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対人援助向上プログラムの開発に向けたインシデント事例の検討 ~コミュニケーション要因に着目して~ ○長谷奈生己 近藤佐地子 鈴木察子 平岡峰子 木田菊恵 (徳島大学病院看護部) 片岡三佳 谷洋江 藤井智恵子 松下恭子 (徳島大学大学院 ヘルスバイオサイエンス研究部) はじめに 徳島大学病院看護部は、平成22年度文部科学省大学改革推進事業「看護師の人材養成システムの確立(看護職キャリ アシステム構築プラン)」において、「愛と知と技のバランスのとれた看護職養成」プランが採択され、その一環として「教育 プログラムの開発」事業に取り組んでいる。これまで、知識と技術の習得を優先した集合教育を中心に新人教育を進めて きたことの反省にたち、愛と知と技のバランスのとれた看護実践力を向上させるプログラムのひとつとして、対人援助向上 プログラムの開発を手掛けている。 目的は、安全で安心な看護を提供するために、改めて、患者中心の看護に焦点を当て、コミュニケーショ能力、倫理的 感受性、問題解決能力を取り上げて、看護部と保健学科が関連分野と協働・連携し、科学的根拠に裏付けられた教育プ ログラムを開発することである。 今回は、プログラム開発するにあたり、3つの要素を明らかにするために研究的に取り組んでいる過程において昨年度 得られたデータのうち、コミュニケーション能力の問題に着目した報告を行う。 倫理的 感受性 コミュニケーション能力 問題解決 能力 愛と知と技のバラン スのとれた看護職 患者中心の看護 看護実践 上司・先輩などに対して正 確に報告・連絡・相談がで きていない, 4 自分の意見や主張を筋道 だてて相手に説明すること ができていない, 2 本音で話合える人間関係 を構築できていない, 1 曖昧な情報を伝え、 相互に確認していない ダブルチェックの時 に量を正確に伝えて いない 業務分担に関して, 申し合わせができていな 自分の強調したいこと のみ伝えた 相手がわかってくれる だろうという思い込み があった 先輩なので、 聞きづらかった 相手の理解を確認 しなかった 連携不足より発生したインシデント事例件数 77インシデント発端者が看護師である 事例件数 65研究事例選択 12合意を得た 7事例9名に インタビュー 具体的な実績 結果: コミュニケーションに関する事例分類 対人援助向上能力の基準 対人援助向上プログラムの開発 プログラム作成にあたっての基本的な考え方 インシデント事例のコミュニケーションの特徴は、「自分の意 見や主張を筋道立てて、相手に説明するコミュニケーション力 の不足」や「思い込みによる確認コミュニケーション力の不足」 があった。 看護師間、看護師ー医師間の報告・連絡・相談において正 確に伝える確認コミュニケーションを中心とした教育プログラ ムの必要性が示唆された。 また、インシデント発端者は、4年未満が多かったことから、コ ミュニケーション能力を高める研修プログラムは、本院のスタ ンダードレベルを対象として、生涯教育計画の中に精選された 形で組み込む必須の研修として位置づけ、必要なレベルが確 認された。 今回の結果をもとに教育内容や指導技術などの検討を進め ており、最終的には、コミュニケーションスキルのみでなく、並 行して対人関係構築を含めた連携力の強化などをプログラム に組み込んでいく予定である。 対人援助向上プログラム作成プロセス 対象 A病院の安全管理対策室にコミュニケーション不足として インシデント報告した看護師および関連看護師 データ収集期間 20117月から11調査方法 同意を得て、インタビューガイドに基づいて半構成的インタビュー を実施、許可が得られた場合は録音を行った。 分析方法 面接内容を逐語録にし、メンバーで文章の意味の類似性に基づき 類型化し、研究者間で検討した。 (対人援助向上能力の基準と分析シートを用いた) 研究方法 考察とまとめ 安全で安心な看護を提供するためにコミュニ ケーションや人間関係に着目したプログラム の作成 目的 対人援助技術の不足により発生した看護実 践上のトラブル、クレーム、インシデントにつ いて事例を収集し、コミュニケーションの問 題・倫理的感受性の問題・問題解決能力問題に分類し、事例検討 対人関係上でよく発生するコミュニケーション エラーに早期に気づき、対応することのでき る看護師を育成するためのプログラムを検討 概要 トラブル・クレーム・インシデントに関する過去の事例からコミュニ ケーション不足、倫理的感受性、問題解決能力の不足によって発 生した事例を収集し、検討 1段階 6段階 5段階 4段階 3段階 2段階 コミュニケーションエラーに関する要因の抽出は出来たが、倫理的 感受性、問題解決能力に関しては要因は特定出来ず 聞き取りが必要であるが、過去の事例はインタビューが困難 連携不足で発生したインシデントを前向で調査・分析すると決定 研究的に取り組み、得られた情報を研究メンバーでグループディス カッションし、コミュニケーション能力、倫理的感受性、問題解決能 力のどこに どんな課題があるかを分析・検討 事例を集積し、コミュニケーション能力、倫理的感受性、問題解決 能力の強化すべき部分が獲得できるプログラムの試案を作成 試案を運用し、改訂 プログラムの作成 事例一覧 分析シート 研究期間のインシデント事例概要再度分析し直し:11月7日(月) テ-プ 時間 質問 当事者の話 生データの抽出 研究者の言葉に 変える カテゴリ設定の 根拠 備考 memo 4:58 いつもは指示書で 確認するんですけ ど、今回は指示書 がなくてしたことに ついては、何か考 えたことはあります か? その時は、私が指示書をもっとるというのと、指示書はいつも これだったから、この値だというので勝手に当てはめてしまっ て、私の思い込みが原因だと。この人は私が測るねという連 携不足が原因だったと思っています。 A1 私の思い込みが原因だと この人は私が測るねという連携不 足が原因だったと思っています 当事者の思い込 みが原因と思って いる A1 自分がルール通 り行動している ので、相手にも わかるだろうと 思い伝達してい ない A1であると考える 5:30 どのようにしたらよ かったなと思いま すか? うーん、第一に連携、割り振りをした時にじゃあこの業務は私 がするね、採血はお願いしますとか申し合わせをしとったらよ かったと、私がちゃんとどの人を測るかというのを把握して、 指示書もっていることをチェックしておけばよかったと思いま す。 A1 採血はお願いしますとか申し合わ せをしとったらよかったと、私が ちゃんとどの人を測るかというのを 把握して、指示書もっていることを チェックしておけばよかったと思い ます 業務の割り振りの 時に具体的な申 し合わせをしない で指示書の確認 もしなかった A1 自分がルール通 り行動している ので、相手にも わかるだろうと 思い伝達してい ない 看護師間において相 手がわかってくれてい るだろうと思い伝達し ていない 生データは、後から 思った内容なので表 現は逆にする 8:16 深夜に来た際に割 り振った時に二人 の関係性に違った ことはありました か? いつもと・・・いつもと違ったというか・・いつもと同じなのに、い つも通りしようとお互いが思っていたことが食い違ってしまっ たというか。 (お互いがいつも通り) 先輩がフリー業務を兼ねてしてくれようとしとったことと、私は 担当の患者さんの枠で全部しようと思っとったことが、こう(直 結?してしまって)、それと私が指示書をみないでしてしまっ たことが・・はい・・。 A1 先輩がフリー業務を兼ねてしてく れようとしとったことと、私は担当 の患者さんの枠で全部しようと 思っとったことが、こう(直結?して しまって)、それと私が指示書をみ ないでしてしまったことが・・ 看護師間で業務 内容を具体的に 確認していない A1 自分のやり方で 行動しているの で相手に相談し ていない 5:30と同じような内容 である 事例 1 振り返り 日時 2011年7月19日(火) 9時5分~10時30分 場所 看護部図書室 インタビュー 日時 2011年7月15日(金) 17時15分~17時30分 場所 病棟面談室 コード インタビューガイド A1 上司、先輩などの上司に対して、正確に(報告、 連絡、相談)をしている ○○さんに、どのように 報告したのですか? または、何故、報告しなかったのですか? A2 医師など関係者に対して、正確に(報告、連絡、 相談)をしている ○○さんに、どのように 報告したのですか? または、何故、報告しなかったのですか? A3 自分の意見や主張を筋道を立てて相手に説明し ている 具体的にどのように いいましたか? *事例の内容に加えて話の内容から判断する A4 患者や家族など相手の心情に配慮し、適切な態 度や言葉使い姿勢で依頼や折衝をしている 相手に対して、どのように思いましたか? *事例の内容に加えて話の内容から判断する A5 実践場面の同僚等と本音で話し合える人間関係 を構築している いつもは、どのような感じで話していますか? A1の内容によって 他の能力へ移行する A6 苦手な医師や上司や同僚とも、支障がないよう、 必要な関係を保っている 相手と話しにくかった場合、どうしたらよかったと 思いますか? A1の内容によって 他の能力へ移行する A:コミュニケーション 表現力 対人感受性 対人影響力 関係構築力 をもって 報告・連絡・相談 できる能力

事例 1 - ai-ti-waza.tokudainurse.jpai-ti-waza.tokudainurse.jp/data/news/achievement/... · きたことの反省にたち、愛と知と技のバランスのとれた看護実践力を向上させるプログラムのひとつとして、対人援助向上

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対人援助向上プログラムの開発に向けたインシデント事例の検討  ~コミュニケーション要因に着目して~

          ○長谷奈生己 近藤佐地子 鈴木察子 平岡峰子 木田菊恵 (徳島大学病院看護部)

                片岡三佳 谷洋江 藤井智恵子 松下恭子 (徳島大学大学院 ヘルスバイオサイエンス研究部)

はじめに 徳島大学病院看護部は、平成22年度文部科学省大学改革推進事業「看護師の人材養成システムの確立(看護職キャリ

アシステム構築プラン)」において、「愛と知と技のバランスのとれた看護職養成」プランが採択され、その一環として「教育

プログラムの開発」事業に取り組んでいる。これまで、知識と技術の習得を優先した集合教育を中心に新人教育を進めて

きたことの反省にたち、愛と知と技のバランスのとれた看護実践力を向上させるプログラムのひとつとして、対人援助向上

プログラムの開発を手掛けている。

目的は、安全で安心な看護を提供するために、改めて、患者中心の看護に焦点を当て、コミュニケーショ能力、倫理的

感受性、問題解決能力を取り上げて、看護部と保健学科が関連分野と協働・連携し、科学的根拠に裏付けられた教育プ

ログラムを開発することである。

今回は、プログラム開発するにあたり、3つの要素を明らかにするために研究的に取り組んでいる過程において昨年度

得られたデータのうち、コミュニケーション能力の問題に着目した報告を行う。

倫理的

感受性

コミュニケーション能力

問題解決

能力

愛と知と技のバラン

スのとれた看護職

患者中心の看護

看護実践

上司・先輩などに対して正

確に報告・連絡・相談がで

きていない, 4

自分の意見や主張を筋道

だてて相手に説明すること

ができていない, 2

本音で話合える人間関係

を構築できていない, 1

コミュニケーション 事例分類

曖昧な情報を伝え、

相互に確認していない

ダブルチェックの時

に量を正確に伝えて

いない

業務分担に関して,

申し合わせができていな

自分の強調したいこと

のみ伝えた 相手がわかってくれる

だろうという思い込み

があった

先輩なので、

聞きづらかった

相手の理解を確認

しなかった

連携不足より発生したインシデント事例件数

77件 インシデント発端者が看護師である

事例件数

65件 研究事例選択

12件 合意を得た

7事例9名に

インタビュー

具体的な実績

結果: コミュニケーションに関する事例分類

対人援助向上能力の基準

対人援助向上プログラムの開発 プログラム作成にあたっての基本的な考え方

インシデント事例のコミュニケーションの特徴は、「自分の意

見や主張を筋道立てて、相手に説明するコミュニケーション力

の不足」や「思い込みによる確認コミュニケーション力の不足」

があった。

看護師間、看護師ー医師間の報告・連絡・相談において正

確に伝える確認コミュニケーションを中心とした教育プログラ

ムの必要性が示唆された。

また、インシデント発端者は、4年未満が多かったことから、コ

ミュニケーション能力を高める研修プログラムは、本院のスタ

ンダードレベルを対象として、生涯教育計画の中に精選された

形で組み込む必須の研修として位置づけ、必要なレベルが確

認された。

今回の結果をもとに教育内容や指導技術などの検討を進め

ており、最終的には、コミュニケーションスキルのみでなく、並

行して対人関係構築を含めた連携力の強化などをプログラム

に組み込んでいく予定である。

対人援助向上プログラム作成プロセス

対象

A病院の安全管理対策室にコミュニケーション不足として

インシデント報告した看護師および関連看護師

データ収集期間

2011年7月から11月

調査方法

同意を得て、インタビューガイドに基づいて半構成的インタビュー

を実施、許可が得られた場合は録音を行った。

分析方法

面接内容を逐語録にし、メンバーで文章の意味の類似性に基づき

類型化し、研究者間で検討した。

(対人援助向上能力の基準と分析シートを用いた)

研究方法

考察とまとめ

•安全で安心な看護を提供するためにコミュニケーションや人間関係に着目したプログラムの作成

目的

•対人援助技術の不足により発生した看護実践上のトラブル、クレーム、インシデントについて事例を収集し、コミュニケーションの問題・倫理的感受性の問題・問題解決能力の問題に分類し、事例検討

•対人関係上でよく発生するコミュニケーションエラーに早期に気づき、対応することのできる看護師を育成するためのプログラムを検討

概要

トラブル・クレーム・インシデントに関する過去の事例からコミュニ

ケーション不足、倫理的感受性、問題解決能力の不足によって発

生した事例を収集し、検討 第1段階

第6段階

第5段階

第4段階

第3段階

第2段階

コミュニケーションエラーに関する要因の抽出は出来たが、倫理的

感受性、問題解決能力に関しては要因は特定出来ず

聞き取りが必要であるが、過去の事例はインタビューが困難

連携不足で発生したインシデントを前向で調査・分析すると決定

研究的に取り組み、得られた情報を研究メンバーでグループディス

カッションし、コミュニケーション能力、倫理的感受性、問題解決能

力のどこに どんな課題があるかを分析・検討

事例を集積し、コミュニケーション能力、倫理的感受性、問題解決

能力の強化すべき部分が獲得できるプログラムの試案を作成

試案を運用し、改訂

プログラムの作成

事例一覧

分析シート

≪研究期間のインシデント事例概要≫

再度分析し直し:11月7日(月)

テ-プ時間

質問  当事者の話 生データの抽出研究者の言葉に変える

カテゴリ設定の根拠

備考 memo

4:58 いつもは指示書で確認するんですけど、今回は指示書がなくてしたことについては、何か考えたことはありますか?

その時は、私が指示書をもっとるというのと、指示書はいつもこれだったから、この値だというので勝手に当てはめてしまって、私の思い込みが原因だと。この人は私が測るねという連携不足が原因だったと思っています。 A1

私の思い込みが原因だとこの人は私が測るねという連携不足が原因だったと思っています

当事者の思い込みが原因と思っている

A1自分がルール通り行動しているので、相手にもわかるだろうと思い伝達していない

A1であると考える

5:30 どのようにしたらよかったなと思いますか?

うーん、第一に連携、割り振りをした時にじゃあこの業務は私がするね、採血はお願いしますとか申し合わせをしとったらよかったと、私がちゃんとどの人を測るかというのを把握して、指示書もっていることをチェックしておけばよかったと思います。

A1

採血はお願いしますとか申し合わせをしとったらよかったと、私がちゃんとどの人を測るかというのを把握して、指示書もっていることをチェックしておけばよかったと思います

業務の割り振りの時に具体的な申し合わせをしないで指示書の確認もしなかった

A1自分がルール通り行動しているので、相手にもわかるだろうと思い伝達していない

看護師間において相手がわかってくれているだろうと思い伝達していない生データは、後から思った内容なので表現は逆にする

8:16 深夜に来た際に割り振った時に二人の関係性に違ったことはありましたか?

いつもと・・・いつもと違ったというか・・いつもと同じなのに、いつも通りしようとお互いが思っていたことが食い違ってしまったというか。(お互いがいつも通り)先輩がフリー業務を兼ねてしてくれようとしとったことと、私は担当の患者さんの枠で全部しようと思っとったことが、こう(直結?してしまって)、それと私が指示書をみないでしてしまったことが・・はい・・。

A1

先輩がフリー業務を兼ねてしてくれようとしとったことと、私は担当の患者さんの枠で全部しようと思っとったことが、こう(直結?してしまって)、それと私が指示書をみないでしてしまったことが・・

看護師間で業務内容を具体的に確認していない

A1自分のやり方で行動しているので相手に相談していない

5:30と同じような内容である

事例 1  振り返り  日時 2011年7月19日(火)  9時5分~10時30分  場所 看護部図書室

         インタビュー 日時 2011年7月15日(金) 17時15分~17時30分 場所 病棟面談室

能 力 コード 基 準 インタビューガイド

A1上司、先輩などの上司に対して、正確に(報告、連絡、相談)をしている

○○さんに、どのように 報告したのですか?または、何故、報告しなかったのですか?

A2医師など関係者に対して、正確に(報告、連絡、相談)をしている

○○さんに、どのように 報告したのですか?または、何故、報告しなかったのですか?

A3自分の意見や主張を筋道を立てて相手に説明している

具体的にどのように いいましたか?*事例の内容に加えて話の内容から判断する

A4患者や家族など相手の心情に配慮し、適切な態度や言葉使い姿勢で依頼や折衝をしている

相手に対して、どのように思いましたか?*事例の内容に加えて話の内容から判断する

A5実践場面の同僚等と本音で話し合える人間関係を構築している

いつもは、どのような感じで話していますか?A1の内容によって 他の能力へ移行する

A6苦手な医師や上司や同僚とも、支障がないよう、必要な関係を保っている

相手と話しにくかった場合、どうしたらよかったと思いますか?A1の内容によって 他の能力へ移行する

A:コミュニケーション

表現力対人感受性対人影響力関係構築力

をもって報告・連絡・相談

できる能力