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神奈川自然誌資料(22): 5-11, Mar. 200 l
大山における開花季節調査
浜口哲一
Testuichi Hamaguchi: Flowering season of the plants in Mt. Oyama
はじめに
四季を通じて同じ場所で観察を重ね,植物の開
花状況を記録したものを花ごよみと呼ぶ。花ごよ
みを作ることは,素朴な自然観察ではあるが,それ
ぞれの植物の生活史を理解する上でも,また環境
教育の方法としても大きな意味を持っている(渡
辺, 2000)。ここでは,神奈川県の大山における花
ごよみを,特に標高による比較に重点をおいて報
告したい。
調査の場所と方法
調査は,1990年 3月から 10月まで,神奈川県丹
沢山地の東端に位置する標高 1252mの大山で、行っ
た。調査ルートは, 図lに示したとおりで,伊勢原
市大山町のケープソレカー追分駅から,下社,見晴台
を経て山頂に至り,蓑毛越えを経て蓑毛に下る,延
a‘ 大山 神奈川県
図1 調査ルートー
5
長約 8kmの登山道を選んだ。 このノレートは, 特に
追分から山頂までの聞には人工林がほとんどなく,
全標高にわたって自生植物を観察するのに適して
し、る。
調査は,原則として毎月の上中下旬に l回ずつ
行った。3月中旬に調査を開始し,IO月上旬まで調
査を続けたが,諸般の事情でそれ以降の調査がで
きなかった。そのために,秋の結果については不完
全なものとなっている。調査回数は,合計27回で
あった。
記録の方法は,登山道を歩きながら,発見した植
物について開花および結実の状態を,つぼみ,咲き
始め,満開,盛りすぎ,若い実,熟した実の6段階
に区分して記録した。また,登山道の分岐点や目印
となる建造物などを利用 して,標高が 500m, 700
m, 850 m, 1000 mの地点を境に区域を分けて記録
大山企
. 大山ワープ )f駅
500皿
蓑毛。 1 km .
200~500m
ハナネコノメ Chrysosplenium alb1m
ヒメレンゲ Sedum subt i I e
タチツボスミレ Viola grypoceras
力テンソウ Nanocnide ;apo111ca
ヤマルリソウ {}nfJha I odes Ja,政'){7/Ca
キランソウ .4Juga decur.自民ns
力ントウミヤマカタバミ Oxal is griffithu var. kantoe.刀sis
ミツjや;/チグリ Potent i Ila freyniana
ヘビイチコ 以!lchesneachrysantha
トウゴクサパノオ Dichocarpumtrachyspermum
エイザンスミレ Viola e1zanens1s
ミミガタテンナンショウ Arisaema I imbatum
ケスゲ Carex duval 1ana
オオイ卜スゲ Carex sachal inensis
var. alterniflora
Kerria JaPOnica ヤマフキ
モミ ジイチコ Ru.むuspafmatus var. COPfOPhy//us
マメザクラ Prunus inc1sa
クサイチコ Rubus hi rsutus
コケサギ Or ixa ; aP0111 ca
キブシ Stachyurus praecox
アオキ Aucuba 1aP0111ca
アブラチャン L indera praecox
シバヤナギ Sa I ix Japo111 ca
ツルカノコソウ Valeriana flaccidissima
力ントウタンポポ Taraxacum p/atycarpum
オニタビラコ Youngia denticulata
ムラサキケマン Coryda I is inc Isa
ミヤマキケマンCory,ぬ!ispa/11ぬ var.tenuis
ミヤマハコベ Ste! !aria sessi I /flora
ケマルパスミレ Viola keiskei f. okubo1
ナガパノスミレサイシン Viola bisset1
シャガ Ins 1aP0111ca
ヒメカンスゲ Carex co111ca
ミツバアケビ Akebia trifol iata
図2-1 標高別の開花状況.
~1000m : 1000~1252m(山頂)
3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10中下 l上中下 l上中下 Iト中下 i卜中下 l ト申下 。上中下 ト
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: 200~500m
クロモジ Lindt芭raumbel lata
イロハモミ ジ Acer pa/matt』悶
ニワトコ Sambucus sieboldiana
オオジシバリ lxeris debi I ts
ツボスミレ Viola verecunda
キツネノボタン Ranunculus si lerifol 1us
ホウチャクソウ Dis,即 rumsessil日
アセビ Pier is 1aron1ca
ミツバツツジ Rhododendron dilatatum
コナラ Ouercus serrata
ジシバリ lxeris sto/onifera
クワガタソウ Veronica miquel 1ana
ツ)(..キンバイ Potentilla yokusa1ana
ヒメウツギ Oeutzia gracilis
力タパミ Oxal is corniculata
トボシガラ Festuca parvig/uma
ツリバナ Euonymus macropterus
ヤマムゲラ Galium {JOgonanthtrn
二15十 lxerisdentata
ヱゾタチカタバミ Oxa Ii s fontana
ヤマハタザオ Arabis hirsuta
フタリシズカ Ch/oranthus serratus
フジ 官isteria f loribunda
ヤマツツジ Rhododendron kaewferi
サラサドウダン Enkianthus campanulatus
ツクJ~·ネウツギ Abel ia spathulata
ハコネウツギ 官eige/acoraee応 IS
マルパウツギ Deutzia scabra
ミツバウツギ Staphy/ea bumalda
力マツ力 Pourthiaea vi/ losa var. laevis
コゴメウツギ Stephanandra inc1sa
ミズキ Camus controversa
オ力タツナミソウ 5己utellaria brachysp1ca
オオバコ P/antago asiat1ca
図2-2標高別の開花状況.
. 500~1000m 1000~1252m(山頂)
3月 4月 5月 6月 f月 8月 9月 10中下 1上中下ト中下 I上中下 1上中下,土中下 1上 中 下 , 上
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. 200~500m
ツルウメモドキ Celastrus orbiculatus
ヨツJ\ムゲラ Gal ium trachyspermum
コナスビ Lysim泊ch1a;apon1ca
サワギク Senecio nikoens1s
ドクダミ Houttuynia cordata
ハンショウヅル Clematis ;ap.α11ca
スイ力ズラ Lon1cera ;apon1ca
ガマズミ Viburnum dilatatum
ニシキウツギ i'leige/a decora
マユミ βJα1ymus sieboldianus
ウツギ Oeutzia crenata
アズマイバラ Rosa luc1ae
ナワシロイチゴ Rubus parvifol ius
クサイ Juri削 stenu1s
キクパドコロ Oioscorea septemloba
サルナシ Actinidia arguta
ミヤマイボタ Ligus t rum tschonosk ii
シモツケ Spiraea ;a.凶 nJCa
ヤマボウシ Benthamidia Jap.α1/ca
ウツボゲサ Prune! la vu/gal is
ホタルフクロ Canpam』la凶 nctata
タ力卜ウダイEuphorbiapekinensis var. onoei
ア力ショウマ Asti !be thunberg11
ウマノミツバ Sanicula chinens1s
ヤマカモジゲサ Brachy.回 diumsyfvat1cum
テイ力力ズラ Tr ache I ospe r.机Jn/asiat1cum
ヲマ?とJ苛ベ Hydrangeainvolucrata
ヤマアジサイ Hydrangea serrata
オオパノヤエムグラ Galium pseudo-aspre/ lum
シロパナイナモリソウ Pseudapyx1s
heterophy!fa
Ge凶司 japonicuri置ダイコンソウ
オトギリソウ Hypericum erectu.悶
ミツj,. Cryptotaen1a ;a,よ刀刀!Ca
図23 標高別の開花状況.
: 500~1000m : 1000~1252m(山頂)
3月 4月 b月 6月 7月 8月 9月 10中下 1 上中下!卜中下 l 土中下 I 上中下 i 卜申下 !卜中下 l ト
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. 200~500m
ツユクサ CofTIOe/ 1刀'3cc柳川IS
オオカモメヅル Ty/aphora aristolochioides
アオツヅラフジ Cocculus tri /obus
ノリウツギ Hydrangea paniculata
ヌスビトハギ De認 凶iumoxyphy//um
タニタデ Circaea erubescens
ヒメノガリヤス Calamagrostis hakonensis
ヤマユリ Li lium aurat,凶司
ヒメドコロ D ioscorea tent』1pes
コア力ソ Boehmeria spicata
オニドコロ Dioscorea tokoro
ヒ力ゲイノコヅチ 』chyranthes1apo刀!Ca
コフウロ 匂raniumtrip;;rtitlJll
ウパユリ Cardiocr inum cordatu.悶
アカネ Rubia argy1
キンミズヒキ Agr imonia pi losa
イラクサ Urtica thunberg1ana
} \ナタデ Persicaria yokusa1ana
ウラハゲサ Hak(『1echloa限 era
イヌトウバナ Cl inopodium micranthum
キパナアキギリ Salvia nippα1ica
ガンケビソウ Carpesium divaricatum
ノブキ Adenocaulon himala1c1JO
シロヨメナ Aster leiaphy/lus
ヒナタイノコツチ Achyranthes faune1
ゲンノショウコ Geranium nepa/ense var. thunberg11
ノコンギク Aster ageratoides var. ovatus
ツリフネソウ l1TPatiens texton
ネズミガヤ 被'lhlenbergia;a似~/Ca
ヤブマメ Amphicarpaea edgeworthi i
ヤマミス Pi lea ;apantca
アキノキリンソウ Sol idago v1rga-aurea var .asiatica
アズマヤマアザミ Cirsium岡icrospicatum
図2-4 標高別の開花状況.
: 500~1000m : 1000~1252m(山頂)
3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10中下 『ト中 下 i 上中下,ト申下 I 卜申下.卜中下 I 卜中下 1 上
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ZA,RC
きく減少し,秋に再び増えるという二山型の経過を
示していた。
標高が高くなるにつれて,その二山型の傾向は
はっきりしなくなり,山頂部(1000m以上)ではむ
しろ全体に夏をピークとする一山型の傾向となって
いた。
一般に,人里近くでは春と秋に花の種類が多いこ
とは経験的に明らかであるし,高山では積雪の影響
もあって夏にピークのある一山型の変化となること
も周知の事実である。今回の調査結果は,山地にお
いては,山麓の二山型が,標高が上るに従って連続
的に一山型に変化していくことを示していると考え
られる。
2. 標高による開花時期のずれ
前項で述べたように,開花種数の季節変化は, 山
麓の二山型が,標高が高くなるに従って,一山型に
推移していくが,その要因の一つは,高標高地では
気温が低いため開花が遅れることにあると思われ
る。そこで,ある種類が山麓で咲き始めてから,山
頂部で咲き始めるまでにどのくらいのずれがあるか
を図4に示した。
図4には,山麓と山頂部でともに花が記録された
63種について,山麓での開花時期によって春の花
(3~4月に開花),初夏の花(5~6月に開花), 夏
の花(7~8月に開花),秋の花(9~ 10月に開花)
の4グループに分けて,山頂部での開花とのずれを
示した。
その結果,春の花については,3旬遅れて山頂で
開花するものがもっとも多く ,平均の遅れは3.5句
であった。すなわち,大山の場合は,山麓から約
1000 mの標高差がある山頂部まで春が登るのに
図3
を行い,その整理は200~500m,500~lOOOm, 1000
m~山頂(1252m)の3区分によって行った。
車吉
x 均二言
•• )K -,、、)K "' "' x
‘x’ x 、,'X -・)K・
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標高別の開花種数の季節変化.
果
1. 記録した種類
年間を通した観察で,開花が記録できた自生の種
子植物は,合計81科384種で、あった。他に帰化植物
14科27種を記録したが,それらは以下の集計には
含めなかった。
標高別に見ると, 200~500mでは246種, 500~
1000 mで、は273種, 1000m~山頂では 145種が記録
された。また,全ての標高区分で記録された種とし
ては,ウツギ ・マメザクラ ・キブシ ・タチツボスミ
レ・クワガタソウなど 30手ヰ 55干重があった。
2. 開花の状況
各種類の開花状況を,標高と季節によって整理
し,本稿の主題が標高による開花季節の差なので,
3つの標高区分のうち2つ以上で、それぞれ複数回つ
ぼみや花が観察され,開花期間および、その標高差に
ついての情報がある程度十分に得られたと考えられ
る55科 135種について,図2に示した。なお,図2
では季節としては旬を単位とし,花が見られた期間
を線で示すようにした。
考察
1 .標高別の開花種類数の季節変化
図3に, 3つに分けた標高区分のそれぞれについ
て,各句に花が見られた種数の季節変化を示した。
秋の記録が不完全なので,およその傾向しか指摘す
ることはできないが,山麓(200~500m)では,春
にもっとも多くの種類の開花が見られ,盛夏には大
10
約 1ヶ月強を要することになる。
初夏の花では,そのずれはやや小さくなって,2
旬遅れて咲くものがもっとも多く, 平均のずれは
2.5旬で、あった。夏の花では,同旬に咲くものがもっ
とも多く,平均のずれは 0. l句であった。秋の花
については,十分な資料が得られていないが,ずれ
は 1.6旬であり,山頂の方が開花が早かった。
このように,春に始まる植物の開花は,初めは山
麓の方が lヶ月早く進むが,徐々にその差が少なく
なり,夏には順序が逆転して山頂部の方が早く咲き
出す。すなわち,春は山麓から山に登って進み,秋
8
掻 | 春の花
間 6
4
2
。
は山頂から下って進むので,結果として高標高地で
は,全体の開花期間がより短くなっている。
同じ山の山麓と山頂で比較する場合には, 日長
時間の条件はほぼ同じなので,標高による気温の
逓減が,開花時期のずれの主要な要因だと考えら
れる。しかし,時期によって,そのずれの大きさが
変化することは,それぞれの植物の開花が単純な
気温によるものではなく ,積算気温や,各標高の個
体群による気温に対する反応の差による影響があ
ることを予測させる。大山の場合に,具体的な気温
のデータが手元にないので,これ以上の考察は差
: j~ jii; j~ Ln .!iii' .!iii' .!iii' j~ .!iii' ~
初
夏寸の花 の C¥J ~ !@'. E明E 昔話 昔話 器g.!iii' .!iii' .!iii' 世話 樹 君臣
川 N 円守 .!iii' 沼.!iii' r.::- 環gLn (() ....与E
E畠
ま咽話刊 6
.!iii' 昔話 電込 器量 講話 昔話 器量 昔話 世話
.!iii' .!iii' .!iii' .!iii' .!iii' !@'. .!iii' .!iii' .!iii' .!iii' .!iii' .!iii' .!iii' .!iii' Ln 寸 cη れ』 .-- .-- ω σコ 寸 LJ) (() ト ∞
夏の花
a語帽”‘「I
.!iii' 昔話 昔話 講話 器量 電込 昔話 器量 器出.!iii' .!iii' .!iii' .!iii' .!iii' !@'. .!iii' .!iii' .!iii' .!iii' .!iii' .!iii' .!iii' .!iii' Ln 寸 σコ C¥J .-- .-- ω σコ 寸 Ln (() r、 ∞
~圃 i.!iii' 器量 昔話 器国 昔話 講話 器国 講話 並区
.!iii' .!iii' .!iii' .!iii' .!iii' 区 .!iii' .!iii' .!iii' .!iii' .!iii' .!iii' .!iii' .!iii' LJ) 寸 σコ C¥J 戸 .-- C¥J め 寸 Ln (() ト ∞
図4 山麓と 山頂での咲き始めのずれ.
11
し控えるが,こうした植物季節についての解析は
興味深い課題となろう。
文献
渡辺隆一,2000.森の季節学 144pp.アリス館,東京
(平塚市博物館)
12
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