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平成 29 年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備 (IoT 等活用や他産業との融合による新たなスポーツビジ ネスの創出に向けた環境整備等に関する基礎的調査) 報告書 平成 30 年 3 月 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社

平成 29 年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備 · 2018-07-20 · 平成29年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備

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平成 29年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備

(IoT等活用や他産業との融合による新たなスポーツビジ

ネスの創出に向けた環境整備等に関する基礎的調査)

報告書

平成 30年 3月

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社

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目 次

第1章 はじめに ............................................................. 2

1-1.本事業の背景・目的 ............................................................................................... 2

第2章 先進事例及び想定される新たなビジネスモデルについて .................... 3

2-1.先進事例の調査 ...................................................................................................... 3

2-2.新たなスポーツビジネス創出について ............................................................... 16

2-3.新たなスポーツビジネス検討の試み ................................................................... 19

第3章 新たなスポーツビジネス創出に向けて ................................... 27

3-1.新たなスポーツビジネス創出を阻害する構造的な課題 ...................................... 27

3-2.新たなスポーツビジネス創出を阻害する課題への打ち手 .................................. 30

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第1章 はじめに

1-1.本事業の背景・目的

「GDP600兆円」の実現に向けて、サービス産業の生産性革命やサービス産業の国際展開

と並んで、新たなサービス・フロンティア市場の創造が必要不可欠であるとされている。

なかでも、スポーツ産業は新たなサービス・フロンティア市場の一つとしてその高い成長

性が期待されており、政府の掲げる成長戦略である日本再興戦略 2016 においても、官民戦

略プロジェクト 10 にスポーツの成長産業化が位置づけられ、2025 年にスポーツ市場規模

を 15兆円まで拡大することが目標とされた。

スポーツの成長産業化には、IoT や AR/VR といった技術との融合や、他産業との融合に

よる新たなビジネス創出が期待される一方で、先行事例が出始めているものの、観光や食

といった他産業など様々な産業界の関係者がスポーツ産業を活性化し、また観るスポーツ・

するスポーツの大きな需要喚起につなげていくためには、まだ様々な課題が残っている。

本事業は、IoT等活用や他産業との融合による新たなスポーツビジネスの創出に向け、最

新動向をとりまとめるとともに、新たなマネタイズ方策等のビジネスモデル構築、ヒト・

モノ・カネといった経営資源等に関する環境整備等に関する課題抽出等の基礎的調査を行

うことを目的とする。

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第2章 先進事例及び想定される新たなビジネスモデルについて

2-1.先進事例の調査

(1) 先進事例調査の観点

本事業では新たなビジネスモデルの検討にあたり、技術や他産業との融合によるビジネ

スの先進的な取組について整理した。

まず、IoTや AR、VRといった先進技術と融合した先進事例について、「AR」や「ウェアラ

ブル」、「ビッグデータ」等の要素技術と「スポーツを観る/する」といった観点から整理し

た。

また、他産業との融合による先進事例について、スポーツが有する魅力や健康づくりと

いう側面を有効活用し、「観光」と絡めたスポーツツーリズム、「教育」等と絡めたスポー

ツ語学教育、「飲食」と絡めたアスリート向けの食事の提供といった先進事例が確認できた。

図表 1.先進的事例調査テーマ及び選出の考え方

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(2) 先進事例の整理

新たなビジネスモデルの検討に向け、IT 等を活用した先進的な取組みについて、以

下、①から⑱のとおり、主な提供先と提供内容の整理を行った。

「AR」、「MR」、「VR」、「モバイル」、「サイネージ」、「映像配信」といった映像の提供を

行う先進技術については、主な提供先が「ユーザー」と「広告掲載企業」で、それぞれ

に対し「映像配信」や「広告」といったサービスを提供していることが判明した。

また、「ウェアラブル」や「ドローン」、「ビッグデータ」といった主にデータ収集を

メインとする先進技術については、主な提供先が「ユーザー」と「クラブ」で、両者に

対し「収集したデータの分析結果」を提供していることが判明した。

図表 2.新たなビジネスモデル構築に向けた先進事例の整理

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(3) 先進事例

ⅰ)AR(Augmented Reality)

各スポーツで試合が始まる前のスタジアム・アリーナ等で過ごす時間をより楽しいも

のにしたいというサポーターのニーズに応える取組がサッカーにおいて実現している

ほか、当該技術を活用した新たなスポーツスタイルが開発されている AR(拡張現実を作

り出す技術を指す)を活用した事例が報告されている。

このような技術を活用し、観客を楽しませるサービスや、新たなスポーツスタイルの

提供が行われている。

図表 3.事例①:ARを活用した先進事例【観る】

図表 4.事例②:ARを活用した先進事例【する】

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ⅱ)MR(Mixed Reality)

まるで目の前で試合が行われているかのような臨場感を得たいというニーズに対応

するため、MR(現実世界と仮想世界を融合させる映像技術を指す)を活用した技術開発

が行われている。

例えば、アウェー戦の際に、活用されていないホームのスタジアム・アリーナ等でホ

ログラム映像を投影し、目の前で試合が行われているかのような臨場感を創出する取組

みにこのような技術が活用しうる。

図表 5.事例③:MRを活用した先進事例【観る】

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ⅲ)VR(Virtual Reality)

プロのプレーや世界観を体験したいというニーズに対応するため、仮想空間上で、選

手目線の映像の体験や選手との対戦を行う VR(仮想現実を作り出す技術を指す)を活用

した事例が報告されている。

このような技術を活用して、キーパー目線の映像が体験できるサービスや、プロと対

戦できるトレーニングを提供する取組みもある。

図表 6.事例④:VRを活用した先進事例【観る】

図表 7.事例⑤:VRを活用した先進事例【する】

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ⅳ)モバイルデバイス

好きな時に好きな映像を観たいというニーズや、好きな時に自分のプレーに対してコ

ーチから指導を受けたいというニーズに対応するため、モバイルデバイスを活用した事

例が報告されている。

このような技術を活用し、好きな時に見逃した映像を視聴するサービスや、好きな時

に自分の練習映像をコーチに送り、フィードバックを受けることができるサービスが提

供されている。

図表 8.事例⑥:モバイルデバイスを活用した先進事例【観る】

図表 9.事例⑦:モバイルデバイスを活用した先進事例【する】

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ⅴ)サイネージ

試合の内容に連動し、雰囲気が盛り上がるスタジアムで観戦したいというニーズや、

試合の内容に連動した広告価値の高い広告を配信したいというニーズに対応するため、

スタジアム・アリーナ等にサイネージを導入する事例が報告されている。

スタジアム・アリーナ等に設置したサイネージに、試合と連動した映像や広告を配信

することで、より一体感のある雰囲気作りが行われている。

また、スタジアム開場から試合終了後の観客がスタジアムを出るまでの長時間にわた

って、コンコースに設置した全てのサイネージに同じ企業の広告を一斉に配信したり、

試合映像を配信するサイネージ画面の端のエリアを活用し、フード・ドリンクのテナン

トの広告を配信したり、複数枚のビジョンを連動させてスタジアムを盛り上げる演出が

なされたりといった様々な工夫がある取組みがなされている。

図表 10.事例⑧:サイネージを活用した先進事例【観る】

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ⅵ)映像配信

選手目線のベンチ映像やその場でリプレイを観たい、データを確認したいというファ

ンからのニーズに対応するため、チームが独自に試合の映像をスタジアム・アリーナ等

内で制作し、配信する事例が報告されている。

このような映像システムを活用し、ファンのニーズに合致した映像やデータを提供す

ることで、顧客満足度を向上する取組みが行われている。

例えば、会員に会場のみで視聴できる独自コンテンツの配信や、VIP ルームの特別コ

ンテンツとしてリプレイ画像やベンチでの映像等を配信するなどして付加価値向上を

図っている。

図表 11.事例⑨:映像配信を活用した先進事例【観る】

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ⅶ)ウェアラブルデバイス

自分の応援の熱意を伝えたいというニーズや、自分の練習時のフィジカルデータを把

握したいというニーズに応えるため、ウェアラブルデバイスを活用して、本人の動きを

応援に変換するサービスや、選手のバイタルデータをコンディション管理に活用するサ

ービスが提供されている。

図表 12.事例⑩:ウェアラブルデバイスを活用した先進事例【観る】

図表 13.事例⑪:ウェアラブルデバイスを活用した先進事例【する】

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ⅷ)ドローン

新たに広告スペースを設けたいという興行側のニーズや、チームの戦術を向上するた

めの映像が欲しいというニーズに対応するため、ドローンを活用し、「空中」というス

ペースを広告枠として活用する実証事業が行われており、また、空中で収集した映像を

分析し戦術の向上を図るサービスが提供されている。

図表 14.事例⑫:ドローンを活用した先進事例【観る】

図表 15.事例⑬:ドローンを活用した先進事例【する】

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ⅸ)ビッグデータ

試合中の選手の動きを映像で把握し、新たな方法により観戦を楽しみたいというファ

ンのニーズや、選手のプレーをデータで把握し戦術に活かしたいというクラブのニーズ

に対応するため、ビッグデータを活用したサービスが提供又は検討されている。

ビッグデータを活用し、分析結果を視聴者に提供するサービスが行われている他、ク

ラブ等に提供し戦術の活用に資するサービスが提供されている。

図表 16.事例⑭:ビッグデータを活用した先進事例【観る】

図表 17.事例⑮:ビッグデータを活用した先進事例【する】

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ⅹ)スポーツ×観光・旅行業

より良い空間でのスポーツ観戦を商談に利用することや、社員のロイヤリティ向上に活用したいというニーズに対応するため、スポーツに観光・旅行を組み合わせた活用も考えられる。 スポーツと観光・旅行を組み合わせ、企業向けに、ビッグゲームのスタジアム・アリーナ等を活用したスポーツホスピタリティサービスの検討がなされている。

ⅺ)スポーツ×教育 楽しく語学を学びたい・学ばせたいというニーズに対応するため、スポーツと教育を

組み合わせ、スポーツを楽しみながら英語が学べるサービスが提供されている。今後、外国人選手や海外経験から語学が堪能な選手が競技とともに語学も教えるサービスでスポーツチームのビジネスの幅を拡大しうる可能性が考えられる。

図表 18.事例⑯:観光業と組み合わせた先進事例

図表 19.事例⑰:教育と組み合わせた先進事例

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ⅻ)スポーツ×飲食

アスリートや一般の人の健康な体づくりをしたいというニーズに対応するため、スポ

ーツと食を組み合わせ、トレーニング効果が高まる食事メニュー設計等のサービスが提

供されている。

図表 20.事例⑱:飲食と組み合わせた先進事例

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2-2.新たなスポーツビジネス創出について

(1) 新たなスポーツビジネス創出に必要なスキル

新たなスポーツビジネスを創出するには、先に示した先進事例のようにIoT等の技

術の活用や他産業との融合など、従来のスポーツビジネスの枠に捉われない発想により、

新たなビジネスモデルを検討する必要がある。その際、特に必要な能力として、ビジネ

ススキル及びスポーツビジネススキルが挙げられ、それらを活用し、発想の枠を広げた

検討を行う必要がある。

新たなスポーツビジネス創出に必要なスキルは、以下の図の通りスポーツ特有のスポ

ーツビジネススキルと、そのスポーツビジネススキルの土台となるビジネススキルに分

けることができる。新たなスポーツビジネス創出の検討にあたっては、各スポーツビジ

ネススキルを掛け合わせることで、従来の枠に捉われないビジネスモデルの構築を行う

ことが可能になることから、スポーツビジネススキルは広範に知識を有していることが

重要である。

例えば、「事例①:AR を活用したスタジアム活性化」においては、ファンのニーズを

充足させ、より良い関係を構築するために必要な「ファンエンゲージメント」や AR映像

に広告を配信するために必要な「スポンサーエンゲージメント」、いつ、どこで AR映像

を配信することが効果的かを検討するために必要な「試合運営」等といったスポーツビ

ジネススキルを活用することにより、魅力的なビジネスモデルの構築が可能となる。

また、「事例⑥:スタジアム Wi-Fiとアプリを活用した新たな観戦方法」や、「事例⑨:

顧客満足度を高める映像の提供」においては、「ファンエンゲージメント」や「試合運営」、

「スポンサーエンゲージメント」、「チケッティング」、「マーチャンダイジング」といっ

たスポーツビジネススキルを活用することにより、どのようなタイミングで、どのよう

な映像配信を行えば、より観客を盛り上げることが可能になるといった企画の検討が可

能となる。

「事例⑩:スマートウオッチを活用した新野球応援」においては、「ファンエンゲージ

メント」や「試合運営」といったスポーツビジネススキルを活用することにより、どの

ようなタイミングで、どのような企画を行えば、より観客が盛り上がることが可能にな

るといった企画の検討が可能となる。

このように、先進技術を活用した新たなビジネスモデルを構築するには、スポーツビ

ジネススキルを活用した検討を行う必要がある。

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(2) 新たなスポーツビジネス創出に向けた検討の方法

また、新たなスポーツビジネス創出に向けた検討を行うにあたって、スポーツビジネ

ススキルだけでなく、検討方法も重要である。先に示した先進事例から、以下の図のよ

うに、5W1Hのそれぞれについて発想の枠を広げることで、新たなビジネスモデルの創出

や、創出に向けた検討を行うことが可能となる。

例えば、「事例③:MR を活用した新たな観戦スタイルの提供」においては、活用され

ていないアウェー戦時のホームスタジアム・アリーナや、都市にあるイベント会場にて、

MR映像を活用することにより、試合が行われているスタジアム・アリーナ以外の場所で

も、目の前で試合が行われているかのような臨場感を提供し、スタジアム・アリーナに

限定せずに、サービスの提供を行うことが可能になる。

また、「事例⑯:企業向けスポーツホスピタリティ」の事例においては、従来のファン

を対象とした観客入場者数増加の取組の枠を広げ、企業向けに、試合を通して上質なサ

ービスを提供し、新たなスポーツビジネスの拡大が行われている。クラブは、この取組

を活かすため、企業向けの特別な空間を用意し、そのエリアを高付加価値することで、

チケット収入の拡大を推進することが可能になる。

なお、スポーツビジネスの根源的な価値は、スポーツそのものの魅力(観客へ感動や

興奮を与えること)であり、新たなスポーツビジネスを創出するためには、この魅力を

クラブ・チーム自身が磨き上げ続けることも重要である。

図表 21.新たなスポーツビジネス創出に必要なスキル

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スポーツビジネススキルを掛け合わせ、従来の枠に捉われない発想を行うとともに、

スポーツとしての魅力そのものの磨き上げを図ることが、スポーツビジネスを創出する

上で重要である。

図表 22.新たなスポーツビジネス創出に向けた検討方法例

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2-3.新たなスポーツビジネス検討の試み (1) 試みにあたっての前提及び構造の整理

新たなスポーツビジネスを検討するにあたって、それを担えるクラブは、資金力や人員

体制が比較的充実しているクラブになることから、本検討においては、Jリーグ(J1)に在

籍している規模のクラブを例にとって検討の試みを行った。

また、検討の対象とする J1クラスのクラブにおいても、それぞれの状況により取り組む

内容は異なることから、「スタジアム運営権の可否」や「スタジアム Wi-Fi設置有無」によ

るクラブの状況を分類するとともに、参考にそれぞれの状況に応じて想定される取組につ

いて整理を行った。

図表 23.新たなスポーツビジネス創出検討にあたっての前提整理

図表 24.各クラブが実施可能な取組の整理

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(2) 地域やクラブ・チームが把握している情報等の整理

先進事例については活用される技術等に着目して整理を行ったが、新たなビジネスモデ

ルの検討においては、技術だけでなく、誰が、どんな情報を保有しているか、又は保有す

べきかを把握し、その有益な情報を活用したビジネスモデルを検討することが重要である。

それにより実効性・収益性の高いビジネスモデルの構築が可能となる。

そのため、以下の図のとおり、誰が、どのような情報を保有しているか、又は保有すべ

きかを整理し、検討を試みるビジネスモデルのテーマを導出した。

例えば、視聴者の性別、年齢、住所、年収等といった属性を把握することで、その属性に

合致した広告を配信することが可能となり、広告料の向上が期待される。

また、クラブが、地域の観光機能を担い、ファン・地域住民・観光客の属性情報を把握

し、その情報を企業に提供してスポンサーへ勧誘することで、スポンサーのすそ野拡大に

よる、収益の拡大が期待される。

このように、新たなビジネスモデルの検討においては、先進技術をただ導入するのでは

なく、先進技術と絡め、必要な情報を集め、それを活用するビジネスモデルとすることで、

収益性の向上を図ることができると考えられる。

図表 25.地域やクラブ・チームが把握している情報とビジネスモデル案

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(3) ビジネスモデル案

このような前提の上で、今後想定される新たなビジネスモデルの例を、受益者(取組みの主

体、最終的な利益を得る主体)、活用される技術、Value Point(付加価値の源となるポイント)、

資金提供者(課金される先、原資の出し手)、課金方法の点を押さえながら挙げると以下のとお

り。

ⅰ)個人情報を広告活動、地域貢献活動へ活用

Ⓐ:VR を活用した広告共感価値向上と新観戦スタイルの提供

より広告効果の高い広告を配信したいという広告主のニーズや、もっと自分が応援しているチ

ームの視点に立った映像や解説を聞き、皆で盛り上がりたいという視聴者のニーズに対応するた

め、VR技術等を活用し、メディアやクラブ・チームが以下の取組を行う。

視聴者の性別、年齢、住所、年収等といった属性情報を把握し、視聴者の属性に合致したVR

広告を配信し、より効果的な広告の提供や、視聴者に合致した試合映像を放映し、視聴者が見

たい映像を選べるようにすることで、新たな観戦スタイルの提供を行う。

図表 27.各プレイヤーで整理する事及び議論の柱

図表 26.ビジネスモデルの概要

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Ⓑ:AR を活用した広告共感価値の最大化

より広告効果の高い広告を配信したいという広告主のニーズに対応するため、AR 技術

等を活用し、クラブ・チームが以下の取組を行う。

視聴者の性別、年齢、住所、年収等といった属性情報を把握し、視聴者の属性に合致し

た AR 広告等を配信し、より効果的な広告の提供や、試合の状況と連動した広告や特典を

配信することより、より一体感のある空間作りを行う。

図表 28.ビジネスモデルの概要

図表 29.各プレイヤーで整理する事及び議論の柱

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Ⓒ:SIB を活用したスポンサーの拡大と自治体との連携

自治体においては、高齢者の増加による財政負担の増加や人口減少による収入減少によ

り財政が逼迫しており、民間資金を活用し、高齢者の社会負担に関わる費用の減少を行う

ため、クラブ・チームが以下の取組を行う。

民間資金を活用するソーシャル・インパクト・ボンド(以下「SIB」という。)の仕組み

を導入し、クラブ・チームが有するトレーニングや食事等による体調管理のナレッジやア

セットを地域住民に提供し、地域住民の健康年齢の向上を図り、地域の活性化を推進する。

図表 30.ビジネスモデルの概要

図表 31.SIB とは

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ⅱ)選手情報を移籍・育成組織へ活用

Ⓓ:映像・ウェアラブルを活用した選手の能力見える化とビッグデータを活用した適性・

選手傾向を把握した適切な練習メニューの提示

クラブ・チームにおいては、獲得したい選手の能力を見える化し確実性の高い移籍推進

や、所属選手や育成組織の生徒の能力を見える化し、成長等を促したいと考えているため、

選手や生徒のデータ等を活用し、クラブが以下の取組を行う。

映像やウェアラブルを活用して選手の身体能力や競技データを収集し、選手の能力を見

える化することで、そのデータを用いて、他クラブ・チームへの移籍促進や企業へのスポ

ンサー勧誘、育成組織の生徒への適切な指導を行う。

図表 32.ビジネスモデル概要

図表 33.各プレイヤーで整理する事及び議論の柱

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ⅲ)過去試合映像等の活用

Ⓔ:MR を活用したスタジアム・アリーナ等の劇場化

ホームゲーム開催日以外においてもスタジアム・アリーナ等を活用し、収益を高めたい

というニーズや所有している過去の試合映像データの有効活用をしたいというニーズに

対応するため、クラブが以下の取組を行う。

MR 技術を活用し、アウェー/ビジター戦時に活用されていないホームスタジアム・ア

リーナ等にホログラム映像を投影し、目の前で試合が行われているかのような臨場感を提

供することで、スタジアム・アリーナ等の稼働率向上によるクラブ・チーム等の収益拡大

を図る。

図表 34.ビジネスモデルの概要

図表 35.各プレイヤーで整理する事及び議論の柱

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Ⓕ:シティプロモーションによる地域活性化及びビジネスマッチングによるスポンサー拡

少子高齢化による人口減少社会における地域経済の停滞に対応するため、居住者による

経済活動だけではなく、域外から観光客を呼び込むため、クラブ・チームが主導で以下の

取組を行う。

観光資源を活用し、観光地域作りを行う DMO(Destination Management Organization)

機能をクラブが担い、地元の商工会や観光協会等と連携し、観光イベント等の開催を通し

て地域活性化を図るとともに、地域住民、観光客等の情報を収集し、その情報を活用する

ことにより、企業へのスポンサー勧誘を行う。

図表 36.ビジネスモデルの概要

図表 37.各プレイヤーで整理する事及び議論の柱

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第3章 新たなスポーツビジネス創出に向けて

3-1.新たなスポーツビジネス創出を阻害する構造的な課題

新たなスポーツビジネスを担えるクラブは、資金力や人員体制が比較的充実しているクラブ

になることから、本検討においては、Jリーグ(J1)に在籍している規模のクラブを例にとって

整理を行い、その中から新たなスポーツビジネス創出を促進するためには「ヒト・カネ・モノ」

といった経営資源についてどのような構造的な課題が存在しているかを分析した。

(1) 新たなスポーツビジネス創出を担う主体

クラブが推進する新たなスポーツビジネス創出を担う主体は、次の理由から、以下の 3者

が想定される。

① 内部人材

コンテンツホルダーであるクラブが、内部人材によりビジネス創出を行うことがまず

考えられる。

クラブが推進する新たなスポーツビジネス創出は、可能な限り、クラブチームが推進

し、ナレッジやノウハウを蓄積することで、より魅力的なスポーツビジネスの企画・実

行がなされることから、クラブが、直接雇用する「内部人材」が担う。

② 外部人材

クラブが必要な人材を何人も直接雇用することは、資金的に困難であることや、取り

組む内容や状況によっては直接雇用しなくても対応可能なため、その場合は、クラブ以

外の組織(例:リーグ)で雇用されている人材である「外部人材」が、クラブに出向・

派遣され担う。

③ 周辺企業

経営資源に乏しいクラブが、新たなスポーツビジネスを推進することは困難なため、

豊富な経営資源を有しているスポーツ産業に関連している「周辺企業」の方がノウハウ

や専門性を有している場合は、クラブが有する権利の提供を受け、自主的に新たなスポ

ーツビジネスを推進することも手段の一つとして想定される。

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(2) 新たなスポーツビジネス創出を阻害する構造的な課題

新たなスポーツビジネス創出促進を阻害する課題として、そもそも、新たなビジネス領域を

拡大するために必要な素養を備えた「ヒト」がクラブにいないため、クラブの中から、投資実

行に至るような高度な企画立案がなされないことや、企業からの提案を昇華し、投資実行を実

現するようなことがなされないことと、そういった人材を雇用したくても、雇用する「カネ」

がないといった課題があげられる。

また、クラブのトップマネジメントは、選手強化によるチームの成績向上には力を注ぐもの

の、在籍期間が短いケースもあり、クラブの本質的な課題や新たなスポーツビジネス創出の有

益性を理解するところまで至らないため、新たなスポーツビジネスの創出までなかなか至らな

いといった課題がある。

なお、クラブへの出資の多くを占めている責任企業がいるクラブの場合は、責任企業も、新

たなスポーツビジネス創出の有益性等の理解に至っておらず、クラブを、企業の CSR(corporate

social responsibility)の延長線上でしか捉えていないため、クラブを自社の事業拡大の手段

として位置付けていないケースもあり、新たなスポーツビジネスの創出が促進されない課題の

一つとなっている。

一方、周辺企業においても、経営資源が乏しいクラブに対し、短期的な収益性のストーリー

に乏しい提案を行う事もあり、クラブが投資を実行するに至らず、新たなスポーツビジネス創

出が促進されない課題の一つであると考えられる。

このように、新たなスポーツビジネスの創出を阻害している課題は、様々な主体が抱える課

題が、複合的に絡みあっているため、どれか一つを解決すれば新たなスポーツビジネスの創出

が急激に推進されるわけではないことから、これ等のそれぞれの課題に対し、対策を検討する

図表 38.新たなビジネス創出を担う主体

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必要がある。

図表 39.新たなスポーツビジネス創出における構造的な課題

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3-2.新たなスポーツビジネス創出を阻害する課題への打ち手

研究会及びヒアリングでは、経営資源に関する課題への打ち手について、以下のような意見

があった。

「3-1.新たなスポーツビジネス創出を阻害する構造的な課題」であげた課題の内、クラブ

の人材不足や人材を雇う資金不足に対しては、新たなスポーツビジネス創出に必要な人材像と

その人材の調達方法を明確化することで、必要な人材の育成や確保を促進し、人材不足の解決

を図る。

また、クラブのトップマネジメントや責任企業のマインドチェンジに対しては、課題を解決

した実例(グッドプラクティス)を周知・啓発することで、改革の必要性を認識してもらい、

トップマネジメントや責任企業のクラブに対する意識改革を促進し、新たなスポーツビジネス

の推進を図る。

周辺企業からの提案の投資実行促進に対しては、周辺企業に対するクラブが求める提案スタ

ンスの共有を図るとともに、クラブが新たなスポーツビジネス創出に必要な人材を保有し、両

者が有益な意見交換を行うことで、提案を昇華し、新たなスポーツビジネス提案への投資実行

を促進する。

それぞれの打ち手を確実に実行し、課題解決を図ることで、新たなスポーツビジネス創出が

推進される環境が整備され、スポーツビジネスの発展が期待される。

図表 40.課題解決に向けた打ち手

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(1) 対策Ⅰ:新たなスポーツビジネス創出に必要な人材像と当該人材の調達方法の明確化

① 新たなスポーツビジネス創出に必要な人材像の明確化

新たなスポーツビジネス創出に必要な人材の整理

新たなスポーツビジネス創出に必要な体制は、一番トップに、クラブにおける戦略策定

や大規模な事業計画の検討・策定を行う「トップマネジメント」がおり、トップマネジメ

ントが策定した戦略を実現するために、マーチャンダイジングやスポンサー営業、ファン

の拡大といった各分野における事業の企画・立案を行う「事業責任者」がいて、その事業

責任者の指示の基、企画を実行する「実務担当」という構造が望ましい。

トップマネジメントはもちろん、継続的なビジネスの発展・見直しを実現し、PDCAサイ

クルの内、クラブの方向性に関わる「Plan(企画)」、「Check(評価)」、「Action(改善)」

を担う事業責任者においても、内部人材として雇用する必要がある。

ビジネスの実行部分であり、PDCAサイクルの「Do(実行)」を担当する実務担当につい

ては、外部人材としての活用(派遣・出向)が可能な業務であるため、外部人材としての

活用可能性について検討を行う余地がある。

これら 3者が、それぞれの役割に応じて、上手く連携することで、新たなスポーツビジ

ネス創出が推進される。

図表 41.新たなスポーツビジネス創出に必要な人材の整理

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新たなスポーツビジネス創出に必要なスキルの整理

「2-3.新たなスポーツビジネス創出に向けて」で記載したが、新たなスポーツビジネス

創出に必要なスキルは、スポーツ業界特有の「スポーツビジネススキル」と、そのスポー

ツビジネススキルの土台となる「ビジネススキル」の二つに分けることができる。

トップマネジメントは、クラブ全体に関わる戦略策定を行う必要があるため、スポーツ

ビジネススキルとビジネススキル全般を習得する必要がある。

事業責任者は、マーチャンダイジングやスポンサー営業といった各分野における事業の

企画を行うため、担当する分野に該当する特定のビジネススキルを有する必要がある。一

方、スポーツビジネススキルについては、各スポーツビジネススキルを掛け合わせて企

画・検討することで、従来の枠に捉われないビジネスモデルの検討を行うことが可能にな

るため、スポーツビジネススキル全般を習得する必要がある。

実務担当は、事業責任者の指示の基、戦略や企画を実行する役割のため、特定のビジネ

ススキルを有していれば十分であると考えられる。

このように、人材に応じて、必要なスキルは異なるため、新たなスポーツビジネス創出

に必要な体制確保に向けては、必要なスキルを有している人材を確保し、体制を整備する

ことが重要である。

また、研究会では、スポーツビジネススキルの掛け合わせだけでなく、「ファンエンゲ

ージメント」や「マーチャンダイジング」、「チケッティング」といったクラブの異なる部

署が連携できる組織体制を整備する(例えば、事業補部長が部署横断的な企画をできる権

能を持つ等)ことも重要であり、そのような組織体制を整備しているクラブの方が、積極

的な取組みが行われている実態があるとの意見があった。

図表 42.スポーツビジネス創出に必要なスキル

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なお、参考として、「第 3章 想定される新たなビジネスモデルについて」で例示したビ

ジネスモデルに対し、従来の発想の枠を広げるために必要となるスポーツビジネススキル

の掛け合わせの例示を以下の図に示した。

② 新たなスポーツビジネス創出に必要な人材の調達方法の明確化

【事業責任者】内部人材としての雇用促進

スポーツ界の人材育成においては、スポーツビジネススキルのみが注目され、ビジネスス

キルの習得が疎かになっているため、そういった人材をクラブで雇用しても活躍できない

問題が生じている。なお、特定分野のビジネススキルを習得するには、特定分野における

実務経験が不可欠であり、習得に時間を要することも問題となっている。

一方、スポーツビジネススキルについては、広く・浅く理解すれば問題ないため、特定の

ビジネススキルを既に有してるビジネス界の人材に対し、スポーツビジネススキルを学ば

せる仕組みを構築し、スポーツビジネススキルを習得したビジネス界の人材が、スポーツ

界に積極的に参入したくなるよう、スポーツ界のキャリアアップ事例の共有を図るととも

に、クラブ・リーグと人材のマッチングの場を創出することで、スポーツ界への人材の流

入を促進する。

図表 43.新たなビジネスモデル案ごとに掛け合わせが有効なスキルの例

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【実務担当】外部人材としての活用(クラブ・チームへの派遣・出向)促進

優秀な人材を雇用したいと思っても、クラブ・チームが支払える給与水準とビジネス

界における給与水準に乖離がある場合が多く、必要な人材の獲得が困難であることが問

題となっている。

そのため、外部人材としての活用が可能な分野の実務を行う「実務担当」においては、

一部で既に実施されているが、例えばリーグが雇用している人材を、クラブに一定期間派

遣する仕組みや、内閣府が地方創生推進のために実施している地域活性化伝道師制度の

ように、必要なクラブ・チームに対し、必要な人材をスポット的に派遣する制度の創設に

より、クラブ・チームの費用負担を軽減する仕組みを構築することで、クラブ・チームの

人材獲得に伴う費用負担問題の解決を図る等が考えられる。

図表 44.内部人材雇用の促進施策案

図表 45.外部人材活用の促進施策案

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(2) 対策Ⅱ:課題解決の実例(グッドプラクティス)の周知・啓発による意識改革

クラブのトップマネジメントや責任企業・親会社におけるクラブ・チームの本質的な課題

への理解不足や、責任企業・親会社の事業拡大の手段にクラブ・チームが位置付けられてい

ないという課題に対しては、課題解決の実例(グッドプラクティス)を、クラブのトップマ

ネジメントや責任企業・親会社に周知・啓発し、トップマネジメントや責任企業・親会社を

刺激することで、クラブ・チームに対する意識変革を促進し、積極的に新たなスポーツビジ

ネス創出に取り組まれるようにすることが考えられる。

なお、本事業にて行ったクラブ・チームの代表取締役等へのヒアリングや有識者による研

究会にて示された実例(グッドプラクティス)の内、新たなスポーツビジネス創出における

構造的な課題の解決に資する実例(グッドプラクティス)を参考として、以下に記載する。

構造的な課題を解決したグッドプラクティス例

解決した

課題

取組主

体 取組名 概要

課題ⅰ

必要な人材

の不在

浦和

レッズ

サポーター等の

顧客 DB の管理基

盤整備・統合

サポーターやアカデミーといった個々

に独立しているデータベースを統合し

た。

某 チ ー

合理的な判断に

よる投資実行

収益機会の創出、リスクテイク等、総合

的かつ合理的な判断を行い、収益拡大を

図った。

課題Ⅱ

人材を雇用

する資金不

鹿島

ア ン ト

ラーズ

リーグが雇用す

る人材のクラブ

への派遣

リーグが雇用している人材を、クラブに

派遣してもらい、その人材により、スタ

ジアム活性化を図った。

課題Ⅲ

クラブのトップマ

ネジメントの

クラブへの理

解不足

某 チ ー

責任企業の教育

プログラムの解

責任企業の社員教育プログラムを、クラ

ブの社員にも開放してもらうことで、社

員の能力向上を図った。

ガ ン バ

大阪

責任企業の事業

との連携

スタジアムに、責任企業の推進するサイ

ネージを導入し活用することにより、ス

タジアムの活性化を図った。

課題Ⅳ

責任企業のク

ラブへの理解

不足

某 チ ー

親会社が推進す

る電子マネーの

スタジアムでの

利用推進

親会社が推進する電子マネーのスタジ

アム内での利用を実現し、親会社のビジ

ネス拡大に貢献するとともに、観客の利

便性向上を図った。

課題ⅴ

企業の

提案力不足

― ― ―

① 課題解決実例:サポーター等の顧客 DBの管理基盤整備・統合

浦和レッズにおいては、Jリーグ創設以降、チケット購入者、サポーター組織、ファンク

ラブ、アカデミー、地元スポンサー等、様々な関係者とのリレーションを構築していたが、

それぞれの組織で個別にサポーターの情報を管理しており、チケット購入者における物販

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サイトでの購買活動を分析する等、それぞれが持っているデータを繋げたマーケティング

戦略の検討が十分にできていなかった。

このような課題が生じている中、ビッグデータの進展等の潮流を背景に、浦和レッズのサ

ポーターを一意に紐づけ、統合的にチケットの購入状況や試合の観戦状況、グッズの購買

情報を繋げて、管理・分析を可能とする情報分析基盤を構築した。

構築に当たっては、情報分析基盤の重要性を認識した上述の事業部門長にあたる方が、デ

ータ統合・活用といった面での専門知識を有する内部人材を登用し、構築プロジェクトを

推し進める形で実現している。

2018 年現在、当該情報分析基盤は構築が完了したタイミングであり、今後、これを活用

したマーケティング戦略の企画・立案、スポンサーアクティベーションの推進が期待され

ている。

このように、クラブの重要な計画を企画・推進できる人材をクラブが有し、クラブの事業

を推進することが重要である。

図表 46.サポーター等の顧客 DBの管理基盤整備・統合

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② 課題解決実例:合理的な判断による投資実行

クラブを経営していくベースとなる事業において、マーケティング・プランニング等

の局面から、収益機会の創出、リスクテイク等、総合的かつ合理的な判断を下せる人

材が不足していた。また、責任企業や親会社からみたクラブの位置づけに対する配慮

が故に、事業規模の拡大による収益の増加、収益の増加による自立経営化といった一

般民間企業には当たり前の方向性や優先順位による経営判断がなされてない現状があ

った。

そのため、収益機会の創出、リスクテイク等、総合的かつ合理的な判断を下せる人材

が事業企画や意思決定をできる役職につき、当該人材を中心に、例えば、当該スポーツ

リーグでは前例のなかった、優勝確定直後で感動しているファンをターゲットに見据え、

決勝戦前に優勝記念グッズを発注し、優勝確定後、直ぐに優勝記念グッズを販売し、そ

の場で商品を渡す取組を実施することで、優勝に沸くファンの心を掴み、売上向上を図

った。

このように、一定のリスクがあるにも関わらず、将来の収益性等を考慮し、合理的な

判断が行える人材をクラブが有し、クラブの事業を推進することが重要である。

図表 47.決勝戦前に優勝記念グッズを発注

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③ 課題解決実例:リーグが雇用する人材のクラブへの派遣

鹿島アントラーズにおいては、ホームグランドの茨城県立カシマサッカースタジアム

に高密度 Wi-Fiを導入しており、そのスタジアム Wi-Fiを活用したファンへのサービス

提供について企画・検討を行っていたが、その企画を推進する人材を雇用する際の人件

費負担に課題を感じていた。

そのため、リーグが雇用している人材を上述の外部人材としてクラブに派遣してもら

い、その人材を中心に、スタジアム Wi-Fi を活用したサービスの推進が行われている。

現在は、既に「2-2.先進事例」で紹介した AR を活用したスタジアムの活性化に向け

たサービス提供がなされており、今後、スタジアム Wi-Fiを活用した更なるサービスの

企画・提供が期待されているところである。

このように、クラブの重要な企画を推進できる人材をクラブが直接雇用する資金的余

裕がない場合は、クラブの外で雇用されている人材をクラブに派遣・出向してもらい、

クラブの事業を推進することが重要である。

図表 48.リーグが雇用する人材のクラブへの派遣

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④ 課題解決実例:責任企業の教育プログラムの解放

某クラブにおいては、クラブの社員のパソコン操作技術やマーケティングといった

一般ビジネススキルに課題を感じていたものの、教育を実施できる体制や金銭的余裕

がなく、社員への教育が十分に行えなかった。

このような課題に対応するため、責任企業が、責任企業の社員向けに提供している教

育プログラムを、クラブの社員も受講できるように要請した。

クラブの社員も、責任企業の社員が受講できるビジネススキルに関する教育プログ

ラムを受講できるようになったことで、クラブの社員の能力向上を図った。

このように、責任企業等が有するアセットをクラブが活用することで、人的、金銭的

負担を軽減し、クラブが抱える課題解決が可能となる。

図表 49.責任企業の教育プログラムの解放

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⑤ 課題解決実例:責任企業の事業との連携

ガンバ大阪においては、スタジアムの更なる活性化を図る施策の検討を行うとともに、

クラブにおける責任企業のビジネス拡大に資する取組の検討を進めていた。

このような課題に対応するため、ガンバ大阪のホームスタジアムである Panasonic

Stadium Suita(パナソニック スタジアム 吹田)に、責任企業の製品であるサイネー

ジを導入し、試合と連動した映像を配信することで、より一体感のあるスタジアムの雰囲気

作りによるスタジアムの魅力向上や、ハーフタイム時に、コンコースに設置した全てのサイ

ネージに同じ広告を配信し広告価値の向上を図る取組みが行われている。

このように、責任企業が推進しているビジネスの拡大に資する取組をクラブが協力す

ることで、責任企業の事業拡大に貢献できるとともに、責任企業が、クラブを自社の事

業拡大の手段として位置付けるようになり、今後、新たなスポーツビジネスを創出が加

速されると思われる。

図表 50.責任企業が推進する製品の導入

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⑥ 課題解決実例:親会社が推進する電子マネーのスタジアムでの利用推進

某クラブチームにおいては、親会社が推進している電子マネー等がスタジアムで利用

できなかったため、親会社の事業推進に寄与できていなかったことと、観客の利便性に

課題を抱えていた。

このような課題に対応するため、親会社が推進する電子マネーのスタジアム内での利

用を実現し、親会社のビジネス拡大に貢献するとともに、観客の利便性向上を図った。

このように、親会社が推進しているビジネスの拡大に資する取組をクラブが推進する

ことで、親会社の事業拡大に貢献できるとともに、親会社が、クラブを自社の事業拡大

の手段として位置付けるようになり、今後、新たなスポーツビジネスを創出が加速され

ると思われる。

図表 51.親会社が推進する電子マネーのスタジアムでの利用推進

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(3) 対策Ⅲ:周辺企業に対するクラブが求める提案スタンスの共有

周辺企業からの提案の魅力向上に対しては、スポーツ界の意見と産業界の意見を両方聴取

した上で、打ち手を検討し、より現実的かつ効果的な打ち手を導出する必要があるのではな

いか。

スポーツ界は、以下のとおり周辺企業に対し、収益性の確度が高い提案や、協働で事業を

推進するような提案を求めていることがわかった。

<スポーツ界からの意見>

・周辺企業の提案は、収益化の見込みに乏しい提案のため、クラブ・チーム側の投資判断を

呼び込めていないのではないか。

・クラブ・チームは経営資源に乏しいため、企業側が機材・人材・費用を持ち出し、事業を

協働して実施する提案であれば、受け入れられやすいのではないか。

(協働事業を行う中で得られた収益は折半する等)

・個々のクラブ・チームを相手にするのではなく、複数クラブ・チームをまとめてサービス

提供を行うような提案をすべきではないか。

一方、産業界は、以下のとおり、クラブ・チームに提案を相談しても、提案を昇華させる

ような人材がクラブ・チームにいないことや、周辺企業の参入意欲を向上するために、スポ

ーツ界の魅力向上を行う必要があるのではないかとの声もある。

<産業界からの意見>

・クラブ・チームに、提案し、提案内容を相談したいと思っても、提案の中身を理解し、意

見交換することでより良い企画に昇華させるようなカウンターパートがいないので、新

たなスポーツビジネスが創出されないのではないか。

・クラブ・チームから、企業に対し、主体的に実現したいことや解決したい課題についての

相談があれば、もっと新たなスポーツビジネスが創出されるのではないか。

・周辺企業が参入したいと思うような魅力を構築する必要があるのではないか。

以上のことから、周辺企業からの提案の投資実行促進に対する打ち手に対しては、企業側

の提案スタンスの共有だけでなく、クラブ・チーム側に、その提案を理解し、提案内容を昇

華できるような人材が必要になることから、「対策Ⅰ」で記載したとおり、新たなスポーツ

ビジネス創出に必要な人材の確保も併せて実施する必要がある。

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図表 52.スポーツ界からの産業界への意見と産業界からのスポーツ界への意見

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参考①研究会における議論の概要

研究会メンバー(敬称略・五十音順)

荒木 重雄 株式会社スポーツマーケティングラボラトリー

鈴木 秀樹 株式会社鹿島アントラーズ FC

出井 宏明 株式会社Jリーグデジタル

経済産業省商務・サービスグループサービス産業室

スポーツ庁参事官室(民間スポーツ担当)

(事務局)デロイト トーマツ コンサルティング合同会社

図表 53.第一回研究会における議論(1/3)

図表 54.第一回研究会における議論(2/3)

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図表 56.第二回研究会における議論(1/5)

図表 55.第一回研究会における議論(3/3)

図表 57.第二回研究会における議論(2/5)

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図表 58.第二回研究会における議論(3/5)

図表 59.第二回研究会における議論(4/5)

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図表 61.第三回研究会における議論

図表 60.第二回研究会における議論(5/5)

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参考②経営者ヒアリングの概要

(1) 目的

新たなスポーツビジネスの創出においては、クラブの方向性や戦略を策定する経営層の手

腕や判断の影響を大きく受けることから、先進的な取組を行い、成功しているスポーツ経営

人材に対して、スポーツ経営人材に必要なスキルやこれまでの経験、クラブが有する課題等

をヒアリングし、新たなスポーツビジネス創出における構造的な課題等の把握を行い、検討

の材料とした。

(2) ヒアリング対象(計 6名)

某クラブ 代表取締役(3 名)

某クラブ 取締役(1 名)

某クラブ 本部長(2 名)

(3) ヒアリング実施期間

平成 29年 11月 21日(火)~平成 30年 1月 10日(水)

図表 62.各経営人材へのヒアリングでの聴取結果