ポスター第 セッション 10 [ 運動器③(症例報告) ]...

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【目的】 人工股関節全置換術(以下 THA)後の歩行速度は、退院後の ADL 能力を決定する上で重要な要素となる。今回、両側の股関節に高度な屈曲拘縮を有し、両側の THA を片側ずつ行うことにより、1年後に歩行速度が著明に向上した症例を経験したのでここに報告する。

【症例紹介】 両側の変形性股関節症を有した年齢75歳、身長146 ㎝、体重53.4 ㎏の女性である。術前の両側股関節可動域

(以下 ROM)は右側屈曲32°、伸展 -16°、外転 -2°、左側屈曲48°、伸展 -35°、外転 -9°と高度な制限を認めた。歩行は2本 T 杖にて短距離であれば歩行可能であるが、100 m以上の歩行が必要な場合は車椅子を使用していた。平成28年6月右 THA を施行、術後約3ヶ月で退院となる。2ヶ月後の平成28年11月左 THA 施行となった。医師より両側股関節共に大転子の切離術を併用したため、術後3週までは股関節の内外転運動は禁止の指示があった。

【説明と同意】 本症例に対し発表の目的と意義を説明し同意を得た。

【経過】 本症例の術前の両下肢機能として、ROM は症例紹介で説明したように両股関節に高度の障害を認めた。筋力は股関節外転、右0.252、左0.370(Nm/Kg)膝関節伸展、右0.785、左0.496(Nm/Kg)、歩行能力は TUG13.81秒、10 m歩行2本 T 杖にて13.38秒の31歩であった。また運動時、特に荷重時に両股関節の痛みが著明であった。術後は、ステップトレーニング、自転車エルゴメーター訓練、Close Kinetic Chain 訓練(以下 CKC 訓練)などを中心にリハビリテーションを行った。右 THA 術後3ヶ月にて退院となり、退院後の自主トレーニングとしてプールウォーキング、自転車エルゴメーター訓練、股関節外転、膝関節の伸展の筋力トレーニングを指導した。また、左股、膝関節屈曲拘縮のため歩行時は更に脚長差が生じ、左足部が浮くような歩行となった。そのため左側に33 ㎜の補高をつけた靴を作成し、左THA までの2ヶ月間を自宅で生活してもらう事とした。左THA 後は、自主トレーニングと通所外来にて訓練を継続した。左 THA より半年後の両下肢筋力は股関節外転、右0.621、左0.370(Nm/Kg)膝 関 節 伸 展、右0.945、左0.993(Nm/Kg)、歩行能力は TUG8.32秒、10 m 歩行1本 T 杖にて7.02秒21歩、右股関節の ROM は屈曲80°、伸展18°、外転28°、左股関節の ROM は屈曲78°、伸展13°、外転21°であった。

【考察】 村尾らによると THA 後の歩行速度を決定する因子として、術側の関節可動域と筋力の良好な回復、また股関節と膝関節の伸展筋力のような多関節運動が重要であると報告している。本症例は術前両股関節の関節拘縮が強く、特に股関節の屈曲と伸展に著明な可動域制限がみられた。この制限因子として、腸腰筋、大腿直筋、大殿筋の短縮がみられた事から、術後に股関節屈曲、伸展の ROM を重点的に行なった。それに加え股関節伸展筋群のセルフストレッチとして、後方に引いた下肢の膝関節を伸展させたレッグランジによるROM 訓練を指導し実施させた。また下肢筋力に関しては、塚越らが THA 術後早期からステップトレーニングを行なうことによって膝関節伸展筋力、股関節外転筋力の回復と、患側下肢への荷重学習に有効であると報告している。本症例は、強度な関節拘縮により膝関節伸展筋力、股関節外転筋力が著明に低下しており、術前から患側下肢への荷重支持が不足した歩行が確認された。そのため下肢関節の多関節運動としてステップトレーニングを、全荷重の時期から積極的に実施させた。その他も CKC 訓練、自転車エルゴメーター訓練などを行った。その結果、両股関節の屈曲、伸展可動域が改善し、歩幅は33.2 ㎝から47.6 ㎝と増加した。筋力は、膝関節伸展筋力が右0.945、左0.993(Nm/Kg)、股関節外転筋力が右0.621、左0.370(Nm/Kg)と術前レベルまで改善した。歩行速度は10 m 歩行で2本 T 杖にて13.38秒、歩数31歩であったが両 THA 後は1本 T 杖にて7.02秒、歩数21歩と著明に向上した。また TUG は術前13.81秒と90歳代以上であったが 両 THA 後8.32秒 と 大 幅 に 歩 行 速 度 が 改 善 さ れ た。RosemaryC. Isles によると70歳代女性の TUG は8.54±0.17秒といわれており、70歳代の正常値程まで回復した。本症例から、高度な股関節屈曲拘縮を有した THA 後の症例に対して歩行速度を向上させるには、股関節の関節可動域と筋力の良好な回復が必要であり、治療として多関節運動を取り入れる事が有効であるという事が確認された。

【理学療法としての意義】 本症例を担当し、下肢筋力と歩行速度の向上のためには多関節運動と関節可動域訓練が重要であると再確認された。今後も、同様の症例に対しても関節可動域の獲得と、筋力の向上に注視して治療を進めていきたいと思う。

高度な股関節屈曲拘縮を有したが両人工股関節全置換術後、 歩行速度が飛躍的に向上した一症例

○松原 達哉(まつばら たつや)1),江口 悟1),保田 直宏1),高尾 卓1),渡部 宅哉1),松本 研二2),奥村 秀雄2)

1)洛陽病院 リハビリテーション科,2)洛陽病院 整形外科

Key word:人工股関節全置換術,歩行速度,関節拘縮

ポスター 第10セッション [ 運動器③(症例報告) ]

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