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輝度画像 視認性評価画像(閾値倍率)
Lu’v’表色系を用いた色の視認性画像の作成と検証
Development and validation of color visibility image based on Lu’v’ color system
中村芳樹研究室 10M30371 溝口 理(Toru Mizoguchi )
Keywords:輝度, 色度, 視認性, コントラスト感度
luminance, chromaticity, visibility, contrast sensitivity
1.背景と既往研究・目的
視対象のエッジを人間が明瞭に認識出来るか否か,を
定量評価する方法として視認性評価法が提案され,空間
や工業製品などの設計に役立てられると期待されている.
岩本ら,島崎らの研究により,輝度画像を変換すること
で得られ,輝度コントラストの閾値倍率で表現される視
認性画像が存在する 1-2).(図 1)
これらの研究成果から視認性画像による視認性評価法
の信頼性は高いものとなっている.しかし,課題点とし
て,色の変化に対応できていない点が挙げられる.この
点について,清水らの研究を基とした鹿目らの研究があ
り,Lu’v’表色系に基づいた色の視認性画像作成理論が提
案され,その妥当性が高いことが示された 3-4)が実際の作
成には至っていない.そこで,本研究はこれ等,既往研
究の知見を踏まえ,色の視認性画像を作成,有効性の検
証を行うことを目的とする.
2.色の視認性画像作成理論
2.1 作成理論概要
以下が本研究で使用する色の視認性画像作成理論であ
る,また,理論フローを図 2に示す.
① 画像データを色度 u’,v’成分画像に変換.
② 各成分ウェーブレット分解,空間周波数毎の値を得る.
③ 各周波数成分を一次微分し,色度変化を抽出.
④コントラスト感度曲線から算出された重み付け係数に
より,各周波数成分に重み付けを行う.
⑤ ウェーブレッット合成により u’,v’成分の視認性値を
得る.
⑥ 色度 u’,v’成分を合成,色の視認性画像を得る
2.2重み付け係数算出
鹿目らの研究より得られた平均色度 D65の u’,v’成分,
平均輝度,空間周波数ごとのコントラスト感度データか
らコントラスト感度近似曲線データを算出(図 3),ウェ
ーブレット分解を行い,各レベルに応じた重み付けを行
う係数を重回帰分析で算出した.結果を図 4に示す.
図 1 視認性画像
図 2 作成理論フロー
図 3 コントラスト感度近似曲線データ
出力 カラー画面サイズ 325×510 [mm]
画素数 1200×1920 [pixel]最大輝度 200cd/㎡
ナナオColorEdgeCG243W
以下,これ等の重み付け係数を使用し,色の視認性画像
を作成した.
2.4 色の視認性画像の作成
u’,v’画像にウェーブレット分解をかけ,重み付け係数を
掛け,合成,u’,v’各色度軸別の視認性画像を作成,色の
視認性画像を得る.u’軸成分,v’軸成分は色度図上に直交
のため理論上
𝑉𝑐 = 𝑉𝑐𝑢′ + 𝑉𝑐𝑣 …(1)
Vc : 色度視認性 Vcu’ : u’軸成分視認性 Vcv’ : v’軸成分視認性
である.
3.有効性検証実験
3.1第一実験
作成した色の視認性画像の有効性を被験者実験により
検証した.被験者の視認限界を計測し,視認限界となっ
た画像を色の視認性画像に変換,視認性が閾値倍率付近
となるか検証.
3.1.1 実験手順
図 5の様な色度変化を持つ刺激画像を被験者に呈示,
画像中の円の出現位置を被験者に回答させる. Lu’v’表色
系上で 0.1の幅から色度変化幅を小さく,順次 0.5を乗
じて呈示.被験者が見えないと申告,不正解を示した画
像と,見えていた画像の変化幅の差を 5分割した刺激を
順に呈示,視認可能になるまで幅を大きくする.以降,
変化を反転させ差を 5分割,視認限界を探る.この作業
を五回繰り返した後,最後に視認可能だった刺激の持つ
色度変化幅を視認限界とした.(図 6)
3.1.2 実験条件
・被験者
正常な色覚を持つ男女 5 名 (石原表にて事前検査)
・呈示刺激 ディスプレイ仕様(表 1)
平均色度;D65 (u’,v’ = 0.19783, 0.46832)
平均輝度;50cd/㎡ 100cd/㎡(矩形のみ 後述)
エッジパターン; 矩形,ガウス 1,ガウス 2(図 7)
色度コントラストパターン;Ⅰ~Ⅵ(図 8)
・実験空間;(図 9)
以上の条件で実験を行った.平均輝度 50cd/㎡では図 5
に示したエッジのある矩形状の刺激,ガウス関数を掛け
エッジをぼやけさせた刺激を用い比較することとした.
矩形状の刺激のみは平均輝度変化の影響を比較するため
50cd/㎡,100cd/㎡の 2条件で実験を行った.実験空間は
視野角 20度を取れるよう設計,視線は固定せず,中心視
で呈示刺激全体を見ることができる.
3.1.3 第一実験結果と考察
第一実験の結果,被験者 5名の視認可能な限界色度変
化幅 Lの平均は図 10になった.
図 4 重み付け係数
図 5 第一実験呈示刺激
図 7示刺激のエッジパターン
図 9実験空間
矩形 ガウス 1 ガウス 2
図 8色度コントラストパターン
表 1 刺激用ディスプレイ仕様
図 6 視認限界
閾値倍率 パターンⅠ パターンⅡ パターンⅢ パターンⅣ パターンⅤ パターンⅥ
矩形 3.7766 3.9874 3.7766 3.9874 4.5715 3.7766ガウス1 3.7728 3.9825 3.7728 3.9825 4.5663 3.7728ガウス2 3.8449 1.0064 3.8449 4.0714 4.6634 3.8449100cd/㎡ 4.2782 1.0674 4.2782 4.2782 4.2782 4.2782
10
100
1000
0.1 1 10 100
コン
トラ
スト
感度
空間周波数(cycle/deg)
平均輝度50cd/㎡
D65と標準光源Aとの比較
標準光源A_パターンⅠ
標準光源A_パターンⅡ
D65_パターンⅠ
D65_パターンⅡ
感度の変化量ΔC
平均色度変化量Δu’Ave
平均色度変化量Δv’Ave
0.4
0.42
0.44
0.46
0.48
0.5
0.52
0.54
0.15 0.17 0.19 0.21 0.23 0.25 0.27 0.29
v'
u '
標準光源A
D50
D65
D75
図 13コントラスト感度⊿C 図 14 平均色度差⊿u’,v’
見えやすさ評価 パターンⅠ パターンⅡ パターンⅢ パターンⅣ パターンⅤ パターンⅥ矩形 1.337212 1.370473 1.337212 1.370473 1.454183 1.337212ガウス1 1.336596 1.36972 1.336596 1.36972 1.453486 1.336596ガウス2 1.348188 0.527407 1.348188 1.383239 1.466371 1.348188100cd/㎡ 1.413578 0.563441 1.413578 1.413578 1.413578 1.413578
平均色度 D65 D50 D75 R G Bu'成分 0.19783 0.209159 0.193535 0.5077 0.0727 0.1688v'成分 0.46832 0.488075 0.458508 0.5198 0.5708 0.1445
エッジが削られる程早く限界を迎え,平均輝度が高くな
るほど限界幅が小さくなることが分かる.この結果を用
いて,視認限界の色度変化を持つ呈示刺激を作成,色の
視認性画像への変換を行った.その結果の代表的な変換
例を図 11,画像中の閾値倍率の最大値を表 2に示す.
閾値倍率は 1付近から最大で 4.5付近までの値を示した.
これは被験者個々のばらつきと実験手法として被験者に
「見える」限界のものを回答させたため,若干高い値が
出たものであると考える.
その上で,エッジ,平均輝度の条件を変化させたが,
表 2に示すようにほぼ同一の結果を得ることができた.
ここで,閾値倍率と見えやすさについて岩本らの研究
があり,その関係式が分かっている 1).
5235.0410.1 XY …(2)
閾値倍率の対数;見えやすさ評価 ;XY
この関係式を用いて見えやすさ評価を算出した.(表 3)
結果,概ね 2;「見える」~1;「かろうじて見える」の範
囲内となった.
これ等の結果から,本研究で作成した色の視認系画像
への変換理論は有効であると考える.
3.2第二実験
鹿目らの研究では平均色度 D65,標準光源 Aコントラ
スト感度を実測,コントラスト感度の差⊿Cと色度の差
⊿u’,v’の関係からコントラスト感度曲線予測モデルを提
案した 4),(図 13,14)が作成,検証は行われていない.
モデルの有効性が示されれば,複雑な色状況下で色の
視認性画像を使用可能とする重み付け係数算出法の考案
ができると考える.
3.2.1 実験手順
第一実験に準ずる.
3.2.2 実験方法
・被験者
正常な色覚を持つ男女 5 名 (石原表にて事前検査)
・呈示刺激 ディスプレイ仕様 (表 1)
平均色度;D50 D75 R G B (表 4)
平均輝度;50cd/㎡
エッジパターン;矩形(図 7)
色度コントラストパターン;Ⅰ~Ⅵ(図 8)
・実験空間(図 9)
とする.
3.2.3 予測コントラスト感度曲線と重み付け係数算出
D65 を基準とし,求める平均色度点の予測コントラス
ト感度を算出する.算出には D65 と標準光源 Aとのコン
トラスト感度の差⊿Cを色度の差⊿u’,v’で標準化したも
のを用いる.
)','','(
)(','','
65
656565
AD
ADDD
vuvu
CCvuvuCC
……(3)
図 10視認限界色度変化幅
図 11色の視認性画像 変換例
表 2 色の視認限界画像中の閾値倍率最大値
表 4 呈示刺激の平均色度
図 12 見えやすさ評価
表 3 見えやすさ評価
閾値倍率 パターンⅠ パターンⅡ パターンⅢ パターンⅣ パターンⅤ パターンⅥ
D65 3.7766 3.9874 3.7766 3.9874 4.5715 3.7766D50 3.5925 1.0655 3.5925 4.6559 3.6418 3.5925D75 4.1312 4.1312 4.1312 1.0715 4.1312 4.1312R 1.4155 1.2168 1.5139 1.364 1.1914 2.6118G 10.1867 1.6036 6.8331 3.638 3.9664 9.3292B 10.9529 6.0864 10.9529 9.6194 8.4143 9.6194
見えやすさ評価 パターンⅠ パターンⅡ パターンⅢ パターンⅣ パターンⅤ パターンⅥD65 1.337212 1.370473 1.337212 1.370473 1.454183 1.337212D50 1.306609 0.56235 1.306609 1.465385 1.314956 1.306609D75 1.392167 1.392167 1.392167 0.565789 1.392167 1.392167R 0.736283 0.643659 0.777437 0.713588 0.630741 1.111385G 1.944827 0.812685 1.700311 1.314316 1.367239 1.890981B 1.989236 1.629448 1.989236 1.909739 1.827775 1.909739
分解レベル 回帰式 決定係数R2
レベル1 y = -218.67x2 + 129.01x - 9.0667 0.1195
レベル2 y = -1674.3x2 + 1065.7x + 23.445 0.7663
レベル3 y = 4960.4x2 - 2477.3x + 727.44 0.9326
レベル4 y = -33252x2 + 19965x + 651.01 0.9722
レベル5 y = 42296x2 - 52246x + 15890 0.9632
レベル6 y = -410605x2 + 216743x - 3959.9 0.9969
レベル7 y = -1E+06x2 + 618737x - 37346 0.9881
レベル8 y = -1E+06x2 + 692440x - 42557 0.9848
レベル9 y = -926845x2 + 535856x - 33262 0.9819
レベル10 y = -490958x2 + 283849x - 17621 0.9789
レベル11 y = -217832x2 + 125954x - 7825.1 0.9759
分解レベル 回帰式 決定係数R2
レベル1 y=0
レベル2 y = 564.42x2 - 485.26x + 114.22 0.9963
レベル3 y = 3004.3x2 - 2509.1x + 567.31 0.9983
レベル4 y = 32744x2 - 24161x + 4862.1 0.997
レベル5 y = 153043x2 - 127970x + 28700 0.9988
レベル6 y = 284107x2 - 156482x + 22222 0.98
レベル7 y = 486085x2 - 208023x + 19933 0.983
レベル8 y = 395014x2 - 125133x + 9854.7 0.987
レベル9 y = 110917x2 + 25756x - 6022.3 0.9967
レベル10 y = -52584x2 + 78627x - 10252 0.9893
レベル11 y = -54918x2 + 51442x - 6279.1 0.9104
この式より得られた予想コントラスト感度から予想コン
トラスト感度近似曲線データを算出,ウェーブレット分
解を行い,各分解レベルに応じた重み付け係数を重回帰
分析で算出した.結果を図 15に示す.
これ等の重み付け係数を用い,実験で得られた視認限
界色度幅を持つ呈示刺激を色の視認性画像へと変換する.
3.3.4 第二実験結果と考察
第二実験の結果,得られた限界色度変化幅を用いて色
の視認性画像への変換を行った.画像中の閾値倍率の最
大値を表 5に示す.
また,表 6に見えやすさ評価値を示す.
D50,D75に関しては第一実験での D65と同様の傾向が
見られた.R,G,Bについては閾値倍率 1付近から 10付近
までと,比較的大きなばらつきが見られたが,見えやす
さ評価において全て 2;「見える」以下であることから,
妥当と言える結果を得られたと考える.ばらつきの原因
は R,G,Bにおいて被験者個々の限界に大きな差が発生し
たためであり,精度を向上には多くの被験者実験データ
の取得が必要であると考える.
また,3.3.3 図 15の重み付け係数について Y を重み
付け係数,Xを u’,v’色度として,分解レベル別の予測式
算出を行った.結果を以下表 7,8に示す.
高い決定係数を持つ予測式を得ることができたが,表 7
の u’成分レベル 1については極端に決定係数が低くなり
表 8の v’成分レベル 1は全ての係数が 0となった.これ
らは,色度によって視認可能か否かの境界の空間周波数
レベルであるので,精度の高い予測式を得るためには更
に多くのサンプルデータが必要となる.
4.結言
本研究では既往研究により理論が示唆されていた色の
視認性画像を実際に作成することが出来た.
第一実験では作成した色の視認性画像の有効性を検証
し,有効性を示すことができた.
第二実験では有効範囲の拡張を図るため,色度で異な
る重み付け係数を算出するためにコントラスト感度予測
モデルの有効性検証を行った.結果,有効性を示すこと
が出来,一部精度に改善点は残るが,重み付け係数予測
式を考案した.
参考文献
(1) 岩本朋子:「視認性評価法における閾値と見えやすさの関係」
日本建築学会学術講演梗概集,環境工学1D-1,2008, pp491-492
(2) 島崎航 :「コントラスト感度に基づく視認性と減能グレア
との関係」, 東京工業大学修士論文梗概集, 2009
(3) 清水寿明:「色の効果を考慮した視認性評価法」日本建築学
会学術講演梗概集 D-1, 環境工学1,2010,pp507-508
(4) 鹿目明夫:「Lu’v’表色系を用いた色の視認性評価」, 東京工
業大学修士論文梗概集, 2011
(5)中村芳樹,江川光徳:多重フィルタリングを用いた明るさ感の
予測,照明学会全国大会講演論文集,2002,pp.229-230
図 15 重み付け係数
表 5色の視認限界画像中の閾値倍率最大値
表 6 見えやすさ評価
表 7 u’成分予測式 表 8 v’成分予測式
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