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要旨 日本語学習の初級では文法の学習が中心となるため,初級教科書で提示されてい る語彙の教育的観点からの調査や,その体系的な指導法についてあまり研究がなさ れていないと思われる。本稿では『新装版 初級日本語』に提示されている形容詞 を語数,意味用法,構文,提示方法という観点から分析し,実態を調査すると共に, 提示されている形容詞の構文的なタイプを取り出した。その結果,『初級日本語』 に提示されている形容詞は,語の種類としては属性形容詞,用法としては述語用法 に大きく偏ること,構文的なタイプや形容詞の意味用法にも制限があることがわか った。本稿の分析から1冊ではあるが初級日本語教科書の形容詞の扱いを明らかに することができ,またこれらの考察を通して,語彙教育的観点からの形容詞の体系 的指導のありかたも考えてゆくことができるであろう。 1. 本稿の目的 本研究は東京外国語大学留学生日本語教育センター編『新装版 初級日本語』(以下『初級 日本語』)を基礎資料として,『初級日本語』で導入されている形容詞がどのような意味用法, 構文で使用されているかを調査し,その実態を明らかにすることを目的とする。今回分析対象 1 冊であるが,従来あまり明らかにされてこなかった初級日本語教科書における各形容詞の 提示方法・構文的なタイプの分析を通して,教科書に提示される形容詞の構文的特徴の解明, さらには語彙教育的観点からの形容詞の体系的指導法構築という今後の研究の足がかりをつく ることができるであろう。 2. 研究の背景と先行研究 2.1. 語彙教育研究の遅れと研究課題 外国語教育において,語彙力というものは最終的な語学力をも左右する重要なものであるが, 日本語教育においては研究遅れている最も弱い分野であると思われる。 219 『初級日本語』に導入されている 形容詞の分析 -語彙教育の観点から- 福原 聡美 東京外国語大学大学院博士後期課程 『コーパスに基づく言語学教育研究報告』No.1(2009)

『初級日本語』に導入されている 形容詞の分析cblle.tufs.ac.jp/assets/files/publications/working_papers_01/... · 要旨 日本語学習の初級では文法の学習が中心となるため,初級教科書で提示されてい

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要旨

日本語学習の初級では文法の学習が中心となるため,初級教科書で提示されてい

る語彙の教育的観点からの調査や,その体系的な指導法についてあまり研究がなさ

れていないと思われる。本稿では『新装版 初級日本語』に提示されている形容詞

を語数,意味用法,構文,提示方法という観点から分析し,実態を調査すると共に,

提示されている形容詞の構文的なタイプを取り出した。その結果,『初級日本語』

に提示されている形容詞は,語の種類としては属性形容詞,用法としては述語用法

に大きく偏ること,構文的なタイプや形容詞の意味用法にも制限があることがわか

った。本稿の分析から1冊ではあるが初級日本語教科書の形容詞の扱いを明らかに

することができ,またこれらの考察を通して,語彙教育的観点からの形容詞の体系

的指導のありかたも考えてゆくことができるであろう。

1.本稿の目的

本研究は東京外国語大学留学生日本語教育センター編『新装版 初級日本語』(以下『初級

日本語』)を基礎資料として,『初級日本語』で導入されている形容詞がどのような意味用法,

構文で使用されているかを調査し,その実態を明らかにすることを目的とする。今回分析対象

は1冊であるが,従来あまり明らかにされてこなかった初級日本語教科書における各形容詞の

提示方法・構文的なタイプの分析を通して,教科書に提示される形容詞の構文的特徴の解明,

さらには語彙教育的観点からの形容詞の体系的指導法構築という今後の研究の足がかりをつく

ることができるであろう。

2.研究の背景と先行研究

2.1.語彙教育研究の遅れと研究課題

外国語教育において,語彙力というものは最終的な語学力をも左右する重要なものであるが,

日本語教育においては研究遅れている最も弱い分野であると思われる。

―219―

『初級日本語』に導入されている形容詞の分析-語彙教育の観点から-

福原 聡美東京外国語大学大学院博士後期課程

『コーパスに基づく言語学教育研究報告』No.1(2009)

語というものは,単独でとりあげて覚えたとしてもそれがどのような語とくみあわさること

ができるか,その対象範囲を理解していなければ自然な日本語を習得したとはいえない。この

問題については早くからとりあげられてきた。

宮地(1972:291-292):

「…外国人への語彙教育のもうひとつの面1は,語の意義の体系的理解,つまり語の対義・

類義その他さまざまな意義関係の組織についての理解をもとめるということだと言ってよ

いけれども,それが,単に語レベルでの知識的理解にとどまらず,文における表現・理解

に生かされなければならないということが大切である。(中略)おおまかに言えば表現論

的語彙教育という一面があると言ってよいであろう」

森田(1984:48,55-56)

「語彙力とは,既習語の数の問題ではない。一つ一つの語を正しく文中で使え,また,文

脈とのかねあいで正しく理解できる能力でなければならない。」

「留学生の作文に,

○あるいはその大きい怪我でしぬかもしれません。

というのがあった。日本語では「大きい」がカバーする範囲内に「怪我」は含まれない。

…(中略)…このように語と語は,文法的な結び付きのほかに,意味的な結び付きからも

種々の制約が付きまとうので,注意する必要がある。」

つまり,語彙を語のレベルで捉えるだけでは各語の正確な意味用法を捉えることはできず,

運用能力は身につかない。語のレベルにとどまらず,文のレベルにまで踏み込んだ理解・指導

が必要であることがわかる。ただし,文のレベルにまで踏み込んだ語彙教育に関する研究はあ

まり進んでいないのが実情である。

赤澤(2005)は1962年から2004年までの学術雑誌『日本語教育』に掲載されている論文を

対象として,語彙教育に関連する研究が量的・質的にどのような発展を遂げてきたかを調査し,

以下の点を指摘している。

・語彙教育に関係していると判断された論文は非常に少ない(1285本中41本)。

・論文の半数以上が「教えるべき語彙の選定」「指導上の問題点・留意点指摘」であり,指

導方法に踏み込んだ具体的研究が少ない。

・それぞれの研究が想定している学習者のレベルは中上級が圧倒的に多い。

(pp.129-131)

赤澤の研究は『日本語教育』のみを対象としており語彙教育研究全体の量や質を知ることは

できないが,この調査は語彙教育に関する研究が文法研究に比べて非常に少ないことを,また

研究の対象が限られていることを示す1つの指標になるであろう。初級における語彙教育に関

―220―

1 宮地(1972)は,外国人への日本語語彙教育において考えなければならない側面として,本稿で引

用した「表現論的語彙教育」のほかに「形態論的語彙教育」「対人関係的あるいは言語社会学的語彙教育」

を挙げている。

する研究が少ないのには原因があると思われる。つまり初級では文法・文型の学習が重視され,

語彙の習得は学習者の自立的な学習にまかされる。しかし,語とその課で提示される意味を単

にむすびつけて覚える学習方法が,最終的な日本語語彙の運用能力にむすびつかないというこ

とは先行研究の指摘するとおりである。

そこで教師側は,初級教科書では各語が文の中でどのようなふるまいをしているのか,また

それらはどのような意味用法,構文で提示され,中級では初級に引き続きどのような指導を行

えばよいのかを把握しておく必要があると思われる。そのためにも教師は各段階の教科書での

語の提示順序,意味用法,提示されている構文を知っておかなければならない。以上をふまえ

ると今後の語彙教育研究の課題としては,

①各段階の教科書で提示される語彙の調査

②それぞれの語の意味的・構文的特徴の解明

③「語彙の体系的指導」の構築

の3点が挙げられるであろう。

以上の問題点をふまえ,本稿では初級教科書の形容詞2に焦点を絞って語彙調査を行う。本

研究は東京外国語大学グローバルCOEプログラムのプロジェクトのひとつである「コーパス

にもとづく語彙論入門書の作成」と連動して行っており,本稿はその中の「初級日本語教科書

の語彙調査」の形容詞を担当している。ここでは教科書に提示される形容詞がどのような意味・

構文で使用されているかを調査し,語彙教育的観点からの初級日本語における形容詞の指導の

しかたを考える。

2.2.形容詞分類に関する先行研究

形容詞を分類する際,形容詞を客観的な性質や状態を表わすものと,主観的な感覚や感情を

表わすものに二分類する先行研究が圧倒的に多い。この二分類に関しては古くは時枝(1950)

が「高い,赤い」といった形容詞を「客観的表現の語」,「ほしい,のぞましい」などを「主観

的表現の語」として分けている。更に時枝は「こわい,にくらしい」のような形容詞を「主観

客観の総合的表現の語」として扱っている(p.53)。その後,西尾(1972),仁田(1975),寺

村(1982),細川(1989),樋口(1996),山岡(2000),八亀(2008)など,形容詞のとる構文

やその意味分類に注目した研究が多くなされているが,その中でも代表的な研究として挙げら

れるのが西尾(1972)の形容詞分類である。西尾は形容詞を「属性形容詞」と「感情形容詞」

に二分し,この2つを分ける際の条件として,①接尾辞「~がる」がつくかどうか(例:「彼

は参加を嫌がった」),②主語が第一人称の人かどうか(例:「私は彼の気持ちがうれしかった」),

―221―

2 学校文法でいう「形容詞」「形容動詞」どちらも含む。本稿では日本語教育で使用される用語を採用

し,これ以降いわゆる「形容詞」を「イ形容詞」,「形容動詞」を「ナ形容詞」とよぶ。

③「あなた(あの人)は �語幹�そうだ」の形の文が成り立つか(例:「あの人はねむそうだ」),

④対象語をもつか(例:「私は大きいうちがほしい」),などを挙げている(pp.2133.)。そし

て同著では,属性形容詞を①広範なものごとの属性(例:「財布がない」「AとBはおなじだ」),

②ものに関する属性(例:「髪がながい」「空がまっかだ」),③ひとに関する属性(例:「あの

先生はきびしい」「あの人はしんせつだ」),④ことに関する属性(例:「変化がいちじるしい」

「解散するのはとうぜんだ」),の4つに,感情形容詞を①感情形容詞と②感覚形容詞の2つに

分けて詳しく分析している。

3.基礎資料と本稿での形容詞分類

3.1.基礎資料『初級日本語』の特徴と形容詞の採集方法

本稿では,『初級日本語』(1994)を基礎資料とし,初級教科書で導入される形容詞の分析を

行った。『初級日本語』は「日本の大学に進学するため,1年間の短期集中予備教育を受ける

留学生を対象として編集」(p.ii)された初級教科書であり,語彙数は約2000語,学習予定時

間が300時間の総合教科書である。文法シラバスを採用しており,全28課の「本文・会話」

「文型・語彙」,全10課の「読み物」,各課の文型リストや動詞・形容詞の表など各種のリスト

が載せられた「付表」から構成されている。教科書には副教材として『初級日本語れんしゅう』

『初級日本語かいわ』『初級日本語 単語帳』『初級日本語 漢字練習帳』ⅠⅡ,テープなどが

用意されている。『初級日本語』は日本語教育において使用率の高い教科書とは言えないが,

①動詞やイ形容詞,ナ形容詞などのリストが記載され,語彙の選択に非常に注意がはらわれて

いる,②初級から上級まで一貫した教科書が発行されており,今後初級から上級教科書へと語

彙調査をする場合に適している,③本文と練習が分かれているため正確なデータが採集しやす

い,という理由から基礎資料として採用した。

『初級日本語』から「付表」にあるイ形容詞,ナ形容詞の表に記載されている形容詞を対象

とし,教科書にあるそれらの形容詞の用例すべてをとりだし,リストを作成した。採集の際,

1つの文の中に形容詞が2語(以上)入っている場合は,その用例の数を2例(以上)と数え

た。つまり用例の総数は形容詞の延べ語数と一致する。

3.2.本稿での形容詞の分類

本稿では,西尾(1972)の形容詞分類を基本とし,国立国語研究所(2004)(以下『分類語

彙表』と示す),情報処理振興事業協会(1990)(以下『計算機用日本語基本形容詞辞書』と示

す)を参考にしながら形容詞を分類した。以下にその分類と定義を書く。

形容詞 属性形容詞

感性形容詞 感覚形容詞

感情形容詞

―222―

��� �

��

・属性形容詞:「客観的な性質・状態の表現をなす」(西尾1972:21)形容詞

例)この あかい しょっけんは 百えんです。(p.9)

例)しんかんせんは はやいです。しかし,たかいです。(p.38)

・感性形容詞:「主観的な感覚・感情の表現をなす」(西尾1972:21)形容詞

・感覚形容詞:人間の主観的感覚を表わす形容詞

例)わたしは 頭が いたいです。(p.155)

・感情形容詞:人間の主観的感情を表わす形容詞

例)あなたに会えて,うれしいです。(p.217)

この「属性形容詞」「感性形容詞」のほかに,「補助形容詞」を別に分類した。ここでいう補

助形容詞とは「してもいい」「したほうがいい」「してはだめだ」など,教科書の索引にひとま

とめの形として提示されているものをさす。学校文法で補助形容詞として扱われる「明るくな

い」などの「ない」は,今回調査の対象に入れなかった。

4.提示されている形容詞の分析結果と考察

4.1.異なり語数と述べ語数

提示されている形容詞の異なり語数は133語である。教科書には「よろしい」という語が導

入されているものの,「よろしく[どうぞ~]」「よろしくおねがいします」「よろしい」の形で

索引に記載があるが,「付表」のイ形容詞の表には記載されていないため数に入れていない。

また「ない」は,「ない」「元気がない」の2つが記載されているが,1語として数える。以下,

表を下に示す。品詞分類はテキストに準じ,各形容詞の基本義3で分類している。名詞的形容

詞とは,教科書では「な形容詞など」として分類されているもので「おなじの,はんたいの,

ほんとうの,ふつうの,なまの」の5語をさす。表1をみると,『初級日本語』では属性形容

詞(97語)のほうが感性形容詞(37語)よりも圧倒的に多く提示されていることがわかる。

また,感覚形容詞(20語)の方が感情形容詞(17語)よりも多い。

―223―

表 1 提示されている形容詞の異なり語数

イ形容詞 ナ形容詞 名詞的形容詞 計 比率

属性 52 39 5 96 72.2%

感性感覚

3020

70

00

3720 15.0%

感情 10 7 0 17 12.8%

計 82 46 5 133 100%

3 用法によって属性,感性どちらにも使われる形容詞があるが,基本義であると思われるほうに分類

している。

表2に形容詞の述べ語数4を示す。延べ語数は1025語である5。異なり語数の場合と同じく,

『初級日本語』では全体の約80%が属性形容詞と,属性形容詞の提示回数が圧倒的に多いこと

がわかる。更に表1と表2を比較すると,属性形容詞は延べ語数の方が異なり語数より全体に占

める比率が高く,反対に感性形容詞はその比率が低い。つまり,感性形容詞は提示される異なり

語数が全体数の約30%と少ないが,その実際の提示回数(延べ語数)の比率は更に少ないことが

わかる。

次に『初級日本語』に提示されている形容詞の用法別内訳6を表3に示す。形容詞の延べ語

数は1025例であるが,表3では「よろしく」や補助形容詞59語を除いた966語を対象として

いる。形容詞の用法は「述語用法」「連体用法」「連用用法」「定型」「転生用法(名詞)」「転生

用法(動詞)」「メタ言語的」「例示」の8つに分けている。「メタ言語的用法」「例示」とは,

以下のようなものをさす。

メタ言語的用法:「ながい」の 反対は 「みじかい」です。(p.86)

例示 :【いろ】白い くろい あかい あおい きいろい(p.11)

また「定型」は,索引にその形で記載されているもの,たとえば「お元気ですか」「残念な

がら」などをさす7。

形容詞の用法の内訳をみると,全体の半数が述語として提示されていることがわかる。さら

にそれぞれの形容詞についてみると,属性形容詞は述語用法が50.1%,連体用法は29.3%の

割合で存在し,感覚・感情形容詞は述語がそれぞれ65.9%,65.4%,連体用法は19.3%,17.9

%となっており,どの形容詞も述語用法が多いことを示している。

この傾向は現代日本語の傾向に合っているのだろうか。仁田(1998)は文庫本にあらわれる

―224―

表 2 提示されている形容詞の延べ語数

形容詞の種類 延べ語数 比率

属性 800 78.0%

感性感覚 88 8.6%

感情 78 7.6%

上記以外(「よろしく」・補助形容詞) 59 5.8%

計 1025 100%

4「よろしい」に関して:「よろしく[どうぞ~]」「よろしくおねがいします」のような定型で表わさ

れるものは,補助形容詞と同じく別に扱うが,「もし,よろしければ,いっしょにうかがいたいと思って

おります。」(p.283)のようなもの(2例)は「いい」の丁寧形として「いい」の中に含める。

5 同じ課に似たような(または同一の)文型が提示された場合もすべて数えている。

6 教科書に提示されている用例中の形容詞の用法別内訳である。連体修飾構造の中に入っている形容

詞は「述語」用法に含める。

7「よろしい」とは異なり,それ単独のものが,「付表」の形容詞の表に示されている。

形容詞の調査を行っているが,その中で日本語形容詞の一般的傾向として,属性形容詞は連体

用法をその本領としており,一方感覚・感情形容詞は述語用法のほうが多い8(p.34)として

いる。つまり『初級日本語』では日本語の形容詞の一般的傾向に添わず,属性形容詞の述語用

法が連体用法よりも多いことがわかる。よって教師側はこの教科書の特徴をよく認識し,学生

が実際に行う発話や作文の中では,教科書の傾向によらず自然な日本語が作れるように指導し

てゆく必要がある。

また,名詞への転生用法は属性形容詞がほとんどであり,感性形容詞はわずか1例しかとり

あげられていない。

4.2.教科書に提示されている各形容詞の意味

133語の形容詞はそれぞれどのような意味をもつのだろうか。『分類語彙表』9に挙げられて

いる意味と今回採集した用例とを照らし合わせ,教科書の形容詞がどの意味で用いられている

のかを調査した10。その結果を表4に示す。表をみると,初級形容詞では多義である形容詞が

―225―

表3 形容詞の用法別内訳

属性形容詞

感性形容詞(感覚)

感性形容詞(感情)

計比率(%)

述語用法 401 58 51 510 52.8%

連体用法 234 17 14 265 27.4%

連用用法(~く/に,~そうに 等) 113 10 7 130 13.5%

定形 22 0 1 23 2.4%

転生用法(名詞:~く,~さ 等) 20 1 0 21 2.2%

転生用法(動詞:~がる) 1 0 5 6 0.6%

メタ言語的用法 4 2 0 6 0.6%

例示 5 0 0 5 0.5%

計 800 88 78 966 100%

8 仁田(1998)はこの調査を510ページ余りの文庫本(講談社『ミステリー傑作選4』)というごく小

さな資料をもとに行っている。ジャンルの偏りや母体資料の規模に問題があるが,これについて仁田は,

調査結果の「厳密な数字は必要ない。概略の傾向が分かればいい。(中略)用法の中心が述定ではなく装

定にある,というのは,属性形容詞のみであり,(中略)特に,感情・感覚形容詞では,述定が想定の倍

近く存する。」(p.34)と述べている。

9『分類語彙表』は,「辞書の見出し語とは違う単位」も項目として扱っているが,今回は索引に当該

の形容詞単独で提示されている意味のみを扱った。複合語として提示されているもの「力強い」や連語,

慣用句「腹が黒い」「都合がいい」「背の高い」「胸くそがわるい」などは今回調査の対象にしていない。

10『分類語彙表』の分類は,客観的かつ正確なものであるかについては議論の余地があるであろうが,

比較的規模の大きいコーパスのもとで体系的に行われたものとして,調査の基準として扱うことのでき

るものである。

62語と,全体の約半数(46%)を占めていることがわかる。しかし,教科書で『分類語彙表』

に挙げられている多義すべてを扱っている形容詞は62語中わずか10語であった。つまり,初

級教科書では多義的な形容詞の意味の一部のみを扱っている場合が多いことがわかる。教師側

は,どの意味が初級段階で扱われていないかを理解し,中級以降にも再度既習語彙を扱い,改

めてその多義的な意味を導入する必要がある。

多義の例:「ちいさい」

あの へやは ちいさいです。(p.11) :(ちいさい=抽象関係:量)

わたしは,小さい時,父に死なれました。(p.215)

:(ちいさい=抽象関係:時)

4.3.形容詞の構文的なタイプの分類

133語の形容詞は,教科書にどのような形で提示されているのか。教科書の中で提示された

形容詞の構文的なタイプ11を用法ごと12に示した表(別表1)と,133語の形容詞が現代日本

語の中でとる構文的なタイプの表(別表2)を示す。表では構文的なタイプを以下のように2

行に分けて示す。

[ヒト]ガ + [ヒトの部分]ガ+感覚A

[感情主(話し手)] [対象(身体部分)]

1行目には各成分の語彙的な意味範疇としての意味,2行目には構文論的な意味を示す。以

下に,別表1で示した教科書に示されている述語用法の構文的なタイプを書く。

―226―

11 ここでは比較級・最上級の用法については構文的なタイプとして扱わない。

12 述語用法と連体用法。連用用法については後述。

表4 教科書で扱われている語義

語義の数 イ形容詞 ナ形容詞 名詞的形容詞 計

単義 38 28 3 69

多義

教科書が多義の意味全てを扱っている

44

8

18

2

2

0

64

10

教科書が多義の意味の一部を扱っている

36 16 2 54

合計 82 5 5 133

A.属性形容詞

[モノ・ヒト・コト]ガ +属性A

[状態主(属性の所有物・所有者・コトガラ)]

例)あの びょういんは おおきいです。 そして,あたらしいです。(p.9)

[施設が おおきい] [施設が あたらしい]

[モノ・ヒト・コト・場所]ガ + [モノ・コト]ガ+属性A

[状態主(属性の所有物・存在場所)] [部分・側面]

例)象は 首が 太いです。(p.155)[生物は 生物の一部が ふとい]

この まちは 大きい こうじょうが 多いです。(p.77)

[場所は 施設が おおい]

[ヒト]ガ + [コトガラ]ガ+属性A

[状態主(属性の所有者)] [対象]

例)小林さんは ほんとうに えが 上手ですね。(p.115)

[人は 事が じょうずだ]

[モノ]ガ+[場所]ニ/カラ+属性A

[状態主] [基準]

例)ならは きょうとから ちかいです。(p.34)

[場所が 場所から ちかい]

([ヒト]ガ)+[モノ・ヒト・コト]デ+属性A

[判断者] [範囲]

例)これで いいですか。(p.98) [範囲で いい]

[コト]ニ +[モノ]ガ +属性A

[基準] [状態主]

例)大学に入るのに高校の卒業証明書が必要です。(p.206)

[事に 物が ひつようだ]

[モノ・ヒト・コト]ガ+[モノ・ヒト・コト]ト+属性A

[状態主] [相互関係]

例)しかし,ふかい海の中で働くのは,月の上で働くのと同じように大変である。(p.275)

―227―

[事が 事と おなじだ]

B.感覚形容詞

[ヒト]ガ+感覚A

[感情主(話し手)]

例)わたしは,話を聞いている間,とても眠かったです。(p.233)

[私は ねむい]

[モノ・コト]ガ+感覚A

[評価の対象]

例)暑いから,マナさんは戸を開けました。(p.198) [(私は) あつい]

[ヒト]ガ + [ヒトの部分]ガ+感覚A

[感情主(話し手)] [対象(身体部分)]

例)わたしは 頭が いたいです。(p.155) [私は 体の部分が いたい]

C.感情形容詞

[モノ・コト]ガ+感情A

[評価の対象]

例)この しごとは たいへんですが,おもしろいです。(p.75)

[事が おもしろい]

[ヒト]ハ + [モノ・ヒト・コト]ガ+感情A

[感情主(話し手)] [感情のむけられる対象]

例)りょこうに行けないのはざんねんです。(p.189)

[(私は) 事が ざんねんだ]

[ヒト]ガ+([モノ](ノナカ)デ)+ [モノ・ヒト・コト]ガ+感情A

[感情主] [範囲] [感情のむけられる対象]

例)わたしは くだものの 中では りんごが 一番 好きです。(p.119)

[人は 物が すきだ]

[ヒト]ガ + [モノ]ガ+感情A

[感情主(話し手)] [感情のむけられる対象]

例)わたしは コンピュータが ほしいです。(p.118)

―228―

[私は 物が ほしい]

構文的なタイプの下には,教科書でその構文をとってあらわれる形容詞が示されている。形

容詞によっては,教科書の中で複数の構文にあらわれるものがあるが,その場合はそのどちら

の構文的なタイプにも提示している。感性形容詞のなかには,典型的な構文を離れ,属性形容

詞が典型的にもつ構文をとるものがある。その意味は属性的なものに傾くが,それは別表には

記載していない。

例)感覚形容詞

少し 暗くても かまいませんか。(p.116)

([モノ・コト]ガ)+ 感覚形容詞

[評価の対象]

図書室の 電気は 暗くては いけません。(p.121)

[モノ・ヒト・コト]ガ (属性的な意味を帯びる)

[状態主(属性の所有物]

例)感情形容詞

おもしろくて,食事をするのも忘れてしまいました。(p.210)

([モノ・ヒト・コト]ガ)+ 感情形容詞

[評価の対象]

やきゅうが 好きなのは おもしろい スポーツだからです。(p.168)

[コト] (属性的な意味を帯びる)

[属性の所有物]

教師は,教科書には形容詞がどのような構文で提示されているか知っておく必要がある。ま

た,ある形容詞が他のどの構文をとることができ,それによってどのように意味が変わるかを

理解しておかなければならない。あたらしい構文を学習する際には,その課に提示されている

形容詞だけではなく,教科書の既習の形容詞のうちどれがその構文の中で用いることができる

かを提示し,何度も学習者に既習語を思い起こさせることで使い方を理解させていくことが重

要である。

別表1,2を見比べると,初級に学習した形容詞でも,現代日本語でその形容詞がよくとり

うる構文的なタイプが教科書で提示されていない場合がある。たとえば「ねっしんな」は初級

教科書では連用用法でしか提示されないが,実際には,「[ヒト]ガ+[モノ・ヒト・コト]

―229―

ニ+属性A」(例:「彼は 組合活動に ねっしんだ」)という構文でもよく用いられる。中

級以降で再度「ねっしんな」をとりあげ,学習しなければならない。別表2では,初級教科書

で扱われていない構文には星印(★)をつけた。今後,中級,上級教科書で導入される構文も

調査することで,実際にどの構文がどの段階で指導されるのか,また語彙の体系的指導をどう

行ってゆくべきかを詳細に考察することができるであろう。

4.4.形容詞の提示方法,用法とのかかわり

各形容詞は,どのように教科書の中で提示され,さらにどのような用法と強い関連性がみら

れるのだろうか。4.4.1では各形容詞の提示のされ方について,4.4.2では教科書に提示されて

いる形容詞と,それらがとる用法との関連性について考える。

4.4.1.各形容詞の提示方法

教科書で導入される形容詞は,どのように提示されているのだろうか。

―230―

表5 属性形容詞の導入順

2課あおい,あかい,あたらしい,おおきい,きいろい,くろい,しろい,たかい,ちいさい,ひくい,ふるい,やすい

5課いそがしい,おそい,ちかい,とおい,ながい,はやい,みじかい,むずかしい/やさしい

6課 いろいろな,きれいな,しずかな,じょうぶな,ひまな

7課いい,おもい,かるい,きたない,つよい,ふとい,ほそい,よわい,わるい,げんきな

9課あつい,あぶない,うすい,おおい,すくない,せまい,ただしい,ない,ひろい,わかい/あんぜんな,しんせつな,たいせつな,たいへんな,にぎやかな,らくな

12課 だいじょうぶな,ゆうめいな

14課 すばらしい/じゆうな,じょうずな,だめな,へたな

15課 ていねいな,へんな,へいわな

16課 かんたんな,とくべつな,びんぼうな,ふくざつな,ふべんな,べんりな

18課 かたい,まるい,やわらかい/ひつような,ふじゆうな

21課 きけんな,くわしい/じゅうぶんな,ふじゅうぶんな

23課 うつくしい,げんきがない,めずらしい/けんこうな

24課 ひどい

25課 きびしい/まっしろな

26課 ふかい/しあわせな,ふしあわせな,まじめな

27課 けっこうな,ねっしんな

28課 すごい

属性形容詞は異なり語数97,延べ語数が800である。属性形容詞は2課から導入され,ど

の課でもまんべんなく扱われている。上位5位は「いい」(100例),「たかい」(36例),「おお

い」(30例),「おおきい」(25例),「ふるい,むずかしい」(各24例)であり,上位6語で全

体の約30%を占める。教科書の中で示される例が3例以下のものは42語(全体の異なり語数

の43.3%)であり,形容詞によって提示される回数はかなり異なることがわかる。

感性形容詞は,その特徴として,属性形容詞に比べて種類も提示回数も少ないことは前に述

べた。では,その感性形容詞は,教科書の中でどのように扱われているのか。

感覚形容詞は異なり語数20,述べ語数が88である。比較的前半の課からまんべんなく導入

されているが,延べ語数は「いたい」(23例),「あつい」(11例),「あかるい」(10例),「お

いしい」(7例)の上位4語だけで58%を占める。それ以外の形容詞は1~5例提示されるのみ

で,感覚形容詞も提示される回数が形容詞によってかなり異なることがわかる。

感情形容詞は異なり語数が17,延べ語数78である。提示される数をみると,5例以上提示

されるものは,多い順から「すきな」(16例),「ほしい」(10例),「おもしろい」(8例),「き

らいな,ざんねんな,だいすきな」(6例)であり,上位6語の形容詞で延べ語数の66.7%を

占める。上位の形容詞をみると,好悪を表わす形容詞が多く,特定の形容詞が多く提示されて

いることがわかる。「たのしい,つまらない,おもしろい」と好悪を表わす形容詞以外のもの

は21課以降にならないと導入されない。また23課に導入される形容詞の多くが23課,25課

の学習項目である「~そうだ」「~がる」「~ようだ」に接続した形であらわれ,しかもほとん

ど23,25課にしかあらわれない。

これらをまとめると次のようなことがいえる。各形容詞とも,用例数が特定の形容詞に偏る

傾向にある。また感性形容詞の場合は提示が遅かったり,用例数が特定の課(の中での文法項

目)に偏りがちである。そのため学習者が既習の形容詞を実際には様々な文で使うことができ

ない可能性がある。教師側は,新しい文型を学習する際に既習の語を使った文を学生に示した

り,学習者に既習の語を使って作文を作らせ,語の使用範囲を自立的に学ばせたりするなど,

―231―

表6 感覚形容詞の導入順

2課 あかるい,くらい

5課 あつい(暑い),さむい

7課 あたたかい,うるさい,おいしい,すずしい,つめたい,まずい

17課 あまい,からい,くさい,しおからい,すっぱい

18課 いたい,だるい

21課 くるしい

23課 ねむい

24課 あつい(熱い)

応用力をつける訓練をさせる必要がある。

4.4.2.形容詞と用法とのかかわりについて

初級教科書に提示されている形容詞は133語であるが,述語・連体・連用用法すべての用法

がそれぞれに使用されているわけではない。教科書の中で各形容詞がどのような用法でもちい

られているか,その分布表を別表3に記した。表8は別表3の中の述語用法,連体用法,連用

用法に注目したもので,教科書の中で各用法が使用されているか否かを「+-」で表示し,集

計したものである。表をみると,3つの用法すべてが提示されているものは133語中わずか20

語であることがわかる。比較的多いのが述語用法・連体用法が提示されているパターンⅡ,述

語用法のみが扱われているパターンⅤである。連用用法のみの形容詞も7語(「うまい,こわ

い,さびしい,すごい,ねっしんな,へいわな,まっしろな」)ある。つまり,新しい語を学

習したとしても,それはその語全ての用法を確認したわけではなく,正しい使い方を身につけ

ているということを意味しないということを教師側は理解しておかなければならない。

―232―

表7 感情形容詞の導入順

5課 たのしい

7課 つまらない,おもしろい

14課 かわいい,きらいな,すきな,だいすきな,だいきらいな,ほしい

21課 ざんねんな

22課 しんぱいな

23課 いやな,うれしい,かなしい,さびしい,こわい,はずかしい

表8 各用法をもつ形容詞のパターン

パターン 述語用法 連体用法 連用用法 語数

Ⅰ + + + 20

Ⅱ + + - 32

Ⅲ + - + 18

Ⅳ - + + 2

Ⅴ + - - 30

Ⅵ - + - 24

Ⅶ - - + 7

計 133

次に連用用法13について考察する。連用用法は延べ130例あるが,すでに副詞になっている

と思われるもの「よく14」「ほんとうに」「すごく」を除く101例を分析の対象とする。形容詞

の連用用法が最初に提示されるのは,状態の変化を表わす文型「形容詞の連用形+なる」が提

示される7課である。また動詞「する」とくみあわさるものは15課から提示され,17課から

は,「する」「なる」以外の動詞とくみあわさる連用用法が導入される。

以下は,教科書で提示されている「なる」「する」「その他の動詞」とくみあわさる形容詞の

一覧である。下線は,複数のタイプの動詞とくみあわさる形容詞をさす。

以上の結果をみると,形容詞の連用用法として提示されている形容詞には,全体的に属性形

容詞が非常に多いことがわかる。感性形容詞は「いたい」「くるしい」といった感覚形容詞,

感情形容詞である「ほしい」などが「なる」とくみあわさる例としてみられるが,「する」や

その他の動詞とむすびつく例は少ない(「あかるい」「うるさい」のみ)。このように形容詞と

動詞とのくみあわせを考えてゆくと,形容詞によってはむすびつく動詞に偏りがあるというこ

とに気がつく。

―233―

表9 連用用法で用いられている形容詞の内訳

動詞提示されている形容詞

属性形容詞 感性形容詞

+なる(38例) いい,いそがしい,おおい,おそい,

きびしい,げんきな,しあわせな,

しずかな,せまい,たいせつな,ち

かい,つよい,はやい,まっしろな,

やすい,らくな,わるい

あかるい,あつい(暑い),いたい,

くるしい,すずしい,ほしい

+する(17例) うまい,しずかな,じゆうな,じょ

うぶな,しんせつな,たいせつな,

ちいさい,へいわな,やすい,よわ

あかるい

+その他の動詞

(39例)

おおきい,おそい,きれいな,しず

かな,じゆうな,じょうずな,たか

い,ちいさい,つよい,ながい,に

ぎやかな,ねっしんな,はやい,ま

じめな,やすい,らくな

うるさい

~そうに+その

他の動詞(7例)

かなしい,こわい,くるしい,さび

しい,しんぱいな,たのしい,ねむ

13 ここでの「連用用法」は動詞「あつくなる」「あかるくする」のように,動詞「する」「なる」が補

助動詞的にはたらいているものも合わせて扱う。

14「具合が よく なる」など,「なる」とくみあわさる「いい」は形容詞的な意味が残っているため

除かない。

例えば,一般に感情形容詞では話し手の感情を表わす場合に連用用法が用いられるが,その

動詞とのむすびつきには制約がある。教科書に提示されている形容詞をとりあげて考えると,

「ほしい」は「なる」以外とはむすびつかない15であろうし,「きらいに」「いやに」「しんぱい

に」等は「なる」以外とはむすびつきにくい。また,感覚形容詞では「あたたかく」「あまく」

などは,むすびつく動詞によって,温感や味覚を表わす意味から,待遇・態度を表わす意味へ

と変わる。属性形容詞も通常は連用用法をもち,さまざまな動詞とくみあわさるが,「ひつよ

うに」「ひまに」「ふじゆうに」「びんぼうに」「べんりに」「ふべんに」「ゆうめいに」などはく

みあわさる動詞に制約があるだろう。

『計算機用日本語基本形容詞辞書』の作成に携わった橋本・青山(1992:203)は,形容詞に

よっては「終止」「連体」「連用」の3つの用法を完備していないものがあることを指摘してい

る。今回,どの形容詞がどの用法をとりやすいか,また連用用法ではどのような動詞とくみあ

わさる傾向にあるかを詳細に調査することができなかった。初級教科書にあらわれる形容詞が

どの用法を取りやすいのか,学生にまず教えるべきはなにかを考えるためにも今後分析を進め

てゆかなければならない。

最後に,形容詞から動詞をつくる接尾辞「~がる」についてふれる。「~がる」とは「人間

が,形容詞の表わしている内的な気持ちや状態にあることを外的な態度・言動などに示すこと

を意味する」(西尾1972:23-24)接尾辞であり,主に人間の内的な気持ちや状態を表わす感情

形容詞,感覚形容詞の語幹について,第三者の感情を表わす。『初級日本語』においては25課

で導入され,「いやな」「さびしい」「ざんねんな」「ほしい」「めずらしい」が教科書に「~が

る」の形で挙げられている。「~がる」がつくかつかないかということが感性形容詞か属性形

容詞かを分ける1つの基準にもされるように,通常それは感性形容詞につくが,感性形容詞に

よっては「~がる」のつきにくい形容詞があり,また属性形容詞でも「~がる」をつけること

のできるものがある。この「~がる」の問題に関しては日本語母語話者の中でもゆれがあり,

学習者にとっては判断の難しい用法のひとつであるといえる。『計算機用日本語基本形容詞辞

書』(1990)を参考16に行った調査では,教科書に提出されている形容詞で,「~がる」が接続

しうると考えられるものには以下のものがあると考えられる。

―234―

15「思う」「感じる」のように,意味的には形容詞が述語として働くような動詞とは共起することがで

きる。

表10「~がる」が接続できる形容詞

属性形容詞 いそがしい,つよい,めずらしい,わるい

感性形容詞

感覚形容詞 あつい(暑い,熱い),いたい,うるさい,くるしい,さむい

感覚形容詞 うれしい,おもしろい,かなしい,かわいい,こわい,さびしい,たのしい,つまらない,つめたい,はずかしい,ほしい,いやな,ざんねんな

「~がる」がつくだろうと思われる形容詞にはどんな特徴があるか。「~がる」がつく形容詞

については,「~がる」がつくかつかないかで形容詞の種類を見分けようとする西尾(1972)17

や,判断の仕方をフローチャート式に示した韓(2008)など様々な先行研究があるが,「~がる」

がつく形容詞とそうでない形容詞には,それぞれ構文的なタイプに特徴があると思われる。つまり

『初級日本語』のなかでは,感性形容詞の中でも[ヒト]ガ+[ヒトの部分]ガ+感覚A ,

[ヒト]ガ+[モノ・ヒト・コト]ガ+感情A,[ヒト]ガ+[モノ]ガ+感情A ,の構文を

もつ形容詞は「~がる」を伴うことができる。が,感性形容詞の中でも,[ヒト]ガ+感覚A,

[ヒト]ガ+([モノ](ノナカ)デ)+ [モノ・ヒト・コト]ガ+感情A,の構文をもつ形容

詞には「~がる」はつきにくい。また,[モノ・コト]ガ+感覚A,[モノ・コト]ガ+感情A

の構文をもつ形容詞には,「~がる」がつくものとつかないものがあるが,マイナス評価にな

るもの18には「~がる」がつきやすいようである。属性形容詞のなかでも「つよい」「めずら

しい」「いそがしい」などには「~がる」がつくが,これは個別に教えればいいであろう。ま

た,「かわいい」は「~がる」がつくと「対象をかわいくおもう」「いつくしむ」という別の意

味の動詞になるので,特殊なものとして分けて指導しなければならない。どの形容詞に「~が

る」がつくかを見分けるのに,構文に注目して分析する方法がどこまで有用であるかについて

は今後の研究課題としたい。

5.まとめと今後の課題

以上,『初級日本語』で導入される形容詞を,その語数,意味的側面,構文的なタイプ,提

示方法や用法とのかかわり,という観点から調査した。

本稿の調査から,『初級日本語』について以下のことが明らかになった。

①属性形容詞が圧倒的に多く導入されている。

②全体的に述語用法が多い。属性形容詞の場合も連体用法より述語用法のほうが多い。

③多義的な形容詞は,その意味の一部が提示されていることが多い。

④教科書に提示されている各形容詞の用法数には偏りがあり,述語・連体・連用の3用法が

すべて提示されているものは少ない。

⑤用例数が特定の形容詞に偏る傾向にある。また感性形容詞の場合は提示が遅かったり特定

の文法項目でしかとりあげられないことがある。

―235―

16 『計算機用日本語基本形容詞辞書』の「派生動詞」の欄に「-がる」と記載されているものを表に

示した。ただし,辞書ではイ形容詞のみ記載されているため,ナ形容詞は筆者の内省による。また,「し

おからい」「だるい」「すごい」は辞書に載っていなかったため,これらも筆者の内省で判断した。

17 ただし西尾(1972:24)は「『がる』は,人間の内的な気持ちや状態を表わす形容詞にはつき,そう

でない形容詞にはつかない(つきにくい)」と述べてはいるが,一方でそれが「問題なく対応していると

はいえない部分がある」として,その例外について2つの項目を立てて説明している。

18 形容詞の評価性に関してはすでに西尾(1972)でとりあげられ,また「がる」との関連については

韓(2008)に言及がある。

⑥導入される形容詞によっては,とることのできる用法に偏りがある。

初級教科書で提示される語数やそれぞれの意味用法は限られている。教師は今回の調査で明

らかになった教科書の特徴を理解した上で,教科書の足りない部分を補うような指導をしてゆ

かなければならない。本稿では指導の際の留意点も示した。

さらに本稿では,『初級日本語』の形容詞がとる構文的なタイプに注目し,教科書では形容

詞の構文的なタイプがどこまで提示され,中級以降ではどこから提示すればいいのかを明らか

にした。これによって,体系的な形容詞の指導法を考える足がかりをつくることができ,今後

も調査を続けることでより効率的な語彙教育を考えることができるのではないかと考えている。

今回はとりあげた教科書が1冊であった。1冊を詳細に調査することで,これまであまり明

らかにされてこなかった初級日本語教科書の特徴や各形容詞のもつ構文やその特徴といった実

態をとらえることができたが,初級教科書の形容詞の全体的な傾向を知ることはできなかった。

また,今後は初級教科書だけでなく,中級・上級教科書も調査する必要がある。さらに,それ

ぞれの形容詞の構文内でのふるまい,用法のかたよりを知るには,日本語のコーパスを使って

調査しなければならない。以上を今後の課題としたい。

言語資料

東京外国語大学留学生日本語教育センター(1994)『新装版 初級日本語』,凡人社.[本文中では『初

級日本語』と略記]

引用文献

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125149,聖心女子大学大学院.

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国立国語研究所(2004)『分類語彙表―増補改訂版―』,大日本図書.[本文中では『分類語彙表』と略記]

情報処理振興事業協会(1990)『計算機用日本語基本形容詞辞書IPAL(BasicAdjectives)』解説編・辞

書編,情報処理振興事業協会.[本文中では『計算機用日本語基本形容詞辞書』と略記]

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―236―

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山岡政紀(2000)『日本語の述語と文機能』,日本語研究叢書13,くろしお出版.

―237―

―238―

別表1(a)教科書で提示された述語用法の構文的なタイプ

属性形容詞感性形容詞

感覚形容詞 感情形容詞

モノ・ヒト・コト]ガ +属性A[状態主(属性の所有物・所有者・コトガラ)]・形状まるい・色あかい・新旧あたらしい,、ふるい・量的な属性おおきい,ちいさい,せまい,厚い,うすい,たかい,ひくい,ながい,みじかい,ふとい,ほそい,おもい,かるい・時期間:おそい,はやい,ながい,みじかい速度:おそい,はやい・強度つよい,よわい,じょうぶな,かたい・美醜きれいな,きたない・利便性べんりな,ふべんな・丁寧ていねいな・値段たかい,やすい・音しずかな,・ヒトの性格しんせつな,まじめな・ヒトの生理的な特徴げんきな,けんこうな,(元気が)ない・ヒトの様子いそがしい,ひまな,・ヒトの社会的立場びんぼうな,・環境にぎやかな・難易むずかしい,かんたんな,やさしい,きびしい,らくな,くるしい・繁簡ふくざつな・程度おもい,たかい,ちいさい,つよい,ふかい,よわい,じゅうぶんな,ふじゅうぶんな,たいへんな・内容くわしい・危害あぶない,あんぜんな,きけんな,だいじょうぶな

[ヒト]ガ+感覚A[感情主(話し手)]

・生理ねむい

[モノ・コト]ガ+感覚A[評価の対象]

・感覚温感:暑い 熱い,あたたかい,さむい,すずしい,つめたい視覚:あかるい,くらい聴覚:うるさい味覚:おいしい,まずい

[モノ・コト]ガ+感情A[評価の対象]

・心理興味:おもしろい,つまらない

―239―

別表1(a)教科書で提示された述語用法の構文的なタイプ

属性形容詞感性形容詞

感覚形容詞 感情形容詞

・要不要大切な,ひつような・良否いい(よい),ただしい,わるい,すばらしいけっこうな,だめな・特異性へんな,ゆうめいな・数量おおい,すくない・真偽ほんとうの・関係はんたいの

[モノ・ヒト・コト・場所]ガ+ [モノ・コト]ガ+属性A[状態主(属性の所有物・存在場所)][対象(所有物の部分など)]・形状まるい,・量的な属性おおきい,たかい,ながい,ふとい,ひくい,ほそい・新旧あたらしい,ふるい・内容くわしい・数量おおい,すくない・存在ない,・美醜きれいな,・ヒトの生理的な特徴(体が)よわい,じょうぶな,ふじゆうな,(頭が)いい,わるい

[ヒト]ガ + [コトガラ]ガ+属性A[状態主(属性の所有者)] [対象]

・得手不得手じょうずな,へたな

[ヒト]ガ+[ヒトの部分]ガ+感覚A[感情主(話し手)][対象(身体部分)]

・感覚いたい,くるしい,だるい

[ヒト]ガ+[モノ・ヒト・コト]ガ+感情A[感情主(話し手)][感情のむけられる対象]

・心理うれしい,かなしい,たのしい,ざんねんな,しんぱいな

[ヒト]ガ+([モノ](ノナカ)デ)+ [モノ・ヒト・コト]ガ+感情A[感情主] [範囲][感情のむけられる対象]

・好悪すきな,きらいな,だいきらいな,だいすきな

[ヒト]ガ+[モノ]ガ+感情A[感情主(話し手)][感情のむけられる対象]

・好悪ほしい

―240―

別表1(a)教科書で提示された述語用法の構文的なタイプ

属性形容詞感性形容詞

感覚形容詞 感情形容詞

[モノ]ガ+[場所]ニ/カラ+属性A[状態主] [基準]

・量的な属性ちかい,とおい

([ヒト]ガ)+[モノ・ヒト・コト]デ+属性A[判断者] [範囲]

・良否いい

[コト]ニ+[モノ]ガ+属性A[基準] [状態主]

・要不要ひつような

[モノ・ヒト・コト]ガ+[モノ・ヒト・コト]ト+属性A[状態主] [相互関係]

・関係おなじの

―241―

別表1(b)教科書で提示された連体用法

属性形容詞感性形容詞

感覚形容詞 感情形容詞

属性A+[モノ][属性の所有物]

・形状まるい・色あかるい,あおい(モノ・顔),あかい,きいろい,くろい,しろい,・新旧あたらしい,なまの,ふるい・量的な属性おおきい,かたい,たかい,ちいさい,ながい,はやい,ひくい,ふかい,ほそい・強度じょうぶな,やわらかい・美醜うつくしい,きたない,きれいな・値段たかい,やすい・音おおきい,ちいさい,たかい,・繁簡ふくざつな・難易むずかしい・程度おもい・内容くわしい・要不要たいせつな,ひつような・良否いい,すばらしい,ただしい,わるい・特異性とくべつな,ふつうの,へんな,めずらしい・存在いろいろな・関係おなじの

感覚A+[モノ][評価の対象]

・感覚温感:つめたい,あたたかい,嗅覚:くさい味覚:あまい,おいしい,からい,しおからい

感情A+[モノ][評価・感情

のむけられる対象]・心理おもしろい,かわいい・好悪きらいな,すきな,ほしい

属性A+[ヒト][属性の所有者]

・美醜うつくしい・ヒトの性格しんせつな・ヒトの社会的な立場ちいさい,びんぼうな,わかい・良否いい,すばらしい

感情A+[ヒト][評価・感

情のむけられる対象]・心理かわいい・好悪すきな

―242―

別表1(b)教科書で提示された連体用法

属性形容詞感性形容詞

感覚形容詞 感情形容詞

・特異性ゆうめいな・得手不得手じょうずな

属性A+[場所][属性を所有する場所]

・量的な属性せまい,ひろい・美醜きれいな・きたない・音しずかな・危害あぶない,あんぜんな・良否いい・存在いろいろな

感覚A+[場所][評価の対象]

・感覚あかるい

・美醜きたない

感情A+[場所][感情のむけ

られる対象]

・好悪すきな

属性A+[時期][属性を所有する時期]

・時とおい,ながい・音しずかな・ヒトの様子しあわせな,ひまな,ふしあわせな・ヒトの社会的な立場ちいさい・環境じゆうな・程度きびしい・要不要たいせつな・良否いい・だめな・特異性とくべつな,ふつうの・関係おなじの

感覚A+[時期][評価の対象]

・感覚あたたかい,暑い

慣用的な使い方

ひどい目

感情Aそうな+[表情][感情があらわ

れる場所]・心理うれしい,はずかしい・好悪いやな

―243―

別表2133語の形容詞のとる構文的なタイプ

属性形容詞感性形容詞

感覚形容詞 感情形容詞

[モノ・ヒト・コト]ガ +属性A[状態主(属性の所有物・所有者・コトガラ)]

・形状まるい・色あかるい,あかい,あおい,きいろい,くろい,しろい,まっしろな・新旧あたらしい,ふるい,なまの・量的な属性大小:おおきい,ちいさい広狭:ひろい,せまい厚薄:厚い,うすい高低:たかい,ひくい長短:ながい,みじかい深浅:ふかい太細:ふとい,ほそい重軽:おもい,かるい・時期間:おそい,はやい,ながい,みじかい速度:おそい,はやい・強度つよい,よわい,じょうぶな,かたい,やわらかい・美醜きれいな,きたない,うつくしい,すばらしい・利便性べんりな,ふべんな・丁寧ていねいな・値段たかい,やすい・音あかるい,くらい,しずかな,おおきい,ちいさい,たかい,ひくい,ふとい,ほそい・ヒトの性格あかるい,くらい,きびしい,しんせつな,まじめな・ヒトの生理的な特徴げんきな,けんこうな,(元気が)ない,じょうぶな・ヒトの様子いそがしい,ひまな,しあわせな,ふしあわせな・ヒトの社会的立場びんぼうな,わかい,ちいさい,おおきい,ゆうめいな・危害あぶない,あんぜんな,きけんな,だいじょうぶな

[ヒト]ガ+感覚A[感情主(話し手)]

・生理ねむい

[モノ・コト]ガ+感覚A[評価の対象]

・感覚温感:暑い 熱い,あたたかい,さむい,すず しい,つめたい視覚:あかるい,くらい聴覚:うるさい嗅覚:くさい味覚:あまい,うまい,おいしい,からい,すっぱい,しおからい,まずい

[モノ・コト]ガ+感情A[評価の対象]・心理興味:おもしろい,つまらない,かわいい

―244―

別表2133語の形容詞のとる構文的なタイプ

属性形容詞感性形容詞

感覚形容詞 感情形容詞

・要不要大切な,ひつような・良否いい(よい),ただしい,わるい,けっこうな,だめな・特異性めずらしい,とくべつな,へんな,ふつうの,ゆうめいな・数量おおい,すくない・真偽ほんとうの・関係はんたいの

[モノ・ヒト・コト・場所]ガ + [モノ・コト]ガ+属性A[状態主(属性の所有物・存在場所)] [対象(所有物の部分など)]

以下の意味を持つ形容詞・形状・色・新旧・量的な属性・時・強度・美醜・利便性・丁寧・値段・音・ヒトの性格・ヒトの生理的な特徴・ヒトの様子いそがしい・ヒトの社会的立場・難易・繁簡・程度・内容・要不要・良否・特異性・数量

*1 特に記載のないものは「[モノ・ヒト・コト]ガ+属性

A」タイプに該当する形容詞と同じ(紙幅の都合上列挙を

省略している)。

[ヒト]ガ+[ヒトの部分]ガ+感覚A[感情主(話し手)][対象(身体部分)]

・感覚いたい,くるしい,だるい

[ヒト]ガ+[モノ・ヒト・コト]ガ+感情A[感情主(話し手)][感情のむけられる対象]

・心理うれしい,かなしい,こわい,さびしい,たのしい,はずかしい,ざんねんな,しんぱいな,ひどい・好悪いやな

[ヒト]ガ+([モノ](ノナカ)デ)+ [モノ・ヒト・コト]ガ+感情A[感情主] [範囲][感情のむけられる

対象]

・好悪すきな,きらいな,だいきらいな,だいすきな

[ヒト]ガ +[モノ]ガ+感情A[感情主(話し手)][感情のむけられる対象]

ほしい

―245―

別表2133語の形容詞のとる構文的なタイプ

属性形容詞感性形容詞

感覚形容詞 感情形容詞

[ヒト]ガ + [コトガラ]ガ+属性A[状態主(属性の所有者)] [対象]

・得手不得手うまい,じょうずな,へたな,あまい

[モノ]ガ+[場所]ニ/カラ+属性A[状態主] [基準]

・量的な属性ちかい,とおい

([ヒト]ガ)+[モノ・ヒト・コト]デ+属性A[判断者] [範囲]

・良否いい,けっこうな,じゅうぶんな,だいじょうぶな

[ヒト・モノ・コト]ニ+[モノ・コト]ガ+属性A[基準] [状態主]

・要不要たいせつな,ひつような・良否いい,わるい

[モノ・ヒト・コト]ガ+[モノ・ヒト・コト]ト+属性A[状態主] [相互関係]

・関係おなじの,はんたいの

★[場所]ニ+[モノ・ヒト・コト]ガ+属性A[存在場所] [状態主]

・存在おおい,すくない,ない,いろいろな

★[ヒト]ニ + [モノ・ヒト・コト]ガ+属性A[状態主(所有者)] [部分・側面]

・所有ない

★[ヒト]ガ+[モノ・ヒト・コト]ニ+属性A[状態主] [対象]

・態度ねっしんな,あまい,うるさい,きたない,きびしい,くわしい,しんせつな,つめたい,むずかしい,・能力あかるい,くらい,つよい,よわい・対人感情(状態主は話し手)わるい

―246―

別表3 用法の分布表(属性形容詞・感性形容詞)

属性形容詞 述語 連体連 用(+ そ の

他の動詞)

連 用

(+なる)

連 用(副詞的)

定型派 生

(名詞)

連 用(+する)

例示メタ言

語的

派 生

(動詞)総計

あおい 4 1 5

あかい 2 5 1 8

あたらしい 8 15 23

あつい(厚い) 1 1

あぶない 7 2 9

あんぜんな 8 1 9

いい 37 33 1 22 7 100

いそがしい 8 2 10

いろいろな 9 9

うすい 1 1

うつくしい 5 5

うまい 1 1

おおい 27 1 2 30

おおきい 8 14 2 24

おおきな 1 1

おそい 5 1 1 4 4 15

おなじ 7 11 18

おもい 5 1 1 7

かたい 1 1 2

かるい 2 2

かんたんな 1 2 3

きいろい 1 1 2

きけんな 3 3

きたない 1 2 3

きびしい 2 1 1 2 6

きれいな 6 8 3 17

くろい 2 1 3

くわしい 1 2 3

けっこうな 1 2 3

げんきな 8 1 3 9 21

けんこうな 1 1

しあわせな 1 1 2

しずかな 6 6 1 1 1 15

じゆうな 1 4 2 7

じゅうぶんな 2 2

じょうずな 10 3 2 15

じょうぶな 1 3 2 6

しろい 6 1 7

しんせつな 3 1 4 8

すくない 2 2

すごい 1 1

すばらしい 3 4 7

せまい 1 3 1 5

だいじょうぶな 9 9

たいせつな 5 3 3 2 13

たいへんな 15 3 18

たかい 19 11 1 4 1 36

ただしい 7 1 8

だめな 1 1 2

―247―

属性形容詞 述語 連体連 用(+ そ の

他の動詞)

連 用

(+なる)

連 用(副詞的)

定型派 生

(名詞)

連 用(+する)

例示メタ言

語的

派 生

(動詞)総計

ちいさい 4 12 1 1 18

ちいさな 1 1

ちかい 7 1 3 4 15

つよい 2 1 1 1 5

ていねいな 1 1

とおい 2 1 1 4

とくべつな 3 3

ない 4 1 4

ながい 6 5 3 1 1 16

なまの 2 2

にぎやかな 2 1 3

ねっしんな 2 2

はやい 3 2 12 1 2 20

はんたいの 3 3

ひくい 2 1 3

ひつような 6 3 9

ひどい 2 2

ひまな 3 4 7

ひろい 3 1 4

びんぼうな 1 1 2

ふかい 4 4

ふくざつな 3 2 5

ふしあわせな 1 1

ふじゆうな 2 2

ふじゅうぶんな 2 2

ふつうの 3 3

ふとい 3 3

ふべんな 2 2

ふるい 4 20 24

へいわな 1 1

へたな 5 5

へんな 1 2 3

べんりな 6 6

ほそい 2 2 4

ほんとうの 4 6 10

まじめな 1 1 2

まっしろな 1 1

まるい 1 1 2

みじかい 8 1 9

むずかしい 21 3 24

めずらしい 2 1 3

やさしい 4 4

やすい 7 2 2 1 1 1 14

やわらかい 2 2

ゆうめいな 3 1 4

よわい 2 1 3

らくな 3 1 2 1 7

わかい 5 5

わるい 9 1 2 12

総計 374 261 38 30 29 22 20 16 5 4 1 800

―248―

感覚形容詞 述語 連体連 用

(+なる)

連 用

(~そう

に)

メタ言

語的

連 用

(+する)

連 用(+ そ の

他の動詞)

派 生

(動詞)総計

あかるい 4 3 1 1 1 10

あたたかい 3 2 5

あつい(暑い) 7 1 1 1 10

あつい(熱い) 1 1

あまい 2 2

いたい 21 2 23

うるさい 2 1 3

おいしい 4 3 7

からい 1 1

くさい 1 1

くらい 3 1 4

くるしい 1 1 1 3

さむい 3 3

しおからい 1 1

すずしい 1 1 2

すっぱい 1 1

だるい 2 2

つめたい 3 2 5

ねむい 2 1 3

まずい 1 1

総計 58 17 6 2 2 1 1 1 88

感覚形容詞 述語 連体

連 用

(~そう

に)

連 用

(+する)

連 用(+ そ の

他の動詞)

派 生

(動詞)総計

いやな 1 2 3

うれしい 2 2 4

おもしろい 5 3 8

かなしい 2 1 3

かわいい 3 3

きらいな 5 1 6

こわい 1 1

さびしい 1 1 2

ざんねんな 4 1 1 6

しんぱいな 2 1 3

すきな 7 9 16

だいきらいな 1 1

だいすきな 3 3

たのしい 4 1 1 6

つまらない 2 2

はずかしい 1 1

ほしい 5 2 1 2 10

総計 42 23 5 5 2 1 78