21
ブラフマーによる男女分裂型創造神話の考察 ― 81 ― はじめに アルダナーリーシュヴァラ(Ardhanārīśvara)神(両性具有神)はインドやネパールの 寺院、門前町の店先、博物館など色々なところで出会える非常にポピュラーな存在である。 一般的に多産や男女の愛、性行為を司るとされ、現代ではそのセクシャリティーの特異性か ら性同一性障害者や同性愛者の崇拝対象ともなっている。しかし元々は、創造という役割を 持った存在であるとされている。インド神話研究者のW. Donigerやヒンドゥー教図像学研 究者S.Kramrischの先行研究によると、『リグ・ヴェーダ』における両性具有的創造主や男女 の対として現れる創造者がその起源であり、それから創造の役割がブラフマー神に受け継が れ、後にシヴァ神に移行したとしている 。実際、多くのヒンドゥー創造神話の中にアルダ ナーリーシュヴァラやそれに類する存在が登場し、創造行為を行なっている。故に、アルダ ナーリーシュヴァラを研究することは、ヒンドゥー創造神話の発展過程を解明するのに重要 な意味を持つと言うことが出来る。しかし、先に述べた先行研究者が大枠の研究を行なった 以外にアルダナーリーシュヴァラの文献学的研究はほとんどなされていないのが実情である。 そこで、本論文では詳細な文献学的研究を通じてアルダナーリーシュヴァラの発展過程を明 らかにすることを目標とし、その第一段階としてまず、アルダナーリーシュヴァラの成立に 関わると考えられる男女半身ずつのブラフマーによる創造神話について述べようと思う。ブ ラフマーの神話に先行して『マヌ法典 』にはブラフマンが男女に分裂する記述がある。 かの主(ブラフマン)は、自らの身体を二分して、半分によって男となり、半分で女と なり、彼女の中にヴィラージュを生み出した。『マヌ法典』1.32(渡瀬信之訳[渡瀬 1990 p.26]) ブラフマンとは、一般的に世界の最高原理で、「梵」と和訳される中性的存在であるが、 ウパニシャッド聖典成立の後期では男性神ブラフマーとしても考えられている。ここではそ ブラフマーによる男女分裂型創造神話の考察 文学研究科仏教学専攻博士後期課程1年 澤田 容子

ブラフマーによる男女分裂型創造神話の考察 · PDF fileo’bhavam 4 mune5 // 3a // ... jat brahmā so’bhavat purus 4 o virāt 4 // samrān 4 mānasarūpāt tu vairājas

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ブラフマーによる男女分裂型創造神話の考察

― 81 ―

はじめに

 アルダナーリーシュヴァラ(Ardhanārīśvara)神(両性具有神)はインドやネパールの

寺院、門前町の店先、博物館など色々なところで出会える非常にポピュラーな存在である。

一般的に多産や男女の愛、性行為を司るとされ、現代ではそのセクシャリティーの特異性か

ら性同一性障害者や同性愛者の崇拝対象ともなっている。しかし元々は、創造という役割を

持った存在であるとされている。インド神話研究者のW. Donigerやヒンドゥー教図像学研

究者S.Kramrischの先行研究によると、『リグ・ヴェーダ』における両性具有的創造主や男女

の対として現れる創造者がその起源であり、それから創造の役割がブラフマー神に受け継が

れ、後にシヴァ神に移行したとしている1。実際、多くのヒンドゥー創造神話の中にアルダ

ナーリーシュヴァラやそれに類する存在が登場し、創造行為を行なっている。故に、アルダ

ナーリーシュヴァラを研究することは、ヒンドゥー創造神話の発展過程を解明するのに重要

な意味を持つと言うことが出来る。しかし、先に述べた先行研究者が大枠の研究を行なった

以外にアルダナーリーシュヴァラの文献学的研究はほとんどなされていないのが実情である。

そこで、本論文では詳細な文献学的研究を通じてアルダナーリーシュヴァラの発展過程を明

らかにすることを目標とし、その第一段階としてまず、アルダナーリーシュヴァラの成立に

関わると考えられる男女半身ずつのブラフマーによる創造神話について述べようと思う。ブ

ラフマーの神話に先行して『マヌ法典2』にはブラフマンが男女に分裂する記述がある。

   かの主(ブラフマン)は、自らの身体を二分して、半分によって男となり、半分で女と

なり、彼女の中にヴィラージュを生み出した。『マヌ法典』1.32(渡瀬信之訳[渡瀬

1990 p.26])

 ブラフマンとは、一般的に世界の最高原理で、「梵」と和訳される中性的存在であるが、

ウパニシャッド聖典成立の後期では男性神ブラフマーとしても考えられている。ここではそ

ブラフマーによる男女分裂型創造神話の考察

文学研究科仏教学専攻博士後期課程1年

澤田 容子

― 82 ―

の意味でのブラフマンが男女に分裂して創造を始めるという形を取っている。W. Doniger

によると、男女に分裂する形は男女から一体に融合する形よりも先に出来上がったとされ3、

プラーナ聖典中にこの分裂型のブラフマーの記述が幾つか見られる。本論文では、プラーナ

聖典に記述される男女に分裂するブラフマーの創造神話を集め、同類の記述を含む要素別に

分類する。そして、神話の流れ、すなわち物語の基本形を探る。

ブラフマーの男女分裂型創造神話の考察

 ここから、プラーナ聖典及び『マヌ法典』に記述される、創造のために男女に分裂するブ

ラフマー(ブラフマン)の神話を分類し分析していこうと思う。まず大きく分けて要素は次

の7つである。

A4.発端;ブラフマーによる創造行為。

B.分裂;ブラフマーが半身ずつ男女に分裂する。

C.シャタルーパーの苦行;Bにおいて分裂した女性半身であるシャタルーパーが苦行する。

D.マヌとシャタルーパーに関する記述;マヌとシャタルーパーが夫婦関係になる。

E. マヌとシャタルーパーの子供たち;マヌとシャタルーパーがもうけた子供たちの名前を

並べる。

F. その後の系譜;マヌとシャタルーパーの娘たちが結婚し、そこからさらに子孫が生まれ

る。

G. ヴィラージュの創造;Bで男女に分裂した後、2人からヴィラージュが生まれるという

記述。

 以下にそれぞれの要素に該当する記述を分類する。

A.発端;ブラフマーによる創造行為。

A1.ブラフマーにより創造された者たちが繁栄しない。

 ①創造された者→生類

  evam4

bhūtes4

u lokes4

u brahman4

ā lokakartrn4 4

ā //

  yadā tā na pravarttante prajāh4

kenāpi hetunā // 1 //

   このように世界の創造者ブラフマーによって世界が創られたが、それらの生類はいかな

る原因によっても増えなかった。(『ヴァーユプラーナ』10)

  evam4

bhūtāni srst4 4 4

āni sthāvarān4

i carān4

i ca //

  yadāsya tāh4

prajāh4

srst4 4 4

ā na vyavarddhanta dhīmatah4

// 1 //

   このように〔ブラフマーによって〕動くものや動かないものという存在が生み出された。

彼の思考〔によるもの〕だったにもかかわらず、これらの創造された生類は繁栄しなか

ブラフマーによる男女分裂型創造神話の考察

― 83 ―

った。(『クールマプラーナ』1.8)

  āyatam4

ca prajāsargam4

sr4

jato ’pi prajāpateh4

//

  sr4

jyamānāh4

prajā naiva vivardhante yadā tadā // 52 //

   創造主(ブラフマー)からのたくさんの生類の創造がなされた時でも、創造された生類

は、全く繁栄(増殖)しなかった。(『ブラフマプラーナ』1)

  evam4

bhūtāni srst4 4 4

āni sthāvarān4

i carān4

i ca // 260b //

  yadāsya tāh4

prajāh4

srst4 4 4

ā na vyavardham4

ta sattamāh4

//

  tamomātrāvr4

to brahmā tadā śokena duh4

khitah4

// 261 //

   このように〔ブラフマーによって〕動くものや動かないものという存在が生み出された。

彼に創造されたこれらの素晴らしい生類は繁栄しなかったので、タマスのみに被われた

ブラフマーは、悲しみによって苦しんだ。(『リンガプラーナ』70)

 ②創造された者→神々

  manasā nirmitāh4

sarve devi devādayo mayā //

  na vr4

ddhim upagacchanti sr4

jyamānāh4

punah4

punah4

// 16 //

   女神よ。全ての神々たちは、私(ブラフマー)によって心で創られた。繰り返し創られ

たが、彼らは繁栄しなかった。(『シヴァプラーナ』7.1.16)

A2.ブラフマーが生類を創造するが満足しない。

  srst4 4 4

yam4

tān aparām4

ś cāpi nāham4

tust4 4

o ’bhavam4

mune5 // 3a //

   そして私(ブラフマー)は他の者たちを創造しても満足しなかった。聖仙よ。(『シヴァ

プラーナ』2.1.16)

A3.聖仙たちによる創造が進まずブラフマーが熟考する。

  rs 4 4

īn4

ām4

bhūrivīryān4

ām api sargam avistr4

tam //

  jñātvā tad vr4

ddhaye bhūyaś cintayāmāsa kaurava // 51 //

   聖仙たちの偉大な力によってでさえも発展しない創造を知って、彼(ブラフマー)は、

再びそれの増大のために熟考した。カウラヴァよ。(『バーガヴァタプラーナ』3.12)

A4.ブラフマーが創造のために苦行する。

  yam4

kālam4

te gatā brahmabrahmā tam4

kālam eva ca //

  tapo ghorataram4

bhūyah4

sam4

śritah4

paramam4

padam4

// 67 //

― 84 ―

   かの苦行をする聖仙たちが去ったまさにその時、〔ブラフマーは〕さらに非常に厳しい

最高の状態の段階の苦行をしていた。(『パドマプラーナ』1.40)

A5. 最初にブラフマーが原子レベルの創造をした後、その維持のためにヴィシュヌになり、

更に地球を水から持ち上げて世界創造を始めるためにヴァラーハになる6。(『カーリカ

ープラーナ』25.1-43)

A6.ブラフマンが世界創造と人類創造をする。(『マヌ法典』1.1-31[渡瀬 1990 pp.21-26])

 このようにブラフマーが男女に分裂するエピソードは、ブラフマーによる創造が行なわれ

ている過程において語られる。多くの記述は何らかの障害によって創造が困難であることを

物語っており、A5においても創造のために複数の神が登場し役割を分担しつつ世界を創っ

ていることからそれが容易ではないことを示している。その中でブラフマーが男女に分裂す

るエピソードは、創造を進展させる重要な役割を担っていると考えられる。

B.分裂;ブラフマーが半身ずつ男女に分裂する。

B1.ブラフマーが自分の意志で分裂する。

 ① 分裂した男性→ヴィラージュであり最初のスヴァーヤンブヴァという人間マヌ

  分裂した女性→シャタルーパー

  dvidhākarot sa tam4

deham arddhena purus4

o ’bhavat // 7b //

  arddhena nārī sā tasya śatarūpā vyajāyata // 8a //

   彼はその体を2つに分け、〔体の〕半身が男性になった。彼の半身がシャタルーパーと

いう女性として生まれた。

  bhartāran dīptayaśasam4

purus4

am4

pratyapadyata //

  sa vai svāyambhuvah4

pūrvam4

purus4

o manur ucyate // 11 //

   〔彼女は〕夫として輝く名声の男性を得た。彼こそ最初のスヴァーヤンブヴァという男

性マヌであると言われる。

  virājam asr4

jat brahmā so ’bhavat purus4

o virāt4

//

  samrān4

mānasarūpāt tu vairājas tu manuh4

smr4

tah4

// 14 //

  sa vairājah4

prajāsargah4

sa sarge purus4

o manuh4

// 15a //

   ブラフマーはヴィラージュを創った。ヴィラージュはその男性になった。支配者の精神

的な姿であるために、ヴァイラージャ・マヌと言われる。その人類創造はヴァイラージ

ャである。創造において、かのマヌは男性になった。(『ヴァーユプラーナ』10)

ブラフマーによる男女分裂型創造神話の考察

― 85 ―

  evam4

labdhvā parām4

śaktim īśvarād eva śāśvatīm //

  maithunaprabhavām4

srst4 4 4

im4

kartr4

kāmah4

prajāpatih4

// 1 //

  svayam apy adbhuto nārī cārddhena purus4

o ’bhavat //

  yārddhena nārī sā tasmāc chatarūpā vyajāyata // 2 //

  virājam asr4

jad brahmā so ’rddhena7 purus4

o ’bhavat //

  sa vai svāyam4

bhuvah4

pūrvam4

purus4

o manur ucyate // 3 //

   このように、神から最高で永遠のシャクティ(宇宙的根源力、女性原理)を得て、性交

による生殖という創造を欲する創造主(ブラフマー)は、自身でも〔半身によって〕女

性、半身によって男性という驚異的な姿になった。そこで、かの女性の半身からシャタ

ルーパーが生まれた(=女性の半身がシャタルーパーになった)。かのブラフマーは半

身によって男性になりヴィラージュを創った(=男性の半身がヴィラージュになった)。

彼こそがスヴァーヤンブヴァという最初の男性マヌであると言われる。(『シヴァプラー

ナ』7.1.17)

 ②分裂した男性→ヴィラージュでありスヴァーヤンブヴァ・マヌ神であり聖仙

  分裂した女性→吉祥なるヨーギニー(女性ヨーガ行者)のシャタルーパー

  dvidhākarot punard deham arddhena purus4

o ’bhavat //

  arddhena nārī purus4

o virājam asr4

jat prabuh4

// 6 //

  nārīm4

ca śatarūpākhyām4

yoginīm4

sasr4

je śubhām // 7a //

   さらに身体を2つにし、半身によって男性に、半身によって女性になった。男性神はヴ

ィラージュを創った。そして、彼は〔女性半身によって〕シャタルーパーという名の吉

祥なるヨーギニーの女性を創った。

  svāyam4

bhuvo manurd devah4

so ’bhavat purus4

o munih4

// 9a //

   その男性はスヴァーヤンブヴァ・マヌ神であり、聖仙であった。(『クールマプラーナ』

1.8)

 ③ 分裂した男性→ヴァイラージャ(ヴィラージュの息子)であり最初のスヴァーヤンブヴ

ァという人間マヌ

  分裂した女性→支配者シャタルーパー

  dvidhā kr4

tvā svakam4

deham ardhena purus4

o ’bhavat8 //

  ardhena nārī sā tasya śatarūpā vyajāyata // 267 //

   〔ブラフマーは〕自身の体を2つにし、半身によって男性になった。彼の半身がシャタ

ルーパーという女性として生まれた。

  sa vai svāyam4

bhuvah4

pūrvam4

purus4

o manur ucyate // 271a //

― 86 ―

  彼こそが最初のスヴァーヤンブヴァという男性マヌであると言われる。

  samrāt4

ca śatarūpā vai vairājah4

sa manuh4

smr4

tah4

//

  sa vairājah4

prajāsargam4

sasarja purus4

o manuh4

// 274 //

   そして、シャタルーパーは支配者になった。ヴァイラージャ(ヴィラージュの息子)は

マヌと言われる。かの男性ヴァイラージャ・マヌは人類創造をした。(『リンガプラー

ナ』70)

 ④分裂した男性→記述なし

   分裂した女性→シャタルーパー、サーヴィットリー、サラスヴァティー、ガーヤットリ

ー、ブラフマーニーと呼ばれる

  tatah4

sam4

japatas tasya bhittvā deham akalmas4

am // 30b //

  strīrūpam ardhan akarod ardham4

purus4

arūpavat //

  śatarūpā ca sā khyātā sāvitrī ca nigadyate // 31 //

  sarasvaty atha gāyatrī brahmān4

ī ca param4

tapa //

  tatah4

svadehasam4

sūtām ātmajām ity akalpayat // 32 //

   それから、唱える者(ブラフマー)は、汚れのない体を〔自分から〕分けて、半身を女

性の姿にし、半身を男性の姿にした。そして彼女はシャタルーパーと呼ばれ、サーヴィ

ットリーとも呼ばれた。さらにサラスヴァティー、ガーヤットリー、ブラフマーニーと

も〔呼ばれた〕。最高の苦行者よ。そして、自身の体から生み出された娘と考えた。

(『マツヤプラーナ』3)

 ⑤分裂した男性→記述なし

  分裂した女性→シャタルーパー

  dvidhā kr4

tvā ’’tmano deham ardhena purus4

o ’bhavat //

  ardhena narī tasyām4

tu so ’sr4

jad vividhāh4

prajāh4

// 53 //

   彼(ブラフマー)は、自身の身体を2つにし、半身によって男性に、半身によって女性

になった。彼は彼女と様々な種類の生類を創った。

  lebhe sa purus4

ah4

patnīm4

śatarūpām ayonijām // 58b //

   かの男性は、子宮から生まれたものではないシャタルーパーを妻として娶った。(『ブラ

フマプラーナ』1)

 ⑥分裂した男女はヴィラージュを創造

  tato brahmā dvidhā bhūtvā purus4

o ’rdhena so ’bhavat //

  ardhena nārī tasyām4

tu virājam asr4

jat prabhuh4

// 50 //

ブラフマーによる男女分裂型創造神話の考察

― 87 ―

   それからブラフマーは2つになって、半身によって彼は男性に、そして半身によって女

性になった。神と彼女はヴィラージュを創造した。(『カーリカープラーナ』25)

 ⑦分裂した男女はヴィラージュであるマヌを創造

  dvidhā kr4

tvātmano deham ardhena purus4

o ’bhavat //

  ardhena nārī tasyām4

sa virājam asr4

jat prabhuh4

// 32 //

  tapas taptvāsr4

jad yam4

tu sa svayam4

purus4

o virāt4

//

  tam4

mām4

vittāsya sarvasya srast4 4

āram4

dvijasattamāh4

// 33 //

   かの主(ブラフマン)は、自らの身体を二分して、半分によって男となり、半分で女と

なり、彼女の中にヴィラージュを生み出した。ブラーフマナのなかの最も優れた者たち

よ!かの男子ヴラージュが苦行を行なって自ら創造した者がこのいっさいの創造者であ

る私(マヌ)であるとしるべし。(『マヌ法典』1、渡瀬信之訳[渡瀬 1990 p.26])

B2.正しく行いをし運命を観察しているとブラフマーの身体が男女2つになる。

 男性→スヴァーヤンブヴァであり自己支配者であるマヌ

 女性→シャタルーパー

  evam4

yuktakr4

tas tasya daivam4

cāveks4

atas tadā //

  kasya rūpam abhūd dvedhā yat kāyam abhicaks4

ate // 53 //

  tābhyām4

rūpavibhāgābhyām4

mithunam4

samapadyata //

  yas tu tatra pumān so ’bhūn manuh4

svāyam4

bhuvah4

svarāt4

// 54 //

  strī yā ’’sīc chatarūpākhyā mahis4

yasya mahātmanah4

// 55a //

   このように正しく行いをし、彼が運命を観察している時、体の形が2つになった。それ

をkāya(身体)と呼ぶ。これらの姿が分裂した者によって、〔男女の〕一対を生み出し

た。そして、そのうちの男性〔部分〕はスヴァーヤンブヴァであり自己支配者であるマ

ヌになった。女性〔部分〕は、力強い偉大な魂を持つ人のシャタルーパーという名前を

持つ者になった。(『バーガヴァタプラーナ』3.12)

B3.シャンカラ(シヴァ)に促されブラフマーは分裂する。

 男性→最高の創造手段であるスヴァーヤンブヴァ、マヌ

 女性→吉祥なるヨーギニーであるシャタルーパー

  tato ’ham4

śam4

karen4

ātha prerito ’ntargatena9 ha //

  dvidhā kr4

tvātmano deham4

dvirūpaś cābhavam4

mune // 10 //

  arddhena nārī purus4

aś cārddhena sam4

tato mune // 11a //

   そして、それから、私(ブラフマー)は、私の中にあるシャンカラ(シヴァ)に促さ

― 88 ―

れ、自身の体を2つにして、2つの姿になった。聖仙よ。続けて、半身によって女性

に、半身によって男性になった。聖仙よ。

  svāyam4

bhuvo manus tatra purus4

ah4

parasādhanam //

  śatarūpābhidhā nārī yoginī sā tapasvinī // 12 //

  sā punar manunā tena gr4

hītātīva10 śobhanā // 13a //

   その中で、男性は最高の〔創造の〕手段であるスヴァーヤンブヴァになった。かの女性

はシャタルーパーと呼ばれるヨーギニー(ヨーガ行者)であり、苦行者である。さら

に、吉祥な彼女はかのマヌに受け入れられた。(『シヴァプラーナ』2.1.16)

B4.ブラフマーは1人で苦行できず体の半身から吉祥な妻を生み出す。

  na ca śaktas tato brahmā prabhur ekas tapaś caran //

  śarīrārdhāt tato bhāryām utpādayati tac chubhām // 68 //

   そして、ブラフマー神は1人では苦行できなかったので、彼は体の半身から、吉祥な妻

を生み出した。(『パドマプラーナ』1.40)

 ここでは、自分の身体を2つに分けるという形が基本である。

 多くの記述で女性部分の名をシャタルーパーと記述している。B1-④にもある通りシャ

タルーパーという名はブラフマーの配偶神サラスヴァティーの別名であり、半身同士の関係

性は夫婦である可能性がうかがえる。B4の記述も半身の女性を妻として生み出しており夫

婦関係がある。他の記述も多くが後に女性半身を妻にする11ことから、この半身同士には夫

婦関係が強くイメージ付けられていると言える。

 B1-①のヴィラージュとB1-②のヴァイラージャは、神話の内容から見て同じ存在を指

していると思われる。

 B1-⑥及び⑦の記述では、ヴィラージュは半身同士から創られたものとなっていること

から、半身の男性がブラフマー(もしくはブラフマン)そのものであって、分裂することに

よって男性半身が別の名を与えられたB1-①、②の記述とは若干異なっている。

 B3の記述では、分裂をシャンカラ(シヴァ)が指示する。これは、『シヴァプラーナ』が

シヴァを最高神とするシヴァ派に属するプラーナ聖典であることが理由と考えられる。

C. シャタルーパーの苦行;Bにおいて分裂した女性半身であるシャタルーパーが苦行する。

C1.1億年の間、厳しい苦行をした。

  yā tv arddhāt sr4

jate nārī śatarūpā vyajāyata //

  sā devī niyutan taptvā tapah4

paramaduścaram // 10 //

   一方、半身から創られたシャタルーパーという女神は、1億年の間、最高の厳しい苦行

ブラフマーによる男女分裂型創造神話の考察

― 89 ―

をした。(『ヴァーユプラーナ』10)

  yā tv ardhāt sr4

jato nārī śatarūpā vyajāyata // 269b //

  sā devī niyutam4

taptvā tapah4

paramaduścaram //

  bhartāram4

dīptayaśasam4

purus4

am4

pratyapadyata // 270 //

   一方、半身から創られたシャタルーパーという女神は、1億年の間、最高の厳しい苦行

をし、夫として輝く名声の男性を得た。(『リンガプラーナ』70)

C2.困難な苦行をした。

  sā devī śatarūpākhyā tapah4

kr4

tvā suduścaram // 9b //

  bharttāram4

dīptayaśasam4

manum evānvapadyata // 10a //

   かのシャタルーパーという名の女神は困難な苦行をし、夫として輝く名声のマヌを得

た。(『クールマプラーナ』1.8)

  sā devī śatarūpā tu tapah4

kr4

tvā suduścaram //

  bharttāram4

dīptayaśasam4

manum evānvapadyata // 4 //

   一方、かの女神シャタルーパーは困難な苦行をし、夫として輝く名声のマヌを得た。

(『シヴァプラーナ』7.1.17)

C3.シャタルーパーはヨーギニーであり苦行者である。

  śatarūpābhidhā nārī yoginī sā tapasvinī // 12b //

   かの女性はシャタルーパーと呼ばれるヨーギニーであり、苦行者である。(『シヴァプラ

ーナ』2.1.16)

 これは、続いて述べるDに関連するのだが、女性半身シャタルーパーは、男性半身マヌを

夫にするために苦行を行なうという記述である。

D.マヌとシャタルーパーに関する記述;マヌとシャタルーパーが夫婦関係になる。

D1.マヌがシャタルーパーを妻とした。

 ①マヌがシャタルーパーを娶る。

  lebhe sa purus4

ah4

patnīm4

śatarūpām ayonijām // 58b //

   かの男性は、子宮から生まれたものではないシャタルーパーを妻として娶った。(『ブラ

フマプラーナ』1)

― 90 ―

 ②シャタルーパーがマヌを得る。

  sā devī śatarūpā tu tapah4

kr4

tvā suduścaram //

  bharttāram4

dīptayaśasam4

manum evānvapadyata // 4 //

   一方、かの女神シャタルーパーは困難な苦行をし、夫として輝く名声のマヌを得た。

(『シヴァプラーナ』7.1.17)

D2. マヌがシャタルーパーを娶り、ラティという名前の起源が語られる。最初の結合がカ

ルパの初めに行われた。

  labdhā tu purus4

ah4

patnīm4

śatarūpām ayonijām // 12b //

  tayā sārdham4

sa ramate sārddham4

tasmāt sā ratir ucyate //

  prathamah4

sam4

prayogah4

sa kalpādau samavarttata // 13 //

   一方、男性は子宮から生まれたのではないシャタルーパーを妻にし、彼は、彼女と共に

楽しんだ(ramate<√ram)ので、彼女はラティ(rati=喜び)と呼ばれる。その最初

の結合が、カルパの初めに行われた。(『ヴァーユプラーナ』10)

  lebhe sa purus4

ah4

patnīm4

śatarūpām ayonijām //

  tayā sārdham4

sa ramate tasmāt sā ratir ucyate // 272 //

  prathamah4

sam4

prayogātmā kalpādau samapadyata // 273a //

   かの男性は子宮から生まれたのではないシャタルーパーを妻にし、彼は彼女と共に楽し

んだ(ramate<√ram)ので、彼女はラティ(rati=喜び)と呼ばれる。最初の自身の

〔半身同士の〕結合が、カルパの初めに起こった。(『リンガプラーナ』70)

D3.結婚儀礼と性交による創造。

  sā punar manunā tena gr4

hītātTva12 śobhanā //

  vivāhavidhinā tātāsr4

jat13 sargam4

samaithunam // 13 //

   さらに、結婚儀礼によって最高に吉祥な彼女はかのマヌに受け入れられた。愛しき者

よ。性交によって創造が起こった。(『シヴァプラーナ』2.1.16)

D4.夫婦関係となる。

  tadā mithunadharmen4

a prajā hy edhāmbabhūvire // 55b //

  その時、夫婦関係によって生類は実に繁栄した。(『バーガヴァタプラーナ』3.12)

 半身同士が夫婦になるという記述である。その中にラティという名前の起源や、性行為、

結婚儀礼の必要性が含まれている。特に性行為はラティという名前の起源にも関わっており

ブラフマーによる男女分裂型創造神話の考察

― 91 ―

重要視されていると考えられる。

 本論文で引用した全ての神話のB、C、Dの記述の中に、男性半身と女性半身が夫婦にな

る要素が盛り込まれている。

E. マヌとシャタルーパーの子供たち;マヌとシャタルーパーがもうけた子供たちの名前を

並べる。

E1.息子2人と娘2人

 ①2人の息子→プリヤヴラタとウッターナパーダ

  2人の娘→アークーティとプラスーティ

  tasmāc ca śatarūpā sā putradvayam asūyata // 10b //

  priyavratottānapādau kanyādvayam anuttamam //

  tayoh4

prasūtim4

daks4

āya manuh4

kanyām4

dade punah4

// 11 //

  prajāpatir athākūtim4

mānaso jagr4

he rucih4

// 12a //

   そして彼とそのシャタルーパーは二人の息子プリヤヴラタとウッターナパーダ、そして

二人の素晴らしい娘をもうけた。さらに彼女たちのうち、プラスーティという娘をマヌ

はダクシャに与えた。そして、心から生まれた創造者ルチはアークーティを娶った。

(『クールマプラーナ』1.8)

 ②2人の息子→プリヤヴラタとウッターナパーダ

  2人の娘→アークーティとプラスーティ

  +娘2人から生類が生まれた。

  vairājāt purus4

ād vīrāc chatarūpā vyajāyata // 15b //

  priyavratottānapādau putrau putravatām4

varau //

  kanye dve ca mahābhāge yābhyām4

jātāh4

prajās tv imāh4

// 16 //

  devī nāmnā tathākūtih4

prasūtiś caiva te śubhe // 17a //

   力強い男性ヴァイラージャとシャタルーパーは、さらに息子をもうけることを願って、

プリヤヴラタとウッターナパーダという2人の息子をもうけた。さらに2人の吉祥な娘

が〔生まれ〕、この2人からこれら(この世界)の生類は生まれた。彼(ヴァイラージ

ャ)の〔娘である〕吉祥な女神たちは、その名をアークーティとプラスーティという。

(『ヴァーユプラーナ』10)

  tasmāt tu śatarūpā sā putradvayam asūyata //

  priyavratottānapādau putrau putravatām4

varau // 5 //

  kanye dve ca mahābhāge yābhyām4

jātās tv imāh4

prajāh4

//

― 92 ―

  ākūtir ekā vijñeyā prasūtir aparā smr4

tā // 6 //

   一方、彼とそのシャタルーパーは2人の息子をもうけた。プリヤヴラタとウッターナパ

ーダという2人の息子は、子供を持てる親の一番素晴らしい息子たちである。さらに、

2人の吉祥な娘が〔生まれた〕。2人によってこれら(この世界)の生類は生まれた。

1人目(姉)がアークーティと知られるべきで、妹がプラスーティといわれる。(『シヴ

ァプラーナ』7.1.17)

  vairājāt purus4

ād vīrāc chatarūpā vyajāyata //

  priyavratottānapādau putrau dvau lokasam4

matau // 275 //

  kanye dve ca mahābhāge yābhyām4

jātā imāh4

prajāh4

//

  devī nāma tathākūtih4

prasūtiś caiva te ubhe // 276 //

   力強い男性ヴァイラージャとシャタルーパーは、世界から尊敬される2人の息子プリヤ

ヴラタとウッターナパーダをもうけた。さらに、2人の吉祥な娘が〔生まれ〕、この2

人からこれら(この世界)の生類は生まれた。2人の女神たちは、その名をアークーテ

ィとプラスーティという。(『リンガプラーナ』70)

E2.息子2人と娘3人

 2人の息子→プリヤヴラタとウッターナパーダ

 3人の娘→アークーティとデーヴァフーティとプラスーティ

  tasyām4

tena samutpannas tanayaś ca priyavratah4

//

  tathaivottānapādaś ca tathā kanyā trayam4

punah4

// 14 //

  ākūtir devahūtiś ca prasūtir iti viśrutāh4

// 15a //

   それによって、2人には家族が増え、プリヤヴラタとウッターナパーダ、更に3人の

娘、アークーティ、デーヴァフーティ、プラスーティが生まれた。〔彼らは〕有名であ

る。(『シヴァプラーナ』2.1.16)

  sa cāpi śatarūpāyām4

pañcā ’patyāny ajījanat //

  priyavratottānapādau tisrah4

kanyāś ca bhārata //

  ākūtir devahūtiś ca prasūtir iti sattama // 56 //

   また、彼はさらにシャタルーパーとの間に、プリヤヴラタ、ウッターナパーダと3人の

娘アークーティ、デーヴァフーティ、プラスーティという5人の子を授かった。バラタ

族の長よ。(『バーガヴァタプラーナ』3.12)

 プリヤヴラタとウッターナパーダという2人の息子の記述は一致している。しかし、娘が

ブラフマーによる男女分裂型創造神話の考察

― 93 ―

アークーティとプラスーティの2人であるか、そこにデーヴァフーティが加わるかで、娘の

人数の記述が分かれた。

F. その後の系譜;マヌとシャタルーパーの娘たちが結婚し、そこからさらに子孫が生まれ

る。

F1. マヌはプラスーティをダクシャに与え、アークーティを創造主ルチに与えた。アーク

ーティとルチに双子ヤジュニャとダクシナーが生まれた。

  svāyambhuvah4

prasūtin tu daks4

āya vyasr4

jat prabhuh4

// 17b //

  prān4

o daks4

as tu vijñeyah4

san4kalpo manur ucyate //

  ruceh4

prajāpateś caiva ākūtim4

pratyapādayat // 18 //

  ākūtyām4

mithunam4

yajñe mānasasya ruceh4

śubham //

  yajñaś ca daks4

in4

ā caiva yamakau sambabhūvatuh4

// 19 //

   スヴァーヤンブヴァ神(マヌ)はプラスーティをダクシャに与えた。まさにダクシャは

プラーナ(呼吸)として知られ、サンカルパ(誓願)・マヌと言われる。彼は創造主ル

チにアークーティを与えた。心から生まれたルチとアークーティは吉祥なる双子をもう

けた。〔その〕双子こそヤジュニャとダクシナーである。(『ヴァーユプラーナ』10)

  tayoh4

prasūtim4

daks4

āya manuh4

kanyām4

dade punah4

// 11b //

  prajāpatir athākūtim4

mānaso jagr4

he rucih4

//

  ākūtyā mithunam4

jajñe mānasasya ruceh4

śubham // 12 //

  yajñasya daks4

in4

ām4

caiva yābhyām4

sam4

varddhitam4

jagat //

  yajñasya daks4

in4

āyām4

ca putrā dvādaśa jajñire // 13 //

   彼女たちのうち、プラスーティという娘をマヌはダクシャに与えた。そして、心から生

まれた創造者ルチはアークーティを娶った。心から生まれたルチとアークーティは吉祥

なる双子をもうけた。その〔双子である〕ヤジュニャとダクシナーから世界は繁栄した。

そしてヤジュニャとダクシナーに12人の息子たちが生まれた。(『クールマプラーナ』

1.8)

  svāyam4

bhuvah4

prasūtim4

ca dadau daks4

āya tām4

prabhuh4

//

  ruceh4

prajāpatiś caiva cākūtim4

samapādayat // 7 //

  ākūtyām4

mithunam4

jajñe mānasasya ruceh4

śubham //

  yajñaś ca daks4

in4

ā caiva yābhyām4

sam4

vartitam4

jagat // 8 //

   そしてスヴァーヤンブヴァ神は、かのプラスーティをダクシャに与えた。創造主(ブラ

フマー)は、さらにアークーティをルチに与えた。心から生まれたルチとアークーティ

― 94 ―

はヤジュニャとダクシナーという吉祥なる双子をもうけた。彼ら2人によって世界は発

展した。(『シヴァプラーナ』7.1.17)

  svāyam4

bhuvah4

prasūtim4

tu daks4

āya pradadau prabhuh4

//

  prān4

o daks4

a iti jñeyah4

sam4

kalpo manur ucyate // 277 //

  ruceh4

prajāpateh4

so ’tha14 ākūtim4

pratyapādayat //

  ākūtyām4

mithunam4

jajñe mānasasya ruceh4

śubham // 278 //

  yajñaś ca daks4

in4

ā caiva yamalau sam4

babhūvatuh4

//

  yajñasya daks4

in4

āyām4

tu putrā dvādaśa jajñire // 279 //

   スヴァーヤンブヴァ神(マヌ)はプラスーティをダクシャに与えた。ダクシャはプラー

ナ(呼吸)として知られ、サンカルパ(誓願)・マヌと言われる。そして、彼は創造主

ルチにアークーティを与えた。心から生まれたルチとアークーティは吉祥なる双子をも

うけた。ヤジュニャとダクシナーとは双子として生まれた。ヤジュニャとダクシナーは

12人の息子をもうけた。(『リンガプラーナ』70)

F2. マヌはアークーティをルチに、デーヴァフーティをカルダマに、プラスーティをダク

シャに与えた。アークーティとルチに双子ヤジュニャとダクシナーが生まれた。

  ākūtim4

rucaye prādāt kardamāya tu madhyamām // 15b //

  dadau prasūtim4

daks4

āyottānapādānujām4

sutāh4

//

  tāsām4

prasūtiprasavais sarvam4

vyāptam4

carācaram // 16 //

  ākūtyām4

ca ruceś cābhūd dvam4

dvam4

yajñaś ca daks4

in4

ā //

  yajñasya jajñire putrā dakśin4

āyām4

ca dvādaśa // 17 //

   彼(マヌ)はアークーティをルチに、そして真ん中の娘をカルダマに与えた。ウッター

ナパーダの末の妹プラスーティをダクシャに与えた。彼女たちの子供や子孫たちによっ

て、全ての動くものや動かないものが〔世界に〕満ちた。さらにアークーティとルチに

ヤジュニャとダクシナーという双子が生まれた。そしてヤジュニャとダクシナーに12人

の息子が生まれた。(『シヴァプラーナ』2.1.16)

 全ての記述が、アークーティとルチ、プラスーティとダクシャが結婚し、さらにアークー

ティとルチからヤジュニャとダクシナーという双子が生まれるという内容で一致した。

G. ヴィラージュの創造;Bで男女に分裂した後、2人からヴィラージュが生まれるという

記述。

 ①tato brahmā dvidhā bhūtvā purus4

o ’rdhena so ’bhavat //

ブラフマーによる男女分裂型創造神話の考察

― 95 ―

  ardhena nārī tasyām4

tu virājam asr4

jat prabhuh4

// 50 //

  tām4

āha bhagavān brahmā kuru srst4 4 4

im4

prajāpate //

  tapas taptvā virāt4

so ’pi manum4

svāyambhuvam4

tatah4

// 51 //

  sasarja so ’pi tapasā brahmān4

am4

paryatos4

ayat //

  tos4

itas tena manasā daks4

am4

srst4 4 4

yai sasarja sah4

// 52 //

   それからブラフマーは2つになって、半身によって彼は男性となった。そしてもう半身

によって女性になった。神と彼女はヴィラージュを創造した。ブラフマー神は彼に言っ

た。「創造をせよ。創造主よ。」そこで、かのヴィラージュも、苦行をし、スヴァーヤン

ブヴァ・マヌを創った。彼はまた、苦行によってブラフマーを満足させた。満足した彼

(ブラフマー)は、彼(ブラフマー)の心によって、〔さらなる〕創造のためにダクシャ

を創った。

  etān utpādya manasā manum4

svāyambhuvam4

punah4

//

  yūyam4

sr4

jadhvam ity uktvā lokeśo ’ntardadhe punah4

// 55 //

   世界の神(ブラフマー)は、彼らを心から生み出した後、さらにスヴァーヤンブヴァ・

マヌに「汝等は創造をせよ。」と言って再び消えた。(『カーリカープラーナ』25)

 ②dvidhā kr4

tvātmano deham ardhena purus4

o ’bhavat //

  ardhena nārī tasyām4

sa virājam asr4

jat prabhuh4

// 32 //

  tapas taptvāsr4

jad yam4

tu sa svayam4

purus4

o virāt4

//

  tam4

mām4

vittāsya sarvasya srast4 4

āram4

dvijasattamāh4

// 33 //

   かの主(ブラフマン)は、自らの身体を二分して、半分によって男となり、半分で女と

なり、彼女の中にヴィラージュを生み出した。ブラーフマナのなかの最も優れた者たち

よ!かの男子ヴィラージュが苦行を行なって自ら創造した者がこのいっさいの創造者で

ある私(マヌ)であるとしるべし。(『マヌ法典』1、渡瀬信之訳[渡瀬 1990 p.26])

 いずれも男女からヴィラージュが生まれ、そのヴィラージュからマヌが創られたという記

述で一致している。

 次に、それぞれの要素の記述を物語の流れにそって配置すると以下のようになる(表1)。

― 96 ―

文献

名/

要素

A:

発端

B:分

裂C:

シャ

タル

ーパ

ーの

苦行

D:マ

ヌと

シャ

タル

ーパ

ーに

関す

る記

E:マ

ヌと

シャ

タル

ーパ

ーの

子供

たち

F:そ

の後

の系

譜G:

ヴィ

ラー

ジュ

の創

ヴァ

ーユ

プラ

ーナ

10A

1-①

B1-①

C1D

2E1

-②F1

カー

リカ

ープ

ラー

ナ25

A5

B1-⑥

G

クー

ルマ

プラ

ーナ

1.8

A1-

①B1

-②C3

E1-①

F1

シウ

゙ァプ

ラー

ナ2.

1.16

A2

B3C1

D3

E2F2

シウ

゙ァプ

ラー

ナ7.

1.16

.-17

A1-

②B1

-①C2

D1-

②E1

-②F1

バー

ガウ

゙ァタ

プラ

ーナ

3.12

A3

B2D

4E2

パド

マプ

ラー

ナ1.

40A

4B4

ブラ

フマ

プラ

ーナ

1A

1-①

B1-⑤

D1-

マツ

ヤプ

ラー

ナ3

B1-④

リン

ガプ

ラー

ナ70

A1-

①B1

-③C1

D2

E1-②

F1

マヌ

法典

1A

6B1

-⑦G

表1 ブラフマー神の分裂による創造神話の流れ

ブラフマーによる男女分裂型創造神話の考察

― 97 ―

 表にすると、全体的な流れが2つのパターンになっていることが見えてくる。

【パターン1】

 A、発端

  ↓

 B、分裂

  ↓

 C、シャタルーパーの苦行

  ↓

 D、マヌとシャタルーパーに関する記述

  ↓

 E、マヌとシャタルーパーの子供たち

  ↓

 F、その後の系譜

【パターン2】

 A、発端

  ↓

 B、分裂

  ↓

 G、ヴィラージュの創造

 パターン2は、『マヌ法典』と『カーリカープラーナ』のみであり、『カーリカープラー

ナ』の成立年代が10世紀~11世紀前半頃と推定される15ため、『カーリカープラーナ』は『マ

ヌ法典』を模倣したものと考えられる。

 パターン1とパターン2を比べると、実際にプラーナ聖典の成立年代が明確でないためど

ちらが先行するかは特定できないが、プラーナ聖典においてはパターン1が多数を占め、加

えてパターン2の『カーリカープラーナ』がプラーナ聖典の中では比較的後期のものと考え

られることから、パターン1が基本的な流れではないかと考えられる。さらに、パターン1

におけるC~Fの記述とパターン2におけるHの記述には、同じ名前の存在が登場したり、

分裂後にも創造が続いていくことなど、一致点が多いため、ほぼ同様の流れと考えることも

出来る。

― 98 ―

おわりに

 以上のように、ブラフマーによる男女分裂型創造神話はほぼ同一の、もしくは類似する2

つの流れにパターン化することができる。故に、神話の形はほぼ定形化されたものであり、

この流れを基本形と断定して差し支えないだろう。 

本論文では、ブラフマーの男女分裂型創造神話の物語の根幹に関わる部分についてのみ言及

したが、その周辺に点在する要素やシヴァの男女分裂型創造神話、双方の神話の比較につい

ても同時に考察しているので、別の機会があればそちらも発表する予定である。ブラフマー

とシヴァの男女分裂型創造神話の全ての要素と、ブラフマー神話とシヴァ神話の要素や基本

形の比較など全てを合わせて考察することにより、プラーナ聖典の創造神話における分裂型

アルダナーリーシュヴァラの成立過程ははじめて十全に解明されることとなろう。

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1 [O’Flaherty 1980 pp.310-312]、[Kramrisch 1981 pp.200-201]2 紀元前2世紀から紀元後2世紀の間に成立したとされる。3 [O’Flaherty 1980 p.314]4 ここでは便宜的にアルファベットによって分類した。5 ’bhavamuneを’bhavam

4

muneに訂正。6 原文と翻訳は省略する。7 ’ddhanaを’rddhenaに訂正。8 purus

4

obhavatをpurus4

o’bhavatに訂正。

― 100 ―

9 ’targatenaを’ntargatenaに訂正。10 gr

4

hītā tīvaをgr4

hītātīvaに訂正。11 後述のDを参照。12 gr

4

hītā tīvaをgr4

hītātīvaに訂正。13 tātā ’sr

4

jatをtātāsr4

jatに訂正。14 sothaをso ’thaに訂正。15 [Rocher 1986 p.182]

ブラフマーによる男女分裂型創造神話の考察

― 101 ―

 In Hinduism, Ardhanārīśvara, the androgynous form of Śiva, is believed as the god who

presides over the creation, as well as the fertility and sexual conduct of human beings.

However, its scriptural study has not been carried fully so far. While having doing

research on the origin of Ardhanārīśvara’s birth, I realized that Brahmā’s myth of creation

might proceed to Ardhanārīśvara myth. Accordingly, this paper aims to examine the

patterns of the myth that Brahmā splits himself into man and woman in the beginning of

creation, and this kind of study may contribute to the elucidation of Hindu creation myth.

 For tracing the Brahmā’s myth of creation, at first I extracted the applicable stories

from the following Sanskrit texts; Bha-gavata-pura-n3

a, Brahma-pura-n3

a, Ka- lika- -pura-n3

a,

Ku-rma-pura-n3

a, Lin3

ga-pura-n3

a, Matsya-pura-n3

a, Padma-pura-n3

a, Siva-pura-n3

a, Va- yu-pura-n3

a and

Ma-nava-dharmasa-stra, then distributed each discription into similar elements, and finally

traced the flow of story. From these analytical and comparative works, one pattern or two

similar patterns were found.

 ① Creation of Brahmā→ To split himself into man and woman by Brahmā→ Asceticism

of the woman-half → Marriage between manu, the man-half and Śatarūpā, the woman-

half → To have children by them → Beginning of human prosperoty from the children

(Especially daughters )

 ② Creation of Brahmā→ To split himself into man and woman by Brahmā→ To have

Virāj by them → To create manu, Creator by Virāj ( Pattern② has a lot of parallels and

a similar flow of story with Pattern① )

Brahmā’s Myth of Creation of Man and Woman

SAWATA, Yoko