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大地 自然ガイドブック 久慈 ~ジオ(大地の物語)でめぐる地域の魅力~ 久慈市 石灰岩植物 イワギク 琥珀原石 平庭高原闘牛大会 内間木洞氷筍

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大地と自然のガイドブック久慈

~ジオ(大地の物語)でめぐる地域の魅力~

久慈市

石灰岩植物 イワギク

琥珀原石

平庭高原闘牛大会内間木洞氷筍

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〜ジオ(大地の物語)でめぐる地域の魅力〜 1〜ジオ(大地の物語)でめぐる地域の魅力〜 1

目 次大地の年表 …………………………………………………………… 02大地の構成マップ …………………………………………………………… 02大地の観察マップ …………………………………………………………… 04

久慈周辺の成り立ちを知る6つの大地の物語大地の物語1 海から生まれた大地の記憶 …………………………… 07大地の物語2 三陸海岸に灼熱のマグマと太古のドラマを見る………… 08大地の物語3 琥珀が眠る恐竜時代の大地…………………………… 09コラム② 神秘のタイムカプセル 琥珀にふれよう………………………… 10大地の物語4 断崖の地層に三陸沖火山と亜熱帯気候のなごりを見る 11大地の物語5 北上山地にあった幻の平原のおもかげ………………… 11大地の物語6 三陸海岸の隆起といやしの草原風景 ………………… 12コラム③ 特産品とジオとのつながり………………………………………… 13

大地の物語を楽しむ19の観察ポイント(1)侍石……………………………………………………………………… 15(2)北野牧…………………………………………………………………… 16(3)半崎の野田層群………………………………………………………… 17(4)川貫の石炭層…………………………………………………………… 18(5)奈良・平安時代 中長内遺跡 ………………………………………… 19(6)久慈琥珀博物館………………………………………………………… 20(7)アンバーホール 琥珀大原石…………………………………………… 20(8)枝成沢の琥珀採掘場跡………………………………………………… 21(9)久慈市歴史民俗資料室………………………………………………… 22(10)川崎製鉄元山砂鉄採掘場跡 ………………………………………… 23(11)つりがね洞……………………………………………………………… 24(12)夫婦岩 ………………………………………………………………… 25(13)山根町の枕状溶岩 …………………………………………………… 26(14)白樺平ドリーネ群と中戸鎖洞…………………………………………… 27(15)大理石渓谷と大川目モリブデン鉱山跡………………………………… 28(16)鏡岩と小不動岩………………………………………………………… 29(17)久慈渓流 大滝 ……………………………………………………… 30(18)内間木洞 ……………………………………………………………… 31(19)平庭高原 富士見平 ………………………………………………… 33

詳しく知りたい方へ ■参考文献・資料 ■ウェブサイト ■写真・イラスト提供

三陸ジオパーク構想とは? ジオパークとは地質・生態系・文化などを通じて、地球と人との関わりを学べる大地の公園のことです。三陸地域は約5億年にわたる貴重な地質が分布し、複雑な海岸線は海の幸を育んでくれます。一方、三陸沖は太平洋プレートの沈み込みによる津波の発生地帯ともなっています。そのため、大地の恵みを活かすとともに津波災害に強い地域づくりが三陸地域の課題となっています。 しかし、このような自然条件はジオの視点で見れば地球との関わりを模索する上で世界にも例を見ない特色といえます。こうした大地や人の営みを、地球を知る上で価値あるものとして世界に発信する取り組みが「三陸ジオパーク構想」です。 現在、三陸沿岸市町村(※)で取り組んでいる地場産業の活性化、地域教育、防災の仕組み作りは見所となる重要な要素となっています。登録によるメリットは、ジオを活かした特産品の付加価値向上など、ジオツーリズムによる観光・交流人口の拡大、教育活動の充実、地域の活動や経済の底上げが期待できます。 ※青森県八戸市・階上町、岩手県沿岸13市町村、宮城県気仙沼市の計16市町村

はじめに 「大地と自然のガイドブック・久慈」をご覧いただきありがとうございます。 当冊子は大地の成り立ちや地質といった「ジオ(※1)」を切り口に地域の魅力を再発見していただくことを目的に作成しました。 久慈市は国内有数の多様な地質を有する「北上山地」、古代から続く琥珀採掘と製鉄の里、そして沖合に世界三大漁場を持つ「三陸海岸」に囲まれた自然豊かな地域です。 この山・里・海には貴重な化石、地域固有の歴史・風土、多様な生態系など様々な恵みがあり、私たちはこの中で暮らしています。 現在、こうした大地の遺産を活用してジオパーク(※2)登録をめざす取り組み「三陸ジオパーク構想」が進んでいます。久慈市もこれに参加し、未利用資源の活用に取り組んでいます。 ジオの視点で見ると身近にあるものが他に類を見ない資源になります。この冊子がジオについて理解する手助けとなり地域教育、観光振興、産業振興などに活用していただけることを切に願っております。 ※1:ジオとは大地・地質・地形のことです。 ※2:地球科学的に見て重要な遺産を含む。自然に親しむための公園。

大地と人の営みが生んだ白樺群落(→p.33) 恐竜時代の地層と琥珀(→p.9) 太古の火山と海の幸、北限の海女(→p.25)

大地と自然のガイドブック久慈

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大地の年表 ~久慈の大地はいつできた?~

大地の構成マップ ~すごい地層はどこにある?~

 久慈周辺の大地が作られた時代は、大きく分けて6つあります。これらの時代がいつごろだったのかを理解する参考にしてください。

※この地図は概略図であるため細かい所は省略しています。これより詳しい地質図をご覧になりたい方は巻末の資料(3)をご覧ください。

 久慈周辺の大地は、作られた年代や場所が異なる様々な地質が入り組んで作られています。 私たちの住む地域が、どういったものからできているのかを理解するのに参考にしてください。

石炭紀

ペルム紀

三畳紀

ジュラ紀前期

後期白亜紀

古第三紀

新第三紀

第四紀

3億

2億5000万

1億4000万

1億

6500万

2300万

300万100万

付加体ができる大地の物語1(→p.7)

大地の物語1(→p.7)

(→p.7)

大地の物語2(→p.8)

大地の物語2(→p.8)

大地の物語3(→p.9)

大地の物語4(→p.11)

大地の物語6(→p.12)

ジュラ紀付加体

海溝で複雑に変形した地層石灰岩

前期白亜紀の火山岩類

噴火した火山の岩石

前期白亜紀の花崗岩類

マグマが地下の深い所で冷え固まったもの

後期白亜紀の地層

琥珀や恐竜化石を含む地層

古第三紀の地層

石炭を採掘した地層

海岸段丘上の堆積物

一部に砂鉄層を含む地層

海岸段丘ができる 大地の物語6(→p.12)

現在の北上山地の地形ができる大地の物語5(→p.11)

野田層群の石炭と植物化石ができる大地の物語4(→p.11)

久慈層群の琥珀や動植物化石ができる大地の物語3(→p.9)

大規模な火山活動やマグマの貫入がある大地の物語2(→p.8)

久慈周辺地層概略図

岩手県の主な地層名と年代地質時代

第四紀

新第三紀

古第三紀

白亜紀

  生

  代

  生

  代

  生

  代

現世

更新世

鮮新世

野田層群

三戸層群白鳥川層群

北上川層群

久慈層群

宮古層群原地山層小本層

登米層叶倉層坂本沢層

長岩層鬼丸層日頃市層

鳶ヶ森層大森層中里層大野層

川内層

母体変成岩氷上花崗岩

中新世

漸新世

始新世

暁新世

後期

前期

ジュラ紀

三畳紀

ペルム紀

石炭紀

デボン紀

シルル紀

オルドビス紀

カンブリア紀

先カンブリア時代

岩手の地層 地層名 菌類・

藻類シダ植物

裸子植物

被子植物

絶対年代(単位百万年)

0.01

2.0

5.1

24.6

38.0

54.965

97.5

144

213

248

286

360

408

438

505

590

久慈市

野田村

普代村

平庭岳

遠島山

洋野町

2 大地と自然のガイドブック久慈 〜ジオ(大地の物語)でめぐる地域の魅力〜 3

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中野

侍浜町

夏井町

大川目町

荷軽部

霜畑

戸呂町

日野沢

小国

山根町

枝成沢

長内町

宇部町

野田

玉川

木売内

大峠

明神

上戸鎖

小久慈町

帯島

水沢

小軽米

大野

円子

蛇口

山屋

山内

雪屋

江差家

長興寺

伊保内

戸田

山根

石沢

江刈川

江刈

高家領

葛巻

阿子木

本波

沢里

小袖

三﨑

下高森

夏井

角柄

北野

桑畑

太田

下水沢上水沢

畑田

大崎

寺里

川貫

大沢

日吉 三陸鉄道北リアス線

JR八戸線

281

45

153

149

279

139

164

292

29

29

29

42

42

42 1122

22

5

5

5

395

395

281

7

272

271271

340

340

15

30

340

264

264

268

273

45

45

7

折爪SA

九戸I.C.

有家川

高家川

有家川

高家川

大野川

夏井川

夏井川

久慈川

久慈川

日野沢川

明神沢

新田沢

川井川 長内川

宇部川

明内川

安家川

泉沢川

玉川

雪谷川

雪谷川

蛇口川

瀬月内川

瀬月内川

馬淵川

馬淵川

雪谷川ダム

長内川

沢山川

遠別川

戸呂町川

小国川

小玉川

米田川

沢里川

雪屋川

勘丁沢

寒川

戸井良沢

鷹ノ巣沢

鍋倉沢

堀合沢

根地戸川

山形川

大志田川

身沢

細沢

川又川

細野沢

南畑沢

戸呂町川

北沢

岩井川

瀬月内川

西山川

七滝沢

平内沢

毛頭ノ沢

両岸川

根反川

星野川

元町川

外川川打田内川

今待川

倉野沢

荒田川

七滝

黒間山▲

唐松山▲

霞山▲

折爪岳▲

小倉岳▲

傾城峠▲

二ツ森▲

 黒森▲

▲平庭岳

▲船倉山

明神岳▲

宇部ヶ森▲

就志森▲

高畑山▲

伊茂屋山▲

多々良山▲

黒森山▲

遠別岳▲

安家森▲

袖山▲

樺森▲

蓬森▲ 遠島山

天神森▲

高森▲

高森▲

男和佐羅比山▲

女和佐羅比山▲

小倉山▲

深田金山 ▲

金山▲

寒長根山▲

マネドコ山▲

りくちゅうなかの

りくちゅうなつい

くじ

りくちゅううべ

りくちゅうのだ

のだたまがわ

ほりない

しらいしかいがん

さむらいはま

霜畑小

川井明神社

山形中山形小

来内小

館石神社

戸呂町八幡神社

小国小

山根中山根小

法林寺

小久慈小

宇部小

宇部中

久慈工高

久喜小

三﨑中

恵比須神社

小袖小

諏訪神社

長内中

駒形神社

侍浜小

侍浜中

若宮八幡宮

本波神社

厳島神社夏井小

平山小夏井中

大川目小

大川目中

久慈中久慈小

久慈東高

久慈高 久慈漁港

久慈湊漁港

グランデール久慈CC

山葡萄生産組合

グリーンスポーツ久慈

不老泉

慈光寺 久慈城跡

安家渓谷

鏡岩 小不動岩

白山浄水場

市総合運動場サンスポーツランド久慈市総合運動場サンスポーツランド久慈

福祉の村福祉の村

シーサイドパーク長泉寺

羽黒山神社

久慈病院

白樺の里やまがた

のだ

牛島国家地下石油備蓄基地事務所

産業デザインセンター

おおのミルク工房模擬 牧場

グリーンヒルおおの

久慈湾

小袖漁港

小袖(三﨑地区)漁港

野田漁港

玉川漁港

前浜漁港

白前漁港

田子ノ木漁港

桑畑漁港

瀬月内ダム 七ッ役工房そばの匠館

久慈市山根支所柿乃花公園

霜畑八幡のケヤキ群霜畑営農研修館

山村文化交流センター

炭々館

へろまち産直館

八幡神社

B&G海洋センター

久慈市山形総合支所

エリート牧場

森の館ウッディ炭の科学館

くずまき高原ワイン工場

平庭峠

久慈市役所久慈市役所

久慈マレットゴルフ場

手造りどうふの里

北野配水場久慈地区清掃センター

久喜漁港

アジア民族造形館アジアの広場

マリンローズ野田玉川

玉川キャンプ場

烏帽子岩

十府ヶ浦海岸

フォリストパーク

ふるさと創造館九戸スキー場

水車いろり庵

農村婦人の家

平庭山荘

袖山牧場

モウモウ館

体育館

ふれあい交流センター

北緯40度の塔

ミレットパーク軽米CC

大月峠

白石峠

久慈市畜産開発公社白樺平放牧地

深田公民館

卯坂峠

角掛峠

サッ峠

大峠

おりつめ

岩手県経済連九戸家畜市場倉野沢放牧場

久慈市宇部支所

葛巻町

久慈市

岩泉町

野田村

九戸村

洋野町

久慈市

岩泉町

野田村

普代村

九戸村

洋野町

太平洋

三船十段記念館三船十段記念館

北限の海女の里

大唐の倉

米田海岸

玉川海岸

久慈市侍浜支所

中野白滝

大野運動場北侍浜野営場

侍の湯 きのこ屋

舟渡海水浴場

桂の水車広場P-T境界 白樺平ドリーネ群

中戸鎖洞

小久慈焼窯元小久慈焼窯元

滝ダム

いわて名水清水川

旧馬場家住宅跡

バッタリー村

平庭高原

侍浜海岸

小袖海岸

新山根温泉べっぴんの湯

内間木ビジターセンター

長内渓流

久慈渓流

平庭高原スキー場

1 侍石

岩場海水プール

2 北野牧北野駒形神社

3 半崎の野田層群

12夫婦岩

11つりがね洞5 中長内遺跡

10川崎製鉄元山砂鉄採掘場跡

上山琥珀工芸

アンバーホール

二子貝塚

19平庭高原 富士見平

続石(久慈市指定文化財)

17久慈渓流 大滝

7 琥珀大原石

14 白樺平ドリーネ群と中戸鎖洞

13山根町の枕状溶岩

16鏡岩と小不動岩

8 枝成沢の琥珀採掘場跡15大理石渓谷と大川目モリブデン鉱山跡

18内間木洞(岩手県指定文化財)

4 川貫の石炭層

6久慈琥珀博物館

9 久慈市歴史民俗資料室

自然遊歩道

道の駅くじ

普代村

田野畑村

黒崎

北山崎

4 大地と自然のガイドブック久慈 〜ジオ(大地の物語)でめぐる地域の魅力〜 5

大地の観察マップ

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上部マントルの柔らかい部分

海洋プレート付加体

サンゴ礁の形成

海溝

海底火山の噴火②

遠洋性堆積物③

①~③が混在④①

海洋島

マントルの対流

日本列島

〜ジオ(大地の物語)でめぐる地域の魅力〜 7

 久慈市が含まれる北部北上山地(※1)は複雑な生い立ちをしています。かつて、海洋プレートの沈み込む場所(※2)に遠くの海底から運ばれてきた海底火山の噴出物、サンゴ礁等の断片、微生物の遺骸などが複雑に混じり合って生まれた付加体という大地です。これらの、プレートの移動により運ばれてきた地質からは、海底で生まれた大地のドラマや環境変動の痕跡を見ることができます。※1:早池峰山周辺から八戸市周辺にかけての北上山地のほぼ北半分 ※2:海溝といいます

①海底火山の噴出 海洋プレート上では、所々でマグマが噴き出す場所があります。海底に噴出した溶岩は積み重なり時に海底火山となります。また海水により急激に冷え固められた溶岩は、枕状溶岩という独特の形状になることがあります。 当時、噴出した火山岩類は現在でも山中で見ることができます。

②サンゴ礁の形成 久慈市~岩泉町にかけて分布する安家石灰岩は、海底火山の噴出により作られた海山(※1)が低緯度地域(※2)の温かい海域にあった時に、その上に形成されたサンゴ礁などがもとになっています。サンゴ礁やそこに住む生物の遺骸が堆積し石灰岩となります。その後、海溝付近で付加体に取り込まれ、現在の石灰岩の地層が形成されました。※1:大洋底から1000m以上突き出た海底の山 ※2:赤道に近く温暖な地域

③遠洋堆積物の形成 陸から遠く離れた深海では、様々な物質が堆積します。「大滝」を形作るチャートという岩石は、微生物の遺骸がもとになりました。海底に堆積したマンガンの塊は、野田玉川鉱山のマンガン鉱床を作りました。他にも、海洋環境の激変による大絶滅の痕跡「P-T境界(※)」が、岩泉町安家森付近に残されています。※古生代と中生代の境界となる地層

ワンポイント! プレートテクトニクス 地球の表面はプレートという岩板に覆われています。これらのプレートは、地球内部のマントルの対流に乗って年間数センチずつ移動しています。この運動によって地球上のさまざまな現象が起こるという学説を、プレートテクトニクスと言います。

大地の物語 1約3億年~約1億5,000万年前

海から生まれた大地の記憶

付加体形成 イメージ

内間木洞(→p.31.p32)

■石灰岩に関する他の観察ポイント p.27 白樺平ドリーネ群と中戸鎖洞 p.28 大理石渓谷と大川目モリブデン鉱山跡

鏡岩(→p.29) 大滝(→p.30) 野田玉川鉱山(観光坑道)

枕状溶岩(→p.26)

プレートテクトニクス イメージ

久慈周辺の成り立ちを知る6つの大地の物語 久慈周辺は国内最大の琥珀産地です。また地底には多数の鍾乳洞があり、沿岸には美しい海岸線が広がる自然豊かな地域です。これらは、実は地球の長い歴史の中で生まれたものです。ここでは、その歴史をひも解くため、主だった6つの時代とできごとを解説します。各解説ポイント(p.15~33)の背景として理解することで、より深く久慈の歴史を楽しむことができます。

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コラム①泥に埋もれて

窒息しないよう

上に伸びる

③接触変成作用

②マグマの貫入

①火山活動

③ワニ

河川

琥珀

河口から湾⑥コンボウガキ⑤カキ礁

①モササウルス

④アンモナイト

②竜脚類

上へ上へと

積み重なっていく

孫ガキ子ガキ

親ガキ

8 大地と自然のガイドブック久慈 〜ジオ(大地の物語)でめぐる地域の魅力〜 9

 久慈市から野田村にかけては琥珀がたくさん採れる地層「久慈層群」が分布します。この地層は今から約9,000万年~約8,500万年前に形成されたました。当時この一帯には河口から湾が広がり、そこに土砂が堆積し久慈層群が作られていきました。久慈層群は、琥珀や動物化石を産出する浅

せんかい

海の地層と、植物化石を産出する陸成の地層からできており、特に琥珀は国内最大の産地として「日本の地質百選」にも認定されています。

 久慈海岸や侍浜海岸では、雄大な岩場と数々の奇岩を見ることができます。これらの岩石が生まれた、当時、地表では大規模な火山活動が起き、地下には大量のマグマが貫入(※)しました。現在でも、その痕跡が三陸海岸の各地に残されています。また、この変動は同時に豊かな鉱産資源を残していきました。※マグマが上昇し岩石のすきまなどに入り込むこと

①モササウルスの歯 ②竜脚類の歯(ティタノサウルス形類)

③ワニの歯 ④アンモナイト(アナパキディスクス)

⑤カキ礁化石 ⑥コンボウガキ

①大規模な火山帯と三陸の絶景 当時の地表では激しく火山が活動し、広範囲にわたって火山岩類(※)の地層が形成されました。久慈周辺では、小袖海岸や牛島がそれにあたります。また普代村の黒崎では、この地層が侵食されて作られた見事な断崖を見ることができます。※マグマが地表などに噴出し、冷え固まってできた岩石

 白亜紀後期に繁栄した海棲の大型爬虫類で、別名は海トカゲ竜。どう猛な性格で首長竜やアンモナイトなどをとらえて食べていました。

 長い首が特徴の植物食恐竜です。体長は最大20mと推定され、国内最大級の恐竜と考えられます。

 主に河川に生息したワニです。肉食の水棲爬虫類で、現在より温暖な気候だったためワニも生息していました。

 直径59cmにおよぶ巨大なアンモナイトの化石です。昭和23年に発見されました。

 厚さ数mにおよぶカキ礁の化石です。主に湾内の砂や泥の中に生息しました。親ガキの上に子ガキがついて上へと積み重なって成長しました。高さ約30mの差に十数枚のカキ礁化石がみられ、この厚さは国内最大級と考えられます。

 殻の長さが1mにもおよぶカキの化石です。その形状から「コンボウガキ」と呼ばれています。泥に埋もれて窒息しないように上へ上へと伸長しました。国内では数か所しか産地が見つかっていない貴重な種類のカキ化石です。

恐竜時代の化石たち 久慈層群からは、海の生物であるアンモナイト・首長竜・モササウルスなどの化石が発見され、陸の生物では植物はじめ琥珀中の昆虫化石などが発見されています。 さらに、近年になって恐竜・翼竜・リクガメ・ワニなどの陸の動物化石の発見が相次いでおり、国内の新たな恐竜化石産地として古生物学者らの注目を集めています。

恐竜時代の久慈再現 イメージ ②マグマの貫入 マグマの躍動と奇岩群 地下深くにたまったマグマの塊もありました。そのマグマは、長い時間をかけて冷え固まり、花崗岩(通称、ごま石、みかげ石)になります。 そして、地盤の隆起によって、その上にあった地層が侵食され、やがて花崗岩が地表に現れました。 その後、花崗岩が侵食された結果、現在の奇岩ができました。

③周囲に影響を与える マグマの贈り物 貫入したマグマは、その熱で周辺の岩盤を焼いたり、化学反応をおこして金属の鉱床を作ります。当時のマグマの贈り物は、北上山地の各地に残され、鉱産資源となって、人々の役に立ってきました。

大地の物語 3約9,000万年~約8,500万年前

大地の物語 2約1億2,000万年~約1億1,000万年前

琥珀が眠る恐竜時代の大地

三陸海岸に灼熱のマグマと太古のドラマを見る!

久慈層群玉川層の露頭琥珀産出状況侍浜海岸

侍石(→p.15)

夫婦岩(→p.25) 侍浜海岸 牛島 黒崎

カキ礁化石 野田村玉川

長内町元木沢産 岩手県立博物館

小久慈町産 撮影 平山 廉

小久慈町産 撮影 平山 廉 イラスト/古世界の住民

野田村米田産 岩手県立博物館所蔵(複製)

カキ礁の成長 イメージ コンボウガキの成長 イメージ

つりがね洞(→p.24)

コンボウガキ 枝成沢産国立科学博物館所蔵

モリブデン鉱石(→p.28) マリーンローズ(バラ輝石)(→p13)

マグマの活動 イメージ

 岩手県の工芸品「南部鉄器」は、この地域で採れる砂鉄を原料にして作られてきました。この砂鉄は、花崗岩に含まれていたものです。花崗岩は地表で風化し、粉々になります。そこから分離した砂鉄を集めて「たたら製鉄」が行われてきました。そのため、県内沿岸部は江戸時代後期には、国内最大の製鉄地帯となりました。そして作られた鉄は内陸に運ばれ、南部鉄器に加工されていったのです。花崗岩(砂鉄を含む) 風化されてボロボロになる

(白マサといいます)砂鉄が流れ出す 砂鉄を集め、製錬して

鉄が作られる

マグマから生まれた北の鉄文化

▶ ▶

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コラム②

体を保温する羽毛の一部

形状から羽毛の付け根の部分と判明

今のカマキリ

と共通のトゲ

血を吸ったらしく

お腹が膨れている

ダニダニ

海三陸沖の火山と陸地現在の陸地

3000万年前

北上山地の成り立ちイメージ広大な平原が隆起した後、長い年月をかけ削られて山地となった。

現在過去高さのそろった山並み

隆起

昔の平原のなごり(なだらかな地形)

削り取られた地形(谷間)

久慈産琥珀の元になったスギの枝葉 宇部町産

10 大地と自然のガイドブック久慈 〜ジオ(大地の物語)でめぐる地域の魅力〜 11

 久慈市から野田村にかけては野田層群という地層が広がっています。この地層は、アジア大陸から直接太平洋に注ぐ河川沿いに土砂が堆積して作られました。地層中には、三陸沖で噴火した火山の痕跡や、温暖な気候が生んだ石炭層が見られるなど、当時の大地の様子を読み解くことができます。

 平庭高原などから周辺を望むと同じ高さの山並みが続いています。この地形には山地の成り立ちが隠されています。かつて北上山地は現在より低くなだらかな地形(※)だったと考えられています。これが隆起し現在の姿になりました。高さがそろい山稜部がなだらかな山並みからは、山地の過去の姿が見えてくるのです。※準平原といいます

恐竜時代のタイムカプセル 久慈地方産琥珀は主にスギ科針葉樹のアラウカリアの仲間(※)

の樹脂からできています。また虫入り琥珀をはじめとする琥珀中の化石は、当時の姿を立体的に保ち、保存状態に優れたものが多く、近年では虫のDNAも検出されています。 世界の主な琥珀産地は、バルト海東南諸国の沿岸部・ドミニカ共和国・メキシコなどがありますが、その中でも久慈地方産は、世界的にも古い恐竜時代の琥珀として大変貴重です。※南洋杉の仲間で現在は絶滅した種

 世界最古級の鳥類の羽毛の化石です。進化途中の鳥類と考えられます。恐竜時代の鳥類の姿を解明するカギになると思われます。

 現在、国内最古のカマキリの化石です。現生種と共通のカマの構造が見られる進化途中のカマキリで、昆虫の進化を解明する貴重な化石です。

 恐竜時代の蚊であるため恐竜の血を吸っているかもしれません。このような琥珀から映画「ジュラシックパーク」の様に蚊からDNAを取り出し、絶滅した動物が復活する日が来るかもしれません。

多彩な色彩と模様の秘密 琥珀の色彩は、たとえ同一産地でも多彩で、ヨーロッパでは250色とも言われています。この多彩な色は色素によるものではなく、大半は琥珀中のミクロの気泡や腐敗物などの密度により、反射光が変化して色彩に見えています。 また、多くの琥珀の内部に色調の異なる層状の模様が見られます。これは樹脂が分泌を繰り返した痕跡で、植物由来の宝石ならではの模様です。

琥珀原石のさまざまな形 通常の琥珀原石は小石状態で産出します。その形には、あんぱん形・つらら形・涙形・露形・板形・くっ付き合いなど様々な形態があります。 また、多くの場合は表面がひび割れた被膜に覆われています。これらは樹脂が硬化した際の原形を留めているものと考えられます。

大地の物語 4約3,000万年前

大地の物語 5約2,000万年前~(と推測される)

断崖の地層に三陸沖火山と亜熱帯気候のなごりを見る

北上山地にあった幻の平原のおもかげ

大唐の倉(→p.17)半崎の野田層群(→p.17)

平庭高原富士見平

④洪水で川から海に流される

①嵐で枝や幹が折れる

 ⑤河口や海底に堆積

②森の中は昆虫の棲み家

⑥数千万年を経て化石化

③老木となり枯れて倒れる

土砂・倒木・樹脂ともども流出

傷口から樹脂が分泌

土砂に埋没し密閉される

樹脂に包みこまれる虫

隆起により地層が陸上に露出

大雨と洪水が地表を浸食

さまざまな色の琥珀

さまざまな形の琥珀原石

羽毛入り琥珀 洋野町種市産

カマキリ入り琥珀 小久慈町産

蚊とダニ入り琥珀 野田村米田産

琥珀中に見られる層状の模様

羽毛 イメージ

カマキリ イメージ

蚊とダニ イメージ

スギ(アラウカリア)の枝葉入り琥珀

琥珀の成因 イメージ

①三陸沖火山の痕跡

 かつて久慈沖で噴火した火山岩類や火山灰が堆積したものが地層中に含まれています。溶結凝灰岩とは、高温の火山灰が溶けて飴の様にくっついたもので、しま模様は溶けた痕です。

②亜熱帯気候のなごり

 野田層群には、亜熱帯気候だった時代の植物化石が多く含まれています。また、石炭は湖沼や入江に大量の植物が堆積して作られました。明治から戦前にかけて石炭採掘は久慈地方を代表する産業でした。

三陸沖火山 イメージ 石炭(→p.18)

種山ヶ原 風の又三郎の像

平庭高原 富士見平

溶結凝灰岩 植物化石

平庭高原の放牧風景

 北上山地の放牧風景 平庭高原をはじめ、北上山地各地では古くから放牧が行われてきました。これは高原状の山稜を活かした山地ならではの営みです。 他に、こうした風景で有名なのは住田町の種山ヶ原です。牧草地の広がる風景は童話「風の又三郎」の舞台となったと言われています。

神秘のタイムカプセル 琥珀にふれよう 琥珀のもとは、太古の樹木から分泌された「樹脂」です。樹脂には傷口を包み込んで保護する働きがあります。琥珀は、この樹脂が大雨などの際に土砂と共に湖沼や海底に押し流されて、地中深くに埋もれ化石化してできたいわば「樹脂の化石」なのです。 また、琥珀は樹木周辺に棲んでいた虫を包み込んだ「虫入り琥珀」をはじめ植物や菌類、また稀には小形動物などが発見される神秘のタイムカプセルなのです。

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コラム③

80万年前

現在

岩盤

隆起

砂浜昔の海水面

昔の海水面 海岸段丘

今の海水面

堆積物

昔の海水面(海岸段丘)

今の海水面

隆起

洋野町

①大野地区

②野田村③安家川橋梁

④北山崎

久慈市

野田村

普代村

田野畑村

12 大地と自然のガイドブック久慈 〜ジオ(大地の物語)でめぐる地域の魅力〜 13

 侍浜町や三崎半島をはじめ、海岸部にはなだらかな台地が広がり、古くから牧畜に利用されてきました。この地形は、数十万年前の海底が隆起して、高台に平坦な地形が残されたものです。

 隆起の痕跡、海岸段丘 波の浸食により平らになった海底が、隆起することで台地上に平坦な地形が生まれます。これを繰り返して作られた階段状の地形が海岸段丘です。海岸段丘上では農業や酪農などが営まれています。

 海岸段丘と人の営み

①高原の牧場 洋野町大野 洋野町は町内の大部分が海岸段丘からなります。大野地区ではなだらかな地形を利用した採草地が広がっており、広々とした美しい風景を見ることができます。

②海に面したぶどう畑 野田村 野田村の和野平や根井の海岸段丘上では、やまぶどうの栽培が盛んに行われています。ここは高台の水気の少ない土地と東向きの日照条件の良さを利用して、やまぶどうの生産が行われています。

④海のアルプス 北山崎 「海のアルプス」として知られる北山崎は、平坦な地形が急激に海に落ち込み、約160mの崖を形成しています。三陸海岸の海岸段丘を代表する絶景です。

③北リアス線の名所   安家川橋梁 安家川の河口にある安家川橋梁からはみごとなV字の谷が見えます。これは約100万年をかけて安家川が海岸段丘を削り取って作った渓谷です。

大地の物語 6約80万年前~

三陸海岸の隆起といやしの草原風景

三崎半島

安家川橋梁から撮影した安家川 北山崎

イメージ 海岸段丘の成り立ち

久慈周辺の海岸段丘の分布図

三崎半島に残る大地の隆起の痕跡

洋野町大野地区 遠景

野田村 根井地区 ヤマブドウ

■海岸段丘に関する観察ポイント p.16 北野牧 p.23 川崎製鉄元山砂鉄採掘場跡

特産品とジオとのつながり ジオの見所は地質や地形だけでなく、私たちの暮らしまで多岐にわたります。その中には大地の恵みを活かして育まれた歴史・風土も含まれます。特に特産品からはその地域の風土がよく見て取れます。ここでは地域の特産品や史跡を紹介しながら、ジオと人とのつながりをひもときます。

短角牛 北の鉄文化、影の立役者 短角牛は、江戸時代に飼育されていた南部牛という牛を品種改良した肉用牛です。この南部牛は、塩の道で交易品の運搬に活躍した牛です。特に山道を歩くのに適した体格のため、たたら製鉄(※)で作られた重い鉄を背負い険しい山間地を運んだと伝わります。現在でも山形町などの山間地で飼育される短角牛は南部牛の伝統を受け継いだこの地域ならではのブランド牛なのです。※たたら製鉄はp.8を参照

バラ輝石とマンガン鉱石 バラ輝石はマンガン鉱物(※1)がマグマの高温により化学変化して(※2)作られたバラ色の鉱物です。かつては久慈をはじめ北部北上山地の各地では、電池や特殊鋼の原料となるマンガンを盛んに採掘していました。現在、ほぼ全ての鉱山が閉鎖し、唯一見学できるのが野田村の玉川鉱山跡です。バラ輝石はジオと岩手の鉱産の歴史伝える鉱物なのです。※1:マンガン鉱物の成り立ちはp.7を参照 ※2:マグマによる化学変化についてはp.8を参照

木炭 北の鉄文化の副産物 久慈市は、国内有数の製炭地です。製炭の歴史をたどればたたら製鉄(※)とかかわりが見えてきます。この地方では江戸時代にはすでに製炭が行われていましたが、当時は製鉄用の還元剤として主に作られてきました。 明治時代に入りたたら製鉄が衰退した後、用途を燃料用に切り替え、製炭法を改良しながら現在へと至っています。なお山形町では、その歴史を今に伝える炭焼き体験ができます。※たたら製鉄はp.8を参照

製塩産業と塩の道 海と山の交易路 侍浜町や野田村など沿岸部は、やませにより稲作に適さなかった反面、製鉄地帯のため安く鉄釜が入手できたことで製塩が盛んに行われました。この塩を消費地に運んだ道が「塩の道」です。 この道は塩の他、海産物や特産の鉄も運ばれるなど三陸地域の経済を支えた交易路でした。やませを乗り越え、交易により成り立ってきた歴史を伝えるものが塩の道沿いの史跡として残されています。また近年では塩煮体験を楽しむことができます。

海の幸 ~多彩な海岸線と人の営み~ 三陸海岸は宮古を起点に南部はリアス式海岸、北部は直線的な海岸です。この地形の違いにより多彩な海の幸が育まれています。外洋に面した北部は、潮の流れを活かしたコンブやワカメの養殖が盛んに行われている他、定置網によるサケやブリ漁も行われています。 一方、海の幸は縄文時代から利用されています。三陸地域の貝塚からは、魚骨や貝殻、鹿のツノで作られた漁具(※)が見つかるなど、海の恵みを活かした三陸の風土が見えてきます。※鹿のツノ製の漁具は久慈市歴史民俗資料室(p.22)に展示されています。

切り炭

塩煮体験(侍浜町)

コンブ漁

バッタリー村炭焼き体験

旧馬場家住宅跡(山形町)

二子貝塚

山形村短角牛

バラ輝石とマンガン鉱物(※)※バラ色はバラ輝石。金属光沢は玉川鉱山で 主に採掘されたハウスマン鉱という鉱物

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〜ジオ(大地の物語)でめぐる地域の魅力〜 15

 侍浜海岸の侍石には義経北行伝説の1つ、一行の足跡と伝わるくぼみがあります。このくぼみは侍石を形作る花崗岩(※)と深い関わりがあります。このくぼみは実は地下深くのマグマが作り出したものです。そうとは知らない昔の人はこの摩訶不思議な足跡に義経の幻影を重ねていたのかもしれません。※マグマが冷え固まった岩石(→p.8)

1 侍石義経北行伝説を生んだおもしろ自然科学

侍石

義経一行の足跡と伝わるくぼみ

ボルダリング

整然とブロックを積み重ねたかのような岩場

暗色包有物という黒い模様 暗色包有物が風化し剥落 足跡状のくぼみができる

侍石の足跡のでき方 足跡状のくぼみは、花崗岩の黒い模様が風化し剥落したため作られたと考えられます。この黒い模様は暗色包有物といい、地下深くのマグマに含まれる有色鉱物(※)が濃集(※2)して作られました。そして侍石に含まれていた楕円形の暗色包有物が剥落したことで足跡状のくぼみが作られたと考えられます。※1:岩石を構成する鉱物の内黒雲母や角閃石など※2:ある成分が元となる岩石に含まれる量以上に増加すること

侍浜海岸の見所 花崗岩が作る不思議な奇岩 侍浜海岸の岩場は、人工的に加工したかのような岩が続きます。花崗岩は一定方向にスパッと割れる性質があるため、その割れ目(節理)にそって形が決まります。侍浜の岩場は、主に水平方向の割れ目(節理)が目立つため、それにそって岩が剥落し、ブロックを積んだかのような造形が作られたと考えられます。

花崗岩を利用したスポーツ ボルダリング ボルダリングとは素手で岩壁をよじ登るスポーツです。花崗岩でできた侍浜の岩場は、所々に垂直に切り立った岩壁があります。この岩の割れ目を取っ掛りに素手で岩を登っていきます。花崗岩地形が広がる侍浜海岸は、岩登りの愛好家の間では有名なスポットとなっています。

花崗岩の割れ目(節理)が一定方向に発達 割れ目(節理)にそって岩が剥落し形が作られる

■参考文献は巻末をご覧ください 侍石については資料(22) ボルダリングについては資料(28)

▶ ▶

大地の物語を楽しむ19の観察ポイント 久慈周辺は山・里・海と数多くの見所があります。その中でも大地の生い立ちをとどめる貴重な場所や、ジオと私たちのつながりが見られる場所を、大地の観察ポイントとして選びました。自然観察、地域教育の折にどうぞご活用ください。

※なお一部のポイントは立ち入る前に事前に許可が必要な場所もあります。 →(4)川貫の石炭層、(9)久慈市歴史民俗資料室※各解説ページには背景となる大地の物語があります。大地の物語1~6と合わせて読むと、より一層世界が広がります。 なお、より詳しく調べたい方のために巻末に参考文献・資料を掲載しています。

【現地を観察するにあたって】・安全第一、天候や潮の干満、足場などに注意しましょう。・むやみに露頭を傷つけたり落書きをしない・草木を踏み荒らさない、持ち帰らない。・国定公園(海岸一帯)および県立自然公園内(平庭高原、久慈渓流)の岩石、植物の採取は禁止されています。・ごみは持ち帰りましょう。

侍石の足跡のでき方のイメージ

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16 大地と自然のガイドブック久慈 〜ジオ(大地の物語)でめぐる地域の魅力〜 17

 侍浜町北野地区にはなだらかな地形を活かした牧草地が広がっています。この地形は海底が隆起し高台に平坦な地形が生まれたもので海岸段丘(※)といいます。また、この地区では特有の地形を利用し古くから馬の飼育が行われ、馬産文化が代々受け継がれてきました。※海岸段丘はp.12を参照

2 北野牧海岸段丘と北の馬産文化

侍浜町の牧草地

北野駒形神社

おおのキャンパスの乳牛 侍浜町角柄地区の肉牛 洋野町特産の乳製品(画像提供おおのミルク工房)

侍浜町の海岸段丘遠景

馬頭観音碑 北野牧の土塁跡と伝わる盛り土

侍浜町に分布する海岸段丘。台地の上部がなだらかな地形をしている。

海岸段丘を利用したサムライの軍馬牧場 侍浜地区や三崎半島は、なだらかな地形を活かして酪農が営まれています。この地区は江戸時代には、すでに牧場が開かれ武士が乗る軍馬などを育成していました(※)。 南部藩(現在の岩手県・青森県にあたる地域)は、名馬の一大産地として全国に馬を送り出してきました。現在でも当時の馬産文化の名残が地域に残されています。※この牧場を北野牧といいます

海岸段丘と酪農産業 かつて久慈周辺では台地を活かした馬の飼育が行われてきましたが、現在ではほとんど飼育されていません。そのかわり、酪農による乳製品や肉牛の産地へと変化をとげています。 久慈市と同じく海岸段丘が続く洋野町では地域の牛乳をヨーグルト、プリン、アイスなどに加工しています。かつての馬産文化は時代に合わせて酪農へと姿を変えているのです。

■参考文献は巻末をご覧ください 海岸段丘については資料(27)、北野牧については資料(9)・(12)、酪農については資料(23)

■参考文献は巻末をご覧ください 野田層群については資料(1)・(7)・(29)

 夏井町半崎地区には今から3000万年前に形成された野田層群港層の大露頭があります。 この地層にはかつて久慈沖で活動した火山の痕跡(※)

が残されています。露頭では火山灰に埋もれた立木の化石や溶岩のレキを見ることができます。※久慈沖の火山はp.11を参照

3 半崎の野田層群岩壁に残る三陸沖火山の躍動

半崎の野田層群 遠景

半崎の地層 層準色分け

大唐の倉

①レキの層 ゴロゴロとしたレキの層です。この層に含まれる石の多くは火山起源の岩石からできています。かつて、久慈沖で噴出した火山岩類が流されてきて堆積したものです。

火山の宝石「月長石」 半崎地区の浜では、まれに月長石という鉱物を含むレキが打ち上げられています。 月長石はムーンストーンとも呼ばれ、青白く輝く鉱物です。かつて噴火により作られたもので、野田層群港層に含まれています。

④火山灰に埋もれた木の化石 茶色い地層は火山灰でできています。この部分には、立木の化石(珪化木)が多数含まれています。 かつて繁茂していた樹木が、火山の噴火により埋もれて化石になったものです。

②砂や泥の層 ③石炭の層 ②、③の層準は砂や泥が堆積してできています。この中には植物化石が含まれており、特に③の黒い層は石炭の層です。 この地層が波に浸食されることで浜には植物化石や石炭がしばしば漂着します。 一方、別の地層からは良質の粘土が採れ、小久慈焼きの原料として昔から利用されています。

野田層群と大唐の倉 野田村野田漁港にある大唐の倉は半崎と同じ野田層群港層でできています。野田層群という地層名の由来になったのはこの場所です。 なお大唐の倉のトレードマークである白い層は火山灰と砂が水に流されて堆積したもので、ここからも植物化石が見つかっています。

海岸に打ち上げられた珪化木の破片 火山灰が降り注ぎ樹木を埋め立てる海岸に打ち上げられた石炭 地中で化石化

火山灰層の立木化石

 駒形神社とは、馬の守り神と伝わる神社です。北野駒形神社の境内には馬の供養のために建てられた馬頭観音の石碑がひっそりとたたずんでいます。 また、侍浜町にはかつて馬を囲い込んだ土塁の跡と伝わる盛り土が一部で残されています。

月長石流紋岩礫

珪化木のでき方 イメージ

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久慈

奈良

北海道?

博多・長安? ?

18 大地と自然のガイドブック久慈 〜ジオ(大地の物語)でめぐる地域の魅力〜 19

■参考文献は巻末をご覧ください 石炭層および化石(野田層群港層)については資料(1)・(7)・(29)、久慈地方の石炭採掘については資料(11)・(16)・(21)、戊辰戦争と石炭については資料(30)

 川貫地区の採石場跡には石炭の層があります。この石炭は現在より温暖な時代に、河川の周辺に生える植物が水辺に堆積して作られました。また、この石炭は戦前にさかんに採掘され、久慈地方の産業を支えた産業資源でもあります。※石炭が形成されて時代ついてはp.11を参照

4 川貫の石炭層亜熱帯気候が生んだ久慈地方の石炭

川貫の石炭層

門前炭鉱坑口(大正〜昭和初期)

蒸気船イメージ

河川で生まれた石炭 久慈地方の石炭は河川の周辺に生えていた植物が湖沼や入江に堆積し、長い年月をかけて炭化したものです。 この時代は、日本の主要な炭田が形成された時代です。石狩、常磐、筑豊などの炭田が形成された時期に久慈の石炭も形成されたのです。

久慈地方の石炭採掘の歴史 久慈市から野田村にかけては大正から昭和にかけて石炭の採掘が行われていました。 当時、操業していた主要な炭鉱は、夏井町の九戸炭鉱、門前の門前炭鉱、宇部町の宇部炭鉱などです。 また大正末期から昭和初期にかけては長内町の久慈製鉄所にて高炉の燃料に使用されていました。

戊辰戦争と久慈地方の石炭 久慈地方の石炭が歴史上登場したのは明治時代のはじめです。当時の記録によると戊辰戦争時に新政府軍の軍艦(蒸気船)の燃料調達地として野田村が記載されています。 当時、仙台以北には石炭を調達できる場所はなく、おそらくは野田村周辺に分布する石炭層を利用しようとしたと考えられます。 久慈地方の石炭からは日本の歴史とのつながりが見えてきます。

亜熱帯気候の植物化石 久慈の石炭が形成された当時、日本は亜熱帯気候だったことが分かっています。 この地層からも亜熱帯性の植物化石が見つかっています。

ソテツ類 ダイオーン 球果類 ヌマスギ 裸子植物 イチョウ岩手県立博物館所蔵

石炭層の成り立ち イメージ

網状の河川が流れ、途中に湖沼や入り江状の地形が形成される

湖沼や入り江に植物が堆積して土砂により密封される

川貫の石炭層は普代貨物自動車工業の社有地です。立ち入る際は許可が必要です。

 中長内遺跡は長内町中長内地区にある遺跡で、奈良・平安時代に琥珀の玉作りを行っていたムラの跡と考えられています。 久慈地方は国内最大の琥珀産地で、縄文時代から琥珀の採集や採掘が行われていたと考えられます。そんな当地における古代の琥珀加工の歴史を垣間見る貴重な遺跡です。

5 奈良・平安時代 中長内遺跡古代のおしゃれ工房

中長内遺跡の解説看板

琥珀工房跡の発掘調査風景

古代日本のアンバールート寺村光晴1982に加筆

琥珀工房跡の琥珀出土状況

中長内遺跡出土玉未完成品

古代の竪穴式住居 イメージhar.s/PIXTA(ピクスタ) 

琥珀工房・中長内遺跡 中長内遺跡は、昭和59年に国道45号線久慈バイパス道路建設工事で偶然発見されました。発掘調査により主に奈良・平安時代の住居跡が60棟あまり検出され、古代を中心とする集落遺跡であることが分かりました。その中でも特に、琥珀玉の加工生産を行っていた国内最古級の工房跡と考えられる遺構が発見されています。 このことから琥珀産地における古代の玉生産と、その流通先の解明が期待されています。

久慈から広がる古代の琥珀交易路 中長内遺跡以前の古墳時代、大和朝廷の本拠地が置かれていた奈良の古墳から副葬品として琥珀製の玉類が多く出土しています。 近年、これらの玉類の化学分析が行われ、多くが久慈地方産琥珀であることが解明されています。そのため、久慈から大和朝廷の本拠地までを結ぶ琥珀流通経路「アンバー・ルート」の存在が推測されています。

■参考文献は巻末をご覧ください 中長内遺跡については資料(23)・(25)

琥珀工房と古代の玉作り 琥珀工房跡と考えられる遺構から出土した琥珀は、未完成品・欠損品をはじめ原石・小片・細片など1036点が見つかっています。その琥珀からは原石・荒割り・荒削り・穿孔(穴あけ)・研磨といった加工工程を伺い知ることができます。発掘調査中の写真(上部:琥珀工房跡の発掘調査風景)に写る白札は、琥珀の出土地点を示したもので、数多くの琥珀が出土している様子がわかります。

荒割り 荒削り・整形 穴あけ 研磨琥珀玉 イメージ

琥珀玉加工工程 イメージ

割れるのを防ぐため中間まで穴を開け反対側から再度穴をあけた

網状河川

潟湖

出土した琥珀片

住居跡

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久慈市

野田村

洋野町

川代

碁石鳥谷

田子内

八木沢小久慈赤川

シゲリ沢滝ノ沢

宇部地形沢泉沢米田 玉川

野田湾

久慈湾

国丹層

玉川層

半崎

至山形町

至種市

太  平  洋

諏訪辰の口

45

20 大地と自然のガイドブック久慈 〜ジオ(大地の物語)でめぐる地域の魅力〜 21

 久慈琥珀博物館は国内唯一の琥珀専門博物館で、昔の琥珀採掘ゆかりの地にあります。博物館は新館と本館からなります。新館は参加体験型の展示構成で琥珀の成因・性質・様々な用途などを解説し、本館では標本・考古歴史資料・久慈地方の琥珀産業史・美術工芸品・大モザイク画などのコレクションを中心に展示しています。 屋外には、大正7年頃まで操業した琥珀坑道跡もあり、見学用に整備されています。近隣地には、体験学習用の琥珀採掘体験場があり、大人気の体験メニューになっています。

 この琥珀大原石は、昭和2年夏井町鳥谷の産出といわれ、当時、琥珀採掘で財を成した山師、櫛桁善兵衛氏が掘り出したと伝わります。 団塊状をなす原石表面はいつの頃か磨かれ、その表面は古色を帯び褐色の重厚な色合いを見せています。大きさは、縦横約40cm、厚さ約25cm、重量19.875kgを計測する世界最大級の琥珀原石で、久慈市指定の天然記念物になっています。

6 久慈琥珀博物館琥珀、神秘の輝き

7 アンバーホール 琥珀大原石世界最大級の琥珀

久慈琥珀博物館 新館

琥珀大原石

展示室 太古の森

琥珀製大モザイク画 縦約2m×横約1.5m

見学用坑道内 琥珀採掘体験の様子

善兵衛と巨大琥珀 櫛桁氏は大正末期から昭和初期に市内数か所で琥珀採掘事業を展開しました。事業で得た財産で琥珀御殿を建てるなど、その豪快な人柄から多くのエピソードが残されています。 なお当地方は世界に類を見ない巨大琥珀の産地です。櫛桁氏の琥珀採掘場からはその後も巨大琥珀が採掘され、そのうちの1個が国立科学博物館に寄贈され、現在も同館に常設展示されています。

アンバーホール世界最大の琥珀モザイク画 琥珀大原石の隣に展示されている琥珀製の巨大モザイク画です。バルト産と久慈産の最高品位の琥珀原石、約50kgを用いて製作されています。平成10年の久慈市文化会館の開設を記念して久慈琥珀(株)から久慈市に寄贈された逸品です。作者代表はロシア政府公認第一級修復技師(人間国宝相当)の故A.A.ジュラブリョフ氏です。

■参考文献は巻末をご覧ください 琥珀については資料(19)・(20)、櫛桁善兵衛氏については資料(20)・(23)

TEL0194-59-3831開館時間/9:00〜17:00(入館は16:30まで)休 館 日/12月31日〜1月1日 2月末日

■参考文献は巻末をご覧ください 琥珀採掘の歴史については資料(14)・(20)

※採掘用具は久慈市歴史民俗資料室に展示されています。

 この琥珀採掘場跡は、枝成沢碁石地区の山間にあります。尾根沿いには琥珀採掘場跡とみられるくぼ地が数多く点在しています。採掘方法は坑道掘りと露天掘りがみられます。 当地区の琥珀採掘は、古くは江戸時代の記述が見られます。昭和初期には軍需物資として盛んに琥珀採掘が行なわれ、最盛期には月1トンを超える膨大な量の琥珀を供出していたことが推定されています。

8 枝成沢の琥珀採掘場跡昭和のアンバーラッシュを今に

ザクザク石坑道跡(通称)

琥珀採掘産業の歴史 久慈地方では、江戸時代から昭和初期(戦時中)にかけて大量の琥珀が採掘されていました。八戸藩の古絵図には「薫陸山

(※1)」が記され、当時から藩が管理していたことをうかがわせます。琥珀の主な採掘地は、夏井町・枝成沢・小久慈町・宇部町・野田村で久慈層群玉川層(※2)にそって分布しています。その中でも枝成沢の古老は「当時この地区の琥珀産出量は久慈中のどこよりも多かった」と語っています。※1:当地方では琥珀を薫陸(くんろく)と呼びます。この呼び名は江戸や京都で

琥珀がお香に使われたことに由来すると考えられます。※2:久慈層群玉川層はp.09を参照

琥珀採掘の一大拠点 当地区では最近の調査によって96か所もの採掘場跡とみられるすり鉢状の窪地が確認されています。しかし、当地方で大量に産出する琥珀の大半は亀裂が多く装飾品には向きません。そのため「ザク琥珀」と呼ばれていました。江戸時代には、これが江戸や京都方面に輸出され、主にお香の原料になったと考えられます。

現代の琥珀採掘 現在も久慈市内の2箇所で宝飾品加工を目的とした琥珀採掘が行われています。久慈琥珀(株)では坑道掘りと露天掘りを併用した採掘を行い、(有)上山琥珀工芸では昔ながらの坑道掘りで採掘を行っています。 またそれぞれ市内を中心に琥珀アクセサリー作り教室などを開催しています。

久慈琥珀(株)小久慈町琥珀採掘場

(有)上山琥珀工芸 宇部町琥珀採掘坑道

戦前の琥珀坑道 採掘場跡と思われるくぼ地 採掘されたザク琥珀

琥珀坑道の分布図 田村栄一郎 1983 八戸御領内絵図(江戸時代)八戸市立図書館所蔵

(有)上山琥珀工芸 琥珀アクセサリー作り体験

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穴を開けようとして割れた跡

再度チャレンジした跡

(しかしあきらめた様子)

岩盤

隆起

砂浜昔の海水面

①海底に砂や砂鉄が堆積

②大地が隆起し山上に持ち上げられる

昔の海水面 海岸段丘

今の海水面

堆積物 昔の海水面 元山砂鉄採掘場跡

滝ダム

22 大地と自然のガイドブック久慈 〜ジオ(大地の物語)でめぐる地域の魅力〜 23

 久慈市歴史民俗資料室は久慈市の文化財を展示しています。ここでは北の鉄文化(※1)や遺跡から出土した琥珀類(※2)、三陸の風土を活かした生活文化の数々が展示されています。 これらの展示品からは大地と自然に育まれた久慈の真の姿に触れることができます。※1:北の鉄文化はp.08を参照 ※2:出土琥珀はp.19を参照

9 久慈市歴史民俗資料室たたら、琥珀文化、三陸の風土を巡ろう

元山砂鉄採掘場跡(→p.23)で採掘された砂鉄鉱石です。茶色い粉状の砂鉄が固まってできており磁石が吸い付きます。

川崎製鉄久慈工場(→p.23)で使用された砂鉄専用の回転炉の炉壁です。久慈市の近代化産業を伝える遺産です。

中長内遺跡(→p.19)から出土した琥珀です。用途は装飾品への加工が考えられます。

海岸で塩煮(→p.13)に使われた鉄製の釜です。この釜は明治以降に使われたと考えられ三陸の製塩文化を伝える貴重な文化財です。

枝成沢の琥珀採掘場跡(→p.21)で使用されたと考えられるツルハシです。戦前の採掘の様子を伝える史料です。

中長内遺跡から出土した鉄製小刀です。琥珀の加工への使用が考えられます。

二子貝塚(→p.13)から出土した縄文時代の釣り針です。当時からすでに漁業が行われており貝塚からはサケ、サバ、アイナメ等の魚骨が出土しています。三陸の豊かな海の幸は原始時代から食されていました。

中長内遺跡から出土した琥珀玉です。加工に失敗した痕跡が残されています。

鉄製の偽金です。 豊富に採れる鉄で造られました。通称「ビタ」といいます。

たたらで作った鉄を輸送用に形成した鉄塊です。重さは約2.5kgあり江戸時代は牛に乗せて山道を運搬しました。(→p.13)

久慈市歴史民俗資料室の見学は予約が必要です。久慈市教育委員会文化財室 TEL0194-52-2700

搬入琥珀

ドバ(山砂鉄) ロータリーキルン炉壁

塩釜

琥珀採掘文化

三陸の風土

北の鉄文化

琥珀採掘用品刀子(鉄製小刀)

鹿のツノ製釣り針

琥珀玉未完成品

鉄銭延べ鉄

■参考文献は巻末をご覧ください 北の鉄文化については資料(23)・(32)、琥珀採掘文化については資料(20)・(23)・(26)、三陸の風土については資料(23)

■参考文献は巻末をご覧ください 川崎製鉄久慈工場については資料(13)・(32) 海岸段丘については資料(27)

刀子復元イメージ

 元山砂鉄採掘場跡は川崎製鉄久慈工場が製鉄の原料となる砂鉄を採掘した場所です。この採掘場の砂鉄はドバ(※1)といい海底の隆起(※2)により誕生した砂鉄鉱床です。また久慈工場はたたら製鉄の歴史に残る製錬技術を導入した先進的な工場でした。(※1)茶褐色の砂鉄でドバ・山砂鉄といい一般的な砂鉄(p.08)とは区別されています。(※2)海底の隆起についてはp.12を参照

10 川崎製鉄元山砂鉄採掘場跡海底の隆起が作った砂鉄資源

川崎製鉄久慈工場 ロータリーキルン(回転炉)

洋野町 大野運動場 砂鉄層

山砂鉄の利用と戦争の時代 逆境の挑戦 昭和初期、戦争の時代に突入する中で鉄資源の確保が国の課題となりました。そこで久慈地方に豊富にある砂鉄が注目されたのです。 しかし、砂鉄の製錬は鉄鉱石とは異なり困難が伴いました。そのため砂鉄製錬のために最新式の高炉を導入し技術的課題を乗り越えて量産化を成功させていったのです。

現在でも見られる砂鉄層 現在、元山で砂鉄層は露出していません。かわりに採掘場跡を示す標柱が整備されています。 一方、洋野町大野運動場には現在でも砂鉄の層が見られます。かつてはここも川崎製鉄の砂鉄採掘場でした。

砂鉄製錬、成功のカギ 久慈の砂鉄は独特の粘りがあり、高炉の不具合を引き起こしてきました。それを解決したのが回転する特殊炉

「ロータリーキルン」でした。 現在でもキルンの炉壁は久慈市歴史民俗資料室

(→p.22)に展示されています。

鉄分が彩る小久慈焼きの飴色 小久慈焼きは江戸時代から続く久慈市の伝統工芸品です。この焼き物を彩る飴色の釉薬は、市内で採れる鉄分に富んだ土(※)を原料にしています。そのため、小久慈焼きの飴色は、大地の遺産を活用した久慈独自の工芸品なのです。※ドバを含む地層の土ですが、ドバよりも鉄分の少ない土です。

海底の隆起が作った砂鉄鉱床 元山の砂鉄層は、標高約250mの高台にあります。この砂鉄層は、かつて海底に堆積した砂鉄が隆起により山の上に持ち上げられたものです(採掘場のある場所は海岸段丘といいます)。 その埋蔵量は、国内最大規模と言われています。この砂鉄鉱床は三陸海岸の隆起が生んだ大地の遺産なのです。

キルン炉壁の展示

小久慈焼き

砂鉄層の成り立ち イメージ

元山砂鉄採掘場跡 遠景

元山の標柱

砂鉄採掘場の様子(昭和初期)

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①火山の噴火 ②冷却された表面から割れ目が発生

柱状節理の成り立ちイメージちゅうじょうせつり

③割れ目が内部まで成長

大気

地面

柱 状 節 理割 れ 目

割 れ 目高温の溶岩

冷え固まった熔岩

大気

地面地面溶岩大気

24 大地と自然のガイドブック久慈 〜ジオ(大地の物語)でめぐる地域の魅力〜 25

■参考文献は巻末をご覧ください つりがね洞の言い伝えについては資料(5)、花崗岩については資料(2)

 つりがね洞は、岩に天然のトンネルがあいた久慈海岸を代表する奇岩です。かつては、洞内につりがね状の岩が下がっていたことからその名がつけられました。 花崗岩(※)が浸食されて作られたトンネルには、夫婦愛の言い伝えが伝わっています。※マグマが冷え固まった岩石(→p.08)

11 つりがね洞マグマと愛のモニュメント

縦方向に複数の割れ目(節理)

言い伝えの残る岩のトンネル

天然のトンネルはどうしてできた? 花崗岩は、スパッと割れる性質をもちます。そしてこの岩には縦方向に複数の割れ目があります。この割れ目(節理といいます)により比較的弱い部分が波に削られて穴があいたと考えらえます。

つりがね洞に残る言い伝え つりがね洞には古くから夫婦愛を物語る言い伝えが残されています。夫婦はあの世に行くとき、この浜で落ち合い、つりがね洞を通り鐘を突いて極楽浄土へ旅立つと言われています。そのためこの岩の周りは浄土ヶ浜と呼ばれています。 ちなみに、かつて洞内にあったつりがね状の岩は明治29年の大津波により流されたといわれています。現在ではそのなごりと思われる出っ張りがわずかに残されています。

久慈海岸めぐり、花崗岩の博物館 久慈海岸の岩場は、奇岩が数多くあります。これらは花崗岩の割れ目(節理)にそって形作られたと考えられます。割れ目(節理)を読みながら不思議な形ができた背景に思いを巡らすのも、久慈海岸ならではの楽しみです。

(なお、岩には名前がついていないため、ここでは仮称で紹介しております)

夫婦岩(男岩、女岩)観察ポイント

つりがね洞のトンネルの成り立ち イメージ

割れ目(節理)が集中した部分が波に削られる 穴が貫通しトンネルができる

めがね岩(仮称) 浄土ヶ浜トンネルの真下にある海食洞。縦方向の岩の割れ目にそって天然のトンネルが2つ並んでいます。

 お社(赤磯大神宮)のある男岩には、岩を真上から見ると多方向に広がる柱状節理が見られます。

モアイ岩(仮称) 複数の交差した割れ目にそって岩がはがれて、モアイ像の様な形になったと考えられます。よく見るとモアイの表情がほほえんでいるように見えます。

 夫婦岩遠景(左が男岩、右が女岩)

奇跡の縁結びしめ縄東日本大震災の津波でも切れなかったしめ縄です。

ミニつりがね洞(仮称) 縦方向の割れ目にそって岩がはがれて、つりがね洞のようにトンネル状の穴があいたと考えられます。

 女岩を側面から見ると柱状の岩が規則正しく積み重なっている様子が見られます。

つりがね洞

■参考文献は巻末をご覧ください 太古の火山活動については資料(2)、(7) 北限の海女については資料(23)

 夫婦岩は、小袖漁港のシンボルです。この岩は約1億2000万年前の火山活動(※)で生まれました。そのため、岩全体に溶岩が冷え固まる時にできる妙技「柱状節理」が見られます。 また、当時の火山活動でできた岩場はウニやアワビの漁場となり北限の海女をささえているのです。※1億2000万年前の火山活動についてはp.8を参照

12 夫婦岩太古の火山の躍動と北限の海女文化

夫婦岩

夫婦岩の柱状節理

火山の妙技「柱状節理」 噴出した溶岩は、冷え固まる時に収縮し、表面から均等な多角形の割れ目ができます。この割れ目が内部まで浸透したものが柱状節理です。 柱状節理の岩場を側面から見ると、柱状の岩が集合しているように見えます。この岩が作られた当時、三陸海岸一帯は、激しい火山活動がありました。その時の灼熱の溶岩がここに残されているのです。

太古の火山が育む海の幸 小袖海岸は、眼下に広がる溶岩の岩場を漁場に素潜り漁がさかんに行われていました。ゴツゴツした岩場は、ウニやアワビの住み家となります。また外洋に面した岩場は餌となる海草も豊富に育つため豊かな漁場が作られてきました。 一方、この地方のアワビは江戸時代には長崎俵物として輸出されるなど三陸の風土とも繋がっているのです。

夫婦岩柱状節理

男岩 女岩

北限の海女素潜り実演

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①海中に溶岩が噴き出す ②斜面を流れ下りながら冷え固まるボコボコした岩の1つ1つが溶岩の通った跡(枕状)

海 水

枕状溶岩

海 水

溶岩 溶岩

周辺マップ

枕状溶岩露頭

深田公民館 板子橋

県道7号↑露頭の続き

③大陸の下に沈み込む

②太平洋を移動

太平洋

ユーラシア大陸

海溝

サンゴ礁(石灰石)

①海底火山の噴火(枕状溶岩の形成)

プレートの移動

26 大地と自然のガイドブック久慈 〜ジオ(大地の物語)でめぐる地域の魅力〜 27

■参考文献は巻末をご覧ください 枕状溶岩については資料(2)・(7)

 山根町川又川沿いに見られるボコボコした丸い岩は、海底火山の噴火により作られたものです。その形から枕状溶岩(※)とよばれています。この独特の形は、海底で噴出した溶岩が海水で一気に冷やされてチューブ状に冷え固まったものが、積み重なってできました。 そしてこの岩石から、噴火の様子や北上山地の成り立ちを知ることができるのです。※枕状溶岩の生まれた時代背景はp.7を参照

13 山根町の枕状溶岩噴火した瞬間そのまんま!

枕状溶岩断面

枕状溶岩露頭 周辺マップ

枕状溶岩のできかた 水中で噴出した溶岩は、斜面を流れる際に表面だけが急速に冷えてチューブ状に固まります。 しかし、次々と溶岩が噴き出すため表面の殻を突き破って再び溶岩が流れ出します。これを繰り返すことで無数のチューブ状の溶岩が重なったボコボコとした形状ができあがります。

枕状溶岩から噴火の様子を読み取る ボコボコした形状からは、溶岩が吹き出した時の様子を読み取ることができます。 連続して噴出した溶岩は、先に冷え固まった溶岩の隙間を埋めるように折り重なります。その時に扇型に冷え固まることから、地層の上下方向を読み取ることができるわけです。

 枕状溶岩の枕とは、溶岩の断面が枕を積み重ねた様子に似ていることから名づけられました。写真を見ると楕円形の溶岩の断面が積み重なっている様子が見て取れます。

太平洋沖からやってきた枕状溶岩 山根町の枕状溶岩は、太平洋の沖で生まれました。深海で噴出した火山は、海山(※)を形成し、その噴出物の山に枕状溶岩は含まれていました。 その後、海山は海洋プレートの移動(※2)により年間数センチずつ太平洋を移動し、ユーラシア大陸の地下にもぐり込みます。それが隆起して浸食され地表に露出しているのです。(※1)大洋底から1000m以上突き出た海底の山 (※2)海洋プレートの移動についてはp.7を参照

枕状溶岩の成り立ち イメージ

山根町の枕状溶岩

冷え固まる時に下の枕に合せて固まります

枕状溶岩の移動 イメージ※この時代、まだ日本列島は存在しません

後から噴出した溶岩が先に噴出した溶岩の隙間を埋めている

■参考文献は巻末をご覧ください カルスト地形については資料(24)・(31)・(34)

 山根町の白樺平は石灰岩(※)の大地です。そこにはクレーターのようなくぼ地があります。これは石灰岩が雨水に溶かされてできた地形でドリーネといいます。 石灰岩の山に降った雨は、ドリーネなどから地下に浸透し、山すそから湧き出すことがあります。 白樺平のふもとにある中戸鎖洞の湧水はそれに当ると考えられます。白樺平周辺は湧水を通じて石灰岩地帯の特徴を観察できる貴重な場所なのです。※サンゴなどの遺骸が堆積した岩石(→p.07)

14 白樺平ドリーネ群と中戸鎖洞清水湧き出る石灰岩の地下世界

白樺平ドリーネ

中戸鎖洞

石灰岩が形作る独特の地形「ドリーネ」 石灰岩の大地に降った雨は、地下に染み込む際に周囲を溶かしてロート状の窪地をつくることがあります。これがドリーネです。 久慈市~岩泉町にかけては安家石灰岩が分布します。石灰岩は長い時間をかけて溶かされ、地表と地下に独特の地形(※)を作ります。 ドリーネの下には地下空間が形成され、鍾乳洞に発達します。※カルスト地形といいます。なお石灰岩そのものができたのは三畳紀ですがカルスト地形が発達したのはずっと後の第四紀になってからです。(→p.03)

カルスト地形と山根名水48泉 白樺平の台地周辺には、数多くの湧水があります。その中には、石灰岩の大地に浸透した水が地上に湧き出していると考えられるものもあります。 中戸鎖洞清水をはじめ石灰岩の岩穴からしみだしてくる水は、白樺平にふった雨が湧き出していると考えられます。※中戸鎖洞清水、べっぴん姉妹の泉、産湯の泉は山根名水48泉に選定されています。また他にもカルスト地形と関わりのあると考えられる泉はまだまだあります。

カルスト地形と湧水 白樺平のふもとにある中戸鎖洞は、清水がわいています。カルスト台地のすそでは、しばしば湧水がわいていることがあります。これは、台地に降った雨が地下に浸透し、石灰岩の地下水路をへて湧き出しているのです。 そのことから、白樺平ドリーネ群と中戸鎖洞は水の入口と出口の関係にあると推測されます。

中戸鎖洞清水(山根町中戸鎖)

白樺平カルストイメージ

白樺平放牧地

べっぴん姉妹の泉(山根町得部) 産湯の泉(山根町得部)

ドリーネの成り立ち イメージ

二酸化炭素や土壌中の有機酸を含む弱酸性の水が石灰岩を溶かす

ドリーネなどのカルスト地形が作られる

湧水ドリーネ

浸透

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大理石

石灰岩

地中

マグマ

モリブデン鉱脈

隆起

岩盤

珊瑚礁

石灰岩の層

岩盤

圧力

圧力

鏡岩

久慈川

石灰岩の層

①鏡岩

②小不動岩

28 大地と自然のガイドブック久慈 〜ジオ(大地の物語)でめぐる地域の魅力〜 29

■参考文献は巻末をご覧ください 大理石については資料(11)・(24) モリブデン鉱山については資料(2)・(13)

 久慈渓流の入口には、川底が純白の大理石でできた場所があります。また、付近には希少金属「モリブデン」の鉱山跡が残されています。この2つ、実は地下深くのマグマのはたらき(※)により作られたもので、地殻変動が生んだ大地の遺産なのです。※マグマのはたらきに関してはp.08を参照

15 大理石渓谷と大川目モリブデン鉱山跡マグマが彩る純白の渓谷

河原の大理石原石 大理石でできている久慈小学校の旧校門

マグマが生み出す希少金属と大理石 地下にたまったマグマは周辺の地層に様々な影響を与えます。 周辺に石灰岩(※1)がある場合、高温で再結晶し大理石(※2)に変化します。またマグマが冷え固まる過程でモリブデンなど特定の金属が集まり鉱床をつくります。ここでは地下深く(約10km以上)で起きた化学反応の跡が地表にむき出しになっているのです。※1:サンゴなどの遺骸が堆積した岩石(→p.07)※2:高温で方解石が再結晶して大きな結晶になったもの。石材としても利用される。

マグマの贈り物モリブデンと鉱ザクロ石 モリブデンとは、希少金属の一種です。この金属鉱床は、マグマに含まれる鉱物が岩盤の隙間に集まってできたものです。またザクロ石と呼ばれる鉱物も同時に産出します。 ザクロ石とは、ガーネットの仲間でマグマと石灰岩が化学反応を起こして生まれました。ちなみに、ここのザクロ石は品質的に宝飾品には向いていません。

久慈渓流の大理石 久慈渓流の大理石は1㎜ほどの方解石(※)の粒が集まってできています。この粒の1つ1つは、マグマの熱が育てた造形です。 また、明治時代には「陸中大理石」の名で切り出さたこともあり、現在でも当時の物と思われる大理石を市内で見ることができます。(※)炭酸カルシュウムを主成分とする鉱物

大理石渓谷

モリブデン鉱石 ザクロ石

大理石中の方解石の結晶

地下でマグマが貫入 マグマの高温で周辺の岩盤が変化

マグマは冷え固まり隆起して地表に現れる

■参考文献は巻末をご覧ください 石灰岩については資料(24) イワギクについては資料(4)

 鏡岩と小不動岩は、久慈渓流を代表する景勝地です。これらの岩は石灰岩(※)の地層が地殻変動により、ほぼ垂直に傾いたものです。この姿からは地球のダイナミックなエネルギーを感じさせてくれます。 また、同じ岩石にもかかわらず見た目がまったく違うのは、同じ地層でも見る角度によって様子が異なっているからです。※サンゴなどの遺骸が堆積した岩石(→p.07)

16 鏡岩と小不動岩地球がねじまげたジャイアント・ロック

鏡岩

小不動岩

鏡岩の成り立ち これらの岩石の元となった石灰岩は、太古の昔、低緯度(※)の温暖な海で発達したサンゴ礁がもとになりました。元々水平に近かった地層は地下深くで大きくねじ曲げられ、ほぼ垂直に傾いた部分が久慈川に削られてむき出しになっているのです。※赤道近くの温暖な地域

鏡岩・小不動岩観察のツボ 鏡岩と小不動岩が、一見すると別の岩石に見えるのは石灰岩の構造が原因です。ここの石灰岩は、層状になっています。この地層が川に削られて露出した部分によって岩の表情が異なってみえるのです。 ①鏡岩(層の正面) 平らな岩肌に見える ②小不動岩(層の側面)何層もの地層に見える

石灰岩地帯の植物「イワギク」 イワギクは、石灰岩地帯に生息する特殊な植物です。久慈市から岩泉町に生息しており、久慈渓流にも見られます。石灰岩地帯は岩肌が露出し、養分が乏しいため、植物にとっては厳しい環境です。イワギクは、そこにあえて適応した植物です。東北地方では唯一、久慈市から岩泉町にかけての石灰岩地帯に生息しています。

鏡岩

イワギクと石灰岩

鏡岩の成り立ちイメージ

小不動岩よく見ると縦方向に地層が見える

①石灰岩が堆積 ②地殻変動で変形 ③久慈川が削る

鏡岩と小不動岩の違い イメージ

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30 大地と自然のガイドブック久慈 〜ジオ(大地の物語)でめぐる地域の魅力〜 31

 大滝は、独特の岩肌を何段にもわたり滝が流れ下る、久慈渓流の名所です。この滝はチャート(※)という固い岩石でできています。そのため、水流による侵食に耐え、滝を形成したと考えられます。 また、古くからこの滝には竜が住むという言い伝えがあるなど、神秘的なスポットになっています。※微生物の遺骸が堆積した岩石(→p.07)

17 久慈渓流大滝久慈渓流、神秘のパワースポット

岩肌に見られる褶曲

岩泉P-T境界

不老泉

大滝の竜 イメージ

続石(山形町日野沢)

チャートが作る独特の岩肌 チャートとは、深海に堆積した微生物の遺骸からなる岩石です。 ここのチャートは、堆積した当時の層が残っており、一部ではあたかも竜がうごめいているかのような地層の褶曲(※)が見られます。 地層の持つ不思議な雰囲気を昔の人も感じていたことでしょう。※地層が波状に曲った形状

大滝の竜伝説 大滝には竜が住むという言い伝えが残されています。 この滝には竜(水神様)が住み、ここを通る者は、事故が絶えず恐れられていました。そこで、通りかかった山伏が祈りをささげ、この災いを見事に治めたと伝えられています。

久慈渓流鏡岩(→p.29)にある不老泉には大滝の主をかたどった水飲み場が整備されています。チャートでできた文化財

 山形町日野沢には続石というチャートでできた岩があります。この岩は節理によって横方向に5段に割れて重なっており、自然の現象としては珍しい形状をしていることから久慈市の天然記念物に指定されています。

チャートに残された史上最大の大絶滅の痕跡「岩泉P‐T境界」 岩泉町安家森周辺には、約2億5千万年前に起きた史上最大の生物絶滅の痕跡が残されています。 ここに分布するチャートに挟まれた黒い岩石は、環境の激変により形成された地層です。当時、生息していた生き物の9割が絶滅したと考えられています。 この絶滅を機に恐竜が大繁栄する時代に移ることから、地球環境の大きな変化を記録した貴重な地層です。

大滝

■参考文献は巻末をご覧ください 大滝の主については資料(10)・(33)、続石については資料(15) 岩泉P-T境界については岩手県立博物館に展示解説があります

 内間木洞は安家石灰岩にある日本有数の巨大鍾乳洞(※)です。洞内には壁一面に発達した鍾乳石や地下水の溶食が生んだ空間が広がっています。 また、冬季には気象条件の関係で洞窟が冷たい外気を吸い込んで発生する氷の芸術「氷筍」の群生が見られるなど、バラエティに富んだ自然の芸術世界が広がっています。※内間木洞は岩手県の天然記念物に指定されています。

18 内間木洞巨大鍾乳洞と氷筍のミュージアム

内間木洞の鍾乳石

氷筍

石灰岩と水の芸術「鍾乳洞」 鍾乳洞は石灰岩が地下水に溶かされてできます。地下にはもともと断層などの岩の割れ目がありそこを地下水が順々に溶食し大きな空間を作ります。その後、地下水は最初に作った通路の下を流れるようになります。 そして河川の跡には空洞が残され滴下水によって鍾乳石が成長してくるのです。

鍾乳洞と溶食地形観察ポイント 内間木洞の見所は多種多様な鍾乳石の数々です。鍾乳石とは石灰岩に含まれる炭酸カルシウムが地下水に溶けて再度結晶化したもので、場所によって様々な形状のものが作られます。 また、地下水により石灰岩が溶かされてできた溶食地形からは洞窟の成長してきた歴史を読み取ることができます。

フローストーン(内間木富士) 名前の通り富士山のような三角形に成長した鍾乳石です。これはフローストーンという鍾乳石で壁を伝って流れる水により作られました。ここでは、壁一面を覆うフローストーンが見どころです。

カーテン(大広間) 天井の傾斜にそって水が流れるうちに、幕状に成長したものです。 ここのカーテンは鍾乳石でありながら布のように薄いため、裏から光を当てると透けてみえます。

鍾乳洞のでき方 イメージ

地下水が石灰岩を溶かし通路を作る 古い通路は干上がり滴下水によって鍾乳石が発達する

場所や条件によりいろいろな形の鍾乳石が作られる

内間木富士

カーテン

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上昇

温かい空気層冷たい空気層 外気

外気

煙突効果

32 大地と自然のガイドブック久慈 〜ジオ(大地の物語)でめぐる地域の魅力〜 33

洞内ドリーネ(千畳敷) 地下水の溶食により天井が陥没してできた穴です。この穴の下を水が流れていることが推測され、現在でも溶食が進み、穴に落ちた岩が少しずつ移動しているそうです。今も洞内が変化している証拠です。 ちなみにこの洞内ドリーネの大きさは直径17mと国内最大です。

ノッチ(熊のねどこ) 壁に連続する水平のくぼみです。洞穴はかつての地下水がつくりました。このくぼみは水位が安定して長年にわたり壁をとかし続けた痕跡です。 かつて、この通路も地下水が流れ、ゆっくりと地下空間が広がってきた痕跡が壁に残されているのです。 ちなみに「熊のねどこ」とは、かつてここを熊が冬眠のためにつかっていた寝床の跡があることから名づけられました。(なお現在は熊はいません)

内間木洞もう1つの見所「氷筍」 氷筍は冬場に外気が吹き込むことでできます。 洞窟は年間を通して気温が一定のため冬季になると外と比べ温かい洞内の空気は上昇して隙間から排出されます。そのため入口からは外気が吸い込まれ滴下水を凍らせて氷筍が成長します。

氷筍に残る天気の変化の記録 氷筍は成長するときに気象の変化により、形や模様が変化します。そのため、氷筍には成長した期間の気象の変化が記録されています。また、その年の気象状態により氷筍の群生は、まったく異なる姿を見せてくれます。

条件により異なる氷筍の形

千畳敷(洞内ドリーネ)

熊のねどこ(ノッチ)

氷筍の模様

冬季、洞内は外より温かいため空気が上昇し天井より逃げる(煙突効果)。その分入口から外気を吸い込む。

入口周辺の地面は氷点下だが天井は温かいため滴下水が落下し地面で凍り筍のように成長します。

きのこ型 根本が極端に細くアンバランスな氷筍。時間がたつにつれ水分が蒸発し根本の部分がやせ細ってしまったものと考えられます。

枝分れ型 途中で枝が生えたような形の氷筍。元々距離の近い滴下水があり、途中で二つが合体して成長していましたが、片方の滴下が途中で止まったりしたため成長が途切れてあたかも枝の様になったと考えられます。

正体不明型 あたかも植物の葉が生えたような形の氷筍。氷筍の構造は様々な条件が重なって決まりますがこれはどのようにして作られたかは不明です。成因の解明が今後期待されます。

きのこ型の氷筍 枝分れした氷筍 植物の葉の様な氷筍

■参考文献は巻末をご覧ください 内間木洞については資料(6)、(24)

①冷たい日に成長 細く氷が白濁した部分は気温の低い日に成長しました。気温が低いと滴下後すぐ凍るため細く上へと伸び続けます。また水に含まれる空気が抜ける前に凍るため気泡を閉じ込めた白っぽい氷になります。

②温かい日に成長 太く氷が透明な部分は気温の高い日に成長しました。気温が高いと凍るまでに時間がかかり滴下後側面にたれるため横に太く成長します。また凍るまでに時間がかかるため空気が抜け透明度の高い氷になります。

 平庭高原富士見平からは、北上山地のなだらかな山並みが見えます。この地形は、かつて平原状の地形が隆起してできたと考えられ、隆起準平原(※)といいます。 また、平庭高原では隆起準平原特有のなだらかな山稜を活かした放牧や製炭産業など、高原の営みに触れることができます。※隆起準平原についてはp.11を参照

19 平庭高原 富士見平準平原地形に息づく高原の営み

高原の営み①  なだらかな地形と日本一の白樺林 東京ドーム63個分(約300ha)におよぶ白樺の群落は平庭高原を代表する風景です。この群落は高原の営みが生んだものです。平庭高原のなだらかな地形は、製炭に適しており戦前には森林が盛んに伐採されました。 また戦後は短角牛の放牧地としても山麓が開発されました。そうした土地に白樺が侵入し、群落が作られていったと考えられています。

高原の営み②  平庭高原と短角牛の歴史 短角牛は平庭高原の名物ですが、当地との関わりは江戸時代にさかのぼります。 その歴史を物語るものが富士見平に残る旧道「塩の道」(※)です。この街道で交易品の運搬に活躍したのが短角牛の先祖「南部牛」でした。 交易という営みを支えた南部牛は、明治以後、品種改良され肉用牛となり、現在もこの地に生き続けているのです。※塩の道と短角牛についてはp.13を参照

高原の営み③  平庭闘牛大会のルーツにせまる! 平庭闘牛大会のルーツは、江戸時代にさかのぼります。当時、塩の道では、1人で7頭もの牛を率いて物資を運びました。そこで牛を操るために行われていた風習が角突きでした。角突きで一番強いボス牛を決めると他の牛はそれに従います。よってボス牛1頭を操ることで群れをたくみに制御していました。 闘牛大会は塩の道の知恵が息づく伝統行事なのです。

塩の道の忘れ物?「高原のハマナス」 平庭高原には、高原に咲く珍しいハマナスがあります。ハマナスは通常海岸周辺に自生し、山地では見かけることはありません。 一説によると牛が食べたハマナスの種が、塩の道を通り平庭まで運ばれたのではないかと言われています。

目からウロコ 白樺の超能力 白樺は自然の森が失われた土地に侵入し、生態系を回復させる森のレスキュー隊の様な役割をします(パイオニアプランツと言います)。平庭の白樺もそうして群落を築いていきました。 また、白樺は木材や春先に採れる甘いシロップなど様々な恵みを与えてくれる木なのです。

富士見平

■参考文献は巻末をご覧ください 隆起準平原については資料(27) 白樺については資料(4)・(33) ハマナスについては資料(17) 闘牛大会については資料(33) 

平庭高原はなだらかな地形が分布している 製炭や短角牛の放牧地として天然の森を開発した 画像提供/郷土出版社久慈・二戸・九戸の100年

人の手が入った土地に白樺が繁殖していった

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牛方と南部牛 おらほーる史料展示室

平庭闘牛大会

平庭高原のハマナス

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詳しく知りたい方へ■参考文献・資料(1)岩手県内化石めぐり 岩手県立博物館(2)岩手県内岩石・鉱物めぐり 岩手県立博物館(3)岩手県の地質図 博物館版 岩手県立博物館(4)岩手の自然と文化 久慈市教育委員会(5)海の年輪 金野静一(6)内間木洞調査報告書 山形村教育委員会(7)北東北自然史博物館 北東北三県共同展実行委員会(8)北上山地の恐竜・アンモナイト 岩手県立博物館(9)北の馬文化 岩手県立博物館(10)久慈の民話 久慈市立青年の家(11)久慈市史第1巻 久慈市史編纂委員会(12)久慈市史第2巻 久慈市史編纂委員会(13)久慈市史第3巻 久慈市史編纂委員会(14)久慈層群とくんのこほっぱ跡調査保全伝承事業報告書 くんのこほっぱ愛好会(15)久慈文化財マップ 久慈市教育委員会(16)久慈製鉄所写真アルバム復刻版 久慈砂鉄の会(17)葛巻の自然 葛巻町教育委員会(18)くんのこほっぱ昔語り くんのこほっぱ愛好会(19)琥珀 永遠のタイムカプセル アンドリュー・ロス(20)琥珀誌 田村栄一郎(21)琥珀の里から 久慈青年会議所(22)侍浜の歴史 久慈巌(23)図解 久慈・二戸・九戸の歴史 郷土出版社(24)石灰岩 岩手県立博物館(25)中長内遺跡発掘調査報告書 久慈市教育委員会(26)南部藩琥珀物語 田村栄一郎(27)日本の自然 地域編東北 岩波書店(28)日本100岩場北海道・東北編 山と渓谷社(29)野田村地質調査報告書 野田村教育委員会(30)野田村史 野田村教育委員会(31)北部北上山地のカルストと湧水 岩手県立博物館(32)みちのくの砂鉄いまいずこ 田村栄一郎(33)山形村誌 山形村誌編さん委員会(34)山根風土記 山根六郷研究会  ※(1)〜(34)は久慈市立図書館で閲覧できます。(35)日本列島ジオサイト日本の地質百選Ⅱ オーム社(36)日本のジオパーク ナカニシヤ出版(37)徹底図解 地球のしくみ 新星出版社

■ウェブサイト 三陸ジオパーク推進協議会   http://sanriku-geo.com/ 山根名水48泉(新山根温泉ぺっぴんの湯)   http://beppinnoyu.com/

■写真・イラスト提供 岩手県立博物館 久慈琥珀博物館 国立科学博物館 八戸市立図書館 平山廉(早稲田大学国際教養学部教授) おおのミルク工房 郷土出版社 川崎悟司