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平成31年1月18日判決言渡
平成29年(行ウ)第260号 不認定処分取消等請求事件
主 文
1 内閣総理大臣が原告に対して平成28年12月9日付けでした公益社団法人
及び公益財団法人の認定等に関する法律4条の認定に係る申請に対する不認定5
処分(府益担第1612号)を取り消す。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担と
する。
事 実 及 び 理 由 10
第1 請求
1 主文第1項に同旨
2 内閣総理大臣は,原告に対し,公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関
する法律(以下「認定法」という。)4条の認定をする旨の処分をせよ。
第2 事案の概要 15
1 本件は,認定法に基づき公益認定を申請した一般財団法人である原告が,内
閣総理大臣から,原告の申請事業は公益目的事業とは認められないとして,平
成28年12月9日付けで不認定処分(府益担第1612号。以下「本件処
分」という。)を受けたため,本件処分の取消し及び認定処分の義務付けを求
める事案である。 20
2 認定法の定め
⑴ 公益目的事業を行う一般社団法人又は一般財団法人は,行政庁の認定(公
益認定)を受けることができる(4条)。
2以上の都道府県の区域内に事務所を設置するものについては,行政庁は
内閣総理大臣である(3条1号イ)。 25
⑵ 「公益目的事業」とは,①学術,技芸,慈善その他の公益に関する認定法
2
別表各号に掲げる種類の事業であって,②不特定かつ多数の者の利益の増進
に寄与するものをいう(2条4号)。
認定法別表13号は,「思想及び良心の自由,信教の自由又は表現の自由
の尊重又は擁護を目的とする事業」を掲げる。
⑶ 行政庁は,公益認定申請をした一般社団法人又は一般財団法人が,欠格事5
由(6条)に該当せず,次に掲げる基準に適合すると認めるときは,当該法
人について公益認定をする(5条柱書き)。
ア 公益目的事業を行うことを主たる目的とするものであること(5条1
号)。
イ 公益目的事業を行うのに必要な経理的基礎及び技術的能力を有するもの10
であること(同条2号)。
ウ その事業を行うに当たり,社員,評議員等の当該法人の関係者に対し特
別の利益を与えないものであること(同条3号)。
エ その事業を行うに当たり,株式会社等に対し,寄附その他の特別の利益
を与える行為を行わないものであること(同条4号)。 15
オ 投機的な取引等公益法人の社会的信用を維持する上でふさわしくないも
の又は公の秩序若しくは善良の風俗を害するおそれのある事業を行わない
ものであること(同条5号)。
カ その行う公益目的事業について,当該公益目的事業に係る収入がその実
施に要する適正な費用を償う額を超えないと見込まれるものであること20
(同条6号)。
キ 収益事業等を行うことによって公益目的事業の実施に支障を及ぼすおそ
れがないものであること(同条7号)。
ク その事業活動を行うに当たり,公益目的事業比率が100分の50以上
となると見込まれるものであること(同条8号)。 25
ケ その事業活動を行うに当たり,遊休財産額が一定の制限を超えないと見
3
込まれるものであること(同条9号)。
コ 各理事について,当該理事及びその親族等である理事の合計数が理事の
総数の3分の1を超えないものであること(監事についても同様)(同条
10号)。
サ 他の同一の団体の理事等である理事の合計数が理事の総数の3分の1を5
超えないものであること(監事についても同様)(同条11号)。
シ 会計監査人を置いているものであること(同条12号)。
ス その理事,監事及び評議員に対する報酬等について,不当に高額なもの
とならないような支給の基準を定めているものであること(同条13号)。
セ 一般社団法人にあっては,社員の資格の得喪に関して不当な条件を付し10
ていないものであること等の要件に該当するものであること(同条14
号)。
ソ 他の団体の意思決定に関与することができる株式等を保有していないも
のであること(同条15号)。
タ 公益目的事業を行うために不可欠な特定の財産があるときは,その旨並15
びにその維持及び処分の制限について,必要な事項を定款で定めているも
のであること(同条16号)。
チ 公益認定の取消しの処分を受けた場合又は合併により法人が消滅する場
合において,公益目的取得財産残額相当の財産を1か月以内に類似の事業
を目的とする他の公益法人等に贈与する旨を定款で定めているものである20
こと(同条17号)。
ツ 清算をする場合において残余財産を類似の事業を目的とする他の公益法
人等に帰属させる旨を定款で定めているものであること(同条18号)。
3 前提事実(証拠等を掲記した以外の事実は争いがない。)
(1) 原告は,昭和51年1月20日に任意団体として設立され(甲21,甲25
36・13頁,乙1・66頁),平成22年4月1日に法人格を取得した
4
(乙1・67~76頁)一般社団法人Aを,平成27年4月1日に吸収合併
した一般財団法人B(平成26年10月1日設立)が,吸収合併と同日付け
で名称を一般財団法人Cに変更した一般財団法人であり,2以上の都道府県
の区域内に事務所を設置している(乙5・49~55頁)。
⑵ 原告は,平成27年12月22日,内閣総理大臣に対し,公益認定申請を5
した(乙5)。
それによれば,原告の申請に係る公益目的事業(以下「本件申請事業」と
いう。)は,「終末期における医療の選択の権利としてのリビング・ウイルの
普及啓発等の事業」であり,①「市民への『リビング・ウイル(尊厳死の宣
言書)』の普及啓発と適正な理解を深める事業」(普及啓発事業),②「会員10
自らの終末期意思を書面で表明した『リビング・ウイル(尊厳死の宣言
書)』の登録と管理を行う事業」(登録管理事業),③「国内外の終末期にお
ける医療のあり方・選択,リビング・ウイル等に関する調査,研究及びこれ
らの情報・研究に基づいて社会への提言を行う事業」(調査研究及び提言事
業)の三つにより構成されており,公益目的事業比率は85.4%であると15
されている(甲4,乙5・6~7頁)。
⑶ 本件申請事業のうちの登録管理事業(以下「本件登録管理事業」とい
う。)において,原告が登録と管理を行っている「リビング・ウイル(尊厳
死の宣言書)」(以下「原告宣言書」という。)は,いずれも不動文字で,「尊
厳死の宣言書(リビング・ウイル Living Will)」との表題の20
下,「私は,私の傷病が不治であり,かつ死が迫っていたり,生命維持措置
無しでは生存できない状態に陥った場合に備えて,私の家族,縁者ならびに
私の医療に携わっている方々に次の要望を宣言いたします。この宣言書は,
私の精神が健全な状態にある時に書いたものであります。したがって,私の
精神が健全な状態にある時に私自身が破棄するか,または撤回する旨の文書25
を作成しない限り有効であります。」との記載に続けて,「①私の傷病が,現
5
代の医学では不治の状態であり,既に死が迫っていると診断された場合には,
ただ単に死期を引き延ばすためだけの延命措置はお断りいたします。②ただ
しこの場合,私の苦痛を和らげるためには,麻薬などの適切な使用により十
分な緩和措置を行ってください。③私が回復不能な遷延性意識障害(持続的
植物状態)に陥った時は生命維持措置を取りやめてください。」との3項目5
の記載があり,入会希望者がこの原告宣言書及び入会申込書(甲11)に署
名して原告に送付し,所定の会費を納入すると,原告が原告宣言書を登録・
保管し,会員には会員証(甲12)及び原告宣言書の写しが交付される(甲
11,14)。
⑷ 内閣総理大臣は,平成28年12月9日,同月2日付けの公益認定等委員10
会の答申を受けて,原告の公益認定申請について認定しない旨の処分(本件
処分)をした。
その処分の通知書に記載された処分の理由は,概要以下のとおりである
(甲1)。
終末期医療のあるべき姿や尊厳死の捉え方などは個々人によって様々であ15
り,社会的にも多様な考え方が混在し,終末期医療における延命措置の中止
等について明確な法的位置付けがされていない現状において,本件登録管理
事業を公益目的事業と認めることは,延命措置の中止等の判断に係る様々な
要素の一部についてのみ国が積極的評価を与えたと認識され,医療に係る判
断に大きな影響を与える(例えば,本件登録管理事業において登録された20
「患者の意思」により重きが置かれ,延命措置の中止等を判断する方向に誘
引する等)可能性が高まると考えられる。しかし,上記のような現状では,
医師等が原告宣言書の内容に沿った延命措置の中止等を求められ,それに従
い又はそれを尊重して一定の行為を行った場合,当該医師等は,自身がとっ
た行動につき刑事を含む法律上の責任を問われかねない。そのため,本件登25
録管理事業を公益目的事業と認めることにより,医師等がそのような法律上
6
不安定な立場に置かれるケースが増加するのではないかという懸念を払拭す
ることができない。以上のとおり,終末期医療をめぐる現在の法的,社会的
環境を踏まえて考えると,本件申請事業を公益目的事業と認めるという判断
を導くことは難しい。本件申請事業は原告の申請する唯一の公益目的事業で
あるため,原告は,認定法5条1号(公益目的事業を行うことが主たる目的5
であること)及び8号(公益目的事業比率が100分の50以上であるこ
と)に掲げる基準に適合すると認めることができないこととなり,公益認定
をしないこととすることが相当であるとせざるを得ない。
⑸ 原告は,平成29年6月8日,本件訴えを提起した(裁判所に顕著な事
実)。 10
4 争点
本件の争点は,①本件登録管理事業の公益目的事業該当性,②原告の認定法
5条1号適合性,③原告の認定法5条8号適合性,④義務付けの訴えの当否で
ある。
5 争点に関する当事者の主張 15
⑴ 本件登録管理事業の公益目的事業該当性(争点①)について
(原告の主張)
ア 本件申請事業は,終末期における国民の自由な意思を尊重又は擁護する
ものであり,認定法別表13号の事業に該当する。
イ その本件申請事業を構成する本件登録管理事業は,内閣府公益認定等委20
員会が定めた「公益認定等に関する運用について(公益認定等ガイドライ
ン)」(平成20年4月制定,平成25年1月改定)(甲3。以下「本件ガ
イドライン」という。)の「公益目的事業のチェックポイントについて」
に例示された17の事業区分に該当しないが,本件ガイドラインによれば,
これらの事業区分のチェックポイントが,おおむね①事業目的,②事業の25
合目的性(受益の機会の公開,事業の質を確保するための方策,審査・選
7
考の公正性の確保,その他)に集約されることを参考に「不特定かつ多数
の者の利益の増進に寄与するもの」であるか否かをチェックするのが有効
である(甲3・51~52頁)。
(ア) 事業目的
本件登録管理事業は,国民全体に対して事前の意思表示をするかど5
うかを考え決定する機会を与え,文書での表明を望む者に対しては,原
告による登録管理と会員証の発行等によりその意思表明を容易にする手
段を提示し,もって,国民の終末期における自己決定権を尊重するとと
もにその思想及び良心の自由,表現の自由を尊重又は擁護するものであ
り,一部の者の利益の増進への寄与を主たる目的とするものではない。 10
(イ) 事業の合目的性
a 受益の機会の公開
本件登録管理事業の対象は,15歳以上で意思表明能力のある者で
あり,同事業の情報は,パンフレット(甲30)や原告のホームペー
ジ(甲31)で公開されており,誰でも原告宣言書を登録することが15
できる。
b 事業の質を確保するための方策
原告では,本件登録管理事業に専属の職員を配置するとともに,個
人情報の取扱いに関する研修等を行い,個人情報の適切な管理に努め
ている。また,医師等の医療者がアドバイスを行い,職員が終末期医20
療やリビング・ウィル(原告宣言書に限定しない,患者の意思を事前
に表明した書面をいう。以下同じ。)に関する正確な知識を持ち適切
に業務が遂行されるように対策している。さらに,全体としては,業
務マニュアル(甲14)を作成し,定期的にその内容を見直すことで,
業務の質を一定に保つ努力をしている。 25
家族や医療機関等の第三者から登録の有無の問合せを受けた場合に
8
は,職員ではなく,事務局長(不在の場合は次長)が回答を行う等の
より慎重な対応を行っている。
c 審査・選考の公正性の確保
本件登録管理事業には,審査・選考はない。
d その他 5
本件登録管理事業には業界団体は存在しないため,業界団体の販売
促進,共同宣伝になっていることはない。
(ウ) 以上のとおり,本件登録管理事業は,本件ガイドラインのチェッ
クポイントに沿って判断した場合,「不特定かつ多数の者の利益の増進
に寄与するもの」という要件に該当する。 10
ウ したがって,本件登録管理事業は,公益目的事業に該当する。
エ 本件処分及び被告の主張について
(ア) 考慮遺脱
本件申請事業は,終末期における医療の選択の権利を守ることがで
きる社会の実現をめざして,リビング・ウィルの理解と普及を図り,広15
く市民の人権の確立とその尊重に寄与することを目的とし,単に原告宣
言書を普及啓発等するものではなく,広く国民に対し,患者の意思や自
己決定,リビング・ウィル等の終末期医療における患者の意思が尊重さ
れる社会の実現のために必要な全ての情報を普及啓発等し,その上で,
本件登録管理事業において,治療の中止等の場面で最も問題となりやす20
い患者の意思を表明する手段である原告宣言書を登録管理するものであ
り,不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものである。
また,本件登録管理事業により原告宣言書が登録管理されることで,
患者の意思確認を容易にして家族や医療者の負担を軽減するだけでなく,
患者の意思を尊重したより質の高い終末期医療の実現に寄与し,社会全25
体に利益をもたらしている。
9
本件処分は,本来的に考慮しなければならない本件登録管理事業が
及ぶ受益の範囲に関する要素を考慮しておらず,違法である。
(イ) 他事考慮
被告は,本件登録管理事業を公益目的事業と認めることが医師等に
与える影響として,医療に係る判断に大きな影響を与え,医師等が法律5
上不安定な立場に置かれる可能性があると主張する。
しかし,行政庁は,「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するも
の」か否かの判断に当たり,本件ガイドラインに従い,①事業目的,②
事業の合目的性に関わる要素のみを考慮して判断しなければならない。
本件処分は,医師等に与える影響といった考慮すべきでない要素を10
考慮した違法がある。
(ウ) 事実誤認
仮に,公益認定の審査に当たり,被告の主張するような医師等に与
える影響を考慮することができるとしても,本件登録管理事業を公益目
的事業と認めたとしても,原告宣言書に国が積極的評価を与えたと認識15
されることはない。
仮に,国が積極的評価を与えたと認識されたとしても,リビング・
ウィルは終末期医療における患者の意思確認の手段として有用なもので
あり,悪影響を及ぼすことはあり得ない。
医師が患者の意思の探求の手段としてリビング・ウィルを用い,そ20
れに従って一定の行為を行った場合には,終末期における治療中止の正
当化要件を満たすことになり,その行為により法的責任に問われること
はあり得ない。よって,本件登録管理事業を公益目的事業と認めたとし
ても,医師等が法律上不安定な立場に置かれる可能性はない。
以上のとおり,本件処分は,その基礎となった事実に重大な誤認が25
ある。
10
(被告の主張)
ア 本件申請事業が認定法別表13号の事業に当たることは争わないが,本
件処分は,本件申請事業のうち本件登録管理事業について公益目的事業該
当性を否定したものであり,下記イ及びウからすれば,その判断は正当で
ある。 5
イ 受益者が限定的であること
そもそも,一般に,リビング・ウィルとは延命措置の不開始又は中止の
みを指すものではなく,治療の開始や継続も含めた終末期医療に関する事
前指示書であると解されるところ,本件登録管理事業は,終末期医療のあ
るべき姿や尊厳死の捉え方などは様々であり,議論が尽くされていないと10
いう社会的環境において,延命措置の不開始又は中止という極めて限定的
な内容の原告宣言書について,これに賛同した者を登録管理する事業であ
るから,直接の受益者は特定の者に限られる。仮に本件登録管理事業の受
益の効果が,患者の家族,医療関係者ひいては社会全体に及び得るもので
あるとしても,下記ウのような医師等に与える影響の重大性からすれば,15
本件登録管理事業が公益の増進に寄与するものであるかは明らかでない。
ゆえに,本件登録管理事業は,不特定多数でない者の利益の増進への寄与
を主たる目的として掲げているといえ,「不特定かつ多数の者の利益の増
進に寄与するもの」と認めることはできない。
したがって,本件処分には,原告が主張するような考慮遺脱もない。 20
ウ 医師等に与える影響があること
(ア) 終末期医療のあるべき姿に対する考え方などは個々人によって
様々であり,社会的にも多様な考え方が混在しているという社会的環境,
明確な法的位置付けがされていない延命措置の中止等が医師等により慎
重に判断・実施されているという現状において,延命措置の中止等とい25
う極めて限定された内容の原告宣言書に賛同した者の管理登録を行うと
11
いう本件登録管理事業を公益目的事業と認めることは,延命措置の中止
等の判断に係る様々な要素の一部についてのみ国が積極的評価を与えた
と認識され,医療に係る判断に大きな影響を与える(例えば,本件登録
管理事業において登録された「患者の意思」により重きが置かれ,延命
措置の中止等を判断する方向に誘引する等)可能性が高まると考えられ5
る。一方で,我が国において尊厳死に関する法整備がされておらず,医
師等が延命措置の中止等の措置を講じ,その結果として患者が死亡する
に至った場合,その行為が刑法上の殺人罪等に問われるなど刑事上ある
いは民事上の責任を問われる可能性がある現状では,医師等が,原告宣
言書の内容に沿った延命措置の中止等を求められ,それに従い又はそれ10
を尊重して一定の行為を行った場合,当該医師等は,自身がとった行動
につき刑事を含む法律上の責任を問われかねない。本件登録管理事業を
公益目的事業と認めることは,医師等を法律上不安定な立場に置く可能
性があるものである。
したがって,本件登録管理事業は,原告の主張する事業目的を前提15
としても,同目的を達成する手段として適切ということはできない(事
業の合目的性が認められない)から,「不特定かつ多数の者の利益の増
進に寄与するもの」と認めることはできない。
(イ) 他事考慮との主張について
終末期医療のあるべき姿や尊厳死の捉え方などについて社会的に多20
様な考えが混在し,明確な法的位置付けがなされていない延命措置の中
止等が医師等により慎重に判断・実施されているという現状において,
本件登録管理事業を行うことにより,医療に係る判断にどのような影響
を与え,当該影響により医師等がいかなる立場に立たされるかを考慮す
ることは,本件登録管理事業の合目的性,すなわち,事業の内容や手段25
が事業目的を実現するのに適しているのか否かを確認するに当たり必須
12
の要素というべきであり,当該要素を考慮することが違法となるもので
はない。
⑵ 原告の認定法5条1号適合性(争点②)
(原告の主張)
上記⑴のとおり,本件申請事業は,認定法別表13号の事業であって,そ5
れを構成する本件登録管理事業は「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与
するもの」という要件に該当し,その余の普及啓発事業,調査研究及び提言
事業も,本件ガイドラインのチェックポイントに沿って判断した場合,「不
特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するもの」という要件に該当するから,
本件申請事業の全てが公益目的事業であり,原告は認定法5条1号の基準に10
適合する。
(被告の主張)
本件申請事業は,①普及啓発事業,②登録管理事業,③調査研究及び提言
事業の三つから構成されているところ,内容の異なる事業を一つにまとめて
一の申請事業を構成している場合に,当該申請事業が公益目的事業該当性を15
認められるには,当該申請事業を構成する個々の事業ごとに公益目的事業該
当性が肯定されなければならない。
上記⑴のとおり,本件登録管理事業が公益目的事業と認められない以上,
本件申請事業全体を公益目的事業と認めることはできず,原告は認定法5条
1号の基準に適合しない。 20
⑶ 原告の認定法5条8号適合性(争点③)
(原告の主張)
ア 上記⑵のとおり,本件申請事業は全て公益目的事業であるから,原告の
公益目的事業比率は85.4%である(甲4)。
イ 仮に,本件申請事業のうち本件登録管理事業が公益目的事業でないとし25
ても,その余の普及啓発事業並びに調査研究及び提言事業のみにおいて,
13
公益目的事業比率は69.4%となっている(甲5)。
ウ したがって,原告は認定法5条8号の基準に適合する。
(被告の主張)
ア 上記⑵のとおり,本件申請事業は公益目的事業とは認められず,本件申
請事業が原告の申請する唯一の公益目的事業であることからすれば,原告5
は認定法5条8号の基準に適合しない。
イ 原告作成の公益認定申請書(甲4)及び事業費内比率表(甲5)に原告
主張の公益目的事業比率の記載があることは認めるが,その計算根拠は否
認ないし争う。
⑷ 義務付けの訴えの当否(争点④) 10
(原告の主張)
ア 前記のとおり,本件申請事業は公益目的事業の要件を満たしており,原
告は認定法5条1号及び8号の基準に適合するから,これに適合しないと
してされた本件処分は違法であり,取り消されるべきものである。
イ 認定法5条1号及び8号以外の基準不適合は申請拒否処分の理由として15
提示(行政手続法8条1項)されていない(甲1)ため,行政庁において
適合すると認定しているものとみなすべきである。
そして,認定法は,「基準に適合すると認めるときは,当該法人につい
て公益認定をするものとする。」(5条柱書き)として効果裁量を否定して
おり,「その義務付けの訴えに係る処分又は裁決につき,行政庁がその処20
分若しくは裁決をすべきであることがその処分若しくは裁決の根拠となる
法令の規定から明らかである」(行政事件訴訟法37条の3第5項)場合
に当たるから,認定処分の義務付けがされるべきである。
(被告の主張)
ア 前記のとおり,本件処分は取り消されるべきものに該当しないから,義25
務付けの訴えは,行政事件訴訟法37条の3第1項2号の訴訟要件を欠く
14
不適法なものとして却下されるべきである。
イ 認定通知書(甲1)中にその余の公益認定基準の適合性についての明示
がされていないことをもって,適合するものと認定しているものとみなす
べきであるとする原告の主張は独自の見解であって失当である。
第3 当裁判所の判断 5
1 本件登録管理事業の公益目的事業該当性(争点①)について
⑴ 認定法において「公益目的事業」とは,①学術,技芸,慈善その他の公益
に関する認定法別表各号に掲げる種類の事業であって,②不特定かつ多数の
者の利益の増進に寄与するものをいう(2条4号)。
本件申請事業が認定法別表13号の「思想及び良心の自由,信教の自由又10
は表現の自由の尊重又は擁護を目的とする事業」に該当することは争いがな
いから,本件申請事業を構成する三つの事業のうちの本件登録管理事業が公
益目的事業に該当するか否かは,当該事業が「不特定かつ多数の者の利益の
増進に寄与するもの」であるか否かによるものといえる。
⑵ ある事業が「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与する」とは,原則と15
して,その事業による財・サービスの直接的な受益者が特定の者に限られず,
かつ,その数が多い場合を指すが,直接的な受益者が特定の範囲の者に限ら
れる場合であっても,その受益の効果が広く社会全体や十分広い範囲に及ぶ
ことを積極的に意図して事業を行い,その事業を介して社会全体あるいは十
分に広い範囲に利益が及ぶ場合には,そのような事業も「不特定かつ多数の20
者の利益の増進に寄与するもの」に該当すると解される。
そして,「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するもの」か否かの事
実認定については,内閣府公益認定等委員会が取りまとめた本件ガイドライ
ンにおいて,事実認定に当たっての留意点が「公益目的事業のチェックポイ
ントについて」(甲3・40~57頁)として取りまとめられており,申請25
及び審査の参考とされている。
15
本件登録管理事業は本件ガイドラインの「公益目的事業のチェックポイン
トについて」に例示された17の事業区分に該当しないが,本件ガイドライ
ンによれば,これらの事業区分に該当しない事業についても,これらの事業
区分のチェックポイントがおおむね①事業目的(不特定多数でない者の利益
の増進への寄与を主たる目的に掲げていないかを確認する趣旨)及び②事業5
の合目的性(事業の内容や手段が事業目的を実現するのに適切なものになっ
ているかを確認する趣旨),さらに②の例示として受益の機会の公開(受益
の機会が一般に開かれているか等),事業の質を確保するための方策(専門
家が適切に関与しているか等),審査・選考の公正性の確保(当該事業が審
査・選考を伴う場合,審査・選考が公正に行われることとなっているか等),10
その他(公益目的として設定した事業目的と異なり,業界団体の販売促進,
共同宣伝になっていないか等)に集約されることを参考にチェックするのが
有効であるとされており(甲3・51~52頁),その認定手法は合理性を
有するものと解される。
そこで,本件においても,本件ガイドラインの掲げるチェックポイントを15
参考に,本件登録管理事業が「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与する
もの」と認められるか否かを判断するのが相当である。
⑶ 事業目的
本件登録管理事業は,①延命措置の拒否,②緩和医療の依頼,③回復不能
な遷延性意識障害(持続的植物状態)時の生命維持措置の中止,という原告20
宣言書に記載された3点についてのリビング・ウィルを希望する者のみが利
用できるものであり,これら3点のうち一部のみを希望する者,これら3点
を希望しない者(延命措置を希望する者),これら3点に加えて他の点につ
いてもリビング・ウィルの作成を希望する者は,本件登録管理事業を利用で
きないことになり,本件登録管理事業の直接の受益者は,これら3点を希望25
して原告に入会した会員に限られる。
16
しかし,登記された原告の目的によれば,本件登録管理事業は,「終末期
における医療の選択の権利を守ることができる社会の実現をめざして,リビ
ング・ウイルの理解と普及をはかり,ひろく市民の人権の確立とその尊重に
寄与する」という目的を達成するために,原告による普及啓発事業,調査研
究及び提言事業と共に行われる事業の一つとされ(乙5・49頁),これら5
の事業が相まって,その受益の効果が広く社会全体や十分に広い範囲に及ぶ
ことを積極的に意図していることがうかがわれるから,不特定かつ多数の者
の利益の増進に寄与することが主たる目的として位置付けられているという
ことができ,不特定多数でない者の利益の増進への寄与を主たる目的に掲げ
ているものとはいえない。 10
したがって,事業の合目的性,すなわち事業の内容や手段が上記の事業目
的を実現するのに適切なものになっていることが肯定される場合には,本件
登録管理事業は,その事業を介して社会全体あるいは十分に広い範囲に利益
が及ぶものとして,「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するもの」に
該当するといえる。 15
⑷ 事業の合目的性
ア 受益の機会の公開
本件登録管理事業においては,満15歳以上で意思表明能力のある者で
あれば誰でも,原告宣言書及び入会申込書(甲11)に署名して原告に送
付し,所定の会費を納入することにより,原告宣言書を登録管理してもら20
うことができ(甲11,14),そのことは原告のホームページ(甲3
1)やパンフレット(甲30)を介して一般に公開されている。また,会
費の金額も,年会費が個人で2000円,夫婦で3000円,終身会員と
して一括納入する場合の会費が個人で7万円,夫婦で10万円と定められ
ており(甲11,14,30,31),不相当に高額であるとはいえない。 25
その結果,公益認定申請書によれば,原告の公益認定申請直前の平成2
17
7年11月末日時点での会員登録者(原告宣言書を登録管理されている
者)の数は,11万8000名余りとされており(乙5・4,6頁),本
件処分前の平成28年3月末時点での会員数も,11万6390名を数え
るに至っている(甲49)。
イ 事業の質を確保するための方策 5
原告宣言書は,平成23年6月,原告の前身である一般社団法人Aの社
員総会において改定されたものであるが,その改定に当たっては,医師等
の専門家が関与して,一定の質を保ったものとなっていることがうかがわ
れる(甲21)。
原告宣言書がリビング・ウィルとして一定の質を保ったものとなってい10
ることは,原告の会員ではないが,原告宣言書の趣旨を理解し,会員の力
になりたいと表明している「LW受容協力医師」が,本件処分前の平成2
8年3月末時点で1350名存在し(甲49),その約1年後には151
6名に増えていること(甲64),日本医師会会長であるD医師も平成2
8年9月24日発行の週刊誌の記事の中で「Aでしっかりした内容のもの15
を作っており,あの形式で問題はないだろうと私は思っている。」と述べ
ていること(甲40),改定前のものであるが,日本医師会第Ⅲ次生命倫
理懇談会がその報告書の中で原告宣言書を紹介し(甲36),日本公証法
学会の会員であるE公証人がその論文の中で原告宣言書を引用しているこ
と(甲39)などからも裏付けられる。 20
ウ 審査・選考の公正性の確保
本件登録管理事業においては,原告宣言書及び入会申込書(甲11)に
署名して原告に送付し,所定の会費を納入すれば誰でも原告宣言書を登録
管理してもらうことができ,原告において審査・選考を行うわけではない
から(甲14),審査・選考における公正性の確保は問題とならない。 25
エ その他
18
前記のとおり,登録管理のために必要な原告の会費は,不相当に高額で
あるとはいえない程度の金額があらかじめ定められており,高額のセミ
ナーを受講しなければ登録させない等,原告や業界団体の販売促進となっ
ているものではない。
オ 医師等に不利益を与える可能性を考慮することの可否について 5
申請事業が不特定かつ多数の者の利益を増進する側面を有する反面,同
時に一定の者に不利益を与える側面をも有している場合,そのような事業
の内容や手段は,事業目的を実現するのに適切なものとはいえず(事業の
合目的性が認められず),総合的にみて不特定かつ多数の者の「利益の増
進に寄与する」ものとはいえないと評価されることもあり得るというべき10
である。
したがって,公益目的事業該当性の判断において,申請事業が一定の者
に与える不利益を考慮することが違法であるとはいえない。
そこで,「医師等に与える影響」の有無,程度について,項を改めて検
討することとする。 15
⑸ 医師等に与える影響の有無,程度について
ア 公益認定の受け取られ方について
被告は,本件登録管理事業を公益目的事業と認めることは,延命措置の
中止等の判断に係る様々な要素の一部についてのみ国が積極的評価を与え
たと認識されると主張する。 20
しかし,認定法に基づいて行政庁がする公益認定は,申請事業が公益目
的事業,すなわち「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するもの」で
あると認定したことを意味し,その限度において積極的評価を与えている
ものではあるが,そのような法律上の位置付けを超えて,当該行政庁が当
該事業に賛同しているとか,当該行政庁の方針が当該事業を行う法人の方25
針と同一であるとかといったことまで意味するものではなく,医師等を含
19
む社会一般にもそのように受け取られるものと解される。
これを本件についてみると,本件登録管理事業を公益目的事業と認めた
場合,それは,内閣総理大臣が原告宣言書の登録管理という事業を「不特
定かつ多数の者の利益の増進に寄与するもの」であると認定したことを意
味し,医師等にもそのような認識を与えるものではあるが,国が延命措置5
の中止等について特定の立場(例えば,原告宣言書が規定する場合に延命
措置の中止等を行えば,民事上,刑事上又は行政上の責任を問わないとい
う立場)を支持しているとか,原告宣言書を含むリビング・ウィルを従前
とられていた解釈よりもさらに重視すべきとするのが国の方針であるとか
といったことまで意味するものではなく,医師等にも一般的にはそのよう10
に受け取られるものと解される。
本件登録管理事業が公益目的事業と認められた場合の医師等に与える影
響を考えるに当たっては,そのような受け取られ方を前提に判断すべきで
ある。
イ 終末期医療に関し社会的に多様な考えが混在していることと本件登録管15
理事業との関係について
(ア) 生と死に対する考え方,終末期医療のあるべき姿に対する考え方,
いわゆる尊厳死の捉え方などは,個々人によって様々であり,社会的に
も,多様な考えが混在していると認められる。
例えば,厚生労働省は,旧厚生省時代を含め,昭和62年以降,検20
討会を設置し,5年置きに終末期医療(あるいは末期医療,「人生の最
終段階における医療」)についての意識調査を行っているが(甲29,
46,乙16,17),本件処分時点で最新の平成25年の調査では,
「交通事故により心肺停止となったのち蘇生したものの,2週間を経過
した時点で意識はなく人工呼吸器と点滴を受けている場合」に,「状態25
が悪くなるのに対応して,薬の量や呼吸の補助のための機械の設定を増
20
やすなどの更なる治療」を「望まない」と回答した者は一般国民の79.
7%,「望む」は7.0%,「わからない」は10.2%であり,同様の
場合で,「現在の治療を継続すること」を「望まない」と回答した者は
一般国民の68.2%,「望む」は14.6%,「わからない」は14.
5%であった(乙16・15~17頁)。 5
このように,本件処分時点において,医学的に不治と思われる状況
での延命措置の開始・継続を望まない者が多数であるが,これを望む者
も存在し,また,延命が可能である限り延命措置を試みるという方針を
とる医師ないし医療・ケアチームの存在も想定され得るところである。
原告の本件登録管理事業も,登記された原告の目的も,そのような10
延命方向の希望・方針を否定するものではない(乙5・6~7,49~
55頁)から,本件登録管理事業が公益目的事業と認められたとしても,
そのような延命方向の希望・方針に対して消極的評価が与えられるもの
では全くない。
なお,上記意識調査において,自分で判断できなくなった場合に備15
えてどのような治療を受けたいか,あるいは受けたくないかなどを記載
した書面の取扱いについて,「書面に記載した希望を尊重しつつ,家族
等や医師又は医療・ケアチームの判断も取り入れながら,治療して欲し
い」と回答した者が一般国民の65.3%であり(乙16・13頁),
原告宣言書あるいは原告宣言書に限らないリビング・ウィルを作成した20
としても,医師等医療関係者がこれに拘束されるものではなく,一般国
民としてもそのように捉えている者が多数であるといえる。
(イ) 終末期における治療方針の決定においては,患者の意思が尊重さ
れるべきであるとの考え方は,厚生労働省の「人生の最終段階における
医療の決定プロセスに関するガイドライン」(平成19年5月策定,平25
成27年3月改訂。甲33の1・2。本件処分後の平成30年3月の改
21
訂では「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガ
イドライン」に題名が変更されている。甲87の1・2),日本医師会
の「グランドデザイン2007 -国民が安心できる最善の医療を目指
して- 各論」における「終末期医療のガイドライン」(平成19年8
月。乙19の1),「グランドデザイン2009 -国民の幸せを支える5
医療であるために-」における「終末期医療のガイドライン2009」
(平成21年2月。乙19の2),「医師の職業倫理指針第3版」(平成
28年10月。甲44),日本学術会議臨床医学委員会終末期医療分科
会の「終末期医療のあり方について -亜急性型の終末期について-」
(平成20年2月14日。乙20),日本集中治療医学会,日本救急医10
学会,日本循環器学会の「救急・集中治療における終末期医療に関する
ガイドライン ~3学会からの提言~」(平成26年11月4日。甲4
5),全日本病院協会の「終末期医療に関するガイドライン ~よりよ
い終末期を迎えるために~」(平成28年11月。乙21)等において
一致している。 15
したがって,治療方針決定時点において患者が意思を表明できない
ときでも,リビング・ウィルが存在し,その意思が確認できたときは,
医師等はその意思を尊重すべきであるとの考え方が一般的であるという
ことができ(このことは,医師等が常にリビング・ウィルに従わなけれ
ばならないことを意味しない。),そのことは,本件登録管理事業を公益20
目的事業と認めるか否かによって左右されるものではない。
本件登録管理事業が公益目的事業と認められたとしても,原告宣言
書を,あるいは原告宣言書に限らないリビング・ウィルを,上記各ガイ
ドライン等での位置付けを超えてより重視すべきことになるものではな
い。 25
ウ 終末期医療における医師等の責任について
22
(ア) 終末期医療における延命措置の中止等については,明確な法的位
置付けがなされているわけではなく,医師等が延命措置の中止等の措置
を講じ,その結果として患者が死亡するに至った場合,刑法上の殺人罪
(刑法199条)等に問われ,あるいは,民事上,行政上の責任を問わ
れる可能性がある(いずれも単なる延命措置の中止等ではなく積極的安5
楽死に関する刑事事件であるが,名古屋高裁昭和37年12月22日判
決・高等裁判所刑事判例集15巻9号674頁,横浜地裁平成7年3月
28日判決・判例タイムズ877号148頁[東海大学事件],最高裁
平成21年12月7日第三小法廷決定・刑集63巻11号1899頁
[川崎協同病院事件]等参照)。 10
平成24年には,終末期の延命措置の不開始を希望する患者の意思
を表示する書面などに従い延命措置の不開始等(第1案では不開始,第
2案では中止及び不開始)をした医師を免責することなどを盛り込んだ
「終末期医療における患者の意思の尊重に関する法律案(仮称)」の第
1案と第2案が「尊厳死法制化を考える議員連盟」から公表されたが,15
同法案には様々な反対があり,法案提出に至らなかった(乙22,2
3)。
なお,原告の前身である一般社団法人Aは,かつて尊厳死法制化活
動を行っていたが(乙1・8,34頁),現在の原告においては,尊厳
死法制化活動は,登記された原告の目的にも(乙5・49頁),平成220
7年度の事業活動にも(甲49)掲げられておらず,本件申請事業にも
含まれていない(乙5)。
(イ) このように,延命措置の中止等が認められる要件について,確立
した司法判断の枠組みはなく,医師等医療関係者は,延命措置の中止等
の判断に当たっては,常にその行為が刑事上その他の責任に問われる可25
能性の下で,慎重な判断を求められている現状にある。
23
しかし,そのことは,必ずしも終末期医療に限った問題ではなく,
医師等医療関係者は,人の生死を扱う以上,常にその行為が刑事上その
他の責任を問われる可能性の下,慎重な判断を求められているものであ
る。
また,終末期医療における延命措置の中止等の判断に当たり,その5
行為が刑事上その他の責任に問われる可能性があることは,本件登録管
理事業が公益目的事業と認められていない現状においても同様に問題と
なっているものである。
(ウ) この点,前記イ(イ)の厚生労働省や日本医師会等による各ガイド
ライン等は,いずれも,少なくとも一定の場合に延命措置の中止等が認10
められる場合があるとしており(甲33の1・2,甲44,甲87の
1・2,乙19の1・2,乙20,21),上記各ガイドライン等に
従って延命措置の中止等をした場合には,刑事上,民事上又は行政上の
責任を問われないことが多くなるものと推測される。
そのことは,本件登録管理事業が公益目的事業と認められると否と15
にかかわらないのであり,本件登録管理事業が公益目的事業と認められ
た場合であっても,医師等が上記各ガイドライン等に従って延命措置の
中止等を行う限り,刑事上,民事上又は行政上の責任を問われる可能性
が増大するとは解されない。
本件登録管理事業が普及することによって,原告宣言書を作成・登20
録する者が多くなり,その結果,患者の事前の意思が確認できて延命措
置の中止等が認められる場合が多くなるとしても,それは,個々の医師
等が上記各ガイドライン等に従った結果であり,本件登録管理事業が公
益目的事業と認められることによる結果ではない。
(エ) また,上記各ガイドライン等は,終末期医療における治療方針の25
決定に当たり,患者の意思の確認ができる場合であれば,患者と医療従
24
事者とが十分な話合いを行い,患者が意思決定を行い,医療従事者はそ
れを尊重することを求めており(甲33の1・2,甲44,甲87の
1・2,乙19の1・2,乙20,21),リビング・ウィルが存在す
るからといって,そのような意思確認のプロセスを省略してもよいもの
とはされていない。 5
本件登録管理事業が公益目的事業と認められ,原告について公益認
定がされた場合に,医師等の中に,公益認定の法律上の位置付けを超え
て国の方針を忖度し,原告宣言書を含むリビング・ウィルを過剰に重視
し,上記各ガイドライン等において認められている範囲を超え,意思確
認のプロセスを怠って延命措置の中止等を行い,刑事上その他の責任を10
問われる者が生じたとしても,そのような事態は,前記アで述べたとこ
ろからすれば,まれな事態というべきであって,医師等の一般的な傾向
としてそのような事態が生ずるものとは解されない。
(オ) そもそも,本件登録管理事業が公益目的事業と認められるか否か
にかかわらず,原告は一般財団法人として本件登録管理事業を行ってい15
る。
また,原告以外の機関が作成したリビング・ウィル,例えば,東京
都F市が作成する「F市エンディングノート」(甲32),愛知県G市が
様式を定めている「事前指示書」(甲38),公証人が事実実験公正証書
として作成し,あるいは私文書として認証する尊厳死宣言書(甲39,20
67),静岡県H市が作成する「リビング・ウィル島田版」(甲68),
Jが作成する「私の医療に対する希望(終末期になったとき)」(乙1
8),全日本病院協会が参考書式として定めている「終末期医療におけ
る意思表明(リヴィング・ウイル)」(乙21)といったリビング・ウィ
ルも利用されている。 25
これら一般財団法人である原告の原告宣言書や原告以外の者が作成
25
したリビング・ウィルを尊重して延命措置の中止等が行われた場合にお
いて医師が刑事上その他の責任を問われる可能性の程度は,これまで述
べてきたところに徴すれば,公益認定を受けた原告の原告宣言書を尊重
して延命措置の中止等を行った場合の可能性の程度と異なるものではな
い。 5
したがって,本件登録管理事業を公益目的事業と認めた場合に,医
師等の地位が,本件登録管理事業を公益目的事業と認めていない現状に
比べてより不安定となるものではない。
エ 以上によれば,本件登録管理事業を公益目的事業と認めた場合に,被告
の主張するような医師等に与える影響が生ずることが合理的に予測される10
とは認められない。
⑹ 以上のとおり,本件登録管理事業により一定の者に不利益が発生すると
いった事情は認められず,本件ガイドラインのチェックポイントに沿って上
記⑷の事情を総合的に考慮すれば,本件登録管理事業の内容や手段は事業目
的を実現するのに適切なものになっている(事業の合目的性がある)と認め15
るのが相当である。
したがって,本件登録管理事業は,「不特定かつ多数の者の利益の増進に
寄与するもの」として,公益目的事業に該当すると認められる。
⑺ そうすると,本件登録管理事業が公益目的事業に該当しないとして,原告
の認定法5条1号適合性及び同条8号適合性を否定した本件処分は,その前20
提を誤ったものとして違法であり,その余の点について判断するまでもなく,
取消しを免れない。
2 義務付けの訴えの当否(争点④)について
⑴ 上記1のとおり,本件処分は違法であって取り消されるべきものであるか
ら,本件の認定処分義務付けの訴えは,行政事件訴訟法37条の3第1項225
号の要件を満たし,適法である。
26
⑵ しかしながら,原告について公益認定がされるためには,原告が認定法5
条各号に掲げる基準の全てに適合すると認められることを要するところ,少
なくとも同条1号及び8号以外の各号適合性については具体的な主張立証が
ないから,原告がこれらの基準に適合すると認めることはできない。原告は,
本件処分において基準不適合の理由が提示されていないことから基準適合を5
擬制すべき旨を主張するが,独自の見解であり採用することはできない。
したがって,「行政庁がその処分若しくは裁決をすべきであることがその
処分若しくは裁決の根拠となる法令の規定から明らかである」とも,「行政
庁がその処分若しくは裁決をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくは
その濫用となる」とも認められないから,原告の認定処分の義務付け請求は,10
行政事件訴訟法37条の3第5項の本案要件を欠き,理由がない。
3 以上によれば,原告の請求のうち,本件処分の取消請求は理由があるから認
容し,認定処分の義務付け請求は理由がないから棄却することとして,主文の
とおり判決する。
15
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官 古 田 孝 夫
20
裁判官 西 村 康 夫
裁判官 味 元 厚 二 郎
25