33
研究紀要第263 F9-01 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的研究 平成17年2月 岡山県教育センター

小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

研 究 紀 要 第 263号

F9-01

小学校低学年におけるピアサポートに関する実践的研究

平 成 17 年 2 月

岡山県教育センター

研究紀要第二六三号

小学校低学年におけるピアサポートに関する実践的研究

平成十七年二月

岡山県教育センター

Page 2: 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

ま え が き

現在,学校教育においては,子どもたちに,基礎的,基本的な内容を確実に身に付けさせ,それ

を基に自分で課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,行動し,よりよく問題を解決

する資質や能力,豊かな人間性,健康や体力などの「生きる力」を育成することがますます重要に

なってきています。このような教育改革を推進するに当たって,学校教育の質的な転換が求められ

ており,そのためには,具体的な指導方法や指導体制等の工夫改善についての研究・実践を深める

とともに,教員の資質・指導力の向上を図ることが重要課題となっています。

そこで,岡山県教育センターでは,教育に関する専門的,技術的事項の調査研究,教育関係職員

の研修,教育相談,教育情報の収集・蓄積・発信等の諸事業を通して,学校教育の支援を行ってい

ます。特に,調査研究においては,国の教育改革の動向と本県の教育課題を踏まえ,幾つかの研究

主題を設定して共同研究・個人研究を行い,その成果の提供と普及に努めています。

今日,子どもたちは人間関係が希薄化し,他者を思いやる気持ちや規範意識などが低下している

と指摘されています。その背景として,地域・家庭等社会の変化に伴う子どもたちの社会体験など

の減少,中でもピア・グループ(仲間集団)の体験の乏しさがあります。そのことから,社会的ス

キルを身に付けることができず,小学校1・2年生では,自己の欲求と他者との関係に折り合いを

付けたり,仲間意識を築いたりすることのできにくい子どもたちが見られます。そこで,ピア・グ

ループ(仲間集団)の体験的活動を通して,小学校低学年から社会的スキルを段階的に育て,人間

関係づくりを意図的・計画的に行うことが求められています。

本研究では,小学校低学年の児童を対象に,他者を支援するための基本的な社会的スキルを育て,

互いに思いやることのできる人間関係をつくることをねらいとしたピアサポートを実践するととも

に,その指導の在り方を示したものです。

御高覧の上,御意見,御批判をいただくとともに,学習指導要領の趣旨に沿う教育実践のための

資料として御活用いただければ幸いです。

終わりになりましたが,この研究を進めるに当たり,御協力をいただきました協力委員の先生方

並びに関係各位に厚くお礼申し上げます。

平成17年2月

岡山県教育センター所長

浮 田 信 明

Page 3: 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

目 次

……………………………………………………………………………………………………1研究の要旨

Ⅰ はじめに…………………………………………………………………………………………………2

Ⅱ 研究の目的………………………………………………………………………………………………2

Ⅲ 研究の内容………………………………………………………………………………………………2

1 小学校低学年におけるピアサポート………………………………………………………………2

………………………………………………………………………………2(1) ピアサポートの類型

………………………………………………………3(2) 小学校低学年の実態と心理的発達の特徴

2 本研究におけるピアサポートプログラム…………………………………………………………4

………………………………………………………………………………………………4(1) ねらい

…………………………………………………………………………………………………4(2) 構成

…………………………………………………………………………………………………5(3) 内容

3 分析方法………………………………………………………………………………………………7

……………………………………………………………………7(1) プログラムの有効性について

………………………………………………………………8(2) プログラムの構成と内容について

……………………………………………………………………………9(3) 指導の在り方について

4 授業実践………………………………………………………………………………………………9

………………………………………………………………………………9(1) 実践1(A小学校)

………………………………………………………………………………13(2) 実践2(B小学校)

5 結果と考察……………………………………………………………………………………………17

……………………………………………………………………17(1) プログラムの有効性について

………………………………………………………………20(2) プログラムの構成と内容について

……………………………………………………………………………23(3) 指導の在り方について

Ⅳ 成果と課題………………………………………………………………………………………………24

Ⅴ おわりに…………………………………………………………………………………………………24

……………………………………………………………26巻末資料:ピアサポートプログラムの指導案

Page 4: 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

ピアサポートプログラムの実践

研究の要旨

ねらい ・他者を支援するための基礎的な社会的スキルの習得・互いに思いやることのできる人間関係づくり

構成と内容・第一次 「動機付け」・第二次 「スキルトレーニング」・第三次 「個人プランニング」・第四次 「サポート活動」

- 1 -

内 容

まとめ

「コミュニティ育成型」の

ピアサポート

小学校低学年の実態と

心理的発達の特徴

評価

ピアサポートプログラムの作成

成果

・「他者を支援するための基本的

な社会的スキル」の習得

・児童同士のかかわりが積極的に

なり,学級の雰囲気がよくなる

課題

・評価の客観性を高める工夫

・教育課程への位置付け

Page 5: 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

- 2 -

研究の概要

本研究は,小学校低学年を対象としたピアサポートプログラムを作成し,実践するとと

もに,その有効性並びに成果と課題を示し,今後の指導の在り方を検討したものである。

四次計画のプログラムを作成,実施したところ 「他者を支援するための基本的な社会的,

スキル」の習得に一定の効果が見られた。また,児童同士のかかわりが積極的になり,学

級の雰囲気がよくなるなどの変化が見られた。

キーワード ピアサポート,小学校低学年,ピアサポートプログラム,スキルトレーニング,

サポート活動

Ⅰ はじめに

今日,子どもたちは人間関係が希薄化し,他者を

思いやる気持ちや規範意識などが低下していると指

摘されている。小学校1・2年生(以下「小学校低

学年」という )では 「小1プロブレム」という言。 ,

葉に象徴されるように,自己の欲求と他者との関係

に折り合いを付けたり,仲間意識を築いたりするこ

とのできにくい子どもたちが見られる。その背景と

して地域・家庭等,社会の変化に伴う子どもたちの

社会体験などの減少がある。

このような子どもたちが,社会的スキルをいかに

身に付けていくかが,今日的な教育課題の一つにな

っている。特に,ピア・グループ(仲間集団)の体

験的活動を通して,子どもたちの社会的スキルを育

て,互いに思いやることのできる人間関係づくりを

意図的,計画的に行うことの必要性が挙げられる。

そのための教育方法の一つとして,ピアサポートが

あり,小学校においてもその実践・研究が広がりつ

つある。

ところが,多くの実践は,小学校5・6年生(以

下「小学校高学年」という )を対象としたもので。

あり,小学校低学年を対象としたプログラムや指導

上の工夫等の指導の在り方についての報告はほとん

どないことから,本研究では,小学校低学年を対象

としたピアサポートに関する実践的研究を行うこと

とした。

Ⅱ 研究の目的

小学校低学年を対象としたピアサポートプログラ

ムを作成し,実践するとともに,その有効性並びに

成果と課題を検討し,今後の指導の在り方を探る。

Ⅲ 研究の内容

ピアサポートは,1970年代中ごろからその先進国

であるカナダで,その後イギリス・アメリカなどの

諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は (年齢,

・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

ポート(Support)は支援することや援助すること

を意味している。

また,ピアサポートプログラムは,仲間を支援す

るためのスキルトレーニングと実際に仲間を支援す

るサポート活動から構成されている。

日本では,ピアサポートが注目され始めた1990年

代後半から実践が行われるようになってきている。

その際,外国で展開されてきた教育方法を日本の学

校風土に合わせるために,様々な工夫が行われてい

る。

1 小学校低学年におけるピアサポート

本節では,これまで日本の学校で行われてきた

ピアサポートの動向を踏まえた上で,小学校低学

年の実態,その心理的発達の特徴を基に小学校低

学年を対象としたピアサポートを考える。

(1) ピアサポートの類型

ピアサポートは,その類型の特徴から大きく

「コミュニティ育成型」と「ピア・カウンセラー

(サポーター)養成型」に分類することができる

(池本,2001 。)

「コミュニティ育成型」とは,トレーニングを

受けた子どもたちの成長や子どもたち同士が互い

に思いやり,支え合うことができるような集団づ

くりを目指す活動である 「学級や学年を超えた。

ピア・サポート・グループに,心理教育的援助を

行うことによって,生徒同士が互いに支え合える

ような資質や能力を養い,その生徒たちが日常生

Page 6: 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

- 3 -

活の中の様々な場面でその力を発揮できるように

する」 (池本,2001)取り組みや「すべての子1 )

どもたちに人間的能力を身につけさせ,子どもた

ちどうしの助け合い・支え合いを可能にすること

によって,学校全体を『思いやりの共同体 (ケ』

アリング・スクール・コミュニティ)にする組織

的な教育活動」 (中野,2003)などが「コミュ2 )

ニティ育成型」に分類される。

一方 「ピア・カウンセラー(サポーター)養,

成型」とは,同年代の仲間による相談(ピアカウ

ンセリング)を提供できるサポーターを養成する

ことを目指す活動である。ピアサポートを「支援

を受ける側と,年齢や社会的な条件が似通ってい

る者(ピア・サポーター)による社会的支援(ソ

ーシャル・サポート 」 ととらえた「紙上相談) 3)

ピア・サポート (戸田,2001)や「様々な不安」

や悩みを抱えた人々に対して,身近な仲間が支援

・援助する活動」 (森川,2004)などが「ピア4 )

・カウンセラー(サポーター)養成型」に分類さ

れる。

「ピア・カウンセラー(サポーター)養成型」

のピアサポートを学校内で実践するためには,ま

ず中心となって活動を推進する複数の指導者,教

職員の共通理解や協力等,学校内の支援体制が不

可欠である。その上で,子どもたちには相談(ピ

アカウンセリング)を提供できるサポーター養成

のためのトレーニングとスクールカウンセラー等

によるスーパービジョンが必要となる。

しかし,小学生の発達段階を考えると,児童が

児童の相談に応じることは現実には難しい。また,

小学校現場においてはスクールカウンセラー等の

スーパーバイザーの確保も十分でない。したがっ

て,小学校では,低学年においても高学年におい

ても「コミュニティ育成型」のピアサポートを実

践することが適していると考える。

そこで,本研究では,トレーニングを受けた子

どもたちの成長や子どもたち同士が互いに思いや

り,支え合うことができるような集団づくりを目

指す「コミュニティ育成型」のピアサポートプロ

グラムを作成することとする。

(2) 小学校低学年の実態と心理的発達の特徴

小学校低学年を対象としたピアサポートプログ

ラムを作成するためには,その心理的発達段階の

特徴を理解するとともに,小学校低学年の援助行

動(思いやり行動)の特徴について把握しておく

ことが必要である。

① 心理的発達段階の特徴

小学校低学年の時期は,発達段階では「幼児

期」から「児童期」への移行の時期に当たる。

「学校での規則的な生活や友人関係などを通して,

周囲が自分の思い通りにいかないことを知り,し

だいに自己中心性が減少していく時期」 (文部5 )

省,1999)であり,具体的な事物・事象について

は論理的思考が徐々に可能になってくる。非具体

的な事物・対象について,論理的思考を行い,よ

り高次な思考が可能になるのは,小学校高学年か

ら中学生の時期になってからである。

また,小学校低学年の時期に 「他人の立場を,6 )認めたり,理解したりする能力も徐々に発達」

(文部省,1999)し 「善悪の判断や具体的な行,

為については,教師や保護者の影響を受ける部分

が大きいものの,行ってよいことと悪いことにつ

いての理解ができるようになる」 (文部省,197 )

99)と言われている。

② 援助行動(思いやり行動)の特徴

小学校低学年の児童が,泣いている友達に「ど

うしたの」と声を掛けたり,忘れ物をして困って

いる友達に自分の物を見せたり貸したりすること

は,日常的に見られる行動である。

このような行動は「他者が具体的に,または心

理的に幸せになることを願い,ある程度の自己犠

牲(出費)を覚悟し,人から指示,命令されたか

らではなく,自ら進んで(自由意志から ,意図)

的に他者に恩恵を与える行動」 (高木,1998)8 )

であり,援助行動又は,思いやり行動と呼ばれて

いる。

援助行動は,精神分析学理論では,5,6歳ご

ろの親との同一視の過程で発達すると考えられ,

認知発達理論では,具体的操作期が始まる5~7

歳ごろには出現するとされている。そして,援助

行動は役割取得能力や共感性を育成することによ

って導くことができると言われている(渡辺,19

96 。)

役割取得能力とは,相手の気持ちを推測し,理

解する能力のことである。小学校低学年の児童の

役割取得能力の発達は 「主観的役割取得」の段,

階(6~7歳)が中心で,自分と他者の視点を区

別して理解するようになるが 「笑っていれば楽,

Page 7: 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

- 4 -

しい,泣いていれば悲しい」といった表面的な理

解で終わりやすい。

共感性とは「他者の感情あるいは他者の置かれ

ている状況を認知して,それと一致はしないまで

も同じ方向の感情を共有すること」 (伊藤・平9 )

林,1997)である。小学校低学年の児童の共感性

は,役割取得能力が発達するにつれて発達し,他

者の感情は自分自身の感情とは異なり,その人自

身の要求や解釈に基づいていることに気付いてい

く。ただし,小学校低学年の児童が共感できるの

は,自分が経験したことがあり,相手の心情が直

接表出されている場面であると言われている(首

藤,2003 。)

以上のように,小学校低学年の児童は役割取得

能力や共感性が発達途上であり,小学校高学年の

児童に比べ,相手の立場を認めたり理解したりす

る能力が十分ではない。したがって,小学校低学

年の児童に高学年の児童と同じ援助活動は望めな

い。小学校低学年の児童が他の児童を援助できる

のは,自分が援助されたことのある場面や相手が

困っていることがよく分かる場面などである。ま

た,相手が困っていることに気付いても,どう援

助すればよいのか分からない場合も考えられる。

2 本研究におけるピアサポートプログラム

ピアサポートプログラムについては,ねらいに

応じた柔軟なプログラム編成を行う必要があり

(中野ほか,2002 「指導者の数だけプログラム),

が存在する」 (菱田,2002)と言われている。10)

ねらいに応じた様々なプログラムやトレーニング

内容の工夫が求められていることがうかがえる。

本節では,本研究におけるピアサポートプログ

ラムについて,そのねらい,構成,内容の三点か

ら述べる。

(1) ねらい

ピアサポートとは,他者を支援するためのスキ

ルをトレーニングし,サポート活動を行う取り組

みである。

本研究の対象である小学校低学年の児童は,前

節で述べたように高学年の児童と比べて相手の立

場を認めたり理解したりすることが十分ではない。

したがって,相手の立場を認め理解しやすくする

ために,低学年の児童が日ごろからかかわってい

る同じ学級の仲間を対象とし,サポート活動を通

して,互いに思いやることのできる人間関係づく

りを行うことが適していると考える。さらに,支

援を必要としている友達の気持ちやその場にふさ

わしい言葉を掛けたり話を聞いたりするなどの具

体的な支援のスキルをトレーニングする必要があ

ると考える。

このような考えから,本研究におけるピアサポ

ートプログラムのねらいを「他者を支援するため

の基本的な社会的スキルを習得する 「互いに思」

いやることのできる人間関係をつくる」の二点と

する。そして,学級を単位とし,学級すべての児

童に他者を支援するための基本的な社会的スキル

をトレーニングすることとする。

そして,本研究では,小学校低学年の児童を対

象とした社会性発達プログラム(C.A.キング

・D.S.キルシェンバウム,1996)と後藤ら

(2000)の研究,指導者と筆者の話し合いを基に,

「他者を支援するための基本的な社会的スキル」

の下位スキルとして次の三つのスキルを設定する。

相手の感情を理解するための「感情を分かち合う

(共感 」スキル,感情を理解したことを相手に)

適切に伝える「あたたかい言葉かけ」スキル,相

手に好意的に応答するために必要であり,すべて

のスキルにおける基礎的なスキルの一つである

「積極的な聞き方」スキルである。

なお,これら下位スキルの目標は,前述の社会

, ,性発達プログラムの中で 「援助行動,共有行動

協調行動の頻度を増加させる」とされており,他

者を支援する基本的な社会的スキルとしてふさわ

しいと考える。

(2) 構成

吉田(2002 ,三枝(2004)は,スキルトレー)

ニング終了後に個人プランニングを取り入れ,ピ

アサポートプログラムを「スキルトレーニング」

「個人プランニング 「サポート活動」の三次計」

画で実践している。

「個人プランニング」を第二次に位置付けたの

は,サポート活動の前に,児童が自分の目標を立

てることにより,仲間支援への意欲を持ちやすく

なるからである。

小学校低学年の児童は 「家庭や学級集団にお,

いて,いろいろな役割を期待されたり,行ったり

することによって集団の一員としての意識をもっ

てかかわりを深めていく」 (文部省,1999)と11)

Page 8: 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

- 5 -

されている。したがって,小学校低学年において

も,個人プランニングを取り入れることは可能で,

それによって仲間を支援するという役割を自覚し

たり仲間支援への意欲を持ったりすることにつな

がると考える。

ところで,児童がスキルを習得するためには,

スキルトレーニングの前に児童が「何のためにス

キルを学習するのか 「どんなスキルが身に付く」

のか」などの目的意識を持つことが重要である。

児童に丁寧なオリエンテーションをすることや,

目標を把握して学習に臨ませることにより,児童

がスキルトレーニングを受ける必然性や目標が明

確になり,後の般化へ大きくつながる(門原,20

02 。)

そこで,本研究では,スキルトレーニングの前

にピアサポート並びにスキル学習への動機付けの

ための時間を設定し,ピアサポートについて共通

理解したりピアサポートプログラムの目標につい

て話し合ったりすることにより,ピアサポート並

びにスキル学習への意欲を高める。

以上のことから,本研究では,ピアサポートプ

ログラムを「第一次:動機付け 「第二次:スキ」

ルトレーニング 「第三次:個人プランニング」」

「第四次:サポート活動」の四次計画で実践する

こととする。

(3) 内容

① 第一次:動機付け

ピアサポートへの意欲やプログラムへの見通し

を持つことを目標とする。

スキルトレーニングの基盤として,指導者と児

童,児童同士の人間関係がある程度成立している

ことが必要である。そこで,学級の実態によって

はスキルトレーニングに入る前に,人間関係づく

りのためのゲームを行うこととする。

その上で,低学年の心理的発達段階を考慮し,

「ピアサポート」という言葉は用いず,より具体

的で分かりやすい「優しさいっぱい大作戦」とい

う言葉を用いて,児童にピアサポートとその必要

性について説明する。

次に,指導者にとっては児童のスキルの習得や

児童同士の関係がよくなることがねらいであるが,

児童のスキル習得への意欲を高めるために,児童

にとっては「優しさいっぱい」の学級にするため

に他者を支援するためのスキルを身に付けること

が必要であるという意識が持てるようにする。例

えば 「困っているときにしてもらってうれしか,

ったこと」など児童自身の生活体験を基に話し合

うことで「友達に優しくするためにどんなことが

できればよいか」と他者を支援するために必要な

スキルを具体的に考えることができるようにする。

さらに,目当てを音読したり学習するスキルと

その順序などを記した図を掲示したりすることに

より,プログラムへの見通しが持てるようにする。

これらにより,低学年児童がピアサポートの必

要性やスキルトレーニングへの目的意識が明確に

なり,ピアサポートへの動機付けができると考え

る。

② 第二次:スキルトレーニング

他者を支援するための基本的な社会的スキルの

習得を目標とする。

ア スキルの配列

「他者を支援するための基本的な社会的スキ

ル」をその難易度に応じ 「積極的な聞き方 「あ, 」

たたかい言葉かけ 「感情を分かち合う(共感 」」 )

という順序で配列する。

イ スキルの習得

スキルトレーニングは,一般に「インストラク

ション 「モデリング 「リハーサル 「フィード」 」 」

」 。バック 「定着化」という流れで構成されている

本研究では小学校低学年の児童を対象としてい

るので,楽しい雰囲気の中でスキルトレーニング

を行い,児童にスキルトレーニングへの興味・関

心を持たせることやスキル習得への意欲を高める

ことが必要であると考える。

そこで,児童の緊張をほぐしたり雰囲気づくり

をしたりすることをねらいとする「ウォーミング

アップ」を最初に行い 「ウォーミングアップ」,

「インストラクション 「モデリング 「リハーサ」 」

ル 「フィードバック 「定着化」という流れでス」 」

キルトレーニングを行う。

また,スキルを習得するためには,スキルの価

値やポイントを理解すること,繰り返し練習する

こと,日常生活の中でスキルを活用することが必

要である。

そのために,前述のウォーミングアップから定

着化において,次のような工夫を行う。その際,

言葉による説明はできるだけ簡単にしたり,具体

物や児童の日常生活に関連した場面を取り上げた

Page 9: 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

- 6 -

りすることとする。スキルトレーニングの流れと

そのねらいと工夫を表1に示す。

まず,ウォーミングアップでは,子どもたち同

士がかかわることのできるゲームを繰り返し行い,

緊張をほぐしたり雰囲気づくりをしたりする。

次に,インストラクションでは,パペットを用

いた指導者のロールプレイングにより,問題とな

る具体的な場面を提示し,低学年児童にもスキル

の価値を理解しやすくする。

モデリングでは,指導者同士のロールプレイン

グにより,不適切な例・適切な例の順でモデルを

提示し,具体的なスキルのポイントに気付きやす

くする。

リハーサルでは,児童と指導者,児童同士のロ

ールプレイングの時間を確保し,繰り返しスキル

の練習ができるよう配慮する。

フィードバックでは,肯定的な面に焦点を当て

て振り返りを行い,スキル習得への意欲付けをす

る。

さらに,定着化では,授業時間において学習し

たスキルを日常生活で活用できる場面を紹介する。

低学年児童は,スキルを使う場面が分かりにくか

ったり自分がそのスキルを使っていても気付きに

くかったりするからである。また,学習したスキ

ルが日常場面で活用されるよう意欲付けをするた

めに,ワークシートを児童に配付し,一定の目標

を達成したらシールをはることとする。

最後に,スキル学習後,その習得のための練習

期間を1週間設定する。スキルを練習し,実行で

きる活動を朝の会や帰りの会に意図的に設定する。

また,スキルが活用できている児童を賞賛したり,

学級として一定の目標を達成したらシールをはっ

たりすることとする。

③ 第三次:個人プランニング

どんなサポート活動をするかを計画することを

目標とする。小学校低学年の児童であるので,学

習したスキルを使って「友達に優しくするために

できること」を考えたり 「困っているときにし,

てもらってうれしかったこと」を思い出したりす

ることにより,どんなときにどんなことができる

か具体的な例を挙げることができるようにする。

そして児童が自分にできる,又はしてみたいサポ

表1 スキルトレーニングの流れと工夫流 れ ね ら い(○) と 工 夫 (◎)

○心と体をほぐすとともに雰囲気づくりをする。ウォーミングアップ◎ゲーム的要素の強い活動を繰り返し行う。

○教えようとするスキルの重要性(なぜそのスキルが必要なのか,そのスキルがないとどんな問題が起インストラクション(言語的教示) きるのか,そのスキルを身に付けるとどんなよいことがあるのかなど)に気付く。

◎パペットを用いたロールプレイングにより具体的な場面を提示する。○スキルのモデルを示し,児童が観察したり話し合ったりすることにより,そのスキルのポイントを理モデリング

解できるようにする。◎指導者(T1・T2)同士のロールプレイングを行う。

◎不適切な例・適切な例の順序でロールプレイングを行う。◎絵やカードでスキルのポイントを提示する。

◎話し合いでは,ロールプレイングに参加した児童だけでなく,ロールプレイングを観察していた児童にも感想を聞く。

○ロールプレイングにより適切なスキルを練習することができるようにする。リハーサル◎指導者と児童全員,児童二人組によるロールプレイングを行う。

◎児童が経験したことのある具体的な場面を設定する。

◎ロールプレイングがうまくいくように,話す内容等をあらかじめ決めたりワークシートにまとめたりしておくようにする。

◎グルーピングに配慮する。○肯定的なフィードバックにより,児童がスキルを実行してみようとする意欲を高める。フィードバック

◎頑張ったこと等肯定的な側面を視点として振り返りを行う。◎なぜそう思ったのかできるだけ具体的に言えるよう配慮する。

○学習したスキルが日常場面で実践されるよう意欲を高める。定着化○学習したスキルを日常生活の中で実行できるようにする。

◎学習したスキルが日常生活で実行できる場面を紹介する。◎朝・帰りの会などで学習したスキルを実行する場面を設定する。

◎個人用のワークシートを用意し,一定の目標を達成したらシールをはるようにする。◎学級用のワークシートを用意し,学級として一定の目標を達成したらシールをはるようにする。

Page 10: 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

- 7 -

ート活動を決め,計画することができるようにす

る。

④ 第四次:サポート活動

個人プランニングを基にサポート活動を行うこ

とを目標とする。

トレーニング後,サポート活動の期間を1週間

設定し 「優しさいっぱい週間」という言葉を用,

いる。困っている友達に優しい言葉を掛けたり話

を聞いたりするなどのサポート活動は,同じ学級

の仲間とのかかわりの中で行うこととする。

また,サポート活動に意欲的に取り組むために,

自分が行ったサポート活動をワークシートに記録

していくようにする。

①~④を踏まえ,ピアサポートプログラムを試

作した(表2 。本研究では実践時期が1学期で)

あったため,対象学年を学校に慣れている2年生

とした。また,研究協力委員の所属校であるA・

B両小学校の実態や教育課程が既に決定している

ことにも配慮し,学級活動の時間に実践を行った。

3 分析方法

(1) プログラムの有効性について

本研究のプログラムのねらいである「他者を支

援するための基本的な社会的スキルを習得する」

こと 「互いに思いやることのできる人間関係を,

つくる」ことがどの程度達成されたかによって,

プログラムの有効性を検討することとする。

プログラムの有効性については,評価の客観性

を高めるために,指導者等による他者評価が必要

であること(三枝,2004)が課題として挙げられ

ている。そこで本研究では,児童による自己評価

に加えて,他者評価として指導者による評価を取

り入れることとする。

まず,児童による自己評価としては,振り返り

カードの「ピアサポートの評価(優しさいっぱい

のクラスになったと思いますか 」についての四)

段階評定と自由記述を用いる。これらは,サポー

ト活動終了後に,児童が評定,記述するものであ

る。プログラムのねらいである「互いに思いやる

表2 ピアサポートプログラム (全5時間)計 画 目 標 内 容

第一次 ○ 学級 を 「優 しさいっぱい 」に す る た め の作 戦 を考 え 「 優しさいっぱい大作戦』に 挑戦『

動機付け ることにより,ピアサポート へ の 意欲 やプ ロ グ ラ ム しよう」への見通しを持つ。 ○ ピアサポート ( 優しさいっぱい「

大作戦 )への 動機付 けと雰囲気」づくり

第二次 ○ 他者 を 支援 す る た め の基礎的 な 社会的 スキルを習 得 ○ 仲 間 を 支 援 す る た め の 基 本 的 なスキルトレーニング する。 社会的スキルの習得

第1時 ○ 話を 聞 くことの大 切 さを 理解 し , 話を 聞い て も ら う 「 上 手 に 聞 く こ つ を ゲ ッ ト し よ「積極的な聞き方」 心地よさを体験する。 う」

○積極的に聞くことができる。 ○ 「 積 極 的 な 聞 き 方」 ス キ ル の 習得

朝又は帰りの会 「積極的な聞き方」スキルの定着を図る。 ・二人組での聞き方練習な ど第2時 ○ 温か い 言葉掛けが 相 手を 元気 にすることに 気 付く 。 「 温 か い 言 葉 を 掛 け る こ つ を ゲ ッ

「あ た た か い言 葉 か 逆に , 冷た い 言葉掛けが 相手 を 嫌 な気 持ち に さ せ る トしよう」

け」 ことに気付く。 ○ 「 あ た た か い 言 葉か け 」 ス キ ル○友達に温かいメッセージを送ることができる。 の習得

朝又は帰りの会 「あたたかい言葉かけ」スキルの定着を図る。 ・ いいところさがし」など「第3時 ○ 相手 の 感情 を 知る 表 情の 読み 取 り 方, 声や 身 振り へ 「 気 持 ち が 分 か る こ つ を ゲ ッ ト し

「感 情 を分 かち 合 う の注目の仕方などを身に付ける。 よう」(共感 」 ○共感したことを言葉で表現することができる。 ○ 「感情 を分か ち合う (共感 」ス) )

キルの習得朝又は帰りの会 ○「感情を分かち合う(共感 」スキルの定着を図る。 ・表情カード等での練習な ど)

第三次 ○どんなサポート活動をするか計画する。 「個人プランニング」をしよう個人プランニング ○サポート活動の計画をする。

・ ど ん な こ と が で き る か 計 画 する。

第四次 ○ 個人 プランニング を 基に ,サ ポ ー ト活 動を 行 う。 「 優 し さ い っ ぱ い 週間 に チ ャ レ ンサポート活 動( 課 外 ジしよう」

プログラム 終了後1 ○ サポート活動 ( 優しさいっぱい「

週間) 週間 )を行う。」・朝・帰りの会での報告

Page 11: 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

- 8 -

ことのできる人間関係をつくる」ことができれば,

前述の項目は肯定的評価になると考える。

次に,教師による評価としては,授業記録と

「小学生用社会的スキル尺度(嶋田ら,1996 」)

を用いる。この尺度は,向社会的スキル7項目,

引っ込み思案行動4項目,攻撃行動4項目の3因

子合計15項目から構成されている(表3 。これ)

らの項目について,四段階評定法で回答し,児童

の社会的スキルの獲得の程度を測定するものであ

る。向社会的スキルは,得点が高いほど向社会的

スキルに優れていることを表している。引っ込み

思案行動と攻撃行動は,得点が高いほどこれらの

行動を多く示していることを表している。

本研究では,実践1週間前,実践1週間後に指

導者が児童一人一人を評定することとする。そし

て,実践前後の学級の3因子それぞれの平均値の

変化により,プログラムの有効性を検討する。

なお本研究では,向社会的スキル7項目のうち,

」 ,「こまっている友だちを,たすける 「友だちに

しんせつにする 「あいての気もちを,かんがえ」

て話す 「ひきうけたら,さいごまでやる」の4」

項目は「他者を支援するための基本的な社会的ス

キル」の下位スキルである「感情を分かち合う

) ,(共感 」スキルに相当するととらえる。同様に

「友だちがしっぱいしたら,はげます 「友だち」

のいけんに反対するときに,わけをいう」の2項

目は「あたたかい言葉かけ」スキルに 「友だち,

のたのみをきく」の1項目は「積極的な聞き方」

スキルに相当するととらえる(表3 。)

そして,実践前後の学級の下位スキルそれぞれ

の平均値の変化により,プログラムの有効性を検

討する。プログラムの有効性を検討する際の仮説

は次のとおりである。プログラムのねらいである

「他者を支援するための基本的な社会的スキルを

習得する」ことができれば,学級の向社会的スキ

ル並びにこれらの下位スキルの平均値が増加し,

「互いに思いやることのできる人間関係をつく

る」ことができれば,学級の引っ込み思案行動,

攻撃行動の平均値が減少すると考える(図 。)

図 仮説

(2) プログラムの構成と内容について

児童に毎時間記入させた振り返りカードにおけ

る「学習の楽しさ 「スキルの理解 「スキル習得」 」

への意欲」等についての四段階評定と自由記述,

「個人プランニング」及び「優しさいっぱい週

間」で用いたワークシートの自由記述,指導者に

ねらいの達成 3因子と下位スキルの変化

減少

減少引っ込み思案行動の得点

攻撃行動の得点

他者をサポートするための基本的な社会的スキルを習得する

互いに思いやることのできる人間関係をつくる

向社会的スキルの得点

下位スキルの得点

「感情を分かち合う(共感)」

「あたたかい言葉かけ」

「積極的な聞き方」

増加

増加

増加

増加

表3 「小学生用社会的スキル尺度(嶋田ら,1996 」と下位尺度)因子名 質問項目 下位スキル

向社会的スキル こまっている友だちを,たすける 「感情を分かち合う友だちに,しんせつにする (共感 」)あいての気もちを,かんがえて話すひきうけたら,さいごまでやる友だちがしっぱいしたら,はげます 「あたたかい言葉か友だちのいけんに反対するときに,わけをいう け」友だちのたのみをきく 「積極的な聞き方」

引っ込み思案行動 友だちとはなれて,ひとりだけであそぶ友だちのあそびを,じっとみているあそんでいる友だちの中に,はいれない休みじかんに,友だちと,よくしゃべる(※反転項目)

攻撃行動 なんでも,友だちのせいにする友だちに,けんかをしかける友だちに,らんぼうな話しかたをする自分のしてほしいことを,むりやりやらせる

Page 12: 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

- 9 -

よる授業記録を基に,プログラムの構成と内容に

ついて検討する。

(3) 指導の在り方について

児童に毎時間記入させた振り返りカードにおけ

る「学習の楽しさ 「スキルの理解 「スキル習得」 」

への意欲」等についての四段階評定と自由記述,

「個人プランニング」及び「優しさいっぱい週

間」で用いたワークシートの自由記述,指導者に

よる授業記録を基に,指導の在り方について検討

する。

4 授業実践

(1) 実践1(A小学校)

① 学級の実態

本学級は,男子15名,女子18名,計33名である。

休み時間は友達と過ごしている児童が多いが,一

人で読書などをしている児童もいる。

自己表現の苦手な児童がいるので,グループ活

動の機会を多く設けるようにしている。女子の中

には,友達をめぐるトラブルを起こしやすいグル

ープがあるので,相手の気持ちを考えることやだ

れとでも仲良くすることなどを指導している。

② 授業実践

ア 第一次 【動機付け 「 優しさいっぱい大作】『

戦』に挑戦しよう (6月16日)」

(ア) 指導上の配慮

「 優しさいっぱいのクラス』にするために,『

『優しさいっぱい大作戦』をする」ことを知らせ

た。そして,ピアサポートへの意欲を高めるため

に 「友達にしてもらってうれしかったこと・悲,

しかったこと」について話し合ったり,アンケー

ト結果を紹介したりすることにより,児童が「優

しさいっぱいのクラス」の具体的なイメージを持

つことができるようにした。また,児童が理解し

やすいように 「スキルを習得する」ことを「こ,

つをゲットする」という言葉で説明することとし

た。

児童の不安や緊張を取り除き,楽しい雰囲気を

つくるために,ウォーミングアップとして,あい

さつゲームを毎回行うこととした。

(イ) 児童の様子と指導者としての感想

児童は,あいさつゲームに楽しく取り組み,雰

囲気が和らいだ。

ピアサポートへの動機付けでは,まず 「友達,

にしてもらってうれしかったこと・悲しかったこ

と」について話し合った。そして 「優しさいっ,

ぱい」の学級にするには,何ができるようになれ

ばよいかと問い掛けると 「優しい言葉掛けをす,

ること 「 入れて』って言われたら,入れてあげ」『

ること 「相手の嫌がることを言わないこと 「困」 」

っていたら,助けてあげること」など,自分たち

の経験に基づいた考えが出てきた。

これら児童の意見を,指導者が「 上手に聞『

く』こつ 『温かい言葉を掛ける』こつ 『気持ち, ,

が分かる』こつ」という言葉でまとめた。そして,

「こつは練習することで,上手にできるようにな

る」ことを知らせた上で 「優しさいっぱい大作,

戦」の目当てを「この三つのこつをゲットして,

優しさいっぱいのクラスにしよう」とまとめ,ス

キルを学習する順序などを確認した。

その際,目当てを書いたカードを用意しておき,

児童に声を出して読ませた。児童の様子から,こ

れからの学習を確認したり,心を合わせて頑張ろ

うという雰囲気を盛り上げたりしていたことがう

かがえた。

イ 第二次第1時 【スキルトレーニング 「積極】

的な聞き方」スキル(6月18日)

(ア) 指導上の配慮

個別指導を充実するため,第二次はティーム・

ティーチングにより指導した。

スキルトレーニングへの見通しが持てるように,

「優しさいっぱい大作戦」の目当てや学習の流れ

をまとめた図を壁面に掲示し,今日は何をするの

かが分かるようにした。また 「優しさいっぱい,

大作戦」の目当てと,学習を進める上での二つの

約束「一生懸命する 「お友達のよいところを見」

付ける」を確認した。

インストラクションでは,パペットを用いたロ

ールプレイングにより 「積極的な聞き方」スキ,

ルのよさに気付くことができるようにした。

モデリングでは指導者同士のロールプレイング

により聞き方の三つのパターンを提示し,児童が

スキルのポイントに気付きやすいようにした。

(イ) 児童の様子と指導者としての感想

児童は,モデリングでの指導者同士のロールプ

レイングを大変喜んで観察し,うまくいかないと

思ったら「だめだめ」とつぶやく姿が見られた。

実際に観察することにより,よりよい聞き方を児

Page 13: 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

- 10 -

童自身が考えていくことができた。

児童同士でのロールプレイングによるリハーサ

ルでは,恥ずかしがる児童も見られたが 「読書,

をしている友達に話し掛けるが,友達はそのまま

やめないで聞く」という具体的で分かりやすい場

面を設定していたので,どの児童も取り組むこと

ができた。また,話し役・聞き役を交代すること

によって,どの聞き方がよい聞き方かを体験的に

理解することができていた。最後に,あるペアの

ロールプレイングを紹介し,まとめとした。上手

にでき,自然に拍手が沸き起こった。

「積極的な聞き方」スキルは,児童が日常的に

行っていることであり,スキルのポイントが具体

的であったので,児童は理解しやすく,積極的に

学習に取り組むことができた。

(ウ) スキルの定着

日常生活で「積極的な聞き方」スキルが使える

場面を紹介し,ワークシートを配付した。そして,

学習したスキルを使うことができたかどうかを帰

りの会で振り返り,その場面を記入するようにし

た。児童が上手に聞くことができたかどうかを自

分で判断することは難しいと思われたので,児童

が聞いてもらってうれしかったと思う人にそれを

伝えるという方法も合わせて行った。

また,朝の会での日直の話,指導者の話,授業

中の友達の発表などについて,折に触れて上手に

聞くことができている児童を賞賛した。

「積極的な聞き方」スキルは低学年児童に分か

りやすく,実行しやすいスキルであり,ワークシ

ートに進んで記入する児童の姿が見られた。

また,聞くという行為は,自己表現の苦手な児

童にも取り組みやすいことであり,日常生活でも

積極的にスキルを活用していた。

ウ 第二次第2時 【スキルトレーニング 「あた】

たかい言葉かけ」スキル(6月23日)

(ア) 指導上の配慮

学習の目当てと約束を確認した。スキル習得・

活用への意欲を高めるために,学級全体のワーク

シートを工夫した。前時を振り返り,一週間取り

組んできた「積極的な聞き方」スキルが習得でき

たかどうかクラスで考え 「ばっちり」だったら,

金色の星 「ふつう」だったら濃い黄色の星 「も, ,

う少し」だったら薄い黄色の星をはることとした。

ワークシートにより意欲的にスキルを活用する児

童が多く見られるようになり,この工夫はとても

効果的であった。

児童が相手を気持ちよくさせる「温かい言葉」

と相手を嫌な気持ちにさせる「冷たい言葉」があ

ることを理解できるようにするために,日ごろ児

童自身が言われて嫌な言葉やうれしい言葉を発表

し合い,日常生活と結び付けて考えることができ

るようにした。

(イ) 児童の様子と指導者としての感想

モデリングでは,指導者同士が行ったロールプ

レイングを,児童は一生懸命観察し,思ったこと

や考えたことを発表していた(写真1 。そして)

発表をまとめることにより 「あたたかい言葉か,

け」スキルのポイントを確認することができた。

写真1 指導者同士のロールプレイング

また,リハーサルでは,ロールプレイングをし

た児童がお互いに感想を述べ合う中で 「温かい,

言葉」は,言われた方だけでなく,言った方も気

持ちがよくなることを共通理解することができた。

児童がロールプレイングをしやすいように,ワ

ークシートを用意し,三つの仮説的な場面につい

て「温かい言葉」を「相手の様子 「気持ちの言」

葉」と二つに分けて書くようにした。しかし,児

童にとっては「相手の様子」を書くことが難しか

った。なぜなら,児童は例えば実際の生活場面で

転んだ友達を見たとき,瞬間的に「痛そうだ」

「血が出ている」などと把握してはいるが 「痛,

かったね 「大丈夫」と「気持ちの言葉」のみを」

掛けていることが多いからだと思われる。また,

ワークシートに記入する時間を確保したため,リ

ハーサルが短時間となってしまった。

そこで,ワークシートの場面を減らす,又は

「気持ちの言葉」だけ書くようにするなどの改善

Page 14: 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

- 11 -

が必要だと思われる。

(ウ) スキルの定着

「積極的な聞き方」スキルと同様,ワークシー

トを配付し,帰りの会で振り返る時間を設け,記

入させた。前回同様,言われてうれしかった児童

にそのことを伝えることを合わせて行った。また,

児童がスキルを活用できた場面を幾つか紹介した。

その結果,帰りの会で行っていた「よいこと見

付け」において 「温かい言葉」を友達に掛けた,

という発表が活発になってきた。

また,スキル学習後,児童が「こんな(嫌な)

こと言われた」と訴えてくることがあまりなくな

ったように思われた 「冷たい言葉」が理解でき。

て使わないようになっているのではないかと推測

する。指導者が気になる言葉を耳にしたとき,

「今の言葉は」と言うと,児童から「冷たい言

葉」と反応がある 「あたたかい言葉かけ」スキ。

ルの定着は 「冷たい言葉」を使わないというこ,

とを促進していると思われた。

エ 第二次第3時 【スキルトレーニング 「感情】

を分かち合う(共感 」スキル(6月30日))

(ア) 指導上の配慮

学習の目当てと約束を確認した。スキルトレー

ニングへの児童の意欲を高めるために,前時を振

り返り,一週間取り組んできた「あたたかい言葉

かけ」スキルが習得できたかどうか,クラスで考

え,シールをはった。

) ,本時の「感情を分かち合う(共感 」スキルは

これまでのスキルに比べ抽象的なものであるため,

児童の理解を助けるために 「喜 「怒 「哀 ,, 」, 」, 」

「楽」などの基本的な感情についての表情カード

と表情写真を用意した。また,表情カードは個人

に配付した。

(イ) 児童の様子と指導者としての感想

あいさつゲームは毎時間しているので定着し,

スムーズに心の勉強に入ることができた。

「あたたかい言葉かけ」スキルが習得できたか

どうか学級で振り返ったところ,学級としては

「たくさんの人が優しくなった」という児童から

の意見があり 「金色」のシールをはることとな,

った。シールをはることで,本時の学習への意欲

が高まったように感じた。

インストラクションでは 「共感」について,

「友達がうれしそうにしていると,自分もうれし

くなることがある」などの具体的な例を挙げなが

ら説明したが,日常生活ではあまり意識して行っ

ていないことなので,理解が難しいように思われ

た。

次に,怒った顔をした子どもの表情写真を提示

し,その子どもの気持ちについて話し合った。指

導者は当然「怒っている」と答えるであろうと思

っていたが 「何か悩んでいる 「面白い顔をして, 」

いる 「変な顔をしている」などの児童の発言が」

あった。表情から感情を読み取ることが難しい児

童もいるのだと感じた。

モデリングでは,表情写真を用いて児童が気持

ちが分かるためのポイントを考えるようにし,相

手の表情などを見たり,話を聞いたりすることが

必要であるとまとめた。そして 「感情を分かち,

合う(共感 」スキルのポイントとして 「相手を) ,

よく見る(表情,言い方,していることなど 」)

「気持ちを考える 「 気持ちの言葉』を伝える」」『

というカードを提示した。具体物を見ながら考え,

カードを用いてまとめたので,児童はスキルのポ

イントを理解しやすかったようだ。

リハーサルでは 「喜 「怒 「哀 「楽」な, 」, 」, 」,

どの基本的な感情について,二人組で相手の気持

ちを考え,伝える練習をした。指導者同士のロー

ルプレイングでやり方を説明したので,スムーズ

に取り組めた(写真2 。)

写真2 リハーサル

本時の目当ては 「相手の感情を理解するため,

の表情の読み取り方,声や身振りへの注目の仕方

などを身に付ける 「共感したことを言葉で表現」

することができるようにする」ことであったが,

導入の際に表情を読み取ることが難しい児童がい

Page 15: 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

- 12 -

たため,一つ目のねらいを中心に進めた。二つ目

のねらいについては,日常生活の中で機会をとら

えて扱っていくこととした。

(ウ) スキルの定着

これまでと同様,ワークシートを配付し,帰り

の会で振り返る時間を設け,記入させた。しかし,

日常生活の中で,児童が「感情を分かち合う(共

感 」場面に気付くこと,また気付いていても気)

持ちを言葉で表現することは難しかった。

指導者が振り返る時間を取ったり,児童の生活

の様子を細かく観察したりして 「~さんは,こ,

んなことができていたね」と「感情を分かち合う

(共感 」ことについて,具体例を紹介すること)

ができたら児童のスキルについての理解や活用が

進んだのではないかと思われた。

オ 第三次 【個人プランニング (7月2日)】

(ア) 指導上の配慮

児童に「優しさいっぱい週間」にどんなことが

できるか問い掛け,具体的な場面や支援の仕方を

例示した。なかなか思い付かない児童には,個別

に話を聞くなどして,計画できるようにした。

(イ) 児童の様子と指導者としての感想

「優しさいっぱい大作戦」のためにスキルトレ

ーニングをするという流れで学習してきたので,

比較的スムーズに「個人プランニング」に取り組

んでいた。

そして 「困っている人がいたら 『どうしたの,, ,

嫌なことでもあったの』と言う 「本を忘れた人」

に『貸してあげようか』と言う 「さみしそうな」

人がいたら 『どうしたの』と声を掛ける 「鉄棒, 」

ができた人に『できてよかったね』と言う」など,

これまで学習したスキルや,体験した援助行動な

どを取り入れて,自分なりのプランを立てていた。

カ 第四次 【サポート活動 「優しさいっぱい週】

間 (7月9日~7月16日)」

(ア) 指導上の配慮

児童が継続してサポート活動を行うことができ

るように,帰りの会の際に,一日を振り返ってそ

の日行ったサポート活動をワークシートに記入す

ることとした。

また指導者も,意欲的にサポート活動を行って

いる児童を紹介したりサポート活動が十分できて

いない児童に声を掛けたりすることとした。

(イ) 児童の様子と指導者としての感想

児童は,帰りの会で一日を振り返って,自分の

サポート活動を「優しさいっぱい週間」のワーク

シートに記入した。

児童のサポート活動の内容は 「プールで服が,

くっついて脱げない時に,服を引っ張ったり絞っ

たりした 「○○さんが泣いていたので 『大丈」 ,

夫』って言った」などであった。

また,具体的な行動の記述ではないが 「みん,

なが仲よく遊ぶことができてうれしかった 「み」

んな優しくなった」などとという発言も聞かれた。

友達同士のかかわりが優しくなっていることがう

かがえた。

③ 授業の成果と今後の課題

ア 成果

(ア) 「互いに思いやることのできる人間関係をつく

る」ことについて

本学級には,友達に嫌なことをされてもなかな

か嫌だと自己表現できなかったA児,友達と遊び

たいのに自分からは友達にかかわることができに

くいB児がいた。

本実践を通して,A児は,嫌だと思ったことを

担任に言うようになり,徐々にではあるが,言い

たい相手の前でも自分で自分の気持ちを言うこと

ができるようになった。また,友達の遊びになか

なか入ることができなかったB児は 「みんなに,

『入れて』と言えるようになりました」とサポー

ト活動後の振り返りカードに記入するなど,友達

とのかかわりが積極的になってきたように思われ

る。

学級の中では「温かい言葉」が増え 「冷たい,

言葉」が少なくなってきた。また,着衣水泳後の

着替えの際にも,7,8人の児童がお互いに助け

合いながら着替えをしている姿などが見られた。

以上のことから,本実践により,お互いに助け

合おうとする学級の雰囲気ができてきたのではな

いかと思われる。

(イ) 「他者を支援するための基本的な社会的スキル

を習得する」ことについて

「優しさいっぱいの学級にしよう」という動機

付けをしたこと 「優しさいっぱい週間」という,

スキルを実行する期間を設けたことで,低学年の

児童なりに「なぜスキルを学習するのか」という

ことを理解し,意欲的にスキルトレーニングに取

り組んでいた。

Page 16: 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

- 13 -

「積極的な聞き方」スキルについては,他の授

業場面でも,友達の方を向いて発表を聞くことが

できるようになるなど,スキルの定着がうかがえ

る。また 「あたたかい言葉かけ」スキルについ,

ても,日常生活において「温かい言葉」が増え,

「冷たい言葉」が減ってきたことからスキルの定

着がうかがえる。

(ウ) 指導の在り方について

モデリングでの指導者同士のロールプレイング

を児童は興味・関心を持って観察していた。この

ことが,スキルの理解を深め,スキル習得への意

欲にもつながったと思われる。

また,個人用・学級用のワークシートを用意し

たことで,児童は積極的にスキルを実行しようと

していた。低学年の児童にとって,このような工

夫は,スキル習得への意欲の向上につながると思

われる。

さらに,表情カードや表情写真など,実際に視

覚に訴えるものが,低学年の児童の理解を助け,

効果的であることを実感した。

イ 課題

スキルトレーニングの「積極的な聞き方」スキ

ル 「あたたかい言葉かけ」スキルは,児童にと,

って理解しやすいスキルであったと思う。しかし,

「感情を分かち合う(共感 」スキルは,児童に)

とって「表情を読み取り,相手の感情を理解す

る」ことはできても 「共感したことを言葉で表,

現する」ことは難しかった。

中には表情を読み取り,相手の感情を理解する

ことが難しい児童も見られ,個人差があった。よ

って,2年生の1学期の実践であれば 「表情を,

読み取り,相手の感情を理解する」ことのみの学

習でもよいのではないかと考えられる。そして,

2学期か,3学期に「共感したことを言葉で表現

する」ことについて学習する,又は「表情を読み

取り,相手の感情を理解する」ことに1時間,

「共感したことを言葉で表現する」ことに1時間

の計2時間で学習するなどの工夫が必要であると

考える。

また 「感情を分かち合う(共感 」スキルの定, )

着については,日常生活の中で児童が意識してス

キルを使いにくいので難しかった。指導者がスキ

ルを活用できる時間や場面を意図的に設定する必

要があると思われる。

(2) 実践2(B小学校)

① 学級の実態

本学級は,男子13名,女子17名,計30名である。

明るく活発な児童が多く,児童同士で遊んでいる

姿も多く見られる。しかし,感情のままに発した

言葉や態度が原因でトラブルを起こしたり,自分

の気持ちを素直に表現できずつらい思いをしたり

しがちな児童もいる。なお,指導者は本校で教育

相談係を担当しており,学級担任ではない。

② 授業実践

ア 第一次 【動機付け 「 優しさいっぱい大作】『

戦』に挑戦しよう (6月16日)」

(ア) 指導上の配慮

本学級の児童がピアサポート等,心理教育の手

法に慣れていないこと,指導者が学級担任でない

ことを踏まえ,児童が抵抗なくプログラムに取り

組んだり指導者との人間関係をつくったりするた

めに,プログラムを実践する前の課外に人間関係

づくりのためのゲームを行った。

授業では,ウォーミングアップや活動の説明を

丁寧に行い,活動への意欲を高めるように配慮し

た。そして,事前のアンケート調査から,友達と

のかかわりの中でつらい思いをしている友達やか

かわりたいのに自分からかかわることのできない

友達がいることを紹介し 「優しさいっぱいのク,

ラスにするために『心の勉強』が役に立つ」こと

を伝えた。

ウォーミングアップでは,あいさつゲームを行

うことで,児童が互いにかかわろうとする意欲を

高めたり 「心の勉強」へのスムーズな導入を行,

ったりすることを目指した(写真3 。)

写真3 ウォーミングアップ

ピアサポートへの動機付けとして,事前アンケ

Page 17: 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

- 14 -

ートの内容を紹介しながら友達にしてもらってう

れしかったことや悲しかったことを振り返り,児

童が「優しさいっぱい」のクラスについて,具体

的なイメージを持つことができるようにした。

また,スキル習得への意欲を高めるために,児

童の発言を通して 「優しさいっぱい」のクラス,

にするために必要なスキルをまとめるように配慮

した。さらに,児童が学習への見通しを持つこと

ができるように,児童の言葉からまとめた「上手

に聞く 「温かい言葉を掛ける 「気持ちが分か」 」

る」の「三つのこつ」や,学習の流れをまとめた

図を常時掲示することとした。さらに,活動への

意欲を高めるために,クラス全体のワークシート

を作成し,学級としてスキルを習得すると大きな

星型のシールをはることができるという手続きを

取った。

(イ) 児童の様子と指導者としての感想

本学級の児童は 「心の勉強」は初めての経験,

であったので,どの児童も意欲的に学習に参加し

ていた。学級担任ではない指導者が「心の勉強」

を行ったことに,新鮮さを感じた児童もいた。

「友達にしてもらってうれしかったこと・悲し

かったこと」に関しては,多くの児童が積極的に

発言していた。また,友達の発言を興味を持って

聞き 「優しさいっぱいのクラス」について「困,

っていたら助けてくれるクラス」などの具体的な

イメージを持とうとしていた。

活動後の感想でも「とても楽しかった 「優し」

さいっぱいにするこつがよく分かった 「心がぽ」

かぽかになった」等の肯定的な評価をしている記

述が多く見られた。

イ 第二次第1時 【スキルトレーニング 「積極】

的な聞き方」スキル(6月17日)

(ア) 指導上の配慮

第二次は指導者と学級担任とのティーム・ティ

ーチングにより指導した。ウォーミングアップと

してあいさつゲームを行うことにより 「心の勉,

強」へのスムーズな導入を行った。

インストラクションでは,パペットを用いるこ

) ,とで学習への興味付けを図った(写真4 。また

上手に聞くことを必要とする日常的な場面を設定

することにより,よい聞き方についての具体的な

イメージを持ちやすくした。

モデリングでは,指導者同士のロールプレイン

グを観察することで,児童が適切なモデルを把握

したり,上手に聞いてもらえたときの気持ちに共

感したりできるようにした。

リハーサルでは,児童の代表によるロールプレ

イングを紹介することにより,活動意欲を高める

ように配慮した。事前に「自己紹介カード」を作

っておくことにより,話すことが苦手な児童もス

ムーズにリハーサルに参加できるようにした。ま

た,指導者は学級担任とともに机間指導を行い,

個別に対応した。

写真4 インストラクション

(イ) 児童の様子と指導者としての感想

児童はパペットを用いた指導者のロールプレイ

ングにとても興味を持っていた 「先生の話をよ。

く聞いていなかったために大変なことになってし

まったかえる君」に共感し 「積極的な聞き方」,

スキルの大切さに気付き,そのポイントを自分た

ちで見付けることができていた。かえる君と一緒

に,自分たちも「積極的な聞き方」スキルをしっ

かり習得しようという思いを強く持って,学習に

取り組むことができていた。

リハーサルでは,事前に「自己紹介カード」を

作り話す内容を決めておいたことにより,初めて

のロールプレイングであったが,進んで活動する

姿が多く見られた。

しかし,二人組でのグループ活動であったため

グループ数が多く,活動の様子を詳細に見取り,

適切な支援を行うことが難しかった。3,4人組

でリハーサルを行い,観察者を置いて友達のよい

点を評価し合う活動を取り入れてもよかったかも

しれないと思った。

(ウ) スキルの定着

スキルの定着のための練習期間を1週間取った。

Page 18: 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

- 15 -

朝の会等で二人組で聞き方の練習を行った。また,

児童の意欲を高めるために,児童用のワークシー

トのほかに,学級全体のワークシートを作成した。

学級としてスキルを習得することができたかどう

か児童と相談し,習得できたら星型のシールをは

ることとした。このことにより,児童はスキルの

習得・活用に意欲的に取り組んだ。

ウ 第二次第2時 【スキルトレーニング 「あた】

たかい言葉かけ」スキル(6月23日)

(ア) 指導上の配慮

第1時と同様に,インストラクションにパペッ

トを用いることとした。

モデリングでは,モデルの提示を指導者同士の

ロールプレイングで行ったことにより,よいモデ

ルをとらえやすくした。

リハーサルでは,児童同士のロールプレイング

を行う前に 「掃除を一生懸命しているお友達」,

などの三つの場面を設定したワークシートに「相

手の様子 「温かい言葉」を記入させた。」

二人組でのロールプレイングでは,実際に動き

ながら活動しているグループを取り上げ,紹介す

ることにより,児童の活動意欲を高めるようにし

た。

(イ) 児童の様子と指導者としての感想

第1時と同様,導入にパペットを用いることは,

学習への動機付けに有効だった。泣いているパペ

ットを提示した際には 「かえる君頑張れ 「かわ, 」

いそう」などと言う声が聞かれ,学習に入り込ん

でいる児童の様子がうかがえた。

「温かい言葉 「冷たい言葉」については,学」

校生活の中で聞いたり,言われたりした体験を持

つ児童が多く,意欲的に発表する児童が多く見ら

れた。友達の発言を聞いて相づちを打っている児

童の姿も見られた。

絵入りのワークシートは課題場面をとらえやす

く,進んで活動したり,自分の考えを持ったりす

るのに有効だったと思われる。指導者が予想して

いた以上に,児童はロールプレイングを楽しそう

に行っていた。

しかし,ワークシートに「相手の様子」と「気

持ちの言葉」に分けて記入することが難しい児童

が見られた。日常の場面で,児童は相手の様子を

視覚的にとらえていても状況の説明をあえてする

ことはないように思われる。そこで 「あたたか,

い言葉をかける」スキルにおいては相手の状態に

応じた「気持ちの言葉」を考え,その言葉を掛け

ることができればよいのではないかと思われた。

(ウ) スキルの定着

学級の中で乱暴な言動が見られがちなC児が,

給食当番をしている時に転んでしまった友達に優

しく言葉を掛けていた。このことを指導者が,帰

りの会で紹介した。C児は「そんなことしたかな

あ」と言いながらも,具体的な場面と言葉を紹介

すると「そういえばそうだった」と照れくさそう

な,うれしそうな表情になった。これ以降,C児

はより一層「心の勉強」に意欲的に参加するよう

になった。また,C児に対する周りの友達の見方

も優しくなったように思われる。さらに,具体的

な言葉を紹介することができたことから,児童は

「簡単なことでもいいんだ」と安心感を持って

「温かい言葉」を掛ける気持ちになったようであ

る。

1週間の練習期間では「こつをゲットできた」

と感じた児童が少なかった。その要因として,日

常生活の中で 「温かい言葉」を掛ける場面を設,

定したり児童がその場面に気付いたりすることが

難しかったことが考えられた。児童がスキルを活

用する場面を意識できるようにするには,児童が

「温かい言葉」を掛けている場面をとらえ,指導

者がその都度フィードバックしたり 「温かい言,

葉」を言われてうれしかった体験を発表し合う活

動を取り入れたりすることが必要だと考えた。

そこで,練習期間を1週間伸ばし,スキルの定

着のための工夫として,指導者が可能な限り帰り

の会に参加し,一日の様子を振り返るようにした

り 「温かい言葉」を掛けていた児童を紹介した,

りした。

また,帰りの会において「いいところ探し(心

の木を育てる 」を行った。学級の仲間のよいと)

ころを見付け,見付けたことを葉型の紙に記入し,

木の幹にはって仲間への温かいメッセージとした。

この活動では,すべての児童がメッセージを送

ってもらえるように,まず隣同士で友達のよいと

ころを記入し,聞き合うことにした。どの児童も

友達のよさを見付けることができ,相互に温かい

メッセージを送ったり,受け取ったりすることが

できていた。この木は,常時教室に掲示しておき,

自由にメッセージを書いてはるようにした。何枚

Page 19: 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

- 16 -

もメッセージを書いて木の幹にはろうとする姿も

見られ,友達のよいところを見付けることに役立

ったと思われる。

エ 第二次第3時 【スキルトレーニング 「感情】

を分かち合う(共感 」スキル(6月30日))

(ア) 指導上の配慮

「感情を分かち合う(共感 」スキルについて)

は,これまで学習してきたスキルのように,児童

が日常生活で体験したことがあまりなく,児童が

理解することが難しいことが予想された。そこで,

表情写真や表情カードを用いて学習への興味付け

やスキルの理解を図ることとした。

インストラクションでは 「共感」について,

「友達が気持ちを分かってくれるとうれしい」な

どの具体的な例を挙げて説明したり,表情写真を

提示し気持ちを考えさせることにより,スキルの

理解を図った。

リハーサルでは 「喜 「怒 「哀 「楽」な, 」, 」, 」,

どについての表情カードを用意した。児童に提示

したり配付したりすることで,抵抗なく活動がで

きるように配慮した(写真5 。)

写真5 表情カードの提示

(イ) 児童の様子と指導者としての感想

児童は,表情写真や表情カードに興味を持ち,

表情写真のどの点から相手の気持ちが分かるかを

話し合ったり,表情カードや指導者の表情から気

持ちを当てたりする活動には意欲的に取り組んで

いた。

しかし他の時間に比べ 「こつが分からなかっ,

た」などの声も聞かれ,児童にとってスキルの理

解が難しかったことがうかがえた。

その理由として 「相手の感情を理解する」こ,

とはできるが,その気持ちに共感し,相手に「共

感したことを言葉で表現する」ことが難しかった

ことが考えられた。児童の日常生活でそのような

経験がほとんどないからである。

(ウ) スキルの定着

帰りの会で指導者の表情当てクイズを行い,表

情から気持ちを読み取る練習をした。

しかし,日常生活の中で「共感したことを言葉

で表現する」ことは難しかった。スキルの定着の

ためには,児童同士の表情当ての練習を継続して

行うこと,日常場面で「感情を分かち合う(共

感 」場面を教師が意識して設定したり,紹介し)

たりすることが必要だと思った。

オ 第三次 【個人プランニング (7月6日)】

(ア) 指導上の配慮

具体的に計画を立てることができるように,

「優しさいっぱい週間」にどんなことができるか

考えさせ,具体的な場面を例示することとした。

なかなか思い付かない児童には,個別に話を聞く

などした。

提出されたワークシートに,計画のよい点を評

価したりアドバイスを記入したりすることにより,

サポート活動への意欲を高めた。

(イ) 児童の様子と指導者としての感想

児童一人一人が自分なりの計画を立てていた。

しかし「個人プランニング」に対するイメージ

を持ちにくい児童がいたので 「ゲットしたこつ,

の中の一つだけ使ってもいいよ」と声を掛けたり,

具体的な場面を想起させてそのときにスキルのポ

イントを使えばよいことを知らせたりした。

カ 第四次 【サポート活動 「優しさいっぱい週】

間 (7月7日~7月13日)」

(ア) 指導上の配慮

「優しさいっぱい週間」では,学級担任との情

報交換を行うことにより,児童の活動状況を把握

するようにした。また,指導者が帰りの会で児童

への声掛けを行い,サポート活動の状況を確認し

たり,意欲付けを行ったりするようにした。

(イ) 児童の様子と指導者としての感想

今回の実践では指導者が学級担任ではなかった

ことから,時間的に継続指導をすることが難しく,

積極的に活動する児童と活動を継続できない児童

に分かれてしまった。

日常的な声掛けが不足すると児童の活動意欲が

低下しやすいことから,ワークシートへの記入を

Page 20: 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

- 17 -

帰りの会で行うなど,サポート活動を継続させる

ための工夫が必要であった。

また,学級担任がふだんの声掛けを行い,指導

者が帰りの会に参加して児童にサポート活動の振

り返りを促したり,意欲的に活動している児童を

紹介したりするなど,指導者と学級担任との連携

に関する話し合いも必要であった。

③ 授業の成果と今後の課題

ア 成果

(ア) プログラムの効果について

「優しさいっぱいのクラス」にするための具体

的なスキルをトレーニングしたので,児童は「他

者に優しく接するにはどのようにすればよいか」

ということを考えることができたと思う。学級の

トラブルが減ったというほどの成果は認められな

いが,学級担任からは 「友達への声掛けが優し,

くなった 「人の話を顔を見ながら聞こうとして」

いた」など肯定的な評価を得た。これらのことか

ら,学習したスキルが定着したり友達を見る目が

優しくなったりしていることがうかがえる。

(イ) 指導の在り方について

パペットを用いたインストラクションやモデリ

ングでの指導者同士のロールプレイングを児童は

興味・関心を持って観察していた。これらの工夫

が,スキルの理解を深め,スキル習得への興味付

け,動機付けにつながったと思われる。

また,児童のスキル習得・活用への意欲を高め

るために,クラス全体のワークシートを掲示する

ことは有効であった。児童は定着化の期間を過ご

した後,星型のシールをはることに大変意欲的で

あった。

イ 課題

(ア) プログラムの構成について

今回の実践ではスキルトレーニングを実施する

前に,ゲーム等により自己理解や他者理解を進め,

人間関係をつくるための活動を課外に実施した。

しかし,プログラム外の時間のみでは不十分であ

った。プログラムの中に,人間関係づくりの時間

を設定する必要があると考えられる。そうするこ

とで,児童の発言が更に増えたり,抵抗なくロー

ルプレイング等の活動ができると思われる。

次に,今回のプログラムは,事前・事後の調査

も含めると1か月に及ぶ長期間の活動であり,時

間の確保が難しかった。また,学級担任との打ち

合わせや役割分担などの連携が十分できなかった

面があった。そのため,個別のかかわりやスキル

習得のための日常的な声掛けや場面の設定などが

できにくいことがあった。

そこで,例えば,1学期にプログラムを実施す

るのであれば,4月から前述の人間関係づくりの

活動を行い,5月からスキルトレーニングを組み

込むなど,ゆとりのある計画が必要だと思われる。

(イ) スキルトレーニングについて

「感情を分かち合う(共感 」スキルは,低学)

年の児童には 「相手の感情を理解する」ことは,

できても「共感したことを言葉で表現する」こと

が難しかった。表情や仕草などから相手の感情を

読み取るという活動に特化して学習計画を立てて

もよかったのではないかと思われる。また 「感,

情を分かち合う(共感 」スキルは,定着化に向)

けての場面設定も難しかった。

最後に,スキルの定着のためには,ワークシー

トにおいても,児童の自己評価だけでなく,児童

の相互評価,教師による評価も組み込んでスキル

の定着を図っていく必要があると思われる。

5 結果と考察

(1) プログラムの有効性について

本研究のプログラムのねらいである「他者を支

援するための基本的な社会的スキルを習得する」

こと 「互いに思いやることのできる人間関係を,

つくる」ことがどの程度達成されたかによって,

プログラムの有効性を検討することとしていた。

ピアサポートプログラムの有効性について,振

り返りカードの「ピアサポートの評価」について

の四段階評定と自由記述(児童による自己評価 ,)

「小学生用社会的スキル尺度」の結果と授業記録

(指導者による他者評価)の結果から考察する。

① 結果

ア 振り返りカードの「ピアサポートの評価」につ

いての四段階評定と自由記述(児童による自己評

価)

振り返りカードの「ピアサポートの評価」につ

いての四段階評定のうち,1と2は否定的評価,

3と4は肯定的評価ととらえた。

その結果,ピアサポートに対して肯定的評価を

行ったのは,A小学校では33名中30名,B小学校

30名中24名であった。

Page 21: 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

- 18 -

自由記述には 「 優しさいっぱい大作戦』をし,『

たら,もっと優しいことがいっぱいできるように

なりました 「とっても優しいクラスになりまし」

た 「みんな仲よくできた」などの肯定的な記述」

が多く見られた。

A小学校ではこのような肯定的な記述をした児

童は33名中29名であり,否定的な記述をした児童

はいなかった。B小学校では肯定的な記述をした

児童は30名中12名であった 「あまり楽しくなか。

った」など否定的な記述をした児童は2名であっ

た。

イ 小学生用社会的スキル尺度と授業記録(指導者

による他者評価)

「小学生用社会的スキル尺度」の3因子ごとに

t検定を行った。表4はその結果である。

A小学校では,向社会的スキルが有意(t=-3.

52,p<.01)に増加し,引っ込み思案行動が有意

(t=4.50,p<.001)に減少した。攻撃行動につ

いては,有意な差は見いだされなかった。

また,B小学校では,向社会的スキルが有意

(t=-8.15,p<.001)に増加した。攻撃行動・

引っ込み思案行動については,有意な差は見いだ

されなかった。

次に,向社会的スキルの下位スキルごとに,t

検定を行った。表5はその結果である。

A小学校では 「あたたかい言葉かけ」スキル,

が有意(t=-5.28,p<.001)に増加し 「感情,

を分かち合う(共感 」スキルの増加が有意傾向)

(t=-2.00,.05<p<.1)であった 「積極的な。

聞き方」スキルについては,有意な差は見いださ

れなかった。

また,B小学校では 「感情を分かち合う(共,

感 」スキル(t=-6.50,p<.001 「あたたかい) ),

言葉かけ」スキル(t=-5.12,p<.001 「積),

極的な聞き方」スキル(t=-2.80,p<.01)が

有意に増加した。

授業記録には 「 積極的な聞き方』スキルにつ,『

いては,その他の授業場面でも,友達の方を向い

て発表を聞くことができるようになるなど,スキ

ルの定着がうかがえる。また 『あたたかい言葉,

かけ』スキルについても,日常生活において『温

かい言葉』が増え 『冷たい言葉』が減ってきた,

ことからスキルの定着がうかがえる(A小学

校 「学級担任からは 『友達への声掛けが優し)」 ,

くなった 『人の話を顔を見ながら聞こうとして』

いた』など肯定的な評価を得た(B小学校 」な)

どの記述が見られた。

② 考察

ア 「他者を支援するための基本的な社会的スキル

を習得する」ことについて

「小学生用社会的スキル尺度」の向社会的スキ

ルが,A・B両小学校とも実践前後で有意に増加

表4 「小学生用社会的スキル尺度」の結果(***p<.001,**p<.01)

A小学校(N=33) B小学校(N=30)実践前平均 実践後平均 有意差 実践前平均 実践後平均 有意差

因子名 (SD) (SD) (SD) (SD)向社会的スキル 17.58 18.91 ** 18.57 20.80 ***

(4.63) (4.52) (3.21) (3.19)引っ込み思案行動 8.64 7.52 *** 7.33 7.13

(2.36) (1.94) (1.65) (1.59)攻撃行動 6.73 6.91 8.23 8.37

(1.76) (2.40) (1.78) (1.54)

表5 下位スキルの結果(***p<.001,**p<.01,†.05<p<.1)

A小学校(N=33) B小学校(N=30)実践前平均 実践後平均 有意差 実践前平均 実践後平均 有意差

下位スキル名 (SD) (SD) (SD) (SD)感情を分かち合う(共 10.21 10.70 † 10.56 11.92 ***感) (2.77) (2.57) (1.99) (1.96)あたたかい言葉かけ 4.42 5.21 *** 4.96 5.68 ***

(1.37) (1.62) (1.02) (1.08)積極的な聞き方 2.94 3.00 2.88 3.08 **

(0.70) (0.71) (0.57) (0.43)

Page 22: 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

- 19 -

したことから,プログラムは,児童の向社会的ス

キルの向上に効果があったと言える。

また,下位スキルについては,A小学校では,

「あたたかい言葉かけ」スキル,B小学校では

「感情を分かち合う(共感 」スキル 「あたたか) ,

い言葉かけ」スキル 「積極的な聞き方」スキル,

に有意な増加が見られた。

したがって,プログラムは,A小学校では児童

の「あたたかい言葉かけ」スキルの向上に効果が

あったと言える。またB小学校では 「感情を分,

かち合う(共感 」スキル 「あたたかい言葉か) ,

け」スキル 「積極的な聞き方」スキルの向上に,

効果があったと言える。

これらのことにより,A・B両小学校において,

指導者の視点ではあるものの,今回のプログラム

が低学年児童の「他者を支援するための基本的な

社会的スキルを習得する」ことに有効であったと

考える。

三つの下位スキルの中で 「あたたかい言葉か,

け」スキルは,A・B両小学校ともに向上が見ら

れた。その要因として 「あたたかい言葉かけ」,

スキルが,児童にとって理解しやすいスキルであ

ったことがまず挙げられる。児童は日常生活の中

で 「温かい言葉」や「冷たい言葉」を掛けられ,

た体験を持っているからである。そのため,この

ような児童の日常生活と結び付けながらスキル学

習を進めることにより,スキルの理解を深めるこ

とができたと考える。

また,このスキルについては,A・B小学校と

も,帰りの会でスキル習得・活用のための時間を

意図的に設定している。特に,B小学校では児童

への定着の実態に合わせて,そのための期間を1

週間延長している。これらのことにより,定着化

のための時間や場を意図的,継続的に設定するこ

とが,スキルの習得につながることが改めて示唆

された。よって,B小学校のように児童の実態に

合わせて,支援することが必要だと考える。

最後に,下位スキルの向上については,A・B

小学校に差が見られた。これは,児童の実態の違

いによることがまず考えられる。その他の要因と

しては,指導者の立場の違いによることが考えら

れる。全般的にB小学校の指導者の評価得点が高

かった。B小学校の指導者は学級担任ではないの

で,児童と接する時間は授業時間等であり限られ

ている。一方,A小学校の指導者は学級担任であ

るので,日常的に児童と接している。限られた時

間の中での評価と,日常生活全般の中での評価に

より,評価の基準が異なっていた可能性が考えら

れる。評価の客観性を高めるための一層の工夫が

必要であると考える。

イ 「互いに思いやることのできる人間関係をつく

る」ことについて

A小学校では,振り返りカードの「ピアサポー

トの効果」についての四段階評定において,約9

割の児童がピアサポートにより優しさいっぱいの

クラスになったと評価している。

また,自由記述においては,約9割の児童がピ

アサポートについて肯定的な記述をしている。記

述の中には 「友達もたくさんできてよかった」,

「みんなに『入れて』と言えるようになりまし

た」など,児童同士のかかわりが増えたり学級の

雰囲気がよくなったりしたことがうかがえるもの

があった。また 「いっぱい優しいことをしても,

らってうれしかった。相手に優しいことをして

『ありがとう』と言われたのもうれしかった」

「 入れて』と言えなかったら 『○○ちゃん,遊『 ,

ぼ』と言ってくれてうれしかった。今度は私がだ

れかに『遊ぼう』と言います」など互いに助け合

っている児童の姿がうかがえるものもあった。こ

のように,ピアサポートによって児童同士のかか

わりが増え,学級の雰囲気や人間関係がよくなっ

たことがうかがえる。

これらのことにより,A小学校では,児童の視

点ではあるものの,今回のプログラムにより「互

いに思いやることのできる人間関係をつくる」こ

とができたと言える。

B小学校では,振り返りカードの「ピアサポー

トの効果」についての四段階評定において,8割

の児童がピアサポートにより優しさいっぱいのク

ラスになったと評価している。自由記述において

は,4割の児童がピアサポートについて肯定的な

記述をしている。記述の中には 「いろんな人と,

仲よくなりました 「みんながとっても優しかっ」

た」など学級の雰囲気がよくなったことがうかが

えるものがあった。

これらのことから,B小学校でも,児童の視点

ではあるものの,今回のプログラムにより「互い

に思いやることのできる人間関係をつくる」こと

Page 23: 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

- 20 -

ができたと思われる。

次に 「小学生用社会的スキル尺度」の攻撃行,

動・引っ込み思案行動について,A小学校では,

引っ込み思案行動の減少が有意であった。このこ

とにより,引っ込み思案行動の減少に効果があっ

たと言える。ピアサポートにより児童同士のかか

わりが積極的になったと考える。しかし,攻撃行

動については,有意な差は見いだされなかった。

B小学校では,攻撃行動・引っ込み思案行動と

もに,有意な差は見いだされなかったので,これ

らの行動の減少に効果があったとは言えない。

このように,今回の実践では 「 互いに思いや,『

ることのできる人間関係をつくる』ことができれ

ば,学級の引っ込み思案行動,攻撃行動の得点が

減少する」とした仮説を支持するには至らなかっ

た。

一方,授業記録からは 「お互いに助け合おう,

とする学級の雰囲気ができてきたのではないかと

思われる(A小学校 「友達を見る目が優しくな)」

った(B小学校 」など,学級の雰囲気がよくな)

ったり児童が相手に優しくかかわろうとしたりし

ていることがうかがえる。

これらのことから,指導者の視点からは,A小

学校では児童同士のかかわりが積極的になり,互

いに助け合う学級の雰囲気ができたことがうかが

える。B小学校では,引っ込み思案行動や攻撃行

動が減るなどの行動面の変化は見られなかったが,

学級の雰囲気がよくなるなどの変化がうかがえる。

以上のことから,これらの結果だけでは「互い

に思いやることのできる人間関係をつくる」こと

が達成されたとは言い難いが,A・B小学校にお

いて,ピアサポートにより児童同士のかかわりが

積極的になり,学級の雰囲気がよくなってきたこ

とは示唆された。

仮説が支持されなかった要因として,本プログ

ラムの時間数では不足しており,行動面の変化ま

でに至らなかったことが考えられる。サポート活

動の期間を長く設定したり,今回のようなプログ

ラムを複数回実施したりするなど,ピアサポート

を長期的・継続的に実施することにより「互いに

思いやることのできる人間関係をつくる」ことが

できると考える。

しかし,今回のプログラム以上の時間数を確保

することは難しい。そこで,ピアサポートを道徳

・生活科・学級活動などに取り入れることにより,

教育課程の中に位置付け,年間を通して指導して

いくための工夫が必要であると考える。

(2) プログラムの構成と内容について

振り返りカードにおける「学習の楽しさ 「ス」

キルの理解 「スキル習得への意欲」等について」

の四段階評定と自由記述,個人プランニング及び

サポート活動で用いたワークシート,授業記録を

基にプログラムの構成と内容を検討する。

振り返りカードの四段階評定法で回答した項目

については,実践学級ごとに平均を求めた(表

6 。四段階評定のうち,1と2は否定的評価,)

3と4は肯定的評価ととらえ,学級平均が3未満

の項目は,プログラムの内容及び指導の在り方に

改善が必要であると考える。

次に各時間の結果を記す。なお,第二次につい

ては,項目ごとの結果についても記す。

① 結果

ア 第一次:動機付け

両校とも全項目で肯定的評価になった。

振り返りカードの自由記述には 「勉強の意味,

が分かりました 「優しさいっぱいの2年○組に」

するこつが分かりました 「みんなと仲よくして」

温かいクラスにしようと思います」など,児童が

プログラムへの見通しや意欲を持つことができた

ことを表すものが見られた。

イ 第二次:スキルトレーニング

(ア) 第1時 「積極的な聞き方」スキル

両校とも全項目で肯定的評価になった。特に,

「学習の楽しさ」の評価が高かった。

振り返りカードの自由記述には 「先生の劇,

(ロールプレイング)が面白かった 「かえるの」

劇(パペットを用いたインストラクション)が面

白かった」など,児童が楽しい雰囲気の中でスキ

ルトレーニングに取り組んだことを表すものが多

かった。

授業記録からも,インストラクションやモデリ

ングへの児童の興味・関心の高さが読み取れた。

(イ) 第2時 「あたたかい言葉かけ」スキル

両校とも全項目で肯定的評価になった。特に

「スキルの理解」については 「分からなかっ,

た」と評価した児童はいなかった。

振り返りカードの自由記述では 「温かい言葉,

を掛けるこつがよく分かった 「温かい言葉をみ」

Page 24: 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

- 21 -

んなに掛けたい」などの記述が多かった。

授業記録からも 「あたたかい言葉かけ」スキ,

ルが児童にとって理解しやすいものであったこと

が読み取れた。しかし,指導者からは,場面を減

らす,又は「気持ちの言葉」だけ書くようにする

などのワークシートの改善が指摘され,課題とな

った。

(ウ) 第3時 「感情を分かち合う(共感 」スキル)

両校とも全項目で肯定的評価であったが,第1,

2時に比べると,評価が低くなった。

振り返りカードの自由記述では 「表情当てが,

楽しかった 「気持ちを分かってくれてうれしか」

った」など,肯定的な記述が多く見られたが,

「今日の勉強はあまりよく分からなかった」など

スキルの理解が難しかったことを表すものも若干

見られた。

授業記録からも 「感情を分かち合う(共感 」, )

スキルの二つ目のポイントである 「共感したこ,

とを言葉で表現する」ことが児童にとって難しか

ったことが読み取れた。また,一つ目のポイント

である,表情などから相手の気持ちを読み取った

り想像したりする「相手の感情を理解する」こと

が難しい児童がいたことも記されていた。

さらに,このスキルを日常生活の中で活用する

場面が児童に分かりにくかったこと,指導者もス

キルを活用する場面を設定することが難しかった

ことも指摘されていた。

ウ 第三次:個人プランニング

両校とも全項目で肯定的評価であった。

個人プランニングのワークシートによると,A

小学校の個人プランニングの内容は 「困ってい,

る人がいたら 『どうしたの,嫌なことでもあっ,

たの』と言う」など 「あたたかい言葉かけ」ス,

キルに関するもの(15人 「 一緒に遊ぼう』と),『

言ってきた友達に『いいよ』と言う」など,遊び

に入れることに関するもの(12人 「本を忘れた),

人に『貸そうか』と言う」など,援助行動に関す

るもの(6人 「うれしいことをしてもらったら,),

『ありがとう』と言う」など 「ありがとう」と,

言うことに関するもの(4人)であった(複数回

答 。)

B小学校の個人プランニングの内容は 「話を,

表6 振り返りカード結果学校名質 問 項 目 分 析 の 観 点

A B3.5 3 .4第一次 今日の勉強は楽しかったですか 学習の楽しさ

3.3 3 .4これから先生とどんな勉強をしていくのか分かりましたか プログラムへの見通し3.5 3 .3これからこつをゲットして ,優しさいっぱいのクラス にで ピアサポートへの意欲

きそうですか3.9 3 .6第二次 今日の勉強は楽しかったですか 学習の楽しさ第1時

3.5 3 .3「上手に聞く」こつが分かりましたか スキルの理解3.7 3 .4「上手に聞く」こつをゲットしようと思いますか スキル習得への意欲

3.8 3 .3「 上手に聞く 」こつをゲットして,優しさいっぱいの クラ スキル活用への意欲スにするために使えそうですか

3.8 3 .5第2時 今日の勉強は楽しかったですか 学習の楽しさ

3.7 3 .5「温かい言葉を掛ける」こつが分かりましたか スキルの理解3.8 3 .4「温かい言葉を掛ける」こつをゲットしようと思いますか スキル習得への意欲

3.6 3 .5「 温かい言葉 を掛ける」こつをゲットし て,優しさいっぱ スキル活用への意欲いのクラスにするために使えそうですか

3.7 3 .2第3時 今日の勉強は楽しかったですか 学習の楽しさ3.5 3 .1「気持ちが分かる」こつが分かりましたか スキルの理解

3.6 3 .2「気持ちが分かる」こつをゲットしようと思いますか スキル習得への意欲3.5 3 .1「 気持ちが分 かる」こつを ゲットして, 優しさいっぱいの スキル活用への意欲

クラスにするために使えそうですか3.6 3 .1第三次 今日の勉強は楽しかったですか 学習の楽しさ

3.7 3 .2「個人プランニング」ができましたか サポート活動への意欲3.7 ※2.5第四次 ゲットしたこつが,使えましたか スキルの活用

3.6 3 .0お友達に,優しくできましたか サポート活動の評価

3.6 3 .3プログラム全体の平均値○ 学校名のAはA小学校(33人 ,BはB小学校(30人 ,数値は四段階評定の平均値。) )

○ ※は平均値が3未満で, プログラムの内容及び指導の在り方に改善が必要であると考える項目。

Page 25: 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

- 22 -

聞く時はその人の方を向いて聞く」など 「積極,

的な聞き方」スキルに関するもの(23人 「お友),

達が泣いていたら『大丈夫』と言う」など 「あ,

たたかい言葉かけ」スキルに関するもの(14人 ,)

「友達がころんだら助ける」など,援助行動に関

するもの(8人 ,友達と仲良くすることに関す)

るもの(5人 ,みんなと遊ぶことに関するもの)

(5人)であった(複数回答 。)

次に,振り返りカードの自由記述には 「個人,

プランニングは優しさいっぱいのクラスにするた

めに使う役目だと思うし,楽しかったです 「個」

人プランニングを使って優しさいっぱいのクラス

にしたい」などの肯定的な記述が多く見られた反

面 「個人プランニングを書くのが難しかったで,

す」などのワークシートの改善など指導者の工夫

が求められていると思われる記述も若干あった。

自由記述と同様,授業記録からも「個人プラン

ニング」に対するイメージを持ちにくかった児童

がいたことが指摘された。

エ 第四次:サポート活動

B小学校の「スキルの活用」の項目が否定的評

価となった。

サポート活動のワークシートによると,A小学

校のサポート活動の内容は 「プールで服が脱げ,

ないときに,服を引っ張ったり絞ったりした」な

ど,援助行動に関するもの(31人 「○○さんが),

こけたとき 『大丈夫』と言った」など 「あたた, ,

かい言葉かけ」スキルに関するもの(12人 「ド),

, ,ッチをしていたとき 『入れて』と言われたから

『いいよ』と言った」など,遊びに入れることに

関するもの(10人)であった(複数回答 。)

B小学校のサポート活動の内容は 「相手の顔,

を見て話を聞いた」など 「積極的な聞き方」ス,

キルに関するもの(14人 「優しい言葉を掛け),

た」など 「あたたかい言葉かけ」スキルに関す,

るもの(11人)であった。

B小学校の指導者からは 「今回の実践では指,

導者が学級担任ではなかったことから,時間的に

継続指導をすることが難しく,積極的に活動する

児童と活動を継続できない児童に分かれてしまっ

た」との指摘があり,指導者が学級担任でない場

合の指導の在り方が課題となった。

② 考察

ア 第一次:動機付け

ピアサポートへの動機付けができたと考える。

これは,低学年の心理的発達段階を考慮し,

「優しさいっぱい大作戦」という言葉を用いたこ

と,そして児童の日常生活での体験を基に話し合

ったことにより,児童がピアサポートやその必要

性への理解を深めることができたことによると考

える。

また,児童の意識の流れを「優しさいっぱい」

の学級にするために他者を支援するためのスキル

を身に付ける必要があるとしたこと,児童の話し

合いを基に学習するスキルをまとめたことにより,

プログラムへの見通しを持ち,スキル習得への意

欲を高めることができたことによると考える。

イ 第二次:スキルトレーニング

まず,スキルの選定と配列は,低学年の児童に

おおむね適していたと考える。

特に 「積極的な聞き方」スキルと「あたたか,

い言葉かけ」スキルの評価が高かった。これは,

どちらのスキルも,児童が学校や日常生活の中で

体験していることであるので,低学年の児童にも

理解しやすいものであり,スキルの習得や活用へ

の意欲も高くなったことによると考える。

一方 「感情を分かち合う(共感 」スキルを児, )

童が理解することが難しかった主な要因として次

のことが考えられる。

一つ目は,児童が日常生活の中で「感情を分か

ち合う(共感 」ことをあまり体験していない,)

又は体験していても意識されていないことが挙げ

られる。

このスキルには 「相手の感情を理解する 「共, 」

感していることを言葉で表現する」という二つの

ポイントがあるが,相手の感情を理解しても,共

感していることを言語で伝える経験を児童はほと

んどしていないと思われる。よって,後者を理解

することが困難であったことが推測される。

二つ目は,低学年の児童の共感性が発達途上で

あり,個人差が大きいことが挙げられる。授業記

録からも,表情などから相手の気持ちを読み取っ

たり想像したりすることが難しい児童がいたこと

がうかがえる。

したがって 「感情を分かち合う(共感 」スキ, )

ルについては,自分の感情に気付いたり,友達の

感情を推し量ったりする「感情を理解する」こと

に重点を置いた計画にする,又は二つのポイント

Page 26: 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

- 23 -

を1時間ずつ計2時間のプログラムにするなどの

工夫が必要であると考える。

最後に,このスキルについては,児童にとって

日常生活の中で活用する場面が分かりにくいこと

が,スキルの習得や活用への意欲を低下させてい

ると思われる。そこで,スキルを実行できる場面

の設定やその紹介などが必要であると考える。

次に,スキルの習得について述べる。

まず,児童は,楽しい雰囲気の中で,抵抗なく

スキルトレーニングに取り組むことができたと考

える。これは,ウォーミングアップやパペットを

用いたインストラクションなどが児童にとっては

新鮮で興味深かったこと,1時間の流れが毎回同

じであったことによると考える。

次に,パペットを用いたインストラクションや

指導者同士のロールプレイングによるモデリング

は,児童にとって興味深いものであったと思われ

る。これらの工夫により,児童はスキルの価値や

ポイントについての理解を深めたと考える。

最後に,個人用のワークシートだけでなく,学

級用のワークシートを作成したことにより,児童

はスキル習得・活用への意欲を高めたと考える。

ウ 第三次:個人プランニング

個人プランニングにより,仲間を支援するとい

う役割を自覚したりサポート活動への意欲付けを

したりすることにつながったと考える。

プランニングの内容は「あたたかい言葉かけ」

スキルなど,学習したスキルについての記述が多

いが 「困っている人を助ける」など,児童がこ,

れまで体験した援助行動を取り入れて計画してい

ることがうかがえる。

これは 「優しさいっぱい」の学級にするため,

に他者を支援するためのスキルを身に付ける必要

があると動機付けした上でスキルを学習している

ことにより,児童なりにサポート活動で何をする

かが理解できていたためであると考える。

一方 「個人プランニング」に対するイメージ,

を持ちにくかった児童がいたことから 「どんな,

ときに 「どんな人に 「トレーニングしたどのス」 」

キルを使うのか」など,支援する場面・対象・そ

の方法等に分けて具体的に計画を立てる必要があ

ったと思われる。そのためのワークシートの工夫

も今後の課題である。

エ 第四次:サポート活動

A小学校では,児童が学習したスキルを活用し,

互いにかかわり,助け合いながらサポート活動を

行ったことがうかがえる。

B小学校でスキルの活用が難しかった要因とし

て,次のことが考えられる。

低学年の児童は,支援する場面に気付きにくか

ったり,サポート活動をしていても意識できにく

かったりするので,児童にスキルの活用を促すた

めの日常的な声掛け等の支援を行う必要がある。

B小学校の指導者は学級担任でなかったため,こ

のような支援が時間的にできにくく,その結果ス

キルの活用への意欲が低下したと考えられる。

そこで,サポート活動の時間や場面を意図的に

設定することが有効であると考える。支援する対

象や場面を設定することにより,児童が個人プラ

ンニングを立てやすかったり,指導者が支援しや

すかったりすると考えるからである。例えば幼稚

園・保育園児との交流会などの学校行事とサポー

ト活動を組み合わせることも一つの方法であると

考える。

ア~エから,プログラムの構成については,

「動機付け 「スキルトレーニング 「個人プラン」 」

ニング 「サポート活動」の四次計画を基本とす」

ればよいことが示唆された。

しかし,指導者が学級担任ではない,又は学級

担任であっても新学期等のために人間関係ができ

ていなかったり,児童の心理教育の手法に対する

抵抗があったりする場合は,動機付けの前に人間

関係づくりの時間を設定することが必要であると

考える。

プログラムの内容については,おおむね低学年

の児童に適していたと考える。しかし,スキルト

レーニングの「感情を分かち合う(共感 」スキ)

ルについては,児童の実態や授業時数により授業

の内容を工夫する必要があると考える。

また,サポート活動については,学校行事等と

組み合わせるなどして,時間や場を設定すること

で効果が上がりやすいと考える。

(3) 指導の在り方について

p.3で述べたように,非具体的な事物・対象に

ついて,論理的思考を行い,より高次な思考が可

能になるのは,小学校高学年から中学生の時期に

なってからである。つまり,低学年の児童には非

具体的な事物・事象については論理的思考が望め

Page 27: 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

- 24 -

ないという困難さがある。

そこで本実践でも,その心理的発達段階の特徴

に応じ,表情写真等の具体物を提示したり,指導

者同士のロールプレイングを行ったりなどの工夫

を行った。言葉のみでの説明をできるだけ少なく

し視覚に訴えることで,児童はスキルへの興味・

関心や理解を深めたと考える。

また,ウォーミングアップをしたりパペットを

用いたりして,楽しい雰囲気づくりをすることに

より,児童は抵抗なくスキルトレーニングに取り

組むことができ,効果的であった。

ところで,表6の大半の質問項目の平均値にお

いて,A小学校がB小学校を上回った。このこと

は,児童の実態の違いもさることながら,A小学

校は学級担任,B小学校は学級担任ではないとい

う指導者の立場が影響していたのではないかと思

われる。

本プログラムのように児童に対する指導者の影

響力の強い低学年を対象とし,スキルの習得や人

間関係づくりをねらいとする場合は,授業時間だ

けでなく,指導者が日常的に声を掛け児童の意欲

を喚起したり,スキルの活用場面を意図的に設定

したりするなどの継続的な指導が必要であり,効

果も上がりやすいと考える。

最後に,ピアサポート等の心理教育を行う場合,

指導者がその手法を体験し,慣れておくことが,

児童の心理教育への抵抗を予防し,緊張をほぐす

ことにつながる。しかし,すべての教師が心理教

育を研修しているとは限らない。そこでB小学校

のように,心理教育を研修している教師が主な指

導者となり学校内で心理教育を実践していく方法

が考えられる。この場合,担任教師も児童ととも

に心理教育を体験できるというメリットもある。

しかし,学級担任以外の教師が指導者となる場合

は,学級担任との綿密な打ち合わせ,役割分担等

の連携が必要である。今後の課題としたい。

Ⅳ 成果と課題

小学校低学年におけるピアサポートプログラムの

ねらいのうち 「他者を支援するための基本的な社,

会的スキルを習得する」ことについて,その有効性

が示された。

一方 「互いに思いやることのできる人間関係を,

つくる」ことについては,児童同士のかかわりが積

極的になり,学級の雰囲気がよくなったことが示唆

されたが,今回のプログラムの時数では不足してお

り,年間を通した支援が必要であることが明らかと

なった。今後はピアサポートをそのための一つの方

法として,各教科・道徳・特別活動を組み合わせる

など,教育課程に位置付け年間を通して実践してい

くための指導の在り方や工夫を探っていく必要があ

ると考える。

最後に,評価の客観性をより高めるためには,例

えば,指導者又は,指導者以外の第三者による行動

観察等を用いるなど複数の評価方法を組み合わせる

ことが必要であると考える。今後の課題としたい。

Ⅴ おわりに

児童の社会的スキルの育成や人間関係づくりを行

う場合,小学校低学年から高学年までの発達段階に

応じ,すべての学年を対象として段階的に支援して

いくことが必要である。

その場合,各学年の発達段階に応じたプログラム

や各教科・道徳・総合的な学習の時間・特別活動等

の統合的なプログラムの開発が必要となる。また,

このように学校としてピアサポートに取り組む場合

は,校内での共通理解・指導者の連携等が欠かせな

い。

今後は,学校としてピアサポートに取り組む場合

のプログラム開発や指導の在り方,組織づくりにつ

いて研究を進めていきたい。

※ 児童のプライバシーにかかわる部分は本質を

損ねない程度に再構成していますが,取り扱

いには十分御留意をお願いいたします。

Page 28: 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

- 25 -

○引用文献

1) 池本しおり:ピア・サポートを高等学校に取り入れるための実践的研究,岡山県教育センター研究紀要

第228号,p.6,2001

2) 中野良顯:ピア・サポートによる学級づくり,学校づくり,指導と評価2003年5月号,図書文化社,p.

24,2003

3) 戸田有一:学校におけるピアサポート実践の展開と課題,鳥取大学教育地域科学部紀要(教育・ 人文「

科学)第2巻第2号,p.59,2001

「 ,4) 高橋哲夫・今泉紀嘉・森嶋昭伸編: ガイダンスの機能の充実」によるこれからの生徒指導,特別活動

教育出版,p.158,2004

5) 文部省:小学校学習指導要領解説 特別活動編,東洋館出版社,p.7,1999

6) 文部省:小学校学習指導要領解説 道徳編,東洋館出版社,p.15,1999

7) 同上書,p.15

8) 高木修:人を助ける心,サイエンス社,p.12,1998

9) 井上健治・久保ゆかり編:子どもの社会的発達,東京大学出版会,p.174,1997

10) 菱田準子:すぐ始められるピア・サポート 指導案&シート集,ほんの森出版,p.11,2002

11) 文部省:小学校学習指導要領解説 道徳編,東洋館出版社,p.15,1999

○参考文献

・ 嶋田洋徳・戸ヶ崎泰子・岡安孝弘・坂野雄二:児童の社会的スキル獲得による心理的ストレス軽減効果,

行動療法研究第22巻第2号,1996

・ C.A.キング・D.S.キルシェンバウム:子ども援助の社会的スキル 幼児・低学年児童の対人行

動訓練,川島書店,1996

・ 渡辺弥生:ソーシャル・スキル・トレーニング,日本文化科学社,1996

・ 後藤吉道・佐藤正二・佐藤容子:児童に対する集団社会的スキル訓練,行動療法研究第26巻第1号,20

00

・ 西山久子:ピアサポートプログラム導入による不登校回避の支援-スクールカウンセラー常駐型高等学

校における臨床的・実践的研究-,岡山大学大学院修士論文, 2000

・ 吉田益美:個人プランニングを取り入れたピア・サポート・プログラムの実践と有効性-ピア・サポー

ターの心理的成長に視点をあてて-,群馬県総合教育センター長期研修員研究報告書第199集,2000

・ 門原眞佐子:社会的スキル教育における「実行できる環境」とターゲットスキル選定に関する実践的研

究,兵庫教育大学大学院修士論文,2002

・ トレーバー・コール:ピア・サポート実践マニュアル,川島書店,2002

・ 中野武房・日野宜千・森川澄男編著:学校でのピア・サポートのすべて,ほんの森出版,2002

・ 首藤敏元:思いやりを深める-発達段階に応じて,児童心理7月号第57巻第10号,金子書房,2003

・ 三枝由佳里:小学校・総合的な学習の時間におけるピア・サポート・プログラムの展開と効果-仲間関

係に課題を持つ児童への効果,兵庫教育大学大学院修士論文,2004

Page 29: 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

巻末資料 ピアサポートプログラムの指導案

指導計画 第一次 第1時【動機付け 「 優しさいっぱい大作戦』に挑戦しよう」】『

1 目標・ピアサポート導入のための雰囲気づくりをする。・学級を「優しさいっぱい」にするのための作戦を考えることにより,ピアサポートへの動機付けを行うとともに,今後の学習への見通しを持つことができるようにする。

2 展開流れ 学習活動 指導上の留意点 配時

「 」 ,ウ 1 学習上の約束を知る。 ○クラスをもっとよくするために 心 の勉強をすることォ 「心の勉強」での二つの約束「一生懸命する 「お友達のよ」| いところを見付ける」を知らせる。ミン 2 あいさつゲーム「アウチでよろしく」を ○人間関係づくりのためのゲームを行い,雰囲気作りをす 15グ する。 る。アップ

3「優しさいっぱい大作戦」について具体的 ○友達にしてもらって「うれしかったこと 「悲しかったこ」なイメージを持ち,学習意欲が高まるよう と」を話し合うことにより 「優しさいっぱい大作戦」に,

。動 にする。 ついて具体的なイメージを持つことができるようにする(1) 「優しさいっぱいなクラス」の具体的な ・友達同士で助け合える「優しさいっぱい」のクラスにし

機 イメージを持つ。 たいという教師の願いを伝える。・ 優しさいっぱい』の学級にするには,何ができるよう「『

付 になればよいか」の話し合いを基に,スキルを身に付けることの必要性に気付くことができるようにする。

け ・スキルとは「人と人とがうまくつきあうためのこつ」で 20あり 「学習することで身に付く」ことを知らせる。,

を ・スキルを身に付けることでよりよい行動ができるようになることを強調し,スキルトレーニングへの意欲を高め

す る。(2) 「優しさいっぱいなクラス」にするため ・話し合いを基に,ターゲットとなるスキルを決めること

る に必要なスキルを考える。 ができるようにする。・児童の言葉でまとめられるよう,発言を助けたり明確化

したりする。・スキルを「こつ ,習得を「ゲット」と呼び,こつをゲッ」

トすることで「優しさいっぱいのクラス」になることを伝える。

4 学習の目当てを確認することにより,今 ○「優しさいっぱいのクラス」にするためのスキルと学習後の学習への見通しを持つ。 する順序を確認することにより,今後の学習への見通し

を持つことができるようにする。学 ・ 優しさいっぱい大作戦」の目当ての意識化を図るため,「習 目当てや学習するスキルとその順番などを記したカードへ や図を提示する。図は学習終了まで掲示しておく。の見 「優しさいっぱい大作戦」通 ○お友達同士で助け合えるこつをゲットして「優しさ 5し いっぱい」のクラスにしよう。を持 1 お話が聞けるよ・・・上手に聞くこつつ 2 優しく言えるよ・・・温かい言葉を掛けるこつ

3 気持ちが分かるよ・・気持ちが分かるこつ4 個人プランニング5 優しさいっぱい週間

振 5 次時の予告を聞く。 ○本時の振り返りをし,次時の予告をする。り ・振り返りカードに感想等を記入させる。 5返り

指導計画 第二次 第1時【スキルトレーニング 「積極的な聞き方」スキル】

1 目標・話を聞くことの大切さを理解し,話を聞いてもらう心地よさを体験する。・上手な聞き方を体験的に学び,身に付ける。

2 展開流れ 学習活動 指導上の留意点 配時

1 前時の振り返りとウォーミングアップを ○「優しさいっぱい大作戦」のための学習であることを確認ウ する。 したり,ワークシートや児童の様子を紹介したりして,スォ (1) あいさつゲーム「アウチでよろしく」を キルトレーニングへの意欲を持つことができるようにす| する。 る。ミ (2) 目当てと約束を確認する。 5ンア 「優しさいっぱい大作戦」その1グッ 「上手に聞く」こつをゲットしよう

2 本時のスキルを知る。 ○パペットを用いた指導者のロールプレイングにより,上手イ に聞くことのよさに気付くことができるようにする。ン ・話を聞いていなかったため大失敗してしまったというストス ーリーを提示する。ト ・話を上手に聞くとたくさんのことがよく分かること,話を 5ラ 上手に聞いてもらうととても気持ちがよいことなど,聞くク 側,聞かれる側の両面から「話を聞く」ことの大切さを強シ 調する。ョ ・話を上手に聞くことで友達とも仲良くなれるなど,友達関ン 係での大切さも強調する。

3 スキルのポイントを考える。 ○どう聞けばよかったかを考えることにより,聞き方のポイントに気付くことができるようにする。

4 「積極的に聞く」スキルのポイントを理 ○指導者同士のロールプレイングを観察させることにより,解する。 スキルのポイントを理解できるようにする。

(1) 三つの聞き方を観察し,話し合うことに ・ 他のことをしながら聞く 「うつむいたまま聞く 「無反「 」 」より 「積極的に聞く」スキルのポイントに 応で聞く」のロールプレイングを行い,話し役の児童,見,

モ 気付く。 ていた児童に感想を聞く。(2) 「積極的に聞く」スキルのポイントを理 ・ 相手をよく見る」ことはまず体を相手に向けること 「う「 ,

デ 解する。 なずき」は極端にならなくてよいことなど,反応することが大切であることを伝える。

リ ・三つのポイントで聞くよいロールプレイングを提示するこ 10とにより,見ていた児童に感想を聞き,上手な聞き方をす

ン るよさを確認する。

グ 「上手に聞く」こつの秘密・していることをやめる・相手をよく見る・うなずいて

5 練習をする。 ○スキルのポイントを用いて練習できるようにする。リ (1) 教師の話を聞く練習をする。 ・話し手が話しやすいように 「好きな食べ物 「うれしかっ, 」ハ (2) 二人組で聞く練習をする。 たこと」などについてワークシートに書かせておく。

15|サル

フ 6 振り返りを行う。 ○聞き手は頑張ったこと,話し手は聞いてもらってどうだっィ たかということという観点で振り返りができるようにす

る。|ド ・話し手の児童は「よかった」だけでなく 「うなずいてい 5,バ たからうれしかった」など,できるだけ具体的に言うようッ 助言する。ク ・何名かに発表させ,頑張った児童,また頑張りを見付けた

児童も賞賛する。

振 7 定着化への意欲を持つ。 ○日常生活でスキルが使える場面を紹介し,定着化への意欲り を持つことができるようにする。返 8 次時の予告を聞く。 ○次時のスキルを予告し,意欲付けを行う。 5り ・振り返りカードに感想等を記入させる。

Page 30: 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

指導計画 第二次 第2時【スキルトレーニング 「あたたかい言葉かけ」スキル】

1 目標・温かい言葉掛けが相手を元気にすることに気付く。逆に,冷たい言葉掛けが相手を嫌な気持ちにさせることに気付く。・友達に温かいメッセージを送ることができる。

2 展開流れ 学習活動 指導上の留意点 配時

1 ウォーミングアップをする。 ○「優しさいっぱい大作戦」のための学習であることを確, ,ウ (1) あいさつゲーム「アウチでよろしく」を 認したり ワークシートや児童の様子を紹介したりして

ォ する。 スキルトレーニングへの意欲を持つことができるように| (2) 目当てと約束を確認する。 する。 5ミンア 「優しさいっぱい大作戦」その2グッ 「温かい言葉を掛ける」こつをゲットしよう

イ 2 本時のスキルを知る。 ○パペットを用いた指導者のロールプレイングにより,相ン 手を気持ちよくさせる「温かい言葉」と相手を嫌な気持ス ちにさせる「冷たい言葉」があることが理解できるようト にする。ラ ・泣いているパペットを提示し,何を言われたのか話し合 5ク い,発言は「冷たい言葉」としてまとめておく。シ ・どんな言葉掛けをすれば,パペットがうれしい気持ちにョ なるか話し合う。ン ・パペットがうれしくなる言葉を「温かい言葉」としてま

とめる。

,3 「あたたかい言葉かけ」スキルのポイン ○指導者同士のロールプレイングを観察させることによりトを理解する。 スキルのポイントが理解できるようにする。

(1) 指導者同士のロールプレイングを観察し ・ 転んだ友達 にどう声を掛けるか考えることにより 温, 「 」 ,「モ 話し合うことにより あたたかい言葉かけ かい言葉をかける」ためのポイントをまとめる。,「 」

スキルのポイントに気付く。 ・相手の様子をよく見て,その様子にあった言葉掛けをすデ ることに気付くことができるようにする。

(2)「あたたかい言葉かけ」スキルのポイント ・ 温かい言葉」は,言われた方だけでなく,言った方も気「リ を理解する。 持ちがよくなり,友達をつくるときにも役に立つことを

補足する。また,相手が困った時にも頑張ったときにも 10ン 温かい言葉を掛けることができることを確認する。

グ 「温かい言葉を掛ける」こつの秘密・相手をよく見る・ 相手の様子』の言葉」と「気持ちの言葉」を伝える「『

4 練習をする。 ○スキルのポイントを用いて練習できるようにする。リ (1) 事前にまとめておいたプリントを基に練 ・ロールプレイングがスムーズに進むようにするために,ハ 習する。 ワークシートの三つの仮説的な場面について「温かい言

(2) 二人組で練習をする。 葉」を書かせる。 15|サ ・言語表現だけでなく非言語表現(相手に聞こえる声で言ル う,相手をきちんと見て言うなど)にも注目させる。

フ 5 振り返りを行う。 ○「温かい言葉」を言う役の児童は頑張ったこと,言われィ た児童は言われた時の気持ちについて,振り返りができ

るようにする。|ド ・言われた児童は「よかった」だけでなく 「様子を言って 5,バ くれたからうれしかった」などできるだけ具体的に言うッ よう助言する。ク ・何名かに発表させ,頑張った児童,また頑張りを見付け

た児童も賞賛する。

振 6 定着化への意欲を持つ。 ○日常生活でスキルが使える場面を紹介し,定着化への意り 欲を持つことができるようにする。返 7 次時の予告を聞く。 ○次時のスキルを予告し,意欲付けを行う。 5り ・振り返りカードに感想等を記入させる。

指導計画 第二次 第3時【スキルトレーニング 「感情を分かち合う(共感 」スキル】 )

1 目標・相手の感情を知る表情の読み取り方,声や身振りへの注目の仕方などを身に付ける。・共感したことを言葉で表現することができるようにする。

2 展開流れ 学習活動 指導上の留意点 配時

1 ウォーミングアップをする。 ○「優しさいっぱい大作戦」のための学習であることを確認ウ (1) 「アウチでよろしく」をする。 したり,ワークシートや児童の様子を紹介したりしてスキォ (2) 目当てと約束を確認する。 ルトレーニングへの意欲を持つことができるようにする。| 5ミア 「優しさいっぱい大作戦」その3ンッ 「気持ちが分かる」こつをゲットしようグプ

イ 2 本時のスキルを知る。 ○パペットを用いた指導者のロールプレイングや具体的な例, 。ン を挙げることにより 共感について理解できるようにする

ス ・友達がうれしそうにしていると自分もうれしくなったなどト の具体例を挙げることにより,共感とは相手が感じたり考ラ えたりしていることを分かることであり,それを相手に伝 5ク えることであることを理解する。シ 3 スキルのポイントを考える。 ○表情写真を提示し,その気持ちについて話し合わせる。ョ ・気持ちが分かるためには,相手の表情などを見たり,話をン 聞いたりすることが必要であることに気付く。

4 「感情を分かち合う(共感 」スキルのポ ○指導者同士のロールプレイングを観察させることを通し)イントを理解する。 て,スキルのポイントが理解できるようにする。

モ (1) 「感情を分かち合う(共感 」スキルのポ ・相手の気持ちを考えるには,相手の表情をよく見たり話を)イントに気付く。 聞いたりすることが必要であること,気持ちが分かったこ

デ (2) 「感情を分かち合う(共感 」スキルのポ とを伝えることが必要であることを理解する。)イントを理解する。 ・相手の気持ちを分かって働き掛けると,相手も自分もよい

リ 気持ちになり,友達をつくるときにも役に立つことを補足 10する。

ン「気持ちが分かる」こつの秘密

グ ・相手をよく見る(表情,言い方,していることなど)・気持ちを考える・ 気持ちのことば」を伝える「

5 練習をする。 ○スキルのポイントを用いて練習できるようにする。リ (1) 教師と練習する。 ・ 喜 「怒 「哀 「楽」などの基本的な感情について,「 」, 」, 」,ハ (2) 二人組で練習する。 二人組 で相手の気持ちを考え,伝える練習をする。

・ 喜 「怒 「哀 「楽」などの基本的な感情を表現する 15| 「 」, 」, 」,サ 役,気持ちを考え伝える役に分かれる。ル ・感情を表現しにくい児童には,表情カードを使用させる。

フ 6 振り返りを行う。 ○共感する役の児童は頑張ったこと,相手の児童は共感されィ たときの気持ちについて振り返りができるようにする。

・気持ちを分かち合うとうれしい気持ちになることを確認す|ドバ る。 5

ッ ・何名かに発表させ,頑張った児童,また頑張りを見付けたク 児童も賞賛する。

振 7 定着化への意欲を持つ。 ○日常生活で「気持ちが分かる」スキルが使える場面を紹介り し,定着化への意欲を持つことができるようにする。返 8 次時の予告を聞く。 ○「優しさいっぱい週間」を行うことを予告し,意欲付けを 5り 行う。

・振り返りカードに感想等を記入させる。

Page 31: 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

指導計画 第三次 【個人プランニング 「 個人プランニング』をしよう」】『

1 目標・自分にできる,又はしてみたいサポート活動を決め,計画する。

2 展開流れ 学習活動 指導上の留意点 配時

1 前時の振り返りとウォーミングアップを ○ワークシートや児童の様子を紹介したり「優しさいっぱいウ する。 大作戦」のための学習であることを確認する。ォ (1) 「アウチでよろしく」をする。| (2) 約束を確認する。 5ミア 「優しさいっぱい大作戦」その4ンッ 「個人プランニング」をしようグプ

め 2 本時の目当てを知る。 ○「個人プランニング」について理解することができるようあ にする。て ・ゲットしたこつを使って 「優しさいっぱい」のクラスに,の することを伝える。 5確 ・ワークシートを用い,個人プランニングについて分かりや認 すく伝える。

3 計画を立てる。 ○自分が使いたいこつを決め,どんなサポート活動をするか(1) 具体的な例や場面を例示する。 計画できるようにする。

計 (2) 自分の計画を立てる。 ・児童がサポート活動のイメージを持ちやすいように,具体画 (3) 計画を発表し合う。 的な場面を例示する。 15す ・自分が使うこつを決め,ワークシートに記入させる。る ・イメージを持ちにくい児童には「どんなときに 「どのこ」

つを使うのか」など具体的に話を聞く。

4 計画を発表し合う 。 ○サポート活動への意欲を持つことができるようにする。計 ・計画を発表させることにより,サポート活動への具体的な画 イメージを持つことができるようにする。を ・児童の発表を「いつ 「どのこつを使って 「どんなサポー」 」発 トができるのか」で板書し,まとめる。 15表 ・計画を発表した児童を賞賛し,サポート活動への意欲付けす をする。る

振 5 サポート活動への意欲を持つ。 ○「優しさいっぱい週間」を行うことを予告し,サポート活り 動への意欲を持つことができるようにする。返 ・振り返りカードに感想等を記入させる。 5り

Page 32: 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

FAX用紙(所員研究係行き)

岡山県教育センター研究紀要をお読みくださり,ありがとうございました。皆様の御意見を,今後の所員研究や学校支援の改善のための参考とさせていただきますので,次のアンケートに御協力ください。

岡山県教育センター研究紀要に関するアンケート

本書のタイトル:研究紀要第263号小学校低学年におけるピアサポートに関する実践的研究

1 あなたの所属はどちらですか。県内:小学校,中学校,高校,盲 聾 養護学校,大学,教育機関,その他( )・ ・

ろう

県外:小学校,中学校,高校,盲 聾 養護学校,大学,教育機関,その他( )・ ・

2 本書を何で知りましたか。( ) 岡山県教育センターからの送付 ( ) 岡山県教育センターの所報a b( ) 岡山県教育センターのWebページ ( ) 岡山県教育センターの研修講座c d( ) 岡山県教育センター所員研究成果発表会 他の先生等からの紹介e ( )f( ) その他( )g

3 本書の内容についての御意見・御感想をお聞かせください。(1) よかった点,教育実践に役立つと思われる点について記述してください。

(2) 工夫,改善すべき点について記述してください。

4 教育相談に関する研究として,今後どのような内容を取り上げてほしいですか。

御協力ありがとうございました。このページの写しをファクシミリで下記へお送りください。

FAX 086-272-1207 岡山県教育センター所員研究係

Page 33: 小学校低学年における ピアサポートに関する実践的 …...諸外国で展開されてきた。ピア(Peer)は,(年齢 ・地位・能力などが)同等の者,仲間・同輩を,サ

平成15・16年度岡山県教育センター個人研究

教育相談協力委員会

協力委員

藤 原 敬 三 中央町立加美小学校教諭(平成15年度)

山 下 美 加 玉野市立玉原小学校教諭(平成16年度)

籠 井 淑 江 瀬戸町立江西小学校教諭

小早川 祐子 倉敷市立葦高小学校教諭

なお,岡山県教育センターでは,次の者が本研究に当たった。

泉 利 絵 教育相談部指導主事

平成17年2月発行

研究紀要第263号

小学校低学年における

ピアサポートに関する実践的研究

編集兼発行所 岡山県教育センター

〒703-8278 岡山市古京町二丁目2番14号

TEL (086)272-1205 FAX (086)272-1207

URL http://www.edu-c.pref.okayama.jp/

E-MAIL [email protected]

Copyright C 2005 Okayama Prefectural Education Center