13
11 回フランス日本語教育シンポジウム 2010 年フランス・リヨン 11ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Lyon France, 2010 54 ワークショップ「新しい日本語能力試験」報告 -ワークショップ・デザインの観点から- 近藤裕美子(パリ日本文化会館) 要旨 本稿は、新しい日本語能力試験をテーマに実施したワークショップについて、ワー クショップ・デザインの観点からまとめた報告書である。本ワークショップでは、情 報提供型の講義形式でなく、参加体験型の研修を目指した。このような形式の研修内 容に関して、ワークショップ後実施したアンケートの結果から参加者からある程度プ ラスの評価が得られたが、単なる日本語能力試験に関する説明に終始せず、実際の教 室活動・教育実践にまでどのように結び付けて研修をデザインしていくかが今後の課 題として挙げられる。 1. はじめに:本稿の位置づけ 本稿は、「第 11 回フランス日本語教育シンポジウム」で実施したワークショップ 「新しい日本語能力試験」についてまとめたものである。参加型のワークショップと いう性質上、本稿では、ワークショップで具体的に何を行ったか、そして参加者の反 応はどのようであったかにフォーカスをあてた報告書という形式をとることにする。 また、日本語能力試験(以下 JLPT)は 2010 年度 7 月の実施から改訂されたが 1 本ワークショップの JLPT についての記述は、上記シンポジウムが開催された 2010 5 月現在公開されている情報である。 JPLT の最新情報についてはホームページ 2 から入手できるので、JLPT に関する情報そのものよりは、むしろワークショップ・ デザインの観点から報告する。 1. ワークショップの概要 2.1.背景 JLPT 2010 年度の実施から改定されたこと、つまり N1-N5の 5 レベルになる、 課題遂行のためのコミュニケーション能力を測る試験として出題形式が変わるなど、 従来の JLPT から大きく変わったことは周知のとおりである。JLPT 改定に関する情報 は、公式ホームページで公開され、また改定のポイントをわかりやすくまとめたガイ ドブックや問題例集などもホームページ上から入手できるようになっている。これら は冊子の形でも発行されている。このように JLPT 改定に関しての情報は得ようと簡 単に得られる状況である。

ワークショップ「新しい日本語能力試験」報告 -ワーク …aejf.asso.fr/files/symposium_actes/2010_actes/2010P54Kondo.pdf · ワークショップ「新しい日本語能力試験

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: ワークショップ「新しい日本語能力試験」報告 -ワーク …aejf.asso.fr/files/symposium_actes/2010_actes/2010P54Kondo.pdf · ワークショップ「新しい日本語能力試験

第 11 回フランス日本語教育シンポジウム 2010 年フランス・リヨン

11ème  Symposium  sur  l’enseignement  du  japonais  en  France, Lyon France, 2010

54

ワークショップ「新しい日本語能力試験」報告 -ワークショップ・デザインの観点から-

近藤裕美子(パリ日本文化会館)

要旨

本稿は、新しい日本語能力試験をテーマに実施したワークショップについて、ワー

クショップ・デザインの観点からまとめた報告書である。本ワークショップでは、情

報提供型の講義形式でなく、参加体験型の研修を目指した。このような形式の研修内

容に関して、ワークショップ後実施したアンケートの結果から参加者からある程度プ

ラスの評価が得られたが、単なる日本語能力試験に関する説明に終始せず、実際の教

室活動・教育実践にまでどのように結び付けて研修をデザインしていくかが今後の課

題として挙げられる。

1. はじめに:本稿の位置づけ 本稿は、「第 11 回フランス日本語教育シンポジウム」で実施したワークショップ

「新しい日本語能力試験」についてまとめたものである。参加型のワークショップと

いう性質上、本稿では、ワークショップで具体的に何を行ったか、そして参加者の反

応はどのようであったかにフォーカスをあてた報告書という形式をとることにする。 また、日本語能力試験(以下 JLPT)は 2010 年度 7 月の実施から改訂されたが 1、

本ワークショップの JLPT についての記述は、上記シンポジウムが開催された 2010年 5 月現在公開されている情報である。 JPLT の最新情報についてはホームページ 2

から入手できるので、JLPT に関する情報そのものよりは、むしろワークショップ・

デザインの観点から報告する。

1. ワークショップの概要 2.1.背景 JLPT が 2010 年度の実施から改定されたこと、つまり N1-N5の 5 レベルになる、

課題遂行のためのコミュニケーション能力を測る試験として出題形式が変わるなど、

従来の JLPT から大きく変わったことは周知のとおりである。JLPT 改定に関する情報

は、公式ホームページで公開され、また改定のポイントをわかりやすくまとめたガイ

ドブックや問題例集などもホームページ上から入手できるようになっている。これら

は冊子の形でも発行されている。このように JLPT 改定に関しての情報は得ようと簡

単に得られる状況である。

Page 2: ワークショップ「新しい日本語能力試験」報告 -ワーク …aejf.asso.fr/files/symposium_actes/2010_actes/2010P54Kondo.pdf · ワークショップ「新しい日本語能力試験

第 11 回フランス日本語教育シンポジウム 2010 年フランス・リヨン

11ème  Symposium  sur  l’enseignement  du  japonais  en  France, Lyon France, 2010

55

実際、日本語教師、そして学習者の多くが 2010 年度の試験から JLPT が変わると

いうことは知っており、何か対策をとるべきだと考えてはいる。しかしながら、2010年 5 月の時点では、教師の多くが新 JLPT の概要の把握にとどまっており、具体的に

JLPT のどの部分がどのように新しくなるのかを正確に把握し、改定に対してどのよ

うに対応すべきなのかまでを考え、学習者の適切に説明したり対策講座を準備したり

できるほどの「準備ができている」とは、必ずしも言えないという状況であった。 そこで、新しい JLPT(以下、新試験)についてのワークショップを実施し、学習

者からの質問に対する答えを考える、実際に問題例集を解く体験をするなどの活動を

行った。そしてそれらの活動を通して参加者が少しでも新試験に関して理解を深め、

さらに学習者へ適切な説明し、実際の教授活動にまで活用できるようになることを目

指した。

2.2.ワークショップの時間と事前課題 ワークショップの時間は 60 分。 2.3.で触れる目標を達成するには時間が不十分で

あるので、時間短縮のため事前課題という形でフランス日本語教師会発行の「お便り」

57号 3 に記事の掲載をお願いた。その上で事前課題を行ったことを前提にワークシ

ョップを進めた。

2.3.ワークショップの目標 本ワークショップでは、以下の 3点を目標とし、参加者に提示した。

① 従来の試験と新試験の違いのポイントがわかる。 ② 新試験について学習者についてわかりやすく伝えることができる。学習者か

らの質問に答えることができる。 ③ 試験問題を分析し、新試験で測ろうとしているものを理解することができる。

⇒試験対策ができる 目標を「~ができる」という Can-do の形で設定したのは以下の理由による。本ワ

ークショップは、単なる新試験に関する情報提供に終始せず、各参加者が検収で得た

ものを現場に戻ってからの実践に結びつけること(学習者に新試験の情報を伝えるこ

と、JLPT 改定から各々の教育実践を振り返ること)を目指しており、そのためには

参加者に具体的にワークショップで何ができるようになる必要があるのかの認識が重

要であると考えたためである。

2.4.ワークショップ・デザイン上の工夫 質疑応答も含めて 1 時間という時間的制約と、会場が机が稼動できず階段席になっ

ている教室という物理的な制約からワークショップを実施するのに難しい状況であっ

たが、できるだけ参加者型になるよう心がけた。工夫した点は以下の 3 点である。

Page 3: ワークショップ「新しい日本語能力試験」報告 -ワーク …aejf.asso.fr/files/symposium_actes/2010_actes/2010P54Kondo.pdf · ワークショップ「新しい日本語能力試験

第 11 回フランス日本語教育シンポジウム 2010 年フランス・リヨン

11ème  Symposium  sur  l’enseignement  du  japonais  en  France, Lyon France, 2010

56

まず、2.2.で述べた事前課題提示の機会を利用し、新試験に関する質問を 10 項目用

意し、ワークショップの前半部分の変更点の概要説明では、その質問の答え合わせを

する形で進めた。 また、ワークショップのはじめと終わりに「JLPT に関してどのぐらい理解してい

るか、学習者に説明できる自信はどのぐらいあるか」を 10 点満点(0 が最低、10 が

最高)で記述してもらった。点数は各参加者の全くの主観でつけてもらった。これは

ワークショップの事前と事後に自己評価を行い、ワークショップの成果(自己評価の

点数の伸び)を実感してもらうことが目的であり、また、点数をさらに上げるにはど

うすればいいかという今後の課題への内省へとつなげる意図があった。 続くワークショップの後半部分では実際に試験問題を体験してもらった。これは、

教師である参加者が自ら問題をとき、他の教師仲間と感想や意見を共有することで、

出題形式の変更を理解し、学習者がどのように反応するか、現場でどのように対応し

たらいいのかを考えてもらうきっかけになることを期待したからである。 中野(2001)は、ワークショップの特徴として「参加」「体験」「相互作用」の 3 つ

をあげており、またワークショップとは参加者が主体的にかかわり、体験を通して気

づきが生まれ、それを分析、他者と共有することで学びを深めていく「参加体験型の

グループ学習」であるとしている。そこで本ワークショップでもできるだけ「参加体

験型」でグループ活動を取り入れたものになることを目指したが、時間的制約、会場

などの物理的制約があり、ワークショップの利点が活かしきれたとは言い難い。しか

しながら、そのような制約の中でも、一方向の情報伝達型に終始せず、参加者が体験

し、考えることを重視してワークショップになるよう留意した。

2. ワークショップの発表内容 3.1.ワークショップの構成 本ワークショップでは、「2.3.」で触れたように事前課題を提示し、その前提でワー

クショップを進めた。つまり、全体の構成としては事前課題と第 1 部~第 3 部の 4 部

からなる。以下、順に概要を説明する。

3.2.事前課題 ワークショップの時間を効率的に使うためと、一方的になりがちな新試験の変更点

についての説明の部分に関して参加者に主体的に関わってもらうために、新試験に関

する質問を 10 項目用意し(表1)、事前課題としてフランス日本語教師会の会報「お

便り」を通じて提示した。また各設問に対してガイドブックの中の参照ページを付し、

関心のある部分は事前にガイドブックに目を通してもらえるよう配慮した。

Page 4: ワークショップ「新しい日本語能力試験」報告 -ワーク …aejf.asso.fr/files/symposium_actes/2010_actes/2010P54Kondo.pdf · ワークショップ「新しい日本語能力試験

第 11 回フランス日本語教育シンポジウム 2010 年フランス・リヨン

11ème  Symposium  sur  l’enseignement  du  japonais  en  France, Lyon France, 2010

57

表 1「新試験に関する質問」

① 新試験のレベルはいくつありますか。

② N3 は、これまでの旧試験で考えるとどのくらいのレベルですか。

③ 新試験で測ろうとしている能力は何ですか。

④ N4 の試験科目はいくつありますか。N2 はどうですか。

⑤ 作文や会話の試験はありますか。

⑥ 試験時間の長さはこれまでの試験と同じですか。

⑦ 新試験と旧試験とでは得点の出し方がどのように変わりますか。

⑧ 試験の結果はどのように提示されますか。 (旧試験では、文字・語彙 100 点、文法・読解 200 点、聴解 100 点でした。

新試験ではどうですか。)

⑨ 聴解を受験しなくても、他の科目が満点だったら合格できますか。

⑩ N3 に合格する人は日本語でどんなことができると考えられますか。

3.3. 第 1 部 第 1 部では、事前課題として提示した 1~10 の質問の答え合わせをする形で、新試

験の改定のポイント5つをまとめた。 改定のポイント①:4 レベルから 5レベルになり、名称も N1~N5 (従来は 1 級

~3 級)に変わる。(N3 が新設のレベル。) 改定のポイント②:課題遂行のためのコミュニケーション能力を測る。 改定のポイント③:日本語を使ってどんなことができるかを具体的に示した Can- do リストが提示される。 改定のポイント④:試験科目(区分)や試験時間が変わる。 改定のポイント⑤:得点の算出方法が変わり、尺度得点で測る。

3.4. 第 2 部 第 2 部は、JLPT ホームページの FAQ(よくある質問)を参考に、実際にフランス

で学習者が教師に聞きそうな質問で、かつ参加者である教師も関心を持っていると思

われるものを 5 つ選び(表 3)、このような質問をされたらどのように答えるかをグ

ループで考えてもらった。本来ならば、ここで学習者にどのような質問が出るかをグ

ループで予想し、アドバイスの方法を考えるなどの時間を確保できればよかったが、

時間の関係で質問の答えを考えるだけになってしまった。

Page 5: ワークショップ「新しい日本語能力試験」報告 -ワーク …aejf.asso.fr/files/symposium_actes/2010_actes/2010P54Kondo.pdf · ワークショップ「新しい日本語能力試験

第 11 回フランス日本語教育シンポジウム 2010 年フランス・リヨン

11ème  Symposium  sur  l’enseignement  du  japonais  en  France, Lyon France, 2010

58

表 2「こんな時どう答える? 予想される学習者からの質問リスト」

質問

① 2009 年度の試験で 3 級を受けた学習者に、「今年も試験を受けたいが、ど

のレベルを受けたらいいかわからない」と相談されました。どのレベルの

受験をすすめますか。

② 学習者に N4の出題範囲の語彙リストと漢字リストがほしいといわれまし

た。どうしますか。

③ 4級を受けたことがある学習者に、「4 級は 400 点満点(「文字・語彙」100点、「文法・読解」200 点、「聴解」100 点)のうち、240 点以上が合格だっ

たが、新しい試験はどうなるのか?」と聞かれました。どう答えますか。

④ 学習者に「去年 4 級の試験に合格したが、それは無効になるのか」と聞か

れました。どう答えますか。

⑤ 学習者に「来年(2011 年)に受験を考えているので、2010 年の試験の問題

集はいつ出版されるのか?」と聞かれました。どう答えますか。

3.5. 第 3 部 第 3 部では、新試験では問題形式がどのように変わったのかを取り上げた。まず、

新試験の科目「言語形式(文字・語彙)」「言語形式(文法)」「読解」「聴解」それぞ

れについて、問題構成全体を見ながらどのような問題形式が新しく加わったか、ある

いは変更になったかを確認した 4。次に変更点をもう一度概観し(表 3)、その後その

変更点について問題を実際に解きながら、どのように変わったかを体験してもらうと

いう流れで進めた。ただし、時間の関係でそれぞれの変更点について全てのレベルの

問題を体験することができなかった。

表 3「科目ごとの変更点」

科目 変更点

言語形式(文字・語

彙) ・若干形式が変わる程度。(一文一問になる)

言語形式(文法) ・文の文法と文章の文法がある。 ・新しいタイプの問題:文の組立て、文章の文法

読解 ・新しいタイプの問題:情報検索(全レベル)、

統合理解(N1, N2)

聴解 ・全体的に形式が変わる ・新しいタイプの問題:発話表現(N3~N5)、

即時応答(全レベル)

Page 6: ワークショップ「新しい日本語能力試験」報告 -ワーク …aejf.asso.fr/files/symposium_actes/2010_actes/2010P54Kondo.pdf · ワークショップ「新しい日本語能力試験

第 11 回フランス日本語教育シンポジウム 2010 年フランス・リヨン

11ème  Symposium  sur  l’enseignement  du  japonais  en  France, Lyon France, 2010

59

また、本来ならば問題を実際にやってみた後に各変更点について詳しく分析したり、

参加者同士で意見交換をして共有する時間が必要であるが、全体で 1 時間という枠の

ワークショップでは、そこまで行うことができなかった。

4 参加者の反応:質疑応答とアンケート結果 4.1 質疑応答の内容

事前に質疑応答の時間をワークショップの最後に設けていたが、ワークショップ中

にもいくつかの質問があがった。質問・コメントの内容を大別した結果は以下のとお

りである。 ①実際の試験問題が公開されないのはなぜか。 ②語彙リストや漢字リストが公開されないのはなぜか。またどのように指導した

らいいのか。

③新しくできた N3 レベルの基準は?指導法はどのようにすればいいのか? ④読解の情報検索の問題のテキストは、日本の社会に関する背景知識、社会文

化能力がかなり問われているように思われるが(問題例集 N4 のごみの出し方、 N1 の奨学金など)、読解にそのような社会文化能力も必要ということか。

ワークショップを実施した 2010 年 5 月の段階では、授業や対策講座に使えそうな

リソースは公式に出されている問題例集に限定されていたこともあり、具体的な指導

の際のよりどころとなる出題基準や実際の試験問題(過去問)の非公開について議論

が集中した感がある。「非公開の理由はわかったが、じゃあどうすれば....。」というの

が教師たちの率直な感想であろう。教師研修では、改定の情報提供だけでなく、「で

はこれからどうするか」までを射程に入れた研修デザインが重要であると言える。 また、読解テキストの内容に関する議論も、言語知識を問う試験から、言語を使っ

てどのような課題遂行ができるかにフォーカスがあてられた試験に変わったことの影

響が伺えるが、日本語教育の中で社会文化能力をどのようにとらえ、考えていくか

JLPT の出題内容から議論を進めていくことも興味深い試みであろう。

4.2.アンケート結果 ワークショップ後、参加者に対してアンケートを実施した。アンケート自体と集計

結果は稿末資料 1,2 を参照されたい。 アンケート結果、特に質問 1 と2から、今回のワークショップの内容や進め方に対

して参加者から概ね肯定的な評価が得られた。しかしながら質問3の「希望する説明

会、研修、勉強会」の回答から今後の課題が浮き彫りになった。 第一点目として、ある科目やレベルに特化し、それについて深く掘り下げていく研

修である。今回のワークショップでは新試験の概要を網羅的に取り上げただけだった

ので、次のステップとして取り組む必要があろう。

Page 7: ワークショップ「新しい日本語能力試験」報告 -ワーク …aejf.asso.fr/files/symposium_actes/2010_actes/2010P54Kondo.pdf · ワークショップ「新しい日本語能力試験

第 11 回フランス日本語教育シンポジウム 2010 年フランス・リヨン

11ème  Symposium  sur  l’enseignement  du  japonais  en  France, Lyon France, 2010

60

次に二点目として、実際の教室活動や対策講座に結びつける必要性があげられる。

これは第一点目とも共通することであるが、概要や表層的な情報の提供にとどまらず、

深く掘り下げ、実際の教育実践を射程に入れたものにしなければならない。「『わかる』

から『できる』へ」は JLPT 研修そのものにも言えることである。 また、教師だけでなく学習者への情報提供や用語や難易度に関するより詳細な説明

も望まれている。

5. まとめと今後の課題 本稿では、JLPT に関するワークショップについてワークショップ・デザインの観

点から、具体的に何を行い、どのような反応が参加者からあったのかを見てきた。

JLPT の改定に関する概要を一方向的な情報伝達ではなく参加体験型で進めたことで、

参加者が自己の教育実践に引きつけて考えることができたことについては一定の評価

ができよう。 しかしながら、時間の関係もあり、当初予定していた「2.3.研修の目標」の③「試

験問題を分析し、新試験で測ろうとしているものを理解することができる。」は十分

だったとは言えない。またアンケートの結果からも、JLPT の改定を教育実践と具体

的にどのように結びつけていくかが問われており、課題は数多く残っている。JLPT改定という具体的なことからコミュニケーションのための課題遂行能力とは何か、そ

の能力を伸ばしていくためにはどのような教育実践が必要かを、今後も教師研修を通

じて考えていきたい。

<謝辞> ワークショップ中の質疑応答に対応してくださった伊東祐朗先生、そして質疑応

答の内容を記述し、アンケート結果をまとめてくださった村中雅子氏に感謝の意を

表します。

<参照文献・資料> 国際交流基金・日本国際教育支援協会(2010)『新しい「日本語能力試験」ガイドブ

ック概要版と問題例集 N1-N3』凡人社 国際交流基金・日本国際教育支援協会(2010)『新しい「日本語能力試験」ガイドブ

ック概要版と問題例集 N4-N5』凡人社 中野民夫(2010)『ワークショップ-新しい学びと想像の場』岩波書店

日本語能力試験公式ホームページ http://www.jlpt.jp/(2010年 11 月 15 日現在)

Page 8: ワークショップ「新しい日本語能力試験」報告 -ワーク …aejf.asso.fr/files/symposium_actes/2010_actes/2010P54Kondo.pdf · ワークショップ「新しい日本語能力試験

第 11 回フランス日本語教育シンポジウム 2010 年フランス・リヨン

11ème  Symposium  sur  l’enseignement  du  japonais  en  France, Lyon France, 2010

61

註 1. フランス国内では現時点では 12 月のみ実施されている。 2. 最新情に関しては、JLPT 公式ホームページを参照されたい。 3. この号では、巻頭特集として「第 11 回フランス日本語教育シンポジウム」が組ま

れている。 4. 国際交流基金・日本国際教育支援協会(2010)『新しい「日本語能力試験」ガイドブ

ック 概要版と問題例集 N1, N2, N3』凡人社

Page 9: ワークショップ「新しい日本語能力試験」報告 -ワーク …aejf.asso.fr/files/symposium_actes/2010_actes/2010P54Kondo.pdf · ワークショップ「新しい日本語能力試験

第 11 回フランス日本語教育シンポジウム 2010 年フランス・リヨン

11ème  Symposium  sur  l’enseignement  du  japonais  en  France, Lyon France, 2010

62

新しい「日本語能力試験」ワークショップに関するアンケート

実施日 2010 年 5 月 29 日

対象 第 11 回フランス日本語教育シンポジウム講演 ワークショップ「新しい「日本語能力試験」について」の参

加者

配布数 60 名程度

有効回答数 31

設問 回答 回答数

回答数

総計

Ⅰ Q1 ワークショップ全体の満足度

をお聞かせください

とても満足している 13

31

満足している 16

どちらとも言えない 2

あまり満足していない 0

全く満足していない 0

●上記の理由をお書きください。 18

Q2 ワークショップの説明や活動

は参考になりましたか

とても参考になった 1

5

31

参考になった 15

どちらとも言えない 1

参考にならなかった 0

全く参考にならなかった 0

●もし参考になった点があればお書きください。 16

Ⅱ Q3 新しい能力試験に関して、今後どのような説明会、研修、勉強会を

希望しますか。 17

Q4 その他、新しい日本語能力試験に関して、ご質問、ご要望、ご意見

などがありましたら、ご自由にお書きください。 6

Page 10: ワークショップ「新しい日本語能力試験」報告 -ワーク …aejf.asso.fr/files/symposium_actes/2010_actes/2010P54Kondo.pdf · ワークショップ「新しい日本語能力試験

第 11 回フランス日本語教育シンポジウム 2010 年フランス・リヨン

11ème  Symposium  sur  l’enseignement  du  japonais  en  France, Lyon France, 2010

63

新しい「日本語能力試験」ワークショップに関するアンケート

(自由記述)

1.Q1 の理由 「とても満足している」の回答理由

・ 良くわかり、具体的なお知らせでわかりやすかった ・ 実際に改めて試験をとくことが有意義だった ・ 具体例が多くよくわかりました ・ わかりやすかった ・ 説明がわかりやすかった ・ 組織だった説明、最適な ptt ・ 説明がわかりやすい ・ すごくわかりやすかった ・ 試験に必要な情報をいただけた

「満足している」の回答理由 ・ 大雑把ですが、違いがわかりました ・ 全体的な変更内容がよくわかった ・ 明るい雰囲気で楽しかった ・ 従来の試験内容との違いがはっきりしたところ ・ もっとじっくり説明してほしい ・ 具体的なことがわかってよかった ・ 参加者全員で盛り上がることができて楽しめました。内容が非常にわかりや

すかったと思います ・ 説明会を以前したので、大体理解していたが、改めて整理することができて

よかったです。なぜ過去問題集が出版されないのかという理由も知れてよか

ったです。

「どちらともいえない」の回答理由 ・ 試験についての情報はよく得られましたが、やや「試験ありき」という出発

点が気になりました

Page 11: ワークショップ「新しい日本語能力試験」報告 -ワーク …aejf.asso.fr/files/symposium_actes/2010_actes/2010P54Kondo.pdf · ワークショップ「新しい日本語能力試験

第 11 回フランス日本語教育シンポジウム 2010 年フランス・リヨン

11ème  Symposium  sur  l’enseignement  du  japonais  en  France, Lyon France, 2010

64

2.参考になった点

「とても参考になった」と答えた人の回答 ・ 具体的な問題が良かった。ダウンロードのサイトがわかってよかった。 ・ どんな点が現地の先生にとってきになるかのイメージがついた ・ 疑問点 ・ 実際にやってみて旧試験との違いがよくわかった ・ 問題に取り組めたところ ・ 具体性に富んでいて近藤先生のやり方により、自身でいろいろ考えることが

できた ・ 問題形式がわかった

「参考になった」と答えた人の回答 ・ 実際自分でやってみれたので良かったです ・ 点数の変更、試験時間の変更 ・ 新旧の違いがほぼわかった ・ 読解統合理解の問題、聴解の問題の新しい点がわかってよかった ・ 試験を試しにやってみたこと。等化を行うことを知れたこと。合格基準を知

れたこと。 ・ 丁寧に例題を見ていくなかで、問題作成者の立場にもわずかながら立つこと

ができた。それによって各問題が何を意図して出されているのかが、より明

確になった。 ・ ワークショップの進め方なども勉強になりました。

・ 「どちらともいえない」と答えた人の回答

・ 聴解部分、得点の出し方

3.希望する説明会、研修、勉強会 <科目ごと、レベル別> ・ 各科目ごとのもう少し詳しいワークショップ ・ 聴解の部分の研修を希望します ・ N3 の対策はどうするのか

<教授法と関連させた内容> ・ 授業での活動や評価に結びつくようなワークショップなど ・ 指導法のワークショップはどうかと今考えています。難しいかもしれません

が。 ・ 具体的な授業中ワークのアイディア研修をお願いします。特に既存の教科書

Page 12: ワークショップ「新しい日本語能力試験」報告 -ワーク …aejf.asso.fr/files/symposium_actes/2010_actes/2010P54Kondo.pdf · ワークショップ「新しい日本語能力試験

第 11 回フランス日本語教育シンポジウム 2010 年フランス・リヨン

11ème  Symposium  sur  l’enseignement  du  japonais  en  France, Lyon France, 2010

65

をいかに改訂にあわせてゆくか ・ 代わった問題で問われる能力を授業で養うアイディア ・ 新試験で新たに加えられたタイプの問題のためにどのような練習をさせれば

いいか、具体的な教え方を知りたいです ・ 必要な力と練習方法の考察とその情報共有の研修など。 ・ 実践的な勉強会ができると良い

<試験対策> ・ 練習問題を一緒に解くセミナー ・ やはり新しい部分についてどう対応するのか、N3 の漢字と語彙(学生に示す

ための) ・ 試験準備の方法(勉強)を知りたい

<受験者向け> ・ 受験者に対しても情報をよく発信してください ・ 学生対象の練習講習会

<より詳細な説明> ・ 用語の説明検討 例:文章の文法⇒談話文法 / 読解⇒スキャン、精読など ・ 難易度の設定の仕方など、より詳しく知りたい。

4.新しい日本語能力試験に関する質問、要望、意見 ・ A1~C2 のレベルにしたら・・・ ・ 公式な予行問題集などを出していただけたらありがたいです ・ 新試験の基準語彙表や過去問をいずれは出してほしい ・ 『出題基準』(N3 を含む)は一切出版しない。その理解でいいですね? ・ 料金をお知らせください ・ とくになし

Page 13: ワークショップ「新しい日本語能力試験」報告 -ワーク …aejf.asso.fr/files/symposium_actes/2010_actes/2010P54Kondo.pdf · ワークショップ「新しい日本語能力試験

第 11回フランス日本語教育シンポジウム 2010年フランス・リヨン

11ème  Symposium  sur  l’enseignement  du  japonais  en  France, Lyon France, 2010

233

Le nouveau « Test d'aptitude en japonais » ¯ Comment présenter et expliquer aux candidats les points réformés ? ¯

Yumiko KONDO Fondation du Japon

Maison de la Culture du Japon à Paris

Le Test d'aptitude en japonais (JLPT1) mis en place en 1984 était entré en 2005 dans une phase d'étude et de travaux aux fins de remise à jour. Le JLPT réformé (le nouveau test) sera ainsi mis en œuvre à partir de l'exercice 2010. Les publications en ligne et les éditions papier des présentations sommaires, des guides ou des exercices du nouveau test sont déjà disponibles. Cette réforme suscite naturellement un vif intérêt parmi ceux qui apprennent le japonais et envisagent de passer le JLPT, ainsi que chez les enseignants. Cette tendance s'amplifiera à l'approche de la tenue du nouveau test cette année. Et il est très probable que les enseignants vont se voir demander de plus en plus d'informations par leurs élèves: quels sont les changements majeurs, quels sont les préparatifs adéquats ? Les renseignements concernant le nouveau test sont, comme mentionné plus haut, disponibles. Cependant, la divulgation des informations ne datant que de quelques mois, on ne peut dire qu'à ce jour, chaque enseignant ait suffisamment de connaissance pour expliquer à ses élèves en quoi le nouveau test est différent ou pour leur proposer des cours de préparation dédiés. C'est pour cette raison que la session a pour but d'aider les enseignants à approfondir leur compréhension du nouveau test. La session veut ainsi leur permettre d'acquérir le nécessaire pour pouvoir donner les informations requises à leurs élèves candidats. Pour ce faire, cette session prendra la forme d'un atelier de travail où les auditeurs seront eux-même acteurs: ils participeront activement au débat et à la réflexion en groupe, expérimenteront et analyseront eux-même les questions du nouveau test. J’espère que cette session aidera à approfondir la compréhension du nouveau test. Je souhaite également qu'elle incitera chaque participant à réfléchir, non seulement sur la préparation et les mesures à prendre en vue du nouveau test, mais aussi sur ce qu'est la capacité communicative à accomplir des tâches et comment la mesurer. Je serais heureuse si la session est l'occasion pour chacun d'appliquer ce regard dans sa pratique de l'enseignement du japonais. Japanese Language Proficiency Test en anglais < document de référence > voir le résumé en japonais