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商標法 商標法(1)「第 6 章 商標法」ということで、これから商標法を解説します。最初に「登録商標制度の意 義」を簡単にやって、「登録主義の補完」というところに入っていきます。 まず商標の具体例からいきますと、配ったこの紙があると思いますけれども、これは札幌の チーム、コンサドーレ札幌のキャラクターの商標です。これはコンサドーレ札幌と書いてあると ころと、このフクロウ、タカ、何か分からないけれど、このキャラクターが一体になっているのが一 体としての登録商標です。これを商標広報といって、特許庁から発行されていて、今インター ネットからもダウンロードすることができます。左上に書いてあるのが登録商標の番号です。商 標というのは説明しますけれど、特許庁に出願をして登録を受けて初めて一人前の権利になり ます。登録日というところが書いてありますけれども、この日にめでたく審査を通って、登録がさ れたということになります。 上の方の右側の方にいって、出願日というのが上から 3 段目にあります。平成 8 12 18 日に特許庁に出願されたというわけで、審査にだいたい 1 年半ぐらいかかっています。だいた いこれくらいの時間がかかるみたいです。早いと 8 カ月か 9 カ月で取れるというふうに聞いたこ とがありますけれども、1 年半というのはきっと平均的な数字なのでしょう。だいたいこれくらいの 時間がかかります。 下の段にいって、41 の数字の後ろにいろいろ書いてあると思いますけれども、これが指定商 品とか指定役務とかいわれるもので、商標の特徴の 1 つというのは、この商品、役務というのは サービスですけれども、役務と関連して出願をして権利が発生するということです。マークだけ ではないのです。商品とか役務をある程度、決めなくてはいけない。決めて、それとの関連で 権利が生まれます。これはサッカーなので、スポーツまたは知識の享受に入るのでしょうか。あ とはサッカーゲームの企画とか、真ん中へんにあります。もちろんコンサドーレが出しているの はこれだけじゃないのです。たくさんたくさん出しています。あるいは指定役務、例えばサッカ ーのレプリカユニフォームとかサッカーボールとか、そういうのがこの指定商品役務に入ってな いのですけれども、別の出願でもちろん取ってあります。商品役務を変えれば、同じマークで もたくさん取ることができるのです。こんな感じで登録商標というものを取ることができます。 「制度の概観」ということですけれども、先ほどいいましたように、商標権というのは「商標と指 定商品、役務の関連で発生する排他的な権利」です。これが 25 条と 36 条と 37 条に書いてあ ります。25 条を見ておきます。商標だから小さい法令集だと部分的に省かれているやつもある かもしれないですけれども、25 条です。商標権の効力。36 条。差止請求権。37 条の方には類 似の方の決まりが書いてあります。ですから商品役務との関係で決まるのですけれども、同一 および類似の範囲で権利が発生します。同一だけじゃなくて、類似の範囲まで権利が及びま す。これが「排他的な権利」です。どうやって商標権を取れるかというと、先ほども説明しました ように、商品または役務を指定して特許庁に出願して審査、登録という手順になります。これが 6 条って書いてありますけれども、5 条にも書いてあるので、5 6 条というように条文番号、5 1/80

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Page 1: 商標法 - 北海道大学...商標法 <商標法(1)> 「第6 章 商標法」ということで、これから商標法を解説します。最初に「登録商標制度の意

商標法

<商標法(1)>

「第 6 章 商標法」ということで、これから商標法を解説します。最初に「登録商標制度の意

義」を簡単にやって、「登録主義の補完」というところに入っていきます。

まず商標の具体例からいきますと、配ったこの紙があると思いますけれども、これは札幌の

チーム、コンサドーレ札幌のキャラクターの商標です。これはコンサドーレ札幌と書いてあると

ころと、このフクロウ、タカ、何か分からないけれど、このキャラクターが一体になっているのが一

体としての登録商標です。これを商標広報といって、特許庁から発行されていて、今インター

ネットからもダウンロードすることができます。左上に書いてあるのが登録商標の番号です。商

標というのは説明しますけれど、特許庁に出願をして登録を受けて初めて一人前の権利になり

ます。登録日というところが書いてありますけれども、この日にめでたく審査を通って、登録がさ

れたということになります。

上の方の右側の方にいって、出願日というのが上から 3段目にあります。平成 8年 12月 18

日に特許庁に出願されたというわけで、審査にだいたい 1 年半ぐらいかかっています。だいた

いこれくらいの時間がかかるみたいです。早いと 8カ月か 9カ月で取れるというふうに聞いたこ

とがありますけれども、1年半というのはきっと平均的な数字なのでしょう。だいたいこれくらいの

時間がかかります。

下の段にいって、41の数字の後ろにいろいろ書いてあると思いますけれども、これが指定商

品とか指定役務とかいわれるもので、商標の特徴の 1つというのは、この商品、役務というのは

サービスですけれども、役務と関連して出願をして権利が発生するということです。マークだけ

ではないのです。商品とか役務をある程度、決めなくてはいけない。決めて、それとの関連で

権利が生まれます。これはサッカーなので、スポーツまたは知識の享受に入るのでしょうか。あ

とはサッカーゲームの企画とか、真ん中へんにあります。もちろんコンサドーレが出しているの

はこれだけじゃないのです。たくさんたくさん出しています。あるいは指定役務、例えばサッカ

ーのレプリカユニフォームとかサッカーボールとか、そういうのがこの指定商品役務に入ってな

いのですけれども、別の出願でもちろん取ってあります。商品役務を変えれば、同じマークで

もたくさん取ることができるのです。こんな感じで登録商標というものを取ることができます。

「制度の概観」ということですけれども、先ほどいいましたように、商標権というのは「商標と指

定商品、役務の関連で発生する排他的な権利」です。これが 25条と 36条と 37条に書いてあ

ります。25 条を見ておきます。商標だから小さい法令集だと部分的に省かれているやつもある

かもしれないですけれども、25条です。商標権の効力。36条。差止請求権。37条の方には類

似の方の決まりが書いてあります。ですから商品役務との関係で決まるのですけれども、同一

および類似の範囲で権利が発生します。同一だけじゃなくて、類似の範囲まで権利が及びま

す。これが「排他的な権利」です。どうやって商標権を取れるかというと、先ほども説明しました

ように、商品または役務を指定して特許庁に出願して審査、登録という手順になります。これが

6 条って書いてありますけれども、5 条にも書いてあるので、5 条 6 条というように条文番号、5

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Page 2: 商標法 - 北海道大学...商標法 <商標法(1)> 「第6 章 商標法」ということで、これから商標法を解説します。最初に「登録商標制度の意

商標法

を追加しておいてください。5 条の方には、5 条 1 項 3 号ですか、指定商品役務。6 条の方に

商品を使用する商品役務を指定して出願しなきゃいけないというふうに書いてあります。特許

庁の登録を受けなくてはいけないというのが、表示を保護する不正表示の防止の 2 条 1 項 1

号との一番大きな違いです。ここが違います。一番大きな違いです。

審査については、審査には当然、要件があります。商標を取るための要件が 3条と 4条に書

かれています。これだけじゃないですけれども、メインは 3 条と 4 条です。これは順次、後の方

で説明します。

これを満たしていないと、権利を取れない、すなわち「拒絶査定」を受けます。これが、15 条

です。15条の方には「拒絶査定」、どういう要件を満たさないと拒絶になるかということが 1号、2

号、3号に書いてあります。ちょっと抜けています。要件を満たしていないからといって、即座に

「拒絶査定」を受けるわけではなくて、「拒絶理由を 1 回通知」してくれます。これが 15 条の 2

です。出願人の手続保護の要請です。審査官も人間なので、見落とすことがあります。拒絶の

理由を見落とすことがありますが、その後、「過誤登録」になってしまう。ただ「過誤登録」になっ

た場合も、「無効審判」というのが用意されていて、事後的に無効とすることができます。これが、

商標法 46条。無効審決が確定すると、商標登録が初めからなかったものになります。「遡及的

消滅」といっていますけれども、これが 46 条の 2。審決確定したときから消滅ではありません。

最初からなかったことになります。これが「権利の概観」です。商標の審査の手続きはそれほど

ややこしくないので、特許のところでもっとややこしいのを説明します。権利を得ると権利の公

示のためにこれが出るのです。

次は、「登録主義」についてです。日本の商標法の制度を「登録主義」という風にいいます。

対立する概念が「使用主義」です。ちょっと下に書いてありますけれども。日本、ドイツも「登録

主義」を取っています。「使用主義」は、アメリカです。これは、何が違うかというと、「登録主義」

というのは使用していない商標についても商標権を取得することができます。「使用主義」とい

うのは何かというと、使用していることを登録の要件にする主義です。使用していることを登録

の要件にする主義のことを「使用主義」といいます。登録をしないでも権利を発生する権利のこ

とを「使用主義」という人がいますけれども、普通は使用を登録の要件にするのが「使用主義」

といいます。

プラス日本は「先願主義」というのをとっていて、「登録主義」なんだけれども、2 つ以上の同

じ出願があったときは最初に商品を出願した人に権利をあげます。4条 1項 11号と 8条 1項

に書いてありますけれども、プラス「先願主義」も取っています。これは、どういうことかというと、

「登録主義」でも「登録主義」とはいいながら、ダブったら先に使用した人に権利を渡すという制

度も考えられないわけじゃないですけれども、そこは「先願主義」を取っています。

「登録主義」と「使用主義」は対立していて、アメリカは「使用主義」といわれていますけれど

も、どうして日本が「登録主義」を取ったかといいますと、「登録主義」については権利の安定性

というのを掲げる人もいますが、「使用主義」というのはもともと使用を登録の要件にしているの

で、権利の安定性というのは「登録主義」のいいところであって、別に「使用主義」と「登録主

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商標法

義」と差ができるというわけではないのです。

「登録主義の合理性」というのは、むしろ「先行投資としての商標権」を認めるところに意味が

あります。あらかじめ「先行投資としての商標権」、田村先生は「商標の発展促進機能」とおっし

ゃっていますけれども、これはどういうことかといいますと、もし「使用主義」だと困ることがある。

それは商標を選ぶのにすごいお金がかかるということがあります。

例えばこれはお茶なんだけど、生茶。生茶というと何か淹れたてのお茶って感じがするじゃ

ない。生茶。2 文字だからたいしたことはないのかもしれません。コンサドーレもそうです。これ

は、有名な話ですけれども、J リーグのサッカーチームの名前というのはできるだけ造語のほう

がいいっていわれているのです。やはり、皆さんやったと思いますけれども、普通名称の問題

とか商標権のバッティングを避けるため、幅広く、さっきもいったけれども、レプリカユニフォー

ムとかサッカーボールとかいろいろあるので、商標展開を楽にするためにできるだけ造語でや

ろうということがJリーグ全体のコンセンサスになっている。コンサドーレ札幌というのは「どさん

こ」を逆さまに読んでコンサドーレになったといわれていますけれども、これはとてもいい造語だ

と思います。

いろいろな商品、役務を売るときに、頭を、知恵を絞って、あるいはマーケティング調査なん

かもして、結構皆さん莫大な費用をかけて商標を選んでいます。すごいお金をかけてじっくり

商標を選ぶ。どうせだったら売れる商標がいい。商標で商品の売れ行きがかなり左右されると

いわれています。ただし「使用主義」だと、せっかく頑張って選んだ商標を、よし、決まった、さ

あこれから使うぞ、というときに、ぱっとほかの人に先に使われてしまうのです。先に使ったほう

に権利がいってしまうと、その商標選定に使った莫大な費用が焦げ付いてしまうわけです。回

収できなくなってしまう。あるいは、さあコンサドーレに決まった、これから使用を始めよう、と思

っても、やはり使用を始めた直後にほかの人が使用を開始して使用前後がよく分からなくなっ

てしまう。そういう場合は商標を選ぶのに莫大なお金、時間もそうですけれども、かけたものが

パーになってしまいます。それを防ぐために「登録主義」を取っているわけです。ですからじっ

くり時間をかけて商標を選んだ後、出願して権利を取っておけば、すぐに使用を開始しなくて

もいい、さらに慎重に商品を設計する時間もあるでしょうし、商標が先に決まって商品がまだで

きていないというケースもある。その場合でも選んだ商標は確保することができます。いったん

商標を取ってしまえば、使用したり、あるいは周知させたりすることを焦る必要がなくなるわけで

す。じっくりやることができる。それを田村先生は「商標の発展促進機能」といっています。分か

りやすくいえば、先行投資です。ですからいろいろな企業がいい商標を思いついたら、皆さん

どんどん出しています。「登録主義」の弊害もあるのですけれども、商標を取っておいて後から

じっくり宣伝をすることができるというところが、「登録主義」のいいところです。それが 2番のとこ

ろです。

2 と 3 の間ですけれども、さっき「使用主義」にも使用と登録の要件にする主義と、使用だけ

すれば保護されるというのがありますけれども、日本でも実は一部、「使用主義」の法制を取っ

ています。皆さんも勉強をした、2 条 1 項 1 号がかぎカッコつき「使用主義」です。2 条Ⅰ項 1

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商標法

号の方は、これは登録がなくても保護される制度です。だから部分的にカッコつき「使用主義」

を日本は取っています。ですから同じ商標について、2条 1項 1号の保護と商標法の保護と両

方を受けることができるわけです。並存しているわけです。2条 1項 1号にはまた別の要件があ

るので、部分的という言い方のほうが正確だと思うのですけれども、部分的にカッコつき「使用

主義」を日本は取っています。

日本の商標法を考える上では、どうして 2条 1項 1号と、2号もそうですけれども、商標法が

2 つあるのかということをよく考えなくてはいけないのです。商標だけを見ていても分からないし、

2条 1項 1号だけを見ていても分かりません。これが「不競法の規律の関係」です。有利不利な

点があります。商標権の方が有利な点は、何といっても、「使っていなくても保護」される。これ

が 1 番です。もう一つ。形式的に侵害が決まります。だから「混同のおそれがいらない」です。

権限のない第三者が使っていれば、原則、それだけで権利行使ができる、それが商標権のい

いところです。2条 1項 1号では、周知で類似で混同、三つ必要です。周知で類似があったら

だいたい混同しますけれども。商標権はその立証がいらないです。同一類似の範囲で権限の

ない第三者が使っていれば、それだけで権利行使ができます。これが一番違うところです。一

番違うところを 2ついっちゃった。こっちの方が大きいです。ごめんなさい。

一方、不競法の方が有利な点。これもひとえに登録のいらないところです。逆にいえば、商

標法の方がちょっと不利な点。登録を必要とする。登録にはさっきいったように、時間もかかる。

プラスお金もかかります。これは商標法の不利な点です。それからもう一つ、不競法の方が有

利な点は、混同のおそれがあればいい。商標法の場合は、原則、商標プラス指定商品役務で

同一類似の範囲でしか権利行使ができないです。これが商標法の不利な点、不競法の有利

な点です。さらに 2 条 1 項 2 号の場合は、混同のおそれがいらないと書いてあります。2 条 1

項 2 号についての利益衡量説というのは、以前にも勉強したと思います。それはともかく混同

のおそれもいらなくなる。ということでさっきいったように、2 つ法律があるという意味をどこに求

めるのかというと、結局は役割分担です。得意なやつが得意なことをやればいい、苦手なこと

はやる必要がないというのが、役割分担の観点です。

不競法の役割は「具体的な信用の保護」です。現実にある信用の保護です。周知の限りで

保護。周知でなければ保護しない。周知だったらどこまででも保護する。周知性の縛りがある

おかげで、いちいち登録がいらないという法制になっています。周知の限度なので、地理的に

も周知の限りということです。具体的な混同のそれの立証が必要というのが弱点としてあがって

いますけれども、具体的な混同の立証が必要なおかげで商標制度と並び立つことができるの

です。これで、例えば、混同のおそれもいらない、周知も実はたいしたこともないということであ

れば、不競法だけでいけばいいという話になります。2つ制度があることをどういうふうに分担す

るかというところで、不競法の方は登録はいらないのだけれども、要件がたくさんある。周知で、

類似で、混同。商標法の方は登録という手続きが必要だけれども、形式的に類似していれば

いい。使っていなくてもいいし、現実の混同もいらない。これが役割分担です。

ここに書いていないことがもう 1 つあります。さて不競法では周知の限り保護する。周知の限

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商標法

りというのは地理的なことももちろん入っています。丸井今井が北海道でしか周知でなければ、

保護の範囲は北海道だけ。一方、商標法というのは、地域は観念しません。登録されてしまえ

ば日本全国で保護されます。だから丸井今井が商標権を取っていれば、鹿児島でも長崎でも

高知でも使うことはできません。それが商標法の強いところです。

不競法の方が制度としてはすごく軽いです。商標法の方は登録制度を作ると登録を管理す

る所、具体的には今は特許庁がやっていますけれども、登記制度でも何でもそうですけれども、

登録制度を取るとどうしてもそれを管理する役所が必要です。役人になりたい人にとってはい

いかもしれないですけれども、役所を作るということは国家として金がかかる。商標法は登録制

度があるけれどやはり混同が必要だとすると、不競法があるのにわざわざ金をかけて役所を作

る意味がなくなるのです。役所を作る、しっかりとした登録制度のある権利を作る場合は、ほか

の制度と比べて保護が強くなければ意味がないです。役人のために役所を作るのではないの

で。その辺を考慮しながら理解してくれるといいかなと思います。

それから商標法の役割をもう 1 つ。「財産的価値の向上」ということが書いてあります。譲渡

が可能になります。登録制度があるおかげで対抗要件、効力発生要件を備えることができるの

で、譲渡ができるようになります。不競法の請求権者の地位については以前にやったと思いま

すけれども、原則できない、差止請求権ができない、損害賠償もできない、損害賠償で勝って

債権化すれば債権譲渡できますけれども、原則できない。商標法の場合は譲渡ができる。例

えばコンサドーレ。不幸なことに、コンサドーレが J2からも落ちてチームがなくなっちゃった。か

わいそうに、不吉なことをいうな。でもいいよね、これくらい画としても刺激があったほうが。その

場合で、コンサドーレのこのロゴだけ残っちゃいます。しょうがない。せめてロゴだけでも売ろう。

そういうことができるようになるのです。割と商標というのは譲渡が頻繁になされるといわれます。

どこの会社もストック商標を山のように抱えているのです。どうせ使わないのだったら、ほかの会

社が使いたいというのであれば、欲しいといえばあげる。結構安く、ウン十万の単位で取引さ

れているというふうに私は聞いたことがあります。これが「財産的価値の向上」というところに対

応するところです。これが 2 つの法律の役割分担です。不競法はお手軽だけど狭い、商標は

金も手間もかかるけれども強いというところを押さえておいてください。これが Iのところです。

次に「登録主義の補完」と出てきますけれども、「登録主義」というのは「先行投資としての商

標権」、「商標の発展促進」を促しているというところでとても理由のある、合理的な制度だと今

説明したつもりですけれども、悪いところもあります。悪いところがあるから「使用主義」を取って

いる国もあるということになるのです。最大の悪いところが、使わない商標が山のように登録さ

れるということです。これが今回の 1 番目に話す、「不使用商標対策」です。2 番目に「具体的

な信用をすでに得ている商標に配慮」しなくちゃいけないということ。要するに、今、信用が化

体している商標は登録できないって話ですけれども、それが 2 番目。3 番目がその他「登録制

度の濫用対策」です。これが「登録主義」の補完になります。

最初は「不使用商標対策」です。「登録主義」といえども、商標そのものを保護する制度では

ないです。もちろん。不競法のところでもやったと思いますけれども。商標を保護することによ

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商標法

って商標に化体している信用を保護するのが、商標制度。2 条 1項 1号でもそうだと思います

けれども、あれは表示そのものを保護しているのではなくて、表示を通して信用を保護している

のです。その点は別に「登録主義」と変わるところはないです。表示を通して信用を保護してい

るというところは変わるところはないのですけれども、「登録主義」である以上、使用を登録の要

件としていないのです。だから使っていない商標がたまります。使っていない商標は当然信用

も化体しません。だから「不使用商標」というのを何とかしなきゃいけません。「不使用商標」の

ことをストック商標なんていいます。今、何割ぐらいストック商標なのだろう。野暮勘でもたぶん 6

~7 割はストック商標だと思います。将来使うかもしれない商標の登録を認めるのが「登録主

義」なので、それ自体は間違ってはいないのですけれども。でもやはりたまる。人間、念のため。

特に商標は特許庁に出してくれというと、それだけで話が済むので、割と金さえあれば気軽に

バンバン登録できちゃうのです。どうしてもたまりがちになる。これは「登録主義」の構造的な欠

陥というほかないです。これをどうにかしようというのが趣旨です。

ストック商標が山のようにたまる。信用が化体していない。本来は保護する必要のない商標

が山のようにたまる。これは他人の商標選定の自由が妨げられるというデメリットがあります。同

じ商標は登録できないのです。後から説明しますけれど、同一類似の商標は 1 人にしか登録

できない。なので、2 番目にコンサドーレを使いたいという人は取れない。ストック商標は使って

もいない商標なのに、他人の商標選択が妨げられる。これがよくないところの 1個目。それから

お役所のコストの増大です。お役所の事務が滞る。もう 1個。第三者のサーチの負担が大きい

です。どういう話かというと、さっきもいいましたように、商標は使っていなくても保護されます。

だから概念的には、自分が市場で見たこともない商標を使ったつもりなのだけど、実は他人に

商標権が取られていて、それが権利侵害になるということがあり得るのです。だから商標を取り

たいというときだけじゃなくて、使いたいというときもサーチ、この世界ではサーチって言葉はよ

く使います。誰かが商標権、特許権を持っていないかとか、先行商標調査、先行技術調査、こ

の商標を使っていいかな、この発明を使っていいかな、あるいはこの商標を出したいな、この

特許を取りたいなというときに、先行している特許権、あるいは商標権がないかどうかを探すの

をサーチというふうにいいますけれども、この負担が大きくなります。街で見たことのない商標を

使ったはずなのに、誰かから警告状が来るってことが「登録主義」にはあり得ます。その負担が

大きくなります。要するにお気軽に商標を使えなくなってしまうのです。あまりにもストック商標

が大きいと。そういう話です。

どういう対策を取っているかというと、2)へ行きますけれども、これは概念的というか建前上な

のですけれども、「登録主義」といえども、一応「使用の意思を必要」としているといわれます。

使用の予定、いつかわからない予定。一応なくちゃいけないという話になっています。これは 3

条 1 項柱書のほうで読むというふうにいわれています。自己の「業務に役務に係る商品または

役務について使用する商標」については、この使用するというところで使用の意思がなきゃい

けないのだ、いけないらしいです。どうしてこういう話になっているかというと、実は昔は使用計

画書とか出せとかいわれた時代があるのです。具体的な使用計画書。嘘八百なのでしょうけれ

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商標法

ども。一応計画はこういうふうに計画しているよと、それにしたって形式的な手続きだったので

しょうけれども。一応何かいわれたときは使用の計画書を出さなきゃいけない。あるいは、後で

説明をしますけれども、更新登録のときには使用実績を出さなきゃいけないとか、実績がない

ときは計画でいいとか、そういう話が昔はあったのですけれども、条約の関係でなくなりました。

具体的に使用の計画とか実績を証明する必要はないです。ないのですけれども、観念的に使

用の意思が必要だといわれています。一応審査でも使用の意思という要件をなくしてはいない

ことになっています。ただし「登録主義」というのは使用要件、本当は現実の使用要件としてい

ないのであまり厳しくいうことはできないです。使用実績がなきゃ登録できないっていったら、そ

れは「登録主義」じゃなくて「使用主義」になってしまいますからそこまではいえない。ですから

観念的なものにならざるを得ないのです。

そこで当然期待されるのが、3)の「取消審判」になるわけです。事後的な登録抹消制度です。

「不使用商標取消審判」。これは、使っていない商標の事後的な登録抹消制度です。事後的

というところがポイントです。これは 50条です。ちょっと 50条を見ましょうか。継続して 3年以上

使っていない登録商標は、何人も、商標登録を取り消すことについて審判を請求することがで

きる。これが事後的な不使用商標取消の制度です。使ってないやつを誰かさんが見つけて、1

件 1件消していく制度です。だから例えば、コンサドーレの商標を使いたいな、でもなんか使っ

ているぞ、でもコンサドーレの商標はたくさんあるけれども使っていないやつもあるみたい、だ

ったらそれ使いたいので抹消してしまえ。そういうことができる制度です。50 条。これは 3 年間

継続して使用されていない商標の登録を審判、これは特許庁に審判を提出することになりま

す。審判といっているのは、裁判所じゃなくて特許庁です。これを事後的に取り消す制度です。

逆にいえば、3 年以上使用のブランクがあると、取消審判に係る可能性があるということです。

現実的に考えれば、登録してから 3年以内くらいまでには使ってくれよということになります。あ

くまで誰かさんが請求しないと取り消しにはならない。特許庁の方で使用実績を見ていってパ

ンパンパンとはねるわけではないので、ラッキーであれば 10年でも 20年でも残ります。誰にも

見つからなければ 10年でも 20年でも残る。むしろそういう商標の方がほとんどです。ただニー

ズがある商標については、使ってない場合は取り消しを認めましょうという話です。

要件、効果の方にいってしまいますけれども、請求人は何人です。ですから誰でもできます。

誰でもできるけれども、名無しの権兵衛ではだめです。話を戻しますが、何人でも請求すること

ができます。皆さんでもいいのです。好きにやってください。ただこれは書いてありますけれど

も、「1996 年改正」で何人になったので、昔は実は利害関係人に限られていました。別に条項

に利害関係と書いてあったわけではないですけれども、裁判例で一定の利害関係が必要とさ

れていました。利害関係が必要といっても、昔は具体的な紛争当事者だけではなくて競合して

いればいいという程度の縛りだったので、ほとんど何人に近かったのですけれども、これは特

許のところで話すと思うのですけれども、審判をやるときに、仲良くしている会社だとなかなか

会社の名前を出しにくいのです。そのときにダミー、ダミーって分かると思いますけれども、ダミ

ーを立てる必要があって、昔はこのダミーがちょっと立てにくかった。今は何人になったので、

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商標法

ちょっと自分の会社の名前を出したくなければ、例えば従業員の名前で出すとか、あるいは代

理を頼んでいる代理士さん、弁護士さんの名前でやってもらうとか、そういうことが可能になりま

した。これはかなり公益的な側面があるから何人に変わったわけです。先ほど「登録主義」の

構造的な欠陥だというふうにいいましたけれども、割と他社の商標選定の自由が妨げられると

か第三者のサーチ負担とか、割と 1人の人に還元できないデメリットというか、みんなのデメリッ

トというか、公益的なデメリットの側面があったので、これは何人でもいいだろうということで何人

に変わったのです。「1996 年改正」。これはよく出てきます。1996 年は商標法大改正の年でし

た。平成 8年です。

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商標法

<商標法(2)>

レジュメ 3)のc)からです。「使用」50条 2項と書いてあります。時系列があって、どのくらい不

使用だったら取り消されてしまうかという話ですけれども、50条 2項の方に「審判請求の登録前

3 年以内に」使っていないとだめよと書いてあります。登録というとどういう話かというと、これは

審判請求をした後に審判請求があったことが、これを予告登録というふうにいっていますけれ

ど、商標には登記簿みたいに商標原簿というのがあるのです。そこに取消審判が提起されまし

たよというのが記録されます。それのことを登録っていっています。

これ、「商標登録令 2 条」って書いてありますけれども、「商標登録令 2 条」というのは皆さん

の法令集にはないです。きょう、誰か持ってきているかな。発明協会が出している小さいサイズ

の、『工業所有権法令集』、今、『産業財産法令集』になっているかもしれないですけれども、

分厚い文庫本みたいな法令集がありますけれども、そっちに書いてあります。「商標登録令 2

条」を見ても書いていないです。これは準用する特許登録令 3条の方に書いてあります。

登録前 3 年です。ここから 3 年間。これが 3 年。審判請求の日から見るのではなくて、審判

請求の登録日からさかのぼって 3 年以内に使っていない場合が取り消しされます。ただ自分

で使っていなくても、ライセンシーが使っていてもいいのです。使用権者の方が使っていても

それは構わない。審判請求を受けた取消審判の方も、取り消しを求める指定商品役務を指定

します。そのいずれかについて使っていないといけません。ここにはいろいろな論点があるの

ですが、講義で取り上げている時間はないので割愛します。

何が重要かというと書いてあります。要するに普通は審判請求の登録があってから初めて商

標権者が知ることになるのです。相手から警告が来る場合もありますけれども、ここから使用し

てももう遅いのです。請求を受けてから使用を開始しても遅い。じゃないと、みんな「空振り」に

なってしまいます。審判請求が来たら使えばいいなんていったら、誰も使わない。来てから初

めて使えばいい。あるいは来ても使わないというのは本当にいらないということなのでしょうけれ

ども。これだとほとんど「空振り」になっちゃって「審判を請求する人のインセンティブ」の方がな

くなっちゃいます。これでは誰もやる気にならない。もちろん対して商標権者の方で使えない

理由というのが正当であればそれは取り消しにならないですけれども、普通考えても商標権者

の販売計画とかあるいは会社がうまくいかないとか、そういうのであればあまり正当な理由とは

いえないような気がします。商標選択の自由を妨げて、なお、商標権者に商標権を維持させる

だけの理由でないといけないわけなのです。例が書いてありますけれども、医薬品について商

標を選んでいるのだけれども、承認申請がおりていない。承認申請について後で特許の方で

やりますけれども、厚労省の方から許可が出ないと薬が売れないので、そのときに薬の名前が

使えない。裁判例がないのであまり具体的なことはいえないですけれども。正当理由がなけれ

ば消されちゃいます。

で、論点というのが「駆込使用」と「形式的使用」。誰しも考えますが、「駆込使用」、「形式的

使用」をどういうふうに考えるのかというところが一番の論点になります。

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商標法

この点について「VUITTON」という天下の LOUIS VUITTON様ですけれども、事件がありま

す。これは知的財産法の教科書の 105 ページをめくっていただくと、右上のところに商品のご

案内という、これがあると思います。どういう話かというと、レジュメに X さんと Y さんが出てきま

すけれども、これは Y さんが天下の LOUIS VUITTON様です。取消審判の請求に X というの

は、これは「ビトンハイ」という商標を現在、出願している人です。現在というか、事件の当時出

願していた人です。どうしても化粧品に「ビトンハイ」を使いたかったみたいなのです。特許庁

の方は X さんが出願した商標出願について、当然、天下の LOUIS VUITTON 様の

「VUITTON」に類似するということで、「拒絶理由」が出ています。「ビトン」、「VUITTON」、類

似でしょう。せっけんです。

そこで X さんは LOUIS VUITTON様と交渉に行きました。交渉しつつ、これは商標権の譲

渡だったかな、ライセンスも当然含んでいたと思いますけれども、譲渡または譲渡取消、放棄

か、あり得るのは。そんな交渉をしていて、そうしてもせっけん類について「ビトンハイ」を使いた

かったみたいなのです。物分かれに終わった場合には、「不使用取消審判」をおれはやるぞ、

その準備があるといったのです。だからこのへんかな、きっと。これが 90年 6月 6日。でも X さ

んは強硬に頑張ったのですが、交渉はあえなく決裂して審判を請求した。これが 90 年 7 月 5

日。その後、予告登録がされて、これが 8月 17日。こういう時系列になっています。

Y さんはどうしたか。Y さんは実はせっけん類には使っていなかったみたいなのです。

「VUITTON」のせっけんって知っている? 知らない。知らない方が講義がどんどん進みます

けれども、7 月 16 日、このへんに使いました。VUITTON 様が。それが教科書に載っている絵

です。これはどういうふうに使ったかというと、別に「VUITTON」というせっけんを売ったわけじ

ゃなくて、日本工業新聞に広告を出したのです。商品のご案内。天下の LV マークが、日本工

業新聞に商品のご案内を出すという。なんか小さいところに、香水、レザークロス、スカーフ…

…。いろいろ、その他多数。こんな広告を出さなくたってこんなの売っているのを知っています

けれども、広告を出したのです。これを「使用」だといいたいのです。LOUIS VUITTON 様は。

でも実際に、いくらLOUIS VUITTON様でも 1カ月かそこらで商品を出せないので、とりあえず

広告だけ。広告は形式的には「使用」にあたるのだろうというのが LOUIS VUITTON様のおっ

しゃりようで、ちなみに商標についての「使用」の規定というのは、2条 3項の方に「使用」という

のは書いてあります。登録商標についてこういう「使用」をおっしゃったら侵害になるとか、そう

いう「使用」という言葉が商標法の条文にたくさん出てきますけれども、それを定義規定で 2 条

3項というのがあって、広告というのは一応 8号にあります。だからLOUIS VUITTON様は広告、

2 条 3 項 8 号の広告をしたのだということで免れたいということなのですけれども、判決の方で

は「不使用取消審判を免れるための形式的、駆込的使用」なのでだめよ、ということで結局取り

消しになったのです。「駆込使用」と「形式的使用」という問題点があって、「駆込使用」、要する

に審判請求をされると知ってから使ったのです。こういうのを「駆込使用」といいます。

立法的な解決があります。それは 50条 3項です。「審判請求をされることを知った後に使用

を開始した場合」は、使用の開始が審判請求前 3 カ月。審判請求プラス予告登録までの間で

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商標法

すけれども、この場合は審判請求をされることを知った後に使った場合で、この黄色の範囲に

入っている場合は取消しを免れない、「使用」ではないというふうに、3 項の方で決まっていま

す。1 項の方では上の黄色のところで使っていなければ不使用、取消しになる。でもこの

LOUIS VUITTON のケースでは、審判請求を知った後、登録前に使っているので、3 年の間

に「使用」があるのです。まごまごしていて、審判請求が登録されてからここだと、さっきいった

ように、後追いで使用するのはだめって話ですけれども、形式的には黄色い時間帯に入って

いる。X さんとしては、審判請求をするぞってそこまでいわなきゃよかったのでしょうけど、いわ

なくてもばれることはあります。この下の黄色い期間に使った場合は、審判請求をされることを

知った後にこの黄色い期間で使うと、それは取消を免れないと。これが 50条 3項です。これが

駆込使用防止の条文です。これは 96 年改正で入ったところです。だからこの「VUITTON」ケ

ースではもう 96 年改正、つまり現在ではこれは「駆込使用」なので、取消は免れないということ

になります。

もう 1 つ、「形式的使用」に過ぎないのではないか。さっきいったように、2 条 3 項というのは

「使用」を定義している規定です。かつ、ニュートラルな状態で定義が書いてあるのです。「使

用」というのは、いろいろな場面で商標法の中で使われています。もちろんこの場合もそうなの

です。もう 1 つ、侵害の場面でも出てくるのです。他人が「使用」している場合は差止請求がで

きる、あるいは損害賠償請求ができるという、侵害の場面でも使われる規定です。ですから、侵

害の場面と同じに「使用」の概念を考えていいのかという問題が出てきます。例えば侵害の場

面で「使用」が問題になっているときというのは、LOUIS VUITTON じゃないところが日本工業

新聞に広告を出す。これなんかざっと考えてもまずいような気がします。侵害の場面ではこの

程度の広告でも侵害すべき。LOUIS VUITTON さん以外の人が広告をしてもいいということに

はならないです。例え日本工業新聞でも。一方、商標権者の方の「使用」。「使用」を取り消す

べきかどうかという場面では、3年間で 1回きり 7月 16日の日本工業新聞にこのサイズで、サ

イズはちょっと分からないですけれども、商品のご案内、LOUIS VUITTON、はっきりいって適

当です。この広告。香水、かばん、何でも来い。何のために広告したのだ。まさしくこの取消審

判を逃れるためだけの目的で広告をしたのではないのか、当然そういう疑問が出てきます。こ

んなのは「使用」っていえないです。こんな広告だけで商標権を維持させておくべきじゃないで

す。全然こんなの信用が化体しないです。概念の相対化です。「使用」の概念というのを、侵害

の場面と不使用取消の場面で分けて、それぞれの法律の趣旨に沿って考える。この場合は

「使用」とはいえないです。だから取消して構わない。どうせ信用なんか化体しないです、こん

な広告では。ということで、「駆込使用」もだめ。プラス「形式的な使用」に過ぎないから不使用

取消の審判、取消しを免れないというふうに「VUITTON」判決をまとめたいと思います。

ただなお書きで、「本件の最終的な解決は?」というふうに書いてありますけれども、ここから

ははっきりいって余談ですけれども、「VUITTON」というのはもう私でも知っているので、「著名

標章」、周知を超えて著名な商標といえると思いますけれども。確かにこの「VUITTON」のせっ

けんとかについて「VUITTON」の商標が取り消されたとしても、4条 1項 15号という条文があり

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商標法

ます。4条 1項 15号、後で説明しますけれども、4条 1項 15号の方には「混同」がどうのこうの

って書いてありますけれども、要するに著名商標はほかの人は取れないという規定です。なの

で、どうせ X さん、取れないのです、あろうがなかろうが。だったらせっけんについての

「VUITTON」の登録商標、別に取り消さなくてもいいんじゃないのという疑問もないわけじゃな

いんですけれども、使ってない商品役務について商標権の保護を及ぼしたい場合というのは、

実は「防護標章」という制度があるのです。後でちょっとだけ説明しますけれども、「防護標章」

というのは著名商標については使っていなくても保護される。だから当然、「不使用取消」には

かからない。そういう条文が 64 条にあります。64 条、今、見ても、ぐちゃぐちゃなので分からな

いと思います。一応、保護制度としてはそういうことになっています。だから VUITTON としては

どうしてもせっけん類について話したくなければ、「防護標章」の方をせっけん類について取っ

ておけばよかったのです。「防護標章」は使わなくても取り消しにならないです。そっちが筋。

VUITTON としてもせっけん類について取り消しされても、本体の方の香水とかかばんの方の

登録商標は残っていますから、防護は別途取れます。プラス不競法も残っています。特に 2号

です。「VUITTON」、著名なので 2 号を十分使えると思いますけれども、Xの「使用」の方は止

められます。だからXがこれで 15号があるので取れないといいましたけれども、仮に取れたとし

ても、使えないです、VUITTONの方は。だから別にVUITTONがせっけん類について登録を

残しておく必要はないです。判決のとおりでいいって話です。どうせ VUITTONの方には 1号

または 2号が残ります。なので、これは余談ですけれども、深く勉強したい人はこういう考えもあ

るということを覚えておいてほしい。「VUITTON」の事件で重要なのは、「駆込使用」と「形式的

使用」です。

「駆込使用」の方は立法的な改正がされましたので、ほぼ問題はなくなっているはずです。

可能性があるとすると、審判請求の 3カ月前に知った場合かな。その場合は 3項の方からいけ

ると思いますけれども。だから実務的には取り消ししたいと思っている相手方と交渉したら、さ

っさと審判請求をしろということです。ぼやぼやしていると 3 項の恩恵が受けられなくなる可能

性が残ります。その場合でもこの「駆込使用」という法理が生きる可能性がないではないですけ

ど。相手方に交渉に行ってから 3 カ月以内には審判請求をしたほうがいいねって話です。審

判請求しっちゃってから交渉がまとまったら取り下げればいいだけの話なので、まごまごしない

ほうがいいということです。

「形式的な使用のその他の例」として、ここに裁判例 2 件、「日曜夕刊」事件と「武田薬品」事

件というのをあげておきました。「日曜夕刊」事件というのは、「日曜夕刊」というのが商標だった

のかな。それで使っていなかったのですけれども。町に新聞を配るステーションってありますよ

ね。新聞屋さん。自分では刷っていないのだけれども、新聞社の印刷所から持ち込んで、仲

卸みたいに各家に配る。バイクがたくさん置いてあって、営業に来る人はみんなそこからくると

思うのです。そういう取次販売者、新聞の配達ステーションみたいな所に、ときどきあるよね、

120円ぐらい入れとくとバッと開けて中の新聞を持っていけるという。あそこに無料で 500部ぐら

いの号外みたいな感じなんですかね、「日曜夕刊」って書いて刷ってあったやつを好きに持っ

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商標法

て行ってくださいよ、みたいな感じで、店の前に差しておいたケースですけれども、その程度で

は、指定商品は新聞なので、不使用取消を免れないという事件がありました。

もう 1 つは「武田薬品」事件。これは折り紙の事件なんですけど。これは本当は更新登録の

事件なのです。後でやりますが、商標権は 10 年ごとに更新の制度があるのですけれども、昔

は更新するごとに使用実績、あるいは使用計画の提出を求められていたのです。だから「使

用」のチェックがあった。なので、取消審判のケースではないのですけれども、広義としては同

じで構わないと思います。タケダ会とかいう、町の薬局のネットワークがあるのです。もちろん武

田薬品のタケダですけれども。武田の薬を売ると折り紙がもらえる。その折り紙を武田薬品の

子会社だか委託業者だかがなんかが作っていたのです、確か。折り紙のところに、武田のあの、

丸、三角、白と赤のマークかもしれないですけれども、折り紙というより折り紙のパッケージなの

かな、そこに武田のマークを載っけておいたのですけれども、もちろん指定商品は薬品じゃな

くて紙類の方なのですけれども。そういうおまけの「使用」では不使用による取消を免れない。

「使用」とは認められないという裁判例がありました。

この裁判例についてはノヴェルティーと書いてありますけれども、本来の商品にくっつけて

売るおまけというか、販売促進用のグッズというか。そういうノヴェルティーは商標法上の商品

にはあたらないという説示、そういうふうに解釈している学説もあります。ノヴェルティーグッズは

商標法上の商品じゃないと解釈している学説もあるのですけれども、田村説、私はあまり深く

考えていません、たぶん田村説でしょう、「使用」の方で形式的な使用に過ぎないという方に引

き寄せて解釈しています。そっちの方が素直かな。商品かどうかで争うのってあまり生産的じゃ

ないです。形式的な使用例としては、この二つぐらいあります。

それでd)の方にいきますけれども、「取消審判の効果」です。「取消審判の効果」は取り消さ

れます。54 条 2 項の方です。「取消審判」が確定した。審判が不成立だったら、当然、登録商

標は維持ですけれども、取り消しになった場合は審判請求の登録の日にさかのぼって、この

日にさかのぼって商標登録が取り消しになります。どうしてかというと、実は昔は確定後からだ

ったのです。この改正前は。確定したらその後、消滅するということだった。今は登録になりまし

た。昔は確定までは商標権は残っていた。残っていたということはどういうことかというと、審判

が確定するまで、取り消しが確定するまで請求権者は使えなかったのです。もし使ったら損害

賠償を請求された。きのう田村先生にやっていただいたと思うのですけれども、損害賠償は過

去の清算なので時効にかからない 3 年まではさかのぼれるのです。だから仮に確定から消滅

というふうにすると、このへんで使ったのは、差止めはもちろん関係ないですけれども、損害賠

償を請求されていた。要するに使えなかったのです。でもそれじゃあんまりだということで、だっ

て少なくとも 3年間使っていないのだから、ここまで使えなくしていいのか。3年間使っていなか

った商標は信用が化体していない、保護する必要がないというのが取消審判の精神だったの

で、登録の日までさかのぼって商標権が消滅するというように法が改正されました。だからもち

ろん審判で取り消されない可能性もありますけれども、審判で勝てる自信があるのであれば審

判請求して、登録があれば使っても元商標権者の方から損害賠償を請求されることはないと

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商標法

いうことになります。こうなると、取消審判請求者はもうがぜんやる気が出てきます。取消審判請

求のインセンティブを高める、「取消審判」をもっと活用していただこうという趣旨です。それだ

けストック商標の問題というのは深刻というか、構造的なものがあります。

ここは冷静に条文を追っていけば分かると思います。予告登録という手続があることが、鍵

になります。予告登録という手続をよく分かっていないと、50条のあたりは引っかかりまくって何

がなんだか分からなくなります。50条 2項に書いてある登録というのは、予告登録のことです。

ここだけ押さえておけば、冷静にこの図を思い出していただければ、どこから商標権が消滅す

るのか、あるいはYの方が使ったといっているのだけれどもそれで取消審判はどうなるのか、こ

のへんで使ったらどうなるのか、駆込的にこのへんで使ったらどうなるのか、時系列の図を描い

て冷静に考えればここは分かるはずです。ちょっとごちゃごちゃしちゃったけど、自分なりに咀

嚼してまとめておいてください。

残り、4)に「存続期間の更新」、5)の方に「登録料の分納制度」とあります。さっきもちらっと

いいましたけれども、商標権というのは 10年でおしまいです。登録から 10年でおしまい。これ

が 19 条の 1 項。おしまいなんですけれども、商標というのはもし使っているのであればできれ

ば長く使い続けてほしい。長く使い続けていただきたい。もし使っているのであれば使うことで

どんどん商標の信用が化体していくわけですから、できれば長い期間同じ商標を、あるいはち

ょっとモデルチェンジというか様子を変えたような商標でもかまわないですけれども、できるだ

け同じブランドで長く使っていただきたい。ですから更新制度というのがあります。一応 10年で

区切りは入れますが、更新制度というのがありまして、これが 19条の 2項です。ここがほかの工

業所有権法、最近は産業財産権法というらしいですけれども。著作権もそうですけれども、存

続期間というのがあります。特許 20 年、実案 10 年、意匠が 15 年、更新がありません。それっ

きり。でも商標というのは、さっきもいったように、できれば長く使い続けていただきたい。使って

いるのであれば。なので、10 年ごとに存続期間を更新して永久権とすることができます。永久

権が可能です。不競法 2 条 1 項 1 号も観念的には永久権となり得ますけれども、あれは周知

でなくなったらそれっきり。周知の限りであれば、100 年でも 200 年でも保護されます。日本が

アメリカに征服されない限り保護されますけれども。周知がなかったらそれでおわりです。商標

の方は 10年ごとの更新で永久権とすることができます。

ただしどうして区切るのか。更新申請しないでほしい商標もあるわけです。使っていない商

標。さっきもいったように、使っていれば永久権としたほうがむしろ商標の方はいいんですけれ

ども、使っていないのだったらやめてくれということで、「自発的に取り止めることを期待」してい

ます。更新の方は今は言葉上は申請になりました。昔は更新のときに、さっきもいったけれども、

更新の審査があったのです。だから出願といっていたのですけれども、今は実態審査がない

ので条文上、申請という言葉に変わっています。一応、手続きは必要です。更新の日が迫って

きた、そこで考えて欲しいのです。使っていないのだったらもう捨てちゃえよ。お金の方は少し

かかるのです。お金の方は 40条の 1項と 2項で決まっています。商標というのはお金がかかる

といいましたけれども、40条 1項の方に、最初の 10年間 6万 6000円、かける区分ですけれど

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商標法

もそれは省略して。2 項の方、11 年以降、更新以降は 15 万 1000 円なのです。高い。だから

10年間 6万 6000円で商標を取った、でも使わないな、あるいは 15万円払って維持する必要

はないなと思ったら、やめてくれというきっかけです。それを権利者に求めているのが、存続期

間の更新制度ということになります。もうちょっと高くても。今はこの登録料とかかなり安くなった

のです。昔に比べると。昔は特許なんか倍々ゲームといって、バンバン高くなっていって最後

の 20 年とかは一挙に何百万とかいう話だったのですけれども、商標はかなり安い。存続期間

更新、3 回目、5 回目はもうちょっと高くてもいいような気がします。ここで権利者に再考してい

ただく。15万円の価値があるかどうかを判断していただくということです。

それからもう 1 個、「分納制度」というのがあります。ほとんど豆知識レベルに入っています。

「分納制度」というのは 41 条の 2 の方に書いてあります。更新登録でも最初の出願のときでも

いいのですけれども、商標は 10 年分一括でお金を払っちゃいます。昔は一括で払うしか制度

はなかったのですけれども、2回に分けることができるようになったのです。5年ごとに 2回払え

るようになった。当然、1 回で払った方が安いです。1 回で払った方が、さっきいったように、6

万 6000円。分割する場合は 4万 4000円を 2回になります。最初の登録になったときに 4万

4000円を払う、その後 5年後にもう 1回、4万 4000円払う。そうすると 10年つながるということ

です。例えば超短ライフサイクル商品、イヴェント用、万博とか。今度、名古屋でやるみたいで

すけれども。万博なんかのキャラクターなんていうのはどうせ半年で取り壊しになっちゃうので、

そういうときなんかには分割制度というのがあったらいいかもしれないです。なんていうことで、

いらないものは 5年で捨てていただくという制度が「分納制度」です。分納は実務に行かないと、

知らなくてもぜんぜん構わないと思います。「不使用商標」を少しでも減らそうという法の努力が

この辺になります。

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商標法

<商標法(3)>

現実にたった今、商標を出願していないけれども、登録商標ではないけれども、信用が化

体している商標というのがあります。商標というのは別に登録を受けなければ使ってはいけな

いというわけではありません。不正競争防止法 2条 1項 1号とかあるいは 2号とかでも未登録

商標は保護されていますけれども、商標制度とは関係なく信用を獲得している商標があり得る

のです。それに対してどういうふうに配慮していくのかというのが 2番目のテーマになります。

レジュメに沿っていきますけれども、「具体の信用を形成済みの商標」、要するに未登録な

のだけれども周知になっている商標です。商標というのは権利を取っていなければ使えないと

いうわけではないです。逆です。好きに使っていいけれども、他人の権利に触れないようにし

なさいというだけの話です。なので、登録していないけれども周知の商標というのがあります。

不使用の、使っていない登録商標に抵触するために、未登録周知商標の方が変更しなくては

いけないということにはならないです。登録主義商標制度といっても商標そのものを保護して

いるわけではないです。何度もいいますけれども、商標を通して信用を保護している。であれ

ば、登録はしてあるけれども使っていない商標というのは本当は保護する意味がないのです。

むしろ、登録を受けていないけれども周知の商標の方を保護した方がむしろ商標制度の趣旨

に沿っています。ですから、どういうふうにしているかというと、登録されていなくても周知の商

標については商標権は取れないというふうにしてあります。仮にほかの人に登録されたとしても、

周知商標を使っている人については権利行使を制限しています。それがレジュメ 33ページ以

下の 2)の①の 4条 1項 10号、それから②の 15号、③の 64条などです。

「混同抑止策」としてくくってある 4条 1項 10号にいきますけれども、これは大事なので見て

いただきたいのですけれども、レジュメには「広知」というふうに書いてありますけれども、条文

には 10 号、「需要者の間に広く認識されている商標」については商標登録を受けることができ

ないというふうに書いてあります。4 条 1 項は、15 条で拒絶の理由になっています。15 条の 1

号で、3 条、4 条 1 項というのは、拒絶の理由です。ですから、4 条 1 項に該当する商標という

のは登録を受けられません。4条 1項というのは 1号から 19号まであるのですけれども、10号

に「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されてい

る商標」は登録を受けられないと書いてあります。他人でなければいいのです。自分だったら。

すでに「需要者の間に広く認識されている商標」については、その上に重ねて商標権を認め

てしまうと、商標権者の商標なのか「需要者の間に広く認識された」人の商標なのか分からなく

なってしまいます。そういう場合はどちらかを使えないあるいは登録できないようにするのです

けれども、使っていない商標よりは商標登録を受けていないけれども信用を獲得している商標

の方を優先させるということで、登録を排除することにしました。

「需要者の間に広く認識されている」という時期は、いつの時点で見るかというと、それは 4

条の 3項に書いてあります。出願のときプラス登録のとき、両方で見ます。出願のときの方は出

願人の予測可能性をいっています。出願および登録の時点において需要者の間に広く認識

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商標法

されている場合は登録できないです。もちろん省略していっていますけれども、商標はあくまで

指定商品役務との関係で決まるので、同一類似の商標を同一類似の商品役務に使っている

場合に限ります。だから非類似の商品役務はオーケーになります。「需要者の間に広く認識さ

れている」というのはあちこち商標法に出てきますけれども、不正競争防止法でも出てきます。

4 条 1 項の趣旨というのはどういうことになっているか。登録主義といっても形式的に保護し

ているわけではない。発展促進機能、先行投資としての商標の登録を認めるところにあるので、

これから信用を化体してくださいといっているにすぎないです。なので、出願された商標より先

に具体の信用を獲得している場合というのは、商標登録を認めてはいけないのです。商標登

録を認めてしまうとかえって混乱する。商標登録を認めない方が商標に対する信用を化体す

る効果が発揮されるということです。ですから逆にいえば、「需要者の間に広く認識されてい

る」商標についてはもし本当にそうであるのであれば、他人に商標権を取られることはないので

す。だから、他人から商標権侵害として訴えられることがあり得ないということになります。

「DCC」ケースが裁判例として挙がっています。これは 4 条 1 項 10 号の「広く認識されてい

る」の地理的範囲というか、「広知」の程度に触れた裁判例として位置づけています。どういう事

件かというと、広島県の喫茶店にコーヒーの豆を納めているコーヒー会社です。「DCC」です。

ダイワコーヒー。広島県。喫茶店が 1,600店あるのです。30パーセントぐらいと取引していたみ

たいです。これは県下でだいたい 2 位か 3 位だったらしいです。「DCC」。強いのは UCC、上

島珈琲。シェアとしては上島珈琲がトップだったらしいのです、この事件でも。でもダイワコーヒ

ーの方も負けずに 2 位か 3 位につけていたという状況でした。これは上島珈琲が「DCC」を出

そうという話になったのです。実際に出したのです。これは登録になりました。審査に通ったの

です。4条 1項 10号にはあたらないとして登録になったのです。なったものだから、ダイワコー

ヒーは、無効審判を事後的に請求したのです。無効審判と先ほどの取消審判は全然違って、

取消審判は使っていないときにだめよ。審査自体は間違いない。無効審判というのは過誤登

録をつぶす制度です。だから特許庁の 4条 1項 10号にあたらないとした判断が間違っている

としてダイワコーヒーが審判を請求したわけです。

どうなったかというと、結局ダイワコーヒーが負けました。無効ではないということは商標権維

持です。維持審決が出ました。高裁でもひっくり返りませんでした。説示の方は、一県単位で

は足りないといわれたのです。4 条 1 項 10 号の「広く認識されている」。ダイワコーヒーは広島

県の福山が本拠地だったらしいのです。広島県では 2 位か 3 位なんですけれども、広島だけ

でなくて山口とか岡山とか島根とか、若干周りの県でもちょっとだけ使っていた。広島でシェア

は 30パーセント、2位か 3位。上島珈琲が 1位だったのですけれども。要するに、これだけの

範囲では足りない。4条 1項 10号にいう、「需要者の間に広く認識されている」には足りないと

したのが、この「DCC」判決です。

どう考えるかですけれども、4条 1項 10号、先ほどいいましたように、拒絶理由プラス無効理

由です。拒絶理由プラス無効理由ということは、4条 1項 10号にあたったら、ほかの人は商標

権を取れないということです。商標権、最初にいいましたけれども、不正競争防止法とは違って、

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商標法

全国的に権利が及びます。だから全国で統一ブランドを形成したい人は、商標権を取りなさい

という制度なのです。でも商標というのは発明とかよりはすごくたくさん使われるものです。お店

を開きたければ屋号が必要、商品を出したければ何か名前をつけなければいけない。特許な

んかよりも断然、皆さんの取引活動に密着しています。商標というのはものすごくたくさん使わ

れている。だから狭い範囲で取引するためにはわざわざ手間暇かけて商標権を取らなくてもい

いのです。商標権を取らなければ商標をつけてはいけないわけではない。だから狭い範囲で

使っている分にはどうぞお使いください。ただし全国統一ブランドで展開したい場合は商標権

を。そういうふうに制度を切り分けていくと、もちろん前者の方は不正競争防止法で守りなさい

ということですけれど、4 条 1 項 10 号というのは全国展開したい人を退けるだけの利益がある

かどうかと考えてほしいわけです。全国統一ブランドで商標を展開したい人の利益よりも、周知

になっている人の利益を保護した方が商標法の精神にかなうかどうかという観点でものを考え

ていただきたい。

例えば大学の周りだけで使っている、登録されていない商標がある。でも北大の周りでは有

名だ。けれども北大の周り以外では有名ではない。そういう商標について出願がされた場合に、

北大の周りだけで有名な商標、確かに北大の周りでは信用を形成している。だからといって全

国展開をしたい人の利益に勝てるかどうかというところが、1つ目の観点です。

もう 1 つあります。32 条に先使用権というのがあります。この場合、「DCC」、上島珈琲が取り

ましたけれども、ダイワコーヒーの方は困る。どうして困るかというと、困る類型が 2つあります。1

つは上島珈琲に「DCC」を使われてしまうという困り方が 1 つ。もう 1 つ、自分が「DCC」を使え

なくなってしまうのではないかという困り方があります。2 つある。でも後者の方は実はあまり問

題にはならないのです。どうしてかというと、32 条には先使用という制度が用意されています。

不正競争防止法でも 12条の 1項の 3号、4号にあったと思います。先使用はまた後で説明し

ますけれども、これは実は 32 条で継続使用がオーケーなのです。使用はオーケー。困り方と

しては、自分が使えないので困るというのと、他人に使われて困るという 2 種類の困り方があり

ます。32 条の要件を満たしている限り継続使用はできるのです。だから「DCC」のケースは、使

えなくなってしまうというわけではないです。だからそっちの方は心配しなくてよろしいということ

になります。

商標権を取られた場合に、他人に使われてしまうかどうかなのですけれども、気軽に商標権

を取ったら使えるとかいっていますけれども、すごくたくさん論点があるので本当は気軽に使っ

てはいけないのですけれども、一応気軽に使っていいことにして商標を取られたら使われてし

まう。他人に使われるとダイワコーヒーは困る。ダイワコーヒーの、法律学的には不利益ですか、

困り方と、上島珈琲が「DCC」というブランドで全国展開したい、その場合に「DCC」を使いたい

という利益。どちらを優先させるかということなのですが、仮に小さい範囲で周知だとして、とて

も狭い範囲で周知の商標について 4条 1項 10号に該当して登録できないというふうにします

と、全国統一ブランドを展開したい人は大変です。

すごく狭い範囲で周知の場合に 4 条 1 項 10 号で商標権が取れないとなると、日本中細か

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商標法

い所までいちいち探さないと全国統一ブランドを選べなくなります。ものすごい調査が必要。4

条 1項 10号の場合は、「DCC」の場合はダイワコーヒーに我慢してもらいます。我慢してもらっ

て登録を認める。4条 1項 10号には該当しないと考えるのがいいと思います。

どのくらいの範囲か。田村先生は「広く認識されている」で「広知」という名前をつけていらっ

しゃいますけれども、これは条文の用語ではないです。便宜上の言葉です。

具体的には広島だけではだめ。広島も今は政令指定都市になったし、だいぶん大きいと思

うのですけれども、数県単位ぐらいの広さが必要かな。札幌だったらたぶん札幌市全域で知ら

れていれば、あたるといっていいでしょう。広島県、私は微妙だと思いますけれども、岡山、山

口、島根も展開していたので、岡山、山口、島根あたりでもうちょっと頑張っておけばよかった

かもしれないです。限界線上とまではいわないですけれども、惜しいところまでいった感じはし

ます。当然、関東圏であれば関東全域でなくても、東京、横浜、それで十分だと思います。札

幌市全域ぐらいだったらオーケーだと思います。北大周辺とか新琴似周辺だけではちょっとつ

らいかもしれないです。札幌全域で知られていれば札幌全域で知られている方の利益を優先

しようということです。逆にいえば、札幌全域くらいで知られていれば全国ブランドで展開した

いと思った人が調査すればすぐ分かる、簡単にサーチに引っかかるという程度の広さであれ

ば、4条 1項 10号に該当するとして登録を退けた方がいいでしょう。これが 4条 1項 10号の

趣旨です。「広く認識されている」という言葉は、先ほどもいった先使用の 32 条にも書いてあり

ますけれども、ちょっとこちらとは広さが違うのです。だから「広知性」、「広知」という言葉を使っ

ています。これも概念の相対化の 1つかもしれないです。

4条 1項 10号の話はいったん終わりにして、レジュメ 34ページ、②として「出所の混同を生

ずるおそれがある商標の登録阻却」ということで、4条 1項 15号が出ています。4条 1項 15号

というのは、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」ということで、

非常にあいまいに書かれています。一般には「著名商標」だといわれます。著名の未登録商

標を想定していただければ、一番手っ取り早いと思います。先ほど出てきた「VUITTON」とか。

もちろん 4条 1項 10号でも構わないのですけれども。4条 1項 10号との違いというのは、4条

1項 10号の方は指定商品について同一類似という縛りがあります。もちろん商標本体もそうで

す。4条 1項 15号の方はその縛りがありません。ないということは非類似の商品役務について

も適用があるということです。非類似の商品役務についても混同する限りで登録を阻却する。

もちろん同一類似だと、その場合は 4条 1項 10号と 4条 1項 15号と両方に該当するというこ

とになります。15 号には重複適用しないという括弧書きがありますけれども、私は、これは意味

がないと思っているので、ダブって該当すると考えて構わないです。

これはひとえに経営多角化の話です。ソニーがチョコレートを売るかもしれない。あるいはキ

リンが扇風機を作るかもしれない。分からない。扇風機にキリンって書いてあったら、キリンのペ

ットボトルを再生して作った扇風機なんじゃないかと混同する人がいるかもしれない。そういう

場合は 4条 1項 15号に該当する可能性もあるでしょう。

レジュメに「広義の混同」と書いてあります。当然、4条 1項 10号とのバッティングがあるので、

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商標法

4条 1項 10号よりは広い。「月の友の会」、この判決というのは 15号に該当するというには足り

ないという判決だったのですけれども、15号までは知られていないという判決だと思いましたけ

れども。これも 4条 1項 10号と同じように 4条 3項の適用があって、出願時プラス登録時に混

同が生じるおそれがなければいけないという規定になっています。4 条 3 項ですけれどもポチ

ポチ出てくるので、ちょっと気にしておいてください。原則、拒絶理由というのは査定・審決時、

登録時といってもいいですけれども、査定・審決時に該当するかどうかで決めますけれども、

例外的に出願時に該当するかどうかを決めているのが 4条 3項になります。だから 4条 3項に

書いていない拒絶理由、4条だけですけれども、例えば 11号とか 16号とかは査定・審決時に

該当していれば適用がありますけれども、10号とか 15号というのは出願時にも該当しなければ

いけないです。簡単にいえば厳しいわけです。4 条 3 項に書いてある条文の方が適用の範囲

が厳しくなっている、狭くなっている。ダブルで該当しないと適用がない。これが出願人の予測

可能性の保護です。出願人が出願したときに、これは「広知」じゃないな、あるいは「著名」じゃ

ないなと思って出して、その後、「広知」とか「著名」になった場合でも、それは適用がないから

登録が受けられるという話です。4条 3項は気をつけてください。

3番目、防護標章制度。これは 64条に書いてあります。ですが、これは実は廃止論がありま

す。改正のたびにやめようかという話になっているのですけれども、今まで生きながらえている。

また改正を審議しているようなので、今度こそなくされるのではないかという噂になっています

が、ともかく今日まで生き残っています。

防護標章制度というのはどういう制度かというと、商標権というのは、最初にいいましたように、

同一類似の商標について指定商品、指定役務を指定しなくてはいけない。指定した商品役務

に類似の範囲でしか及ばないのです。非類似に及ばない。ただ、防護標章というのは、これは

出願という手続が必要ですけれども、防護標章を取れば非類似の商品役務についても効力が

及びます。効力が拡大します。非類似の商品役務について保護を受けたい場合には、もちろ

ん不正競争防止法の 2条 1項 1号・2号、特に 2号だと思いますけれども、こちらでいくのもオ

ーケーです。オーケーですけれども、商標法の方が有利な場合が多いです。多いので防護標

章出願して登録されると、非類似の範囲まで商標権の排他的権利が拡大するのです。使用禁

止、67条。

防護標章については、同一の商品役務については登録が排斥されます。これが 4 条 1 項

12号。もっとも、たいていは 4条 1項 10号か 15号にあたります。

64 条については、ここにも「需要者の間に広く認識されている」という言葉があります。「認識

されている」場合において、その登録商標に係る指定商品役務、類似する商品役務以外の商

品、あるいは以外の役務について混同を生ずるおそれがあるときは防護標章登録を受けられ

る。ここでも「需要者の間に広く認識されている」という言葉が出てきますけれども、全国的に知

られていることを要求すべきです。全国著名です。全国著名ぐらいになると、防護標章を取るこ

とができます。登録商標の非類似の商品役務についても排他権が拡大することになります。こ

れも 1つの「具体の信用を化体した商標に対する配慮」です。

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商標法

レジュメ34ページの③の方は具体的な信用が化体した登録商標に対する配慮です。レジュ

メ 33・34ページの①と②の方は、登録商標も入りますけれども、未登録商標まで視野に入って

います。もちろん登録商標であっても、4 条 1 項 10 号の広く知られている商標に該当すること

がもちろんあります。あって適用ももちろんありますけれども、メインは非登録の商標です。③の

方は登録されている商標の話です。

レジュメ 34ページの 3)の「周知・著名表示の不正出願対策」ということで、4条 1項 19号と

いうのがあります。これは後の「登録制度の濫用対策」のところでも触れるので、一応あるという

ことだけ知っておいてください。19号、見ていただければ分かりますけれども、不正の目的があ

る出願。想定されているのが外国周知商標、外国で周知になっている商標か、あるいはダイリ

ューション、ポリューション類型の出願です。これらが念頭に入っています。不正競争防止法 2

条 1項 2号に該当しそうな商標出願を排斥するのが 4条 1項 19号です。

4)にいって、「周知・著名表示に対する権利行使の制限」ということで、これは「先使用」の話。

それからもう 1 つ、レジュメ 36 ページにいって、「登録商標使用の抗弁」の話をしますので、こ

れをもう 1回よく理解してください。4条 1項 10号の関係。4条 1項 10号というのは、広島県

だけではだめ、もうちょっと広くないと 4 条 1 項 10 号には該当しないので、ダイワコーヒーは、

広島県で周知になっていても他人に取られてしまいます。そこで困り方の 2 つ。自分が使えな

い、こちらは 32条の方でなんとかなる。数県単位、あるいは札幌市ぐらいの大きな町全体で知

られていなければ、誰かに取られてしまうということです。取られてしまった場合に「DCC」を継

続使用できるのかというのが 32条の話。もう 1つ、上島珈琲が「DCC」を取ったはいいが、本当

に広島県で使えるのか。「DCC」が 2 つになってしまう。本当に広島県で使えるのかという話が

もう 1つあります。その話をレジュメ 36ページの②の方でしたいと思います。

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商標法

<商標法(4)>

「周知・著名表示に対する権利行使の制限」の話です。レジュメ 34 ページの①が先使用の

抗弁、レジュメ 36ページの②が登録商標使用の抗弁です。

32 条の条文を見ていただけると、またしても「広く認識されている」というのが出てきます。そ

の広さは置いておいて、これは継続使用を認める条文です。広く知られている商標について

は、その上に商標権がかぶさってきても継続使用を認めるという条文です。法律的には商標

権侵害に対する抗弁というふうにいわれています。抗弁、相手の請求を退ける、ディフェンスで

す。ただし、不正競争の目的がないということは要件としては要求されています。継続使用を

認める。ただし、商標権者は先使用者に混同防止表示というのをつけろと請求することができ

ます。これが 2項です。混同防止表示を付加することを、抗弁を対抗される商標権者が請求で

きます。ということを知識として入れた上で、もう 1つの「DCC」事件というのがあります。

「DCC」事件というのは、ダイワコーヒーの方が無効審判請求をしたという事件がありましたけ

れども、もう1個。上島珈琲の方が使用禁止を求めたというのが、もう1つの「DCC」事件です。、

上島珈琲が「DCC」を取りました。無効審判に勝ってこれは維持されました。上島珈琲が勝ち

ました、登録維持。これでもう負けはないだろうということで、「DCC」を止めにいった。いったの

だけれども、負けてしまいました。止められない。裁判の方は、ダイワコーヒーの先使用の抗弁

は認めなかったのですけれども、権利濫用論というのを持ち出して、結局、原告の請求を棄却

しました。この裁判例では先使用の「需要者の間に広く認識されている」、その広さの程度とい

うのを、数県単位で必要というふうに、ここでいえば 4条 1項 10号と同じくらい必要ですという

ふうに説示をして抗弁自体は認めなかったのですけれども、落とし所としてはこの請求は認め

なかったのです。判決としては権利濫用論を使っています。

これをどう考えるかという話ですけれども、4条 1項 10号には広島県程度では該当しないと

いうことは先ほど説明しましたけれども、その話というのは上島珈琲が「DCC」を取れるかどうか

という話にすぎない。ダイワコーヒーが継続的に使えるかどうかというのは、話題に上ってきて

いないです、最初の「DCC」事件では。どういう話をしているかというと、4条 1項 10号に該当す

るかという場面では、何度もいいましたけれども、全国的に統一ブランドで展開したいという人

の利益と広島県くらいで周知になっている人の利益を考えましたけれども、上島珈琲からダイ

ワコーヒーへの請求の場合は、「DCC」を、ダイワコーヒーが継続的に使用してもいいかどうかと

いう判断をしなくてはいけないです。今まで使っていた範囲で継続的に使っていいかどうかと

いう話です。どう考えるか。上島珈琲が販売をかけてくると、「DCC」というブランドで出てきたコ

ーヒーが、ダイワコーヒーなのか上島珈琲なのか、広島県の人は分からないです。関東とか北

海道、九州では「DCC」が使われていないので、上島珈琲が「DCC」を使っても、「DCC」という

のは上島珈琲のブランドだと分かりますけれども、広島県では昔から「DCC」はダイワコーヒー

が使っていたので、ダイワコーヒーに使わせないとそれまでダイワコーヒーが頑張ってきた努力

が水の泡になってしまいます。なので、考える場面が違うのです。4条 1項 10号の方は全国統

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商標法

一ブランドで展開したい人の利益を考える。継続使用したい利益というのは 32 条の方で考え

ていくということになります。

結論をいいますと、先使用の 32条の「広く認識されている」という要件は、4条 1項 10号に

比べて狭くても構わないというふうにいわれています。これは 32条 2項が効いています。32条

2 項というのは、抗弁を対抗される商標権者は混同防止表示をつけるように請求することがで

きるのです。この事件は先使用ではないといわれてしまいましたけれども、仮に先使用が認め

られて負けたとしても、ダイワコーヒーに、上島珈琲ではないとか、ダイワコーヒーですとか、上

島珈琲が使っている「DCC」とは違うブランドですよということをつけるように請求することができ

るのです。そうすれば上島珈琲が広島県に進出してきたときも、消費者が間違えることがない

です。だから使ってもかまわないのです。「先使用」構成にした方が法律的に 32条 2項の請求

権を商標権者に認めることができます。権利濫用で退けてそれができないかどうか。簡単には

のってこないと思います。結局、もう 1つの「DCC」事件では、先使用で構成した方が商標権者

に 32条 2項の請求を認めることができたのでよかったということになります。混同防止表示とい

うのは義務ではないですけれども、先使用権者の義務ではなくて、あくまで商標権者の請求が

あった場合につけなくてはいけないというだけの話ですけれども、「先使用」構成にした方が、

「DCC」で混乱することがなくなります。なので「先使用」構成の方が優れているということです。

次へいって。今のところダイワコーヒーはやられっぱなしです。なんとかしたい。そこで不正

競争防止法 2条 1項 1号、周知表示の保護の条文が使えないかということを考えるわけです。

2条 1項 1号、どの程度で有名であれば使えるか。少なくとも数県単位、あるいは札幌市全体

で知られていなくては使えないというふうにはいっていなかったはずです。最低限の範囲は必

要であるけれども、2条 1項 1号というのは、周知のものは周知の限りで保護するのでそれほど

広く取らなくても構わないというふうにいっていたはずです。周知の表示については具体的に

周知の限度で保護を与える。不正競争防止法の 2条 1項 1号の請求というのは周知の限度な

ので、ここでいえば広島県の限りで他人の商標の使用を排斥できるにすぎないです、観念的

にいえば。そういう判決主文は出ないですけれども、観念的には周知の限りでしか保護できな

いので、大阪で使う人については 2条 1項 1号の請求は立たないです。排斥されないです。

こういうふうに考えていきますと、レジュメ 35 ページの表に書いてありますけれども、32 条と

同じだといわれています、不正競争防止法 2条 1項 1号の地理的範囲は。表の真ん中と右側

は同じです。1 県くらいでもいい。左側は数県。イメージ的なものですけれども。同じ「広く認識

されている」でも広さが違うのです。4条 1項 10号の方は全国展開したい人を退けるだけ知ら

れているかどうかという。こちらの方は周知の限りで保護するかどうかという。これも概念の相対

化の 1つです。2条 1項 1号の請求権者は 32条の先使用で対抗できるし、同じ範囲で 2条 1

項 1号で保護を受けることができるということになります。

問題はもう 1つあって、不正競争防止法 2条 1項 1号でいけるかどうかという話です。2条 1

項 1号の請求を認めるとどうなるか。周知の限りで保護するので、上島珈琲の方は「DCC」を取

ったのだけれども、虫食い穴になる。仮に認めると。だから北海道、東北、関東、九州、四国で

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商標法

は上島珈琲が「DCC」を使えて、ダイワコーヒーは広島県で使えるということになりそうなのです

けれども、実はそうではなくて、商標権は、何度もいいますけれども、全国統一ブランドで使い

たい人を想定しています。これだと全国統一ブランドではないです、虫食いになってしまいま

す。先ほどもいいましたけれども、4条 1項 10号は数県単位ですけれども、32条とか不正競争

防止法 2 条 1 項 1 号というのは狭い範囲でもいいのです。仮に、このへんとかこのへんとか、

全部虫食いになってしまいます。もし 2条 1項 1号の請求権がこの人たちにも立つと虫食い穴

になってしまう。確かにこうした方が「DCC」のブランドがダブるということがなくなります。なくな

るけれども、それでは商標を取ったうまみがないでしょというのが、登録商標使用の抗弁の話

になります。

レジュメ 36ページの上に話がいっていますけれども、これは訴えが 2本立っているのです。

上の訴えというのは、もう1つの「DCC」事件の方です。これは上島珈琲の方が 4 条 1 項 10 号

で勝ったものだから、止めにいったのです。でもこれは 32 条の抗弁を対抗される。もう 1 つの

「DCC」事件ではそうではなかったですけれども、対抗される。2番目の方は、不正競争防止法

2条 1項 1号の請求で、商標権者が負けるかどうか。2条 1項 1号の請求があったときに負け

るかどうかを決めるのは、抗弁があるかどうかです。不正競争防止法の請求に対する抗弁が出

せるかどうかで決まります。一般的に、登録商標使用の抗弁を出せるかどうかという論点である

というふうにいわれています。

実はこれ、明文の規定が旧法ではあったのです。旧法の不正競争防止法 6 条というのが、

レジュメに 6 条と書いてありますが旧 6 条です。今はなくなってしまいました。片仮名時代の不

正競争防止法です。そこには商標だけでなく、特許権とか実用新案権、意匠権、商標権の行

使と認められるものについてはこの法律は適用しないみたいな抗弁だったのですけれども。不

正競争防止法が片仮名から平仮名に変わるときになくなってしまいました。なくなったので、登

録商標使用の抗弁は現行法では出せないというふうに解説する先生もいらっしゃいますし、実

際私もそういうふうに説明を受けたことがあります。

出せないとなると、虫食い容認なのです。商標権を取っても不正競争法 2 条 1 項 1 号の請

求に負けるのだから、必ずしも統一ブランドで展開できるとは限らないという結論になりますけ

れども、そうではないというのがここの理解です。出せるということです。認めていくべきというこ

とです。条文上の根拠は 32条 2項なのです。32条 2項というのは混同防止表示付加請求と

いうふうに一般的にいわれていますけれども、なぜ付加請求しなければいけないのか。混同が

生じるからです。でも虫食い穴だったら混同は生じない。混同防止表示というのは「DCC」の表

示が 2人の人から使われる。本当はなるたけこういう事態はない方がいいですけれども、2人の

人に使われるから混同が生じて、それを防止しなければいけないというのが 32 条 2 項の前提

です。だから極小の範囲で使われている、32 条の先使用で継続的使用をしている人というの

は、同じ範囲で登録商標が使われるということが前提の先使用なのです。条文上そう書いてあ

る。あるいはそう解釈した方がいいでしょう。だから登録商標使用の抗弁で対抗できるので、不

正競争防止法 2 条 1 項 1 号の請求も立たないです。結論的には、並存する。並存するとどう

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商標法

なるか。上島珈琲は全国で統一ブランドで展開できる。

商標を取っている方が、不正競争防止法の請求より強いのです。でもそれはそうです。登録、

お金、そういう手間をかけています、商標権者は。それで不正競争防止法と権利が並だったら

商標権を取らないでしょ。商標権を取ったからには、少なくとも登録あるいはお金が必要でな

い不正競争防止法の権利よりは保護を強くしてあげないと、誰も商標制度を使わないです。商

標制度を作った以上は行政上のコストもかかります。だったら不正競争防止法より強くしてあげ

ないと。そう考えてくれれば、不正競争防止法 2 条 1 項 1 号の請求に対して登録商標の使用

の抗弁が使えるというのは、よく分かる話だと思います。でもダイワコーヒーもまったく意味がな

いわけではない。上島珈琲以外の人が使ったら、やはり 2条 1項 1号で排斥できるのです。3

人目が出てきたときはダイワコーヒーも保護される。商標権者に勝てないというだけであって、

サードパーティーについてはダイワコーヒーは、もちろん上島珈琲もそうですけれども、2人とも

請求することができます。先使用権者の範囲で、残念ながら混同は生じる可能性があるのです

けれども、それも先使用権者に限られます。だからこれ以上広がるということがないのです。上

島珈琲が広島に進出してきても、上島珈琲に限られます。だからダイワコーヒーの方も 2 条 1

項 1号の請求権がまったく意味がないというわけではないです。意味があります。

レジュメ 36ページの真ん中あたりに例が書いてありますけれども、「銀星」と「シルバースター

ズ」、これは「銀星」と「シルバースターズ」で違えているところがみそだと思うのですけれども。

北大のすぐ近くに「銀星」食堂があります。あの「銀星」食堂が 1キロ四方で周知かどうか分から

ないですけれども、仮に北大生には周知にしておきましょうか。ちょっといびつな周知のような

気がしますけれども。周知の限りで保護をする。不正競争防止法 2 条 1 項 1 号の方は認める

べき。混同防止です。13 条門のあたりに「シルバースターズ」あるいは「銀星」という食堂ができ

て、北大生がみんなそっちに行くようになってしまった。困りますよね。何のために頑張って信

用を化体させてきたのか分からなくなる。だからその範囲では守りましょう。ただし、東京の大き

な資本が「シルバースターズ」というブランドを考えついて、レストランのチェーン展開を始めた。

最初は関東圏でやっていたから問題は先鋭化しなかったけれども、そろそろ札幌にも行こうか。

札幌駅の周辺に店舗を建てる。そうすると「シルバースターズ」と「銀星」食堂と両方建ってしま

うことになる。もちろん「銀星」食堂からしたら「シルバースターズ」を建てられたら困りますけれ

ども、「シルバースターズ」の方から考えたら、せっかくお金をかけてブランドネームを選んだ。

「シルバースターズ」というブランドネームを考えた。関東で頑張っている。商標権も取った。い

ざ店舗を建てようと思ったら、そこで初めて「銀星」食堂なる食堂を目にするわけです。これで

だめといわれると、虫食いになってしまいます。全国統一ブランドで展開したい、せっかく商標

権を取ったのに、虫食いになってしまう。それでは商標権を取った意味がないでしょ。虫食い

になるのでは、商標制度を誰も使ってくれないです。積極的に全国統一ブランドというのを、商

標法の方では認めていくべきだといえます。狭い範囲での保護というのは不正競争防止法で

できるのだから。不正競争防止法でできることを商標法で同じことをやっても仕方ない。あるい

は不正競争防止法の限界を商標法に持ってきてもしょうがないのです。2 つ法律があるのだっ

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商標法

たら変えないといけない。同じ法律が 2 つあっても、誰も喜ばない。商標権はお金も手間も行

政コストもかかるので、強い権利をあげよう。そこで登録商標使用の抗弁が意味があることにな

るのです。虫食いだったら混同は生じないのだから、32条 2項というのは虫食いの状態が起こ

らないことを考えています。それは商標権者が不正競争防止法 2条 1項 1号の請求に負けな

いということが前提になります。なので、条文には書いていないですけれども、登録商標の使

用の抗弁を認めていった方が、商標法と不正競争防止法の住み分け、役割分担、2 つ制度が

あるという意味の理由付けになります。

レジュメ 36頁に「マイクロダイエット」事件というふうに出していますけれども、これは抽象論と

して登録商標使用の抗弁を認めた判決です。これ以前はたぶんないと思います。抽象論とし

て登録商標使用の抗弁を認めたのですけれども、抽象論と書いてあるということで、結論として

は抗弁の援用が権利の濫用だとして棄却されているので、結局は認められなかったのです。

理論としては登録商標使用の抗弁はあるというふうに明文の説示があります。もっとも、この「マ

イクロダイエット」事件というのは、登録商標使用の抗弁が権利の濫用だとして対抗できなかっ

たという事件です。

レジュメ 36 ページの一番下を見てください。過誤登録だったら本来は権利はないわけだか

ら、登録商標使用の抗弁を認める必要がないです。登録商標使用の抗弁というのはあくまで

過誤登録でない場合の話です。

不正競争防止法にも先使用はあります。不正競争防止法の先使用の要件は使用です。2

条 1項 1号に対抗するのは 12条 1項 3号です。12条 1項 3号は使用でいいです。2条 1

項 1号は周知ですけれども。使用と周知で決まるのです。商標法の方は 32条。32条は周知。

こっちは出願です。だから不正競争防止法の請求に対抗する場合は、使っていればいい。商

標法では、周知になったのが、出願より先でないといけないのです。周知の程度は。32条の方

は、使っていればいいというわけではない。使っていただけではだめなのです、負けるのです。

出願より早くても。それぐらい商標権というのは強いのです。2 条 1 項 1 号が請求できるぐらい

周知でないとだめ。それも出願よりも早く。だから 2条 1項 1号が請求できないくらい知られて

いない、向こう三軒両隣ぐらいしか知られていないお店は、ある日突然自分の商標が使えなく

なることがあります。商標権を取らないで営業している人の方が多いはずです。全国展開をす

る気がない人は商標を取らなくてもいいのです。わざわざ取らなくてもいい。2条 1項 1号の請

求権があるぐらい頑張っておけばいいのです。そうすれば先使用の可能性があるから、ある日

突然屋号を変える必要がなくなるのです。仮に 32 条の方が広いというふうに考えてしまうと、2

条 1 項 1 号の請求ができるのだけれども、ある日突然使えなくなるという事態が起こります。そ

れだと 2条 1項 1号の周知の程度では足りないという話になってしまいます。2条 1項 1号の

周知と 32 条の周知を一緒にするところが、田村先生の説のいいところです。やはり不正競争

防止法は弱い請求権なので、先使用の要件も軽くていい。商標法は、権利は強い。強いから

先使用の要件も厳しいというふうに覚えてくれると分かりやすいのではないかと思います。

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商標法

<商標法(5)>

「登録主義の補完」のラスト、「濫用対策」です。登録主義の欠点は何度もいっているように、

ストック商標が大量にあることです。不使用ストック商標対策を今まで説明してきたわけですけ

れども、もっとひどい、積極的に商標制度を濫用する、つまり登録されていないのだけれども、

誰かが使っている商標、あるいは誰かが使いそうな商標を先回りして登録を取って、嫌がらせ

目的とかあるいは本来使用したいと思っている人に高く売りつける目的を持って、登録商標制

度を濫用する人がいます。これはもちろん使用の要件がないためです。これは 3つ挙げていま

す。1つ目が「代理人等の無断出願に基づく取消審判」というところで、53条の 2です。これは

あまり使われたことがないですけれども、代理人等が無断出願したときにその代理人に対して

商標に関する権利を有する者が取消しを請求できるという制度です。仮に取られたとしても、

代理店を相手取って取消審判ができます。代理店が使用する場合は不正競争防止法 2 条 1

項 15 号で決まっています。これはほとんど条文の内容が同じですけれども、こういう代理人の

表示の使用が不正競争になると書いています。

レジュメ 37ページの 3)。「外国著名商標等の不正出願対策」、4条 1項 19号というのがあり

ます。外国で著名な商標に対して、妨害目的あるいは譲渡料目当てで日本の国内の人が商

標を取ってしまうことを防止する。4条 1項に掲げられているのでこれは拒絶の理由です。不正

の目的が必要ですけれども、これは拒絶の理由なので審査のところで明らかになればはねま

す。審査をすり抜けてもこれは無効理由になっています。後で無効にできます。

レジュメ 37ページの 4)。「公序良俗違反」、4条 1項 7号です。公序良俗というと誰しも思い

つくのが、卑わいな商標であるとか、そういうものは公序良俗に反するとして登録を阻却するの

ですけれども、最近はそれだけではないといわれています。どういうことかといいますと、4 条 1

項 19 号の条文の問題で、これは不正の目的が必要ですけれども、「需要者の間に広く認識さ

れている」というのがやはり必要です、19 号でも。「広く認識され」るためには、どこかで使われ

ていないといけないはずですけれども、ここで外国が入っているのが、先ほどいった外国著名

表示をはねる理由ですけれども、使われていない商標、表示についても不正目的で登録を取

る場合があるんではないかという疑問があります。

どういう話かというと、結構話題になったので知っている人がいるかもしれないですけれども、

「函館新聞事件」というのがあります。これは、だめよといわれたのは北海道新聞ですけれども、

北海道新聞、道新です。夕刊のサービスを函館の地方の新聞社みたいなところがやりたいと

いう動きがある。道新とは協力関係ではなくて、独立でやりたいという動きを道新が察知したん

です。それでどうしたかというと、「函館新聞」とか「函館タイムス」とか、新聞社が使いそうな表

示を道新があらかじめ出願したんです。登録されると、函館の小さな業者は新聞の名前を選べ

ない。新聞の名前を選べないと新聞を出せない。そういう状況に陥ります。そういう場合は、

「函館新聞」とか「函館タイムス」というのは誰も使ってないです。これから誰かが使いたい、ある

いは使う可能性が非常に高いという状況にあるわけですけれども、そのような場合は 4 条 1 項

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商標法

19 号にはのってこないです。不正の目的はあると思いますけれども。競争秩序、公正な競争と

いう観点からすれば不正の目的ありととらえてもいいと思うのですが、19 号には「広く認識され

ている」という条件が必要です。「函館新聞」、「函館タイムス」は広く認識されていない。その場

合は 19 号が使えないです。その場合は、利益衡量とか具体的な事実の認定にかなり左右さ

れると思いますが、観念的には 7号でいけるといわれています。7号を活用するしかないです。

現在は7号でいけるといわれていて、特許庁の審決レベルで7号該当で拒絶されたような気が

します。だから裁判所レベルまでいってなかったと思います。特許庁の審判段階でつぶれたと

思います。以上が「濫用対策」です。2)はともかく、3)と 4)くらいです、重要なところは。

レジュメ 37ページのⅢの「登録商標の保護範囲」というところに入っていきます。なかなか保

護範囲といってもよく分からないかと思いますけれども、具体的には類似という概念と使用とい

う概念を説明していこうと思います。商標で考えなくてはいけない場面は、何度もいっているよ

うに 2 つありまして、登録段階、つまり審査をしている段階、それと侵害訴訟の段階で、2 種類

考えなくてはいけない。2つの場面でともに類似と使用という言葉が使われています。

審査の場面では、4 条 1 項 11 号、先願の他人の既登録商標に類似している商標は登録さ

れないです。登録されている商標に類似している商標は登録されない。されても無効。

侵害訴訟の場面、こちらは 37 条。登録商標に類似している商標を使用すると、それは商標

権侵害になります。登録商標に類似している商標を、指定商品役務に類似している範囲で使

用すると、それは商標権侵害になります。ここが商標法のいいところで、不正競争防止法2条1

項 1 号ですと、周知で類似で混同を証明しなければいけないですけれども、商標法の場合は

類似、ほとんどが類似です。あと商標としての使用かどうか、というのを 2つだけチェックすれば

済みます。混同はいらないです。使用というのはありますけれども、似ているかどうかで決まりま

す。極端な話でいえば、混同しなくても似ていれば侵害です。例外はこれからたくさん説明し

ます。混同しなくても類似していれば侵害、これが商標のいいところです。

最初、類似の概念から取り上げていきたいと思います。類似をどういうふうにとらえるかという

のは説が 2 つあるといわれています。1 つが商標自体が似ているかどうか。商標自体が取り違

えられるかどうか。もう 1つは、商標は何とか区別がつくけれども、出所の混同を生じるくらい似

ているかどうか。前者の方が形式的に決まります。後者の方がいろいろな事情を考慮しないと

決まりません。「マンパワー」と「ウーマン・パワー」、不正競争防止法 2 条 1 項 1 号ではこれは

類似といわれました。これは後者だといわれています。「マンパワー」と「ウーマン・パワー」、マ

ンは男性ですかね。男性と女性、全然違うじゃないか。でも、関連会社でやっている可能性が

あります。そうすると後者の方にいきます。それでどう考えるかという話です。場面が 2 つあると

いいましたけれど、登録阻却、つまり審査の場面で類似性を考えるときと、商標権侵害のときに

考える類似性。2 つの場面に分けて考えましょう。2 つに分けて考えた方が合理的に出てきま

す。最初は審査の場面における類似性というのを考えていきます。

商標は登録主義ですので未使用商標についてもやはり登録ができます。4 条 1 項 11 号の

場面というのは、既に登録された商標に似ているかどうかなので、登録された商標の中には使

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商標法

っているものもあれば、使っていないものもあります。使っていないものが結構多い。使ってい

ないものについて広めに認めていいのかという観点が一つあります。

例として挙がっているのが、「シングル(single)」。登録商標「シングル」の場合ですけれども、

シンガーミシンというこれは大きなミシンメーカーらしいです。実際の事件は、その下に書いて

あるように、逆ですが。「シングル」が登録されている、でもあまり使われていない、そこへ著名

なシンガーミシンが「シンガー(singer)」と書いて商標を出願した場合、どうするのかという話で

す。

「single」、「singer」、lとrの違いと、入れ替わっているかどうかの違いしかないのですけれど

も、これでシンガーミシンの「シンガー」の登録を認めないとちょっときつくありませんか。「シン

グル」の方は使っていない。商標法が保護すべき信用を全然化体していないです。一方、「シ

ンガー」の方は確かに出願が遅れたのかもしれないけれども、「シンガー」そのものにはかなり

信用が化体している。ぱっと見、似ているかもしれないけれども、なかなかそれでばっさり登録

しないというのもどうかなという気がします。ただそうはいっても、使用していないのだったら同じ

でもいいだろう、あるいは少しくらい違えばいいだろうというわけにもいかない。将来使用する

かもしれないから。将来使用できるという安心感を保護するのが登録制度なので、将来使用す

る可能性はまだ残っている。最低限似ている範囲、誰が見ても似ているという範囲は登録を阻

却しなければいけない。こういう観点があります。

4 条 1 項 11 号、こちらの類似というのはどう考えるか。定型的に考えた方がいいといわれて

います。定型的に類似していれば登録しない。定型的に類似の範囲を脱していれば登録を認

めるといわれています。ですから、イメージとしては混同を生じれば類似を肯定するという不正

競争防止法よりは、割と狭め。最低限取り違える可能性があるラインというのが 4条 1 項 11号

だというふうにいわれています。

どういう話をしているのかというと、これ以上接近したら誰が見ても似ている、その最低ライン

を引くのが 4条 1項 11号だといわれているのですけれども、ただし、広げる場合はいいでしょ

う。例えば、シンガーミシンが「シンガー」というのを登録して、ミシンを頑張って売って、いい性

能のミシン、そういうミシンが著名になった場合は広い方向に類似性を広げる。つまり、登録を

阻却される範囲を広げる方向に参酌するのは、可能な、してもかまわない気がします。それが、

レジュメ 38 ページに書いてある「Single」の事件です。これは、先ほど話した例と逆です。「シ

ンガー」が先登録で後願が「シングル」の場合です。当然、英語で、アルファベットのつづりは

「SINGER」と「Single」です。こちらは、実際拒絶になっています。これは、「シンガー」の著名

性が考慮されたというふうにいわれています。4条 1項 11号の範囲を少し広げたのです。取引

実情を考慮したということです。ただし、取引実情を考慮する条文というのはほかにもあるので

す。それは 4条 1項 15号というふうにいわれています。

4 条 1 項 15 号は何回か出てきますけれども、具体的な混同を生じる商標というのは登録し

ない、これは先登録とか関係ないです。混同を生じればそれだけで登録は認めないという条

文があります。こちらの顔をどう立てるかという話になります。先ほどいったように、「シンガー」と

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商標法

「シングル」の実際の事件では、取引実情を考慮して類似の範囲を拡大しました。

それをどう考えるかということですけれども、レジュメ 38 ページに挙がっている「橘正宗」とい

う事件があります。「正宗」というのは、お酒を表す俗称らしいです、昔の人に聞くと。商標の審

査基準なんかに書いてあります。先願既登録商標というのが「橘焼酎」。今、問題になっている

出願商標が「橘正宗」。「焼酎」と「正宗」。「正宗」はお酒、焼酎もお酒。「正宗」はお酒を暗示し

ている言葉なのでこれは類似しているというふうにいわれました。ただし、こちらの方は 4 条 1

項 15号の可能性があります。4条 1項 15号というのは、これはまさしく具体的な混同を生じる

かどうかなので、4条 1項 15号こそ具体的な取引実情を考慮して定めるべき条文になっていま

す。ただし、4条 1項 11号に該当するということと 4条 1項 15号に該当するということは、法律

的な効果は同じです。まったく同じかというと、実は 4 条 3 項の適用があるかどうかというところ

で若干ずれるのですけれども、法的効果としては同じ。拒絶理由、無効理由です。そうなので

適用条文の問題にすぎないといわれています。4条 1項 15号の括弧書きは意味がないという

ことは前にいいました。

逆に取引実情を類似性を否定、つまり類似性を狭くする方に参酌するとどうなるかという話

がこの「氷山印」です。これは、「しょうざん」対「ひょうざん」、あるいは「ひょうざん」を図形商標

にしたもの。「しょうざん」対「ひょうざん」で似ているかどうかという話です。図形商標の場合は

図形で把握しますけれども、図形に字が書いてあれば、他人に伝える場合は、「ひょうざん」と

書いてある硝子繊維糸を取引しようか、「しょうざん」というのもあるけれどもどっちなんだいとい

う話になります。それをどう考えるかというと、この事件では、硝子繊維糸は大手 5社しか使って

いない。それらの中なら「しょうざん」と「ひょうざん」は分かるでしょという話で、類似性をこれは

否定しました。つまり、取引実情を考慮して類似性の範囲を狭くしたのです。

これは結構問題ではないかといわれています。それは細かく審査の条文を見ていけばわか

りますけれども、商標権、いったん審査で登録されると後発的に出所の混同が生じても、後発

的に無効にはならないのです。どういうことかというと、取引実情が変化して「しょうざん」と「ひょ

うざん」が混同しそうになっても無効にはならないです、法律の構造の上から。無効理由が 46

条 1 項に書いてありますけれども、後発的無効理由というのが 46 条 1 項 5 号ですけれども、

商標登録がされた後において、これこれに掲げる商標に該当する場合は、これは後発的に無

効になります。ただし、ここに 11 号や 15 号は入ってないです。なので、11 号については非類

似という判断が固定されるといわれています。間違えないでほしいのは過誤登録の話をしてい

るわけではないのです。後から取引実情が変わって、4 条 1 項 11 号に該当、あるいは 4 条 1

項 15号でもいいですけれども、該当するようになった場合でも無効にできないです。登録をな

くすことはできない、そういう問題があります。そして、譲渡も自由なのです。

商標というのは、後で譲渡に縛りがかかる場合を説明しますけれども、それ以外については

譲渡が自由です。ですから例えば「しょうざん」と「ひょうざん」でどちらかが大手 5社ではないア

ウトサイダーかなんかに譲渡された場合に、誰も知らないあるいはこれから硝子繊維の分野に

入ってこようとしている人に譲渡された場合に、ほかの人が混同するという話です。事情が動い

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商標法

たときに混同あるいは類似してしまう可能性があるということです。これが問題です。

これを防ぐためには 4条 1項 11号について類似の範囲を固定しておけば済む問題です。

だから 4条 1項 11号の方には原則、取引事情を考慮しないで決める。考慮しないで商標自体

が取り違えられるかどうかを見ていく、というのが 4条 1項 11号の判断になるのですけれども、

先ほど「橘正宗」については、取引実情を、登録を阻却する方向へ参酌する分には事後的に

も混同は生じないです。後願の方は登録されないのだから、混同は生じない。ただし登録を認

める方向に縮めてしまうと、後発的に混同する可能性があるということになります。だから 4条 1

項 11号の範囲は、広げる方向、こちらはオーケーです。本当は 15号の問題なのかもしれない

ですけれども、11 号だから間違いというわけではない。拒絶するのだから。効果もほとんど同じ。

ただ狭い方向へ類似性の範囲を縮めて考えるのは、後発的に混同が生じるおそれがあるので

だめということがレジュメに書いてあります。これが原則です。ですから出所の混同のおそれが

あるかどうかは原則は見ない。見るとすれば、拒絶する方向へ見ましょう。どうしてかというと、

拒絶しない、つまり登録する方向に認めると後発的に登録商標として混同が生じてしまうから

です。これが原則。

既にレジュメ 39ページに入っています。原則ですけれども但し書きがあります。狭い方向に

考慮する場合でも、取引実情を考慮したとしてもそんなに変化がない。20年、30年のスパンで

概念にそんなに変化がないのであれば、類似性を否定する方向に例外的に考えてもいいだ

ろう、といわれているのが「ロジャース」と「Dodgers」です。「ロジャース」の方が既登録です。

「Dodgers」の方が後願。4 条 1 項 11 号が問題になった。指定商品がパンとかお菓子だったと

思います、「ロジャース」の方は。「Dodgers」というのは有名なメジャーリーグのチーム、ドジャー

スを想定して出願されたものですけれども、これは非類似というふうに判断されています。ロサ

ンゼルス・ドジャースの概念は動かないというふうに考えたのでしょう。「コザック」の方は「コザッ

ク」が既登録です。「KODAK」はもちろん有名な写真メーカー。これだけ概念が固定化されて

いると後発的に混同が生じるおそれがほぼないでしょうといわれていた例で、これは両方とも

後願が登録されています。

「独占適応性の問題」です。不正競争防止法 2条 1項 1号の類似性のところでもやったと思

いますけれども、特徴的な部分に注目して類否を決めるという話です。これは不正競争防止

法の場合と同じです。出願商標が「eYe」ですけれども、眼鏡。これは文字商標ではなくデザイ

ンした図形商標だったと思いますけれども、きっとeのところが目でYのところが鼻なのでしょう。

これを図形化して眼鏡について出願したのです。登録商標の方は服部セイコーの「SEIKO

EYE」ですけれども、「EYE」のところがウィークなので登録商標の方は「SEIKO」の方が要部

だといわれました。出願商標は図形で「eYe」なのでこれは非類似。類似していないので登録

オーケーという事件でした。

具体的な例ですけれども、一般的には外観、称呼、観念の 3 つの要素で判断するといわれ

ています。実際の例が田村善之『商標法概説』(第 2 版・2000 年・弘文堂)の 122 ページ以下

に載っていますけれども、具体的な例で、123 ページの図⑥と図⑦、これは類似だといわれま

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商標法

した。125ページの図⑩は「HOLE IN THE WALL」、壁の穴ですけれども、この絵柄対「壁の

穴」という文字商標です。これは非類似だといわれました。もう一つ、図⑪、これはお寿司の

「小僧寿し」の小僧さんですけれども、図⑪対小僧、これも非類似だといわれました。だいたい

こんなところです。

何がいいたいかというと、だいたい外観と称呼で決まっているといわれています。観念の方

は類似性を肯定する方向に働くのは、まれ。ほとんど働かない、肯定する方向には。つまり、

観念が似ているから類似といわれることはあまりないといわれています、4条 1項 11号では。こ

の図⑪のこの人と小僧、観念そのものを類似しないと判決ではいわれていますけれども、図⑪

を見て小僧を観念するのは「小僧寿し」がこれを使っているからなのです。だから、観念そのも

のを類似しないといわれています。図⑩、「HOLE IN THE WALL」と書いてありますけど、そう

いう観念と「壁の穴」、これは似ていないといわれているので、肯定する方向に働くことはまれ

です。ただし、4条 1項 15号の方で考慮することはあるといわれています。これは具体的な混

同なので、具体的な取引事情を考慮して混同するかどうかを決めていくので、もちろんそれは

観念も含まれます。むしろ、観念は 4条 1項 15号で考慮していった方が具体的な妥当性が保

てるように思います。あとは、外観、称呼上、似ているとしても独占適用性の問題は残る。「eY

e」と「SEIKO EYE」の問題は残る。レジュメ 40 ページに「アルバイトニュース」対「アルバイト

情報」というのもありますけど、これは侵害事件です。

4 条 1 項 11 号というのは、形式的にこれ以上商標が接近してはいけない。将来、取引事情

が変わる可能性があるので、取引事情を考慮して、似ていない、つまり登録を認める方向に判

断を絞ることはあまりよくない。将来的に混同を生じるかもしれないから。ただし、登録を認めな

い、外に広げる場合には考慮しても、本当は 4条 1項 15号でやるべきでしょうけれども、考慮

してもそんなに問題はないというところにポイントがあります。

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商標法

<商標法(6)>

次は「侵害の場面」です。「侵害の場面」では、「登録商標」対「被疑侵害商標」の問題になり

ます。「登録商標」と「被疑侵害商標」が似ているかどうかという勝負になるのです。「被疑侵害」

って分かりますよね。侵害が疑われるということです。「侵害商標」と言ってしまうと、侵害だと決

まっているようなので、このような表現をします。

最初に言いましたが、商標法の良いところは、形式的に似ていれば侵害となるところです。

具体的な実情を考慮しないで侵害が認められるところが、不競法と違う良いところだと言いまし

たけれども、「侵害の場面」ではもう少し正確に言う必要があります。

どういうことかと言いますと、結論から言うと、「被疑侵害商標」の確定、つまり「被疑侵害商

標」がどういうものなのかということについては、取引の実情を考慮します。もう少し噛み砕いて

お話ししましょう。「日経ギフト」事件という裁判例があります。「日経ギフト」事件では訴えた側

の商標が「ギフト」で、訴えられた側の商標が「日経ギフト」ですけれども、被疑侵害商標を確定

するにあたり、その取引の実情が考慮されました。この点に関し、判決は、「日経ギフト」は「ギ

フト」とは言われない、「日経ギフト」と一連に呼称されます、と言いました。例えば、「週刊モー

ニング」だと、皆さん、「今日の『モーニング』読んだ?」などと「週刊」をあまりつけないで呼んで

いますね。そのような実情がある場合は、被疑侵害商標を「モーニング」と確定することになる

でしょう。しかし、「日経ギフト」の場合は「ギフト」と言われても何のことか分からないでしょう。他

にも日経が出している「日経 PC」とか「日経デザイン」という雑誌かあります。それらは、日経新

聞が出版元であるところに価値があるわけです。実際、皆さんも「日経デザイン」「日経 PC」と

言われれば分かるでしょうが、「デザイン」「PC」と言われたってどの雑誌のことか分かりませんよ

ね。「日経デザイン」と言って初めてどの雑誌か分わかるのです。被疑侵害商標を確定するに

あたっては、そういう取引事情を考慮して決めないと意味がないということです。そうでないと、

何のために「混同」を防止しようとしているのか分からなくなります。形式的に商標の類否を判

断する点が商標法の良いところだと言われていますが、最終的には商標を形式的に守ること

によって需要者の「混同」を生じないようにすることが商標法の目的で、商標そのものを守って

いるわけではありません。商標そのものを守っている訳ではないのですが、「類似」について形

式的に見ていかないと不競法との住み分けが図れないということがなかなか難しいところです。

その意味では、「被疑侵害商標」の関しての判断にあたって取引事情を考慮していったほうが

いいのです。

逆に、登録商標については、取引事情は考慮しなくて構いません。どうしてかというと、商標

権というのは排他権だからです。さっき「登録商標使用の抗弁」の話をしましたけれども、実は

あれはかなり例外的な側面です。知的財産権はほとんどそうですが、積極的に使用する側面

は抗弁という形で現れます。排他権というのは、自分が使える権利という意味ではなく、他人が

使用することを排除できる権利という意味です。だから、実は、「ギフト」という標章を登録商標

権者が使えるのは、登録商標を持っているからではないのです。他人の商標権に引っかから

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商標法

ないから使えるだけです。なお、この点に関しては、いろいろ細かい議論がたくさんあるのです

が、今はそういう話は捨象します。結局、登録商標の「ギフト」については、商標権者がどのよう

に使っているのかというところまで考慮する必要はなく、被疑侵害商標である「日経ギフト」につ

いてだけ取引の実情を考慮します。

もう一つ、審査の場面での「類似性の判断」について、後発的に「混同」が起こった場合とい

うのが問題になるとお話ししました。その際、後発的に「混同」が起こった場合でも、商標権は

無効にできないので、4条 1項 11号の「類似」の範囲というのは固定した方がいいとお話しまし

た。それに対して、侵害訴訟の場面では、類否判断というのは固定されません。事実審の口頭

弁論の終結時点で似ているかどうかで、侵害の判断が決まります。

どういうことかと言いますと、ある日突然、取引実情が変わって、口頭弁論の終結時に似て

いることになったら、その日から使えなくなるということです。だから、たとえば、「日経ギフト」と

「ギフト」がいったんは非類似と言われたとしても、その後「日経ギフト」が売れに売れて、みん

な「日経ギフト」を買って、そのうち「ギフト」と省略されて呼ばれるようになってきたのに、日経も

それに対してなんら手を打たない、というようなことになると、その場合は「日経ギフト」という商

標を使えなくなります。取引事情が変わって「日経ギフト」が「ギフト」と呼称されるようになれば、

理論的にはその日から使えなくなるのです。

ただし、取引事情を考慮した結果、商標権の有する排他権の効力範囲が狭くなる場合だけ

ではありません。取引事情を考慮した結果、勿論、広くなる場合もあります。例として、「大森

林」と「木林森」が問題となった事件があります。「大森林」の方が登録商標です。「大森林」の

商標が使用されている商品は毛生え薬です。大森林のようにたくさん毛がはえる、ということで

しょうか。前者の「大森林」の方が登録商標です。後ろの「木林森」は裁判で「大森林」商標を

侵害しているということになりました。これはどのように読むのですかね。「きはやしもり」かそれ

とも「もくりんしん」ですかね。裁判での結論は侵害を肯定しましたが、「きはやしもり」とか「もくり

んしん」というふうに宣伝していて、みんながそういうふうに認識していれば、非侵害になったか

もしれません。ただ、実際は「きはやしもり」とも「もくりんしん」とも言われないで、まさしく「木林

森」という商標をこのまま貼った商品が棚に並んでいました。これはさすがに「類似」と言われる

でしょう。ですから結論としては「類似」なのですけれども、もし、みんなから「もくりんしん」という

ふうに呼称されて取引されていれば、非侵害になった可能性があります。ということで、「被疑

侵害商標」が具体的に市場で使われている商標であれば、混同防止の観点から取引事情を

考慮します。

登録商標については、不使用取消審判の場面では別の考慮が働きますが、基本的には登

録商標をどう使っていようが、侵害の場面では影響はありません。登録商標を使ってなくても構

わないくらいの話です。登録商標に関しての取引事情を考慮するのは、不正競争防止法 2 条

1項 1号に任せておいたほうが良いのです。具体的な信用に合わせて保護範囲を大きくしたり

小さくしたりということについては、別途、不正競争防止法の 2条 1項 1号があって、他人の周

知な表示と類似していて混同を生じさせる表示を使用する行為が禁止されていますから、そち

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商標法

らに任せておくほうがいいでしょう。不正競争防止法は、条文上も「混同」を要件にしています。

商標法上は、「混同」は商標権侵害の要件になっていません。権利侵害に関する規定である

36条や 37条に「混同」という文字は出てきません。商標法上は、「混同」は 4条 1項 15号(商

標登録を受けることができない商標)と 64 条(防護標章登録の要件)で出てくるだけです。具

体的な取引事情を考慮して侵害を決めることは、不正競争防止法に任せておくことで住み分

けができることになります。

被疑侵害商標については、取引事情を考慮して、現実にどのように皆さんに把握されてい

るのかを決めます。その上で、実際に「日経ギフト」と使われていたら、「ギフト」と「日経ギフト」

が似ているかを較べるわけです。

結論になりますが、やはり、最初に言ったとおり商標権の侵害に関して定型的・形式的に決

めるのが商標法の長所ですから、登録商標の範囲や似ているかどうかについては定型的に決

めましょう。つまり、商標自体が取り違えられる恐れがあるかどうかで決めるのです。取引実情

は、被疑侵害商標を確定する際に考慮します。つまり「日経ギフト」と「ギフト」は外観や呼称の

違いからして取り違えないと思われるので、このケースは非類似となるでしょう。「木林森」と「大

森林」のケースは外観が似ていますね。「木」の字は、「大」の字の真ん中に一本、棒が入った

だけですから。呼称についても、被疑侵害商標が「きはやしもり」とか「もくりんしん」と呼ばれて

いるわけでもないので、こちらは類似でしょう。

さっき言いましたように「日経ギフト」がバンバン売れて、みんな「日経ギフト」を特定するとき

に「ギフト」と言うようになったら、不正競争防止法の 2条 1項 1号で保護すれば良いという話に

なります。

それから、別途、「独占適応性の問題」というものがあります。レジュメを見てください。「アル

バイトニュース」が登録商標で、「アルバイトパートタイマー情報」が「被疑侵害商標」です。これ

は、既に説明した「独占適応性の問題」なので、類似判断にあたって独占させるべきではない

「アルバイト」という部分は見ません。「ニュース」と「パートタイマー情報」が類似かどうかを判断

することになります。そして、「ニュース」と「パートタイマー情報」というのは、外観も称呼も観念

も似ていないから非類似ということになります。ですから、裁判での結論は非侵害となっていま

す。「独占適応性の問題」についての考え方は審査の場面でも侵害の場面でも同じです。不

正競争防止法 2条 1項 1号でも同じです。レジュメの「類似性の禁止的範囲」のところでやりま

した。あれと同じです。

絵を見てください。さっき言いましたように右側の 6 つが侵害系の類否判断です。図 14、こ

れは象のマークで、この象のマークが登録商標です。象のマークはサトウ製薬のキャラクター

マークで、象そのものが「サトちゃん」と呼ばれているようなのですが、この「象」の商標対「サト

ちゃん」という文字標章です。これは、非侵害とされました。図 15 は「柿茶」と黒く書いてあって

上に葉っぱが書いてある、これが登録商標で、被疑侵害商標は文字商標の「京の柿茶」です。

こちらも非類似とされました。これは「独占適応性の問題」です。被疑侵害商標の「柿茶」と図

15 の下の四角の中の「柿茶」の部分は独占させるべきではない部分なので「京」と「葉っぱ」を

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商標法

比較することになります。それで非類似となりました。それから、図 25 と図 26 が問題になりまし

た。図 26の「稲妻」が登録商標です。図 25が被疑侵害商標で、シンプルですがいかにもイナ

ズマというマークです。これは観念が似ていると言うことで訴えたのでしょう。でも、やはり像の

サトちゃんの場面と同じで、なかなか観念の同一性は類似性を肯定する方向には働きません。

このイナズママークと「稲妻」という文字標章は、結論的にはやはり非類似ということで。非侵害

になっています。それから、最後に図 27 と図 28 も争いになりました。登録商標は図 28の「ラク

ダメリヤス」です。被疑侵害商標が「CAMEL」です。たばこのブランドで、R.J.レイノルズ社の

ブランドですが、これも非類似となりました。これも類似しているのは観念でしょう。図 27はつぶ

れて見にくいですけれども、「CAMEL」の文字の意味が「らくだ」で、さらに「CAMEL」の文字

の下にラクダの絵が書いてあります。これらから、図 27 を見てラクダを連想するかもしれません

し、図 28に「ラクダ」メリヤスと書いてありますが、これは非類似ということで非侵害になっていま

す。類似かどうかについては外観、称呼、観念の類似から判断するとしても、やはり観念の同

一・類似性はなかなか「類似」を肯定する方向には働かないようです。

このへんは教科書には載ってないと思うのですが、田村先生の『商標法概説』にもう少し具

体的な例が載っています。興味のある人は見てみてください。

最後に、レジュメの「3 商品・役務の類似性」というところに入ります。

何度も言っていますように、商標権侵害か否か、あるいは登録を認めるか否かというのは、

商標それ自体が似ているかどうかだけではなくて、「商品・役務」が似ているかどうか、つまり登

録商標の「指定商品・指定役務」と実際に被疑侵害商標が使われている「商品・役務」の類似

性が問題になります。そして、「商品・役務」についても、商標の類似性と同じように2通りの考

えがあります。商品、役務自体を取り違える恐れがあるかどうかという考えと、出所の「混同」を

起こすほど似ているかどうかという考えです。言い換えると、商品と役務の間に混同の可能性

があるかという話です。実は、条文上は商品と役務の類似性は認められていると言われていま

す。それは 2条 5項の存在です。2条 5項で「商品に類似するものの範囲には役務が含まれ

ることがあるものとし、役務に類似するものの範囲には商品が含まれることがあるものとする」と

されています。これは考えてみれば難しい話ではありません。「コンサドーレ札幌」はサッカー

ゲームの企画、スポーツの教授などの役務について登録商標を持っているのですが、サッカ

ーボールに「コンサドーレ」と書いて売られていたら、役務と商品ですが、やはり出所を「混同」

しますね。あるいは、このあいだ東京大学が東大のマークを商標出願したというので話題にな

っていました。東大マークの指定は、大学における知識の教授ということで、大学で学問を教

えるということはサービス業の一つですから役務に当たります。そういう大学の役務と本という商

品を考えてみてください。本に東大のマークが付いていたら、それは東大が出版した本だと皆

さん思うでしょう。だから、やはり役務と商品の「混同」というのは考え得るのです。でも、「コンサ

ドーレ」の試合を見に行こうと思っていて、結局サッカーボールを買っただけで帰ってくる人は

いないですね。サッカーボール買っても「コンサドーレ」の試合は見られません。商品と役務、

それ自体を取り違える恐れはちょっと考えにくいでしょう。

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商標法

基本的に、商標法は出所の「混同」を防止しています。何度も言いますが、形式的に類否を

判断するのが商標法の良いところですが、商標法が結局のところ目標としているのは、出所の

「混同」を防ぐことです。ですから、商標同士の「混同」と違って、「商品」「役務」については出

所の「混同」を起こすほど似ているかどうかという基準を取るべきだと言われています。レジュメ

3 の「商品・役務の類似性」の下に書いてある2つの考え方の下の方です。下の方が一般的だ

と思われます。

さらにその先に、商品・役務それ自体の類似性を決める場合にそこに使われている商標に

ついて考慮するかどうかという問題が別途あります。たとえば、同じ商標を使った場合に商品と

役務を「混同」すれば形式的に類似性を肯定するのか、という問題です。これはつまり、同じ東

大のマークを使ったときに知識を教えるというサービスと本それ自体を間違えるかどうかにより

判断する方法です。それとも、現実に商標が使われている取引実情を考慮して実質的に判断

するべきか、という問題が別途あるということです。

これについては、実は私はあまりよく考えたことがありません。ただ、田村先生が書かれた教

科書には、「商品・役務」については類似性の範囲はあまり動かさないほうがいいでしょうと書

いてあります。教科書に理由として挙げられているのは、商標を使用したり出願したりするため

に既登録商標を調査しようとする第三者のサーチの負担の軽減ということです。実際、特許庁

の電子図書館で商標の称呼だけを入力しても検索できません。商品・役務の区分で構わない

のですけれども、それを入力しないと検索できないようになっています。その商品・役務の類似

という概念が現実に商標が使われている取引実情等によって動いてしまうと、これから商標を

使う人が、誰かの権利に引っかからないかなと警戒してサーチする場合、負担がかなり大きく

なってしまいます。いろいろな商標が実際に使われているところをイメージしながらサーチをし

なくてはいけなくなるわけですから、サーチがかなり大変です。そういう理由もあって、教科書

では、「商品・役務の類似性」はなるべく固定したほうが良いでしょうとしています。

メルクマールとしては、同一企業が製造販売していそうな商品、提供していそうな役務の範

囲かどうかということが挙げられるでしょう。同一企業でなくても親子関係にある企業、あるいは

関連企業でも構いません。レジュメにあります美容痩身具とエステ業は、同一企業が扱ってい

ることはあり得るでしょう。エステに行ったら、そこで使っている美容器具も売っているとか、ある

いは、美容痩身器具の販売が最初で、その販売促進のためにエステ業を始めるとかということ

も十分あり得ます。

レジュメの一番下に出ている例ですが、焼酎と清酒、墨汁と文具、菓子と餅、このへんは「類

似」とされました。清酒と墨汁だと非類似でしょう。化粧品とローヤルゼリーは非類似とされたよ

うですが、これは今だと、ちょっと危ないかもしれません。ローヤルゼリーは健康食品ですが、

今は健康食品も化粧品も両方販売している会社もありますからけっこう危ない気がします。た

だし、今は、同一企業、あるいは関連企業が販売していそうな「商品・役務」ということでかなり

範囲が広めに取られていると思います。「広義の混同」のところで説明しましたように、この点に

ついてはかなり広めになっているような気がします。

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商標法

<商標法(7)>

次は、「登録商標の保護範囲」の最後です。Ⅲの「登録商標の保護範囲」のところでは、類

似と使用について話をしますが、類似についてはさっきで終わりです。

最後は商標の「使用」の概念です。

商標権侵害は、類似の範囲で使用すれば成立するので、要件は類似と使用です。午前中

にも説明しましたが、「使用」についてはニュートラルな形で定義がされています。それが 2条 3

項各号です。インターネット上で使われるマークにも適用があるようにということで、「電磁的方

法により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供す

る行為」が 7号として新しく入りました。ホームページで商標を使用した場合にも 7号により商標

の使用に該当することになります。広告についても 8号で使用に入っています。

「使用」概念の意義ですが、「使用」は 2 つの局面で使われる概念だと説明しました。1 つ目

が、不使用取消審判における「使用」。商標権者が使用しているかどうかという話です。これは

50 条に規定があります。この局面に関しては、形式的使用という問題があって、それに関して

は既に説明しました。

これから説明するのは、侵害の局面での「使用」についてです。被疑侵害者が使用している

かどうかという話になります。商標権侵害の場面では、使用に関する条文は 2つに分かれてい

ます。25条と 37条 1号です。25条は、同一の商品・役務の範囲での商標の使用について定

めている条文だと言われています。25 条は、「商標権者は、指定商品又は指定役務について

登録商標の使用をする権利を専有する。」ということで、条文に類似という言葉が入っていませ

ん。類似の範囲を保護しているのは 37条 1号です。こちらは、「指定商品若しくは指定役務に

ついての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指摘役務に類似する商品若

しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用」は商標権を侵害するも

のとみなす、としており、類似する商品、役務については、一応、条文が分かれています。

分かれている理由は幾つかあるのですけれども、同一の商品・役務は 25 条、類似の商品・

役務部分は 37条 1号で守っていると考えてください。

加えて、37条 2号から 8号は、そのほかの侵害行為について定めています。特許だと、これ

らについては間接侵害という説明をするのですが、商標では間接侵害という言い方はあまり使

わないですね。結局、内容は同じです。商標権侵害に直結するような予備的行為を 37条 2号

から 8号で禁止しています。

侵害の局面での「使用」についても、商標法では形式的に判断することになります。不競法

では具体的に判断する、商標法では形式的に判断する、ということに変わりありません。ただし、

先ほど、類似の概念については審査の局面と侵害の局面とに分けて解説しましたけれども、

実は、「使用」の概念については、審査ではあまり問題になりません。それはそうですね。登録

主義においては登録にあたり現実の使用を要求していませんから。形式的には、不登録事由

に関する4条1項各号の中に「使用」という言葉が入っていることは入っています。しかし、例え

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商標法

ば、出願人に「使用」の意図があるかどうかというのは、4条 1項各号というよりは、むしろ 3条 1

項柱書の問題です。そして、使用の意図についてはあまりうるさく言わなくなったということは、

午前中の講義で解説したとおりで、結局、使用の概念についてはあまり審査では問題になら

ないのです。

レジュメの「4.商標の使用等」の(2)で、「形式的判断の例外」とありますけれども、ここにある

例外以外は、侵害の場面での「使用」という概念を 2条 3号各項に書いてある定義に従って形

式的に判断します。形式的に判断する理由についてはもう説明しましたが、やはり例外があり

ますから例外を解説していきます。

どうして形式的判断の例外を考えなければならないのかと言いますと、何度も繰り返してい

ますように、商標法は、確かに不正競争防止法と違って、登録商標を形式的に保護するところ

が良い点なのですが、最終的な目標は、不競法と変わらないのです。つまり、両者とも最終的

な目標は、需要者の混同を防止することにあります。需要者の混同を防止して、商標に信用を

化体させるということを目標にしています。そういう最終的な精神・目標は変わらないのです。

ただ、手段が違います。手段を変えないと、どちらか片方の法律でいいという話になりますから、

商標法は手段として、商標を形式的に保護しているのです。

例外の 1つ目は、具体的にどう考えても混同が生じないような場合です。確かに 2条 3項に

いう使用に形式的には該当する、そして商標法は商標を形式的に守るものだ、そうは言っても、

さすがにそれは混同しないでしょう、という場合があります。それがレジュメ(ⅲ) 「ただし・・・」の

後の(ⅱ)のところに書いてあることです。

例外の 2 つ目として 「出所表示機能を害さない場合」とあるのは、むしろ権利の範囲から除

外した方が、商標権本来の機能が発揮されるのではないかという使用です。形式的には 2条 3

項に書かれた使用に該当するのだけれども、むしろ、商標法の精神を貫くためには非侵害に

した方がいいのではないかという場合が(ⅲ)のところに書いてあります。

以上のように、形式的判断の例外には 2 つのパターンがあります。どう考えても混同しない

でしょうという場合と、むしろ非侵害にした方がいいという場合です。それが(ⅱ)と(ⅲ)です。

(ⅱ)の方から詳しく説明していきます。(ⅱ)には、「指定商品を識別する商標として使用して

いるのではない場合」とありますが、むしろ、商標的使用ではないという法理があると言ったほう

が通りはいいでしょう。

具体的には、被告のマーク、つまり、被疑侵害商標が出所の識別機能を果たしていない場

合が明らかな場合です。例えば、「てれびまんが一休さん」事件です。テレビ漫画の一休さんと

いうのは実在の人をモデルにしたかわいい漫画で、テレビで放映されていました。この事件で

は、遊具類、おもちゃについて、「テレビまんが」という商標がありました。おもちゃに「テレビま

んが」という商標を付けて、どういう意味があるのか、何か良いことがあるのか、そこら辺はよく分

からないのですが、とにかくそういう商標がありました。被告は、テレビ漫画の一休さんを題材

にしたカルタを売っていて、これは子ども用のカルタだったようですが、そのカルタの右側の方

に「テレビまんが」と書いていました。また、左側の方にも小さく「テレビまんが」と書いていまし

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商標法

た。おもちゃについて、「テレビまんが」という商標を持っている人が、この被告を訴えたわけで

す。問題は、被告の表示が商品等表示かという話です。カルタに「テレビまんが」と書いてある

ので使用には違いないでしょう。2条 3項 1号に、商品または商品の包装に商標を付する行為、

2号にその商品の譲渡等の行為が商標の使用だと定められていますが、これに該当します。

でも、これを商標権侵害とするのは、なんだかおかしな気がしないでしょうか。「テレビまん

が」というのは、あくまでも「一休さん」に係っているタイトル部分みたいなものですが、この場合

はさすがに、このカルタが「テレビまんが」というメーカー、ブランドの商品だとは、誰も思わない

のではないでしょうか。むしろ、被告製造のカルタだとちゃんと書いてあるじゃないかという話で

す。被告の名称が書かれているという点が、「テレビまんが」という標章の使用が商標的使用で

はないとする法理の根拠の 1 つです。さすがにこれは商標権侵害でなくていいだろうという気

がします。「テレビまんが」という会社が出しているとか、「テレビまんが」という玩具のブランド名

だとは誰も思わないと思います。この事件では、「テレビまんが」という表示は商標として使用さ

れていないとして裁判所は商標権侵害を否定しました。形式的判断の例外だとされたわけで

す。

2 つ目の例が、物理的には商標が付されているのだけれども、違う商品を表していることが

明らかな場合です。教科書の 133頁を開いてください。教科書 133頁の下に図があって、図の

真ん中に「巨峰」、右側に「HIGH GRAPE」と書いてありますが、これは段ボールです。中に

ブドウを箱詰めする段ボールなのですが、包装容器について「巨峰」という商標を取った人が

いたのです。一方、ブドウを栽培している人が段ボールを買ってきて、巨峰を詰めて、中身が

巨峰だと分かるように巨峰というはんこを押したのです。この場合、この「巨峰」の標章は、段ボ

ールを示しているわけじゃないですね。中に巨峰が入っているということを示しているのは明ら

かです。包装に付された商標でありがちなことですが、中に入っているものを示していることが、

この事案では明らかです。

もう 1 つの例です。これもまたノベルティー絡みですけれども、キーボードを作っている

「BOSS」という音楽メーカーがあるようで、「BOSS」というマークの付いたTシャツを、キーボード

を買った人にプレゼントしました。「BOSS」というと、むしろ、今は缶コーヒーを連想しますけれ

ども、ここでの話はキーボードで、私も何となく聞いたことがあります。これもさっきの折り紙のパ

ターンみたいに、販促グッズですが、このTシャツが欲しいなと思ってキーボードを買う人がい

るかもしれないし、他のメーカーとの差別化にはなります。この販促用の「BOSS」と付されたT

シャツに対して、Tシャツを指定商品として「BOSS」という商標を取っていた人が訴えた事件で

す。これについては、非侵害だという判決が出ています。ただ、判決では、折り紙のところでも

やったのですけれども、正確に言うとノベルティーグッズ、販促グッズ、あるいはおまけが商品

に該当しない、商標法上の商品じゃないというふうに書いてありますが、私は、むしろ、これは

商標的な使用ではないという方に引き寄せて解釈しています。判決に拠ると、Tシャツ上の

「BOSS」という表示が電子楽器を示すものとして認識されている、キーボードを買ったから付い

てきたTシャツだということが明らかだという理由の方が商標的な使用ではないとする法理より

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商標法

妥当することになります。

商標的使用ではないとする法理は、結構、応用範囲が広いと思います。「テレビまんが」とか

「巨峰」は、商標的な使用ではないことがかなり明らかだと思います。商標的使用ではないとす

る法理は、侵害を否定する法理です。

もう一つ、出所識別機能を害さない場合があります。こちらは特に名前を付けていません。

商標は、商標を守ることでそこに化体した具体の信用を守ることを目的としていると説明しまし

たが、これは、同じ商標を付している製品は同じ出所から出ているということが前提となってい

ます。この出所識別機能というのは、不正競争防止法 2条 1項 1号のところでも触れましたが、

消費者というか、需要者がみんな知らず知らずのうちに期待している機能です。「SONY」とい

うマークが付いていれば、良い電化製品だということをみんな信じて製品を買うわけです。買っ

て試すことができないから、商標を目当てにしているのです。「SONY」と付いていない商品や、

「SOMY」等の怪しげな標章が付いた商品だと、何かちょっと怪しいぞという話になるわけで

す。

これが出所識別機能で、もちろん皆さん分かっていらっしゃると思いますが、また商標法 2

条 3 項の文言の話になるのですけれども、やはりそこでの「使用」というのはニュートラルな定

義なので、条文上は転々流通している場合でも、転々譲渡している人それぞれの譲渡行為が

商標権侵害になるかのような条文になっているのです。

例えば、2条 3項 2号で考えてみましょう。商品の包装に標章を付したものを譲渡するとしま

す。本物のソニーが、オーディオに「SONY」という表示を付けて卸売り業者の手を通してヨドバ

シカメラに納入された場合、ソニーは権利者なので、標章を付する行為と譲渡する行為、これ

は問題ありませんけれども、次にもう一回、卸売り業者からヨドバシカメラへの譲渡がありますね。

その譲渡に関して商標法上問題とならないのかという話になると、2 条 3 項 2 号で、商品に商

標を付したものを譲渡する行為は「使用」に当たると書いてあるのです。形式的には「使用」に

該当し、侵害になる可能性があります。いちいち卸売り業者が許諾ライセンスを受けているとは

思えません。ただ、卸売り業者の譲渡行為を侵害にしてはいけないということはすぐ分かると思

います。流通させられなくなってしまいます。ソニーが小売まで全てやらなくてはいけないこと

になるので、さすがにこの結論はおかしいだろうということは、皆さん、直感として分かると思い

ます。

ただし、どうしてこういう条文になっているのかというと、ソニー以外が「SONY」という標章、

「SOMY」でも類似しているから対象に含まれると思いますけれども、そういう同じまたは類似の

標章を付した製品を誰かが製造・販売して、その商品が卸売り業者を通じてヨドバシカメラに行

った場合、標章を付した者の行為が商標権侵害なのは明らかですね。ソニーの商標権を侵害

しています。この場合、卸売り業者やヨドバシカメラも商標権侵害になります。このような場合の

ために、転々流通する行為を形式的に全て商標権侵害にしているのです。けれども、というこ

とで、レジュメの(ⅲ)出所識別昨日を害さない場合の中の「しかし・・・」以下の部分を見てくださ

い。

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商標法

商標権者自身が商標を付した商品のことを真正商品と言います。当然、商標権者は商標を

付していいわけです。それに対して、偽の商品というのは、商標権者じゃない人が登録商標を

使っている商品のことを偽の商品といいますけど、偽商品という言い方はあまりしませんね。

レジュメでは、万年筆の PARKER が事件になったので、PARKER の例を取り上げています

SONYでも PARKERでもよいのですが、転々流通して、卸売り業者からヨドバシカメラに行き、

ヨドバシカメラも当然一般消費者に小売りをするわけですから、ヨドバシカメラも形式的には商

標を使用していることになって、侵害者みたいに見えます。でも、ヨドバシカメラへ行って、ソニ

ーの製品を見て、ヨドバシカメラがソニーの標章を勝手に使っていると思う人がどれだけいるか

という話になるとどうでしょう。ヨドバシカメラにソニーの製品が置いてあるのは普通です。当たり

前です。ヨドバシカメラは家電を売る量販店ですから。誰もヨドバシカメラがソニーの商標権を

侵害しているとは思っていないでしょう。転々流通して、卸売り業者から仕入れたヨドバシカメラ

が販売しているオーディオに「SONY」と付されていても、誰もヨドバシカメラが「SONY」と付した

とは思わないでしょう。ヨドバシカメラでも卸売り業者でも同じなのですが、真正商品について

「SONY」と付されて転々流通している場合は、皆さん、当然、これはソニーが作ったものだろう

というふうに認識しています。出所識別機能が害されていないのです。だから、その場合は、

転々譲渡する行為を全てセーフにしますというのが、出所識別機能を害さない場合です。ここ

では、真正商品であることがポイントです。偽造品だったら転々譲渡する者全員が侵害者にな

ります。真正商品であるか否かが結論を左右します。

実は特許のところで説明しますけれども、以上のように真正商品の転々譲渡に関して知的

財産権の侵害を否定する場合に、特許権に関しては「用尽」とか「消尽」という概念で説明する

ことがあります。実は、商標権について今まで説明してきた出所識別機能を害さない場合とい

うのは、用尽の理論とはちょっと異なる理論です。

用尽の理論はどういう話かというと、仮に、ソニーが何らかの特許を持っているとします。オ

ーディオ関連の特許だということにしましょうか。この特許を実施したオーディオ商品があるとし

ます。特許実施品です。この特許実施品をソニーが卸売業者に売った後も、最終的に消費者

の手に届くまでには、小売業者の手等を転々流通することになるでしょう。特許法上は、特許

権者であるソニーが製造した製品をソニーが流通に置いた場合であっても、形式的にはその

後の譲渡も特許権の実施にあたり、許諾がなければ特許権侵害に該当してしまいます。用尽

の理論というのは、特許権者であるソニーが卸売り業者に特許実施品を販売したときには、権

利者であるソニーからの最初の譲渡の際に特許権が消尽して、その後の転々譲渡について

は特許権者は権利行使できないとする理論です。

特許権者が特許実施品を製造・販売する場合、販売の際に特許の対価を含めた値段設定

をすることが出来ます。特許権者は、真正品については、特許の対価を得る機会を少なくとも

1回は有しているということになります。簡単に言うと、対価を得る機会が 1回あればいいでしょ

うというのが用尽理論です。用尽理論が適用される結果、真正品が転々流通した場合、再譲

渡、再々譲渡をした者は全員、非侵害です。

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商標法

というのは、特許は最初の譲渡で用い尽くされたと考えられるからです。用い尽くされたとす

るほうが商品の流通が円滑に進むのです。ソニーが卸売り業者に製品を売ったときに、卸売り

業者がさらに誰に転売するのかまで一々把握していられません。逆に、対価を徴収する機会

を 1 回に絞ったほうが、商品が円滑に流通するようになるのです。もちろん、用尽論もさっきの

話と同じで、真正品であることが前提です。偽物だったら、転々流通する間の譲渡行為が全部

侵害になります。真正品だというところが大事で、特許権実施の対価を徴収する機会は 1 回あ

ればいいだろうということで、1 回対価を得ることで用い尽くされる、というのが用尽理論です。

最高裁などでは、「消尽」という言葉を使っているようですが、私は、用語の意味としては、1回

チャンスがあるのだから、それで用済みだということで、「用尽」のほうが正しいと思っているの

で、「用尽」の語を使っています。

以上が用尽理論です。これについては、特許のところでもう一回説明します。

さて、でも、商標について出所表示機能を害さない場合は商標権侵害に該当しないという

話は、用尽論とは少し違うのです。別に商標権が用い尽くされているわけではありません。皆さ

んが、正確にソニーを出所とした製品だということを把握しているのであれば、商標権侵害を否

定したほうが商品の流通が円滑に進みます。この場合、むしろ、商標法の目的からすると、商

標権侵害に問責するところがないのです。出所の混同を防止するのが商標法の最終的な目

的です。それは不正競争防止法 2 条 1 項 1 号でも同じです。だったら、出所の混同をおよそ

引き起こさない態様の場合、真正品が転々流通している場合なんかがその典型例ですけれど

も、その場合は、むしろ商標権の侵害を否定したほうが、皆さんが正確にソニーを出所とする

商品だということを分かりつつ、流通も円滑に進むという結論を導くことができます。これが、出

所識別機能を害していない場合に商標権侵害を否定する考えです。

問題になるのが、真正品の製造・販売が海外で行われている場合です。けれども、海外で

行われている場合というのも実は同じです。これについては、レジュメにPARKER事件という昔

の判決が載っていますね。これは真正品の並行輸入の話です。真正品の並行輸入と言った

時点で、偽造品じゃないところがポイントです。どういう話かといいますと、アメリカに PARKER

社という会社があって「PARKER」という商標を付した万年筆を売っています。日本に輸入総代

理店があって、そこに対して、自らが有している日本の「PARKER」商標権の専用使用権を与

えていました。PARKER 社は日本にも万年筆を輸出したい。PARKER 社はもちろんアメリカ国

内や他の国でも万年筆を販売しています。でも、市場として日本も狙いたかったのでしょう。

PARKER 社の日本の総代理店を通じての輸入は、専用使用権を与えているので当然セーフ

ですよね。商標権者である PARKER社の許諾があります。問題は、PARKER社の万年筆をア

メリカ国内で購入した人が別の代理店を通じて PARKER社製の万年筆を日本国内で売ること

を、PARKER 社が日本の商標権侵害を理由に出来るかということです。このような真正品の並

行輸入が許されるかどうかが争われたのが、昭和 45年の PARKER事件です。

PARKER社としては、PARKER社の許諾なく商標を付した万年筆を輸入する行為は商標権

侵害だと言いたいのです。どうして PARKER 社が自らの代理店を通さない並行輸入を止めた

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商標法

いのか、簡単にお話します。実は、最近はだいぶ解消されたと言われますけれども、内外価格

差別というのがあります。どういうことかと言いますと、PARKER社がある万年筆をアメリカでは 1

万円で売るとします。でも、日本の人はいまだに舶来物が好きで、外国製品だと高い値段を払

います。そこで、会社としては、自らの代理店を通して、同じ万年筆を日本では 3万円で売ると

いう作戦を立てます。これが内外価格差別です。内外価格差別戦略とか、内外価格差別とい

いますけど、こういうことがあるので、海外旅行へ行って、PARKER 社の万年筆を買ってくると

得ですよ、なんて言われるのです。ところが、PARKER 社が許諾を与えていない代理店ルート

を許してしまうと、この内外価格差別戦略が崩れてしまいます。どうしてかというと、アメリカで

PARKER社の万年筆を購入した人は 1万円で買っていて、日本で同じものが 3万円で売られ

ていると知っているので、当然、その間の値段、たとえば、2 万円で売るでしょう。1 万 5,000 円

でもいいかもしれません。そうすると、どちらも PARKER社が製造した真正品ですから、消費者

は安いほうを買うので、PARKER 社の内外価格差別作戦は崩れてしまうのです。だから、

PARKER 社は PARKER 社が許諾していない代理店ルートを止めたいのです。これを真正品

の並行輸入の問題といいます。

これは真正品だというところが大事です。偽物だったら、考える必要もなく、もちろん侵害に

該当します。PARKER 社が日本で商標権を持っているという前提ですが、偽物だったら即商

標権侵害です。けれども、真正品の場合はどうなのかというのが問題となって、特許に関して

は延々議論がなされているのですが、商標については、学説も裁判例もそんなには揉めてい

ません。真正品の並行輸入はオーケーというのがパーカー事件の結論で、皆さん、それでい

いと言っています。

この場合、真正品であって、PARKER 社を出所とする万年筆だということは間違っていませ

ん。偽物ではないのです。皆さんが、PARKER 社の万年筆が欲しいねと言って、並行輸入ル

ートで入ってきたPARKER社の万年筆を買って使っても、ルートが違うだけでPARKER社製と

いうことに変わりはないのです。商標についても、国際用尽するなんて言う人もいるのですけれ

ども、この問題の理解としては、用尽の話ではなくて、出所識別機能を害していないから非侵

害とするべきなのです。結論は同じですが、理由付けが違うのです。

真正品の並行輸入問題は、いろいろな知的財産権絡みで出てくることが多いと思うので、パ

ターンを理解して欲しいのですが、PARKER 事件のような判決が出た背景の一つには、これ

はけしからんという気持ちがどこかにあるように思います。アメリカで 1 万円で売っているものを、

何で日本で買うと 3万円も払わなければならないのかということです。あとは、競争政策の観点

から、代理店AとBを競争させた方が価格は下がります。2万円で売っているところがあると 3万

円じゃ売れないから値段を下げますよね。そういう競争があることが、本来の競争の在り方なの

ではないかという考えが、やはり価値観として背後にあります。ありますけれども、商標につい

ては国際用尽が認められると考えているというよりは、商標の出所識別機能が害されていない

からというふうに捉えて欲しいと思います。

レジュメの PARKER 事件の下に、「FRED PERRY」事件というのがありますけれども、これも

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商標法

裁判で争われて、こちらは結論としては商標権侵害を認めました。認めたのですが、理由が、

これは真正品ではないという理由なのです。これはなかなか微妙なところがあって、真正品だ

ったら商標権非侵害には該当しないという理論を前提として採用しています。その上で、

「FRED PERRY」事件では、商標権者自身が商品を実際に作っているわけではなくて、ライセ

ンス生産だったのです。そして、ライセンシーがライセンス契約上の制限条項を守っていませ

んでした。だから、品質が違う製品ができる可能性があったのです。そういう場合は、真正品で

はないから、商標権侵害になるという理屈で、「FRED PERRY」事件での結論は侵害になりまし

たけれども、理論としては、真正品の並行輸入については非侵害という理論を取っています。

並行輸入では、実のところ何が問題になっているのか、ということを理解しておいてください。

PARKER 社は内外価格差別作戦を取りたいので並行輸入を止めたいのです。独占禁止法を

学んでいる人は、何が問題かすぐ分かると思います。独占禁止法上でもいろいろな問題があり

ます。必ずアウトになるわけではないと思うのですが・・・特許については特許の授業でもう一

回やります。

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商標法

<商標法(8)>

出所識別機能を害さない場合のパターンなのですが、代表的なのが真正品の並行輸入パ

ターンです。別に並行輸入だけに限らず、真正品の国内での流通についても同じなのですが、

形式的には許諾を受けずに譲渡・輸入などを行う行為は、当然商標の「使用」に当たるのです。

だから、形式的には侵害になるのかもしれません。ただし、非侵害にしたほうが商標の持って

いる出所識別機能という機能が十分に発揮されます。だから、むしろ積極的に非侵害にした

方がいいのです。

次に、さらに例外の例外について、事例を挙げて説明しましょう。レジュメの「ただし・・・」以

下です。例外の例外というより、出所識別機能を害さないという例外に入らないというふうに言

ったほうが良いかもしれません。

例えば、(a)として、流通の過程で改変を加えた商品に、登録商標を付したまま取引に置く

行為については、出所識別機能を害し商標権侵害になる、という場合として、「Nintendo」事件

というのがあります。この事件で問題になった対象物はファミコンです。任天堂が製造・販売し

たファミコンを買ってきて、改造したうえで、再度流通に置いたのです。ファミコンのコントローラ

ーには十字のボタンと丸いボタンがあると思うのですけれども、そのコントローラーを改造して、

ボタンを押しっぱなしでばんばんミサイルが出るよう連射機能を加え、「パッカージュニア」とか

いう商品名でその改造ファミコンを売っていたのですが、「Nintendo」の商標も残っていました。

「Nintendo」の商標を削らなかったのです。この事件では、商標権侵害が認定されました。連射

機能付きの新しいファミコンを任天堂が出したと思われる、という点で出所識別機能が害されま

す。

(b)の、流通の過程で商品が詰め替えられた場合に商標権侵害になるという事例として、

「HERSHEY’S」というココアの事件があります。この事件では、HERSHEY’S というココアの流

通過程の卸段階で詰め替えがあったのです。業務用の大きい袋に入ったHERSHEY’Sのココ

アを買ってきて、それを小分けにして、ご丁寧に卸の人が「HERSHEY’S」という商標をくっつけ

て、缶入りココアとして転売した事件です。「HERSHEY’S」という商標を付けなければ良かった

のです。付けたばかりに商標権侵害になりました。

これが、出所表示機能を害しないということで商標権侵害が否定される場合とどのように違う

のかが、レジュメの「[どう考えるか]」というところに書いてあります。「Nintendo」事件はわりと商

標権を侵害するという結論は分かりやすいと思います。一方、「HERSHEY’S」事件では出所識

別機能に付随している品質保証機能が問題になっています。商標は、基本的には出所識別

機能を果たす表すものですが、皆さん、どうしてソニーの製品を好むのか、あるいは、どうして

ソニーの製品が良く売れているかというと、ソニーだからと言うことで、皆さんは、最先端の技術

が搭載されたビデオなり、DVDレコーダーなり、プレイステーションなりを期待するわけです。

それは、単に出所がソニーだというだけではなく、ソニーが作っているものであれば、最先端の

技術が使われているだろうという品質についての皆さんの期待があるからです。だから、ソニー

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商標法

の製品は売れる。品質保証機能というものは、そういった出所識別機能に付随した機能だと言

われています。

それが害されている恐れがあるというのがこの「HERSHEY’S」の事件です。どういうことかと

いうと、ここで問題となった商品は食品、缶入りココアです。この事件では、このココアの入った

袋を一回開けてしまっています。HERSHEY’S のココアは、商品として流通させても消費者に

恥ずかしくない、消費者を裏切ることにならないと HERSHEY’S が判断して、大きな袋にココア

を入れて、商標を付して販売したわけです。けれども、消費者の手に渡る途中で封を開けられ

ちゃったら、ごみや虫が入るかもしれません。大袋入りのものを小分けにして、さらにご丁寧に

「HERSHEY’S」という登録商標を付けると、ごみとか虫が入ったココアを HERSHEY’S が売っ

たのかという話になってしまいます。消費者の品質に関する期待が裏切られてしまうわけで

す。

ごみや虫が実際に入るかということについては可能性の問題がありますが、ここでは虫が入

ってしまったことにしましょう。消費者は、HERSHEY’S のおいしいココアを飲みたいと思って、

登録商標を頼りに HERSHEY’S を買ったのに、何と虫が入っていたとします。消費者の

HERSHEY’S に対する品質の期待はかなり害されてしまいます。後で詰め替えがあったという

ことが、消費者の方でも調べてみて分かったとしても、消費者は何を頼りにココアを買えばいい

かという話が残ります。

HERSHEY’S のココアは、HERSHEY’S が包装した以上、包装した状態で品質に自信があ

る、あるいは、消費者を裏切りませんということで「HERSHEY’S」の登録商標を付して売ってい

るわけです。それが美味しければ、HERSHEY’S に信用が化体していきます。そのような流れ

で信用を高めていって欲しいというのが商標法の目的なのですが、途中で封を開けられると、

商標権者の保証の限りでなくなります。開けたのだったら、開けた人が保証します、責任を持

ちますということで、その人の登録商標を付けろという話になります。そこで、商品の品質まで

考えて、登録商標が識別している出所を偽っているという結論に結び付けているわけです。こ

れは、食品だと特に問題が先鋭的になると思いますけれども、どんな商品についてもあり得る

考え方です。途中で封を開けた場合は、もはや HERSHEY’Sのココアとは言えない、あるいは、

HERSHEY’S が責任を持って市場に送り出した製品とは言えないという意味で、出所の識別

機能が害されているので、結論としてこれは商標権侵害を認めていいだろうと判断していま

す。

さらに突っ込んで、レジュメの[論点 1]、[論点 2]、[論点 3]を考えてみましょう。

[論点 1]は、「HERSHEY’S」に絡んだ考えですけれども、結果的に品質に差異が生じなか

った場合はどうかということです。商標権者以外が詰め替えをしたけれども、虫も入らず、酸化

もしないし、ごみも入らなかった。品質が全然変わらなかったのだったら、結果オーライじゃな

いかという気もします。でも、さすがにそれは駄目でしょう。品質が違うかどうかは飲んでみるま

で分かりません。それでは、需要者は何を頼りに製品を買っていいのか、何を頼りにココアを

選んでいいのか分からないでしょう。やはり最終的な包装は、商標権者、ライセンシーでも構わ

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商標法

ないですけれども、商標権者、商標を付した人、商標から識別される人がして、商品の品質を

保証することが担保されていなければ、登録商標に信用が化体しません。間違った信用が化

体してしまうかもしれませんから、品質が変わっていなくても、商標権侵害に該当するとするべ

きだと言えます。これが[論点 1]です。

[論点 2]は、小分け品であることが明らかな場合はどうかという問題です。「マグアンプK」事

件というものが、この論点絡みであります。これはどういう事件かというと、「マグアンプK」という

のは、外国の肥料ですけれども、結構良い肥料らしいのです。問題になったのは、ホームセン

ターに園芸品コーナーがありますよね、そこで安売りをしていることでした。安売りの形態が問

題だったのです。どういう形態で安売りをしていたかというと、「HERSHEY’S」事件と一部似て

います。肥料の「マグアンプK」の大袋を買ってきて、小さい袋に小分けしたのです。ここまで

は「HERSHEY’S」事件と同じなのですけれども、[マグアンプK]の事件では「MAGAMP」とい

う標章が登録商標だったのですが、小分けして安売りされているホームセンターの園芸品コー

ナーでは、小分けした商品に手書きのマジックで「マグアンプK」とか「MAGAMP K」などと書

いてあったのです。確か、「MAGAMP K」の“A”が大文字で強調されているデザインで、これ

は小分けする前の袋にされていた表示と同じでしたが、そんな綺麗に書いたわけではなかっ

たと思います。その場合、ホームセンターに買いに行く人が、真正品の製造者が小さいビニー

ル袋を用意して、「マグアンプK」と手書きにしたと信じるかどうかという話です。さすがにこれは

ホームセンター側が小分けしたのだろうということが明らかに分かるでしょうという事例でした。

小分けした小さい袋に「マグアンプK」と書いていなくても、商品等表示のプレートに、「マグア

ンプK安売り!500 円」とか、書くでしょう。さすがにそのプレートはホームセンター側が書いた

標章ということになるでしょう。誰が小分けをしたのかが明らかに消費者に分かる場合、その場

合はさすがに商標権侵害を否定すべきだと思います。「マグアンプK」事件の結論は、レジュメ

に書いてあるとおり、商標権侵害を肯定したのですが、さすがに明らかに分かる事例だったら、

商標権侵害を否定してもいいではないでしょうか。もしこの場合に否定できないと、マグアンプ

Kを小分けして売れないですよね。口頭で「マグアンプK、マグアンプK」と叫ぶ場合は、商標

の使用にはならないので、それはセーフですけれども、商品に商品名が書いていないと、かえ

って消費者は何か分からないですよね。だから、むしろ侵害を否定するべきだと思います。こ

の場合はもちろん真正品で、かつ小分けしたのがホームセンター側だと分かる。だから、異物

が入っていても、これはマグアンプ社の責任じゃなくて、小分けしたホームセンター側の責任

であるということが明確に分かるので、商標権侵害は否定した方がいいのではないかということ

が[論点 2]に書いてあることです。つまり、レジュメの(b)のさらに例外になるということです。正

確に言うと、(b)プラス[論点 1]の例外ですかね。小分けした場合、大元の登録商標を付して

流通させた場合には、登録商標権者の責任で包装がなされていると需要者が期待をするので、

その期待を切断した小分け業者には登録商標権侵害を肯定していいでしょう。ただし、小分け

した人が明らかでその責任だと分かる場合には、例外をもう一回ひっくり返して、侵害否定で

構わないでしょうというのが、(b)から[論点 2]までの流れになっています。

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商標法

小分けの場合は[論点 1]、[論点 2]でよく分かりましたね。次に、[論点 3]です。これは、小

分けではなく、逆に大きく包む場合はどうなのだという問題です。小分け品を開けて大きな袋

に詰めなおしたら、[論点 1]、[論点 2]と同じ話になると思いますけれども、開けないで、小分

けされたまま、さらに大きな箱に詰めた場合どうなのでしょう、ということです。つまり、箱を開け

たら、もう一回箱があるという状況になります。これが問題とされたのが、「ハイ・ミー」事件です。

「ハイ・ミー」というのは味の素株式会社の箱入りの調味料です。箱入りの調味料をさらに大き

な箱に詰めて、その大きな箱に「ハイ・ミー」と付して流通させた場合です。

これは刑事事件です。調味料の「ハイ・ミー」を欲しい人が買った事件のではなく、パチンコ

の換金の手段に「ハイ・ミー」が使われていた事例です。だから、この場合、「ハイ・ミー」が入っ

た箱を開けて「ハイ・ミー」を使うわけじゃなくて、換金の手段として箱入りの「ハイ・ミー」がパチ

ンコの換金業者とパチンコをする人との間でぐるぐる流通していたという話でした。そのようなこ

とで、刑事事件になった事例だと思います。この事例は刑事事件だということで、いろいろな考

量が働いて、商標権侵害が肯定されたのだと思うのですが、商標権者がした包装をばらして

いないケースです。さっき話しましたように、小分け品の包装をばらして大きな袋に入れたわけ

ではないのです。言ってみれば、小分け品の包装を開けないで、その上からさらにもう一つ大

きな袋をかぶせただけです。この場合は、品質を害されていることにはならないでしょうから、

侵害を否定していいはずです。出所を誤らせていません。品質も害されていません。レジュメ

には、「実際上の必要もある」なんて書いてありますが、これは、古本を束ねて段ボール箱に入

れて中身を示すために雑誌名を書くとします、この状態で古本屋さんに段ボール箱を持って

いって売ったら商標権侵害になるのかという話です。たとえば、『週刊モーニング』に商標権が

あるとして、古本屋に持って行くときに、『週刊モーニング』と書いた段ボール箱に入れていっ

たら、それは商法権侵害になるのですかという話です。

最後に中古品の問題があります。古本なんかは中古品の類型ですが、もし中古品を新品と

偽るような場合であれば、不正競争防止法 2条 1項 13号の品質誤認表示に当たるという手も

考えられます。「HERSHEY’S」事件も、13号の重畳適用というのはあり得るかもしれないです。

以上が、詰め替え事例の論点です。

次の(c)は、(a)、(b)とは少し毛色が違います。真正商品についての積極的広告の場合で

す。この類型の例としては、ヨドバシカメラのチラシ、ホームページでもいいですし、あとはポイ

ントブックみたいな本がヨドバシから出ていると思いますけれども、そこに「ソニー製品、安いよ、

18%引き」とか書かれて、ソニーのDVDレコーダーか何かが写っています。このようにヨドバシ

カメラがソニーの商標を表示してソニー製品を積極的に広告する場合を商標権侵害にするか

どうかという論点があります。さっきも見ましたように、2条 3項 8号には、広告は商標の使用だ

と書いてあります。広告、価格表、取引書類に商標を付する行為、これらは「使用」に当たると

書いてあります。

ただ、この場合は、真正商品の転々流通の場合と同じに考えれば良いでしょう。「ソニーのD

VDレコーダー、安いよ」と書いてあっても、ヨドバシカメラが自分を出所として「ソニー」の標章

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商標法

を使っているとは誰も思わないですよね。ヨドバシカメラは小売り業者に過ぎません。ヨドバシカ

メラはどこかから仕入れてきてソニー製品を売っている。この場合も真正商品だというところが

ポイントです。真正商品でなければ、これは端的に侵害になります。真正商品だというところが

重要なところなのです。偽物であれば、ヨドバシカメラも侵害になります。もちろん、偽物を作っ

た人も侵害になるし、偽者を売るヨドバシカメラも侵害になります。ここでは真正商品の話をして

います。真正商品の場合は、商標権者以外が広告を行っても出所識別機能が害されません。

逆に、これを商標権侵害だとしてしまうと、小売り業者がチラシを出せなくなってしまいます。単

に商品をお店で並べていて、商品名を表示する分にはセーフでしょうが、ヨドバシカメラのテレ

ビ CMの背景にソニーの大きなテレビがあって「ソニー」と表示されていたら、そんなテレビ CM

も駄目だということになってしまいます。チラシもアウトです。それではさすがにきついですね。

広告ができなくなってしまいます。真正商品である限りは、ヨドバシカメラがソニーの偽物を作

っているとはみんな思わないです、小売り業者なのだから、どこかから仕入れてきているという

ことは分かります。この場合は、出所を偽っておらず、出所識別機能は特に害されていないの

で、商標権は非侵害です。ただ、これに関しては、アウトだとおっしゃる先生もいらっしゃいま

す。アウトと考えると、さっきも言いましたが、どのように広告をするのでしょうね。いちいちソニ

ーから許諾を得て、場合によっては許諾料を払うのでしょうか。でも、ソニーから売ってくれと言

われて仕入れた商品なのに、その広告をするためにもう一回ソニーに許諾を求めるというのは

何かおかしな気がします。

黙示のライセンスという理論もあるのですが、黙示のライセンスは転々流通した場合には及

ばないため、物権的にセーフにする必要があります。ただし、レジュメ中に「もっとも・・・」と言っ

て挙げているような例、販売店の看板に大きく標章を掲げるような行為をした場合は、ヨドバシ

カメラはソニーの代理店なのではないかというふうにライセンス関係があるのではないか等の

誤解が生じる可能性があります。けれども、その場合でも、「商標権侵害で構成すべきか??」

を再度、考える必要があるでしょう。そして、商標権侵害で構成しても良い場合もあるかもしれ

ませんが、困ったときの不正競争防止法 2条 1項 1号ということで、むしろ 2条 1項 1号の方

が柔軟な対応ができると思います。具体的な取引事情を考慮するのは不正競争防止法 2条 1

項 1号の得意とするところですから、そちらで処理すればよいでしょう。

幸い、不正競争防止法 2条 1項 1号の適用範囲として、最近は広義の混同、すなわちスナ

ックシャネルについて混同が肯定されるくらい広いので、具体的な混同については不競法 2

条 1項 1号の方が柔軟であると言えます。

もちろん(c)について、商標権侵害になるとおっしゃる先生もいるのですけれども、それはや

はり商標権侵害についての根本的発想が少し違います。財産的契機重視型などと言います

が、商標権の財産的価値を重く見るというアプローチを取ると、(c)のような場合についても商

標権侵害を肯定する結論に結び付き易いです。対する出所識別機能貫徹型は、商標制度に

おいては出所識別機能を商標に発揮させるのが重要なのだから、商標権の保護の範囲もそ

の限りでいいでしょうという思想です。前者は、どちらかというと特許法的なアプローチです。後

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商標法

者の出所識別機能貫徹型は、不正競争防止法的アプローチと言えましょう。

だから、前者の立場からは、このような場合、用尽説で説明するのです。一回は財産的価値

を行使する機会がある。一回行使したのだから、それでいいでしょう、それが用尽理論ですけ

れども、そこでは、わりと商標権の財産的価値を重く見ているのです。だから、使用に該当す

れば基本的には商標権が及ぶ、その場合は、広告は真正商品に関する新たな商標使用行為

です。再放送、広告、たぶんこれらはみんな商標権侵害になるのでしょう。

田村先生の教科書での商標の機能についての説明は、むしろ出所識別機能貫徹型の立

場です。商標法というのを、極端に言えば、不正競争防止法 2 条 1 項 1 号を前倒しで保護し

ている法律に過ぎないというふうに考えるのがこの立場です。不正競争防止法 2条 1項 1号の

立場だと、今日の朝、一番に説明したとおり、先行投資ができません。あるいは、商標の譲渡

ができない。だから、そういう問題に配慮して、本当は不競法 2 条 1 項 1 号で保護されるべき

商標を、登録制度を介することで信用が化体するより前から少し財産的価値を認めて保護して

いるのだと考えるのが後者の立場です。

後者の立場は、登録制度というのは、あくまで出所識別機能を十分に発揮させるための手

段に過ぎないと考えています。そもそも商標というのは創作物ではないと言われていて、創作

的価値を要求されていません。商標法の3条にも4条にも独創性、オリジナリティーがある商標

でないと商標登録できませんよとは書かれていません。明日説明しますけれども、普通名称等

はもちろん登録できないのですが、造語じゃなければ登録できないとも書いてありません。もち

ろん、ストロングマークとウイークマークの紹介のところで言いましたとおり、造語のほうが保護

は強いのですが、造語でなければいけないとは書かれていないのです。だから、商標法は創

作保護法じゃないと言われています。

それに対して、特許法とか著作権法は創作物の保護法だと言われています。ですから、わり

と前者の財産的契機重視型の考え方になじみやすいと言われていますが、商標は創作物で

はありません。特に創造性を発揮せずとも誰にでも作れる表示を、不正競争防止法 2条 1項 1

号に加えて、商標法で前倒しに保護しているに過ぎないので、現行法の理解としては後者だ

と書いてあったりしますけれども、前者の財産権重視型の人でも現行法は財産権重視型だと

説明するのかもしれません。確かに、真正商品パターン、あるいは、箱詰めパターン、広告パ

ターン、これらを全部商標権侵害ではないとすると、商標権の財産的価値というのは、財産的

刑期重視型に比べれば若干下がります。その限りで商標権が及びませんから。及ばないので

すが、そもそも商標法というのは、出所の混同を防いで商標にたくさん信用を化体させてあげ

よう、その結果、消費者は商標を頼りに商品を買えば、いいものが手に入るだろう、消費者の

期待が保護される、皆さんが幸せになるという法律です。むしろ、そういう出所識別機能貫徹

型では、広告も真正商品の取引もすべて商標法が予定しているところとして、セーフになりま

す。セーフにならないのが、レジュメの(b)のところです。

これが、出所識別機能貫徹型と言われる解釈です。必ずしも田村先生以外の人が前者の

財産的契機重視型ということではありませんが、やはり私もわりと前者のように考えていました。

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商標法

私も特許から知的財産法に入ってきたので、(b)については、これは国際用尽で対応するの

だと理解していたのですが、出所識別機能貫徹型の説明を受けると、(b)を用尽だと説明する

のはやはりおかしくて、出所識別機能が害されているかいないかで考えたほうがいいのかなと

思います。

並行輸入パターンでは、どちらの立場を取っても結論は同じになります。財産権的契機重

視型でも、偽物であればやはり侵害になるし、結論は変わらないです。結論が一番変わるのは

広告パターンです。それから、(b)の「マグアンプ」事件とか「ハイ・ミー」事件のパターンの結論

もきっと変わるでしょうね。これらについては、財産権的契機を重視する立場の人は侵害だと

言うと思います。侵害と言わないと、立場を貫けないでしょう。

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商標法

<商標法(9)>

大きなⅣの各種登録阻却事由と権利行使制限事由の話を最初にして、2 セット目からは、

商標権侵害の効果と商標権の経済的利用、それから、おまけとしてドメインネームに対する規

律を少しだけ説明します。

最初、登録阻却事由と権利行使制限事由に入っていきます。1概観、2のところで 3条につ

いて説明します。26 条も少しかな。3 のところで、氏名・名称等が商標出願された場合、あるい

は権利行使された場合について話して、最後に創作法、特許著作権法との調整の話をしま

す。

最初、概観ですけれども、登録阻却事由、これは何度も言っていますけれども、商標は出願

して審査を受けなくてはいけません。その審査の際に、この事由に引っ掛かると登録できませ

んよ、商標を取れませんよという事由が登録阻却事由です。きのうも説明しましたが、判断時点

は査定審決のときです。査定の時点と書いてありますけれども、事件が審判の方まで及べば

審決の時点ですけれども、その時点で登録阻却事由に該当すれば、それは商標登録できな

いということになります。それで、拒絶査定を受けます。それが 15 条に書いてあります。拒絶の

理由が 1号、2号、3号に書いてあります。もっぱら 1号ですけれども、1号の方に、何条に書

いてあることに違反したら駄目よと書いてあって、3条、4条……と。

ただし、これらの事由に該当したからといって、いきなり拒絶を食らうわけではありません。15

条の 2の方に拒絶理由の通知というのがあります。拒絶査定の前渡しですけれども、15条の 2

の方で出願人の方に応答する機会を与えています。これは拒絶の理由がある場合は、必ず出

さなくてはいけない。これは特許庁審査官の義務です。これは特許の方でもやりますけれど

も。

少し戻って、査定審決確定時と言いましたけれども、きのうも何回か触れました。4 条 3 項に

その例外が書いてあります。4条 1項というのは、これは 19号までありますけれども、これは全

部拒絶の理由です。それぞれ拒絶の理由です。それぞれ査定時に該当しているかどうか見る

わけですけれども、3項に掲げられている 1項のうち、8号、10号、15号、17号、19号、これに

ついては、出願時のときと査定時のときと両方に該当していると拒絶になります。逆に言えば、

適応用が狭いということになります。

例えば 11 号だったとすると、出願のときに該当していなくても、査定審決のときの方が後で

すから、該当していると拒絶になりますが、10号、15号については、出願のときにも該当してい

ないと拒絶にはならない。救われるということです。どうしてかというと、10 号は他人の商標とし

て広く認識されている、周知商標の保護、15号の方は混同です。だから著名表示、これは、出

願人の期待の保護です。出願人が出願するときに、これはまだ今のところでは周知になってい

ないな、商標を取れそうだから取ろうと思って出して、後から周知になった場合は救われるとい

うことです。これが 4条 3項の意味です。実務的には大事です。

過誤登録というのが常にあります。審査官も人間なので、どうしても過誤登録というのがあり

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商標法

ます。そのために、後発的に商標登録を抹消する無効審判というのがあります。46 条 1 項、き

のうもちらっと出てきたような気がしますが、これは 46条 1項の方に書いてあります。無効審判、

これは、商標権者を相手方に取って提起するものです。最初は特許庁。不服があれば、東京

高裁に行きます。これも後でやります。

きのう説明した取消審判と違うところは、取消審判というのは、登録のときには過誤ではあり

ません。正当に登録されているのだけれども、その後使っていなかったとか、きょうやるように使

い方が悪かったりしたら、事後的に登録が消される制度です。50条の場合は、審判登録のとき

にさかのぼって取り消しになりますけれども、逆に言うと、審判登録のときまでは権利が有効に

残っているのです。無効審判というのは、初めからなかったことになります。要件を満たしてい

なかったので、これは過誤登録。初めからなかったことになります。これが無効審判の効果で

す。だから、これは大事なところです。弁理士試験なんかだと、取消審判で商標権がなくなっ

た後に、無効審判を提起できるかという典型問題があるのですけれども、できるのです。取消

審判だと有効な期間が残っているから、損害賠償請求権が残っているのです。それを消すた

めには無効審判を提起する意味があります。遡及(そきゅう)的に無効になるのが 46 条の 2 と

いう条文です。これも確認しておいた方がいいかもしれません。

ただし、商標の無効審判について、特徴的なところというのが、47 条に書いてあります。47

条というのは、除斥規定だと言われていて、47条を見ると、3条、あるいは 4条 1項のうち、8号

とか 10号、11号、12号、13号、14号なんかは(10号と 15号は留保付き)、これは設定登録の

日から 5 年を経過した後は、審判請求することはできないのです。無効事由が治癒したと言い

ますけれども、これはどういう話かというと、過誤登録で登録を受けた商標でも、使っていると信

用が化体することがあるのです。その場合には、現実に化体した信用の方を保護しようというこ

とで、法律が判断して、5年間の除斥期間というのができています。だから、公益的な規定なん

かは除斥事由から外れています。例えば、きのう説明した 4条 1項 7号、公序良俗違反なんて

いうのは、除斥期間にはかかりません。

それから、後発的無効理由というのがあります。これが 46条 1項の 5号に書いてあります。

こっちは逆です。公益的な拒絶理由のうち、公益性が強いものが書いてあります。やはり 4条 1

項 7号が入っています。これは、取消審判と若干似ていますけれども、出願して査定審決時に

は有効だったのです。無効事由があったわけではない。でも、後から取引事由とか世の中の

情勢が変わって、後発的に後から無効事由に該当するようになってしまった場合というのは、

それを後発的無効事由と言いますけれども、その場合は、残念ながら無効審判を提起されると、

無効になってしまいます。無効になってしまうのですけれども、無効事由に該当したときから無

効になります。だから、その場合は有効の期間が残ります。さすがにそうですよね。出願のとき

に無効事由がなくて登録されたのに、後から無効事由にかかった場合には最初からなくなると

いうのでは、あまりにもかわいそうです。無効事由に該当したときから消滅します。それが 46条

2 の但し書きの方に書いてあります。この辺は少し細かいところです。ここまで理解しなくても、

普通の試験の方は大丈夫です。

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商標法

それから、登録異議申立てという制度があります。これも昔は特許と商標と両方あったんで

すけれども、今、特許にはなくなってしまったのですけれども、商標では残っています。早晩な

くなるような気はしますけれども。ここには審査の延長という性格と書いてありますけれども、む

しろ簡易な無効審判です。商標登録されてから、正確に言うと、公報発行の日から 2カ月以内

ですけれども、この期間内に簡易な無効審判ができると考えてくだされば結構です。要するに、

審査官が見逃したものでも、取引者、業界人の方が実は詳しいということがあり得るのです。そ

の場合には、そういう業界人からの情報を提供していただいて、審査に反映しようという性格の

ものです。昔は特許にもありましたが、なくなってしまいました。

ⅱ)の方に行きまして、もう一つ、これは権利が成立した後、権利行使の場面で、権利行使、

外観上はできるのだけれども、いろいろな理由があって除外されているものがあります。これが

26条です。26条は 1号から 5号まであり、いろいろ列挙してありますけれども、大きく2つの類

型に分けられます。無効内包型と後発型と言われていますけれども、これは後から説明しま

す。

レジュメの最初に、「過誤登録の場合に無効審決を待つまでもなく使用を認める」と書いてあ

って、こちらが無効内包型です。後ろ、「類似の範囲内に自己氏名、普通名称が使用されてい

る場合の保護」というのが後発型で、後で説明します。

ということで、例えば 26条 1項 1号にある、「自己の氏名……を普通に用いられる方法で表

示する商標」については、商標権の効力は及ばないと。あるいは2項、指定商品についての普

通名称を普通に用いられる方法で表示する商標については、たとえ商標権がその上に設定

登録されていても、権利行使を免れるという規定になっています。3 号は役務です。4 号は慣

用商標です。5 号は機能的、立体商標ですか、これらの表示については、その上に商標登録

されても権利行使を受けません。それが 26条の内容です。

それで、2「出所識別力・独占適応性を欠く商標」の説明の方に行きますけれども、2 では登

録阻却事由のうちの 3条について説明します。これは登録要件になっています。3条 1項は、

1号から 6号まであります。だーっと読んでほしいのですけれども、3号は飛ばし読みで構いま

せん。いろいろ略称が付いています。1号は普通名称です。2号は慣用商標、3号は産地、品

質、材料等、商品とか役務の内容を示すような商標です。4号はありふれた氏、名称、5号は簡

単でありふれた商標、6号はその他です。

ただし、これにも重要な例外があって、3条 1項各号というのは、これは拒絶理由で、登録阻

却事由ですけれども、2項の方に例外があって、1項 1号から 6号のうち、3号から 5号までは、

使用された結果として識別力を獲得すると、商標登録ができるようになります。商標登録を受

ける前に使って、実際に現実に使用して識別力を獲得する。そうした場合はこの適用を免れて、

商標登録を受けることができます。もちろんほかの拒絶理由に当たったら駄目ですけれども、3

号から 5 号までは免れるということになります。これが 2 号の「使用による特別顕著性」になりま

す。特別顕著性と略して言ったりすることがあります。3条 2項、これは大事なところです。

3 条の趣旨については、争いがあります。どうして登録できないのか、その理由について争

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商標法

いがあります。最初の説は出所識別力欠如説、出所識別力がないから、これらの 1号から 6号

に当たる商標というのは、出所識別力がないから商標登録を受けさせるべきではない。普通名

称、あるいは、ありふれた氏、名称、産地、品質、材料、これが第 1説です。

第 2 説は、独占適応性がない。独占させてはいけない標章である。これは、不正競争防止

法のところで普通名称についての適用除外をやったと思いますけれども、そこでは「てりやきバ

ーガー」なんかの例を出して、個人に独占させてはいけない、みんなが使えなかったら困る、

それは独占させてはいけないんだという説明があったと思いますけれども、そちらの説で 3 条

を説明するのが第 2説の方です。

ただし、3条 1項は 1号から 6 号まであるので、一貫した説明がなかなか難しいと言われて

います。どうしてかというと、それぞれの説に弱点があるためです。第 2説の弱点の方、独占適

応性がないという説ですと、3 条 2 項が説明できないのです。牛乳について「北海道」という商

標を取れるのかという話がありますが、牛乳について「北海道」というと、これは産地を表すと取

られかねません。そうすると、3 号に当たって、登録が受けられないということになりますけれど

も、3 号については、頑張って使用した結果、「北海道」といえば雪印の牛乳だというように皆さ

んが認識してくれると、その時点から登録を受けることができるようになります。

でも、独占適応性でこれを説明しようと思うとうまくいきません。独占させてはいけないのだか

ら、誰も登録できない。不正競争防止法のところでも田村先生が説明してくださると思いますけ

れども、例として「てりやきバーガー」を挙げます。「てりやきバーガー」というのはファーストフー

ドでは誰しも使えなかったらいけないというので普通名称と言われています。独占適応性欠如

なのですけれども、だったら、出所識別できるようになったからといって、独占させていいもので

はないでしょう。そうすると、第 2説の説明がうまくいかない。

もう 1個、第 1説、出所識別力欠如説は、さっきの逆です。普通名称の話がうまく説明できな

い。普通名称については、普通名称だから出所識別力がないんだと説明される先生もいるの

ですけれども、そんなことはないです。今までは「てりやきバーガー」というのはなかったんです。

モスだかマックだか忘れましたけれども、その人たちが初めて「てりやきバーガー」というのを発

明したのです。今まではなかった。だから、最初にてりやきバーガーを作った人が「てりやきバ

ーガー」と言うと、「てりやきバーガー」といえばモスだよね、マックだよねと皆さん認識するので

す。実際認識して、これはばんばん売れたのです。

だから、普通名称だからといって、出所識別力が定型的にないというわけではありません。

ない場合が多いですけれども、絶対ないというわけではない。なので、出所識別力がないとい

う説明は、やはりこれもうまくいかない。普通名称は誰もが使えないと、商取引で困る。言語上

どうしてもこうならざるを得ない名称というのは保護してはいけない。むしろ、商品の流通や商

標の円滑な選択を妨げることになります。参考として、レジュメに不競法 12条 1項 1号を挙げ

ておきました。一貫した説明は無理なので、型を 3つに分けてしまいます。

1つが、第 1説にこだわる。独占適応性がない類型というのが 3条 1項 1号の普通名称で

す。つまり、特別顕著になっても登録を認めない。「てりやきバーガー」の方はむしろ商品の発

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商標法

明ですけれども。識別できても登録しません。不競法 12条 1項 1号もそうでしたね。普通名称

である限り、混同しても保護しません。普通名称を表示に選んだそいつが悪い。積極的に保

護してはいけないのです。

ただし、普通名称については、図柄と組み合わせればオーケーになる場合があります。例

えば、きのうの例の「柿茶」なんかそうでした。「柿茶」とロゴが書いてあって、上に柿の葉っぱが

書いてありましたけれども、ああなれば登録は認められることがあります。あるけれども、やはり

ウイークな部分は除外して考えるので、「柿茶」の部分は侵害商標と対比するときは、「柿茶」と

いうロゴの部分を外して、柿の葉っぱと相手方で合わせるということで、権利の範囲が狭くなり

がちです。仮に図形と組み合わせて取ったとしても。そういう問題はあります。

それから、3 条ではありませんけれども、独占適応性が欠如している→積極的に保護しない

→保護しない立場に積極性がある条項というのが 4条 1項の 18号だと言われています。4条

1 項 18 号は、立体商標についての規定です。商標というのは立体的なものでも取れるのです。

昔は取れなかったのですけれども、最近、取れるようになりました。最近といっても 10 年ぐらい

前のことです。有名なのは、ケンタッキーのカーネル・サンダースのおじさんです。あれは立体

商標を取っているはずです。あれがあるおかげで、立体商標の説明がすごく楽になりましたけ

れども、あれは飲食物の提供の役務か何かであるのですかね。テイクアウトもあるから、飲食物

それ自体でもきっと取っていると思いますけれども、あれが立体商標です。昔は、あれをプリン

トしたやつしか取れなかったのでしょうね。

ただし、もちろん商品の機能を確保するために不可欠な立体形状、これも不競法で同じよう

な考えをやったと思います。3号とか1号のところでやったと思いますけれども、似ざるを得ない

形状、あれと考えは同じです。私なんかは、これを普通名称に対して普通形状と呼んでいます

けれども、ルービック・キューブについて、あの形では商標は取れないです。これが独占適応

性欠如型の登録阻却事由です。

2番目、登録主義修正型、今まで日本の商標法は登録主義だと言ってきましたけれども、対

立する概念が使用主義でした。使用を登録の要件とする使用主義。一部使用主義的な味付

けをされているのが、さっきの 3条 2項です。これを使用主義というかどうかというのは少し難し

いところだと思いますけれども、実際に使っていて、特別顕著になったということを示せば、登

録できるようになります。

3条 2項というのは何回もチャレンジできます。特別顕著になった時点から登録できる。だか

ら、3条 2項に該当しないよといって拒絶されても、特別顕著になったら、もう一回持っていった

ら登録できるのです。

これは、3 号、4 号、5 号です。例としては、産地について、さっき「北海道」とか言いましたけ

れども、4 番目のありふれた氏・名称というのがあります。これは「スズキ」です。車の「スズキ」。

「トヨタ」もそうだと思いますけれども、あれはありふれた氏だと思いますけれども、「トヨタ」より「ス

ズキ」の方がはるかにありふれている。ありふれているといったらスズキさんに失礼かもしれない

けれども、説明上、ありふれたと言っておきます。モーター産業でばんばん「スズキ」という名称

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商標法

を使っていますけれども、車の話をしていて「スズキ」と言えば、スズキさんが持っている車じゃ

なくて、「スズキ」製の車を思い付くと思うのですけれども、それが例の一つです。

極めて簡単かつありふれた標章というのは、アルファベット 2文字の組み合わせというのがよ

く例に出されます。ただし、これも使われていると顕著になって登録されることがあります。「JT」

なんかはそうです。日本たばこ産業。あと「JR」なんかもそうだと思います。ありふれたアルファ

ベット 2 文字ですけれども、これを使っていくと「JR」といえば電車だなと分かると思うし、あと 3

文字、「PS2」なんかもたぶんそうだと思います。「PSX」とか。3文字だと、さすがに 2文字よりは

ありふれていないと言えるかもしれないですけれども、3 文字ぐらいでもありふれた、例えばスリ

ーセブン、「777」とか、「JRA」なんかもそうでしょうね。こういう場合は、使っていて特別顕著に

なれば登録を受けることができます。

それから、出所識別力欠如型の方は、2号の慣用商標と 6号、よく分からないその他というこ

とにしておきます。2 号の例としては、きのう説明した「正宗」です。私は分からないですけれど

も、皆さんもたぶん分からないと思いますけれども、昔は「正宗」と言えば酒、清酒の慣用商標

だと言われていたので、登録はできなかったのです。あとは、ちょっときのう本を読んでいたら、

「一六銀行」、一六銀行と言ってもみんな分からないよね。これは質屋さんのことなのです。足

すと 7 でしょう。昔の人が考えそうな慣用商標ですね。質屋さんと言うと、金がないのかと思わ

れると嫌なので、「ちょっと一六行ってくるわ」みたいな感じで言っていたらしいのですけれども、

こういうのが慣用商標です。だから、普通名称とは言えないですね。慣用商標がもっともっと定

着すれば、普通名称化するのでしょうけれども、皆さんはたぶん知らなかったと思います。だか

ら、これも慣用されなくなれば登録できます。慣用されなくなれば、慣用商標ではなくなるから

登録できるのですけれども、普通名称と違うのはそこだと思います。

具体的な裁判例を見ていきますと、「ワイキキ」という事件があって、これはハワイオアフ島の

有名なビーチです。昭和 54年当時、「ワイキキ」と言えば、夢のビーチだったような時代だった

と思いますけれども。

これは出願商標が「ワイキキ」だったんです。指定商品が香水です。「ワイキキ」は普通に文

字標章だったみたいですけれども、「ワイキキ」と書くと、3条 1項 3号と 4条 1項 16号に該当

すると言われました。つまり、これは何を言っているかというと、ワイキキというのは地名なので、

香水に使われていると、ワイキキで採れた、あるいはワイキキで調合された香水だと間違えられ

る。16 号も同じです。16 号は、商品の品質について誤認を生ずる恐れがある商標については、

登録を受けることができません。公益的な目的です。正確に言うと、誤認するだろうというのが

16号の方です。実際にワイキキで作っていたり、調合されていても、それは 3号に当たります。

例の方を見ていただいた方がよく分かると思うのですけれども、「みるく」、「北海道」、「小岩

井」と出ていますけれども、牛乳を指定商品とした場合、平仮名の「みるく」は牛乳で、普通名

称です。これは 1号の方に当たってしまいます。牛乳以外の「みるく」、お酒に「みるく」という名

前を付けると、「みるくと思って飲んだら酒かい」ということで 4条 1項 16号に当たります。それ

が例です。

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商標法

さっき言いましたけれども、牛乳に「北海道」と付けると、北海道産の牛乳かなと思って、本

州の人たちは喜んで買うかもしれませんが、「北海道」はこの場合産地を表すことになるので、

3 号により拒絶されます。が、使用された結果、雪印が「北海道」という新しいブランドを作って、

みんなそれを知っていると。その場合は、登録を受けることができます。3条 2項の恩恵を受け

ることができます。ただし、九州か何かで牛乳を詰めていたやつに「北海道」と商標を付けると、

4条 1項 16号の方で、その商標は取れないということになります。品質本位の方は、別途不正

競争防止法とか、景表法の方でサンクションがあるかもしれないですけれども、商標法の方で

は商標を取れないという形で消費者の誤認を避けています。

それから「小岩井」。これは岩手県かどこかの牧場の名前だったような気がしますけれども、

小岩井さん、これは牧場を作った人の苗字です。氏。なので、ありふれているかどうか微妙かも

しれないですけれども、取りあえず 4号に当たると言っておきましょう。4号に当たった場合でも、

3条 2項の恩恵を受けることができます。

これが 3 条の説明です。普通名称は取れない。産地、品質、ありふれた氏、ありふれた標章

についてもやはり商標は取れないけれども、後者については、3 条 2 項があるということを覚え

てください。「ワイキキ」、「みるく」、「北海道」、「小岩井」、このあたりの例を理解できれば、3 条

はクリアできると思います。

権利行使制限事由の方の話をしますけれども、これは 26条です。26条に該当する商標は、

たとえこの上に商標権がかぶってきても、商標権の行使を免れます。26 条を見てみると、1 号

はちょっと置いておいて、2号の方は普通名称、それから産地、だーっと並んでいて、3条 1項

の 1号と 3号がドッキングしたような条文になっています。2号と 3号の違いというのは、商品と

役務の違いです。4号の方は、これは慣用商標と書いてあるので、3条 2項によく似ています。

26号 1号の方はちょっと様子が違いますけれども、これもやはり 3条 1項の 4号によく似てい

ます。よく似ているというか、そのままですけれども。

ですから、これをとらえて、過誤登録の場合のセーフティーネットというか、過誤登録の場合

であってもこれに該当する表示というのは使えるということを保証した条文だと理解する先生が

いらっしゃいます。もちろんその理解は間違っていません。その場合でも救済規定として機能

します。普通に用いられる方法と書いてあるので、普通に使う必要があります。これはよく分か

る話だと思います。

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商標法

ただし、そうじゃない場合もあります。これを説明すると、かなり長くなるのですけれども、きの

う、少し質問があったので、説明します。商標の審査というのは、何を審査しているのかというと、

実は類似のところは審査していないと言われています。どういう話かというと、出願商標があると

して、図1でオレンジに着色した部分が同一の範囲とします。きのう、4条 1項 11号の話をしま

したけれども、4 条 1 項 11 号は、先願の既登録商標の同一、類似の範囲に入る商標というの

は登録を受けられないと言いましたけれども、これは既登録商標の同一の範囲で、審査の 4条

1 項 11 号の場面、つまり審査の場面というのは、図1オレンジ部分が図1緑部分と同一の範囲

ではないか、あるいは類似の範囲でないかということを見る。これが 4条 1項 11号でやってい

ることなのですけれども、出願商標が緑色に入るかどうかという審査が 4条 1項 11号です。11

号だけではなくて、ほかもみんなそうですけれども。図1のように含まれていたら、4 条 1 項 11

号に該当して、これは拒絶。ただ、図2のように既存商標の同一・類似の範囲から外れていると、

この出願商標はセーフになります。

出願商標既存商標

類似

出願商標が類似の範囲内にあるため拒絶される。

出願商標

出願商標は正当に登録される。

既存商標

類似

既存商標

類似

出願商標

類似

類似の範囲がダブっている

「けり合い」=双方とも使用不可。

図1 出願商標が、既存商標の類似の範囲内である場合

図2 出願商標が、既存商標の類似の範囲から外れている場合

図3 図2の事例で、出願商標が登録された後の扱い

類似の範囲がダブる部分の商標は、双方とも使用できない。

出願商標の「同一の範囲」についてのみ審査

実線:

同一の範囲

破線:

類似の範囲

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商標法

何が言いたいかというと、出願商標にも類似の範囲というのがあります。出願商標の類似の

範囲が図3のようにかぶっていても、これは実は登録されるのです。オーケーなのです。これは

過誤登録という意味ではなくて、正当に登録されます。だから、審査の対象というのは、この出

願商標の同一の範囲(図でいうとオレンジ色の範囲)しか審査していません。類似の範囲(図

で言うとオレンジ色のまわりの破線の範囲)というのは審査をしていない。だから、ここはダブる

ことになります。そこまでやっていられないということで、ここはダブりを認めています。このダブ

りの部分は、両方使えません。けり合いと呼んでいますけれども、どっちも使えない、混同する

から。混同する場合は両方使えるより、両方使えない方がいいです。これは両方使えません。

だから、審査は、同一の部分しかしないのです。

これは 4条 1項 11号の場面で説明しましたけれども、3条でも同じです。普通名称に当たる

かどうかというのは、この範囲しか審査しません。だから、類似の範囲に普通名称が含まれてし

まうことがあります。これは拒絶理由にかかっていないので、過誤登録ではありません。瑕疵

(かし)ではありません。でもやはり普通名称は使われたら困るでしょう。そのときに機能するの

が26条です。だから、出願商標の類似の範囲まで審査でやっていられないのです。出願商標

と類似の商標が、既登録と同一かというのはできるかもしれないですけれども、類似と類似を調

べるというのはすごく難しいです。やってできないことはないのでしょうけれども、すごく難しい。

そんな難しいことをやっていられないということで、26条の方で調整することにしたのです。

それが例に挙がっています。これは小野昌延先生の例で、みつ豆を指定商品とする「ネリキ

リン」が登録された場合に、みつ豆に類似する商品である和菓子「ネリキリ」、「ネリキリ」に「ネリ

キリン」と似ている「ネリキリ」という表示を使った場合、これがセーフになるのが 26 条 1 項 2 号

に当たるというように説明されています。つまり、みつ豆を指定商品として「ネリキリン」というの

が出願された場合に、類似している和菓子「ネリキリ」については審査をしないのです。類似の

範囲については審査をしないので、みつ豆に類似する商品があるかなといって、「ネリキリ」が

あった、「ネリキリン」は似ているから駄目かもというのはやらないんです。やっていられないの

です。後から調整した方が楽だからです。これが 26条です。

過誤登録というのは分かりやすい話だと思います。過誤登録の場合に備えて、あらかじめ適

用除外にしておくという条文なのですけれども、過誤登録ではない場合、類似の範囲は審査し

ないというのを後から調整しているのが 26条だと言われています。

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商標法

<商標法(10)>

補足します。前に、4条 1項 11号の「けり合い」の話をしましたけれども、この話は、出願商標

の類似の範囲は審査をしないということを言いたかったので出した例です。分かっていただき

たいのは、出願商標の類似の範囲というのは審査の対象にならないのです。だから、出願商

標の類似の範囲に普通名称があっても、それは分からないのです。出願されたものの類似の

範囲まで審査をするのは大変だから。大変だからといって、普通名称について使われたら困る

ということで、26 条を作っています。ですから、26 条の場面で話をしているときは、既存商標の

同一・類似の範囲は関係ありません。出願商標の類似の範囲だけが対象です。

みつ豆と「ネリキリン」の事例を出していますけれども、これはもちろん権利行使の場面です。

登録の場面ではないです。権利行使の際に、3条 1項 1号に該当する商品表示が、出願商標

の類似の範囲にある可能性があるんです。もちろん出願商標と同一の範囲内にあれば、過誤

登録といえます。でも、類似の範囲については審査をしないから、その場合でも 26 条で積極

的にセーフにするというのが、ここで説明していることです。だから、みつ豆の例というのは、侵

害の場面の話です。過誤登録ではなくても 26条が機能する場面があるということです。

じゃ、先に行きますけれども、氏名・名称のところに行きます。氏名・名称についての規定と

いうのは、4条 1項 8号のところが登録阻却事由、それから、26条 1項 1号が権利行使制限

事由です。ですから、3の 1) 4条 1項 8号が審査の場面、2) 26条 1項 1号が侵害の場面

です。場面、場面で頭を切り替えていきましょう。

最初、審査の場面ですけれども、他人の肖像や氏名・名称、著名な雅号や芸名、ペンネー

ム、あるいは著名な略称を含む商標は登録できないというのが 4 条 1 項 8 号です。他人の氏

名については登録できないとするのが 4条 1項 8号です。これは他人なので、自分はできます。

それから、かっこ書きで、「その他人の承諾を得ている場合は登録できる」とあります。

この例で有名なのが「長嶋茂雄」です。「長嶋茂雄」という名前は、実は商標登録されていま

す。

8 号の趣旨、これは分かりやすいと思います。自然人については人格的保護、自分の氏名

を商標に取られて使われている、自分の氏名が自分でコントロールできないのはいかがなもの

かと思います。混同防止措置としては、別途、4 条 1 項 15 号という規定があるので、8 号の趣

旨は混同防止にはないという理解がいいと思います。

問題は法人ですけれども、雅号とか芸名の方は、著名であることが必要です。肖像と氏名と

いうのは著名でなくてもいいです。雅号、芸名、ペンネームというのは著名でないといけない。

8 条、「または」と「もしくは」、なかなか難しいですけれども、雅号については著名性が必要で

す。これは分かりますね。後から選択できるものですから、好きな雅号を選べる、好きな芸名を

選べる。ですから、そこまで厳重に保護しなくてもいい。著名なやつだけ保護しておけば十分

でしょうという話です。

問題は名称です。8 号の他人の肖像または他人の氏名もしくは名称、その後に著名と入っ

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商標法

ているので、名称について著名が必要かどうかという争いがあります。条文を見ていく上では

要らないようにも見えますし、要るようにも見える。「氏名」と書かないで、「名称」として条文を作

ったところで、もちろんこれは法人の、会社の名称のことを想定しています。

名称説と略称説があります。名称説は、要するに著名でなくてよい、著名でなくても他人の

登録を阻却できる。略称に当たると解釈した場合は、他人の登録を阻却するためには著名性

が必要になります。だから、他人の登録を阻却するという観点からすれば、略称説の方が厳し

いということになります。要求されるものが厳しい。

「ソニー株式会社」の場合に「ソニー」でいけるかどうかという話です。ソニー株式会社と書い

てあれば、これは名称と分かりますけれども、株式会社、あるいは有限会社、合資会社、その

会社の種類を取っ払った、いわゆる屋号だけのところについて、それを名称と解釈するべきか、

略称と解釈するべきかという論点があります。

それで、「月の友の会」という裁判例があって、こちらは略称説を取ったということになります。

「ソニー」はどっちにしても著名なので、うまくいかないと思いますけれども、会社の屋号の部分

だけについては、著名でなければ上にかぶさって登録を受けることができます。

これが「月の友の会」という事件ですけれども、これは原告が株式会社「月の友の会」という

会社で、被告が株式会社「京都西川」。被告が商標権者です。被告の方が「月の友の会」とい

う商標を持っている。被告の持っている登録商標は、おれの会社の名前と同じだから、これは

8 号に違反した登録じゃないかというのがこの事件ですが、「月の友の会」というのは、株式会

社「月の友の会」の略称として著名ではないとして、8 号には該当しないので、登録を維持する

というのがこの事件の結論です。少し考えると、会社の種類をなくしただけで略称と言われて著

名を要求するのは、少し厳しい気がします。

でも、これは、この理解の方が実はいいのではないかというのが、レジュメの[どう考えるか]の

ところに書いてあることです。この裁判例を肯定することが書いてあります。これは、商号登記

の形式的審査と、商標登録の実体的審査の違いというふうに言っていて、要するに、商号登

記が形式的な審査しかしていないところが問題であるということを言っています。

-以下、講義レジュメ引用-

〔どう考えるか〕

商号登記の申請の審査(形式的審査)と商標登録の出願の審査(実体的審査)の違い

登記所の登記官=同市町村内の同一営業のための既登記商号のみ審査(商法 19 条)

→ 他に広知性を満たす商号があっても登記が認められてしまう

(この事件でも,実は被告の方が全国的に「月の友の会」の名で有名)

∴ 商号に関して簡単に8号の「名称」と認めてしまうと,商号登記をなすことによって,

容易に他者の商標登録を排除できることになる

(他者の商標登録を排斥できるのは,広知性(4 条 1 項 10 号),先願登録商標(4

条 1 項 11 号)などとする法の趣旨が潜脱される)

↓ そこで……

8 号該当性の判断にあたり,なるべく周辺事情を考慮するために

→ 商号から「株式会社」を省くと「略称」になり「著名」性が必要と取扱う

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商標法

あとは,「著名」性に関して広知性(4 条 1 項 10 号)以上のものを要求すればよい

-引用終わり-

商号登記ですけれども、登記官という人がいらっしゃいます。その人が、登記簿に会社の名

前を登録するのですけれども、実は、同一市町村内で同一の名称があるかどうかしかチェック

していないのです。同じものがあるかどうかだけ見ます。だから、非常に形式的というか、アバ

ウトというか、同じものだけチェックする。似ていたら、同じでなければ通してしまうというところが、

商法登記の登記官のやり方です。別に登記官の人がサボっているわけではないです。そうい

うふうにやりなさいというふうに決まっているだけです。

決まっているのですけれども、ほかに広知性を満たす商号と書いてありますけれども、表示

があっても簡単に登記が認められてしまうのです。むしろこの事件では、「月の友の会」という

のが「京都西川」の布団かなにかを買った人のグループなのです。京都西川の継続的なサー

ビスを受けられる購買者グループなのです。そのグループの名前として「月の友の会」というの

が付いていて、こちらの方がむしろ有名なのです。でも、そういう有名な商号というか、表示に

ついても登記できてしまうのです。仮に同一市町村内に持っていって、同じものがあっても、隣

の町になければ登記できてしまうという問題点があります。

なので、商号について容易に、あるいは、ハードルを下げて 8 号の名称、つまり、会社の名

前を取っ払って、簡単に「ソニー」だけで名称と認めてしまうと、商号を登記することで、他人が

商標登録を取ることを妨げることができるのです。簡単に意地悪ができてしまうのです。意地悪

をした後に、商標をどうしても取りたければ、おれが登記を抹消してやるから、代わりにお金を

くださいよという展開になるのです。

他人の商標を排斥できるのは、先願既登録の商標について、あるいは、信用が化体した 10

号とか 15号に該当するような商標については取れないけれども、それ以外については商標選

択の自由というのを認めています。簡単に商号登記を利用というか、悪用と言ってしまいましょ

うか、商号登記制度の形式審査というところを悪用して、他人が商標を取ること、他人の商標登

録の自由を簡単に妨げてしまうというのは、4条各号を立てた意味がなくなります。

この「月の友の会」でも、悪意を持って読めば、「京都西川」が「月の友の会」というグループ

を形成していると。まだ商標は取っていない。じゃ、何かペーパーカンパニーで「月の友の会」

というのを作ってしまえと。作った上で、「京都西川」が出願してきたら、「おいおい、うちの名称

があるのを知らないのか。でも、話には乗ってやろう」。8 号で承諾があればいいですから、「分

かった。そっちがあの商標をどうしても取りたいのはよく分かったら、100万円で許してやるよ」と、

そういう話になってしまうわけです。それじゃひどい。4 条のそれぞれ立てた趣旨が潜脱されて

しまいます。実際には「月の友の会」というのは屋号として使っていないのだから。

そこで、そういう「月の友の会」という株式会社が、その屋号で営業しているか、あるいは、一

般消費者によく知られているかという事情を考慮するために、株式会社を取っ払った名称につ

いては、略称というふうに解釈すれば、後で著名というところで実質的な事情考慮ができます。

その上で、周知である程度、ここで著名と書いてありますけれども、著名の程度を周知、あるい

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商標法

は 4条 1項 10号相当ぐらいにしておけば、今言ったような悪用事例というのは防げるという解

釈をしています。

こちらは、商号登記の「月の友の会」の方ですけれども、こちらは、2条 1項 1号に該当する

場合はつぶしにいけます。商標登録を抹消することができます。例えば、「京都西川」が「月の

友の会」という購入者グループですか、消費者グループを形成していて、「月の友の会」として

会員活動なんかをしていると。そこで、株式会社「月の友の会」が、例えば、布団を売り出すと

いう場合には混同が生じているので、2条 1項 1号の請求が立ちます。2条 1項 1号の請求を

立てた場合は、商号登記の抹消を求めることができます。実務的に登記官が抹消しているみ

たいです。これが、「月の友の会」という事件です。

「ソニー株式会社」という商標を出してきたらあれですけれども、「ソニー」については、名称

と解釈するのか、略称と解釈するのかというところで、略称と解釈して、著名性を要求する。「ソ

ニー」については著名ですから、結論は同じになりますけれども。これが、8 号における登録の

場面の問題です。

2)の方が、権利行使の場面です。26 条 1 項 1 号です。先ほど見たような条文になっていま

すけれども、これもやはり自然人については人格権の行使です。「長嶋茂雄」という商標が取ら

れていても、同姓同名の誰かさんがいるかもしれません。その場合に、うかつに自分の名前を

使って営業を、例えば、長嶋茂雄青果店とか、自分の姓名を簡単に使えないようでは自分の

氏名をコントロールできない、人格権の行使に制限がかかってしまいます。それを確保するの

が 1号です。

会社名については、製造販売元を指し示すことが明らかであれば、登録商標の出所識別機

能を害されないです。でも、これは、普通に用いられる方法という縛りがあります。ですから特

徴のある字体、特徴的なロゴ、それから大書、あるいは、図柄なんかと組み合わせたような場

合とか、その場合は該当しないので、権利行使をされてしまう可能性があります。

それから、もう一つ、さっきと同じような問題。株式会社の部分を省いた場合に、名称になる

のか、略称になるのか。これは権利行使の場面でもありますけれども、これもやはり略称説で

す。こういうのはやはり略称説。会社の種類を省いた商号、屋号を使う場合は、権利行使され

ないためには著名である必要があります。これは「東天紅」事件です。ここで、「著名性」を満足

するためにと書いてありますけれども、「著名性」については、こちらは権利行使の場面です。

権利行使の場面なので、商標権侵害を問われている地域でよく知られていればいいと。周知

性が足りるというふうに書いてありますけれども、ここは少し補足しておいてください。これは正

確には、全国著名とか、広知までは要らないという判示です。周知性で足りるという積極的な

判示ではなくて、4条 1項 10号相当ですけれども、そこまでは要らないという判示になっていま

す。こちらも略称説です。

問題のパターンは登録の場面と同じです。形式的審査で登記を受ける。登記を受けた上で、

会社名を省いて使う、それだけで商標権の行使を免れてしまうわけにはいかない。そこで、免

れるためにはフルネーム、会社の種類までを書いてあることを要求しつつ、会社名を省く場合

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商標法

は略称と解釈して、著名というか、ここまでは要らないのだけれども、周知の程度は必要だと解

釈しています。1)と 2)、問題になっている点は同じです。

最後、4、創作法制との調整。創作法というのは著作権、特許、意匠、実用新案と言われて

います。創作法に対立する概念というのは、標識法という人がいます。商標とか、2条 1項 1号

とかがそうです。あまり実質的な意味のある言葉ではないですけれども、どういう話かというと、

著作物の題号を商標登録できるのかという話です。

「夏目漱石」事件。これは漱石の遺族です。夏目漱石、私は何年に亡くなったのか知らない

のですけれども、著作権というのは、著者の死後 50 年間です。なので、いつかは切れてしまう

のです。その後も漱石の遺族が独占権を保持したいと言いまして、これは出版社をコントロー

ルしたかった、好きな出版社を選びたかったのです。「夏目漱石小説集」というのを、書籍を指

定商品として出願したのですけれども、これは拒絶になっています。この事件というのは、昭和

24年の事件なので、事件の判例集をここには載せていないですけれども。あと、「POS」実践マ

ニュアル事件というのもあります。こちらは比較的新しい。「POS」というのは、コンビニとかにあ

る、バーコードをピッと読み取って、商品管理しつつ、何時何分に二十何歳ぐらいの男性が買

ったというデータを蓄積して、それで売れる商品を並べていくというシステムですけれども、これ

は実践マニュアルというノウハウ本があるらしいのです。「POS」について、印刷物を指定商品

として商標権を取っていたらしいのです。こちらは、商標権侵害を否定しています。これは、き

のう説明した商標的使用ではないとする法理が活用されました。「夏目漱石」事件のように登

録要件の話になりますと、特許庁の内部では、これは品質を表す表示だということで、3条 1項

3 号の問題とされているようです。それがいいのかどうか、ちょっと分かりません。あまりよくない

のかな。

どう考えるかということなのですけれども、著作物の題号、「夏目漱石小説集」でもいいし、

「吾輩は猫である」でもいいですけれども、むしろ題号そのものも著作物としての性格の方が強

いです。むしろ著作権法に委ねておいた方がいいという話になります。題号が、商標として使

用されているかどうかという問題点があります。書籍について出所を示すのは何ですか。出版

社名ですね。出所というからには、出版社の方が正確です。題号だと、むしろ商品の内容で

す。

著作者名の規律については、著作権法 121条という条文があって、こちらは後で説明される

はずですけれども、著作権侵害ではありませんけれども、著作者が正確に著作物に記載され

なくてはいけないという決まりなのです。むしろ、こちらの方に委ねておいた方がいいでしょうと。

ただし、雑誌とか、あるいは新聞の題号は登録され得るようです。むしろ定期刊行物です。きの

う言った『日経ギフト』、『北海道新聞』とか、『北海道タイムス』とかもそうですけれども、例えば

『日経 PC』とか、パソコンの雑誌ですけれども、私、時々見ますけれども、『日経 PC』とかだと、

わりと内容との結び付きが、『吾輩は猫である』に比べて希薄です。『日経 PC』の下に書いてあ

る、例えば、「夏のノートパソコン特集」とか、内容はむしろそっちで表示されている。定期刊行

物の題号については、少し著作物としての性格は弱くて、出版社といいますか、『日経 PC』だ

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商標法

ったら日経ですけれども、出所を識別する性格が若干強くなっているということで、特許庁の方

でも定期刊行物については登録を認めているようです。

次、その他の著作物。音楽 CD のタイトル、アルバムについては、曲のタイトルがそのまま使

われる場合もあるし、オリジナルの名前を付ける場合もありますけれども、これは書籍にかなり

近い。アルバムといってもただ曲を詰め込んでいるだけではなくて、順番とか、一貫したテーマ

というか、そういうのがあるのでしょうから、その上で題号を選んでいるはずなので、それはどち

らかというと、書籍の方に近い。

これに対して、ゲームのタイトル。「たまごっち」「ファイナルファンタジー」と挙がっていますけ

れども、こちらの方は、商標として機能している。「ファイナルファンタジー」とか「ドラゴンクエス

ト」は、もはや定期刊行物ではないかといううわさもありますけれども、こちらは登録可能。侵害

ももちろんあり得ます。ただ「三国志」「信長」、これはコーエーですけれども、こちらは 3条 1項

3 号に当たる可能性があります。内容を示しています。「ファイナルファンタジー」は内容とまで

は言えないよね。でも、「三国志」だったら、やはり魏と呉と蜀の三国が争うシミュレーションゲー

ムということであれば、やはり 3条 1項 3号、(もし「三国志」が三国志と言いつつ、日本の信長

と信玄が戦っているようなやつをやっていたら、やはり 4 条 1 項 16 号なのでしょうけれども、)

前回の牛乳と同じパターンで、3条 1項 3号で登録阻却される可能性があります。

それから、他人の著作物を商標として登録できるかという問題があります。キャラクター、キャ

ッチコピーが出ていますけれども、実は、これは登録可能なのです。著作権侵害をしているか

どうかというのは、審査の段階では見ません。ライセンス関係があるかどうかというのを審査で

問うよりは、具体的な紛争が起こったときに、裁判所が事後的にチェックした方がコストが安い

ということなのでしょう。

それから、立体商標を認められたこともあって、他人の著作権と商標権が抵触する場合という

のがあり得ます。キャラクターなんかはそうです。ディズニーのキャラクターを商標登録すること

は、登録できないという人もいるのですけれども、登録できる場合もあります。登録できないとい

う人は 7 号なのかな。原則は審査をしません。他人の著作物に当たる場合は、商標登録を受

けないという条文が 4条にはありません。ほかの条文にもありませんので、事後的に調整するこ

とにしました。それが 29 条です。29 条は難しい条文ですけれども、著作権については、著作

権と抵触するときは商標が使えない。商標登録を持っていても使えないという規定です。

逆に、著作権者の方は、使用を自由とすべきと書いてありますけれども、自分の著作物を商

標登録されてしまった著作権者が、それを著作物として使う場合は、商標的使用でない場合と

いうのがほとんどです。出所を識別している商標として使っていない場合が多いです。だから、

むしろそんなに問題になることはないと言われています。

それから、特許、実用新案、意匠との調整。例としては、指定商品をボールペンとする矢羽。

胸に差すペンのホルダーの部分です。あそこの部分を矢羽型にした立体商標と、立体じゃなく

ても平面にした場合も類似の範囲に入ると思いますけれども、それから、持ち手のところを矢

羽で形取った登録意匠、部分意匠でも構わないです。持ち手のところが矢羽型になったデザ

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商標法

インのボールペンというのは登録意匠で登録される可能性があります。その場合は、登録商標

の使用であるという抗弁ができません。出願日で決まります。特許、実用新案、意匠の方が出

願が早いと、後願の商標権者というのは使用することができません。先願の場合に使用できる

かどうかというのは、非常に難しい論点があるので、ここでは触れません。商標が後願だと、登

録商標は使用できません。登録はできるけれども、使用ができないという状態になります。そん

な商標を登録しても、空拳なのだから意味ないじゃないかと思われるかもしれないですけれど

も、範囲がずれる可能性があるのです。商標と意匠でダブっているのはほんの一部分という可

能性があります。ダブりの部分が、びしゃっと、ばっちり一緒になるということはなかなかないの

で、この部分は使える、後願だとダブっている部分だけは使えないという話です。

例えば、このボールペンの例で言うと、矢羽型の登録商標と書いてありますけれども、登録

商標と同一ではないかもしれないですけれども、平面的に商標としてボールペンにマークをく

っつけることはできます、意匠の方が立体的に書いてあるから。その場合は使えます。その場

合は抵触していないということで使用ができます。29 条にかからないということです。少し説明

を飛ばしました。一応、立体的形状、特許、実用新案、意匠については、立体商標が問題に

なることが多いのですけれども、立体商標というのは、実は、これはなかなか取るのが大変、あ

りふれた形状というのはそれだけでは取れない。それから、さっき説明しましたけれども、商品

の機能の確保のために不可欠な形状、私は普通形状と呼んでいますけれども、41 条 18 項と

いうのがあって、普通の形状をしたものは取れません。あるいは、もう少し広く、不可欠な形状

というのは取れません。一応、こういう審査があって、これでほとんど創作法と引っ掛かることが

ないと言われています。これ以上条文を立てることは、審査が大変になるだけで利益が少ない

です。後で、権利関係の方で調節しようという法制を取っています。どっちにしても、ダブった

部分だけ使えないという話ですから、ダブっていない部分は使えます。だから、商標登録する

意味はあります。

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商標法

<商標法(11)>

今まで侵害になるとか、ならないとか話してきましたけれども、実際、侵害になった場合どう

するのかというのが、レジュメ 49ページのⅤの「商標権侵害の効果」というところです。

1の「概観」ですけれども、商標権は設定登録の日から発生します。出願の日からではありま

せん。気を付けてください。著作権は創作の日から即発生ですけれども、特・実・意・商は、権

利設定されてからです。それから、現在および将来の侵害に対する救済というのは差止請求。

過去の侵害行為の清算が損害賠償です。差止請求権は商標法 36 条、損害賠償請求権は民

法に戻って 709 条です。無体財産権の侵害、無体財産権は大変侵害に脆弱だということで、

特別な規定、特則が設けられています。それが商標法 38 条。こちらは、特許法の 102 条と規

定がほとんど同じなので、この特則については、特許法のところで説明します。それから、不当

利得が取れます。民法 703条。これは田村先生が説明したかもしれないですけれども、不正競

争防止法では、不当利得返還請求はできないといわれています。商標権の方は、権利設定と

いう行為があって、権利の割り当てを法律が決めているので、侵害利得類型で取れる。不正

競争防止法については、権利設定型ではないので、法律が権利の割り当てを決めているわけ

ではないということで、不当利得返還請求はできないといわれていますが、裁判例はありませ

ん。よく分かりません。それから、商標権侵害については刑事罰、それから法人重課がありま

す。

それから、もう 1つ、小さい権利ですけれども、13条の 2、補償金請求権。これは 1999年改

正で入りました。商標を出願した後、権利設定までの間は商標権は発生しません。だから、無

防備なんですけれども、無防備の状態でも、少し保護をしようということで、補償金請求権とい

うのを特別に認めています。これは、出願した後、その商標を使っている人に対して警告をし

なくてはいけません。警告をした上で、業務上の損失に相当する額の金銭を、商標権の設定

登録の後、請求することができます。行使し得るのが商標権の設定登録後なので、拒絶になっ

た商標出願については取れないということです。当たり前ですね。こちらは、最近なので、あま

り使われた事例を知りません。特許にも同じような権利がありますけれども、それは使われた事

例があります。

それから、2 番目。「未使用商標等の保護」の方ですけれども、一貫して登録主義で説明し

てきましたが、登録主義というのは、使用を登録の要件としない主義でした。ですから、登録主

義の下では登録商標が使われていなくても、差止請求が棄却されるということはありません。こ

れは、不使用の抗弁を認めないということです。相手方から商標権を行使されたときに、商標

に化体した信用を守るのが商標法でしょう、だから、商標権者が使っていない商標を私が使っ

たとしても、損害は発生しないではないか、あるいは、差し止める利益がないではないかという

のが不使用の抗弁といわれていますけれども、これが原則認められません。登録のときに、使

っていなくても登録するよといっておきながら、使っていなかったら差し止めできないよといわ

れたのでは、何のために登録主義を採っているのか分からないです。不使用取消審判でも、

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商標法

最低 3 年間は使わなくても取り消しにならないのです。だから、極端な話、設定登録を受けて

から 3 年以内に使えばいいのです。その間に十分準備ができる。設定登録されて 1 年ぐらい

使っていなかったからといって、誰かに使用されてしまうと、先行投資として商標権を取った意

味がなくなります。ですから、原則ですけれども、不使用の抗弁は出せません。

それから、損害賠償請求について。38条の 1項と 2項については、商標権を使用していな

いと、これは特則の恩恵を受けることができないといわれています。これも特許のところで話し

ます。

ただし、38 条 3 項の方に、受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を賠償請求することが

できると書いてあります。3 項の相当対価額というのは、不使用の場合でも請求が認められて

います。最低、これは取れるんです。最低でも 3 項のライセンス料相当額は、損害賠償で取れ

る。だから、やはり損害賠償請求権でも不使用の抗弁というのはないということになります。特

許でも同じです。ライセンス料相当額は最低でも取れる。ここまでが原則です。使用していれ

ばなおさら保護されます。

3 番目の「商標権の権利濫用」というのがポイントになります。2 種類の権利濫用論があるの

ではないかといわれています。特許では 1種類です。一応、2つの類型に分けました。1)として、

「当然無効型」。2)として、「全国著名商標型」と分けておきます。2つは違います。

1)の方は、簡単にいうと、過誤登録パターンです。過誤登録された権利、ここでは商標権で

すけれども、この場合は無効審判で事後的に無効にすることができます。できるのですけれど

も、それは特許庁に無効審判を請求して無効にしてもらわないと、無効になりません。形式的

には無効審決が確定するまでは有効に存在します。それが、あまりに形式的すぎる。侵害裁

判所で無効理由を判断できるのかどうかという議論が、知的財産法の中では延々繰り返されて

きました。これは、権利設定に特許庁という機関が絡んでいることに要因があります。権利設定

は特許庁で、侵害判断は裁判所でというように分かれているところが、そもそもの問題です。不

正競争防止法ではこれはあり得なかった。不正競争防止法では裁判所で一発で決めていた

けれども、特許、商標に関しては、特許庁が絡んできます。過誤登録というのが避けられませ

ん。

過誤登録の場合に、いちいち特許庁に行かなくてはいけないのかというのが問題提起され

ていたのですけれども、レジュメ 49ページに「POPEYE」事件を挙げています。これは、裁判所

限りで、無効理由が明らかな場合は、商標権侵害を否定する法理です。明らかな無効理由が

ある場合は、商標権侵害を否定します。見た目では、商標権の権利範囲内で使用されていた

としても、もともと権利が過誤登録なのだから、商標権の行使は認めない。それを権利濫用と

いっていますが、私は「POPEYE」事件を読んだときに、そういうふうに構成することに若干の疑

問を持ったので、cf.として、「半導体装置」事件という平成 12年の最判が挙がっていますけれ

ども、裁判例はこちらに依拠した方がいいかもしれないです。これは特許の事件ですけれども、

いっていることは、商標にも通用する法理です。ですから、むしろ「POPEYE」事件を勉強する

よりは、特許で「半導体装置」事件の方を勉強して、この考えが商標権にも援用できると考えた

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商標法

方がいいかもしれません。

過誤登録パターンについては、分かりやすいと思います。本来は保護されるべきでない商

標を間違って保護、権利を与えてしまった。その場合に権利行使を認めるのはさすがにという

のは、皆さんにもよく分かる感覚だと思います。この「さすがに」というのは、なかなか認められ

なくて、30 年ぐらい実務家を苦しめていたのですけれども、認められてしまえば、当たり前では

ないかと思う理論です。

2番目の方が、むしろ重要です。これは商標権に特有の法理です。法理というか、田村理論

ですけれども、特有の法理です。むしろ、これは、レジュメ 50ページの裁判例「小僧寿し」事件

から説明していった方がいいと思うのですけれども、登録商標は「小僧」です。指定商品は食

料品及び加味品です。食料品を指定して、商標権を取っている人がいました。小僧寿しが取

っていたわけではない、違う人が取っていたのです。小僧寿しは全国でやっていたんですけ

れども、標的にされたのは四国です。四国のフランチャイザーです。原告の方は、大阪で 1974

年から、「おにぎり小僧」、これでおにぎりを売っていたんです。とても「小僧寿し」の著名性に

はかなわないですけれども、一応やっていた。やっていたので、不使用の状態ではありませ

ん。

この事件はどうなったかというと、差止請求については、「小僧寿し」の方がいろいろパター

ンとして使っていたんです。「小僧寿し」、あるいはローマ字で「KOZO ZUSHI」については、こ

れは「小僧」と類似していないという判決が出ています。「KOZO」についてはどうか。「KOZO

ZUSHI」のほかに「KOZO」だけ独立で使っていたのです。これについて、さすがに「小僧」と似

ていないというわけにはいかないので、これは類似性を肯定しています。

損害賠償については、「KOZO」、これを使っていたのだけれども、損害が生じていないとし

て、損害賠償請求を棄却しました。どうして損害が生じていないと判断したかというと、みんな

「小僧寿司」か「KOZO ZUSHI」で使っていたのです。「KOZO」を使っていたのは 2 か所だけ

だったのです。それもほそぼそだったと思いますけれども、お店の端っこの方に、そんな感じ

だったと思いますけれども、非常にほそぼそとした表示だったようです。

この小僧寿しチェーン、四国だけに限らないですけれども、これは先使用の状態ではなかっ

たのです。「小僧」を取られてしまったより早く周知にはなっていなかったのです。使い始めた

のが「小僧」を取られてしまったよりも遅かったのです。だから、これは先使用の事件ではありま

せん。「小僧寿し」というのは、四国だけに限らず、全国的に著名。全国的に著名になった、こ

の状態で事件が起こったわけです。

事件のてんまつは先ほど説明したとおりです。1956年に「小僧」を出願している大阪の Xが、

使用していなかったわけではない。大阪でほそぼそと「おにぎり小僧」をやっていた。一方、小

僧寿しチェーンが全国展開。すしの持ち帰りというのは、当時、目新しかった。持ち帰りのすし

というのはなかなかなかったということで、全国的に著名になりました。ただし、先使用の状態で

はなかった。出願が 1956年、結構早いですから。

この場合に、差止請求権。「小僧寿し」、「KOZO ZUSHI」については、類似性を否定してい

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商標法

る。これが似ていないと判断されるのは、皆さん、どう思われますか。「小僧寿し」と「小僧」が似

ていないという判断、あるいは「KOZO ZUSHI」と「小僧」が似ていないという判断には、恐らく

違和感を持たれるのではないかと思います。ウィークなところを見ないで判断するといっても、

持ち帰りのすしですから、ウィークなのは、むしろ「ZUSHI」ですね。だから、ストロングな部分、

「小僧」対「KOZO」だったら似ていると、今までの類比の判断でいえば、これは似ていると判断

した方が私は自然だと思います。実際、「KOZO」についてはさすがに無理だったのでしょう。

これは、さすがに類似性を肯定せざるを得ないということで、類似性を肯定しています。

損害賠償請求の方は、「KOZO」については、もちろん類似性は肯定、肯定した上で、損害

が生じていないので、損害賠償請求は取れないといっています。事件の内容は分かりました

か。

レジュメ 49ページの説明に戻りますけれども、大阪のXは、「小僧」を使っていたのです。未

使用の状態ではない。だから、取り消されるべき商標ではない。それから、登録に瑕疵がない

です。過誤登録ではないです。これは大事なところです。当然無効型と一番違うところですけ

れども、これは過誤登録ではありません。使ってもいる。先使用は成立していない。全国著名

になっています。

この状態をどう考えるか。全国著名というところが大事です。部分的に著名、あるいは周知、

広知の限りではなくて、著名までいっています。この場合に、大阪のXに権利行使を認める利

益があるかどうかという問題なのです。「小僧」と「小僧寿し」が、この裁判の判断では似ていな

いといっていますけれども、似ています。実際、裁判例を離れて似ているかどうかという問題を

出したら、やはり「寿し」はウィークなので見ない、「小僧」と「小僧」、ストロングの部分が同じだ

から、似ていると皆さん判断すると思うし、それは正しいと思います。これを似ているとします。

似ている状態で、登録商標を使用しているから、侵害とおぼしき行為をもって全国的に著名に

なったのです、形式的には。

この状態はどういう状態か。日本中、「小僧寿し」は小僧寿しチェーンを指し示すものと皆さ

ん認識しています。侵害の疑いがあるのですけれども、非常に強い信用が化体しているので

す。その場合に、大阪のXに請求を認めて、「小僧寿し」という表示を使えなくしてもいいのかと

いうところに問題点があります。がちがちに考えれば、侵害は侵害だと。一切の事情を考慮し

ないで、侵害は侵害ではないかというふうに、たとえ全国著名でも、それは侵害行為によって

形成した信用にすぎないではないかといわれてしまうかもしれませんけれども、どうでしょう。登

録主義が保護しようとした商標の発展助成の意味がないというふうにレジュメには書いていま

すけれども、Xは、あまり使っていないんです。まったく使っていないわけではないですけれど

も、あまり使っていない。それに対して「小僧寿し」、全国的にみんな知っています。こういう状

態の場合は、むしろ「小僧寿し」を保護した方が、消費者は混乱しないのではないか、あるい

は、信用が化体した商標を結果的に守ることになるのではないか。それが、この事件で議論さ

れていることです。

この事件、「KOZO」については、さすがに差止請求を認容しましたけれども、「KOZO」は差

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商標法

し止められても、「小僧寿し」にとってはあまり痛くないのです。もともと「KOZO」ではあまり使っ

ていない。「KOZO ZUSHI」と「ZUSHI」まで入った状態で使っていたので、あまり痛くないの

です。損害賠償請求についても、「KOZO」はもともとあまり使っていなかったこともあって、損

害が生じていないとして請求を棄却しています。だから、結局、大阪のXがもらえたお金はゼロ

だったんです。この状態は、むしろXから「小僧寿し」への請求を棄却した方が、結局、信用が

化体した商標を守ることになるのではないか。あるいは、棄却した方が積極的に小僧寿しの信

用を化体した商標を守ることになるので、権利濫用として棄却するべきだったという田村先生

の論文があります。教科書にもそう書かれています。私もこれでいいと思います。

これで問題になってくるところが、先ほど原則のところで説明した 38条 3項の相当な対価額

の賠償のところです。侵害が認められる以上、必ずライセンス料相当額が取れるといいました。

この裁判では取っていません。原則取れるといっておきながら、これは取っていない。ですから、

むしろ裁判官の頭の中では、何とか小僧寿しチェーンの方を守りたかったのですね。2 人を見

比べた場合、「小僧」、確かに使っているけれども、ほそぼそとやっているにすぎない。それに

対して、北海道から九州まで、すしの持ち帰りチェーンといえば「小僧寿し」、有名になってい

る。そして、割と長くその状態が続いている。著名になったのが 1978 年とレジュメに書いてあり

ますけれども、この状態で、権利があるからといって、一切をひっくり返して、「小僧寿し」を使え

ないとすると、かえって信用が化体した商標を守らないことになってしまいます。この場合は、

大阪のXの請求を認めない方が商標法の趣旨に沿うと理解するべきだというのが、この「小僧

寿し」事件の重要なところです。

これを、損害不発生の抗弁を認めた事件だと理解する向きがあります。損害がない場合は、

38 条 3 項の相当ライセンス料額も取れないという判決だと理解する説もありますけれども、そう

いう説は私は採らないです。損害不発生の抗弁を認めた事例ではないと理解しています。規

範的に損害は本当に生じる。だから、「小僧寿し」事件でも損害賠償請求権、端的に権利濫用

に結び付けて、Xからの請求を棄却するべきだったと理解しています。

地裁レベルですけれども、このような考えに追随する判決が見られます。これもパターンは

同じです。商標権者ではない人が、「ウィルスバスター」という商標を使って著名になっている

事例です。ですから、著名になるまでの過程は侵害しているようなものです。「ウィルスバスタ

ー」という事例では、若干ウィークな向きもあるということで、それも加味されたのかもしれないで

すけれども、権利濫用として請求を棄却している判決があります。

これが、2番目の全国著名商標型の権利濫用論です。だから、大阪のXはどうすればよかっ

たか。もっと早い段階で権利行使をしておけばよかったのです。権利行使しないでいたものだ

から、全国的に著名になってしまったということになります。これは、商標特有の権利濫用論で

す。損害不発生の抗弁がないというのは、特許の方でまた説明したいと思います。

ですから、この事件を 38 条 3 項の例外と見るべきではないというのが大切なところです。こ

れは、田村先生の法学協会雑誌に載った有名な評釈があるので、興味のある人は読んでみる

といいかもしれません。

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商標法

レジュメ 50 ページのⅣの「商標権の経済的利用」の方に行きます。商標権は、不正競争防

止法 2 条 1 項 1 号の保護よりも、財産権的価値が向上しています。それが1の③の商標権の

譲渡ができるというところです。これが、不正競争防止法の請求権との大きな違いです。

「概観」のところに書いてあるのは、商標権の換金化の話をしています。権利の排他的な使

用。間接的ですけれども、収益を得ます。それから、ライセンスをすることができます。自分は

使わなくてもライセンシーに使ってもらって、ライセンス料を徴収するという手段があります。そ

れから、先ほど説明した譲渡があります。これは特許でも同じです。

具体的に見ていきますと、2の「自己使用」、3の「使用許諾」、4の「譲渡」というふうに対応し

て書いてありますけれども、まず、自己使用の方から。自己使用ですけれども、商標権の権利

の範囲は、25条と 37条に書いてあります。25条は、同一の商標を同一の指定商品・役務に使

う場合に専有できる。37条の方は、類似の範囲も禁止できると書いてあります。また、他人の商

標登録を排斥することができます。それが 4条 1項 11号。これは、同一・類似の範囲で重複登

録を許さない。他人の重複登録を排斥することができる。ですから、4 条 1 項 11 号の方で、相

互に混同のおそれがある商標が登録されることを防いでいる。また、25 条と 37 条の方で、同

一・類似の範囲、商標法では同一・類似の範囲を定型的に混同が生じるおそれがあるという判

断をしています。その範囲で使用されることを防いでいます。1 人しか使用できない。1 人しか

登録できないということです。

商標法としては、先ほどもちらっと登録のところで説明しましたけれども、本当は同一の商標

を使用してほしいのです。商標法は、本当はそういうふうに仕向けています。というのは、既登

録の商標もやはり類似の範囲を持っていますけれども、なるべく離れて使ってほしいのです。

あまり接近して使ってほしくない。これは、過誤登録ではないですけれども、類似の範囲を使う

ことが事実上できるので、この辺りとこの辺りで使うと、割と近くなってしまう。混同のおそれが生

じるとはいわないですけれども、混同のおそれが生じる方向へ近づいてしまうわけです。だか

ら、なるだけ離して使ってほしい。離して使った方が、消費者も識別ができます。区別ができた

方が、信用も化体しやすいです。こっちへ行くべき信用が、間違ってそっちへ行ってしまうとい

うことが少なくなるわけです。

ですから、商標法としては、なるだけ類似の範囲ではなくて、同一の範囲で使ってほしいの

です。なるべく出願したとおりの商標、出願したとおりの指定商品・役務に使ってほしいという

のが商標法の趣旨です。なるだけ離して使ってほしいということです。それを促進しているのが、

50条 1項と、51条の取消審判制度ということになります。

50条 1項の方を説明していきますと、最初のときにも出てきましたけれども、これは不使用取

消審判です。不使用取消審判は、使用していれば取り消されません。使用していれば、取り消

されないのですけれども、50 条の条文をよく読むと、各指定商品または指定役務についての

登録商標の使用をしていないときはと書いてあります。ですから、これは類似の範囲の商標を

使用していても、取消審判にかかるということです。50条の使用と認められるためには、同一の

範囲で使用しなくてはいけません。でないと取り消しを免れないです。ただし、少し厳しすぎる

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商標法

というので括弧書きが加わっています。括弧書きというのは、厳密にいえば同一の範囲ではな

くて、類似の範囲なのですけれども、少しだけ同一からはみ出しているところについては、その

他の社会通念上同一と認められる商標と書いてありますけれども、商標原簿を見て、まったく

同じではないのだけれども、違いが少ししかない、社会通念的には同一に見られる場合には、

同一の商標の使用と認めましょうという条文ですけれども、これは若干緩和しているのですけ

れども、原則としては、類似の商標を使用していても取消審判を免れないことになります。

もう 1つ、51条の取消審判の方ですけれども、商標権者が故意に類似する商標を使った結

果、商品の品質の誤認、あるいは他人の業務に係る商品・役務と混同を生じた場合は、取消

審判を請求されるというのが51条1項です。これは、類似の範囲で商標を使用した結果、故意

が入っていますけれども、誤認、混同が生じた場合は、取り消される。これは、類似の範囲を使

った場合のサンクションです。だから、51条は、極端な話、同一の部分を使っていれば、わざと

誤認、混同を生じても、取り消しにはかからないという条文です。51 条は、同一を使っている分

には適用がないです。よく読めば分かると思います。指定商品もしくは指定役務についての登

録商標に類似する商標。登録商標に類似する商標と書いてあります。または、指定商品もしく

は指定役務に類似する商品・役務について、登録商標もしくは類似する商標。指定商品・指

定役務またはこれに類似するとは書いていないです。よく条文を読むと、全部書き分けていま

す。50 条の方もそうです。同一という言葉は書いていませんけれども、指定商品・指定役務、

登録商標と書いてあるだけですけれども。

50 条は、ここを使っていなければ取り消してしまうよという条文です。括弧書きで少しだけ広

げています。でも、類似の範囲全体に広がっているわけではない。51 条の方は、ここを使った

場合のサンクションが書いてあります。この 2つの条文で同一の範囲の使用を促しているという

ことになります。なるだけ同一の範囲を使ってほしい。

51 条の審判で大事なところが、これは何人タイプです。50 条も何人になりましたけれども、

51 条もやはりこれは何人タイプです。「ユーハイムコンフェクト」事件というのは、商標権を付与

する前に異議申立てがあったという旧法下の事件なのですけれども、51 条の請求を立てた請

求人が、審査の段階で実は異議申立てを立てていたのです。だけれども、和解で異議申立て

を取り下げました。和解で取り下げた結果として商標登録されたのですけれども、和解で取り

下げた人がもう一回取消審判を請求したという事例なのですけれども、これは、信義則違反と

いうことで退けられています。51 条の審判、あるいは 50 条の審判もそうですけれども、当事者

の利益を保護している制度ではないのです。なるべく同一の範囲で商標を使用していただくこ

とで、なるだけ混同が生じる可能性を減らしている制度というか、うまい言葉が出てきません。

公益的な審判なので、私益を守っているわけではないのです。

もしこれが、「ユーハイムコンフェクト」という事件が、本当に取り消されるような事件であった

ら、これは和解、取り下げをした請求人ではなくて、隣に住んでいる人に代わって請求してもら

えばいいです。そうすれば取り消しになる。どちらにしろ取り消しになる。あるいは、弁理士に

代わりに請求してもらっても構いません。これは、利害関係が必要ありません、何人なので。結

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商標法

局、これは取り消しになるんです。なので、この裁判の結論は、若干疑問というようにいってお

きます。

工業所有権制度、産業財産権制度、審判について、何人タイプとそうでないタイプがありま

すけれども、何人タイプの場合は、主に公益的な理由からできている規定、利害関係を求めて

いる場合は、私は利害関係を求めている審判はないと思っていますけれども、あるという説の

方が通説なので、利害関係を必要だとしている審判は、どちらかというと私益を守っている審

判だというように頭の中で分類しておけばいいと思います。何人の場合は、何人と書いてありま

す。これが、自己使用をする場合の気を付けるべき点です。

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商標法

<商標法(12)>

商標権は使用許諾することができます。通常使用権とか専用使用権という使用権を設定す

ることができます。詳しくは特許権の講義でやりますので、簡単に触れます。通常使用権という

のは、ライセンシーに対して商標権を行使しませんという、商標権の不行使契約です。不正競

争防止法の講義で説明したと思います。通常使用権の有無は契約で決まります。だから、許

諾すればオーケーです。もちろん黙示の許諾や口頭での許諾でもオーケーです。

一方、専用使用権、これは、商標権そのものとほぼ同じ権利だと考えてください。ライセンシ

ーに禁止権が与えられます。専用使用権を設定した場合には、権限なく登録商標を使用した

第三者に対して、専用使用権者が差止めや損害賠償請求をすることができます。これは、商

標権を譲渡することなく譲渡しているような状態を作り出す制度だと言われています。専用使

用権の設定は、登録が効力発生要件です。商標原簿に専用使用権を誰々さんに設定しまし

たという登録が必要です。実務的には、独占的通常使用権のほうが多いです。この独占的通

常使用権というのは、通常使用権の一種なのですが、使用許諾契約上、あなたにしか通常使

用権を設定しませんよという特約付きの通常使用権です。ただし、他人に通常使用権を設定

しないという特約を登録できないところが問題点というか、いいところでもあります。原簿に書け

ないのです。原簿に欄がありません。ここまでは特許権と同じです。

商標法特有の制度が、ライセンシーの使用行為についての規定です。また 50 条の不使用

取消しの条文ですが、50 条の条文についての説明の時、商標権者が使っているという前提で

読みましたが、実は、専用使用権者とか通常使用権者が使っていても良いのです。その場合

も不使用取消しを免れます。ライセンシーが使っていれば、不使用取消しを免れるのです。商

標権者が使用してもいいですが、商標権者が小さな事業者だったりすると、自分で使うのは大

変ですよね。ライセンスして、利益を得ようとしている商標権者に配慮しているわけです。ただ、

ライセンスを許すと、商標の場合は弊害が起き得ます。ライセンシーが勝手なことをすることで

す。ライセンスを受けた商標を使って、勝手に品質誤認を生じさせたり、あるいは、他人の商品

や役務と混同を生じさせたりする可能性があります。その場合は、商標登録の取消審判を提

起できます。それが 53 条です。53 条は、ライセンシーが他人の商品・役務と混同を生ずる行

為をした場合は、誰でも取消審判が請求できるという条文です。取り消されるのは、専用使用

権とか通常使用権ではなくて、商標権本体です。ですから、これは、商標権者に対するサンク

ションです。ちゃんとライセンシーを管理しないと、登録商標権を取り消すよという趣旨で 53 条

の取消審判請求の条文があります。

同じような理由に基づく取消審判請求が 51 条 1 項にも規定されています。こちらは自己使

用の場合です。違う点は、53 条では故意が不要です。それから、53 条は同一の場合も含みま

す。つまり、ライセンシーが類似の範囲でなく、同一の商標を使っていても、他人と混同を生じ

るような態様で使った場合は、商標権本体が取り消されます。商標法は、商標権者に対し、こ

のようにライセンシーへの強いコントロール義務を課しているわけです。

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商標法

それから、最後に、レジュメの「4 譲渡」の部分を説明します。

商標法は登録制度を何のために設けているのでしょうか。商標原簿は、対抗要件の具備を

判断するために使われます。商標法は、登録商標の譲渡を認めていますが、商標原簿があれ

ば、二重譲渡のときに原簿への記載を対抗要件とすることで、権利者を判断することができる

のです。あとは、地震売買の場合、つまり、ライセンサーである商標権者が商標権を第三者に

譲渡してしまった場合、商標原簿にライセンスを受けていることを登録しておけば、新しい商標

権者に対しても自己の使用権を主張できるのです。これは、商標権の財産権的価値の向上と

言われています。不正競争防止法による保護を受けられるけれど登録をしていない商標は譲

渡することができません。なお、立法論としては、商標権の譲渡を自由に認めるのではなく、営

業と一緒に譲渡する場合だけ商標権の譲渡を認めようという議論がありました。商標法が大改

正された昭和 34 年の時です。その際、いろいろと議論がありました。もちろん、営業と一緒に

譲渡すれば、混同が防げるのですが、結局、そのような法制度は取られませんでした。原則自

由譲渡になったのです。

ただし、商標権譲渡に伴って、混同が生じる場合があります。それが 4条 1項 11号の例外

によって登録され後に商標権が譲渡される場合です。もう少し詳しく説明します。4 条 1 項 11

号を見ると、他人の先願既登録商標と同一、類似の範囲にかかる場合はれば登録できないと

書いてあります。「他人」とありますから、実は、権利者と出願人が同じ人の場合、4 条 1 項 11

号には引っかからず登録できるのです。4条 1項 11号の審査の場面ですが、過誤登録ではあ

りませんね。これは正当な登録です。他人は駄目ですが、同一人、つまり商標権者自身ならオ

ーケーなのです。先願既登録の類似の範囲の商標についても、既登録の商標権者自身だと

登録できるのです。4条 1項 11号というのは、最低限、商標同士をこれだけ離しておかないと

混同するというところに趣旨があると言いましたけれども、同じ人が持っていれば、別に混同し

ません。だから、「他人」と書いてあるのです。同じ人だったら、ダブってよいのです。

昔も、同一人であればもちろんダブって取得して良かったのですが、昔は、連合商標制度と

いうのがあって、一定の縛りがありました。どういうことかと言いますと、連合商標ですよ、として

出願しなくてはいけなかったのです。連合商標にはどのような制限があったかというと、分離移

転が禁止されていたのです。登録のときは、同一人が出願している限りは混同しないのでダブ

っても良いのです。でも、自由譲渡が許される法制度の下では、登録した後に、他人に譲渡す

ることがあります。登録した後にダブっているうちの一部だけを他人に譲渡することができてし

まうと、混同してしまうでしょう。同じ人が権利者だから混同しないということで、ダブって登録を

認めているのに、登録した後、一部だけを他人に譲渡すると、事後的に混同が生じてしまうで

しょう。だから、先願の類似の範囲内で設定登録された連合商標は、鎖でつながれた状態で

一体として譲渡されないといけませんという制度だったのです。

ただし、連合商標制度には審査の負担がありました。連合商標とするつもりで出願したのだ

けれども、実は類似の範囲に入っていなかったという場合などもありまして、審査が大変だった

ので、連合商標制度はやめてしまったのです。縛りを切ったのです。で、その代わりに、52 条

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商標法

の 2 を作りました。ここでは、商標権が移転された結果、この類似の範囲で使っている商標が

他人の商品・役務と混同を生じた場合は取り消すことができると規定されています。譲渡に縛り

をかけるのではなくて、誤認、混同が生じた場合に、後発的に登録商標の取り消しをするという

制度に切り替えたのです。これが52条の2です。これはやはり何人型、つまり利害関係の有無

などを問わず、誰でも請求できる形式を取っています。混同、事後的な混同を防止する制度

の 1 つです。これは、事後的な混同ですから、登録の時点では過誤登録ではないのです。譲

渡による事後的な混同を防ぐ制度が 52条の 2です。

連合商標制度の時は、グループの親会社がたくさん登録商標を持っていて、それらを子会

社に譲渡するということができなかったのです。だから連合商標制度が廃止されていなかった

ときは、ライセンスで対応していたのですが、最近、分社化が進んでいることもあって、混同が

生じた場合にだけ事後的に取り消しする制度にすれば済むだろうということで、52 条の 2 を新

設しました。

これで、商標法の説明は終わりましたが、最後に、補足として、ドメインネームの話をします。

実は、ドメインネームについては不正競争防止法の条文で対応しています。ですから、不正

競争防止法の講義で取り扱ったほうがよいようにも思いますが、登録主義を理解してから説明

するほうが良く理解できるので、ここで説明します。レジュメの「ドメイン名とは」というところを見

てください。ここでは田村先生のアドレスが書いてありますけれども、「juris.hokudai.ac.jp」、この

部分がドメインネームと言われるものです。階層構造になっていて、第 1 階層が「jp」です。階

層は、後ろから第 1階層、第 2階層、第 3階層となります。それぞれトップレベルドメイン、セカ

ンドレベルドメイン、サードレベルドメインと呼ばれています。「hokudai」は第 3 階層で、

「hokudai」の下に「juris」というドメインがあります。ドメインネームは、ホームページのアドレスの

ほか、皆さんEメールのアドレスとしても使っていると思います。このドメインネームも、商標みた

いに登録する機関ところがあるのですが、その審査もやはり形式審査です。ですから、極端な

話、北大以外が「hokudai.ac.jp」というドメインネームを取ることも可能です。形式審査しかしま

せんから。

でも、それではやはり困るでしょう。どういうふうに困るのかを説明します。

ここに「jaccs」事件というのがあります。「jaccs」というのは、クレジットカードの会社です。昔の

名前はちょっと忘れましたけれども、今は株式会社ジャックスという会社名ですが、ジャックスを

アルファベットの大文字で表した有名なロゴがあります。ところが、富山県の簡易組立トイレの

販売等を事業内容とする会社が、「jaccs」というドメインネームを取ってしまいました。そして、ク

レジットカード会社の株式会社ジャックスに、私の方が先に取ったよと言って、譲って欲しけれ

ばお金を払いなさいと申し出たのです。株式会社ジャックスが断ったら、断られた後でホーム

ページを開設して、組立トイレや本業と関係のない携帯電話の販売抗告をするホームページ

を立ち上げていたわけです。その場合に、不正競争防止法 2条 1項 1号か 2号で対処できる

かという話があります。

実は、この「jaccs」事件というのは、ドメインネームを不正競争防止法 2条 1項 1号の商品等

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商標法

表示として読んだわけです。この事件では株式会社ジャックスが勝ちました。JPNIC というとこ

ろが日本でのドメインネームの登録機関で、不正競争防止法 2条 1項 1号で勝った判決を基

に請求すると、富山県の業者の登録を取り消すことはできます。取り消した後に、クレジットカ

ード会社の株式会社ジャックスが申請をすれば、「jaccs」のドメインネームを取得できるわけで

すけれども、不正競争防止法 2条 1項 1号、あるいは 2号に基づく訴訟には限界があります。

どういう限界かというと、使用していることが要件となっているので、被告が使用していないとい

けないのです。商品等表示として使用していないといけない。ですから、ただ持っているだけ

の状態、誰かが保有しているという状態というのを 2条 1項 1号や 2号では止められないので

す。止められないというか、登録抹消を求めることができないということです。使っていれば、混

同する、あるいは、著名表示の使用だとして止める、あるいは、ドメインネームの抹消を求める

ことができるのですけれども、持っているだけでは使用の要件を満たさないのでそれらの請求

ができないのです。譲渡目的のときは使う必要がないので、別に無理して使う必要はないので

す。逆に、使ったから「jaccs」事件の被告は請求を受けてしまったのであって、使わなければ良

かったという話もあります。しかし、そのような場合、自分に関係するドメインネームを取られてし

まった者は困ります。

困ったので、不正競争防止法 2条 1項 12号を新たに作りました。これは、2001年の改正で

作りました。不正競争防止法の 2 条 1 項 12 項を見てほしいのですけれども、そこにはドメイン

ネームの使用だけではなくて、不正取得と保有というのがあるでしょう。そちらで止めにいくこと

ができます。ですから、今だと「jaccs」というドメインネームを取得されただけの状態でも抹消を

求めることができます。そういう 12号の条文が現在はあります。

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