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獣医学概論B : 世界 の獣医学、日本の 獣医学 鹿児島大学附属越境性動物疾病制御研究ンター 岡本嘉六

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獣医学概論B : 世界 の獣医学、日本の 獣医学 鹿児島大学附属越境性動物疾病制御研究ンター 岡本嘉六. ■概要: 大学 教育、検疫、感染症対策などにおける世界の獣医学とわが国の獣医学の比較の中から、今後のわが国の 獣医学 の進むべき方向を展望する 。. 日本学術 会議議長であった越智勇一先生の 名言 として「全ての学問はその歴史の上に建つ」がある 。. - PowerPoint PPT Presentation

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Page 1: 獣医学概論B : 世界 の獣医学、日本の 獣医学 鹿児島大学附属越境性動物疾病制御研究ンター 岡本嘉六

獣医学概論B: 世界の獣医学、日本の獣医学鹿児島大学附属越境性動物疾病制御研究ンター 岡本嘉六

■ 概要: 大学教育、検疫、感染症対策などにおける世界の獣医学とわが国の獣医学の比較の中から、今後のわが国の獣医学の進むべき方向を展望する。

日本学術会議議長であった越智勇一先生の名言として「全ての学問はその歴史の上に建つ」がある。

我々の学んでいる獣医学(古くは馬医術)は長い歴史の中で、多くの先人の経験や科学の積み重ねの成果の上に成り立っている学問である。日本の獣医職名(馬医師)は大宝律令( 701 )には記載され、さらに実施された治療内容は平 仲国が中国より帰朝( 804 )後から記録「仲国百問答」がはっきりするなど古い歴史がありながら、現代に至るまでの古文書(獣医学書・絵など)は僅かに国立図書館、一部の大学図書館、個人所有であり我々が調査に行っても見せて貰うことすら出来ない、記録にはあるが滅失した古文書もある。

多くの獣医職(馬医・伯楽あるいは軍獣医官など)が長い年月を掛けて創意、工夫、改良して作り上げた治療用具にいたっては地方の民俗博物館、郷土博物館、 JRA 「馬の博物館」、個人収集品として僅かづつほとんど全国に・・・・今我々が立っている所はどこか、そしてどこに向かうべきか?

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ボスインディカス

ボスタラウス

野生牛の家畜化原牛: オーロックスはユーラシア大陸とアフリカ

大陸に生息していたが、絶滅した。

アルタミラの洞窟壁画: 

クロマニョン人が描いた

アフリカ各砂漠周辺 の岩面

ラスコーの洞窟壁画: 紀元前

2 万年の人類最初の絵画

約 8000 年前、西アジアで家畜化

印章: インダス文字と牛

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アバディーン・アンガス (英)

ヘレフォード(英) ショートホーン(英)

シャロレー(仏) シンメンタール(スイス)

ホルスタイン(オランダ)

ジャージー(英)エアシャー(英) ガンジー(英)

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フランス・ラスコー洞窟:15,000 年前の旧石器時代後期のクロマニョン人によって描かれた

紀元前 3000 年頃、ヨーロッパ南東部、黒海の北西部で最初の家畜化:狩猟を通して動物の習性を理解し、追いつめ、一定の方向に誘導し、管理することを学んだ。

狩猟・採取時代は専ら食べる目的で捕獲していた。草原型:アジア大陸中央部、体高 130 ~140cm 高原型:ウクライナ地方を中心、体高は~150cm森林型:欧州、体高が 180cm気象変動による狩猟動物の減少

農耕を基盤にした定着民が労働エネルギーとして利用する技術を産出した。

馬肉を食べることへの禁忌の傾向は 8 世紀頃からヨーロッパで強くなり、その後キリスト教徒を中心に定着しているが、この思想の背景には労働としての有用性や馬は軍隊の基幹兵器であるという社会的認識がある。

戦車の発明と騎馬戦の技術は馬を強力な生物兵器に変え、国家の形成や興亡の歴史に極めて大きな影響を及ぼすことになった。

Page 5: 獣医学概論B : 世界 の獣医学、日本の 獣医学 鹿児島大学附属越境性動物疾病制御研究ンター 岡本嘉六

古来、人力に負えない作業をこなすために、馬や牛は様々な方面で使われてきた。農業、輸送、山の木の切り出し、土木作業、建築、・・・・・

馬車鉄道

終戦直後の昭和25

年に飼育されていたウマは、

農用馬だけで百万頭を超すが、昭和40年代初頭

には三十万頭に、昭和50

年には僅か4万2千頭

まで減った。

一馬力: ジェームズ・ワットが蒸気機関の能力を示すのに、標準的な荷役馬 1 頭のする仕事を基準としたことに始まる。

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仏教における信仰対象である菩薩の一尊。観音菩薩の変化身の一つであり、六観音の一尊にも数えられている。

馬頭観音(ばとうかんのん /めづかんのん)

馬頭観音: 頭上に馬頭を戴き、胸前で馬の口を模した「馬頭印」という印相を示す。

インドの神で祇園精舎の守護神である。後に日本の神素盞鳴尊(スサノオノミコト)と習合した。京都祇園の八坂神社などに祀られ除疫神として尊崇されている。

牛頭天王(ごずてんのう)

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狂犬病流行の仕組みと現状野生保有動物キツネ、アライグマ、スカンク、コウモ

伴侶動物イヌ、ネコ

ヒト

● 発症したら 100%死亡、治療法なし● 世界で年間  5万人以上が死亡● 全ての哺乳動物が感染

● 唾液中のウイルスが咬傷や粘膜・傷口から侵入

清浄国日本、台湾、オーストラリア、ニュージーランド、英国、アイルランド、スウェーデン、ノルウェー、アイスランド、ハワイ、グアム、フィジー

アジアでは野生保有動物問題まで辿り着いていない

犬の予防注射でヒトは防げる

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咬傷から侵入した狂犬病ウイルスは神経を通って脳に達し、嚥下障害による恐水症状など興奮、麻痺、精神錯乱などの神経症状が現れる。脳神経や全身の筋肉が麻痺を起こし、昏睡期に至り、呼吸障害によって死亡する。咬まれて直ぐに暴露後治療を受ければ発症しない。

患者写真はウィキペディアより狂犬病の脅威

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暴露後処置: 世界保健機関( WHO)によれば、年間 5 万 5000名が狂犬病で死亡しており、その多く( 30–50%)が子供たちである。主な感染は、狂犬病に罹った犬に咬まれることで起きている。狂犬病で死んだ子供たちのほとんどは、咬まれた後でワクチン接種を受けていない。 狂犬病の動物に咬まれ、ワクチンを接種された人数は数百万人 に達している。現在のワクチンは、発症を防ぐ効果が極めて高いが、発生国の多くはアジアの貧しい国々であり、ワクチンを買う金がない。

現在の日本では狂犬病の恐怖は判らないが、

恐怖を味わ

う前に予防接種を受けよう! 報告した国の割合

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18971907

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1997

10000

1000

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10

日本における 狂犬 病発生の経過

1922 年 家畜伝染病予防法ワクチン接種の義務化

1950 年 狂犬病予防法登録とワクチン接種の義務化

関東大震災第一次世界大戦

敗戦

1956 年の 6 頭の犬の発生を最後に国内での発生は止まった。しかし、 1970 年にはネパールで 1名、2006 年にはフィリピンで 2名が感染し、帰国後に死亡した。

イヌ ヒ

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1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 20090

50

100

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250

300

350

九州におけるアライグマの捕獲数米国ではニューヨーク州な

ど東部でアライグマの狂犬病が広がっている。アライグマは都会でも繁殖する。

北海道や関東・関西の山には外来種のアライグマが陣取っている(ブラックバスと同じ)。飼い犬の 登録と狂犬病予防接種が必ずしも徹底されておらず()、日本に狂犬病が侵入した場合には深刻な事態になりかねない。

長崎県

佐賀

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:ワクチン接種済み

:ワクチン未接種 :狂犬病

ワクチン 接種率 と狂犬 病の広がり方狂犬 病に罹った 1頭の犬が 3頭に咬み付くと仮定

接種率 80% 接種率 40%

ここで感染は止まる。 WHO は70%以上の接種率を勧告している。

ペットフード協会が調べた犬の飼育頭数は 1,300 万頭余りで、それらの登録頭数は 52%、予防注射頭数は 39%に過ぎない。不法入国者の持込み等によって狂犬病が侵入したら、犬で蔓延し、アライグマの中にも定着するだろう。法律で定められ

た登録と予防接種を遵守しよう。

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動物の感染症と微生物に関する主な事跡 (動物の感染症、近代出版)

BC2300 頃: バビロンのエシュナ法典に狂犬病の記載BC1190 頃: トロイ戦争終期に 腺ペストの流行で多数の兵士が死亡BC1100 頃: メソポタミアの法律に狂犬病と関連して飼い 主の義務が記載AD791 : フランク王国カー ル大帝(在位 :768 年~ 814 年)の軍隊が馬の流行病で撤退801 : カール大帝統治下で牛疫大発生 ローマ帝国衰退の引き金になった1710~ 15 : ヨーロッパで牛疫の大流行1744 : 牛疫罹患牛の鼻汁や涙を予め健康牛に接種する予防法1776 : 口蹄疫の計画感染による免疫1796 : 種痘法の発見( Jenner)1833:  オハイオ州で豚コレラ流行1835 : フランス軍馬の 5%強が鼻疽に感染1858 : 人畜共通感染症 zoonosis の提唱( Virchow)1863 : 炭疽の病因解明と再現:炭疽菌の発見( Davaine)1876:  「 Koch の三条件」発表1880 : 家禽コレラの弱毒株ワクチン( Pasteur)1881:  炭疽の加熱死菌ワクチン( Pasteur)1885 : 狂犬病ワクチン( Pasteur)ーーーーーーーーー-------

1638 : 西日本における牛疫の大流行(十三 朝紀聞)1664 : 馬の腺疫の記録(足利義持の口述筆記)1736 : 日本各地で狂犬病流行(狂犬病咬傷治法)1847 : 鶏痘の記載(遊相医話)1889 : 破傷風菌の培養(北里柴三郎)

長い人類史の中で、病原体が発見されてから未だ 150年余りしか経っていない。それまでの伝染病との闘いにおいて培われてきた英知を汲み取ることが大切である。

助手とともにウサギで実験するパスツール( 1822-

1885)

科学には国境はないが、科学者には祖国がある

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牛疫  (Rinderpest; Cattle Plague) 「疫病(ペスト)」は中世の暗黒時代の伝染病であり、欧州人口の 1/3 から 1/2 が死亡した。「口蹄疫」と並ぶ家畜伝染病。

非汚染地域の感受性の高い家畜集団では、罹病率と死亡率は 100 % に近い。 過度の流涙 . 舌背側表面の軽度の潰瘍

出血を伴う下痢

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牛疫: 欧州では 1709–1720 年、 1742–1760 年、 1768–1786 年の大流行で約 2億頭の牛が死亡し、畜産業は壊滅的打撃を蒙った。これに対処するため、 1762 年にフランスに世界最初の獣医大学が創設され、昨年は 250周年記念を迎えた。

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1932 年を最後に発生がない。  牛疫に関する最初の記事は、 1876 年(明治 9 年) 2月 29日付読売新聞に掲載された「東京府知事楠本正隆」名の官令が最初である。○ 一軒に伝染の牛疫が有ると思ったら夫(それ)を撲(うち)ころし、斃(しがい)は一丈二尺下の地へうめるか焼捨てよ。又牛が病気に成ったら伝染病で無くとも区戸長に届けろ。区戸長は医師に見て貰って府庁へ届けろ。○ 伝染病で無くとも牛が病気に成ったら直( じき)に近所へ知らせて健康の牛と一所にするな(中略)。○ 伝染病で死んだ牛の部屋へは六ヶ月たたないうちは健康な牛を繋(つな)ぐな。

新聞で見る明治の日本の大流行

◆牛疫の恐ろしさ 欧州では輸入2頭の病原から損害数十万頭の 例も( 1876 年 3月 14日) ◆牛肉と牛乳 牛疫の流行で肉は先月下旬の半分、乳は 3~ 4割の売れ行き/東京( 1892 年 11月 9日) ◆東京府下の牛疫 発病乳牛の隔離、厳重な消毒法など実施/警視庁( 1900 年 12月 4日) ◆牛疫続発 大阪、徳島、兵庫、香川の各県で感染、撲殺( 1908 年 7月 29日) ◆牛疫損害は1府6県で 2420 頭撲殺、 65頭斃死、山羊 2 頭撲殺/農商務省調査( 1910 年 5月 20日)

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高句麗の僧恵慈来朝、厩戸皇子(聖徳太子)これを師とする。皇子は、侍臣橘猪弼をして恵慈について療馬の法を学ばせこれを後世に伝えた。大宝律令官位令中に「馬医師」なる字句が見える。同職員令中に左右馬療に馬医各2人をお くと定められる。硯山左近将監平仲国勅を奉し唐に入り、大延なる者につき馬医の業を学び多年留学ののち帰朝する。延喜式官制中「馬医寮」なる字句が見える.馬療の官員に年酒を賜る白馬の節会なるものがある。又馬の薬の条に毎季の馬薬の名および量が記されている。西阿なる馬医、七郎兵衛忠泰に「馬医絵巻」を伝う。奥州伊達門士桑島新右衛門尉藤原仲綱(桑島家中興の開山)、弟子赤塚雅楽助に「療馬図説」なる馬療伝書を与えた。本書には、馬体各部の名称および灸治の諸法が記されている。桑島信実が「伯楽病理論」を桑島采女正に伝授した。当時の治療法は、鍼理、灸治、薬治、呪理および術理の5つの方法を以て行うものとされた。5代将軍綱吉、四ツ谷に病理厩を設け府内の病馬を悉くここに収容した。「要馬秘極集」発刊。大坪本流「武馬必要」巻之五医馬の中に獣医の2字が初めて出る。幕府は和蘭より馬を輸入し、この際蘭人も来朝した。ケイズル(ケイスリノグ)は騎乗,療馬の法をよくし、これを伝授し、日本に 11 年留る。

明治以前の日本における獣医療

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近代的獣医学の始まり明治 4 年( 1871) 牛疫予防布告明治 7 年( 1874) 陸軍獣医養成のためフランス陸軍獣医師を招く明治 10 年( 1877) 陸軍馬医学会を設立明治 11 年( 1878) 駒場農学校獣医学教育を開始明治 13 年( 1880) 札幌農学校獣医学教育を開始明治 14 年( 1881) この頃までに 30 道府県に獣医学校、獣医講習所、獣医伝習所、獣医養成所が開設明治 18 年( 1885) 獣医免許規則により獣医師免許取得資格制定

明治 19 年( 1886) 獣類伝染病予防規則制定明治 24 年( 1891 ) 西ヶ原農事試験場に畜産部(後の家畜衛生試験場、現在 の動物衛生研究所)明治 26 年( 1893 ) 陸軍獣医学校設立、牛疫予防令明治 27 年( 1894 ) 日清戦争勃発、軍馬生産のため獣医学校乱立明治 29 年( 1896 ) 獣疫予防法制定 家畜伝染病予防法➜( 1922 )昭和 12 年( 1937 ) 日中戦争勃発。「獣医手制度」発足昭和 14 年( 1939 ) 鹿児島高等農林学校に獣医学科設置

山口農学校獣医畜産科が獣医科となる

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1873 年(明治 6 年) 朝鮮半島からの輸入牛で発生1902 年 牛疫ウイルス発見(パスツール研究所の M. Nicolle)1911 年 釜山・牛疫血清製造所を設置 耐過牛の➜血清1918 年 蠣崎(かきざき)千晴博士が世界初のワクチン開発(不活化)1922 年 日本で撲滅 韓国・中国国境、台湾での➜免疫地帯構築1941 年 中村稕治博士がにウサギ順化生ワクチン( 300 代継代)開発1953 年 ニワトリ胎児順化生ワクチン(中村稕治) ➜ 中国、カンボジア、タイ、ベトナムでの免疫地帯1962 年 牛腎臓細胞培養生ワクチン( W. Plowright) 1990 年代 山内一也博士が耐熱性組み換えワクチン開発。弱毒天然痘ワクチン株に牛疫ウイルスH遺伝子を導入

アジアでの牛疫撲滅:韓国、台湾、中国、カンボジア、タイ、ベトナム

牛瘟(牛疫)撲滅記念碑台湾家畜衛生研究所

植民地化や戦争という忌まわしいこともあったが、牛疫撲滅の功績は残されている。

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牛疫撲滅作戦アフリカ( 1987

~ )西アジア (1989

~ )インド( 1990~ )

南アジア (1992~ )

FAO 世界的牛疫根絶計画( 1994)

:発生国

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欧州では 1920 年に、ブラジル経由でベルギーに輸入されたインドの zebu 牛が原因となって牛疫が全域に広がり、その制御における国際協力の必要性が獣医学国際会議において決議され、 1924 年の国際獣疫事務局( OIE )設立を導く契機となった。日本は 1930 年に加盟。

1945 年に国際連合が設立されて以降、 OIE は国際連合食糧農業機関 (FAO) と連携して家畜伝染病の制御と根絶に関 する国際的枠組みを作ってきた。アフリカやアジアを中心に猛威を振るっていた牛疫を制御するための国際協力が行われてきたが、 1994 年に「牛疫根絶世界計画( GREP )」がスタートした。

2011 年 6 月 28 日 牛疫根絶宣言

「 1980 年代に、 FAO 動物衛生課長を務めていた小澤義博博士は、牛疫根絶の社会経済的利益は発生時対策の費用を遥かに上回ると主張し続けた」

FAO: Faces behind rinderpest eradication

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関税引き上げ貿易数量制限為替制限

1930 年代の世界不況 自国の産業保護

経済紛争の元となる貿易障壁をなくし、自由貿易を確保する基本原則( i)貿易制限措置の削減( ii)貿易の無差別待遇(最恵国待遇、内国民待遇)

第二次世界大戦

国際復興開発銀行( IBRD ; 1945)国際通貨基金( IMF ; 1947)

1944 年 ブレトン・ウッズ会議(米国)

ガット体制( GATT; 1948 ) 「関税及び貿易に関する一般協定」

1995 年 世界貿易機関( WTO ) ← ガット体制

1947 年 第 1回関税交渉妥結 → ガット採択

ケネディ・ラウンド( 1967) 、東京ラウンド( 1979 )妥結

世界戦争の回避策

「世界貿易機関を設立するマラケシュ協定(通称: WTO設立協定)」

「農業に関する協定」

GATT 第 20条 一般的例外: 動植物防疫に係る検疫等の措置「衛生植物検疫措置の適用に関する( SPS)協定」

食料の輸出入における安全性確保と関わる国際的枠組み

ウルグアイ・ラウンド( 1986 ~ 1994)妥結: 農産物貿易の原則自由化

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WTO体制と SPS協定

上級委員会

小委員会 [ パネル ]

世界貿易機関( WTO)

閣僚会議

貿易政策検討機関

一般理事会

紛争解決機関

WTO組織図

ヒトの入国、動物、植物および食品の輸入時に、「検疫」が実施されるが、その基準は?

様々な物資が国際流通しており、それらの国際取引上のトラブルを解消するための組織

◆  食料の国際取引における衛生基準

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危害因子についての国の衛生基準

A 国B 国

C 国 D 国

非関税障壁( WTO訴訟)

E 国

国際基準

自由貿易の枠組み( WTO)と衛生基準の関係概念図衛生および食物検疫措置の適用に関する 協定( SPS協定)貿易の技術的障壁に関する協定( TBT協定)

コーデックス委員会国際獣疫事務局( OIE)

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アジアアフリカヨーロッパラテンアメリカ・カリブ海近東北アメリカ・南西太平洋

コーデックス委員会( FAO/WHO 合同食品規格委員会)

一般問題部会( 9)

個別食品部会( 11)

特別部会( 2)

地域調整部会( 6)

一般原則食品衛生食品表示分析・サンプリング食品輸出入検査証明制度食品添加物・汚染物質栄養・特殊用途食品残留農薬部会残留動物用医 薬品

乳及び乳製品食肉・食鳥肉衛生魚類・水産製品生鮮果実・野菜加工果実・野菜油脂〔ココア製品・チョコレート〕〔糖類〕〔穀物・豆類〕〔植物タンパク質〕〔ナチュラル・ミネラル・ウォーター〕

果実・野菜ジュース動物用飼 料

( ):部会数、 〔 〕:休会中

執行委員会 事務局

コーデックス委員会の組織図

専門家会議食品添加物(JEC

FA)残留農薬(JMP

R)

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危害( Hazard)とリスク( Risk)

 「危害を減らすこととリスクを減らすことの関係を理解することは、適切な食品の安全性制御を発展させる上でとくに重要である。 不幸なことに、食品について『ゼロ・リスク』のような事態はありえない(その他の何についても言えることだが)。」

 「危害とは、ヒトに障害を起す可能性のある食品の、生物学的、化学的、あるいは物理学的因子、もしくは状態をいう。 他方、リスクとは、食品中の危害の結果として起こる、暴露集団の健康に対する悪影響の発生確率と重篤度の推定値である。」

「食品の品質と安全性システム」FAO: Food Quality and Safety Systems - A Training Manual on Food Hygiene

and the Hazard Analysis and Critical Control Point (HACCP) System. 1998

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用量(摂取量)

健康への悪影響

LOAEL最小有害作用濃度

NOAEL無有害作用濃度

●●

閾値がある化学物質

閾値がない化学物質 栄養素

化学物質の用量・反応関係

●●●

WHO 2000 :人間と環境の衛生に係る化学的危害物質( Hazardous chemicals in human and environmental health)

分かりやすい安全性の考え方

薬効

中毒量

致死量全てのものは毒である。毒でないものはない。適正な用量が毒と薬を分ける。

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1.4 本のタバコ 癌、心疾患喫煙者と 2ヶ月生活 癌、心疾患

ピーナッツバターをスプーン 40杯アフラトキシン B による肝癌

マイアミの飲料水を 1 年間飲用 クロロホルムによる癌木炭で焼いたステーキ 100枚の摂取 ベンゾピレンによる癌500ml のワイン 肝硬変ニューヨークやボストンでの 2 日間滞 在 大気汚染5分間のカヌー乗船 偶発事故自転車で 10マイル( 16km )走行 偶発事故自動車で 300マイル( 483km )走行 偶発事故ジェット機で 6000マイル( 9654km )飛行 宇宙線による癌良心的病院で 1枚の胸部 X線写真撮影 照射による癌

表 12.  死亡の機会を 0.000001増やすリスク

「表 12 は、 Wilson が死亡の機会が 100 万に 1 人の割合で増えると推定したリスクの一覧であり、多くの場合それらは許容できるリスクと考えられ、非常に低い確率で起きる事項についての事実認識を人々が習得する手助けとして有用で あろう。しかし、健康と福祉に対する様々な脅威を確率事象として単純に受け止めない多くの人々がいることも示唆されている。」 国際化学物質安全性計画( ICPS )

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国際獣疫事務局( OIE)総会

理事会

事務局長

専門委員会 地域委員会

連携センター標準研究所

特別委員会作業部会

地域代表事務所

最低年一回開催(例年 5月、パリ)

事務所

総会議長、副議長、前議長、地域 6名

6名の専門家で構成される4つの 委員会

フランスの Dr. Bernard Vallat

2 年に一度地域総会を開催

(1)陸生動物衛生規約委員会(2) 水生動物衛生規約委員会(3) 動物疾病科学委員会(4) 生物基準委員会

(1) 野生動物(2) 動物福祉(3) 食品安全

特定分野の専門的支援

診断方法・基準の助言、標準株・試薬の維持 アフリカ、アメリカ、アジア・太平

洋、東ヨーロッパ、中東

2012 年 5月総会で、アジア・太平洋地域委員会議長、日本の首席獣医官( CVO: Chief Veterinary Officer)である川島農林水産省動物衛生課長が理事に選出された。

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衛生植物検疫措置の適用に関する 協定( SPS協定)

第五条 リスク査定および衛生植物検疫上の適切な保護水準の決定1.  加盟国は、関連国際機関が作成したリスク査定の方法を考慮しつつ、自国の衛生植物検疫措置が、人、動物又は植物の生命又は健康に対するリスクに関し、状況に適切なものとして、査定に基づくことを確保しなければならない。2.  リスク査定において、加盟国は、入手可能な科学的証拠、関連する生産工程と生産方法、関連する法的検査、試料採取と検査方法、特定の疾病または有害動植物の発生状況、有害動植物や疾病の清浄地域の存在、関連する生態学的または環境の状況、ならびに、検疫やその他の措置を考慮しなければならない。5.  人の生命または健康、動物および植物の生命または健康へのリスクに対する衛生植物検疫の適切な保護水準の概念の適用における整合性を図るため、各加盟国は、様々な状況において適切と認められる水準について恣意的または不当な区別となることを避けなければならず、そのような区別が国際貿易における差別または偽装した制限となってはならない。

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陸生動物衛生規約( Terrestrial Animal Health Code()

第 1巻: 総則第 1 部 動物疾病の診断、発生動向調査および通知   1.1章 疾病と疫学情報の通知  1.2章 疾病の侵入、感染および蔓延の基準 と OIEリスト  1.3章  OIEリスト疾病の公定および代替の診断試験   1.4章 動物衛生の発生動向調査  1.5章 動物疾病媒介性昆虫の発生動向調査  1.6章 清浄化宣言の手順と OIE による公式認定第 2 部 リスク解析 第 3 部 獣医療組織の品質 第 4 部 総括的勧告: 疾病の予防と制御第 5 部 貿易施策、輸入/輸出手順および獣医療証明書第 6 部 獣医公衆衛生第 7部 動物福祉

国際的流行の危険性が高く、経済的被害が

大きいか、人畜共通で社会的影響が大きい

疾病をリスト疾病と定めている。

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第 8 部 多種動物  : 16章 16疾病  炭疽、オーエスキー病 、ブルータング 、エキノコッカス症/包虫症 、口蹄疫 、心水病 、日本脳炎、新世界ラセンウジバエ、ヨーネ病 、狂犬病、リフトバレー熱、牛疫、旋毛虫症、野兎病、水疱性口内炎、西ナイル熱

第 9 部 蜜蜂  :  6疾病第 10 部 家禽   :  9疾病第 11 部 牛  :  14疾病第 12 部 馬  :  11疾病第 13 部 兎  :  2疾病第 14部 綿山羊  :  10疾病第 15部 豚  :  5疾病

2007 年改定までは

OIEリスト A : 伝播が速く、国境を越えて流行し、社会的・経済的及び公衆衛生上特に深刻な事態を招くと同時に、家畜・畜産物の国際防疫にとっても重要な疾病。発生の都度 OIEへ報告。

OIEリスト B : 国内的に社会的・経済的及び公衆衛生上重要で、かつ家畜・畜産物の国際防疫にとって重要な疾病。   年 1回 OIEへ報告。

第 2巻:  OIEリスト疾病および国際貿易において重要な疾病に適用可能な勧告

OIEリスト A : 牛疫、牛肺疫、口蹄疫、ブルータング、ランピースキン病、リフトバレー熱、水胞性口炎、豚コレラ、豚水胞病、アフリカ豚コレラ、アフリカ馬疫、羊痘・山羊痘、小反芻獣疫、ニューカッスル病、家きんペスト、

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第 5.5章 口蹄疫8.5.1条 緒言

国際陸生動物衛生規約において、口蹄疫( FMD )の潜伏期間は 14 日とする。

本章において、反芻動物にはラクダ科の動物(ヒトコブラクダを除く)を含む。

国際貿易のため、本章は FMDV による臨床徴候の発現のみならず、臨床徴候が発現していない FMDV感染についても取り上げる。

8.5.2条 ワクチン 接種 が行われていない口蹄疫清浄国1.  定期的および迅速な動物疾病報告の記録を保持する。2.  次 の事項を明言した宣言書を OIE に送付する。   a.  過去 12ヶ月間に口蹄疫の発生がなかった。   b.  過去 12ヶ月間に FMDV感染の証拠が全く見つからな

かった。   c.  過去 12ヶ月間に口蹄疫ワクチン 接種 を行っていない。   d. ワクチン 接種 を中止して以降、ワクチン 接種 動物を全

く入れていない。3.  以下の事項について文書化された証拠を提出する。

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陸棲動物の診断検査とワクチンの手引書Manual of Diagnostic Tests and Vaccines for Terrestrial Animals

第 1 部  概要 第 1.1章  序章第 1項  診断用材料の収集と輸送第 2項  獣医微生物試験室および動物施設の生物学的安全性と生物学的防犯第 3項  獣医療試験室における品質管理第 4項  感染症診断検査の検証の原則第 5項  感染症診断のための PCR法の検証と品質管理第 6項  細菌の感受性試験の方法第 7項  感染症診断とワクチン開発におけるバイオテクノロジー( 2009 年 3月に採択されたナノテクノロジーを含む)第 8項  動物用ワク チン生産の原則第 9項  生物材料の無菌性と清浄性のための検査第 10項  ワクチン貯蔵所のための国際基準の指針第 11項  動物用生物 製剤の国際規則に関する公的機関の役割

第 2 部は、 OIEリスト疾病のそれぞれについての検査法

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OIE 基準に準拠し、国内の衛生状態を考慮して定められている。家畜伝染病予防法 家畜の監視伝染病

届出伝染病

家畜伝染病

新疾病

24種類:伝播力が強く、治療・予防が難しく、被害がとくに大きい

71種類:家畜伝染病よりも被害が軽く、殺処分はされない

既存の疾病と病状又は治療の結果が明らかに異なる

病性鑑定指針 診断・検査技術を全国的に統一し、検査精度を管理する

家畜防疫対策要綱2  防疫対策の基本的な推進方向   (1)  事前対応型の防疫体制の構築   (2)  危機管理の観点に立った迅速かつ的確な対応   (3)  国及び都道府県の果たすべき役割   (4)  家畜の飼養者等の果たすべき役割   (5)  家畜の伝染性疾病対策における国際協力3  防疫推進体制の整備   (1)  情報伝達体制の強化   (2)  病性鑑定実施体制の強化

獣医学を学ぶ動機は

様々あるだろうが、安

全で良質のタンパク質

を供給する畜産の振興

を図ることが最も期待

されている。「伝染

病」だけでなく、さら

に多くの「平病」があ

る。

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判定は、ウイルス分離、血清学的検査の総合による。

家畜保健衛生所

(発熱時血液)

(血清)

牛流行熱の検査チャート( 1) 疫学調査 ( 2) 臨床検査

( 3) 血液検査

( 4) 剖検

( 5) 病理組織学的検査

( 6) ウイルス学的検査

(ウイルス分離試験)

( 7) 血清学的検査

(中和試験)

動物衛生研究所

判定

(+) (ー)

(+) (ー)

(+) (ー)

(+) (ー)

病性鑑定指針 農水省消費安全局

スクリーニング:見落とすことなく疑わしい症例を拾い上げる。偽陽性が多くなる。

確定診断:類似疾病との鑑別を行う。

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動物検疫所: 海外病の侵入防止成田支所中部空港支所関西空港支所神戸支所門司支所  鹿児島空港出張所 沖縄支所

● 家畜伝染病予防法 ● 狂犬病予防法 ● 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 (感染症法)

輸出入の家畜衛生条件

各国における伝染病の発生( OIEへの通知)に対応するため、国別、動物種別に輸入のための衛生条件が公示されている。

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「 FAO 、 OIE 、 WHO 、インフルエンザ連携国連機構、 UNICEF 、世界銀行」が 2008 年に合同で打ち出した、動物・人間・生態系の接 点における感染症のリスクを低減するための戦略的枠組み。

世界は一つ、健康は一つ( One World, One Health)

越境性疾病: 国境を越えて蔓延する人、家畜、動物の伝染病。

開発新興感染症: これまで知られていない新疾病。人、家畜、動物の 接 点で発生。

野生動物の間に存在していた病原体が家畜や人

に感染し、

新たな病原体に進化

人間の生活圏

野生動物が暮らす

 土地と水の使用に 関 する決定が健康に対して実質的で密接 な 関 係を持っており、生態系の回復力の変化および病気の出現と拡大の様相の変化が現われる。 地球規模での病気の予防、広域調査、定期検査、制御、および緩和を図るべきである。

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新たに確認または大陸を超えたウイルス性疾病

19571959196719691976197719811991199319941994199719981999 2003200320032009

ネズミネズミ?マストミスオオコウモリ?ヒツジ、ウシなどチンパンジーネズミネズミネズミ?オオコウモリカモオオコウモリ野鳥キクガシラコウモリ齧歯類カモ人・豚・鳥

アルゼンチン出血熱ボリビア出血熱マールブルグ病ラッサ熱エボラ出血熱リフトバレー熱エイズベネズエラ出血熱ハンタウイルス肺症候群ブラジル出血熱ヘンドラウイルス病高病原性鳥インフルエンザ H5N1ニパウイルス病西ナイル熱(大陸移動)重症急性呼吸器症候群( SARS)サル痘(大陸移動)高病原性鳥インフルエンザ H5N1新型インフルエンザ H1N1

アルゼンチンブラジルドイツナイジェリアザイールアフリカアフリカベネズエラ米国ブラジルオーストラリア香港マレーシア米国中国米国全世界メキシコ

疾病名 自然宿主 初発国

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エボラ出血熱: 現時点で、致命率が最も高い病気年 国 ウイルス型 症例数 死亡数 致命率 (%)

2011200820072007200520042003

2001-22001-22000199619961996199419941979197719761976

ウガンダコンゴ

ウガンダコンゴコンゴスーダンコンゴコンゴガボン

ウガンダ南アフリカガボンコンゴ

コートジボワールガボンスーダンコンゴスーダンコンゴ

SudanZaire

Bundibugyo

ZaireZaireSudanZaireZaireZaireSudanZaireZaireZaireIvory CoastZaireSudanZaireSudanZaire

13214926412171785965425191315152341

284318

11437137107

15744532241

662540

31221

151280

10044257183418875825310072810

60651005388

計 2,299

1,490

65現 在 も原因ウイルスが潜む野生動物 種 は特定されていない。

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ウガンダにおける発生 2012 年

ウガンダ保健省は、エボラ出血熱による 16 名の死亡を含め 53 名の疑い症例に達すると報告。 協力組織: WHO 、米国疾病制御予防センター( CDC )、国境なき医師団( MSF )

コンゴ民主共和国での発生

8 月 28 日現在 、全部で 24名(濃厚 6 名、確認 6 名、疑い 12 名)の患者と 11 名の死亡が Orientale 地区から報告された。死亡例には 3 名の医療従事者が含まれている。この発生はウガンダの事例とは関連 していない。

自分が生きることは、他の人の役に立つことで支えられる

国境なき医師団( MSF )

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H2N8

H3N8

H1N1

H2N2

H3N2

H1N1

1890

1900

1910

1920

1930

1940

1950

1860

1970

1980

1990

2000

2010

スペイン風邪

香港風邪

ソ連風邪 H1N1

2009

H5N7HPAI

インフルエンザ流行史スペイン風邪( 1918 ~ 19 年):世界の約 50%( 6億人)が感染し、 2,000万人以上が死亡した。日本でも半数( 2,400万人)が感染し、 30万人以上の死亡者が出た。ウイルス分離:豚で 1930 年、ヒトで1933 年アジア風邪( 1957 年):船が主な輸送機関だ った時代に、わずか 7ヶ月間で世界に広がった。季節性インフルエンザ:香港風邪( 1968年)とソ連風邪( 1977 年)を指す。高病原性鳥インフルエンザ HPAI H5N1 :香港で 1997 年に発生し、 2003から世界各地の家禽と野鳥に広がっている。

新型インフルエンザ H1N1 2009 :   豚・鳥・ヒトのウイルス遺伝子   の融合体、メキシコで発生

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ウイルスの構造と受容体ウイルス表面にあるヘマグルチニン(赤血球凝集素、 16 種類)とノイラミニダーゼ( 9 種類)の組合せで型別する。これらの糖蛋白は変異が大きく、インフルエンザの 種類 が多い要因となっている。ウイルス粒子成分を規定している RNA遺伝子は 8 文節からなる。

100nm

ヒト細胞 トリ細胞

Α2-6 レセプター

Α2-3 レセプター

トリ ウイルス ヒト ウイルス受 容体(レセプター)は鍵と鍵穴の 関 係で、一致したウイルスだけが細胞内に侵入し、増殖できる。不一致であれば感染しない。

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インフルエンザ・ウイルスの流行模式

ウイルスの H型(αレセプター対応 )

動物細胞αレセプター

ヒトα2-6

H1 、 H2 、 H3(α2-6)

ブタα2-3 、 α2-6

H1 、 H3(α2-3 、 α2-6)

ニワトリα2-3

H5 、 H7(α2-3)

ウマα2-3

H3 、 H7(α2-3)

水禽類(カモなど)α2-3

矢印の形と太さは、感染の頻度を示す

H1~H16(α2-3)

「種の壁」を越えることは、頻繁に起きるものではないが・・・・

通常は同一動物種 内での流行H5N1

α2-6 、 α2-3

肺には α2-3 が存在する

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スペイン風邪

2000万人以上の死亡は、戦争による死亡数をはるかに上回る。単年当りの死亡数は中世のペスト以上であり、史上最悪の伝染病であった。

中外製薬

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年少者と高齢者の死亡率が高かった従来とは異なり、スペイン風邪では 20 ~ 40歳の健康成人が死亡者の半数を占めた。働き手を失った家族は、その後も苦しい生活を強いられた。死亡者の多くは、細菌性肺炎を併発し、1週間以内に死亡したとされる。

この時ウイルスは未だ発見されていなかったのでワクチンはなく、細菌に有効な抗生物質も発見されていなかった。これらのことが、社会活動を止められない青壮年の被害を高めた側面がある。後年の研究でトリウイルスに由来することが判 った。

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世界流行インフルエンザ H1N1 2009 の誕生古典的ブタ H1N1

新型H1N1 2009

季節性ヒト H3N2

ユーラシアブタ H1N1

× ⇒

2 種 混合H3N2

3 種 混合H1N1

97-98

トリH?N?

3 種 混合H1N2

× ⇒98

3 種 混合H3N2

古典的ブタ H1N1

×

⇒2000 -⇒09

×

PB2PB1PAHANPNAMPNS

PB2PB1PAHANPNAMPNS

北アメリカ地域で ヒト⇔ブタ 軽症

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~5/2

~5/1

6

~5/3

0

~6/1

3

~6/2

7

~7/1

1

~7/2

5

~8/8

~8/2

2

~9/5

~9/1

9

~10/3

~10/1

7

~11/2

~11/1

6

~11/3

0

~12/1

4

~12/2

8

~1/1

1

~1/2

5

~2/7

~2/2

1

~3/7

~3/2

1

~4/4

~4/1

8

~5/2

0

200

400

600

800

1000

1200

1400 新型インフルエンザ 2009 による週間死亡数の推移(全世界)

2009~ 5/2

2010~ 5/2

2009~ 12/21

米国とメキシコで新型インフルエンザ A/H1N1 感が発生していることが 4月 24日に発表された。 当初伝えられた致命率は 10%と高く、大きな衝撃を与えた。 WHO は 4月 28日に 新型インフルエンザ警戒レベルを「 3 」から「 4 」に引き上げ、 翌日には「 5 」へ、 6月 12日には「 6 」へと引き上げた。その後、致命率は 0.01%以下と判明したが、南半球が冬を迎えウイルスが

強毒化する懸念が表明された。しかし、週間死亡数は、 12月 21日の 1176名をピークに減少した。

2010 年 4月末までに 1 万 8000名が亡くなったが、これまでの季節性インフルエンザによる死亡数より遥かに少なかった。

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世界流行インフルエンザウイルス誕生を防ぐために1997 年香港 高病原性鳥インフルエンザ( HPAI ) H5N1 の人への感染5 月に 3歳男児が原因不明で死亡したのを皮切りに、年末までに 18 人が感染し、 6 人が死亡した(致命率 33%)。  8 月にトリウイルスだと 判明 したが、ヒト型に変異することなく直 接感染 したことの謎が残った。それまでは、養鶏場などでヒトが稀に直 接感染 することがあっても軽症で済んでいた。2003 年  HPAI H5N1 の再発11 月に、中国の北京で 24歳男性の死亡例が発生した。同時期に韓国で家禽にH5N1 が初めて確認され、 発生は 2004年 9 月まで続いた。さらに、発生は 東 南アジアに広がった。

2005 年 4 月  HPAI H5N1 の世界流行何十万羽もの渡り鳥が集まる中国中央の青海湖で野鳥が死に始めた。その後の数週間で様々な 種 の 6,345羽の鳥が死亡した。これは、高病原性鳥インフルエンザが野鳥の大量死を引起した最初の報告事例である。水禽類は H1 ~H16 の全ての型に感染するが、軽症でほとんど死なないとされてきた。コブハクチョウなどの大型水禽類が世界各地に渡り、 H5N1 を広げ、家禽での流行を引起すことになった。

渡りのルート現時点で、ヒト・ヒト感染は起きていない!ヒト型 H5N1 ウイルスは未発

生!

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水禽類とは、「水掻き」のある鳥類カモ等の水禽類のインフルエンザは、一般的に消化器系感染であり、ウイルス

は糞便中に排出される。すなわち、池や湖は H5N1 ウイルスで汚染されている。

家畜化 家畜化

マガモ アヒル 雁(ガン、カリ) ガチョウ

アジアの伝統的稲作では、水田にアヒルを放して除草作業などを手伝わせている。 アヒルが放たれている水田

地帯で HPAI が発生している。これが野鳥の鴨や雁などと自然交配を含めた濃厚接 触を重ねて、春には北方の繁殖地へ渡っていく。シベリアの繁殖地で別の集団に感染が広がり、それらのカモ類が秋になると日本や韓国に渡ってきてニワトリへの感染源となる。こうした生態系の営みを変えられるか?

FAO : 鳥インフルエンザの理解

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2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 20120

2,000,000

4,000,000

6,000,000

8,000,000

10,000,000

12,000,000

14,000,000

16,000,000

18,000,000

20,000,000

淘汰数死亡数

2012 年 1~ 8月の発生状況

家禽における H5N1 の発生

:継続中(家畜):終息(家畜):終息(野生動物):情報なし

死亡して見つかった数は平均で約 1割であり、全群が殺処分されるのでこの 8 年間で 6,300万羽が犠牲になった。平均すると毎年 770万羽となる。命あるものを殺処分する心の痛み・・・

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2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 20120

20

40

60

80

100

120

死亡数生存数

高病原性鳥インフルエンザ H5N1のヒト感染状況 ( 2012 年 8 月 10 日現 在 )

患者数:  608名死者数:  359名致命率:  59%

患者数 死者数インドネシア 191 159

エジプト 168 60

ベトナム 123 61

中国 43 28

カンボジア 21 19

タイ 25 17

アゼルバイジャン 8 5

トルコ 12 4

その他 17 6

イラク、ラオス、パキスタン、ナイジェリア、バングラディッシュ、ミャンマー、ジブチ

あなたは、鶏と心中できますか?

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世界保健機関 ( WHO )の勧告● 病気になったか死亡した動物を調理したり、喫食してはいけない。それは非常に危険 である。● 流行地においては、自宅で食用と 殺してはならない。 冷蔵庫が普及しておらず、傷みやすい鶏肉は市場でと殺処理

 鼻や喉から H1N1 は感染せず、ホコリとともに大量のウイルスを吸込んで肺に達した場合にのみ感染する。アジアにおける H5N1発生の 8割

以上が庭先養鶏で起きている。国内発生が起きても、市販の鶏肉や卵を食べることによって感染することはない。

生鳥市場( wet market )

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2004 年 2月大分県九重町

2004 年 1月山口県阿東町

2004 年 2月京都府京丹波町

2007 年 1月宮 崎 県 (清武町・新富町・日向市)

2007 年 2月岡山県高梁市

2010 年 10月北海道稚内市大沼カモの糞

2007 年 3月熊本県相良村

クマタカ

2008 年 5月北海道佐呂間町オオハクチョウ

2008 年 5月青森県十和田市オオハクチョウ

2008 年 4月秋田県小坂町オオハクチョウ

2004 年 3月京都府・大阪府ハシブトガラス

2008 年 5月北海道別海町オオハクチョウ

2005~ 2006 年 H5N2

茨城県(2ヶ所)2005~ 2006 年 H5N2

埼玉県(1ヶ所)2009 年  H7N6愛知県豊橋市 ( ウズ

ラ )

日本における鳥イ

ンフルエン

ザの発生状況

20110-11 年には 10月の北海道に始まり全国で野鳥や公園の白鳥が感染し、家禽では 9県 24 農場(宮崎 13件、千葉、愛知、三重で各 2件、島根、奈良、和歌山、大分、鹿児島で 各 1件)。

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伝染病発生のリスク査定、探知、および対処の方法論: リスク解析通常の感染症と違って、伝染病は家畜生産

に壊滅的打撃を与え、さらに、人畜共通感染症の場合には家畜生産の問題よりも公衆衛生上の問題が遥かに大きい。

家畜伝染病の脅威に対して、獣医療は何を為すべきか、何ができるのか・・・。それ以前 に、伝染病の「脅威」の大きさと、その家畜生産ならびに公衆衛生上の影響の大きさを見定める必要があるが、その方法論は?

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FDA/APHIS: Risk Analysis Overview

 動植物検疫局( APHIS )のリスク解析は、貿易上の安全性を確保するための動植物検疫局の意思決定者に対して勧告を行う。リスク解析の手順は、動植物検疫局の貿易上の協力者に対して公開されている。このことは、 SPS協定に基づいて、全ての情報がリスク解析の過程を通して動植物検疫局の貿易上の協力者に共有されていることを意 味 する。

 リスク解析は、 次 の三つの手順を含んでいる。

1. リスク査定: 生物学的リスクおよびその潜 在 的帰結についての科学的評価

2. リスク管理: リスクを減らすための適切な措置を決定する手順

3. リスクコミュニケーション: リスク情報の共有査定 管理

コミュニケーション危害の特定

危害の特性解明暴露査定

リスクの特性解明

リスクの評価管理措置選択肢の査定措置選択肢の実行

モニタリングと再吟味

リスクの特性に基づいて、数種の管理措置選択肢を提示する

透明性の確保

 管理措置選択肢を評価して決定・実行する

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リスク査定では、何を行い、何を行ってはならないか リスク査定の概念をより良く理解するために、何を行い、何を行ってはならないかについて考えることが役に立つ。

<リスク査定で行うこと>● 有害動物や疾病が侵入、定着、拡大する可能性の推定● 生物学的および経済的帰結の推定● 有害動物や疾病による被害の可能性の推定● 不確実性の表明: 病原体、人為的過失、使用した方 法● 様々な緩和策と 係わるリスクの推定● 危害とその帰結に関する組織的、系統的な情報提供● 政策決定者に対して作成される勧告の根拠の明示

<リスク査定で行ってはならないこと>● 許容できるリスク水準の設定● 有害動物が侵入した場合、それが定着した場合、被害の内容を確定的に記載する● 政策の決定。それは政策決定者の仕事である。● 政策決定に情報提供するのみ

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誰しも生活費等の収入を得るために働いている。それは、個人、地域社会、国においても同じであり、ボランティアで社会が回れば費用対 効果の問題は発生しない。

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通常の疾病に対してどの選択肢を選ぶ

か?

判断基準は、農家の利益

利益:  0.8x(300-50)=200損益:  0.2x(50+20)=14

利益ー損益 =186

利益:  0.4x300=120損益:  0.6x20=12

利益ー損益 =108

ワクチン等の衛生対

策をいやがる農家を

説得できますか?

小動物病院に設備投

資する際に、何を判

断根拠としますか?

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表 4. 食品衛生規則: 費用と 便益に関する証拠の要約年 費用 便益(年 3%)1 13,200万ポンド( 264億円) 4,500万ポンド( 90億円)2 9,600万ポンド( 192億円) 9,000万ポンド( 180億円)3 9,600万ポンド( 192億円) 13,600万ポンド( 272億円)4 9,600万ポンド( 192億円) 18,100万ポンド( 352億円)5 9,600万ポンド( 192億円) 22,600万ポンド( 456億円)

6 ~ 10 9,600万ポンド( 192億円) 22,600万ポンド( 456億円)

註1: 初年度の費用は 食品安全管理手順を実施する立ち上げ資金のため高額となるが、その費用は 1度限りで次年度以降は少なくなる。註 2 : 便益は、国内の食品媒介性疾患が 5 年目までは年 3%減少し、その後は一定であるという仮定で計算した。

EU食品衛生規則を統合する提案に対する全面的な法令影響 査定

費用:  HACCP を導入するための経費。設備投資、管理システム構築、重要管理点のモニタリング、記録、人員の教育・訓練便益: 食中毒事故発生時の医療費、休業費、死亡補償や生産活動停止費用が 節減される

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日本では「安全安心」という呪文を唱えれば、全てが解決するかのような風潮にあるが、「不安」を叫ぶ多くの人は、バーゲン製品に群がり、購買行動においては「安全性」を全く無視する。「台所の HACCP 」など言おうものなら、「生産者の回し者」と冷たい目で糾弾される。

生産、処理、加工、流通業者(これが一番悪徳)があって、一般消費者は食料を購入できるのであり、自分の子供達もそこで働いていることもあろう。自分の「利益?」だけを主張する「無知からくる不安」を適切な教育で正していかなければならない。

高病原性鳥インフルエンザが発生すると、「鶏肉や卵から感染することはありません」というキャンペーンを繰り返しているが、 100回繰り返せば終わるのか?  1万回繰り返さなければならないのか?

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世界保健機関( WHO)憲章 前文(抜粋)健康とは、病気ではないとか、弱っていないということでは

なく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たさされた状態にあることをいいます。

人 種 、宗教、政治信条や経済的・社会的条件によって差別されることなく、最高水準の健康に恵まれることは、 あらゆる人々にとっての基本的人権のひとつです。

世界中すべての人々が健康であることは、平和と安全を達成するための基礎であり、その成否は、個人と国家の 全面的な協力が得られるかどうかにかかっています。健康増進 や感染症対策の 進 み具合が国によって異なると、す

べての国に共通して危険が及ぶことになります。健康を完全に達成するためには、医学、心理学や 関連 する学

問の恩恵をすべての人々に広げることが不可欠です。一般の市民が確かな見解をもって積極的に協力することは、

人々の健康を向上させていくうえで最も重要なことです。

勉強する目的は?

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陸生動物衛生規約( Terrestrial Animal Health Code)

第 7部 動物福祉第 7.1.1章 動物福祉とは、生活している状態に動物がどのように対処しているかを意味する。動物が(科学的証拠によって示される)健康、快適、栄養良好 、安全で、固有の行動をとれ、さらに、痛み、恐怖、苦痛などの不快な状態に苦しんでいない場合に良好 な福祉状態にある。適切な動物福祉には、病気の予防と適切な獣医師の治療、保護

施設、管理と栄養、人道的な取扱いとと殺または殺処分が求められる。動物福祉は、動物の世話、動物の取扱い、人道的処置などのその他の用語によって表される動物の状態を指す。第 7.1.2章 動物福祉の指針第 7.1.3章 勧告の科学的根拠第 7.1.4章 家畜生産システムにおける動物福祉の一

般的原則伴侶動物のみならず、家畜、実験動物、野生動物を含めて適用される。

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地球の誕生: 約 46億年前 原始大気と原始海洋の誕生

1991年5月普賢岳の噴火

最初の生命体(原核生物)35億年前の最古の化石

なし 生物の光合成

石灰岩CaCO3

地下有機物(化石燃料)

0.03%ただし増加

二酸化炭素 CO2

酸素 O2

原始大気

大量

起源

原始地球から脱ガス

その後

縞状鉄鉱などの酸化物その後は大気中に蓄積成層圏のオゾンO3層

現在

21%

緑藻類などの真核生物10億年前

アオミドロ

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パスツールの実験  1862 年「生物は生物からしか生まれない」

大気中ガス濃度

3546

原始生物

光合成を行うラン藻類(シアノバクテリア)

27 10

緑藻類などの真核生物

5.1

脊椎動物の出現陸上植物の出現

4.4

脊椎動物の上陸

3.7

ほ乳類の出現

2.1人類の出現

500万年前

酸素O2

炭酸ガスCO2

大気と水に恵まれた地球で生命が誕生し進 化してきた

ダーウィンの著書  1859 年「種の起源」 進化論

地球にも寿命があり、地殻活動などの環境変化により絶滅した 種 もいる。人類は?

ミラーの実験 「化学進化」原始大気と放電でアミノ酸ができる

地球誕生

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高等生物: 動物界、植物界、菌界

古細菌

真性細菌

Procaryote原核生物

Eucaryote真核生物

ウイルスはエネルギー生産、蛋白合成に係わる酵素系を欠如しており、この図には含まれない

寄生虫

生物の系統発生学的位置病原体

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真核生物、単細胞

原核生物、単細胞モネラ界

原生生物界

動物界 菌界 植物界

光合成

吸収

消化

分類学に基づいて動物界と植物界に大別したのはリンネ( 1707 - 1778)であったが、ヘッケルが原生生物界を加えた系統発生図を描き( 3 界説) 、ホイタッカー( 1920 - 1980)は原生生物界にモネラ界を、植物界に菌界を付け加えて「 5 界説」を唱えた( 1959)。

生物の系統発生図

真核生物、多細胞

生物の分類

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分解者

エネルギー(生態)ピラミッド

菌界

生産者

一次消費者

二次消費者

植物界

動物界

微生物の菌類・細菌類などが中心。生産者や消費者の遺体や排出物の有機物を無機物に分解し、もとの環境に返す。

大地・大気・水

太陽

自分で栄養素を作る

光合成植物

生産者を直接食べる生物草食動物

一次消費者を食べる生物肉食動物

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肉眼

光学顕微鏡

電子顕微鏡

X線解析

濾過性病原体"contagium vivum fluidum" = soluble living germ

1031 年 ベルリン工科大学のクノールとルスカが開発

新技術の開発!

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科学

宗教

現実にある事象の解析と解決方法の提示日進月歩の世界

現実によって動く心の世界の解明と導き2000 年変わらぬ世界

自然科学生物学、医学、農学、工学、・・・

社会科学法学、経済学、・・・

人文科学歴史、心理学、文学、・・・

仏教仏陀釈迦牟尼の教え

キリスト教イエスの教え

イスラム教マホメットの教え

科学と宗教は車の両輪

世界観

生命観

生きる