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生存者罪悪感に 東洋大学社会学部 清志 生存者罪悪感に関する一考察 悲惨な災害や事故に遭遇しても、中 る幸運に恵まれたことになるが、こうし れるとは限らない。それどころか、同じ出来 なかったのか、もっと出来ることがあったはずだ は、生存者罪悪感 (22 Rm F22 R. 帥関口普)と呼ばれる。ホロコーストからの生還者 がこうした罪悪感を感じることはしばしば指摘されてき JR 福知山線 脱線事故の頃からメディアで紹介されたり、専門家がケアの かなり知られるようになってきた。 本稿では、まず、罪悪感に関する基本的な考え方をまとめた後、生存 考察を行うことにしたい。

生存者罪悪感に関する一考察 (22 Rm F22 · 生存者罪悪感に関する一考察 東洋大学社会学部 安 藤 清志 生存者罪悪感に関する一考察 悲惨な災害や事故に遭遇しても、中には何とか生き延びることができる人がいる。

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生存者罪悪感に関する一考察

東洋大学社会学部

安藤

清志

生存者罪悪感に関する一考察

悲惨な災害や事故に遭遇しても、中には何とか生き延びることができる人がいる。まさに九死に一生を得

る幸運に恵まれたことになるが、こうした生存者は、助かったことによって必ずしも「幸せな」状態でいら

れるとは限らない。それどころか、同じ出来事で運悪く亡くなった人がいた場合、なぜ自分が救助に加わら

なかったのか、もっと出来ることがあったはずだ、などと自分を責めたり罪悪感を感じる場合がある。これ

は、生存者罪悪感

(22守RmロF22ぞR.帥関口普)と呼ばれる。ホロコーストからの生還者や被爆者など

がこうした罪悪感を感じることはしばしば指摘されてきたが、日本では多数の死傷者を出したJR福知山線

脱線事故の頃からメディアで紹介されたり、専門家がケアの必要性を強調したりしたこともあり、一般にも

かなり知られるようになってきた。

本稿では、まず、罪悪感に関する基本的な考え方をまとめた後、生存者罪悪感がなぜ生じるのか、若干の

考察を行うことにしたい。

一.自己意識感情としての罪悪感

64

さまざまな種類の感情のうち、自己意識や自己評価が重要な位置を占める感情をとくに「自己意識感情」

と呼ぶことがある。罪悪感(ぬ己皆)、恥感情(印宮目。)、蓋恥心

(OBσRBEEg同)、誇り(買広め)などが含

まれる。こうした感情は、自己に関わりをもっと同時に、社会的側面も重要であることから「社会的感情」

とする研究者もいる。たとえば回ω号。芹(呂田)は、①発達初期の対人関係がこれらの感情の基礎を形成し、

道徳的基準・社会的基準・希望・理想は、両親・教師・仲間などとの経験によって形成される、②対入場面

において生起する、③対人的な領域における重要な行動を動機づける(恥は回避行動や敵意、罪悪感は告白、

謝罪、修復など)を、これらの感情の社会的側面としてあげている。

ニ.罪悪感の源泉

罪悪感(罪悪感情、罪意識)は、精神分析、臨床心理学、発達心理学など心理学のさまざまな領域で問題

とされており、その定義もさまざまである。たとえば、いくつかの辞書を参照してみると、有斐閣の『心理

学辞典』では、「(前略)法律上の犯罪ばかりでなく倫理的、道徳的、宗教的規範に背き過失を犯したあるい

は犯そうと欲した時に感じる自己を責める感情をいう。こうした感情は、自尊心を低下させ、罪滅ぼしをし

ょうという感情をおこす」、

pwぴR23m)では、「道徳的規範を犯したという知識によって生じる情緒状態。

社会の道徳規範を内面化している場合にのみ生じると考えられる。したがって、外部から与えられる罰への

恐れとは区別される。」などとされている。

一方、回

SEaaq-∞岳写oF静

g吾020ロ(呂志)は、こうし

た個人内(日EE官官En)過程を中心に罪悪感を扱う立場と、対人過程を重視する立場に分けた。前者を代

表するのはフロイトであり、ここでは罪悪感は自我と超自我の聞に生じる緊張の表現ということになる。もっ

とも、この場合でも超自我の形成が外界への適応という側面がある以上、そこに「社会的な」要素が含まれ

ていることにはなるのだが、そうした社会化の過程を除けば、さまざまな状況における罪悪感の発生やその

影響に関してとくに他者との関わりゃ対人行動が強調されることは少ない。とくに、他者の苦痛に対する共

感的な関心といった要因はほとんど問題にされない。これに対して回告白色巳22邑・(呂志)は、対人過程

生存者罪悪感に関する一考察

を重視して罪悪感を理解しようとする研究の流れがあるとし、自らは罪悪感を「自己の行為、非行為、状況、

意図に対するありうべき異議に伴う不快な感情状態」

(U-N合)と定義し、その源泉は「関係パートナーに対

して危害・損失・悲嘆を与えることである」(。・

N8)とした。久重(忌∞∞)は罪悪感の哲学的考察の中で、

自らの主題を「対人的罪悪感」であるとし、これを「道徳法則や義務に背反したために引き起こされた罪悪

感であるよりも、むしろ、自己が他者に対してなした加害の行為者であることを自覚することによる罪悪感

である。いいかえれば、対法的罪悪感ではなく、対人的罪悪感である」(匂・Nω)

としているが、まさに罪悪

感のこのような側面は、対人関係や対人相互作用を分析を一つの主題とする社会心理学においては、きわめ

65

て重要なものといえるだろう。

66

国向

Ego-mZ『旦包・(巴忠)は、とくに親密な関係における罪悪感の機能として以下の三つをあげている。

第一は、関係を維持・強化する行動を動機づける機能である。罪悪感は「見返りを期待せずに相互に相手

を思いやり、尊敬し、肯定的な扱いをすべき」という親密関係の規範

(gBBE色ロ耳目白)を強める。した

がって、多くの場合、パートナーを傷つけたり無視するなど、相手の期待を裏切るような行為や不作為によっ

て罪悪感が生じると、その罪悪感を解消するために関係を維持・強化するような行動を実行するようになる。

第二は、自己の主張を他者に受け入れさせる対人的影響方略としての機能である。すなわち、他者に対して、

「自分が望むことをやってくれないために自分がいかに苦しんでいるか」を告げることによって罪悪感を喚

起させると、その人は罪悪感を取り除きたいために要求に従うことになる。こうした方法は相手が親密な関

(gg自己ロ包括釘位。一ロ∞EU)

にある場合に最も効果を発揮することになる。

第三は、二者関係のなかで心理的苦痛を再分配(諸島ω可550)する機能である。たとえば、親密な関係

の中で一方がパートナーに対して何らかの加害行為を行った場合、加害者側は利益を得るのに対してパート

ナーは損失を被る。しかし、加害者が罪悪感を感じれば、利益を得たことに伴うプラスの感情は減じること

になる。一方、加害者が罪悪感を感じることによって、被害者は相手が現在の関係を継続する意志があるこ

と、そして同じ行為を繰り返すつもりないことを知ることになる。この場合、被害者のプラスの感情が増す

ことになり、少なくとも感情面においては、両者は衡平な関係に戻ることになる。

司。円

mgghruoB宮司(N20)

は、自己の責任と罪悪感の関わりについてどのような立場をとるかという

視点から、罪悪感の「対人関係志向モデル

(吉百円宮門田Oロ色句。門戸

gg門回目。号])」と「責任性基盤モデル

(Bmuoロ包σ日号・σ80門戸目。己σ己」

の二つつに分けて論じている。前者のモデルでは、自分の行動が相手に否定

的な影響を及ぼしたときに罪悪感が生じるとされ、責任が自分にあるか否かは関係がない。罪悪感が経験さ

れれば、関係を修復するための行動など対人的機能を満たす行動が促進される。したがって、このモデルで

は、偶然に相手を傷つけた場合であっても罪悪感が生じることになる。前述の回EBo-222邑・(呂志)の

立場がこれにあたる。

一方、責任性基盤モデルでは、他者への加害行為やそれに関連する結果に対して自分

が道徳的責任を感じる場合に罪悪感が生じるとされる。たとえば、毛色ロ

Rら(巧包ロ

2・

5g・4『巴ロ旬・

のSEE-hrのFmロ門日

-2・5∞N)

は、原因帰属の

3つの次元(内的目外的、統制不可能・統制可能、安定・不

生存者罪悪感に関する一考察

安定)が罪悪感など感情の強さに関連することを示している。近年では、自己意識感情の生起に関するモデ

ルを提唱した寸

23hw回忌吉凶

(Moot-NOEσ)も、自己に脅威を与える結果を及ぼす行為の原因が「内的

-統制可能E

不安定'特殊な」要因に帰せられる場合に罪悪感が生じると考えている。

司ゆ『

mgghwロOBH}ωミ(N20)

は、これら二つのモデルは単に強調点の違いによるものであり、対人関係

志向モデルは責任性基盤モデルに統合できることを示唆している。彼らは、哲学者ストローソンらの論考に

基づき、人の感情は、特定の事象がアイデンティティや期待を承認するか否かを示すシグナルとして作用す

る、という立場をとる。たとえば、行為者に向けられた怒りの表出は行為者が何らかの重要な基準を侵犯し

67

たことを伝達する。同様に、罪悪感の表出は、行為者が規範の逸脱を自ら認識していることを伝達するので

68

ある。すなわち、罪悪感は「同定メカニズム

(広めロ仲間同

ggqBoss-印自)」として捉えることができる。人

はさまざまな欲求、目標、意図をもって相互作用に参加し、常にその正当性を評価しようとする。罪悪感の

経験や表出は、それを同定する役割を果たすのである。司

2mgghw巴巾自宮司(N20)

は、罪悪感をこのよ

うに捉えると、罪悪感が道徳的規範を侵害したという個人の解釈から生じることはあるにせよ、同時に責任

性の認知も罪悪感の生起に重要な役割を果たす、というように両モデルを統合的なとらえることが可能にな

るとした

(司

2mロmOロ

hwロぬEH)印。ω〉NOHo-

三.実存的生存者罪悪感

冒頭で触れたように、罪悪感は自己の行為に基づく場合だけでなく、自己が(客観的には)統制不可能な

事象によっても生じる。生存者罪悪感はその代表的なケlスである。大規模災害や事故の生存者が、自分で

はまったくコントロールや予見が不可能であるにもかかわらず、(犠牲者ではなく)自分が生き残った事実

に対して罪悪感を抱くのである

(0

・mニピ件。PSS一回包含・

58)。心理学では、災害や事件・事故の生存

者が扱われることが圧倒的に多いが、たとえばリストラを免れた従業員も一種の「生存者」であり、彼らが

感じる罪悪感も同様である

(0・mJ回gnwE円-H89回gnwB吋・ロ2M〉色町の間百戸凶器印一

ZOOF-S∞)。

富山号品目的

(53)は、生存者罪悪感を二つのタイプに分類している。実存的生存者罪悪感

(REgt包

22-〈O吋関戸口同)と内容的生存者罪悪感

(ngzE22ZO円程宮)

である。

実存的生存者罪悪感は、自分が生存して他者が死亡した場合のように、自分の方に好運な結果がもたらさ

れる状況で感じる罪悪感である。「生と死」という極端な場合でなくても、他者より怪我や被害の程度が相

対的に軽いという状況でも生じる。その名の示す通り、この罪悪感は「なぜ自分が生き残ったのか」「人生

にはどんな意味があるのか」といった実存的な問いを投げかける。そして、しばしば、「その人と入れ替わ

りたい」という願望を強めたり、「自分がもっと大きな被害を受ければあの人の被害は軽かったはずだ」と

いう思考を生み出す。

生存者罪悪感に関する一考察

は、実存罪悪感を生み出す条件として以下の四つをあげている。

①自己の有利な立場が統制可能なものであり、正当化されるべきものであると考えている、②自分の有利な

立場と他者の不利な立場の聞に、直接的あるいは間接的な因果関係があると考えている、③自己と他者がお

冨Oロ片山邑?ωnFEE-hw口弘

σR片(HC∞。)

かれた状況の差違の正当性について、疑念をもっている、④不利な立場の人たちに対して、連帯、責任、同

情を感じている。

死をもたらした出来事の種類にもよるが、このような生存者罪悪感はいくつかの機能をもつことが指摘さ

れている

(USE--5∞∞一宮町民gwFHCCC)

。その一つは、出来事の意味を失わせないことによって死者を称

えるという機能である。たとえば、兵士が戦死した戦友に申し訳ない気持ち(罪悪感)をもつので自らが人

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生を楽しむことを控えたとすると、その罪悪感は、戦友に対する敬意を持ち続けるように働くことになる。

70

ホロコーストの生存者を扱ったロg-oE28∞)は、罪悪感の機能として無力感に対する防衛をあげている。

すなわち、自分はよりよい行為や選択をすることができたはずだと考えることで後悔や罪悪感が生じさせる

が、同時に、圧倒的な出来事の前に無力であるという現実からを目を逸らさせてくれることにもなる。

ロm

吉町民(忌∞∞)は、罪悪感の記念機能

(gEEOEogaa〈σPR民自)についても述べている。愛する人を喪っ

た場合、その喪失を十分に悼み「区切りをつける」ことは、死者を忘れ去ることでもある。しかし、罪悪感

を感じ続ける限り、そのことが死者に対する忠誠の証となる。

四内容的生存者罪悪感

内容的生存罪悪感は、自己の存在そのものが問題になるというよりも、ある状況(戦場や災害現場など)

の下で、生存者が危害を回避するために自己防衛的に行った行動や思考・感情によって生じる罪悪感である。

緊急場面では人間に備わった自動的な防衛反応が生じるが、これが、自己概念、価値観、社会的規範、職業

意識など、本来自己の行動を部分的にでも律している基準と不一致であることが認識されることによって生

じるものと考えられる。

宮巳

gE印

(53)は、内容的生存者罪悪感の原因として、以下の四つをあげている。第一は、自分自身を

臆病と評価する場合である。突然の脅戚に対してすくみ(骨SNO)

反応が生じて犠牲者を援助できなかった

とすると、自分では統制不可能な結果であるにもかかわらず自分を臆病者と判断する可能性がある。第二は、

他者からの援助要請を無視したり、応えられなかった場合である。大規模な災害や事故においては、自分自

身や家族を守るための行動を優先させることによって、結果的に他の被災者や被害者を援助できないことが

ある。被爆者の証言の中に、この種の罪悪感に関するものが数多く出現する。第三は、困難な状況における

ミスである。戦時や大規模災害のように極端にストレスフルな状況の下では、訓練を受けた兵士や救援者で

あってもミスを避けることはできない。しかし、「ミスはあってはならない」と考える限り、ミスを起こせ

ば罪悪感を感じることになる。第四は、「不適切な」思考や感情である。長い看護の末に親が亡くなった場合、

生存者罪悪感に関する一考察

一瞬ホッとした気持ちが生じたとすると、本来感じるべき悲しみとは相容れない反応をしたことに対して罪

悪感を抱くことになる。第五にあげられる原因は、トラウマティックな出来事に対するコ

lピングそのもの

である。人はこの種の事象に遭遇した場合、生存を確保したり機能水準を維持するためにさまざまな方略を

意識的、無意識的に採用する。たとえば、事象の程度や影響を小さく見積もったり、あたかもその事象が生

起していないかのように振る舞ったり、現実に直面するのを避けるために「合理的な」理由を見つけ出そう

とする。解離反応や、ギャンブルや飲酒による現実逃避、自傷行為などは、個人の弱さというよりも、状況

の深刻さが招くものと考えることができる。しかし、そのような方法を用いたこと自体が、後で罪悪感を生

じさせることになる。たとえば、突然の肉親の死を経験して解離症状と呈した遺族は、記憶がないままに葬

71

式を出して故人を見送ってしまったことに罪悪感を覚える。若干重なる部分もあるが、冨ω広島町

(53)は、

72

以上のような原因によって生じる内容的生存者罪悪感を、次の五つのタイプに分けている。

①能力に関する罪悪感

(gEuzgq吉宮)

本来自分ができるはずだと考えているレベルの行動を、

混乱した状況の下で遂行できなかったことによる罪悪感。災害や事故などの切迫した状況においては、

複数の選択肢を考慮する余裕がなかったり、感情が高ぶっていたりして、日常とは異なる判断プロセス

が働くのが普通である。長期にわたる介護など慢性的ストレス状況においては、それが「日常」となっ

ていたとしても、過剰な作業、感情の多様性や葛藤など、困難な条件が数多く存在する。それにもかか

わらず、自分にはできるはずだ、そのような能力があるはずだと考えることによって、この種の罪悪感

が生じる。

②不注意・怠慢による罪悪感(ロ

omEgBm己皆)

不注意や怠慢によってある結果が導かれたと認知する場合に生じる罪悪感。たとえば、医療事故が発生

実際には他の原因が存在するもかかわらず、自分の

した場合、実際には病院のシステムなどに原因があるにもかかわらず、直接医療行為を行った者が自分

のミスに固執して罪悪感を感じたり、流産した母親が自らの不作為(あのときーをやらなかったから)

に注目して自らを責めるような場合がこれにあたる。

③後知恵バイアス

(EE'一回目mEEg)による罪悪感一般に人は、ある出来事が生起した後に、「やはり

そうだつたか」と、あたかも予見可能だったと考える傾向がある。自分自身が経験した出来事に関して

も、実際には切迫した状況の下で必要な情報が得られなかったり、情報を得るための能力が発揮できな

かったにも関わらず、自己の予見能力を過大評価することによって罪悪感を感じることになる。また、

周囲の人々も同様のバイアスの影響を受けるために、当人に責任を負わせる結果になりやすい。

④超人罪悪感(白石耳目白哲皆)統制できる余地が全くない出来事においても、人は統制可能だと考

える傾向がある。その場合、出来事の因果的解釈は可能になるが、自己に責任があると考え、結果とし

生存者罪悪感に関する一考察

て罪悪感が生じるという「対価」が生じることになる。

⑤ジレンマに基づく罪悪感

(gRVENN

担比胃)どの選択肢を選んでも望ましくない結果(自分の価値観

や信念を裏切る)が招かれる状況において、何らかの選択を行った結果として生じる罪悪感。そのよう

な状況で、選択肢の一つが自分や家族が生き残るための行動であったるとすると、生存者罪悪感が生じ

ることになる。

73

五.罪悪感、共感性と病理的愛他性

74

これまで生存者罪悪感のタイプや生起条件について見てきたが、以下では共感性と罪悪感の関係、さらに

それらが生み出す過度の愛他性について検討する。

実存的生存者罪悪感の場合、先述のように冨

SEE-∞SEFhwU包ZZ(HSO)

は、不利な立場の人々

に対して連帯・責任・同情を感じることを罪悪感を強める条件としてあげた。内容的生存者罪悪の場合も、

自分の行為や反応の結果として被害を受けた他者の立場に共感するほど、罪悪感を強く感じることになるだ

ろう。

0.noBR-回R弓-F何者2・hrm民〈号

(NOHN)

は、こうした共感に基づく罪悪感(何百宮吾ヤ

g路島

問巨匠)と愛他性の関連について進化論的な立場から検討を加えている。彼らによると、共感性に基づく罪悪

感は、食料や住居の獲得に関して個体聞で大きな格差がある環境の中で、比較的大きく安定した集団を維持

するために進化してきたメカニズムとされる。他個体の苦痛に共感して援助や分配を行う能力は集団への所

属感情を生み出し、

一方で日常的な相互作用の中では、所属欲求がさまざまな感情制御を促す(回EBa20H

hwFO自.吋・

58)。

0.nggF回男弓-F04『Fhwω民〈ぬ円

(NSN)

によれば、生存者罪悪感は、このような共感

性に基づく罪悪感の特殊なケlスということになる。

共感に基づく「正常な」罪悪感は、さまざまな状況で愛他的行動を生起させるが、

一方で、

0・nogR-

固め『弓-FO当日夕

hw∞宏、OH(NOHN)

は、本来適応的な働きをもっ共感性や罪悪感が「病理的愛他性(宮任。-o位。色

包可口町田)」を導く可能性があることを指摘している。「病

理的」か否かの明確な基準を設定することは困難である

し、「病理的愛他性」をそもそも愛他性として捉えてよ

いかという議論もあり得るが、冨mH

広島町

(53)は同様

の概念に対して「過剰提供(O〈

Rm-iロぬこという語で使つ

ている。この過剰提供は、「他者や集団に対して、自ら

が経済的・感情的・身体的側面で重大な結果を招いてし

まうまで、時間・愛情・金銭・奉仕を提供すること」(匂・

5∞)

と定義されている。要するに、強い生存者罪悪感を経験

生存者罪悪感に関する一考察

している人が自らを犠牲にして他者のために尽くすこと

が問題とされるのである。

図ーにはそのプロセスが示されている。苦しむ他者に

共感して自らも苦痛を感じ、その原因が自分にあると認

知することによって病原性罪悪感(宮吾omoEnmc宮)

が生起する。そして、

媒介されて、最終的に病理的愛他性に至る。彼らの言葉

いくつかの「誤ったピリlフ」に

苦痛を感じている他者

苦痛を感じている他者を目撃することで他者に

共感し、自分のことのように苦痛を感じる

病原性罪悪感の生起:自分が苦痛の原因であり、

その苦痛を軽減できると誤解する

その人の苦痛を解消できるという

誤った考えに基づいて、衝動的で

思慮のたりない行為を遂行する

苦痛を感じている人に比べて良い状

態になるのを避けようと、自己の正常

な行動を悪く評価したり抑制する

誰の助けにもならない、または苦痛を感じている人を

傷つける可能性のある病理的愛他的行為を遂行する

罪悪感と病理的愛他性 (Q'Connoret al., 2012) 図1

75

を借りれば、「共感性に基づく罪悪感がその範囲や視点の点で過剰になったり非現実的になったりすると、

76

それが病理的傾向をもっ愛他性を導く。病原性(富民5moEの)罪悪感は、因果に関する誤った説明に伴うも

のであり、その結果として、精神病理や病理的愛他性が生じる。そして、多くの場合、自己非難のナラテイ

ブが意識下に隠されており、これが多くの領域を覆っている」

(0・

5)のである。たとえば、被災者や被害

者と自分自身の状況を比較して、自分のほうがよい状態であることを知った場合、自分の幸福が他者の不幸

の源になっている、逆に言えば、他者の不幸の上に自分の幸せが成立している、という「誤ったピリlフ」

を抱くほど、その罪悪感は病原性となる傾向があることになる。

0.のoロロOF回OHHW-F041∞-hw∞氏〈旬

(NEN)

は、生存者罪悪感が心の仕組みとして備わっていることにつ

いて、進化心理学的な解釈を試みている。すなわち、社会的交換が個体の間で公平に行われるには、援助を

ルlルに従わない個体、すなわち裏切り者(詐欺師)を検知する

受けるだけで他者を援助しないような、

(各gZ円・号Z色。ロ)ためのシステムが存在しなければならない。社会的交換という適応問題を解決するた

めに獲得されてきたこの裏切り者検知のシステムは、

一般には他者の裏切りを検知するためのものとされる

が、生存者罪悪感は、「誤ったピリ

lフ」によって人が自身にそれを適用してしまう例として理解される。

要するに、生存者罪悪感は、人が誤ったピリ

1フをもち自分を詐欺師とみなすことによって生じると考えら

れるのである。

六.社会的比較と罪悪感

社会的交換の観点から罪悪感を捉えようとする場合、その前提になるのが社会的比較である。他者との比

較を通じて、われわれは自分が有利か不利か、優れているか劣っているかを知ることができる。社会的比較

の中でも、下方比較(色

odg零時色

gg宮号。ロ)は、本来、自分より不幸な他者と比較することによって主

観的ウエルピ

lイングを高めようとする試みであり、自己高揚的な機能を果たすものとされている(巧邑田・

5∞同)。たとえば、↓

a-o円・巧00角田・

hFEnvgg(冨∞ω)の古典的研究では、乳がん手術後の患者の八割が、

自分は他の患者よりも「ずっと」あるいは「いくらか」うまく対処していると回答した。また、特定の比較

生存者罪悪感に関する一考察

対象が存在しない場合でも、対処困難な人の典型を想像してそれと比較したり、対処困難な人の割合を過大

評価するなどの傾向が認められている。

しかし、関係における衡平

(2aq)理論の視点から考える場合、自分より不幸な他者が存在すること、

言い換えれば自分が過大な利得を得ている「有利な不衡平」の状態であることが比較の結果明らかになると、

不利な不衡平と同様にネガティブな感情が引き起こされることになる。諸井(忌∞山YH80)

の研究では、過

大利得者の典型的な感情である罪悪感(罪責感)を測定するために、「申し訳なき」、「うしろめたさ」、「や

ましさ」が設定されている。有利な不衡平によって生じた罪悪感は衡平を回復するための行動を動機づける

が、合理的な水準を越えて罪悪感が高まれば、先述のようにさまざまな面で自らを犠牲にして「他者のため」

77

あるいは「社会のため」の活動に従事する可能性がある。どのような条件のもとで、自分より不利な状況に

ある人々に目を向けることが自己高揚をもたらすのか、それとも「病理的な」愛他性を導くのか、今後詳細

な検討が必要とされる。

78

七.おわりに

生存者罪悪感は、冒頭で触れたように確かに一般にも知られるようになったが、なぜそのような罪悪感が

生じるのかを明らかにしようとする研究は必ずしも多くない。この領域の研究の進展は、そのポジティブな

側面を明らかにすることを通じて、生存者罪悪感に悩む人々へのカウンセリングや心理治療の面で貢献する

ことになるかもしれない。かつて司自E(忌寸N)

は、罪悪感・苦痛・死を人間存在の一部分であるとして、

悲劇の三要素と呼んだが、逆にこれらの要素を利用して失望を「悲劇の中の楽観性(可mmwoua田町田)」に

変えることができると考えた。中でも罪悪感は、自己をさらに改善する機会を得ることを通じてその楽観性

の獲得に貢献するとした。同様に、本稿で触れたように進化心理学的な視点からすると、「生存者罪悪感は、

取り除くべき精神疾患ではなく、他者への愛という人間存在の最も崇高な感情の一つに由来するもの」

(冨MwgmwW2・5S)と考えられるのである。

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