41
診療ガイドライン 3章 骨 肉 腫 骨形成,骨成長,骨代謝に関与する骨芽細胞や破骨細胞が悪性化した骨肉腫は,50 万〜100 万人に 1 人の発生率と,希少がんの一つであり,原発性悪性骨腫瘍の中では 最も多い悪性腫瘍である。小児,若年者に多く,膝,股関節,肩関節周辺の骨芽細胞の 新陳代謝が旺盛な骨端,骨幹端周辺中心に多く発生する代表的な小児がんである。しか し,成人や高齢者でも,少ないながら脊椎や骨盤の扁平骨の発生例や二次性骨肉腫の発 生が観察される。 骨代謝に関係する細胞は,様々な線維基質,軟骨基質,骨基質などを産生する能力を もち,骨代謝関連細胞が悪性化した骨肉腫細胞は,細胞形態を変化させ,多くの基質を 産生し,様々な組織像を示す。骨肉腫内に産生した各基質量の違いは,様々な画像所見 や病理所見の違いを引き起こし,細かく分類されている(CQ 2,表 1 参照)。臨床上, 組織学的特徴が骨肉腫に類似している骨悪性線維性組織球腫(malignant fibrous histiocytoma of bone:骨 MFH)は,腫瘍性の骨梁,骨組織をもたないが,骨肉腫 の組織学的亜型と考えられている。 低悪性度骨肉腫群は,外科完全切除のみが根治的治療法であり,化学療法や放射線治 療は無効である。再発に際して悪性度が高まることが観察され,脱分化現象と呼ばれて いる。脱分化の時期は予測し難く,脱分化後の治療方法は確立されておらず,未だ予後 不良である。 30 年前,高悪性度の通常型骨肉腫は,四肢原発限局例でも切断後の 5 年生存率は 10 %と極めて予後不良であった。その後,外科治療前後に有効な化学療法を補助的に 併用する治療体系に関するエビデンスが集積された。欧米の大規模共同研究やわが国の 治療成績は,術前,術後化学療法と治癒的切除の集学的治療で,限局型四肢原発骨肉腫 症例においては,10 年生存率は 60 %を超え,80 %以上の患者で患肢温存が行われ るようになっている。 はじめに

骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

診療ガイドライン

3 章

骨 肉 腫

骨形成,骨成長,骨代謝に関与する骨芽細胞や破骨細胞が悪性化した骨肉腫は,50

万〜100 万人に 1 人の発生率と,希少がんの一つであり,原発性悪性骨腫瘍の中では

最も多い悪性腫瘍である。小児,若年者に多く,膝,股関節,肩関節周辺の骨芽細胞の

新陳代謝が旺盛な骨端,骨幹端周辺中心に多く発生する代表的な小児がんである。しか

し,成人や高齢者でも,少ないながら脊椎や骨盤の扁平骨の発生例や二次性骨肉腫の発

生が観察される。

骨代謝に関係する細胞は,様々な線維基質,軟骨基質,骨基質などを産生する能力を

もち,骨代謝関連細胞が悪性化した骨肉腫細胞は,細胞形態を変化させ,多くの基質を

産生し,様々な組織像を示す。骨肉腫内に産生した各基質量の違いは,様々な画像所見

や病理所見の違いを引き起こし,細かく分類されている(CQ 2,表 1 参照)。臨床上,

組織学的特徴が骨肉腫に類似している骨悪性線維性組織球腫(malignant fibrous

histiocytoma of bone:骨 MFH)は,腫瘍性の骨梁,骨組織をもたないが,骨肉腫

の組織学的亜型と考えられている。

低悪性度骨肉腫群は,外科完全切除のみが根治的治療法であり,化学療法や放射線治

療は無効である。再発に際して悪性度が高まることが観察され,脱分化現象と呼ばれて

いる。脱分化の時期は予測し難く,脱分化後の治療方法は確立されておらず,未だ予後

不良である。

30 年前,高悪性度の通常型骨肉腫は,四肢原発限局例でも切断後の 5 年生存率は

10 %と極めて予後不良であった。その後,外科治療前後に有効な化学療法を補助的に

併用する治療体系に関するエビデンスが集積された。欧米の大規模共同研究やわが国の

治療成績は,術前,術後化学療法と治癒的切除の集学的治療で,限局型四肢原発骨肉腫

症例においては,10 年生存率は 60 %を超え,80 %以上の患者で患肢温存が行われ

るようになっている。

はじめに

Page 2: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

98

3 骨肉腫

Ⅰ 診療アルゴリズム

骨腫瘍疑い

単純X線,CT外傷・炎症 良性骨腫瘍

生検,病理診断

術後病理切除縁

悪性骨腫瘍疑いCQ 1, 2

低悪性度骨肉腫CQ 7

通常型骨肉腫

病期画像診断CQ 3, 5

画像切除縁診断CQ 4, 8

IIb,通常リスク局所進行例

(骨盤,巨大腫瘍,病的骨折)

遠隔転移

術前化学療法

辺縁切除縁広範切除縁

辺縁切除縁 腫瘍内切除縁

術後化学療法

広範切除縁

広範切除

腫瘍内切除縁

通常奏効性

著効切 断

画像切除縁診断CQ 4, 8

広範切除縁辺縁切除縁 腫瘍内切除縁

広範切除辺縁切除

腫瘍内切除

追加切除切 断

切 断

経過観察画像奏効性診断CQ 6

術後病理切除縁

辺縁切除

経過観察

広範切除,切断

術後化学療法

辺縁切除CQ 9

1─診断・治療

CQ 16CQ 14, 15

Page 3: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

99

3

骨肉腫

組織学的効果判定

著 効CQ 9

化学療法組織学的効果判定評価CQ 13

術後化学療法CQ 12

広範切除・辺縁切除肉眼的陰性

無増悪生存率80%

無増悪生存率 30~40%

通常の奏効CQ 8

病理的切除縁CQ 8

追加切断,広範切断CQ 11

CQ 10

術後化学療法CQ 12

無 効

術後化学療法CQ 12

広範切除顕微鏡的陰性

無増悪生存率50~60%

腫瘍内切除縁肉眼的腫瘍残存

術後化学療法

辺縁切除縁顕微鏡的腫瘍残存

治療的切除縁十分な切除縁

補助局所療法

2─標準リスク

Page 4: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

100

3 骨肉腫

Ⅱ クリニカルクエスチョン一覧

診断 CQ 1  �骨肉腫/骨原発悪性線維性組織球腫(骨MFH)を疑ったときの初期対応は?

CQ 2  骨肉腫/骨MFHの診断にあたって重要なことは?CQ 3  �骨肉腫/骨MFHの確定診断や病期診断のために必要な検査,画像診断検

査は?CQ 4  画像検査により,外科治療はどのように計画するのか?CQ 5  多くの予後不良因子をもつ症例は,治療方法を変更すべきか?CQ 6  術前化学療法の治療効果は,画像検査で評価できるか?

手術療法 CQ 7  低悪性度骨肉腫/骨MFHの治療方法は?CQ 8  通常型骨肉腫/骨MFHの標準的外科治療法は?CQ 9  術前化学療法が著効した場合,縮小手術は可能か?�CQ 10 局所再発の場合の治療方法は?CQ 11 切断,離断を行う際に,どのような検討を行うべきか?

化学療法 CQ 12 通常型骨肉腫は,補助化学療法が必要か?CQ 13 一期的に手術可能な高悪性度骨肉腫に術前化学療法は必要か?

局所進行例集学的治療

CQ 14 骨盤発生の骨肉腫に対して,術前化学療法を行うべきか?CQ 15 病的骨折を併発した骨肉腫に対する患肢温存手術の妥当性は?

セカンドラインの治療

CQ 16 �骨肉腫/骨MFHの肺転移例に対して,外科切除と化学療法は行うか?

Page 5: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

101

3

骨肉腫

診断,治療のアルゴリズムと各段階でのクリニカルクエスチョンについて

小児から若年者に好発する四肢原発通常型骨肉腫は,痛み,腫脹,機能障害や骨由来の血清アルカリホスファターゼ値上昇が観察されるのみで,早期診断を可能とする特徴的な徴候はない。単純 X 線写真や CT 画像から,軽微な骨,骨皮質破壊像や骨外軟部腫瘤を発見して,MRI 画像を撮像することで骨内に形成された腫瘍を早期に発見することが唯一の早期診断方法である(CQ 1)。

骨肉腫の診断は,X 線(単純 X 線,CT)と MRI による画像診断と病理診断を組み合わせて行われ(CQ 2),病期診断は全身 CT 検査,骨シンチグラフィーで行われる

(CQ 3)。手術療法の切除縁は MRI 画像をもとに計画を立て(CQ 4),化学療法の臨床効果判定は,古くは血管造影検査を使って,最近は造影 MRI 画像での血管新生の減弱,Tl シンチグラフィー,PET シンチグラフィーの取り込みの低下を参考に評価することができる(CQ 6)。治療成績に大きく関与する病理学的切除縁評価や組織学的効果判定を行って,治療の効果や手術手技の精度を評価し,それに合わせて術後の治療方法や経過観察方法が選択される。

MRI 画像で判別される腫瘍辺縁から 3 cm 以上の健常組織と腫瘍の浸潤を認めない健常筋膜や脂肪組織(腫瘍が浸潤しにくく,障壁:バリアー)とともに骨肉腫原発巣を切除,切断すれば局所制御率は 90 %である(CQ 7)。切除後の関節機能,支持性再建方法も様々開発され,腫瘍用人工関節(股関節,膝関節,肩関節用のモデルは実用化され,数種類市販されている)による再建や仮骨形成脚延長術や血管柄付き複合組織移植を利用した再建方法が実施されている。

骨肉腫に対する有用性が確認されている抗がん剤である大量メトトレキサート(MTX)療法,ドキソルビシン(DXR),シスプラチン(CDDP),イホスファミド(IFM)を併用ないし交互に投与する術前,術後補助化学療法を 6〜8 カ月間を行うことにより,手術単独時代の 5 年生存率が 10 %であった限局例(M0)は,10 年生存率60 %以上が期待できるようになった(CQ 12,13)。導入化学療法は,原発巣に対する切除手技の安全性,簡便性を高めることに寄与し(CQ 12),更に術前治療が著効した場合には腫瘍辺縁での切除も可能な場合があるが,未だ実験的段階である(CQ 9)。局所再発後の予後は不良で(CQ 10),切除困難な場合は,離断,切断を実施すべきである(CQ 11)。局所進行例が多い骨盤発生骨肉腫(CQ 14)や病的骨折(CQ 15),また,遠隔転移を併発した初診時進行例(M1)も,導入化学療法後,残存腫瘍を外科的完全切除する戦略で 20〜30 %の 5 年生存率が報告されるようになり,化学療法が治療成績向上に貢献した(CQ 16)。

遠隔転移での再発の約 9 割が肺転移で,骨転移の合併が 1〜2 割である。局所再発は,四肢原発骨肉腫患肢温存例で 10 %程度観察される。化学療法無効例で無理に患肢温存手技を行うと 30 %程度の再発が観察され,わが国の骨軟部腫瘍手術手技研究会による前方視的集積研究の解析では化学療法の無効例は 3 cm 以上の切除縁を確保した十分な広範切除,切断術が推奨される。肺転移再発後の根治率は 10〜20 %であり,肺外転移

Page 6: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

102

や外科的に肺転移を完全切除できない場合は,救済することは非常に難しい。局所再発は肺転移再発と同等かむしろ予後不良であり,四肢症例で根治率は 10 %,骨盤発生骨肉腫の局所再発症例の生存は皆無である(CQ 15)。

肺転移は積極的に切除が行われ,手術が再発治療の基本である。治療終了後 2 年以降の再発,結節数の少ない比較的小さな肺転移は,完全に切除されると予後は良好であり,根治率の 30 %程度の上乗せ効果が確認されている(CQ 16)。再発後の化学療法は,一次治療で使用されなかった薬剤や晩期合併症が少ない IFM を中心とした ICE 療法〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕や IE 療法〔IFM+VP-16〕が行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。

これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009 年 12 月の段階でMEDLINEⓇで検索可能な文献,NCI-PDQⓇで示されている骨肉腫/骨 MFH に関する記述と文献,日本整形外科学会骨軟部腫瘍委員会骨腫瘍取扱い規約,WHO 骨軟部腫瘍病理診断分類,クリニカルクエスチョンに沿った文献を集め,エビデンスレベルを付けた構造化抄録を整理し,日本の実地診療に沿った推奨グレードの評価を行い,ガイドラインを作成した。

本ガイドラインは,現在のわが国で提供できる治療方法についての情報を集積し,治療中に遭遇するであろう様々な状況で,適切な治療選択が行われるように参考にしていただくための資料であり,理想の治療方法を提示しているものではない。不明な点は,是非とも各治療専門家や治療担当者に連絡し,実際に相談されることが望ましい。

Page 7: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

103

3

骨肉腫

骨肉腫は,小児,若年者の四肢の膝,肩関節周囲を中心に発生し,限局例の自然経過は,発症後の平均予後約 1 年,2 年生存率が 10 %以下と非常に予後不良な悪性腫瘍である。原発巣は 1〜2 カ月で巨大な腫瘍に発育して,血管神経の巻き込みや病的骨折を併発し,切断以外救済不能な状況となる。骨腫瘍を疑ったときは,単純 X 線または CT検査による画像検査を実施し,必要な場合は頻回の画像検査よる経過観察を行う。

若年者上肢,下肢に発生する通常型骨肉腫の症状は,痛み,腫脹,四肢機能障害などで,外傷や感染の症状と大差ない。活動性の高い小児,若年者では,膝の打撲や手の捻挫などの外傷は日常のことで,骨腫瘍が軽い外傷を契機に発見されることも少なくなく,訴えの少ない幼児では,無症状の腫脹や軽い歩容異常で両親が気付くこともあり,画像診断なしに腫れや痛みを簡単な打撲や外傷と判断することは危険である。

初期診断の端緒となるかかりつけ医や二次医療施設の整形外科医,外傷病院の医師は,骨腫瘍を疑って単純 X 線や CT 検査を行い,外傷の経過観察を頻繁に行うことが非常に重要である。若年者で骨腫瘍を疑ったときは数日以内に,CT ないし MRI 画像を撮像し,血液検査を行う。

単純 MRI 画像検査は,骨内,骨髄内腫瘍陰影と骨外の軟部腫瘤の描出に優れているものの,読影技術は専門的で,骨折や骨髄炎と骨腫瘍を簡単に鑑別できる万能な検査方法ではない。しかし,骨髄内異常の検出率は高く,見逃しのリスクは非常に少ないことから,できればスクリーニングに追加して行うべき画像診断法である。

複数の検査を追加することで,骨内の骨梁や骨皮質の変化から骨腫瘍の診断,良悪性の鑑別診断も可能であるが,検査に日数がかかりすぎると,骨肉腫の局所病巣は増大し,遠隔転移発生へと病状が進行しやすく,患肢温存や生命予後に重大な影響を及ぼすことも多い。数日以内に専門施設へ紹介することが強く推奨される。

背景・目的

解 説

3 骨肉腫

Ⅲ 推 奨

骨肉腫 /骨原発悪性線維性組織球腫(骨MFH)を疑ったときの初期対応は?

骨肉腫をはじめ骨腫瘍を疑った場合,単純X線またはCT検査などによる画像スクリーニング検査を直ちに実施する。

推奨グレード A

CQ 1

Page 8: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

104

骨肉腫の進行は速く,初期診断の違いや遅れが治療結果にも大きく影響するので,早期発見や迅速な確定診断が不可欠である。組織分類が多く,多様な病理所見を示す悪性骨軟部腫瘍の診断は,専門性が高く,骨軟部腫瘍に精通した病理医と,単純 X 線写真,CT 画像,MRI 画像などの画像情報を取得,解析することのできる放射線診断医の協力が不可欠で,病理,放射線診断,治療医の協力が得られる診断体制が整っている専門医療機関への速やかな紹介が望まれる。

1)病理組織分類(表 1)

骨,軟部組織に発生した悪性腫瘍のなかで,骨芽細胞由来の腫瘍が骨肉腫と診断される。組織像は非常に多彩で,核の異形性,細胞の多形成,核分裂をもつ骨芽細胞以外に破骨細胞,巨細胞,軟骨芽細胞,線維芽細胞を認め,骨,線維組織,軟骨基質などの様々な間質を形成し,通常型骨肉腫は,その組織成分の割合で骨芽細胞(骨形成)型,軟骨芽細胞(軟骨形成)型,線維芽細胞(線維形成)型,巨細胞型,血管拡張型,小円形細胞,骨皮質内,表在性低分化骨肉腫などに亜分類される。腫瘍性の骨梁,骨組織を形成しない骨悪性線維性組織球腫(骨 MFH)も,構成細胞の特徴は骨芽細胞由来の細胞に類似しているので,骨肉腫ないし類似疾患と分類されている。骨肉腫の組織亜型別に現状の治療戦略,薬物奏効性や予後に大きな差を認められないことから,同一の治療法が行われている。

背景・目的

解 説

骨肉腫 /骨MFHの診断にあたって重要なことは?

骨肉腫は,一次,二次医療施設であるクリニックや地域総合病院での画像検査で発見されるが,より専門的な画像診断,病理診断や治療を迅速に行える診療体制が整ったがんセンター病院へ数日のうちに紹介されることが望まれる。

推奨グレード A

CQ 2

表 1 骨肉腫の病理学的亜分類

低悪性度骨肉腫 傍骨性骨肉腫骨膜性骨肉腫低悪性度骨内骨肉腫骨悪性線維性組織球腫(骨 MFH)

高悪性度骨肉腫 通常型骨肉腫   骨芽細胞(骨形成)型,軟骨芽細胞(軟骨形成)型,線維芽細胞(線維

形成)型血管拡張型骨肉腫高悪性度表面発生骨肉腫小細胞型骨肉腫骨悪性線維性組織球腫(骨 MFH)成人の骨肉腫,高齢者骨肉腫二次性骨肉腫(放射線治療後,良性骨病変後,Paget 病)

Page 9: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

105

3

骨肉腫

一方,低悪性度骨肉腫はさらに傍骨性骨肉腫,骨内高分化骨肉腫,骨膜性骨肉腫などと分類され,良性骨腫瘍と誤診されやすく,病理診断のみでは確定しにくい骨肉腫である。一般に,発生部位,臨床所見,画像情報を加えて総合診断するが,若年者発生の低悪性度骨肉腫は極めて少なく,通常型骨肉腫との鑑別には非常に慎重であるべきである。2)複数の専門医による連携診断

高悪性度骨肉腫が疑われると,直ちに切開生検を行い,病理検査を行う。不適切なサンプリングや標本作成のために,専門施設で再度生検術が必要となることも少なくない1)。また,大規模な多施設臨床試験でも,複数の骨腫瘍専門の病理医や放射線診断医による中央診断が行われ,病理診断困難に伴う不適格症例が一割程度観察されるなど,病理診断,放射線診断の専門性は高い。

組織採取技術や標本作成技術が非常に重要で,単純 X 線,CT 検査や MRI 画像情報を参考に,外科医は性状の異なる複数の腫瘍構成部位から組織を採取し,最近行われるCT ガイド針生検などの画像支援生検においても,腫瘍内組織を複数個所採取することで,悪性骨腫瘍の診断は向上する2)。頻度の低い低悪性度骨肉腫や骨肉腫亜型の診断では,特徴的な画像情報と病理診断を合わせた診断を行うことも必要で,担当医,外科医,放射線診断医,病理診断医の情報交換を欠かしてはならない。外科医と病理医の密な連携が行われると,骨肉腫の迅速診断も可能である。

組織の採取にあたっては,腫瘍内に硬い組織と軟らかい組織が混在するため,複数の部位から組織を圧挫しないように採取する。軟らかい組織で迅速病理診断を行い,硬組織では確定診断のために永久標本を作成する。注意深く採取された軟らかい腫瘍組織の術中迅速診断でも,多形性,異形性をもつ細胞形態異常や腫瘍性類骨の存在を確認できれば,骨肉腫と診断し,直ちに治療を開始することができる。骨組織をもつ硬組織は,脱灰操作後永久標本作成には日時を必要とするものの,硬組織の診断は骨形成の強い組織の骨肉腫,良性骨腫瘍,外傷との鑑別のために省略することはできない。

骨軟部腫瘍を担当する治療専門施設では,臨床,放射線診断,病理医による診断連携や情報交換と診断レベルを維持,共有する体制作りが不可欠で,綿密に行いながら診断を進めることを強く推奨する。

PubMed で“osteosarcoma”AND“diagnosis”と検索し重要と思われる文献を参考にした。

NCI-PDQⓇを参考にした。

1) MankinHJ,MankinCJ,SimonMA.Thehazardofbiopsy,revisited.MembersoftheMuscu-loskeletalTumorSociety.JBoneJointSurgAm1996;78:656-63.(エビデンスレベルⅣb)

2) JelinekJS,MurphyMD,WelkerJA,etal.Diagnosisofprimarybonetumorswithimage-guidedpercutaneousbiopsy;experiencewith110tumors.Radiology2002;223:731-7.(エビデンスレベルⅣa)

検索式・参考にした二次資料

参考文献

Page 10: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

106

骨肉腫 / 骨 MFH の治療には,各種画像検査が不可欠で,紹介を受けた専門施設では,良性悪性,悪性度,組織亜型診断などの確定診断,局所,全身の進行状況,術前化学療法の効果判定に必要な治療前の臨床画像情報を収集し,化学療法の適格性を判断したうえで,直ちに治療を開始する。

骨肉腫の画像検査は,①早期発見,早期診断目的のスクリーニング的画像検査,②悪性度,転移の有無などの病期診断目的の画像検査,③化学療法効果判定,④外科治療に必要な位置,浸潤など,目的に合わせた多様な情報を取得することが必要で,複数の画像検査を行わなければならない。患者負担,侵襲,リスクの軽減を図りつつ検査実施の計画を立てる。1)初期検査

若年者の関節近傍の腫脹,痛み,機能障害を起こした腫瘍発生が疑われる部位を,単純 X 線撮影を行う。骨盤,脊椎などの体幹部では,単純 X 線写真のみでは不十分であり,CT 検査や単純 MRI 検査を追加して腫瘍発見の精度を高める。骨肉腫が強く疑われる場合,全身の転移確認も兼ねて,高速 CT 検査による全身検索は効率的であり,患者の負担も軽減できる。2)良,悪性診断

単純 X 線や CT 検査で骨組織の破壊,溶骨変化や反応性骨変化,腫瘍性骨形成,病的骨折,骨変形の状況を確認する。骨肉腫の単純 X 線,CT 検査で,不規則未熟な骨,硬化形成,特徴的な骨,骨膜骨新生パターン(軟部組織に向かって骨化が放射線状に伸びる sunburstpattern,sunrayspecula や骨膜が腫瘍により押し上げられて形成されたCodman 三角)と不規則な骨,骨皮質組織破壊が混在していることが特徴である。腫瘍周辺でより盛んな細胞増殖が起こる骨肉腫では,腫瘍周辺で溶骨,破壊的所見が強く起こり,境界不明な腫瘍陰影を形成する。3)骨,骨髄との境界診断

MRIT1 強調画像で腫瘍本体や周辺の反応層は,骨髄,周辺の軟部組織に比較して低信号,T2 強調画像では,細胞が密集した部位,壊死,血腫となった部位は高信号,新生骨,線維性基質などが低信号強度となることから,不均一な画像を示すことが骨肉腫

背景・目的

解 説

骨肉腫 /骨MFHの確定診断や病期診断のために必要な検査,画像診断検査は?

骨肉腫の診療では,単純X線,造影CT,MRI 画像(T1強調画像,T2強調画像,脂肪抑制画像),造影MRI 画像,骨シンチグラフィー,Tl シンチグラフィーなどの複数の画像検査を駆使して,初期診断,病期診断,治療計画,臨床効果判定を行う。� (エビデンスレベル Ⅳ)

推奨グレード A

CQ 3

Page 11: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

107

3

骨肉腫

を強く疑う理由となる。T1 と T2 強調画像や造影検査の画像情報を組み合わせることで,正常脂肪髄や低信号の健常骨組織との境界確認が可能である。4)軟部腫瘤,軟部浸潤の状況診断(腫瘍の辺縁診断)

MRI 検査の STIR(shortT1 inversionrecovery)画像と T2 強調画像を組み合わせることで,骨外腫瘍の広がりを判別できる。四肢発生骨肉腫は,周囲の脂肪,筋肉組織と異なる組織信号をもち,ほとんどの症例で腫瘍周辺の境界診断が可能である。骨肉腫腫瘍本体と周囲の反応層は T2 強調画像で高信号となり,判別しにくいが,T1 強調脂肪抑制造影 MRI や造影 CT を行うと,造影性が異なるので腫瘍をほぼ確定できる。5)腫瘍内情報(実質性発育,囊腫,血腫形成)

MRISTIR 画像,T2 強調画像,造影 MRIT1 強調脂肪抑制画像で,腫瘍の実質部分,血流豊富な部分,壊死や変性部分などを判断し,液状化した内容や腫瘍内で産生されている基質の性質も推定することができる。6)病期診断

肺転移,リンパ節転移診断は,全身 CT 検査が最も鋭敏な画像検査である。転移巣内に骨形成が一部にみられることもあるが,未熟な骨組織のため,画像で検出されず非特異的腫瘤陰影となる。

CT 検査で数 mm の肺転移病変を確認でき,さらに,ヘリカル CT,マルチスライス高速 CT 撮像で呼吸性移動の影響が少ない連続数ミリスライスで観察することで,偽陰性率は激減し,術前 CT 画像による肺転移数と術中に確認される肺転移数との差は小さくなった。リンパ節転移は,全身造影 CT 画像でスクリーニングされるが,骨肉腫での初診時リンパ節転移合併の頻度は 5 %以下であり,治療開始時における有用性は低い。

骨転移のスクリーニングは,骨シンチグラフィーで行われてきた。骨肉腫に限ると感度が高いものの(90 %以上),特異度は低いので四肢の単純 X 線や脊椎,骨盤の MRIまたは CT 検査を追加して確認することが必要である。

悪性骨腫瘍の骨転移の全身 MRI,骨シンチグラフィー,PET 検査を比較した後方視的研究の結果では,感度は 82 %,90 %,71 %で,PET 検査の感度や有用性は腫瘍の種類で異なることが報告されている。PET 検査では偽陰性や偽陽性ともに多く,骨シンチグラフィーによる遠隔骨転移診断を標準的検査から除外できない。

初診時より脳転移が発症するリスクは 1 %以下であり,通常は肺転移症例で長期間治療を繰り返している末期に発生する。一般的に広範な肺転移を認める場合や脳転移症状を認める場合以外,脳の画像検査(MRI,造影 CT)は行わない。

PubMed で“osteosarcoma”AND“diagnosis”と検索し重要と思われる文献を参考にした。

NCI-PDQⓇを参考にした。

1) FranziusC,SciukJ,Daldrup-LinkHE,etal.FDG-PETfordetectionofosseousmetastasesfrommalignantprimarybonetumours:comparisonwithbonescintigraphy.EurJNuclMed2000;27:1305-11.(エビデンスレベルⅣb)

検索式・参考にした二次資料

参考文献

Page 12: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

108

術前 MRI 検査を行い,T1,T2 強調,脂肪抑制 T2 強調,造影 MRI で撮像し,健常骨・骨髄進展,成長軟骨や関節軟骨浸潤,関節包,筋肉の進展,血管神経浸潤状況を診断し,術前切除縁計画を立てる。その診断精度は,病理割面所見との比較では 2 mm 程度の誤差が報告されているので,数 cm 以上の切除縁を上乗せし,安全性を確保したうえで手術が実施されている。

1)骨髄進展レベルの判定

CT 検査や MRI 検査の T1 強調画像と,病理所見とを比較検討した研究が行われ,MRI 画像でより精密な診断が可能であり,誤差は 2 mm 以内であり,病理検査との相関性は 99 %を示す。浮腫,充血のために過大評価されやすいために STIR 条件より,T1 強調条件画像を真の腫瘍範囲とする。MRI 検査での腫瘍辺縁より 1〜2 cm 程度の範囲で腫瘍細胞が存在しているとの研究もあり,2〜3 cm 余裕をもたせた切除縁の設定が推奨されている 1)。

MRI 画像による骨切予定線で骨切りを行い,切離した骨髄面を術中迅速病理検査した結果と術後の再発率の関係を調べた前方視的研究では,MRI 画像で腫瘍の骨髄進展範囲を診断し得ることを証明した 2)。2)骨端線(成長軟骨)進展

San-Julian と Kumta は,MRI 画像で成長軟骨を超えない,幼児(成長前期)の骨肉腫 21 症例で,骨端線乖離(創外固定器で牽引力を数週間加えて,成長軟骨を肥大する技術)を利用した患肢温存療法で成長軟骨の骨成長能力を温存しつつ,関節温存手術を実施して,11 例に成功したことを報告し,成長軟骨は,腫瘍進展を抑制することを示した3)。MRIT1 強調画像で,低信号腫瘍陰影が骨端線を穿通し,骨端内まで低信号病変を認める場合は骨端線,骨端浸潤が起こっていると判断される1,4)。3)スキップ転移

骨肉腫では,同一骨内でスキップ転移が 25 %の頻度で認められ,切断や広範切除後の再発が起こる原因とされてきた。MRI 画像検査で容易にスキップ転移を確認できるが,化学療法中に使用した G-CSF による骨髄造成や浮腫充血による変化も類似した画像所見を呈するので,鑑別が重要である。4)関節内や関節周辺への浸潤

MRIT2 強調画像,造影 MRI 脂肪抑制 T1 強調画像で,関節内腫瘤や関節内血腫の存在を確認することができる。関節包に接した骨肉腫 53 例中 17 例に病理学的浸潤を認

背景・目的

解 説

画像検査により,外科治療はどのように計画するのか?

各種の強調条件のMRI 画像と造影MRI 画像情報を総合して,腫瘍切除の外科治療を計画する。� (エビデンスレベル Ⅳ)

推奨グレード A

CQ 4

Page 13: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

109

3

骨肉腫

め,MRI 検査の感度 94 %,特異性 97 %などの報告1)もあり,以前は非常に問題となった所見である。しかし,術前化学療法の奏効性が高まり,関節内,関節周囲の骨,軟骨に腫瘍が直接浸潤している例は少なくなった。関節近傍発生の骨肉腫でも,関節内切除を行っているが,関節周辺で再発を起こすことは非常に少ない。造影 MRI 検査で,造影腫瘤が関節内に存在し,腫瘍が明らかに関節包,骨皮質,関節軟骨へ穿通している場合は,関節内への浸潤が発生していると判断し関節外切除が実施される。5)血管や神経浸潤

血管,神経浸潤は水平断面 T2 強調画像ないし造影脂肪抑制画像で判定する。健常脂肪組織が介在すると,血管,神経への浸潤は否定され,ほぼ患肢温存可能である。造影脂肪抑制 MRI 画像や T2 強調画像の情報を重ねると,腫瘍筋肉間,腫瘍周辺の脂肪層を明確に診断できる。画像上,直接接している状況では,血管そのものには浸潤がなくとも,周辺の筋膜や連続した組織には腫瘍が浸潤している可能性があり,病理判定の評価や厳重な経過観察が必要で,再発の原因となる1)。

PubMed で“osteosarcoma”AND“diagnosis”と検索し重要と思われる文献を参考にした。

NCI-PDQⓇを参考にした。

1) SaifuddinA.Theaccuracyof imaging inthe localstagingofappendicularosteosarcoma.SkeletalRadiol2002;31:191-201.(エビデンスレベルⅣa)

2) MeyerMS,SpanierSS,MoserM,etal.Evaluatingmarrowmarginsforresectionofosteo-sarcoma.Amodernapproach.ClinOrthopRelatRes1999;363:170-5.(エビデンスレベルⅣb)

3) San-JulianM,AquerretaJD,BenitoA,etal.Indicationsforepiphysealpreservationinme-taphysealmalignantbonetumorsofchildren:relationshipbetweenimagemethodsandhis-tologicalfindings.JPedOrthopaedicus1999;19:543-8.(エビデンスレベルⅣa)

4) HofferFA,NikanorovAY,ReddickWE,etal.AccuaryofMRimagingfordetectingepiphy-sealextensionofosteosarcoma.PediatrRadiol2000:30;289-98.(エビデンスレベルⅣb)

検索式・参考にした二次資料

参考文献

Page 14: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

110

骨肉腫/骨MFH 診断時の予後不良因子や病期分類に基づいた治療選択の可能性についての研究が行われてきた。現行の治療体系では,病理学的悪性度,初診時遠隔転移,化学療法の組織学的奏効性,外科的切除による残存腫瘍の根治性が最も重要な予後因子である。

腫瘍細胞の病理学的研究や予後不良因子の解析は,骨腫瘍の自然経過や治療の成否を予測する方法として研究されてきた。骨肉腫に関しても,多くの予後因子が提唱され,治療開始時の進行度に関連する因子として遠隔転移有無,原発巣発生部位,治療開始時の腫瘍最大径 10 cm 以上,骨横断面 1/3 以上,腫瘍量 100〜200 cc 以上,および治療前の血清乳酸脱水素酵素(LDH)値やアルカリフォスタファーゼ(ALP)値(2.5 倍以上),化学療法の強度や有害事象発生に関与する患者の年齢,性別,治療関連因子として,化学療法の奏効性に関与する因子〔組織亜型,腫瘍量,化学療法の用量強度,薬剤投与量,メトトレキサート(MTX)血中濃度〕や手術根治性に関与する因子(外科手術による根治性の達成度,発生部位,体幹発生,骨盤発生)など,極めて多くの予後因子が提唱されてきた(表 1 に代表的な予後因子解析結果を示す)。最近,遺伝子,増殖蛋白解析の結果,多剤耐性遺伝子,Rb 遺伝子,HER2/erbB-2 などを予後因子とする報告もあるが,いずれも探索的研究である。

手術単独の時代は,骨肉腫の自然経過に左右され,病理学的悪性度と発症時の原発進行度を示す悪性度,遠隔転移の有無,腫瘍径,発生部位などが大きな予後因子として注目を集めた。5 cm 以下の比較的小さい腫瘍径で発見された場合,手術単独でも生存率が 40 %程度あるとの報告もあり,腫瘍径は重要な予後因子であった。1〜2 剤で補助化学療法の臨床研究が行われていた 1980 年代では,肺転移の存在,腫瘍診断の遅れ,局所腫瘍の大きさ,全身の腫瘍量に相関する血清 ALP 値や LDH 値が予後と強く相関すると報告されている1,2)。

MTX 大量療法,シスプラチン動注療法,ドキソルビシンの 2〜3 剤併用による術前化学療法が標準治療となり,術前化学療法の奏効性,特に組織学的著効群(壊死率90 %ないし 95 %以上)が,予後良好であることが示された。世界中の研究者は,術前化学療法の奏効性を向上させる研究と,効果が不十分であった化学療法抵抗群の救済治療の開発研究を盛んに行なった。

背景・目的

解 説

多くの予後不良因子をもつ症例は,治療方法を変更すべきか?

術前化学療法の奏効性と根治手術の達成度が,最も重要な予後関連因子である。通常型骨肉腫は,化学療法,手術療法を行って治療を行うべきであり,治療方法を変更すべきでない。� (エビデンスレベル Ⅳ)

推奨グレード B

CQ 5

Page 15: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

111

3

骨肉腫

組織学的効果に影響する因子として,各種薬物動態指標(MTX 最高血中濃度,48 時間濃度),用量強度(dose intensity),腫瘍径,治療期間,動注と全身投与に関する投与ルート違いなどが抽出された。化学療法の実施技術の進歩で,治療強度の強化が図られ,原発と転移巣,腫瘍の大きさ,転移部位,組織亜型などの因子の影響は薄れ,化学療法の効果と残存腫瘍の完全切除による根治性に関する因子と遠隔転移のみが有意な予後因子として残っている。共同骨肉腫研究グループ(CooperativeOsteosarcomaStudyGroup:COSS)の 1,700 例 3)やイタリアの IstitutoOrtopedicoRizzoli(IOR)1,400 例2)

の予後解析では,組織学的効果と根治手術の完遂度が大きな予後因子であり,切除不能な遠隔転移の有無,体幹発生などが治療障害因子として抽出されることが示されている。一方,最近行われた術前治療強化に関する研究である欧州骨肉腫国際研究グループ

(EuropeanOsteosarcomaIntergroup:EOI)4)の比較試験とスカンジナビア肉腫研究グループ(ScandinavianSarcomaGroup:SSG)/IOR 共同研究では 4 剤併用での組織学的著効率は 60 %以上とほとんどの症例で原発巣は制御されるのに,10 年生存率は 60〜70 %と長期生存の改善につながらず,術前化学療法の奏効性と生命予後との関係が乖離することが観察され4,5),治療強度を強化する治療戦略の限界が指摘されている。骨肉腫の予後因子の多くは,治療,病期に含まれる因子であり,治療を層別化する有用な因子は確認されていない。

表 1 各予後因子に関する代表的な報告と有意差検定の結果

施 設 症 例 年 齢 性 発生部位 腫瘍径 化療効果

CCG 166 NS NS NS NSKrailo’87 RTC

DFCI 46 0.032 NS NSGoorin’87 Cohort NS 0.005

MSKCC 279 NS NS 0.01 0.001Glasser’92 Cohort S

Brazil 92 NS 0.001 NS S(2year)Petrelli’92 Cohort S S S

Florida U 51 0.034 NS NS 0.36Spanier’90 Cohort NS NS NS

MIOS 165 NS NS 0.005 0.002Link’91 RTC NS NS NS NS

MDAH 40 S S S S SRaymond’87 Cohort NS NS NS NS S

Wesfalen 63 0.04 S SWuisman’92 Cohort NS NS S

U-Analysis 有用とされた報告数

2/6 3/7 4/8 4/6 4/4M-Analysis1) 0/3 1/5 2/6 1/5 3/3

NS;有意差なし,S;有意差あり,U-Analysis;単変量解析で予後不良因子と確認された報告数,M-Analysis;多変量解析で不良因子と確認された報告数

Page 16: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

112

PubMed で“osteosarcoma”AND“prognostic factor”と検索し重要と思われる文献を参考にした。

NCI-PDQⓇを参考にした。

1) DavisAM,BellRS,GoodwinPJ.Prognosticfactorsinosteosarcoma:Acriticalreview.JClinOncol1994;12:423-31.(エビデンスレベルⅣa)

2) BacciG,LonghiA,FerrariS,etal.Prognosticsignificanceofserumlactatedehydrogenaseinosteosarcomaoftheextremity:experienceatRizzolion1421patientstreatedoverthelast30years.Tumori2004;90:478-84.(エビデンスレベルⅣb)

3) BielackSS,Kampf-BielackB,DellingG,etal.Prognosticfactorsinhigh-gradeosteosarcomaoftheextremitiesortrunk:ananalysisof1,702patientstreatedonneoadjuvantcooperativeosteosarcomastudygroupprotocols.JClinOncol2002:20;776-90.(エビデンスレベルⅣb)

4) SmelandS,MüllerC,AlvegardTA,etal.ScandinaviansarcomaGroupOsteosarcomaStudySSGⅧ:prognosticfactorsforoutcomeandtheroleofreplacementsalvagechemotherapyforpoorhistologicalresponders.EurJCancer2003;39:488-94.(エビデンスレベルⅣa)

5) LewisIJ,NooijMA,WhelanJ,etal.Improvementinhistologicresponsebutnotsurvivalinosteosarcomapatientstreatedwith intensifiedchemotherapy:Arandomizedphase Ⅲ trialoftheEuropeanOsteosarcomaIntergroup.JNatlCancerInst2007;99:112-28.(エビデンスレベルⅣa)

検索式・参考にした二次資料

参考文献

Page 17: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

113

3

骨肉腫

通常型骨肉腫に対する術前化学療法では,残存腫瘍細胞がほとんど消滅(5〜10 %以下)して組織学的に著効すると,患肢温存手術の安全性は向上し,生命予後は 80 %を超える。しかし,組織学的治療効果判定には,切除した大標本に対する脱灰操作などにより標本作成に 3 週間以上かかるため,効果診断の結果が判明するまでほぼ 1 カ月必要で,組織学的治療効果判定や切除縁の病理検査の結果で再手術や追加局所治療が必要な場合も発生する。

組織学的治療効果判定と相関する複数の画像検査を組み合わせることで,術前化学療法の奏効性を判定し,切除計画立案や術後化学療法の選択に役立てる研究が行われている。化学療法前後に実施された血管造影,造影 MRI,Tl シンチグラフィーの所見の変化で,組織学的著効例や薬剤無効例を判断することが可能か検討した。

骨肉腫は,治療が奏効した場合も骨肉腫の腫瘍内に多くの基質が残存し腫瘍は縮小しないことが多く,腫瘍の縮小率のみで著効例を判定できない。術前に導入化学療法を行った場合の切除標本の組織学的治療効果を判定する方法が考案された。術前化学療法の組織学的評価で 90 %以上の壊死率が達成された骨肉腫症例では,根治率が 80 %を超えることが複数の多施設共同大規模前方視的研究で確認され,著効群と呼ばれるようになった。術前治療の組織学的効果判定が重要な予後因子であることが,その後多くの臨床研究でも確認された(レベル III)。

シスプラチン動注による術前化学療法では血管造影検査が,血管浸潤や臨床効果判定を診断する方法として広く行われていた。しかし,MRI の導入や多剤化学療法の奏効性が向上したことで,多くの大規模臨床研究では静脈投与の化学療法が標準投与方法となり,侵襲が大きい動脈造影はほとんど行われなくなった。動注化学療法を行っていた施設の報告では,血管造影検査を化学療法前と手術直前に行い,血管新生や腫瘍血管の変化は腫瘍残存部位を描出し組織学的壊死率と相関し,過去の研究の集計によると,感度 95 %(88〜100 %),特異性 67 %(50〜100 %),正誤率 85 %(74〜100 %)であった 1)。非侵襲的検査である Tl シンチグラフィー,造影 MRI も同様な傾向を示し,簡便で,低侵襲な,信頼性の高い検査とされている。造影 MRI の感度 88 %,特異性 73 %,正誤率 70 %,Tl シンチグラフィーの感度 88 %,特異性 100 %,正誤性 100 %で,各検査の変化は術前化学療法の組織学的効果判定,壊死率に相関し(P<0.05,P<0.0003),著効群と無効群を判別することが可能である 2,3)。

背景・目的

解 説

術前化学療法の治療効果は,画像検査で評価できるか?

術前化学療法開始時と終了時の血管造影,造影MRI,Tl シンチグラフィーなどの画像検査は,組織学的著効例を推測することが可能である。� (エビデンスレベル Ⅳa)

推奨グレード C

CQ 6

Page 18: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

114

組織学的治療効果は,術前治療の回数や期間で変化し,組織学的効果判定評価と画像検査との比較研究は,すべて単施設で行われた後方視的研究報告であり,症例数も少ないことから,客観性な方法としてのコンセンサスは得られていない。造影 MRI や Tlシンチグラフィーの変化は参考となるものの,最終的には切除標本の組織学的治療効果判定の確認が必要である。

PubMed で“osteosarcoma”AND“hitologicalresponse”と検索し重要と思われる文献を参考にした。

NCI-PDQⓇを参考にした。

1) CullenJW,JamrozBA,StevensSL,etal.Thevalueofserialarteriographyinosteosarcoma:deliveryofchemotherapy,determinationoftherapyduration,andpredictionofnecrosis.JVascIntervRadiol2005;16:1107-19.(エビデンスレベルⅣa)

2) KunisadaT,OzakiT,KawaiA,etal.Imagingassessmentoftheresponsesofosteosarcomapatientstopreoperativechemotherapy:angiographycomparedwiththallium-201scintigra-phy.Cancer1999;86:949-56.(エビデンスレベルⅣa)

3) Ongolo-ZogoP,ThiesseP,SauJ,etal.Assessmentofosteosarcomaresponsetoneoadju-vantchemotherapy:comparativeusefulnessofdynamicgadolinium-enhancedspin-echomagneticresonance imagingandtechnetium-99mskeletalangioscintigaraphy.EurRadiol1999;9:907-14.(エビデンスレベルⅤ)

4) KasteSC,HillA,ConleyL,etal.Magneticresonanceimagingafterincompleteresectionofsofttissuesarcoma.ClinOrthopRelatRes2002;397:204-11.(エビデンスレベルⅣb)

検索式・参考にした二次資料

参考文献

Page 19: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

115

3

骨肉腫

低悪性度骨肉腫では,局所再発が唯一の予後不良因子で,再発,転移後も,外科切除が唯一の治療法であり,その他の救済的治療法は開発されていない。原発巣の広範切除縁による外科切除を確実に行うことが重要である。

化学療法の有効性が確認されていない低悪性度骨肉腫は,放射線治療も低感受性で,補助療法としての術後放射線治療やその他の補助療法で救済された臨床報告はない。治療としての選択肢は,外科的切除のみである。

低悪性度骨肉腫の再発は,腫瘍内切除や不完全切除の切除縁確保不足が原因であり,特に骨盤などの体幹部発生の低悪性度骨腫瘍における局所再発が唯一の予後不良因子である。再発時,25〜35 %の症例で脱分化を起こし,転移も併発しやすいとの報告があり,不適切な切除手技になった場合,追加広範切除や切断術を行うことが勧められる。再発の後,再切除で救済された症例も報告されているが,幸いに脱分化を起こさなかったためと考えられ,辺縁切除を標準的治療と推奨する理由にならない。高度機能障害や切断を回避するために恣意的に腫瘍減量を目的とした部分切除,不完全切除外科治療は,広範な腫瘍汚染,周囲への浸潤巣の取り残しなどが必ず起こるので行ってはならない手術手技である。

軟骨肉腫を含めた予後因子を検討した後方視的コホート研究によると,局所切除縁,局所再発,遠隔転移が予後不良因子であり,初回治療の局所制御が極めて重要である。

低悪性度骨肉腫の治療成績と脱分化に関する代表的な報告

1)傍骨性骨肉腫 1,2)

28〜220 例,初回治療後 5〜10 年経過観察したケースコントロール観察研究では,局所再発率は 3〜20 %で,辺縁切除,不完全切除が危険因子であった。遠隔転移や腫瘍関連死は約 10 %で,24〜43 %で脱分化症例が観察された。予後因子は,不完全切除で,脱分化関連因子として病理学的悪性度,溶骨陰影,骨髄浸潤,転移が報告されている。2)骨膜性骨肉腫 3,4)

55〜119 例,観察 10 年以上のケースコントロール観察研究がある。推奨切除縁は広

背景・目的

解 説

低悪性度骨肉腫 /骨MFHの治療方法は?

低悪性度骨肉腫には,広範切除縁の切除,切断術を行う。� (エビデンスレベル Ⅳ)

腫瘍内切除,辺縁切除手技となった場合や,切除後の病理切除縁評価で陽性と診断されたときは,追加広範切除ないし切断を行う。� (エビデンスレベル Ⅳ)

推奨グレード A推奨グレード B

CQ 7

Page 20: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

116

範切除縁以上の外科切除術である。局所再発率は約 10 %,5 年無病生存 80 %,5 年生存率 89 %,10 年生存率 83 %。予後不良因子は局所再発であり,3 年以内の局所再発,転移が起こると死亡例が多い。3)骨内低悪性度骨肉腫 5,6)

8〜80 例のケースコントロール,ケースシリーズ観察研究報告のみである。推奨切除縁は,広範切除縁以上の外科治療である。腫瘍内切除で再発起こしやすく,再発率15 %であった。病理学的悪性度が予後不良因子である。再発時の悪性化が観察され,稀に遠隔転移が起こり,予後不良となる。

PubMed で“osteosarcoma”AND“lowgrade”と検索し重要と思われる文献を参考にした。

NCI-PDQⓇを参考にした。

1) DellingG,WernerM.Pathomorphologyofparostealosteosarcoma.Experiencewith125cas-esintheHamburgRegisterofBoneTumors.Orthopade2003;32:74-81.(エビデンスレベルⅣb)

2) OkadaK,FrassicaFJ,SimFH,etal.Parostealosteosarcoma.Aclinicopathologicalstudy.JBoneJointSurgAm1994;76:366-78.(エビデンスレベルⅣb)

3) RosePS,DickeyID,WengerDE,etal.Periostealosteosarcoma:long-termoutcomeandriskoflaterecurrence.ClinOrthopRelatRes2006;453:314-7.(エビデンスレベルⅣb)

4) GrimerRJ,BielackS,FlegeS,etal.EuropeanMusculoSkeletalOncologySociety.Periostealosteosarcoma─aEuropeanreviewofoutcome.EurJCancer2005;41:2806-11.(エビデンスレベルⅣb)

5) KurtAM,UnniKK,McLeodRA,etal.Low-gradeintraosseousosteosarcoma.Cancer1990;65:1418-28.(エビデンスレベルⅣb)

6) OkadaK,NishidaJ,MoritaT,etal.Low-gradeintraosseousosteosarcomainnorthernJa-pan:advantageofAgNORandMIB-1stainingindifferentialdiagnosis.HumPathol2000;31:633-9.(エビデンスレベルⅤ)

検索式・参考にした二次資料

参考文献

Page 21: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

117

3

骨肉腫

骨肉腫は,放射線外照射単独による根治は難しく,外科的切除が不可欠である。化学療法が著効した場合も,多くの症例で残存腫瘍細胞が組織学的に確認され(完全消滅例5 %以下),局所再発例は,化学療法に耐性となり,遠隔転移を併発して予後不良である。初診時進行症例の完全切除群では 5 年生存率 20〜30 %が達成されているのに対して,不完全切除に終わった場合 3 年以上の生存例は皆無である。限局例,初診時転移例ともに,化学療法と外科的切除を行って,無病の状態へ寛解導入することが治療目標である。

術前,術後に化学療法が行われる近年の骨肉腫臨床治療研究では,80〜90 %の局所広範切除と患肢温存再建手術が行われるようになり,患肢温存治療が標準治療手技といえる。技術を支えているのは,正確な画像診断による綿密な切除縁計画と術前化学療法の奏効性向上による。

手術切除縁についての画像情報の有用性は,術後切除標本の肉眼的,組織学的発育,浸潤状況の観察と MRI 画像情報による腫瘍局在を比較検討した研究が積み重ねられた結果である。術前化学療法が奏効することで,反応層では新生血管が減少して再生線維化が起こり,MRIT1 強調画像では低信号化が起こり,腫瘍辺縁はより明瞭となる。腫瘍浸潤を受けた周辺組織では,MRI 画像で判別される腫瘍周辺より 2〜3 cm の余裕をもたせ,腫瘍で侵されていない健常な障壁や筋膜で,腫瘍を包むように理論的切除縁を計画する。切除操作が困難である場合は,より外側での切除縁操作となるように計画し直して,切り込みや無理な操作で切除縁破綻を起こさないように,手術の確実性を高める努力が行なわれる1-3)。

術前化学療法が奏効すると,骨肉腫原発巣は硬度を増し,切除縁周囲の確認作業や手術操作が非常に容易となる。著効した化学療法では,腫瘍周辺の微小浸潤,微小転移の撲滅効果も確実で,縮小切除縁やぎりぎりの切除縁設定でも再発は少ない。一方,術前化学療法が無効で,腫瘍の増大,浸潤が続いている症例では,より広い切除縁を設定する必要がある4)。

過去の臨床研究では,骨肉腫の外科治療,切除縁設定の安全性や妥当性について,比較臨床試験が実施されたことはない。希少がんである骨肉腫,特に小児,若年,青壮年に発生した通常型の骨肉腫は,各国のがんセンター病院や大学病院で治療されている。

背景・目的

解 説

通常型骨肉腫 /骨MFHの標準的外科治療法は?

化学療法で臨床的奏効が得られた場合も,広範切除縁での切除術を強く推奨する。術前化学療法による奏効が得られない場合や,治療途中に腫瘍の明らかな増悪が確認された場合には,十分な切除縁を確保した切除術,切離断術を行う。� (エビデンスレベル Ⅳ)

推奨グレード A

CQ 8

Page 22: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

118

手術手技に関してはほぼ全例が前方視的に登録され,術後に組織学的切除縁評価も行われ,精度の高い治療,予後追跡が実施されている。日本整形外科学会骨腫瘍委員会では,統一した術後組織学的切除縁評価方法を設定し,約 20 年にわたって前方視的症例集積と追跡観察を行い,切除縁評価方法の妥当性と外科治療の品質管理,安全性を担保する検討が行われてきた。また,1990 年代に MRI 診断機器が国内の基幹病院に整備され,四肢発生骨肉腫では MRI 画像を基盤とした術前計画方法と切除手技が普及した。最近 10 年間の成績は,5 %前後の局所再発率,80 %以上の患肢温存手術率と治療成績は安定し,国内の技術基盤は確立していると判断できる5)。

PubMed で“osteosarcoma”AND“surgery”と検索し重要と思われる文献を参考にした。

NCI-PDQⓇを参考にした。

1) QuanGM,SlavinJL,SchlichtSM,etal.Osteosarcomanearjoints:assessmentandimplica-tions.JSurgOncol2005;91:159-66.(エビデンスレベルⅣa)

2) MeyerMS,SpanierSS,MoserM,etal.Evaluatingmarrowmarginsforresectionofosteo-sarcoma.Amodernapproach.ClinOrthopRelatRes1999;363:170-5.(エビデンスレベルⅣb)

3) 日本整形外科学会,骨・軟部腫瘍委員会編.整形外科・病理:悪性骨腫瘍取り扱い規約,東京,金原出版,2002.

4) PicciP,SangiorgiL,RougraffBT,etal.Relationshipofchemotherapy-inducednecrosisandsurgicalmarginstolocalrecurrenceinosteosarcoma.JClinOncol1994;12:2699-705.(エビデンスレベルⅣb)

5) KawaguchiN,AhmedAR,MatsumotoS,etal.Theconceptofcurativemargininsurgeryforboneandsofttissuesarcoma.ClinOrthopRelatRes2004;419:165-72.(エビデンスレベルⅣa)

検索式・参考にした二次資料

参考文献

Page 23: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

119

3

骨肉腫

悪性骨腫瘍の切除で,辺縁切除が可能となれば,周囲の健常組織の切除をほとんど必要としないので,良性腫瘍とほぼ同じ機能再建,関節再建方法が実施可能である。関節近傍発生が多い骨肉腫では関節温存切除を行い,自家骨移植,処理骨移植,仮骨骨形成技術を応用した再建をした,晩期劣化が起こる腫瘍用人工関節を使用しない関節温存術が増えることが期待されている。一部の施設では,術前化学療法で組織学的著効に達したと推定される症例を選んで,実験的に辺縁手術縁切除が実施されている。

近年,強化された術前化学療法では奏効性が高まり,プロトコール治療が完遂された場合 50 %の組織学的著効率が報告され,一部のシスプラチン(CDDP)/ドキソルビシン(DXR)動注療法では 50〜80 %の高い組織学的著効率が報告されてきた1)。最近の報告では,術前化学療法の著効率は 4 剤併用術前化学療法で 50〜60 %,休薬期間短縮などの強化治療で 50 %を超え,画像診断を駆使して組織学的著効例を診断することも可能で,術前化学療法が奏効したら縮小手術を行っても,局所再発率は 10 %以下との単施設研究もある2,3)。

約 60 %の組織学的奏効性を示したイタリア IOR の動注療法併用の 3 剤プロトコールの後方視的研究では,局所再発に関する危険因子解析を行い,局所無再発率は化学療法著効群 95 %,通常奏効ないし不良例でも完全切除を行うことで 90 %と救済される。しかし,不完全切除では局所無再発率は 70 %に低下し,化学療法が著効しても不完全切除では再発率 20〜30 %が観察された 4)。EOI 内の比較検討で,患肢温存手術 80 %以上と積極的に患肢温存を実施している施設の再発率は 15 %,温存手術割合が 50 %程度の施設では局所再発率が 5 %と,手術例数や技術に習熟してもなかなか局所再発率は低下しないことも報告されている5)。

より複雑な切除技術が要求される骨盤,脊椎の骨肉腫では,術後の局所再発が多く,不完全な局所切除縁と局所再発が未だに主たる予後不良因子である。骨盤発生の骨肉腫でも,完全切除が実施されると 40 %程度の 5 年無増悪生存率を達成できるとの報告があるものの,多施設研究では不完全切除例,再発例が多いことが報告され,再発例の 5年生存率は 10 %以下と成績不良である。骨盤発生例に多い巨大腫瘍では,化学療法奏効性も低く,骨盤発生での化学療法著効達成率は 20 %以下で,強化化学療法(CDDP+DXR 短期集中治療,イホスファミド大量療法)でも著効率は 30 %程度で成績の改善

背景・目的

解 説

術前化学療法が著効した場合,縮小手術は可能か?

化学療法が著効したと判断された場合でも,切除縁を縮小した手術(辺縁切除縁,組織学的残存)を推奨するほどの根拠が集積されていないので,標準外科治療としては広範切除縁を推奨する。� (エビデンスレベル Ⅳ)

推奨グレード C

CQ 9

Page 24: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

120

は得られていない。術前化学療法著効群の 5 年生存率は 25〜75 %と報告によりまちまちである。強化術

前治療や動注化学療法に関する研究は,単施設による成績がほとんどであり,比較的早期診断で,腫瘍量の少ない症例が多いなどの選択バイアスも加わって一般に奏効率は高い。大規模研究の結果によると,現行の化学療法の組織学的著効率の限界は 50〜60 %であり,効果不十分な症例が混在するリスクや,画像診断による奏効性予測も偽陽性率が 10〜20 %に達し,残存腫瘍細胞が骨外軟部組織切除縁周辺に多く観察されるなど,辺縁切除縁手術手技を標準治療として採用することの妥当性の根拠は得られていない。

PubMed で“osteosarcoma”AND“surgery”AND“preoperativechemotherapy”と検索し重要と思われる文献を参考にした。

NCI-PDQⓇを参考にした。

1) TsuchiyaH,TomitaK,MoriY,etal.Marginalexcisionforosteosarcomawithcaffeineas-sistedchemotherapy.ClinOrthopRelatRes1999;358:27-35.(エビデンスレベルⅣb)

2) KudawaraI,IeguchiM,AokiY,etal.Neoadjuvantchmotherapywithhigh-doseifosfamide,doxorubicinandcisplatin innonmetastaticosteosarcomaofextremity.2004ASCOAnnualMeetingProceedings(Post-MeetingEdition),2004;22:9039.(エビデンスレベルⅣb)

3) FuchsN,BielackSS,EplerD,etal.Long-termresultsoftheco-operativeGerman-Austri-an-Swissosteosarcomastudygroup’sprotocolCOSS-86ofintensivemultidrugchemothera-pyandsurgeryforosteosarcomaofthelimbs.AnnOncol1998;9:893-9.(エビデンスレベルⅣa)

4) BacciG,FerrariS,MercuriMetal.Predictivefactorsforlocalrecurrenceinosteosarcoma:540patientswithextremitytumorsfollowedforminimum2.5yearsafterneoadjuvantche-motherapy.ClinOrthopScand1998;69:230-6.(エビデンスレベルⅣb)

5) GrimerRJ,TaminiauAM,CannonSR,etal.Surgicaloutcomesinosteosarcoma.JBoneJointSurgBr2002;84:395-400.(エビデンスレベルⅣb)

検索式・参考にした二次資料

参考文献

Page 25: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

121

3

骨肉腫

四肢発生骨肉腫の局所再発は,補助化学療法で撲滅しえなかった原発巣周辺の微小転移,浸潤が原因である。辺縁切除縁以下の不適切な術前計画や,恣意的な縮小手術手技による残存微小腫瘍が原因で,患肢温存手技における再発率は 10 %を超えてしまう。再発に対しては,再度広範切除縁での患肢温存,切断手技と化学療法が追加されるが,予後は不良であり,10 年生存率は 10 %と肺転移再発例より予後不良である。

局所再発は,不完全切除縁手技,術後病理評価での切除縁での微小腫瘍残存が大きな原因で,患肢温存例で約 10 %前後,切断で 5 %未満,離断術で 3 %以下である。

再発の様式は,局所と遠隔同時ないし転移での再発が 40 %,局所再発単独の再発が6 割を占めるとされるが,病状が増悪した場合には局所再発の確認が遅れ,診断されない場合もあり,局所,遠隔再発の合併例はもっと多いと推測されている。2 年以内の再発が多く,死亡,転移,観察中断などの補正を行った局所再発率は,観察症例総数に対して年間約 5 %で,数年間は低下しない。治療終了後 5 年以降の再発例も観察されている。局所再発の生命予後への影響は,ハザード比で 1 年以内 5.8,2 年以降 3.4 と低下しない 1)。

術前化学療法の強度強化で,患肢温存率は 10〜20 %から 80 %に著しく向上した。局所制御率は著効群 95 %,通常奏効群 90 %と,組織学的奏効性と局所再発の抑制効果は相関するという報告もあるものの 2,3),否定的な意見もある4,5)。化学療法強度の強化は,患肢温存率の向上につながるが,再発率の低下には結びつかない 6)との報告結果も含めて,化学療法単独で局所制御性向上に寄与すると結論しえなかった。

手術手技完遂性が,再発率と再発後の予後に最も大きく影響し,患肢温存群で 10 %以上,広範切除縁切断で 5 %,根治的切除縁を確保された切断,離断で 3 %以下の局所再発率である2)。イタリア IOR のデータでは切除縁確保群 3 %に対して,術前化学療法無効例で不完全切除縁手技の局所再発率は 30 %へと増大する1)。

転移合併例や 2 年以内の局所再発例は予後不良である。単独局所再発例で再度完全寛解が達成されても,5 年生存率 30〜40 %,10 年生存率 10 %程度で,二次化学療法の救済効果は確認されていない 7)。

予後不良因子は,不完全切除縁,再発までの期間,再発時の腫瘍量,導入術前化学療

背景・目的

解 説

局所再発の場合の治療方法は?

再発後の予後は極めて不良で,再度広範切除や切断と化学療法が行われても,5年生存率20〜30%,10年生存率10%で,肺転移単独の再発例より予後不良である。局所再発後,広範切除縁以上の切断や再広範切除が実践されているが,緩和治療的意義のほうが大きい。� (エビデンスレベル Ⅳb)

推奨グレード B

CQ 10

Page 26: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

122

法の奏効性が挙げられているが,ほとんどの因子が初回治療の完遂性,治療精度に関する問題であり,初回局所治療の重要性は極めて高い。

恣意的な患肢温存や高機能を求めた縮小手術の実施は,治療者,患者ともにその危険性を理解したうえで決断されるべき実験的治療である。

PubMed で“osteosarcoma”AND“localrecurrence”と検索し重要と思われる文献を参考にした。

NCI-PDQⓇを参考にした。

1) BacciG,FerrariS,MercuriMetal.Predictivefactorsforlocalrecurrenceinosteosarcomas:540patientswithextremitytumorsfollowedforminimum2.5yearsafterneoadjuvantche-motherapy.ClinOrthopScand1998;69:230-6.(エビデンスレベルⅣb)

2) Kempf-BielackB,BielackSS,JüugensH,etal.Osteosamarelapseaftercombinedmodalitytherapy:ananalysisofunselectedpatients intheCooperativeOsteosarcomaStudyGroup

(COSS).JClinOncol2005:23;559-68.(エビデンスレベルⅣb) 3) PicciP,SangiorgiL,RougraffBT,etal.Relationshipofchemotherapy-inducednecrosisand

surgicalmarginstolocalrecurrenceinosteosarcoma.JClinOncol1994;12:2699-705.(エビデンスレベルⅣb)

4) WeedenS,GrimerRJ,CannonSR,etal.Theeffectoflocalrecurrenceonsurvivalinresect-edosteosarcoma.EurJCancer2001:37;39-46.(エビデンスレベルⅣb)

5) GrimerRJ,TaminiauAM,CannonSR.Surgicaloutcomesinosteosarcoma.JBoneJointSurgBr2002;84:395-400.(エビデンスレベルⅣb)

6) BrosjoO,FerrariS,MercuriM,etal.Surgicalprocedureand localrecurrence in223pa-tientstreated1982-1997accordingtotwoosteosarcomachemotherapyprotocols.TheScan-dinavieanSarcomaGroupexperience.ActaorthoScand1998;69:230-6.(エビデンスレベルⅣb)

7) FerrariS,BriccoliA,MercuriM,etal.Laterelapseinosteosarcoma.JPediatrHematolOn-col2006;28:418-22.(エビデンスレベルⅣb)

検索式・参考にした二次資料

参考文献

Page 27: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

123

3

骨肉腫

骨肉腫の術前化学療法が十分に奏効しない,骨盤や大腿骨近位発生の巨大な骨肉腫症例や病的骨折併発例では,広範切除縁が確保できないので,切離断が必要となる。患者,家族は,患肢温存への思いが強く,切離断を受け入れられないことも多いが,無理な辺縁切除や部分切除では,腫瘍細胞の播種や術中の血管神経損傷などが起こりやすく,安全面からも患肢温存手術は実施すべきでない。化学療法が著効した場合も,切除を行なわず放置すると,75 %で局所再燃や転移が発生して,その後の予後は不良となる。治癒的切除縁手術ができるのであれば,四肢では再手術,切断,離断や骨盤半截などの救済外科手技による迅速な対応が必要である。

現在,補助化学療法の進歩により,放射線外照射が行われることはほとんどない。原発骨肉腫に対する放射線外照射,術中照射,処理骨としての体外照射に関する研究では70 Gy 以上の放射線治療が必要で,5 年局所制御率 60 %,局所再発率 25〜50 %程度の成績が得られるものの,病的骨折や感染などの問題も多く,一部の切除不能症例や再建困難な患肢温存例への限定的利用である1)。

国内では,10 数年前より,陽子線ないし炭素イオンによる粒子線治療の研究が実施された。放射線治療抵抗性の骨軟部腫瘍でも局所集中性に優れた炭素イオンによる重粒子線治療で,前方視的第 I,II 相研究で検討が行われ,脊索腫を中心とした低悪性骨腫瘍では,術後に想定される高度な合併症を回避しつつ,70 %強の局所制御率が達成された。骨肉腫でも,仙骨,体幹部発生,高齢者発生例の局所治療として有望な代替療法候補と考えられるようになり,長期生存例も観察されている。しかし,鎮静の必要な小児での応用や,病状が急速増悪する骨肉腫の病態に対応しきれないこと,高い支持性や機能再建が必要な四肢への応用では晩期発生の拘縮,線維化,浮腫,骨折など機能障害の発生やその救済方法が確立されていないことから,四肢発生の骨肉腫には外科的局所療法を推奨する2)。

化学療法単独の根治性に関する臨床研究は極めて少なく,前方視的コホート研究が 1件報告されているのみである。化学療法が奏効した 31 例を,患者の同意取得後,原発巣の外科切除を行わず経過観察し,再発するまで様子観察された研究で,7 例 23 %で無増悪生存が観察された。21 例で局所再燃が起こり,追加切除を実施された 16 例中 6例が生存し,その後発生した肺転移も転移切除が実施された 2 例,計 15 例 58 %が救済された。局所,肺同時再発 3 例や外科切除拒否 5 例では,すべて腫瘍死していたとの報告から,原発巣の外科切除は必須である3)。

背景・目的

解 説

切断,離断を行う際に,どのような検討を行うべきか?

術前治療が無効で,広範切除縁が確保できないときは,切断,離断を行うことが推奨される。� (エビデンスレベル Ⅳ)

推奨グレード B

CQ 11

Page 28: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

124

約 60 %の組織学的治療効果を示したイタリア IOR の動注療法による 3 剤併用プロトコールの骨肉腫症例で,局所再発に関する危険因子解析を行った後方視的研究では,完全切除で 95 %,化学療法著効群 95 %,通常奏効ないし不良で 90 %であるのに対して,不完全切除群での局所無再発率は 70 %で,化学療法の治療効果が不十分な症例では,局所制御性の高い治療が推奨される4)。しかし,化学療法が奏効した症例で外科的切除の切除縁不足と評価された場合に,患肢の切断,離断をあえて実施することを推奨する根拠は見つけられなかった。30 %程度の局所再発のリスクがあることを説明したうえで,厳重な経過観察を実施する必要がある。また,追加放射線外照射に関する科学的根拠にも極めて乏しく推奨できない。

PubMed で“osteosarcoma”AND“amputation”と検索し重要と思われる文献を参考にした。

NCI-PDQⓇを参考にした。

1) DeLaneyTF,ParkL,GoldbergSI,etal.Radiotherapyforlocalcontrolofosteosarcoma.IntJRadiatOncolBiolPhys2005;61:492-8.(エビデンスレベルⅣa)

2) KamadaT,TsujiiH,TsujiH,etal.Efficacyandsafetyofcarbonionradiotherapyinboneandsofttissuesarcomas.JClinOncol2002;20:4466-71.(エビデンスレベルⅣa)

3) JaffeN,CarrascoH,RaymondK,etal.Cancureinpatientswithosteosarcomabeachievedexclusivelywithchemotherapyandabrogationofsurgery?Cancer2002;95:2202-10.(エビデンスレベルⅣa)

4) FerrariS,MercuriM,PicciP,etal.Nonmetastaticosteosarcomaoftheextremity:resultsofaneoadjuvantchemotherapyprotocol(IOR/OS-3)withhigh-dosemethotrexate,intraarte-rialorintravenouscisplatin,doxorubicin,andsalvagechemotherapybasedonhistologictu-morresponse.Tumori1999;85:458-64.(エビデンスレベルⅣb)

検索式・参考にした二次資料

参考文献

Page 29: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

125

3

骨肉腫

術前,術後に化学療法を行うことで,ほとんどの症例で原発巣は鎮静化され,組織学的著効率 30〜50 %,治療中の進行や脱落例は 10〜20 %以下である。優れた成績達成には,骨肉腫の専門的な化学療法である大量療法や短期集中治療を完遂することが必要で,プロトコール治療の遵守と有害事象に対する予防,支持治療が重要である。

補助化学療法の有用性に関する検証は,3 つのランダム化比較試験で行われ 1-3),2 つの臨床試験では,化学療法群はコントロール群に比較して 2 年無増悪生存率が有意に高く,予後良好であった 2,3)。有用性が確認されなかった臨床試験では,化学療法の治療強度が低く,短い経過観察期間で,手術単独群の予後低下を観察できなかったことが原因で,補助化学療法を否定する結果ではなかった。通常型骨肉腫は,補助化学療法を行うことが強く勧められる。

骨肉腫においては,臨床試験のプロトコール治療ないし,各施設で行われる準プロトコール治療が,事実上の標準的治療である。骨肉腫は希少がんで,病理診断の専門性も高く,悪性度診断,組織亜型診断においては,専門病理医の間でも,診断上相違が生じることもある。また,化学療法,手術療法,再建技術などの治療技術の集約が必要で,効率的に治療の実施状況をモニターし,データ集積が可能なシステムとして,プロトコール治療の厳守が重要である4)。また,多くの専門家が協力し,共通のルールの中で治療が実践されることで,治療技術レベルを保ち,安全性を担保することができる。

半年から 1 年弱に及ぶ骨肉腫,Ewing 肉腫の治療のために長期入院が余儀なくされることから,腫瘍専門整形外科医,腫瘍内科,小児腫瘍内科医はじめ,看護師,理学療法士,薬剤師などのコメディカルの医療連携や,治療中の院内教育支援,患者,家族の精神的,社会的,経済的な多方面の支援のために,行政や患者家族団体,ボランティア団体の関与が必要である。治療終了後も 10 年以上にわたる再発確認のための経過観察や,晩期合併症,有害事象,二次がんに関しての経過観察が必要で,治療経過観察体制を構築することが不可欠となる。希少がんである骨肉腫が,大学や地域がんセンターを中心にした専門施設に集まるのは自然の流れであり,多くの専門スタッフを集約し,多様な支援,サービスが整備された治療環境,多施設共同臨床試験のプロトコール治療の実践,厳密なデータ管理,集積を可能とする研究体制の整備により,医療の質を保つことができる。

PubMed で“osteosarcoma”AND“adjuvantchemotherapy”と検索し重要と思わ

背景・目的

解 説

検索式・参考にした二次資料

通常型骨肉腫は,補助化学療法が必要か?

通常型骨肉腫は,術前,術後補助化学療法を行うプロトコールに準じた治療を行うことが推奨される。� (エビデンスレベル Ⅱ)

推奨グレード A

CQ 12

Page 30: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

126

れる文献を参考にした。NCI-PDQⓇを参考にした。

1) EdmonsonJH,GreenSJ,livnsJC,etal.Acontrolledpilotstudyofhigh-dosemethotrexateaspostsurgicaladjuvanttreatmentforprimaryosteosarcoma..JClinOncol1984;2;152-6.(エビデンスレベルⅡ)

2) EilberF,GiulianoA,EckardtJ,etal.Adjuvantchemotherapyforosteosarcoma:arandom-izedprospectivetrial.JClinOncol1987;5:21-6.(エビデンスレベルⅡ)

3) LinkMP,GoorinAM,MiserAW,etal.Theeffectofadjuvantchemotherapyonrelapse-freesurvival inpatientswithosteosarcomaoftheextremity.NEnglJMed1986;314:1600-6.(エビデンスレベルⅡ)

4) BurgersJM,vanGlabbekeM,BussonA,etal.Osteosarcomaofthe limbs.Reportof theEORTC-SIOP03trial20781investigatingthevalueofadjuvanttreatmentwithchemother-apyand/orprophylacticlungirradiation.Cancer1988;61:1024-31.(エビデンスレベルⅡ)

参考文献

Page 31: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

127

3

骨肉腫

術前化学療法によって,微小転移の撲滅,局所の鎮静化,術前化学療法の効果判定ができる。鎮静化した局所病変の外科切除は,確実で,安全となることから,患肢温存の適応を拡大させ,術後の患者 QOL を飛躍的に向上させた。また,術前化学療法が奏効した場合,効果を認めた薬剤で術後も補助化学療法を継続することで,10 年生存率は75〜80 %に達する。一方,術前化学療法の無効例は 1〜2 割で,薬剤変更や他の薬剤追加で治療強化するなどの試みが検証されたが,有効な救済二次プロトコールは確認されていない。術前化学療法が無効であったために,原発巣が増悪し,患肢温存の可能性を失い,転移のリスクを高めるとの議論もあり,通常型骨肉腫全例に術前化学療法を実施することの批判はある。しかし,患肢温存術が可能な早期発見症例は極めて少なく,術前化学療法なしで患肢温存が可能な症例は 50 %であり,ほぼ全例に術前化学療法が実施されているのが現状である。

化学療法で鎮静化したあとに原発巣を切除し,骨関節の支持性と機能を再建する患肢温存技術の開発研究に後押しされて,より高い奏効性が発揮される術前化学療法を求めた臨床研究が行われてきた。

ドキソルビシン(DXR)やシスプラチン(CDDP)の動注,静注療法 1,2),大量メトトレキサート(MTX)療法の増量(高濃度,4 時間投与 3))が検討され,大量 MTX療法+CDDP+DXR の 3 剤併用が標準治療と考えられるようになった4)。1990 年前後の EOI が行った比較試験5,6)では,大量 MTX 療法を除いて,CDDP+DXR 療法の短期集中治療を実施する方が優れ,標準治療との報告もある,大量 MTX 療法+CDDP+DXR の 3 剤併用療法に習熟するにつれて,組織学的著効率は 30〜50 %,5 年無増悪生存率(progression freesurvival:PFS)は 60 %を上回る結果が欧米の多施設研究グループから発表され,治療完遂率も約 80 %と極めて高い 7,8)。

イホスファミド(IFM)を追加した 4 剤併用術前化学療法では,多施設ランダム化比較比較研究 9)を経て,動注化学療法と同等の 50〜60 %の奏効性を示すこと,長期生存も改善し,5 年無イベント生存率(EFS)も 70 %前後の結果が得られている。IOR/SSG の共同研究では,大量 IFM15〜16 g/m2 を組み込んだ臨床研究が行われ,奏効性,予後ともに改善することが示唆されている8,10)。1993 年からわが国で実施されたNECO93,95J の大量 IFM を組み込んだ第 II 相試験では,術前治療抵抗例の IFM の

背景・目的

解 説

一期的に手術可能な高悪性度骨肉腫に術前化学療法は必要か?

原発限局性の骨肉腫は,2〜3カ月の術前化学療法を行い,広範切除縁で原発腫瘍を完全に切除し,術後6カ月の補助化学療法が行うことが推奨される。� (エビデンスレベル Ⅱ)

推奨グレード B

CQ 13

Page 32: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

128

救済効果が示唆された。しかし,IFM 追加による生命予後改善効果には未だ議論があり,IFM が 8〜10 g/m2 の用量で行われた併用治療である米国 PediatricOncologyGroup(POG)/Children’sCancerGroup(CCG)10)や IOR2-32)では,組織学的著効率50〜60 %を超える成績が示されたものの,MTX,CDDP 抵抗性症例に対する IFM の救済効果は示されていない。強力になりすぎた化学療法のために,晩期臓器障害や二次がんが増え,真の生存につながらないとの批判や,治癒後の男性不妊などで晩期 QOLの低下が起こりやすいとの批判もある。

POG の試験 11)は,術前化学療法を実施することで,原発巣がコントロールされ患肢温存手術がより実施しやすくなり,温存率が向上することを期待して開始された。2004年に中間解析が行われ,約 120 例と患者集積が低調なことから本臨床試験は中断された。

その中間解析によると,術前化学療法を実施した群と根治手術の先行群とも,患肢温存率約 50 %,5 年 PFS65 %と同様の成績で,術前化学療法を実施することの優位性を証明できなかった。これは,採用された大量 MTX 療法,CDDP+DXR 療法,BCD

〔ブレオマイシン(BLM)+シクロホスファミド(CPA)+アクチノマイシン(ACD)〕療法の術前化学療法は,原発巣の組織学的著効率が約 20 %と化学療法の強度不足が原因であった。術前治療の有用性を証明できず,患者の集積に時間がかかり中断された研究であるが,術前化学療法群の予後低下は観察されておらず,術前化学療法を否定する結論ではなかった。

わが国でも整形外科医や小児腫瘍医が中心になって骨肉腫に対する化学療法が実施されてきた。専門施設では MTX 大量療法+CDDP+DXR の併用治療,IFM9〜16 g/m2

の化学療法を 1〜3 週ごとの連続投与で行う治療が日々の臨床で実践され,治療技術は十分に習熟され,その安全性も高い。術前化学療法中に局所進行する例は極めて稀で,病的骨折や骨盤巨大症例でも術前化学療法を完遂し,局所温存手術が行えるようになるなど,術前化学療法の有用性は高い。

術前化学療法が著効した場合,鎮静化された原発巣の切除手技は,より確実で,手術時間の短縮,感染率の低下などより安全となる。切除縁の縮小で術後機能が向上することも,患肢温存手術が広まった理由である。術前化学療法なしに直ちに切断を許容し得る患者さんは非常に稀で,患肢温存率 80 %を達成するには術前化学療法は必須である。

導入化学療法の有用性と患肢温存との関係について批判もあるが,現在のがん診療の中で,QOL の高い術後状態を強く望む患者の要望は高く,すべての四肢発生骨肉腫に術前化学療法を行うことは,推奨グレード B と考える。

中年,高齢者発生の骨肉腫,骨 MFH でもほぼ同じ種類の薬剤の併用治療が有効で,四肢原発例の成績向上が確認されている。しかし,健常若年者でもグレード 4 の骨髄抑制を中心にした有害事象が必発する強力な術前強化導入治療を,50 歳以上,体幹,骨盤部に発生した全身状態不良な症例で,実施してはならない。

PubMed で“osteosarcoma”AND“preoperativechemotherapy”と検索し重要と思

検索式・参考にした二次資料

Page 33: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

129

3

骨肉腫

われる文献を参考にした。NCI-PDQⓇを参考にした。

1) EilberFR,RosenG.Adjuvantchemotherapyforosteosarcoma.SeminOncol1989;16:312-22.(エビデンスレベルⅡ)

2) FerrariS,BacciG,PicciP,etal.Long-termfollow-upandpost-relapsesurvivalinpatientswithnon-metastaticosteosarcomaoftheextremitytreatedwithneoadjuvantchemothera-py.AnnOncol1997:8;765-71.(エビデンスレベルⅣa)

3) KrailoM,ErtelI,MakleyJ,etal.Arandomizedstudycomparinghigh-dosemethotrexatewithmoderate-dosemethotrexateascomponentsofadjuvantchemotherapy inchildhoodnonmetastaticosteosarcoma:areportfromtheChildrensCancerStudyGroup.MedPediatrOncol1987;15:67-77.(エビデンスレベルⅡ)

4) MeyersPA,GorlickR,HellerG,etal.Intensificationofpreoperativechemotherapyforos-teogenicsarcoma:resultsof theMemorialSloan-Kettering(T12)protocol.JClinOncol1998;16:2452-8.(エビデンスレベルⅡ)

5) SouhamiRL,CraftAW,VanderEijkenJW,etal.Randomisedtrialoftworegimensofche-motherapy inoperableosteosarcoma:astudyof theEuropeanOsteosarcomaIntergroup.Lancet1997;350:911-7.(エビデンスレベルⅡ)

6) LewisIJ,NoojiMA,WhelanJ,etal.Improvementinhistologicresponsebutnotsurvivalinosteosarcomapatientstreatedwithintesifiedchemotherapy:arandomizedphaseⅢ trialoftheEuropeanOsteosarcomaIntergroup.JNatlCancerInst2007;99:112-28.(エビデンスレベルⅡ)

7) MeyersPA.Osteosarcoma:arandomized,prospectivetrialoftheadditionofifosfamideand/ormuramyltripeptidetocisplatin,doxorubicin,andhigh-dosemethotrexate.JClinOncol2005:23;2004-11.(エビデンスレベルⅡ)

8) SmelandS,MüllerC,AlvegardTA,etal.ScandinavianSarcomaGroupOsteosarcomaStudySSGⅧ :prognosticfactorsforoutcomeandtheroleofreplacementsalvagechemotherapyforpoorhistologicalresponders.EurJCancer2003;39:488-94.(エビデンスレベルⅣa)

9) FuchsN,BielackSS,EplerD,etal.Long-termresultsoftheco-operativeGerman-Austri-an-Swissosteosarcomastudygroup’sprotocolCOSS-86ofintensivemultidrugchemothera-pyandsurgeryforosteosarcomaofthelimbs.AnnOncol1998;9:893-9.(エビデンスレベルⅡ)

10) FerrariS,SmelandS,MercuriM,etal.Neoadjuvantchemotherapywithhigh-doseIfosfamide,high-dosemethotrexate,cisplatin,anddoxsorubicinforpatientswithlocalizedos-teosarcomaoftheextremity:ajointstudybytheItalianandScandinavianSarcomaGroups.JClinOncol2005;23:8845-52.(エビデンスレベルⅣa)

11) GoorinAM,SchwartzentruberDJ,DevidasM,etal.Presurgicalchemotherapycomparedwithimmediatesurgeryandadjuvantchemotherapyfornonmetastaticosteosarcoma:Pedi-atricOncologyGroupStudyPOG-8651.JClinOncol2003:21;1574-80.(エビデンスレベルⅢ)

参考文献

Page 34: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

130

骨盤骨肉腫は全骨肉腫例の約 1 割で,化学療法の感受性の低い軟骨芽細胞型骨肉腫,成人発生,放射線治療後二次性骨肉腫などの組織亜型の比率が高い。遠隔転移例が約15〜25 %,10 cm を超える巨大腫瘍,仙骨腰椎浸潤した局所進行例が 10〜30 %,術前化学療法の奏効性も低く,強力に行っても組織学的著効例(90 %以上の壊死率)は10 %以下と,予後は不良である1,2)。しかし,化学療法が奏効し,術後切除縁評価で広範切除が行われると,5 年生存率が 40 %と根治例も観察されるので,四肢の骨肉腫と同じく術前化学療法が行われる 3,4)。

骨盤の骨肉腫に対する治療成績

通常型骨肉腫の約 1 割が骨盤に発生し,組織学的には軟骨芽細胞型が多い。二次性骨肉腫や成人発生骨肉腫では体幹,骨盤例の比率が増え,骨盤症例が多い。局所は進行しやすく,遠隔転移合併例 15〜25 %,腫瘍直径 10 cm 以上の巨大腫瘍例が半数を超え,術前化学療法を強力に行っても組織学的著効例(90 %以上の壊死率)は 10 %以下などと,治療困難な場合が多い1,2,5)。

巨大な骨盤腫瘍は,仙骨,腰椎への浸潤,神経や骨盤内臓器に浸潤した局所進行例である。骨盤半截でも完全な術後切除縁を確保しえない切除困難例が 1/4 を占め,骨盤半截(半側切断)も,局所制御性は低く救済的側面が強い。巨大腫瘍では,静脈浸潤や静脈内腫瘍塞栓を 2 割も認め,未だ予後不良である。

骨盤骨肉腫に対する外科治療は,個々の症例の状況に合わせた切除方法や再建方法を工夫する必要があり,骨盤半截(片側骨盤離断術)以外は未だ確立した手術ではない。

腫瘍が巨大となり静脈系が非常に発達し骨盤内処置が行えないときか,手術操作中に高度な神経損傷が発生し,機能の喪失,温存した患肢の高度機能障害が発生するときは,骨盤半截が推奨されている。骨盤底に大きく発育した骨肉腫では,骨盤内操作中に思いがけない大量出血を起こし,切除縁確保もままならない。

血管,神経を通した微小浸潤,経静脈性進展が局所再発の大きな理由で,消化管尿路系からの細菌の混入も感染が多い理由である。骨盤切除直後の感染発生率は 30〜50 %で,術後感染は,人工物による再建の大きな障害となっている5,6)。

骨盤骨肉腫の治療成績の報告(表 1)は,通常化学療法と根治的手術の外科治療可能であった症例を中心に集積された結果で,緩和治療が選択される割合が半数近い骨盤発生例の実情は十分に把握されていないのが現状である。

背景・目的

解 説

骨盤発生の骨肉腫に対して,術前化学療法を行うべきか?

骨盤発生骨肉腫にも,術前化学療法を行うことを推奨する。効果を認めた限局例のみで,根治手術を実施することもできる。� (エビデンスレベル Ⅳ)

推奨グレード B

CQ 14

Page 35: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

131

3

骨肉腫

腫瘍発生部位別に腸骨(タイプ III),臼蓋(II),恥骨(I),仙骨(IV)と分類し,再建方法などが検討されている。腸骨,臼蓋では,サドル型人工関節,制御型人工関節,処理骨移植,同種骨移植などを使って,関節再建,関節固定が実施され,腸骨,恥骨では骨盤輪の再建の必要性が議論されている。切除範囲や感染のリスクなど,個々の症例で検討することも多く,十分なコンセンサスを得られていない。

遠隔転移,特に肺外転移の存在,治療無効な急速な病状進行,骨盤半截も不能なときは外科治療の適応はない。巨大腫瘍で,線溶系異常,代謝異常を併発した場合,数週間から数カ月の予後であることが多く,ベスト・サポート・ケア(BSC)が基本である。

PubMed で“osteosarcoma”AND“pelvis”と検索し重要と思われる文献を参考にした。

NCI-PDQⓇを参考にした。

1) OzakiT,FlegeS,KevricM,etal.Osteosarcomaofthepelvis:experienceoftheCooperativeOsteosarcomaStudyGroup.JClinOncol2003;21:334-41.(エビデンスレベルⅣb)

2) DonatiD,GiacominiS,GozziE,etal.Osteosarcomaofthepelvis.EurJSurgOncol2004;30:332-40.(エビデンスレベルⅣb)

3) GrimerRJ,CarterSR,TillmanRM,etal.Osteosarcomaofthepelvis.JBoneJointSurgBr1999;81:796-802.(エビデンスレベルⅣb)

4) KawaiA,HuvosAG,MeyerPA,etal.Osteosarcomaofthepelvis.Oncologicresultsof40

検索式・参考にした二次資料

参考文献

表 1 代表的な骨盤骨肉腫の治療成績

発生率(全体数)

M0/M1(数) 手術数(率)(温存/切断/手術なし)

放射線併用数

全生存率(5 年) 局所再発率(切除縁別再発数,率)

COSS1) 4.3 %83 例

52/15 例 38/12/17(67 例中)(56 % /18 % /25 %)

11 例19 %

27 % 62 %

IOR2) 記載なし60 例

35/25 例 14/16/30(60 例中)(23 % /27 % /50 %)

6 例 16 % 31 %(腫瘍内 4/7,辺縁以上7/23)切除縁確保 8/18 例生存

EOI3) 5 %36 例

25/9 例 12/6/9(36 例中)(33 % /17 % /25 %)

18 %高悪性度 22 例:24.2 %切除,化学療法例:41 %辺縁以上の切除縁:61.4 %M1:0 %,中間生存期間 10 カ月

18 %(温存例 2/12)

MSKCC 4) 5 %40 例

30/10 例 20/10/1(31 例中)(65 % /32 % /3 %)

34 %手術群 41 %,非手術例 10 %

32 %(広範 13 %,辺縁38 %,腫瘍内 80 %)

St.John6) 4 %19 例

14/5 例 2/7/10(19 例中) 21 % 56 %(手術例 5/9)

JMOG5) 記載なし54 例

35/19 例 30/5/19(54 例中) 27.5 %切除例44.1 %,非切除例 0 %

広範 20 %,辺縁 60 %腫瘍内 80 %,感染42 %(15 例)

M0:限局例,M1:遠隔転移例

Page 36: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

132

patients.ClinOrthopRelatRes1998;348:196-207.(エビデンスレベルⅤ) 5) MatuoT,SugitaT,SatoK,etal.Clinicaloutcomesof54pelvicosteosarcomasregisteredby

Japanesemusculoskeletaloncologygroup.Oncology2005:68:375-81.(エビデンスレベルⅤ) 6) SaabR,RaoBN,Rodriquez-GalindoC,etal.Osteosarcomaofthepelvis inchildrenand

youngadults:theSt.JudeChildren’sResearchHospitalexperience.Cancer2005:103:1468-74.(エビデンスレベルⅣb)

Page 37: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

133

3

骨肉腫

病的骨折を併発した骨肉腫は,周囲の腫瘍汚染,播種や,血管浸潤などにより,切断,離断することが必要とされた 1)。しかし,近年,化学療法が奏効することが非常に多くなり,広範切除縁での患肢温存手術が可能となる症例もあり,組織学的著効例では生命予後への影響も軽減される2-5)。

骨肉腫の原発巣に病的骨折を併発した場合,生命予後で約 20 %,局所制御性約 20 %の有意な成績低下が観察されるといわれてきた1)が,770 例原発悪性骨腫瘍を対象にした後方視的コホート研究で,病的骨折を起こしやすい状況と治療への影響を報告している。

病的骨折の併発率は骨肉腫で 15 %弱。四肢近位発生例で 41 %と併発が多いものの,肺転移有無に相関しなかった。局所再発は,患肢温存群 14 %,切断群 17 %で差を認めず,10 年生存率は,骨折群 34 %,非骨折群 58 %で病的骨折を起こすと予後不良であった(P=0.0002)。予後の多変量解析で,病的骨折,近部発生,切断,不完全切除,化学療法の奏効性不良が予後不良因子として抽出されている 6)。

しかし,術前化学療法や患肢温存手術が行われている最近の報告では,病的骨折例の治療成績は,局所再発率は患肢温存群の約 25 %,切断群約 20 %と,5 年死亡率,温存群 37 %,切断群 45 %で差を認めず,骨接合術を受けた例でも予後への悪影響は観察されなかった 7)。

単施設のコホート研究報告であるが,病的骨折の頻度は 6 % で,病的骨折例の 75 %の症例で積極的に患肢温存手術が計画され,術前化学療法著効率約 70 %,広範切除縁確保率 85 %と優れた成績が報告された。化学療法奏効不良群では 5 年無病生存率 33 %と病的骨折の影響が観察されたが,奏効例では 70 %と改善し,予後は切断群 54 %,温存群 61 %と,患肢温存することの予後への悪影響は観察されなかった。しかし,化学療法無効群では,局所再発 40 %,再発までの期間は中央値 22 カ月,再発後の予後は約6 カ月と病的骨折の影響を救済できていない 4)。

後方視的コホート検討のみであるが,骨肉腫診断時,病的骨折を併発した症例でも,通常の術前化学療法を実施し,化学療法が奏効し,広範切除縁を確保した外科治療が実施可能であれば患肢温存手術も可能であり,予後,局所制御性ともに改善する。

PubMed で“osteosarcoma”AND“fracture”と検索し重要と思われる文献を参考に

背景・目的

解 説

検索式・参考にした二次資料

病的骨折を併発した骨肉腫に対する患肢温存手術の妥当性は?

病的骨折を併発しても,化学療法の奏効性した場合,MRI,CTの画像所見に基づく広範切除縁の設定で,患肢温存手術も可能である。� (エビデンスレベル Ⅳ)

推奨グレード B

CQ 15

Page 38: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

134

した。NCI-PDQⓇを参考にした。

1) JaffeN,SpearsR,EftekhariF,etal.Pathologicfractureinosteosarcoma.Impactofchemo-therapyonprimarytumorandsurvival.Cancer1987;59:701-9.(エビデンスレベルⅤ)

2) AbuduA,SferopoulosNK,TillmanRM,etal.ThesurgicaltreatmentandoutcomeofPatho-logicalfracturesinosteosarcoma.JBoneJointSurgBr1996;78:694-8.(エビデンスレベルⅣb)

3) NatarajanMV,GovardhanRH,WilliamsS,etal.Limbsalvagesurgeryforpathologicalfrac-turesinosteosarcoma.IntOrthop2000;24:170-2.(エビデンスレベルⅤ)

4) BacciG,FerrariS,LonghiA,etal.Nonmetastaticosteosarcomaoftheextremitywithpathologic fractureatpresentation: localandsystemiccontrolbyamputationor limbsal-vageafterpreoperativechemotherapy.ActaOrthopScand2003;74:449-54.(エビデンスレベルⅤ)

5) EbeidW,AminS,AbdelmegidA.Limbsalvagemanagementofpathologicfracturesofpri-marymalignantbonetumors.Cancercontrol2005;12:57-61.(エビデンスレベルⅤ)

6) BramerJA,AbuduAA,GrimerRJ,etal.Dopathologicalfracturesinfluencesurvivalandlo-calrecurrencerateinbonysarcomas?EurJCancer2007;43:1944-51.(エビデンスレベルⅣb)

7) ScullySP,GhertMA,ZurakowskiD,etal.Pathologicfractureinosteosarcoma:prognosticimportanceandtreatmentimplications.JBoneJointSurgAm2002;84-A:49-57.(エビデンスレベルⅣb)

参考文献

Page 39: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

135

3

骨肉腫

骨肉腫は,化学療法が奏効し,積極的に肺転移の切除を行うと,長期生存または根治する症例が観察される。遠隔転移の 80 %以上は肺転移単独で,その他の部位の転移は約 10 %の頻度である。肺転移は,肺胸膜の直下に発生し,肺表面で楔状部分切除を繰り返すことで,大きな肺機能低下を起こすことなく,多数の肺転移,複数回の手術を行うことができる。細かい適応は定まっていないものの,CT 検査で確認される小肺転移を早期に発見し,片側,数個,初回導入治療終了後 1 年以上経過した症例では積極的肺転移切除が推奨される。

治療成績は,5 年生存率 10〜40 %が報告され,肺転移の発生時期が大きな予後予測因子で,初診時進行例の 5 年生存率は,15〜24 %1-6),1 ないし 2 年以降の再発では,再発後の 5 年生存率は 30 %を超え,根治した症例も観察される8-10)。一方,治療途中,治療終了後 1 年以内の再発は予後不良で,3 年生存例はほとんど観察されない1)。

初診時進行症例は,限局例と同じ術前化学療法が施行され,外科的切除で完全寛解を目指す。外科切除のタイミングとして,原発巣切除と肺転移切除を同時,ないし,数週間の時期をおいての肺転移切除術が行われ,完全寛解例では 5 年生存率 50 %を超えるとの報告もある。遠隔転移の 8 割は肺転移で,完全切除が可能な肺転移例では,積極的治療が行われている。

予後不良因子として,治療開始時の状態,肺転移数(両肺,8 個以上の多発),肺外転移の存在,血清 ALP 値高値,原発腫瘍の大きさと発生部位,治療関連因子として,組織学的効果,多様な治療での完全寛解未達成などの因子が抽出されている 2-8)。胸部X 線で経過観察していた時代は,単発肺転移が予後良好とされてきたが,CT 画像による肺転移診断が標準化し,微細肺転移の検出力は向上したが,炎症後の変化も多く発見されるので真の肺転移に関する正誤率は 50〜60 %14)で,肺転移結節数に関する予後因子解析に関する報告を単純に比較することはできない。8 個未満の切除で予後が良好との解析もあり,CT 検査の正誤率を考えて,3〜4 個の肺転移数でも,肺転移切除を行わない理由にはならない。

治療途中や治療終了後 1 年以内再発転移例は,一般に化学療法が無効,効果不十分で

背景・目的

解 説

骨肉腫 /骨MFHの肺転移例に対して,外科切除と化学療法は行うか?

肺転移は積極的切除を行って,完全寛解を目指すべきである。� (エビデンスレベル Ⅳ)

早期再発例や多発肺転移再発時に化学療法を行う。� (エビデンスレベル Ⅳ)

推奨グレード A推奨グレード B

CQ 16

Page 40: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

136

あり,予後も不良である。早晩再燃するので,迅速な薬剤変更が必要で,内科治療を優先する。治療が奏効し,片側,数個までの肺転移は外科切除による完全寛解を目指すが,未だ 3 年以上の生存例は少ない1,9)。繰り返し肺転移切除を実施すると,手術の回数が増えても予後延長の効果は観察されるが,4 回以降は,再燃までの期間が短縮するとの後方視的な報告もあり,外科療法の限界である11)。変更薬剤の効果が得られない場合は,前記 4 剤以外の有用な新規薬剤に関する第 II 相試験の参加か,緩和療法も考慮されるべきである。

術前化学療法の組織学的効果評価で通常の効果が得られた症例で,治療終了後 1〜2年以上の無病期間を経て肺転移を起こした場合,外科治療による根治も期待されるので,肺転移切除の条件が整えば,外科切除を積極的に行うべきである8-12)。

術前化学療法が組織学的効果評価で著効した症例で,肺転移で再発した場合,晩期再発で,転移結節の数も少なく,CT 検査による早期発見で単発,数個の小病変のうちに,肺転移切除を行うことは妥当な治療戦略である。

晩期肺転移再発後,化学療法を追加することのコンセンサスは得られていない。肺転移切除後,化学療法の奏効性にあまり期待できない10)との意見もあるが,有効な二次化学療法の有無が長期生存の鍵との予後因子解析から9),数カ月〜6 カ月間の補助的化学療法を推奨する意見も多い。今後,比較試験での検証が必要である。

一方,完全に外科切除できない多発肺転移例,胸膜播種例,肺外転移では,多発転移,脊椎,骨盤転移へと進行した場合は,ベスト・サポート・ケア(BSC),または化学療法新規薬剤による第 I/II 相試験への参加や,初回の導入補助化学療法で使用されなかった薬剤を中心とした緩和的化学療法が行われている。

PubMed で“osteosarcoma”AND“metastasis”と検索し重要と思われる文献を参考にした。

NCI-PDQⓇを参考にした。

1) TsuchiyaH,KanazawaY,Abdel-WanisME,etal.Effectoftimingofpulmonarymetastasesidentificationonprognosisofpatientswithosteosarcoma:theJapaneseMusculoskeletalOn-cologyGroupstudy.JClinOncol2002;20:3470-7.(エビデンスレベルⅤ)

2) MialouV,PhilipT,KalifaC,etal.Metasataticosteosarcomaatdiagnosis:Prognosticfactorsandlong-termoutcome-theFrenchpediastricexperience.Cancer2005;104:1100-9.(エビデンスレベルⅣb)

3) KagerL,ZoubekA,PöstschgerU,etal.Primarymetastaticosteosarcoma:presentationandoutcomeofpatientstreatedonneoadjuvantCooperativeOsteosarcomaStudyGroupproto-cols.JClinOncol2003;21:2011-8.(エビデンスレベルⅣb)

4) SaeterG,HøieJ,StenwigAE,etal.Systemicrelapseofpatientswithosteogenicsarcoma.Prognosticfactorsforlongtermsurvival.Cancer1995;75:1084-93.(エビデンスレベルⅣb)

5) VoûtePA,SouhamiRL,NooijiM,etal.Aphase Ⅱstudyofcisplatin,ifosfamideanddoxoru-bicininoperableprimary,axialskeletalandmetasataticosteosarcoma.EuropeanOsteosar-comaIntergroup(EOI)AnnOncol1999;10:1211-8.(エビデンスレベルⅣa)

検索式・参考にした二次資料

参考文献

Page 41: 骨 肉 腫 - 日本小児血液・がん学会³•〔カルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(VP-16)〕やIE療法〔IFM+VP-16〕が 行われているが,臨床効果も低く二次薬剤としての有用性は確定していない。これらの診断,治療に関連するエビデンスを集積するために,2009年12月

137

3

骨肉腫

6) HarrisMB,GieserP,GoorinAM,etal.Treatmentofmetastaticosteosarcomaatdiagnosis:aPediatricOncologyGroupStudy.JClinOncol1998;16:3641-8.(エビデンスレベルⅣa)

7) GoorinAM,HarrisMB,BernsteinM,etal.PhaseⅡ/Ⅲtrialofetoposideandhigh-doseifos-famideinnewlydiagnosedmetastaticosteosarcoma.apediatriconcologygrouptrial.JClinOncol2002;20:426-33.(エビデンスレベルⅣa)

8) WandWG,MikaelianK,MirraJM,etal.PulmonarymetastasesofstageⅡBextremityos-teosarcomaandsubsequentpulmonarymetastases.JClinOncol1994;12:1849-58.(エビデンスレベルⅣb)

9) FerrariS,BriccoliA,MercuriM,etal.Postrelapsesurvivalinosteosarcomaoftheextremi-tiesprognosticfactorsforlong-termsurvival.JClinOncol2003;21:710-5.(エビデンスレベルⅣb)

10) Kempf-BielackB,BielackSS,JürgensH,etal.Osteosarcomarelapseaftercombinedmodali-tytherapy:ananalysisofunselectedpatientsintheCooperativeOsteosarcomaStudyGroup

(COSS).JClinOncol2005:23;559-68.(エビデンスレベルⅣb) 11) TemeckBK,WexlerLH,SteinbergSM,etal.Reoperativepulmonarymetastasectomyfor

sarcomatouspediatrichistologies.AnnThoracSurg1998;66:908-13.(エビデンスレベルⅣb)

12) SuzukiM,IwataT,AndoS,etal.Predictorsoflong-termsurvivalwithpulmonarymetasta-sectomyforosteosarcomasandsofttissuesarcomas.JCardiovascSurg(Torino)2006;47:603-8.(エビデンスレベルⅣb)

13) CarterSR,GrimerRJ,Sneath,RS,etal.Resultsofthoracotomyinosteogenicsarcomawithpumonarymetastases.Thorax1991;46:727-31.(エビデンスレベルⅣb)

14) PicciP,VanelD,BriccoliA,etal.Computedtomographyofpulmonarymetastasesfromos-teosarcoma:thelesspoortechnique.Astudyof51patientswithhistologicalcorrelationAnnOncol2001;12:1601-4.(エビデンスレベルⅣa)