12
1 椿西綿寿

八 卯 梅苑の茶店の菓子の梅の紋 雪解は大蛇のごとく川下る 喧騒 …575club.net/kaiho11-02.pdf · 雪被る紅梅を見に向島 〃 凍解や家の膨らむ音のして

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1

会報第四五号

二○一一年二月

猫丸くベンチの上に春隣

池田

紬子

冬帝や大雪山に座りをり

長畑

なみ

ビル街を見下ろす遠き雪の山

早朝の音閉ぢ込めし春の雪

中川

金時

園児等の弾む足跡春の雪

鈴なりの蕾しなりし椿かな

小泉

悦代

喧騒を逃れ梅花の華やぎに

京 都

中島

慶雄

雪解は大蛇のごとく川下る

京 都

西村

博子

梅苑の茶店の菓子の梅の紋

都 大黒ひさゑ

探梅の出足鈍るや小雨降り

木村

直子

梅苑の結界飛び出す瑞枝かな

梅日和京の町並み散策し

藤井めぐむ

天神の空に漲る梅固し

竹内

恵子

浮寝して付かず離れぬ番鴨

子ども園子どもの丈の雪達磨

戸所

理栄

何処より梅の香闇を親しうす

靴跳んで踵から落つ春の泥

千明小狐如

着地して溶けゆくだけの春の雪

富所せつ子

鴨帰るにじゅうごろく羽集まりて

森田

幸子

冴返る歯医者の匂ひ鼻に抜け

飯塚

柚花

綿ぼこりよく踊る日の暖かさ

目瞑れば瀬音風音春めける

神子沢さくら

春泥を同じ処に双子行く

平井

輝子

春寒や玉子ひとつを味噌汁に

父と娘のかはりばんこのシャボン玉

瀧川

草青む水の匂ひのする方へ

老犬の耳が捉へし春の雷

秋野

裕子

◎揺れるには短きおさげ草青む

水の苑春の色合ひ満まんと

堀江

何処見ても何を見てても春らしく

山田

理恵

寒明の水とろとろと鯉の夢

池垣真知子

春の雷土中に応ふるもののあり

春の雪君の肩にも消えゆくか

植村

美明

水仙の高さに寄せる車椅子

海老澤希由

名石を楽しみ見れば福寿草

中村

芳子

ざわざわと夕轟きか草青む

表参道

川口

祐子

古町並玻璃に映りし春の山

膨らみし木の芽に命強くあり

表参道

近見江身子

そつと触れうぶげの如き猫柳

表参道

堀内みさ子

電車行く音の弾むや春一番

表参道

佐藤眞理子

雪だるまよりまんまるき子ら跳ねる

表参道

窪田

七湖

古希の春向上心と好奇心

齊藤

好司

雪被る紅梅を見に向島

凍解や家の膨らむ音のして

中里

三句

奥熊野秘湯を目指す雪解道

中里

柚子

熊野路の土匂ひ立つ春の雨

◎梅香る御所の閂はづされて

竹内はるか

膝で折る剪定の枝響きけり

雪焼の顔して漢遅れ着く

〃 剪定す刃の種類腰に提げ

渡辺

光子

◎剪定の跡まさらなる夜空かな

チューリップ赤の揺れまた黄の揺れて

遠藤

由美

遠ざかる列車見送る春の雪

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2

春の夜の銀河のごとくモノレール

小林

含香

春の雷エスカレーター動き出す

しづり雪時折傘を驚かす

洋海

春寒し街を去るには訳のあり

雪しんしん沼は音なく翡翠色

薄日さす雪掻く空の昼の月

能村みずき

冬の夜や薬八色卓上に

◎ミケ走りクロ追ひかける春立つ日

大滝有終美

訥訥と夫弾くピアノ春の午後

雪女かもタクシーの運転手

園田あや女

春寒し蔵の茶房の芋羊羹

登校の子らの踏まずにふきのたう

渡辺美夜香

青海苔や海坂丸く雲低く

鐘楼と高さ揃へし梅の咲く

原山

串団子梅見の締めとなりしけり

節分会芸妓も並ぶお焚上げ

田中

きよ

節分会お練りの枡の豆を受く

かたかごやどんでん山は七曲り

多 摩

香川

銀魚

寒きことしばれると言ふ寮母かな

ひこばえや退職のあと握る鍬

大牟田 前原八寿之

杭打ちて手直しずみの春田かな

寒紅やけふといふ日を占ひし

大牟田

志岐 鈴恵

春寒の音響くなり露天の湯

大牟田

海谷 育男

通院の春告草に気を貰ひ

これほどに白く映すや寒の月

永井

糸遊

病室の明かりも消えて虎落笛

強東風のおかつぱ頭耳顕は

小鷲

溪子

強東風に向かひ少年自転車漕ぐ

時雨るるや今日は本でも開かばや

高良

楽水

隅田川春の嵐の波立てり

角田卯の花

卒園の歌の練習聞こえくる

春寒や両手に包む缶コーヒー

松村季代子

魔術かと犇く樹氷万態に

曽我部晩成子

修善寺の源氏の悲話や椿落つ

村田五百代

◎半月の垂直に立ち冴返る

菜の花忌幾つ街道訪ねけん

かんじきに伝はる雪の温みかな

高橋ときこ

けだるさの中に氷柱の砕け落つ

吹き荒ぶ家の北には蕗の薹

吉井

安里

吾を見る犬のまなこやすみれ草

伊藤ミヨ子

仰向けば淡き空あり春の風

鍋物の菊菜取る人取らぬ人

石井

恵茶

盆梅の皆咲きて皆散りにけり

高貝

敏子

春泥にサンダルで出てしまひけり

雪だるま小首傾げて解けにけり

大網ゆう子

◎恋猫や鴉も犬も鳴いてゐる

春雪や児等の足跡ジグザグに

斉藤

久野

柔らかきややの頬撫で木の芽風

◎二ン月に生まれいでたるうさぎの子

樺島

春立つやみちのくよりの客有りて

病室の窓を隔てて雪の降る

久米

孝子

ぬかるみを避けてふらつき春浅し

不自由さを抱へた右手針供養

日は暮れて野焼きの匂ひ村包む

宿

川口

水木

若布干す浜辺の漁村閑かなり

宿

鳶田

美継

俎板に軽き音あり芹を切る

宿

宮田

珠子

春の雪思はぬ人に誘はれて

街角に雪兎ゐて十日町

宿

井上

芙蓉

朝日浴び樹氷の先へバス走る

先駆けて大地割り出る蕗の薹

宿

堀田

春風に一本道を楽しみぬ

宿

駒井ゆきこ

冴え返る首を縮めて歩く朝

宿

三小田

春立つや飛行機雲のまつすぐに

宿

白山

素風

◎掌にふつくらとして春の水

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3

眼帯の奥まで届く春の風

宿

渡辺

山焼の空たひらかに鳥あがる

宿

千恵子

蕗の薹天地ゆつくり深呼吸

春の雪降つて大仏微笑んで

宿

岸田

祐子

子らの声空に弾けて春の雪

武蔵野

古賀

文子

丸き父小さき母の背蜆汁

春夕日暮れて家並みねずの色

武蔵野

中澤

中女

冱返る池にたゆたふ細き水脈

武蔵野

鈴木

鈴女

ビロードの産毛の蕾春近し

静かなる池を動かす鴨の水尾

武蔵野

井野

帰路につく友との別れはだれ雪

武蔵野

下元

夏乃

下萌やひとりひとつの握り飯

立春過ぎ稜線青く霞みけり

武蔵野

杉江

葉子

就職の決まりし娘雛飾る

紀子

早春の空近づけて飛行船

野田

静香

踏青や吾子のあんよを待つてをり

佐藤

カヨ

◎思ひ出を秘めたるバレンタインの日

気だるさに予定取りやめ春の風邪

横 浜 小原

循子

面接に向かふ道筋梅白し

浜 桜井

さく

早春の光を集め海静か

鈴木

鈴音

港町駆けるランナー春爛漫

真壁 藤子

ドアポスト朝刊包む余寒かな

奈保美

薄氷をかざせば空は一人分

熱燗や津軽の三味の撥捌き

八木たみ女

早世の知らせ余寒の中を来る

◎小さき靴三和土に揃ひ春を待つ

響き合ひ樹々からもれる春の音

芳垣

珠華

紅梅を見上げる度に色放つ

北村

睦子

園丁の寡黙に手入れ草萌ゆる

立春の畑に堆肥を重ねけり

大藪恵美子

春浅し沖行く船の白さかな

鎌田

順子

銃眼に風とどまりて春立てり

藤井

節分やお面をつけしまゝ寝る子

春の日の差し込んでゐる幹の洞

末松せい子

菜の花や子ら一斉に走り出す

咲き初めし梅園そぞろ一日かな

江上

英子

紅梅のこぼれさうなる一樹かな

眞淵富士子

紅梅や寺に祈願の鐘を撞く

《特選句評》

揺れるには短きおさげ草青む

秋野

裕子

短いお下げ髪の、可愛い女の子の姿が目に浮かぶ。春風の中

駆けて来たのであろうか。幼い子の描写が上手く出来ていると

思う。

梅香る御所の閂はづされて

竹内はるか

御所が解放されたのであろうか。普段は中に入ることがで

きない所だけに、香ってくる梅の香りも、一段と格調高い気

がしたのであろう。「閂はづされて」と表現したことによって、

様子が目に浮かび、句の格調も高くなった。

剪定の跡まさらなる夜空かな

渡辺

光子

剪定は本来、果物の成る木の余分な枝を、早春に切ること

を言うが、庭の手入れも許容範囲の歳時記もある。この句の

場合どちらともとれるが、「青空」でなく「夜空」を詠んだこ

とが意外であり、面白かった。そう言われれば、剪定が済ん

だ夜空はすっきりとして、星もまたきれいだろう。

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4

ミケ走りクロ追ひかける春立つ日

大滝有終美

恋猫や鴉も犬も鳴いてゐる

大網ゆう子

二句とも猫のことを詠んでいる句である。猫だけでなく、

春になれば、犬だって、鴉だって浮き立ってくる。人間だっ

て。楽しい二句。

鎮まりて太古なる森雪の宮

池田

紬子

階段も川の流れも雪の下

長畑

なみ

早朝の音閉ぢ込めし春の雪

中川

金時

境内の隅にあふるる受験絵馬

小泉

悦代

御手洗の上にも降りぬ春の雪

中島

慶雄

水仙に潮風添ひてかをりたつ

西村

博子

老梅に貼りつく苔のひかりかな

大黒ひさゑ

月冴える空澄み雲の輝けり

木村

直子

天神の紅白の梅絵馬抱き

藤井めぐむ

天神の空に漲る梅固し

竹内

恵子

何処より梅の香闇を親しうす

戸所

理栄

水仙の香やいつの間に消えてをり

千明小狐如

明るさを増したる障子春隣

富所せつ子

下萌の中に小さき空の色

森田

幸子

◎指先が寒のゆるみを告げてをり

飯塚

柚花

枯れ色の対岸なれど空は春

神子沢さくら

春めくや児らと寝ころぶ芝の上

平井

輝子

父と娘のかはりばんこのシャボン玉

瀧川

◎草青む水の匂ひのする方へ

海風の磨き始めし牡丹の芽

静穏なり剪定の音鳥の声

秋野

裕子

揺れるには短きおさげ草青む

小社に子等溢れゐし節分会

堀江

春一番いつ会えますか師の便り

深呼吸春の香を探しつつ

山田

理恵

参道の飴やにあふるる春の色

池垣真知子

春浅しなんと白髪の増えしこと

植村

美明

◎白梅や明日もこの道通らうか

海老澤希由

名石を楽しみ見れば福寿草

中村

芳子

古町並玻璃に映りし春の山

表参道

川口

祐子

膨らみし木の芽に命強くあり

表参道

近見江身子

音を消し白きもの落つ浅き春

表参道

堀内みさ子

電車行く音の弾むや春一番

表参道

佐藤眞理子

雪だるまよりまんまるき子ら跳ねる

表参道

窪田

七湖

古希の春向上心と好奇心

齊藤

好司

凍解や家の膨らむ音のして

中里

三句

奥熊野秘湯を目指す雪解道

中里

柚子

◎熊野路の土匂ひ立つ春の雨

《近

詠》 八

春光となれば浅靴光らせて

もてなしの春炉煙れば物語

一燭を囲み朧へ字を書ける

突然、大地震が起きた。一瞬にして大

勢の方々が犠牲になった。

自然を詠む俳句は自然の優しい面を

見がちであるが、この惨状も自然の一

面。人は自然に対して驕ってはいなかっ

たか・・・・

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5

雪焼の顔して漢遅れ着く

竹内はるか

みどり児の寝返る力春兆す

〃 つかの間の日当たる谷の野梅かな

渡辺

光子

チューリップ赤の揺れまた黄の揺れて

遠藤

由美

春の夜の銀河のごとくモノレール

小林

含香

しづり雪時折傘を驚かす

洋海

炭爆ぜて囲む手と手に笑ひ声

薄日さす雪掻く空の昼の月

能村みずき

薄氷の下に確かに物動く

大滝有終美

花結び習ふ小さき手春めく日

初音聞く日の射しきたる散歩道

園田あや女

◎手を伸ばしたくなる垣のふきのたう

渡辺美夜香

青海苔や海坂丸く雲低く

風音に遅れ梅花のちりにけり

原山

節分会芸妓も並ぶお焚上げ

田中

きよ

強東風や家鳴りの真夜に聴くラジオ

香川

銀魚

杭打ちて手直しずみの春田かな

大牟田

前原八寿之

山の水流るるままに春や来ぬ

大牟田 志岐

鈴恵

我が家にもひとあし遅れ梅一輪

大牟田 海谷

育男

◎病室の明かりも消えて虎落笛

永井

糸遊

強東風に向かひ少年自転車漕ぐ

小鷲 溪子

時雨るるや今日は本でも開かばや

高良 楽水

侘助の咲きし屋敷の長屋門

角田卯の花

春寒や両手に包む缶コーヒー

松村季代子

魔術かと犇く樹氷万態に

曽我部晩成子

湯の街の雪解の川ぞ豊かなる

村田五百代

修善寺の源氏の悲話や椿落つ

我もまた獣となりて樹氷原

高橋ときこ

老梅の胡粉色咲く長屋門

吉井

安里

仰向けば淡き空あり春の風

伊藤ミヨ子

梅一輪同窓生の訃報あり

石井

恵茶

◎晴天にとり残されし雪達磨

高貝

敏子

薄氷の下に光も閉ぢこめし

春めきて散歩の道も自ずから

大網ゆう子

再検査通知届きて冴返る

斉藤

久野

柔らかきややの頬撫で木の芽風

春立つやみちのくよりの客有りて

樺島

病室の窓を隔てて雪の降る

久米

孝子

湯気立てて煮えし水菜の浅緑

宿

川口

水木

日は暮れて野焼の匂ひ村包む

若布干す浜辺の漁村閑かなり

宿

鳶田

美継

春の雪思はぬ人に誘はれて

宿

宮田

珠子

朝日浴び樹氷の先へバス走る

宿

井上

芙蓉

定刻に届くメールや春一番

宿

堀田

先駆けて大地割り出る蕗の薹

春風に一本道を楽しみぬ

宿

駒井ゆきこ

下萌えてむくむく生命溢れ出す

宿

三小田

春立つや飛行機雲のまつすぐに

宿

白山

素風

掌にふつくらとして春の水

眼帯の奥まで届く春の風

宿

渡辺

山焼の空たひらかに鳥あがる

宿

千恵子

立春や鳥の声して目を覚ます

宿

岸田

祐子

◎子らの声空に弾けて春の雪

武蔵野

古賀

文子

丸き父小さき母の背蜆汁

包まれてなほ守られて蕗の薹

武蔵野

中澤

中女

子供らのあいさつ運ぶ春の風

武蔵野

鈴木

鈴女

静かなる池を動かす鴨の水尾

武蔵野

井野

もてなしの茶粥に散らす蕗の薹

武蔵野

下元

夏乃

下萌やひとりひとつの握り飯

〃 雪溶けの乗馬練習紅潮す

武蔵野

杉江

葉子

雛飾り幼き日々へ思ひ馳せ

紀子

娘と雛飾るしばしの倖せに

早春の空近づけて飛行船

野田

静香

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6

やはらかき光集めて春の川

佐藤

カヨ

春風や子等の歓声駆けめぐる

小原

循子

面接に向かふ道筋梅白し

桜井

さく

早春の光を集め海静か

鈴木

鈴音

春の雪漂ひ舞つて消えにけり

真壁

藤子

窓開けて春の息吹を全身に

ドアポスト朝刊包む余寒かな

奈保美

早世の知らせ余寒の中を来る

八木たみ女

◎小さき靴三和土に揃ひ春を待つ

響き合ひ樹々からもれる春の音

芳垣

珠華

良き報せ届きし窓に梅の香や

名刹の磴より傾ぐ寒椿

北村

睦子

園丁の寡黙に手入れ草萌ゆる

節分の鬼と戯る幼かな

大藪恵美子

二月礼者異国の土産持ち来たり

今朝ひとつ匂ひ弾けて黄水仙

鎌田

順子

春浅し沖行く船の白さかな

◎下萌や句心ふつとふつふつと

熊 本

藤井

春立つやなほ心眼と云ふことば

鳥の声四方より聞こゆ春の園

本 末松せい子

菜の花や子ら一斉に走り出す

咲き初めし梅園そぞろ一日かな

江上 英子

紅梅や寺に祈願の鐘を撞く

眞淵富士子

曇天を突きあげてゐる冬木の芽

《特選句評》

指先が寒のゆるみを告げてをり

飯塚

柚花

気温の微妙な変化を感じるこの頃。水などに触れた指先の

感覚から、寒のゆるみ、春を感じた作者。ちょっとした気付

きを素直に詠んだところに春を待ちかねる気持ちが伝わって

くる。

草青む水の匂ひのする方へ

瀧川

いつの間にか、いろいろなところに草の芽を見出すように

なった。歩んでいく先の水辺にも、その気配が感じられるし、

寒さの和らぎも覚える。早春の情景が上手くまとめられた、

省略のきいた句。

手を伸ばしたくなる垣のふきのたう

渡辺美夜香

淡緑色の蕗の薹を見つけると、ついつい摘まずにはおれな

い。ちょっと手を伸ばせば採れそうなものはよけいである。

その気持ちがそのまま句に溢れていて、微笑ましい。

晴天にとり残されし雪達磨

高貝

敏子

作った子供たちはいなくなって、残された雪達磨は日差し

の中、解けるのを待つばかりである。雪晴れの朝、真青に澄

み切った空の下のひとつの景が、雪達磨を中心に描かれてい

る。

子らの声空に弾けて春の雪

古賀

文子

雪に子供はつきもので、雪が降ると子供たちは喜んで駆け

回るものだが、それは降るそばから消えていく春の雪とて同

じ。ただ、子供たちの声が弾ける空は、低く垂れ込めた冬の

空ではなく、穏やかな春の空であろう。

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7

春菊を多めに入れる一人鍋

池田

紬子

冬帝や大雪山に座りをり

大 宮

長畑

なみ

ビル街を見下ろす遠き雪の山

早朝の音閉ぢ込めし春の雪

宮 中川

金時

散策の行く手を阻む野火埃

境内の隅にあふるる受験絵馬

小泉 悦代

紅梅の枝引き寄せて写真撮る

中島

慶雄

雪解は大蛇のごとく川下る

西村

博子

ひともとの梅に尋ねる咲きごこち

大黒ひさゑ

寒肥や嗅覚たたき起こさるる

木村

直子

月冴える空澄み雲の輝けり

浮寝して付かず離れぬ番鴨

竹内

恵子

◎チャイム鳴る未完の群れの雪達磨

戸所

理栄

子ども園子どもの丈の雪達磨

何処より梅の香闇を親しうす

死にさうな声も愉しき猫の恋

千明小狐如

明るさを増したる障子春隣

富所せつ子

着地して溶けゆくだけの春の雪

下萌の中に小さき空の色

森田

幸子

開く時香りで告げる梅の花

指先が寒のゆるみを告げてをり

飯塚

柚花

綿ぼこりよく踊る日の暖かさ

春風の匂ひまじりぬ腕ふりぬ

枯れ色の対岸なれど空は春

神子沢さくら

春めくや児らと寝ころぶ芝の上

平井

輝子

草青む水の匂ひのする方へ

瀧川

揺れるには短きおさげ草青む

秋野

裕子

春一番いつ会えますか師の便り

堀江

梅の香に酔ひしれながら友を待つ

山田

理恵

◎何処見ても何を見てても春らしく

立春のまだととのはぬ日差しあり

池垣真知子

さつくりと切る音が好き水菜買ふ

植村

美明

渡せずのチョコ塩つぱくてバレンタイン

水仙の高さに寄せる車椅子

海老澤希由

白梅や明日もこの道通らうか

春浅し芽を数へつつ水やりす

中村

芳子

試験終へやつと目に入る梅の花

古町並玻璃に映りし春の山

表参道

川口

祐子

膨らみし木の芽に命強くあり

表参道

近見江身子

春と書き心持ちだけ暖まる

表参道

堀内みさ子

病室に春運びたり梅が枝

表参道

佐藤眞理子

相撲無き弥生を憂ふ祖母と猫

表参道

窪田

七湖

古希の春向上心と好奇心

齊藤

好司

雪被る紅梅を見に向島

〃 岩間より湧出て凍てず不動尊

中里

三句

海亀の街まだ静か春の海

中里

柚子

奥熊野秘湯を目指す雪解道

熊野路の土匂ひ立つ春の雨

《近

詠》 武

朝な夕な城垣映し水温む

流れつつ淀みつつ水温みけり

啓蟄や城に出入りの人の数

《ひとこと》

東北、関東大地震の被害にあわれた

方、心よりお見舞い申し上げます。

自然の前に、人間の小ささを改めて

思い知りました。

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8

雪焼の顔して漢遅れ着く

竹内はるか

鶴引くと始まる文や恙無し

みどり児の寝返る力春兆す

つかの間の日当たる谷の野梅かな

渡辺

光子

剪定す刃の種類腰に提げ

剪定の跡まさらなる夜空かな

チューリップ赤の揺れまた黄の揺れて

遠藤

由美

春の夜の銀河のごとくモノレール

小林

含香

窓開けて車内に満つる春の風

◎しづり雪時折傘を驚かす

洋海

春寒し街を去るには訳のあり

冬の夜や薬八色卓上に

能村みずき

薄氷の下に確かに物動く

大滝有終美

花結び習ふ小さき手春めく日

山霞瀬戸内海へうすれゆく

園田あや女

初音聞く日の射しきたる散歩道

手を伸ばしたくなる垣のふきのたう

多 摩

渡辺美夜香

登校の子らの踏まずにふきのたう

どの枝も冬芽の帽子被りをり

摩 原山

侘助の一輪で室満たしをり

田中

きよ

寒きことしばれると言ふ寮母かな

香川 銀魚

ひこばえや退職のあと握る鍬

大牟田

前原八寿之

寒紅やけふといふ日を占ひし

大牟田

志岐

鈴恵

梅知るや人の齢の儚きを

我が家にもひとあし遅れ梅一輪

大牟田

海谷

育男

これほどに白く映すや寒の月

永井

糸遊

病室の明かりも消えて虎落笛

雀らの胸ふくらませ日向ぼこ

立春といふ文字ほのか恋心

小鷲

溪子

一束の水仙潮を運びけり

時雨るるや今日は本でも開かばや

高良

楽水

隅田川春の嵐の波立てり

角田卯の花

雪降りて童話の世界笠地蔵

春寒や両手に包む缶コーヒー

松村季代子

◎ベランダのスリッパ暖まってゐる

大海も越えて砂漠の黄の空

曽我部晩成子

湯の街の雪解の川ぞ豊かなる

村田五百代

修善寺の源氏の悲話や椿落つ

我もまた獣となりて樹氷原

高橋ときこ

かんじきに伝はる雪の温みかな

ジャケットに湯の香とどめて帰路の駅

吹き荒ぶ家の北には蕗の薹

吉井

安里

早春の萌黄色なる草抜かず

仰向けば淡き空あり春の風

伊藤ミヨ子

梅一輪同窓生の訃報あり

石井

恵茶

数増えて所狭しの君子蘭

◎初めての夫無茶苦茶に剪定す

晴天にとり残されし雪達磨

高貝

敏子

春泥にサンダルで出てしまひけり

雪だるま小首傾げて解けにけり

大網ゆう子

◎恋猫や鴉も犬も鳴いてゐる

再検査通知届きて冴返る

斉藤

久野

柔らかきややの頬撫で木の芽風

赤子泣きバレンタインも忘れをり

樺島

立春や退院の日と定めをり

久米

孝子

日は暮れて野焼きの匂ひ村包む

宿

川口

水木

ふきのたう摘みし子供は母となり

蛇行する川面に春のひかり満つ

若布干す浜辺の漁村閑かなり

宿

鳶田

美継

俎板に軽き音あり芹を切る

宿

宮田

珠子

噎せるほど食べねばならぬ年の豆

街角に雪兎いて十日町

宿

井上

芙蓉

雪の壁通り抜けたらそこは青

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浅川の岸辺巻き込む雪解水

宿

堀田

炉辺で聞く只見の奥の猟名残

雪解水の音透き通る用水路

宿

駒井ゆきこ

下萌えてむくむく生命溢れ出す

宿

三小田

露地物の菠薐草のずつしりと

宿

白山

素風

◎息子からバレンタインのおすそわけ

足跡の付けては消える春の浜

宿

渡辺

群れてゐるそれだけでもう暖かく

◎眼帯の奥まで届く春の風

蕗の薹日差しに遊び育ちけり

宿

千恵子

立春や鳥の声して目を覚ます

宿

岸田

祐子

子らの声空に弾けて春の雪

武蔵野

古賀

文子

しずり落つ小枝もろとも春の雪

生垣の葉を従へて紅椿

武蔵野

中澤

中女

子供らのあいさつ運ぶ春の風

武蔵野

鈴木

鈴女

ビロードの産毛の蕾春近し

静かなる池を動かす鴨の水尾

武蔵野

井野

合格とこぼるゝ笑顔春はじけ

もてなしの茶粥に散らす蕗の薹

武蔵野 下元

夏乃

老木に梅ほころびて安堵する

武蔵野 杉江

葉子

就職の決まりし娘雛飾る

紀子

◎くしやみして花粉受難の始まれり

早春の空近づけて飛行船

野田 静香

やはらかき光集めて春の川

佐藤

カヨ

春風や子等の歓声駆けめぐる

小原

循子

気だるさに予定取りやめ春の風邪

雛飾り話は時代を遡り

桜井

さく

早春の光を集め海静か

鈴木

鈴音

窓開けて春の息吹を全身に

真壁

藤子

◎ドアポスト朝刊包む余寒かな

奈保美

早世の知らせ余寒の中を来る

八木たみ女

良き報せ届きし窓に梅の香や

芳垣

珠華

名刹の磴より傾ぐ寒椿

北村

睦子

園丁の寡黙に手入れ草萌ゆる

節分の鬼と戯る幼かな

大藪恵美子

二月礼者異国の土産持ち来たり

春浅し沖行く船の白さかな

鎌田

順子

啄ばみて一群の鳩下萌ゆる

膨らまぬ蕾あまたや冴返る

藤井

鳥の声四方より聞こゆ春の園

末松せい子

母娘苦味談義や蕗のとう

江上

英子

木の芽吹く毛細管のやうな梢

眞渕富士子

曇天を突きあげてゐる冬木の芽

《特選句評》

チャイム鳴る未完の群れの雪達磨

戸所

理栄

始業のチャイム。子供達が去った校庭には作りかけの雪達磨

がたくさん残っている。校庭に降った雪の光景、そして子供達

と雪のかかわりが上手く描けた俳句と思います。

初めての夫無茶苦茶に剪定す

石井

恵茶

それまでは他の方の手により綺麗に剪定されていた樹木。事

情があり経験もなくそれに挑んだ夫です。慣れない手で頑張っ

た成果も、冷静な奥様の眼から見ればまあこんなもの…。しか

し何事も経験、だんだん上手くなります。是非是非、長い目で

見ていただきたいと私からもお願いする次第です。

恋猫や鴉も犬も鳴いてゐる

大網ゆう子

恋猫のあのけたたましいというか、心のどこかを抉るような

声はけっして気持の良いものではありません。そんな声はきっ

と他の動物にも影響を及ぼすことでしょう。自然界の一つの表

情が、上手く俳句に纏まりました。淡々とした詠い振りにも好

感を持ちます。

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息子からバレンタインのおすそわけ

白山

素風

ほほえましくて羨ましいですね。チョコレートをたくさん

貰ってくる息子を逞しく感じている母親、または父親。なかな

か息子から物をもらうなんて珍しいことでしょうからどうぞ楽

しんでいただきたいと思います。素直な句で良いですね。

くしやみして花粉受難の始まれり

紀子

花粉症で苦しむ方が増えています。知人に何人もおります。

今の季節「くしゃみ」が辛そうです。この句、その花粉症の始

まりを告げる「くしゃみ」を詠っています。現代の季節感とも

言えます。「花粉受難」が上手いですね。

添削のページ

・旅終へて成田の梅の白さかな

海外旅行をされたのでしょうか。しかし「成田」では、折角の帰

国の気持ちが伝わりません。「日本」でこその梅の白さでしょう。

旅終へて日本の梅の白さかな

大海も越えて砂漠の黄の空

黄沙(霾)のことを言いたい、と言う事は句の雰囲気で想像でき

るのですが、季題を入れない、季題の説明の句となっています。

霾や大海の空越えて来る

・深呼吸して内側の凍てゆるむ

内側がどうでしょうか。深呼吸ですから、体の内側と言いたいの

でしょうが、説明不足の感じがします。「体内」と表現を変えれば、

深呼吸がぐんと生きてくるのではないでしょうか。

深呼吸して体内の凍てゆるむ

【以上

八之助】

《添削・・ではないですが、》

・かんじきに伝はる雪の温みかな

・かまくらの沢山ありて雪祭

・立春過ぎ稜線青く霞みけり

今回もいくつか「季重なり」がありました。「季重なり」も主た

る季題が明らかな場合は良しとされていますが、これらの句はそこ

が曖昧で、印象が薄くなっているように思います。「季重なり」に

なることもあるでしょうが、何かほかの言葉で置き換えられないか、

違った詠み方はないか、推敲を重ねて下さい。

こ と 》

だんだん頭の働きが悪くなってい

るのを感じています。元々そんなに賢い

訳ではありませんが、歳のせいだと思う

と寂しくもあります。さて、じゃあどん

な俳句を作れば良いのか…。歳を重ねて

も悩みはあるものだなと感じる今日こ

の頃…。

《近

詠》

公園を出るころ消える石鹸玉

剪定をされ名札より小さき薔薇

影持たぬほどの薄さに下萌ゆる

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時候がら、バレンタインデーの句が多く出されていましたが、「バ

レンタインデー」か「バレンタインの日」、もしくはバレンタインの

チョコとか、バレンタインの贈り物とか、二月十四日と分かるもので

ないと季題とはなりません。「バレンタイン」ではダメですので、注

意されて下さい。

【以上

たみ】

・抱一の紅白梅の芳しき

江戸の画家、酒井抱一のことかと。先ずこの画家のことをどれだ

けの読者が知っているでしょうか、知っていてくれないと感動を共

有できません。加えてその形容がただ「芳しい…」では作者の感動

とはいえません。作者でなければ言えないような言葉で表現すると

もっと良くなると思いますが…。

・春寒の音響くなり露天の湯

一読、「春寒の音」とは一体どんな音だろう、と疑問。いや待て

よ、春寒の音…で切れているのかなと思いました。そうでしたら切

れ字の「や」を使ったらどうでしょう。

春寒や音響くなり露天の湯…分かりやすくなったように思いま

すが。

・薄氷をかざせば空は一人分

感覚的に面白いものを持っていらっしゃると思いますが、「空は

一人分」が良くわかりません。ここのところが肝心なのでしょう。

推敲するところかと思います。もう一歩、自分のそのときの感動が

表れているか、相手に伝わるだろうか…。永く俳句を作っていても

実際その一歩が難しいのですがね。

【以上

素竹】

平成二十三年二月十九日(土曜日)

吟行地・外苑東通り・神宮外苑

句会場・東京都港区青山福祉会館

二月の青山教室は、青山一丁目交差点、ホンダ本社前に集合し、外

苑東通りから神宮外苑の銀杏並木を吟行しました。

立春を過ぎたとは言え、春の積雪の後のとても冷え込んだ昼下がり。

集合場所に行ってみると、何人かの欠席者のあるスタートとなりまし

たが、一明さんがスキー帰りの雪焼の顔で遅れて到着し、予定通りの

コースを取り、外苑の銀杏並木をゆっくり散策しました。

並木通りでは、運良く銀杏の剪定作業やベンチの塗替えの

中で、

しばらく皆で佇みながら、「松手入れと剪定」の違いをどう表現した

ら良いか、昨日の強風は、「春一番?」など、思い思いの事を語り合

いながらの吟行となりました。

今回は、特に少人数だったので、岡田先生に各自が質問をぶつけた

り、お互いのコミニケーションが図れ、有意義な時間でした。

その後、青山福祉会館のいつもの教室にもどり、投句の推敲が始ま

ると、「出来ただけ出しなさい」と先生の声があり、七句投句のとこ

ろを短冊を追加して挑戦することになりました。

その推敲している私達の傍らで、教室会員の一明さんの講義が行わ

れ、名句が耳から入って来ました。

流れ行く大根の葉の早さかな

高浜虚子

淋しさにまた銅鑼うつや鹿火屋守

石鼎

などなど。

俳句を学び始めてから数年が経ち、今聞いてみると、また違った思

いで受け止めていることを感じました。俳句をしていなかったら出会

わない「鹿火屋守」と言う季題や「虎落笛」などもそうですが・・・

そう思うと、それだけでも豊かな幸せな気分になれました。

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青山教室は、皆が伸び伸びと思いのままに作句し合うので、毎回素

敵な句に巡り会えます。岡田先生がそれぞれの個性を見守り、自由に

句作りをさせて下さる事に感謝しております。また、お互いに気心が

知れ、居心地の良い仲間達に恵まれています。

この日は教室後も場所を移して、原宿教室からのゲスト渡辺檀さん

を交え、俳句談義に花が咲きました。これから季節も良くなりますし、

吟行を重ね、写生を大切にして句作りを楽しみたいと思います。

次回は、春の深川を吟行の予定です。

(竹内はるか記)

遠ざかる列車見送る春の雪

街の灯の中から生まれ春の月

古希の春向上心と好奇心

膝で折る剪定の枝響きけり

はるか

春泥を初めて踏みし山の鳥

メール打つ背に鳥居から春の雪

柚 子

剪定す刃の種類腰に提げ

剪定を済ませ銀杏の背伸びかな

剪定の影頼りなき日差かな

剪定の音降るベンチ塗替中

『俳句入門』(稲畑汀子)より

感動のないところに詩は生まれない

「この頃は日記のような俳句しか出来んようになりました。感動がな

くなりました」とM女さんがかつて私に話されたことがある。しかしそ

う言うM女さんの句をいつも瑞々しいと私は思っている。

一方では相当な修練を積んだ作家の俳句が精彩をなくす場合がある。い

かにも巧い句であるが感動が伝わってこないのである。

「巧者に病あり。…俳諧は三尺の童にさせよ、初心の句こそたのもしけ

れ」と芭蕉が言った(『三冊子』)のも同じ意味であろう。

句作の技量に長じてくると、つい技巧的な表現の工夫にとらわれて、

直にものを見る目や素朴に感動する心の大切さを忘れるのである。

俳句は花鳥を詠う詩である。感動のないところに詩が生まれるはずは

ない。深くものを見る目を養い、新しい発見に直に驚ける感性を研ぐこ

とにこそ精進すべきである。

M女さんはきっとそのことを絶えず自戒しておられるのであろう。

前月補遺

岡田順子選

ざつと見て買はずに帰るだるま市

千明小狐如

平井裕子選

着飾つて成人の日の闇深し

千明小狐如

藤森荘吉選

ざつと見て買はずに帰るだるま市

千明小狐如

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