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うぐいすリボン講演会 2014/2/22 1 日本の著作権は なぜこんなに厳しいのか 山田 奨治 (国際日本文化研究センター) 著作権法違反の刑事罰(最高刑) 懲役 10年以下 罰金 1000万円以下 いずれか+両方 法人への罰金 3億円以下 個人への 違法DLの刑事罰 2年以下の懲役又は200万円以下の罰金(併科も可)

日本の著作権はなせ-こんなに厳しいのか (配布用)

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日本の著作権は なぜこんなに厳しいのか

山田 奨治 (国際日本文化研究センター)

著作権法違反の刑事罰(最高刑)

懲役 10年以下

罰金 1000万円以下

いずれか+両方

法人への罰金 3億円以下

個人への

違法DLの刑事罰 → 2年以下の懲役又は200万円以下の罰金(併科も可)

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刑法犯との比較

•  窃盗罪 – 10年以下の懲役又は50万円以下の罰金

•  住居侵入罪 – 3年以下の懲役又は10万円以下の罰金

•  公然わいせつ罪 – 6月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又

は拘留若しくは科料 •  傷害罪

– 15年以下の懲役又は50万円以下の罰金

著作権法「改正」の歴史

改正法 施行年

個人に対する最高刑事罰 法人に対する最高刑事罰

1971 懲役3年or 罰金30万円 罰金30万円

1985 懲役3年 or 罰金100万円 罰金100万円

1997 懲役3年 or 罰金300万円 罰金300万円

2001 罰金1億円

2005 懲役5年 or/and 罰金500万円 罰金1.5億円

2007 懲役10年 or/and 罰金1000万円 罰金3億円

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著作権法での個人に対する最高罰金額の推移(指数)

著作権法と特許法での個人に対する罰金の最高額の推移

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中山信弘『著作権法』、2007年

知的財産権侵害と窃盗の量刑は同程度であるべきであるという意見が強まり、平成18年改正で罰則が強化され、ほぼ窃盗と同じになった。この改正によりわが国の知的財産権侵害罪は、世界でも最も重罰の規定をもつことになった。今回の改正は、有体物の侵害と情報の侵害との区別の議論を全くしないままに、政治主導でなされたものであり、法改正としては極めて遺憾である。

違法コピーは万引きとおなじか

排他性高 排他性低

控除性高

控除性低

有体物

無体物

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有体物の所有権とは

物を自由に使用・収益・処分する権利

無体物の所有権とは

有体物の所有権に模して考えられた疑似的な所有権 保護と利用のバランスの上に認められた限定的な権利

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映画の盗撮の防止に 関する法律(2007年施行)

•  映画にかんしては「私的使用のための複製」の制限規定から除外

•  映像業界のロビイングにより議員立法で成立(著作権法を上書き)

•  法案提出から可決成立まで2週間。その1週間後に公布

•  報道なし。誰も気付かず •  議員立法という手があったと、業界が学習

した→違法DL刑事罰化で再度試みられる

違法ダウンロード違法化の経緯

•  はじめは私的録音・録画補償金制度の抜本改革が目標

•  それが権利者の抵抗にあって潰されるなか、違法にアップされた著作物のダウンロードを違法にする案が生き残る

•  ユーザー側からの反対意見が徹底的に無視されて違法化が合意される

•  ただし、刑事罰は付かなかった •  詳しくは『日本の著作権はなぜこんなに厳

しいのか』第4章

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違法ダウンロード刑事罰化の経緯

2010.1 違法ダウンロード違法化施行 2011夏? 権利者団体が杉良太郎氏を頼んでロビイングをはじ  める 2011.8 自民党から「音楽等の私的違法ダウンロードの防止に  関する法律案」提出が検討される。山本一太議員の反対で中断 2011.12 自民・公明が調整し法案に合意 2012.4 消費増税に向けた民自公3党合意のなかで、ついでに  合意か→議員立法をやめ、閣法の著作権法改正案を議員提案で  修正へ 2012.6.1 衆議院で審議入り 2012.6.15 文部科学委員会通過(実質審議なし)、本会議即  日可決 2012.6.19 参議院文教科学委員会、参考人質疑 2012.6.20 文科委員会通過、本会議即日可決成立 2012.10.1 違法ダウンロード刑罰化施行

下村博文衆議院議員 2011年12月3日ブログより

 「音楽などの私的違法ダウンロードの防止に関する法律案」について、公明党との最終調整を行っている。  現在、音楽や映像のダウンロードは法律で規制され私的でもあっても違法だが罰則規定がない。例えばCDショップで盗むと十年以下の懲役だが、ネットで盗んでも罰則がないという、法のアンバランスが存在している。  これについては関係業界が当然、法の制定を望んでいる。被害総額は実質売上の10倍近く、およそ8000億近いというから深刻だ。自民党も公明党も罰則規定を新たに設けることでまとまったが、あとはどの程度の罰則にするかだ。しかし、民主党内がまとまらず今国会提出も難しい。  このことで俳優の杉良太郎さんが私の事務所に早期実現の要望に来られたことがある。それからよく杉良太郎通信をFAXで送ってきて下さるが、杉さんの竹を割ったような筋の通った性格と気持ちの良い男気に感動している。芸能界にも、自分のことより社会正義に燃え頑張っている人がいることは私にとって驚きだった。(後略)

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RIAJのロビイング資料より

RIAJのロビイング資料より

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2012.3.9参議院決算委員会 松あきら議員(公明)の質問

 一昨年の著作権法改正では、「私的使用目的であっても違法と知りながらダウンロードする行為」は違法とされたんです。けれども、罰則がないんですよこれ、もうすごいですよ。正規では4.4万件、違法が43.6、43.6億件ですよ。で、これ、7,000億円ぐらい、だそうでございます。(中略)  アメリカなどは、たとえば懲役刑あるんですよ!1年、禁固1年、10万ドルの罰金。フランスだってドイツだってみんなありますよ!罰則が!日本でも罰則を作っていただきたい!

音楽違法DL被害額 7000億円の怪

•  根拠になったRIAJの調査では6683億円 •  サンプルがネットに近いリスナーに偏って

いる •  「違法DL」と「無料DL」の区別ができてい

るか •  平均のトリックが使われている

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違法ファイル等の推定DL数分布 (動画配信サイトからの楽曲)

(%)

平均!

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2012.6.15衆議院 文部科学委員会質疑

•  下村博文委員 さて、日本レコード協会の調査によりますと、一年間に違法ダウンロードされるファイルの数は四十三・六億ファイルに上ると推計されております。……また、同じく日本レコード協会等の調査によると、違法にダウンロードされているファイルを正規に配信されている音楽の販売価格に換算した場合、約六千六百八十三億円になるというふうに推計されております。

•  平野(博)文科大臣 今、私も、委員から指摘されて、一年間にダウンロードされるファイルの数がかなりの数になるということ、及び、ビジネスベースに換算すると六千億円を超えてくる、こういうことでございます。

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違法ダウンロード刑事罰化 (第119条第3項)

第三十条第一項に定める私的使用の目的をもつて、有償著作物等(録音され、又は録画された著作物又は実演等(著作権又は著作隣接権の目的となつているものに限る。)であつて、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。)をいう。)の著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権又は著作隣接権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、自らその事実を知りながら行つて著作権又は著作隣接権を侵害した者は、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

附則第九条

新法第百十九条第三項の規定の運用に当たっては、インターネットによる情報の収集その他のインターネットを利用して行う行為が不当に制限されることのないよう配慮しなければならない。

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参議院の附帯決議

五、著作権法の運用に当たっては、犯罪構成要件に該当しない者が不当な不利益を被らないようにすることが肝要であり、とりわけ第百十九条第三項の規定の運用に当たっては、警察の捜査権の濫用やインターネットを利用した行為の不当な制限につながらないよう配慮すること。

ACTAの教訓

市民生活に深くかかわることを、外国との秘密交渉で決めてしまう政治手法は、少なくとも欧州では成功しなかった。(日本では成功した。)

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さて、TPP

•  文化のあり方にかかわることを、一部の人間による秘密貿易交渉で決めること

•  突きつけられているのは、アメリカ型のコピーライト(引く フェアユース) – 保護期間を70年に – 非親告罪化 – 法廷賠償金

非親告罪化とは

•  著作権者の告訴がなくても、検察の判断で裁判にかけられるようにすること

•  告訴がなければ逮捕できないことではない •  「親告罪」は英語にない概念

– 法文化への干渉

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非親告罪化検討の経緯 •  1999年12月著作権審議会第1小委員会

専門部会報告書 –  著作権侵害罪については、親告罪であることにより犯人を知ったときか

ら6月以内に告訴することが必要になるが、この告訴期間の経過により、権利者が告訴できないという事態を避けるため、非親告罪とする必要があるとの考え方や、権利者自らの告訴のみならず、第三者の告発によって法の執行機関が捜査権限を有することにより、権利侵害に対する抑止力が高まるとする導入に積極的な意見もあるものの、著作物には営業的に利用されないものが多いなど、なお特許と比較して私益性が強いことや、著作権においては特許権と異なり審査、登録が権利発生の要件となっておらず、権利の帰属関係が特許権ほど明確でないこと、日常的、恒常的に利用されることが多く、侵害手段も平和的である著作権について権利者の告訴を事件とせず訴追することができることとすると、第三者による告発の濫発が予想されうること等から、導入については今後の侵害行為の態様等の状況を緒まえ、さらに検討する必要がある。

非親告罪化検討の経緯 •  米国政府からの年次改革要望書2006

– 起訴する際に必要な権利保有者の同意要件を廃止し、警察や検察側が主導して著作権侵害事件を捜査・起訴することが可能となるよう、より広範な権限を警察や検察に付与する。

– 2008年まで同様の要望 – (2006年回答)日本国政府は、著作権侵害

罪について、公訴する際の被害者(権利者)の告訴要件が著作権侵害罪を訴追する際の実質的な障害となり得るかなどを含め、捜査・起訴のための適切な制度の在り方について検討を継続し、2007年度末までに一定の結論を得る。

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非親告罪化検討の経緯

•  知的財産推進計画2007 – 海賊版の氾濫は、文化産業等の健全な発展

を阻害し、犯罪組織の資金源となり得るなど、経済社会にとって深刻な問題となっている。重大かつ悪質な著作権侵害等事犯が多発していることも踏まえ、海賊版の販売行為など著作権法違反行為のうち親告罪とされているものについて、2007年度中に非親告罪の範囲拡大を含め見直しを行い、必要に応じ法改正等制度を整備する。

非親告罪化検討の経緯

•  2007年からの文化審議会著作権分科会法制問題小委員会の検討課題になる

•  日本コンパクトディスク・ビデオレンタル商業組合は反対

•  日本書籍出版協会は、「極めて慎重に審議されるべき」

•  音楽・映像業界からは意見なし→私的録音録画補償金問題に専念していた?

•  2009年1月著作権分科会報告書 – 結論→慎重に検討することが必要

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TPPの非親告罪化

•  「商業的規模」の「意図的侵害」に限られる •  「商業的規模」の定義は?

Article QQ.H.7 (2013.8.30現在、WikiLeaksリリース) 2.[US/AU/SG/PE 提案; CL/VN/MY/NZ/CA/BN/MX 反対: 商業的規模での著作権あるいは関連する権利の意図的な侵害には以下を含む: (b) 商業的利得(commercial advantage)あるいは[AU/SG/PE/JP 反対: 個人的な]財政的利得(financial gain)目的での意図的な侵害[AU/SG/PE/CA/JP 反対: (注)]] (注)[US 提案; AU/SG/PE/CA/JP 反対: 正確を期すために、この条項でいう「財政的利得」は価値あるもの(anything of value)の受取あるいは期待を含む]

何に注目すべきか

•  TPP交渉がまとまるか、著作権関係がどうなるか

•  非親告罪化については、「商業的規模」の定義がどうなるか

•  国内法改正がどうなるか – フェアユースはますます必要になる(とくにパ

ロディには) – 韓国の経験

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韓国著作権法での非親告罪化

第140条 (告訴) ※2009年改正法の条文  この章に規定する罪については、告訴がなければ公訴を提起することができない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合には、この限りでない。〈改正2009・4・22〉 一 営利のために常習として第136条第1項及び第136条第2項第3号に該当する行為をした場合 二 第136条第2項第2号、第5号及び第6号、第137条第1号ないし第4号、第6号及び第7号、第138条第5号の場合 三 営利を目的として第136条第2項第4号の行為をした場合(第124条第1項第3号の場合には、被害者の明示的な意思に反して処罰することができない。) http://www.cric.or.jp/db/world/skorea.html

韓国著作権法でのフェアユース 第35条の3(著作物の公正な利用) ※2011年改正法の条文 第1項 第23条から第35条の2まで、第101条の3から第101条の5までの場合の他、著作物の通常の利用を妨げず、著作者の正当な利益を不当に害さない場合には、報道・批評・教育・研究等のために著作物を利用することができる。 第2項 著作物の利用行為が第1項に該当するかどうか判断するときは、次の各号の事項を考慮しなければならない。 第1号 営利性や非営利性など、利用の目的および性質 第2号 著作物の種類と用途 第3号 利用される部分が著作物全体に占める割合とその重要性 第4号 著作物の利用が、その著作物の現在の市場又は価値若しくは潜在的な市場又は価値に及ぼす影響 http://fr-toen.cocolog-nifty.com/blog/2012/03/post-2fbc.html

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非親告罪化の 同人・コスプレ等への影響

•  司法の判断でグレーをクロにできる •  お金を払って個人で楽しむ分には影響は少ないだろ

う – 侵害品を買うことにはモラルの問題が残る

•  それでお金を得ている人は大いに関心を持ち発言するべき

•  即売会の運営側が摘発される危険性はある(カラオケ法理、警察によるイベント潰し)

•  告発・摘発の増加により権利者のコストは増加し、マンガ・アニメの裾野はしぼむだろう

考えられる対策

•  フェアユースは必須 •  万引きの場合、被害届が出なければ警察

はそれ以上動かない→非親告罪でも権利者が動かなければ、警察も動きにくい

•  権利者とファン・コミュニティーとが対話し、両者に実害が及ばないよう防衛線を張れないか