が(1) のカウンター型,改札が (2) のラッチ型,電車,エレベータが (3) の乗降口型に相当する.本節では,(2) のラッチ型の待ち行動が発生する改札回りの歩行行動をモデル化する.

38

3.6.2 改札ネットワーク

歩行者は,改札へ向かう際,改札口を選択してから,どの改札機を通るか,2度の選択をしていると考えられる.そこで,ネットワークの階層構造を作成する.具体的には,コンコース全体の経路選択を表現する駅構内移動ネットワークの下に,改札機の選択を表現する改札ネットワークを作成する.駅構内移動ネットワークの最短経路より定まる,目指す改札口と改札口前のポリゴンの境界辺である中間目的地が視野に入る場合,改札ネットワークを用いてどの改札機を目指すか選択する.改札ネットワークの作成方法と,リンクコストの設定について,以下に述べる.ここで,駅構内移動ネットワークと改札ネットワークは,3.2節で対象領域を分割した結果得られる,改札口前の領域を表すポリゴンを除き,ネットワーク・リンクコストともに独立とする.

1. 改札機を面の役割ごとにポリゴンに分割し,属性 (改札,壁) を持たせる.

2. 3.2節で対象領域を分割した結果得られる,改札口前の領域を表すポリゴンを,Tgate-way1,Tgateway2として追加する (図 3.12).

3. 各ポリゴンにノードを対応させ,隣接するポリゴン間の境界辺が通行可能であれば各ノード間にリンクをはり,改札ネットワークを作成する.

改札機をネットワークを用いて表現することにより,一方通行の改札機を表現することが可能となる.

Tgateway1

Tgateway2

図 3.12 改札ネットワーク (一方通行)

対象領域内の改札機を全て一方通行と設定すると,本研究の対象領域において作成した改札ネットワークは,ノード数 18,リンク数 28となる.

39

改札ネットワークのリンクコストは

d(P, Mj)+ 1.6 × Nqj

とする.d(P,Mj) は,歩行者の現在地 P から改札機 j 入り口の中点 Mj までの距離である.Nqj は,改札機 j に並んでいる待ち行列の人数である.改札機前に歩行者が一人いるということは,その歩行者が改札機を通り抜ける (改札機の長さ 1.6[m]) まで改札機前で待たなければならないと考え,改札機までの実際の距離に 1.6Nqj を加えた値をリンクコストとして用いる.ここで,駅構内移動ネットワークとは異なり,どの改札機を選択しても改札機を通過した後のポリゴンTgatewayの密度は変わらないため,リンクコストとして,目的地までの所要時間ではなく,実際の距離と待ち行列の長さのみを考慮する.なお,改札機から改札機通過後のポリゴンへのリンク (図 3.13の点線のリンク) コストは 0とする.

d(P, Mj)

1m0.75m

Tgateway1

Tgateway2

図 3.13 改札ネットワークのリンクコスト

40

3.6.3 アルゴリズム

駅構内移動ネットワークと改札ネットワークによる歩行者の歩行経路決定方法について述べる.

1. 駅構内移動ネットワーク (図 3.14の青色の線) を用いて,駅全体を対象とした歩行経路を決定する.

2. 目指す改札口と改札口前のポリゴンの境界辺である中間目的地が視野に入る場合,改札ネットワーク (図 3.14の緑色の線) を用いて,どの改札機を目指すか決定する.

3. 待ち行列に他の歩行者が存在しなければ,改札機との距離が 1[m] 以下となった場合,その改札機の待ち行列に加わる.待ち行列に他の歩行者が存在するならば,選択した改札機前の待ち行列における最後尾との距離が 0.75[m] 以下となった場合,その改札機の待ち行列に加わる.

4. 待ち行列に加わっている歩行者は,自分の前にいる歩行者に対し追従ベクトルが働く.ただし,待ち行列の先頭にいる歩行者は,追従ベクトルが働かないものとする.

図 3.14 駅構内移動ネットワークと改札ネットワーク

41

第4章 群集歩行シミュレーションモデルの実装

本章では,実測値をもとに歩行者を発生させ,群集歩行シミュレーションを行なう.そして,本モデルの有用性の一つとして,シミュレーションにかかる計算時間について述べる.また,歩行速度,密度といった群集歩行の特性量を用いて,シミュレーションから得られる特性量間の関係式と,既存研究の特性量間の関係式を比較する.

4.1 シミュレーションの設定

3.1 節で述べたA線B駅を対象にシミュレーションを行なう.シミュレーションにおける単位時間 dt を 0.05[sec],自由歩行速度を 1.33 + σ[m/sec] とする.σ は,平均 0,標準偏差 0.1の正規分布に従う乱数である.駅構内の改札機は改札 1に 8台,改札 2に 6台設置されているが,どちらも,左半分が

ホームから出入口への一方通行の改札機,右半分が出入口からホームへの一方通行の改札機とする.次に,単位時間に通路を通過する単位幅員あたりの歩行者数である流率 Q[人/m · sec]を設定する.実際の鉄道駅構内では,時刻表に従い一定の間隔で群集が発生すると考えられる.しかし,対象領域における時刻表を考慮した流率を求めることが困難であるため,本研究では,電車の到着による影響を考えず,到着率が一定のポアソン分布に従うものとしてシミュレーションを行なう.流率および歩行者の最終目的地の選択比率は,実測値を平均化した値として,図 4.1のように定める.これらの値は,エスカレータの利用比率や目的地の利用比率を考慮した値となっている.

42

§ ¥¦gateway1

エスカレータ:0.538人/m · sec階段:0.158人/m · sec

platform1 : platform2 = 0.4 : 0.6

1.3m

5.1m

§ ¥¦gateway2

エスカレータ:0.538人/m · sec階段:0.128人/m · sec

platform1 : platform2 = 0.23 : 0.77

1.0m

4.2m

§ ¥¦platform1

通路:0.069人/m · sec

gateway1 : gateway2 = 0.69 : 0.31

15.3m

§ ¥¦platform2

エスカレータ:0.370人/m · sec階段:0.025人/m · sec

gateway1 : gateway2 = 0.5 : 0.5

1.4m

2.3m

改札 1

改札 2

図 4.1 初期値の設定

4.2 シミュレーション実験

A線 B駅構内における群集歩行シミュレーションを図 4.2,図 4.3に示す.黒い円は乗客,白い円は降客を表す.

図 4.2 駅構内におけるシミュレーション

43

図 4.3 駅構内におけるシミュレーション (改札回り)

大局的には,帯状の流れが交互に形成され,互いにすれ違う様子が見える.駅構内を対象としたシミュレーションにおいても,2.4 節同様,追従ベクトルの効果が現れている.また,流体力学的ポテンシャルの導入により,障害物回りにおいても,滑らかな歩行行動を表現している.局所的には,エスカレータ前における待ち行列の形成が見られる.特に,platform2へのエスカレータ前は,改札口から近いこともあり,待ち行列が形成されやすいことがわかる.待ち時間や肉体的負荷を考慮した移動施設選択確率の設定により,エスカレータへ向かっていた歩行者が,途中で階段へ経路変更する動きが見られる.改札前においても,エスカレータ同様,途中改札機を変更する歩行者行動が見られる.

4.3 解析

4.3.1 計算時間

本モデルの有用性の一つとして,シミュレーションにおける計算時間について述べる.2.2.2節で述べた計算時間を削減するための可視判定方法を,行なう場合と行なわない場合における計算時間を比較する.本シミュレーション実験では,CPU Pentium4 3.06GHz,メモリ 1.00GB,OS Microsoft Windows XP,コンパイラ Java 2 SDK, Standard EditionVersion1.4.2の計算機を使用する.

• 歩行者の可視判定方法 1 (改善前)領域内のすべての歩行者を対象に,可視判定を行なう.

• 歩行者の可視判定方法 2 (改善後)領域を,一辺 7.5[m] のセルに分割する.歩行者の属するセルと周囲 8セルの,9セルに属する歩行者のみを対象に,可視判定を行なう.

44

縦 50[m],横 50[m] の平面領域において,ある流率にしたがって,左右から歩行者を 5分間発生させ (図 4.4),シミュレーション開始からすべての歩行者が退出するまでの時間を測定する.ただし,シミュレーションの表示にかかる時間を除き,純粋な計算時間のみを測定するため,表示を行なわずに測定する.シミュレーションにおける単位時間 dt を0.05[sec],自由歩行速度を 1.33 + σ[m/sec] とする.σ は,平均 0,標準偏差 0.1の正規分布に従う乱数である.流率は 0.5[人/m · sec],1.0[人/m · sec] の 2通りを考える.改善前と改善後の計算時間の比較を図 4.5に示す.横軸はシミュレーション時間,縦軸は計算時間,縦軸の第 2軸は滞留者数を表す.シミュレーション終了までに要する時間は,改善前と比べ,Q = 0.2 では 163.627秒 (約 63.5%) ,Q = 1.0 では 811.353秒 (約 71.6%) 減少することがわかる.

50m

50m

7.5m

図 4.4 平面領域

0

120

240

360

480

600

720

840

960

1,080

1,200

0 60 120 180 240 300 360

シミュレーション時間 (sec)

計算

時間

(sec)

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

1,600

1,800

2,000

滞留

者数

(人

)

滞留者数 (Q=0.2) 滞留者数 (Q=1.0)

改善前 (Q=0.2) 改善前 (Q=1.0)

改善後 (Q=0.2) 改善後 (Q=1.0)

図 4.5 計算時間 (対向流)

45

同様の計算を,駅構内を対象に行なう (図 4.6).流率は,すべての出発地において一定とし,0.1[人/m · sec],0.2[人/m · sec] の 2通りを考える.駅構内では,シミュレーション終了までに要する時間は,改善前と比べ,Q = 0.1 では 13.143秒 (約 14.2%) ,Q = 0.2では 60.043秒 (約 23.6%) 減少する (図 4.7).平面領域におけるシミュレーションほど計算時間を削減できていないのは,滞留者数の違いだけでなく,壁や柱,改札の影響により,歩行者の可視判定以外の計算に時間がかかるためと考えられる.

図 4.6 駅構内

0

60

120

180

240

300

0 60 120 180 240 300 360 420

シミュレーション時間 (sec)

計算

時間

(sec)

0

100

200

300

400

500

滞留

者数

(人

)

滞留者数 (Q=0.1) 滞留者数 (Q=0.2)

改善前 (Q=0.1) 改善前 (Q=0.2)

改善後 (Q=0.1) 改善後 (Q=0.2)

図 4.7 計算時間 (駅構内)

平面領域と駅構内どちらにおいても,リアルタイムで表示することが可能な計算時間となるため,計算時間の点から見て,本モデルは有用であると考えられる.

46

4.3.2 群集歩行の特性量

 歩行速度,密度は群集の流動状態を表す基本的な指標である.本研究では,これらの特性量を用いて,シミュレーションから得られる群集歩行を数量的に評価する.以下に,この 2つの特性量について述べる.

歩行速度

対象領域における全歩行者の速度の合計値を毎ステップ足し合わせ,その間ののべ人数で除したものを歩行速度として用いる.時刻 t における領域内の歩行者数を N(t),歩行者 i の速度を V i(t) とすると,歩行速度 V [m/sec] は

V =

t

i

||Vi(t)||∑

t

N(t)(4.1)

となる.

密度

混雑度を表す 1つの尺度として,単位面積あたりの歩行者数である密度を考える.測定領域内の歩行者数 N(t) を毎ステップ足し合わせ,測定領域の面積および測定時間で除したものを密度として用いる.測定領域の面積を S,測定時間を T,シミュレーションの単位時間を dt とすると,密度 K[人/m2] は

K =

t

N(t)

T

dt· S

(4.2)

となる.

47

4.3.3 密度と歩行速度の関係式

本モデルが現実的であるか数量的に見るために,密度と歩行速度の関係式について述べる.歩行者は,混雑していない場合には他の歩行者に妨げられることなく自由に歩くことができるが,群集の密度が高くなってくると,次第に歩行速度が低下し,自分のペースで歩くことが困難となる.このように,混雑度を表す密度と歩行速度には非常に密接な関係がある.密度と歩行速度の関係のモデル式には,実測から導かれるモデル (回帰モデル) と,あ

る仮定に基づいて立てた方程式を解くことによって導かれるモデル (理論モデル) がある.また,密度と歩行速度の関係式として,直線モデル

V = a − bK,

べき乗モデルV = aK−b,

指数モデルV = ae−bK ,

などが提案されている [14].既存研究によって得られた密度と歩行速度の関係式を表 4.1に示す.歩行速度,密度といった群集歩行の特性量を用いて,シミュレーションから得られる特性量間の関係式と,既存研究の特性量間の関係式を比較する.ここで,本研究の対象領域 (駅構内) では,柱やエスカレータ,改札の影響が大きく,密度以外の影響から歩行速度が変化するため,縦 10[m],横 50[m] の平面領域において歩行者を発生させ,本モデルから得られる結果と既存研究の密度と歩行速度の関係式 (一方向流・対向流) を比較する.

表 4.1 密度と歩行速度の関係式

モデル式 関係式John J.Fruin 直線 V = 1.356 − 0.341K佐藤 (一方向流) 直線 V = 1.2 − 0.25K

岡田 (対向流) 直線 V = 1.25 − 0.476K

回帰モデル 吉岡 (通勤) 直線 V = 1.61 − 0.33K

吉岡 (行事・催物) 直線 V = 1.349 − 0.376K吉岡 (買物) 直線 V = 1.13 − 0.28K

木村・伊原 べき乗 V = 1.272K−0.7954

岡田 (対向流) 指数 V = 1.269 · 10−0.222K

理論モデル 中村 指数 V = 1.4 − 1.7e−2/K

48

測定方法

各特性量の測定には,図 4.8の青色の領域を測定領域として用いる.したがって,4.1 節で述べた面積 S は,S = 10 × 30 = 300[m2] となる.測定は 10分間分のシミュレーションを対象とする.各シミュレーション時間で特性量を測定し,10秒間単位で平均値を算出する.すなわち,式 (4.2) の測定時間は T = 10[sec] となる.

10m

50m

30m

図 4.8 測定領域

本モデルと既存研究を比較するために,歩行者の進行方向を一方向 (一方向流),二方向(対向流) に限定し,シミュレーションを行なう.本シミュレーション実験では,密度に変化をつけ,様々な状況を再現するために,流率 Q[人/m · sec] を

一方向流: Q= 1.2 − 0.002t (0 ≤ t ≤ 600)

対向流: Q= 0.6 − 0.001t (0 ≤ t ≤ 600)

とする.二方向のシミュレーションの場合,各方向とも流率の値を等しくするため,平面領域全体の流率は 2倍の 2Q となる.

10分間のシミュレーションを 10回行なった結果から得られる,一方向流・対向流における密度と歩行速度の関係をそれぞれ,図 4.9,図 4.10に示す.すなわち,図中には 600 個の点がプロットされている.図 4.9,図 4.10より,本モデルから得られる密度と歩行速度の関係は,既存研究と似た傾向があることがわかる.なかでも,理論モデルの中村 [12],[13]の関係式と類似している.一方向流の場合,密度 0.5[人/m2] 前後では自由歩行速度に近い値をとり,その後歩行速度は逓減していく.一方,対向流の場合,密度 0.3[人/m2]前後では自由歩行速度に近い値をとり,その後歩行速度は逓減していき,密度 1.2[人/m2]辺りから一定の歩行速度に落ち着いていくことがわかる.一方向流の歩行速度と比べ,対向流の歩行速度は全体的に 0.1[m/sec] ほど低い値をとっており,対向者の影響が表れている.また,本シミュレーションでは,密度が 2.0[人/m2] に近い値になると,膠着状態に陥

ることがある.いったん膠着状態に陥ると解消は困難となり,次第に流率は低下していく.

49

0

0.5

1

1.5

2

0 0.5 1 1.5 2

密度 K (人/m^2)

歩行

速度

V

(m

/sec)

John J.Fruin

佐藤(一方向流)

吉岡(通勤)

吉岡(行事・催物)

吉岡(買物)

木村・伊原

中村

シミュレーション(一方向流)

図 4.9 密度と歩行速度の関係式(一方向流)

0

0.5

1

1.5

2

0 0.5 1 1.5 2

密度 K (人/m^2)

歩行

速度

V

(m

/sec)

John J.Fruin

岡田(対向流)

吉岡(通勤)

吉岡(行事・催物)

吉岡(買物)

木村・伊原

岡田(対向流)

中村

シミュレーション(対向流)

図 4.10 密度と歩行速度の関係式(対向流)

50

第5章 結論

5.1 まとめ

ネットワークとポテンシャルモデルを組み合わせ,追従・追い越しなどの個人単位のミクロな動きと,障害物を回避しながらの目的地への移動や歩行流といったマクロな動きを表現する群集歩行シミュレーションモデルを構築した.その際,流体力学的ポテンシャルを導入することによって,障害物回りでの滑らかな歩行行動を表現した.本群集歩行シミュレーションモデルは,単純な形状の領域だけでなく,鉄道駅構内という歩行者の経路が複数存在する領域においても適用することができた.出口やホームへの移動手段として,エスカレータあるいは階段を選ぶといった歩行者の行動を,ロジットモデルに基づいてモデル化した.これにより,時々刻々と変化する各移動施設の効用に合わせて,歩行者の混雑を回避した歩行経路選択を表現した.また,駅特有の待ち行動である改札回りの歩行行動をモデル化した.本モデルは,計算時間から見てもリアルタイムで表示できるため,有用であると考えられる.また,シミュレーションから得られる密度と歩行速度の関係は,既存研究の密度と歩行速度の関係と似た傾向が見られた.本モデルは,鉄道駅の設計データより,すべての駅において適用可能である.また,改札機の利用形態やエスカレータの速度,設計の変更による影響を見ることが可能となる.

5.2 今後の課題

今後の課題として,以下の項目が挙げられる.

• エスカレータエスカレータ内を停止した状態で利用する歩行者と,昇降しながら利用する歩行者のモデル化

• 券売機・精算機券売機・精算機前の待ち行列 (カウンター型)を表現するモデルの導入と,待ち行列によって狭くなる通路の幅員が歩行行動に与える影響

• 歩行者特性の導入

• グループ歩行

• 群集 (人の集まり) としての認識

• 時刻表を考慮した流率の設定

51

本研究では,駅構内の一部を対象にシミュレーションを行なった.しかし,駅構内には,改札以外にもエスカレータや階段,エレベータ,券売機,ホームといった施設・設備が存在する.歩行行動は,これらの施設・設備それぞれから影響を受けるため,本研究でモデルに組み込んだ改札以外の施設・設備における群集歩行のモデル化が必要である.一般に,エスカレータでは,エスカレータの片側は歩行者が停止した状態での利用,もう一方は歩行者が昇降しながらの利用となっており,左右によって利用形態が異なる.また,駅の構造を知っている,券売機を利用するといった歩行者の属性によって,歩行者の行動は大きく異なると考えられる.例えば,イベント等の非日常時には,券売機の使用が多く待ち行列ができるため,券売機前の通路が狭くなり,通路における流率が低下し混雑が発生しやすくなる.このような影響を再現するために,駅構内にある施設・設備のモデル化が必要となる.また,本モデルでは,すべての歩行者は単独で歩行するものと仮定している.しかし,実際にはグループで歩行している者が多く,グループ歩行が他者に与える影響は大きいと考えられる.本モデルでは,歩行者は最短経路を目指すものと仮定しているため,目指す方向に群集がいた場合,遠回りをしながら目的地に向かうという行動が再現できていない.このような事象に対しても適用できる,群集歩行シミュレーションモデルの構築が必要である.

52

謝辞

本研究を進めるにあたり,中央大学理工学部 田口 東教授に多大なるご指導,ご助言を頂きました.本研究の成果をこのような論文の形にまとめることができたのも,田口 東教授の熱心で適切なご指導によるものです.ここに,深く感謝いたします.また,多大なるご協力を頂きました東急総合研究所 門倉 博之氏に感謝いたします.最後に,研究を進めていく上で,さまざまな場面で貴重なご助言を頂いた田口研究室の先輩である鳥海 重喜氏,修士研究を通して互いに学び,励ましあった芦邉 修一氏,野津誠氏,平林 大季氏,福智 一正氏,水本 剛四郎氏,森口 智代氏には大変お世話になりました.心から感謝いたします.

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参考文献

[1] John J.Fruin (著者) ,長島正充 (訳者) ,歩行者の空間=理論とデザイン=,鹿島出版会,東京,1977.

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[4] 青木俊幸,小山剛,嶋田元,大戸広道,駅ホーム上の昇降設備に関する研究その 2.エスカレーターが旅客流動に及ぼす影響,日本建築学会大会学術講演梗概集,No.5376,pp.751-752,1995.

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[8] 河村哲也,川原睦人,平野廣和,登坂宣好,池川昌弘,非圧縮性流体解析, 数値流体力学シリーズ 1,東京大学出版,東京,1995.

[9] 木村幸一郎,伊原貞敏,建物内に於ける群集流動状態の観察,日本建築学会大会論文集,No.5,pp.307-316,1937.

[10] 小塩佳奈 ,高層ビルにおける避難シミュレーションの構築と評価,中央大学理工学部情報工学科卒業論文,2006.

[11] 松下聡,待ち行動を含む群集歩行シミュレーションモデルの研究,日本建築学会計画系論文報告集,No.432,pp.79-88,1992.

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[14] 社団法人 日本建築学会,建築・都市計画のためのモデル分析の手法,井上書院,東京,1992.

54

[15] 社団法人 日本建築学会,建築設計資料集成―人間,丸善株式会社,東京,2003.

[16] 岡田公孝,個人行動をベースにした歩行モデルと高密度シミュレーション,東京工業大学大学院情報理工学研究科数理・計算科学専攻 2003年度修士論文,2004.

[17] 岡崎甚幸,建築空間における歩行のためのシミュレーションモデルの研究 その 1 磁気モデルの応用による歩行モデル,日本建築学会論文報告集,No.283,pp.111-117,1979.

[18] 岡崎甚幸,建築空間における歩行のためのシミュレーションモデルの研究 その 2 混雑した場所での歩行,日本建築学会論文報告集,No.284,pp.101-110,1979.

[19] 斎藤正俊,谷下雅義,鹿島茂,利用者のエネルギー消費量を考慮した鉄道内経路選択モデルの構築,日本都市計画学会都市計画論文集,No.39-3,pp.505-510,2004.

[20] 佐藤方彦 (監修) ,勝浦哲夫他,人間工学基準数値数式便覧,技報堂,東京,1992.

[21] 渋谷昌三,人と人との快適距離 パーソナルスペースとは何か,日本放送出版協会,東京,1990.

[22] 高橋幸雄,森村英典,混雑と待ち,朝倉書店,東京,2001.

[23] 吉岡昭雄,歩行者交通と歩行空間 (I) ―歩行者交通量の変動と設計のための交通流量―,交通工学,Vol.13,No.4,pp.25-36,1978.

[24] 吉岡昭雄,歩行者交通と歩行空間 (II) ―歩行速度・密度・交通量について―,交通工学,Vol.13,No.5,pp.41-53,1978.

[25] 吉岡昭雄,歩行者交通と歩行空間 (III) ―買物・通勤 (駅構内通路) の速度,密度,交通量―,交通工学,Vol.16,No.3,pp.13-21,1981.

[26] 和田剛,スクランブル交差点における歩行挙動モデルとシミュレーション,東京工業大学大学院情報理工学研究科数理・計算科学専攻 2000年度修士論文,2001.

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関連発表

[1] 阿久澤あずみ,田口東,駅構内における群集歩行シミュレーションモデルの研究,日本オペレーションズ・リサーチ学会 2005年秋季研究発表会,神戸学院大学,2005年 9月 15日.

連絡先

〒 354 - 0033 埼玉県富士見市羽沢 2-3-22 阿久澤 あずみ

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