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臨床的に重要な微生物 ~グラム染色と培養のハナシ~

三重大学大学院セミナー 2018年5月29日

三重大学大学院 名張地域医療学講座 名張市立病院 総合診療科

谷崎隆太郎

今日の目標 

• グラム染色に慣れ親しむ

• 培養検査に慣れ親しむ

• 結果,実際にグラム染色や培養をしてみたくなる.

今日の目標 

• グラム染色に慣れ親しむ

• 培養検査に慣れ親しむ

• 結果,実際にグラム染色や培養をしてみたくなる.

感染症診療の基本といえば・・・?

感染症診療の考え⽅

臓器

微⽣物

患者 Patient

Antibiotics

Micro-organism

Organ

Reassessment再評価

治療

Antibiotics

Reassessment

感染症診療の考え⽅

臓器

微⽣物

患者 Patient

Micro-organism

Organ

再評価

治療

細菌 ウイルス 真菌 寄生虫

グラム染色と 培養が有用

グラム染色は 誰でも

簡単に出来ます

グラム染色する学生

細菌は4つに分類

球菌 桿菌

グラム陽性

グラム陰性

•  G: Gram(グラム) •  P: Positive(陽性) •  C: Cocci(球菌) •  N: Negative(陰性) •  R: Rods(桿菌)

球菌 桿菌 グラム陽性

グラム陰性

GPC GPR

GNR GNC

GPC・GNRはさらに2つに分類

球菌 桿菌

グラム陽性

グラム陰性 太

レンサ

ブドウ

GPC

GNC

GPR

GNR

白血球

上皮細胞

貪食像

菌 痰のグラム染色

グラム陽性球菌

レンサ ブドウ

GPC-chain GPC-cluster

連鎖球菌 肺炎球菌 腸球菌 黄色ブドウ球菌 CNS

MSSA MRSA バンコマイシン

セファゾリン

コアグラーゼ試験陽性

コアグラーゼ 試験陰性

Klebsiella pneumoniae 大腸菌

第2~3世代セフェム

Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌) 抗緑膿菌作用のある

ペニシリン or セフェム

感染症診療の考え⽅

臓器

微⽣物

患者 Patient

Antibiotics

Micro-organism

Organ

Reassessment再評価

治療

問診 身体診察 感染症病名

頭痛,嘔気・嘔吐,後頸部痛,羞明感 意識障害,意識変容,髄膜刺激徴候,神経学的異常所見

髄膜炎,脳炎,脳膿瘍

咽頭痛 咽頭発赤,扁桃腫大 咽頭炎

耳痛,耳閉塞感,耳漏,聴力低下 鼓膜混濁・発赤・腫脹 中耳炎

膿性鼻汁,前頭部痛,顔面痛,上顎痛 顔面叩打痛,前傾姿勢で症状増悪 鼻副鼻腔炎

咳嗽,喀痰,呼吸困難 呼吸回数増加,SPO2低下,肺雑音 肺炎,気管支炎

腹痛(特に右上腹部痛),胆石の既往 腹部圧痛,Murphy徴候,右季肋部叩打痛,黄疸

胆嚢炎,胆管炎

下痢,嘔気・嘔吐,腹痛 腹部圧痛,腸蠕動音の異常 腸炎

腰背部痛,下腹部痛,尿混濁 膿尿,血尿,CVA叩打痛 腎盂腎炎

頻尿,残尿感,精巣痛 膿尿,血尿,前立腺圧痛,精巣腫大・圧痛

前立腺炎,精巣上体炎

下腹部痛,異常帯下,不正性器出血,排尿困難

腹部圧痛,子宮頸部の圧痛 骨盤腹膜炎

皮膚または褥瘡周囲の疼痛,熱感,発赤,腫脹

皮膚の炎症所見,褥瘡からの浸出液増加,排膿

蜂窩織炎,褥瘡感染壊死性筋膜炎

関節痛,関節腫脹 関節可動域制限,関節の可動時痛 化膿性関節炎

頸部痛,背部痛,腰痛,四肢しびれ,筋力低下,尿閉,失禁

脊椎叩打痛,四肢の筋力低下,感覚障害,膀胱直腸障害

化膿性脊椎炎

横隔膜

グラム陽性菌

グラム陰性菌

皮膚・軟部組織・骨・関節も グラム陽性菌(が多い)

原因菌のイメージ

感染症病名 細菌が原因となる場合の主な原因菌

髄膜炎 肺炎球菌,髄膜炎菌 (50歳以上,新生児,免疫不全ではリステリアも)

咽頭炎 レンサ球菌(A群,C群),Fusobacterium necrophorum, 中耳炎 肺炎球菌,インフルエンザ菌 副鼻腔炎 肺炎球菌,インフルエンザ菌 気管支炎 マイコプラズマ,百日咳,(COPDなら 肺炎 肺炎球菌,インフルエンザ菌、Moraxella catarrharis

胆嚢炎,胆管炎 大腸菌,Klebsiella pneumoniae,嫌気性菌,腸球菌など 腸炎 カンピロバクター,サルモネラ,ビブリオ,病原性大腸菌 腎盂腎炎,前立腺炎,精巣上体炎 大腸菌,Klebsiella pneumoniae,Proteus属

骨盤腹膜炎 大腸菌,Klebsiella pneumoniae,Proteus属

蜂窩織炎 黄色ブドウ球菌,レンサ球菌 化膿性関節炎 黄色ブドウ球菌,レンサ球菌 化膿性脊椎炎 黄色ブドウ球菌,大腸菌,レンサ球菌,CNSなど

横隔膜

70歳 男性

発熱,咳,痰

4時間後 16時間後 治療前

82 歳 男性

発熱,咳,痰

ADL ベッド上

33歳 男性

発熱,咳,痰

診断:急性気管支炎

36歳 男性

発熱,咳,痰

診断:急性気管支炎

36歳 男性

発熱,膿性鼻汁,咳

診断:急性鼻副鼻腔炎

84歳 女性

発熱,背部痛,尿混濁

尿グラム染⾊

33歳 男性

発熱,嘔気,下痢

Campylobacter jejuni

カンピロバクター

便グラム染⾊

21歳 男性

頻尿,排尿時痛 「てゆーか,尿道から変なの出てきた・・・!」

Niserria gonorrhoeae (淋菌)

尿道分泌物グラム染⾊

グラム陰性球菌感染症

病原体名 問題の臓器 検体 感染症病名

モラキセラ・カタラーリス 肺 痰 肺炎

髄膜炎菌 髄膜 血流

髄液 血液

髄膜炎 血流感染症

淋菌 尿道 咽頭 血流

尿,尿道分泌物, 咽頭ぬぐい液

血液

尿道炎 咽頭炎

血流感染症

尿道炎についてもっと詳しく知りたい⼈は

グラム染色は 誰でも

簡単に出来ます

グラム染色する学生

SABU(Staphylococcus aureus bacteriuria)

•  黄色ブドウ球菌菌血症の 8~34 % に黄色ブドウ球菌尿症 を認める。 Curr Infect Dis Rep 2012;14:601-6

SABUの原因 割合

泌尿器・生殖器 26 %

静脈カテーテル感染 22 %

静脈炎 or 血管内デバイス 7 %

感染性心内膜炎 4 %

その他 17 %

不明 22 %

Clin Infect Dis 2007; 44: 1457-9

菌が血流に乗って 全身を回った結果を尿グラム染色で確認できる場合がある!

今日の目標 

• グラム染色に慣れ親しむ

• 培養検査に慣れ親しむ

• 結果,実際にグラム染色や培養をしてみたくなる.

主な培養の種類

• 細菌培養

•  真菌培養 •  ウイルス培養 •  寄生虫培養

•  抗酸菌培養

培養検体の種類

• 血液 培養

• 痰 培養

• 尿 培養

• 無菌検体※の培養

• 膿,組織の培養

※髄液・胸水・腹水・関節液・骨髄 など

例えば,痰 •  早朝起床時の痰がベスト. •  唾液成分でない,膿性の部分を提出する. •  吸引しても咽頭部の唾液しか吸引できないことがある.

•  採取後は冷蔵保存.

グラム染色だけならこんな痰でもOK.むしろ,余分な唾液成分がティッシュに吸収されてラッキー.

イケてる痰

IKT

イケてない痰

IKNT

食物残渣

弱拡大

IKNT IKT

強拡大

IKNT IKT

痰培養には適さない (唾液培養?)

血液培養のハナシ

⾎液培養の⽬的は?

菌⾎症を診断すること

菌血症の死亡率

10 ~ 30 %

(参考) •  病院に到着した急性心筋梗塞の死亡率 <10% •  クモ膜下出血の 30% が初回破裂時に死亡

Clin Infect Dis 1997;24:584-602

死亡率の高い菌血症でないことを 確認する目的もある!!

<イメージ> •  胸痛? → AMI だったら嫌なので心電図 •  頭痛? → SAH だったら嫌なので頭部CT •  発熱? → 菌血症だったら嫌なので血液培養

血液培養検査

基本中の基本中の基本中の基本

血液培養は 2 セット採取する.

※3セットでも4セットでも悪くはないですが,1セットのみはNGです.

Q 2. なぜ血液培養だけ2セットなのか?    そもそも2セットって??

好気 嫌気

2セット

好気 嫌気

1セット

血液培養を取るべきタイミング 菌血症の頻度が高い感染症が頭に浮かんだとき (細菌性髄膜炎,感染性心内膜炎,腎盂腎炎など)

 悪寒戦慄を伴うとき

 原因不明のショックのとき

 原因不明の WBC 高値 or 低値,CRP 高値

 原因不明の発熱,低体温,意識障害,低血糖

 感染症だと思うが問題の臓器が不明なとき

たとえ熱がなくてもなんだか重症そうな時は血液培養

菌血症を疑う状況とは? LR+ LR‒

悪寒 1.6 0.84 悪寒+発熱 2.2 0.56  悪寒戦慄 (shaking chill) 4.7  悪寒 (moderate chills) 1.7  寒気 (mild chills) 0.61  なし 0.24

JAMA 2012;308:502-11

週間医学界新聞2008年3月10日 http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02772_03

ここ!

Q 4. なぜ2セットか?? ① 菌の検出感度を上げるため

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90

100

1セット 2セット 3セット 4セット J Clin Microbiol 2007;45:3546-3548

99.8 %98.2%

89.7%

73.1%

Q 4. なぜ2セットか?? ②コンタミネーション(汚染)か 真の菌血症かどうか判断するため

Clin Infect Dis 1997;24:584-602

1セットのみ陽性 ならコンタミの可能性↑

2セット以上陽性 なら真の菌血症の可能性↑↑

コンタミネーション(汚染)らしい菌

Clin Infect Dis 1997;24:584-602

菌名 真の起炎菌 コンタミ 不明 Propionibacterium spp 0% 100 % 0%

Corynebacterium spp 1.9% 96 % 1.9%

Bacillus spp 8.3% 92 % 0%

CNS 12% 82 % 5.8%

Clostridium perfringens 23% 77 % 0% 黄色ブドウ球菌 87% 6.4% 6.4%

肺炎球菌 100% 0% 0% A群溶連菌 100% 0% 0%

グラム陰性桿菌,真菌 ほぼ 0% CNS: コアグラーゼ陰性ブドウ球菌

Clin Infect Dis 1997;24:584-602

たとえ初期の抗菌薬が外れていても,血液培養の結果に基づいた「適切な抗菌薬」に変更されれば患者の死亡率はそこまで上がらない.

初期治療 血液培養陽性後

感受性検査後

死亡率 (%) 死亡リスク

当 当 当 10.5 1 × 当 当 13.3 1.27 × × 当 25.8 2.46 × × × 33.3 3.18 当 × × 28.6 2.76

培地上の菌の様子に慣れ親しむ

Group A streptococcus (GAS)

A群β溶連菌

連鎖球菌

A群

B群

G群

anginosus

Lancefield 分類

Staphylococcus aureus

黄色ブドウ球菌

グラム陽性球菌

レンサ ブドウ

GPC-chain GPC-cluster

連鎖球菌 肺炎球菌 腸球菌 黄色ブドウ球菌 CNS

MSSA MRSA バンコマイシン

セファゾリン

コアグラーゼ試験陽性

コアグラーゼ 試験陰性

どっちが MSSA or MRSA ?

MSSA MRSA

MRSA 培地に塗ると 抗菌薬なし

MSSAに効くが,MRSAに効かない抗菌薬

MSSA MRSA

抑制 (+) 抑制 (‒)

腸球菌の鑑別(EF培地)

E. faecalis

E. faecium 黄色

海老茶色

反応した色素の色で判別

腸球菌 Enterococcus

E. faecalis E. faecium アンピシリン バンコマイシン

「ふぇ~,軽いっす」 「ふぇ!死うむ!」 (軽いので ABPC で OK) (死ぬほどやばいので VCM)

CPS 培地

E. coli

•  主にGNRの判別に使う.

•  色がつくので 視覚的 に判別しやすい!

Klebsiella pneumoniae

Proteus vulgaris

E. coli

緑膿菌

Serratia marcescens (セラチア菌)

赤い! ・・・が,赤くならない株もある.

真菌 Aspergirus fumigatus

Candida albicans

菌名同定と感受性試験結果

Walk away® (Micro Scan)

•  内部で 「試験管培地→(同定!)→MIC測定」まですべて自動でやってくれる.

•  たくさんある種類(陽性球菌3-4種類,陰性桿菌6-7種類)のプレートからひとつを選択.

•  結果は各菌名ごとに予測確率が出る.同定に至らない場合,検体をもう一度外に出して手動で試験管培地等で確認することもある(=1日ロスすることになる)。

•  プレートが目視できるので結果を目で再確認できる。

培地のニオイについて •  大腸菌→酸っぱい臭い. •  緑膿菌→甘酸っぱい臭い(熱傷の臭いに近い). •  ノカルジア属 →古紙の臭い.腐った紙. •  プロテウス属 →無理矢理発酵させたカカオ? •  インフルエンザ菌 →精子? •  S. anginosus → ぶどう酒,キャラメル •  C. difficile → 便臭?犬が詳しい。

Bomers MK, et al. Using a dog’s olfactory sensitivity to identify Clostridium difficile in stools and patients: proof of principle study. BMJ 2012 Dec 13;345:e7396

今日の目標  • グラム染色に慣れ親しむ

• 培養検査に慣れ親しむ

• 結果,実際にグラム染色や培養をしてみたくなる.

そうだ

細菌検査室

行こう。

I D fellowship

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