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ごあいさつ - KIIS · 昨年はaiやiotが産業、経済社会の各分野に急激に普及すると共に、一方でサイバーセキュ リティの取組みにも進展がありました。一方では大災害にも見舞われ、防災、減災対策へも関心

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ご あ い さ つ

一般財団法人関西情報センター

会長 森下 俊三

 皆さま、新年明けましておめでとうございます。

 昨年は AI や IOT が産業、経済社会の各分野に急激に普及すると共に、一方でサイバーセキュ

リティの取組みにも進展がありました。一方では大災害にも見舞われ、防災、減災対策へも関心

が高まった一年でもありました。今年はこの流れが一層進展するものと考えており、気持ちを新

たに、皆さまと共に、この新しい時代を邁進してまいりたいと考えておりますので、どうぞよろ

しくお願い申し上げます。

 私ども財団は、1970年(昭和45年)5月29日に設立され、本年5月で設立50年を迎えます。当時

はちょうど情報化社会の始まりの時期で、関西に情報化社会をけん引する中枢管理機能の拠点が

是非とも必要だという構想が打ち出されました。そこで関西の主要経済団体が主体となって、国

の機関、地方公共団体並びに学会等のご協力を得て検討を重ねた結果、この構想を実行するため

の広域的かつ公共的な機関として、関西情報センターが設立されたものでございます。

 それから50年間、我々を取り巻く社会や経済状況が大きく変わるのに合わせて、常に時代の先

端を行くよう、また会員企業皆さまの要請に応えるべく取組むテーマを選ぶことに努めてまいり

ました。これまで来られましたのも、設立・運営にかかわっていただいた国の機関、地方公共団体、

大学、経済団体、賛助会員等の皆さま、諸先輩方のご指導、ご支援の賜物にほかなりません。こ

の場をお借りしまして、重ねて厚く御礼を申し上げます。

 ここで、設立初期段階の事業活動と現在の主要な取組みについて、簡単にご紹介させていただ

きたいと存じます。

1970年

 設立された1970年は情報化社会の始まりの時期でございましたので、大きく二つの取組み、

「情報化の普及・推進の活動」 と 「調査研究の活動」 に分けてご紹介致します。

 一つ目の 「情報化の普及・推進の活動」 ですが、先ず大型電子計算機向けのソフトウェア開発

がございます。統計処理などの情報処理を目的とした汎用ソフトウェアの開発のほか、「経営財務・

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利益のシミュレーションモデル」や 「生産管理システム」 の開発など、企業の経営管理情報のシ

ステム化といった社会共通のシステム開発にも取組んでおりました。なお、この大型電子計算機

ですが、これは大阪万博で使われたのち、私ども財団に移設された経緯がございます。次に普及

啓発活動と致しましては、関西企業の経営トップ層に対して情報化の実態や方向性を知っていた

だくための取組みとして、当時情報化が大きく先行する欧米への視察団の派遣、六甲山ホテルに

おける連日三日に亘るセミナー 「トップマネジメント・セミナー」 を実施するなど、関西地域の

情報化の環境づくりに精力的に取組んでいた様子が伺えます。また、医療情報のシステム化も当

時の社会テーマの一つであり、これも産・官・学のご協力得て最新の研究成果発表や情報交換を

する場として国際シンポジウムの大阪開催や国内の関係者ネットワークづくりを支援致しました。

これらの活動は、その後の病院における医療情報管理システムの開発・導入の契機になったと認

識しております。

 二つ目の 「調査研究の活動」につきまして、当時のテーマをいくつか拾ってみますと、①交通

渋滞、大気汚染といった高度成長期を経て顕在化してきた都市問題への対応支援 ( 予測システム

の開発やデータベース化)、②地震による被害予測の実施と防災計画の検討、③コンピュータ技術

者不足を背景とした人材育成プログラムの実施といった取組みがございました。当時の社会経済

状況を背景に、大型電子計算機の活用やソフトウェアの開発など、その時代の最新の技術力をも

って、情報化の推進や社会共通の課題解決に注力していた様子が伝わってまいります。このよう

な取組み姿勢は、50年経った今も変わらず脈々と受け継がれているものと確信する次第でござい

ます。

2020年

 今日は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展と呼ばれますように、AI や ICT な

どのデジタル化が急速に進展し、産業構造があらゆる面で変革してきております。また、2025年

に大阪・関西万博の開催が決定し、現在 「未来社会」 の実現に向けた新しいアイデアが検討され

ている状況にございます。関西地域の再生・創生といった面におきましても、新しいビジネスモ

デルが生まれることで、再生・創生に向けた大きなきっかけとなるのではないかと期待している

ところでございます。一方で、大型台風や地震による自然災害が頻繁に発生し、その被害が甚大

化する傾向にあります。また、サイバー犯罪の深刻化や社会インフラ設備の老朽化などもますま

す懸念される状況にございます。私ども関西情報センターは、地域に根差す会員企業の皆さまや

地方自治体の皆さまに対し、こうした新しい技術や社会が抱える共通の課題とどのように付き合

っていくのか、またどのように自分たちの事業で対処していけば良いのかを共に考える場、プラ

ットフォームを提供していこうと取組んでいるところでございます。

 ここで、関西情報センターが最近取組んでおります主要なテーマをいくつかご紹介させていた

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だきます。まず、情報セキュリティ分野につきましては、関係する先生方のご協力も得まして、

セミナーの開催、セキュリティのご担当者がざっくばらんに意見交換出来るコミュニティ形成の

場としてサロンの開催、また、セキュリティ担当人材やマネジメント人材の育成を目的とした研

修プログラムを提供しております。このサイバーセキュリティ研究会につきましては、ご好評を

いただいており、ようやく軌道に乗ってきたものと考えております。東京では、高度なセキュリ

ティ人材に向けた育成の研修はありますが、関西情報センターと致しましては、むしろ関西の地

で各企業のセキュリティマネジメントが出来る人材を育てていけるような場をご提供したいと考

えております。皆さま方にも是非こうした場を積極的にご活用いただければと考えております。

一昨年からは、近畿経済産業局様、近畿総合通信局様と共に、関西サイバーセキュリティネット

ワークの事務局として、関西地域のサイバーセキュリティの向上に向けた取組みにもご協力させ

ていただいております。次に、AI の分野におきましては、これも大学の先生や企業の方々のご協

力をいただき、研究会を立ち上げ、企業の方々向けに実際にビジネスの現場で AI を活用・実装

していくための技術的ノウハウを習得していただくセミナーも開始しております。AI の技術をど

のように活用したらよいか、そのきっかけを提供出来るよう引き続き来年度も開催する予定です

ので、こちらもご活用いただきますと幸いです。また、大阪北部地震や大型の台風等、近年多く

の災害に見舞われ、将来的には南海トラフ地震についても警鐘が鳴らされておりますが、こうし

た災害に対応すべく、企業・自治体・国が被災情報を共有するシステムの整備に向けて、大学の

先生や企業の方々のご協力をいただき研究会を立ち上げており、来年度には具体的な企画書をま

とめ事業化を進めてまいりたいと考えておりますので、引き続き、皆さまの積極的なご参加とご

支援をお願い申し上げます。最後に、老朽化する社会インフラへの対応につきましても、大学の

先生や企業の方々のご協力をいただき研究会を立ち上げており、老朽化する社会インフラの予防

保全と効果的・効率的な維持管理を目的として、センサのコード管理と関連する設置データ等の

標準化を図るべく取組んでおり、これも来年度の事業化に向けて鋭意取組む所存ですので、皆さ

まの積極的なご参加とご支援をお願い申し上げます。

おわりに

 関西情報センターはこれからも会員企業の皆さまのために、急激に進展する情報通信に関する

情報を的確にまたタイムリーに情報提供する場、そして議論し研鑽を積める場を提供出来るよう、

一大情報センター、一大頭脳集団の役割を果たしてまいりたいと考えておりますので、引き続き、

皆さまのご指導とご支援を賜りますよう重ねてお願い申し上げます。

 この一年、皆さまのビジネスが更に発展されることを祈念すると共に、設立50周年を迎えるに

あたり私からのご挨拶とさせていただきます。

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特集:脳科学の最前線~ビジネスへの応用~

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なぜ今脳科学なのか

 脳細胞の数は1千数百億個あると言われている。多

いように感じるかもしれないが、身体全体の細胞数は

約60兆個と言われており、脳細胞の数は0.02%程度し

かない。脳の重さは女性で約1.2㎏、男性で約1.3㎏で

あり、おおよそ体重の2%しかない。

 このように小さな脳が今ほどマスコミに登場し一般

の人々に関心を持たれているときはないだろう。もち

ろん、脳に関心を持っているのは一般の人々だけでは

ない。医師、科学者、そして企業も、脳、とりわけ脳

の機能、構造に関心を寄せている。脳の機能や構造を

科学するのが「脳科学」であるが、今、最も世界的に

注目されている科学研究分野の一つである。

 脳科学は、人工知能や、IoT、ビッグデータ解析な

ど情報技術の進化に伴ない、欧米を中心に宇宙や遺伝

子に次ぐ国家間の研究開発競争の一大テーマとして急

萩原 一平 株式会社 NTT データ経営研究所 エグゼクティブ・オフィサー

脳科学の最前線~ビジネスへの応用~

図1:脳科学をカリキュラムに入れる世界のビジネススクール

内 容

なぜ今脳科学なのか…………………………………………………………………………………………………4

脳関連疾患の増大とそれに伴う社会的費用の増加……………………………………………………………5

高まる「心の豊かさ」「個へのこだわり」への欲求……………………………………………………………6

ITの進化とインターネットの普及によるデータとエネルギーの増加… ……………………………………7

脳科学と人工知能の融合が創るスマートビジネスへの道……………………………………………………9

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特集:脳科学の最前線~ビジネスへの応用~

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成長している。 2014年から始まっている米国の脳研

究プロジェクトである「BRAIN Initiative」では、研

究開発への拠出基金は年々増加し、2017年には4億ド

ル(約440億円)を超える政府基金が拠出されている。

EU では、米国より早く、2013年から「Human Brain

Project」という脳と人工知能を研究する10年間のプ

ロジェクトが進んでおり、投資総額は12億ユーロ(約

1,440億円)と言われている。中国でも「脳科学と脳

型計算機」プロジェクトに2010年には3.4億元(約60

億円)であった予算が2013年には5億元(約86億円)

と増加している。

 さらに、ビジネスの側面から注目すべきは、世界の

主だったビジネススクール30校以上が脳科学に着目

し、すでにカリキュラムへの導入等を行なっているこ

とだ(図1参照)。脳研究者と経営学者が共同で消費

者脳科学、人材育成のための脳科学、経営のための脳

科学など、脳科学を活用した様々な方法論の研究開発

も行なっている。これが何を意味しているのかは明白

である。ビジネスにとって人間の脳を知ることが基礎

知識として必要だということだ。

 これほどまでに脳科学が注目されるのは、以下のよ

うな脳科学が必要とされる3つの不可避な世界的大潮

流があるからだ。

① 脳関連疾患の増大とそれに伴う社会的費用の増加

② 高まる「心の豊かさ」「個へのこだわり」への欲

③ IT の進化とインターネットの普及によるデータ

とエネルギーの増加

 以下で、それぞれについてもう少し詳しく述べる。

脳関連疾患の増大とそれに伴う社会的費用の増加 世界的に高齢社会化、高ストレス社会化が進んでお

り、認知症、脳卒中、うつ病、慢性疼痛等の脳・精神

疾患が増大している。高度医療の目覚ましい進化によ

り様々な治療が可能になり、脳・精神疾患以外の病気

については人工臓器をはじめ、様々な治療方法が開発

されている。その結果、人間の寿命は延びているが、

脳は代替が効かず、今のところ一度壊れた脳細胞は元

には戻らない(もちろん、脳細胞の一部が無くても日

常生活が普通にできる場合はある)。

 それゆえ、世界的に増加する認知症、脳卒中、うつ

病、等の脳・精神疾患の増大とその社会的費用の増加

が各国で問題になっている。

 全世界で3秒に一人が認知症を発症しているともい

われ、2018年には約5,000万人いる患者が2030年には

7,500万人、2050年には現在の3倍、約1億5,000人に達

する見込みである1)。認知症による死亡は 2000 年から

2016 年 の間に倍以上となり、2000年の世界の死亡原

因第14位に対し2016年では第5位となった2)。同様に、

全世界で2秒に一人が脳卒中を発症し、2016年には

580万人が死亡しており、死亡原因の第2位と言われ

る3)4)。うつ病有病者は世界の全人口約70億人の約4%

にあたる約3億人で、ストレス社会と言われている先

進国だけではなく、発展途上国でも目立ち、今や地域

に関係ない世界的現象である5)。

 直接、死亡とは関係ないが、腰痛や肩こり、冷え性

などの慢性疼痛も脳と関係している。実は、痛みを

感じているのは、腰や肩、足先などではなく、脳であ

る。我々の身体には痛みを感じる感覚器官 ( センサー )

が身体中に張り巡らされているが、それらは全て脳に

つながっており、脳が痛いという信号を出しているの

だ。慢性疼痛には様々な種類があるが、これらは精神

疾患との関係が深く、気分障害、不安障害などの様々

な精神疾患の併病率が約1.5~3倍程度高いという 。

 このような脳関連疾患の増大は、医療費はもとよ

り、介護費用、企業の非就労による経済損失等、社会

的費用の増加につながっており、世界的に大きな問題

となっている。すでに、脳・精神疾患による社会費用

は EU で112兆円、日本でも27兆円6) と推計されてい

1) Alzheimer's Disease International「World Alzheimer Report 2015」「World Alzheimer Report 2018」(2018年の値)

2) WHO ファクトシート死亡原因トップ10 https://www.japan-who.or.jp/act/factsheet/310.pdf

3) https://www.stroke.org.uk/sites/default/files/state_of_the_nation_2017_final_1.pdf

4) http://www.who.int/gho/mortality_burden_disease/causes_death/top_10/en/

5) http://www.who.int/en/news-room/fact-sheets/detail/depression6) 『慢性痛のサイエンス 脳からみた痛みの機序と治療戦略』

(McWilliams LA, Cox BJ, Enns MW, Mood and anxiety disorders associated with chronic pain: an examination in a nationally representative sample, Pain 106)、半場道子、医学書院、2017年

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特集:脳科学の最前線~ビジネスへの応用~

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る7)。すなわち、脳科学研究は待ったなしの状況にある

ということだ。

高まる「心の豊かさ」「個へのこだわり」への欲求 二つ目の大潮流はグローバル化、ボーダーレス化に

伴なうモノ・サービス・情報の普及・拡散速度の加速

により高まる「心の豊かさ」「個へのこだわり」欲求

の増加である。日本では、1980年代から「物の豊か

さ」よりも「心の豊かさ」を求める人々が増えており、

2016年には「物の豊かさ」を求める人が30%前後に

落ちている一方、「心の豊かさ」を求める人が60%以

上に増えている8)。もちろん、若い人の方が物に対す

る欲求は高く、高齢になるにつれ物はあるので心の豊

かさが重要という人が増えるので、高齢社会化の影響

は無視できない。しかし、倍以上の差がある点は注目

7) http://www.keieiken.co.jp/aboutus/newsrelease/140401/index.html、応用脳科学リサーチプロジェクト2013』、NTT データ経営研究所

8) 内閣府大臣官房政府広報室『国民生活に関する世論調査』2017.6

すべきである。消費者の物やサービスに対する価値観

も2000年から2015年の間に大きく変わっており、安

くて経済的なものやサービスよりも、自分のライフス

タイルにあったもの、自分の好きなもの、自分が気に

入ったものなど「個 ( 自分 ) へのこだわり」傾向が高

くなっている9)。この現象に拍車をかけた重要な背景の

一つとして、IT の進化とインターネットの普及があ

ることは間違いない。

 インターネットの普及は、ニッチ商品(テール)の

販売額の合計が、市場売上の8割を占める市場にある2

割のヒット商品(ヘッド)の販売合計額を上回る、い

わゆるロングテール現象を引き起こしたことは旧知で

ある。当時、この現象は、無限の売り場スペースを持

てるネットビジネスでは流通・在庫コストを削減し少

量多品種の品ぞろえが可能であり、このテール(ニッ

チ商品)がヘッド(ヒット商品)の売上を超えるとい

9) 経済産業省「「消費者理解に基づく消費経済市場の活性化」研究会(消費インテリジェンス研究会)報告書」(野村総合研究所「生活者1万人アンケートにみる日本人の価値観・消費行動の変化」)

図2:インターネットによるマスパーソナライゼーションの潮流

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特集:脳科学の最前線~ビジネスへの応用~

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うことで、Amazon や Netflix が代表的な事例として取

り上げられた。

 今やスマホの普及により、2018年における日本国

内の BtoC の EC 市場規模は約18兆円、フリマアプリ

市場は2012年の登場からわずか6年で6,000億円を超え

る巨大市場に成長している10)。

 しかし、消費者目線で重要なことは、インターネッ

トにより一人ひとりが自分の好きなものを手に入れる

「個のこだわり」が可能になったということである。

すなわち、マスマーケットという大きな市場から個に

着目した「マス・パーソナライゼーション」の流れが

できたということである(図2参照)。

 さらに、その先には「フル・パーソナライズ」され

たオーダーメイド商品がある。紳士服に代表される

高い、時間がかかる、しかし高級というオーダーメイ

ドから、低コスト化、簡易化、大衆化が進むことは間

違いない。誰もが、安く早く簡便に自分に合った、自

分の好きなものやサービスを手に入れることができる

「デジタル・オーダーメイド」の時代がすぐそこまで

来ているのだ。これは日本だけの現象ではなく、もの

余り社会と言われる先進国共通の傾向であることは間

違いなく、メーカーのみならずサービス業にも大きな

変革を迫るものである。

 既に、世界のリーディング企業は、「デジタル・オー

ダーメイド」に関する研究開発を行なっているが、日

本でも同様の流れがある。例えば、化粧品メーカーで

ある資生堂は、既に2018年から、その時々の個人の

肌環境に合わせた IoT スキンケアシステム「Optune」

を開発、販売をしている11)。

 このように一人ひとりが「心の豊かさ」を求め「個

へのこだわり」を持つ「マス・パーソナライゼーショ

ン」と「デジタル・オーダーメイド」の時代において、

企業は一人ひとりを満足させる製品やサービスを提供

しなければならない。

 ここで、重要なことは従来の統計的な市場解析だけ

10) 平成30年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)報告書、平成31年5月 経済産業省

11) 資生堂ホームページ https://www.shiseido.co.jp/optune/

では消費者のニーズを知ることはできないということ

だ。単純な統計解析の多くはマスの傾向を捉えるため

に使われているが、これから問われるのは一人ひとり

が満足する製品をどう作るかである。言い換えれば、

新たな市場では、企業は一人ひとりの脳をどう満足さ

せるかを探求しなければならない。そのためには、以

下の3つの KFS を押さえることが必要である。

Key 1 :個人ごとに異なる脳の中にある無意識的な欲

求の探索と発見

Key 2 :脳の欲求に対する素早い対応(遅いというの

は脳で生じる典型的な不快情動の原因)

Key 3:Key1、Key2の達成に向けた脳科学とデジタル

テクノロジー(特に AI、IoT)の活用

ITの進化とインターネットの普及によるデータとエネルギーの増加 最後の大潮流は、言うまでもなく、AI、携帯端末、

環境 / 人間計測センサーの進化による IoT(Internet

of Things)、 IoH(Internet of Human/Health)、 IoB

(Internet of Brain/Body)など無限に拡大する情報通

信ネットワークがもたらす情報量の増加と電力エネル

ギーの限界である。

 国立研究開発法人科学技術振興機構・低炭素社会戦

略センターの調査によれば、世界の情報トラフィッ

ク量は年率20%以上の増加を続けており、今後はさ

らに増加すると見込まれている ( 図3参照 )。世界の情

報量は 2030 年には現在の 30 倍以上、2050 年には

4,000 倍に達し、このまま省エネルギー対策がなされ

ないと仮定すると、情報関連だけで 2030 年には年間

42PWh、2050 年には 5,000PWh となり、現在の世界

の消費電力の約 24PWh を大きく上回るという12)。

 例えば、神戸にある日本を代表するスーパーコン

ピュータ(かつては世界一)の消費エネルギーは約

13MW、世界一の棋士イ・セドルに勝利した人工知能

アルファGOの消費エネルギーは25万Wである。今後、

人工知能は IBM 社のワトソンのようにクラウド上で

使用される巨大なものから自動運転等、ローカルのシ

12) https://www.jst.go.jp/lcs/pdf/fy2018-pp-15.pdf

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特集:脳科学の最前線~ビジネスへの応用~

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ステム搭載されるエッジ AI といわれる IC に搭載さ

れたものものまで大量に増加すると予測され、このま

までは想像を超えるような電力を消費することになっ

てしまう。したがって、何らかの効果的な省エネ対策

が求められる。

 そこで着目されているのが脳である。人間の脳の消

費電力はおおよそ20W といわれており、人工知能と

比べてはるかに省エネである。しかも、この20W と

いうのは何もしていないとき、すなわちパソコンの電

源をオンにして何もしていないアイドリングの状態で

の消費エネルギーである。何かを考えているとき、言

い換えればパソコンで作業をしている状態での消費

エネルギーの増加はわずか1W 相当ともいわれてい

る13)。アルファ GO の消費エネルギーの約0.01%にも

13) 脳科学がビジネスを変える ニューロイノベーションへの挑戦、p253、萩原一平、日本経済新聞出版社、2013.2

満たない。

 このスーパー省エネな脳の仕組みを模倣して人工知

能を研究する取組みは世界中で始まっている。例え

ば、脳型コンピュータを内蔵した IC はニューロモー

フィックチップと言われ、IBM、インテル、クァルコ

ム、サムソンなど世界の半導体メーカーが開発にしの

ぎを削っている。残念ながら日本はこのチップ開発

競争には大きく出遅れている。大型のスーパーコン

ピュータの世界でも、2018年11月に英国マンチェス

ター大学において人間の脳を模倣したスーパーコン

ピュータが稼働を開始した。しかし、いずれもまずは

脳の仕組みを模倣することに重点が置かれており、省

エネに結び付くまでにはまだまだ時間がかかるであろ

う。

図3:世界のトラフィック量推移

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特集:脳科学の最前線~ビジネスへの応用~

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脳科学と人工知能の融合が創るスマートビジネスへの道

 このように脳科学研究の知見を人工知能の研究開発

に活かし、人工知能を活用し脳をシミュレーション

し、さらなる脳科学研究を推進するというスパイラル

アップの構造が進行している(図4参照)。したがって、

脳科学研究やその成果の社会や産業への応用は必然の

流れといえる。

 様々な分野のグローバル企業が脳科学研究を行って

いる。例えば、前述のアルファGOを開発したデミス・

ハサビスが率いる DeepMind 社はグーグル傘下の研究

開発企業であり、既に脳の情報処理アーキテクチャー

を模した人工神経ネットワークを構築し、ハイパ

フォーマンスな人工知能を構築している。デミス・ハ

サビスはコンピュータサイエンスの学位を取得し、さ

らに人工知能を研究するためにロンドン大学(UCL)

で認知脳科学の博士号を取得しているということから

も、脳科学と人工知能の融合が非常に重要な「鍵」と

なっていることがうかがえる。

 脳科学研究は人工知能や IoT、そして様々な小型・

可搬型の環境センサー、生体センサーなど一連の IT

の進化による多大な恩恵を受け、脳に刺激を送る技術

(五感刺激によるもの、直接頭皮から磁気や電気刺激

を与えるものがある)、脳の信号を取り出す技術、そ

して、その二つを組み合わせたニューロフィードバッ

ク技術という脳機能の制御技術などと組み合わされ、

更なる進展を続けている。

 実際に、ニューロフィードバック技術を脳疾患・精

神疾患の治療やリハビリテーション用に研究されてい

るほか、学習、訓練、フィジカルトレーニング等の効

率化に用いる研究開発も行われている。一部は既に製

品化され、デバイス、アプリケーションとして上市さ

れている。

 最近話題になった事例では、脳の状態を本人に知ら

せるニューロフィードバック技術を使って訓練を行う

ことで、スキージャンプの小林陵侑選手が意識的に自

らを「ゾーン」状態に置くことが可能になっていると

いう14)。また、米国サンフランシスコ・ジャイアンツ

は Halo Neuroscience 社が提供する頭部電気刺激装置

(tDCS)を用いたトレーニングにより、選手の身体

14) 時事ドットコム『小林陵侑 「ゾーン」確立=躍進支えた脳波トレ-W杯ジャンプ男子』

図4:人工知能と脳科学の共進化が著しい速度で加速

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特集:脳科学の最前線~ビジネスへの応用~

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能力を向上させることに成功したという15)16)。

 もちろん、人間の司令塔といわれている脳を扱う最

先端の研究開発分野であり、倫理面には細心の注意を

施す必要があり、研究機関はもちろん企業等でも生命

倫理委員会の設置等が求められる。

 しかし、脳科学研究は前述の3つの不可避な世界的

大潮流に乗って、今後ますます重要になり研究が進ん

でいくことは間違いない。

 その際の「鍵」は、「脳科学と情報技術の融合によ

るビジネス応用」に対する取組みである。これは IT

企業にとってはもちろんであるが、全ての企業に求め

られる取組みである。この流れに乗れるかどうかが、

5年後、10年後の社会、そしてビジネスの成否を決め

る大きなポイントになると言っても過言ではないだろ

う。

15) 日経 xTECH『上達の近道は「脳」、パフォーマンスやメンタル強化にプロスポーツ界が熱視線』

16) Halo Neuroscience 社ウェブページ https://blog.haloneuro.com/san-francisco-giants-integrate-halo-sport-neuropriming-into-training-84cbaca1c71e

業務経歴

萩原 一平(株式会社 NTT データ経営研究所 エグゼクティブ・オフィサー)早稲田大学 理工学部 電気工学科卒業 。プリンストン大学大学院 電気工学・コンピュータサイエンス(MSE) 修了。 1978年より電機メーカーにて新製品企画、開発設計、国内外マーケティングに従事。1991年よりシンクタンクにて環境分野を中心に、新規事業化支援、事業化コンソーシアム運営等、数多くのプロジェクトを実施。 1997年4月より現職。 2001年より横浜国立大学 大学院 環境情報学府 非常勤講師。 2004年より同客員教授(「環境コミュニケーション」担当)。2017年より大阪大学招聘教授。

専門分野は、ニューロコンサルティング、新規事業化支援、マーケティング戦略、環境分野全般、地域経営、ヘルスケア、コミュニティネットワーク、地域情報化

「ビジネスに活かす脳科学」(日本経済新聞出版社)、「脳科学がビジネスを変える~ニューロイノベーションへの挑戦」(日本経済新聞出版社)、「思考と行動が早くなる仕事脳の使い方」(日本能率協会マネジメントセンター)、「なぜ脳は「なんとなく」で買ってしまうのか」(共著、ダイヤモンド社)、「IT アウトソーシング戦略」(共訳、NTT 出版)、「リサイクルの知識」(共著、日本経済新聞社)ほか論文・講演等多数。

応用脳科学コンソーシアム 事務局長。

専門分野・サービス 応用脳科学・ニューロテクノロジー、新規事業支援、

産学連携

寄稿・講演実績例・ 脳科学と人工知能の融合が拓く『オープン・ブレイ

ン・イノベーション』  (日経 BP テクノロジー NEXT 2019)・ 脳科学と人工知能が創るスマートカンパニーとス

マートビジネス 一般財団法人関西情報センター IT シンポジウム 

インフォテック2018)・ デジタルコグニティブサイエンスの時代 ~デジタルテクノロジーとコグニティブサイエンスが

拓く未来~(『情報未来』No.52 2016年10月)

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ITシンポジウム「インフォテック2019」の実施報告

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 当財団は、10月25日(金)大阪国際会議場にてITシンポジウムを開催致しました。近年、AI( 人工

知能 )、IoT、ビッグデータなどを相互に融合させ利活用してビジネス改革を実現することへの関心が高

まっています。また、これらを使って実現される未来社会を描く中で、人との協調、人の能力の拡張を

支える技術への展開が注目されています。

 昨年度は、2025年大阪・関西万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」(Designing…Future…

Society…for…Our…Lives)を視野に入れつつ「人とロボット、AIの共生」に向けた取り組みを紹介しました。

今年度は更に内容を深化させ、幸せと豊かさをもたらすデジタルシステムやサービス、次世代技術につ

いて具体的な事例を紹介すると共に、新たに創出されるビジネスについて、講演やパネルディスカッショ

ンを実施しました。

参加者は241名と大変盛況な中で、基調講演、招待講演、オープンディスカッション、交流会のいずれ

においても活発な意見交換が行われました。以下では、シンポジウムの概要をご報告いたします。

基調講演

「AI・ロボット時代の心のあり方と幸せ」

  前野 隆司 氏

(慶應義塾大学 大学院システムデザイン・マネ

ジメント研究科教授 工学博士)

1.はじめに

 私は機械工学を学んでロボットを作る研究をしてい

たのですが、その中でロボットの心をつくりたいと考

えるようになりました。ロボットの心をつくろうと思

うと、人間の心について調べなくてはならないのです

が、調べていくと人間の心もまだまだ分かっていない

ではないかと感じ、人間の心について研究するように

なりました。

…2.AI は人を支配するのか

 レイ・カーツワイルは、Technological Singularity

(技術的特異点)という概念を提唱しました。コン

ピュータが人類の知性をはるかに超えてしまい、2045

年ごろには人類よりもコンピュータの方が賢くなっ

て、人間はナンバー2になるという考え方です。確か

にコンピュータの処理能力やスピードはものすごく高

まれば、人間が意思決定をしようと思っても、コン

ピュータの方がはるかに賢くなるので、コンピュータ

がやってくれるようになるわけです。

 人間の脳は、1000億個ぐらいの細胞がオン・オフ

スイッチになっていて、それがたくさんつながって

いるだけだと私は考えています。ですから、スイッ

チが1000億個つながれば、古典的な電気工学の考え

方の延長戦で人間の心はつくれると考えます。いつか

コンピュータが脳の機能を完全に模倣できれば、コン

ピュータが人間を追い越すことは可能ではないかと思

います。ただ、2045年ではないのではないかと思う

のです。

 今ではディープラーニング(深層学習)の分野では

るかに人間を超えられるようになりましたが、心とは

何か、意識とは何かという問題が全く解かれていない

一般財団法人関西情報センター 事業推進グループ

IT シンポジウム「インフォテック2019」の実施報告ヒューマン×デジタル・インタラクションが創る新たな未来

~「豊かな生活」を実現するデジタルサービスの創出に向けて~

KIIS 事業紹介

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ITシンポジウム「インフォテック2019」の実施報告

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からです。心を持ったロボットなど、作り方すら全く

分かっていません。パターン認識ができたからといっ

て、その技術の延長線上で人間を超える心をつくるこ

とはできないように思います。

 ただし、発明はあるとき突然生まれますから、心を

つくる技術が2045年までに発明されないとは限りま

せん。これまでの経験では、あと10回か100回、AI ブー

ムが来ないと、人間の心には到達しないのではない

か、というのが私の直感です。ですから、2045年に

ロボットが人間を超えることはないと思っています。

 ただ、AI の進歩によって情報のコストはゼロにど

んどん近づきます。つまり、あらゆる情報を一瞬で検

索できるようになるということです。情報のコストが

10年後、100年後、1000年後には今より圧倒的に安く

なるのは確実です。

 エネルギーを作るコストも同様にどんどん安くなっ

ていきます。情報が検索し放題になったように、いつ

か、エネルギー使い放題の時代が来るでしょう。そう

なると、生産コストも移動コストも下がり、情報だけ

でなく物も安くなると思います。すると、遠い将来、

人間の仕事も非常に減っていくかもしれません。現に、

技術革新によって第1次産業の人口は明らかに減って

います。

 そうなると、所得格差が拡大するかもしれないとい

う大きな問題が生まれます。要するに、AI や情報、

エネルギーをどこかの企業が独占的に扱うと、その企

業だけがもうかり、格差は増加するのです。そうする

と、人類のほとんどが飢えてしまうこともあり得ま

す。ですから、人類の知恵をみんなでシェアして共生

する世界をつくるべきなのです。世界はそういうトレ

ンドにあります。

 AI(ディープラーニング)によっていろいろなこと

ができるようになりましたが、AI に取って代わられ

る仕事と代替されにくい仕事があります。画像処理や

ロボットの単純操作など、大量のデータを使って AI

に機械学習させられる仕事はどんどん取って代わられ

ます。一方、大量には学習させにくく、個別性や個性、

創造性を求められる仕事は代替しにくいのです。自

分で枠組みも含めて新しいものを考えることは、今の

ディープラーニングにはできません。ですから、自分

だけの個性のある仕事をしている限りは、人類は AI

に負けません。

 文部科学省の新学習指導要領では、「主体的・対話

的で深い学び」が提唱されています。ロボット時代に

人間がロボットに負けないために、主体的で対話的に

深く学ばなければならないのは大人も一緒です。従来

の仕事のやり方ではなく、主体的で対話的に深くいろ

いろなことを学びながら成長している人は、新しいビ

ジネスも考えるでしょうし、AI 時代に打ち勝つと思

います。そのキーは創造性、アート、文学、感性、個

人の特徴を生かした生き方であり、幸せに生きること

ではないかと思います。

 幸せの研究によっていろいろなことが分かっていま

す。例えば、主体的な人は主体的でない人よりも幸せ

です。幸せに効くのは収入や学歴よりも自己決定であ

り、やらされ感で仕事をしている人は幸福度が低く、

やりがいを感じて働いている人は幸せです。創造性も

幸せに影響しており、何か美しいものをつくってい

る人は他の人よりも幸福度が高いのです。ですから、

アートと科学技術がもっと融合する時代にならない

と、日本の良さは生かせないのではないかと思います。

 古代ギリシャの哲人たちが仕事を全て奴隷に任せ

て、哲学やアート、スポーツに勤しんでいたように、

現代においても AI がいろいろなことをしてくれる代

わりに、人々が新しいものを創造することだけに専念

できる世界になればいいのだと思います。ただし、創

造性と感性を磨けなかった人はロボットに負けて職を

失い、自分には価値がないと思ってしまう危険性があ

ります。幸せの条件は、創造性や感性を磨く条件と非

常に似ているので、幸せについて学ぶことは AI 時代

に生き残るための学びにもなっていると思います。

3.心は幻想なのか

 カリフォルニア大学サンフランシスコ校のベンジャ

ミン・リベット教授の実験によると、指を曲げるとい

う動作を始めようと意図する電気信号よりも、筋肉に

指令が発せられる電気信号の方が0.35秒速いのだそう

です。つまり、私たちが意識的に意思決定をする前に、

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無意識的な部分で脳が先に決断を下しているのです。

 このことは、ロボットのプログラムを作っていた者

からすると、それほど違和感がありません。ただ、私

たちが決めようとした瞬間に本当は決めていなくて、

心の別の部分が決めているというのは不思議といえば

不思議です。ここで重要なのは、私たちが決めた瞬間

に決まったわけではないということです。つまり、私

たちの自由意志は本当は存在しなくて、あるように感

じるだけなのです。つまり、幻想と似ています。

 心が本当にあるような気はするけれども、本当はな

いのだとすると、ロボットと変わりません。たたいた

ら 「痛いです」 と言うロボットは既に作られています

が、本当に痛いと思っているわけではなく、圧力が加

わったら顔を曇らせて 「痛いです」 と言うプログラム

に従って 「痛いです」 と言っているだけです。ですか

ら、本当はロボットには痛さがないのです。でも、人

間には痛さがあります。これがロボットと人間の差だ

と思っていたのです。本当の痛さや自由意志は脳がつ

くった結果を感じているだけですから、その点ではロ

ボットと大差がありません。そう考えると、人間もロ

ボットと同じようなものだと捉えることができます。

 従来の心のイメージは、私たちの心が知情意の活動

を全てコントロールしているというものでした。私た

ちは、それが AI にはできない人間の素晴らしさだと

思っていました。ところが、知情意、表象、感情、情

動、意志決定、意図、知覚は全て脳のニューラルネッ

トワークが役割分担していて、無意識のうちに決めて

くれていて、その結果を後になって自分がやったよう

に意識しているのです。つまり、いろいろなものが決

めた結果を自分が決めた気になっているだけだと考え

ると、心を説明できるのではないかと思います。

 この話を本に書いたとき、私はとても幸せになった

感じがしました。われわれは生きて何かしているよう

ですが、最初からロボットのようなものであり、心は

ないのです。でも、いきいきと心があるように感じて

いて、死んだらまた無い状態に戻るのです。そう考え

ると、とても気が楽になりました。

 ですから、幸せの境地は、悟りの境地に近いのでは

ないかと思っているのです。よく誤解されるのですが、

自分の欲を捨て去る修行をしたら無我に至ると思って

いる方がいます。でも、捨てようと思っている決意が

あるうちは違っていて、我が無いのだと自然に感じる

のが悟りの無我です。そうした境地に至らない人がい

るということは、別のアプローチをしなければみんな

が幸せにならないと思ったのです。

4.幸せのメカニズムとは

 そこで、幸せについて学術的に明らかにして、それ

が分かればみんなが幸せになるのではないかと考えま

した。幸せについてはいろいろな研究があり、いろい

ろな要因が幸せに寄与することが分かっています。大

ざっぱに言うと、世の中で昔から良いと思われていた

ことは大体幸せに影響すると思っていいでしょう。性

格も幸せに影響します。時々、教育的、倫理的な考え

方に反する研究結果も出ていますが、大体常識に近い

結果が出ていて、私の研究結果も常識に近いのです。

 それから、幸せな社員は不幸せな社員よりも創造性

が3倍高く、生産性は3割高いという研究結果があり

ます。 3割は大きいですよね。働き方改革で無理矢理

時短する会社も増えていますが、働き方改革をしたい

のであれば社員を幸せにすればいいと思うのです。小

売業では、幸せな社員の方が売上が37%も高かった

という結果もあります。あるいは、幸福度の高い従業

員は欠勤率も離職率も低いというデータもあります。

欠勤や離職が少なければ、会社の経営としても非常に

いいわけです。つまり、人を幸せにすることは会社の

パフォーマンスも上がるし、新しいビジネスを考えた

り、改革をしたりするときにも非常に向いているとい

えます。

 それから、イギリスの心理学者ダニエル・ネトルの

研究によると、幸せには長続きしない幸せと長続き

する幸せがあります。持続性の低い幸せは、地位財を

得られたことによる幸せです。地位財とは、他人との

比較によって満足が得られるもののことをいいます。

つまり、金、物、地位です。戦後日本のように発展途

上のときはいいのです。地位財を供給し続けることに

よって幸せになれます。しかし、少子化や人口減少の

時代を迎え、地位財だけを目指していてはいけませ

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ん。地位財によって心の幸せは持続しないのです。

5.幸せの四つの因子

 では、どうすれば持続するかというと、精神的、身

体的、社会的に良好な状態になることです。そこで私

は、心による幸せを分析しました。 1500人の日本人

に対して100問近い質問をし、幸福の心的要因を因子

分析したのです。すると、四つの因子が導き出されま

した。

 一つ目は「やってみよう因子」、自己実現と成長の

因子です。何かをやってみようと思っている人は幸せ

であり、やらされ感があると不幸です。 AI に負けな

いためには、何かやってみたいことがあって、それに

向けて成長し続けることが大切です。やらされ感で働

いている人は、AI に仕事を取られてしまうでしょう。

 二つ目は「ありがとう因子」、つながりと感謝の因

子です。人を喜ばせる人は幸せですし、感謝する人も

幸せです。多様なつながりや感謝、親切、利他性、ユー

モアがある人は幸せです。内閣府の調査によると、社

会的課題解決のための活動に関わっている人の方が幸

福度が高いです。ボランティアや NPO、PTA など、

利他的な活動をしている人は幸せであり、自分だけ幸

せになりたい人の幸福度は低いのです。

 人を幸せにしたい人はその人も幸せになりますが、

自分だけ幸せになりたいと思っても、幸せになれない

ように人間の脳はできているのです。なぜなら、地位

財による幸せが長続きしないのは、進化論で考えてみ

ると生存欲求だからです。自分の身を守るための幸せ

は長続きしないように脳ができているのです。一方、

進化や適応の中で、「皆もより良くなるといい」と考

える人が生き延び、その子孫が我々だと考えられます。

 ですから、子孫を残すことが生物の目的だとすれ

ば、子孫を残し終えればもう長生きしなくていいはず

です。でも、幸せな人が長生きするのは、子孫を残す

使命は終えたけれども、地域や子孫のためになってい

る人は生きている価値があるから長生きするようにで

きているとも説明できます。皆さんが AI 時代に活き

活きと生きたいと思ったら、助け合ってみんなのため

に生きていくといいのです。

 日立の矢野和男氏の研究によると、友達の数が同じ

3人であっても、友達同士が友達である人の方が幸せ

だということが分かっています。つまり、友達同士の

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ネットワークができている人の方が幸せなのです。こ

れは“弱い紐帯(ちゅうたい)”といわれるもので、

弱いつながりが張り巡らされている社会はいざという

ときに強いですが、分断されている社会はいざとい

うときに助け合えないので弱いのです。まさに IT や

IoT 技術によって人がつながる社会をうまくつくって

いくことが幸せな社会につながると思います。

 三つ目は、「なんとかなる因子」、前向きと楽観の因

子です。日本人は、遺伝的に心配性遺伝子を持ってい

るという研究があります。日本人は遺伝的に「なんと

かなりにくい」からこそわれわれは力を合わせて生き

ることによって、より幸せに生きることができると思

います。

 四つ目は、「ありのままに因子」、独立と自分らしさ

の因子です。独立していて、人の目を気にしない人、

人と自分を比べ過ぎない人は幸せであることが分かっ

ています。

 「やってみよう」「なんとかなる」「ありのままに」

は、個人主義的な因子ですし、「ありがとう」は他人

との関係性の因子です。つまり、何か自分のやりたい

ことを持っている人、夢や目標を持って個性を生かし

てチャレンジする人、そうした人たちがつながり合っ

ていることが幸せの条件なのです。

 これは AI に勝ち残る条件と一致していないでしょ

うか。要するに、人間の良さは、1億人がいたら1億通

りの良さを持てることなのです。ダイバーシティ(多

様性)とインクルージョン(包括・包含)がある人類

は、これからも栄えていきます。ですから、皆さんも

ぜひ新しいやりがいと、チャレンジ精神と、ありのま

まの自分らしさと、助け合う仲間を持って、幸せに生

きていってほしいと思います。

 クリスタキス氏の研究によると、幸せも不幸せも周

囲にうつります。ぜひ皆さんも周りに幸せをうつしな

がら、どんな時代が来ようともいきいきと生きていた

だきたいと思います。

特別講演

「AI を駆使してリアリティーに迫る~新しい科学が

拓く地平~」

  桜田 一洋 氏

(国立研究開発法人理化学研究所 医科学イノ

ベーションハブ推進プログラム 副プログラム

ディレクター 理学博士)

1.はじめに

 人間には認知限界があり、そのために見落としてし

まうリアリティーがあります。それらをビッグデータ

や AI の解析が明らかにしてくれるのではないかとい

うのがわれわれの研究スタンスです。

 今までの生命科学は、メカニズムを使って生命や病

気など普遍的なものを明らかにしてきました。メカニ

ズムを使う限りは、対象は「在る」ものとして説明さ

れる特徴があります。これに対し、これから皆さんが

つくっていかなければならない個別のサービスは、一

人一人異なるものであり、「在る」というより「成る」

ものです。生まれてからずっと時間とともに変化して

いくところにリアリティーがあるとわれわれは考えま

す。

 人間が「成る」というプロセスを定量的に扱うのは

非常に難しいです。時間の問題は、数学が専門であ

れば微分方程式を立てるのですが、微分方程式は線形

ですから、非線形をうまく理解するのは非常に困難で

す。われわれの挑戦は、人間の認知限界を克服するた

めにビッグデータを集め、AI の支援を受けて新たな

解釈していくことです。これがリアリティーを追求す

るための新しい生命医科学だと思ってください。

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2.新たな生命医科学を構想する

 生命の基本原理を考えたときに、細胞は何か機械の

ようなもので、ハードディスクを消すようにして初期

化しているのではないかと思うかもしれませんが、初

期化の頻度はとても低くて、100分の1、1000分の1ぐ

らいしか起こりません。細胞は機械ではなく、むしろ

自発振動している自己組織化の中に横からちょっと転

写因子が入ることで違う振動が生まれ、それがうまく

同期したときに初期化するのです。だから、生物は機

械ではなく、自己組織化から生命をもう一度問い直そ

うと決心しました。

 生物は「開放系」です。周りの生物から有機物を取

り、内部からエントロピーを排泄物として排出すると

いう非平衡のシステムです。体内では多数の要素が非

線形の相互作用をしており、本来無秩序になろうとし

ているにもかかわらず、見事な時空間パターンを生み

出しているのです。一方、機械は「閉鎖系」です。い

くら働きかけても、どれだけプログラムを入れても、

中の半導体のネットワークは変わりません。ですから、

生物は機械とは根本的に違います。にもかかわらず、

今まで機械になぞらえて生物を語ってきていたのです。

 現実世界は、時間として捉えなければどこかで見間

違えてしまいます。ですから、今はやりの遺伝学の手

法ではどうしても解けない問題があります。一方、時

間を記述しようとしたら、高次元のデータや離散的な

データは、よほどのことがない限り連続的には取れま

せん。そこでわれわれは二つのことに新たに挑戦しま

した。一つは情報幾何学という手法、もう一つは第一

原理として自己組織化と非線形振動子を同期すること

です。これはある意味、共感と似たような物理現象で

す。われわれはディープ・フェノタイピングという、

遺伝学(ジェノタイピング)とは対照的な方法を使い、

疾患の時空間特性を全体的に捉えて再定義しようとし

ています。

3.情報幾何学で多様性に挑む

 マルチモーダルデータでは、例えばある人を表現す

るときに髪の毛の色は何色で、眉毛はどうなってい

て、耳はどうなっているかといった特徴を15種類測

ると15個のベクトルになり、それぞれの人が15次元

空間の一つの点として表現されます。点と点が近い人

は似ているし、離れていれば違うことになります。幾

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何学はピタゴラスの定理のように距離を問う学問なの

で、ベクトルで多次元空間として表現することで似て

いるかどうかを幾何学的計算で置き換えることができ

ます。これを情報幾何学といいます。

 これまで早期卵巣がんが再発するかどうかという予

後予測はできなかったのですが、理化学研究所医科学

イノベーションハブ推進プログラムでは情報幾何学の

方法を使って、手術前日の血液検査のデータを幾何学

的に分析することで予後予測できるようにしました。

こうしたツールを使って複雑な問題を解いていくこと

が近いうちにできるだろうと思います。

 理化学研究所革新知能統合研究センター (AIP) と

東京大学は、AI によるスタイルの提案を行っていま

す。エマ理永さんという著名なウエディングドレスデ

ザイナーとコラボレーションして、新しいドレスをデ

ザインしました。ディープラーニングをする機械を二

つ(ジェネレーター A、B)用意し、A にはエマ理永

さんのドレスをたくさん学習させます。B はエマ理永

さんのドレスは知らないのですが、勝手に何か画像を

作っていきます。それを A に見せると、エマ理永さ

んの作ったドレスとは違うので拒絶します。B はその

ことを知るとまた違うものを提示します。これをずっ

と繰り返していくと、次第にデザインを作れるように

なります。その結果、エマ理永さんがこれまでデザイ

ンしていないエマ理永さん風のドレスの提案にたどり

着けるのです。

 このとき、AI が最後まで全て設計したわけではな

く、AI のインスピレーションを参考にしてエマ理永

さんがデザインしました。 AI がスタイルを学んで、

今までになかった新しいスタイルを提案することはで

きたけれども、最終的に人が美しいと感じるドレスは

人間でなければ作れないのです。

 音楽ではもう少し異なるアプローチをしています。

音楽にはクラシック音楽、賛美歌、ジャズ、ロック、

演歌など多様なスタイルがありますが、聞けば大体区

別できます。音楽は音符のピッチの推移で特徴付けら

れるからです。楽曲ごとに、ドの後にレが来るのか、

シが来るのかという大体の傾向があります。状態遷移

確率といって、それによって音楽を実際に計算可能な

形で表現できます。

 元ソニーのフランソワ・パシェはバラードや1960

年代のポップス、2010年代のブリティッシュポップ、

1960年代のボサノバ、カリビアンなどを AI に全て学

習させ、今までに作曲されていない曲を作れと指示し

ます。すると、一つの音楽が出来上がります。これ

は AI が作っているわけではなく、フレーズを AI が

作って、それを使って作曲家が一つの楽曲に仕上げて

いるのです。 AI だけで楽曲を作れないのは、そこに

感情的なものを入れられないからです。 AI が作った

フレーズからはいろいろな曲を作れる自由度はあるけ

れども、曲を最後に作るのは人間になります。どんな

ミュージシャンも必死になって自分独自のメロディー

を生み出そうとしていて、それを AI が助けてくれる

のです。そういう意味では、AI がある種の道具とし

て作曲に大きな貢献をする可能性があると思います。

 今までの AI は、効率的に作ったり、速く走しった

りといった単純なゴールが決められたら、強化学習で

簡単に答えを出せるのですが、これからは未確定の見

えないものを見に行こうとすることが新しいビジネス

になります。しかし、見えないものを見るためには、

見えないものを定量化することが必要です。

 未来が決まっているわけではなくて、自由に自分の

未来を選択していくときに、選択が苦しいから誰かに

選択を支援してほしいはずです。これがサービスのも

う一つの核になるでしょう。そのときには自由度を制

限する傾向があるので、自己選択になるようなサービ

スの出し方をしていかなければなりません。

 こうした制約がスタイルの特徴であり、それは計算

可能な形で表現できるようになっています。ですから、

データを集めた後どういうサービスに返すかというと

きに、一人一人の個性をスタイルとして、音楽のよう

に時間を持ったものとして表現できるようになること

が、われわれのつくった技術の一つの特徴です。

4.自己組織化と非線形振動子の同期から健康に挑む

 われわれはもう一つ、健康を定量的に測ってみるこ

とに挑戦しました。WHO 憲章の前文には、「健康とは、

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病気でないとか、弱っていないということではなく、

身体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべて

が満たされた状態にあることをいう」 と書かれていま

す。健康をこう定義すると、どんな病気の人でも健康

はつくれるのです。ところが、今の医学は、常に足り

ないものを完全なものにしようとしている面があり、

それでは本当の健康は生まれないような気がします。

これからの健康は、身体的健康、精神的健康、社会的

健康を総合して見ていかなければならないのです。こ

れを主観ではなく、データを通して理解していくこと

がわれわれの挑戦となります。

 今までの生物学は遺伝子のオン・オフ制御という線

形的なモデルによって秩序を説明してきました。しか

し、時間を考えると、これでは説明し切れないものが

出てきます。われわれはそれに対して、自己組織化と

いう方法から秩序がどう生まれてくるかを考えようと

しています。自己組織化反応は、非線形の状況では自

発的にパターンが生まれます。パターンとは何かとい

うと、一番原始的なのはリズムです。リズムから生命

を考えたときに、次に現れるのが同期(シンクロナイ

ゼーション)です。

 生物は同期があるから複雑な時空パターンを自然と

生み出せるのです。私たちは受精卵というたった1個

の細胞から生まれます。ですから、機械とは全く違う

仕組みから動きます。ここから発想する新しいビジネ

スの可能性が重要だと思います。同期と非同期が選ば

れることで複雑なパターンが生じるのです。同期する

人もいれば、中には非同期の人もいるから文化が生ま

れるのです。

 それから、安定して健康状態を維持するためには、

体がフィードバックで制御されているからという説明

を機械論ではこれまでしてきました。しかし、リズム

が同期している状態が恒常性だと見てしまうと、リズ

ムの同期の仕方がずれたことで病気になり、争いごと

などもこうしたリズムの破綻によって説明できるかも

しれません。こうして新しい恒常性の概念は普遍的な

形で使うことができます。

 AI が人類の脳を超えると、人間は発明する必要が

ないし、AI による予測や発明を人間が理解できなく

なるのはその通りだと思います。しかし、脳を計算機

と見立てることには限界があると思うのです。 AI 開

発の歴史を見ると、脳とは計算機のようなものだとい

う考え方が現在のディープラーニングにつながってい

ます。人の脳を計算機と見なすならば、それに近似し

た回路は電子的に計算することができますが、自他の

区別や美感、健康は計算できないのです。

 これらで起こっているのは同期です。自分で自分の

手をくすぐってもくすぐったくないのは、触覚が同

期しているからです。自己というのは知覚が同期した

ときに生じる概念であり、計算では生み出せないので

す。それから、何かが美しいと感じたときには脳内の

眼窩前頭皮質が活性化され、脳の中の自発的活動と同

期したときに美感が生まれます。

 私自身は研究者として一貫して脳の研究をしている

のですが、脳には自発リズムを生み出す橋結合腕傍核

があって、睡眠・覚醒リズムが生まれたり、呼吸リズ

ムが生まれたり、心拍リズムが生まれたり、運動リズ

ムが生まれたりします。発達障害の子どもには睡眠障

害が結構多いのですが、睡眠障害を改善してあげるだ

けで認知が変わり、コミュニケーションの障害が改善

するケースがよく見られます。ですから、脳を計算機

ではなく自己組織化のシステムとして見ることで、新

たな脳に働くサービスも生み出していけると思います。

 われわれは今までメカニズム的なものの見方によっ

て生命とは何か、人とは何かという理解を深めてきま

したが、中から外に向かう自己組織化、創発という視

点があまり取られてきませんでした。この両輪が生ま

れることで、生命とは何か、意識とは何か、脳とは何

かという問題が明らかになってくると思います。

5.未来の技術を俯瞰する

 未来の技術を大きく4象限に分けると、今までの技

術はどちらかというと知能や理性の支援でした。知能

や理性の支援は、ゴールが決められたときにとても有

効であり、そういう支援を今まではしてきたと思いま

す。それに対し、これから必要なのは知性と感性の支

援です。これはほとんど行われていません。人は知能

だけでなく感性と知性を持っており、見えないものを

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19

見ようとする力を持っています。これが AI 的な知能

や理性と組み合わされれば、これからのビジネスの大

きな中核になるでしょう。だから、完全な自立ロボッ

トよりははるかにアバターの方がこれからの未来社会

をうまく予想していると思います。

 ぜひ大阪にイノベーションのきっかけとしてこうい

うプラットフォームをつくり、オールジャパンの仕組

みへと広がっていけば、新しい産業がまさに大阪から

生まれるのではないかと思います。

招待講演1

「あらゆる制限を超えて75億人をつなぐ挑戦」

  深堀  昂 氏

(ANA ホールディングス株式会社 アバター準

備室 ディレクター)

1.アバターとは

 今日ご紹介するのは、飛行機を使わない新たなモビ

リティーです。どういうモビリティーかというと、二

つの空間を瞬間的に移動できるようなモビリティー、

動けない方でも移動の自由を手にすることができる新

しい移動手段です。これまでの移動は身体を移動しな

ければならなかったのですが、私は身体を移動しなく

ても意識だけを伝送して、その時間、その場にいたと

いう思い出をつくることができるのではないかと考え

ました。

 われわれはそれを実現する遠隔操作のロボットをア

バターと呼んでいます。なぜ ANA がアバターの研究

をしているかというと、ANA のビジョンは世界中の

人たちをつなげて社会に貢献することだからです。

 アバターに何ができるかというと、どこにでも行け

ることはもちろんですし、外見を変えることができ

ます。それから、身体を小さくしたり大きくしたりで

きるので、災害救助などにも活用できます。意識を伝

送すればいいだけなので、周囲の生活環境を変えるこ

とができます。遠隔で物を見るだけでなく、AR によ

る情報をかぶせることもできます。それから、VR の

世界に入ることもできます。ですので、単に A-B 地

点をつなげるだけでなく、リアル世界と AR の世界と

VR の世界を行ったり来たりできる唯一の乗り物なの

です。それから、アバターモードと全自動モードを切

り替えられることもとても重要です。

 もちろん、将来はこういう人が行けないような場

所でレスキューをするとか、ANA の機内で、お客さ

まがよく体調を崩される方もいらっしゃいますけれど

も、その際に、搭乗した中に「お医者さまいらっしゃ

いませんか」というヒアリングをしますけれども、ア

バターがあれば、すぐ専門医の方が接続をして適切な

アドバイスをしたりということが今後できるのではな

いかと思っています。

2.アバターの開発状況

 アバターのムーブメントはかなり広がっています。

私たちは10億円の国際賞金レース「XPRIZE」に参戦

し、アバター開発を競っているのですが、現在世界81

カ国のチームが参加しています。現在は介護のおむつ

替えぐらいまでできるアバターが開発されています。

 ダボス会議を主催する世界経済フォーラムが、今後

急成長する技術トップ10の一つにアバターを挙げてい

て、スマホと同じぐらいスケールするだろうと予測し

ています。もちろん、日本政府のムーンショットテー

マの候補にもアバターが選ばれています。

 ANA のサービスは具体的にどうなるかというと、

Uber が誰でも車に乗れるプラットフォームだとすれ

ば、私たちが作ったのはロボットの Uber 版「avatar-in

(アバターイン)」というものです。このプラットフォー

ムは、ロボットをかなり幅広く考えていて、ドローン

や遠隔で動く施工機械なども含まれます。公開設定を

しておくと、誰でも検索して入って自由にコミュニ

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ケーションをしたり、作業をしたり、ビジネスをした

りできます。

 また、メーカーやスタートアップの方々からの依頼

で、いろいろなハードウエアの共同開発をしていま

す。いろいろ開発して思うのは、高性能のものだけを

作っても世の中は変わらないということです。世の中

では、ご家庭で買うことができて、親の面倒を見るた

めに家に置いて話しかけられるようなアバターが欲し

いという声が本当に大きいのです。

 ANA が独自開発した普及型アバターロボット

「newme(ニューミー)」は、いろいろな背丈を選べ

ますし、折り畳んで女性でも持てるようになっていま

す。ロボット自体に何かユニークネスがあるわけでは

なく、自分の娘が入ってきてくれたり、コンテンツが

ある場所に行けたりするから面白いのです。ですから、

ANA はロボットを発表したわけではなく、新しいつ

ながり方を発表したことになります。

 遠く離れた水族館やミュージアムにも入ることがで

きるので、VR とは違ってリアルを体験できることで

人生がとても豊かになると思いますし、百貨店に置け

ばオンラインショッピングの手軽さとリアルショッピ

ングの楽しさの両方を兼ね備えることができます。

 スキルシェアにも活用できます。家庭で「ながら作

業」ができますし、アバターですから会話の頻度も

上がります。平面的なテレワークでうまくいかないの

は無駄話ができないからだといわれているので、アバ

ターであればチームビルディングを容易に行うことが

できます。

 私もエンジニアですので、やはり技術を作ってなん

ぼだろうと思っていて、今となってはやっておいてよ

かったと思っているのですが、われわれはこうした超

低遅延のデータ伝送のハードウエア・ソフトウエアを

開発していることに加え、世界中のトップエンジニア

に声を掛けて集めています。日本には研究者が集まら

ないといううわさをよく聞くのですが、私はそう思っ

ていなくて、「アバターを一緒にやらないか」と言う

と移住してくれる若手は結構います。ある程度の給料

と面白いことができることがセットになっていれば、

日本は意外といけるのではないかと思っています。

3.アバター社会インフラサービス

 私が一番いいと思うアバター社会インフラは、ロ

ボットがいろいろな所に置いてあって、好きなように

好きなロボットに入って使える社会です。アバターに

よって、不可能な移動をなくし、不要な移動をなくし、

世界中の人と場所をつなぐことができるでしょう。全

ての移動がアバターになると人間の体力が心配という

声もありますが、無駄な移動、不要な移動がなくなる

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だけです。ですので、移動がもっと豊かになって、人

生の過ごし方も変わることがポイントだと思います。

 ですから、ユースケースはさまざまです。ロボット

自体に特徴があるわけではないので、技術者が入れば

エンジニアに教えることができますし、保育園に置い

てあればお孫さんの様子をおじいちゃん、おばあちゃ

んが見ることができます。大阪がとても魅力的なのは、

産官学がすごく密接しているので、このエリアでいろ

いろな研究をして、実装して、かつ万博にも出すこと

ができる点です。

 アバターがあれば、人々がより支え合うことができ

ます。医師も、必要としている人と接続してアドバイ

スすることができます。社会課題の多くは、解決でき

る人がその場にいないから起こっているといわれてい

ますが、アバターが家に置いてあれば、体調不良でも

空いている医師が入ってきてくれたり、英会話を教わ

りたければアメリカ人が入ってきてくれたり、そうい

う支え合う社会が実現できます。

 われわれが2050年までに目指しているのは、アバ

ターで経験したことと自分の身体で経験したことをで

きるだけ近づけることです。人間が AI に置き換わる

という話がよくありますが、人間もまだまだ進化でき

ると思っています。無駄な移動、できない移動をなく

すことによって、人間自身がすごく活性化すると思っ

ていますし、支え合うことができると信じています。

 ということで、これは ANA だけの問題ではないの

です。そして、日本はとても強い分野だと思います。

なぜなら、人が寄り添うような技術だからです。その

要素技術は日本が得意としているロボティクスやバイ

オなどいろいろなところにあるので、ぜひ皆さんで連

携して日本から世界に新しいライフスタイルや社会イ

ンフラを提案していけたらと思っています。

招待講演2

「5G が切り開く未来」

  奥村 幸彦 氏

(株式会社 NTT ドコモ 5G イノベーション推

進室 担当部長 工学博士)

1.移動通信サービスの進化

 5G の導入はようやく始まったばかりです。今日は、

未来に向けて5G がどのような可能性を秘めているの

か、お伝えしたいと思っています。

 携帯電話のシステムは1979年12月、電電公社(当時)

が世界初の800MHz 帯を使ったマイクロ波帯のセル

ラー方式を本格的な商用移動通信サービスとして提供

して以降、さまざまなお客さまへの価値や感動を届け

るツールとして発展してきました。ユーザーのお得・

便利、楽しさ・驚き、満足・安心を追求するとともに、

多様な業界とパートナーシップを組んで協創による新

しい価値とサービスを生み出し、産業への貢献、社会

課題解決、地方創生、商流拡大を実現するツールとし

て5G は大きく期待されています。

2.5Gが目指す世界

 5G が目指す世界は、特に無線アクセス技術に着目

すると大きく三つあります。一つ目は、通信速度を第

4世代の10倍以上に当たる最大10~20Gbps に高速化

すること。二つ目に、ネットワークの遅延を第4世代

の最大10分の1程度まで短くすること。三つ目に、多

数同時接続を実現し、スマートフォンやタブレットな

どの人が持ち歩く端末以外のさまざまな機器に組み込

む通信モジュールも含めて、第4世代の少なくとも100

倍近い端末を収容できるようにすることです。

 電波の使い方の大きな特徴として、より高い周波数

帯を使うことが挙げられます。従来の800MHz、2GHz

といった UHF 帯に加えて、3GHz 以上の SHF 帯、

30GHz 以上の EHF 帯など、セルラーシステムでは従

来使っていなかった周波数帯も新たに使えるようにし

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ています。ここで重要なのは、従来の低い周波数帯か

ら高い周波数帯に単純に移行するのではなく、足し算

で使っていくことです。そのために必要な端末として、

両方の周波数帯をサポートする5G 端末を新たに用意

することになります。

 ここで、最も高い周波数帯の28GHz 帯は、従来の

UHF 帯の電波に比べてかなり性質が異なります。特

に大きな違いは、同じ送信出力で基地局が送信した電

波が届く範囲が、周波数が高い分、短くなることです。

そのまま放っておくとセルラーシステムのセルがどん

どんシュリンクしてしまい、虫食い状態になるので、

きれいなサービスエリアが作れません。そこで、電波

が減衰してしまう現象をいま一度補償していくための

技術を、新たにこういった高い周波数帯で使うための

技術開発をしています。

 Massive MIMO といって、基地局に従来よりも多く

のアンテナ素子を搭載し、各素子から出力される電波

の位相と振幅をきめ細かく調整すると、それら全体

を合成した電波が非常に鋭いビーム型の電波にできる

というものです。従来の基地局がぼんやり前方向に指

向性を持つ電波を送信するのに対し、レーザーポイン

ターのようにエネルギーを集中した電波を送信するこ

とで、到達距離を伸ばすことができます。

 さらに、各移動端末に狙い撃ちでビーム電波を出す

ので、基地局配下にある複数の端末に対してデジタ

ルビームフォーミング処理を行うと、それぞれに独立

したビームを形成し、同じ時間帯、同じ周波数の使用

により容量を増やすことができるという特徴もありま

す。ただし、こういったビームフォーミングの技術を

入れるためには、移動通信なのでユーザーの移動にき

ちんとビームの方向を常に追従させなければなりませ

ん。そこで、端末の移動に合わせてビームの方向を変

化させ、トラッキングできるようにする技術も併せて

開発し、実用化のめどを立てました。

 一方、無線通信手段である5G そのものだけで新し

い価値を創出したり、社会的課題解決に貢献できるよ

うにすることは難しいと考えています。 5G に、最新

の ICT 技術を組み合わせてこれらを実現することが

重要だと考えています。そのためには、通信事業以外

の幅広い業界の方々と対話・連携し、抜本的なユー

ザーインターフェイスを作ったり、生産性の向上を高

めていったり、革新的なサービスを創出していきたい

と考えています。一方、端末周辺にあるさまざまなデ

バイスをひとまとめにして、ユーザー中心の空間をプ

ロデュースできるのではないかと考えております。そ

れによって、5G 時代のより新しい体感を皆さまにお

届けできるようになります。

 ドコモは5G によって新しいサービスをつくり出す

ため、2018年2月に5G オープンパートナープログラ

ムを立ち上げました。現在3000を超えるパートナーに

参加いただいています。 5G の最新状況をメンバーと

共有した上で、新しいサービス事例を共有し合うワー

クショップを定期的に開催して、新しいサービスのヒ

ントを得られるようにしています。その中で本格的な

トライアルに進んでいる事例は200件を超しており、

実践的な場で検証を進めています。

 ドコモ独自のシステムトライアルに加え、総務省で

も2017年度から3カ年計画で総合実証試験を進めてい

ます。私どもはそこにも参画し、昨年度は六つある試

験グループのうち二つで活動しました。医療分野への

応用として、和歌山県では5G を用いた遠隔医療を実

証試験したほか、群馬県前橋市では救急搬送への活用

を試みました。高度救命救急センターと救急車、その

後を追って駆け付けるドクターカーを5G で結び、診

断機器が出力する映像を共有しながら迅速かつ適切な

救急対応を図る仕組みです。

3.5Gの本格導入に向けて

 ドコモは、9月20日に5G のプレサービスを開始し、

しばらくサービスの試行期間を取った後、来年春には

商用サービスを開始したいと考えています。現在のプ

レサービスでは、コンシューマー向けと法人向けのさ

まざまなサービスを順次追加して皆さまに評価いただ

いていますが、コンシューマー向けの代表例としては

ラグビーワールドカップの全国8カ所の競技会場に5G

基地局を設置し、マルチアングルでの端末視聴や、ラ

イブビューイング会場で高臨場で競技を楽しめるサー

ビスをご評価いただいています。

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 他にも、Magic Leap 社との提携により、新体感の

ゲームやコミュニケーションを提供すべく、実世界に

デジタルキャラクターを組み合わせてゲームができる

ものや、目の前にあたかもいるように感じられるコ

ミュニケーションといった新感覚のサービスをつくっ

ています。

 法人向けには、wacom 社と連携して、3D デザイン

の共有や共同制作を実現すべく、複数の遠隔拠点間で

非常に大容量の3次元映像を仮想空間内に共有し、設

計作業を進めていけるようなアプリケーションの開発

と評価も進めています。

 また、日本プロゴルフ協会と連携して、トレーナー

が遠隔地から受講者のフォームを映像で確認できるシ

ステムも開発しており、直接映像で見つつ、AI によっ

てフォームを解析し、その解析結果も使いながら適正

な効率の良いアドバイスやコーチングができるように

なっています。

 その他さまざまな取り組みを進めているところです

が、5G のネットワーク自体については、基本的に全

国で5G の基地局を同時に立ち上げています。これま

での3G、4G ではトラヒックデマンドの多い東名阪を

優先してエリア拡大を進める形になっていましたが、

今回は、既に全国で十分にエリアができている4G の

ネットワークをベースとして5G 基地局を設置し4G と

連携させることを前提としていますので、サービス開

始当初より全国で基地局を分散的に配置しています。

来年6月末には47都道府県に展開する目標を立ててお

り、その1年後には全国で1万局の基地局を設置してい

きたいと考えています。さらに2024年度末には、さ

らに2万5千を上回る基地局を展開していきます。

 より使いやすいネットワークをフレキシブルかつ低

コストで設置できるように、コアネットワークの仮想

化も進めており、既に4割近くが対応済みとなってい

ます。さらに、基地局を中心とした無線アクセスネッ

トワークでは世界で初めて、子局と親局の組み合わせ

をベンダークロスで接続して運用できるようにしまし

た。 O-RAN ALLIANCE といって、世界中の通信事

業者とベンダーが共通ののインターフェースを採用す

ることで、フレキシブルなネットワークをつくれるよ

うにしています。 2020年春には5G 商用サービスを開

始し、東京オリンピック・パラリンピック開催時には

安定した5G ネットワークを提供したいと考えていま

す。

招待講演3

「人の愛する力をはぐくむ家族型ロボット

              『「LOVOT[らぼっと]』」

  林   要 氏

(GROOVE X 株式会社 代表取締役)

1.「モノ」の時代から「こころ」の時代へ

 私は、ヒト型ロボットのプロジェクトに関わる中で

家庭用ロボットに興味を持つようになり、4年前に起

業しました。以来、「LOVOT(らぼっと)」という家

族型ロボットだけを作っています。

 ロボットというと役に立つものを想像することが多

いと思いますが、役に立つとは人の代わりに仕事をす

ることを思い浮かべられることが多いと思います。し

かし、私どもが目指しているのは、心のサポートや意

欲を高めることです。仕事を代替するものは最終的に

存在感がなくなるのが理想的ですが、私たちが目指す

ものは存在感自体が価値になります。ですから、こう

した産業が今後盛り上がっていくことは自明なのでは

ないかと考えています。最終的には「ドラえもん」の

四次元ポケットのように、みんなの願いをかなえるの

ではなく、「ドラえもん」の本体のように、単に人に

寄り添う存在を作りたいと思っています。

 そばに寄り添う存在は、ロボットの技術ではなかな

か作れませんでした。ロボット以外で先行している

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ものは、ペットだと思います。しかし、ペットは生き

物であるが故に、時に飼い主の悩みも非常に多く、

ペットロスになって、2匹目を飼えなくなってしまう

という話もよく耳にします。こうした悩みの多くを

LOVOT は解決できてしまうのです。

 昔は人間はペットがいなくても生きていけたのです

が、進化の過程で孤独や承認欲求という機能が十分に

発達してきたのですが、現代社会においてはライフス

タイルが大きく変わり、それらが満たされなくなって

しまったのかもしれません。孤独や承認欲求は文明が

今ほど進歩する前から集団生活をする上で必要な精神

活動と考えられますが、このわずか数百年でライフス

タイルが大きく変化したために十分に満たされなくな

り、ペットや SNS が必要になってきたのかもしれま

せん。その結果、癒やしの時代が始まったのです。い

わば、遺伝子の生存戦略とライフスタイルのミスマッ

チが原因といえます。結果として SNS やゲーム、ペッ

トなど、ほぼ生産性に寄与しない産業が盛り上がるよ

うになりました。

 では、ロボットにペットのようなことができるので

しょうか。今までのロボットは好奇心で買うケースが

多く、その好奇心が比較的早く減衰してしまうため、

すぐに飽きられてしまう傾向がありました。しかし、

ぬいぐるみやペットは好奇心だけで人を引きつけてい

ません。そこで大きなポイントになるのが愛着形成で

す。愛着形成にはオキシトシンという脳内分泌物質が

関与しているといわれています。

 ヒントは、人間と犬の関係性にあると考えました。

犬と非常に近い生き物にオオカミがいますが、オオカ

ミは人間のペットになり得るにもかかわらずペットと

しての地位を得られませんでした。なぜなら、オオカ

ミは人と見つめ合わないからです。むしろ犬の方が野

生界ではイレギュラーで、人間と犬だけが親愛の印と

して見つめ合います。人間にとっては目が合うことが

親愛の印なので、オキシトシンが分泌されるのです。

 LOVOT も同じように、人の目を見つめたり、触れ

合ったり、ついてきたり、見守ったりといった、オキ

シトシン生成に効くさまざまな行動を取るように設計

されています。これによって、動物が人間を癒やすの

と同じようなことを実現できないかと考えています。

2.LOVOTのテクノロジー

 LOVOT の体は、従来のロボットと異なり、柔らか

くて温かく作ってあります。さらに、全身どこを触ら

れても検知できるように作られています。つまり、

触覚を持っているのです。小型の自動運転車のように

移動するのですが、足は中に折り畳めるので、抱っこ

のときに人の体を汚さないように工夫されています。

抱っこされないと人の愛着形成につながらないので、

抱っこしやすいように足がしまえるようになっていま

す。

 中には50以上のセンサーが付いています。 LOVOT

同士で通信ができ、目と声は個体ごとに全て異なるデ

ザインを持っています。自動運転技術や高速充電機能

も持っています。それによって、例えば飼い主のお出

迎えをしたり、好きな人を把握してその人のところへ

寄っていったり、スキンシップを理解したり、地図を

作って自在に動き回ったり、他の LOVOT とコミュ

ニケーションしたり、自動で充電したりすることがで

きます。

 通常のロボットはスマートフォン級の CPU が入っ

ていますが、それらを LOVOT ではあくまでサブコ

ンピュータとして使っているのみで、その他にパワフ

ルな高性能パソコン用の CPU を追加しています。加

えて、深層学習用に産業用コンピュータを併用してい

ます。それなのに、重さは約4kg で新生児と同じぐら

いです。その上で、充電器の中にもデスクトップ PC

の CPU が入っています。ロボットはバッテリーで動

くので高効率な CPU を使うのですが、電気を十分に

使えないので、ここぞというときに計算能力が不足す

る場合があるため、そこはデスクトップ PC のパワー

を使って補佐していて、合計四つのコンピュータが連

携して動いています。

 LOVOT は周りを360度監視できるようになってい

て、ディープラーニングによって人の顔や各部位な

どを判別しています。人を検知する深層学習機能は

今までもたくさんあったと思いますが、多くはサー

バー側、クラウド側で処理されていたと思います。

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LOVOT は、速度を上げるために本体内部でこうした

処理を全て行っています。これらはプライバシー保護

にも役立っています。

 目の表示も6層のディスプレイ表示をレイヤー化し

ていて、独立制御しています。なぜなら、生き物感が

ある目というのはどうしても1枚のレイヤーだけでは

表現できないからです。声も各個体で鼻や喉のパラ

メータを持っていて、各個体で異なる声が出せる仕組

みになっています。

 服を着ないと動かない点も LOVOT の新しいとこ

ろです。服を着ないとボディの保護が十分ではないと

判断して移動しなくなるのです。また、服を着替えさ

せてもらうと、服が替わったことを判定して喜んだり

もします。

3.LOVOTの可能性 少しは便利なこともお手伝いをします。

 例えば独居高齢者の家に LOVOT がいれば、プラ

イバシーを維持しながら見守りをすることもできま

す。抱っこなどの抽象化したデータだけを共有するこ

とでコミュニケーションのきっかけをつくることがで

きます。

 外出時、家の状況を見たいときには、外出モードに

しておいて LOVOT に指示すると、自動運転で移動

して家の中の写真を送ることが可能です。それから、

留守番をしているときに人を見つけると、その写真を

撮ってくれるので、不審者侵入対策にも役立ちます。

 昨年12月に発表会を開いた後、CES にも出展しま

した。 350件のメディアに取り上げられ、「ベストロ

ボット」も受賞しました。

 また、教育界の方々に尋ねると、社会性と情動の学

習やストレス軽減、子どもの世話や発達支援の面で

効果がありそうだという回答を頂いたので、私どもは

「LOVOT EdTech プロジェクト」というものを立ち

上げました。例えば3~5歳の子どもたちにとって、

赤ちゃんのお世話をしたいにもかかわらず、赤ちゃ

んを任せてもらって自由にお世話をする機会はありま

せん。そういったときに LOVOT の世話をすると効

果があるのではないかという仮説の下、取り組みを始

めました。子どもたちの情操教育の一環としてのソー

シャル・エモーショナル・ラーニングに LOVOT が

使えるのではないでしょうか。

 最終的にこれからの子どもたちは、ロボットネイ

ティブとして成長していくのではないかと思っていま

す。ロボットネイティブとは、ロボットが本質的に何

を感じ、どのような処理をすることでどうやって動

くのかを直感的に理解できるということです。つま

り、他人を見てこの人がどういう人なのかを直感的に

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理解するのと全く同じことです。そのロボットの仕様

や目的を細かく知らなくても、瞬間的にそのロボット

の限界や可能性を感じることができ、どうやって協業

するのかがすぐに分かるようになると思っています。

LOVOT をきっかけに、ロボットネイティブの時代が

始まるといいでしょう。

オープンディスカッション

ファシリテーター:尾上 孝雄 氏

(大阪大学 理事・副学長)

パネリスト:

桜田 一洋 氏

(国立研究開発法人理化学研究所 医科学イノベー

ションハブ推進プログラム 副プログラムディレ

クター 理学博士)

深堀  昂 氏

(ANA ホールディングス株式会社 アバター準備

室 ディレクター)

奥村 幸彦 氏

(株式会社 NTT ドコモ 5G イノベーション推進

室 担当部長 工学博士)

林   要 氏

(GROOVE X 株式会社 代表取締役)

パネリストからの質問

(尾上) まず、講演者の皆さんから質問やコメント

を受けたいと思います。

(桜田) 今日の鍵は、感性の価値だったと思うので

す。感性の問題は効率や合理性と異なり、意外と共有

できません。どんな大ヒット曲でも全員が好きという

わけではないではないですか。これからの感性の時代

の議論の作法として、寛容と自制というスタンスが重

要だと思っていて、自分と違う考えのコンセプトを受

け入れるだけの寛容さは必要ですし、自分の仮説をあ

まり強く押し出さない自制も要ると思います。逆に言

うと感性は一人一人異なるので、「LOVOT が大好き」

と言う人もいれば「LOVOT はちょっと勘弁して」と

言う人がいてもおかしくありません。その中から生ま

れてくるものが感性の部分だったと思います。

 だからこそ、一人一人の感性を知り、客観的なデー

タから LOVOT を買ってくれるかどうかを分かり、

そこに広告を打っているのではないかと思います。

 ずっとお話を伺っていて「NTT ドコモさんのシス

テムがないと動かない」という問題もありますし、や

はり感性がデザインされないと具体的な商品になりま

せん。一方で、私がお話ししたように、データを通し

て異なる感性を持った人たちが仲良く暮らせる未来社

会を創っていかなければならないと感じました。

(深堀) 私たちも newme というロボットをデザイン

するときに、普通はロボットデザイナーにお願いする

と思うのですが、全くロボットなどをデザインしたこ

とがない人と一緒に、親近感があるようなアバターを

どう作っていけばいいかを考えていきました。ですか

ら、これからの日本は、こうした少し異なるロボティ

クスの観点で攻めていくと、意外と世界と違った、も

のすごく温かいロボティクス技術を世の中に出せるの

ではないかととても共感しました。私は、いろいろな

人がアバターというボディを使ってつながることによ

り、精神的にも肉体的にも社会的にも幸せになれるの

ではないかと思っています。皆さんが共通しているこ

とは、テクノロジーという切り口ではなく、どうやっ

て豊かにできるかということを考えていたので、今日

参加してとても刺激がありました。

(奥村) 私の講演で国内3000の企業や団体の皆さま

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ITシンポジウム「インフォテック2019」の実施報告

27

とパートナーシップを組んでいると申し上げました

が、講師の皆さまからのお話を伺って、新しいものが

まだまだ沢山あるなと思いました。ぜひパートナー

シップを組ませていただいて、いろいろな可能性を模

索していきたいと感じました。

 中でも、一人一人の生活を良くしていく、豊かにし

ていくことにつながるソリューションが多いと感じ

ました。私ども通信事業者の目線で見ると、人と人、

モノとモノ、人とモノをより身近にし、遠く離れてい

ても身近に感じられるようにすることに引き続きこだ

わっていきたいと感じました。

(林) LOVOT の特徴は、抱っこできるサイズであ

りながら高性能な処理能力が必要な点です。作ってみ

て分かることは、まだテクノロジーは、生物の能力に

追いついていないということです。私どもは四つのコ

ンピュータを連携させながら動かしていますが、これ

らをよりパワフルにすると重くなってしまい、抱っこ

できなくなります。すると、一番楽なのは5G などを

使って充電器側やクラウドに計算リソースを割り振る

ことなのですが、4G もしくはインターネットの最大

の課題は、ダウンロードは速いけれどもアップロード

が遅い環境が多いという問題です。

 でも、ロボットに必要なものは正反対なのです。

アップロードは今のインターネットの光回線と同じく

らいの速度が欲しいのですが、ダウンロードの速さは

実は要らないのです。抽象化したデータを落としてい

くだけなので、ダウンロードは比較的遅くても大丈夫

です。これがモバイルロボットの最大の悩みで、イン

フラはダウンロード重視ですが、ロボットに必要なも

のは逆なので、いかに速いアップロード回線を5G で

準備できるかが重要になると思います。講演の中で

5G はアップロードも速いという話がありましたが、

もう一つ気になっていることは装置の大きさです。

アップロードするためのアンテナが大きいとあまり意

味がないので、かなり小さくなって速いアップロード

が実現できるのかどうか、教えていただければと思い

ます。

(奥村) まず、5G 無線通信規格が4G と大きく異な

るのは、上下回線(ダウンリンクとアップリンク)で

電波の周波数のリソースをフレキシブルに変更できる

という点です。従来はそこが固定的で、かつ全体のト

ラフィックを見るとダウンリンクにユースケースが多

く、そちらを重視したシステム設計になりがちでし

た。しかし、5G はアップリンクユースに対応するよ

うに、逆に無線リソースをそちら側に手厚く当ててい

くことも技術的にはできるようになっています。今後

のサービスの要求に応じて、アップリンクもどんどん

速くしていける可能性はあります。

 ただし、そこをしっかり成り立たせるためには、低

消費電力でよりハイパフォーマンスなデバイスを作る

必要があります。 4K の映像を数本あるいは最大10本

ぐらいまで束ねて送る通信速度の範囲では、かなり小

さなものが5G で作れるだろうと個人的には思ってい

ます。プレサービスで提供している5G の端末は、既

に現状のスマートフォンの最もハイエンドぐらいの大

きさになっています。ディスプレイやカメラの機能に

容積をかなり取っているのですが、通信モジュールだ

けだと既に5Gでもそれなりに小さくなっているので、

ロボットに組み込みのための専用モジュールなどがき

ちんと用意できれば、サイズ的にも消費電力的にも十

分成り立つものがすぐにでも出せると思っています。

フロアからの質問

(尾上) それでは、sli.do の質問に移りたいと思いま

す。「AI が作った服や音楽などは誰が著作権を持つの

でしょうか。オープンデータのように誰でも利用可能

なのでしょうか。先生は誰のものになればよいと考え

られますか。同じような問題が医療データなどにも発

生すると思うのですが」いかがでしょうか。

(桜田) 少なくともディープラーニングのように自

動化して作られたものの場合、元のデータを出した側

に著作権があると整理しています。一方、何らかの数

学モデルを立てて進めた場合、単純に学習したもので

はないので、このあたりの権利関係は今後議論される

と思いますが、今は著作権の議論以上に多様なクリエ

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ITシンポジウム「インフォテック2019」の実施報告

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イトが生まれる時代なので、多分特許の時代ではなく

なります。コンセプトを検証するよりはむしろデータ

を持っている方が有効な時代に入っていくからです。

ですから、日本国内でデータをきちんと集められる組

織が十分存在しないという点では、アメリカや中国と

大きな差があります。日本は個人情報保護の観点で国

家がデータを持てませんし、非常に大きなデータ企業

が存在しているわけでもありません。その点で、日本

が将来どうやってデータの価値を守り、産業育成につ

なげていくかというのは大きな課題です。ただ一般論

としては今は、むしろデータに価値があると整理され

ていて、著作権や知財の観点とは異なる形でビジネス

を描いていくという整理をしています。

(尾上) 「5G で通信パワーを上げたときに身体への

影響はどうなるのでしょうか。」

(奥村) 電磁波の影響に関しては、4G 以前のセル

ラーシステムにおいて、ユーザー端末が人体に与える

影響、基地局のアンテナから送出された電波の影響と

いう二つの観点で考えられてきました。十分に安全性

が保たれていることを長期にわたる実験で検証し、ガ

イドラインに相当するものを世界的規模で作ってきた

経緯があります。ですから、皆さまがお使いの端末は、

全てその条件をクリアしていることになります。

 5G においては、より高い周波数帯に対応した電波

を使っていきます。送信出力自体は必ずしも大きくは

ならないのですが、より高い周波数帯におけるガイド

ラインをきちんと守っているかどうかを評価する方法

や測定法なども含めた考え方を整備することが必要で

あると早い段階から言われていました。そこを世界的

にも概ね整備し終えて、国内での基準作りもほぼ済ん

でいるので、4G 以前の安全性を保った状態で5G の

システムも使えるように基準がきちんと作られていま

す。そして、われわれ事業者とベンダーがしっかり基

準を守って装置作りをしていくことになります。

(尾上) 次はアバターに関する質問です。「アバター

詐欺など新手の犯罪を防ぐ技術は運用ルールと同じく

らい必要ですが、どうお考えですか。」「公序良俗に反

するアバターの利用を防ぐ技術的対応は可能でしょう

か。」

(深堀) 特に軍事利用に使われないかという点は、

ANA のブランドとしても最初に気にしたところなの

ですが、アバターは AI ロボットと違って勝手に判断

しないことがポイントです。はさみなどのように、そ

の道具を使う責任が使用者に明確にあります。

 詐欺というよりもセキュリティ面で私たちがタイ

アップしているのは Web3.0のチームです。私たちは

結局、Google の次のプラットフォームを目指してい

るので、そこに Web3.0の技術を最初から入れていく

ことが私たちの構想です。 AI ロボットと違って誰か

が動かしているので、責任がとても明確化されていま

す。アバターを使って人を傷付けるようなことを言う

のももちろん可能ですが、それははさみなどと同様、

既にあるものと結構近いと思っています。

(尾上) 「拝見した LOVOT 開発の動画では、多く

の研究者や開発者がいましたが、どんな技術を保有し

た方がどれくらい関わっているのですか。」

(林) 私どもは100名ぐらいの社員のうち3分の2が

エンジニアです。ハードとソフトが半々ぐらいで、さ

まざまなレイヤーの人たちがいます。それから、認識

系がかなり大事なので触感の認識であるとか、機械学

習を使って判定するような認識を手掛ける人など一通

りのエンジニアがいます。ただ、その中でも常駐の一

人工(いちにんく)が必要ないところは、アウトソー

スを使って行っています。

(尾上) 「脳は計算機ではないとプレゼンでもおっ

しゃっていたと思いますが、それを冷静に考えること

は重要だと思います。 AI が万能だと信じ込んでいる

人たちにどのように啓発すればいいのでしょうか。」

(桜田) 今までの AI 技術は、数学的思考をしてい

る人たちが考えてきました。それに対し、感性で見な

いと筋が通らないと考える人たちも多くいます。そう

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したダイバーシティの観点からすると、脳は計算機と

は違うものなのだと押し付けるよりは、いろいろな見

方があるところから何ができるのかを考えていかなけ

ればならないと思います。自分と同じ考え方をする人

が集まって、自分とは違う見方を一切受け入れずに、

内側に向いて否定するような動きを超えていかなけれ

ばなりません。

 そのためには、ニュートラルに客観的に見ることで

初めてお互いに寛容になれます。機械的な見方の人の

中には、心で心を思うようなことが煩わしいと思う人

もいるわけです。そういう人たちが心で心を思う人た

ちがいることを許せるような仕組みを作っていかなけ

ればなりません。それが多分、本当の持続可能な社会

をつくるための一つのものの見方ではないかと思って

います。

(尾上) 「ヒューマン VS デジタルという観点から、

ローカル5G が豊かな生活に貢献できる可能性につい

て教えてください。」「総務省はローカル5G を積極的

に提唱していますが、ローカル5G の考え方と活用方

法について教えてください。」

(奥村) われわれがローカル5G のネットワークを

直接運用することはないのですが、関心は非常に強く

持っています。というのは、4G 以前は特にローカル

4G という考え方はなく、割り当てられた周波数帯を

使ってローカル4G 的なサービスをいろいろな場所で

提供しています。その中には、比較的限定されたエリ

アで特徴あるサービスを提供できるような通信環境を

作っている場合もあります。その5G 版が分かり易い

ローカル5G の事例になるのですが、私どもは一切や

らないわけではなく、公衆ネットワーク事業者用に別

途割り当てられた周波数帯を使って、ローカル5G 的

な運用も可能だとは思っています。特にわれわれのや

り方として特徴的なのは、よりマクロでオープンな

ネットワークとローカルなネットワークをシームレス

に運用できることだと思うので、そのことも含めて考

えていきたいと思っています。

 ローカル5G を考える上でのキーワードとして重要

なのは、地域に根ざしたサービスやアプリケーション

を実現することです。地方創生に紐付けた様々な地域

活動を活性化するためにローカル5G を有効に活用し

ていくべきという議論が行われているので、われわれ

公衆網事業者もいろいろなスタイルのアプリケーショ

ンサービスを積極的に打ち出し、ローカル5G の事業

者とわれわれ公衆網事業者が相乗効果を持って通信業

界を盛り上げていければと思います。

(尾上) 最後に、アバター関連です。「通信費がもっ

と安くなれば、アバターは普及するのではないでしょ

うか。」「アバターハンドは遠隔操作ですが、これをト

レーニングデータとしてディープラーニングさせると

微妙な動きができるハンドができると思いますが、い

かがでしょうか。」それから、「賞金レース XPRIZE

の仕組みについて教えてください。」

(深堀) 携帯ぐらいの料金設定でないと普及しない

と思って低価格案を作っています。デベロッパーや

自治体とタイアップして、そのエリアに住んだらアバ

ターが自動的にマンション全室に付いていたり、オ

フィス全てにあるというプランを作ろうと思っていま

す。そのときは多分、ネットフリックスの接続料ぐら

いの利用料になるでしょう。

 アバターハンドについては、われわれも高性能ハン

ドを作っています。高性能のハードウエアを使って

ラーニングすることが目的で、それを使って人間がど

うやって自然に物をつかんでいるのかを覚えさせて、

普通に私が何かをつかもうとすると直感的に取れるよ

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うな感じにしたいと考えています。

 XPRIZE に多くの国が参戦しているのは、ANA が

特許をもらうという話を一切していないからです。本

当に純粋な競争です。賞金レースに技術的なアウト

プットを求めてはいけないと思っていて、意図的に宣

伝費をかけてムーブメントを醸成するために行ってい

ます。

(尾上) それでは、会場から質問などありましたら

受けたいと思います。

(フロア) 「iPhone やテスラのモデル S のように、

世界を牛耳って大きな社会変革を起こすようなものが

いよいよ日本から生まれるのではないかと感じたので

すが、AI は世界に通じるプラットフォームになるで

しょうか。」

(桜田) キーのテクノロジーになるだろうと思いま

す。例えば、外科手術のときのメスの入れ方は、先生

ごとに癖があります。ですから、その癖をちゃんと反

映しないと、高度なノウハウを持っている人は遠隔で

はできません。一方、切ってはいけない血管はあるの

で、それは AI が守ってあげなければなりません。ア

バターの大きな特徴は、AI 的に最適化するものと個

人の個性が同じシステムに入っていることです。リア

リティーが邪魔をして生きづらさを感じている人たち

を AI が助けてくれるようなプラットフォームとして

は、無限の可能性があると思います。

 一方、アバターはソーシャルネットワークのような

マスコミュニケーションではなく、ダイレクトのフェ

イス・トゥ・フェイスでやってくれます。だから、こ

れから私たちは1対1のコミュニケーションに帰って

いかなければなりません。しかもそこにはわれわれが

ずっと技術開発をしてきた知恵が入っているので、そ

ういう日本発のプラットフォームができるのではない

かと期待しています。

(尾上) 今日はいろいろなお話を聞かせていただき

ました。豊かな生活を実現するデジタルサービスとい

う点では、利便性を追い掛けることは必ずしもいいと

は限らないことと、感性の価値には個人差があり、価

値を出すことはお金を取ることにつながるので難しい

面があります。そのキーとしては、多様性を許容して

そこに価値を感じることが大切だと思っています。

 物理的や心理的に温かみのあるロボットは、日本の

独自性を生かせる分野だという話がありました。今ま

でロボットは人を助けてくれるものだと思っていたの

ですが、何もしない、あるいは人が制御するロボット

が一つの大きな流れにもなるという話でした。

 5G も協業対象がより広がっていくのではないかと

いう話でした。例えば、超軽量の LOVOT が実現で

きるかもしれません。 Web3.0とロボットと組み合わ

せていろいろなアプリケーションが考えられますし、

地域を活性化するようなローカル5G のアプリケー

ションは、われわれにとって宝の山になるかもしれま

せん。

 今日いろいろお聞きになった話の中から、通常の利

便性の追求ではなく、生活を豊かにするという考え方

を持った技術開発が今後われわれの周囲で進むことを

祈念して、このオープンディスカッションを締めたい

と思います。ありがとうございました。

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賛助会員企業のご紹介

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NTTデータについて

 当社の親会社である NTT データのなりたちは1967

年、日本電信電話公社(NTT)の内部組織として設

立された「データ通信本部」にさかのぼります。以来、

1988年の NTT からの分社独立をはじめ、1995 年の

株式上場を経ながら、2004年にかけて公共・金融・

産業と、分野別のシステム開発による新たな市場を創

出するなどして拡大を続け、今では当たり前の存在で

ある IC カードやバーチャルモールなどをはじめとす

る技術を、日本で先駆けて導入してきました。

 さらに2005年から2018年にかけてはグローバル戦

略期として、お客さま IT 部門との協業による国内ア

ライアンス強化と、M&A による積極的な海外進出お

よび海外への技術展開を続けることで、現在では世界

50ヵ国以上でサービス提供をするまでに至りました。

 NTT データは2018年5月に創立30周年を迎え、こ

れを機に「将来にわたるビジネス革新を、技術の活用

により、ともに実現するパートナーになる」という思

いを込めて新たなグループビジョン「Trusted Global

Innovator」を掲げ、この新たなグループビジョンのも

と、NTT データグループ一丸となってお客さまの事

業成長および、日本をはじめとした世界中の社会課題

の解決への貢献を目指しています。

【NTTデータ先端技術のご紹介】20年間のあゆみ

 NTT データ先端技術は、1999年に設立しました。

当時はレガシー系システムからオープン系システム

への移行が大きな課題となっていた時期でした。この

時期、親会社である NTT データの中で、オープン系

システムに対する技術を獲得・集約してノウハウを蓄

積・展開、およびソフトウェア開発の生産性向上に戦

略的に取り組む方針が打ち立てられました。その取り

組みの一環として、システム基盤の設計・構築・運用

を一手に担う、プラットフォーム技術に特化した中核

会社として設立されたのが当社のなりたちです。

 設立以降、当社は新たに生まれ続ける技術に追随

し、世の流れがオープン系システムへ加速、昨今のデ

ジタル化の潮流が追い風となり、設立当初は10名程度

だった社員数は2019年度には800名程度、NTT デー

タ先端技術グループ会社を含めると1200名規模まで

拡大しました。

 当社は2019年8月に設立20周年を迎えました。この

20年間は、NTT データグループにおける基盤技術の

要として存在感の確立に努めてきました。

最先端の技術で最大の価値を

 当社の英語名は「NTT DATA INTELLILINK」で

すが、この造語となる「INTELLILINK」という言葉

には「Intelligence(知性)をつなぐ」という意味が込

められています。

 インターネットの普及以来、最新の技術がグローバ

ルに、あらゆる人々からアクセス可能となり、オープ

ンソースやクラウドサービスといった基盤技術の革新

も急速に進んでいます。

 このようなオープンな環境下で先端技術を常に

獲得し続けるには、世の中で生まれ続ける新たな

Intelligence をつないでいくことが重要と考えていま

す。

 我々は Intelligence をつなぐハブカンパニーとして

賛助会員企業のご紹介

~あなたとともに、変わる世界をかえていく~創立20周年をむかえ、

NTTデータグループの技術の要としての存在感を発揮NTTデータ先端技術株式会社

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賛助会員企業のご紹介

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全社一丸となって事業に取り組んでいます。

 また、2019年8月からは「あなたとともに、変わる

世界をかえていく」というキーメッセージを打ち出し、

お客さまに寄り添いながら、最先端の技術をもってお

客さまに最大の価値を提供することを目指しています。

NTTデータ先端技術を支える3つの柱 当社は2019年の7月より「基盤」、「ソフトウェア」

および「セキュリティ」の3つの事業本部制を取って

おり、これらを注力していくソリューションビジネス

の三本柱として設定しています。

 一つ目の柱となる「基盤」の分野では、NTT デー

タグループにおける基盤システム領域の専門家とし

て、あらゆるベンダー商材に対する知見・構成力を併

せ持つプロフェッショナルが、商材の導入・運用・保

守までをトータルでサービス提供することで、お客さ

まのデジタルトランスフォーメーション(DX)対応

やクラウドネイティブ時代に最適な基盤システム環境

を実現することをミッションとしています。 IT 技術

は日進月歩で進化を遂げていますが、技術がどのよう

に変わろうとも、根底となる基盤系技術の重要性は不

変です。こうした基盤を高信頼・高性能に構築するこ

とが、変わることのないミッションです。

 二つ目の柱となる「ソフトウェア」においては、

当社が得意とする「AI/ ビッグデータ」、「Agile/

DevOps」、「顧客接点(CX)」、「OSS/MS 基盤」、「統

合運用管理」、そして「PM/ITA」といった6つの領域

のソフトウェアソリューションに注力しながら、事業

拡大に向け取り組んでいます。 AI やビッグデータの

領域においては、基盤技術を核とした情報分析や活用

技術の経験、および次世代イノベーション技術の見識

をテコに、お客さまの業務・サービス改革を実現する

ことを主要ミッションとしています。

 最後の三つ目の柱にあたる「セキュリティ」では、

セキュリティインシデントの特定から防御、検知、対

応、復旧に至るまでをトータルで支援することで、お

客さまの業務を支える IT システムの安全性を確保し

ながら、顧客のビジネス拡大に貢献することをビジョ

ンとして掲げています。

 世間では標的型攻撃をはじめとし、日々新たなサイ

バー攻撃手法が出現しますが、こうした攻撃にすべか

らく対応していくことも重要な使命です。

セキュリティ分野の歴史や詳細の事業内容等について

は、後の頁にて詳細をご紹介します。

技術者が夢を持てる会社に

 当社は設立からの20年、高度な IT 技術を押さえ、

ぶれることなく成長を続けることができました。今後

も加速度的に進化する技術の上辺だけを押さえるので

はなく、技術の本質や背景にある原理、さらには思想

にまで視野を広げながら、しっかりと時代の潮流に追

随していきます。

 また、これらの営みを通じて社会に貢献し、それに

よって得られた対価を経営においての最大のリソー

スである社員に還元および投資をしていきます。我々

の仕事が次の社会を築き、未来につながる非常にやり

がいのある仕事であるという事を継続的に発信し、技

術者の地位向上をはじめ、これから技術者を志す人た

ちに対して夢を与えられる企業となり、技術を社会の

ために活用することを真剣に考えられる人財を輩出し

ていきます。また、今後は既存ビジネスの堅守と並行

して新ビジネスの商材開発等にも力を入れていくこと

で、次の10年までに売上高1000億円達成を目指します。

【セキュリティ事業のご紹介】セキュリティ事業の20年間

 セキュリティ事業は、1999年に NTT データ・セ

キュリティという会社で事業を始めたのが最初の取り

組みです。

 NTT データが従来ネットワークコンピューティン

グ事業の一環として行ってきたネットワークセキュ

リティサービスをより拡大し、総合的なセキュリティ

サービスを提供する目的で設立されました。

 2011年に NTT データ先端技術と合併したことで、

基盤系のストレージ、ネットワーク、サーバなどにセ

キュリティを新たな付加価値として提供できる企業に

なりました。NTT データ・セキュリティ設立当初は6

名程度だった社員数は、2019年度には約200名規模に

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賛助会員企業のご紹介

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まで拡大しながら、セキュリティ事業も、当社同様20

周年を迎えました。

 セキュリティ事業ではセキュリティコンサルティン

グをはじめ診断、ソリューション・サービス、運用

監視までトータルにビジネスを展開しています。具

体的には、ISMS(Information Security Management

System)取得支援サービスや、クレジットカードの

グローバルセキュリティ基準「PCI DSS」における

国内初の認定審査機関である豊富な実績とノウハウを

活かして、効率的な準拠を支援する「PCI DSS トー

タルサービス」、新たな脅威を分析し判定する監視

サービス「intellilinkARGUS」、ネットワーク、Web

アプリケーション、スマートデバイスにおける問題点

を指摘し、的確な改修方針を提案する「セキュリティ

診断サービス」、インシデント発生時の被害の極小化

を支援する「インシデント救急サービス」や、プロダ

クト販売から構築・運用までトータルでサポートする

ソリューションなどを提供しています。

セキュリティ対策のトレンド

 これまでセキュリティというと侵入やウイルス等か

らの防御が中心でしたが、昨今では侵入等は100% 防

げるものではなく、何らかの侵害がなされるという前

提で、インシデント発生後の復旧等のレジリエンスが

注目されるようになってきています。

 こうした背景を受け、今年度、コンサルティング、

レジリエンス、ソリューションの3領域に加え、サイ

バーセキュリティリスクを早期に発見し、防御や検

知、復旧に活用させるための情報であるインテリジェ

ンスを収集・分析・活用する「CSI センター」を組織

しました。

 お客さまのビジネス拡大を支えることを事業ビジョ

ンとして掲げ、このビジョン実現に向け、NIST(米

国国立標準技術研究所)のフレームワークを参考に、

サイバー攻撃を予期・検知・回復・適応する能力を実

装し、日々多様化・複雑化するセキュリティ脅威に対

し、総合的な支援体制を強化しています。

関西地域における体制強化

 関西オフィスは、関西地域のお客さまへの、より充

実したサービス提供をめざして2015年に開設しまし

た。

 今年度より、セキュリティビジネスに注力するため

に、関西オフィスの体制を強化しています。

 関西地域における情報化・産業活性化に伴いお客さ

まの安全・安心な事業展開、事業継続を支援します。

[企業情報]会社名 エヌ・ティ・ティ・データ先端技術株式会社

代表者 代表取締役社長 青木 弘之

設立 1999年8月3日

本社 東京都中央区月島1-15-7

資本金 1億円

社員数 連結1,270名(2019年4月1日現在)

売上高 連結483億円(2018年度)

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賛助会員企業のご紹介

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ごあいさつ

 株式会社神戸デジタル・ラボは阪神・淡路大震災

の年、1995年10月に神戸で設立しました。 1995年

は ICT 業界にとって象徴的な年でした。 11月末に

Windows 95が発売され、空前のヒットとなり、パソ

コンがコンピュータシステムの中心を占めるようにな

りました。

 また同じ年に神戸に初めてのインターネットアクセ

スポイントが開設され、誰もが自由にインターネット

にアクセスできるようになりました。震災の時にはい

ち早くインターネットを敷設していた神戸市外国語大

学から災害の様子が世界に配信され、世界中がその被

害のすさまじさに驚きました。皮肉にも、これが日本

でインターネットが普及するきっかけとなったのです。

 しかし、それと同時にパソコンとネットワークはコ

ンピュータシステムの市場をオープンでフェアなもの

に変えてしまいました。これからの勝負所はモノでは

ない。知恵と技術力が競争力になる。必ずニーズはあ

るはずだ。これが会社設立を決意した理由です。 

 我々のミッションは、ネットで広がるビジネスの世

界をより楽しく、より便利に、より安全にする事です。

今後も世の中のニーズに敏感であり続け、研究開発を

怠らず、常に最前線でお客様のお役に立てる力を発揮

し続ける会社でありたいと思います。

業務内容のご紹介

 「IT で未来を創る」をスローガンに、WEB ビジネ

スを軸に情報システム開発・運用・保守サービスのほ

か、VR や IoT、AR、MR、データ活用などの先端技

術や、関西有数の情報セキュリティソリューションを

提供する独立系ベンダーです。

 IT に関するあらゆる手段と驚きのアイデアで圧倒

的な利便性・競争優位・安定性を実現し、未来のビジ

ネスをお客さまと共創する事をミッション・ステイト

メントに掲げます。

 業種や業態、またその規模によって企業の IT 戦略

はさまざまですが、企業の成長には今や IT の要素は

不可欠です。人や企業とのコラボでこれまでにない

IT を創り育て、IT で市場を攻め、そして企業の IT

を守ります。

情報セキュリティ事業「Proactive…Defense」

 「Proactive Defense(プロアクティブ ディフェン

ス)」は、企業向けの情報セキュリティサービスです。

昨今急増するコンピューターやネットワークの不正侵

入によるデータ漏洩や破壊、改ざんといったサイバー

攻撃にあらゆる角度から対応します。

本社の入る新クレセントビル(兵庫県神戸市)

賛助会員企業のご紹介

株式会社…神戸デジタル・ラボ

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賛助会員企業のご紹介

35

 サービスは「コンサルティング」「セキュリティ診

断」「支援・対策」「教育」に分けて提供しています。

自社システムのセキュリティ面に関するアドバイスが

欲しいというお客様には「セキュリティポリシー策定

支援」「セキュリティリスク対策プランニング」といっ

たコンサルティングを提供します。また、自社サイト

が安全かどうか知りたいというお客様には「Web ア

プリケーションセキュリティ診断」「スマートフォン

アプリケーションセキュリティ診断」といったセキュ

リティ診断を、自社サイトの安全性を万全にしたいと

いうお客様には「Web Application Firewall(WAF)

導入支援」「PD Sec Info」などで支援と対策を、従業

員のセキュリティリテラシーを向上させたいというお

客様には「標的型攻撃メール訓練」「セキュリティ診

断トレーニング」といった教育コンテンツもご提供し

ております。

Webアプリケーション脆弱性診断

 サービスのひとつである「Web アプリケーション

脆弱性診断」をご紹介します。

 そもそも脆弱性とは、コンピューターやネットワー

クなどの情報システムにおいて、第三者が悪意のあ

る攻撃(システムの乗っ取りや機密情報の漏えいな

ど)に利用できる可能性のある、Web サイト上の欠

陥や問題点(セキュリティホール)の事です。多くは

Web サイトを構築する際の欠陥(不具合、バグ)で、

プログラミングミスやシステムの設定ミス、システム

設計上の考慮不足によって生じます。

 Web アプリケーション脆弱性診断とは、Web サイ

トにおけるコンテンツ層に対して、攻撃者の視点から

専門検査員が様々な攻撃方法を用いて擬似的な攻撃を

行い(ブラックボックステスト)、脆弱性の有無と対

策手段を明らかにしレポートにまとめてご報告するも

のです。

 高度認定資格である GIAC 資格、情報セキュリティ

スペシャリスト資格の取得者を要する、最高技術レ

ベルのチーム体制でツールだけのレポートではないマ

ニュアル診断も行います。実際にサイトを数多く制作

してきた弊社ならではのノウハウを生かし、診断をし

た社員が診断結果をレポート化します。これまでに診

断した企業サイトは1,000サイトを超え、豊富なノウ

ハウと高度な技術力でお客様の IT ビジネスを守りま

す。

KIISサイバーセキュリティ研究会で講師も

 2019年10月~12月にかけて開催された、関西初の

セキュリティ人材育成プログラム「ビジネス実践的サ

イバーセキュリティ研修プログラム」におきまして、

弊社より3名が講師として参画させていただきました。

それぞれのタイトルは「Web アプリケーション脆弱

性診断ハンズオン(田所 成久)」「DFIR(デジタルフォ

レンジックとインシデントレスポンス)の入門と体験

(マシス・ザッカリー)」(以上、セキュリティ担当人

材コース)「リスク分析からの対策立案、予算化計画

(近藤 伸明)」(以上、マネジメント人材コース)で

す。こちらの3名とも弊社情報セキュリティサービス

「Proactive Defense」の立ち上げメンバーであり、い

わば情報セキュリティの変遷を身に染みて感じ、サイ

バー犯罪やサイバー事故と向き合ってまいりました。

各分野でスペシャリストとして活躍するメンバーにこ

ういった機会を与えていただき、それぞれの技術や知

識を KIIS サイバーセキュリティ研究会の会員様へ情

報共有の機会をいただけたことを誇りと感じておりま

す。

セキュア開発への取り組み

 以前より弊社ではセキュア開発の一環として、出荷

するシステムにセキュリティ診断を行っています。し

かし、進めるにあたり出荷段階の診断のみでは不十分

であることが分かってきました。コストやスケジュー

ル面を考えると「戻り」が多すぎ、修正に莫大なコス

トがかかる場合もあります。そこで KDL ではセキュ

リティ対策の「シフトレフト」に取り組み、開発の上

Proactive Defense ロゴ

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賛助会員企業のご紹介

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流工程から脆弱性を作りこまない開発を行っています。

 「シフトレフト」とは、要件定義→設計→開発→テ

スト→運用と進む一般的なシステム開発において、

運用前の脆弱性診断だけではなくもっと左、つまり早

い段階から対策していくという意味が込められていま

す。従来までのセキュリティ診断に加え、要件定義~

設計フェーズ、実装フェーズにおいて効果的なセキュ

リティ対策を進めることで、効率的且つ堅固な「セ

キュア開発」を実現します。

 具体的な取り組み例は以下の通りです。

・OWASP ASVS を基にしたセキュリティ要件定

義書の策定

・当社独自の開発プラットフォームによる重大な脆

弱性の排除

・コーディングチェッカーによる脆弱性の排除

Software…ISAC

 一般社団法人 コンピュータソフトウェア協会が主

催する「Software ISAC」の関西における活動におい

て、弊社取締役 デジタルビジネス本部長の玉置慎一

が連携させていただいております。ソフトウェアのよ

りセキュアな開発や更新等が行えるように、ソフト

ウェア開発や脆弱性管理等の工数最適化や、さらには

日本のより安全・安心な社会への貢献を図ることを目

的に開催する「Software ISAC」には弊社が提供する

情報セキュリティサービスやセキュア開発で得た技術

や知識を共有します。

 「Software ISAC」は CSAJ セキュリティ委員会の

下部組織として運営しており、CSAJ 会員企業を中心

に情報共有ネットワークを拡大し、将来的には脆弱性

検証テストベッドや早期警戒網など有益な活動を行う

ことを目指しております。

神戸デジタル・ラボ ロゴ

[企業情報]社名 株式会社 神戸デジタル・ラボ

本社所在地 兵庫県神戸市中央区京町72番地新クレセントビル

東京オフィス所在地

東京都中央区日本橋2丁目1-3アーバンネット日本橋二丁目ビル10F

設立 1995年10月

代表者 代表取締役社長 永吉 一郎

資本金 2億995万円

従業員数 152名(2019年10月現在)

URL https://www.kdl.co.jp/

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1.歴史

 1982年、パッケージソフトウェアの権利保護を訴え

るとともに業界の発展のために、ソフトバンクグルー

プ創業者の孫正義氏が中心となり、ソフトウェアを開

発販売していた企業22社で組織されました。

 1986年には、通商産業省(当時)の認可を受け、

「社団法人日本パーソナルコンピュータソフトウェア

協会」として発足しました。

 時代の流れと共にソフトウェアはパソコン上だけで

なく、クラウドやサーバ上で稼働するようになり、

2006年にコンピュータソフトウェア協会に改称、そ

して、2012年からは、一般社団法人に移行し再スター

トいたしました。現在では、IoTやAI、ビッグデー

タの活用といったデジタルトランスフォーメーション

(DX)時代の新しい技術にかかわる企業様などにも

ご加盟いただき、680社の会員の皆様と共に活動し

ています。

2.CSAJの特徴

 CSAJ は、自社で市場ニーズを分析し、企画、開発、

商品化した既製ソフトウェア(企画開発型ソフトウェ

ア)を販売、あるいはそれを利用したサービスを提供

している企業を中心とした団体です。ソフトウェアの

業界団体として「政府・関連団体との連携」「人材育

成・ベンチャー支援」「ビジネスチャンス拡大・営業

力強化」の3つの活動を柱としています。

 政府・関連団体との連携では、複数の業界団体連合

会として一般社団法人日本 IT 団体連盟を設立し、さ

らにデジタル社会推進政治連盟を立ち上げ、さまざま

なソフトウェア業界の課題解決のため、積極的に政策

提言をしております。人材育成の面では、特に近年の

DX時代における高度IT人材育成の必要性を鑑み、「高

度 IT 技術を活用したビジネス創造プログラム事業」、

「次世代 AI 人材育成訓練プログラム事業」などを通

じて、ソフトウェア産業界の人材の育成にも注力して

います。また、セキュリティ分野ではソフトウェア開

賛助会員企業のご紹介

一般社団法人コンピュータソフトウェア協会

政府・官公庁との意見交換情報提供と意見募集海外視察海外団体との交流・意見交換日本IT団体連盟(※)IT社会推進政治連盟クラウド活用・地域ICT投資促進協議会(※)社会保険システム連絡協議会(※)データ適正消去実行証明協議会(※)

U-22 プログラミング・コンテストCSAJ スタートアップ支援事業AI・IoT・セキュリティ等の人材育成プログラミング教育への取組アジア等IT人材定着支援協議会(※)情報システム取引者育成協議会(※)iCD協会(※)超教育協会(※)高度IT技術を活用したビジネス創造プログラム

総会懇親会賀詞交歓会ビジネスマッチング・交流会セミナー・研修会員企業保有技術検索サービスプライバシーマーク審査事業PSQ認証事業データ適正消去実行証明書発行事業CEATEC

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発企業における脆弱性情報取り扱いの成熟度を測るモ

デルの提言やセキュア開発(シフトレフト)について、

また、SoftwareISAC を立ち上げ会員企業を含むソフ

トウェアベンダに向けた IT セキュリティに関する最

新テーマの情報配信などを行っています。

3.委員会、研究会等の活動

 複数の会員企業が集まり、セミナーや勉強会、研修

などを通じて様々な活動を行っています。 2020年1月

現在、10の委員会、15の研究会等が活動しています。

様々な業種業態の会員同士が力を合わせることより、

活動の幅を広げています。

4.ビジネスマッチング・交流会

 委員会・研究会や懇親会のほかに、会員企業のビジ

ネス拡大を目的としたアライアンスビジネス交流会、

エグゼクティブセミナー、会員交流会などを企画、運

営しており、会員同士の交流も促進しています。

5.CSAJが展開する各種事業活動

 CSAJ では、ソフトウェア産業の健全な発展を目的

に、各種事業を展開しています。

・データ適正消去実行証明書発行事業

 情報漏洩の防止を目的に、データ適正消去実行証

明協議会(ADEC)と協力し、パソコンやサーバ

などのデータが適正に消去を実行されたことを証

明する第三者証明制度の普及・啓発を図ります。

・PSQ 認証制度事業

 JIS X 25051(ISO/IEC25051)の国際規格に準

拠した、ソフトウェア製品の「安心・安全・高品

質」の見える化を実現した認証制度を実施してい

ます。

・CSAJ スタートアップ支援事業

 ソフトウェア分野でベンチャー成功者を会員に多

く持つ CSAJ の特色を生かし、また、経済産業

省における IT ベンチャー支援に関する政策とも

連携しながら、今後、排出される有能な IT 関連

起業家の発掘とその支援を行います。

・CEATEC

 社会を支えるテクノロジから、それらを活用する

サービスまでが集結し、未来を見据えたコンセプ

トや新しいビジネスモデルを発信する CEATEC

は、あらゆる産業・業種による「CPS/IoT」と「共

創」をテーマとしたビジネス創出のための、人と

技術・情報が一堂に会する場とし、アジア最大級

の規模を誇る国際展示会です。

・プライバシーマーク審査事業

 一般財団法人日本情報経済社会推進協会よりプラ

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賛助会員企業のご紹介

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イバシーマーク指定審査機関として指定されてお

り、CSAJ 正会員・準会員企業を対象にプライバ

シーマークの審査業務を実施しています。

・U-22プログラミング・コンテスト

 「日本のプログラミング学習熱を高めよう」をコ

ンセプトに、自らプログラミングを学び、日本の

未来を創る若者を応援するために開催される、歴

史あるプログラミング・コンテストです。

6.関西での活動について

 CSAJ では、地域 IoT 推進委員会を立ち上げ、東京

中心であった活動を全国に広げるため、2018年より関

西地区にて活動をスタートしました。 2019年は北海

道、北陸での活動も開始し、今後九州でも活動を視野

に入れています。まずは大阪では年2回の懇親会以外

に、各種セミナーや勉強会の後にも懇親会をすること

で、学びとともに参加者同士のコミュニケーションを

深める場を作っています。今までも、i コンピテンシー

ディクショナリ(iCD)やSoftwareISACによるセキュ

リティ講習などのセミナー企画をしてきました。また、

地場産業や近畿経済産業局、関西地域団体と連携し、

関西ものづくりIoT推進連絡会議(PiiK)にも参加し、

ビジネスマッチング商談会への参加や展示会の企画、

運営なども行い、交流や連携を強め、関西地区の発展

にも貢献しております。

 さらには、委員会の傘下に、「顔認証ビジネス研究

会」が設置され、日本国内に限らず、先進的な海外の

事例を理解し情報共有することで、地域社会の DX を

加速し、地域の若いエンジニアをハッカソンなど通じ

て能動的な提案が可能となるよう手助けする活動を目

指すなど、活動がますます広がってきています。

7.終わりに

 CSAJ では、2025万国博覧会が行われ、発展が見込

まれる関西にますます力を注ぎ、NEXT2025関西を視

野に入れ活動をさらに広げていきたいと思います。

 今後も一般財団法人関西情報センター様のご協力を

頂きつつ、充実した活動内容となるよう積極的に行っ

てまいりますので、何卒よろしくお願い致します。ま

た、最後に、寄稿の機会を戴きましたことに心より御

礼を申し上げます。

[企業情報]

社名 一般社団法人コンピュータソフトウェア協会

本社所在地 東京都港区赤坂1-3-6赤坂グレースビル

設立 1986年2月

代表者 会長 荻原 紀男

会員数 680社(2019年12月現在)

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