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001 CA1071HR1Y1BZ- 今回は酸と塩基について学習します.酸や塩基は私たちの身近にもあります. たとえば,食酢には酢酸という酸が,レモンやみかんにはクエン酸という酸が 含まれていて,すっぱい味がするのです.また,水酸化カルシウム(消石灰) という塩基は,こんにゃくの凝固剤として使われたり,運動場に白線を引くと きに使われたりしています. 酸と塩基の反応1 今回の学習項目 酸と塩基の反応1 酸と塩基 「酸・塩基」の定義 その1 「酸・塩基」の定義 その2 (広い意味の酸・塩基) 酸・塩基の価数 電離度と酸・塩基の強さ 水のイオン積 水素イオン指数(pHメインシリーズ 予習編見本 化学

今回の学習項目 方,水酸化ナトリウムNaOH,水酸化カリウムKOH,および水酸化カルシウムCa ^ hOH 2 は ... ② OH-を放出しない物質でも酸の働きを打ち消すもの(炭酸ナトリウムNa

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001CA1071HR1Y1BZ-

 今回は酸と塩基について学習します.酸や塩基は私たちの身近にもあります.たとえば,食酢には酢酸という酸が,レモンやみかんにはクエン酸という酸が含まれていて,すっぱい味がするのです.また,水酸化カルシウム(消石灰)という塩基は,こんにゃくの凝固剤として使われたり,運動場に白線を引くときに使われたりしています.

酸と塩基の反応1

今回の学習項目

酸と塩基の反応1

❶ 酸と塩基

❷ 「酸・塩基」の定義 その1

❸ 「酸・塩基」の定義 その2  (広い意味の酸・塩基)

❹ 酸・塩基の価数

❺ 電離度と酸・塩基の強さ

❻ 水のイオン積

❼ 水素イオン指数(pH)

  

メインシリーズ 予習編見本化学Ⅰ

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酸性って何? 塩えん

基き

性って何? 塩化水素 HCl,硫酸 H SO2 4,あるいは酢酸 CH COOH3 の水溶液には,青色リトマス紙を赤くし,すっぱい味がするなどの共通した性質がある.このような性質を酸性といい,酸性を示す物質は,古くから酸とよばれてきた. また,水酸化ナトリウム NaOH,水酸化カリウム KOH,あるいは水酸化カルシウム Ca OH 2^ h

の水溶液には,赤色リトマス紙を青くし,酸の性質を打ち消すなどの共通した性質がある.このような性質を塩基性(またはアルカリ性)といい,塩基性を示す物質は,古くから塩

えん

基き

とよばれてきた. なお,純水のように酸性も塩基性も示さないとき,この性質を中性という.

注意 1  塩化水素 HClの水溶液を塩酸という.注意 2  中学の理科では「アルカリ性」という言葉を使ったが,高校の化学では「塩基性」という言葉を主に使う.また,中学では水酸化ナトリウムなどのことを「アルカリ」とよんでいたが,高校の化学では「塩基」とよぶ.ただし,水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのように水に溶ける塩基を「アルカリ」とよぶこともある.

・「酸性」「塩基性」「中性」の意味を覚える

酸は電離して H+ を生じる物質,塩基は電離して OH- を生じる物質 古くから,酸性を示す物質は酸,塩基性を示す物質は塩基とよばれてきた.しかし,どのような物質が酸なのか,どのような物質が塩基なのかという酸・塩基の明確な定義は,1887年になって初めてスウェーデンの科学者アレーニウスによって提唱された.アレーニウスの定義は次のようなものである.

【酸・塩基の定義①】(アレーニウスの定義)  酸は,水溶液中で電離して,水素イオン H+ を生じる物質  塩基は,水溶液中で電離して,水酸化物イオン OH- を生じる物質

 たとえば,塩化水素 HCl,硫酸 H SO2 4,および酢酸 CH COOH3 は次のように電離して,水素イオン H+を生じるので酸である.

❶ 酸と塩基

酸性って何? 塩えん基き性って何?

酸は電離して を生じる物質,塩基は電離して を生じる物質

塩化水素HCl,硫酸HSO,あるいは酢酸CHCOOHの水溶液には,青色リトマス紙を赤く

し,すっぱい味がするなどの共通した性質がある.このような性質を酸性といい,酸性を示す物質

は,古くから酸とよばれてきた.

また,水酸化ナトリウムNaOH,水酸化カリウムKOH,あるいは水酸化カルシウムCaOH

の水溶液には,赤色リトマス紙を青くし,酸の性質を打ち消すなどの共通した性質がある.このよ

うな性質を塩基性(またはアルカリ性)といい,塩基性を示す物質は,古くから塩えん基きとよばれてきた.

なお,純水のように酸性も塩基性も示さないとき,この性質を中性という.

塩化水素HClの水溶液を塩酸という.

中学の理科では「アルカリ性」という言葉を使ったが,高校の化学では「塩基性」と

いう言葉を主に使う.また,中学では水酸化ナトリウムなどのことを「アルカリ」とよんで

いたが,高校の化学では「塩基」とよぶ.ただし,水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのよ

うに水に溶ける塩基を「アルカリ」とよぶこともある.

やっておくこと▷「酸性」「塩基性」「中性」の意味を覚える

古くから,酸性を示す物質は酸,塩基性を示す物質は塩基とよばれてきた.しかし,どのような

物質が酸なのか,どのような物質が塩基なのかという酸・塩基の明確な定義は,1887年になって初

めてスウェーデンの科学者アレーニウスによって提唱された.アレーニウスの定義は次のようなも

のである.

【酸・塩基の定義①】(アレーニウスの定義)

酸は,水溶液中で電離して,水素イオン を生じる物質

塩基は,水溶液中で電離して,水酸化物イオン を生じる物質

酸と塩基の反応① 7-1

① 酸と塩基

注意1

注意2

② 「酸・塩基」の定義 その1

KC 予習編

3

❷ 「酸・塩基」の定義 その1

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   ① HClの電離:     HCl H Cl$ ++ -

   ② H SO2 4 の電離:H SO2 4 は次のように 2段階で電離をする                H SO H HSO2 4 4$ ++ -

                       硫酸水素イオン

     1つの式で表すと HSO4- H SO42++ -

                        硫酸イオン

                H SO H SO22 4 42

$ ++ -

   ③ CH COOH3 の電離: CH COOH3 CH COO H3 +- +

酢酸

酢酸イオン

注意 1  上の反応式中で「 」は,「$」の向きの反応が起こるのと同時に「 $」の向きの反応(つまり,電離によって生じたイオンどうしが再び結びついて,もとの分子になる反応)が起こることを示している.このような場合,電離が完全には進まずに,左辺の物質の一部だけが電離している.たとえば,CH COOH3 は水に溶けて      CH COO HCH COOH 33 $ +- +

と電離するが,同時に逆向きの反応      CH COO HCH COOH 33 # +- +

も起こるため,水溶液中には,CH COO3-と H+以外に CH COOH3 も存在している.

注意 2  水素イオン H+は,実際には単独で水溶液中に存在しているのではなく,必ず水分子H O2 と結びついてオキソニウムイオン H O3 +の形で存在している.     H H O H O2 3$++ +

したがって,たとえば HClの電離をH O3 +を使って表すと,次のようになる.      H O ClHCl H O 32 $ ++ + -

ただし,普通は H O3 +は簡略化して H+と表すことが多い.

 一方,水酸化ナトリウム NaOH,水酸化カリウム KOH,および水酸化カルシウム Ca OH 2^ h は,水溶液中で次のように電離して水酸化物イオン OH-を生じるので塩基である.

     ① NaOHの電離:   NaOH Na OH$ ++ -

     ② KOHの電離: KOH K OH$ ++ -

カリウムイオン

     ③ Ca(OH)2の電離: Ca OH C OHa 222 $ ++ -

^ h

                       カルシウムイオン

 酸の水溶液が酸性を示すのは,電離によって生じる H+が原因である.また,塩基の水溶液が塩基性を示すのは,電離によって生じる OH-が原因である.

Z

[

\

]]

]]

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・アレーニウスの酸・塩基の定義を覚える・前ペ-ジに示した酸・塩基の電離を表す式を書けるようにする

酸は H+ を与える物質,塩基は H+ を受け取る物質 アレーニウスの定義は,たいへん明快であり,現在でも酸・塩基を理解するための基本になっている.しかし,アレーニウスの定義では,酸・塩基は水溶液中で H+・OH-を生じる物質であると定義しているため,  ① 水以外の溶媒中では適用できない.  ②  OH-を放出しない物質でも酸の働きを打ち消すもの(炭酸ナトリウム Na CO2 3 など)が存

在するが,これらの物質をアレーニウスの定義では塩基とすることができない.などの短所があった. そこで,1923年,デンマークの科学者ブレンステッドは,アレーニウスの定義を拡張して,新しい酸・塩基の定義を提唱した.ブレンステッドが着目したのは,酸が放出した H+はそのままで存在するのではなく,必ず H+を受け取る物質が存在して,H+はその物質と結びつくという点であった.たとえば      H O ClHCl H O 32 $ ++ + -

の反応では,HClが電離して放出した H+は,H O2 が受け取って H O3 +になっている. そこで,ブレンステッドは次のように酸と塩基を定義した.

注意 1  上の定義は「酸は H+を与える分子やイオン,塩基は H+を受け取る分子やイオン」と表現されることがある.

注意 2  水素イオンのことを陽よう

子し

またはプロトンということもある.

 たとえば,右の反応では HClは H+ を H O2 に与えているので酸である.そして,H O2 は H+ を受け取っているのでブレンステッドの定義では塩基になる.

酸は を与える物質,塩基は を受け取る物質

やっておくこと▷・アレーニウスの酸・塩基の定義を覚える・前ページに示した酸・塩基の電離を表す式を書けるようにする

アレーニウスの定義は,たいへん明快であり,現在でも酸・塩基を理解するための基本になって

いる.しかし,アレーニウスの定義では,酸・塩基は水溶液中でH ・OH を生じる物質であると

定義しているため,

① 水以外の溶媒中では適用できない.

② OH を放出しない物質でも酸の働きを打ち消すもの(炭酸ナトリウムNaCO など)が存

在するが,これらの物質をアレーニウスの定義では塩基とすることができない.

などの短所があった.

そこで,1923年,デンマークの科学者ブレンステッドは,アレーニウスの定義を拡張して,新し

い酸・塩基の定義を提唱した.ブレンステッドが着目したのは,酸が放出したH はそのままで存

在するのではなく,必ずH を受け取る物質が存在して,H はその物質と結びつくという点であ

った.たとえば

HCl+HO HO+Cl

の反応では,HClが電離して放出したH は,HOが受け取ってHO になっている.

そこで,ブレンステッドは次のように酸と塩基を定義した.

【酸・塩基の定義②】(ブレンステッドの定義)~拡張した定義~

酸は,水素イオン を与える物質

塩基は,水素イオン を受け取る物質

上の定義は「酸はH を与える分子やイオン,塩基はH を受け取る分子やイオン」

と表現されることがある.

水素イオンのことを陽よう子しまたはプロトンと

いうこともある.

たとえば,右の反応ではHClはH をHOに与えて

いるので酸である.そして,HOはH を受け取って

いるのでブレンステッドの定義では塩基になる.

③ 「酸・塩基」の定義 その2(広い意味の酸・塩基)

注意1

注意2

KC 予習編

5

❸ 「酸・塩基」の定義 その2(広い意味の酸・塩基)

【酸・塩基の定義②】(ブレンステッドの定義)~拡張した定義~  酸は,水素イオン H+ を与える物質  塩基は,水素イオン H+ を受け取る物質

酸は を与える物質,塩基は を受け取る物質

やっておくこと▷・アレーニウスの酸・塩基の定義を覚える・前ページに示した酸・塩基の電離を表す式を書けるようにする

アレーニウスの定義は,たいへん明快であり,現在でも酸・塩基を理解するための基本になって

いる.しかし,アレーニウスの定義では,酸・塩基は水溶液中でH ・OH を生じる物質であると

定義しているため,

① 水以外の溶媒中では適用できない.

② OH を放出しない物質でも酸の働きを打ち消すもの(炭酸ナトリウムNaCO など)が存

在するが,これらの物質をアレーニウスの定義では塩基とすることができない.

などの短所があった.

そこで,1923年,デンマークの科学者ブレンステッドは,アレーニウスの定義を拡張して,新し

い酸・塩基の定義を提唱した.ブレンステッドが着目したのは,酸が放出したH はそのままで存

在するのではなく,必ずH を受け取る物質が存在して,H はその物質と結びつくという点であ

った.たとえば

HCl+HO HO+Cl

の反応では,HClが電離して放出したH は,HOが受け取ってHO になっている.

そこで,ブレンステッドは次のように酸と塩基を定義した.

【酸・塩基の定義②】(ブレンステッドの定義)~拡張した定義~

酸は,水素イオン を与える物質

塩基は,水素イオン を受け取る物質

上の定義は「酸はH を与える分子やイオン,塩基はH を受け取る分子やイオン」

と表現されることがある.

水素イオンのことを陽よう子しまたはプロトンと

いうこともある.

たとえば,右の反応ではHClはH をHOに与えて

いるので酸である.そして,HOはH を受け取って

いるのでブレンステッドの定義では塩基になる.

③ 「酸・塩基」の定義 その2(広い意味の酸・塩基)

注意1

注意2

KC 予習編

5

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 また,右の反応式の「$」の向きの反応では,NH3 は H O2 から H+を受け取って NH4

+に変化しているので塩基であり,H O2 は H+ を与えて OH- に変化しているので酸である.同様に「#」の向きの反応では,NH4

+は OH- にH+を与えて NH3 に変化しているので酸であり,OH-は NH4

+ から H+ を受け取って H O2 に変化しているので塩基である.

 ブレンステッドの定義は,H+のやり取りだけで酸・塩基を定義するため,広い範囲の物質に適用でき,次のような特色がある.⑴ アレーニウスの定義による酸・塩基はすべてブレンステッドの定義でも酸・塩基になる.たとえば,HClは電離によって H+を放出するのでアレーニウスの定義による酸であるが,前頁で説明したようにブレンステッドの定義でも酸になる.⑵ H O2 や NH4

+のように,アレーニウスの定義では酸・塩基にならない物質もブレンステッドの定義では酸や塩基になる.また,酸を打ち消す働きをもつにもかかわらず,アレーニウスの定義では塩基にならなかった Na CO2 3もブレンステッドの定義では塩基になる.つまり,次の Na CO2 3 と HClの反応では     Na CO HCl NaHCO NaCl2 3 3$+ +

     (または,CO H HCO32

3$+- + -)Na CO2 3(または CO32-)は H+ を受け取って NaHCO3(または HCO3-)になっているので,Na CO2 3(または CO32-)は塩基である.⑶ 「HCl H O H O Cl2 3"+ ++ -」の反応では H O2 は H+を受け取っているので塩基であるが,「NH H O NH OH3 2 4E+ ++ -」の反応では H O2 は H+を与えているので酸である.このように,その反応で果たしている役割(H+を与えているか,H+を受け取っているか)によって,同じ物質であっても酸になったり,塩基になったりすることがある.⑷ ブレンステッドの定義は水溶液中以外でも適用できる.たとえば,塩化水素とアンモニアが空気中で出会うと,直ちに反応して塩化アンモニウム(NH Cl4 )になる.      NH ClHCl NH 43 $+

NH Cl4 は NH4+と Cl-が結びついてできている.つまり,上の反応で HClは H+を放出し

て Cl-になり,NH3 はその H+を受け取って NH4+になったのである.したがって,HCl

は酸,NH3 は塩基である.

また,右の反応式の「 」の向きの反応では,

NH はHOからH を受け取ってNH に変化

しているので塩基であり,HOはH を与えて

OH に変化しているので酸である.同様に

「 」の向きの反応では,NH はOH に

H を与えてNH に変化しているので酸であり,

OH はNH からH を受け取ってHOに変化

しているので塩基である.

ブレンステッドの定義は,H のやり取りだけで酸・塩基を定義するため,広い範囲の

物質に適用でき,次のような特色がある.

⑴ アレーニウスの定義による酸・塩基はすべてブレンステッドの定義でも酸・塩基になる.

たとえば,HClは電離によってH を放出するのでアレーニウスの定義による酸である

が,前頁で説明したようにブレンステッドの定義でも酸になる.

⑵ HOやNH のように,アレーニウスの定義では酸・塩基にならない物質もブレンステ

ッドの定義では酸や塩基になる.また,酸を打ち消す働きをもつにもかかわらず,アレー

ニウスの定義では塩基にならなかったNaCO もブレンステッドの定義では塩基になる.

つまり,次のNaCO とHClの反応では

NaCO+HCl NaHCO+NaCl

(または,CO +H HCO

NaCO(またはCO )はH を受け取ってNaHCO(またはHCO )になっているので,

NaCO(またはCO )は塩基である.

⑶ 「HCl+HO HO+Cl」の反応ではHOはH を受け取っているので塩基である

が,「NH+HO⇄ NH +OH 」の反応ではHOはH を与えているので酸である.

このように,その反応で果たしている役割(H を与えているか,H を受け取っている

か)によって,同じ物質であっても酸になったり,塩基になったりすることがある.

⑷ ブレンステッドの定義は水溶液中以外でも適用できる.たとえば,塩化水素とアンモニ

アが空気中で出会うと,直ちに反応して塩化アンモニウム(NHCl)になる.

HCl+NH NHCl

NHClはNH とClが結びついてできている.つまり,上の反応でHClはH を放出

してClになり,NH はそのH を受け取ってNH になったのである.したがって,

HClは酸,NH は塩基である.

参 考

KC 予習編

6

また,右の反応式の「 」の向きの反応では,

NH はHOからH を受け取ってNH に変化

しているので塩基であり,HOはH を与えて

OH に変化しているので酸である.同様に

「 」の向きの反応では,NH はOH に

H を与えてNH に変化しているので酸であり,

OH はNH からH を受け取ってHOに変化

しているので塩基である.

ブレンステッドの定義は,H のやり取りだけで酸・塩基を定義するため,広い範囲の

物質に適用でき,次のような特色がある.

⑴ アレーニウスの定義による酸・塩基はすべてブレンステッドの定義でも酸・塩基になる.

たとえば,HClは電離によってH を放出するのでアレーニウスの定義による酸である

が,前頁で説明したようにブレンステッドの定義でも酸になる.

⑵ HOやNH のように,アレーニウスの定義では酸・塩基にならない物質もブレンステ

ッドの定義では酸や塩基になる.また,酸を打ち消す働きをもつにもかかわらず,アレー

ニウスの定義では塩基にならなかったNaCO もブレンステッドの定義では塩基になる.

つまり,次のNaCO とHClの反応では

NaCO+HCl NaHCO+NaCl

(または,CO +H HCO

NaCO(またはCO )はH を受け取ってNaHCO(またはHCO )になっているので,

NaCO(またはCO )は塩基である.

⑶ 「HCl+HO HO+Cl」の反応ではHOはH を受け取っているので塩基である

が,「NH+HO⇄ NH +OH 」の反応ではHOはH を与えているので酸である.

このように,その反応で果たしている役割(H を与えているか,H を受け取っている

か)によって,同じ物質であっても酸になったり,塩基になったりすることがある.

⑷ ブレンステッドの定義は水溶液中以外でも適用できる.たとえば,塩化水素とアンモニ

アが空気中で出会うと,直ちに反応して塩化アンモニウム(NHCl)になる.

HCl+NH NHCl

NHClはNH とClが結びついてできている.つまり,上の反応でHClはH を放出

してClになり,NH はそのH を受け取ってNH になったのである.したがって,

HClは酸,NH は塩基である.

参 考

KC 予習編

6

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006CA1071HR1Y1BZ-

 HSO H O4 2+- H O SO3 42++ -の反応において,

⑴ 右向きの反応において,酸,塩基はそれぞれどれか.化学式で答えよ.⑵ 左向きの反応において,酸,塩基はそれぞれどれか.化学式で答えよ.

ブレンステッドの酸・塩基の定義

 ⑴ HSO4- は H+ を与えて SO4

2- になっているので酸である.また,H O2 はH+を受け取って H O3 +になっているので塩基である.

答 酸 HSO4-  塩基 H O2

⑵ H O3 +は H+を与えて H O2 になっているので酸である.また,SO42-は H+を受け取っ

て HSO4-になっているので塩基である.

答 酸 H O3 +  塩基 SO42-

・ ブレンステッドの酸・塩基の定義を覚える(ブレンステッドの定義による酸や塩基にはどういうものがあるのか覚える必要はない.反応式を見て,どれが酸で,どれが塩基であるかを見分けることができればよい)・例題 1を解けるようにする

放出することのできる H+ や OH- の数を酸・塩基の価数という 酸 1 分子が,完全に電離したときに放出することのできる水素イオン H+ の数を,その酸の価数という. たとえば,HClは次のように電離して 1個の H+を放出することができるので,1価の酸である.     HCl H Cl$ ++ -

 H SO2 4 は,次のように電離して 2個の H+を放出することができるので,2価の酸である.     H SO H SO22 4 4

2$ ++ -

 リン酸 H PO3 4 は,次のように電離して 3個の H+を放出することができるので,3価の酸である.     H PO3 4 H PO3 4

3++ -

 また,塩基 1 分子(NH3 など),あるいは組成式に相当する塩基の粒子 1 個(NaOH など)が完全に電離したときに放出することのできる水酸化物イオン OH- の数,または,塩基 1 分子あるいは組成式に相当する塩基の粒子 1 個が受け取ることのできる水素イオン H+ の数を,その塩基の価数という. たとえば,NaOHは次のように電離して 1個の OH-を放出するので,1価の塩基である.     NaOH Na OH$ ++ -

水酸化カルシウム Ca OH 2^ h は,次のように電離して 2個の OH-を放出するので,2価の塩基である.     Ca OH Ca OH22

2$ ++ -

^ h

❹ 酸・塩基の価数

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注意 ・シュウ酸を H C O2 2 4 と表すこともある.

・「酸・塩基の価数」の意味を覚える・上の表の酸の名称,化学式,および価数を覚える

1.電解質が水溶液中で電離している割合を電離度という 酸や塩基などの電解質を水に溶かした場合,溶かした電解質のすべてが電離するとは限らない.電解質の種類や溶液の濃度などによって,溶かした電解質のほぼすべてが電離する場合もあるし,溶かした電解質の一部だけが電離する場合もある. 水に溶かした電解質のうち,どれだけの電解質が電離しているのかという割合を示した数値を電離度といい,下の式で表される.なお,電離度を記号で表すときには普通,aが使われる.

 たとえば,ある電解質 5molを水に溶かしたとき,このうちの 2molが電離したとすれば,このときの電離度 aは

      .molmol

52

0 4= =a ^̂ hh   (右図 1)

また,溶かした電解質 5molがすべて電離したとすれば,そのときの電離度αは

     molmol

55

1= =a ^̂ hh   (右図 2)

電離度は 1より大きな値になることはない.・「電離度」の意味と計算の仕方を覚える

.電解質が水溶液中で電離している割合を電離度という

◎主な酸・塩基とその価数

価数 酸 塩 基

1価

塩酸

硝酸

酢酸

HCl

HNO

CHCOOH

水酸化ナトリウム

水酸化カリウム

アンモニア

NaOH

KOH

NH

2価

硫酸

シュウ酸

硫化水素

HSO

COOH

HS

水酸化カルシウム

水酸化バリウム

水酸化銅(Ⅱ)

水酸化マグネシウム

CaOH

BaOH

CuOH

MgOH

3価リン酸 HPO 水酸化鉄(Ⅲ)

水酸化アルミニウム

FeOH

AlOH

シュウ酸をHCO と表すこともある.

やっておくこと▷・「酸・塩基の価数」の意味を覚える ・上の表の酸の名称,化学式,および価数を覚える

酸や塩基などの電解質を水に溶かした場合,溶かした電解質のすべてが電離するとは限らない.

電解質の種類や溶液の濃度などによって,溶かした電解質のほぼすべてが電離する場合もあるし,

溶かした電解質の一部だけが電離する場合もある.

水に溶かした電解質のうち,どれだけの電解質が電離しているのかという割合を示した数値を電

離度といい,下の式で表される.なお,電離度を記号で表すときには普通,αが使われる.

【電離度】

電離度電離している電解質の物質量〔 〕溶かした電解質の物質量〔 〕

(0≦α≦1,α=1は完全に電離する場合)

たとえば,ある電解質5molを水に溶かし

たとき,このうちの2molが電離したとすれ

ば,このときの電離度αは

α=2mol5mol

=0.4 (右図1)

また,溶かした電解質5molがすべて電離し

たとすれば,そのときの電離度αは

α=5mol5mol

=1 (右図2)

電離度は1より大きな値になることはない.

やっておくこと▷「電離度」の意味と計算の仕方を覚える

⑤ 電離度と酸・塩基の強さ

注 意

KC 予習編

8

❺ 電離度と酸・塩基の強さ

【電離度】

     mol

mol電離度 溶かした電解質の物質量している電解質の物質量電離

=a ^^

hh

                      (0 1E Ea , 1=a は完全に電離する場合)

.電解質が水溶液中で電離している割合を電離度という

◎主な酸・塩基とその価数

価数 酸 塩 基

1価

塩酸

硝酸

酢酸

HCl

HNO

CHCOOH

水酸化ナトリウム

水酸化カリウム

アンモニア

NaOH

KOH

NH

2価

硫酸

シュウ酸

硫化水素

HSO

COOH

HS

水酸化カルシウム

水酸化バリウム

水酸化銅(Ⅱ)

水酸化マグネシウム

CaOH

BaOH

CuOH

MgOH

3価リン酸 HPO 水酸化鉄(Ⅲ)

水酸化アルミニウム

FeOH

AlOH

シュウ酸をHCO と表すこともある.

やっておくこと▷・「酸・塩基の価数」の意味を覚える ・上の表の酸の名称,化学式,および価数を覚える

酸や塩基などの電解質を水に溶かした場合,溶かした電解質のすべてが電離するとは限らない.

電解質の種類や溶液の濃度などによって,溶かした電解質のほぼすべてが電離する場合もあるし,

溶かした電解質の一部だけが電離する場合もある.

水に溶かした電解質のうち,どれだけの電解質が電離しているのかという割合を示した数値を電

離度といい,下の式で表される.なお,電離度を記号で表すときには普通,αが使われる.

【電離度】

電離度電離している電解質の物質量〔 〕溶かした電解質の物質量〔 〕

(0≦α≦1,α=1は完全に電離する場合)

たとえば,ある電解質5molを水に溶かし

たとき,このうちの2molが電離したとすれ

ば,このときの電離度αは

α=2mol5mol

=0.4 (右図1)

また,溶かした電解質5molがすべて電離し

たとすれば,そのときの電離度αは

α=5mol5mol

=1 (右図2)

電離度は1より大きな値になることはない.

やっておくこと▷「電離度」の意味と計算の仕方を覚える

⑤ 電離度と酸・塩基の強さ

注 意

KC 予習編

8

Page 8: 今回の学習項目 方,水酸化ナトリウムNaOH,水酸化カリウムKOH,および水酸化カルシウムCa ^ hOH 2 は ... ② OH-を放出しない物質でも酸の働きを打ち消すもの(炭酸ナトリウムNa

008CA1071HR1Y1BZ-

2.酸の濃度と電離度から H+ の濃度を計算しよう 1価の酸の分子式を仮に HAとし,水溶液中で HAE H A++ -のように電離するとしよう. さて,c〔mol/l〕の HAの水溶液があり,電離度を aとする.電離によって生じた H+のモル濃度を cと aで表してみよう.

     HA

HA電離度 溶かした の物質量電離している の物質量

=

の関係から     電離している HAの物質量=(溶かした HAの物質量)#(電離度)HAの水溶液 1 l中には HAが c〔mol〕溶けており,また電離度が aなので,c〔mol〕の HAのうち電離している HAの物質量は     電離している HAの物質量 mol molc c#= =a a^ ^h hHAは,HA H AE ++ -のように電離するので,電離した HAと同じ物質量の H+が水溶液中に存在している.したがって,ca〔mol〕の HAが電離したときは,ca〔mol〕の H+ が生じている.よって,溶液 1 l当たり ca〔mol〕の H+が存在するので,H+のモル濃度は ca〔mol/l〕である.つまり     (H+のモル濃度) mol/c l= a ^ h =(酸のモル濃度)#(電離度)と表すことができる. 一般に,ある物質のモル濃度を表すために[化学式]という記号が使われている.たとえば,H+

のモル濃度は H+6 @,OH-のモル濃度は OH-6 @ で表される.この記号を使って上で述べたことをまとめると,次のようになる.

  1価の酸の水溶液のモル濃度が c〔mol/l〕で,電離度が aなら      mol/c lH = a

+6 @ ^ h =(酸のモル濃度)#(電離度)

 また,2価の酸を仮に H A2 とし,水溶液中で H A H A222

E ++ - のように電離するとしよう.この場合には,電離によって生じた H+の物質量は,電離した H A2 の物質量の 2倍になる.そこで,酸の濃度を c〔mol/ l〕とし電離度を aとすれば,電離した H A2 の物質量は 1l当たり ca〔mol〕となるので,H+ の物質量は 1 l当たり 2ca〔mol〕である.したがって,H+ のモル濃度は 2ca

〔mol/ l〕である.

  2価の酸の水溶液のモル濃度が c〔mol/ l〕で,電離度が aなら      mol/c lH 2= a

+6 @ ^ h        = 2#(酸のモル濃度)#(電離度)

 一般に次のことがいえる.

 n価の酸の水溶液のモル濃度が c〔mol/l〕で,電離度が aなら      mol/nc lH = a

+6 @ ^ h =(価数)#(酸のモル濃度)#(電離度)

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009CA1071HR1Y1BZ-

 同様に,塩基についても一般に次のことがいえる.

  H+6 @,つまり「水素イオンのモル濃度」のことを単に「水素イオン濃度」ということが多い. 同様に, OH-6 @,つまり「水酸化物イオンのモル濃度」のことを単に「水酸化物イオン濃度」ということもある.

 フッ化水素(HF)の水溶液をフッ化水素酸という.これについて,次の問いにそれぞれ有効数字2桁で答えよ.⑴  25℃において,0.30mol/lのフッ化水素酸の水素イオン濃度 H+6 @ を測定したところ,

.1 4 10 2#

- mol/lであった.このフッ化水素酸中での HFの電離度を求めよ.⑵  25℃において,0.50mol/lのフッ化水素酸中での HFの電離度は .3 7 10 2

#- である.

このフッ化水素酸中の水素イオン濃度 H+6 @ を求めよ.

電離度

 ⑴ HFは HF H FE ++ - のように電離するので,電離した HFの物質量と電離によって生じた H+の物質量は等しい.水素イオン濃度が .1 4 10 2

#-

mol/lなので,溶液1 l当たりの H+の物質量は .1 4 10 2

#-

molである.したがって,電離している HFの物質量は溶液 1 l当たり .1 4 10 2

#- molである.また,フッ化水素酸の濃度が 0.30mol/lであるこ

とから,溶液 1 l当たりに溶けている HFの物質量は 0.30molである. よって,溶液 1 l当たりに溶けている HF 0.30molのうち .1 4 10 2

#- molが電離しているこ

とになるので,電離度は

     . mol

. mol0 30

1 4 10 2

電離度 #=

-

^ ^ h h .4 66 10 2

#= - 答  .4 107 2#

-

 【 別解】HFは1価の酸で,酸のモル濃度が 0.30mol/l, H+6 @ が .1 4 10 2#

- mol/lなので,電離度を aとして,これらの値を H =+6 @ (価数)#(酸のモル濃度)#(電離度)に代入すると

      . / . /lmol moll1 4 10 1 0 302# # #= a

- ^ ^h h       よって, .4 66 10 2

#=a - 答  .4 7 10 2#

-

⑵ フッ化水素は 1価の酸で,酸のモル濃度が 0.50mol/l,電離度が . 103 7 2#

- なので      H 価数 酸のモル濃度 電離度# #=+ ^ ^ ^h h h6 @ .. /lmol 3 7 101 0 50 2

# ##= -^ h /. lmol101 85 2

#= - ^ h 答  . 101 9 2#

- mol/l

・ 酸の水溶液では H =+6 @ (価数)#(酸のモル濃度)#(電離度),塩基の水溶液では OH =-6 @ (価数)#(塩基のモル濃度)#(電離度)の関係があることを覚える・例題2を解けるようにする

 n価の塩基の水溶液のモル濃度が c〔mol/l〕で,電離度が aなら      ncOH = a

-6 @ 〔mol/l〕 =(価数)#(塩基のモル濃度)#(電離度)

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010CA1071HR1Y1BZ-

3.電離度が 1 に近い酸・塩基を強酸・強塩基という 酸性を示す原因となるのは,酸の電離によって生じる H+である.したがって,酸の電離度が大きいほど水溶液中の H+の数が多くなり,それだけ酸性が強くなる.一般に,普通の濃度のときに,電離度が 1 に近い酸(つまり,ほぼ完全に電離している酸)を強酸といい,電離度が1 よりずっと小さい酸(つまり,わずかしか電離していない酸)を弱酸という.たとえば,塩酸の電離度は 1に近いので塩酸は強酸であるが,酢酸の電離度は 25℃,0.1mol/lの濃度のとき 0.013なので酢酸は弱酸である.酢酸の電離度が 0.013ということは,酢酸分子 1000個当たり 13個しか電離していないことになる. 同様に,塩基性を示す原因となるのは,塩基の電離によって生じる OH-なので,電離度が大きい塩基の水溶液は塩基性が強くなる.一般に,電離度が 1 に近い塩基を強塩基といい,電離度が 1

よりずっと小さい塩基を弱塩基という. 硫酸 H SO2 4 は次のように 2段階で電離する.   H SO H HSO2 4 4$ ++ -

   HSO4- H SO4

2++ -

1段目の電離度は 1に近いので H SO2 4 は強酸である.しかし,2段目の電離は 1よりずっと小さい.一般に多段階で電離する物質の場合,2段目以降の電離度は 1段目の電離度よりかなり小さくなる.

注意 1  シュウ酸 COOH 2^ h やリン酸 H PO3 4 は中程度の強さの酸であるが,これらを弱酸に分類することもある.

注意 2  弱酸や弱塩基の電離度は,溶液の濃度や温度によって異なる.一般に,濃度が小さいほど,つまり薄めるほど電離度は大きくなり,温度が高いほど電離度は大きくなる.

・「強酸」「弱酸」「強塩基」「弱塩基」の意味を覚える・ 上の表の酸・塩基のそれぞれについて「強」「弱」のどちらであるか覚える

.電離度が に近い酸・塩基を強酸・強塩基という

参 考

酸性を示す原因となるのは,酸の

電離によって生じるH である.し

たがって,酸の電離度が大きいほど

水溶液中のH の数が多くなり,そ

れだけ酸性が強くなる.一般に,普

通の濃度のときに,電離度が に近

い酸(つまり,ほぼ完全に電離して

いる酸)を強酸といい,電離度が

よりずっと小さい酸(つまり,わず

かしか電離していない酸)を弱酸と

いう.たとえば,塩酸の電離度は1に近いので塩酸は強酸であるが,酢酸の電離度は25°C,0.1

mol の濃度のとき0.016なので酢酸は弱酸である.酢酸の電離度が0.016ということは,酢酸分

子1000個当たり16個しか電離していないことになる.

同様に,塩基性を示す原因となるのは,塩基の電離によって生じるOH なので,電離度が大き

い塩基の水溶液は塩基性が強くなる.一般に,電離度が に近い塩基を強塩基といい,電離度が

よりずっと小さい塩基を弱塩基という.

硫酸HSO は次のように2段階で電離する.

HSO H +HSO

HSO H +SO

1段目の電離度は1に近いのでHSO は強酸である.しかし,2段目の電離度は1よりず

っと小さい.一般に多段階で電離する物質の場合,2段目以降の電離度は1段目の電離度よ

りかなり小さくなる.

◎酸・塩基の強弱

強酸 弱酸

塩酸

硝酸

硫酸

HCl

HNO

HSO

酢酸

硫化水素

CHCOOH

HS

強塩基 弱塩基

水酸化ナトリウム

水酸化カリウム

水酸化カルシウム

水酸化バリウム

NaOH

KOH

CaOH

BaOH

アンモニア

水酸化銅(Ⅱ)

水酸化マグネシウム

水酸化鉄(Ⅲ)

水酸化アルミニウム

NH

CuOH

MgOH

FeOH

AlOH

シュウ酸(COOH)やリン酸HPO は中程度の強さの酸であるが,これらも弱酸に

分類することがある.

弱酸や弱塩基の電離度は,溶液の濃度や温度によって異なる.一般に,濃度が小さい

ほど,つまり薄めるほど電離度は大きくなり,温度が高いほど電離度は大きくなる.

やっておくこと▷・「強酸」「弱酸」「強塩基」「弱塩基」の意味を覚える・上の表の酸・塩基のそれぞれについて「強」「弱」のどちらであるか覚える

注意1

注意2

KC 予習編

11

.電離度が に近い酸・塩基を強酸・強塩基という

参 考

酸性を示す原因となるのは,酸の

電離によって生じるH である.し

たがって,酸の電離度が大きいほど

水溶液中のH の数が多くなり,そ

れだけ酸性が強くなる.一般に,普

通の濃度のときに,電離度が に近

い酸(つまり,ほぼ完全に電離して

いる酸)を強酸といい,電離度が

よりずっと小さい酸(つまり,わず

かしか電離していない酸)を弱酸と

いう.たとえば,塩酸の電離度は1に近いので塩酸は強酸であるが,酢酸の電離度は25°C,0.1

mol の濃度のとき0.016なので酢酸は弱酸である.酢酸の電離度が0.016ということは,酢酸分

子1000個当たり16個しか電離していないことになる.

同様に,塩基性を示す原因となるのは,塩基の電離によって生じるOH なので,電離度が大き

い塩基の水溶液は塩基性が強くなる.一般に,電離度が に近い塩基を強塩基といい,電離度が

よりずっと小さい塩基を弱塩基という.

硫酸HSO は次のように2段階で電離する.

HSO H +HSO

HSO H +SO

1段目の電離度は1に近いのでHSO は強酸である.しかし,2段目の電離度は1よりず

っと小さい.一般に多段階で電離する物質の場合,2段目以降の電離度は1段目の電離度よ

りかなり小さくなる.

◎酸・塩基の強弱

強酸 弱酸

塩酸

硝酸

硫酸

HCl

HNO

HSO

酢酸

硫化水素

CHCOOH

HS

強塩基 弱塩基

水酸化ナトリウム

水酸化カリウム

水酸化カルシウム

水酸化バリウム

NaOH

KOH

CaOH

BaOH

アンモニア

水酸化銅(Ⅱ)

水酸化マグネシウム

水酸化鉄(Ⅲ)

水酸化アルミニウム

NH

CuOH

MgOH

FeOH

AlOH

シュウ酸(COOH)やリン酸HPO は中程度の強さの酸であるが,これらも弱酸に

分類することがある.

弱酸や弱塩基の電離度は,溶液の濃度や温度によって異なる.一般に,濃度が小さい

ほど,つまり薄めるほど電離度は大きくなり,温度が高いほど電離度は大きくなる.

やっておくこと▷・「強酸」「弱酸」「強塩基」「弱塩基」の意味を覚える・上の表の酸・塩基のそれぞれについて「強」「弱」のどちらであるか覚える

注意1

注意2

KC 予習編

11

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011CA1071HR1Y1BZ-

注意: ここで説明する「水のイオン積せき

」は,現在の課程になってから「化学Ⅱ」に移行した項目である.しかし,「水のイオン積」を知っていると化学Ⅰの内容の理解が深まり,また教科書によっては「水のイオン積」を知っていた方が解きやすい問題が載っているので,ここで説明している程度のことは理解しておいた方がよい(化学Ⅰの授業で「水のイオン積」を扱う学校も多いと思われる).

1.水はわずかに電離している 水はわずかに電離して,水素イオンH+と水酸化物イオン OH- を生じている.     H O2 H OH++ -

水が電離すると H+と OH-が同じ数ずつ生じるので,純水中での H+の濃度と OH-の濃度は等しい.たとえば,25℃の純水(あるいは中性の水溶液)において,H+のモル濃度も OH-のモル濃度も .1 0 10 7

#- mol/lである.

      .H OH 1 0 10 7#= =+ - -6 6@ @ 〔mol/l〕

参考  25℃の純水中で電離している水分子は,およそ 5億 6千万個に 1個の割合である.・ 中性の水溶液において, .H OH 1 0 10 7

#==+ - -6 6@ @ 〔mol/l〕であることを覚える

2. 酸性・中性・塩基性にかかわらず,温度が一定なら H OH#+ -6 6@ @の

値は一定 25℃の中性の水溶液中では, .H OH 1 0 10 7

#==+ - -6 6@ @ 〔mol/l〕なので, H+6 @ と OH-6 @ の積,H OH#+ -6 6@ @ の値は次のようになる.

      . / . /. / l ll mol molH OH mol 1 0 10 1 0 101 0 10 7 2 2147# ###= =- -+ - -6 6@ @ ^ ^ ^h h h

この H+6 @ OH-6 @ の値を水のイオン積せき

といい,温度が一定なら酸性・中性・塩基性にかかわらずつねに一定である.たとえば,25℃の水溶液なら,酸性や塩基性であっても,水のイオン積は.1 0 10 14#

- 〔mol2/l

2〕である.

注意 1  酸性水溶液中でも水はわずかに電離している( OH2 E H OH++ -)ので,OH-もわずかながら存在している.同様に,塩基性水溶液にも H+がわずかながら存在している.

注意 2  水のイオン積の単位「mol2/l2」は「(mol/l)2」のように表されることもある.注意 3  水のイオン積は温度が高いほど大きくなる.注意 4  問題などで水のイオン積の値が必要にもかかわらず与えられていない場合には,25℃と考えて, .1 0 10 14

#- mol2/l2を使えばよい.

 さて,純水に酸を溶かすと,純水のときに比べて H+の数が増えるので      .H 1 0 10 7

#2+ -6 @ 〔mol/l〕.H OH 1 0 10 14#=+ - -6 6@ @ 〔mol2/l2〕なので, H+6 @ が大きくなれば OH-6 @ は小さくなり,酸性水溶液

【水のイオン積】 H+6 @ と OH-6 @ の積を水のイオン積という.   25℃において  .H OH 1 0 10 14

#= -+ -6 6@ @ 〔mol2/l

2〕   この値は酸性・中性・塩基性にかかわらず一定である.

❻ 水のイオン積

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012CA1071HR1Y1BZ-

中では      .OH 1 0 10 7

#1 --6 @ 〔mol/l〕 また,純水に塩基を溶かすと,純水のときに比べて OH-の数が増えるので      .OH 1 0 10 7

#2 --6 @ 〔mol/l〕.H OH 1 0 10 14#= -+ -6 6@ @ 〔mol

2/l2〕なので, OH-6 @ が大きくなれば H+6 @ は小さくなり,塩基性水溶

液中では      .H 1 0 10 7

#1 -+6 @ 〔mol/l〕 以上をまとめると,次のようになる.

  25℃において 酸性水溶液    . /lmolH OH1 0 10 7#2 2-+ -6 6@ @^ h

         中性水溶液    . /lmolH OH1 0 10 7#= =-+ -6 6@ @^ h

         塩基性水溶液   . /lmolH OH1 0 10 7#1 1-+ -6 6@ @^ h

逆にこの関係から, H+6 @ あるいは OH-6 @ の値がわかれば,その水溶液が酸性・中性・塩基性のいずれであるかがわかる.

 次の問いにそれぞれ有効数字2桁で答えよ.ただし,水のイオン積を H OH =+ -6 6@ @.1 0 10 14#

- 〔mol2/l2〕とする.⑴ ある水溶液の 25℃の水素イオン濃度 H+6 @ を測定したら, .2 0 10 5

#- mol/lだった.

 ① この水溶液は,酸性・中性・塩基性のどれか. ② この水溶液の水酸化物イオン濃度 OH-6 @ を求めよ.⑵   .4 0 10 3

#- mol/lの水酸化ナトリウム水溶液の水素イオン濃度 H+6 @ を求めよ.ただ

し,水酸化ナトリウムは完全に電離しているものとする.

水のイオン積

 ⑴ ① 中性のときには H OH=+ -6 6@ @ であり,また .H OH 1 0 10 14#= -+ -6 6@ @

〔mol2/l2〕なので,中性水溶液では .H OH 1 0 10 7#= = -+ -6 6@ @ 〔mol/l〕である.さて,この

問いの水溶液の H+6 @ は .2 0 10 5#

- mol/lで,中性のときの .1 0 10 7#

- mol/lより大きいので,この水溶液は酸性である. 答 酸性②  .H 2 0 10 5

#=+ -6 @ 〔mol/l〕なので, .H OH 1 0 10 14#= -+ -6 6@ @ 〔mol

2/l2〕から

      . /lOH

H

mol1 0 10 14 2 2#

=-

+

-6 6@ @^ h

/.

. /

l

l

mol

mol

2 0 10

1 0 105

14 2 2

#

#= -

-

^^

hh

.5 0 10 10#= -〔mol/l〕 答  .5 0 10 10

#- mol/l

例題

解答

また,純水に塩基を溶かすと,純水のときに比べてOH の数が増えるので

OH >1.0×10 mol

H OH =1.0×10 mol なので, OH が大きくなれば H は小さくなり,塩基性水

溶液中では

H <1.0×10 mol

以上をまとめると,次のようになる.

25℃において 酸性水溶液

中性水溶液

塩基性水溶液

逆にこの関係から, H あるいは OH の値がわかれば,その水溶液が酸性・中性・塩基性のい

ずれであるかがわかる.

水のイオン積

次の問いにそれぞれ有効数字2桁で答えよ.ただし,水のイオン積を H OH =1.0

×10 mol とする.

⑴ ある水溶液の25℃での水素イオン濃度 H を測定したら,2.0×10 mol だった.

① この水溶液は,酸性・中性・塩基性のどれか.

② この水溶液の水酸化物イオン濃度 OH を求めよ.

⑵ 4.0×10 mol の水酸化ナトリウム水溶液の水素イオン濃度 H を求めよ.ただし,

水酸化ナトリウムは完全に電離しているものとする.

⑴ ① 中性のときには H = OH であり,また H OH =1.0×10 mol

なので,中性水溶液では H = OH =1.0×10 mol である.さて,この問いの水溶液の

H は 2.0×10 mol で,中性のときの 1.0×10 mol より大きいので,この水溶液は酸性で

ある. 答 酸性

② H =2.0×10 mol なので, H OH =1.0×10 mol から

OH =1.0×10 mol

H=1.0×10 mol2.0×10 mol

=5.0×10 mol

⑵ 水酸化ナトリウムは1価の塩基であり,完全に電離している(電離度1)ので

OH = 価数 × 塩基のモル濃度 × 電離度

=1×4.0×10 mol ×1=4.0×10 mol

KC 予習編

13

Page 13: 今回の学習項目 方,水酸化ナトリウムNaOH,水酸化カリウムKOH,および水酸化カルシウムCa ^ hOH 2 は ... ② OH-を放出しない物質でも酸の働きを打ち消すもの(炭酸ナトリウムNa

013CA1071HR1Y1BZ-

⑵ 水酸化ナトリウムは1価の塩基であり,完全に電離している(電離度1)ので      OH =-6 @ (価数)#(塩基のモル濃度)#(電離度) .1 4 0 10 3

# #= -〔mol/l〕#1

.4 0 10 3#= -〔mol/l〕

したがって,水素イオン濃度 H+6 @ は      . /l

HOH

mol1 0 10 14 2 2#

=+

-

-6 6@ @^ h

. /

. /

l

l

mol

mol

4 0 10

1 0 103

14 2 2

#

#= -

-

^^

hh

.2 5 10 12#= -〔mol/l〕 答  .2 5 10 12

#- mol/l

注意  水酸化ナトリウム水溶液中には,NaOHの電離によって生じた OH-以外に水の電離によって生じた OH-も存在する.しかし,水の電離によって生じた OH-の濃度は,NaOH

の電離によって生じた OH-の濃度(例題 3では .4 0 10 3#

- mol/l)に比べて,たいへん小さいため通常は無視することができる.

・水のイオン積 .H OH 1 0 10 14#=+ - -6 6@ @ 〔mol2/l2〕を覚える

・ 酸性・中性・塩基性それぞれの H+6 @, OH-6 @, .1 0 10 7#

- の大小関係を覚える

・例題3を解けるようにする

1.pH って何? ❻で説明したように,水素イオン濃度 H+6 @ または水酸化物イオン濃度 OH-6 @ がわかればその水溶液が酸性・中性・塩基性のいずれであるかがわかる.通常は H+6 @ が使われ,たとえば 25℃では

     酸性    .H 1 0 10 7#2+ -6 @ 〔mol/l〕

     中性    .H 1 0 10 7#=+ -6 @ 〔mol/l〕

     塩基性   .H 1 0 10 7#1+ -6 @ 〔mol/l〕

 また, H+6 @ が .1 0 10 7#

- mol/lを越えて大きくなればなるほど酸性が強くなり, H+6 @ が.1 0 10 7#

- mol/lより小さくなればなるほど(逆に OH-6 @ が大きくなるので)塩基性が強くなる.このように H+6 @ の値は水溶液の酸性や塩基性の強さを示す. しかし,水溶液の H+6 @ は非常に大きい範囲を変化する.たとえば, H 10 12=+ -6 @ 〔mol/l〕の塩基

性水溶液に酸を加えて .H 0 1=+6 @ 〔mol/l〕にした場合には, H+6 @ は最初の .

10

0 110000000000012 =-

〔倍〕になったことになる.このように大きな範囲を変化する値を扱うのは不便なので,水素イオン濃度 H+6 @ を水素イオン指数(p

ピー

Hエイチ

)という値に換算して使うことが多い. H+6 @ を pHに換算する仕方は次のとおり.

❼ 水素イオン指数(pピー

Hエイチ

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014CA1071HR1Y1BZ-

たとえば, H 10 12=+ -6 @ 〔mol/l〕のときは pH 12= ,また .H 0 1=+6 @ 〔mol/l〕のときは, .0 1 10 1= -

なので,pH 1= になる.pHの値は通常は 0~14の範囲なので扱いやすい.そのため,酸性・塩基性の強さを示す指標として一般によく使われている.

 「 H 10 a=+ -6 @ のとき, apH = 」を使えば, H 10 5=+ -6 @ や H 10 9=+ -6 @ を pHに換算することはできるが, H 2 10 5

#=+ -6 @ のような値は pHに換算できない(注意: H 2 10 5#=+ -6 @

のとき,pH 2 5 10#= = とはならない).化学Ⅱの範囲になるが,pH の厳密な定義は「 logpH H= - +6 @」である(logは対数を表す記号で,数学で学習する).この定義に従えば,

H 2 10 5#=+ -6 @ 〔mol/l〕の場合の pHは次のようになる.ただし, .log2 0 3= とする.

    . .log loglogpH 2 10 0 3 5 4 72 10 55# = - + = - - == - --^ ^ ^h h h

 pHに単位はない.

・「 H 10 a=+ -6 @ 〔mol/l〕のとき,pH = a」の関係を覚える

2.pH 71 で酸性,pH 7= で中性,pH 72 で塩基性 25℃において,中性のときは H 10 7=+ -6 @ 〔mol/l〕なので,中性のときには pH 7= である.酸性のときには H 10 72+ -6 @ 〔mol/l〕なので pH 71 になる(たとえば H 10 6=+ -6 @ 〔mol/l〕のとき pH 6= ,さらに H+6 @ が大きくなって H 10 5=+ -6 @ 〔mol/l〕なら pH 5= である).したがって, H+6 @ が大きいほど,つまり酸性が強いほど pHは小さくなる.また,塩基性のときには, H 10 71+ -6 @ 〔mol/l〕なので pH 72 になる(たとえば H 10 8=+ -6 @ 〔mol/l〕のとき pH 8= ,さらに H+6 @ が小さくなってH 10 9=+ -6 @ 〔mol/l〕なら pH 9= である).したがって, H+6 @ が小さいほど,つまり塩基性が強いほど pHは大きくなる.

pHと H+6 @, OH-6 @ の関係をまとめると次のようになる.

注意 1  上の表で H OH 10 14=-+ -6 6@ @ の関係(水のイオン積)になっていることに注意.

注意 2  上の表からわかるように,pHの値が 1大きくなるごとに H+6 @ は101 になっていく.

 25℃において 酸性   pH 71

        中性   pH 7=

        塩基性  pH 72

【水素イオン指数(pH)】      H 10 a=+ -6 @ 〔mol/l〕のとき, apH = とする.

. で酸性, = で中性, で塩基性

参 考 「 H =10 のとき,pH= 」を使えば, H =10 や H =10 をpHに換算

することはできるが, H =2×10 のような値はpHに換算できない(注意: H =2×

10 のとき,pH=2×5=10とはならない).化学Ⅱの範囲になるが,pHの厳密な定義

は「pH=-logH 」である(logは対数を表す記号で,数学で学習する).この定義に従

えば, H =2×10 mol の場合のpHは次のようになる.ただし,log2=0.3とする.

pH=-log2×10 =- log2+log10 =- 0.3-5=4.7

pHに単位はない.

やっておくこと▷「 H =10 mol のとき,pH= 」の関係を覚える

25°Cにおいて,中性のときは H =10 mol なので,中性のときには pH=7である.

酸性のときには H >10 mol なのでpH<7になる(たとえば H =10 mol のとき

pH=6,さらに H が大きくなって H =10 mol なら pH=5である).したがって,

H が大きいほど,つまり酸性が強いほど pH は小さくなる.また,塩基性のときには, H

<10 mol なので pH>7になる(たとえば H =10 mol のとき pH=8,さらに

H が小さくなって H =10 mol なら pH=9である).したがって, H が小さいほ

ど,つまり塩基性が強いほどpHは大きくなる.

25℃において 酸性

中性

塩基性

pHと H , OH の関係をまとめると次のようになる.

pH 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14

H 1 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10

OH 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 1

上の表で H OH =10 の関係(水のイオン積)になっていることに注意.

上の表からわかるように,pHの値が1大きくなるごとに H は 110になっていく.

もし,pHが3大きくなれば H は 110

=11000

になる.逆に, OH はpHが1大きく

なるごとに10倍になっていく.もし,pHが3大きくなれば OH は 10=1000倍 になる.

(弱) 中性 (弱)(強) (強)酸性 塩基性

注 意

注意1

注意2

KC 予習編

15

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015CA1071HR1Y1BZ-

もし,pHが 3大きくなれば H+6 @ は101

10001

3

=c m になる.逆に, OH-6 @ は pHが 1大きく

なるごとに 10倍になっていく.もし, pHが 3大きくなれば OH-6 @ は 10 10003= 〔倍〕になる.

 次の各問いにそれぞれ整数で答えよ.ただし,水のイオン積を .H OH 1 0 10 14#=+ - -6 6@ @

〔mol2/l2〕とする.

⑴ 次の水溶液の pHをそれぞれ求めよ. ① 水素イオン濃度 H+6 @ が 0.010mol/lの水溶液 ② 水酸化物イオン濃度 OH-6 @ が 0.00010mol/lの水溶液⑵  次の酸,塩基の水溶液の pHをそれぞれ求めよ.ただし,いずれも電離度を 1.0とする. ① 0.10mol/lの塩酸 ② 0.0010mol/lの水酸化ナトリウム水溶液⑶  ある 1価の弱酸の水溶液がある.モル濃度を 0.10mol/l,電離度を 0.010として,この水溶液の pHを求めよ.

水素イオン指数 pH

 ⑴ ①  . .H 0 010 1 0 10 2#= =+ -6 @ 〔mol/l〕なので,pH 2= である. 答 2

②  . .OH 0 00010 1 0 10 4#= =- -6 @ 〔mol/l〕であり,また, .H OH 1 0 10 14

#=+ - -6 6@ @ 〔mol2/l2〕

なので

      . /lH

OH

mol1 0 10 14 2 2#

=+

-

-6 6@ @^ h

. /

. /

l

l

mol

mol

1 0 10

1 0 104

14 2 2

#

#= -

-

^^

hh

. 101 0 10#= - 〔mol/l〕

したがって,pH 10= 答 10

⑵ ① 塩酸は 1価の酸なので      H =+6 @ (価数)#(酸のモル濃度)#(電離度) . / .lmol1 0 10 1 0# #= ^ h .1 0 10 1

#= -〔mol/l〕したがって,pH 1= 答 1② 水酸化ナトリウムは 1価の塩基なので      OH =-6 @ (価数)#(塩基のモル濃度)#(電離度) = 1#0.0010〔mol/l〕#1.0

.1 0 10 3#= -〔mol/l〕

また, .H OH 1 0 10 14#=+ - -6 6@ @ 〔mol

2/l2〕なので

      . /lH

OH

mol1 0 10 14 2 2#

=+

-

-6 6@ @^ h

       . /

. /

l

l

mol

mol

1 0 10

1 0 10 14 2 2

3#

#= -

-

^^

hh

        .1 0 10 11#= - 〔mol/l〕

したがって,pH 11= 答 11

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016CA1071HR1Y1BZ-

⑶ 1価の酸なので      H =+6 @ (価数)#(酸のモル濃度)#(電離度) . / .lmol1 0 10 0 010# #= ^ h .1 0 10 3

#= -〔mol/l〕したがって,pH 3= 答 3

・「pH 71 で酸性,pH 7= で中性,pH 72 で塩基性」を覚える・例題4を解けるようにする

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001CA1071HR1R1BZ-酸と塩基の反応1

〔1〕次の①,②の反応において,アおよびイの分子またはイオンは,それぞれ酸・塩基のどちらとして働いているか.ブレンステッドの定義に従って答えよ.

  ① CH COOH H O3 2+         m CH COO H O3 3+- +                  ア       イ  ② CH COO H O3 2+-         m CH COOH OH3 + -                   ア            イ

〔2〕 /. lmol105 0 2#

- の炭酸水がある.炭酸水とは二酸化炭素の水溶液のことで,二酸化炭素は水に溶けて,CO H O HCO H2 2 3E+ +- + のように電離している(2段目の電離 HCO CO H3 3

2E +- - + はごくわずかなの

で無視する).この炭酸水の水素イオン濃度 [H+]は . /lmol1 104 4#

- だった.このときの二酸化炭素の電離度(1段目の電離度)を有効数字 2桁で求めよ.

〔3〕次の①~④の水溶液の pHを最も近い整数で答えよ.ただし,NaOHおよび HClは水溶液中で完全に電離しているものとし,また,水のイオン積を . /lH OH mol1 0 10 14 2 2

#=+ - -6 6@ @ ^ h とする.  ① 0.10mol/lのアンモニア水溶液(電離度 0.010)  ②  水酸化ナトリウム(式量 40)0.80gを水に溶かして 200mlにした

水溶液  ③ pH1の塩酸を 10000倍に薄めた水溶液  ④ pH4の塩酸を 10000倍に薄めた水溶液

❸「酸・塩基」の定義その2

❺電離度と酸・塩基の強さ

❻水のイオン積❼水素イオン指数(pH)

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002CA1071HR1R1BZ-

〔1〕ブレンステッドの定義では,H+を他の物質に与えているものが酸,その H+を受け取っているものが塩基である.① まず「$」向きの反応では,CH COOH3 が H+を H O2 に与えて,CH COOH3 は CH COO3

-

になり,H O2 は H O3 +になっている.したがって,CH COOH3 は酸で,H O2 は塩基である. 次に「#」向きの反応では,H O3 + が H+ を CH COO3

- に与えて,H O3 + は H O2 になり,CH COO3

-は CH COOH3 になっている.したがって,H O3 +は酸で,CH COO3-は塩基である.

答 ア 塩基  イ 塩基② まず「$」向きの反応では,H O2 が H+ を CH COO3

- に与えて,H O2 は OH- になり,CH COO3

-は CH COOH3 になっている.したがって,H O2 は酸で,CH COO3-は塩基である.

 次に「#」向きの反応では,CH COOH3 が H+を OH-に与えて,CH COOH3 は CH COO3-に

なり,OH-は H O2 になっている.したがって,CH COOH3 は酸で,OH-は塩基である. 答 ア 酸  イ 塩基 (注 意)H O2 は,①では塩基として働き,②では酸として働いている.ブレンステッドの定義

では,H+のやり取りだけで酸・塩基が決まるので,反応によって同じ物質が酸になったり塩基になったりすることがある.

〔2〕炭酸水の濃度が . /lmol5 0 10 2#

- ,水素イオン濃度が /. lmol101 4 4#

- なので,炭酸水 1 l中には CO2 が . mol5 0 10 2

#- 溶けており,このうちの . mol101 4 4

#- が電離している.したがって,電

離度は

     電離度 溶かした電解質の物質量電離している電解質の物質量

=

         .

.

mol

mol

5 0 10

1 4 102

4

#

#= -

-

^^

hh

         .2 8 10 3#= -

答  .2 8 10 3#

-

〔3〕① アンモニアは 1価の塩基なので      OH 価数 塩基のモル濃度 電離度# #=- ^ ^ ^h h h6 @        . / .lmol1 0 10 0 010# #= ^ h        . /lmol1 0 10 3

#= - ^ hまた, /. lH molOH 1 0 10 2214

#=+ - -6 6@ @ ^ h なので      . /l

Hmol

OH

1 0 10 214 2#

=+-

-6 6@ @

^ h

        . /

. /

l

l

mol

mol

1 0 10

1 0 10 2

3

14 2

#

#= -

-

^^

hh

        . /lmol1 0 10 11#= - ^ h

したがって,pHは 11である. 答 11

② まず,水酸化ナトリウム水溶液のモル濃度を計算する.水酸化ナトリウムの式量が 40なので,水酸化ナトリウム 1molの質量は 40gである.したがって,水酸化ナトリウム 0.80gの物質量は

     /

..

g molg

mol40

0 802 0 10 2

#= -^ ^ ^hh hこれが,溶液 .l lm200 0 200= 中に溶けているので,水酸化ナトリウム水溶液のモル濃度は

     .

.. /

ll

molmol

0 2002 0 10

0 102

#=

-

^ ^ ^h h h

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003CA1071HR1R1BZ-

NaOHは 1価の塩基で,完全に電離(=電離度 1)しているので      OH 価数 塩基のモル濃度 電離度# #=- ^ ^ ^h h h6 @        . /lmol1 0 10 1# #= ^ h        /. lmol0 10= ^ hまた, . /lH OH mol1 0 10 214 2

#=+ - -6 6@ @ ^ h なので      . /l

HOH

mol1 0 10 214 2#

=+

-

-6 6@ @^ h

        /

. /. l

lmol

mol1 0 100 10

214 2#

=-

^^

hh

        . /lmol1 0 10 13#= - ^ h

したがって,pHは 13である. 答 13

③ pHが 1なので, /. lH mol0 1=+6 @ ^ h である.これを 10000倍に薄めると

      /. lH

mol10000

0 1=+6 @ ^ h

        /lmol1 10 5#= - ^ h

したがって,pHは 5である. 答 5④ pHが 4なので, /lH mol1 10 4

#=+ -6 @ ^ h である.このときの H+6 @は HClの電離によって生じた H+のモル濃度である(水もわずかに電離して H+を生じているが /lmol1 10 4

#- に比べてはるか

に小さいので無視できる).この水溶液を 10000倍に薄めると

      /lH

mol10000

1 10 4#

=+-6 @ ^ h

        /lmol1 10 8#= - ^ h

この値だけで pHを考えると,pH 8= になり,水溶液は塩基性を示すことになる.しかし,塩酸を薄めていっても中性に近づいてはいくが,塩基性になることはない.この理由は次のとおりである. 水の電離(H O H OH2 E ++ -)によって H+ と OH- が同数ずつ生じているが,塩酸の場合には,いくら薄めても HClの電離による H+の分だけ H+の数の方が多い( H OH2+ -6 6@ @).このことと,

. /lH OH mol1 0 10 214 2#=+ - -6 6@ @ ^ h から,塩酸をいくら薄めても /. lH mol1 0 10 7

#2+ -6 @ ^ h となり,pH 71 となる. したがって,pHが 4の塩酸を 10000倍に薄めると,pHは 7に近い値になるが,7を越えることはない. 答 7 (注意)酸の H+6 @ が /lmol10 6- 以下になると,水の電離による H+の影響が無視できなくなる.