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呼吸苦を主訴に来院した56
歳男性ダイバー
名瀬徳洲会病院
雨宮健生/谷友之/松浦甲彰
症例・主訴
� 56歳 男性
� 呼吸苦
� 胸部圧迫感
� 四肢冷感
� 血痰
� 顔面蒼白
現病歴
� 平成21年8月3日13時頃から一人で2セットダイビングを行った。16時30分頃酸素残量が少なく
なり、いつもよりも速いペースで浮上。海面に出るまでに呼吸苦、胸部圧迫感、四肢冷感認め、陸に上がった時点で血痰、四肢・顔面の蒼白、呼吸苦を認めた。そのまま家族の車で当院受診となった。
生活歴・既往歴
� ダイバーを十数年行っているベテラン
� 喫煙:40本/日
� 飲酒:決まった量はないがよく飲む
既往歴:
� H20年脳梗塞
� H21年高脂血症・痛風
� 高血圧
内服薬ベザトールベザトールベザトールベザトールSR錠錠錠錠200mg2222T2222××××
バイアスピリンバイアスピリンバイアスピリンバイアスピリン100mg1111T1111××××朝朝朝朝
ブロプレスブロプレスブロプレスブロプレス8mg1111T1111××××朝朝朝朝
ユリノームユリノームユリノームユリノーム50mg2222T2222××××
現症
� Vital::::BP90/64BP90/64BP90/64BP90/64、、、、HR110HR110HR110HR110、、、、SSSSpO2pO2pO2pO272727272%%%%((((room room room room airairairair)RR)RR)RR)RR24242424、、、、BT37.2BT37.2BT37.2BT37.2℃℃℃℃
� 意識意識意識意識::::JCSJCSJCSJCS0000 GCSGCSGCSGCS4444....5555....6666� 全身状態全身状態全身状態全身状態::::呼吸苦呼吸苦呼吸苦呼吸苦ありありありあり、、、、� 眼球結膜眼球結膜眼球結膜眼球結膜::::充血充血充血充血((((----))))、、、、黄染黄染黄染黄染((((----))))� 眼瞼結膜眼瞼結膜眼瞼結膜眼瞼結膜::::蒼白蒼白蒼白蒼白((((----))))� 頚部頚部頚部頚部::::頸静脈頸静脈頸静脈頸静脈((((----))))� 胸部胸部胸部胸部::::両側両側両側両側coarse crackle(+)coarse crackle(+)coarse crackle(+)coarse crackle(+)、、、、wheeze(wheeze(wheeze(wheeze(----))))� 腹部腹部腹部腹部::::soft flat soft flat soft flat soft flat tdstdstdstds((((----))))� 四肢四肢四肢四肢::::not edematous cyanosisnot edematous cyanosisnot edematous cyanosisnot edematous cyanosis� 神経学的所見神経学的所見神経学的所見神経学的所見� 脳神経系脳神経系脳神経系脳神経系→→→→異常異常異常異常なしなしなしなし� 運動運動運動運動→→→→両側麻痺両側麻痺両側麻痺両側麻痺なしなしなしなし、、、、筋力低下筋力低下筋力低下筋力低下なしなしなしなし� 反射反射反射反射→→→→亢進亢進亢進亢進、、、、消失消失消失消失なしなしなしなし� 感覚感覚感覚感覚→→→→温痛覚温痛覚温痛覚温痛覚、、、、触覚触覚触覚触覚、、、、振動覚低下振動覚低下振動覚低下振動覚低下なしなしなしなし� 協調運動協調運動協調運動協調運動→→→→異常異常異常異常なしなしなしなし
検査
� TP6.6 ALB3.8 T-bil0.7 ALP121
AST24 ALT12 LDH265 γ-GTP25
AMY77 CPK475 CK-MB15 ChE236
T-Cho156 TG146 HDL-Cho44 LDL-
Cho98 BUN14.9 CREA1.53 UA10.4
Na142 K3.2 Cl104 Ca9.1 IP2.8
CRP0.05 BS190 HbA1c5.5
� WBC22170 RBC481 Hb15.3 Ht45.5
MCV94.6 MCH31.8 MCHC33.6
Plt24.3 Neut87.3 PT-INR1.13
APTT21.8 心筋トロポニン(-)
ABG:
� pH 7.404
� O2 34.0
� CO2 112.5
� HCO3 20.8
� BE -2.6
� satO2 98.2
(リザーバー15LRR24座位)
検査
� 心電図
� Sinus
� ST-T change(-)
� 心エコー
� Asynergy(-) HVD(-) 肺うっ血像(-)
胸部レントゲン
胸部CT
腹部CT
PLOBREM LIST
� 肺水腫・肺胞出血
� 急性腎不全
� 喫煙
� 高血圧症
� 高尿酸血症
臨床診断
�ⅡⅡⅡⅡ型減圧症型減圧症型減圧症型減圧症
経過
第1病日に前記主訴の症状認めており、酸素高流量投与しSATは維持できた。また生食1L、ラクトリンゲル液500ml負荷しBPは110/60まで上昇した。3時間おきの動脈ガス採血でもCO2の上昇やO2の低下、アシドーシスの悪化は見られなかった。第2病日には自覚症状は完全に消失、F/UCTでも門脈ガスは消失、胸部CTでも
肺胞出血を思わせる所見改善し食事を開始した。第3病日には歩行開始、酸素投与終了とした。第5病日のF/U採血、Chest X-Pで肺野の透過性低下の改善見ら
れた。自覚症状は消失し再度出現見られず本人の強い希望あり退院となった。
F/U X-P
F/U CT
減圧症
� 減圧障害(decompression illness・caisson disease):減圧が原因で起こる障害。
� 潜水障害(diving injury):潜水が原因で起こる障害。
� 減圧症:ダイビングの後に身体内に気泡を生じたもの。減圧症は動脈ガス塞栓(arterial gas embolism)と鑑別困難。
� いずれかはっきりしないときには減圧障害(decompression illness)と診断。
� 潜水病という言葉は、潜水障害、減圧障害または減圧症の代用語。いずれの病態を指しているか明確でないので医学的には用いられない。
減圧症
� 病型分類病型分類病型分類病型分類(US NAVY提唱提唱提唱提唱)� ⅠⅠⅠⅠ型減圧症型減圧症型減圧症型減圧症::::
� ベンズ→関節や筋肉に痛みまたは違和感が出現するタイプ� 皮膚型→かゆみや発疹などの皮膚症状を起こすタイプ� ⅡⅡⅡⅡ型減圧症型減圧症型減圧症型減圧症::::� 脳型または脊髄型→中枢神経が障害されるタイプ� メニエール型→めまいを起こすタイプ� チョークス→呼吸困難や胸痛などの胸部症状を起こすタイプ
関節や筋肉症状、または皮膚症状があっても、何か他の症状があればⅡ型に分類
� ⅢⅢⅢⅢ型型型型減圧症減圧症減圧症減圧症::::� 動脈ガス塞栓症と合併しているもの、または鑑別困難なもの
減圧症
� 疫学
� レジャーダイバー:Ⅰ型約20%、Ⅱ型約80%、
Ⅲ型数%
� 職業ダイバー:Ⅰ型約80%、Ⅱ型約20%、Ⅲ型
数%
� レジャーダイバーのほうが圧倒的にⅡ型が多い傾向にある。またⅡ型の中でも軽症Ⅱ型が多い。
減圧症
� 潜伏期
� 発症時期は、潜水終了後から数日以内。しびれなどの中枢神経症状は、重症なものほど潜水終了後早期に発症。潜水終了後1時間以内の発症頻度は、レジャーダイバーでは約50%程度、職業ダイバーでは80%以上。72時間以上経過して
発症するケースもある。
減圧症
受診受診受診受診までにまでにまでにまでに時間時間時間時間がかかるときのがかかるときのがかかるときのがかかるときの応急手当応急手当応急手当応急手当てててて� 減圧症悪化にブレーキとして作用する� 飲水→速やかに400ml以上の水分を摂取
� 酸素吸入→医療用酸素を吸入。できれば15リットル/分以上の大流量酸素
� 投薬→アスピリンなどの血流改善薬を内服
� 高所移動を避ける
� 鎮痛剤の投与は避ける� 数値はあくまで目安。
減圧症
� 治療� 補液補液補液補液
� 循環動態の改善
� 高気圧酸素療法高気圧酸素療法高気圧酸素療法高気圧酸素療法
� 窒素気泡を再溶解させる
� 身体から窒素を排泄させる(脱窒素作用)、
� 虚血部への酸素供給作用
� アメリカ海軍治療表Table 6(図1) を使用することが望ましい。
減圧症
� アメリカ海軍治療表
減圧症
� 動脈ガス塞栓症が疑われる場合のTable
減圧症・予後
� 回復のしかたは、重症度によってさまざま。
� 軽い減圧症であれば、1回の高気圧酸素治療で
完治。
� 重症だと10回治療しても症状が取れないこともある。
減圧症・後遺症
治療について
� 減圧症は高気圧酸素治療の適応となるが、一人用のチャンバーでは急変時に対応できないため、複数人入れるチャンバーが必要となる。当院には一人用しかないため高気圧酸素治療は行うことができず他施設への搬送を考えた。しかし搬送は空路となるため減圧症の更なる悪化も考えられた。幸い患者は中枢神経症状や動脈ガス塞栓症などを認めていなかった。沖縄の減圧症の専門家にコンサルトし悪化のリスクと高気圧酸素療法のメリットを比べた場合、当院で経過観察したほうが患者にとって有用であるだろうという結論に達したため専門施設への搬送は行わずICU管理で経過を見ることとなった。
結語
� 今回、呼吸器循環器症状があり、移動にかかるリスクをおかしてでも高気圧酸素治療を優先すべきかどうか苦慮した症例を経験したため報告とした。
終わり
ご清聴ありがとうございました
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