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論 文 ブロードバンドワイヤレスのためのアンテナ・伝搬技術論文特集
レイリーフェージング環境における広帯域信号の瞬時レベル変動に
関する理論解析
井上 隆† 唐沢 好男††
Theoretical Analysis on Level Variation of Wideband Signals in Rayleigh Fading
Environments
Takashi INOUE† and Yoshio KARASAWA††
あらまし 本論文では,レイリーフェージング環境における広帯域信号の瞬時レベル変動の確率分布を固有値解析により求める手法を提案する.同手法を用いて,指数分布,一様分布の連続(密)な遅延プロファイルと,等電力 2 パスレイリーモデルや Vehicular モデル等の離散的(疎)な遅延プロファイルに対する瞬時レベル変動特性を調べ,各モデルに対するフェージングの深さを比較する.連続な遅延プロファイルの場合,フェージングの深さは遅延プロファイルの形状にはよらず,遅延スプレッドと信号帯域幅の積に対してほぼ等しい特性となるのに対して,離散的な遅延プロファイルの場合は,パス数や各パスの平均電力,遅延量によって異なる特性となることを示した.
キーワード 広帯域信号,瞬時レベル変動,レイリーフェージング,固有値分解
1. ま え が き
陸上移動通信における通信路は回折波や反射波から
なる複数の伝搬路(パス)で構成されるマルチパス伝
搬環境であり,直接波のない見通し外の通信路は特に
レイリーフェージング環境と呼ばれている.レイリー
フェージング環境で狭帯域信号(各パスの遅延量の差
に比べて伝送する信号のシンボル周期が十分長い)を
伝送する場合,各パスの信号の位相関係は周波数スペ
クトル上でほぼ一定なフラットフェージングでありそ
のレベル変動はレイリー分布に従う.一方,レイリー
フェージング環境で広帯域信号(伝送する信号のシン
ボル周期が各パスの遅延量とほぼ同オーダまたはそれ
以下)を伝送する場合は,各パスの信号の位相関係が
周波数スペクトル上で一定でなくなり周波数選択性
フェージングとなる.周波数選択性フェージング環境
での信号はひずみを受けるが,信号電力は周波数軸上
† KDDI 研究所,横須賀市KDDI R&D Laboratories Inc., Yokosuka-shi, 239–0847
Japan††電気通信大学電子工学科,調布市
Department of Electronic Engineering, University of Electro
Communications, Chofu-shi, 182–8585 Japan
で平均化されるためレイリー分布に比べてレベル変動
幅(フェージングの深さ)は小さくなることが知られ
ている [1]~[5].しかしながら,その変動特性は計算機
シミュレーション等による報告がほとんどであり,理
論解析によるものは少ない.文献 [6] では,タップ付
き遅延線モデルで表される伝送路での信号の瞬時レベ
ル変動特性が,最大比合成によるパスダイバーシチの
SNR変動特性と等価になることを示している.しか
しながら,パス間の相関を考慮していないため,その
解析法が適用できる伝送路はパス間の相関が無視でき
る場合に限定されていた.
本論文では,レイリーフェージング環境における広
帯域信号の瞬時レベル変動を固有値解析を用いて理論
的に求める手法を提案する.提案手法は,任意の連続
な遅延プロファイル,あるいは遅延の間隔が一定では
ない離散パスで表現される伝送路に対して適用可能で
ある.同手法を用いて,様々な伝搬モデルに対するレ
ベル変動特性の解析を行い,レベル変動量を比較する.
2. 解 析 手 法
2. 1 連続な遅延プロファイルに対する解析手順
平均電力遅延プロファイルを pd(τ ) とすると,周波
電子情報通信学会論文誌 B Vol. J88–B No. 9 pp. 1641–1649 c©(社)電子情報通信学会 2005 1641
電子情報通信学会論文誌 2005/9 Vol. J88–B No. 9
数相関関数 ρ(∆f) は pd(τ ) のフーリエ変換として,
ρ(∆f) =
∫ ∞
0
pd(τ ) · exp(−j2π∆fτ )dτ (1)
で与えられる [7].図 1 に示すように,受信信号の周
波数スペクトルを微小帯域 δf(= Bmax/(2M′ + 1)),
(Bmax は信号の 100%周波数帯域幅)で分割し,第 i
周波数成分の中心周波数を fi = δf · (i −M ′ − 1),
(i = 1, 2, . . . , 2M ′ + 1) とすると,第 i 周波数成分と
第 k 周波数成分の共分散は,
Γik = ρ(fi − fk)H(fi)∗H(fk)δf (2)
により求められる.ここで,H(f) は波形整形フィル
タの周波数応答関数,∗ は複素共役である.Γik を第
i 行第 k 列の要素とする M ×M の共分散行列 Λf
を生成し(ただし,M = 2M ′ + 1),Λf の固有値を
λm(m = 1, 2, . . . ,M) とすると,受信信号は互いに無
相関に変動する M 種類の信号成分に分解されると解
釈できる.このときの個々の信号成分の周波数分布の
相対値と平均電力はそれぞれ固有ベクトルと固有値に
対応する.受信信号電力は個々の信号成分の電力(あ
るいは C/N)の総和であり,固有値分解された個々の
信号成分の複素振幅は中心極限定理 [8] によりガウス
分布(すなわち,振幅はレイリー分布)に従うと考え
られるので,受信信号の瞬時電力変動特性は互いに無
相関な M ブランチの信号に最大比合成のダイバーシ
チ受信を行った信号のC/N 変動特性と等価となる [9].
すなわち,文献 [9]に示された,M ブランチの最大比
合成によるダイバーシチ受信後の確率密度関数及び累
積確率分布の理論式
pdf (γ) =1
M∏m=1
λm
M∑m=1
exp (−γ/λm)M∏
k=1k �=m
(1/λk − 1/λm)
(3)
cdf (γ≤P ) = 1−M∑
m=1
(λm)M−1exp (−P/λm)M∏
k=1k �=m
(λm − λk)
(4)
に,得られた固有値を代入することにより受信信号の
電力変動の確率密度関数及び累積確率分布が求められ
る.なお,固有値の中に互いに値の等しいものが含ま
図 1 受信信号の周波数スペクトルFig. 1 Frequency spectrum of the received signal.
れる場合はこれらの式は適用できないが,文献 [10]に
おいてその場合の計算法が示されている.
以上を整理すると,解析の手順は以下のとおりと
なる.
(手順 1) 平均電力遅延プロファイル pd(τ ) をフーリ
エ変換して周波数相関関数 ρ(∆f) を求める.
(手順 2) ρ(∆f) を微小周波数に分割し共分散行列
Λf を生成する.
(手順 3) Λf を固有値分解し,固有値 λm(m =
1, 2, . . . ,M) を求める.
(手順 4) λm を式 (4) に代入し累積確率分布を求
める.
本解析法を用いる際,微小周波数 δf の値を定める
必要がある.一般に,δf が小さいほど,得られる固
有値の誤差は小さくなる反面,共分散行列 Λf のサイ
ズが大きくなり,得られる固有値の個数が変わる.し
かしながら,δf が十分小さければ,累積確率分布を
計算する上で有意な固有値は Λf のサイズにかかわら
ずほぼ一定の値に収束する.筆者らの経験では,伝送
帯域幅あるいは遅延スプレッドの逆数のいずれか小さ
い方の 1/100 程度であれば実用上問題ない.
2. 2 離散的な遅延プロファイルに対する解析手順
伝搬路が独立にレイリー変動する L 本のパスで構
成される場合,遅延プロファイル pd(τ ) は i 番目のパ
スの信号成分の平均電力及び遅延量をそれぞれ Pi, τi
として,
pd(τ ) =
L∑i=1
Pi · δD(τ − τi) (5)
で表される.ただし,δD はディラックのデルタ関数
である.前述の解析法は δf → 0 として厳密に解くこ
とができ,信号の 100%帯域幅を Bmax,Pk を k 番
目のパスの信号成分の平均電力とすると,
µik=√PiPk
∫ Bmax/2
−Bmax/2
∣∣H (f ′)∣∣2
1642
論文/レイリーフェージング環境における広帯域信号の瞬時レベル変動に関する理論解析
· exp[j2πf ′ (τi − τk)
]df ′ (6)
を第 i 行第 k 列の要素とする L×L の共分散行列 Λτ
の固有値問題に帰着する(付録参照).得られた固有
値を式 (4)に適用することにより累積確率分布が求め
られる.なお,Λτ は帯域制限(波形整形)フィルタ
を含めた各パス成分間の共分散から生成した共分散行
列に一致している [11].
以上をまとめると,
(手順 1) 式 (6)により µik を算出し,共分散行列 Λτ
を生成する.
(手順 2) Λτ を固有値分解し,固有値 λm(m =
1, 2, . . . , L) を求める.
(手順 3) λm を式 (4) に代入し,累積確率分布を求
める.
3. 解 析 例
ここでは,連続な遅延プロファイルと離散的な遅延
プロファイルに対するレベル変動特性の解析を行う.
なお,本解析法は,信号の周波数帯域幅が有限な任意
の周波数スペクトル形状に対して適用可能である(す
なわち,任意の帯域制限フィルタに対して適用可能で
ある)が,本解析例では,ロールオフフィルタを用い
ることとし,周波数応答関数を,
H (f) =
√Ts
(|f | ≤ 1−α
2Ts
)√
Ts2β
(1−α2Ts
< |f | < 1+α2Ts
)0
(|f | ≥ 1+α
2Ts
) (7)
β = 1− sin
{π (2 |f |Ts − 1)
2α
}(8)
とする.ただし,α,Ts はそれぞれロールオフ率とシ
ンボル周期である.
3. 1 連続な遅延プロファイルの場合
3. 1. 1 指 数 分 布
図 2 (a) に示す指数関数(分布)型の遅延プロファ
イル
pd (τ ) =Pr
στexp
(− τ
στ
)(τ ≥ 0) (9)
に対する周波数相関関数 ρ(∆f)) は,
ρ (∆f) =Pr
1 + j2π∆fστ(10)
となる.ここで,Pr は平均受信電力,στ は遅延スプ
レッドである.
α = 0.2,δf = min(Bmax/100, 1/100στ ) として共
分散行列 Λf を生成して求めた固有値の分布を図 2 (b)
に示す.図中の横軸は,伝送帯域幅 B(= 1/Ts) と遅
延スプレッド στ の積であり,縦軸は Pr で正規化し
ている.Bστ が大きくなるにつれて,ある一定値(例
えば Pr/1000)以上の固有値の数が増加するとともに
最大固有値の値は小さくなる.
また,得られた固有値から式 (4)に従って求めた累
積確率分布を図 2 (c)に示す.Bστ が小さい(すなわ
ち,遅延スプレッドに比べて信号のシンボル長(B の
逆数)が長い)とき,レベル変動はレイリー分布に近
く,Bστ が大きくなる(すなわち,遅延スプレッドに
比べて信号のシンボル長が短くなる)につれて,曲線
の傾きは急しゅんになりフェージング変動幅が小さく
なっている.なお,図中の実線は固有値から解析的に
求めた分布であり,・は計算機シミュレーションにより
求めた累積確率分布をプロットしたものである.両者
はよく一致しており,本解析法が有効であることが分
かる.
3. 1. 2 一様分布型の遅延プロファイル
図 3 (a)に示す方形関数型(一様分布)に対する遅
延プロファイルは,
pd (τ ) =
{Pr/τmax (0 ≤ τ ≤ τmax)
0 (otherwise)(11)
で与えられる.ここで,τmax は遅延波が分布する最大
遅延量であり,τmax = 2√3στ の関係がある.式 (11)
をフーリエ変換すると,周波数相関関数は,
ρ (∆f)=Pr
j4√3π∆fστ
·[1− exp
(−j4
√3π∆fστ
)](12)
となる.α = 0.2,δf = min(Bmax/100, 1/100στ ) と
して,式 (2),(12)より共分散行列 Λf を生成し,Λf
を固有値分解して求めた固有値分布を図 3 (b)に示す.
Bστ ≤ 0.1 では,指数分布の場合とほぼ等しい特性
となっている.また,最大固有値の分布は Bστ ≤ 0.1
の値に関係なく同様の特性となっているが,2番目以
降の固有値は Bστ の増加とともに急速に増加し最大
固有値とほぼ等しくなっている.
図 3 (c)は得られた固有値から求めた累積確率分布
である.図中の実線と・は,それぞれ固有値から解析
1643
電子情報通信学会論文誌 2005/9 Vol. J88–B No. 9
(a) Delay profile
(b) Eigenvalue characteristics
(c) Cumulative distribution
図 2 指数分布の遅延プロファイルと解析結果Fig. 2 Delay profile and analytical results for
exponential distribution.
的に求めた分布と計算機シミュレーションにより求め
た累積確率分布であり,両者はよく一致している.図
より,Bστ ≤ 0.01 ではほぼレイリー分布に等しいが
Bστ の増加とともに曲線は急しゅんとなりフェージン
グ変動幅が小さくなっている.
3. 2 離散的な遅延プロファイルの場合
3. 2. 1 等電力 2パスレイリーモデル
図 4 (a)に示す等電力 2パスレイリーモデルの遅延プ
(a) Delay profile
(b) Eigenvalue characteristics
(c) Cumulative distribution
図 3 一様分布の遅延プロファイルと解析結果Fig. 3 Delay profile and analytical results for
uniform distribution.
ロファイルは式 (5)において,L = 2,P1 = P2 = Pr,
τ1 = 0,τ2 = 2στ とおくことにより
pd (τ ) =Pr
2[δD (τ ) + δD (τ − 2στ )] (13)
で表される.行列 Λτ の各要素は式 (6)より,
µ11=µ22 =Pr
2Bmax
∫ Bmax/2
−Bmax/2
|H (f)|2 df
=Pr
2
(1− α
4
)(14)
1644
論文/レイリーフェージング環境における広帯域信号の瞬時レベル変動に関する理論解析
(a) Delay profile
(b) Eigenvalue characteristics
図 4 等電力 2 パスレイリーモデルの遅延プロファイルと固有値特性
Fig. 4 Delay profile and eigenvalue characteristics for
2-path Rayleigh distribution.
µ∗12=µ21 = µ (α)
=Pr
2Bmax
∫ Bmax/2
−Bmax/2
|H (f)|2 exp (j4πfστ ) df
=(1 + α) sinc {2π (1 + α)Bστ}+(1− α) sinc {2π (1− α)Bστ}−sinc (2πBστ )
− sin {2π (1 + α)Bστ} − sin (2πBστ )
8πBστ (1− 2αBστ ) (1 + 2αBστ )
(15)
となり,固有値は
λ1 =Pr
2{1 + µ (α)} (16)
λ2 =Pr
2{1− µ (α)} (17)
により解析的に求められる.
α = 0.2 として求めた固有値分布を図 4 (b) に示す.
λ1, λ2 はそれぞれ Pr と 0 から減少/増加し,ともに
振動しながら Pr/2 に収束する.Bστ ≤ 0.1 では,連
(a) Vehicular-A
(b) Vehicular-B
図 5 IMT-2000 評価用 Vehicularモデルの遅延プロファイル
Fig. 5 Eigenvalue characteristics of IMT-2000 Vehicular
models.
続プロファイルに対する固有値分布とほぼ等しいこと
が分かる.
3. 2. 2 IMT-2000 用 Vehicularモデル
IMT-2000 システム評価用の伝搬モデルとして広く
用いられてきた Vehicular-A,B モデル [12] の遅延プ
ロファイルは図 5 で表され,固有値特性を求めると
図 6 となる.Bστ ≤ 0.1 では,値が Pr/100 以上とな
る固有値の数はいずれも 1ないし 2であり,連続プロ
ファイルに対する固有値特性とほぼ同様の特性となっ
ている.Bστ ≥ 0.1 では,固有値は複雑に変化してい
るが,Bστ が十分大きい(信号帯域幅が十分広い)領
域では,各パスの相対電力にそれぞれ収束する.これ
は,Bστ が 1よりも十分大きければ L ブランチの最
大比合成ダイバーシチ後の C/N 変動に対応するとと
もに,スペクトル拡散通信システムにおいて,すべて
のパスを RAKE受信(最大比合成)した場合の S/N
変動特性に等しくなることを意味している [6], [13].ま
た,Vehicular-Aモデルに比べて Vehicular-Bモデル
の方が,固有値の収束する Bστ の値が大きい.これ
は,Vehicular-Bモデルの遅延プロファイルにおいて,
レベルの高い二つのパスの遅延量が近接しているため
である.
3. 2. 3 指数分布型 12パスレイリーモデル
指数分布型 12パスレイリーモデルは,OFDMシス
テムの評価などで用いられる伝搬モデルである.遅延
1645
電子情報通信学会論文誌 2005/9 Vol. J88–B No. 9
(a) Vehicular-A
(b) Vehicular-B
図 6 IMT-2000 評価用 Vehicular モデルの固有値特性Fig. 6 Eigenvalue characteristics of IMT-2000 Vehicular
models.
プロファイルと固有値特性を図 7 (a),(b)に示す.図
より,Bστ ≤ 1 では,連続な指数分布型モデルの固有
値分布とほぼ等しい特性となっている.信号帯域幅が
十分広い領域 (Bστ ≥ 10)を比較すると,12パスモデ
ルではパス電力に等しい固有値に収束するのに対して,
連続な指数分布型モデルでは,固有値数は 12 よりも
多くなり,固有値特性は互いに異なったものとなって
いる.
4. レベル変動幅の比較
本章では,前章で解析した各伝搬モデルに対する累
積確率分布からレベル変動幅(フェージングの深さ)
を求めて比較する.
4. 1 遅延プロファイルが連続な場合
指数分布及び一様分布に対するレベル変動幅を図 8
に示す.図中の横軸はパラメータによる依存性を排除
(a) Delay profile
(b) Eigenvalue characteristics
図 7 指数分布型 12 パスレイリーモデルの固有値特性Fig. 7 Eigenvalue characteristics for 12-path Rayleigh
distribution.
するため Bστ とした.縦軸はレベル変動量(フェージ
ングの深さ)であり,各伝搬モデルに対して累積確率
の区間が 1~50%及び 0.1~50%のレベル変動幅の特
性を描いている.いずれの特性もおおむね一致してお
り,Bστ の増加とともにフェージング変動幅は 0 dB
へ近づくことが分かる(ただし,Bστ > 6 では Λf の
サイズが大きくなり,計算負荷が非常に重いので算出
していない).
4. 2 遅延プロファイルが離散的な場合
2 パスレイリーモデル,Vehicular モデル及び指数
分布型 12 パスレイリーモデルに対するレベル変動
特性を図 9 に示す.Bστ ≤ 0.1 では,累積確率の区
間がほぼ等しい変動特性となっており,連続プロファ
イルの特性ともおおむね一致する結果となっている.
Bστ ≥ 0.1 では,各モデルによって異なる特性となる
が,それぞれのパス数,相対電力に応じたダイバーシ
チ合成後のレベル変動特性に収束していることが分か
る.また,Vehicular-Bモデルの特性は,固有値の収
束が遅い分レベル変動の収束する値が大きくなってい
る.指数分布型 12パスモデルについては,Bστ ≥ 10
で一定の値に収束しているものの,Bστ ≤ 3 で,連続
1646
論文/レイリーフェージング環境における広帯域信号の瞬時レベル変動に関する理論解析
図 8 連続な遅延プロファイルのレベル変動特性Fig. 8 Level variation characteristics for continuous
delay profiles.
図 9 離散的な遅延プロファイルのレベル変動特性Fig. 9 Level variation characteristics for discrete delay
profiles.
な指数分布のモデルとほぼ等しい特性となっている.
5. む す び
レイリーフェージング環境における広帯域信号の瞬
時レベル変動特性を固有値解析を用いて理論的に求め
る手法を提案した.提案手法は,最大比合成によるダ
イバーシチ合成の理論解析法に基づいており,連続な
遅延プロファイルあるいは遅延間隔が一定でない離散
パスで表現される任意の伝送路に対して適用可能であ
る.提案手法による解析結果を計算機シミュレーショ
ンの結果と比較しよく一致することを確認した.提
案手法により,連続な遅延プロファイルと離散的な遅
延プロファイルを有する様々な伝搬モデルに対して瞬
時レベル変動特性を求め,フェージングの深さを比較
した.その結果,周波数帯域幅が遅延スプレッドの逆
数の 1/10 以下である狭帯域信号に対しては,瞬時レ
ベル変動遅延プロファイルの形状には依存せず遅延ス
プレッドの値のみによって決まることを確認した.一
方,周波数帯域幅が遅延スプレッドの逆数に対して十
分広い場合,連続な遅延プロファイルに対するレベル
変動特性はあまり大きな差は生じず,等価伝送帯域幅
(Bστ )が増えるに従って 0 dB に近づく.離散的な遅
延プロファイルの場合は,レベル変動の残差が残るこ
とが分かった.レベル変動の残差は各パスの平均電力
をダイバーシチ合成した信号のレベル変動特性と等
しくなることが分かった.また,瞬時インパルス応答
(スナップショット)のパス数,各パスの瞬時振幅,遅
延量が統計的に与えられる広帯域伝搬モデルに対して
も,十分広帯域な信号のレベル変動特性を解析的に求
めることができることを示した.
謝辞 本研究を遂行する上で,御指導,御支援下さ
いました KDDI 研究所浅見徹所長,野本真一執行役
員及び武内良男グループリーダに感謝します.
文 献
[1] J.D. Parsons, The mobile radio propagation channel,
pp.161–164, Pentech Press, 1992.
[2] H. Iwai and Y. Karasawa, “Wideband propagation
model for the analysis of the effect of the multi-
path fading on the near-far problem in CDMA mobile
radio systems,” IEICE Trans. Commun., vol.E76-B,
no.2, pp.103–112, Feb. 1993.
[3] S. Kozono, “Received signal-level characteristics in a
wideband mobile radio channel,” IEEE Trans. Veh.
Technol., vol.43, no.3, pp.480–486, Aug. 1994.
[4] A. Yamaguchi, K. Suwa, and R. Kawasaki, “Received
signal level characteristics for wideband radio chan-
nels in line-of-sight microcells,” IEICE Trans. Com-
mun., vol.E78-B, no.11, pp.1543–1547, Nov. 1995.
[5] 清野周一,山口 彰,小園 茂,“移動通信における広帯域伝送時の瞬時レベル分布の一検討,” 信学論(B-II),vol.J79-B-II, no.8, pp.504–506, Aug. 1996.
[6] 守松栄松,“広帯域移動通信における受信レベルとパスダイバーシチ,” 信学技報,A・P93-65, Sept. 1993.
[7] 唐沢好男,ディジタル移動通信の電波伝搬基礎,コロナ社,2003.
[8] 斉藤洋一,“大数の法則と中心極限定理,” ディジタル無線通信の変復調,pp.243–245,(社)電子情報通信学会,1996.
[9] W.C.Y. Lee, “Maximum ratio combining,” in Mobile
Communications Engineering, pp.304–308, McGraw-
Hill, New York, 1982.
[10] 井上 隆,唐沢好男,“最大比合成によるフェージング抑圧性能の解析法―共分散行列の固有値に等しい値を含む場合,” 信学論(B),vol.J86-B, no.9, pp.2000–2008, Sept.2003.
1647
電子情報通信学会論文誌 2005/9 Vol. J88–B No. 9
[11] 井上 隆,唐沢好男,“マルチパスフェージング環境における広帯域信号のレベル変動特性に関する理論解析,” 信学技報,A ·P98-40, Aug. 1998.
[12] “Test environments and deployment models,” Rec.
ITU-R M.1225, Annex 2, pp.194–215, 1997.
[13] T. Inoue and Y. Karasawa, “Theoretical analysis
on the performance of optimal combining for multi-
path waves distributed in spatial and time domains,”
IEICE Trans. Commun., vol.E83-B, no.7, pp.1426–
1434, July 2000.
付 録
離散的な遅延プロファイルに対する解析法
微小周波数 δf → 0 とすると,Λf の固有値分解の
問題は
λX (f)=
∫ Bmax/2
−Bmax/2
ρ(f − f ′)
·H∗ (f)H(f ′)X (
f ′) df ′ (A·1)
で表される積分方程式に対する固有値分解の問題にな
る.遅延プロファイルが L パスの離散的な遅延波成分
の和として
pd (τ ) =
L∑i=1
Pi · δD (τ − τi) (A·2)
で表されるとすると,ρ (∆f) は,pd (τ ) のフーリエ
変換として
ρ (∆f) =
L∑i=1
Pi · exp (−j2π∆fτi) (A·3)
で表される.式 (A·3)を式 (A·1)に代入すると,
λX (f)=
∫ Bmax/2
−Bmax/2
[L∑
i=1
Pi exp{−j2π
(f −f ′)}]
·H∗ (f)H(f ′)X (
f ′) df ′
=
L∑i=1
{PiH∗ (f) exp (−j2πfτi)
·∫ Bmax/2
−Bmax/2
H(f ′)X (
f ′)· exp
(j2πf ′τi
)df ′} (A·4)
ここで,
ai (f) =√PiH
∗ (f) exp (−j2πfτi) (A·5)
bi=√Pi
∫ Bmax/2
−Bmax/2
H(f ′)X(
f ′) exp (j2πf ′τi
)df ′
(A·6)
とおくと,式 (A·4)は,
λX (f) =
L∑i=1
ai (f) · bi (A·7)
となる.式 (A·6)と式 (A·7)からX (f)を消去すると,
λbi =√Pi
L∑k=1
{bk
∫ Bmax/2
−Bmax/2
ak (f)
·H(f ′) exp (
j2πf ′τi
)df ′} (A·8)
となり,式 (A·5)を用いて ai (f) を消去し,式を整理
すると,
λbi=
L∑k=1
[bk
√PiPk
∫ Bmax/2
−Bmax/2
∣∣H (f ′)∣∣2
· exp{j2πf ′ (τi − τk)
}df ′] (A·9)
が得られる.ここで,
µik=√PiPk
∫ Bmax/2
−Bmax/2
∣∣H (f ′)∣∣2
· exp{j2πf ′ (τi − τk)
}df ′ (A·10)
とおくと,式 (A·9)は,
λbi =
L∑k=1
bk · µik (A·11)
となる.更に,µij を第 i行第 j 列の要素とする L×L
の行列を Λτ とし,
b = [b1, b2, . . . , bL]T (A·12)
とすれば,式 (A·11)は,
λb = Λτ · b (A·13)
となり,行列 Λτ の固有値問題に帰着することが分か
る.なお,行列 Λτ は遅延軸上で固有値分解する解析
手法において生成する共分散行列と同一である.(平成 17 年 1 月 11 日受付,4 月 15 日再受付)
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論文/レイリーフェージング環境における広帯域信号の瞬時レベル変動に関する理論解析
井上 隆 (正員)
昭 61 京大・工・電子卒.昭 63 同大大学院修士課程了.同年 KDD 入社.ディジタル衛星通信システムの研究開発に従事.平7 国際電気通信基礎技術研究所(ATR)に出向,陸上移動通信用スマートアンテナシステムの研究に従事.平 10 に KDD 研究
所に戻り,CDMA 移動通信基地局用スマートアンテナ方式,直接中継リピータ方式の研究開発に従事.現在,KDDI 研究所主任研究員.
唐沢 好男 (正員)
昭 48 山梨大・工・電気卒.昭 52 京大大学院修士課程了.同年 KDD 入社.以来,無線伝送技術(無線通信の電波伝搬,アンテナ,ディジタル伝送特性)の研究に従事.平 5 国際電気通信基礎技術研究所(ATR)に出向.平 5~8ATR 光電波通信研究所研
究室長,平 8~9ATR環境適応通信研究所研究室長,平 9 KDD
研究所主幹研究員.平 11 より電通大・電子・教授.平 12 阪大大学院・工・客員教授(併任).工博.昭 57 年度本会学術奨励賞,平 9 科学技術庁注目発明,平 10 電波功績賞(電波産業会)受賞.IEEE,URSI,計測自動制御学会各会員.
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