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宮城県版 特別号 宮城県病院薬剤師会 会長 東北大学病院 薬剤部長 眞野 成康 先生 宮城県病院薬剤師会 理事 独立行政法人労働者健康福祉機構 東北労災病院 薬剤部長 伊藤 功治 先生 ファーマスコープは病院、保険薬局で輝く薬剤師の声を お届けする情報誌です。 宮城県における病棟薬剤業務の現状と展望 ――宮城県における病棟薬剤業務の現状についてお伺いし ます。 眞野 宮城県では2013年7月時点で11施設、県全体の7.5%が病 棟薬剤業務実施加算の届け出をしていますが、全国平均の12% に比べると進捗状況は遅いと言えます。最大のネックはマンパワ ー不足であり、県内の病院の多くが欠員を抱えている状態です。 東北大学病院も例外ではなく、昨年度までは10人以上の欠員が ありました。積極的にリクルート活動を行い、2012年度は16人、 2013年度も10人を新規採用して80人体制にはなりましたが、加 算の算定にはまだ十分ではありません。というのも、当院は高度 救命救急センター、ICU、CCUなどの重症病棟を含めて病棟 数が32と多く、全病棟に1.5人を配置するには48人が必要であ り、まだ20人以上の増員が必要なためです。全国的にも特定機 能病院をはじめとした大規模病院の届け出が少ないのは、同じ ような事情からだと思います。最近は、6年制教育になって実務 実習が長期化したことで学生の病院志向が高まっているとは言 え、宮城県は薬系大学が少ないため、実習生そのものが少なく、 しかも仙台市内に集中する傾向があるなど、地域格差も存在して います。 ――東北労災病院では2013年5月から算定を開始されまし たが、人員確保を含めてどのような取り組みをされてきたの でしょうか。 伊藤 当院は548床、11病棟で、薬剤師は補助員を含めて20人 です。病棟薬剤業務実施加算の算定に向けて、まず、病院および 労災病院グループ本部に増員の必要性を理解してもらうため、詳 細な資料を提出しました。もともと当院は全国の労災病院34施 設の平均を下回る少ない人員で、薬剤管理指導の件数は1,300 件/月とトップ5に入る実績をあげていました。こうした実績をア ピールするとともに、加算算定後の増収見込みなどを提示し、4 人の増員が認められました。さらに、薬剤管理指導件数を維持し 2012 年度の診療報酬改定において、薬剤師の病棟業務に対する評価として「病棟薬剤業務実施加算」が新設されました。 患者さんへの安全かつ適切な薬物療法の提供のために、薬剤師はその専門性を最大限発揮するとともに、チーム医療の一員 として、これまで以上に積極的に医師や看護師など他職種との連携・協働を進めることが求められています。 「ファーマスコープ特別号・宮城県版 2013」では、東北大学病院薬剤部長の眞野成康先生と東北労災病院薬剤部長の伊 藤功治先生のお二人に、宮城県における病棟薬剤業務の現状および宮城県病院薬剤師会の支援体制、チーム医療の推進と協 働、薬剤師の資質向上への取り組み、今後の方向性について語り合っていただく中から、新時代を迎えた病院薬剤師へのメッ セージをお届けします。 伊達政宗像 伊達政宗像

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発行月 : 平成25年10月発 行 : 田辺三菱製薬株式会社

〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

宮城県版特別号

新時代を迎えた病院薬剤師~さらなる飛躍に向けた業務展開と課題~

宮城県病院薬剤師会 会長東北大学病院 薬剤部長眞野 成康 先生

宮城県病院薬剤師会 理事独立行政法人労働者健康福祉機構東北労災病院 薬剤部長伊藤 功治 先生

ファーマスコープは病院、保険薬局で輝く薬剤師の声をお届けする情報誌です。

■宮城県における病棟薬剤業務の現状と展望――宮城県における病棟薬剤業務の現状についてお伺いします。

眞野 宮城県では2013年7月時点で11施設、県全体の7.5%が病棟薬剤業務実施加算の届け出をしていますが、全国平均の12%に比べると進捗状況は遅いと言えます。最大のネックはマンパワー不足であり、県内の病院の多くが欠員を抱えている状態です。東北大学病院も例外ではなく、昨年度までは10人以上の欠員がありました。積極的にリクルート活動を行い、2012年度は16人、2013年度も10人を新規採用して80人体制にはなりましたが、加算の算定にはまだ十分ではありません。というのも、当院は高度救命救急センター、ICU、CCUなどの重症病棟を含めて病棟数が32と多く、全病棟に1.5人を配置するには48人が必要であり、まだ20人以上の増員が必要なためです。全国的にも特定機能病院をはじめとした大規模病院の届け出が少ないのは、同じ

ような事情からだと思います。最近は、6年制教育になって実務実習が長期化したことで学生の病院志向が高まっているとは言え、宮城県は薬系大学が少ないため、実習生そのものが少なく、しかも仙台市内に集中する傾向があるなど、地域格差も存在しています。

――東北労災病院では2013年5月から算定を開始されましたが、人員確保を含めてどのような取り組みをされてきたのでしょうか。

伊藤 当院は548床、11病棟で、薬剤師は補助員を含めて20人です。病棟薬剤業務実施加算の算定に向けて、まず、病院および労災病院グループ本部に増員の必要性を理解してもらうため、詳細な資料を提出しました。もともと当院は全国の労災病院34施設の平均を下回る少ない人員で、薬剤管理指導の件数は1,300件/月とトップ5に入る実績をあげていました。こうした実績をアピールするとともに、加算算定後の増収見込みなどを提示し、4人の増員が認められました。さらに、薬剤管理指導件数を維持し

つつ病棟薬剤業務を実施するためには、業務の効率化が不可欠であり、病棟薬剤師に1人1台の専用端末とPHS導入のための予算も獲得しました。他にも、薬剤部全体の業務内容や体制の見直しをはじめ、病棟薬剤業務で求められている医師の負担軽減を実現するべく、さまざまなことに取り組みました(資料1)。その一つが薬剤師による処方内容訂正です。これは外科の医師から要望されたのですが、これをチャンスと捉えて全診療科への導入を働きかけ、医療安全委員会で承認されました。まずは院内処方の内服薬から実施することになり、その後、院外処方でも保険薬局との連携のもとで開始しています。

――病棟薬剤業務をスムーズに行うためのポイントは何でしょうか。

伊藤 大事なのは、それまでにどれだけ薬剤管理指導ができていたか、チーム医療に入り込んでいたかです。加算がついたからと、いきなり病棟に常駐しても、病棟薬剤業務の意義や目的が理解されていなければ、看護師から配薬業務などを要望される

ことにより、服薬指導の件数も下がりかねず、それでは本末転倒です。当院の場合、薬剤管理指導によるベースがあり、感染対策、NST、糖尿病、褥瘡ケア、緩和ケアなどの医療チームに積極的に参画し、他職種との信頼関係を築いていたからこそ、薬剤部が目指す薬物療法の安全性・有効性向上への寄与を第一に考えた病棟薬剤業務が展開できているのだと思います。

眞野 その通りですね。当院でも23病棟に28人を専任で配置しており、それぞれが幅広くかつ中身の濃い業務を行い、服薬指導の実施率も75%程にのぼります。しかし、全病棟に配置できていない段階で病棟薬剤業務を開始してしまうと、現在の服薬指導件数は維持できないことが予測されます。まずは全病棟で病棟薬剤業務を展開するための体制の構築が必要です。充実した病棟業務を行うためには「20床に1人」の薬剤師が必要だというデータがありますが、それはあくまでも平均であり、病院の機能によって薬剤師の必要度も異なります。当院は15床に1人と多いのですが、重篤かつ専門的な治療が必要な患者さんが多く、処方も複雑になります。そのような患者さんの薬物治療に貢献するためには、薬剤師の増員だけでなくレベルアップも同時に進めていく必要があると考えています。

■チーム医療の推進と協働への取り組み――病棟薬剤業務の標準化についてはどのようにお考えですか。

眞野 病院の機能や特性によって求められる病棟薬剤業務も異なりますから、標準化する必要があるかどうかは疑問です。ただし、病棟薬剤業務の目的が薬物療法の質向上にあることを考えれば、どの病院でも共通して取り組むべきなのは、処方前から薬剤師が主体的に関わることではないでしょうか。処方の適正化による治療効果の向上はもちろんですが、最も大事なのは副作用の管理であり、医師からも期待されているところだと思います。また、2010年4月の厚労省医政局長通知「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」では、薬剤の種類、投与量、投与方法、投与期間等の変更や検査のオーダーについて、医師・薬剤師等により事前に作成・合意されたプロトコールに基づき、医師等と協働して実施することが求められています。これが実現すれば、医師の負担軽減にもつながり、医療安全面の質も向上します。当院でも、プロトコール化の可能性を探るべく、一つひとつの業務をピックアップして検討しているところですが、実現可能なプロトコールはたくさんあると思います。

伊藤 薬剤師が処方に関わる中で、薬に関するインシデントやアクシデントをいかに減らすかが、病棟薬剤業務における共通テーマの一つであり、プロトコール化できる業務も見つけていけるのではないでしょうか。私もかつて病棟で服薬指導をしていましたが、その時に、薬剤師として実施したこと、気付いたことをすべてカルテに記録しており、処方修正や採血の必要性などを記載すると、医師が確認して指示を出してくれました。プロトコールを作成しておくことは大事ですが、日常業務の中で、薬剤師が処方や副作用について気付いたことがあれば、すぐに医師に提案するべきであり、それが自然にできる関係を作っていくことも大

宮城県版 特別号

宮城県版特別号

事だと思います。

眞野 薬剤師の病棟業務の効果について調べたデータの中に、病棟担当薬剤師が処方に介入した場合の処方変更率は9割に達するというものがあります。それは言い換えれば、薬剤師が介入しなければそれらは何らかの問題を抱えたまま処方されていたということになります。気付かれずにいる薬害の種を見つけるためにも、薬剤師が薬物療法の現場に積極的に出かけていき、処方に介入することは義務だと言えます。極端な話をすれば、人件費などの制約がなければ、薬剤師を数多く臨床現場に投入するほど、医療の質は向上するはずです。病院薬剤師がもっと医療に貢献するためにも、病棟業務の効果の検証に自ら取り組み、人員を増やすための財源を自分たちで作るという考え方も必要ではないでしょうか。

■薬剤師の資質向上への取り組みと新時代 を迎えた病院薬剤師へのメッセージ――薬剤師の教育やレベルアップ、そのための業務体制についてはどのようにお考えですか。

伊藤 当院では入職4年未満という若い薬剤師が半数を占めており、非常に前向きに仕事にもレベルアップにも取り組んでいます。反面、現場のマネジメントをする中堅層が少ないので、そこをどのようにカバーするかが課題です。病棟業務においては、病棟間および薬剤師間の業務内容およびスキルの均質化を図るために、11病棟を4グループに分け、チームで活動する体制を導入しています。スタッフ間の情報共有のために、毎朝、ミーティングを行っており、業務の申し送り後に、曜日ごとに病棟担当者から1週間の報告をします。例えば、患者さんへの指導内容、発現した副作用、問題症例、処方提案などを報告すると、スタッフの間でさまざまな意見が飛び交います。そのほか、各病棟における調剤に関する患者情報も伝達しているので、病棟と調剤のスタッフの意思疎通もうまく図れるなど、薬剤部全体の意識の統一化や一体感が強まっています。

眞野 当院では、2012年度に6年制を卒業した新人を16人採用しましたが、さすがに16人を一度に教育するのは大変で、2つのグループに分けてローテーションするなど、いろいろな工夫をしました。調剤業務をするにも、院外処方せん発行率が96~97%なので外来の処方せんはほとんどなく、入院だけでは16人を教育するには足りないのです。今年度は10人ですが、前年とは方法を変えて、4月から病棟に配置した新人もいます。もちろん病棟を任せることはできませんが、先輩薬剤師について一緒に業務をする中で、病棟で何が行われるのか、他職種の役割や処方せんの動きを理解するだけでも勉強になりますし、病棟業務を経験してから調剤すると、処方せんの見方がまったく変わってきます。現在は、どちらの方法が効率的かを探っているところです。大学病院では各診療科が専門性の高い治療を行っているので、薬剤師にも高い専門性が求められ、病棟固定制でスペシャリストの道を目指すことも一つの方向性ですが、そうすると他の病棟のことが何もできなくなってしまいます。かといってローテーション制にすれば、今度はどの診療科の知識も薄くなってしまいますので、そ

のバランスをどうとるかが課題です。ただ、基本的には薬剤師はまずはジェネラリストであるべきだと考えています。医師は専門の診療科で分かれていますから、薬剤師が横串となって、1人の患者さんの薬物療法を横断的に管理する必要があります。それを実感したのが、先の東日本大震災での経験です。避難所で様々な疾患を持つ患者さんの診療にあたる医師からの「薬剤師がいないと診療活動が十分に行えない」という言葉に、薬物療法における薬剤師の役割が表れていると思います。

――薬剤師の資質向上について、宮城県病院薬剤師会では何か取り組まれていますか。

眞野 数年前から、フィジカルアセスメントの基本的な知識や技術を学ぶ研修を実施しており、毎回20人程の参加があります。今年度は東北大学病院のスキルスラボを使って実施する計画です(資料2)。プログラムは、午前中は医師による基礎的な講義を、

午後は人形を使って聴診器などを使用した実習を行います。まず8月に当院の薬剤師を対象に開催し、見直すべき点を検討してから、県病薬の会員に提供する計画で進めています。

伊藤 当院には看護師資格を持つ薬剤師がおり、学生やスタッフにフィジカルアセスメントの講義をしてくれています。また、呼吸器担当の薬剤師は、医師から「間質性肺炎が分かるためにも、呼吸音くらいは聞き分けられるようになってはどうか」とアドバイスされ、聴診器をポケットに入れて病棟に出向いています。他の薬剤師も、服薬指導の中で患者さんの足を触らせてもらって、むくみがないか確認するなど、日常業務の中で自然に実践している者も何人かいます。

眞野 聴診器を使いこなすには高度なスキルが必要ですが、触診ができたり、目や口腔内の状態の観察ができるだけでも全然違います。フィジカルアセスメントの目的は副作用の早期発見であることを理解するだけでも、患者さんへの視点も変わってくると思います。

――最後に、今後の展望も含めて、病院薬剤師へのメッセージをお願いします。

伊藤 今後は、各領域のスペシャリストの育成に力を入れていく予定です。それも1人だけではなく、各領域で複数を育成して、もし1人が抜けても補充が利くように人材の層を厚くしたい

と考えています。そのためにも、経験者と若手を組み合わせて、常に下の人間を育てることを意識しています。病院薬剤師の使命は、1つ目は医療への貢献、2つ目は病院経営への貢献、3つ目に学術の貢献であり、私はこれを「3本の矢」と言っていますが、これからは、人を育てること「薬学教育への貢献」が4本目の矢として大切になると思っています。多くの薬剤師が、臨床活動を通じて常に学びながらお互いに成長することで、薬物療法の質向上に貢献することを期待しています。

眞野 伊藤先生がおっしゃるように、人を育てることは非常に大切です。私も教育に携わる人間ですが、自分がよく理解していなければ、正しく教えることはできません。例えば、80人に間違った講義をすると、その80人は誤った知識のまま一生を過ごす可能性があるわけです。そう考えると、教えるということには大きな責任が伴いますが、同時に自分自身を成長させてくれます。今、薬剤師を取り巻く環境は激変しています。診療報酬における評価も時代とともに変遷し、社会が求める薬剤師の姿は20年前とは隔世の感があります。激動の時代の中で、これからの薬剤師には、挑戦する気持ち、やる気が一番大事だと思います。これからいろいろな壁に直面すると思います。中には一人で解決しなければいけないこともたくさんあるでしょうが、自分で考える力、解決していく力を身に付けてほしいと思います。

 2012年度の診療報酬改定において、薬剤師の病棟業務に対する評価として「病棟薬剤業務実施加算」が新設されました。患者さんへの安全かつ適切な薬物療法の提供のために、薬剤師はその専門性を最大限発揮するとともに、チーム医療の一員として、これまで以上に積極的に医師や看護師など他職種との連携・協働を進めることが求められています。 「ファーマスコープ特別号・宮城県版2013」では、東北大学病院薬剤部長の眞野成康先生と東北労災病院薬剤部長の伊藤功治先生のお二人に、宮城県における病棟薬剤業務の現状および宮城県病院薬剤師会の支援体制、チーム医療の推進と協働、薬剤師の資質向上への取り組み、今後の方向性について語り合っていただく中から、新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージをお届けします。

伊達政宗像伊達政宗像

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宮城県版 特別号

宮城県病院薬剤師会 会長東北大学病院 薬剤部長

ま の なり やす

眞野 成康 先生

宮城県病院薬剤師会 理事独立行政法人労働者健康福祉機構東北労災病院 薬剤部長

い とう こう じ

伊藤 功治 先生

■宮城県における病棟薬剤業務の現状と展望――宮城県における病棟薬剤業務の現状についてお伺いします。

眞野 宮城県では2013年7月時点で11施設、県全体の7.5%が病棟薬剤業務実施加算の届け出をしていますが、全国平均の12%に比べると進捗状況は遅いと言えます。最大のネックはマンパワー不足であり、県内の病院の多くが欠員を抱えている状態です。東北大学病院も例外ではなく、昨年度までは10人以上の欠員がありました。積極的にリクルート活動を行い、2012年度は16人、2013年度も10人を新規採用して80人体制にはなりましたが、加算の算定にはまだ十分ではありません。というのも、当院は高度救命救急センター、ICU、CCUなどの重症病棟を含めて病棟数が32と多く、全病棟に1.5人を配置するには48人が必要であり、まだ20人以上の増員が必要なためです。全国的にも特定機能病院をはじめとした大規模病院の届け出が少ないのは、同じ

ような事情からだと思います。最近は、6年制教育になって実務実習が長期化したことで学生の病院志向が高まっているとは言え、宮城県は薬系大学が少ないため、実習生そのものが少なく、しかも仙台市内に集中する傾向があるなど、地域格差も存在しています。

――東北労災病院では2013年5月から算定を開始されましたが、人員確保を含めてどのような取り組みをされてきたのでしょうか。

伊藤 当院は548床、11病棟で、薬剤師は補助員を含めて20人です。病棟薬剤業務実施加算の算定に向けて、まず、病院および労災病院グループ本部に増員の必要性を理解してもらうため、詳細な資料を提出しました。もともと当院は全国の労災病院34施設の平均を下回る少ない人員で、薬剤管理指導の件数は1,300件/月とトップ5に入る実績をあげていました。こうした実績をアピールするとともに、加算算定後の増収見込みなどを提示し、4人の増員が認められました。さらに、薬剤管理指導件数を維持し

つつ病棟薬剤業務を実施するためには、業務の効率化が不可欠であり、病棟薬剤師に1人1台の専用端末とPHS導入のための予算も獲得しました。他にも、薬剤部全体の業務内容や体制の見直しをはじめ、病棟薬剤業務で求められている医師の負担軽減を実現するべく、さまざまなことに取り組みました(資料1)。その一つが薬剤師による処方内容訂正です。これは外科の医師から要望されたのですが、これをチャンスと捉えて全診療科への導入を働きかけ、医療安全委員会で承認されました。まずは院内処方の内服薬から実施することになり、その後、院外処方でも保険薬局との連携のもとで開始しています。

――病棟薬剤業務をスムーズに行うためのポイントは何でしょうか。

伊藤 大事なのは、それまでにどれだけ薬剤管理指導ができていたか、チーム医療に入り込んでいたかです。加算がついたからと、いきなり病棟に常駐しても、病棟薬剤業務の意義や目的が理解されていなければ、看護師から配薬業務などを要望される

ことにより、服薬指導の件数も下がりかねず、それでは本末転倒です。当院の場合、薬剤管理指導によるベースがあり、感染対策、NST、糖尿病、褥瘡ケア、緩和ケアなどの医療チームに積極的に参画し、他職種との信頼関係を築いていたからこそ、薬剤部が目指す薬物療法の安全性・有効性向上への寄与を第一に考えた病棟薬剤業務が展開できているのだと思います。

眞野 その通りですね。当院でも23病棟に28人を専任で配置しており、それぞれが幅広くかつ中身の濃い業務を行い、服薬指導の実施率も75%程にのぼります。しかし、全病棟に配置できていない段階で病棟薬剤業務を開始してしまうと、現在の服薬指導件数は維持できないことが予測されます。まずは全病棟で病棟薬剤業務を展開するための体制の構築が必要です。充実した病棟業務を行うためには「20床に1人」の薬剤師が必要だというデータがありますが、それはあくまでも平均であり、病院の機能によって薬剤師の必要度も異なります。当院は15床に1人と多いのですが、重篤かつ専門的な治療が必要な患者さんが多く、処方も複雑になります。そのような患者さんの薬物治療に貢献するためには、薬剤師の増員だけでなくレベルアップも同時に進めていく必要があると考えています。

■チーム医療の推進と協働への取り組み――病棟薬剤業務の標準化についてはどのようにお考えですか。

眞野 病院の機能や特性によって求められる病棟薬剤業務も異なりますから、標準化する必要があるかどうかは疑問です。ただし、病棟薬剤業務の目的が薬物療法の質向上にあることを考えれば、どの病院でも共通して取り組むべきなのは、処方前から薬剤師が主体的に関わることではないでしょうか。処方の適正化による治療効果の向上はもちろんですが、最も大事なのは副作用の管理であり、医師からも期待されているところだと思います。また、2010年4月の厚労省医政局長通知「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」では、薬剤の種類、投与量、投与方法、投与期間等の変更や検査のオーダーについて、医師・薬剤師等により事前に作成・合意されたプロトコールに基づき、医師等と協働して実施することが求められています。これが実現すれば、医師の負担軽減にもつながり、医療安全面の質も向上します。当院でも、プロトコール化の可能性を探るべく、一つひとつの業務をピックアップして検討しているところですが、実現可能なプロトコールはたくさんあると思います。

伊藤 薬剤師が処方に関わる中で、薬に関するインシデントやアクシデントをいかに減らすかが、病棟薬剤業務における共通テーマの一つであり、プロトコール化できる業務も見つけていけるのではないでしょうか。私もかつて病棟で服薬指導をしていましたが、その時に、薬剤師として実施したこと、気付いたことをすべてカルテに記録しており、処方修正や採血の必要性などを記載すると、医師が確認して指示を出してくれました。プロトコールを作成しておくことは大事ですが、日常業務の中で、薬剤師が処方や副作用について気付いたことがあれば、すぐに医師に提案するべきであり、それが自然にできる関係を作っていくことも大

事だと思います。

眞野 薬剤師の病棟業務の効果について調べたデータの中に、病棟担当薬剤師が処方に介入した場合の処方変更率は9割に達するというものがあります。それは言い換えれば、薬剤師が介入しなければそれらは何らかの問題を抱えたまま処方されていたということになります。気付かれずにいる薬害の種を見つけるためにも、薬剤師が薬物療法の現場に積極的に出かけていき、処方に介入することは義務だと言えます。極端な話をすれば、人件費などの制約がなければ、薬剤師を数多く臨床現場に投入するほど、医療の質は向上するはずです。病院薬剤師がもっと医療に貢献するためにも、病棟業務の効果の検証に自ら取り組み、人員を増やすための財源を自分たちで作るという考え方も必要ではないでしょうか。

■薬剤師の資質向上への取り組みと新時代 を迎えた病院薬剤師へのメッセージ――薬剤師の教育やレベルアップ、そのための業務体制についてはどのようにお考えですか。

伊藤 当院では入職4年未満という若い薬剤師が半数を占めており、非常に前向きに仕事にもレベルアップにも取り組んでいます。反面、現場のマネジメントをする中堅層が少ないので、そこをどのようにカバーするかが課題です。病棟業務においては、病棟間および薬剤師間の業務内容およびスキルの均質化を図るために、11病棟を4グループに分け、チームで活動する体制を導入しています。スタッフ間の情報共有のために、毎朝、ミーティングを行っており、業務の申し送り後に、曜日ごとに病棟担当者から1週間の報告をします。例えば、患者さんへの指導内容、発現した副作用、問題症例、処方提案などを報告すると、スタッフの間でさまざまな意見が飛び交います。そのほか、各病棟における調剤に関する患者情報も伝達しているので、病棟と調剤のスタッフの意思疎通もうまく図れるなど、薬剤部全体の意識の統一化や一体感が強まっています。

眞野 当院では、2012年度に6年制を卒業した新人を16人採用しましたが、さすがに16人を一度に教育するのは大変で、2つのグループに分けてローテーションするなど、いろいろな工夫をしました。調剤業務をするにも、院外処方せん発行率が96~97%なので外来の処方せんはほとんどなく、入院だけでは16人を教育するには足りないのです。今年度は10人ですが、前年とは方法を変えて、4月から病棟に配置した新人もいます。もちろん病棟を任せることはできませんが、先輩薬剤師について一緒に業務をする中で、病棟で何が行われるのか、他職種の役割や処方せんの動きを理解するだけでも勉強になりますし、病棟業務を経験してから調剤すると、処方せんの見方がまったく変わってきます。現在は、どちらの方法が効率的かを探っているところです。大学病院では各診療科が専門性の高い治療を行っているので、薬剤師にも高い専門性が求められ、病棟固定制でスペシャリストの道を目指すことも一つの方向性ですが、そうすると他の病棟のことが何もできなくなってしまいます。かといってローテーション制にすれば、今度はどの診療科の知識も薄くなってしまいますので、そ

のバランスをどうとるかが課題です。ただ、基本的には薬剤師はまずはジェネラリストであるべきだと考えています。医師は専門の診療科で分かれていますから、薬剤師が横串となって、1人の患者さんの薬物療法を横断的に管理する必要があります。それを実感したのが、先の東日本大震災での経験です。避難所で様々な疾患を持つ患者さんの診療にあたる医師からの「薬剤師がいないと診療活動が十分に行えない」という言葉に、薬物療法における薬剤師の役割が表れていると思います。

――薬剤師の資質向上について、宮城県病院薬剤師会では何か取り組まれていますか。

眞野 数年前から、フィジカルアセスメントの基本的な知識や技術を学ぶ研修を実施しており、毎回20人程の参加があります。今年度は東北大学病院のスキルスラボを使って実施する計画です(資料2)。プログラムは、午前中は医師による基礎的な講義を、

午後は人形を使って聴診器などを使用した実習を行います。まず8月に当院の薬剤師を対象に開催し、見直すべき点を検討してから、県病薬の会員に提供する計画で進めています。

伊藤 当院には看護師資格を持つ薬剤師がおり、学生やスタッフにフィジカルアセスメントの講義をしてくれています。また、呼吸器担当の薬剤師は、医師から「間質性肺炎が分かるためにも、呼吸音くらいは聞き分けられるようになってはどうか」とアドバイスされ、聴診器をポケットに入れて病棟に出向いています。他の薬剤師も、服薬指導の中で患者さんの足を触らせてもらって、むくみがないか確認するなど、日常業務の中で自然に実践している者も何人かいます。

眞野 聴診器を使いこなすには高度なスキルが必要ですが、触診ができたり、目や口腔内の状態の観察ができるだけでも全然違います。フィジカルアセスメントの目的は副作用の早期発見であることを理解するだけでも、患者さんへの視点も変わってくると思います。

――最後に、今後の展望も含めて、病院薬剤師へのメッセージをお願いします。

伊藤 今後は、各領域のスペシャリストの育成に力を入れていく予定です。それも1人だけではなく、各領域で複数を育成して、もし1人が抜けても補充が利くように人材の層を厚くしたい

と考えています。そのためにも、経験者と若手を組み合わせて、常に下の人間を育てることを意識しています。病院薬剤師の使命は、1つ目は医療への貢献、2つ目は病院経営への貢献、3つ目に学術の貢献であり、私はこれを「3本の矢」と言っていますが、これからは、人を育てること「薬学教育への貢献」が4本目の矢として大切になると思っています。多くの薬剤師が、臨床活動を通じて常に学びながらお互いに成長することで、薬物療法の質向上に貢献することを期待しています。

眞野 伊藤先生がおっしゃるように、人を育てることは非常に大切です。私も教育に携わる人間ですが、自分がよく理解していなければ、正しく教えることはできません。例えば、80人に間違った講義をすると、その80人は誤った知識のまま一生を過ごす可能性があるわけです。そう考えると、教えるということには大きな責任が伴いますが、同時に自分自身を成長させてくれます。今、薬剤師を取り巻く環境は激変しています。診療報酬における評価も時代とともに変遷し、社会が求める薬剤師の姿は20年前とは隔世の感があります。激動の時代の中で、これからの薬剤師には、挑戦する気持ち、やる気が一番大事だと思います。これからいろいろな壁に直面すると思います。中には一人で解決しなければいけないこともたくさんあるでしょうが、自分で考える力、解決していく力を身に付けてほしいと思います。

※実習1・2・3はグループ単位でローテーションにより実施

フィジカルアセスメント研修会 ―入門編― プログラム

オリエンテーション 15分

病棟薬剤業務実施加算算定に向けた取り組み(東北労災病院)

資料1

宮城県病院薬剤師会フィジカルアセスメント研修資料2

講義1

講義2

講義3

実習1実習2

実習3

実習4

症候とフィジカルアセスメント 問診、聴診、触診(浮腫)、 視診(眼:眼振・瞳孔反射、口腔、皮膚)バイタルサインの評価 意識レベル、体温、血圧、心拍、 呼吸数・血液ガスベッドサイドモニター、心電図聴診(心音、肺音、呼吸音、腸音)バイタルサイン(意識レベル、血圧、心拍、呼吸数)ベッドサイドモニター12誘導心電図輸液ポンプ/シリンジポンプ一次救命処置とAEDの取り扱い

60分

60分

30分

50分

50分

50分

50分

総括(アンケート記入等) 10分

(2012年 4月以降)

【病棟業務の内容と体制】・薬剤師による処方内容訂正 (院内処方:2012年11月~、院外処方:2013年2月~)・特定薬剤管理指導の強化・病棟業務体制:11病棟を4グループに編成して複数メンバーのチーム制に・病棟担当者専用端末およびPHSの確保・スタッフ間の情報共有の体制強化:朝のミーティングを活用

【薬剤師のスキルアップ】・専門スタッフの養成:2013年度にNST1名、糖尿病療養指導士2名・学会、研修会への参加支援(出張費の確保)・医薬専門書の購入と整備

【薬剤部全体の業務体制】・人員の確保・バンコマイシン血中濃度測定を外注から院内測定に変更・特定抗菌薬の使用届制の導入・簡易懸濁法の導入・手術予定外来患者に対する持参薬確認(薬剤師外来の試行)・部内業務の見直し  窓口業務(医療物品受け渡し)の移管、当直業務補助の確保、  院内製剤を市販品購入に変更、薬剤部マニュアル・内規の見直し・病棟および外来定数配置薬の管理体制の見直し・医薬品在庫管理の簡素化・実務実習生の受け入れ削減

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宮城県版 特別号

宮城県病院薬剤師会 会長東北大学病院 薬剤部長

ま の なり やす

眞野 成康 先生

宮城県病院薬剤師会 理事独立行政法人労働者健康福祉機構東北労災病院 薬剤部長

い とう こう じ

伊藤 功治 先生

■宮城県における病棟薬剤業務の現状と展望――宮城県における病棟薬剤業務の現状についてお伺いします。

眞野 宮城県では2013年7月時点で11施設、県全体の7.5%が病棟薬剤業務実施加算の届け出をしていますが、全国平均の12%に比べると進捗状況は遅いと言えます。最大のネックはマンパワー不足であり、県内の病院の多くが欠員を抱えている状態です。東北大学病院も例外ではなく、昨年度までは10人以上の欠員がありました。積極的にリクルート活動を行い、2012年度は16人、2013年度も10人を新規採用して80人体制にはなりましたが、加算の算定にはまだ十分ではありません。というのも、当院は高度救命救急センター、ICU、CCUなどの重症病棟を含めて病棟数が32と多く、全病棟に1.5人を配置するには48人が必要であり、まだ20人以上の増員が必要なためです。全国的にも特定機能病院をはじめとした大規模病院の届け出が少ないのは、同じ

ような事情からだと思います。最近は、6年制教育になって実務実習が長期化したことで学生の病院志向が高まっているとは言え、宮城県は薬系大学が少ないため、実習生そのものが少なく、しかも仙台市内に集中する傾向があるなど、地域格差も存在しています。

――東北労災病院では2013年5月から算定を開始されましたが、人員確保を含めてどのような取り組みをされてきたのでしょうか。

伊藤 当院は548床、11病棟で、薬剤師は補助員を含めて20人です。病棟薬剤業務実施加算の算定に向けて、まず、病院および労災病院グループ本部に増員の必要性を理解してもらうため、詳細な資料を提出しました。もともと当院は全国の労災病院34施設の平均を下回る少ない人員で、薬剤管理指導の件数は1,300件/月とトップ5に入る実績をあげていました。こうした実績をアピールするとともに、加算算定後の増収見込みなどを提示し、4人の増員が認められました。さらに、薬剤管理指導件数を維持し

つつ病棟薬剤業務を実施するためには、業務の効率化が不可欠であり、病棟薬剤師に1人1台の専用端末とPHS導入のための予算も獲得しました。他にも、薬剤部全体の業務内容や体制の見直しをはじめ、病棟薬剤業務で求められている医師の負担軽減を実現するべく、さまざまなことに取り組みました(資料1)。その一つが薬剤師による処方内容訂正です。これは外科の医師から要望されたのですが、これをチャンスと捉えて全診療科への導入を働きかけ、医療安全委員会で承認されました。まずは院内処方の内服薬から実施することになり、その後、院外処方でも保険薬局との連携のもとで開始しています。

――病棟薬剤業務をスムーズに行うためのポイントは何でしょうか。

伊藤 大事なのは、それまでにどれだけ薬剤管理指導ができていたか、チーム医療に入り込んでいたかです。加算がついたからと、いきなり病棟に常駐しても、病棟薬剤業務の意義や目的が理解されていなければ、看護師から配薬業務などを要望される

ことにより、服薬指導の件数も下がりかねず、それでは本末転倒です。当院の場合、薬剤管理指導によるベースがあり、感染対策、NST、糖尿病、褥瘡ケア、緩和ケアなどの医療チームに積極的に参画し、他職種との信頼関係を築いていたからこそ、薬剤部が目指す薬物療法の安全性・有効性向上への寄与を第一に考えた病棟薬剤業務が展開できているのだと思います。

眞野 その通りですね。当院でも23病棟に28人を専任で配置しており、それぞれが幅広くかつ中身の濃い業務を行い、服薬指導の実施率も75%程にのぼります。しかし、全病棟に配置できていない段階で病棟薬剤業務を開始してしまうと、現在の服薬指導件数は維持できないことが予測されます。まずは全病棟で病棟薬剤業務を展開するための体制の構築が必要です。充実した病棟業務を行うためには「20床に1人」の薬剤師が必要だというデータがありますが、それはあくまでも平均であり、病院の機能によって薬剤師の必要度も異なります。当院は15床に1人と多いのですが、重篤かつ専門的な治療が必要な患者さんが多く、処方も複雑になります。そのような患者さんの薬物治療に貢献するためには、薬剤師の増員だけでなくレベルアップも同時に進めていく必要があると考えています。

■チーム医療の推進と協働への取り組み――病棟薬剤業務の標準化についてはどのようにお考えですか。

眞野 病院の機能や特性によって求められる病棟薬剤業務も異なりますから、標準化する必要があるかどうかは疑問です。ただし、病棟薬剤業務の目的が薬物療法の質向上にあることを考えれば、どの病院でも共通して取り組むべきなのは、処方前から薬剤師が主体的に関わることではないでしょうか。処方の適正化による治療効果の向上はもちろんですが、最も大事なのは副作用の管理であり、医師からも期待されているところだと思います。また、2010年4月の厚労省医政局長通知「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」では、薬剤の種類、投与量、投与方法、投与期間等の変更や検査のオーダーについて、医師・薬剤師等により事前に作成・合意されたプロトコールに基づき、医師等と協働して実施することが求められています。これが実現すれば、医師の負担軽減にもつながり、医療安全面の質も向上します。当院でも、プロトコール化の可能性を探るべく、一つひとつの業務をピックアップして検討しているところですが、実現可能なプロトコールはたくさんあると思います。

伊藤 薬剤師が処方に関わる中で、薬に関するインシデントやアクシデントをいかに減らすかが、病棟薬剤業務における共通テーマの一つであり、プロトコール化できる業務も見つけていけるのではないでしょうか。私もかつて病棟で服薬指導をしていましたが、その時に、薬剤師として実施したこと、気付いたことをすべてカルテに記録しており、処方修正や採血の必要性などを記載すると、医師が確認して指示を出してくれました。プロトコールを作成しておくことは大事ですが、日常業務の中で、薬剤師が処方や副作用について気付いたことがあれば、すぐに医師に提案するべきであり、それが自然にできる関係を作っていくことも大

事だと思います。

眞野 薬剤師の病棟業務の効果について調べたデータの中に、病棟担当薬剤師が処方に介入した場合の処方変更率は9割に達するというものがあります。それは言い換えれば、薬剤師が介入しなければそれらは何らかの問題を抱えたまま処方されていたということになります。気付かれずにいる薬害の種を見つけるためにも、薬剤師が薬物療法の現場に積極的に出かけていき、処方に介入することは義務だと言えます。極端な話をすれば、人件費などの制約がなければ、薬剤師を数多く臨床現場に投入するほど、医療の質は向上するはずです。病院薬剤師がもっと医療に貢献するためにも、病棟業務の効果の検証に自ら取り組み、人員を増やすための財源を自分たちで作るという考え方も必要ではないでしょうか。

■薬剤師の資質向上への取り組みと新時代 を迎えた病院薬剤師へのメッセージ――薬剤師の教育やレベルアップ、そのための業務体制についてはどのようにお考えですか。

伊藤 当院では入職4年未満という若い薬剤師が半数を占めており、非常に前向きに仕事にもレベルアップにも取り組んでいます。反面、現場のマネジメントをする中堅層が少ないので、そこをどのようにカバーするかが課題です。病棟業務においては、病棟間および薬剤師間の業務内容およびスキルの均質化を図るために、11病棟を4グループに分け、チームで活動する体制を導入しています。スタッフ間の情報共有のために、毎朝、ミーティングを行っており、業務の申し送り後に、曜日ごとに病棟担当者から1週間の報告をします。例えば、患者さんへの指導内容、発現した副作用、問題症例、処方提案などを報告すると、スタッフの間でさまざまな意見が飛び交います。そのほか、各病棟における調剤に関する患者情報も伝達しているので、病棟と調剤のスタッフの意思疎通もうまく図れるなど、薬剤部全体の意識の統一化や一体感が強まっています。

眞野 当院では、2012年度に6年制を卒業した新人を16人採用しましたが、さすがに16人を一度に教育するのは大変で、2つのグループに分けてローテーションするなど、いろいろな工夫をしました。調剤業務をするにも、院外処方せん発行率が96~97%なので外来の処方せんはほとんどなく、入院だけでは16人を教育するには足りないのです。今年度は10人ですが、前年とは方法を変えて、4月から病棟に配置した新人もいます。もちろん病棟を任せることはできませんが、先輩薬剤師について一緒に業務をする中で、病棟で何が行われるのか、他職種の役割や処方せんの動きを理解するだけでも勉強になりますし、病棟業務を経験してから調剤すると、処方せんの見方がまったく変わってきます。現在は、どちらの方法が効率的かを探っているところです。大学病院では各診療科が専門性の高い治療を行っているので、薬剤師にも高い専門性が求められ、病棟固定制でスペシャリストの道を目指すことも一つの方向性ですが、そうすると他の病棟のことが何もできなくなってしまいます。かといってローテーション制にすれば、今度はどの診療科の知識も薄くなってしまいますので、そ

のバランスをどうとるかが課題です。ただ、基本的には薬剤師はまずはジェネラリストであるべきだと考えています。医師は専門の診療科で分かれていますから、薬剤師が横串となって、1人の患者さんの薬物療法を横断的に管理する必要があります。それを実感したのが、先の東日本大震災での経験です。避難所で様々な疾患を持つ患者さんの診療にあたる医師からの「薬剤師がいないと診療活動が十分に行えない」という言葉に、薬物療法における薬剤師の役割が表れていると思います。

――薬剤師の資質向上について、宮城県病院薬剤師会では何か取り組まれていますか。

眞野 数年前から、フィジカルアセスメントの基本的な知識や技術を学ぶ研修を実施しており、毎回20人程の参加があります。今年度は東北大学病院のスキルスラボを使って実施する計画です(資料2)。プログラムは、午前中は医師による基礎的な講義を、

午後は人形を使って聴診器などを使用した実習を行います。まず8月に当院の薬剤師を対象に開催し、見直すべき点を検討してから、県病薬の会員に提供する計画で進めています。

伊藤 当院には看護師資格を持つ薬剤師がおり、学生やスタッフにフィジカルアセスメントの講義をしてくれています。また、呼吸器担当の薬剤師は、医師から「間質性肺炎が分かるためにも、呼吸音くらいは聞き分けられるようになってはどうか」とアドバイスされ、聴診器をポケットに入れて病棟に出向いています。他の薬剤師も、服薬指導の中で患者さんの足を触らせてもらって、むくみがないか確認するなど、日常業務の中で自然に実践している者も何人かいます。

眞野 聴診器を使いこなすには高度なスキルが必要ですが、触診ができたり、目や口腔内の状態の観察ができるだけでも全然違います。フィジカルアセスメントの目的は副作用の早期発見であることを理解するだけでも、患者さんへの視点も変わってくると思います。

――最後に、今後の展望も含めて、病院薬剤師へのメッセージをお願いします。

伊藤 今後は、各領域のスペシャリストの育成に力を入れていく予定です。それも1人だけではなく、各領域で複数を育成して、もし1人が抜けても補充が利くように人材の層を厚くしたい

と考えています。そのためにも、経験者と若手を組み合わせて、常に下の人間を育てることを意識しています。病院薬剤師の使命は、1つ目は医療への貢献、2つ目は病院経営への貢献、3つ目に学術の貢献であり、私はこれを「3本の矢」と言っていますが、これからは、人を育てること「薬学教育への貢献」が4本目の矢として大切になると思っています。多くの薬剤師が、臨床活動を通じて常に学びながらお互いに成長することで、薬物療法の質向上に貢献することを期待しています。

眞野 伊藤先生がおっしゃるように、人を育てることは非常に大切です。私も教育に携わる人間ですが、自分がよく理解していなければ、正しく教えることはできません。例えば、80人に間違った講義をすると、その80人は誤った知識のまま一生を過ごす可能性があるわけです。そう考えると、教えるということには大きな責任が伴いますが、同時に自分自身を成長させてくれます。今、薬剤師を取り巻く環境は激変しています。診療報酬における評価も時代とともに変遷し、社会が求める薬剤師の姿は20年前とは隔世の感があります。激動の時代の中で、これからの薬剤師には、挑戦する気持ち、やる気が一番大事だと思います。これからいろいろな壁に直面すると思います。中には一人で解決しなければいけないこともたくさんあるでしょうが、自分で考える力、解決していく力を身に付けてほしいと思います。

※実習1・2・3はグループ単位でローテーションにより実施

フィジカルアセスメント研修会 ―入門編― プログラム

オリエンテーション 15分

病棟薬剤業務実施加算算定に向けた取り組み(東北労災病院)

資料1

宮城県病院薬剤師会フィジカルアセスメント研修資料2

講義1

講義2

講義3

実習1実習2

実習3

実習4

症候とフィジカルアセスメント 問診、聴診、触診(浮腫)、 視診(眼:眼振・瞳孔反射、口腔、皮膚)バイタルサインの評価 意識レベル、体温、血圧、心拍、 呼吸数・血液ガスベッドサイドモニター、心電図聴診(心音、肺音、呼吸音、腸音)バイタルサイン(意識レベル、血圧、心拍、呼吸数)ベッドサイドモニター12誘導心電図輸液ポンプ/シリンジポンプ一次救命処置とAEDの取り扱い

60分

60分

30分

50分

50分

50分

50分

総括(アンケート記入等) 10分

(2012年 4月以降)

【病棟業務の内容と体制】・薬剤師による処方内容訂正 (院内処方:2012年11月~、院外処方:2013年2月~)・特定薬剤管理指導の強化・病棟業務体制:11病棟を4グループに編成して複数メンバーのチーム制に・病棟担当者専用端末およびPHSの確保・スタッフ間の情報共有の体制強化:朝のミーティングを活用

【薬剤師のスキルアップ】・専門スタッフの養成:2013年度にNST1名、糖尿病療養指導士2名・学会、研修会への参加支援(出張費の確保)・医薬専門書の購入と整備

【薬剤部全体の業務体制】・人員の確保・バンコマイシン血中濃度測定を外注から院内測定に変更・特定抗菌薬の使用届制の導入・簡易懸濁法の導入・手術予定外来患者に対する持参薬確認(薬剤師外来の試行)・部内業務の見直し  窓口業務(医療物品受け渡し)の移管、当直業務補助の確保、  院内製剤を市販品購入に変更、薬剤部マニュアル・内規の見直し・病棟および外来定数配置薬の管理体制の見直し・医薬品在庫管理の簡素化・実務実習生の受け入れ削減

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田辺三菱製薬株式会社ホームページ http://www.mt-pharma.co.jp

発行月 : 平成25年10月発 行 : 田辺三菱製薬株式会社

〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

宮城県版特別号

新時代を迎えた病院薬剤師~さらなる飛躍に向けた業務展開と課題~

宮城県病院薬剤師会 会長東北大学病院 薬剤部長眞野 成康 先生

宮城県病院薬剤師会 理事独立行政法人労働者健康福祉機構東北労災病院 薬剤部長伊藤 功治 先生

ファーマスコープは病院、保険薬局で輝く薬剤師の声をお届けする情報誌です。

■宮城県における病棟薬剤業務の現状と展望――宮城県における病棟薬剤業務の現状についてお伺いします。

眞野 宮城県では2013年7月時点で11施設、県全体の7.5%が病棟薬剤業務実施加算の届け出をしていますが、全国平均の12%に比べると進捗状況は遅いと言えます。最大のネックはマンパワー不足であり、県内の病院の多くが欠員を抱えている状態です。東北大学病院も例外ではなく、昨年度までは10人以上の欠員がありました。積極的にリクルート活動を行い、2012年度は16人、2013年度も10人を新規採用して80人体制にはなりましたが、加算の算定にはまだ十分ではありません。というのも、当院は高度救命救急センター、ICU、CCUなどの重症病棟を含めて病棟数が32と多く、全病棟に1.5人を配置するには48人が必要であり、まだ20人以上の増員が必要なためです。全国的にも特定機能病院をはじめとした大規模病院の届け出が少ないのは、同じ

ような事情からだと思います。最近は、6年制教育になって実務実習が長期化したことで学生の病院志向が高まっているとは言え、宮城県は薬系大学が少ないため、実習生そのものが少なく、しかも仙台市内に集中する傾向があるなど、地域格差も存在しています。

――東北労災病院では2013年5月から算定を開始されましたが、人員確保を含めてどのような取り組みをされてきたのでしょうか。

伊藤 当院は548床、11病棟で、薬剤師は補助員を含めて20人です。病棟薬剤業務実施加算の算定に向けて、まず、病院および労災病院グループ本部に増員の必要性を理解してもらうため、詳細な資料を提出しました。もともと当院は全国の労災病院34施設の平均を下回る少ない人員で、薬剤管理指導の件数は1,300件/月とトップ5に入る実績をあげていました。こうした実績をアピールするとともに、加算算定後の増収見込みなどを提示し、4人の増員が認められました。さらに、薬剤管理指導件数を維持し

つつ病棟薬剤業務を実施するためには、業務の効率化が不可欠であり、病棟薬剤師に1人1台の専用端末とPHS導入のための予算も獲得しました。他にも、薬剤部全体の業務内容や体制の見直しをはじめ、病棟薬剤業務で求められている医師の負担軽減を実現するべく、さまざまなことに取り組みました(資料1)。その一つが薬剤師による処方内容訂正です。これは外科の医師から要望されたのですが、これをチャンスと捉えて全診療科への導入を働きかけ、医療安全委員会で承認されました。まずは院内処方の内服薬から実施することになり、その後、院外処方でも保険薬局との連携のもとで開始しています。

――病棟薬剤業務をスムーズに行うためのポイントは何でしょうか。

伊藤 大事なのは、それまでにどれだけ薬剤管理指導ができていたか、チーム医療に入り込んでいたかです。加算がついたからと、いきなり病棟に常駐しても、病棟薬剤業務の意義や目的が理解されていなければ、看護師から配薬業務などを要望される

ことにより、服薬指導の件数も下がりかねず、それでは本末転倒です。当院の場合、薬剤管理指導によるベースがあり、感染対策、NST、糖尿病、褥瘡ケア、緩和ケアなどの医療チームに積極的に参画し、他職種との信頼関係を築いていたからこそ、薬剤部が目指す薬物療法の安全性・有効性向上への寄与を第一に考えた病棟薬剤業務が展開できているのだと思います。

眞野 その通りですね。当院でも23病棟に28人を専任で配置しており、それぞれが幅広くかつ中身の濃い業務を行い、服薬指導の実施率も75%程にのぼります。しかし、全病棟に配置できていない段階で病棟薬剤業務を開始してしまうと、現在の服薬指導件数は維持できないことが予測されます。まずは全病棟で病棟薬剤業務を展開するための体制の構築が必要です。充実した病棟業務を行うためには「20床に1人」の薬剤師が必要だというデータがありますが、それはあくまでも平均であり、病院の機能によって薬剤師の必要度も異なります。当院は15床に1人と多いのですが、重篤かつ専門的な治療が必要な患者さんが多く、処方も複雑になります。そのような患者さんの薬物治療に貢献するためには、薬剤師の増員だけでなくレベルアップも同時に進めていく必要があると考えています。

■チーム医療の推進と協働への取り組み――病棟薬剤業務の標準化についてはどのようにお考えですか。

眞野 病院の機能や特性によって求められる病棟薬剤業務も異なりますから、標準化する必要があるかどうかは疑問です。ただし、病棟薬剤業務の目的が薬物療法の質向上にあることを考えれば、どの病院でも共通して取り組むべきなのは、処方前から薬剤師が主体的に関わることではないでしょうか。処方の適正化による治療効果の向上はもちろんですが、最も大事なのは副作用の管理であり、医師からも期待されているところだと思います。また、2010年4月の厚労省医政局長通知「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」では、薬剤の種類、投与量、投与方法、投与期間等の変更や検査のオーダーについて、医師・薬剤師等により事前に作成・合意されたプロトコールに基づき、医師等と協働して実施することが求められています。これが実現すれば、医師の負担軽減にもつながり、医療安全面の質も向上します。当院でも、プロトコール化の可能性を探るべく、一つひとつの業務をピックアップして検討しているところですが、実現可能なプロトコールはたくさんあると思います。

伊藤 薬剤師が処方に関わる中で、薬に関するインシデントやアクシデントをいかに減らすかが、病棟薬剤業務における共通テーマの一つであり、プロトコール化できる業務も見つけていけるのではないでしょうか。私もかつて病棟で服薬指導をしていましたが、その時に、薬剤師として実施したこと、気付いたことをすべてカルテに記録しており、処方修正や採血の必要性などを記載すると、医師が確認して指示を出してくれました。プロトコールを作成しておくことは大事ですが、日常業務の中で、薬剤師が処方や副作用について気付いたことがあれば、すぐに医師に提案するべきであり、それが自然にできる関係を作っていくことも大

宮城県版 特別号

宮城県版特別号

事だと思います。

眞野 薬剤師の病棟業務の効果について調べたデータの中に、病棟担当薬剤師が処方に介入した場合の処方変更率は9割に達するというものがあります。それは言い換えれば、薬剤師が介入しなければそれらは何らかの問題を抱えたまま処方されていたということになります。気付かれずにいる薬害の種を見つけるためにも、薬剤師が薬物療法の現場に積極的に出かけていき、処方に介入することは義務だと言えます。極端な話をすれば、人件費などの制約がなければ、薬剤師を数多く臨床現場に投入するほど、医療の質は向上するはずです。病院薬剤師がもっと医療に貢献するためにも、病棟業務の効果の検証に自ら取り組み、人員を増やすための財源を自分たちで作るという考え方も必要ではないでしょうか。

■薬剤師の資質向上への取り組みと新時代 を迎えた病院薬剤師へのメッセージ――薬剤師の教育やレベルアップ、そのための業務体制についてはどのようにお考えですか。

伊藤 当院では入職4年未満という若い薬剤師が半数を占めており、非常に前向きに仕事にもレベルアップにも取り組んでいます。反面、現場のマネジメントをする中堅層が少ないので、そこをどのようにカバーするかが課題です。病棟業務においては、病棟間および薬剤師間の業務内容およびスキルの均質化を図るために、11病棟を4グループに分け、チームで活動する体制を導入しています。スタッフ間の情報共有のために、毎朝、ミーティングを行っており、業務の申し送り後に、曜日ごとに病棟担当者から1週間の報告をします。例えば、患者さんへの指導内容、発現した副作用、問題症例、処方提案などを報告すると、スタッフの間でさまざまな意見が飛び交います。そのほか、各病棟における調剤に関する患者情報も伝達しているので、病棟と調剤のスタッフの意思疎通もうまく図れるなど、薬剤部全体の意識の統一化や一体感が強まっています。

眞野 当院では、2012年度に6年制を卒業した新人を16人採用しましたが、さすがに16人を一度に教育するのは大変で、2つのグループに分けてローテーションするなど、いろいろな工夫をしました。調剤業務をするにも、院外処方せん発行率が96~97%なので外来の処方せんはほとんどなく、入院だけでは16人を教育するには足りないのです。今年度は10人ですが、前年とは方法を変えて、4月から病棟に配置した新人もいます。もちろん病棟を任せることはできませんが、先輩薬剤師について一緒に業務をする中で、病棟で何が行われるのか、他職種の役割や処方せんの動きを理解するだけでも勉強になりますし、病棟業務を経験してから調剤すると、処方せんの見方がまったく変わってきます。現在は、どちらの方法が効率的かを探っているところです。大学病院では各診療科が専門性の高い治療を行っているので、薬剤師にも高い専門性が求められ、病棟固定制でスペシャリストの道を目指すことも一つの方向性ですが、そうすると他の病棟のことが何もできなくなってしまいます。かといってローテーション制にすれば、今度はどの診療科の知識も薄くなってしまいますので、そ

のバランスをどうとるかが課題です。ただ、基本的には薬剤師はまずはジェネラリストであるべきだと考えています。医師は専門の診療科で分かれていますから、薬剤師が横串となって、1人の患者さんの薬物療法を横断的に管理する必要があります。それを実感したのが、先の東日本大震災での経験です。避難所で様々な疾患を持つ患者さんの診療にあたる医師からの「薬剤師がいないと診療活動が十分に行えない」という言葉に、薬物療法における薬剤師の役割が表れていると思います。

――薬剤師の資質向上について、宮城県病院薬剤師会では何か取り組まれていますか。

眞野 数年前から、フィジカルアセスメントの基本的な知識や技術を学ぶ研修を実施しており、毎回20人程の参加があります。今年度は東北大学病院のスキルスラボを使って実施する計画です(資料2)。プログラムは、午前中は医師による基礎的な講義を、

午後は人形を使って聴診器などを使用した実習を行います。まず8月に当院の薬剤師を対象に開催し、見直すべき点を検討してから、県病薬の会員に提供する計画で進めています。

伊藤 当院には看護師資格を持つ薬剤師がおり、学生やスタッフにフィジカルアセスメントの講義をしてくれています。また、呼吸器担当の薬剤師は、医師から「間質性肺炎が分かるためにも、呼吸音くらいは聞き分けられるようになってはどうか」とアドバイスされ、聴診器をポケットに入れて病棟に出向いています。他の薬剤師も、服薬指導の中で患者さんの足を触らせてもらって、むくみがないか確認するなど、日常業務の中で自然に実践している者も何人かいます。

眞野 聴診器を使いこなすには高度なスキルが必要ですが、触診ができたり、目や口腔内の状態の観察ができるだけでも全然違います。フィジカルアセスメントの目的は副作用の早期発見であることを理解するだけでも、患者さんへの視点も変わってくると思います。

――最後に、今後の展望も含めて、病院薬剤師へのメッセージをお願いします。

伊藤 今後は、各領域のスペシャリストの育成に力を入れていく予定です。それも1人だけではなく、各領域で複数を育成して、もし1人が抜けても補充が利くように人材の層を厚くしたい

と考えています。そのためにも、経験者と若手を組み合わせて、常に下の人間を育てることを意識しています。病院薬剤師の使命は、1つ目は医療への貢献、2つ目は病院経営への貢献、3つ目に学術の貢献であり、私はこれを「3本の矢」と言っていますが、これからは、人を育てること「薬学教育への貢献」が4本目の矢として大切になると思っています。多くの薬剤師が、臨床活動を通じて常に学びながらお互いに成長することで、薬物療法の質向上に貢献することを期待しています。

眞野 伊藤先生がおっしゃるように、人を育てることは非常に大切です。私も教育に携わる人間ですが、自分がよく理解していなければ、正しく教えることはできません。例えば、80人に間違った講義をすると、その80人は誤った知識のまま一生を過ごす可能性があるわけです。そう考えると、教えるということには大きな責任が伴いますが、同時に自分自身を成長させてくれます。今、薬剤師を取り巻く環境は激変しています。診療報酬における評価も時代とともに変遷し、社会が求める薬剤師の姿は20年前とは隔世の感があります。激動の時代の中で、これからの薬剤師には、挑戦する気持ち、やる気が一番大事だと思います。これからいろいろな壁に直面すると思います。中には一人で解決しなければいけないこともたくさんあるでしょうが、自分で考える力、解決していく力を身に付けてほしいと思います。

 2012年度の診療報酬改定において、薬剤師の病棟業務に対する評価として「病棟薬剤業務実施加算」が新設されました。患者さんへの安全かつ適切な薬物療法の提供のために、薬剤師はその専門性を最大限発揮するとともに、チーム医療の一員として、これまで以上に積極的に医師や看護師など他職種との連携・協働を進めることが求められています。 「ファーマスコープ特別号・宮城県版2013」では、東北大学病院薬剤部長の眞野成康先生と東北労災病院薬剤部長の伊藤功治先生のお二人に、宮城県における病棟薬剤業務の現状および宮城県病院薬剤師会の支援体制、チーム医療の推進と協働、薬剤師の資質向上への取り組み、今後の方向性について語り合っていただく中から、新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージをお届けします。

伊達政宗像伊達政宗像