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発行月 : 平成25年12月発 行 : 田辺三菱製薬株式会社

〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

ファーマスコープは病院、保険薬局で輝く薬剤師の声をお届けする情報誌です。

山口県版 Yamaguchi特別号

~さらなる飛躍に向けた業務展開と課題~

山口県病院薬剤師会 会長山口大学医学部附属病院薬剤部長古川 裕之 先生

綜合病院社会保険徳山中央病院 薬剤部長佐藤 真也 先生

新時代を迎えた病院薬剤師

■山口県における病棟薬剤業務の現状――最初に、病棟薬剤業務実施加算の届け出状況についてお伺いします。

古川 2013年8月現在、山口県では10施設、約1割が届け出をしています。病床規模で見ると300床クラスが1施設、それ以外は全て200床以下です。病棟薬剤業務実施加算の算定においては、薬剤師数と病棟数がバランスしている施設が取りやすく、また、薬剤師の増員を含めて病院経営側の力の入れ具合にも左右されます。いずれにしても、私は人員を増やさなければ加算新設の目的に叶う業務は実施できないと考えています。2012年9月以降、届け出施設が増えていない大きな要因は薬剤師不足ですが、各施設が病棟薬剤業務の実施に向けて努力をしているというのが山口県の現状です。

――山口県病院薬剤師会(以下、県病薬)の支援体制と今後の計画についてお聞かせください。

古川 今回の加算新設に伴い、県病薬では従来の「病棟活動小委員会」を「病棟薬剤業務委員会」と名称を改め、加算に関する実態調査や研究を行うことにしました。今後、先行施設の事例収集と情報共有の他、効果の検証のための共同研究も企画・推進していきます。また、2013年9月の薬学研究会例会では病棟薬剤業務をテーマに、実践病院が取り組みと成果を報告しました。今後は病院見学などの機会を設けたいと思っています。この他、療養病床委員会では、限られた人員で病棟薬剤業務を効率的に実施するために「病棟薬剤業務支援ソフト」を開発し、共同利用を進めています。主に持参薬管理とそれに基づく処方提案、情報提供を目指したもので、山口県内にとどまらず、広く全国で活用されることを前提にしています。最大の課題である人員確保については、全国に山口県の良さをアピールし、県全体のマンパワー増強を図りたいと思います。一方で、教育機関である大学病院の機能を活用した、薬剤師全体のレベルアップも長い目で見れば大切です。例えば、薬学部卒業後、最初の2~3年間は大学病院に勤務し、そのキャリアをベースに他の病院で即戦力として活躍する薬剤師を育成

することもできるのではないかと思います。

――お二方の施設では病棟薬剤業務および人員確保の状況はいかがですか。

佐藤 徳山中央病院(519床)は、2014年夏もしくは秋の算定開始を目標に、2年前から病棟業務の拡充やSPD導入などによる業務の効率化に取り組んできました。現在、薬剤師17人の他、調剤補助員とSPDスタッフ各4人という体制ですが、来年度は薬剤師6人の採用が既に決まっていますので、救急・ICUを含む全12病棟で病棟薬剤業務を実施する予定です。私は2013年4月に薬剤部長に就任したばかりですが、副部長の時から温めてきた採用戦略をさっそく実行に移しました。一つは、募集の時期を早めて5月に面接を実施すること、二つ目はホームページの一新です。学生は必ずホームページで薬剤部の方針や業務内容をリサーチしますので、内容を充実させました。三つ目は、募集要項の配付先を近県の大学だけでなく、富山県以西の全薬科大学に広げました。その結果、予想を上回る13人の応募者があったのです。この他、薬剤部を中心とした病院見学や実務実習を積極的に受け入れています。実務実習では、来年度からこれまでの定員6名から9名に増

員したいと考えております。

古川 素晴らしいですね。やはりそういった努力や工夫が大切です。山口大学医学部附属病院(736床)でも、病棟薬剤業務の実施に向けて詳細なスケジュールを立て、戦略的に取り組んできました。2012年4月からモデル病棟での常駐を開始し、段階的に業務モデルの構築を進め、標準化と検証を行いました。その一方で、病院経営サイドには業務の目的と加算算定後の収支予測とともに、モデル病棟での実績を根拠として提示したところ、14人の定数増員が認められ、2013年度は7人、2014年度には少なくとも10人の新人を迎えます。当初の計画では2013年8月から算定を開始することになっていましたが、間際になって産科病棟のNICU・GCUも対象となることが判明したために一度見送り、2014年7月に開始する予定です。しかし、実際には全病棟で週20時間以上の業務を実施しており、1年をかけてさらにレベルアップを図ろうと前向きに取り組んでいます。今年、薬剤部の部屋が改装されたのですが、そこには部署を仕切る壁はありません。また、業務をローテーション制にして、原則全員が病棟業務を行いますから、薬剤部内の意識統一や情報共有がさらに進むと思います。

――佐藤先生は増員に当たってどのようなことを訴求されたのですか。

佐藤 増員を認めてもらうのは容易ではありませんでした。事務部門と綿密な打ち合わせの上で、院長はじめ管理者にプレゼンをし、2回目には、まずSPD導入による医薬品購入額の削減効果を数値で示しました。そして病棟薬剤業務実施加算の対象である12病棟の不足時間をそれぞれの病棟の現状から解説し、薬剤師が機能を発揮するために体制を整えていただけるように訴えました。さらに管理者の心を動かしたのは応募してくれた学生達でした。学生達は病棟での活躍を目標に当院を志望しています。私は面接を前にその気持ちを表現してもらうように要望しました。彼らの熱意が通じ人選が難航するほど良い人材が集まりました。戦略的に取り組むことが大切ですが、チーム医療の一員として協働で活

躍したい意識と熱意も大切と感じています。

■病棟薬剤業務の標準化への取り組み――病棟薬剤業務の標準化への取り組みを中心に、具体的な業務体制や業務内容について教えてください。

古川 第一段階として、全病棟共通部分の標準的業務を確実に身に付け、余裕ができた時点で各病棟の特徴的な業務を積み上げていく方針です。業務体制については、当初は1フロア2看護単位に3人を配置したのですが、病棟によって業務量が異なるため、今後は業務量に応じた人員配置を検討しています。当院では8フロア16看護単位を3つのグループに分け、各グループには核となるコーディネーターを配置しています。それによりスタッフ間の情報共有のほか、当直や休暇による不在者のフォローもグループ内で対応できる体制にしたいのですが、そのためには業務の標準化が不可欠です。標準化モデルの構築において最初に行ったのは、基本となるコンセプトを視覚的に示し、標準化のイメージをスタッフ間に浸透させることです。次に、病棟業務

山口県版 特別号

山口県版特別号

を入院時・入院中・退院時に分けて、各段階における標準業務を定め、業務手順書を作成しました。40ページ程の業務手順書は、新人を含めて誰が見ても同じように理解できるよう、図表を多用して簡潔かつ分かりやすいものとなっています(資料1)。また、業務支援ツールとして「副作用シグナル確認シート」や「ハイリスク薬の説明用シート」などを作成し、今後はホームページで公開していく予定です。病棟業務に限らず、現状分析に基づくプランニング、そして何よりもビジョンを示すことが大切であり、私は常に「今」と「3年後」を見ながら行動しています。

佐藤 当院でも2年程前にモデル病棟を設定して薬剤師を常駐させました。病棟ごとのローカルルールをある程度受け入れながら、全病棟が協調できるように標準化していく計画でしたが、看護師の補助業務等が多くなり、思うような成果が得られませんでした。そこで、昨年から私自身が泌尿器科病棟に週20時間常駐し、業務モデルを作っているところです。実際に経験して分かったことですが、診療科によっては勤務医が激務のため病棟で活動する時間が少なく、また看護師は医薬品に対する知識や情報が不足しているため本来行うべき看護業務の支障になっていました。そこで看護師の申し送りに参加して医薬品情報を提供したり相談を受けたりすることから、病棟に薬剤師が必要という意見を持たれ始めたことが感じ取れました。

古川 各病棟からはさまざまなニーズが担当薬剤師に寄せられるでしょうが、これが薬剤師の標準業務であり、診療報酬を算定するためには必要な業務であると、事前に院内に周知しておけば、他職種から異論は出ないでしょう。実際、当院でもそれで成功しました。ところで、病棟の業務体制についてはどのように考えていますか。

佐藤 各病棟に業務の8割を担当する主担当1人と、当直明けや休暇による不在時をカバーする副担当を1~2人配置する体制を検討しています。現在、ほぼ全病棟で薬剤管理指導業務を実施していますが、病棟によって薬剤師の介入度合に差があります。例えば、がんや婦人科領域などに比べると、循環器領域、特に救命救急・ICUを任せられる薬剤師が育っていないために、人材育成とともに業務の標準化、均質化は今後の大きな課題です。診療報酬を算定するために求められている必須の業務と実際に医師や看護師が求めている業務の調整を開始しています。

――病棟薬剤業務としてどのような業務に力を入れていかれますか。

佐藤 まずはジェネラリストとして基本的な仕事をしっかり行う体制を確立することが目標です。中でも、現実に医師、看護師が困っていて、薬剤師に求められている持参薬管理については、システム化によって効率化を図ります。また、持参薬も含めて入院時と退院時に患者さんの薬歴や情報を地域とつなげること、すなわち薬薬連携を視野に入れた病棟業務を展開したいと考えています。

古川 当院では次のステップとして、薬剤師の副作用シグナル検出能力の向上と安全管理体制の充実を目指します。また、新薬の製造販売後調査やリスクマネジメントプランへの対応も重要であり、これは大学病院としての責務でもあります。同じように、今後は、各病院がそれぞれの役割や機能に応じた病棟業務の在り方を追求していくことが大切です。なぜならば、病棟薬剤業務実施

加算をゴールではなく、さらなる業務展開に向けたステップにしなければ、評価自体も守れないからです。そのためには薬剤師自身の意識改革が必要であり、根気強く、繰り返しビジョンを伝えていくしかありません。

■薬薬連携の推進と新時代を迎えた薬剤師へのメッセージ――薬薬連携についてはどのような取り組みをされていますか。

古川 当院では、患者さんの自覚症状から副作用を早期に発見するための「副作用シグナル確認シート」を宇部薬剤師会との協働で運用しており、タブレット端末用のアプリケーションも実用化されています。今後、薬局薬剤師の役割は在宅へと広がっていきます

が、在宅患者さんの異変をキャッチして早期に適切な対応をするためにも、このシステムは有用です。また、佐藤先生が言われた通り、退院時の情報提供は非常に重要であり、当院では、お薬手帳と入院中の薬物療法の情報をまとめた「お薬手帳用ファイル」を患者さんにお渡しし、保険薬局との情報共有に役立てています。

佐藤 もともと周南地区では、施設間での薬剤師同士の交流が活発です。合同の研修会などで保険薬局の意見や要望を聞く機会を設けていますので、今後、患者情報の共有化など業務上の連携を進める際にも協力して取り組むことができると思います。その第一歩として、2013年4月から内服抗がん剤単独のケースも含めて化学療法のレジメンをお薬手帳に貼る取り組みをスタートしました。また、分子標的薬等は副作用への慎重な対応が必要ですが、保険薬局で服薬指導や副作用のモニタリングができるように情報提供するほか、薬局側からも副作用モニタリング情報などを「服薬指導報告書」(資料2)により病院薬剤師に提供するなど、共通のパスを用いた双方向性の情報共有が始まっています。このように、少しずつですが薬薬連携が進みつつあります。

古川 山口県では、新人薬剤師研修会を県病薬・県薬合同で行っており、病院と保険薬局の薬剤師が1泊2日のプログラムを通じて、立場を越えた交流が生まれています。同様に、年1回、合同開催による「薬剤師フォーラム」もあり、こうした活動を通じて、薬

薬連携の基盤となる信頼関係が築かれていますから、これからの展開が楽しみですね。

――最後に、新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージをお願いします。

佐藤 今まで薬剤師は薬という「物」を扱う仕事でしたが、今後は患者さんという「人」を見て、さらに医師や看護師など多職種と協働しなければ役割を果たすことはできません。病棟業務を行う上で専門的な知識は必要ですが、それはDI室に電話をすれば解決することも多く、結局のところ、人との信頼関係が築けるかどうかはコミュニケーション能力や人間的な魅力次第ではないでしょうか。ぜひ、信頼される薬剤師になるために、人間力を磨いていってほしいと思います。

古川 私から言いたいのは、一つは「問題を解決する力」を持つことです。医療技術の進歩、環境の変化と共に、これまで経験したことのないさまざまな事象に遭遇するでしょうが、その時に根拠もなくただ走り回るのではなくて、これまで学んできたこと、あるいは今、学んでいることを根拠に解決していく力を身につけてほしいですね。もう一つは、「あれ?」「なぜ?」という疑問を持つことです。そして、科学的な思考で解明していくことが薬剤師としての成長につながります。大事なのは、疑問に感じる感性であり、それが新しい時代へと導く鍵だと思います。

 2012 年度の診療報酬改定において、薬剤師の病棟業務に対する評価として「病棟薬剤業務実施加算」が新設されました。患者さんへの安全かつ適切な薬物療法の提供のために、薬剤師はその専門性を最大限発揮するとともに、チーム医療の一員として、これまで以上に積極的に医師や看護師など他職種との連携・協働を進めることが求められています。 「ファーマスコープ特別号・山口県版 2013」では、山口大学医学部附属病院薬剤部長の古川裕之先生と社会保険徳山中央病院薬剤部長の佐藤真也先生のお二人に、山口県における病棟薬剤業務の現状および山口県病院薬剤師会の支援体制、病棟薬剤業務の標準化および薬薬連携への取り組みについてお話を伺う中から、新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージをお届けします。

撮影 古川裕之先生

山口県版 特別号

山口県病院薬剤師会 会長山口大学医学部附属病院 薬剤部長 

ふる かわ   ひろ ゆき

古川 裕之 先生

綜合病院社会保険 徳山中央病院薬剤部長

さ とう しん や

佐藤 真也 先生

■山口県における病棟薬剤業務の現状――最初に、病棟薬剤業務実施加算の届け出状況についてお伺いします。

古川 2013年8月現在、山口県では10施設、約1割が届け出をしています。病床規模で見ると300床クラスが1施設、それ以外は全て200床以下です。病棟薬剤業務実施加算の算定においては、薬剤師数と病棟数がバランスしている施設が取りやすく、また、薬剤師の増員を含めて病院経営側の力の入れ具合にも左右されます。いずれにしても、私は人員を増やさなければ加算新設の目的に叶う業務は実施できないと考えています。2012年9月以降、届け出施設が増えていない大きな要因は薬剤師不足ですが、各施設が病棟薬剤業務の実施に向けて努力をしているというのが山口県の現状です。

――山口県病院薬剤師会(以下、県病薬)の支援体制と今後の計画についてお聞かせください。

古川 今回の加算新設に伴い、県病薬では従来の「病棟活動小委員会」を「病棟薬剤業務委員会」と名称を改め、加算に関する実態調査や研究を行うことにしました。今後、先行施設の事例収集と情報共有の他、効果の検証のための共同研究も企画・推進していきます。また、2013年9月の薬学研究会例会では病棟薬剤業務をテーマに、実践病院が取り組みと成果を報告しました。今後は病院見学などの機会を設けたいと思っています。この他、療養病床委員会では、限られた人員で病棟薬剤業務を効率的に実施するために「病棟薬剤業務支援ソフト」を開発し、共同利用を進めています。主に持参薬管理とそれに基づく処方提案、情報提供を目指したもので、山口県内にとどまらず、広く全国で活用されることを前提にしています。最大の課題である人員確保については、全国に山口県の良さをアピールし、県全体のマンパワー増強を図りたいと思います。一方で、教育機関である大学病院の機能を活用した、薬剤師全体のレベルアップも長い目で見れば大切です。例えば、薬学部卒業後、最初の2~3年間は大学病院に勤務し、そのキャリアをベースに他の病院で即戦力として活躍する薬剤師を育成

することもできるのではないかと思います。

――お二方の施設では病棟薬剤業務および人員確保の状況はいかがですか。

佐藤 徳山中央病院(519床)は、2014年夏もしくは秋の算定開始を目標に、2年前から病棟業務の拡充やSPD導入などによる業務の効率化に取り組んできました。現在、薬剤師17人の他、調剤補助員とSPDスタッフ各4人という体制ですが、来年度は薬剤師6人の採用が既に決まっていますので、救急・ICUを含む全12病棟で病棟薬剤業務を実施する予定です。私は2013年4月に薬剤部長に就任したばかりですが、副部長の時から温めてきた採用戦略をさっそく実行に移しました。一つは、募集の時期を早めて5月に面接を実施すること、二つ目はホームページの一新です。学生は必ずホームページで薬剤部の方針や業務内容をリサーチしますので、内容を充実させました。三つ目は、募集要項の配付先を近県の大学だけでなく、富山県以西の全薬科大学に広げました。その結果、予想を上回る13人の応募者があったのです。この他、薬剤部を中心とした病院見学や実務実習を積極的に受け入れています。実務実習では、来年度からこれまでの定員6名から9名に増

員したいと考えております。

古川 素晴らしいですね。やはりそういった努力や工夫が大切です。山口大学医学部附属病院(736床)でも、病棟薬剤業務の実施に向けて詳細なスケジュールを立て、戦略的に取り組んできました。2012年4月からモデル病棟での常駐を開始し、段階的に業務モデルの構築を進め、標準化と検証を行いました。その一方で、病院経営サイドには業務の目的と加算算定後の収支予測とともに、モデル病棟での実績を根拠として提示したところ、14人の定数増員が認められ、2013年度は7人、2014年度には少なくとも10人の新人を迎えます。当初の計画では2013年8月から算定を開始することになっていましたが、間際になって産科病棟のNICU・GCUも対象となることが判明したために一度見送り、2014年7月に開始する予定です。しかし、実際には全病棟で週20時間以上の業務を実施しており、1年をかけてさらにレベルアップを図ろうと前向きに取り組んでいます。今年、薬剤部の部屋が改装されたのですが、そこには部署を仕切る壁はありません。また、業務をローテーション制にして、原則全員が病棟業務を行いますから、薬剤部内の意識統一や情報共有がさらに進むと思います。

――佐藤先生は増員に当たってどのようなことを訴求されたのですか。

佐藤 増員を認めてもらうのは容易ではありませんでした。事務部門と綿密な打ち合わせの上で、院長はじめ管理者にプレゼンをし、2回目には、まずSPD導入による医薬品購入額の削減効果を数値で示しました。そして病棟薬剤業務実施加算の対象である12病棟の不足時間をそれぞれの病棟の現状から解説し、薬剤師が機能を発揮するために体制を整えていただけるように訴えました。さらに管理者の心を動かしたのは応募してくれた学生達でした。学生達は病棟での活躍を目標に当院を志望しています。私は面接を前にその気持ちを表現してもらうように要望しました。彼らの熱意が通じ人選が難航するほど良い人材が集まりました。戦略的に取り組むことが大切ですが、チーム医療の一員として協働で活

躍したい意識と熱意も大切と感じています。

■病棟薬剤業務の標準化への取り組み――病棟薬剤業務の標準化への取り組みを中心に、具体的な業務体制や業務内容について教えてください。

古川 第一段階として、全病棟共通部分の標準的業務を確実に身に付け、余裕ができた時点で各病棟の特徴的な業務を積み上げていく方針です。業務体制については、当初は1フロア2看護単位に3人を配置したのですが、病棟によって業務量が異なるため、今後は業務量に応じた人員配置を検討しています。当院では8フロア16看護単位を3つのグループに分け、各グループには核となるコーディネーターを配置しています。それによりスタッフ間の情報共有のほか、当直や休暇による不在者のフォローもグループ内で対応できる体制にしたいのですが、そのためには業務の標準化が不可欠です。標準化モデルの構築において最初に行ったのは、基本となるコンセプトを視覚的に示し、標準化のイメージをスタッフ間に浸透させることです。次に、病棟業務

を入院時・入院中・退院時に分けて、各段階における標準業務を定め、業務手順書を作成しました。40ページ程の業務手順書は、新人を含めて誰が見ても同じように理解できるよう、図表を多用して簡潔かつ分かりやすいものとなっています(資料1)。また、業務支援ツールとして「副作用シグナル確認シート」や「ハイリスク薬の説明用シート」などを作成し、今後はホームページで公開していく予定です。病棟業務に限らず、現状分析に基づくプランニング、そして何よりもビジョンを示すことが大切であり、私は常に「今」と「3年後」を見ながら行動しています。

佐藤 当院でも2年程前にモデル病棟を設定して薬剤師を常駐させました。病棟ごとのローカルルールをある程度受け入れながら、全病棟が協調できるように標準化していく計画でしたが、看護師の補助業務等が多くなり、思うような成果が得られませんでした。そこで、昨年から私自身が泌尿器科病棟に週20時間常駐し、業務モデルを作っているところです。実際に経験して分かったことですが、診療科によっては勤務医が激務のため病棟で活動する時間が少なく、また看護師は医薬品に対する知識や情報が不足しているため本来行うべき看護業務の支障になっていました。そこで看護師の申し送りに参加して医薬品情報を提供したり相談を受けたりすることから、病棟に薬剤師が必要という意見を持たれ始めたことが感じ取れました。

古川 各病棟からはさまざまなニーズが担当薬剤師に寄せられるでしょうが、これが薬剤師の標準業務であり、診療報酬を算定するためには必要な業務であると、事前に院内に周知しておけば、他職種から異論は出ないでしょう。実際、当院でもそれで成功しました。ところで、病棟の業務体制についてはどのように考えていますか。

佐藤 各病棟に業務の8割を担当する主担当1人と、当直明けや休暇による不在時をカバーする副担当を1~2人配置する体制を検討しています。現在、ほぼ全病棟で薬剤管理指導業務を実施していますが、病棟によって薬剤師の介入度合に差があります。例えば、がんや婦人科領域などに比べると、循環器領域、特に救命救急・ICUを任せられる薬剤師が育っていないために、人材育成とともに業務の標準化、均質化は今後の大きな課題です。診療報酬を算定するために求められている必須の業務と実際に医師や看護師が求めている業務の調整を開始しています。

――病棟薬剤業務としてどのような業務に力を入れていかれますか。

佐藤 まずはジェネラリストとして基本的な仕事をしっかり行う体制を確立することが目標です。中でも、現実に医師、看護師が困っていて、薬剤師に求められている持参薬管理については、システム化によって効率化を図ります。また、持参薬も含めて入院時と退院時に患者さんの薬歴や情報を地域とつなげること、すなわち薬薬連携を視野に入れた病棟業務を展開したいと考えています。

古川 当院では次のステップとして、薬剤師の副作用シグナル検出能力の向上と安全管理体制の充実を目指します。また、新薬の製造販売後調査やリスクマネジメントプランへの対応も重要であり、これは大学病院としての責務でもあります。同じように、今後は、各病院がそれぞれの役割や機能に応じた病棟業務の在り方を追求していくことが大切です。なぜならば、病棟薬剤業務実施

加算をゴールではなく、さらなる業務展開に向けたステップにしなければ、評価自体も守れないからです。そのためには薬剤師自身の意識改革が必要であり、根気強く、繰り返しビジョンを伝えていくしかありません。

■薬薬連携の推進と新時代を迎えた薬剤師へのメッセージ――薬薬連携についてはどのような取り組みをされていますか。

古川 当院では、患者さんの自覚症状から副作用を早期に発見するための「副作用シグナル確認シート」を宇部薬剤師会との協働で運用しており、タブレット端末用のアプリケーションも実用化されています。今後、薬局薬剤師の役割は在宅へと広がっていきます

が、在宅患者さんの異変をキャッチして早期に適切な対応をするためにも、このシステムは有用です。また、佐藤先生が言われた通り、退院時の情報提供は非常に重要であり、当院では、お薬手帳と入院中の薬物療法の情報をまとめた「お薬手帳用ファイル」を患者さんにお渡しし、保険薬局との情報共有に役立てています。

佐藤 もともと周南地区では、施設間での薬剤師同士の交流が活発です。合同の研修会などで保険薬局の意見や要望を聞く機会を設けていますので、今後、患者情報の共有化など業務上の連携を進める際にも協力して取り組むことができると思います。その第一歩として、2013年4月から内服抗がん剤単独のケースも含めて化学療法のレジメンをお薬手帳に貼る取り組みをスタートしました。また、分子標的薬等は副作用への慎重な対応が必要ですが、保険薬局で服薬指導や副作用のモニタリングができるように情報提供するほか、薬局側からも副作用モニタリング情報などを「服薬指導報告書」(資料2)により病院薬剤師に提供するなど、共通のパスを用いた双方向性の情報共有が始まっています。このように、少しずつですが薬薬連携が進みつつあります。

古川 山口県では、新人薬剤師研修会を県病薬・県薬合同で行っており、病院と保険薬局の薬剤師が1泊2日のプログラムを通じて、立場を越えた交流が生まれています。同様に、年1回、合同開催による「薬剤師フォーラム」もあり、こうした活動を通じて、薬

薬連携の基盤となる信頼関係が築かれていますから、これからの展開が楽しみですね。

――最後に、新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージをお願いします。

佐藤 今まで薬剤師は薬という「物」を扱う仕事でしたが、今後は患者さんという「人」を見て、さらに医師や看護師など多職種と協働しなければ役割を果たすことはできません。病棟業務を行う上で専門的な知識は必要ですが、それはDI室に電話をすれば解決することも多く、結局のところ、人との信頼関係が築けるかどうかはコミュニケーション能力や人間的な魅力次第ではないでしょうか。ぜひ、信頼される薬剤師になるために、人間力を磨いていってほしいと思います。

古川 私から言いたいのは、一つは「問題を解決する力」を持つことです。医療技術の進歩、環境の変化と共に、これまで経験したことのないさまざまな事象に遭遇するでしょうが、その時に根拠もなくただ走り回るのではなくて、これまで学んできたこと、あるいは今、学んでいることを根拠に解決していく力を身につけてほしいですね。もう一つは、「あれ?」「なぜ?」という疑問を持つことです。そして、科学的な思考で解明していくことが薬剤師としての成長につながります。大事なのは、疑問に感じる感性であり、それが新しい時代へと導く鍵だと思います。

業務手順書、病棟薬剤業務の標準化ツールなど(山口大学医学部附属病院)

資料1

病棟薬剤業務実施に向けた取り組み(徳山中央病院)

資料2

●●●●●●●●●●錠

山口県版 特別号

山口県病院薬剤師会 会長山口大学医学部附属病院 薬剤部長 

ふる かわ   ひろ ゆき

古川 裕之 先生

綜合病院社会保険 徳山中央病院薬剤部長

さ とう しん や

佐藤 真也 先生

■山口県における病棟薬剤業務の現状――最初に、病棟薬剤業務実施加算の届け出状況についてお伺いします。

古川 2013年8月現在、山口県では10施設、約1割が届け出をしています。病床規模で見ると300床クラスが1施設、それ以外は全て200床以下です。病棟薬剤業務実施加算の算定においては、薬剤師数と病棟数がバランスしている施設が取りやすく、また、薬剤師の増員を含めて病院経営側の力の入れ具合にも左右されます。いずれにしても、私は人員を増やさなければ加算新設の目的に叶う業務は実施できないと考えています。2012年9月以降、届け出施設が増えていない大きな要因は薬剤師不足ですが、各施設が病棟薬剤業務の実施に向けて努力をしているというのが山口県の現状です。

――山口県病院薬剤師会(以下、県病薬)の支援体制と今後の計画についてお聞かせください。

古川 今回の加算新設に伴い、県病薬では従来の「病棟活動小委員会」を「病棟薬剤業務委員会」と名称を改め、加算に関する実態調査や研究を行うことにしました。今後、先行施設の事例収集と情報共有の他、効果の検証のための共同研究も企画・推進していきます。また、2013年9月の薬学研究会例会では病棟薬剤業務をテーマに、実践病院が取り組みと成果を報告しました。今後は病院見学などの機会を設けたいと思っています。この他、療養病床委員会では、限られた人員で病棟薬剤業務を効率的に実施するために「病棟薬剤業務支援ソフト」を開発し、共同利用を進めています。主に持参薬管理とそれに基づく処方提案、情報提供を目指したもので、山口県内にとどまらず、広く全国で活用されることを前提にしています。最大の課題である人員確保については、全国に山口県の良さをアピールし、県全体のマンパワー増強を図りたいと思います。一方で、教育機関である大学病院の機能を活用した、薬剤師全体のレベルアップも長い目で見れば大切です。例えば、薬学部卒業後、最初の2~3年間は大学病院に勤務し、そのキャリアをベースに他の病院で即戦力として活躍する薬剤師を育成

することもできるのではないかと思います。

――お二方の施設では病棟薬剤業務および人員確保の状況はいかがですか。

佐藤 徳山中央病院(519床)は、2014年夏もしくは秋の算定開始を目標に、2年前から病棟業務の拡充やSPD導入などによる業務の効率化に取り組んできました。現在、薬剤師17人の他、調剤補助員とSPDスタッフ各4人という体制ですが、来年度は薬剤師6人の採用が既に決まっていますので、救急・ICUを含む全12病棟で病棟薬剤業務を実施する予定です。私は2013年4月に薬剤部長に就任したばかりですが、副部長の時から温めてきた採用戦略をさっそく実行に移しました。一つは、募集の時期を早めて5月に面接を実施すること、二つ目はホームページの一新です。学生は必ずホームページで薬剤部の方針や業務内容をリサーチしますので、内容を充実させました。三つ目は、募集要項の配付先を近県の大学だけでなく、富山県以西の全薬科大学に広げました。その結果、予想を上回る13人の応募者があったのです。この他、薬剤部を中心とした病院見学や実務実習を積極的に受け入れています。実務実習では、来年度からこれまでの定員6名から9名に増

員したいと考えております。

古川 素晴らしいですね。やはりそういった努力や工夫が大切です。山口大学医学部附属病院(736床)でも、病棟薬剤業務の実施に向けて詳細なスケジュールを立て、戦略的に取り組んできました。2012年4月からモデル病棟での常駐を開始し、段階的に業務モデルの構築を進め、標準化と検証を行いました。その一方で、病院経営サイドには業務の目的と加算算定後の収支予測とともに、モデル病棟での実績を根拠として提示したところ、14人の定数増員が認められ、2013年度は7人、2014年度には少なくとも10人の新人を迎えます。当初の計画では2013年8月から算定を開始することになっていましたが、間際になって産科病棟のNICU・GCUも対象となることが判明したために一度見送り、2014年7月に開始する予定です。しかし、実際には全病棟で週20時間以上の業務を実施しており、1年をかけてさらにレベルアップを図ろうと前向きに取り組んでいます。今年、薬剤部の部屋が改装されたのですが、そこには部署を仕切る壁はありません。また、業務をローテーション制にして、原則全員が病棟業務を行いますから、薬剤部内の意識統一や情報共有がさらに進むと思います。

――佐藤先生は増員に当たってどのようなことを訴求されたのですか。

佐藤 増員を認めてもらうのは容易ではありませんでした。事務部門と綿密な打ち合わせの上で、院長はじめ管理者にプレゼンをし、2回目には、まずSPD導入による医薬品購入額の削減効果を数値で示しました。そして病棟薬剤業務実施加算の対象である12病棟の不足時間をそれぞれの病棟の現状から解説し、薬剤師が機能を発揮するために体制を整えていただけるように訴えました。さらに管理者の心を動かしたのは応募してくれた学生達でした。学生達は病棟での活躍を目標に当院を志望しています。私は面接を前にその気持ちを表現してもらうように要望しました。彼らの熱意が通じ人選が難航するほど良い人材が集まりました。戦略的に取り組むことが大切ですが、チーム医療の一員として協働で活

躍したい意識と熱意も大切と感じています。

■病棟薬剤業務の標準化への取り組み――病棟薬剤業務の標準化への取り組みを中心に、具体的な業務体制や業務内容について教えてください。

古川 第一段階として、全病棟共通部分の標準的業務を確実に身に付け、余裕ができた時点で各病棟の特徴的な業務を積み上げていく方針です。業務体制については、当初は1フロア2看護単位に3人を配置したのですが、病棟によって業務量が異なるため、今後は業務量に応じた人員配置を検討しています。当院では8フロア16看護単位を3つのグループに分け、各グループには核となるコーディネーターを配置しています。それによりスタッフ間の情報共有のほか、当直や休暇による不在者のフォローもグループ内で対応できる体制にしたいのですが、そのためには業務の標準化が不可欠です。標準化モデルの構築において最初に行ったのは、基本となるコンセプトを視覚的に示し、標準化のイメージをスタッフ間に浸透させることです。次に、病棟業務

を入院時・入院中・退院時に分けて、各段階における標準業務を定め、業務手順書を作成しました。40ページ程の業務手順書は、新人を含めて誰が見ても同じように理解できるよう、図表を多用して簡潔かつ分かりやすいものとなっています(資料1)。また、業務支援ツールとして「副作用シグナル確認シート」や「ハイリスク薬の説明用シート」などを作成し、今後はホームページで公開していく予定です。病棟業務に限らず、現状分析に基づくプランニング、そして何よりもビジョンを示すことが大切であり、私は常に「今」と「3年後」を見ながら行動しています。

佐藤 当院でも2年程前にモデル病棟を設定して薬剤師を常駐させました。病棟ごとのローカルルールをある程度受け入れながら、全病棟が協調できるように標準化していく計画でしたが、看護師の補助業務等が多くなり、思うような成果が得られませんでした。そこで、昨年から私自身が泌尿器科病棟に週20時間常駐し、業務モデルを作っているところです。実際に経験して分かったことですが、診療科によっては勤務医が激務のため病棟で活動する時間が少なく、また看護師は医薬品に対する知識や情報が不足しているため本来行うべき看護業務の支障になっていました。そこで看護師の申し送りに参加して医薬品情報を提供したり相談を受けたりすることから、病棟に薬剤師が必要という意見を持たれ始めたことが感じ取れました。

古川 各病棟からはさまざまなニーズが担当薬剤師に寄せられるでしょうが、これが薬剤師の標準業務であり、診療報酬を算定するためには必要な業務であると、事前に院内に周知しておけば、他職種から異論は出ないでしょう。実際、当院でもそれで成功しました。ところで、病棟の業務体制についてはどのように考えていますか。

佐藤 各病棟に業務の8割を担当する主担当1人と、当直明けや休暇による不在時をカバーする副担当を1~2人配置する体制を検討しています。現在、ほぼ全病棟で薬剤管理指導業務を実施していますが、病棟によって薬剤師の介入度合に差があります。例えば、がんや婦人科領域などに比べると、循環器領域、特に救命救急・ICUを任せられる薬剤師が育っていないために、人材育成とともに業務の標準化、均質化は今後の大きな課題です。診療報酬を算定するために求められている必須の業務と実際に医師や看護師が求めている業務の調整を開始しています。

――病棟薬剤業務としてどのような業務に力を入れていかれますか。

佐藤 まずはジェネラリストとして基本的な仕事をしっかり行う体制を確立することが目標です。中でも、現実に医師、看護師が困っていて、薬剤師に求められている持参薬管理については、システム化によって効率化を図ります。また、持参薬も含めて入院時と退院時に患者さんの薬歴や情報を地域とつなげること、すなわち薬薬連携を視野に入れた病棟業務を展開したいと考えています。

古川 当院では次のステップとして、薬剤師の副作用シグナル検出能力の向上と安全管理体制の充実を目指します。また、新薬の製造販売後調査やリスクマネジメントプランへの対応も重要であり、これは大学病院としての責務でもあります。同じように、今後は、各病院がそれぞれの役割や機能に応じた病棟業務の在り方を追求していくことが大切です。なぜならば、病棟薬剤業務実施

加算をゴールではなく、さらなる業務展開に向けたステップにしなければ、評価自体も守れないからです。そのためには薬剤師自身の意識改革が必要であり、根気強く、繰り返しビジョンを伝えていくしかありません。

■薬薬連携の推進と新時代を迎えた薬剤師へのメッセージ――薬薬連携についてはどのような取り組みをされていますか。

古川 当院では、患者さんの自覚症状から副作用を早期に発見するための「副作用シグナル確認シート」を宇部薬剤師会との協働で運用しており、タブレット端末用のアプリケーションも実用化されています。今後、薬局薬剤師の役割は在宅へと広がっていきます

が、在宅患者さんの異変をキャッチして早期に適切な対応をするためにも、このシステムは有用です。また、佐藤先生が言われた通り、退院時の情報提供は非常に重要であり、当院では、お薬手帳と入院中の薬物療法の情報をまとめた「お薬手帳用ファイル」を患者さんにお渡しし、保険薬局との情報共有に役立てています。

佐藤 もともと周南地区では、施設間での薬剤師同士の交流が活発です。合同の研修会などで保険薬局の意見や要望を聞く機会を設けていますので、今後、患者情報の共有化など業務上の連携を進める際にも協力して取り組むことができると思います。その第一歩として、2013年4月から内服抗がん剤単独のケースも含めて化学療法のレジメンをお薬手帳に貼る取り組みをスタートしました。また、分子標的薬等は副作用への慎重な対応が必要ですが、保険薬局で服薬指導や副作用のモニタリングができるように情報提供するほか、薬局側からも副作用モニタリング情報などを「服薬指導報告書」(資料2)により病院薬剤師に提供するなど、共通のパスを用いた双方向性の情報共有が始まっています。このように、少しずつですが薬薬連携が進みつつあります。

古川 山口県では、新人薬剤師研修会を県病薬・県薬合同で行っており、病院と保険薬局の薬剤師が1泊2日のプログラムを通じて、立場を越えた交流が生まれています。同様に、年1回、合同開催による「薬剤師フォーラム」もあり、こうした活動を通じて、薬

薬連携の基盤となる信頼関係が築かれていますから、これからの展開が楽しみですね。

――最後に、新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージをお願いします。

佐藤 今まで薬剤師は薬という「物」を扱う仕事でしたが、今後は患者さんという「人」を見て、さらに医師や看護師など多職種と協働しなければ役割を果たすことはできません。病棟業務を行う上で専門的な知識は必要ですが、それはDI室に電話をすれば解決することも多く、結局のところ、人との信頼関係が築けるかどうかはコミュニケーション能力や人間的な魅力次第ではないでしょうか。ぜひ、信頼される薬剤師になるために、人間力を磨いていってほしいと思います。

古川 私から言いたいのは、一つは「問題を解決する力」を持つことです。医療技術の進歩、環境の変化と共に、これまで経験したことのないさまざまな事象に遭遇するでしょうが、その時に根拠もなくただ走り回るのではなくて、これまで学んできたこと、あるいは今、学んでいることを根拠に解決していく力を身につけてほしいですね。もう一つは、「あれ?」「なぜ?」という疑問を持つことです。そして、科学的な思考で解明していくことが薬剤師としての成長につながります。大事なのは、疑問に感じる感性であり、それが新しい時代へと導く鍵だと思います。

業務手順書、病棟薬剤業務の標準化ツールなど(山口大学医学部附属病院)

資料1

病棟薬剤業務実施に向けた取り組み(徳山中央病院)

資料2

●●●●●●●●●●錠

田辺三菱製薬株式会社ホームページ http://www.mt-pharma.co.jp

発行月 : 平成25年12月発 行 : 田辺三菱製薬株式会社

〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

ファーマスコープは病院、保険薬局で輝く薬剤師の声をお届けする情報誌です。

山口県版 Yamaguchi特別号

~さらなる飛躍に向けた業務展開と課題~

山口県病院薬剤師会 会長山口大学医学部附属病院薬剤部長古川 裕之 先生

綜合病院社会保険徳山中央病院 薬剤部長佐藤 真也 先生

新時代を迎えた病院薬剤師

■山口県における病棟薬剤業務の現状――最初に、病棟薬剤業務実施加算の届け出状況についてお伺いします。

古川 2013年8月現在、山口県では10施設、約1割が届け出をしています。病床規模で見ると300床クラスが1施設、それ以外は全て200床以下です。病棟薬剤業務実施加算の算定においては、薬剤師数と病棟数がバランスしている施設が取りやすく、また、薬剤師の増員を含めて病院経営側の力の入れ具合にも左右されます。いずれにしても、私は人員を増やさなければ加算新設の目的に叶う業務は実施できないと考えています。2012年9月以降、届け出施設が増えていない大きな要因は薬剤師不足ですが、各施設が病棟薬剤業務の実施に向けて努力をしているというのが山口県の現状です。

――山口県病院薬剤師会(以下、県病薬)の支援体制と今後の計画についてお聞かせください。

古川 今回の加算新設に伴い、県病薬では従来の「病棟活動小委員会」を「病棟薬剤業務委員会」と名称を改め、加算に関する実態調査や研究を行うことにしました。今後、先行施設の事例収集と情報共有の他、効果の検証のための共同研究も企画・推進していきます。また、2013年9月の薬学研究会例会では病棟薬剤業務をテーマに、実践病院が取り組みと成果を報告しました。今後は病院見学などの機会を設けたいと思っています。この他、療養病床委員会では、限られた人員で病棟薬剤業務を効率的に実施するために「病棟薬剤業務支援ソフト」を開発し、共同利用を進めています。主に持参薬管理とそれに基づく処方提案、情報提供を目指したもので、山口県内にとどまらず、広く全国で活用されることを前提にしています。最大の課題である人員確保については、全国に山口県の良さをアピールし、県全体のマンパワー増強を図りたいと思います。一方で、教育機関である大学病院の機能を活用した、薬剤師全体のレベルアップも長い目で見れば大切です。例えば、薬学部卒業後、最初の2~3年間は大学病院に勤務し、そのキャリアをベースに他の病院で即戦力として活躍する薬剤師を育成

することもできるのではないかと思います。

――お二方の施設では病棟薬剤業務および人員確保の状況はいかがですか。

佐藤 徳山中央病院(519床)は、2014年夏もしくは秋の算定開始を目標に、2年前から病棟業務の拡充やSPD導入などによる業務の効率化に取り組んできました。現在、薬剤師17人の他、調剤補助員とSPDスタッフ各4人という体制ですが、来年度は薬剤師6人の採用が既に決まっていますので、救急・ICUを含む全12病棟で病棟薬剤業務を実施する予定です。私は2013年4月に薬剤部長に就任したばかりですが、副部長の時から温めてきた採用戦略をさっそく実行に移しました。一つは、募集の時期を早めて5月に面接を実施すること、二つ目はホームページの一新です。学生は必ずホームページで薬剤部の方針や業務内容をリサーチしますので、内容を充実させました。三つ目は、募集要項の配付先を近県の大学だけでなく、富山県以西の全薬科大学に広げました。その結果、予想を上回る13人の応募者があったのです。この他、薬剤部を中心とした病院見学や実務実習を積極的に受け入れています。実務実習では、来年度からこれまでの定員6名から9名に増

員したいと考えております。

古川 素晴らしいですね。やはりそういった努力や工夫が大切です。山口大学医学部附属病院(736床)でも、病棟薬剤業務の実施に向けて詳細なスケジュールを立て、戦略的に取り組んできました。2012年4月からモデル病棟での常駐を開始し、段階的に業務モデルの構築を進め、標準化と検証を行いました。その一方で、病院経営サイドには業務の目的と加算算定後の収支予測とともに、モデル病棟での実績を根拠として提示したところ、14人の定数増員が認められ、2013年度は7人、2014年度には少なくとも10人の新人を迎えます。当初の計画では2013年8月から算定を開始することになっていましたが、間際になって産科病棟のNICU・GCUも対象となることが判明したために一度見送り、2014年7月に開始する予定です。しかし、実際には全病棟で週20時間以上の業務を実施しており、1年をかけてさらにレベルアップを図ろうと前向きに取り組んでいます。今年、薬剤部の部屋が改装されたのですが、そこには部署を仕切る壁はありません。また、業務をローテーション制にして、原則全員が病棟業務を行いますから、薬剤部内の意識統一や情報共有がさらに進むと思います。

――佐藤先生は増員に当たってどのようなことを訴求されたのですか。

佐藤 増員を認めてもらうのは容易ではありませんでした。事務部門と綿密な打ち合わせの上で、院長はじめ管理者にプレゼンをし、2回目には、まずSPD導入による医薬品購入額の削減効果を数値で示しました。そして病棟薬剤業務実施加算の対象である12病棟の不足時間をそれぞれの病棟の現状から解説し、薬剤師が機能を発揮するために体制を整えていただけるように訴えました。さらに管理者の心を動かしたのは応募してくれた学生達でした。学生達は病棟での活躍を目標に当院を志望しています。私は面接を前にその気持ちを表現してもらうように要望しました。彼らの熱意が通じ人選が難航するほど良い人材が集まりました。戦略的に取り組むことが大切ですが、チーム医療の一員として協働で活

躍したい意識と熱意も大切と感じています。

■病棟薬剤業務の標準化への取り組み――病棟薬剤業務の標準化への取り組みを中心に、具体的な業務体制や業務内容について教えてください。

古川 第一段階として、全病棟共通部分の標準的業務を確実に身に付け、余裕ができた時点で各病棟の特徴的な業務を積み上げていく方針です。業務体制については、当初は1フロア2看護単位に3人を配置したのですが、病棟によって業務量が異なるため、今後は業務量に応じた人員配置を検討しています。当院では8フロア16看護単位を3つのグループに分け、各グループには核となるコーディネーターを配置しています。それによりスタッフ間の情報共有のほか、当直や休暇による不在者のフォローもグループ内で対応できる体制にしたいのですが、そのためには業務の標準化が不可欠です。標準化モデルの構築において最初に行ったのは、基本となるコンセプトを視覚的に示し、標準化のイメージをスタッフ間に浸透させることです。次に、病棟業務

山口県版 特別号

山口県版特別号

を入院時・入院中・退院時に分けて、各段階における標準業務を定め、業務手順書を作成しました。40ページ程の業務手順書は、新人を含めて誰が見ても同じように理解できるよう、図表を多用して簡潔かつ分かりやすいものとなっています(資料1)。また、業務支援ツールとして「副作用シグナル確認シート」や「ハイリスク薬の説明用シート」などを作成し、今後はホームページで公開していく予定です。病棟業務に限らず、現状分析に基づくプランニング、そして何よりもビジョンを示すことが大切であり、私は常に「今」と「3年後」を見ながら行動しています。

佐藤 当院でも2年程前にモデル病棟を設定して薬剤師を常駐させました。病棟ごとのローカルルールをある程度受け入れながら、全病棟が協調できるように標準化していく計画でしたが、看護師の補助業務等が多くなり、思うような成果が得られませんでした。そこで、昨年から私自身が泌尿器科病棟に週20時間常駐し、業務モデルを作っているところです。実際に経験して分かったことですが、診療科によっては勤務医が激務のため病棟で活動する時間が少なく、また看護師は医薬品に対する知識や情報が不足しているため本来行うべき看護業務の支障になっていました。そこで看護師の申し送りに参加して医薬品情報を提供したり相談を受けたりすることから、病棟に薬剤師が必要という意見を持たれ始めたことが感じ取れました。

古川 各病棟からはさまざまなニーズが担当薬剤師に寄せられるでしょうが、これが薬剤師の標準業務であり、診療報酬を算定するためには必要な業務であると、事前に院内に周知しておけば、他職種から異論は出ないでしょう。実際、当院でもそれで成功しました。ところで、病棟の業務体制についてはどのように考えていますか。

佐藤 各病棟に業務の8割を担当する主担当1人と、当直明けや休暇による不在時をカバーする副担当を1~2人配置する体制を検討しています。現在、ほぼ全病棟で薬剤管理指導業務を実施していますが、病棟によって薬剤師の介入度合に差があります。例えば、がんや婦人科領域などに比べると、循環器領域、特に救命救急・ICUを任せられる薬剤師が育っていないために、人材育成とともに業務の標準化、均質化は今後の大きな課題です。診療報酬を算定するために求められている必須の業務と実際に医師や看護師が求めている業務の調整を開始しています。

――病棟薬剤業務としてどのような業務に力を入れていかれますか。

佐藤 まずはジェネラリストとして基本的な仕事をしっかり行う体制を確立することが目標です。中でも、現実に医師、看護師が困っていて、薬剤師に求められている持参薬管理については、システム化によって効率化を図ります。また、持参薬も含めて入院時と退院時に患者さんの薬歴や情報を地域とつなげること、すなわち薬薬連携を視野に入れた病棟業務を展開したいと考えています。

古川 当院では次のステップとして、薬剤師の副作用シグナル検出能力の向上と安全管理体制の充実を目指します。また、新薬の製造販売後調査やリスクマネジメントプランへの対応も重要であり、これは大学病院としての責務でもあります。同じように、今後は、各病院がそれぞれの役割や機能に応じた病棟業務の在り方を追求していくことが大切です。なぜならば、病棟薬剤業務実施

加算をゴールではなく、さらなる業務展開に向けたステップにしなければ、評価自体も守れないからです。そのためには薬剤師自身の意識改革が必要であり、根気強く、繰り返しビジョンを伝えていくしかありません。

■薬薬連携の推進と新時代を迎えた薬剤師へのメッセージ――薬薬連携についてはどのような取り組みをされていますか。

古川 当院では、患者さんの自覚症状から副作用を早期に発見するための「副作用シグナル確認シート」を宇部薬剤師会との協働で運用しており、タブレット端末用のアプリケーションも実用化されています。今後、薬局薬剤師の役割は在宅へと広がっていきます

が、在宅患者さんの異変をキャッチして早期に適切な対応をするためにも、このシステムは有用です。また、佐藤先生が言われた通り、退院時の情報提供は非常に重要であり、当院では、お薬手帳と入院中の薬物療法の情報をまとめた「お薬手帳用ファイル」を患者さんにお渡しし、保険薬局との情報共有に役立てています。

佐藤 もともと周南地区では、施設間での薬剤師同士の交流が活発です。合同の研修会などで保険薬局の意見や要望を聞く機会を設けていますので、今後、患者情報の共有化など業務上の連携を進める際にも協力して取り組むことができると思います。その第一歩として、2013年4月から内服抗がん剤単独のケースも含めて化学療法のレジメンをお薬手帳に貼る取り組みをスタートしました。また、分子標的薬等は副作用への慎重な対応が必要ですが、保険薬局で服薬指導や副作用のモニタリングができるように情報提供するほか、薬局側からも副作用モニタリング情報などを「服薬指導報告書」(資料2)により病院薬剤師に提供するなど、共通のパスを用いた双方向性の情報共有が始まっています。このように、少しずつですが薬薬連携が進みつつあります。

古川 山口県では、新人薬剤師研修会を県病薬・県薬合同で行っており、病院と保険薬局の薬剤師が1泊2日のプログラムを通じて、立場を越えた交流が生まれています。同様に、年1回、合同開催による「薬剤師フォーラム」もあり、こうした活動を通じて、薬

薬連携の基盤となる信頼関係が築かれていますから、これからの展開が楽しみですね。

――最後に、新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージをお願いします。

佐藤 今まで薬剤師は薬という「物」を扱う仕事でしたが、今後は患者さんという「人」を見て、さらに医師や看護師など多職種と協働しなければ役割を果たすことはできません。病棟業務を行う上で専門的な知識は必要ですが、それはDI室に電話をすれば解決することも多く、結局のところ、人との信頼関係が築けるかどうかはコミュニケーション能力や人間的な魅力次第ではないでしょうか。ぜひ、信頼される薬剤師になるために、人間力を磨いていってほしいと思います。

古川 私から言いたいのは、一つは「問題を解決する力」を持つことです。医療技術の進歩、環境の変化と共に、これまで経験したことのないさまざまな事象に遭遇するでしょうが、その時に根拠もなくただ走り回るのではなくて、これまで学んできたこと、あるいは今、学んでいることを根拠に解決していく力を身につけてほしいですね。もう一つは、「あれ?」「なぜ?」という疑問を持つことです。そして、科学的な思考で解明していくことが薬剤師としての成長につながります。大事なのは、疑問に感じる感性であり、それが新しい時代へと導く鍵だと思います。

 2012 年度の診療報酬改定において、薬剤師の病棟業務に対する評価として「病棟薬剤業務実施加算」が新設されました。患者さんへの安全かつ適切な薬物療法の提供のために、薬剤師はその専門性を最大限発揮するとともに、チーム医療の一員として、これまで以上に積極的に医師や看護師など他職種との連携・協働を進めることが求められています。 「ファーマスコープ特別号・山口県版 2013」では、山口大学医学部附属病院薬剤部長の古川裕之先生と社会保険徳山中央病院薬剤部長の佐藤真也先生のお二人に、山口県における病棟薬剤業務の現状および山口県病院薬剤師会の支援体制、病棟薬剤業務の標準化および薬薬連携への取り組みについてお話を伺う中から、新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージをお届けします。

撮影 古川裕之先生

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