中小企業のものづくりと商店街のコラボレーション ·...

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中心市街地の再生に向けて ~認定基本計画の取り組み~連 載

中小企業のものづくりと商店街のコラボレーション―尼崎市中心市街地活性化基本計画の特徴―

尼崎市役所 企画財政局 都市政策課 梅村 仁

88 Vol.63 No.4 2009 SHINTOSHI

�1.中小企業都市・尼崎尼崎市は、大阪と神戸の二大都市圏に挟まれ、こ

れまで鉄鋼、化学、機械金属などの基礎素材型産業を中心に阪神工業地帯の中心都市として、わが国の経済発展に寄与してきた。しかしながら、国の産業立地政策による都市部か

らの工場の移転誘導や地価の高騰、住工混在の進展などの様々な都市問題の顕在化や経済情勢の変化により、工場の移転、閉鎖が続き、製造事業所数が減少傾向にある。こうした事業所の流出は、中小企業都市尼崎としてのビジネス機能の低下が懸念されるとともに、事業所で働く人々の生活を支えてきた商店街や市場にとっても大きな打撃であり、まちの活力の根源である「ものづくりのまち」としての再生が喫緊の課題となっている。一方、尼崎市では、こうした課題解決の一つとして、地元中小企業のものづくり企業と商店街のコラボレーションによるにぎわいづくりが展開され、顕著な成果を表しつつあり、中心市街地の活性化を図るためのシンボル的事業となっている。

287

386

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73.8

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H8 H10 H13 H15

億円

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指数中心市街地の小売業年間販売額 市全域の推移(指数) 中心市街地の推移(指数)

図 1 小売業年間販売額の推移 (出所)尼崎市商業統計

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事業所数

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指数市全域の事業所数 市全域の推移(指数)

図 2 事業所数の推移(4 人以上の事業所対象)(出所)尼崎市工業統計

2.�ものづくり企業と商店街の取り組み

(1) (株)ティー・エム・オー尼崎尼崎市の中心市街地の活性化を図る上で、大切

な役割を担っているのが 2002 年に設立された「㈱ティー・エム・オー尼崎」(以下、TMO尼崎という。)である。TMO尼崎の前身として、全国に先駆けて民間だけのまちづくりのための「尼崎中央・三和・出屋敷まちづくり㈱」が設立されていたが、旧中心市街地活性化法による「まちづくり機関」として発展的に設立された経過がある。事業内容としては、中心市街地における商業集積

の一体的かつ計画的な整備を運営・管理する機関として、地域消費の拡大のため共通ポイントカードをはじめ阪神タイガース優勝時の地域一体となったイベント開催など多彩な事業を実施し、中心市街地の活性化に取り組んでいる(表 1参照)。

中心市街地の再生に向けて ~認定基本計画の取り組み~連 載

SHINTOSHI Vol.63 No.4 2009 89

表 1 TMO 尼崎の主な活動内容

○「メイドインアマガサキコンペ」事業の実施○地域の環境浄化への取り組み○阪神タイガース優勝イベント事業○商業活性化対策の調査研究○関西 5大学との協同調査研究活動○オールポイントカード事業○施設リニューアル等商業環境の整備拡充事業○TMOゆうパック事業○MiAステイションのコーディネイト○統一プロモーション、イベント、PR活動の実施○尼崎応援戦隊「アマレンジャー」のプロモーションの強化

○その他、商業地区の総合的なまちづくり活動

(2)大学との協同研究事業2004 年から尼崎市の商業振興施策として、商店

街が抱える様々な課題解決及び魅力の向上に向け、大学との協同研究事業を行っており、TMO尼崎もコーディネイターの役割を担っている。中心市街地における事例をあげると、協同研究事業に参画した学生からの提案により、実現したものとして、「三和本通商店街」の空店舗を活用した地域密着コミュニティースペース 「MiAステイション」 の設置がある。MiAステイションでは、尼崎にこだわった商品や市内障害者作業所の作品を販売するほか、子供や一般の方たち向けの文化教室などのイベントも定期的に開催している。次に、「三和市場」では、周辺地域は高齢者が多いという地域特性を踏まえ、市場の新鮮な食材を活用した「三和市場オリジナルおせち」の開発や、商店主の「食」に関する技術や知識について一般市民を対象に公開講座の実施など、学生と市場が一体となった様々な事業が実施され、その取り組みは新聞等でも取り上げられている。商店街の商店主の中には、このような取り組みを当初、商売に影響を与えるのではという懸念から非協力的な姿勢も見られたが、少しずつ認知され、現在も継続して大学と商店街等とのコラボレーションは続いている。

(3)始まりは地元を愛する若者達―メイドインアマガサキ

①メイドインアマガサキコンペメイドインアマガサキコンペは、2003 年に尼崎の

若者達がTMO尼崎とともに、尼崎で作っているもの、尼崎でしか売っていない、わが街を誇れる商品や製品を掘り出そうと始めたのがスタートである。第1回のコンペでは、湯たんぽ、地ソース、ネジなど庶民的な食べ物から、世界的にも高度な技術を使った工業製品まで、自薦他薦を問わず、遊び心溢れる47点がエントリーされた。白熱した審査により、「湯たんぽ」と 「天ぷら」 の 2点がグランプリに選ばれた。既に、6回のコンペを実施しているが、これまでのコンペで 188 点を認証商品として発掘し、尼崎名物「メイドインアマガサキ」を生み出してきた。

②メイドインアマガサキショップの開設第一回コンペで集まった品々を販売、展示するイ

ベント「メイドインアマガサキショップ」が阪神尼崎駅前の商店街の空き店舗を利用して、2日間のみ限定で開設された。その模様がTVでも紹介されたことから、2日間で約 5,000 人が集まり、商店主をはじめ地域企業や学生などもイベントに加わり活況となった。その後、メイドインアマガサキのラインナップが着実に増えたことから、常設のショップが2005 年に設置され、現在 2店舗を構えている。さらに、商品の販売先としてWEB「楽天市場」にも掲載し、情報発信を行っている。また、2006 年には、メイドインアマガサキコンペにおいて発掘された数々の尼崎自慢の商品を紹介した「メイドイン尼崎本」を出版し、約 1万部以上を売上、尼崎市内外にメイドインアマガサキ事業の知名度が飛躍的に上昇

メイドイン尼崎本

連 載

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した。このように、地域活動とビジネスを複合させた活動が、多元的な連携の可能性を示唆する成果を生み出している。さらに、これまで接点が薄かったものづくり企業と商店街のコラボレーションが実現し、双方にとって新たなビジネスチャンスが創出されるなど、ものづくりと地域商業の双方に好影響を与える結果となり、尼崎ブランドの構築に大きく寄与するものとなっている。

3.�尼崎市中心市街地活性化基本計画の概要

尼崎市中心市街地活性化基本計画は、2008年7月、国の認定を受け、ようやく走り出した。基本的な施策は、商店街のアーケードのリニューアル化も予定

されているが、商店街・市場及びTMO尼崎、尼崎商工会議所をはじめとした経済団体とのより深い連携と、前述したメイドインアマガサキ事業などの既存ソフト施策を含めた数多いソフト施策の組み合わせにより、基本計画の実効性を高めていきたいと考えている。また、中心市街地活性化の基本方針は、阪神間最

大の商業集積地、かつての城下町の面影を残した歴史・文化の薫るまちなみ、中小企業都市としてのビジネス拠点といった地域特性を充分に活かす視点にたった上で、『人・もの・情報が集い、にぎわいと活力あふれるまち』をテーマと定め、3つの方針(表 2参照)に従い、地域ニーズに対応した魅力あふれる尼崎ならではの中心市街地の形成を目指している。(うめむら ひとし)

表 2 中心市街地の基本方針

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