RIDE THE - Ansys...値流体力学(CFD)ソフトウェア「ANSYS...

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新しい油田の大半は沖合で発

見されます.海面状態の悪い遠方

沖で行われる深海プロジェクトでは,

浮遊式生産貯蔵積出設備(FPSO)船が多

く利用されます.これまで,こうした船舶が損

傷を受けることなく最も波の高い海面状態に耐えら

れるかどうかを確認するには,時間と費用を要する物

理実験を行うしかありませんでした.Petrobras 社では,

ANSYS のシミュレーションソフトウェアを使用して,必要な実

験回数を減らしつつ,より詳細な荷重データを収集しています.

Daniel Fonseca de Carvalho e Silva(ブラジル リオデジャネイロ, Petrobras,研究員)

RIDE THE

ゴンドワナ超大陸が現在の大陸に分裂して岩塩層が堆積する前に形成された大陸棚上の地層をプレソルト層と言います.過去数十年の間にブラジル大陸棚のプレソルト層で発見された石油埋蔵量は,ブラジルの従来の石油埋蔵量の 4 倍に相当する500 億バレルと推定されています.しかし,この掘削には大きな困難が伴います.油層は,水深最大 3,000m,2,000m の岩盤と 2,000m の岩塩層の下にあるからです.しかも,海岸から最大数百 km 離れ,気象条件や海面状態の厳しい海域の深海に存在するため,炭化水素を油井から汲み上げ,処理後に貯蔵してタンカーやパイプラインに積み出すために使われる FPSO 船にとって,石油や天然ガスを海上に汲み上げることは特に困難な課題となります.

FPSO 船の甲板上に波が切れ目なく流れ込むと,青波という最悪のシナリオが現実化します.青波は,船舶全体を破壊するようなことはありませんが,制御バルブ,ケーブルトレイ,防火装置など,船上の重要な装置にダメージを与える可能性があります.最悪の場合,これが原因で,費用をかけて修理を行う必要が生じ,生産が止まることもあります.1 日に数十万ドルの収入を失う可能性さえあるのです.現在,石油会社は主にスケールモデル実験を実施して,様々な青波条件下での荷重を評価していますが,この方法には限界があります.なぜならば,上甲板の非常に密

石油・ガス

波に乗れ

36 ANSYS ADVANTAGE ISSUE 1 | 2017

集した領域の荷重をスケールモデル実験で監視しなければならないという複雑さがあるからです.また,最大の荷重が作用する場所を事前に予測することは容易ではないため,センサーを正しい位置に配置できないことがよくあります.Petrobras社では,甲板構造物に加わる力を物理試験よりもかなり高い解像度で予測できる数値流体力学(CFD)ソフトウェア「ANSYS Fluent」を使用して,これらの問題を克服しています.

甲板構造物の設計上の問題ポストソルト海域の有義波高は 9m 以下ですが,生産に向けて準備が進められ

ているプレソルト海域の有義波は,それよりもかなり高く最大 12m に達します.FPSO 船の甲板構造物は,この高波に最大 100 年間耐えられるように設計する必要

があります.このグレードアップを図るには,構造上の防護壁や局部補強材などの機能を甲板上の装置に追加しなければならないことがありますが,これによって構造物の重量が増え,コストが上昇するとともに,船舶の貯蔵能力が低下することになります.目標は,過剰設計を行うことなく,十分な安全マージンをとって構造物を設計できるよう,荷重をできるだけ正確に定量化することにあります.

スケールモデル実験には,スケールモデルが非常に小さく,甲板に作用する力を数箇所でしか測定できないという問題があります.他の構造物に作用する力は推定するしかなく,不確かさを考慮すると,大きな推定値をとらざるをえません.また,スケールモデル実験は,計画して実行するのに約 3 ヵ月の期間がかかり,費用もかなり高額になります.こうした問題には 1 次元水力学コードが利用されることがありますが,このようなコードは構造物の形状を考慮に入れていないため,重要な荷重を推定することしかできません.

青波荷重のシミュレーションPetrobras 社のエンジニアは先ご

ろ,ANSYS CFD を使用してこの問題に取り組み,最初にスケールモデル実験のシミュレーションを行いました.これは,シミュレーション結果を簡単に検証できるためです.モデルの試験条件は,青波の影響が大きくなるように慎重に選びました.したがって,この条件は実際の運用形態を反映したものではありません.物理実験では,荷重を 6 箇所で測定し,水位上昇を 38 箇所で測定しました.同社のエンジニアは,この実験結果から波の時系列データを

3

2.5

2

1.5

1

0.5

0

-0.5

Forc

e [N

]

Time [s]

Experiment

ANSYS CFDsimulation

14.8 15 15.2 15.4 15.6 15.8

「ANSYS CFDを利用すれば, 甲板構造物に加わる力を物理試験よりもかなり高い解像度で

予測することができます.」

^ CFDメッシュ.黒色は精細化した 領域を表す.

^ 荷重のシミュレーション結果の検証

© 2017 ANSYS, INC. ANSYS ADVANTAGE 37

収集し,その中から最も重要な部分を選択してから,高速フーリエ変換を実行して対象とする不規則波間隔を線形波成分の組み合わせとして表す MATLABプログラムを作成しました.この波成分の組み合わせを CFD シミュレーションの境界条件として適用するために,Fluent ユーザー定義関数を作成しました.この CFD シミュレーションでは,ダイナミックメッシュで船舶の動きを表現することで,実験室で測定した船舶の動きも境界条件として使用しました.その後,Petrobras 社のエンジニアは,Fluentの volume of fluid(VOF)モデルを利用して水面と空気間の界面を追跡しました.さらに,SST(せん断応力輸送)乱流モデルを用いて,壁面で乱流 / 周波数ベースのモデル(k– ω)を解析し,バルク流で k- εモデルを解析しました.

2 次元モデルでメッシュ精細化調査を行って,波伝播に適したメッシュ解像度を選択しました.さらに,波浪衝撃の事前調査の結果に基づいて,船舶周りのメッシュを定義しました.この 2 つの作業により,約 4,000 万個のセルから成るメッシュが生成されました.その後,Petrobras 社のエンジニアは,海面状態のシミュレーションと実験の結果を比較して,シミュレーションを検証しました.これにより,最大 14 秒間の初期遷移段階が完了した後にシミュレーションデータと物理試験結果が一致することが確認できました.

次に,エンジニアはシミュレーションアニメーションのビデオ画像と実験データを同期させて,砕波効果の位置,時間,強さを定性的に比較しました.さらに,波浪衝撃による流体力を数箇所で測定し,その結果をシミュレーション結果と比較しました.シミュレーションと実験の結果は,モデリングの難しい砕波領域を除いて,よく一致しました.これらのケースでも,シミュレーション値は実測値よりも大きくなりましたが,これは,甲板構造物を設計する際にシミュレーション値を使用しても差し支えないことを意味します.

0.15

0.1

0.05

0

-0.05

-0.1

0

Z [m

]

t [s]

Experiment point AExperiment point BCFD simulation

2 4 6 8 10 12 14 16 18 20

^ 波伝播のシミュレーション結果の検証

「物理実験には約3ヵ月の期間がかかりますが,シミュレーションは約10~50日で終わらせることができます.」

^ 様々な角度からシミュレーションした青波現象

Ride the WAVE (続き)

38 ANSYS ADVANTAGE ISSUE 1 | 2017

シミュレーションによる新たなデータシミュレーションを行った結果,物理実験では測

定できない重要な情報を得ることができました.たとえば,シミュレーションでは,甲板構造物と船体のあらゆる場所に作用する荷重を求めることができました.また,波と船体の相互作用に関わる物理的メカニズム(特に速度場)を把握するのに十分な測定データを初めて収集することができました.

シミュレーションによって物理実験が完全に不要になることはありませんが,必要な実験回数を減らして,時間と費用を節約することができます.物理実験を設定して実施するには約 3 ヵ月の期間がかかり,試験水槽の都合によってはもっと時間を要することも少なくありません.一方,シミュレーションは,問題の複雑さによって異なりますが,約 10 ~ 50 日で終わらせることができます.しかも,将来的に計算リソースを追加することによってこの時間を短縮できる可能性があります.最も重要な点は,シミュレーションを利用したことで荷重をより詳細に予測し,物理試験では測定できない情報を入手できるようになったため,FPSO船が荒海でプレソルト層の石油や天然ガスを汲み上げる際の耐久性を Petrobras 社が効率的に確認できるようになったということです.Petrobras 社は,ANSYS のエリートチャネルパートナーである ESSS 社の協力を得ています.

ReferenceSilva, D.F.C.; Esperança, P.T.T.; Coutinho, A.L.G.A. Green water loads on FPSOs exposed to beam and quartering seas, Part II: CFD simulations. Ocean Engineering, 2016,

「シミュレーションを行った結果,物理実験では測定できない重要な情報を

得ることができました.」

^ シミュレーションの結果は実験結果とよく一致した.

ANSYS CFDで利用できる混相流モデルの概要ansys.com/multiphase

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