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(様式 3 )若手・女性・外国人研究者支援研究費 平成 28 3 23琉球大学 学長大城肇殿 所属部局・職 工学部環境建設工学科 ・准教民 名中田幸造 l J:J 平成 27 年度研究フロジェクト支援事業(若手・女性・外国人研究者支援研究費) 研究実績報告書 このことについて、以下のとおり報告いたします。 ①研究課題 ②研究の概要 ③研究成果の概要 【実験計画】 連続繊維ベルトで能動拘束された損傷 RC 柱の圧縮性能とせん断伝達機構の解明 本研究では,地震被災直後の鉄筋コンクリ ート(RC )造建物への簡便な応急補強技術 を開発することが最終的な命題である。本補強技術では,被災柱を外部から締め付ける 「能動拘束」が重要なキーワードである。この「能動拘束」によりひび割れた被災柱を 締め上げてひび割れを閉合し,損傷で劣化した水平耐力と靭性能,および鉛直荷重支持 能力を復活させる。本研究では簡便な応急補強技術を開発することを目標に,①能動拘 束された種々の損傷度を有する RC柱の圧縮抵抗機構とせん断伝達機構の解明;②エポ キシ樹脂補修された損傷 RC 柱の圧縮性能と圧縮抵抗機構の検証;③損傷 RC 柱の残存圧 縮性能と圧縮抵抗機構の検証;④補修あるいは補強された損傷 RC柱の評価式の提案, 5 つを科研費応募を見据えた研究期間全体の解決すべき課題として設定し,これらを 実験的に明らかにする。 2015 年度は計 9 体の RC 柱試験体を製作し,損傷が大きい RC 柱の補修後軸耐力の検 証,応急補強後の鉛直荷重支持能力の検証,および補修と補強,あるいは補強のみを施 した応急補強 RC 柱の水平耐力と靭性能の検証を行った。 応急補強後に水平加力実験を行う試験体(ER シリ ーズ)の一覧を表 1 に,圧縮試験を行う試験体(AC リーズ)の一覧を表 2 に示す。実験の流れと AC シリーズの柱試験体詳細(試験区間の詳細は ER,AC 共通) を図 1 に示す。柱試験体は l 辺が 2501mn の正方形断面で(112.4 の縮尺), ER シリーズの全高さは 15001mn, ACシリーズの全高さは 900imn である。柱の試験区間は 500mm (せん断スパン比 1.0 ),試験区間以外の区 間には帯筋(D6 )を密に配筋した。 RC 柱には DlO 主筋を 12 本使用しい g=l.36%)' 3.7 ゅの帯筋を 1051mn 隔で配筋した (pw = 0.08% )。実験の手順は,( 1)RC 柱に斜めひび割れを導入するせん断損傷実験(軸力比 0.2), (2 )エポキシ樹脂補修(ER シリーズ 2 体, AC シリーズ 2 体)とラッシングベルト(以下,ベルト) 1/4

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(様式3)若手 ・女性・外国人研究者支援研究費

平成28年 3月 23日

琉球大学

学長大城肇殿

所属部局 ・職 工学部環境建設工学科 ・准教民

氏 名中田幸造 l且J:J

平成27年度研究フロジェクト支援事業(若手・女性・外国人研究者支援研究費)

研究実績報告書

このことについて、以下のとおり報告いたします。

①研究課題

②研究の概要

③研究成果の概要

【実験計画】

連続繊維ベルトで能動拘束された損傷RC柱の圧縮性能とせん断伝達機構の解明

本研究では,地震被災直後の鉄筋コンクリート(RC)造建物への簡便な応急補強技術

を開発することが最終的な命題である。本補強技術では,被災柱を外部から締め付ける

「能動拘束」が重要なキーワードである。この「能動拘束」によりひび割れた被災柱を

締め上げてひび割れを閉合し,損傷で劣化した水平耐力と靭性能,および鉛直荷重支持

能力を復活させる。本研究では簡便な応急補強技術を開発することを目標に,①能動拘

束された種々の損傷度を有する RC柱の圧縮抵抗機構とせん断伝達機構の解明;②エポ

キシ樹脂補修された損傷RC柱の圧縮性能と圧縮抵抗機構の検証;③損傷RC柱の残存圧

縮性能と圧縮抵抗機構の検証;④補修あるいは補強された損傷 RC柱の評価式の提案,

の 5つを科研費応募を見据えた研究期間全体の解決すべき課題として設定し,これらを

実験的に明らかにする。

2015年度は計 9体の RC柱試験体を製作し,損傷が大きい RC柱の補修後軸耐力の検

証,応急補強後の鉛直荷重支持能力の検証,および補修と補強,あるいは補強のみを施

した応急補強RC柱の水平耐力と靭性能の検証を行った。

応急補強後に水平加力実験を行う試験体(ERシリーズ)の一覧を表 1に,圧縮試験を行う試験体(ACシ

リーズ)の一覧を表2に示す。実験の流れと ACシリーズの柱試験体詳細(試験区間の詳細はER,AC共通)

を図1に示す。柱試験体は l辺が2501mnの正方形断面で(112.4の縮尺), ERシリーズの全高さは 15001mn,

ACシリーズの全高さは 900imnである。柱の試験区間は 500mm(せん断スパン比 1.0),試験区間以外の区

間には帯筋(D6)を密に配筋した。 RC柱にはDlO主筋を 12本使用しいg=l.36%)'3.7ゅの帯筋を 1051mn間

隔で配筋した (pw= 0.08%)。実験の手順は,(1)RC柱に斜めひび割れを導入するせん断損傷実験(軸力比

0.2), (2)エポキシ樹脂補修(ERシリーズ2体, ACシリーズ2体)とラッシングベルト(以下,ベルト)

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での能動拘束,(3)ERシリーズでは水平加力実験(軸力比 0.2), ACシリーズでは圧縮実験,である。「せ

ん断損傷実験jでは, RC住のせん断破壊を制御するため,アラミ ド繊維ベルト(2ply)を疎に配置して目標

の損傷レベルに到達するまで水平加力を行った。せん断損傷後,残留水平変位はできるだけゼロに戻した。

なお,「せん断損傷実験Jと「補修 ・補強後の水平加力Jでは,部材角 R=0.125%, 0.25%,を各 1回,0.5%

~3.0%を0.5%の増分で各2回繰り返すプログラムとした。ベルトでの横拘束では柱試験体の隅角部を面取

りし,グリースの塗布後にベルトを柱に直接巻きつけた。ベルトにはエポキシ樹脂硬化部を製作し,ひずみ

ゲージにより緊張ひずみを測定した。 ERシリーズの総数は3体である(表 1,ER14Sは比較のための試験体)。

実験変数は柱の損傷レベル,ラッシングベルトの初期緊張ひずみ,エポキシ樹脂補修の有無である。報告す

るACシリーズの総数は5体(表2,無損傷のNI,N2を含む),実験変数はエポキシ樹脂補修の有無,ベル

ト補強の有無である。圧縮実験は 2000kN万能試験機を用い,一端ピン, 他端固定の材端条件で単調載荷に

より行った。圧縮ひずみは,載荷板間(900mm)とスタブ間 (675mm)の2か所を各4台,計 8台の変位計

で測定した(図3(c))。

表1 ERシリーズ試験体一覧Specitt削 ER15S-6LD4e ER15S-6MD4 ER14S-6LD3e

Damage level IV IV 111

(Maぇcrackwidth) (2.6 mm) (2.7 mm) (1.4mm)

Initial strain offiber reinf. 800 μ 1800 ~l 800μ (Initial force) (2.7附-1) (6.1 kN) (2.7 kN)

UH 20MPa 17.7MPa

σP 0.69MPa l.54MPa 0.69MPa

With or without of With Without With epoxy陀sin epoxy resin epoxy resin epoxy resin

Commn details Cross section: 250×250mm,Ml(VD)= 1.0, fJ =0.2,

Rebar: 12-010, Hoop: 3.7~@ 1 05, As =63mm

備考: σe=シリンダー強度, er,=能動側圧, Ml(悶〉)=せん断スパン比,ヴ=軸力比,As=ラッシングベルトの間隔

表2 ACシリーズ試験体一覧Specimen (ACl5・)I NI I N2 I 04 I 回 e

Damage level I I I IV I IV

(Max. crack width) I I I (2.2 mm) I (3.0 mm)

With orwithoutof I I I Without I With

epoxy res in J J J epoxy res in J epoxy陀 sin

20MPa

1381 I 1326 I 878 一「 1254 I 1221

1.00い.ooI o.64 I o.91 I o.s9 ×250mm, Ml(VD) = 1.0, Rebar: 12・010,

Common details I Hoop: 3.7'φ@105.

備考:Nn刷=最大圧縮軸力,No=無損傷RC柱の最大圧縮軸力,6LD4e

試験体の能動側圧=0.69MPa(初期緊張ひずみ 800μ,ベルト間隔=63mm)

6LD4e

lV

♀立旦旦With

epo冷rresm

σB

Nma.< (kN)

N nw,,/N O

。。m

。。m

。。m(a)せん断破壊実験 (b)応急補強実験(ER)。RC柱の分段

12・010(p,=1.36%)

I 250 I

(d)柱断面

(c)圧縮実験(AC) ラッシングベルト

Ai (e)配筋状況 (の無補強と補強試験体

図1 実験手順と柱試験体詳細(単位:mm)【水平加力実験の結果】

紙面の都合によりせん断損傷実験の結果は割愛する。図2はせん断損傷RC柱にベルトで能動拘束を施し

た柱試験体の水平荷重 yと部材角Rの関係である。 3体のうち,高い能動側圧を導入した ER15S-6MD4(以

後, ER15S・は省略) のみエポキシ樹脂補修を施していない。また,比較のため水平荷重 YはbDσBで除した。

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破線と実線はシリンダー強度による曲げ強度計算値である。 図2より,最大水平耐力時には3体とも主筋の

引張降伏が観察され,曲げ破壊したと考えられるが, 曲げ強度計算値には到達していない。これは, 補修 ・

補強を施しても損傷コンクリートの圧縮強度がシリンダー強度までは回復していないためと考えられる(図

3参照)。 図 2(a)より, 6LD4eの初期剛性が 6MD4よりやや大きいが,ほぽ同じ残留ひび割れ幅を有する

これらの柱試験体はほぼ同じような履歴性状である。能動側圧が小さい場合には,エポキシ樹脂補修の併用

で高い能動側圧によるひび割れ閉合効果とほぼ同等の効果が得られるといえる。 図 2(b)より, 6LD4eと

6LD3eは損傷レベル(残留ひび割れ幅)のみが異なる柱試験体であり,残留ひび割れ幅が大きいと水平耐力

が小さいことがわかる。

0.151 Fl問問l剖rength-{'" -ム説J↑ 0.15

:'°' O. l OI ERiぉー6LD4eJ泊倣例 ↑:-.. 0.10 Q 0.051 (1Ycr=2.6mmf岨膨移ツF -1 g 0.05 ・G I -ー圃圃畠圃’~~~ I 4、ピ o ~ ~士?ア’'--" lぞ 0・ ムー一一一一

l ”uη~町、九 I ::::;: I V.b"'..6¥..411,’ ER14S-6LD3e H・0・051r~I Eむ5S-6MD4 I ~・o.os 1 級緩扇町/(Wcr= 1.4 mm) 』-0.lOjι皆既~/ I o伽 =2.7mm)-I <:r--0.lOj防抗野砂1Fl削悶Istreng山・0.15し三竺__J R(o/o)-1 -o.1sl一回初ι (臥14S)R(%)‘|

・3 ・2 ・1 0 1 2 3 ・3 ・2 ・1 0 I 2 3

(a) 6LD4eと6MD4試験体 (b) 6LD4eと6LD3e試験体

図2 実験で得られた水平荷重 件部材角 P関係 写真1 実験風景(科r:最大残留ひび割れ幅)

【圧縮実験の結果】

図3は圧縮実験の結果である。各柱試験体の圧縮軸力は,無損傷 RC柱(Nl, N2)の最大圧縮軸力的の

平均値で無次元化した。図 3には過去に圧縮実験を行った柱試験体 AC13・D3e,AC14・6LD3e, AC14-D4e,

AC14-6MD4も示した(以後, AC13・,AC14・, AC15-は省略)。図 3(a)より,せん断損傷 RC柱(D4)に

エポキシ樹脂補修を適用すると(D4e),最大圧縮軸力が大きく回復することがわかる。一方, D4eと6LD4e,

D3eと6LD3eの最大圧縮軸力はほぼ同じである。ベルトによる能動側圧は小さいため,圧縮軸力の回復は主

にエポキシ樹脂補修によるものと考えられる。 図3(b)より,高い能動側圧のみを導入した 6MD4の最大圧

縮軸力は,樹脂補修のみを適用した D4eの最大圧縮軸力とほぼ同等である。従って,高い能動側圧による横

拘束は,エポキシ樹脂補修によるひび割れ補修と同等以上のひび割れ閉合効果があるといえる。加えて,圧

縮靭性も大きくなることがわかる。

m斗

m

eg

my-

uwm

40r

、.

a崎

M

F ,

, ,

ACl4-6MD4 (JVcr• 2. I mm入

全体変位計

O.~w;江主mm)-o 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2

Axial strain,ι(%)

(a)能動側圧が低い場合

図3 圧縮実験の結果

ムロ

r

J場

一切

一日EC高

九,

ne

m促

4凶附

一。似路

ム同円

4

N

E

E

B

E

E

F

nU

4

n

u

。orO

凋仲

4

n

U

’l

’l

n

U

A

U

n

u

n

U

A 1.21川1.0

0.8

0.6

0.4

局部変位計

(c)圧縮変位の測定位置

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【結論】

(1)残留ひび割れ幅がほぼ同じ場合,ベルトによる低い能動拘束と樹脂補修により,高い能動拘束を与えた

場合とほぼ同じ履歴性状が得られた。(2)損傷 RC柱へ同じ能動拘束と樹脂補修を適用した場合,損傷レベ

ルが大きいと水平耐力と初期剛性が小さい。(3)損傷RC柱へのベルトによる低い能動拘束と樹脂補修では,

樹脂補修により最大圧縮軸力が回復し,ベルトの受動拘束により圧縮靭性が大きくなる。(4)損傷 RC柱へ

高い能動拘束を適用すると,樹脂補修の場合とほぼ同等の最大圧縮軸力まで回復し ベルトの受動拘束によ

り圧縮靭性も大きくなった。

④研究成果の公表、あるいはその準備状況

実験データを整理・分析し, 2016年度日本建築学会大会(九州)に投稿した(期日は2016年8月24日(水)

~26日(金))。今後は査読付き論文や国際会議の投稿に向けて準備を進めていく。

⑤科学研究費等の申請に向けた準備状況

科研費申請支援アドバイザー制度を利用し, 「平成 28年度基盤研究(C) (一般)」に応募した。研究課題

名は, 「高強度緊張材で能動拘束された損傷RC柱の圧縮性能とせん断伝達機構の解明」である。

⑥今後の研究の展開、展望

今後は,せん断伝達機構の検証にも着手し,主筋の付着の有無や残留部材角の有無とその大小を実験変数

に加え,水平加力実験と圧縮実験により検証を進めていく。これらの検証により, ①能動拘束された種々の

損傷度を有する RC柱の圧縮抵抗機構とせん断伝達機構の解明;②エポキシ樹脂補修された損傷 RC柱の圧

縮性能と圧縮抵抗機構の検証;③損傷 RC柱の残存圧縮性能と圧縮抵抗機構の検証; ④補修あるいは補強さ

れた損傷 RC柱の評価式の提案,を行い 損傷 RC住の圧縮性能とせん断伝達機構の復活法の提案に繋げて

いきたい。

* 上記について、概ね4ページ程度にまとめてください。また、別途関連する資料類(論文別刷など)が

あれば添付してください。

⑦実支出額の使用内訳

合計 物品費 旅費 謝金等 その他

910,000円 376,203円 378,620円 20,000円 135,177円

※費目間流用については、各年度の配分決定額の総額の50%の範囲内であれば、特段の手続きを経る必要はな

い。しかし、この範囲を超える流用を行おうとする場合には、研究推進会議議長の承認を必要とする。

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