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偽痛風 リウマチ科 東岡 和彦

リウマチ科 東岡 和彦 - 日本赤十字社 松山赤十字病院 J Clin Immunol (2010) 治療 ・基本的には痛風発作とじ。 ・単関節炎の場合、関節内ステロイド注射(ケナコルト10~20mg

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偽痛風

リウマチ科

東岡 和彦

偽痛風とは?

・軟骨の代謝の一部を担うピロリン酸カルシウム二水和物(calcium pyrophosphate dehydrate :CPPD )結晶に対する炎症反応を主体とした関節症。

・高齢者に多い特発性のほか、二次性の原因として甲状腺機能低下症・副甲状腺機能亢進症・ヘモクロマトーシス・低マグネシウム血症などの代謝性疾患があり、外傷や手術・感染も誘発因子となりうる。

若年発症の場合、上記のスクリーニングを考慮。

診察では

・比較的高齢者の単関節炎(ときに多関節炎)・発熱・炎症反応上昇のときに

鑑別される。

・関節腫脹あり、特に単関節炎のときに痛風や感染性関節炎、変形性関節

症などと共に主要な鑑別診断となる。

診断

・血液検査・単純写真・関節穿刺が特に重要

・血液検査にて炎症反応上昇、単純写真にて石灰化、関節穿刺で感染の

除外および結晶の有無を主にみる。

・ピロリン酸カルシウム結晶は長方形状の結晶、尿酸結晶の痛風は針状

・偏光顕微鏡にて負の屈折率:尿酸結晶 正の屈折率:ピロリン酸カルシウム

単純写真

膝関節:関節軟骨石灰化あり 手関節:三角靭帯の石灰化あり

結晶のうつりかた

ピロリン酸カルシウム結晶は正の複屈折性で長方形状

尿酸ナトリウム結晶は負の複屈折性で針状

Z’軸と呼び、結晶長軸が

これと平行の時青色、垂直のとき黄色を示す場合正の複屈折性と呼ぶ。

逆の場合負の複屈折性と呼ぶ。

診断の注意点①

・単純写真上、軟骨石灰化をきたしていない偽痛風も約40%存在する。

・逆に、症状なく軟骨石灰化をきたしている人もおり(90歳では50%軟骨石

灰化を有しているとか)単純写真だけ重要視するのは危ない。

・関節液結晶の感度も高くはなく(82%と報告例あり)、陰性でも単純写真上の軟骨

石灰化や他疾患除外により臨床的に偽痛風と診断されることも少なくない。

・結晶が認められて関節液グラム染色・培養が陰性でも、必ずしも感染を否

定できない(特に淋菌は10~20%ほどの陽性率)

診断の注意点②

・診断は臨床所見や病歴も含めて総合的に行う。陽性所見が少ないときも考えられる。

・他疾患、特に感染症の除外は必須。少しでも感染症を疑うならば抗菌薬併用もためらわ

ない(ほうがいい気がする)。 使わない場合、慎重な経過観察がのぞまれる。

・発作性に起こり、無治療・NSAIDs内服で自然軽快する事が多いのが重要な臨床経過。

自然免疫と獲得免疫

微生物

自然免疫 獲得免疫

Bリンパ球 皮膚・粘膜

などのバリア

食細胞

補体 NK細胞

Tリンパ球

抗体をつくる

免疫を強化

数時間

感染からの時間

数日

簡単に言うと‥

自然免疫は短時間で非特異的に反応するため、遷延しない。

【結晶性関節炎発症のメカニズム】

• インフラマソームとは、複数のタンパク質からなるタンパク複合体で,細胞質内の異物(病原微生物成分や尿酸結晶など)を認識する受容体を介してシグナル伝達を行う分子群である。

• 近年結晶性関節炎における炎症惹起のメカニズムはインフラマソーム依存性であることがKO

マウスの実験系で証明されている。

• インフラマソームによりカスパーゼ1の活性化が生じIL-1βが産生される。IL-1βがケモカインを誘導し好中球を動員する。

• あくまで自然免疫系の反応なので炎症が生じても遷延せず、自然に収束することが多い。

Inflammasome

activation

Naik: J Clin Immunol (2010)

治療

・基本的には痛風発作と同じ。

・単関節炎の場合、関節内ステロイド注射(ケナコルト10~20mg etc)が有効

(とにかく感染の除外をしてから)

・注射できない場合や多関節炎の場合、内服治療が考慮。

→NSAIDsやコルヒチン、PSL少量短期内服

※腎機能が悪い場合などは、感染除外を確認し(念頭において)PSL使用

を特に考慮。

典型例

• 2003年発症の当科関節リウマチ患者。MTX 8mg/週+PSL 5mgでずっと寛解だった。

• 3日前に右膝痛・腫脹が出現し、当院救急受診。アセトアミノフェンを処方されたが改善せず当科受診。CRP 9.96mg/dlと上昇(普段は0.5mg/dl前後)。

• 右膝のみ、発赤・熱感の強い関節腫脹を認めた。

リウマチの悪化?細菌感染?結晶性関節炎?

リウマチの悪化にしては単関節のみだしRF上昇もないし‥

膝X線写真

関節穿刺液

CPPD結晶 陽性

尿酸結晶 陰性

その他結晶 陰性

細菌培養 陰性

PSL 20mg x 3日間+NSAIDsで、1週間後再診時症状消失。

Crowned dens syndrome

・歯突起(=dens)周囲に結晶沈着することでおこる疾患。

歯突起が王冠をかぶっている(=crowned)、という事で名づけられた。

・偽痛風の原因であるピロリン酸カルシウムが主要だが、ハイドロキシアパタイトの

関与もあるといわれている。

・歯突起周囲:環椎十字靭帯・翼状靭帯などの靭帯や滑膜、関節包をさす

環椎・軸椎周囲の解剖①

環椎・軸椎周囲の解剖②

症状・鑑別

・偽痛風の好発部位は膝関節・手関節・MCP関節・肘関節・肩関節・股関節・足

関節などだが、稀に脊椎に結晶沈着が起こる。

・発熱・後頚部痛・頭痛・項部硬直・首がまわらないなどの主訴で来院する。

・髄膜炎・側頭動脈炎・リウマチ性多発筋痛症・癌骨転移・椎体椎間板炎などに誤

診された症例多く、必ず鑑別しなければならない。

診断・治療

・頚部痛・CTにて歯突起周囲に石灰化をきたしていること・炎症反応上昇(WBC, CRP)・他疾患除外・臨床経

過でNSAIDs著効 などにより総合的に診断する。

・CT上、歯突起周囲に石灰化をきたしているものが典型的(特に歯突起後方に弧を描くような石灰化がある事)

・ただしCT上石灰化をきたしていない症例もあり、絶対ではない。

(頚部痛発症し比較的遅くCT撮影した場合などが考えられる=吸収された?)

・治療は偽痛風にのっとり、NSAIDsやステロイド内服。

ある報告では・・①

・Crowned dens syndromeと診断した40例をretrospectiveに検証

・激しい頚部痛(VAS=visual analog scaleが70以上)・CT上石灰化をきたして

いる・他疾患除外したことで診断

(症状出現してから全員1日以内に受診)

・65%以上が70歳以上、他関節に石灰化をきたしている症例も65%

・神経学的異常所見ないが、ほぼ全員頚部運動制限(特にrotation)あり

J Bone Joint Surg Am.2007;89:2732-6

ある報告では・・②

・発熱・WBC上昇・CRP上昇のいずれかは全員あり

(WBC:9700~14,700/μl CRP:0.3~14.1 mg/dl)

・過去に偽痛風発作を起こしたことある人は55%

・NSAIDs・ステロイドにて全員効果あり、1/4では石灰化消失を確認した

・石灰化の場所も歯突起後方のみでなく、側方や前方に認めることも少な

いがある(後方を含まないのは10%のみ)

J Bone Joint Surg Am.2007;89:2732-6

画像所見

前方:5%

後側方:27.5%

後方:50%

側方:5%

Take home message

・偽痛風は関節炎、特に急性単関節炎の重要な鑑別疾患。

・高齢者の発熱・頚部痛・炎症反応上昇はCrowned dens syndromeが鑑別

疾患にあがる。

・いずれも感染症(化膿性関節炎・髄膜炎)、くも膜下出血などの特に緊急を

要する他疾患の除外が優先(上記2つの疾患では致命的にならない)。

・診断は症状・血液検査・画像検査・各種培養検査・臨床経過含め総合的

に行う。