マレーシアのスンガイキンタダムにおける...

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マレーシアのスンガイキンタダムにおける RCCダムの施工技術

天明敏行1・森田浩二2・菊地保旨2・村上祐治3・藤田司1・高橋博1

1正会員 ハザマ 土木事業本部 技術第二部(〒105-8479 東京都港区虎ノ門二丁目2-5) 2ハザマ 国際事業統括支店(〒105-8479 東京都港区虎ノ門二丁目2-5)

3正会員 工博 ハザマ 技術環境本部(〒105-8479 東京都港区虎ノ門二丁目2-5)

スンガイキンタダム (Sg. Kinta Dam) は,マレーシアで初めてRCC (Roller Compacted Concrete) 工法が採

用された堤体積約100万m3のダムである.RCCは細粒分やセメント量の多いハイペーストの配合であり,

骨材の製造は乾式で行った.また,練混ぜにはRCCで実績の多い連続練りミキサ(公称能力400m3/hr)を

用いた.国内のダム工事では事例のない仮設備と配合の組み合わせに試行錯誤を重ねながら計画・施工を

行った.さらに,新しい試みとして本工事の打込み方法にはスロープレイヤ工法(Sloped Layer Method)を採用し,上下流面や着岩部から40cm程度ではRCCにセメントミルクを添加して内部振動機で締固める

GE-RCC (Grout Enriched RCC) 工法を採用することにより施工の効率を大幅に向上した.

キーワード : RCC,スロープレイヤ工法,GE-RCC工法,乾式骨材製造,連続練りミキサ

1.はじめに スンガイキンタダムはマレーシアで初めてRCC工

法が採用されたダムである.RCC (Roller Compacted Concrete) 工法1)とは,超硬練りコンクリートをブル

ドーザで敷均し,振動ローラで締固める工法である.

有スランプコンクリートをケーブルクレーンなどで

運搬し,バイブレータで締固める在来工法に対して,

RCC工法では土工事で使用する汎用機械を使って急

速施工が可能となる.日本国内では,在来工法によ

る重力式コンクリートダムの設計方法を踏襲し,施

工方法に合理化を取り入れたRCD (Roller Compacted Dam-concrete) 工法が普及しているが,RCC工法で

は必ずしも従来のコンクリートダムの設計方法の枠

にとらわれない設計方法が採用されている.このた

め,RCCの配合設計方法や仮設備の計画,施工方法

は,基準・指針類の整備されている日本のRCD工法

とは異なり,国や設計者の思想の違いよって多様で

あり,自由度の高い選択が可能となるが,工事の施

工計画を適切に実施することが工事の成否の鍵とな

る. 本工事では,細粒分や微粒分の多いRCCの配合や,

RCCの打込み方法として採用したスロープレイヤ工

法 (Slope Layer Method) ,また上下流面でRCCにセ

メントミルクを添加し内部振動機で締固めるGE-RCC (Grout Enriched RCC) 工法など,国内では事例

のない配合や工法の組合せを採用し,施工の合理化

をはかった.

2.工事概要 マレーシアの面積は 33 万m2で日本とほぼ同じで

ある.人口は約 2,300 万人であり,民族構成はマレ

ー人が 65%,華人が 26%,インド人(タミール

系)が 8%である.イスラム教が国教であり,マレ

ー人は全てイスラム教徒である。ペラ州イポー市は

首都クアラルンプールの約 200km北に位置し,スン

ガイキンタダムはイポー市から約 12kmに位置する.

位置を図-1 に示す. 本プロジェクトは,イポー浄水給水計画の一部で

あり,計画ではキンタ川既設の取水堰と浄水機能を

拡張するため,堤体積約100万m3,高さ約92m,堤

頂長約780mのRCCダム,新設浄水場およびダム浄

水場間約4.5kmのパイプラインを新たに建設する.

工事諸元およびダムの諸元を表-1, 2に,ダム平面図,

正面図,標準断面図を図-2~4にそれぞれ示す. 堤体は全体がRCCで構成されており,RCD工法に

よるダムのように内部コンクリート,外部コンクリ

ート,着岩コンクリートなどの種別はない.CVC (Convensinal Concrete) で施工される構造物は洪水吐

き(スピルウェイ)のクレスト部,導流壁部,減勢

工(ローラーバケット)部,取水塔(インテイク)

である.

-163-

イポー市(キンタダム)

クアラルンプール

図-1 工事位置図

表-1 工事諸元

図-2 ダム標準断面(洪水吐き断面)

LOWER GALLERIES

UPPER GALLERY

DOWNSTREAM COFFER DAM

PIPELINE

VALVE ACCESS ROAD

TOE OF RCC DAMTOE AT BACKFILL

ACCESS GALLERY PLATFORM

CREST ACCESS ROAD

SPILLWAY

図-3 ダム平面図

表-2 ダム諸元

ダム形式 RCC (Roller Compacted Concrete)

堤高 92m

堤頂長 780mダム

堤体積 98 万m 3

内径 4.2m x 4.2m (正方形断面)仮 排

水路 越流確率 10 年確率:133m /sec3

形式 自然越流式

幅 100m

減勢工 ローラバケット式洪 水

吐き

洪水量2250m / s (PMF: Probable Maximum Flood), 229m /s (100 年確率)

3

3

集水面積 143km2

貯水容量 29,900,000m 3貯 水

池湛水面積 1,010,000m2

工事名称 スンガイキンタダムおよび付帯設備建設工事

企業者 ペラ州水道局

プロジェクトマネ

ージャーメトロポリタン公共水道会社

コンサルタントアンカサ社(マレーシア) GHD社(オーストラリア)

施工場所 マレーシア国ペラ州イポー市キンタ川

工期 2003 年 1 月~2006 年 11 月 (46 ヶ月)

請負者 ハザマ

-164-

CREST RL 250.000 mSPILLWAY

3.RCCの配合

(1)配合概要

RCCの配合設計方法について,Hansen2)は土質的

アプローチとコンクリート的アプローチに分けて分

類している.土質的アプローチには,貧配合RCC工法の方法,簡易土質方法があり,コンクリート的ア

プローチには,USBR (US Bureau of Reclamation) によって配合設計手順が基準化されたハイペースト

RCC (USBR) の方法,日本のRCDの方法,USCE (US Army Corps of Engineers) の方法がある.近年

のRCCダムでは各材料の単位量や水セメント比が示

されたコンクリート的なアプローチが多い3). 本プロジェクトにおける配合設計は,当初RCD用

コンクリートの配合設計を参考に実施し,試験施工

においてこれを修正する方法で行った.設計基準で

は,目標VB値12-17秒,設計基準強度15MPa(材齢

90日圧縮強度),1.0MPa(材齢90日直接引張強度),

断熱温度上昇量15℃以下,材料の分離が起こりにく

く,締固めが容易で相対密度98%以上が得られる配

合が要求された.VB試験は,RCDで使用するVC試験機と比較するとおもりが12.5kgと軽く,振幅が

0.35mmと小さい.VB試験時にはフレッシュRCCの

品質管理として,単位容積質量,含水率などを同時

にチェックした.

(2)使用材料

RCCの使用材料を表-3に示す.フライアッシュは

マレーシアにある2箇所の火力発電所のうち,ペラ

州マンジュンにある新設発電所のフライアッシュを

用いた.マレーシアの火力発電所は分級設備など,

フライアッシュの品質をコントロールする設備がな

く,品質的には安定しなかった.細骨材は粗骨材製

造時に生産される砕砂のほか,現場の近くにマイニ

ングサンドという砂が錫採取場の跡地に存在し,安

価で購入が可能であることからこれを使用した.し

かし,工事後半には近傍の採取地域で採取できなく

なり,50km離れた場所からの供給となった.

(3)標準配合

標準的なRCCの配合を表-4に示す.RCCの細骨材

率は試験練り時36%,試験施工後41%で本体打設を

開始したが,粗骨材の分離解消や水セメント比の調

整などを目的として39%~44%の範囲で調整を行っ

た.骨材全体に対する粒径0.075mm以下の微粒分量

も試験練時の1.6%から5%程度まで増やして粗骨材

の分離が起こりにくいモルタルリッチな配合を採用

した.骨材の粒度分布を図- 5に示す.

(4)配合特性

USBRの配合設計方法では粗骨材の空隙に対する

モルタルの量,USCEの配合設計では,単位モルタ

ル量(%),ペーストモルタル比の指標が示されてお

り4),これらの配合特性とキンタダムのRCCの配合

特性とを比較検討した.また,RCD用コンクリート

で使用される配合特性α,β,γについても検討し

た. ① 単位モルタル量 単位モルタル量は配合表から1m3のRCCのモルタ

ルの質量と容積を求めた. ② 粗骨材の空隙に対するモルタルの比

DIVERSION CULVERTPENDULUM SHAFT

RE

DU

CED

LE

VEL (

m )

TRANSVERSE JOINT

VENTILATION SHAFT

PENDULUM SHAFTVENTILATION SHAFT

図-4 ダム正面(上流面)

表-3 使用材料

材料 記号 適用

セメント C 普通ポルトランドセメント 密度:3.15g/cm3

比表面積:3500cm2/g

フライア

ッシュ F

TNBJ 火力発電所産 密度:2.09g/cm3

粉末度:10-30% (45μm 残)

砕石

G1 G2 G3

原石:花崗岩 表乾密度:2.62g/cm3,吸水率:0.5% G1:63-40mm,G2:40-20mm,G3:20-5mm

砕砂 Qs 表乾密度:2.62g/cm3,吸水率:0.5% FM:2.5~3.0 75μm 以下:10~15%

マイニン

グサンド Ms

表乾密度:2.62g/cm3,吸水率:0.5% FM:2.9~3.1 75μm 以下:2.5~3.0%

混和剤 Ad 遅延型減水剤 (P100Ri)

表-4 標準的なRCCの配合

Gmax W/C Air s/a

(mm) (%) (%) (%) W C F Ms Qs G1 G2 G3 Ad(liter)

63 75 0 41 150 100 100 329 493 221 441 529 0.8

単位量 (kg/m3)

-165-

1m3のRCCの粗骨材の空隙Vgは式(1)により計算し

た.

)/1/1( ggmGVg ρ−= (1)

ここに,G:単位粗骨材量,mg:混合粗骨材の単

位容積質量,ρg:粗骨材の表乾密度

③ ペーストモルタル比 単位ペースト量は,細骨材中粒径75μm以下の微

粒分を含むものとし,配合表から1m3のRCCのペー

ストの質量と容積を求めた. ④ 配合特性α,β,γ

RCD用コンクリートで必要なモルタル量やペース

ト量を評価する方法として,配合特性α,βの概念

がよく用いられている5).αはペースト/細骨材空隙

比を表し,βはモルタル/粗骨材空隙比を表してい

る.さらに永山6)は骨材全体に対して必要な単位ペ

ースト量として配合特性γ,すなわちペースト/合成骨材の空隙比を採用し,これについて検討をして

いる.各配合特性は以下の式で与えられる.

)/1/1(//

ss

wc

wSairWC

ρρρ

α−

++= (2a)

)/1/1(///

gg

swc

wGairSWC

ρρρρ

β−

+++= (2b)

)/1/1)((//

gsgs

wc

wGSairWC

++ −+++

ρργ (2c)

ここに,C:単位結合材量,ρc:結合材の密度,W:単位水量,ρw:水の密度 air:空気量,ws:振動台で締固めた細骨材の単位容積質量,

wg:振動台で締固めた粗骨材の単位容積質

量,ws+g:振動台で締固めた合成骨材の単

位容積質量,ρs+g:合成骨材の表乾密度

表-5にRCCの特性値の一覧を示す.表にはUSBRの配合設計方法2)とUSCEの配合設計方法4)で述べら

れている基準値を記載した. モルタル量について,USCEの基準値では骨材の

最大寸法を63mm,砕砂を使用した場合で42-58%程

度となる.RCCの標準配合は基準値の範囲内である. 粗骨材の空隙に対するモルタルの割合は,RCD用

コンクリートのβに関連する値であるが,標準配合

の値はUSBRの基準値に対して十分大きな値であり,

モルタルリッチな配合であることがわかる. ペーストモルタル比はモルタルの中にあるペース

トの比を示していることから,RCD用コンクリート

のαに関連する値である.標準配合は,USCEの基

準とする最小値0.42よりも大きく,モルタル分が多

いにもかかわらず,その空隙を満たすペースト量に

ついても十分にあることがわかる. RCD用コンクリートの配合では,各特性値のαが

1.1~1.3程度,βが1.2~1.5程度といわれているが,

標準配合はこれらと比較すると十分に大きい値であ

る.α,βの値が大きい理由には,モルタル,ペー

ストの項に空気量を見込んでいること,単位結合材

量が多いこと,細骨材率が大きいことなどが考えら

れる.γは粗骨材の最大寸法が40mm,結合材水比

が1.2~1.5の場合に1.1~1.2倍のペースト量といわれ

ており,γについてはRCD用コンクリートの性質に

近いといえる.

Fresh RCC Combined Grading on March 2005

0

20

40

60

80

100

0.01 0.1 1 10 100Sieve size (mm)

Pass

ing

(%)

Target

Average

図-5 骨材の粒度分布

表-5 RCCの諸特性値

標準配合USBRの配合設計方法

USCEの配合設計方法

54.3 42-58

2.08 1.05-1.10

0.48 0.42(最小値)

2.20

2.11

1.13

β

γ

単位モルタル量(%)

粗骨材の空隙に対するモルタルの比

ペーストモルタル比

α

-166-

2250

2300

2350

2400

2450

2500

4.0 4.5 5.0 5.5 6.0 6.5 7.0

Moisture Content (%)

TAF

(kg/

m3 )

TAF

99%

98%

97%

96%

95%

(5)フレッシュコンクリートの性状

a) VB試験

コンシステンシーの管理ではVB試験を毎時実施

した.目標値は12-17秒である.目標値や管理方法

は状況に応じて定めたが,目標を大きくはずれる場

合(例えば10秒以下や30秒以上)は廃棄した.

b) 現場密度試験

現場でRCCを敷き均し,転圧後にRI密度計によっ

て,フレッシュRCCの湿潤密度と含水率を測定した.

RCC の締固め率は空隙を除いた理論密度 TAF (theoretical air free density) に対するRCCの単位容積

質量の比率と定義される.TAFは含水率によって変

化するため,単位水量を変化させた理論密度から

TAFを求め,各単位水量における含水率とTAFのグ

ラフに実際の試験結果をプロットすることにより締

固め率を求めた.現場密度試験結果の一例を図-6に

示す.

図-6 RCCの現場密度試験結果の一例

RI密度計による現場密度試験は,転圧された

250m3のRCCに対して1回行い,深さ250mm,200mm,

100mmの位置で測定をし,締固め密度97%以下の箇

所については再転圧または時間が45分以上経過した

ものについては廃棄した. c) 現場密度試験

設計上の規定では90日材齢で80%以上が15MPaを超えることとなっていたが,水セメント比の大きい

配合によってはこれをクリアしないものもあり,設

計基準材齢が180日に変更された.強度が問題とな

ったのは,設計上の思想において材料分離に対する

抵抗性の大きい締固めのしやすい材料が求められる

傾向となり,細骨材率及び単位水量が大きくなった

ためである.このことに加え,フライアッシュの品

質上のばらつきも強度の変動係数を大きくした.

(6)打込み温度規制

特記仕様書において,堤体の上流面から4mの部

分のRCCについては20℃以下で打ち込みを行うこと

になっていた.熱帯地方におけるRCCのプレクーリ

ングの実績は少ないことと,平均気温との乖離が大

きいために効率が低くなることから,コスト縮減を

目的として3次元FEM温度応力解析を実施して堤体

上流面部の応力をシミュレーションすることによっ

て評価した.この結果,上流面に大きなダム軸方向

の引張応力は発生しないことが予想された.ダム軸

方向の温度応力ひび割れの安全性を確保するために,

横継目間隔を30mから20mにすることなどを条件に,

打込み温度は30℃以下に変更となった.

4.仮設備

(1)骨材プラント

骨材プラントは原石山とダム提体を結んだ線上

(約 800m)の中央に設置した(写真-1).RCCに

必要な粒径 75μm以下の微粒分の多い砕石骨材を生

産するために乾式製造とし,インパクトクラッシャ

を採用したのが特徴である.プラント設備は 1 系統

であり,原石投入→1 次破砕→サージパイル→2,3 次

破砕→ふるい→ストックパイル→RCCプラントの順

で配置した.生産能力は1次破砕が 550t/h,2~3 次

が 350t/hであり,ピーク時のRCC打設量 4,000m3/日に対応させた.2~3 次破砕は,製品ストックパイル

の上部を屋根で覆い,その上部にスクリーンを配し

狭い敷地に対処した.RCCプラントへの骨材供給は,

ストックパイル下部の開口からベルトフィーダにて

引出しトンネル内のベルトコンベヤを通して骨材を

供給した.

(2)RCC連続練りブラント

RCCの製造設備はコスト的に優位な連続練りタイ

プを採用した(写真-2).生産能力 400m3/h,2 つ

のセメントサイロ(各 60t),5 つの骨材ビン(各

14m3),給水ポンプ,混和剤供給ポンプ,連続練り

ミキサからなる.骨材の計量はフィーダ上にある固

定開口部を通過させる容積計量である.セメントと

フライアッシュの計量はサイロ下部のひれベルトを

伴ったフィーダを通過させる容積計量である.容積

計量では,材料の見かけの密度を適切に把握してお

く必要があり,このキャリブレーションが重要であ

る.

-167-

ミキサは 2 軸強制で 2 本のシャフトについた 72本の羽根付アームが材料を攪拌しながら連続的に

RCC を練り出す.プラントの清掃後,次の RCC 製

造に移る前にミキサへ砂と水を投入してミキサ内壁

に砂の壁を作る。サンドライナーがコンクリートと

ミキサ外壁との間に膜を作り外壁を保護する.通常

の鋼製ライナーを必要とせず,消耗材コスト低減に

寄与している.

5.RCCの施工

(1)施工概要

連続練りミキサから排出されたRCCはダンプトラ

ックで堤体へ運搬される.これをブルドーザで敷均

し,振動転圧をする.ダム上下流面及び岩着面の施

工はGE-RCCで行う.GE-RCC工法とは,敷均され

たRCCにグラウトミルクを添加し,内部振動機で締

固める工法である.打込み場所においてRCCと有ス

ランプコンクリートに区画を分ける必要がないため,

打込み作業の効率が有スランプを打込む場合と比べ

て格段に優れている.採用されている国や設計者に

よって細部の施工方法や手順などに違いがあ

り,”GEVR (Grout Enriched Vibratable RCC) “,「変

態コンクリート」などとも呼ばれているが,基本的

な思想や施工方法は同じである. RCCの施工は,狭隘な場所を除いて勾配を付けた

連続打設を行うスロープレイヤ工法 (Slope Layer Method)で行った.この工法によりRCCの始発時間

以降に必要な各層打継ぎ面の敷モルタルの数量,手

間を低減している.主要機械を表-6に示す.

(2)打継ぎ面処理

打継ぎ面の処理基準は,前レイヤのRCCの状態に

よって異なる.各段階における処理方法を表-7に示

す。コンクリート凝結試験における始発時間は,遅

延型減水剤を使用しているため添加量によって異な

るが,約5時間に設定している.積算温度は,(外

気温+10℃)×時間で計算し,1,200℃hrは,外気温

30℃で約30時間となる.諸条件が整い,5時間以内

で打設を継続できれば①のケースで高速施工が可能

となるが,実際には,降雨,プラント故障,打設面

清掃の遅れ,下流型枠の移動など,様々な理由によ

り③で打継ぐ場面も多かった.

表-6 主要打設機械一覧 機械 メーカー モデル 台数 用途

1 (アーティキュレイト)ダンプトラック Volvo A30CV 6 RCC運搬

2 (アーティキュレイト)ダンプトラック Volvo A25CV 1 RCC運搬

3 ダンプトラック (10t) 4 RCC運搬

4 トラックミキサ 2 モルタル運搬

5 ブルドーザ Caterpiller D6D&H 2 RCC敷均し

6 ブルドーザ Caterpiller D5H 1 RCC敷均し

7 ブルドーザ Caterpiller D4H 1 RCC敷均し

8 振動ローラ Ingarsoll SD100D 2 RCC転圧

9 振動ローラ Sakai SG350 2 RCC転圧

10 ホイールローダ Caterpiller CAT950 2 ブロック移動など

11 目地切り機(油圧ブレーカ) Kobeko SK0911 2 目地切り

12 エアーコンプレッサー Airman PDS-175S 4 清掃・グリンカット

13 清掃機(ロードスイーパー) Bucher PKD211 2 清掃・グリンカット

14 高圧洗浄機(プレッシャークリーナー) Karcher HD1090 2 清掃・グリンカット

15 散水車 Fuso - 1 清掃・グリンカット・養生

16 ブラシ付トラクター Ford 6600BP 2 清掃・グリンカット

17 グラウトミキサ 2 GE-RCC

18 アジテータ 2 GE-RCC

19 エンジンバイブレータ 6 GE-RCC

写真-1 骨材プラント(2・3 次破砕,貯蔵設備)

写真-2 RCC(連続練り)製造設備

表-7 打継ぎの処理基準

区分 処理方法

①コンクリートの凝結試験にお

ける始発時間以内 (約 5時間以内)

無処理

②積算温度が 1,200℃h 以下 (約 5時間~約 30 時間)

モルタル敷き均し

③積算温度が 1,200℃h 以上 (約 30 時間以上)

グリーンカットと

モルタル敷き均し

-168-

グリーンカットは高圧水とブラシ付機械で行い,

清掃にはバキュームカーを使用した.

(3)運搬,敷均し・転圧

打設面への運搬道路は幅6~8m,最大15%の下り

勾配となっている.RCCは30tダンプトラックによ

り運搬・荷下ろしされた後,ブルドーザにより30cm層に敷均され,振動転圧機により無振動2回、振動6回の計8回締固めを行う.敷均し時の厚さ管理には

ブルドーザにレーザレベルセンサを取り付けた.施

工中は水分維持のため噴霧養生を行い,練混ぜ後45分以内に転圧を完了した.

(4)運搬,敷均し・転圧

型枠際の施工はGE-RCC工法で実施した.設計基

準強度は,一般部で20MPaであった。水セメント比

で強度が決まるが,ある一定の水セメント比を下回

ると浸透性が低下し,均一なGE-RCCが施工でき

なくなる.浸透性はグラウトミルクの粘性と関係が

あることから,写真-3に示すマーシュコーンを用い

てこれを管理した.マーシュコーン値は円錐容器に

入れた液体の排出時間で表し,水のマーシュコーン

値は35秒である.試験施工の結果に実際の施工にお

ける材料の変動を考慮し,高性能AE減水剤を1%添

加して,施工可能な最低水セメント比を0.7とした.

この配合でマーシュコーン値は40秒以下となる. グラウトミルクは打込み現場の近くでグラウトミ

キサによって練混ぜ,アジテータを搭載したトラッ

クで打込み箇所まで運搬した.転圧前の RCC 表面

から対象コンクリート体積の 5%に相当する量のセ

メントミルクを流し込み,1~2 分程度の浸透時間を

経てバイブレータにより締固める.RCC への浸透を

良くするため,鉄筋棒で 20mm 程度の穴を 150mm程度のピッチで開けてからセメントミルクを流し込

んだ。型枠際の転圧方法は,特に GE-RCC と RCCの境界部に対して品質上の注意を払う必要がある.

RCC の敷均し後,GE-RCC を施工し,2t 級振動ロー

ラを用いて RCC との境界部を入念に転圧した.GE-RCC の施工状況を写真-4 に示す. (5)目地切り,RCC端部処理,上下流面型枠施工 転圧後,油圧ブレーカにブレードを取付けた目地

切り機を用いて20m間隔の横継目に亜鉛引き鉄板を

挿入し,再転圧した.転圧完了後,端部のフェザー

エッジを10cmの高さで削り取った(図-7参照). 型枠は1リフト3mの打上がりに合わせ,上流面で

はスライドフォームを,下流面ではGE-RCCの上面

を均し,コンクリートブロック型枠を積上げた.

(6)スロープレイヤ工法

スロープレイヤ工法は,RCCを1リフト 3.0mに

対して 300mm層毎に 1:10~1:20 の勾配で敷均し,

振動転圧をすることにより連続打設する工法である.

概要を図- 7 に,施工状況を写真-5 に示す.勾配は

1 レイヤの打設量と堤体の幅(上下流の長さ)によ

って定まり,1 レイヤの打設量は打設速度とコンク

リートの凝結試験における始発時間の関係により設

定する.例えば始発時間が 3 時間のRCCを 1 時間当

たり 200m3の速度で打設をする場合には多少の余裕

をみて 1 レイヤの打設量を 500m3と設定する.堤体

の幅が 50mであれば,1 リフト 3mに対するスロー

プの長さは,式(3)に示されるようになり,勾配は

1:10 と設定される.

500m3÷50m÷0.3m=33.3m (3) スロープレイヤの特徴は,敷モルタルなどの処理

を必要とするコンクリートの打継ぎ面の数が減少す

写真-3 マーシュコーンによるフロー管理 写真-4 上流面の GE-RCC の施工状況

-169-

るため,以下のような施工上のメリットが挙げられ

る. ①品質上,水密で安全な構造物となる. ②打継ぎ面における養生,清掃,モルタル敷均し作

業が減少する. ③グリーンカットや清掃の作業がクリティカルにな

らず作業効率がよい.

④型枠がクリティカルにならず,転用が可能となる.

反面,下流面の型枠際の施工の煩雑さや型枠の側

圧の増加,鋭角となる端部における品質上のリスク,

測量管理の複雑さなどに配慮が必要である.

6.あとがき

スンガイキンタダムのRCCは,2006年3月に約98

万m3の打込みを終え,同年5月より湛水を開始した.

漏水の状況と温度応力の評価については,機会があ

れば発表したい.

図-7 スロープレイヤ概要図

写真-5 スロープレイヤ工法の施工状況

RCCダムの施工について,日本国内ではRCD工法

という,様々な実績を経て確立された,優れた技術

がある.設計が異なるため,日本のRCD工法と世界

のRCC工法を同一レベルで比較することはできない

が,技術的な成熟度が高いRCD工法では指針や手引

きなどの基準類が整備されており,日本の施工業者

から見ればやりやすい工法といえる.しかし,世界

的にみると,コストが高いという印象から優れた工

法でありながら日本以外では普及していないのも事

実である.

今回のRCCの施工にあたっては,徹底して設備の

合理化をはかることに傾注した.一方で,RCCの材

料には粉体量の多いリッチな配合が採用されたが,

施工業者から見れば粗骨材の分離が少ないために施

工しやすく,同様の設計のRCCにおいては習得し

ておくべき技術と思われる.本工事で採用した合理

化施工をそのまま国内の工事や他のRCCダムの工事

に取り入れることはできないが,品質の確保と経済

性のバランスを追求する上で検討するべき点は多い

であろう.

参考文献

1)ACI Committee 207 Report 1999: Roller compacted concrete,

ACI207.5R-99, 1999

2)Kenneth D. Hansen, William G. Reinhardt: Roller-

Compacted Concrete Dams, McGraw- Hill, Inc., 1991

3)M.R.H. Dunstan.: The state-of-the-art of RCC dams in 2003

– an update of ICOLD Bulletin No.125, Proceedings of the

Fourth International Symposium on Roller Compacted

Concrete Dams, Madrid, Spain, 39-48, 2003

4)US Army Corps of Engineers, :Engineering and Design,

Roller Compacted Concrete, EM 1110-2-2006 15 January

2000

5)建設省河川局開発課:改訂RCD工法技術指針(案),

1989

6)永山功:RCD用コンクリートの必要ペースト量に関す

る考察,ダム工学 14(3) 160-166, 2004

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