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31 小形シール鉛蓄電池とは 鉛蓄電池です. 小形シール鉛蓄電池を写真1 に示します. 鉛蓄電池の充放電反応 鉛蓄電池は基本的に,負極に金属鉛 Pb),正極に 二酸化鉛 PbO 2 ),電解液に希硫酸 H 2 SO 4 の水溶液 で構成されています.充放電過程で起こる正負極の化 学反応を以下に示します. 放電 Pb+PbO 2 +2H 2 SO 4 2PbSO 4 + 2H 2 O 充電 この蓄電池は,他の電池系とは違って,放電で電解 液の硫酸が消費されます.つまり,電解液も活物質(発 電の主体となる材料)であり,放電するにつれて硫酸 濃度が低下します.充電時には上記の反応式を左の方 向に進みます. 単電池 セルの公称電圧は 2 V で,水溶液系の電池 の中で最も高い電圧を有します.通常は,この単電池 を複数個電気的に接続した 6 V あるいは 12 V の構成に 小形シール鉛蓄電池とは カー・バッテリとしてよく知られる鉛蓄電池は, 1860年にフランス人プランテによって発明され,既 に 150 年の歴史と実績をもつ完成度の高い電池です. この小形シール鉛蓄電池と通称される蓄電池はJIS では小形制御弁式鉛蓄電池と呼ばれています.小形制 御弁式鉛蓄電池は,「蓄電池の内部圧力が高くなると 開放する弁構造を備え,負極で酸素を吸収する機能を もつ小形鉛蓄電池」(JIS C8702 1:2009)と定義され ています. この蓄電池の特徴を具体的に説明します.硫酸電 解液を必要最少量にし,ガラス繊維などのマットに保 持させたり,ケイ酸と混合してゲル化させるなどの方 法で固定させ,横置きや倒置姿勢でも漏液無く使え(ポ ジション・フリー),充電過程で発生する酸素ガス を負極に吸収させることで補水の必要をなくし(メン テナンス・フリー),かつ安全弁を備えた密閉型の 写真 1 (8) 小形シール鉛蓄電池 見本 PDF 無停電電源や電動工具に使われる低価格で 長寿命の電池 小形シール鉛蓄電池 3 江田 信夫 2 次電池の中で最も古い歴史をもつ鉛蓄電池は,エネルギー密度は低いものの, 安全性が高く経済性にも優れた 2 次電池として進化を続けてきました.ここで は,転倒しても漏液がなくメンテナンス・フリーで使える密閉型(シール)鉛蓄 電池について解説します. 〈編集部〉

小形シール鉛蓄電池 Folder/12103.pdf小形シール鉛蓄電池とは 31 鉛蓄電池です. 小形シール鉛蓄電池を写真1に示します. 鉛蓄電池の充放電反応

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31小形シール鉛蓄電池とは

鉛蓄電池です. 小形シール鉛蓄電池を写真1に示します.

● 鉛蓄電池の充放電反応 鉛蓄電池は基本的に,負極に金属鉛(Pb),正極に二酸化鉛(PbO2),電解液に希硫酸(H2SO4)の水溶液で構成されています.充放電過程で起こる正負極の化学反応を以下に示します. 放電  Pb+PbO2+2H2SO4 2PbSO4+2H2O 充電 この蓄電池は,他の電池系とは違って,放電で電解液の硫酸が消費されます.つまり,電解液も活物質(発電の主体となる材料)であり,放電するにつれて硫酸濃度が低下します.充電時には上記の反応式を左の方向に進みます. 単電池(セル)の公称電圧は2 Vで,水溶液系の電池の中で最も高い電圧を有します.通常は,この単電池を複数個電気的に接続した6 Vあるいは12 Vの構成に

小形シール鉛蓄電池とは

 カー・バッテリとしてよく知られる鉛蓄電池は,1860年にフランス人プランテによって発明され,既に150年の歴史と実績をもつ完成度の高い電池です. この小形シール鉛蓄電池と通称される蓄電池はJISでは小形制御弁式鉛蓄電池と呼ばれています.小形制御弁式鉛蓄電池は,「蓄電池の内部圧力が高くなると開放する弁構造を備え,負極で酸素を吸収する機能をもつ小形鉛蓄電池」(JIS C8702-1:2009)と定義されています. この蓄電池の特徴を具体的に説明します.①硫酸電解液を必要最少量にし,ガラス繊維などのマットに保持させたり,ケイ酸と混合してゲル化させるなどの方法で固定させ,横置きや倒置姿勢でも漏液無く使え(ポジション・フリー),②充電過程で発生する酸素ガスを負極に吸収させることで補水の必要をなくし(メンテナンス・フリー),かつ③安全弁を備えた密閉型の

写真1(8) 小形シール鉛蓄電池

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無停電電源や電動工具に使われる低価格で長寿命の電池

小形シール鉛蓄電池

第 3章

江田 信夫2次電池の中で最も古い歴史をもつ鉛蓄電池は,エネルギー密度は低いものの,安全性が高く経済性にも優れた 2次電池として進化を続けてきました.ここでは,転倒しても漏液がなくメンテナンス・フリーで使える密閉型(シール)鉛蓄電池について解説します. 〈編集部〉