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447 UDC 622.782 含 砒 硫 化 銅 鉱 の 脱 砒 焙 焼 法 の 確 立 と そ の 工 業 化* (昭和36年度 渡辺賞牌受賞) 次** The Fundamental Investigation of Dearsenising Roasting of Copper Concentrates and its Industrial Practices Zenji YOSHIMURA The thermodynamical investigations on the thermal decomposition and the oxidation reaction of arsenic-bearing copper concentrates were executed.It was found consequently that the thermal decomposition of enargite occured at the temperatures above 600•Ž approximately,and that,furthermore,the roasting in the atmosphere containing rich SO2 and poor O2,as well as in CO2,was exceedingly effective for dearse- nising Kinkaseki are which contained enargite. Based on these fundamental experiments,the author carried out the dearsenising roasting tests of Kin- kaseki are by pilot fluidised bed roaster in the atmosphere above-mentioned and clarified the conditions required for commercialisation of this method.Moreover in 1956,the author designed to put this method into practice and undertook the construction of the dearsenising roasting plant,whose daily capacity was 40 tons,in Saganoseki Smelter,Nippon Mining Co.Ltd. This plant started on commercial scale in January,1959 and has been in operation satisfactorily and smoothly up to the present with the dearsenising efficiency of more than 80%. 1. 砒 素 を 主 成分 とす る鉱 物 に は 自然砒 素,酸 化 砒 素,砒 酸 塩 な どを主 体 とす る も の もあ るが,一 般 に砒 素 は硫 黄 と と もに産 出す る こ とが 多 く,と くに硫 化 物 鉱 石 中に 少 量 含 ま れ た り,ま た は金 属 硫 砒 化物 の形 で産 出 す る こ と が多い。 周知 の とお り銅,鉛,亜 鉛 な どの金 属 はふ つ うこれ ら 金属の硫化鉱を原料 として製錬が行なわれる。 この製 錬 の原 料 で あ る鉱 石 中 に含 まれ る砒 素 は製 錬 の 各 工程 に侵 入 し,種 々の 悪 影 響 をお よぼ し,ま た金属の 純度 を 下 げ そ の性 質 を劣 化 させ る。 た とえ ば乾 式 製 錬 の 工程 に お い て は処 理 の困 難 な スパ イ ス を生 じ金 属 の実 収 率 を低 下 させ,回 収 硫 酸 中 に混 入 して そ の 純度 を悪 く し た り,硫 酸 工場 の触 媒 の性 能 を低 下 させ る。 ま た 電解 精 製 の 陽極 中 に入 る と,こ の た め余 分 の脱 砒 処理を行な う必要 もあ り,析 出金属 中に混入す る と,そ の純 度 を下 げ,そ の性質を劣化 させる。 この よ うに砒 素 は金 属 の製 錬 工 程 で種 々 の悪 影 響 をお よぼ す の で,製 錬 の な るべ く前 の工程 で これ を分 離 し, 有 利 に 回 収 す る こ とが 望 ま しい の で,従 来 か ら砒 素 の 分 離 に関 して 多 くの方 法 が提 案 され 試 み られ て い るが,砒 素 を有 利 に分離 す るた め の経 済 的 な適 当な 方 法 は ま だ見 出 され てい ない。 とくに最近わが国の非鉄製錬工業においては国内外の 金 属 の需 要 の い ち じ る し い増 大 と貿 易 の 自由化 に そ な え て多 種 多 量 の輸 入 鉱 石 を処 理 し,こ れ を経 済的に有利 に 製 錬 す る こ とが 強 く要 求 され て い る 。 以 上 の 見 地 か ら砒 素 を含 む 硫 化 鉱 を有 利 に 処 理 し,そ の な か に含 まれ る砒 素 を分 離 回収 す る と と もに,金 属製 錬 工程 にお け る砒 素 の害 を で き るだ け 少 な くす る方 法 を 確 立 す るた め,著 者は砒素を含む硫化鉱の一つである含 砒 硫 化 銅 鉱 につ い て,そ の な か に含 まれ る砒 素 の 除去 回 収に関する基礎的研究を行ない,こ の結 果 に も とず い て 砒 素 を有 利 に除 去 回 収 す る方 法 とし て,高 亜硫 酸 ガ ス濃 度,低 酸素濃度の雰囲気における焙焼法についてさらに 検 討 した 。 2. 含砒硫化銅鉱の各種雰囲気の 加熱時における挙動 乾式製錬 の基礎 とな る含素硫化物 の高 温におけ る挙動 に関す る研究 は比較的少ない。著者は これ らに関す る従 来の研究結果 にもとず き中性雰 囲気 におけ る熱分解,酸 化性雰 囲気 におけ る酸 化反応 につい て熱力学的考察 を行 *昭 和37年4月20日 受理 昭和37年 春季大会 において講演 **日 本鉱業株式会社金属事業本部管理室長 現 日立鉱業所製錬部長 (17)

J mmij 78 1962 447 453

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UDC 622.782

含 砒 硫 化 銅鉱 の脱 砒 焙焼 法 の確 立 とその工 業 化*

(昭和36年度 渡辺賞牌受賞)

正 会 員 吉 村 善 次**

The Fundamental Investigation of Dearsenising Roasting

of Copper Concentrates and its Industrial Practices

Zenji YOSHIMURA

The thermodynamical investigations on the thermal decomposition and the oxidation reaction of

arsenic-bearing copper concentrates were executed.It was found consequently that the thermal decomposition

of enargite occured at the temperatures above 600•Ž approximately,and that,furthermore,the roasting in

the atmosphere containing rich SO2 and poor O2,as well as in CO2,was exceedingly effective for dearse-

nising Kinkaseki are which contained enargite.

Based on these fundamental experiments,the author carried out the dearsenising roasting tests of Kin-

kaseki are by pilot fluidised bed roaster in the atmosphere above-mentioned and clarified the conditions

required for commercialisation of this method.Moreover in 1956,the author designed to put this method

into practice and undertook the construction of the dearsenising roasting plant,whose daily capacity was

40 tons,in Saganoseki Smelter,Nippon Mining Co.Ltd.

This plant started on commercial scale in January,1959 and has been in operation satisfactorily and

smoothly up to the present with the dearsenising efficiency of more than 80%.

1. 緒 言

砒 素を主成分 とす る鉱物 には自然砒 素,酸 化砒素,砒

酸塩 な どを主体 とす るものもあ るが,一 般 に砒素 は硫黄

とともに産 出す るこ とが多 く,と くに硫化物鉱石 中に少

量含 まれた り,ま たは金属硫砒化物 の形 で産出す ること

が多い。

周知 の とお り銅,鉛,亜 鉛 な どの金属 はふつ うこれ ら

金属の硫化 鉱を原料 として製錬が行なわれ る。

この製錬 の原料 である鉱石 中に含まれ る砒素 は製錬の

各工程 に侵入 し,種 々の悪影響 をお よぼし,ま た金属の

純度 を下げその性質 を劣化 させ る。た とえば乾式製錬の

工程 においては処理 の困難な スパイスを生 じ金属 の実収

率 を低下 させ,回 収硫酸 中に混入 してその純度 を悪 くし

た り,硫 酸工場 の触媒 の性能 を低下 させ る。

また電解精製 の陽極 中に入 ると,こ のため余分 の脱砒

処理を行な う必要 もあ り,析 出金属 中に混入す る と,そ

の純度 を下げ,そ の性質を劣化 させ る。

この よ うに砒 素は金属 の製錬工程で種 々の悪影響 をお

よぼすので,製 錬 のなるべ く前 の工程 で これを分離 し,

有利に回収す ることが望 ましい ので,従 来 か ら砒素の分

離 に関 して多 くの方法 が提案 され試み られてい るが,砒

素 を有利 に分離 す るための経済的 な適 当な方法はまだ見

出 され てい ない。

とくに最近わが国の非鉄製錬工業 においては国内外 の

金属 の需要のいちじるしい増大 と貿易の 自由化 にそなえ

て多種多量の輸入鉱石 を処理 し,こ れ を経 済的に有利 に

製錬す ることが強 く要求 され ている。

以上の見地か ら砒素 を含む硫化鉱 を有利に処理 し,そ

のなかに含 まれ る砒素 を分離 回収す るとともに,金 属製

錬 工程 にお ける砒素の害 をできるだけ少な くす る方 法を

確立す るた め,著 者は砒素 を含む硫化鉱の一つである含

砒硫化銅鉱 について,そ のなかに含 まれ る砒素 の除去 回

収 に関す る基礎的研究を行ない,こ の結果 にもとず いて

砒素 を有利 に除去回収す る方法 として,高 亜硫酸 ガス濃

度,低 酸素濃度の雰囲気における焙焼法について さらに

検討 した。

2. 含砒硫化銅鉱の各種雰囲気の

加熱時における挙動

乾式製錬の基礎となる含素硫化物の高温における挙動

に関する研究は比較的少ない。著者はこれらに関する従

来の研究結果にもとずき中性雰囲気における熱分解,酸

化性雰囲気における酸化反応について熱力学的考察を行

*昭 和37年4月20日 受理 昭和37年春季大会において講演

**日 本鉱業株式会社金属事業本部管理室長 現日立鉱業所製錬部長

(17)

448 吉村:含 砒硫 化銅鉱 の脱砒焙焼 法の確立 とその工業化(渡 辺賞)

ない,さ らにCO2雰 囲気 におけ る熱分解 およびO2-

SO2-N2雰 囲気におけ る脱砒焙焼 について検討 した。

2・1 従 来の研究に関する熱力学的考察

(1) 鶴見1),神 津お よび高根2),Tafe13)等 は硫砒銅

鉱Cu3AsS4を 中性雰囲気中で加熱す ると約600℃ よ り

急激 な熱分解 をお こ しCu2Sと な り,As2S3お よびS2

が揮 発す る と述べ てい る。著 者は

2Cu3AsS4=3Cu2S(β)+I/2As4S6(g)

+S2(g) (1)

の反応 につい て熱力学的検討 を加 え,標 準遊離 エネルギ

ー変化 ΔG゜ の近似式 として

ΔG゜=78,790-10.25TlogT-0.444×10-3T2

-59 .57T (2)を得 た。この ΔG゜ の値 は低温では正であ るが約600℃

以上 で負 とな り(1)式 の熱分解反応が約600℃ 以上で右

に進行す ることを明 らか とした。

(2) 酸化性の雰 囲気 でCu3AsS4を 酸化焙焼す ると,

SはSO2の 形 で除去 され,Asの 一部 は揮発性のAs2O3

として 除去 され るがCuO,Fe2O3な どの 高級酸化物が

存在 す る とAs2O3はAs2O5に 酸化 され る。 またAs

の一部 は直接As2O5に まで酸化 され る。このAs2O5は

不揮発性 であ り,さ らにCuO,FeOな どと結合す ると

安定 な砒酸塩 を生 じ,除 去す ることが困難 である。一方

雰 囲気 中のSO2濃 度が高い とAs2O5はAs2O3に 還

元 され るので,Asの 除去 は向上す ることが,H.Saito4),

Tafel5),Hofman6)等 によ り報告 され ている。 著者 は

これ らの ことが らに関して熱力学的に検討 を加 え,

4Cu3AsS4+13O2=6Cu2S+2As2O3

+10SO2 (3)

As2O3+4CuO=As2O5+2Cu2O(4)

As2O3+2Fe2O3=As2O5+4FeO (5)

(3),(4),(5)式 の標 準 遊 離 エ ネル ギ ー 変 化 ΔG゜ の近 似

式 とし て,そ れ ぞ れ(3′),(4′),(5′)式 を得 た 。

ΔG゜=-891,770+76.17Tlo9T-53.75

×10-3T2-1.98×105T-1-155.98T (3′)

ΔG゜=-51,180-70.2Tl0gT+25.11

×10-3T2-3.0×105T-1+96.25T (4′)

ΔG゜=9,310-61.38TlogT+24.31×10-3T2

-0 .94×105T-1+133.65T (5′)

これ らの諸式 より(3)州(5)式 の反応 は熱力学的に右 に

進 行し得 るこ とが 明 らか にされ る。また

I/2As2O5+SO2=SO3+I/2As2O3 (6)

の反応 について検討 し,そ の結果(6)式 の遊離エネルギ

ーの変化 ΔGの 近似式 として

ΔG゜=(12,755+52.59TlogT-23.21×10-3T2

+0.805×10-6T3-1.02×105T-1-142.77T)

+4.575Tlog(Pso3/Pso2) (7)

式 を得た。(7)式 よ りSO2濃 度15%の 場合につ き各温

度 におけ る ΔG゜ の値を求 めた。ふつ うの焙焼炉内 にお

い てはPso2>Pso3で あ乙ので この場合(6)式 の反応は

右 の方向に進み,As2O5のSO2に よる還元が進行す る

可能性のあ るこ とを明 らか にした。

2・2 CO2雰 囲気における含砒硫化銅鉱の熱分解につい

2・1 に述べ た熱力学的検討結果 にもとず きAs 1.83~

2.23%,S 22.65~41.95%,Cu 5.67~6.95%,Fe 16.61

~33.81%を 含有す る金瓜石産硫砒銅鉱 を1kWの 管状

横型電気炉 を使用 し,試 料109をCO2気 流中で500℃,

550℃,600℃,650℃,750℃ の各温度で30~120min間 加

熱 し,こ れの熱分解試験 を行なった。試験 の結果加熱温

度700℃ では加熱時間30minで ほぼ99%の 脱砒率 を示

し,60minで は100%の 脱砒が行われた 。また650℃

で も60min間 加熱す るこ とによ り100%の 砒素 を除去す

ることができた。

これ らの結果 は2・1に 述 べた熱力学的考察 とよく一致

してお り,Cu3AsS4→Cu2S+As2O3+S2の 反応 が600

℃以上 で急激 に進行す る。また熱分解反応 に伴 う脱硫率

は脱砒が ほぼ100%に 達す る場合 は約45~50%と なる

ことを確 めた。

2・3 O2-SO2-N2雰 囲気におけ る含砒硫化銅鉱 の脱 砒に

ついて

2・1 (2) において硫砒銅鉱 を空気 中で酸化焙焼す る場

合,Asの 一部はAs2O5と な りさらに 共存す る金属酸

第1図 脱砒率 とO2濃 度 の関係

第2図 脱硫率 とO2濃 度の関係

(18)

78巻 888号 日 本 鉱 業 会 誌 昭 和37年6月 449

化物 と結合 して安定な金属砒酸塩 とな りAsの 除去 を妨

げ るこ と,さ らにSO2ガ スはAs2O5に 対す る還元作

用 を有 し,As2O3を 生成せしめるのでAsの 揮発 に効

果が あるこ と等 を熱力学的考察 よ り確めた。

これ らの事実 にも とず き,As8.28%,Fe18.16%,

Cu25.09%,S36.48%を 含む金瓜石産硫砒銅鉱 を種

々の02分 圧 の雰 囲気 において焙焼 した。試験 には送風

量 の調節が比較的容易で種々の02分 圧 の雰 囲気 を作 る

ことので きる流動 焙焼法 を採用 し,炉 内温度測定 用温度

計 と連動 して 自動的に装入鉱石量 を調節で きる給鉱装置

と,炉 内温度調節用二重管式冷却管を有す る耐火 レンガ

内張 内径250mmφ,高 さ1,720mmの 円筒型小型流動焙

焼炉 を使用 した。

試験の結果 を要約す る と次 のとお りであ る。

流動焙焼炉に送入す る空気量 を328,400,480,500l/

minの それぞれの場合 について鉱石 の装入速度 を変化 さ

せ るこ とによ り,流 動層内部の02お よびSO2濃 度 を変

化 させ ることができた。

この方法 によ り炉内の温度 をほぼ750℃ に保つ よ うに

焙焼 し,脱 砒率お よび脱硫率 とO2あ るい はSO2濃 度

との関係 につ き検討 して第,1,2図 に示す結果 を得 た。

図 よ り明 らかな ようにこの程度 の温度において焙焼す る

場合,炉 内の02濃 度が上昇す るに ともない脱硫率 は急

激 に増加す るが,脱 砒率 はいちじるしく低下す る。また

炉内の02濃 度を0.6%以 下に保つ と脱砒率 は85%以 上

に達 し,脱 硫率 は50~70%に 低下す る。

この ように炉 内のSO2濃 度が高 く02濃 度が低い場

合 には,Asは 熱分解反応 および酸化反応に よりAs2S3

およびAs2O3と して揮発す るもの と考 え られ る。ま た

この場合 にSは 熱分解反応 に よりS2と して,ま た は酸

化 反応 によ りSO2と して除去 され るので,脱 硫率 の値

はCO2気 流 中における熱分解の際

の脱硫率 よ り高い値 を示す もの と考

え られ る。

これ らの検討か ら含砒硫化銅鉱 中

のAsを で きるだけ効果 よく除去す

るためには,約750℃ でSO2濃 度

14.5~15.5%,O2濃 度0.6%以 下 の

雰 囲気 で焙焼すれ ば よ い 事 が判つ

た。

3. 流動焙焼炉による

脱砒試験

2・3 に述べ た基礎試験の結果に も

とず き,一 定送入空気量に対 し理論

量 以上 の鉱石 を給鉱 し鉱石の不完全

焙 焼 を行 なわしめ,高SO2濃 度-

A スク リユーフイーダ,B ス クリユーブイーダ,C 炉床,D 風函,E

焼鉱抜 出口,F ガス排 出用 ダク ト,G 第1サ イ クロン,H 第2サ イ ク

ロン,I ラジエーションクーラ,J クーラダス ト抜 出用 ス クリユーコ

ンベ ヤ,K バッグブイル タ,L 熱電式温度 記録 計,M SO2濃 度 計,N

オ リフイス,O 冷却管

第3図 流 動焙焼 炉中規模試験装置配置 図

低O2濃 度雰 囲気 を発生す るこ とによ り脱砒 を行な う方

法の工業化 をはかるため,給 鉱量1.5t/日 程度 の流動焙

焼炉 を用いて 中規模試験 を行 ない種々検討 した。

3・1 試験方法および 装置

試験 に用いた鉱石 は金瓜石産硫砒銅鉱でその分析成分

は第1表 に示す とお りであ る。

第1表 供試金瓜石産硫砒銅鉱分析値

試 験装置 は第3図 に示すL5t/日 処理流動焙焼設備 を

使用 した。

空気送入量 を1m3/min付 近 で一定 に保 ち炉 内温度が

約700℃ に保持 され るよ う炉内冷却装置お よび温度計 と

連動 され る給鉱速 度 自動調整装置 を調節 した。鉱石 の装

入速度 は44~110kg/hrの 種々の場合 につ き試験した。

第2表 流動焙焼炉における金瓜石産,

含砒硫化銅精鉱の焙焼試験結果

(19)

450 吉村:含 砒硫化銅鉱の脱砒焙焼法 の確立 とその工業化(渡 辺賞)

鉱石 装入速度 が大 きい場合には炉内のSO2濃 度 は上昇

し02温 度 は低下す るので,熱 分解反応 が主 として進行

し,こ の吸熱反応 のため 炉 内温度は 降下す る 傾向を示

す 。また鉱石装入速度が小 さい場合 に君逆 に炉内02濃

度 が高いので,主 として酸化反応 が進行 して炉内温度は

上昇の傾 向を示す 。このため本装置 における自動給鉱速

度の調節 は,通 常の酸化焙焼の場合 とは全 く逆の作動方

式 とな る。

なおまた炉 内温度 と空気送入量 を一定 にきめ ると鉱石

装入速度 を任意 に変更す るこ とはできないので,炉 内に

とりつけた水冷管 の循環水 量を設定 した鉱石装入速度 に

応 じて 調整す ることに より,炉 内温度 を約7CO℃ に保

ち,焙 焼す る方法 をとつた。また一定条件の焙焼試験 に

おける試験装置各部分の温度,焙 焼炉出 口排 ガスSO2濃

度,ダ ス トの沈積状況,各 集塵装置の性能 な ど本焙焼法

の工業化に必要な事項 の検討 もあわせ行つた。

3・2 試験結果

(1) 脱砒率 と脱硫率に ついて:第1表 に示す よ うな

金瓜石産硫砒銅鉱 を焙焼温度700℃ で炉内O2濃 度 を約

0.2%に 保 ち,SO2濃 度15~16%の 雰囲気 で焙焼す る

場合,炉 況 はきわめて 安 定し操業 は問題な く行 な わ れ

た 。試験結果に よれば第2表 に示すご とく上述 の焙焼条

件下 で焙焼す ることに よ り脱砒率は90%以 上に達 し,こ

の際 の脱硫率 は50~70%で あつ た。

(2) 送入空気量 および処理鉱石量について:送 入空

気単位量 当 りの鉱石処理量 は0.9~1.1kg/Nm3程 度 が適

当で,こ の場合の 炉床単位面積 当 り鉱石 処理量 は13~

16t/日 ・m2で あ る。これ以上 に鉱石処理量 を増加す るこ

とは,よ り高SO2濃 度一低O2濃 度 の雰 囲気 を形成す

ることになるが,炉 の操業 が不安定 とな り脱砒率 も低下

第3表 焼 鉱 成 分 分 析 結 果

す る。なお鉱石 の炉内滞留時間は30min以 上 であれば

脱砒率 に対す る影響 はみ とめ られ ない,,

(3) 焙焼温度の調節に ついて:焙 焼温度の調節 は本

法 においては特に重要 な事項で ある。す なわち良好 な脱

砒率 を得 るには少な くとも炉 内の温度変動 を ±15℃ 以

内 に維持す るよう自動調節す ることが必要であつた。

(4) 最適操業 条件:以 上の検討結果 より脱砒焙焼 の

最適操業条件 はつぎの とお りである。

焙 焼 温 度 約700℃

炉床1m2当 りの 処 理鉱 石 量 13~16t/日m2

送 入 空 気1m3当 りの 処理 鉱 石 量 0.9~1.1kg/Nm3

鉱 石 の 含有 水 分 0.5%以 下

炉 ガ スSO2濃 度 14.5~16%

炉 ガ スO2濃 度 0.2~0.4%

鉱 石 炉 内平 均 滞 留 時 間 30~60min

(5) 流動焙焼炉 を設計する際の諸問題:こ の問題 に

つ き検討 しつぎの事項 を明らか にした。

(a) 焙焼 ガスにともなわれ るガスか ら2段 に設 けた

サイ クロンによ り,焼 鉱 とAs203,を 主体 とす る揮発物

とをほぼ完全 に分離す ることがで きる。

(b) サイク ロンにおける集塵率は約95%で ある。

(c) 第2サ イ ク ロン出 口温度 は30G℃ 以上 とす べき

で,温 度が さらに低 下す る とAs203の サイ クロンにお

け る沈積 が増加す る。分離回収 した焼鉱の成分分析結果

の一例 を示す と第3表 の とお りである。

(d) サイ ク ロンを出た ガス をクー ラーにおいて230

℃以下に急冷す るこ とによ りAs2O3は 急速 に析出沈 降

し,さ らにバ ッグフィルタにおいてほぼ完全 に除去 回収

され る。ただしAsの 分離 を完全 にす るためにはバ ッグ

フ ィルタの入 口温度 を1GG℃ 以下にす るこ とが必要 であ

る゜

(e) 回収揮発 物の利用 クーラ

ーお よびバ ッグフ ィルタダス トの成

分分析結果 の一例 を示す と第4表 の

とお りである。これ らの回収揮発物

は表 よ り明 らかなご とく,As2O3を

70~82%含 有 し,反 射炉 で直接精製

して99%のAs2O3と す ることがで

きた。

第4表 回収揮発物の回収率お よび成分分析結果

(20)

78巻 888号 日 本 鉱 業 会 誌 昭 和37年6月 451

配 置 図 説 明

(1)原 鉱 貯 鉱 ビ ン

(2)エ プ ロ ン フ イ ー ダ

(3)傾 斜 ベ ル トコ ソベ ヤ

(4)燃 焼 炉

(5)ラ ピ ッ ド ドラ イ ヤ

(6)サ イ ク ロ ン

(7)バ ッ グ フ ィル タ

(8)フ ア ン

(9)No.1エ プ ロン パ ケ ッ トエ レベ ー タ

(10)乾 燥 鉱 石 貯 鉱 ビ ン

(11)シ ン トロ ン フ ィー ダ

(12)No.2エ プ ロ ンバ ケ ッ トエ レベ ー タ

(13)テ ー ブ ル フ ィー ダ

(14)脱 砒 焙焼 炉

(15)サ イ ク ロン

(16)チ ェ イ ン コ ン ベ ヤ

(17)シ ン ダ ー ミキ サ

(18)バ ケ ッ トエ レベ ー タ

(19)焼 鉱 ビ ン

(20)ラ ヂ ュ ー シ ョン クー ラ

(21)ジ ャケ ッ ト式 パ イ プ ク ー ラ

(22)チ ェ イ ン

(23)バ ケ ッ トエ レベ ー タ

(24)As2O3ダ ス トビ ン

(25)サ イ ク ロ ン

(26)バ ッ グ ブ イル タ

(27)サ ク シ ョ ン フ ァ ン

(28)ハ イゼ ッ クス ガ ス 道

第4図 脱 砒 焙 焼 工 場 配 置 図

4.流 動焙焼炉を用いる脱砒焙焼の実際操業成績

著者は上述 のご とく含砒硫化銅精鉱 を銅製錬 原料 とし

て用い るための脱砒処理 につ いて詳細 な検討 を加え,流

動 焙焼炉を用いる高SO2濃 度一低O2濃 度雰 囲気 にお

け る焙焼法 が この種 の鉱石 の脱砒処理法 として もつ とも

適 当である との結論 を得,3章 に述 べた工業化 のための

試験 結果 にも とず き,昭 和31年 企業化計画 を立案 し,日

本 鉱業株 式会社佐賀 関製錬所 におい て高SO2濃 度一低

O2濃 度雰囲気中で,As5~6%,S38~40%を 含む含

砒硫 化銅精鉱40t/日 を処理す る設備 の建設に着手 した。

4・1 操業の計 画および設備

本処理法 の概要 は含砒硫化銅精 鉱 を流動式脱砒焙焼炉

回収す る。 また揮 発したAs2O3はAs捕 集設備 で回収

し精製 して製品 とす るものである。Asを 除いた焼鉱 は

銅製錬用原料 とな る。

で焙焼 し,Sの 一部 を酸化 してSO2と し濃硫酸 として

第5表 最近 の処理鉱石

(21)

452 吉村:含 砒硫化銅鉱 の脱砒焙焼法 の確立 とその工業化(渡 辺賞)

本処理 法の脱砒焙焼設備 は,第4図 の工場配置図 に示

す とお りである。こ れ ら の 設備 は昭和33年12月 に完成

し,昭 和34年1月 よ り本格的操業 を行なつている。

4・2操 業成系責

最近数 か月 の処理 実績 は第5表 に示す とお りである。

第6表 脱砒焙焼操業成績例

第5図

第6図

表 に示す ように金 瓜石産硫砒銅精鉱を主体 とし,さ ら

に高砒素含有鐘打産硫化鋼鉱が若干混合 処理 され る ほ

か,硫 酸原料の確 保のため,As0.1~0.2%の 紀州産含

銅硫化鉱 が補足処理 され ている。これ らのAs5~6%,

S38~40%,Cu16~18%,Fe24~26%を 含む鉱石 を焙

焼 し,炉 内は第6表 に示す操業成績例 に明 ら か な よ う

に,O2濃 度0.40~0.45%,SO2濃 度14四15%の 雰 囲

気中で約700℃ にお ける焙焼を行ない,脱 砒率約84%,

脱硫 率約70%を 得 てい る。 またこの際得 られ る 焼鉱 は

第7表 クー ラー,バ ッ グ フ ィル タ混 合 ダ ス ト組 成

32~40t/日 でAs含 有量は1.0~1.2%で ある。現在 は

操業の都合によつ て第6表 のよ うに試験操業 よ り送入空

気単位量当 りの基準鉱石装入量 を0.7kg/Nm3と 低 くし

てい る関係上,炉 内O2濃 度が若干高 く硫化物 の酸化促

進 による脱硫率 の増加 と,そ の結 果 生 成 す るFe2O3,

CuO等 によるAs2O3のAs2O5へ の酸化等,2章

に述べ た諸原 因に よる脱砒率 の若干 の低下 が実操

業において認 め られ る。

今 後は さらに雰囲気 中のO2濃 度 を低下 させ脱

砒率 を上昇 させ る予定であ る。

一方排ガスはサイ クロンで400℃ 以上 の温度 に

保持 されAs2O3な どの揮発物 を析出す ることな

く速や かにガス中のダス トを分離 除去した後,ラ

ジエーシ ョン クーラー,パ イプ クーラー等 で急冷

されバ ッグ フィル タ入 口で100℃ 以下 となる。し

たがつて揮 発Asの ほ とん ど全部 が回収 され,硫

酸製造工程 に悪影響 をお よぼす恐れは全 くみ とめ

られない。 クーラー,バ ッグフ ィルタで回収 され

るダ ス トの組成は第7表 に示す ご とくAs52~54

(22)

78巻 888号 日 本 鉱 業 会 誌 昭 和37年6月 453

%を 含 みこれ よ り純度99%以 上 の精製亜砒酸が生産 され

ている。また焙焼 ガス よ り製造 され る98%濃 硫酸 は35

~40t/日 に達 してい る。

脱砒流動炉 の操業は きわめて順調 に行なわれ,炉 内温

度 は 自動制御 によ り設定温度に対 し ±5℃ の変動範 囲に

制御 されている。またSO2濃 度変化 も ±1.5%程 度変

動 す るにすぎない。装置各部温度並びに排ガスSO2濃

度 の一例 を第5,6図 に示す 。給鉱 の含有水分は当初1%

以下を基準 として操業 したが現在 は3%程 度で十分安定

した操 業を行 うに至つ てい る。

5.本 法による効果

この含砒硫化銅鉱 の脱 砒焙焼法採用以来,従 来に比較

し種 々の利益 が挙げ られ てい るが,そ の主 なものを挙 げ

る と次 の とお りで ある。

(1)As採 取率の向上:有 害であつたAsをAs2O3

として回収し増収 となつた。

(2)銅 鉱石中のS回 収率の向上:排 ガスとして棄 却

され ていたSが 硫酸 として回収 されて増収 となつた。

(3)粗 銅 中のAsの 含有率の低下:電 錬系統 に入 る

As量 が少な くな り,電 気銅品質低下 の不安が解 消した。

謝辞:終 りに本計画 の遂行には本社,佐 賀関製錬 所お

よび 中央試験所 の上司 よ り種 々ご指導を賜 わ つ た こ と

と,工 場建設 と実際操業 には兼重硫酸課 長 を中心 とす る

課内一同のご尽力 によるものであることを報告し,厚 く

御礼を 申し上げ る。 とくに本計画 の当初 よ り,直 接 その

衝に当 られ た石川,安 井両 氏の真摯 な努力に対 して万腔

の敬意を表す る次第であ る。

(日本特許第279196号)流動焙焼炉において半焼焙焼によつて含砒銅鉱またはその他の含砒硫

化鉱より砒素ならびに硫黄を回収する方法

参 考 文 献

1) 鶴見志津夫: 岩石鉱物鉱床学会 誌, 第12巻 第3号, 昭和9年9月14

6頁

2) 神津俶祐, 高根勝利; 岩石鉱物鉱床学会誌, 第19巻 第4号, 昭和13

年4月146頁

3) Victor Tafel: Lehrbuch der Metallhiittenkiinde, S. HirzelVerlagsbuchhandlung Leipzig(1951), Band I, 2 Aufl 247

4) H. Saito: Comprehensive Treatise on Inorganic and Theo-

retical Chemistry., J. W. Mellor. Longmans, Green (1929)Vol.IX 318.

5) Victor Tafel: Lehrbuch der Mettallhiittenkiinde, S. Hirzel

Verlags buchhandlung Leipzig (1913) Band I, 2 Aufl. 281.

6) H. O. Hofman: General Metallurgy. McGraw Hill(1913)408.

7) 熱力学的検討関係参考文献

(ƒC) K. K. Kelley: Contribution to the Data on Theoretical

Metallurgy VII, US. Government Printing Office(1937).

(ĥ) O. Kubaschewski & E. L. L. Evans: Metallurgical The-

ormochemistry. Pergamon Press.

(ƒn) W. Lange: Die Thermodynamischen Eigenschaften der

Metalloxyde, Springer-Verlage(1949).

(ニ)日 本鉱 業会 誌; 49巻 昭和3年18頁

新 ら し い 湿 式 粉 砕 機,Barkerミ ル

New South Wales,Lithgowに

あ るBarker Mining Co.は 従 来

の ロ ツ ド ・ミル,ボ ール ・ ミル,分

級 機 な ど に置 き 替 わ る べ き機 械 とし

て,13mmの 原 料 鉱 石 か ら-74μ75

%の 浮 選 フ ィ ー ドを 作 る こ とが で き

る 回転 式 ミル,Barker millを 開 発

し た。

Barkerミ ル の 鋼鉄 製 水 平 円 筒 は

空 気 タイ ヤ の上 に載 せ られ,ギ ヤ ・ボ

ッ クスに 連結 され た こ の タイ ヤ に よ

つ て 駆 動 され る。 粉砕 媒 体 は シ ェ ル

とほ ぼ 等 し い 長 さを もつ 直径75cm

の鋼 鉄 製 ロー ラ1本 お よび 直 径15

cmの 鋼 鉄 製 ロー ラ2本 よ り成 る。シ

ェ ル には 幅 約15cmの 硬 化 鋼 製 ライ

ニン グ板 が45cmの 中 心 間隔 で 張 つ

て あ る 。 ミルは タイ ヤ の上 に た だ載

つ て い る だけ な ので,ラ イ ニン グ の

張 り替 え を必 要 とす る場 合 に は,全

体 を 簡 単 に交 換 す る こ とが で き る 。

こ の ミル は ロ ールが 回 転 す る ので

摩 擦 損 失 が極 め て 少 ない のが 特 徴 で

あ る。 し た が つ て,ラ イ ニ ン グお よ

び ロ ー ラの寿 命 が 特 に長 く,動 力 消

費 が 少 ない 。20HPのBarkerミ ル は

100HPの 普 通 の ボ ー ル ・ミル と同 じ

処 理 能 力 を もつ とい う。 空 気 タイ ヤ

を 用 い るた め,運 転 は静 か で,騒 音

のほ とん どは駆 動 モ ー タの チ ェ ー ン

が 発 す る も の の よ うで あ る。

粉 砕 機 構 上,フ ィ ー ド量 お よ び水

量 の選 択 は 従 来 の ロ ッ ド ・ ミル お よ

び ボ ール ・ミル に比 して 自由 で あ る。

ミル の排 出側 には 逆 スパ イ ラル のつ

い た 円錐 形 分級 機 が あ り,粗 粒 を ミ

ルへ 戻 す 構 造 となつ てい る。

(井上 外志雄)

(New Type Mill Developed

in Australia,The Mining

Magazine,Mar,1962,178-

180(9)

Barkerミ ル

(23)