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平成 25 年度 広島市衛生研究所 業績発表会 発表要旨集 日時:平成 26 3 7 午前 9 00 分~16 00 場所:衛生研究所 1階 大会議室 広島市衛生研究所

平成 25 年度 広島市衛生研究所 業績発表会 発表要 …...平成 25 年度 広島市衛生研究所 業績発表会 発表要旨集 日時:平成 26 年3 月7 日

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平成 25 年度

広島市衛生研究所 業績発表会

発表要旨集

日時:平成 26 年 3 月 7 日 午前 9 時 00 分~16 時 00 分

場所:衛生研究所 1階 大会議室

広島市衛生研究所

平成 25年度広島市衛生研究所業績発表会プログラム

□ 開 会 9:00

□ 開会挨拶 ( 光野 部長 ) 9:00~

□ 業績発表 ( 発表・質疑時間 合わせて15分 ) 9:10~

演 題 発 表 者 頁 開始時刻

座 長:松室 専門員

1 栄養表示基準に係るカルシウムの分析法の問題点について 松木 司 P7 9:10

2 特定原材料アレルギー物質(そば)検査の陽性となった事例 宮野 高光 P9 9:25

3 LCMSMS法による農産物中残留農薬一斉分析の妥当性評価 金行 良隆 P11 9:40

4 放射線照射検知の外部精度管理試験参加結果について-その2- 佐々木珠生 ※ 9:55

-休 憩 15分-

座 長:坂本 専門員

5 細菌感染症発生時の検査体制について 築地 裕美 P15 10:25

6 腸管出血性大腸菌O26のMLVAについて 田内 敦子 P16 10:40

7 平成25年3類感染症の発生とEHEC O26の疫学解析について 児玉 実 10:55

8 便からのクドア検出限界値について 鈴木 康仁 P20 11:10

9 脳炎・脳症検体におけるマルチプレックスリアルタイムPCRの検討 田中 寛子 P22 11:25

-昼 休 憩-

座 長:片岡 専門員

10 ゴルフ場農薬のLC/MS/MSによる同時分析法の検討―その3- 渡邉 進一 P24 13:10

11 公共用水域の窒素・リン挙動について 楾 佳奈 P26 13:25

12 降下ばいじんの溶解性物質について 福田 裕 P27 13:40

13 大気中微小粒子状物質(PM2.5)に含まれるイオン成分の解析について 原田 敬輔 P29 13:55

14 ICP-MSによる大気粉じん中の多成分同時分析の検討 市川 恵子 P30 14:10

15 室内環境における揮発性有機化合物(VOC)濃度について 神田 康弘 P31 14:25

□ 特別講演 「身のまわりの放射能と放射能規制の基本的考え方」 岩崎 所長 14:55~

□ 閉会挨拶[講評] ( 岩崎 所長 ) 15:55~

※ 資料なし

栄養表示基準に係るカルシウムの分析法の問題点について

生活科学部 ○松木司 橋本和久 金行良隆 村上紀子 宮野高光

佐々木珠生 長谷川富子 松室信宏 光野幸一

は じ め に

販売に供する食品に、栄養成分濃度を表示を

する際には、健康増進法の栄養表示基準に基づ

き、通知による試験方法(以下通知法)により

求めた値と表示値との差が定められた許容誤

差範囲になければならない。

当所においては、この通知法に準じて、収去

品の検査を行っている。

内部精度管理として、栄養成分のひとつであ

るカルシウムの添加回収試験を行い、通知法に

おける問題点を確認したので報告する。

方 法

1 添加回収試験(その1)

細断したエノキダケ 2g に、カルシウム

100mg/l 標準液を 2.5ml 添加し、カルシウム濃

度として 125μg/g に調整したものを 5 試料、

標準液無添加のエノキダケを試料ブランクと

して 1 試料、計 6 試料を通知法に準じて分析し

た。分析のフローを図 1 に示す。

また、塩化ストロンチウムは干渉抑制剤として使

用しており、最終検査溶液での濃度を 0.5%として

いる。

2 塩酸濃度の変化に対する測定値の変化

カルシウム5mg/l溶液を0.5~3.0%塩酸溶液

で 4 試料作成し、各々のカルシウム濃度を原子

吸光で測定した。なお、各試料とも塩化ストロ

ンチウム濃度は 0.5%に調整した。

3 添加回収試験(その2)

時計皿で覆い 30 分間ホットプレートで加温

する温度を 100℃に変更、2 回目の塩酸(1+1)

添加量を 2.5ml に変更、50ml ポリエチレン製メ

スフラスコへの洗い込みを本来の水に変更し、

添加回収試験を再度初めから行った。

結 果 と 考 察

1 添加回収試験(その 1)

通知法では、時計皿で覆い 30 分間ホットプ

レートでの加温を 150~200℃で行うことにな

っており、実際この温度で行ったところ、予想

されたことではあったが、試料ブランクと試料

石英ビーカーに細断したエノキダケ 2g 採取

←カルシウム 100mg/l 2.5ml

ホットプレートで予備灰化(200℃)

マッフル炉で灰化 200℃(1hr)→500℃(6hr)

放冷

塊上の炭が残ったので水を加え、ガラス

棒で砕き、水浴上で蒸発乾固し再灰化

←塩酸(1+1)3ml

水浴上で蒸発乾固

←塩酸(1+1)3ml

時計皿で覆い 30 分間ホットプレートで加温

温度 150℃(通知法:150~200℃)

2 検体乾固したため、本来通知法では水

で洗い込みを行うが、1%塩酸で行った。

ろ過(No.5A)

50ml ポリエチレン製メスフラスコ

←塩化ストロンチウム 5%液を 5ml

定容

原子吸光

図 1 添加回収試験(その1)フロー

7

表 1 添加回収試験結果(その 1)

試料番号 1 2 3 4 5

回収率(%) 99.4 74.3 88.2 90.1 80.7

平均回収率:86.5% 変動係数:11.0%

1 が突沸後に蒸発乾燥し、この 2 試料は加温を

中止し、残りの検体については、100℃で加温

を続けた。この間、残りの検体は還流状態を保

持したが、液量にばらつきがみられた。

通知法では、水で定容するようになっている

が、乾固した 2 試料には塩酸が残存せず、また、

検量線を 1%塩酸で作成していることから、全

ての試料を 1%塩酸で定容した。

5 試料の回収率を表 1 に示す。74.3~99.4%

の範囲で、ばらついており変動係数は 11.0%と

大きな値となった。

これら 5 試料の塩酸濃度は全て異なっており、

確実に塩酸濃度が 1%であるのは、検体 1 のみ

であり、この検体の回収率が 99.4%と最も

100%に近いことから、塩酸濃度のばらつきが

回収率のばらつきの原因として推定される。

2 塩酸濃度の変化に対する測定値の変化

試料に全ての塩酸が残存したと仮定すると

その濃度は、定容時の濃度は約 2%となる。つ

まりこれら 5 試料の塩酸濃度は、1%~2%の範

囲にある。

そこで、方法の 2 により測定を行った。その

結果を図 2 に示す。

図 2 塩酸濃度の変化に対する測定値の変化

塩酸濃度が 1%では、5.01mg/l の測定値とな

ったが、塩酸濃度が 1%からずれると想定して

いた以上に大きく測定値に変化がみられた。

また、これら 6 試料の残りから各々20ml 分取

し、水浴上で乾固させ、1%塩酸で各々20ml に

定容することにより塩酸濃度を各々1%に合わ

せた。これらを原子吸光で濃度を測定し、再度

回収率を求めたところ、回収率は 93.9%~

103%の範囲になり、変動係数も 3.7%と大きく

低下した。

これらのことから、回収率のばらつきの原因

は、塩酸濃度のばらつきにあると考えられる。

3 添加回収試験(その2)

結果を表 2 に示す

回収率は良好な結果となり、変動係数も大きく

低下した。

表 2 添加回収試験結果(その 2)

試料番号 1 2 3 4 5

回収率(%) 106 102 104 104 104

平均回収率:104% 変動係数:1.3%

ま と め

以上の実験結果より、時計皿で覆い 30 分間

ホットプレートで加温する温度は、通知法での

150~200℃では、検体が蒸発乾固するため、

100℃で還流状態の加温が適切である。

検体の塩酸濃度は測定結果に大きく影響す

るため、検量線の塩酸濃度の 1%に合わせるこ

とが特に重要である。

また、通知法は定容後、1%塩酸で希釈し原

子吸光で測定することとなっている。しかし、

市販品にはカルシウム濃度が低濃度で、50ml 定

容で測定できるものもあり、通知法の希釈原則

は必ずしも適切ではないと思われる。

8

特定原材料アレルギー物質(そば)検査の陽性となった事例

生活科学部 ○宮野 高光

【背景及び目的】

食物アレルギーの健康危害の発生を防止する観点から,平成 13 年 4 月からアレルギー物質を含む食品

の表示が義務付けられた。平成 14 年 11 月に食発第 1106001 号厚生労働省医薬局食品保健部長通知「ア

レルギー物質を含む食品の検査方法について」が通知され,現在,特定原材料 7 品目(卵,乳,小麦,

そば,落花生,えび及びかに)の検査方法が通知されている。当所においても平成 16 年度から年度ご

とに品目を変更しながら検査を実施して現在に至っている。今回初めて検査の結果,陽性となった事

例が生じたので報告する。

【方法】

1.試料

収去検体

2.主な試薬及び機器

(1)スクリニーング検査(ELISA 法)

a.試薬

FASTKIT エライザ Ver.Ⅱそば(日本ハム株式会社中央研究所)

モリナガ FASPEK そば測定キット(株式会社森永生科学研究所)

b.機器

マイクロプレートリーダー:GENios (テカンジャパン株式会社)

(2)確認検査(定性 PCR 法)

a.試薬

DNeasy® Plant Mini Kit(シリカゲル膜タイプキット),Genomic-tip 20/G(イオン交換樹脂タイ

プキット),Genomic DNA Buffer Set,Protenase K,RNAaseA(いずれも QIAGEN 社製),α-アミラ

ーゼ(SIGMA 社製),アレルゲンチェッカー®「植物」(植物 DNA 検出用プライマー対)及びアレルゲン

チェッカー®「そば」(そば検出用プライマー対)(オリエンタル酵母工業株式会社製),NuSieveTM3:

1 Agarose(Lonza 社製)

b.機器

紫外可視分光光度計:UV-2450(SHIMADZU 社製)

サーマルサイクラー:PROGRAM TEMP CONTROL SYSTEM PC350((株)アステック)

電気泳動装置:Wide Mini-Sub Cell®GT(BIO-RAD 社製)

3.検査方法

(1) スクリーニング検査

通知に従い,2 種類の ELISA 法による検査キット(当所では FASTKIT エライザ Ver.Ⅱそば及びモ

リナガ FASPEK そば測定キット)を用いて実施し,抗原タンパク質濃度が 10 ㎍/g 以上を陽性と判断

し,判断樹に従って確認検査を実施する。

(2)確認検査

通知に従い,試料から○ⅰ DNeasy® Plant Mini Kit 及び○ⅱ Genomic-tip 20/G を用いて DNA を抽出・

精製し,DNA の精製度の確認と定量を行って基準に最も近いものを用いて PCR 増幅を実施後,アガ

ロースゲル電気泳動で目的の DNA 増幅バンドを確認する。

9

【結果】

スクリーニング検査を実施したところ,飲食店Aから収去した「ゆでうどん」から特定原材料由来(そ

ば)のタンパク質について最終的に「FASTKIT エライザ Ver.Ⅱそば」は 28 ㎍/g,「モリナガ FASPEK そば

測定キット」は 16 ㎍/g を検出したので、判断樹に従って,確認検査を実施することとした。

まず初めに○ⅰ DNeasy® Plant Mini Kit を用いて,2 検体をそれぞれ DNA 抽出・精製し,精製度と定量

を行うと①DNA 濃度 3.0ng/㎕,O.D.260/O.D.280 値 2.1,O.D.260/O.D.230 値 0.1②DNA 濃度 1.9ng/㎕,

O.D.260/O.D.280 値 3.6,O.D.260/O.D.230 値 0.06 であった。これらは PCR 増幅後,電気泳動を行った

が,ゲル上には何ら増幅バンドが現れなかった。

次に○ⅱ Genomic-tip 20/G を用いて,2 検体それぞれ DNA を抽出・精製し,DNA の精製度の確認と定量

を行うと①DNA 濃度 296ng/㎕,O.D.260/O.D.280 値 1.8,O.D.260/O.D.230 値 1.7②DNA 濃度 298ng/㎕,

O.D.260/O.D.280 値 1.9,O.D.260/O.D.230 値 1.8 であった。これらをそれぞれ精製水で 15 倍に希釈し

て PCR 増幅後,電気泳動を行うと植物 DNA,そば DNA の増幅バンド両方を確認した。

これらのことより,飲食店Aから収去した「ゆでうどん」をアレルギー物質(そば)陽性と判定した。

【まとめ】

平成 16 年度から特定原材料アレルギー物質検査を年度ごとに項目を変えて実施してきたが,収去品を

スクリーニング検査で陽性と判断し,確認検査(PCR 法)を行って陽性と判定した事例は,今回が初めて

であった。

DNeasy® Plant Mini Kit と Genomic-tip 20/G で抽出・精製できた DNA 濃度にかなり差があるが,一

般に前者は加工程度の低い試料,後者は主に加熱混合,発酵などの処理が施された加工程度の高い試

料に適用される。「ゆでうどん」は小麦粉と水と塩で練り,茹でて作られているが,小麦粉の成分は大

半がデンプン質なので茹でることにより糊化している。このことが前者で DNA 抽出・精製がうまくい

かなかったと考えられる。一方,後者はアミラーゼ処理の操作があり,DNA 抽出・精製がうまくいった

と考えられる。

今後の課題は,効率化,検査技術の向上を図り,時間短縮,精度の向上,簡素化などを検討しようと

思う。

10

LCMSMS 法による農産物中残留農薬一斉分析の妥当性評価

生活科学部 金行良隆

1.緒言

当所では、農畜水産物等の農薬や動物用医薬品等の検査を行っているが、これらの試験法

について、平成 19 年に「食品中に残留する農薬等に関する試験法の妥当性評価ガイドライン」

(以下、「ガイドライン」)が通知された。このガイドラインでは試験法を適用する農薬等と食

品の組み合わせごとに延べ 5 回以上にわたる添加回収試験を行い、そのデータから真度、併

行精度、室内精度等の評価を行うことが求められている。

その後、平成 22 年にこのガイドラインの一部改正と、平成 25 年 12 月 13 日までに試験法

の妥当性評価を行った上で試験を実施することが通知され、同日以降は、このガイドライン

に基づく結果を公式な試験結果とすることとされた。つまり、妥当性評価が完了していない

試験法による結果を正式な試験結果とすることができなくなった。当所では、農産物の

GCMSMS 項目および LCMSMS 項目、並びに鶏肉、卵、乳、はちみつ、魚介類の農薬(農薬は魚介

類を除く)および動物用医薬品について妥当性評価を行う必要があり、鋭意取り組んでいると

ころである。

今回、農産物の一部の LCMSMS 一斉分析項目について妥当性評価を行ったので報告する。

2.実施内容

(1)添加対象試料

代表的な農産物としてキャベツ、あまなつ、りんごを選定し、ガイドラインに基づく回

数の添加回収試験を行い、対象農薬について真度等パラメータの評価を行った。柑橘類に

ついてガイドラインで例示されているのはオレンジだが、農薬を殆ど使用していないブラ

ンク試料を入手できなかったため、あまなつを試料とした。また、りんごでも無農薬のブ

ランク試料が入手できず、ブランク試料から一部農薬が検出されたが、この値を差し引い

た値により真度の評価を行った。

(2)評価対象農薬と添加濃度

LCMSMS で測定を行っている 65 農薬。メソミルとチオジカルブはそれぞれの成分を分析

しているが、基準値項目としては合量なので 2 農薬の平均値で評価を行っている。また、

アゾキシストロビンは妥当性評価を実施中に追加した項目であり、今回では果実のみでの

評価である。

添加濃度はガイドラインに基づき、0.01 および 0.1ppm の 2 濃度で行った。

3.分析方法

図 1 のように前処理を行い、LCMSMS により分析を行った。前処理の方法を改良し、精製時

にアセトニトリル-トルエン(3:1)混液 30ml で溶出していたものを 15ml に改めた。また、今

回対象とした農産物のうち、あまなつについては多くの農薬で測定結果が悪かった(目標値を

満足できる見込みがあるものが約 15 項目だった)ため、前処理法の改良を検討し、抽出時に

おけるクエン酸塩類の添加を工程に追加した。この工程の追加は果実の前処理に適用するこ

ととした。

4.実施結果

表 1 に示すとおり、妥当性評価の結果、キャベツで 9 項目、あまなつで 20 項目、りんごで

4 項目がいずれかの目標値を満足できなかった。

今後とも継続して各食品について妥当性評価を行っていく予定としている。

11

図 1 分析方法

表 1 妥当性評価により目標値を満足できなかった項目

農産物名 キャベツ あまなつ りんご

項目名

チアメトキサム

イミダクロプリド

クロチアニジン

ピラゾリネート

キザロホップ-p-テフリル

フェンピロキシメート

フルフェノクスロン

ヘキシチアゾクス

トラルコキシジム

オキシカルボキシン

チアベンダゾール

アザメチホス

ジメチリモール

フラメトピル

イソキサフルトール

クミルロン

シアゾフェミド

フェノキシカルブ

ピラゾリネート

クロメプロップ

PHC

アミノカルブ

ベンダイオカルブ

フルフェノクスロン

ヘキシチアゾクス

メパニピリム

トラルコキシジム

オリザリン

ピリミカルブ

チアベンダゾール

キザロホップ-p-テフリル

クロメプロップ

トラルコキシジム

12

細菌感染症発生時の検査体制について

生物科学部 築地 裕美

【はじめに】

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下,感染症法)の目的は,感染症の発生

予防及びまん延防止を図ることである。地方自治体において,地域の感染症発生状況を的確に把握し,

公衆衛生の向上及び増進に努めることは重要な責務である。

本市は広島市感染症発生動向調査実施要綱に基づき,市内の感染症発生状況を把握するとともに感染

症発生時の感染予防やまん延防止活動を行っている。当所では,感染症発生時に市内医療機関及び各区

保健センター等の行政機関より搬入される検体からの病原体の分離・検出及び同定検査を実施し,さら

に分離菌株の各種疫学的解析を行い,病原菌に関する情報を収集・分析し,その結果を還元している。

今回は,2013 年に広島市内で発生した三類感染症(腸管出血性大腸菌感染症,細菌性赤痢,コレラ,

腸チフス)を例に,当所における感染症発生時の検査体制について紹介する。

【検査の概要】

患者及び家族等の接触者については,各種選択培地等で分離培養した。疑わしいコロニーを釣菌し,

性状確認用培地に接種して生化学的性状を確認した。さらに,血清型別や毒素遺伝子等の確認を行い,

当該病原菌であることを同定した。搬入された患者菌株についても同様に検査し,確認した。

表 2013 年の広島市における三類感染症届出件数

届出件数

腸管出血性大腸菌感染症 22

(内訳)O157:H7 7

O26:H11 10

O165:HNM 3

O181:H16 1

O121:H19(1) 1

細菌性赤痢(2) 1

(内訳)S.sonnei 1

コレラ(2) 1

(内訳)O1 エルトール小川型 1

腸チフス(2) 1

(1)菌株を入手できず,(2)海外輸入例

15

腸管出血性大腸菌 O26 の MLVA について

生物科学部 田内 敦子

【目的】

腸管出血性大腸菌(EHEC)O26 の

Multi-locus variable-number tandem

repeat analysis(MLVA)を検討し、型別

能についてパルスフィールドゲル電気泳動

法(PFGE)との比較を行った。

【材料】

2013年 6月から 10 月までに広島市で分

離した EHEC O26:H11 VT1 産生 11 株を

用いた。

【方法】

フラグメント解析には 3500 Genetic

Analyzer (Applied Biosystems 社)及び

Gene Mapper (Applied Biosystems 社)

を用い、7 ヵ所の VNTR 領域について解析

を行った 1),2)。 Fragment size marker は

GeneScanTM 600 LIZ ○R Size Standard,

Ver. 2.0(Applied Biosystems 社)を使用

した。繰り返し回数(RN)は、上記と同

じシークエンサーを使用し、一部の検体に

ついて PCR 産物のシークエンス解析を行

って確認した。

【結果および考察】

家族内事例 4 の 2 株(13014、13015)

は MLVA RN が一致した。

また散発事例 3(13012、13013)と事例

5(13016)、事例 6(13021)と事例 7(13022)

及び事例 9(13024)は、それぞれ MLVA RN

が一致した。その他の事例間で結果が一致

したものはなかった。

PFGE の結果と比較すると PFGE で同

一クラスター、あるいは 95%以上の類似度

であった菌株は、MLVA RN も一致してい

た。その他はクラスターごとに MLVA RN

も異なっていた。このことから O26 の

MLVA は PFGE と同程度の型別能を有し

ており、集団事例内や散発事例間での疫学

的関連性を迅速に検討する材料となる可能

性が示唆された。しかしながら今回の解析

は 2013 年分離 11 株のみと少なく、また 7

つの VNTR 領域の内、O157-37 と EHC-6

は全ての株が PCR で増幅されなかったた

め、実質 5 領域での比較となった。今後

O157 の解析における MLVA と同様にその

有用性を示していく上でも、さらに解析数

を増やして検討していく必要がある。

【参考文献】

1) Hidemasa Izumiya et al. (2010): New

system for multilocus variable-number

tandem-repeat analysis of the entero-

hemorrhagic Escherichia coli strains

belonging to three major serogroups:

O157,O26,and O111. Microbiol Immunol

54:569-577

2) 高橋ら: Multilocus Variable-Number

Tandem-Repeat Analysis による腸管出血

性大腸菌(EHEC)O26 遺伝子型別法の検討

岩手県環境保健研究センター年報第 11 号,

67-69, 2011

16

Dice (Tol 1.0%-1.0%) (H>0.0% S>0.0%) [0.0%-100.0%]

marker_XbaI

100

90

80

marker_XbaI

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事例7

事例9

事例6

事例4

事例4

事例3

事例5

事例3

事例8

事例1

事例2

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13022

13024

13021

13015

13014

13013

13016

13012

13023

13001

13009

i69

i69

i84

i147

i147

-

Degradation

Degradation

i145

i74

i72

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9 7 12 - - 5 -

9 7 12 - - 5 -

14 9 11 - - 3 -

9 7 12 - - 5 -

14 9 11 - - 3 -

10 9 33 11 - 4 -

10 9 33 11 - 4 -

10 9 33 11 - 4 -

10 5 20 - - 2 -

10 8 17 2 - 2 -

11 7 15 17 - 3 -

菌株番号 26type No. MLVA RN

O157-9 EHC-1 EHC-2 EHC-5 O157-37 EH26-7 EHC-6

図1 2013 年 EHEC O26(VT1 産生)分離菌株の

XbaI処理によるPFGEクラスターとMLVA RN

17

便からのクドア検出限界値について

生物科学部 鈴木康仁

【はじめに】

ヒラメの生食を共通食とする有症事例については、ヒラメ筋肉内寄生性の粘液胞子虫であるナ

ナホシクドア(学名:Kudoa septempunctata 以下、クドア)が関与することが明らかとなり、

これらの事例は食中毒として扱うことが通知された。クドアを原因とする食中毒と断定するには、

喫食残品から検出する必要があるが、残品の入手は難しいのが現状である。したがって、患者の

便や吐物からの検出が重要となる。現在、ヒラメからのクドア検査法は、暫定法として通知され

ているが、便や吐物からのクドア検査については特定の方法が定まっていない。昨年度の研究で

は便から高濃度のクドア遺伝子を検出することに成功した。そこで今回、便からのクドア検出の

下限値を検討するため、クドア胞子を浮遊させた試料液を段階希釈し便に添加、DNA 抽出キット

を用いて便中のクドア DNA を抽出、2種類の条件でリアルタイム PCR を実施し、比較したので

報告する。

【材料及び方法】

1. 使用検体

便:クドア胞子が存在しないことを確認した患者便 3 検体(P2、P3、P5)

2. 試験方法

(1)DNA 抽出方法

106個/g クドア胞子を含むヒラメから抽出した試料液を段階希釈し添加した、糞便を用いて、

QIAmp DNA Stool Mini Kit で DNA 抽出を行った。

(2)リアルタイム PCR 法

各希釈段階で抽出した DNA をテンプレートとし、Premix Ex Taq(TaKaRa)を用い厚生労働

省通知と大阪府公衆衛生研究所それぞれの条件で、リアルタイム PCR を行った。

【結果及び考察】

添加便の各希釈段階と条件ごとの cycle threshold(Ct)値を表1に示した。

表 1 添加便の希釈段階及びリアルタイム Ct 値

通知法 大阪法

105/g 104/g 103/g 102/g 105//g 104/g 103/g 102/g

P2 40.37 39.75 検出せず 検出せず 検出せず 検出せず

33.28 34.23 37.44 検出せず 37.18 38.01 40.27 検出せず

P3 36.49 37.42 検出せず 42.91 検出せず 検出せず

P5 32.66 35.47 38.43 検出せず 36.67 38.32 検出せず 検出せず

39.11 39.52 検出せず 検出せず 検出せず 検出せず

34.73 35.57 38.52 検出せず 37.04 37.73 検出せず 検出せず

(1)希釈濃度における検出限界について

通知法では添加量を 103/g で検出することができたが、102/g では検出できなかった。このこと

20

から便中に胞子が g当たり 103個以上含まれていればリアルタイムPCRにより検出することが可

能であると考えられる。

(2)PCR 条件による違いについて

通知法では添加量を 103/g にしてもすべての便でクドア遺伝子を検出したのに対して、大阪法

では 103/g では 1 検体、104/g でも 4 検体しか検出されなかった。また検出されている濃度を比較

しても Ct 値が通知法の方が低くなっている。このことからも通知法の方が大阪法に比較して遺伝

子の検出率が高いと考えられる。

(3)添加する便による違いについて

同一の希釈で便に添加した場合でも便により検出率に多少差はあるものの、検出限界値を考え

る上で重要視する必要はないと考えられる。

以上のことより当所で糞便からクドアの検出を行う場合、厚生労働省からの通知による方法を

使用することで 103個/g 以上クドア胞子が含まれていれば検出が可能であると考えられた。

また、今年度広島市において発生したクドアを原因とする食中毒事例でも、同様の方法で患者便

から遺伝子を検出した。

21

脳炎・脳症検体におけるマルチプレックスリアルタイムPCRの検討

生物科学部

○田中 寛子 藤井 慶樹 山本美和子 京塚 明美 石村 勝之

1 背景及び目的

急性脳炎・脳症は全数報告対象疾患(5 類感染症)である。当所では細胞培養とともにリアルタイム

PCR での病原体の検出を行っているが、本疾患の原因には多種多様なウイルスが含まれるため、検査も

種類が多く煩雑となり、また検査を実施できていなかったウイルスもあった。マルチプレックスリアル

タイム PCR 法を用いることで、数種類の病原体を一斉に網羅的病原検索を行い、ウイルスの検索を迅速

に行うことができる。

2 方法

対象とするウイルスは脳炎・脳症等神経系疾患の原因ウイルス 5 種類(風疹ウイルス(Rub)、麻しん

ウイルス(MV)、ムンプスウイルス(Mum)、ウエストナイルウイルス(WNV)、EB ウイルス(EBV))

とした。

検体については広島市感染症発生動向調査事業により搬入された脳炎・脳症等神経系疾患患者の咽頭

拭い液または鼻汁・髄液・血液から抽出した cDNA 30 検体(咽頭拭い液または鼻汁 14 検体、髄液 14

検体、血液 2 検体)を対象とした。

プライマーおよびプローブの配列は現在当所で使用しているものを使用し、Duplex、Triplex PCR の

組み合わせを検討した(表 1)。リアルタイム PCR 反応液は TaqMan Fast Advanced Master Mix(ABI

製)を用いた。陽性・陰性コントロールを、検討するマルチプレックスリアルタイム PCR の反応系と単

味のリアルタイムPCR に同時にかけ、使用できるかどうかの確認を行った。また検体から抽出した cDNA

30 検体についてマルチプレックスリアルタイム PCR を行った。陽性の結果が得られた検体については、

単味のリアルタイム PCR により非特異反応であるかの確認を行うこととした。

3 結果

陽性・陰性コントロールによるマルチプレックスリアルタイム PCR の確認結果を表 2 に示した。単味・

マルチプレックス PCR ともに同様の結果であり、使用できることが確認できた。一方、今回の検体から

抽出した cDNA については全てマルチプレックス PCR 陰性であった(表 3)。

4 考察

プローブの標識を考慮して検討し、表 1 の組み合わせのマルチプレックスリアルタイム PCR を採用し

た。今回は陰性コントロールの結果はすべて陰性であったが、マルチプレックスリアルタイム PCR では

複数のプライマーやプローブを混合するため非特異反応が起こりやすいと考えられるので、陽性となっ

た検体については単味のリアルタイム PCR 法で確認検査を行わなければならない。

マルチプレックスリアルタイム PCR を行うことで、現行より手技も簡易で、安価に一斉分析すること

ができる。しかし複数のウイルスが検出されたり、少ない量のウイルスも検出されることも考えられる

ため、病原体が急性脳炎の直接的原因かどうかの判断には慎重にならなければならない。

5 謝辞

広島市感染症発生動向調査事業に協力いただいている広島市内の定点医療機関各位に深謝します。

22

表 3 臨床検体におけるマルチプレックスリアルタイム PCR 検査結果

検体

Mix① Mix②

MV Rub WNV EBV Mum

+ - + - + - + - + -

咽頭拭い液

または鼻汁 0 14 0 14 0 14 0 14 0 14

髄液 0 14 0 14 0 14 0 14 0 14

血液 0 2 0 2 0 2 0 2 0 2

計 0 30 0 30 0 30 0 30 0 30

表 2 リアルタイム PCR 確認結果

Ct 値

MV マルチ 37.9

単味 36.94

Rub マルチ 36.97

単味 35.98

WNV マルチ 38.72

単味 36.99

EBV マルチ 37.2

単味 34.97

Mum マルチ 26.94

単味 25.99

表 1 ウイルスの組み合わせと標識プローブ

Target virus Reporter Quencher

Mix① MV 6-FAM MGB

Rub VIC MGB

Mix②

WNV 6-FAM TAMRA

EBV Yakima Yellow BHQ-1

Mum Cy-5 BHQ-3

23

ゴルフ場農薬の LC/MS/MSによる同時分析法の検討-その3-

環境科学部 渡邉 進一

はじめに

ゴルフ場で使用される農薬については、水質汚濁の未然防止を図るために「ゴルフ場で

使用される農薬による水質汚濁の防止に係る暫定指導指針」(以下「指針」)が定められて

いる。平成22年度に調査項目の変更が行われ、それに伴い液体クロマトグラフタンデム

型質量分析計(LC/MS/MS)による多成分同時測定の標準法が環境省により示された。

一昨年、昨年とこの標準法の検討を行った。その際、検出下限値のとれなかった成分が

あったため、測定条件の再検討を行ったところ良好な結果が得られている。今回、実試料

での分析を行うとともに実試料を用いて定量下限値、回収率等を求めた。

対象物質

positive モード(35成分) negative モード(8成分)

LC/MS/MS

のみで

測定可能

アセタミプリド、イミダクロプリド、エトキシスルフロン、

オキサジクロメホン、カフェンストロール、クロチアニジ

ン、ジフェノコナゾール、シプロコナゾール、シメコナゾ

ール、チアメトキサム、チフルザミド、テトラコナゾール、

テブコナゾール、テブフェノジド、トリフルミゾール、

トリフルミゾール代謝物、ボスカリド

カフェンストロール脱カル

バモイル体、

シクロスルファムロン

GC/MS でも

測定可能

イソキサチオン、イソプロチオラン、イプロジオン、

シマジン、ダイアジノン、テルブカルブ1)、ピリブチカル

ブ、フェニトロチオン、ブタミホス、フルトラニル、プロ

ピコナゾール、プロピザミド、ペンシクロン、ペンディメ

タリン、メタラキシル、メプロニル

ジチオピル、

トリクロピル2)

LC でも

測定可能

アゾキシストロビン、

シデュロン

トリクロピル2)、ハロスル

フロンメチル、フラザスル

フロン、ベンスリド1)、メ

コプロップ

1)平成25年6月の指針値改正で調査項目から削除された。

2)重複

試験溶液調製方法

市内のゴルフ場排出水を使用した。定量下限値、回収率の測定には排出水を等量混合し

た試料に濃度が 0.5ppb、2.5ppb となるように標準液を添加した。

指針別添の分析方法に従い、試料 200ml を固相抽出、溶出、濃縮し 2ml とした後、うち

24

1ml を分取、濃縮、転溶し 50ml とした。

機器操作条件

指針別添の分析方法に従った。

カラム:Mightysil RP-18GP(関東化学)

カラム槽温度:40℃

溶離液:5mmol/L 酢酸アンモニウム溶液:メタノール(80:20)から(10:90)までの濃

度勾配を 13 分間で行い、そのまま 10 分間維持

試験結果

1.定量下限値

0.5ppb を添加した試料 7 検体の測定結果から求めた。0.5ppb で求まらなかった物質につ

いては 2.5ppb を添加した試料から求めた。物質により 0.18ppb~2.7ppb となり、指針値(物

質により 30ppb~4,700ppb)の 10 分の 1 以下となった。

2.回収率

2.5ppb を添加した試料 7 検体の測定結果から求めた。56~124%の間になった。

25

公共用水域の窒素・リン挙動について

環境科学部 楾 佳奈

【はじめに】

窒素化合物・リン化合物は自然中に存在し、動植物の成長に必要な成分である。その一方で、

水中での濃度が高いと、富栄養化赤潮などの水質汚染を引き起こす原因になる。

本市でも、水質汚濁防止法と瀬戸内海環境保全特別措置法に基づき、公共用水域の常時監視を

行っている。そこで、今回は公共用水域の窒素とリンの挙動について、測定結果をまとめたので

報告する。

【方法】

測定方法 [測定波長]

全窒素 紫外線吸光光度法

JIS K0102 45.2 [220nm]

全リン ペルオキソ二硫酸カリウム分解法

JIS K0102 46.3.1 [880nm]

使用機器:SHIMADZU 吸光光度計 UV-2450

【結果と考察】

1985 年(昭和 60 年度)から 2012 年(平成 24 年度)まで、最大で 28 年間のデータを集計し

た。全窒素・全リンは、ほぼ横ばいで推移していた。(図 2 左,中) 全窒素・全リンは環境基準の

設定がない。そのため参考として、環境基準が定められている BOD について、同地点・同期間

のデータを示した。(図 2 右) BOD グラフ中の点線は、環境基準値 2.0[mg/L]を示している。1985

年から 28 年間、環境基準下回る値を横ばいで推移していた。

窒素・リンなどの栄養塩類は、人間活動の増大に伴って環境に対する負荷を増大させる。その

ため、今後も全窒素・全リンの調査を継続していきたい。

図 1.調査地点(太田川流域)

図 2.経年変化

BOD 全窒素 全リン

26

降下ばいじんの溶解性物質について

環境科学部 福田 裕

は じ め に

本市では大気環境調査の一環として現在、市内3

地点において降下ばいじんの測定を継続して実施

している。

今回は,近年の降下ばいじん量の動向及び溶解性

物質中のイオン成分の傾向についての調査結果を

報告する。

方 法

1 調査地点

調査は次の3地点で行い、その位置を図 1に示す。

・伴小学校(安佐南区沼田町大字伴 6153)

・佐伯区役所(佐伯区海老園二丁目 5-28)

・安佐北区役所(安佐北区可部四丁目 13-13)

2 調査期間

降下ばいじん量

平成 3 年 4月~平成 25年 3月

溶解性物質(イオン成分)

平成 17年 4 月~平成 26年 1 月

3 分析項目(イオン成分)

陽イオン Na+, K+, NH4+, Ca2+, Mg2+

陰イオン SO42-, NO3

-, Cl-

図 1 調査地点

結 果 と 考 察

1 降下ばいじん量の経年変化

降下ばいじん量の経年変化(安佐北区役所)を図

2 に示す。

図 2 降下ばいじん量の経年変化(安佐北区役所)

降下ばいじん量の経年変化は、各調査地点ともに

ゆるやかながら下降傾向に推移していた。

2 降下ばいじん量の月別変化

平成 17年 4月~平成 25年 3月までの各調査地点

の月別変化を図 3に示す。

図 3 降下ばいじん量の月別変化

3地点ともに概ね同様な傾向を示し、3 月、4 月

及び 5月に高い値であった。

3 イオン成分(溶解性物質)

(1) Na,Cl

Na,Clは、海水の主要なイオン成分であり、

本市が瀬戸内海に面することから海水の影響につ

いて検証を行った。図4に経年変化を示す。

図 4 Na,Clの経年変化

安佐北区役所

伴小学校

佐伯区役所

N

Na

Cl

(ton/km2)

(ton/km2)

(ton/km2)

(ton/km2)

27

Na、Clは同様な傾向を示していた。また、月別変

化についても同様な傾向であり、両者の年平均モル

比は海水の成分比と同程度であった。

(2) NH4,SO4,NO3

SO4の経年変化を図5に示す。

図 5 SO4の経年変化

各調査地点、また NH4、NO3ともゆるやかながら

下降傾向であった。

NH4、SO4及び NO3の月別変化を図6に示す。

図 6 NH4、SO4及び NO3の月別変化

佐伯区役所におけるNO3の4月~9月の月別変化

以外では、3地点3イオン共に同様な傾向を示し、

6月、7 月に高い値であった。

(3) PM2.5 のイオン成分との比較

平成 24年度に本市(環境保全課)で実施した PM2.5

の成分分析中のイオン成分と降下ばいじん中(溶解

性物質)のイオン成分との比較を行った。なお、同

一地点での調査でないため、井口小学校(PM2.5)

については佐伯区役所を、志屋小学校(PM2.5)に

ついては安佐北区役所の測定値を使用した。

図7に、井口小学校(PM2.5)及び佐伯区役所の

平成 24年 7 月の組成比(重量)を示す。

図 7 PM2.5のイオン成分との比較(組成比)

降下ばいじんのイオン成分は、NO3 の占める割合

が大きいのに対して、PM2.5 のイオン成分は NH4、

SO4が大半を占めていた。

NH4

SO4

NO3

(%)

(ton/km2)

(ton/km2)

(ton/km2)

(ton/km2)

28

大気中微小粒子状物質(PM2.5)に含まれるイオン成分の解析について 環境科学部

原田 敬輔

1 背景及び目的

大気中には様々な物質が含まれている。そのうち、PM2.5 は、大気中の粒子状物質について、粒径で分類した

ときに、その粒径の中央値が 2.5 ㎛以下になるような微量粒子の総称である。PM2.5 は、人為起源である、燃焼

で発生する粒子やその粒子が大気環境中で化学変化を起こした二次生成粒子が主な構成成分となるが、自然起源

そのほかの様々な成分も含まれる。PM2.5 の特徴として、⑴粒径が小さいため、呼吸器の深部まで到達し、健康

影響が懸念される、⑵組成、由来、環境中動態が複雑である、⑶越境汚染の問題が大きくなっているということ

などが挙げられる。なお、健康影響については、アメリカ6都市研究(Dockery et.al. 1993)により、PM2.5 の

大気中濃度と呼吸循環器疾病率及び死亡率の相関について報告がある。しかし、いまだに PM2.5 の組成、大気中

挙動には不明な点が多い。そのため、PM2.5 の組成を解析し、排出源推定、大気中挙動等を解明する意義は大き

い。様々な自治体において、PM2.5 自動測定器でテープろ紙に捕集された PM2.5 の成分解析報告がある。本市で

も、PM2.5 を自動測定器でテープろ紙に捕集し、大気中濃度を測定している。この自動測定器でテープろ紙に捕

集された PM2.5 の成分分析を行うことが可能であるか検討を行うこととした。本年度は、水溶性成分について、

簡便な抽出・分析法を検討したので報告する。

2 調査地点

調査地点は、図1に示す井口・比治山・可部の3か所の測定局地点とした。

3 調査日時

広島県の測定データと比較するため、2012年5月8日の試料を用いた。

4 測定対象物質

井口・比治山・可部の各測定局に設置された PM2.5 自動測定器のテープろ

紙上に捕集された成分のうち、水溶性成分8種(陽イオン:Na+、K+、Mg2+、

Ca2+、NH4+、陰イオン:Cl-、SO4

2-、NO3-)を対象とし、イオンクロマトグラフ

ィーで測定した。

5 抽出方法の検討

テープろ紙の捕集部を口径11mmのポンチで打ち抜き、プラスチック製

注射筒に入れ、精製水2mLを用いて10分間超音波抽出を行った。広島県

立総合技術研究所保健環境センターが行っている抽出方法を一部改変して抽出しているため、広島県のデータと

の比較も行った。

6 結果と考察

テープろ紙から検出された成分は、主に硫酸イオンとアンモニウムイオンであった。3か所の測定地点のうち、

比治山局は広島市内で最も交通量の多い国道2号線に面しており、他の2か所と異なる成分比となるかと予想さ

れたが、それぞれのイオンの検出量については、図2に示す通り、測定地点間の明確な違いは認められず、広島

県の SPM 成分調査結果(河内入野局)とも近似したものであった。そのため、今回検出されたイオン成分に関し

ては、測定地点近傍の排出源由来ではなく、遠方の排出源からの移流・越境汚染による影響が大であると考えら

れた。また、図3に示すように、アンモニウムイオンと硫酸イオンの間で、正の相関がみられ、イオンの大部分

が硫酸アンモニウムと思われた。今回検討した抽出法は、PM2.5 に含まれる水溶性成分の組成を把握するため、

簡便に分析する方法として有効であると考えられた。今後は、イオン成分だけでなく、炭素成分や金属成分につ

いても測定方法を検討していきたい。

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

10.0

12.0

14.0

16.0

NH4(μg/m3)

可部小学校

測定局

井口小学校

測定局

比治山

測定局

図1 調査地点

y = 0.4568x - 0.0057R² = 0.9983

0.1

0.15

0.2

0.25

0.3

0.35

0.4

0.2 0.4 0.6 0.8

SO

4(μm

ol/m

3)

NH4(μmol/m3)0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

35.0

SO4(μg/m3)

9時

12時

15時

図2 イオン濃度 図3 アンモニウムイオン

と硫酸イオンの相関

29

ICP-MSによる大気粉じん中の多成分同時分析の検討

環境科学部 市川恵子

はじめに

当所では有害大気汚染物質である大気粉じん中の金属類を、石英繊維ろ紙に捕集後、ろ

紙を圧力容器に入れマイクロ波分解装置を用いて分解した後、誘導結合プラズマ質量分析

装置(ICP-MS)で分析を行っている。ICP-MS はダイナミックレンジが大きく、周期表上

のほとんどの元素が同時に測定可能であるため、検査に要する時間や労力を増やすことな

く多元素の同時分析が可能である。

一般に、微小粒子状物質(PM2.5)や浮遊粉じんの発生源解析には化学組成比が使用さ

れている。本市の大気粉じんの化学組成を調査することは大気汚染の現状把握、発生源解

析に有用である。

今回、粉じん中の 32 元素の同時分析について検討を行ったので報告する。

方法

【測定物質】

Al, As, Ba, Be, Ca, Cd, Ce, Co, Cr, Cs, Cu, Fe, Hf, K, La, Mg, Mn, Mo, Na, Ni, Pb, Rb,

Sb, Sc, Se, Sm, Ta, Th, Ti, V, W, Zn

【使用機器】

マイクロ波分解装置(Milestone 製 START D)

ICP-MS(Thermo Fisher 製 X series Ⅱ)

【回収試験】

認証標準物質を約 20mg 秤量し、マイクロ波分解容器に入れ、試薬を加えた後分解を行

った。分解後の試料をホットプレート上で加熱濃縮し、(2+98)硝酸で定容した。測定は

ICP-MS で行った。分解に使用した試薬は以下に示す。

分解使用試薬

条件 1:HNO3 8ml、H2O2 1ml

条件 2:HF 3ml、HNO3 5ml、H2O2 1ml

【ブランク試験】

ろ紙を5φに切り抜き、マイクロ波分解容器に入れ、回収試験の条件2と同様にして分解、

測定を行った。

結果

認証標準試料を用いた回収試験ではほとんどの元素で回収率 80~120%と良好であった。

石英繊維ろ紙ではろ紙ブランクが高く、捕集後の試料の測定は困難であると考えられた。

四ふっ化エチレン製ろ紙を使用することでろ紙ブランクを低減することができた。

30

室内環境における揮発性有機化合物(VOC)濃度について

環境科学部 神田 康弘

1. 背景及び目的 環境省が指定した有害大気汚染物質のうち、特に優先的に対策に取り組むべき物質(優先

取組物質)として多くのVOCが指定されている。現在広島市における大気環境中のVOCは、

有害大気汚染物質測定方法マニュアルに従い、毎月市内 4 地点で測定を行っている。実際

の分析環境では多分野において有機溶剤が使用されていることから、VOC 分析への影響が

懸念されているところである。そこで今回、分析環境における VOC 濃度の実態を把握する

べく当衛生研究所内において測定を行ったので、その結果を報告する。

2. 方法 有害大気汚染物質測定方法マニュアルに従い、VOC12 物質(優先取組物質 11 物質、キシ

レン)について分析を行った。測定地点は衛生研究所 3F の VOC 分析を行っている実験室前

とした。

3. 結果及び考察 平成 24 年度に大気環境中で測定を行った 4 地点の年平均値との比較検討を行った。ジク

ロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタンなどの値が大気環境中と比べ高濃度であっ

た。とりわけクロロホルムについては顕著であり、大気環境中のデータと比べて 30 倍を超

える値を示していた。クロロホルムなど高濃度を示した物質は所内で使用頻度が高いもの

が多く、測定値に影響があったと推察された。その他の物質については大気環境中で測定

した年平均値以下あるいは同程度の値であった。 今後は測定地点を増やすことで、より一層の所内 VOC 濃度の把握に努めていきたい。

分析環境実験室前 全4地点平均値 最小値 ~ 最大値

塩化メチル(クロロメタン) 1.9 1.5 1.5 ~ 1.6塩化ビニルモノマー 0.014 0.026 0.022 ~ 0.0281,3-ブタジエン 0.092 0.12 0.098 ~ 0.18アクリロニトリル 0.10 0.031 0.022 ~ 0.043ジクロロメタン 1.6 0.84 0.76 ~ 1.0クロロホルム 6.7 0.17 0.15 ~ 0.201,2-ジクロロエタン 0.30 0.19 0.14 ~ 0.23ベンゼン 0.77 1.2 1.2 ~ 1.4トリクロロエチレン ND 0.11 0.048 ~ 0.18トルエン 9.5 10 5.3 ~ 18テトラクロロエチレン 0.037 0.054 0.047 ~ 0.067キシレン 2.8 4.5 1.8 ~ 11

平成24年度大気環境年平均値単位μg/m3

31