遺伝子組換え生物の生態系 影響を調べる2007.7.3000...

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遺伝子組換え生物の生態系影響を調べる

独立行政法人

農業環境技術研究所

 世界で遺伝子組換え作物が栽培されている面積は年々増加しており、2006年には1億haの大台にのりました。これ

は、日本の国土面積の2.6倍以上になります。いまのところ日本では、遺伝子組換え作物の商業栽培は行われていませ

んが、それらの作物が農業生態系に与える影響を把握するために、(1)遺伝子組換え作物から近縁野生種への遺伝子

の移動、(2)遺伝子組換え作物から同種の非組換え作物への遺伝子の移動、(3)遺伝子組換え作物のモニタリング、の

大きく3つのテーマで研究を行っています。このような研究を通じ、遺伝子組換え作物を安全に安心して使うための技

術開発や、遺伝子組換え作物を栽培する農家と栽培しない(非組換え体を栽培する)農家が共存するためのルール作り

に必要なデータを提供します。

背景と目的

研究内容

 遺伝子組換えダイズが栽培された場合、日本を含む東アジア地域で自生している近縁野生種であるツルマメと交雑

する可能性が指摘されています。そこで、日本で栽培が許可されている遺伝子組換え除草剤耐性ダイズを栽培し、そこ

から5段階の距離にツルマメを栽培し、両種の距離に応じてどのくらい交雑が生じるのかを明らかにします(図1)。

─ 遺伝子組換え生物の生態系影響評価とリスク管理技術の開発 ─

 遺伝子組換えトウモロコシやイネが栽培された場合、

それらの花粉が飛散して、周辺のほ場に栽培されている

同種の非組換え作物と交雑する可能性があります。そこ

で、花粉源からどのくらい遠くまで花粉が飛ぶのか、そ

の結果、どのくらい交雑が起こるのかを、キセニアとい

う現象(図2)や花粉の染め分け(図3)などを利用して

明らかにします。また、交雑に関わる開花期の気象条件(風

向、風速など)や花粉源や風下側のほ場における花粉密

度などのデータを集め、交雑率を予測するモデルを作

図1 遺伝子組換えダイズとツルマメの自然交雑実験を行うほ場の様子

図2 黄色粒トウモロコシの花粉が飛んで、白色粒トウモロコシ の雌しべにつくと、トウモロコシの粒が黄色になります(キ セニアという現象)。

関連するこれまでの成果

(1)ほ場条件下で除草剤耐性遺伝子組換えダイズとツ

  ルマメを開花期が重複するように隣接して栽培し、

  収穫したツルマメ種子32,502粒について、遺伝子

  組換えダイズとの自然交雑の有無を調べました。そ

  の結果、交雑種子1粒が確認されました。

(2)遺伝子組換え体を含むこぼれ落ち種子由来のセイ

  ヨウナタネ個体群の路傍における分布を調査した

  結果、遺伝子組換え体および非組換え体の生育地

  に差は見られず、両者は同じ環境に生育することが

  明らかになりました。

(3)遺伝子組換えダイズと遺伝子組換えナタネを4年間

  栽培し、ほ場内の雑草、土壌微生物や昆虫などをモ

  ニタリングしました。遺伝子を組換えていないダイ

  ズやセイヨウナタネのデータと比較したところ、組

  換え体の栽培による雑草、土壌微生物、昆虫相、後

  作の生育への影響はないという結果を得ました。

National Institute for Agro-Environmental SciencesNational Institute for Agro-Environmental Sciences

2007.7.3000

● この研究に関するお問い合わせ先

独立行政法人 農業環境技術研究所 遺伝子組換え生物生態影響リサーチプロジェクト 〒305-8604 茨城県つくば市観音台3-1-3   電話 029-838-8271

成します。また、防風ネットなど物理的な障壁によって

風を弱め交雑を抑制する技術を開発します。

 現在、日本国内のいくつかの輸入港で、輸入したセイ

ヨウナタネのこぼれ落ち種子に由来する遺伝子組換え

ナタネの生育が報告されています(図4)。そこで、鹿島

港周辺に定点観測地をもうけ、セイヨウナタネの発生消

長を調査しています。その結果、それらが周辺の植物群

落に侵入するのか?分布を拡大するのか?などが明らか

になります。

図3 花粉をヨード・ヨードカリ溶液で染めて、ウルチ米かモチ米の 花粉かが判別できます

図4 鹿島港周辺の主要道路沿いに生育するセイヨウナタネの様子

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