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日本自転車振興会補助事業 平成 1 7年度民活インフラ事業発掘形成調査支援事業 バンコク都市圏 軽・中量交通システム整備に係る調査 調査報告書 (和文要約) 平成18年2月 社団法人 海外コンサルティング企業協会 日本工営株式会社

バンコク都市圏 軽・中量交通システム整備に係る調査œ¬調査の目的は、MRTとBRTの中間程度輸送力を持つ中量輸送システムを紹介し、その

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日本自転車振興会補助事業

平成 17年度民活インフラ事業発掘形成調査支援事業

バンコク都市圏

軽・中量交通システム整備に係る調査

調査報告書

(和文要約)

平成 18 年 2月

社団法人 海外コンサルティング企業協会 日本工営株式会社

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この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。

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目 次

1. 序文

1.1 背景 1-1

1.2 目的と範囲 1-1

1.3 調査団 1-2

1.4 調査日程 1-2

1.5 タイ側担当機関との討議内容 1-2

2. 既存スタディと進行中のプロジェクトの見直し

2.1 バンコク大量交通マスタープランの起源 2-1

2.2 バンコク大量交通マスタープラン(1994 年) 2-1

2.3 バンコク大量交通マスタープランの変更 2-2

2.4 バンコク副都心庁副都心計画 2-2

2.5 バンコク首都圏庁の都市交通プロジェクト 2-3

3. 軽量、中量、重量交通システムの比較

3.1 システムの種類と技術的特徴 3-1

3.2 輸送力及び最適路線延長 3-3

3.3 プロジェクトコスト – 土木、車両、制御システム 3-4

3.4 運行・維持管理費 – 電力消費、労務費(運転手、駅員)、 3-5

メンテナンス費(軌道、駅、車両、制御システム)

3.5 システム選定基準 3-6

4. バンコク中量交通システムの評価

4.1 路線選定 4-1

4.2 路線選定のための需要予測 4-2

4.3 路線ごとのシステム選定

4.3.1 システム選定の考え方 4-3

4.3.2 最終選定のための要因検討 4-3

4.3.3 システム最終選定 4-12

4.4 施工及びスケジュール

4.4.1 モノレール施工時の特徴 4-12

4.4.2 モノレールの施工手順 4-13

4.4.3 モノレール開業までのスケジュール 4-14

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4.5 経済評価

4.5.1 プロジェクトコストの試算(資本コスト及び O&M コスト) 4-14

4.5.2 経済便益の算定 4-24

4.5.3 経済便益の分析 4-25

4.6 料金設定 4-30

4.7 資金調達

4.7.1 料金収入 4-30

4.7.2 税収からの支出 4-30

4.7.3 大量交通整備計画 4-30

4.7.4 信託投資 4-31

4.7.5 国庫借入金 4-31

4.8 経営 4-31

5. 結論と提案

5.1 オレンジライン 5-1

5.2 イエローライン 5-1

Appendix

A: オレンジライン、イエローライン完成予想図

B: オレンジライン計画路線現状写真

C: イエローライン計画路線現状写真

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図表リスト 表 3.1 都市交通システムの特徴 3-2

表 3.2 システム輸送力の比較 3-3

表 3.3 検討対象システムにおける路線延長の分布 3-4

表 3.4 建設概算コスト 3-4

表 3.5 システム別運営費原単位比較(バスを除く) 3-5

表 3.6 一次選定結果 3-7

表 4.1 オレンジライン、イエローライン需要予測 4-2

表 4.2 利用客数予測(人) 4-3

表 4.3 最大路線容量 4-3

表 4.4 資本コスト比較 4-7

表 4.5 O&Mコスト比較 4-7

表 4.6 EIRR 比較 4-8

表 4.7 モノレール開業までの概略スケジュール 4-14

表 4.8 オレンジライン:MRT の場合のプロジェクトコスト 4-17

表 4.9 オレンジライン:モノレールの場合のプロジェクトコスト 4-18

表 4.10 イエローライン:MRT の場合のプロジェクトコスト 4-19

表 4.11 イエローライン:モノレールの場合のプロジェクトコスト 4-20

表 4.12 オレンジライン:モノレールの O&M コスト 4-22

表 4.13 イエローライン:モノレールの O&M コスト 4-23

表 4.14 オレンジライン、イエローライン経済便益の算定 4-24

表 4.15 オレンジライン:経済評価(MRT のケース) 4-26

表 4.16 オレンジライン:経済評価(モノレールのケース) 4-27

表 4.17 イエローライン:経済評価(MRT のケース) 4-28

表 4.18 イエローライン:経済評価(モノレールのケース) 4-29

図 2.1 1994 年のマスタープランによる路線図 2-2

図 2.2 BRT 路線図 2-3

図 3.1 都市交通システムの適用範囲 3-1

図 4.1 都市鉄道ネットワーク 4-1

図 4.2 オレンジライン、イエローライン路線図 4-4

図 4.3 オレンジライン概略平面図 4-5

図 4.4 イエローライン概略平面図 4-6

図 4.5 MRT とモノレールの構造物の差異 4-9

図 4.6 緊急時の避難方法(日本の例) 4-10

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図 4.7 避難用通路を設けた例(ラスベガスモノレール) 4-11

図 4.8 モノレール施工手順 4-13

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略 語

AGT 案内軌条式鉄道(Automated Guideway Transit)

BCR 費用便益比率(Benefit/Cost Ratio)

BMA バンコク首都圏庁(Bangkok Metropolitan Administration)

BRT バス高速輸送システム(Bus Rapid Transit)

EIRR 経済的内部収益率(Economic Internal Rate of Return)

ENPV 経済的純現在価値(Economic Net Present Value)

JBIC 国際協力銀行(Japan Bank for International Cooperation)

LRT 軽快電車(Light Rail Transit)

MRT 大量高速交通(Mass Rapid Transit)

MRTA 地下鉄公社(Mass Rapid Transit Authority of Thailand)

MTDF 大量交通整備計画(Mass Transit Development Fund)

MTMP 大量交通マスタープラン(Mass Transit Master Plan)

OCMLT 陸上輸送管理委員会(Office of the Commission for Management of Land

Transport)

ODA 政府開発援助(Official Development Assistance)

OTP 運輸省交通政策局(Office of Transportation and Traffic Policy and

Planning, Ministry of Transportation)

PHPDT Peak Hour Peak Direction Trips

SPURT 第 7 次都市・地方輸送計画(The Seventh Plan Urban and Regional

Transport Study)

SRT タイ国鉄(The State Railway of Thailand)

THB タイバーツ(Thai Baht)

URMAP 大量都市鉄道輸送マスタープラン( Mass Transit Urban Rail

Transportation Master Plan in Bangkok and Surround Area)

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参考文献

都市交通研究会. 1997 年. 新しい都市交通システム, 山海堂

佐藤 信之. 2004 年. モノレールと新交通システム グランプリ出版

PCI. 2000. URMAP Mass Transit Urban Rail Transportation Master Plan (BMA and

Surrounding Areas) Interim Report Vol. 1, Report prepared for Office of the Commission for the

Management of Land Traffic (OCMLT), Pacific Consultants International in association with

Japan Railway Technical Service, Asian Engineering Consultants Corp., Ltd., TESCO Ltd., and

Transconsult CO., Ltd, July 2000

Team Consulting Engineering and Management Co., Ltd. 2004. Bangkok Mass Transit

Implementation Plan (1 stage) Final Report, Report prepared for Office of Transport and Traffic

Policy and Planning, May 2004

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1. 序文

1.1 背景

1994 年に作成された大量交通マスタープラン(Mass Transit Master Plan: MTMP) は、

2001 年に大量都市鉄道輸送マスタープラン (Mass Transit Urban Rail Transportation

Master Plan in Bangkok and Surround Area: URMAP)によって見直された。実施について

は、 2004 年にバンコク大量輸送実施計画第一ステージ(Bangkok Mass Transit

Implementation Plan 1st Stage)の中で策定された。

上記計画は、次の3つに分類できる。1)BTS による高架 MRT のスカイトレイン、2)地下鉄

公社(MRTA)による地下鉄、及び3)タイ国鉄による通勤列車(レッドライン)。2009 年までに

上記 3 つの総計で291km を建設する計画である。(スカイトレインは2 路線 23km、地下鉄

は 1 路線 20.8km が完了している。)

地価高騰の沈静化、渋滞解消、効率的な首都機能の構築のため、バンコク首都圏庁

(Bangkok Metropolitan Administration: BMA)は、過剰に集中した首都機能を郊外の副都

心に移す計画を策定している。副都心はバンコク中心から20~30km の範囲に7 箇所計画

されており、 大量(中量)輸送システムもしくは幹線道路でバンコク中心部と結ばれる。

バンコク副都心計画はまだ計画段階であり、具体的な実施方針などはない。副都市圏計

画の1つとして、バンコクの東約25km に位置するLat Krabangがある。面積は2,000ha で、

20 万人の人口が見込まれている。しかし、この数字は副都心計画の対象地域に限ったも

のであり、周辺地域の開発を考慮すると、人口は 40~50 万人になると見込まれている。

1.2 目的と範囲

鉄道ベースの上記計画は、大量輸送システム、あるいは重軌条システムに分類できる。こ

こで、全長291km の重軌条ネットワークの必要性を見直す価値はある。

BMA は、専用レーンを使ったバス高速輸送システム(Bus Rapid Transit: BRT)をMRT がカ

バーしていない地域で導入することを計画している。しかし、BRT は導入空間に比して輸

送力が小さく、バンコクに BRT を導入する効果は疑問視されている。

本調査の目的は、MRTとBRT の中間程度輸送力を持つ中量輸送システムを紹介し、その

バンコクへの導入可能性について検討することである。中量輸送システムは、日本の諸都

市で既に導入されている。例えば、モノレール、案内軌条式鉄道(AGT)、LRT などがこれ

にあたる。

現状の大量輸送計画は、バンコク中心部での運行、あるいは中心部と副都心を結ぶ運行

を念頭においているが、各副都心の人口は 40~50 万人とされているので、フィーダーサ

ービスを提供する中量輸送システムの検討が必要である。

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1.3 調査団

役割 名前(担当)/会社名

団長 奥津 明男(鉄道計画)/日本工営株式会社

団員 高田 知幸(鉄道建設)/株式会社トーニチコンサルタント

団員 増沢 達也(輸送計画)/日本工営株式会社

団員 ピーター ホジキンソン(交通経済)/日本工営株式会社

現地支援 ピニット セト/日本工営株式会社

1.4 調査日程

日付 件名 行動

8 月 21 日 バンコクへ移動 奥津、高田、増沢

8 月 22 日午前 キックオフミーティング 日本工営バンコク事務所

(奥津、高田、増沢、ホジキンソン、ピニット )

8 月 22 日午後 JBIC バンコク事務所 宮尾様、合田様

8 月 23 日午前 バンコク首都圏庁(BMA) Mr. Chitchanok

(Director General, Dept. of Traffic & Transportation)

8 月 23 日午後 地下鉄公社(MRTA) Dr. Rithika Suprat (Director of Planning Division)

Mr. Chaisat Gururatana (Director of Technical Dept.)

8 月 24 日午前 TEAM Consultant 社 Mr. Amnat Prommasutra (Senior Executive Director)

Mr. Kittpol Bunninm (Executive Director)

Dr. Boonchai Sangpetngam

8 月 24 日午後 在タイ日本国大使館 奥田二等書記官

8 月 25 日 現場踏査 Yellow / Pink Lines

8 月 26 日 現場踏査 Orange Line

8 月 27 日 現場踏査 Blue Line (Bangkae ? Bangkok Yai section)

増沢帰国

8 月 28 日 現場踏査 Yellow Line

8 月 29 日 現場踏査 Orange Line

8 月 30 日 運輸省交通政策局(OTP) Dr. Kumropluk Suraswadi

8 月 31 日 帰国 奥津、高田

1.5 タイ側担当機関との討議内容

(1) バンコク首都圏庁(Bangkok Metropolitan Administration: BMA)

Mr. Chitchanok (Director General, Department of Traffic and Transportation) より、BMA

による BRT への取組みについての説明があった。BMA としては、初の BRT の運行を

North Bangkok Area の Mo Chit~Lad Phrao~Bangkhen 間で計画している。同氏は、コロ

ンビアのボゴタ市での BRT の成功を強調した。

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調査団から同氏に、ジャカルタの BRT の現状について説明した。ジャカルタの BRT は、鉄

道ベースの MRT が整備されるまでの暫定的な渋滞解決策であり、道路事情や市内走行

車両数の違いのため、ボゴタ市のレベルでは機能していない。

(2) 地下鉄公社(Mass Rapid Transit Authority of Thailand: MRTA)

調査団は、日本で運行中の東京モノレール、多摩モノレール、金沢シーサイドラインを例

に、中量交通システムのプレゼンテーションを実施し、バンコクに導入することの優位性に

ついて説明した。

MRTA は、将来のイエローラインとピンクラインに中量交通システムを導入することを念頭

に置いた調査団の説明に、大きな関心を示した。また、MRTA は緊急の課題としてブルー

ラインの運営・維持費が予想以上に高いことを説明し、日本の中量交通システムの O&M

費用について調査団に質問した。

これに対し、調査団は O&M 費用に関する一般情報を説明した。また、重軌条で概念設計

がなされているオレンジラインに中量交通システムを導入する可能性について質問したが、

MTRA からは、政策とOTP の方針変更が必要となるため、現段階での中量交通への変更

は困難との説明を受けた。しかし、明確な根拠が示されれば、変更の可能性もあるとのこと

であった。

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2. 既存スタディと進行中のプロジェクトの見直し

2.1 バンコク大量交通マスタープランの起源

バンコク都市部における大量交通システムの整備に向けた戦略的な計画は、1970 年から

の長い歴史がある。1990 年には、第 7 次都市・地方輸送計画(the Seventh Plan Urban and

Regional Transport Study: SPURT)が策定された。この計画は、バンコクへの大量交通シス

テムの導入と車両規制の強化を含む交通戦略計画であったという点で注目に値する。現

在でも、大量交通システムと車両規制が渋滞解消の実質的な解決策であると広く受け入

れられている。

このSPURT 以降、将来の成長を見越した都市鉄道整備は、グリーンラインとレッドライン建

設計画の閣議承認以外、ほとんど実施されなかった。グリーンラインはバンコク首都圏庁

(BMA)の支援のもと2000 年の完成を目指して着工されたが、タイ国鉄(SRT)の支援による

レッドラインは、1997/98 年のアジア通貨危機の直前に中断された。具体的な動きが少なか

ったとはいえ、SPURTは、1992年の地下鉄公社(MRTA)と、運輸省交通政策局(OTP)の前

身である陸上輸送管理委員会(Office of Commission for Management of Land Transport:

OCMLT)の設立を正当化した点で重要である。なぜならば、これら機関によって、大バンコ

ク圏の大量交通システムの整備・運営の調整と都市交通政策の企画・立案の協調が可能

になったからである。

2.2 バンコク大量交通マスタープラン(1994 年)

過去に実施されたバンコクの交通に関する調査・計画の中で注目に値するのは、1994 年

に閣議承認されたバンコク大量交通マスタープランである。このマスタープランは、バ ンコ

ク首都圏で大量交通の整備と実現に向けての総合的な枠組みを決めた最初の試みであ

った。

このマスタープランで計画された路線は、レッド、グリーン、ブルー、オレンジ、パープルの

5 路線あり、総延長は 238km であった。そのうちの103km はレッド、グリーン、ブルーライン

の基幹部分の建設で、残りの 135km は、その3 路線の延伸とオレンジ、パープルラインの

新設からなっていた。

延伸部分の大半は、既存道路の中央分離帯を利用した高架方式で計画されていたが、オ

レンジラインの重要区間は地下方式で計画されていた。また実施スケジュールは 2 段階と

し、第一期は 1995 年~2001 年、第二期は 2001 年~2011 年としていた。図 2.1 に路線図

を示す。

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図 2.1 1994 年のマスタープランによる路線図

2.3 バンコク大量交通マスタープランの変更

2002 年には、運輸省交通政策局(Office of Transport and Traffic Policy and Planning:

OTP)が、都市鉄道輸送マスタープラン(Urban Rail Transportation Master Plan: URMAP)を

策定し、バンコク及びその近郊地域における基本的な鉄道大量輸送システムを定めた。こ

の URMAP 及び URMAP に関するコメントをもとに、地下鉄公社(MRTA)は下記の提案を

行った。

• ブルーラインのHua Lampong~Thaphra 間(地下 6.5km)、Thaphra~Bangkae(高架

7.6km)、Bangsue~Pharanagklao 橋間(11.6km)及び Bangsue~Thapra 間(13.1km)を

延伸し、環状線とする。

• Bangkapi~Wangburapa~Mahaisawan間地下 29km とMahaisawan~Rajburana 間高架

5km からなる、オレンジライン 34km を新線建設する。

2.4 バンコク首都圏庁副都心計画

バンコク首都圏庁の管轄区域の人口は 740 万人あまりとされている。ここから首都圏への

人口集中が進行していることが分かる。個人の都市化と無計画な土地開発、そしてそれに

続くインフラ整備がバンコク首都圏を肥大化させた。都市化は民間主導で進められたが、

これが慢性的な渋滞の原因である貧弱な道路網の原因となっている。

都市中央部の再開発と郊外の開発による都市構造の再編成は、バンコク首都圏庁管轄区

域の秩序ある成長に向けての緊急の課題である。ラットクラバン(Lat Krabang)の副都心開

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2-3

発が、BMA 管轄区域での複数の中心を持った都市構造を指向したモデルケースになるこ

とを期待されている。

鉄道と道路網の密接な連携があって初めて、副都心へのアクセスが確保される。バンコク

中心部から新空港までの通勤線(レッドライン)上の新駅は、副都心の道路網と連携されな

ければならない。都市計画セクター(BMA、DPT)と交通セクター(OTP、SRT)に関連する

省庁が、副都心計画の中の交通計画を議論すべきである。

2.5 バンコク首都圏庁の都市交通プロジェクト

バンコク首都圏庁はバス高速輸送システム(Bus Rapid Transit: BRT)の導入を計画してい

る。計画中の2 路線の概要は以下の通り。

• 北線:Nawamin – Kaset – Mochit(19.4km、停留所 18 箇所)

• 南線:Chong Nontri – Chong Nonchi – Kurung Thep 橋(15.5km、停留所 15 箇所)

このシステムの輸送力は、3 分間隔の運行で 3,000~3,500passnger/direction/hr と見込まれ

ている。しかし、計画ルート上には渋滞の激しい区間が複数箇所あり、上記輸送力が現実

的なものか疑問がある。

図 2.2 の破線部分がBRT ネットワークの計画ルートである。

図 2.2 BRT 路線図

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3. 軽量、中量、重量交通システムの比較

3.1 システムの種類と技術的特徴

(1) 本調査で検討するシステム

本調査では、下記システムの特徴について比較を行う。

a) MRT(地下)

b) MRT(高架)

c) LRT(地上)

d) モノレール(跨座式)

e) モノレール(懸垂式)

f) AGT

g) バス(高架専用軌道)

h) バス(専用レーン)

(2) 都市輸送システムの特徴

上で示した各システムの輸送力と表定速度の関係は図 3.1 に示す通りである。それぞれの

システムが適用範囲を持っており、その範囲をはずれることは、非効率や導入効果の減殺

を意味する。また各システムの特徴をまとめると、表 3.1 の通りとなる。

図 3.1 都市交通システムの適用範囲

Scheduled SpeedScheduled Speed

Km/hKm/hUrban Railway

Tramcar

Bus

AGT

Monorail

Transit Capacity in thousand persons per hour per direction

Scheduled SpeedScheduled Speed

Km/hKm/hUrban Railway

Tramcar

Bus

AGT

Monorail

Transit Capacity in thousand persons per hour per direction

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表 3.1 都市交通システムの特徴

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3.2 輸送力及び最適路線延長

(1) 各システムの輸送力

対象システムの最大輸送力は下表の通りである。

表 3.2 システム輸送力の比較

システム 最大輸送力

(PHPDT) *1

算定方法

(A x B x C x 60/D) *2

a) MRT(地下) 20,250 ? 67,500 (3 to 10) x 150 x 150% x 60/2

= 20, 250 to 67,500

b) MRT(高架) 同上 同上

c) LRT 10,800 2 x 120 x 150% x 60/2 = 10.800

d) モノレール(跨座式) 27,000 6 x 100 x 150% x 60/2 = 27,000

e) モノレール(懸垂式) 18,000 4 x 100 x 150% x 60/2 = 18,000

f) AGT 10,800 ? 21,600 (3 to 6) x 80 x 150% x 60/2

= 10,800 to 21,600

g) バス(高架) 2,700 1 x 75 x 120% x 60/2 = 2,700

h) バス(専用レーン) 同上 同上

Note *1 PHPDT: ピーク時間ピーク方向交通量

*2 A: 編成両数, B: 車両定員(人/両), C: ピーク時混雑率, D: 運行間隔(分)

(2) 各システムの最適路線延長

最適路線延長を分析するに当たっては、以下の点に留意する必要がある。

a) 乗客の増加によって、最混雑区間において輸送力不足とならないこと

b) 交通渋滞等の影響で定時性が損なわれ、その結果ダイヤの大幅な乱れが生じないこと

都市中心部から、もしくは都心に向かう放射状路線の場合には、システムの輸送力が小さ

く、路線延長が長い場合、上記 a)の通り、都心部の最混雑区間で輸送力が不足する可能

性がある。このため、輸送力の小さいシステムは、放射状路線の場合、最適路線延長が制

限される可能性がある。一方、環状路線の場合は、最適路線延長の制限はない。また、平

面走行の場合は、専用レーンがあったとしても、運行では交通渋滞の影響を受けるので、

具体的に何 km が最適路線延長であるかとの判断は困難である。

表 3.3 は日本におけるMRT、モノレール、AGT の路線延長の分布を示したものである。こ

の表より輸送力の大きさに応じて路線延長が長くなっていることが分かる。

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表 3.3 検討対象システムにおける路線延長の分布(LRT、バスを除く)

システム 最大路線延長

(km)

最小路線延長

(km)

平均路線延長

(km)

a), b) MRT (地下/高架) (実質的に路線延長の制限はない)

d), e) モノレール *1

(跨座式/懸垂式)

23.8

(大阪)

6.6

(湘南)

14.4

f) AGT *2 12.6

(大宮)

4.1

(山万)

9.3

Note

:*1 東京、多摩、千 葉、湘南、大阪、北九州、沖縄の7 社

:*2 埼玉、山万、ゆりかもめ、横浜、桃花台、大阪、神戸(2 路線)、広島の8 社(9 路線)

なお、モノレール、AGT とも複数の路線で延伸計画がある。

3.3 プロジェクトコスト – 土木、車両、制御システム

表 3.4 は、検討対象システムの概算建設コストを整理したものである。本調査では、中程度

の輸送量を想定しているが、輸送力を適正化するなかでコストを最小に抑えることが重要と

いえる。

表 3.4 建設概算コスト

項目

システム

コスト

(百万 US$) 概略評価

a) MRT(地下) 180-240 最大

b) MRT(高架) 80-120 大~中

c) LRT 15-25 小

d) モノレール(跨座式) 60-100 大~中

e) モノレール(懸垂式) 80-120 大~中

f) AGT 60-90 中

g) バス(高架) 40 中~小

h) バス(専用レーン) 2-5 最小

Note

本表は内外の実績に基づき概略的に設定したものであり、詳細な積算等

に基づくものではない。

土木、建築、電気、車両等全ての工種を含む合計値。

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3.4 運行・維持管理費 – 電力消費、労務費(運転手、駅員)、メンテナンス費(軌道、

駅、車両、制御システム)

表 3.5 は、検討対象システム(バスを除く)の日本における運営費原単位の実績を整理した

ものである。原単位は下記3点に関して整理した。

• 営業キロ当たり

• 車両キロ当たり

• 輸送人キロ当たり

上記 3 点それぞれで、原単位の大きい順に並べると以下の通りになる。(「>>」は大きな差

があることを示す。)

• 営業キロ当たり:地下鉄 >> 高架鉄道 > 跨座式モノレール > AGT > 懸垂式モノ

レール > LRT

• 車両キロ当たり:地下鉄 > 懸垂式モノレール > 跨座式モノレール > 高架鉄道 >

LRT > AGT

• 輸送人キロ当たり:懸垂式モノレール > AGT > LRT > 跨座式モノレール > 地下鉄

> 高架鉄道

営業キロ当たりでは、輸送力の大きいシステムほど固定費が大きくなっていることが分かる。

特に地下鉄の運営コストは群を抜いて大きい。

車両キロ当たり、輸送人キロ当たりでは、作業量や利用状況が反映されているため、並び

順だけでは判断できないものの、輸送人キロ当たりで見た場合に地下鉄や高架鉄道の順

位が低いことから見て、輸送状況に見合った効率化がなされていると想定される。

表 3.5 システム別運営費原単位比較(バスを除く) a) MRT(地下)

b) MRT(高架)

c) LRTd) Monorail

(跨座式)e) Monorail

(懸垂式)f) AGT

要員数 48.3 18.8 17.2 13.3 13.3 11.8人件費 612,503 200,749 110,590 100,684 92,763 84,547

経費 439,814 177,285 35,362 128,251 55,046 97,522合計 1,052,317 378,034 145,952 228,935 147,809 182,069要員数 0.0347 0.0211 0.0467 0.0536 0.0603 0.0231

人件費 440.2 224.4 300.4 257.9 414.5 152.5経費 316.1 198.2 96.1 294.1 259.7 161.2

合計 756.3 422.6 396.5 552.0 674.2 313.7

消費電力量 2.045 2.443 1.625 2.587 3.251 1.652要員数 0.000541 0.000362 0.002893 0.001888 0.002799 0.002545

人件費 6.86 3.86 18.62 8.97 19.43 15.86経費 4.93 3.41 5.96 10.14 11.81 14.80合計 11.79 7.27 24.58 19.11 31.24 30.66

Note:1. 平成15年度鉄道統計年報実績2. 地下鉄:営団(現東京メトロ)、高架鉄道:首都圏大手8社平均、LRT:広電、跨座式モノレール:羽田、多摩、大阪、北九州、沖縄平均 懸垂式モノレール:千葉、湘南平均、AGT:ゆりかもめ、横浜、桃花台、神戸新交通、広島平均3. 参考:乗合バス車両キロ当たり原単位(平成16年度国土交通省資料) 人件費:275.9円/km、経費:157.1円/km、合計:433.0円/km

項目/システム

営業キロ当たり原単位

車両キロ当たり原単位

輸送人キロ当たり原単位

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3-6

3.5 システム選定基準

(1) 評価基準

システム選定基準を重要度の順に並べると、以下の通りとなる。

a) 想定輸送量と輸送力のバランス

• 導入を想定する路線の輸送量に対し、輸送力が不足、過剰となっていないか。

b) 建設・運営コスト

• 適正な輸送力を供給できるシステムの中で最小か

c) 安全性・信頼性

• 災害や異常時における安全性は問題ないか

• 定時性の信頼性は高いか

• 十分な導入実績があるか

d) 利便性

• 利用者の利便性(運行間隔、駅へのアクセス)はどうか

• 既存システムとの接続利便性(直通運転の可能性等)はどうか

e) 施工性

• 導入空間の大きさは適切か

• ルート選定の自由度はどうか

• 施行時に現地の資材や労働力を十分活用できるか

f) 環境への影響

• 大気汚染、騒音、振動、日照、景観

g) 他の交通への影響

• 施工時や完成時に、他の交通に及ぼす影響はどうか

(2) 一次選定

4.1 及び 4.2 にて詳述するが、本調査では導入ルートとしてオレンジラインとイエローライン

を選定した。両線のピーク時最大断面輸送量は以下の通りである。

• オレンジライン:27,000 人/時・一方向(2021 年)

• イエローライン:22,000 人/時・一方向(2021 年)

全 8 システムの一次選定結果は表 3.6 の通りである。

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3-7

表 3.6 一次選定結果

Item

System

① 需 要

バランス

②建設・

運営コスト

③ 安 全

性・信頼

④ 利 便

⑤ 施 工

⑥ 環 境

へ の 影

⑦ 他 交

通 へ の

影響

一 次 選

定結果

①MRT

(地下)

△ やや

過剰

× コスト

最大

○ ○ △ 線形

条件

○ ○

×

②MRT

(高架)

△ やや

過剰

△ 中間的

○ ○ △ 線形

条件

△ 構造物

やや大

③LRT × 決定的

不足

○ △ 定時性

やや難

○ ○ ○ △ 道路

走行

×

モノレール

(跨座式)

△ 中間的

○ ○ ○ ○ ○

モノレール

(懸垂式)

× 不足

△ 中間的

△ 実績少

○ △ 全金属

構造

△ 構造物

やや大

×

⑥AGT × 不足

△ 中間的

○ ○ ○ △ 構造物

やや大

×

⑦バス

(高架)

× 決定的

不足

○ ○ △ 速度低

○ △ 大気汚染

あり

×

⑧バス

(BRT)

× 決定的

不足

○ △ 定時性

やや難

△ 速度低

○ △ 大気汚染

あり

△ 道路

走行

×

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4-1

4. バンコク中量交通システムの評価

4.1 路線選定

ルート選定は、システム一次選定の結果と既存計画の現状をもとに行った。

レッド、ブルー、グリーンラインは、全て既存線の延伸計画であるため、高架 MRT やモノレ

ールとの接続に困難が生じる。

パープルラインは、新線建設で、モノレールには適さない程の需要が見込まれている。ま

た、一部区間では道路が狭く、高架は適さない。

ピンクラインは郊外の環状線で、モノレールでも適応可能だが、優先順位が低いため、ここ

では取り上げない。

オレンジラインも新線建設である。都心を通過する区間は地下鉄として計画されており、コ

ストが高い。したがって、建設コストが安く、需要も満たせるモノレールが適している。

イエローラインは環状線である。オレンジラインより需要は小さいが、幅員が十分にある道

路上に計画されているため、モノレールが適している。

以上より、本調査では、オレンジラインとイエローラインを対象路線とする。

図 4.1 都市鉄道ネットワーク

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4.2 路線選定のための需要予測

オレンジラインに関しては最新の需要予測がなく、イエローラインには需要予測が全くない

ため、調査団は、Bangkok Mass Transit Implementation Plan1の需要予測をベースに、両

路線の将来需要を検討した。この計画にはオレンジラインの 1 日当たりの乗客数予測は含

まれているが、イエローラインの情報は含まれていない。

調査団はオレンジラインの予測データをもとに、イエローラインの需要予測を導き出した。

その方法は、オレンジライン沿線の人口予測からトリップレートを算出し、そのレートをイエ

ローライン沿線の人口予測に適用した。需要予測の結果は表4.1の通りである。また、利用

客数の予測を表 4.2、最大路線容量を表 4.3 に示す。

表 4.1 オレンジライン、イエローライン需要予測

人口/1 日あたり乗客数予測 路線 サービス提供エリア 2000

(実数) 2010 2020 2021

AARG % 2010-2021

オレンシ ゙ Talingchan 161,090 237,730 312,366 321,012 2.8% Bangkok Noi 190,015 196,551 198,334 198,513 0.1% Pranakhon 98,247 96,594 97,378 97,457 0.1% Payathai 228,669 236,572 238,761 238,981 0.1% Huaykwang 310,262 369,554 380,507 381,620 0.3% Bangkapi 376,602 462,433 624,813 643,903 3.1% Buengkum 294,672 473,293 639,434 658,965 3.1% Minburi 137,426 176,073 234,464 241,276 2.9%

合計 1,798,983 2,250,810 2,728,077 2,783,748 2.0% 1 日あたり乗客数 319,107 585,292 5.7% ピーク時ピーク方向トリップレート 0.14177 0.21025

イエロー Chatuchak 226,221 253,350 260,935 261,706 0.3% Lat Phrao 190,803 294,396 397,752 409,902 3.1% Bangkapi 376,602 462,433 624,813 643,903 3.1% Suan Luang 175,000 206,490 270,000 2.5% Prawet 336,174 488,891 660,519 680,695 3.1%

合計 1,304,800 1,705,560 1,944,019 2,266,206 2.6% 1 日あたり乗客数

(オレンジ線と同じトリップレートとして) 241,805 476,477 6.4% オレンジ線に対する%

(利用客率)

75.8% 81.4% Sources: 1. 人口予測: Conceptual Mass Rapid Transit Implementation Master Plan 1996、Urban Rail Transportation Master

Plan 2000. これらは 2020 年までの予測であるため、調整の上 2021 年の乗客予測とした。 2. オレンジライン利用客数予測 : Bangkok Mass Transit Implementation Plan (1st Stage), May 2004.

1 TEAM Consulting Engineering and Management Co., Ltd., for Office of Transport and Traffic Policy and Planning: Bangkok Mass

Transit Implementation Plan (1st Stage), May 2004

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表 4.2 利用客数予測(人) 年平均成長率 (%)

路線 2010 2021 2036 2010-2021

2021-2036

グリーンライン 東西 680,470 1,098,200 1,477,763 4.4% 2.0% グリーンライン 南北 606,023 1,193,590 1,606,967 6.4% 2.0% ブルーライン 環状線 934,479 1,834,264 6.3% ブルーライン Bangkae-Thaphra 112,662 220,922 6.3% ブルーライン 合計 1,047,141 2,055,186 2,765,759 6.3% 2.0% パープルライン 462,895 909,924 1,224,740 6.3% 2.0% オレンジライン 319,107 585,292 787,333 5.7% 2.0% レッドライン 南北 797,107 1,393,638 1,876,140 5.2% 2.0% レッドライン 東西 682,225 1,385,709 1,865,374 6.7% 2.0% イエローライン 241,105 476,477 640,889 6.4% 2.0% バンコク大量交通 合計 4,836,073 9,098,016 12,244,965 5.9% 2.0% Source: 調査団作成

表 4.3 最大路線容量 オレンジライン イエローライン

2010 2021 2010 2021

最大路線容量/1方向/日 (no.pax) 88,000 181,000 67,000 147,000

最大路線容量/1方向/ピーク時 (no.pax) 9,000 18,000 7,000 15,000

Source: オレンジラインは”Bangkok Mass Transit Implementation Plan (1st Stage), May 2004”より算出。イエローラインは、両線の将来の 1日あたり乗客数の割合より算出。

4.3 路線ごとのシステム選定

4.3.1 システム選定の考え方

第 3 章において 8 種のシステムを比較評価し、一次選定結果として下記の2 種システムを

選定した。

• MRT(高架)

• モノレール(跨座式)

ここでは、上記 2 種のシステムについて、具体的なコスト評価や導入空間の可能性等を現

地事情に即して比較し、最終選定を行うものとする。

4.3.2 最終選定のための要因検討

(1) 選定ルートの概略構造

a) オレンジライン

オレンジラインは、バンコク都心部を貫通し、ほぼ東西にタイ国鉄(SRT)の Bang Bamru 駅

から Bang Kapi 地区までを結ぶ路線である。延長は約 22km で、そのうち王宮付近の約

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2km は地下構造となる。また、終点のBang Kapi 付近の Ramkhamhaeng 通りは高架道路

の区間が続くため、モノレールでは橋脚を細くできるという特性を活かし、同通りに並行す

る約 5km の区間を運河(Khlong Saen Sab)上に計画した。

b) イエローライン

イエローラインは、バンコク都心部の東側を半環状に結ぶ約 29km のルートであり、

Srinakarin 通り~Lat Phrao 通りと比較的幅員の広い道路上空を活用するルートである。

Bang Kapi 地区においてオレンジラインと交差する付近は、密集市街地で、高架道路区間

もあるが、それ以外はオレンジラインと比べるとルート上の問題箇所は少ない。路線図を図

4.2、両線の概略平面図を図 4.3、4.4 に示す。

図 4.2 オレンジライン、イエローライン路線図

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図 4.3 オレンジライン概略平面図

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図 4.4 イエローライン概略平面図

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(2) コスト評価

コスト評価の内容は 4.5.1 に詳述するが、その結果は以下の通りである。

表 4.4 資本コスト比較

MRT

(百万タイバーツ)

モノレール

(百万タイバーツ)

オレンジライン 50,598 49,532

イエローライン 58,491 54,675

表 4.5 O&M コスト比較

MRT

(百万タイバーツ)

モノレール

(百万タイバーツ)

オレンジライン 53.32 48.99

イエローライン 44.66 33.12

a) 資本コスト

表 4.4 に示すとおり、2 種のシステムの間で大きな差はないが、いずれもモノレールのほう

が安くなっている。路線で見ると、オレンジラインの方がシステム間のコスト差が小さくなっ

ている。これは、モノレール車両の1両当たりの輸送力がMRT よりも小さいため、必要車両

数がおおくなること、王宮付近に約 2km の地下区間があることによる。(モノレールは、地

下区間ではトンネル断面が MRT より大きくなる。)

イエローラインには、地下区間が無いため、コスト面ではモノレールがより優位になってい

る。

b) O&M コスト

資本コスト比較の場合より、モノレールの優位性がより高くなっている。これは、モノレール

の構造物がシンプルなため保守費が少なくてすむこと、消費電力も少なく、ホームドア等の

安全対策を講じることでワンマン運転等省力化が可能で要員数の削減が可能なことによ

る。

(3) 経済評価

経済評価の内容は 4.5.2 で詳述するが、システムごとの EIRR(経済的内部収益率:

economic internal rate of return)は以下の通りである。

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表 4.6 EIRR 比較

MRT モノレール

オレンジライン 16.9% 17.6%

イエローライン 12.7% 14.1%

一般に、タイにおける同種プロジェクトの長期資本調達コストは 12%程度なので、ここでは

EIRR の判断基準として 12%を使う。両システムの EIRRはどのケースの場合も12%を上回

っているが、オレンジライン、イエローラインともモノレールの EIRR の方が高くなっている。

以上より、経済評価においてはモノレールが優位となる。

(4) 構造物の特徴と差異

図 4.5は MRT、モノレールの構造物の特徴・差異のイメージ図を高架構造、地下構造物そ

れぞれについて示す。

モノレール構造物の最大の特徴は、高架化した場合に MRT がスラブ構造となるのに対し、

モノレールはビーム構造で上部・下部構造物ともにスリムになることである。これにより、導

入空間の縮小化、平面・縦断線形の自由度の向上を図ることができ、構造物の建設コスト

にも反映される。

また、図に示すとおり、日照、景観、大気汚染等の環境面においてもモノレールのほうが優

れている。

ただし、モノレールは建築限界高さが MRT よりも大きいため、地下構造とした場合にトンネ

ル断面が大きくなり、建設コストが高くなってしまう欠点がある。

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MRT モノレール

高架

地下

図 4.5 MRT とモノレールの構造物の差異

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(5) 緊急時の避難等への対応

車両火災等緊急時の乗客の避難に関しては、MRT ではドアを開けて車両外に脱出し、軌

道上を歩いて避難することが可能であるが、モノレールはビーム構造のため車両外に自由

に出て避難することはできない。日本では以下の対策を採用している。(図 4.6 参照)

• 貫通車両とし、他の車両に移動できるようにしている

• 車両扉から地上に降りるロープ設置器具を設けている

• 救援車両を横付けし、扉から救援車両に移動させる

• 車両を不燃構造にしている

Figure 4.6 Evacuation Plan of Monorail in Emergencies in Japan

図 4.6 緊急時の避難方法(日本の例)

対向軌道を利用した列車間の避難

: 乗客避難フロー

: 貫通扉、横扉

救援車両

事故車両

車両から地上への避難

降下ロープ

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また、海外のモノレールでは、桁の横や上下線の間にスペースを設け、避難用通路を設

置している例がある。(図 4.7 参照)避難用通路を設けた場合、導入空間の幅が避難用通

路の分だけ拡がってしまう欠点があるが、その場合においても、前述のモノレールのコスト

面や環境上の優位性が大きく損なわれるものではない。

(上下線それぞれに設けられた避難用通路)

(上下線間に避難用通路があり導入空間が広くなっている)

図 4.7 避難用通路を設けた例(ラスベガスモノレール)

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4.3.3 システム最終選定

以上の検討結果より、以下の 3 点を理由として、モノレールを最終選定する。

• コスト評価、経済評価においてモノレールが優位である

• 高架構造を基本とした場合、構造物がスリムで導入空間や線形の自由度、環境への

影響面でモノレールが優位である

• モノレールは緊急時の避難にも対応可能である。

4.4 施工及びスケジュール

4.4.1 モノレール施工時の特徴

モノレール軌道桁は架設が容易であり、工期の短縮も可能であるため、周辺環境に与える

影響を最小限にとどめることができる。また、交通への阻害は、以下の点で最小化できる。

• 橋脚の導入空間の削減

• 施工地点から離れた場所での橋脚、梁のプレキャスト化

• 夜間だけの橋脚、梁の搬入・据付

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4.4.2 モノレールの施工手順

図 4.8 に、モノレールの施工手順のイメージを示す。

図 4.8 モノレール施工手順

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4.4.3 モノレール開業までのスケジュール

オレンジライン、イエローラインの開業までのスケジュールは表 4.7 の通りで、2012 年に開

業すると想定した。

表 4.7 モノレール開業までの概略スケジュール

動き 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012

FS 準備

ローン手続き

概略設計及び入札

入札評価及びネゴ

詳細設計

建設

試運転

4.5 経済評価

オレンジライン、イエローライン建設による経済便益は、同じ路線をMRT で建設した場合と

比べて評価した。評価の基準となる路線は、4.1 の通りである。オレンジラインは、当初の

地下構造から高架構造に変更した。2つのシステム間のコストは差があるが、同質の経済

便益を生むものと想定した。

4.5.1 プロジェクトコストの試算(資本コスト及び O&M コスト)

(1) 建設の想定規模と時期

プロジェクトの規模と建設・運営の費用は駅間距離に左右される。本調査では、駅間距離

を1kmとした。建設コスト試算のため、工期は2007年~2011 年の5年間とし、開業は2012

年とした。

(2) プロジェクトコスト

プロジェクトコストには以下を含む。

• 用地取得費

• 公共施設移設費

• 建設費

• 電気機器・機械設備費

• 車両取得費

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a) コスト試算の基準と基礎的前提

オレンジラインでは、用地取得費は、王室御料地からそれる区間と運河に沿っていない区

間で必要になる。一方、イエローラインでは、全線が中央分離帯に沿っているので、用地

取得費は発生しない。しかし、デポの建設用地の取得費は必要となる。本調査では、以下

の 2 つの理由より、イエローラインのデポ建設用地取得費を経済分析から除外する。

• イエローラインのデポに適した場所の土地補償費についての情報がない。

• 用地取得費を分析に含めても、2つのシステム間のコスト比較で差は出ないであろう。

理由は、MRT デポの1台当たりの必要面積はモノレールより大きいが、モノレールは

MRT より多くの車両を必要とするので、差は相殺されるからである。

MRT の建設コストには、高架構造物、駅舎及び軌道の費用が含まれ、モノレールの場合

は、高架軌道桁と駅舎の費用が含まれる。モノレールの建設単価は沖縄モノレールの実

際の建設単価をベースに、タイの安価な労務費と資材費を反映させ、調査時点の為替レ

ートでタイバーツに換算した。また、モノレールの単価は、MRT の建設単価算定の基準と

しても使用した。構造物の場合、MRT は重い構造物を必要とするため、モノレールの単価

より40%高いと想定した。一方、モノレールのトンネル断面はMRT より大きいため、MRT の

トンネルコストはモノレールより20%低いと想定した。駅舎の建設コストには、エスカレータ

ーやエレベーター等の電気機器・機械設備を含むが、自動改札システムは含まれない。

MRT の高架駅のコストは、モノレールより20%高いと想定したが、MRT 地下駅のコスト10%

低いと想定した。

電気機器・機械設備費は、配電システム、信号・制御システム及び自動改札システムの費

用を含む。MRT の電気機器・機械設備費は「バンコク大量交通実施計画」の単価に基づ

いているが、幾分モノレールの単価より低い。(モノレールの3 億 63 百万タイバーツ/km に

対し、2 億 8 千万タイバーツ/km)

車両取得費は、モノレール、MRT とも、ピーク時の乗客をさばけるだけの車両数が必要と

して算定した。混雑率は、1 両当たり1㎡に7人とした。この混雑率より、MRT の最大旅客輸

送力は約 350 人、モノレールでは 200 人と算出した。しかし、モノレールの車両 1 台あたり

の取得費用は MRT のそれよりも、若干低い。(モノレール:54 百万タイバーツ、MTR:57

百万タイバーツ)必要量数の算定に当たっては、必要量数の 10%を予備車両とし、耐用年

数は 15 年とした。予測期間の最終年(2041 年)における必要車両数は以下の通りである。

MRT 131 輌 オレンジライン

モノレール 231 輌

MRT 137 輌 イエローライン

モノレール 248 輌

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b) 潜在価格の想定

潜在価格は Bangkok Mass Transit Implementation Plan2に基づき、以下の通りとした。

• 設計・施工監理費: 0.92

• 建設及び電気機器・機械設備費: 0.88

• 車両取得費: 0.84

• 運営・維持管理費: 0.92

c) プロジェクトコスト試算

オレンジラインのMRT、モノレールのプロジェクトコストをそれぞれ表4.8及び 4.9、イエロー

ラインの MRT、モノレールのプロジェクトコストをそれぞれ表4.10 及び 4.11 に示す。

オレンジラインでは両システム間のコストの差は大きくない。その理由は、主にモノレール

の車両取得費が大きいことと、地下区間が2.2km あることによる。

イエローラインでは、モノレールのコストが低いことが顕著に現れている。

2 TEAM Consulting Engineering and Management Co., Ltd., for Office of Transport and Traffic Policy and Planning:

Bangkok Mass Transit Implementation Plan (1st Stage), May 2004, Chapter 7, Section 7.2.

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表 4.8 オレンジライン: MRT の場合のプロジェクトコスト

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表 4.9 オレンジライン: モノレールの場合のプロジェクトコスト

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表 4.10 イエローライン: MRT の場合のプロジェクトコスト

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表 4.11 イエローライン: モノレールの場合のプロジェクトコスト

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(3) 運行・維持管理コスト

a) 運行の想定

1 日の運行時間は 19 時間とし、そのうち 6 時間がピーク時、13 時間がオフピーク時と想定

する。 ピーク時の運転間隔は 3~4分間隔とし、オフピーク時には 6~8 分間隔の運行とする。

MRT の車両編成は、当初は3輌で、その後11年の間に6輌にまで増えていくものとする。

一方、モノレールでは、オレンジラインは予測期間を通して 6 輌編成とし、イエローラインは

4 輌でスタートし、その後11 年の間に6 輌編成にする。要員計画では、MRT は 2 名(運転

手と車掌)での運行とし、モノレールは運転手 1 名での運行とする。

b) 運行・維持管理コスト原単位

MRT、モノレールの運行・維持管理コストには大きな差がある。例えば、重量のある MRT

は車両-キロ当たり7.5Kwh の電力を消費するが、比較的軽いモノレールは 2.7Kwh であ

る。さらに、モノレールの車両とインフラのメンテナンスコストは、それぞれ車両-キロ、路線

-キロもしくは駅ごとの比率で計算するが、MRT では、プロジェクトコストに対する比率で

算定する。したがって、MRT のメンテコストは高くなる。

c) 運行・維持管理費用の算定

表 4.12 及び 4.13 にモノレールの運行・維持管理費を示す。

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表 4.12 オレンジライン:モノレールの O&M コスト

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表 4.13 イエローライン:モノレールの O&M コスト

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4.5.2 経済便益の算定

路線ごと、システムごとの経済便益を表 4.14 に示す。

表 4.14 オレンジライン、イエローライン経済便益の算定

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4.5.3 経済便益の分析

経済便益の分析結果は下記の3つの指標で表した。

• 経済的純現在価値(Economic Net Present Value: ENPV)

• 経済的内部収益率(Economic Internal Rate of Return: EIRR)

• 費用便益比率(Benefit/Cost Ratio : BCR)

ENPV とBCR の算出に際しての割引率は、長期資本コストの 12%とした。

(1) オレンジラインの純経済便益

オレンジラインでは、MRT とモノレールの経済便益に大きな差は見られなかった(MRT の

EIRRは16.91%、モノレールは17.56%)。この理由は、1つには、プロジェクトコストにほとん

ど差が無かったこと、もう1つは、同程度の経済便益を生み出したからである。しかしながら、

両システムとも、長期資本コストを上回る収益率を出した。

(2) イエローラインの純経済便益

イエローラインの EIRR は、オレンジラインのそれよりもいくぶん低い数字となった(MRT:

12.50%、モノレール:13.97%)。これは、オレンジラインと比べて、利用客数が少なく、路線

延長が長いためにプロジェクトコストが高くなったことが原因である。モノレールの数字が

MRT よりよかったのは、プロジェクトコストと運行費が低かったことによる。

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表 4.15 オレンジライン:経済評価(MRT のケース)

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表 4.16 オレンジライン:経済評価(モノレールのケース)

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表 4.17 イエローライン:経済評価(MRT のケース)

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表 4.18 イエローライン:経済評価(モノレールのケース)

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4.6 料金設定

バンコクの大量交通システムの料金レベルは、利用者予測に基づく料金と、運輸省交通

政策局(OTP)が定めた料金の漸増に関するガイドラインに制約されている。

バンコク大量交通実施計画の予測に基づく料金構成としては、初乗り料金10バーツと1キ

ロあたり1.8 バーツからなっている。これをオレンジラインの平均利用距離に当てはめると、

24 バーツ程になる。

OTP は料金を5 年ごとに引き上げることを決定した。2010 年に 5%引き上げ、それ以降 5

年ごとに 10%ずつ引き上げるものとした。これに基づいて毎年平均 1~2%ずつ引き上げて

いくということになるが、この数値は年 3%というインフレ率の見込みよりも低く、実質的な料

金収入が毎年 1~2%ずつ目減りしていくことになると、バンコク大量交通実施計画では注記

されている。さらに、O&M コストもインフレ率に従って上昇していくので、営業利益率は減

少していくことになり、持続的な経営、営業を脅かすことになりかねない。実施計画では、

財務的健全性を維持するため、毎年インフレ率に従って料金を引き上げるべきだと提案し

ている。

4.7 資金調達

4.7.1 料金収入

料金収入は、平均料金に日々の乗客数を乗じることで算出される。収入源として、料金は

上述の通り政府の規制下にあるという点で不利であり、政府が課す料金引き上げルールの

もと、インフレ率と足並みをそろえていくことはありそうにない。

4.7.2 税収からの支出

実施計画では、バンコク大量交通プロジェクトに政府予算から支出できたとして、6 年間で

最大 1,200~1,750 億バーツ(年 200~470 億バーツ)であると予測している。同計画では、ま

た、現在の価格で今後6年間の総投資額は 5,217億バーツにものぼり、政府予算から支出

できるのは総投資額の 23~34%に過ぎないとしている。しかし、それでも、教育、公衆衛生

など他のセクターと比べると、大量交通プロジェクトは、政府予算のかなりの部分を占める

ことになる。

4.7.3 大量交通整備計画

大量交通整備基金(The Mass Transit Development Fund: MTDF)はまだ導入されていな

いが、道路ユーザーへの 課税、課徴金による資金調達を含んでいる。特に、Bangkok

Mass Transit Implementation Plan では、次の施策を行うとされている。

• ベンゼン1 リットルあたり1 バーツの物品税を追加課税

• ディーゼルガソリン1 リットルあたり0.75 バーツの物品税を追加課税

• 新車登録手数料を1 台あたり10,000 バーツに引き上げ

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• 更新手数料を50%引き上げ

実施計画では、上記施策により最初の6 年間で 1,429 億バーツ(総投資額 5,217 億バーツ

の 27%)調達できると見込んでいる。

MTDF の利点は、大量交通システムの潜在的ユーザーが、道路使用に係る税金や課貯

金を支払うことで、資金調達に貢献することである。一方、不便な点としては、燃料費の高

騰時には、更なる負担に強いることになるので、民衆の強い抵抗にあう可能性があることで

ある。

4.7.4 信託投資

このオプションは、大量交通機関整備のために政府が 10 年の資本額固定式の投資信託

を設立することである。既に他の公的セクターで導入されているワユパックファンド

(Vayupak Fund)に似た資金調達方法である。

この方法では、マスタープランに定められた大量交通機関整備の第一段階で、一般から

投資を募る。償還期間でも資金が必要な場合は、政府は新たな投資信託を設立する。こ

の仕組みでは、年 4%以上の配当金が支払われ、営業利益が十分でないときは、政府が

配当金の支払いを保証する。

ワユパックファンドと違って、この投資信託は大量交通システムのプロジェクトだけに投資を

し、リターンは投資したプロジェクトだけによるものであり、それゆえにリスクは高い。

Bangkok Mass Transit Implementation Planでは、この方式では 180 億バーツしか調達でき

ないと算定している。

4.7.5 国庫借入金

大量交通機関の整備には巨額の資金が必要であるため、国庫借入金でプロジェクトコスト

を調達すると、政府の借入金は借入れ可能な額の上限近くにまでなり、政府はその後のプ

ロジェクトは借入金なしで進めていく決断をしなければならい。こうなると、国債の発行や長

期借入金、さらには、JBIC ローンのような低利の融資も、利用できなくなる。

4.8 経営

現在まで、バンコクの大量交通ネットワークは、下記 2 社によって整備され、運営されてき

た。

• Bangkok Transit System Public company Limited (BTSC):バンコクのスカイトレイン

(グリーンライン)を建設、運営

• Bangkok Metro Company Limited (BMCL):地下鉄(ブルーライン)を運営

現政権は、大量輸送ネットワークを単一のチケットシステムで整備し、経営と運行を単一の

経営組織にまとめる意向を有している。Bangkok Mass Transit Implementation Plan では、

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次のような将来案を取り上げている。

a) システムオペレーターとして MRTA がネットワークを運営する、あるいは新たな国営企業が

運営する。例としては、東京、大阪、パリ、ニューヨーク。

b) 100%政府保有の企業を設立し、ネットワークを運営する。例としては、シンガポール、香港、

ソウル、ロンドン、トロント。

c) 民間投資家に運営権を譲渡し、MRTA が運営を監督する。

上記 2 案では、政府がインフラや車両に必要な投資を100%実施し、営業利益の30%を法

人税として徴収する。C)案では、政府がインフラの投資を行い、投資家が車両への投資を

行う。そして、政府は、システムレンタル料として収入を得る。

政府は、バンコクの統合された大量交通運営のための事業体について、形態、構造、機

能など、まだ決定を下していない。

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5-1

5. 結論と提案

5.1 オレンジライン

一次選定の結果、LRT、懸垂式モノレール、AGT、バス(高架専用軌道)及びバス(専用レ

ーン)が容量不足で不適合となった。また、MRT(地下)も建設費が非常に高いため、不適

合となった。従って、MRT(高架)及び跨座式モノレールがオレンジラインに適したシステム

と判断した。(しかし、タイ政府は依然としてオレンジラインに地下鉄 MRT を建設する考え

を捨てていない。)

需要予測によると、2021 年のオレンジラインのピーク時間ピーク方向交通量は 27,000 人と、

モノレールよりも MRT が適しているといえる。しかし、路線が計画されている道路の上空は

狭いため、高架の MRT を建設するのは非常に困難である。地下式のMRT を選択した場

合は、高架と比べて建設コストが非常に高くなる。また、跨座式モノレールを採用した場合

は、軽い構造体と線路設計の柔軟性から、他のシステムと比べて最も建設費は安くなる。

特に、運河上にモノレールを建設すると、建設費の低減だけでなく、道路交通への影響も

最小にできる。

最新の情報によると、タイ政府は、2 月 15 日からブルーラインの延伸、パープルライン新設

及びオレンジラインの新設を含む地下鉄方式での入札準備を開始した。入札の詳細はア

明らかになっていないが、日本、カナダ、マレーシアといった世界のモノレールメーカーが

ショートリストされているため、モノレール方式も建設方式の対象となっていると思われる。

バンコクで最初のモノレールが具体化する可能性がある。

5.2 イエローライン

イエローラインの線形は半環状で、Lat Phtao Road、Srinakan Road及びThepharak Roadを

つないでいる。円形の線形であるがゆえ、ピーク時でも能力超過状態になることはほとんど

ない。

需要予測によると、2021 年のイエローラインのピーク時間ピーク方向交通量は 22,000 人と、

MRT にはいくぶん小さい数字であるが、跨座式モノレールには最適である。従って、イエ

ローラインには跨座式モノレールを選定した。

イエローライン建設の優先度は高くない。ブルーライン、パープルライン、オレンジラインが

終わってからとの位置づけである。中量交通システムが上記 3 路線のどれかで採択された

場合は、容量、建設コスト、美観の点から、イエローラインでも同じシステムを採用するのが

よい。また中量交通システムが採用されなかった場合は、バンコクにそのシステムを導入す

る戦略的なアプローチが必要になる。

多くの国で説明されているが、一つの都市で、単一の MRT システムを導入すると、メンテ

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5-2

ナンス施設や機器を共有できるため、最も経済的である。これは、都市の規模が比較的小

さい場合にはあてはまる。しかし、東京やバンコクといった大都市では、必要な輸送力、用

地、環境への影響など路線ごとに条件が異なるため、あてはまらない。また、旅客の需要

が小さい場合には、MRT は過剰なシステムとなる。

ブルーラインの運行、維持管理経験より、バンコク地下鉄公社は単一のシステムのデメリッ

トを理解し、複数のシステムを模索している。しかし、ここ10 年余りにバンコクの MRT 計画

について数多くの調査がなされてきたが、MRT 以外のシステムは提案されていない。

最近、バンコク首都圏庁(BMA)は BRT システムをいくつかの地域で導入する計画を進め

ている。これは、MRT 以外の最初のシステムである。しかし、政治的な動向とBRT システム

の限られた輸送力が理由で、BRT が導入されるかどうかは明らかでない。

日本のタイ向けODAが再開されると、バンコクで中量交通システムを推進するためにJBIC

のプロジェクト形成スキームを利用するもの 1 つの手段である。

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添付資料

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Appendix A: オレンジライン、イエローライン完成予想図

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Appendix A-1

オレンジライン

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Appendix A-2

イエローライン

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Appendix B: オレンジライン計画路線現状写真

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オレンジライン計画路線

Appendix B

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Appendix C: イエローライン計画路線現状写真

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イエローライン計画路線

Appendix C