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525 日本建築学会技術報告集 第 26 巻 第 63 号,525-530,2020 年 6 月 AIJ J. Technol. Des. Vol. 26, No.63, 525-530, Jun., 2020 DOI https://doi.org/10.3130/aijt.26.525 壁高さと段数を変化させた二つ 割たすき掛け筋かい耐力壁の面 内せん断性能に関する実験的研 EXPERIMENTAL STUDY ON THE RACKING PERFORMANCE OF THE WOODEN SHEAR WALL WITH CROSSED BRACES VARIED WITH WALL HEIGHT AND STEP 玉澤基良ーーーー *1 稲山正弘ーーーー *2 青木謙治ーーーー *3 落合 陽ーーーー *4 河原 大ーーーー *5 稲田勲保ーーーー *6 キーワード: 耐力壁,二つ割,たすき掛け筋かい,壁倍率,面内せん断試験, 座屈 Keywords: Wooden shear wall, Half-divided-column, Crossed bracing, Strength of shear walls, Racking test, Buckling Motoyoshi TAMAZAWA*1 Masahiro INAYAMAーー *2 Kenji AOKIーーーーーーーーー *3 Yo OCHIAI ーーーーーーーー *4 Hiro KAWAHARAーーーーー *5 Isao INADAーーーーーーー *6 Wood bracing shear walls are usually installed in not only residential houses but also medium or large-scale wooden buildings. It is no problem to provide bracings in residentials. But, in case of providing bracings in medium or large-scale wooden buildings, it will be difficult that the bracings exert its strength of shear walls which is prescribed in Japanese Building Code. The purpose of this study is to clarify the specification for exerting its strength in medium or large-scale wooden buildings throughout the racking test of full-size shear wall. And the purpose was achieved by this experiment. *1 東京大学大学院農学生命科学研究科 博士課程・修士(農学) (〒 113-8657 東京都文京区弥生 1-1-1) *2 東京大学大学院農学生命科学研究科 教授・工博 *3 東京大学大学院農学生命科学研究科 准教授・博士(農学) *4 東京大学大学院農学生命科学研究科 助教・博士(農学) *5 東京大学大学院農学生命科学研究科 特任助教・博士(農学) *6 東京大学大学院農学生命科学研究科 修士課程 *1 Grad. Student, Grad. School of Agri. and Life Sci., Univ. of Tokyo, M. Agr. *2 Prof., Grad. School of Agri. and Life Sci., Univ. of Tokyo, Dr. Eng. *3 Assoc. Prof., Grad. School of Agri. and Life Sci., Univ. of Tokyo, Dr. Agr. *4 Assist. Prof., Grad. School of Agri. and Life Sci., Univ. of Tokyo, Dr. Agr. *5 Assist. Prof., Grad. School of Agri. and Life Sci., Univ. of Tokyo, Dr. Agr. *6 Grad. Student, Grad. School of Agri. and Life Sci., Univ. of Tokyo 1.はじめに 「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が平成 22 年に施行され、3階建て以下の低層の公共建築物の木造率(木造 の床面積の合計/新築に係る床面積の合計)が、平成 22 年度では 17.9%だったのに対し平成 28 年度では 26.4%に上昇した 1) 。また、 平成 30 年の時点において、全ての都道府県と全国の市町村のうち 90%に当たる 1,565 市町村が、同法に基づく「公共建築物における 木材の利用の促進に関する方針」を策定していることから、今後も 公共建築物をはじめ民間事業においても中大規模木造建築物の増加 が予想される。 これらの中大規模建築物に、地震力などの水平力に対する耐力要 素の鉛直構面として、主に住宅などで使用される筋かい耐力壁が採 用されるケースが多い。筋かい材の材料費が安価であることや施工 性の良さがその理由として挙げることができる。筋かいとして使わ れる木材の断面の大きさに、二つ割材(幅45mm×成90mm 以上) のものがある。筋かい耐力壁の仕様については建築基準法施行令4 6条で仕様が規定され、片筋かいで 2 倍、たすき掛けで 4 倍の壁倍 率が与えられている。また、筋かい端部の接合仕様は、平 12 建告 1460 号に規定されている。二つ割筋かい耐力壁の場合、階高 3m未 満の住宅程度であれば問題ないが、中大規模建築物では階高が 3m 以上となることが多く、その場合、施行令第46条に定められた壁 倍率相当の性能が得られないことが、守屋らの研究で報告されてい 2) 筋かい耐力壁については様々な研究がなされており、先に述べたよ うに守屋らは、壁の高さの違いがせん断耐力に影響を及ぼすこと 2) また筋かい金物の種類の違いが長尺筋かい耐力壁のせん断性能に影 響を及ぼすことを示した 3) 。村上らは、柱と筋かいのなす角度βが 小さいと筋かいの突き上げ力による横架材の下面との摩擦により筋 かいから柱側面にはせん断力が作用しないことを示した 4) 。二つ割 筋かい耐力壁に関する既往研究において、壁高さが 3m以上であっ ても所定の壁倍率相当の性能を確保できる筋かい耐力壁の仕様につ いて言及したものは多くないが、藤澤らは、壁高さが 3.0mを超え た圧縮方向の片筋かいの面内せん断試験で、面材及び間柱による筋 かいの拘束効果を考慮することにより、施行令 46 の壁倍率を満たす ことを確認した 5) 住宅の耐震性能は簡易的な壁量計算で評価され、その方法及び壁 倍率は施行令46条に規定されている。一方、中大規模木造建築物 の場合、施行令82条に規定されている許容応力度計算で構造計算 されることが多く、耐力壁の性能は施行令46条の壁倍率を1倍当 たり 1.96kN/m として、せん断性能に置き換えて計算される。本研究 では、施行令46条に規定された壁倍率を比較対象とし、壁高さが 3m以上であってもその壁倍率相当の性能を確保できる筋かい耐力 壁の仕様を提案することを研究目的とした。研究対象は、面材によ る拘束効果を期待しない、二つ割筋かいのみの耐力壁とし、壁高さ と筋かいの段数を変化させた場合、面内せん断性能がどのように変 化するか、また、施行令46条に規定された壁倍率を確保するため の仕様について実験的に検証した。壁長については、柱頭及び柱脚 のほぞに水平方向のせん断力を作用させないように、圧縮筋かいの

壁高さと段数を変化させた二つ EXPERIMENTAL STUDY ON THE …

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日本建築学会技術報告集 第 26 巻 第 63 号,525-530,2020 年 6 月AIJ J. Technol. Des. Vol. 26, No.63, 525-530, Jun., 2020

DOI https://doi.org/10.3130/aijt.26.525

壁高さと段数を変化させた二つ割たすき掛け筋かい耐力壁の面内せん断性能に関する実験的研究

EXPERIMENTAL STUDY ON THE RACKING PERFORMANCE OF THE WOODEN SHEAR WALL WITH CROSSED BRACES VARIED WITH WALL HEIGHT AND STEP

玉澤基良ー ーーーー * 1 稲山正弘ー ーーーー* 2青木謙治ー ーーーー * 3 落合 陽ー ーーーー* 4河原 大ー ーーーー * 5 稲田勲保ー ーーーー* 6

キーワード:耐力壁,二つ割,たすき掛け筋かい,壁倍率,面内せん断試験,座屈

Keywords:Wooden shear wall, Half-divided-column, Crossed bracing, Strength of shear walls, Racking test, Buckling

Motoyoshi TAMAZAWAーー* 1 Masahiro INAYAMAーーー * 2Kenji AOKIーーーーーーーーーー* 3 Yo OCHIAIーーーーーーーーー * 4Hiro KAWAHARAーーーーーー* 5 Isao INADAーーーーーーーー * 6

Wood bracing shear walls are usually installed in not only residential houses but also medium or large-scale wooden buildings. It is no problem to provide bracings in residentials. But, in case of providing bracings in medium or large-scale wooden buildings, it will be difficult that the bracings exert its strength of shear walls which is prescribed in Japanese Building Code. The purpose of this study is to clarify the specification for exerting its strength in medium or large-scale wooden buildings throughout the racking test of full-size shear wall. And the purpose was achieved by this experiment.

*1 東京大学大学院農学生命科学研究科 博士課程・修士(農学) (〒 113-8657 東京都文京区弥生 1-1-1)*2 東京大学大学院農学生命科学研究科 教授・工博*3 東京大学大学院農学生命科学研究科 准教授・博士(農学)*4 東京大学大学院農学生命科学研究科 助教・博士(農学)*5 東京大学大学院農学生命科学研究科 特任助教・博士(農学)*6 東京大学大学院農学生命科学研究科 修士課程

*1 Grad. Student, Grad. School of Agri. and Life Sci., Univ. of Tokyo, M. Agr.

*2 Prof., Grad. School of Agri. and Life Sci., Univ. of Tokyo, Dr. Eng.*3 Assoc. Prof., Grad. School of Agri. and Life Sci., Univ. of Tokyo, Dr. Agr.*4 Assist. Prof., Grad. School of Agri. and Life Sci., Univ. of Tokyo, Dr. Agr.*5 Assist. Prof., Grad. School of Agri. and Life Sci., Univ. of Tokyo, Dr. Agr.*6 Grad. Student, Grad. School of Agri. and Life Sci., Univ. of Tokyo

壁高さと段数を変化させた二つ割たすき掛け筋かい耐力壁の面内せん断性能に関する実験的研究

EXPERIMENTAL STUDY ON THE RACKING PERFORMANCE OF THE WOODEN SHEAR WALL WITH CROSSED BRACES VARIED WITH WALL HEIGHT AND STEP

玉澤基良 *1 稲山正弘 *2 青木謙治 *3 落合 陽 *4 河原 大 *5 稲田勲保 *6 キーワード: 耐力壁, 二つ割, たすき掛け筋かい, 壁倍率, 面内せん断試験, 座屈 Keywords: Wooden shear wall, Half-divided-column, Crossed bracing, Strength of shear walls, Racking test, Buckling

Motoyoshi TAMAZAWA **1 Masahiro INAYAMA **2 Kenji AOKI **3 Yo OCHIAI **4 Hiro KAWAHARA **5 Isao INADA **6 Wood bracing shear walls are usually installed in not only residential houses but also medium or large-scale wooden buildings. It is no problem to provide bracings in residentials. But, in case of providing bracings in medium or large-scale wooden buildings, it will be difficult that the bracings exert its strength of shear walls which is prescribed in Japanese Building Code. The purpose of this study is to clarify the specification for exerting its strength in medium or large-scale wooden buildings throughout the racking test of full-size shear wall. And the purpose was achieved by this experiment.

1.はじめに

「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が平成

22 年に施行され、3階建て以下の低層の公共建築物の木造率(木造

の床面積の合計/新築に係る床面積の合計)が、平成 22 年度では

17.9%だったのに対し平成 28 年度では 26.4%に上昇した 1)。また、

平成 30 年の時点において、全ての都道府県と全国の市町村のうち

90%に当たる 1,565 市町村が、同法に基づく「公共建築物における

木材の利用の促進に関する方針」を策定していることから、今後も

公共建築物をはじめ民間事業においても中大規模木造建築物の増加

が予想される。

これらの中大規模建築物に、地震力などの水平力に対する耐力要

素の鉛直構面として、主に住宅などで使用される筋かい耐力壁が採

用されるケースが多い。筋かい材の材料費が安価であることや施工

性の良さがその理由として挙げることができる。筋かいとして使わ

れる木材の断面の大きさに、二つ割材(幅45mm×成90mm 以上)

のものがある。筋かい耐力壁の仕様については建築基準法施行令4

6条で仕様が規定され、片筋かいで 2 倍、たすき掛けで 4 倍の壁倍

率が与えられている。また、筋かい端部の接合仕様は、平 12 建告

1460 号に規定されている。二つ割筋かい耐力壁の場合、階高 3m未

満の住宅程度であれば問題ないが、中大規模建築物では階高が 3m

以上となることが多く、その場合、施行令第46条に定められた壁

倍率相当の性能が得られないことが、守屋らの研究で報告されてい

る 2)。

筋かい耐力壁については様々な研究がなされており、先に述べたよ

うに守屋らは、壁の高さの違いがせん断耐力に影響を及ぼすこと 2)、

また筋かい金物の種類の違いが長尺筋かい耐力壁のせん断性能に影

響を及ぼすことを示した 3)。村上らは、柱と筋かいのなす角度βが

小さいと筋かいの突き上げ力による横架材の下面との摩擦により筋

かいから柱側面にはせん断力が作用しないことを示した 4)。二つ割

筋かい耐力壁に関する既往研究において、壁高さが 3m以上であっ

ても所定の壁倍率相当の性能を確保できる筋かい耐力壁の仕様につ

いて言及したものは多くないが、藤澤らは、壁高さが 3.0mを超え

た圧縮方向の片筋かいの面内せん断試験で、面材及び間柱による筋

かいの拘束効果を考慮することにより、施行令 46 の壁倍率を満たす

ことを確認した 5)。

住宅の耐震性能は簡易的な壁量計算で評価され、その方法及び壁

倍率は施行令46条に規定されている。一方、中大規模木造建築物

の場合、施行令82条に規定されている許容応力度計算で構造計算

されることが多く、耐力壁の性能は施行令46条の壁倍率を1倍当

たり 1.96kN/m として、せん断性能に置き換えて計算される。本研究

では、施行令46条に規定された壁倍率を比較対象とし、壁高さが

3m以上であってもその壁倍率相当の性能を確保できる筋かい耐力

壁の仕様を提案することを研究目的とした。研究対象は、面材によ

る拘束効果を期待しない、二つ割筋かいのみの耐力壁とし、壁高さ

と筋かいの段数を変化させた場合、面内せん断性能がどのように変

化するか、また、施行令46条に規定された壁倍率を確保するため

の仕様について実験的に検証した。壁長については、柱頭及び柱脚

のほぞに水平方向のせん断力を作用させないように、圧縮筋かいの

*1東京大学大学院農学生命科学研究科,博士課程,修士(農学)

(〒113-8657 東京都文京区弥生 1-1-1)

*1 Grad. Student, Grad. School of Agri. and Life Sci., Univ. of Tokyo, M.Agr.

*2東京大学大学院農学生命科学研究科,教授,工博 *2 Prof., Grad. School of Agri. and Life Sci., Univ. of Tokyo, Dr.Eng. *3東京大学大学院農学生命科学研究科, 准教授, 博(農) *3 Associ. Prof., Grad.School of Agri. and Life Sci.,Univ. of Tokyo, Dr.Agr.*4東京大学大学院農学生命科学研究科, 助教, 博(農) *4 Assist. Prof., Grad.School of Agri. and Life Sci.,Univ. of Tokyo, Dr.Agr.*5東京大学大学院農学生命科学研究科, 特任助教, 博(農) *5 Assist. Prof., Grad.School of Agri. and Life Sci.,Univ. of Tokyo, Dr.Agr.*6東京大学大学院農学生命科学研究科, 修士課程 *6 Grad. Student, Grad.School of Agri. and Life Sci.,Univ. of Tokyo

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突き上げによる摩擦力を期待し、柱と筋かいのなす角度βが小さい

1P(910mm)の長さの筋かい耐力壁を研究対象とした。

2.研究の概要

研究対象とする筋かい耐力壁は、断面が 45mm×90mm 以上の二つ割

材をたすき掛けにしたものとし、図 1 に示すように壁高さは 3.0m

から 4.5mとし、それぞれ1段タイプと 2 段タイプのものとした。

試験は 3 期に分けて行った。各期の試験体の仕様を表 1~表 3 に示

す。1 期目における試験体の高さは、文献 6 で規定された筋かい耐

力壁の幅高さ比の制限(H/L≦3.5)より決定される最大高さ H=

3.185mと施行令43条に規定された柱の有効細長比の制限値(λ=

150)より決定される柱 105mm 角の場合の最大高さ H=4.5mの 2 種

類とした。試験体名は、壁高さ 3.185mの1段タイプを LS、同2段

タイプを LD とした。また、壁高さ 4.5mの1段タイプを HS、同2段

タイプを HD とした。1 期目では、平 12 建告 1460 号に則った筋かい

耐力壁の面内せん断性能を確認することを目的として試験を行った。

試験結果より改良すべき点を見出して改良を施し 2 期目の試験とし

て壁高さ3.0mの1段タイプと壁高さ4.5mの2段タイプの試験を行

った。試験体名は、壁高さ 3.0mの1段タイプを NLS とし、壁高さ

4.5mの2段タイプを NHD とした。さらに、3 期目の試験として壁高

さ 3.0mの 1 段タイプについて、2 期目の試験体で柱の内側に取り付

けていたホールダウン金物を柱の外側に取り付け、面内せん断性能

の違いについて検証した。試験体名は NLS-R とした。

3.試験方法の概要

各期とも、試験は文献 6 の試験方法に則り柱脚固定式で行った。

試験体数はタイプ毎に3体とし、繰り返し履歴は見かけのせん断変

形角が、1/450,1/300,1/200,1/150、1/100,1/75,1/50 の正負変形時

とし、繰り返し回数は同一変形段階で3回とした。加力は最大荷重

に達した後、最大荷重の 80%の荷重に低下するまで加力するかまた

は、見かけのせん断変形角が 1/15rad 以上に達するまで行った。

変位計による変位の計測は、梁芯における加力(水平)方向の絶

対変位、柱脚部の高さ方向の絶対変位、及び筋かい端部と柱・横架

材との相対変位について行った。また、第2期及び第3期試験では、

センターホール型ロードセルをホールダウン金物(以下、HD 金物)

のボルト部に設置し、ボルトに作用する軸力を計測した。

4.第1期面内せん断試験

試験体の仕様は表 1 に示すとおりとし、試験体数は各 3 体とした。

4.1 試験結果と考察

各試験体の荷重変形包絡線及び文献 6 による壁倍率の評価結果を

図 2 に示す。また、終局時の様子を図 3 に示す。すべての試験体の

壁倍率の評価は「Pu・0.2/Ds」で決まった。試験の結果、施行令46

条の壁倍率を満足できた試験体は、壁高さ 3.185mで筋かいを2段

にした LD のみであった。

試験体 LS 及び LD の主な破壊性状は、圧縮側筋かいの面外へのは

らみが進行し、筋かい交点の釘が抜けることで筋かいが一気に座屈

破壊するというものであった(図 3(a))が、 試験体 LS-2 は圧縮筋か

いが座屈破壊する前に引張側の柱が、HD 金物の上端辺りで引張曲げ

破壊し荷重低下(図 3(b))し、その後、圧縮筋かいが座屈破壊した。

試験体 LD において、LD-1 は、筋かいの交点に節が存在していたた

め(図 3(a))、他の 2 体に比べて早期に、節を起点に座屈破壊し、Pmax

が低い値となった。試験体 HS の主な破壊性状は、圧縮筋かいが大き

く面外にはらみ、筋かい金物がその変形に追従できず破壊(図 3(c))、

試験体

記号

壁高さ

(mm)

段数

壁長

(mm) 軸組 筋かい 主要接合部

LS 3185

1段

910

柱:(共通)

断面:105mm×105mm

樹種:スギ(E70)

土台:(共通)

断面:105mm×105mm

樹種:ヒノキ(E90)

梁:(共通)

断面:105mm×180mm

樹種:ベイマツ(E110)

間柱:(共通)

断面:45mm×105mm

樹種:スギ KD

中間横架材:

(LD,HD のみ)

断面:105mm×105mm

樹種:スギ(E70)

断面:

(共通)

45mm×90mm

樹種:

(共通)

ベイマツ KD

筋かい金物:(共通)

2倍用柱梁筋かい 3 点留め

ボックスタイプ

柱頭仕口部:(共通)

短ほぞ+40kN 用ホールダウン金物外付

柱脚仕口部:(共通)

短ほぞ+60kN 用ホールダウン金物外付

筋かいと間柱

LS,LD:釘 2-N75(両面)

HS:構造用ネジφ6mm×L100mm

×2 本(片面)

HD-1,2:構造用ネジφ6mm×L100mm

×2 本(片面)

HD-3:構造用ネジφ6mm×L100mm

×2 本(片面)+釘 2-N75(片面)

中間横架材仕口部:(LD,HD のみ)

大入れ+15kN 用コーナー金物

(上下 2 個)

間柱と横架材:(共通)

釘 2-N75 斜め打ち

LD 3185

2段

HS 4500

1段

HD 4500

2段

変更箇所 第 1 期試験体

type.LS(二つ割 1 段筋かい)

第 2 期試験体

type.NLS(二つ割 1 段筋かい)

筋かい断面

筋かい樹種

筋かい金物

筋かい交点

柱脚

壁高さ

45mm×90mm

ベイマツ KD

2倍用柱梁筋かい 3 点留め

(ボックスタイプ)

釘 2-N75(両面)

短ほぞ+60kN 用 HD 金物外付

3.185m

45mm×120mm

スプルース KD

2倍用柱梁筋かい 3 点留め

(側面取付フラットプレートタイプ)

構造用ネジφ6mm×L100mm×2 本(両面)

短ほぞ+60kN 用 HD 金物内付

3.0m

変更箇所 第 1 期試験体

type.HD(二つ割 2 段筋かい)

第 2 期試験体

type.NHD(二つ割 2 段筋かい)

柱断面

土台断面

梁断面

中間横架材断面

中間横架材端部

筋かい樹種

筋かい金物

筋かい交点

柱脚

105mm×105mm

105mm×105mm

105mm×180mm

105mm×105mm

大入れ+15kN 用コーナー金物

(上下 2 個)

ベイマツ KD

2倍用柱梁筋かい 3 点留め (ボックスタイプ)

構造用ネジφ6mm×L100mm

×2 本(片面)

短ほぞ+60kN 用 HD 金物外付

120mm×120mm

120mm×120mm

120mm×180mm

120mm×180mm

梁成 105mm 用梁受け金物

スプルース KD

2倍用柱梁筋かい 3 点留め (側面取付フラットプレートタイプ)

構造用ネジφ6mm×L100mm

×2 本(両面)

短ほぞ+60kN 用 HD 金物外付

+基礎直結・土台埋め込み型柱脚金物

変更箇所 第 2 期試験体

type.NLS(二つ割 1 段筋かい)

第 3 期試験体

type.NLS-R(二つ割 1 段筋かい)

柱脚 HD 金物 短ほぞ+60kN 用 HD 金物内付 短ほぞ+60kN 用 HD 金物外付

図 1 二つ割筋かい耐力壁試験体の概略

表 1 第 1 期 面内せん断試験概要(平成 29 年 12 月実施)

表 2.1 第 2 期 面内せん断試験(平成 30 年 9 月~10 月実施)

における第 1 期からの変更点(二つ割 1 段筋かい)

表 2.2 第 2 期 面内せん断試験(平成 30 年 9 月~10 月実施)

における第 1 期からの変更点(二つ割 2 段筋かい)

表 3 第 3 期 面内せん断試験(令和元年 8 月実施)における

第 2 期からの変更点(二つ割 1 段筋かい)

527

あるいは筋かいが面外に大きくはらみ最大荷重の 80%以下に荷重

が低下し試験終了というものであった(図 3(d))。この試験体では、

3体のうち2体の試験体において、圧縮筋かいの面外のはらみに引

張筋かいが追従しきれず筋かい交点の構造用ネジ 10)が抜けてしま

った。壁高さ 4.5mを 1 段筋かいとしているため、筋かいの座屈長

さが長いため面外のはらみが大きく、追従するだけの留めつけとし

ては、構造用ネジを片側 2 本打つだけでは性能が不足しており、両

側から2本ずつ打ち込み留めつけるという改善方法が考えられた。

試験体 HD の主な破壊性状は、圧縮筋かいの面外はらみに引張筋かい

が追従し、最終的に引張筋かいが引張曲げ破壊すると同時に圧縮筋

かいが座屈破壊するというものであった(図 3(e))。これは、圧縮筋

かいと引張筋かいが間柱を介して構造用ネジで接合されており、追

従するに十分な留め付けであったためだと考えられる。試験体 HD

は壁高さ 4.5mを 2 段筋かいとしているため、筋かい交点を同様の

接合方法とした1段筋かいの試験体HSよりも筋かいの座屈長さが短

く、筋かいの面外変形量が小さいため、引張筋かいが圧縮筋かいに

よく追従できたと考えられる。また、2段筋かい耐力壁の場合は試

験体 LD,HD ともに上段の筋かいが破壊するものがほとんどであった

が、試験体番号 HD-3 のみは下段の引張筋かいが引張曲げ破壊すると

同時に圧縮筋かいが座屈破壊するというものであった。また、試験

体 HD-2 は、筋かいの破壊に先行して引張側柱の HD 金物のビス部で

縦方向に割裂が進展し最大荷重の 80%以下に荷重が低下したため

試験終了となった(図 3(f))。

4.2 第1期面内せん断試験における補強必要個所の検討

第1期のすべての試験体の評価は「Pu・0.2/Ds」で決まっており、

評価式中の Ds 値を下げることで、壁倍率を向上させることができ

ると考えられる。Ds値を決定づける要因に塑性率 μがある。μは終

局変形角 γuを降伏点変形角 γvで割ることで求められる。μ の値を上

げれば Ds値が下がり、その結果、壁倍率が向上する。μの値を上げ

るには、降伏点変形角を低く抑えればよく、そのためには初期剛性

を向上させることが有効である。そこで第1期の試験における

1/120rad 時の各部の変位の全体の変形角に影響を及ぼす割合を求

める検討を行い、その割合の大きい個所を補強することで初期剛性

の向上を図ることとした。

検討は試験体 LS と HD について行った。尚、試験体 LD は施行令

46 条の壁倍率 4 倍を満足しているため検討から除外した。また、試

験体 HS については、実務設計では、壁高さが 4.5mとなる場合には

筋かいを2段にして HD の仕様に変更することが想定されるため、検

討から除外することとした。検討は試験体 LS と HD について行う。

4.2.1 第1期面内せん断試験における各部の変位による変形の全

体の変形角に及ぼす割合

第 1期試験における1/120rad時の各部の変位による変形角を図 4

に示す幾何学的関係より求めた。全体の変形角に影響を及ぼす各部

の変位による変形角のうち、主要な部分として以下に示す個所につ

いて求めた。γ1,2 は柱脚部のめり込み及び浮き上がり(図 4(a))に

よるロッキング変形角で式(4.1.1)及び式(4.1.2)による。γ3 は引

張筋かい端部金物接合部における筋かいと横架材との筋かいの軸方

向における相対変位による変形角で第1期の場合(図 4(b))は式

(4.2.1)による。γ4 は引張筋かいの伸び(図 4(b))による変形角で

式(4.2.2)による。γ5 は柱

の 1/120rad 時の軸力によ

る軸変形で式(4.3)による。

各部の変位の全体の変形角

に影響を及ぼす割合は式

(4.4)による。

図 4 筋かい構面の変形図 図 2 荷重-変形包絡線及び評価結果

(a)ロッキング変形 (b)筋かい端部の相対変位 及び筋かいの伸び変形

γ1,γ2

試験体記号:HS H=4500mm 筋かい:1段

5.07 2.84P120 (kN) 5.14 0.15

3.41 11..9911

2/3Pmax(kN) 6.68 0.28 6.55 3.67

5.80 0.26 5.67 3.18

Pu ・0.2/Ds (kN) 3.70 0.61

降伏耐力Py(kN)

偏差 下限値平均値

標準 50%壁倍率

580.0

塑性率μ 2.50

構造特性係数Ds 0.51

終局耐力Pu (kN) 9.27

初期剛性K (kN/rad)

試験体記号:LS H=3185mm 筋かい:1段

7.46 4.18P120 (kN) 7.69 0.49

4.75 22..6666

2/3Pmax(kN) 7.71 0.81 7.32 4.11

6.14 0.57 5.88 3.30

Pu ・0.2/Ds (kN) 4.94 0.40

降伏耐力Py(kN)

偏差 下限値平均値

標準 50%壁倍率

初期剛性K (kN/rad) 963.5

塑性率μ 3.32

構造特性係数Ds 0.42

終局耐力Pu (kN) 10.39

図 3 終局時の様子

(a)筋かいの座屈破壊(LD-1) (b)柱の引張曲げ破壊(LS-2)

(e)上段筋かいの引張曲げ破壊(HD-1) (f)HD 金物取付部の割裂破壊(HD-2)

(c)引張側筋かい金物の破壊(HS-1) (d)圧縮筋かいの座屈変形(HS-2)

試験体記号:HD H=4500mm 筋かい:2段

8.66 4.85P120 (kN) 8.97 0.68

5.41 33..0033

2/3Pmax(kN) 14.11 2.96 12.72 7.13

11.96 3.35 10.38 5.82

Pu ・0.2/Ds (kN) 6.03 1.31

降伏耐力Py(kN)

偏差 下限値平均値

標準 50%壁倍率

構造特性係数Ds 0.64

終局耐力Pu (kN) 19.21

初期剛性K (kN/rad)1035.4

塑性率μ 1.73

試験体記号:LD H=3185mm 筋かい:2段

13.92 7.80P120 (kN) 14.14 0.46

9.00 55..0055

2/3Pmax(kN) 19.52 3.24 18.00 10.09

16.15 3.97 14.28 8.00

Pu ・0.2/Ds (kN) 9.78 1.66

降伏耐力Py(kN)

下限値

50%壁倍率平均値

標準

偏差

2.17

0.55

終局耐力Pu (kN)

初期剛性K (kN/rad)

塑性率μ

構造特性係数Ds

26.96

1643.9

γ3(第 1 期),γ4

528

以上の結果を図 5 に示す。また、図 5 の凡例を表 4 に示す。

図 4(a)のロッキング変形の場合(γ1,γ2)

γ1=Δy1/L ・・・・(4.1.1)

Δy1:柱脚と土台の絶対変位(めり込み)

γ2=Δy2/L ・・・・(4.1.2)

Δy2:柱脚と土台の絶対変位(浮き上がり)

図 4(b)第1期の筋かい端部の相対変位による変形の場合(γ3(第1期))

γ3=� 𝛥𝛥𝛥・ √������ �/𝐻𝐻 ・・・・(4.2.1)

Δ3:横架材と筋かい端部の筋かいの軸方向の相対変位

h:1 段分の筋かい構面の高さ

図 4(b)引張筋かいの伸びによる変形の場合(γ4)

γ4=� 𝛥𝛥𝛥・ √������ �/𝐻𝐻 ・・・・(4.2.2)

Δ4:筋かいに貼ったひずみゲージより求めた筋かいの伸び変形

柱の 1/120rad 時の軸力による軸変形(γ5)

γ5 = �・��・�・� ・・・・(4.3)

N:1/120rad 時の水平力に対し、各接合部をピンと仮定し筋かい構面を

静定トラスとして力のつり合い条件より求めた軸力(N)

E:文献 7による打撃音法で測定した柱(スギ E70)のヤング係数(8010 N/mm2)

各部の変位の全体の変形角に影響を及ぼす割合

A:柱の断面積(mm2)

α=γi/Σγ ・・・・(4.4)

γi:各部の変位による変形角

Σγ:各部の変位による変形角を合計した全体の変形角

4.2.2 第2期面内せん断試験に向けた補強内容の検討

図 5 によると各試験体とも筋かい金物の取付部の変位による影響

(γ3)が大きかった。また、H4.5mの 2 段筋かいタイプでは、γ3

に加えて柱脚のめり込み及び浮き上がりによる影響(γ1、2)が大

きかった。そのため、第2期の試験では、試験体 LS と HD について、

筋かい金物を、金物メーカー提供の試験データ(表 5)から変形角

1/120 時の耐力(P120)がより高く、初期剛性の向上が得られると

考えられる側面取付フラットプレートタイプに変更した。H=4.5m

の 2 段タイプの試験体 HD には、基礎直結型の柱脚金物(図 6)を使

用し、柱断面を 105mm 角から 120mm 角に変更すること

で、柱脚のめり込み及び浮き上がりを抑え剛性の向上

を図った。また、壁高さについて、1 段タイプの壁高

さを 3.185mから 3.0mに仕様を変更した。また、1 段

タイプ、2 段タイプとも、HD 金物は柱の内側に取り付

けた。その他変更点は表 2.1 及び表 2.2 のとおりであ

る。第2期の試験体名は、第 1期の試験体名LS、

LD の頭に N を付けて、NLS、NLD とした。

使用金物タイプ Py Pu・0.2/Ds 2/3Pmax P(120)

第 1 期:ボックスタイプ 8) - - 3.77 33..1100

第 2 期:側面取付フラットプレートタイプ 9) 4.83 33..7733 5.71 5.49

5.第2期面内せん断試験

試験体の仕様は表 2.1 及び表 2.2 に示すとおりとし、試験体数は

各 3 体とし、それぞれ 4.2.2 の補強を施した。

5.1 試験結果と考察

試験の結果、2段筋かいの試験体 NHD は第1期の成績を上回り、

施行令46条の壁倍率4倍の性能を満たすことができた。しかし、

試験体 NLS は、第1期の壁倍率を上回りながらも施行令 46 条の壁倍

率を満たすことができなかった。

各試験体の荷重変形包絡線及び文献 6 による壁倍率の評価結果を

図 7 に示す。また、終局時の様子を図 8 に示す。すべての試験体の

壁倍率の評価は、第 1 期と同様に「Pu・0.2/Ds」で決まった。

試験体 NLS に共通する主な破壊性状は、引張り側筋かい金物のビ

ス部を起点とする土台の割裂破壊であった(図 8(a))。引張筋かいに

よる柱の浮き上がりに伴い筋かい金物のビスで土台が上方向に持ち

上げられることで割裂破壊したと考えられる。また、試験体 NLS-1

では、土台の割裂に加え筋かいの引張曲げ破壊も発生した(図 8(b))。

引張り筋かいが圧縮筋かいの面外座屈に伴って曲げを受けながら引

っ張られることで破壊したと考えられる。

試験体 NHD に共通する主な破壊性状は、中間横架材のタテ割裂で

あった(図 8(c))。中間横架材端部に梁受け金物を使用しているが、

そのためのスリットが横架材の縦方向に 2 か所開けられ、端部では

幅が 3 等分された状態で、その 1/3 の部分に筋かいが接合されてお

り、そこに上段引張筋かいと下段圧縮筋かいの軸力によるせん断力

が集中し、タテ割裂破壊が発生しやすかったと考えられる。

位置 変形の種類 位置 変形の種類

γ1 柱脚のめり込み変位による変形角 γ4上 上段引張筋かいの伸びによる変形角

γ2 柱脚の浮き上がり変位による 変形角

γ4下 下段引張筋かいの伸びによる変形角

γ3T 引張筋かい上端部と柱梁との相対変位による変形角

γ5圧 柱の軸変形(圧縮)による 変形角

γ3B 引張筋かい下端部と柱梁との相対変位による変形角

γ5引 柱の軸変形(引張)による 変形角

γ3上T 上段引張筋かい上端部と柱梁との相対変位による変形角

γ5上圧 上段柱の軸変形(圧縮)による変形角

γ3上B 上段引張筋かい下端部と柱梁との相対変位による変形角

γ5上引 上段柱の軸変形(引張)による変形角

γ3下T 下段引張筋かい上端部と柱梁との相対変位による変形角

γ5下圧 下段柱の軸変形(圧縮)による変形角

γ3下B 下段引張筋かい下端部と柱梁との相対変位による変形角

γ5下引 下段柱の軸変形(引張)による変形角

γ4 引張筋かいの伸びによる変形角

図 7 荷重-変形包絡線及び評価結果

表 4 図 5 の凡例

図 5 1/120rad 時の各部の変位の全体の変形角に対する割合

図6基礎直結型柱脚金物

0.000.050.100.150.200.250.300.35

γ1 γ2 γ3T γ3B γ4 γ5圧 γ5引全体

の変

形角

に対

する

割合

各部の割合(平均値)

(H3.185m 二つ割1段筋かい)

LS(第1期H3.185m、…

0.000.050.100.150.200.250.300.35

γ1 γ2γ3

上T

γ3上

Bγ3

下T

γ3下

Bγ4

γ4下

γ5上

γ5上

γ5下

γ5下

引全体

の変

形角

に対

する

割合

各部の割合(平均値)

(H4.5m 二つ割2段筋かい)

HD(第1期H4.5m、2段)

試験体記号:NLS H=3000mm 筋かい:1段

終局耐力Pu (kN) 16.86

平均値50%

壁倍率偏差 下限値

構造特性係数Ds 0.49

塑性率μ 2.59

初期剛性K (kN/rad) 855.0

5.40

Pu ・0.2/Ds (kN) 6.88 6.83 33..8833

降伏耐力Py(kN) 9.77 9.63

6.93

P120 (kN) 8.09 7.79 4.37

2/3Pmax(kN) 12.63

標準

0.29

0.10

0.57

0.65

12.36

試験体記号:NHD H=4500mm 筋かい:2段

6.75

P120 (kN) 9.83 9.55 5.35

1.13

0.60

2/3Pmax(kN) 12.57 12.04

5.73

Pu ・ 0.2/Ds (kN) 8.12 7.78 44..3366

0.61

0.72

降伏耐力Py(kN) 10.51 10.23

構造特性係数Ds 0.42

塑性率μ 3.47

初期剛性K (kN/rad)1145.3

終局耐力Pu (kN) 16.90

平均値50%

壁倍率偏差 下限値

標準

表 5 筋かい金物データ(金物メーカー提供)単位:kN

529

5.2 第2期面内せん断試験における各部の変位による変形の全体

の変形角に及ぼす割合

1/120rad 時の各部の変位による変形角

の全体の変形角に対する割合について第1

期と第2期と併せて図 9 に示す。図の凡例

は表 4 に同じとする。筋かい端部の相対変

位(図 10)による変形角γ3 は、式(5.2.1)

によるもとし、それ以外の変形角は、4.2.1

に同じとする。

γ3= ・・・・(5.2.1)

Δx3:横架材と筋かい端部の筋かいの X 方向の相対変位

Δy3:横架材と筋かい端部の筋かいの Y 方向の相対変位

5.3 第2期面内せん断試験における補強効果についての考察

図 9 に示すように、試験体 NLS は筋かい金物を剛性の高いものに

変更したことによりその影響(γ3)は抑えられたが、柱脚の浮き上

がりによる影響(γ2)が大きかった。変形角 1/120rad 前後の段階

で筋かい金物のビス部からの土台の割裂が NLS の全ての試験体で見

られた(図 8(a))。耐力壁の壁長は構造的には、圧縮側の柱芯から

引張側の柱に取り付く HD 金物のボルト芯までの距離であると考え

られ、HD 金物を柱の内側に取り付けたことにより構造的な壁長が短

くなることで、アスペクト比が高くなり、引張側柱脚と土台間の浮

き上がりが大きくなったことが原因であると考えられる。

NLSの初期剛性の平均値は、第1期の試験体LSよりも低くなった。

これは、LS の 2/3Pmax の平均値 7.71kN に対し、NLS の平均値は

12.63kN と高い値を示したが、荷重変形曲線の傾きが緩くなった辺

りで Pmax を迎えた結果、初期剛性の評価区間である 0.1Pmax と

0.4Pmax を結んだ傾きが、1 期試験体 LS より小さくなり、そのため

初期剛性が低く評価されたと考えられる。

試験体 NHD では、柱脚に図 6 に示す基礎直結・土台埋め込み型柱脚

金物を使用したため、γ1,γ2 の柱脚のめり込み及び浮き上がりの

影響を抑えることができた。γ3 の筋かい金物の取付部の変位によ

る影響は全体的に抑えられたが、上段引張筋かいの下端部の変形に

よる影響(γ3 上 B))は梁受け金物用の縦スリットによる断面欠損

(図 8(c))のため第1期試験より大きくなった。

6.第3期面内せん断試験

第3期の試験は、第2期の試験において施行令 46 条の壁倍率を満

足できなかった壁高さ 3.0mの1段筋かい耐力壁(試験体 NLS)につ

いて行った。試験体の仕様は表 3 に示すとおりとし、試験体数は 3

体とした。

第2期の試験では HD 金物は柱の内側に取り付けていたが、それを

外側に取り付ければ構造的な壁長は長くなり、筋かい構面のアスペ

クト比が低くなることで、水平荷重を受けたときに柱が負担する軸

力が小さくなる。その結果、柱脚部のめり込み及び浮き上がり変位

が小さくなり、筋かい構面のロッキング変形が抑えられ、壁倍率が

向上すると考えられる。そこで、第3期では第2期の壁高さ 3.0m

の1段筋かい耐力壁の仕様のまま、HD 金物の取付位置だけ柱の外側

に変更して面内せん断試験を行い、第2期の試験と比較することと

した。

6.1 試験結果と考察

各試験体の荷重変形包絡線及び評価結果を図 11 に示す。また、終

局時の様子を図 12 に示す。試験体 NLS-1R の破壊性状は、圧縮側筋

かいの節部を起点とする座屈破壊であった(図 12(a))。その他の試

験体 NLS-2R 及び NLS-3R においては、ロードセルが最大荷重を示し

た後、引張側筋かい金物のビス部の割裂(図 12(b))などで金物の変

形が進行し、圧縮筋かいと引張筋かいが共に大きく面外に変形する

ことで試験体が負担する荷重が最大荷重の 80%以下に低下したた

め試験を終了した(図 12(d))。全試験体に共通する性状として、変

形が 1/50rad になった辺りで、引張り側筋かい金物のビス部を起点

とする土台の割裂が見られたが、第 2 期の試験体に比べると割裂の

度合いは小さいものであった(図 12(c))。1/120rad 時の引張側柱の

HD 金物のアンカーボルトに取り付けたロードセルの値に着目する

と、第 2 期の試験体では試験体に作用させた水平荷重の約 2.97 倍の

軸力であったのに対し、第 3 期では、それより低い約 2.31 倍の軸力

がアンカーボルトに作用していた。第 3 期の試験体は HD 金物を柱の

外側に取り付けているため構造的な壁長が長くなったことでアスペ

クト比が低くなり、浮き上がり変形に対し支配的な HD 金物の引張接

合部に生じる軸力が抑えられたと考えられる。そのため、浮き上が

り変形が抑えられ、第 2 期の試験体よりも第 3 期の方が、引張り側

筋かい金物のビス部を起点とする土台の割裂の度合いが低くなった

と考えられる。

図 8 終局時の様子

(a)土台の割裂破壊(NLS-3) (b)筋かいの引張り曲げ破壊(NLS-1)

(c)中間横架材接合金物スリット部の引張筋かいによるタテ割裂破壊(NHD-1)

図 11 荷重-変形包絡線及び評価結果

γ3(第 2 期)

0.000.050.100.150.200.250.300.35

γ1 γ2 γ3T γ3B γ4 γ5圧 γ5引

全体

の変

形角

に対

する

割合

各部の割合(平均値)

(H3.0-3.185m 二つ割1段筋かい)

LS(第1期H3.185m、1段)

NLS(第2期H3.0m、1段)

0.000.050.100.150.200.250.300.35

γ1 γ2γ3

上T

γ3上

Bγ3

下T

γ3下

Bγ4

γ4下

γ5上

γ5上

γ5下

γ5下

引全体

の変

形角

に対

する

割合

各部の割合(平均値)(H4.5m 二つ割2段筋かい)

HD(第1期H4.5m、2段)

NHD(第2期H4.5m、2段)

図 10 筋かい端部の 相対変位

図 9 1/120rad 時の各部の変位の全体の変形角に対する割合

試験体記号:NLS-R H=3000mm 筋かい:1段

2/3Pmax(kN) 12.73 0.37 12.56 7.04

P120(kN) 10.43 0.30 10.29 5.77

降伏耐力Py(kN) 11.27 0.47 11.04 6.19

Pu・0.2/Ds(kN) 8.47 0.73 8.13 44..5566

終局耐力Pu(kN) 17.65

初期剛性K(kN/rad) 1209.2

塑性率μ 3.39

構造特性係数Ds

平均値標準 50%

壁倍率偏差 下限値

0.42

530

初期剛性の平均値については、第 2 期の試験体 NLS では

855.0kN/rad であったのに対し、第 3 期の試験体 NLS-R では

1209.2kN/rad に向上し、塑性率μの平均値についても第 2 期 NLS の

2.59 から第 3 期 NLS-R の 3.39 に向上した。以上のことから HD 金物

を柱の外側に取り付けることによる面内せん断性能の向上を確認で

きた。壁倍率換算でも 4.56 倍となり、施行令 46 条の所定の壁倍率

である 4.0 倍を満足することができた。

7.まとめ

本研究で得られた知見を以下に示す。

① 壁高さ 3.0mの二つ割たすき掛け筋かい耐力壁においては、第

3期のNLS-Rの試験結果より以下の仕様で建築基準法施行令46条の

壁倍率 4.0 倍相当の面内せん断性能を確保できることが分かった。

・壁高さ及び筋かいの段数:H≦3.0m、1段

・柱の断面(樹種):105mm 角(スギ)

・土台の断面(樹種):105mm 角(ヒノキ)

・梁の断面(樹種):105mm×180mm(ベイマツ)

・筋かいの断面(樹種):45mm×120mm(スプルース)

・筋かい金物:柱梁横架材の 3 点留め側面取付フラットプレート

タイプ

・筋かいと間柱の交点:構造用ネジφ6mm×L100mm 片面 2 本

(両面計 4 本)

・HD 金物取付位置:柱の外側

② 壁高さ 4.5mの二つ割たすき掛け2段筋かい耐力壁においては、

第2期の NHD の試験結果より、階高の中間に横架材を設けて筋かい

を2段とし、筋かいの座屈長さと幅高さ比を小さくした仕様によっ

て、建築基準法施行令 46 条の壁倍率 4.0 倍相当の面内せん断性能を

確保できることが分かった。

・壁高さ及び筋かいの段数:H≦4.5m、2段

・柱の断面(樹種):120mm 角(スギ)

・土台の断面(樹種):120mm 角(ヒノキ)

・梁の断面(樹種):120mm×180mm(ベイマツ)

・中間横架材の断面(樹種):120mm×180mm(スギ)

・筋かいの断面(樹種):45mm×90mm(スプルース)

・筋かい金物:柱梁横架材の 3 点留め側面取付フラットプレート

タイプ

・筋かいと間柱の交点:構造用ネジφ6mm×L100mm 片面 2 本

(両面計 4 本)

・柱脚金物:基礎直結・土台埋め込み型

③ 圧縮筋かい-間柱-引張筋かいの交点をN釘でなく径 6mm×長さ

100mm 程度の構造用ネジを片側2本の両側計4本で接合することに

より、圧縮筋かいの座屈進行を構造用ネジを介して引張筋かいが抑

制する形となり、圧縮筋かいの早期の座屈破壊を防ぐことができる

ことが分かった。

④ 壁高さ 4.5mの二つ割たすき掛け2段筋かい耐力壁などアスペ

クト比の高い耐力壁の場合、柱脚に基礎直結・土台埋め込み型の柱

脚金物を使用することにより、柱脚部のめり込み及び浮き上がりを

抑えロッキング変形を抑制できることが分かった。

⑤ 比較的剛性の高い筋かい金物を使用したとしても、第2期の試

験体のように引張筋かいによる柱の浮き上がりに伴い、筋かい金物

のビスで土台が上方向に持ち上げられることで割裂破壊するなど、

補強としてあまり効果的でない場合があることが分かった。そのた

め、耐力壁の性能を十分に発揮させるには、柱の浮き上がりを防止

するため、HD 金物を外付けにするなど配慮が必要であることが分か

った。

⑥ HD 金物の取付位置を柱の外側にすることで構造的な壁長が長

くなり、筋かい構面のアスペクト比が低くなることで、水平荷重を

受けたときに柱が負担する軸力が小さくなる。その結果、柱脚部の

めり込み及び浮き上がり変位が小さくなり、筋かい構面のロッキン

グ変形が抑えられ、筋かい耐力壁の面内せん断性能が向上すること

が分かった。

謝辞

第2期の高さ 4.5mの2段筋かい耐力壁の試験では、金沢工業大学

のやつかほリサーチキャンパスの実験施設をお借りした。その際、

同大学の後藤正美教授並びに学生の方々に多大な協力を頂いた。こ

こに感謝の意を表す。

参考文献 1)林野庁:平成 29 年度 森林・林業白書(平成 30 年 6 月 1 日公表),

pp.172-173

2) 守屋嘉晃,林崎正伸,高橋仁,河合直人,槌本敬大:木造軸組耐力壁のせ

ん断性能に与える壁高さ及び壁長さの影響確認実験 その 1 筋かい耐力

壁,日本建築学会大会学術講演梗概集,構造Ⅲ,pp.97-98,2011.8

3) 守屋嘉晃,川上修,中川貴文,河合直人,槌本敬大:筋かい金物の種類の

違いが長尺筋かい耐力壁のせん断性能に及ぼす影響に関する検証実験,

日本建築学会大会学術講演梗概集,構造Ⅲ,pp.279-280,2013.8

4)村上雅英,佐武憲一,加藤正章,稲山正弘:圧縮筋かいの取り付くほぞ金具

を用いた管柱の柱頭接合部の耐力算定式の提案,日本建築学会構造系論文

集第 611 号,pp.103-109,2007.1

5)藤澤洋輔,五十田博,金子洋文,松田昌洋,尾内惇史:面材や間柱による

木造筋かいの座屈拘束効果が耐力壁性能に及ぼす影響 その 1 一方向載

荷による 1P 壁の静加力実験,日本建築学会大会学術講演梗概集,構造Ⅲ,

pp.167-168,2016.8

6)木造軸組工法住宅の許容応力度設計 1(2017 年版),日本住宅・木材技術

センター,pp.39-40,289-304,2017.3

7)構造用木材の強度試験マニュアル,日本住宅・木材技術センター,pp.59-63,

2011.3

8)EG ガセット試験成績書,日本住宅・木材技術センター,1999.10

9)ジャステンプレート品質性能試験報告書,建材試験センター,2006.10

10)テクニカルデータシート(パネリードⅡ+),シネジック株式会社,

SNG-P002-0

図 12 終局時の様子

(a)圧縮筋かいの座屈破壊(NLS-1R)

(c)土台の割裂(NLS-2R)

(b)筋かい金物のビス部の割裂(NLS-2R)

(d)筋かいの面外変形(NLS-2R)

[2019年 10月 2日原稿受理 2019年 12月 19日採用決定]