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橈骨遠位端骨折 診療ガイドライン Orthopaedic Association(JOA)Clinical Practice Guideline on the Management of Distal Radius Fractures, 2nd Edition ©The Japanese

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橈骨遠位端骨折診療ガイドライン

2017(改訂第2版)

Japanese Orthopaedic Association(JOA)Clinical Practice Guideline on the Management of Distal Radius Fractures, 2nd Edition©The Japanese Orthopaedic Association, 2017Published by Nankodo Co., Ltd., Tokyo, 2017

iv

<日本整形外科学会> 理事長 丸毛 啓史 東京慈恵会医科大学 教授

<日本手外科学会> 理事長 矢島 弘嗣 市立奈良病院 院長

<日本整形外科学会診療ガイドライン委員会> 担当理事 金谷 文則 琉球大学 教授 委員長 市村 正一 杏林大学 教授

<日本手外科学会橈骨遠位端骨折診療ガイドライン策定委員会> 担当理事 渡邉健太郎 名古屋掖済会病院 副院長 砂川  融 広島大学 教授

<橈骨遠位端骨折診療ガイドライン策定委員会> 委員長 安部 幸雄 済生会下関総合病院 科長 統括および治療/その他の骨折,治療法

委 員 泉山  公 南多摩病院 部長 治療/手術療法/プレート固定

今谷 潤也 岡山済生会総合病院 部長 治療/手術療法/プレート固定

金城 養典 清恵会病院 副部長 治療/治療総論

川崎 恵吉 昭和大学 講師 治療/手術療法/プレート固定

児玉 成人 滋賀医科大学 講師 治療/保存療法

清水 隆昌 奈良県立医科大学 助教 機能評価/予後

長尾 聡哉 みつわ台総合病院 副部長 治療/手術療法/手術療法総論

仲西 康顕 奈良県立医科大学 助教 機能評価/予後

藤原 浩芳 京都府立医科大学 准教授 診断

三浦 俊樹 JR 東京総合病院 部長 リハビリテーション

■ 診療ガイドライン2017(第2版)策定組織 ■

日本整形外科学会日本手外科学会

日本整形外科学会診療ガイドライン委員会橈骨遠位端骨折診療ガイドライン策定委員会

監 修

編 集

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森谷 浩治 新潟手の外科研究所 部長 疫学

門馬 秀介 昭和大学 助教 治療/手術療法/経皮的鋼線固定,創外固定

<アドバイザー> 金谷 文則 琉球大学 教授 澤泉 卓哉 日本医科大学 前教授

<構造化抄録作成協力>(五十音順) 青木 光広 秋田 鐘弼 麻田 義之 浅見 昭彦 阿達 啓介 尼子 雅敏 新井  健 有野 浩司 飯島 英二 飯田 博幸 池上 博泰 池田 和夫 池田 全良 石垣 大介 石川 浩三 石河 利之 石田  治 石突 正文 石津 恒彦 磯貝 典孝 市川  亨 伊藤 博紀 稲垣 克記 稲垣 弘進 稲田 有史 射場 浩介 伊原公一郎 今村宏太郎 入江  徹 岩倉菜穂子 岩崎 倫政 岩瀬 嘉志 岩本 幸英 内尾 祐司 内田 和宏 内田  満 内山 茂晴 浦田 士郎 浦部 忠久 恵木  丈 江尻 荘一 大泉 尚美 大井 宏之 大江 隆史 大谷 和裕 大野 義幸 岡﨑 真人 岡本 雅雄 冲永 修二 奥田 良樹 長田 伝重 長田 龍介 小野 浩史 面川 庄平 柿木 良介 垣淵 正男 笠井 時雄 加地 良雄 柏  克彦 香月 憲一 加藤 貞利 加藤 博之 金谷 耕平 釜野 雅行 亀井  譲 亀渕 克彦 亀山  真 河井 秀夫 川勝 基久 河野 正明 川端 秀彦 木原  仁 木村 理夫 木森 研治 清川 兼輔 金  潤壽 草野  望 楠瀬 浩一 工藤 文孝 國吉 一樹 久保田雅仁 黒川 正人 桑田 憲幸 光嶋  勲 河野慎次郎 五谷 寛之 後藤  渉 小畠 康宣 小林 明正 小林 由香 近藤  真 齋藤 育雄 齋藤 知行 酒井 昭典 酒井 和裕 坂井 健介 酒井 直隆 坂野 裕昭 笹  益雄 サッキャ イソラマン 佐藤 和毅 佐藤 信隆 佐野 和史 沢辺 一馬 重冨 充則 篠原 孝明 柴田  実 島田 賢一 島田 幸造 清水 弘之 白井 久也 鈴木 修身 鈴木 克侍 鈴木 茂彦 鈴木 正孝 角  光宏 関  敦仁 関谷 勇人 千馬 誠悦 副島  修 高木 誠司 高岸 憲二 高木 理彰 高瀬 勝己 高原 政利 高山真一郎 瀧川宗一郎 武石 明精 田崎 憲一 田嶋  光 田尻 康人 多田  薫 多田  博 建部 将広 田中 克己 田中 寿一

vi

田中 利和 田中 英城 谷口 泰徳 谷野 善彦 玉井 和夫 千野 博之 土田 芳彦 坪川 直人 津村  弘 鶴田 敏幸 寺田 信樹 寺本憲市郎 土井 一輝 峠   康 戸羽 直樹 戸部 正博 鳥谷部荘八 鳥山 和宏 中尾 悦宏 長岡 正宏 仲尾 保志 仲沢 弘明 中島 祐子 中土 幸男 中道 健一 中村英次郎 中村 俊康 南野 光彦 西浦 康正 西川 真史 西田圭一郎 西田  淳 西脇 正夫 根本 孝一 根本  充 野口 政隆 信田 進吾 橋詰 博行 橋本 一郎 長谷川健二郎 服部 泰典 原   章 原田 香苗 原  友紀 日高 典昭 日高 康博 平瀬 雄一 平田  仁 平地 一彦 平原 博庸 福本 恵三 藤井 裕子 藤岡 宏幸 藤尾 圭司 普天間朝上 別府 諸兄 堀井恵美子 牧  信哉 牧野 仁美 牧   裕 正富  隆 松崎 浩徳 松下 和彦 松村 崇史 松村  一 三上 容司 水関 隆也 光安 廣倫 三浪 明男 宮坂 芳典 宮﨑 洋一 村上 隆一 村瀬  剛 村田 景一 村松 慶一 百瀬 敏充 森田 哲正 森田 晃造 森友 寿夫 矢島 弘嗣 安田 匡孝 山内 健二 山内 大輔 山﨑 京子 山下 優嗣 山中 一良 山本 謙吾 山本 真一 湯川 昌広 横井 達夫 吉川 泰弘 吉本 信也 若林 良明 和田 卓郎

vii

日本整形外科学会診療ガイドライン改訂にあたって

診療ガイドライン(以下,ガイドライン)は,「医療者と患者さんが特定の臨床

状況において,適切な診療の意思決定を行うことを支援する目的で系統的に作成

された文章」です.こうしたガイドライン自体は古くから存在していますが,わが

国では,厚生省(当時)の医療技術評価推進検討会(1998 〜 1999年)の報告書を踏

まえて,科学的根拠に基づく医療(evidence-based medicine: EBM)を普及させる

ための一つの方策として,エビデンスに基づくガイドラインの策定が推進されま

した.

そこで,日本整形外科学会では,2002年にガイドラインの作成対象として,日

常診療で遭遇する頻度の高い11疾患を選び,ガイドライン作成を開始しました.

現在までに,16疾患のガイドラインを出版あるいは公開しており,新たに2疾患

のガイドライン作成が進行しています.

ガイドラインには,その時の最新のエビデンスを含めた客観的信頼性の高い診

療情報が記載されます.しかし,ひとたび出版,公開されたガイドラインは,日々

進歩していく医療から取り残されていきます.診療ガイドラインが賞味期限付き

の「生もの」といわれるのはこのためで,定期的な改訂が必要です.

日本整形外科学会では,運動器医療に携わる他学会とも連携し,診療ガイドラ

イン委員会ならびに各診療ガイドライン策定委員会主導のもと,順次改訂作業を

進めています.本ガイドラインが整形外科診療の質の向上やEBMの実践に役立

ち,患者さんの疾患への理解を通じてインフォームド・コンセントに基づいた最

適な治療法を選択する際の参考になれば幸いです.

2017年4月日本整形外科学会理事長

丸 毛 啓 史

viii

2011年2月25日日本整形外科学会診療ガイドライン委員会

1.作成の目的本ガイドラインは運動器疾患の診療に従事する医師を対象とし,日本で行われる運動器疾患

の診療において,より良い方法を選択するための1つの基準を示し,現在までに集積されたその根拠を示している.ただし,本書に記載されていない治療法が行われることを制限するものではない.主な目的を以下に列記する.

1)運動器疾患の現時点で適切と考えられる予防・診断・治療法を示す.2)運動器疾患の治療成績と予後の改善を図る.3)施設間における治療レベルの偏りを是正し,向上を図る.4)効率的な治療により人的・経済的負担を軽減する.5)一般に公開し,医療従事者間や医療を受ける側との相互理解に役立てる.

2.作成の基本方針1)本ガイドラインはエビデンスに基づいた現時点における適切な予防・診断と適正な治療

法の適応を示すものとする.2)記述は可能な限りエビデンスに基づくことを原則とするが,エビデンスに乏しい分野で

は,従来の治療成績や理論的な根拠に基づいて注釈をつけた上で記述してもよい.3)日常診療における推奨すべき予防・診断と治療法をエビデンスに基づいて検証すること

を原則とするが,評価が定まっていない,あるいはまだ普及していないが有望な治療法について注釈をつけて記載してもよい.

3.ガイドラインの利用1)運動器疾患を診療する際には,このガイドラインに準拠し適正な予防・診断・治療を行う

ことを推奨する.2)本ガイドラインは一般的な記述であり,個々のケースに短絡的に当てはめてはならない.3)診療方針の決定は医師および患者のインフォームド・コンセントの形成の上で行われる

べきであり,特に本ガイドラインに記載のない,あるいは推奨されていない治療を行う際は十分な説明を行い,同意を得る必要がある.

4)本ガイドラインの一部を学会方針のごとく引用し,裁判・訴訟に用いることは本ガイドラインの主旨ではない.

4.改 訂本ガイドラインは,運動器疾患診療の新たなエビデンスの蓄積に伴い随時改訂を行う.

運動器疾患ガイドライン策定の基本方針

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改訂第2版の序

ガイドラインのない診療は,羅針盤のない航海のようなものである.様々な局面に遭遇した際にどちらを向いて進んでいけばよいのか? 行き先を指示してくれるのが診療ガイドラインと言ってよいであろう.故澤泉卓哉前委員長をはじめとした橈骨遠位端骨折のエキスパートの諸兄により作成された「橈骨遠位端骨折診療ガイドライン2012」は,珠玉の診療指針として輝きを放ち続け,本邦での橈骨遠位端骨折の治療レベルの向上に貢献してきたことは間違いない.一方で昨今の医学,医療の進歩はとてつもなく速く,それは手外科の分野においても例外ではない.橈骨遠位端骨折の分野においても,高齢化,核家族化,早期社会復帰への要望など社会構造の変化に伴う手術適応の変化,CT, MRI,超音波機器を使用した診断,治療への応用,鏡視下手術の発展,様々な種類の内固定材料の開発と臨床での使用,内固定術の普及に伴う種々の合併症の発覚,後療法の早期化などに加え,エビデンスレベルの高い文献が次第に発表されるなど過去5年間の診療内容の進歩により,ガイドラインの改訂が必要となった.

2014年4月の沖縄での日本手外科学会学術集会時にて,橈骨遠位端骨折診療ガイドライン策定(改訂)委員会が立ち上げられた.前回のガイドライン作成では2008年までに発表された文献が検索,採用されており,今回は前回採用された文献に加え,2009年以降,新たに発表された文献が検索の対象となった.これらの文献をみるとこの5年間に診断,治療法ともに様々な変化をみせていた.また文献のエビデンスレベルも向上し,客観的評価,特に患者立脚型評価を記載する文献が増加しており,5年間というガイドライン見直しの期間は適切であることを実感した.しかし,橈骨遠位端骨折という外傷治療の分野では,内科における薬物治療のような明確な比較対照の研究デザインが困難であり,エビデンスレベルの高い文献は必ずしも多くないという事実も再認識した.今後,論文を作成しようとする医師はしっかりとした論文構成が必要と感じた.

本ガイドラインは前版同様,日常診療で感じた疑問に対する回答をQ&A形式で記載した.クリニカルクエスチョンは上記変化を考慮し,修正,追加が必要であった.その内容は現段階でのup to dateであると作成に携わった委員全員が自負するものである.ただし実際の診療方針は,医師と患者が相談したうえで決定していくものであり,本ガイドラインはあくまで診療においての指標のひとつであると認識していただきたい.

最後に本ガイドラインの作成に多大なご支援とご尽力を賜りました日本整形外科学会診療ガイドライン委員会,日本手外科学会ならびに代議員の方々,頻回の委員会開催に協力していただきました日本整形外科学会事務局ならびに財団法人国際医学情報センター (IMIC)の諸氏に深謝いたします.

2017年4月日本整形外科学会

橈骨遠位端骨折診療ガイドライン策定(改訂)委員会委員長 安部 幸雄

x

<日本整形外科学会> 理事長 岩本 幸英

<日本整形外科学会診療ガイドライン委員会> 担当理事 久保 俊一 委員長 金谷 文則

<橈骨遠位端骨折診療ガイドライン策定委員会> 担当理事 金谷 文則 委員長 澤泉 卓哉 委 員 泉山  公 長田 伝重 面川 庄平 坂野 裕昭 戸部 正博 長尾 聡哉 南野 光彦 西浦 康正 森友 寿夫

■ 初版診療ガイドライン策定組織 ■

日本整形外科学会日本手外科学会

日本整形外科学会診療ガイドライン委員会橈骨遠位端骨折診療ガイドライン策定委員会

監 修

編 集

初版発行時の編集

xi

<アブストラクト作成担当>(五十音順)青木 光広 秋田 鐘弼 浅見 昭彦 麻生 邦一安部 幸雄 尼子 雅敏 新井  健 有野 浩司飯島 英二 池田 和夫 池田 全良 石川 浩三石川 淳一 石黒  隆 石田  治 石突 正文泉山  公 磯貝 典孝 市川  亨 伊藤聰一郎稲垣 克記 稲垣 弘進 稲田 有史 伊原公一郎今枝 敏彦 今谷 潤也 今村宏太郎 岩本 幸英内尾 祐司 内田  満 内山 茂晴 浦部 忠久恵木  丈 大井 宏之 大野 和裕 岡  義範岡本 雅雄 冲永 修二 荻野 利彦 奥津 一郎長田 伝重 小田  良 越智 光夫 落合 直之小野 浩史 面川 庄平 貝田 英二 柿木 良介香月 憲一 勝見 泰和 加藤 貞利 加藤 博之金谷 文則 釜野 雅行 亀山  真 河井 秀夫河野 正明 川端 秀彦 菊地 淑人 北山 吉明木原  仁 木森 研治 清重 佳郎 草野  望久保 俊一 光嶋  勲 五谷 寛之 小林 明正小林  誠 近藤  真 蔡  詩岳 酒井 昭典酒井 和裕 酒井 直隆 坂田 悍教 坂野 裕昭佐久間雅之 佐々木 孝 貞廣 哲郎 澤泉 卓哉重冨 充則 島田 幸造 清水 克時 清水 弘之白井 久也 末永 直樹 鈴木 茂彦 鈴木 正孝鈴木  康 関谷 勇人 千馬 誠悦 副島  修高岸 憲二 高瀬 勝己 髙原 政利 武石 明精田崎 憲一 多田  博 田中 克己 田中 英城谷口 泰徳 帖佐 悦男 坪川 直人 津村  弘鶴田 敏幸 寺田 信樹 土井 一輝 戸部 正博中尾 悦宏 長尾 聡哉 長岡 正宏 中島 英親長野  昭 中道 健一 南野 光彦 西浦 康正西川 真史 西田  淳 根本 孝一 野口 政隆信田 進吾 橋詰 博行 長谷川健二郎 服部 泰典浜田 良機 日高 典昭 日高 康博 平瀬 雄一平田  仁 平地 一彦 福居 顯宏 福本 恵三藤岡 宏幸 藤原 浩芳 堀井恵美子 前田  登牧   裕 牧野 正晴 政田 和洋 松下  隆松末 吉隆 松村 崇史 松村  一 丸山  優三上 容司 水関 隆也 水谷 一裕 三浪 明男南川 義隆 三原  誠 宮坂 芳典 村瀬  剛村松 慶一 百瀬 敏充 森友 寿夫 矢島 弘嗣安田 匡孝 梁瀬 義章 山中 一良 山本 謙吾吉川 泰弘 吉積 佳世 龍 順之助 和田 卓郎渡邉健太郎 渡部 欣忍

xii

日本整形外科学会診療ガイドライン策定にあたって

高齢社会を迎えたわが国では,2010年時点の平均寿命が男性79.6歳,女性が

86.4歳,65歳以上の高齢者人口が2,956万人に及んでいます.1947年時点の平均

寿命は男性50.1歳,女性54.0歳でしたから,わずか60余年の間に平均寿命が男女

とも約30年も延長したことになります.急激な高齢化により疾病構造も様変わり

し,骨粗鬆症や変形性関節症,腰部脊柱管狭窄症などが,整形外科の主要疾患に仲

間入りしました.一方,診断・治療技術も近年めざましい進歩をとげました.画像

診断をはじめとする診断技術の進歩により病変の早期かつ正確な診断が可能とな

り,数々の優れた薬剤や高度な手術法の開発により優れた治療成績が得られるよ

うになったのです.しかし一方で,幾多の診断技術や治療法のオプションの中か

ら,個々の患者さんのために最も適切な方法を選ぶにあたり,何らかのガイドラ

インが必要になってきました.

ほとんどの患者さんが求めている医療は,安全で確実な医療,すなわち標準的

な医療です.日本整形外科学会では,運動器疾患の患者さんに標準的な医療を提

供するために,各疾患に対するエビデンスに基づいた「ガイドライン」を策定し,

時間が経過したものについては改訂作業を進めています.この診療ガイドライン

が,医療の現場,および医師教育の場で十分に活かされ,運動器医療の向上につな

がっていくことを願ってやみません.

2012年1月日本整形外科学会理事長

岩 本 幸 英

xiii

初版の序

わが国は超高齢社会を迎えた.この流れには今後ますます拍車がかかると予想

されている.橈骨遠位端骨折は全骨折の中に占める割合が16 〜 20%とされてい

る.特に骨粗鬆症を基盤として高齢者を中心に発生する最も発生頻度の高い骨折

のひとつであり,当然ながら発生数も増加していくであろうことは論を俟たない.

高齢者の活動性の増加などから治療に対する希望や要求も変わってきている.し

たがって医師もこの骨折の知識と理解をより深めて実際の診療にあたらなければ

ならない.そのような流れの中から日本整形外科学会でも事業の一環として橈骨

遠位端骨折診療ガイドラインを策定することとなった.実際の策定作業は日本手

外科学会から選出された12名の委員と担当理事が2007年から作業を開始し,この

たび出版の運びとなった.

橈骨遠位端骨折に関する最初の文献はAbraham Collesが1814年に記載した.

当時は麻酔法や無菌手術法も確立しておらず,X線の発見より80年前の時代で

あったことから,たとえ変形が残存しても機能的には支障をきたさないと述べら

れている.変形の残存と機能について新たな議論が展開されるようになったのは

それから1世紀以上経ってからのことである.以後さまざまな治療法が報告され

てきたが,特に最近10年間ではこの骨折の診断や治療法,患者の認識が大きく変

化してきた.また,しっかりした研究デザインでエビデンスレベルの高い文献が

散見されるようになってきたのはこの数年であることを策定作業中に文献を通し

て実感した.本ガイドラインも,策定する段階では最も新しい文献の中から回答

を得てきたが,今後もますます診断・治療が進歩することが予想されるため,数

年後には新たな内容を盛り込んで改訂していかなければならないと考える.

本ガイドラインは,現在の日常診療で必要になると予想される質問に対する回

答という形で過去の文献の中から抽出して記載したものである.実際の診療方針

は,医師と患者で相談しながら決定していくものであり,あくまでも診療にあたっ

ての指標のひとつとしてとらえていただきたい.

2012年1月日本整形外科学会

橈骨遠位端骨折診療ガイドライン策定委員会委員長 澤泉 卓哉

xiv 目 次

目 次

前 文 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

第 1 章 橈骨遠位端骨折の疫学 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9

CQ 1. 橈骨遠位端骨折の発生状況は? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10 CQ 2. 橈骨遠位端骨折の発生にかかわる危険因子は? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12 CQ 3. 橈骨遠位端骨折に対して行われる治療法の傾向は? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14 CQ 4. 橈骨遠位端骨折と他の骨脆弱性骨折の発生に関連はあるか? ・・・・・・・・・・・・・ 15

第 2 章 診 断 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17

CQ 1. 推奨できる骨折型分類はあるか? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18 CQ 2. 単純X線計測値の基準は? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21 CQ 3. 単純X線正面・側面像の2方向以外にどのような撮影方法が有用か? ・・・・・・ 23 CQ 4. 関節内骨折の診断にCTは有用か? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25 CQ 5. 不顕性骨折の診断に有用な検査法は? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27CQ 6. TFCC損傷の合併率とその診断方法は? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28CQ 7. 舟状月状骨靱帯損傷の合併率とその診断方法は? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29CQ 8. 尺骨茎状突起骨折の合併率は? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31

第 3 章 治 療 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33

治療総論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34 3.1

CQ 1. 関節外骨折に対して手術療法は保存療法より有用か? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34 CQ 2. 関節内骨折に対して手術療法は保存療法より有用か? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37 CQ 3. 関節外骨折における徒手整復後の残存変形は許容できるか? ・・・・・・・・・・・・・ 39 CQ 4. 関節内骨折における徒手整復後の残存変形は許容できるか? ・・・・・・・・・・・・・ 41 CQ 5. 橈骨遠位端骨折の合併症と発生率は? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 43

保存療法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45 3.2

CQ 1. 高齢者に徒手整復は必要か? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45 CQ 2. 徒手整復にfinger trapは有用か? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47CQ 3. 徒手整復に麻酔は有用か? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 48 CQ 4. 外固定の範囲とその期間は? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 50

xv

CQ 5. 外固定時の手関節と前腕の肢位は? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 51CQ 6. 保存療法の合併症は? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 52CQ 7. 整復評価に超音波検査は有用か? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 55

手術療法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 57 3.3

3.3.1.手術療法総論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 57 CQ 1. 適切な手術時期はいつか? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 57 CQ 2. 高齢者に手術療法は有用か? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 59CQ 3. 関節内骨折の手術で透視下整復は有用か? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 62 CQ 4. 関節内骨折に関節鏡視下手術は有用か? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 64 3.3.2.経皮的鋼線固定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 66 CQ 1. 経皮的鋼線固定は有用か? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 66 CQ 2. 経皮的鋼線固定の合併症は? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68 3.3.3.創外固定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 70 CQ 1. 創外固定は有用か? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 70 CQ 2. 創外固定の合併症は? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 733.3.4.プレート固定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 75 CQ 1. 背側ロッキングプレート固定は有用か? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 75 CQ 2. 掌側ロッキングプレート固定は有用か? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 77CQ 3. ノンロッキングプレート固定は有用か? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 81CQ 4. 角度固定型(単方向性)掌側ロッキングプレート固定は有用か? ・・・・・・・・・・・ 84 CQ 5. 角度可変型(多方向性)掌側ロッキングプレート固定は有用か? ・・・・・・・・・・・ 86CQ 6. 掌側ロッキングプレートに骨(人工骨)移植は有用か? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 88CQ 7. 関節内粉砕骨折に複数プレートは有用か? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 90 CQ 8. 掌側ロッキングプレート固定後の外固定は有用か? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 92CQ 9. 掌側ロッキングプレートの抜去は必要か? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 94 CQ 10. 掌側ロッキングプレート固定の術後合併症は? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 96CQ 11. 掌側ロッキングプレート固定に合併する腱損傷の診断に対して,      

超音波検査は有用か? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 101

その他の骨折,治療法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1033.4

CQ 1. 超音波パルスや電気刺激は骨癒合促進に有用か? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 103 CQ 2. 髄内釘固定は有用か? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 105CQ 3. 合併する遠位橈尺関節不安定症の診断と治療は? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 107 CQ 4. 合併するTFCC損傷は治療すべきか? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 110CQ 5. 合併する尺骨茎状突起骨折に内固定は有用か? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 113CQ 6. 合併する尺骨遠位端骨折に内固定は有用か? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 115CQ 7. 合併する手根骨間靱帯損傷は治療すべきか? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 117 CQ 8. 変形治癒に対する矯正骨切りの適応は? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 119CQ 9. 方形回内筋の修復または温存は有用か? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 121

xvi 目 次

第 4 章 リハビリテーション ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・123

CQ 1. 手関節以外のリハビリテーションは有用か? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 124 CQ 2. リハビリテーションプログラムの指導は有用か? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 125 CQ 3. 受傷後6 ヵ月までに手関節機能は十分に回復するか? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 128

第 5 章 機能評価,予後 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・131

CQ 1. 一般的に用いられている評価法は? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 132 CQ 2. 妥当性の検証されている評価法は? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 135 CQ 3. 変形治癒は機能的予後に影響するか? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 137 CQ 4. 骨折の不安定性(再転位)を予測する患者因子,骨折因子は存在するか? ・・・ 140

索 引 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 142

1

前  文

1 ガイドラインの作成方法・改訂の経緯,手順

橈骨遠位端骨折診療ガイドラインは日本整形外科学会の事業のひとつであり,実際の委員選出や策定作業は日本手外科学会のもとで行った.2012年版はこの事業のひとつとしてはじめて作成された.一方,医療技術の進歩は目覚ましく2012年版出版後も様々な新しい見解,技術が発表され改訂の必要性はすでに前版出版以前から指摘されており,今回日本整形外科学会の意向により5年の歳月を経て2014年より橈骨遠位端骨折診療ガイドライン策定(改訂)委員会を組織し,前版の改訂,すなわち橈骨遠位端骨折診療ガイドライン2017の作成に着手した.

作成に際し,指標となったのがMinds診療ガイドライン作成の手引き2014(以下Minds 2014)という手引書である.これは公益財団法人日本医療機能評価機構が行っているEBM普及推進事業(Minds)によるガイドライン作成の手順である.Minds 2014 で強調されているのが「エビデンス総体」の重要性である.これはひとつの臨床上の問題(クリニカルクエスチョン:CQ)に対して収集し選択したすべての研究報告を,アウトカムごと,研究デザインごとに評価し,その結果をまとめたものをエビデンス総体と呼び,これを構成する臨床研究の文献を検索・収集し,評価・統合することにより偏り(bias)をできるだけ排除するものである.

さらにガイドラインの作成にあたっては「益と害のバランス」にも配慮した.これは介入(治療)によってもたらされる結果としての患者アウトカムには,期待される効果(益)のみではなく,有害な事象(害)も含まれる.さらには患者にとっての不利益として,費用負担の増加や身体的あるいは精神的な負担なども,推奨作成において考慮することとなった.

2 文献検索と結果

前版は1988 ~ 2008年までに発表された文献を抽出しており,今回は表1~ 3で示した検索式を用いて,2009 ~ 2014年の6年間において橈骨遠位端骨折に関する文献を言語は日本語,英語,種はヒトに限定して抽出した.初期抽出にて日本の文献は医学中央雑誌から913編,海外文献はMEDLINEから1,184編,Cochrane review(言語,種,限定なし)から171編,計2,268編の文献が抽出された.これらに対し小児(15歳以下),看護分野,基礎研究,柔整師からの文献を除去し,最終的に1,389件の文献を採択した.これに前回のガイドライン2012作成の際に採用し

2 前 文 5.エビデンスの強さ・推奨の強さ

た311編の文献を加え,計1,700編の文献に対し構造化抄録を作成することとした.

表2 検索式(MEDLINE)

L1 S RADIUS FRACTURES+NT/CTL2 S L1 AND DISTAL?L3 S (RADIUS?(3A)DISTAL?) AND (FRACTURES, BONE+NT/CT OR

FRACTURE FIXATION+NT/CT OR BONE SCREWS/CT)L4 S RADIUS(3A)DISTAL?(3A)FRACTURE?L5 S L2 OR L3 OR L4L6 S L5/HUMAN OR (L5 NOT ANIMALS+NT/CT)L7 S L6/ENG OR (L6 AND JAPANESE/LA)L8 S L7 AND 2009-2014/PY NOT EPUB?/FS

表3 検索式(Cochrane)

#1 MeSH descriptor: [Radius Fractures] explode all trees#2 (#1 and distal*)#3 MeSH descriptor: [Fractures, Bone] explode all trees#4 MeSH descriptor: [Fracture Fixation] explode all trees#5 MeSH descriptor: [Bone Screws] explode all trees#6 ((radius* near/3 distal*) and (#3 or #4 or #5 or fracture*))#7 #2 or #6 Publication Year from 2009 to 2014

表1 検索式(医学中央雑誌)

#1 (橈骨 /TH or橈骨 /AL) orとう骨 /AL orどう骨 /AL orぎょう骨 /AL or (橈骨 /TH or radius /AL)

#2 遠位 /AL or distal /AL#3 (骨折 /TH or fracture /AL) or (骨折 /TH or 骨折 /AL)#4 #1 and #2 and #3#5 #4 and (CK=ヒト)#6 #4 not (CK=イヌ,ネコ,ウシ,ウマ,ブタ,ヒツジ,サル,ウサギ,ニ

ワトリ,鶏胚,モルモット,ハムスター,マウス,ラット,カエル,動物)#7 #5 or #6#8 #7 and (PT=原著論文,会議録除く)#9 #7 and (PT=解説,総説,図説,講義,一般,座談会,Q&A,症例検討会)#10 #8 or #9

35.エビデンスの強さ・推奨の強さ

3 クリニカルクエスチョン(CQ)の設定

今回のガイドラインにおけるCQの設定に際し,まず前版のガイドラインのCQの妥当性について検討した.現状にそぐわないものは除外し,多種多彩なロッキングプレートの出現,髄内釘といった新しい内固定材料が使用されていることなど,新たなCQを追加した.

4 構造化抄録の作成と文献の批判的吟味

新たな1,389編の文献の構造化抄録の作成は231名の日本手外科学会代議員に依頼した.再度採用した311編の文献は委員会にて対応した.構造化抄録のフォームはMinds 2014を考慮して図1のようなフォームを作成した.このフォームには文献の研究デザインに加え,エビデンス総体の決定に必要不可欠であるバイアスリスク,非直接性,非一貫性,不精確,出版バイアスなどを盛り込みMinds 2014仕様とした.作成された構造化抄録をもとに,各項目の担当委員が文献内容を批判的に吟味した.Minds 2014では文献をアウトカムごとにまとめエビデンス総体を評価することが求められている.そこでアウトカムは文献において出現頻度の多い,1)握力,2)関節可動域,3)単純X線評価,4)DASH(disabilities of the arm, shoulder and hand)スコア,5)Mayo Wrist Score,を採用した.文献の選択は,1)これらアウトカムの項目の記載のある文献,2)対象症例20手以上(比較対照は20手 vs. 20手以上),3)経過観察期間6か月以上,4)エビデンスの高い文献,を原則とし文献を取捨選択した.合併症に関する文献は原則全て採用した.以上の過程を経て,各CQにおいて10編前後選択した.ただし,比較対照研究についてはCQに対応する文献が少ない場合は各群20手に満たない文献でも採用することとした.

5 エビデンスの強さ・推奨の強さ

選択された文献をアウトカムごとに横断的に評価し,表4のような表から「エビデンス総体」を決定した.エビデンス総体のエビデンスの強さの評価と定義は表5に従って決定した.こののち各CQに推奨文を作成し,推奨の強さは表6の定義に従い,委員会メンバー全員による投票(Delphi法)により決定した.この際,橈骨遠位端骨折の治療は保存療法,手術療法を問わず,様々な医師(手外科医,整形外科医,形成外科医,外科医,外傷医,研修医など)によって行われている現状を踏まえるとともに,ガイドラインとして,患者を含めた一般の方々にも読んでいただくことに配慮した.

4 前 文 6.注意事項

図1 構造化抄録フォーム

56.注意事項

6 注意事項

不安定型骨折の定義1

本ガイドラインでは不安定型橈骨遠位端骨折に関する記載がある.不安定型骨折とは臨床的に許容できる変形を保存療法では保持できない骨折であるが,不安定型橈骨遠位端骨折の定義や保存療法の限界となる数値については研究者により異なるため,ここでは国内でよく用いられてきた佐々木の定義,国外でよく用いられてきたCooneyの定義を紹介する.

表4 エビデンス総体評価シート

エビデンス総体 リスク人数(アウトカム率)

アウトカム

研究デザイン /研究数

バイアスリスク*

非一貫性*

不精確*

非直接性*

その 他(出版バイアスなど)*

上昇要因(観察 研究)*

対照群分母

対照群分子

(%)介入群分母

介入群分子

(%)効果指標(種類)

効果指標統合値

信頼区間エビデンスの強さ**

重要性*** コメント

DASHMayo握力可動域X線評価

表5 推奨度作成のための,エビデンス総体の総括(アウトカム全般のエビデンスの強さ)

A(強) :効果の推定値に強く確信があるB(中) :効果の推定値に中程度の確信があるC(弱) :効果の推定値に対する確信は限定的であるD(とても弱い) :効果の推定値がほとんど確信できない

表6 推奨の強さ

1(強い):実施する/実施しないことを強く推奨する2(弱い):実施する/実施しないことを弱く推奨する(提案する)3(なし):明確には推奨できない

6 前 文 9.まとめ

佐々木の不安定型Colles骨折の判定基準(RJ01441, RJ01681)1)粉砕型で転位があり,本来不安定な骨折.・整復時に整復位を保つには十分な安定性がない.・関節面に及ぶ高度な粉砕がある.・高度の転位(dorsal tilt ≧ 20 ま゚たは radial shortening ≧ 10mm)があり,ギプ

ス固定では整復位の保持困難が予想される.2)粉砕型でギプス固定後 dorsal tilt ≧ 5°または radial shortening ≧ 5mm の再

転位を生じたもの.

Cooneyの不安定型骨折の判定基準(RF01742)20°以上の背屈変形もしくは高度な関節内障害があり,整復位を保つのが困難な

高度粉砕型骨折.

文献の研究デザインの表記について2

本版は各文献をCQ,アウトカムに応じて横断的に評価しエビデンスの総体を決定したため,前版のごとく各文献のエビデンスレベルは評価していない.しかしエビデンス総体の決定に際し,RCTのような介入研究は初期評価Aから,観察研究は初期評価Cから開始し,各項目に応じて評価を下げるという作業を行った.そこで文献の研究デザインを明記しておく必要性があると判断し,各文献の末尾に研究デザインを以下のごとく表記した.

systematic review:reviewmeta-analysisliterature review

<介入論文>randomized clinical trial 無作為化比較対照試験:RCTnon-randomized clinical trial 非無作為化比較対照試験:N-RCTcontrolled clinical trial 比較対照試験:CCT

<観察論文>cohort studycase control study 症例対照研究:CCScase series

Mayo Wrist Score の表記3

手関節機能評価のひとつであるMayo Wrist Scoreは前版ではCooneyの評価,あるいは修正版をMayo wrist score改編版,と記載していたが,本版ではMayo Wrist Scoreに統一した.

79.まとめ

高齢者,成人の定義4

本ガイドラインにおいて,高齢者,成人,という言葉が頻回に登場する.その定義において以下のごとく取り決めた.高齢者:採用した個々の文献における高齢者の定義が様々であること,例えば

閉経後の女性を,骨脆弱性を有すると判断し50歳以上を高齢者と定義する文献もあれば65歳以上,70歳以上を高齢者と定義した文献もある.さらに活動性と暦年齢は必ずしも相関しない,といった理由から,本ガイドラインにおける高齢者とはあくまで文献に則った取扱いとした.成人:骨端線の閉鎖した,と考えられる16歳以上および,高齢者を含んだ年齢

を成人とした.

7 利益相反

利益相反の申告1

ガイドライン策定委員会全員の自己申告により利益相反の状況を確認した結果,担当理事およびいずれの委員にも申告された企業はなかった.

利益相反への対策2

意見の偏りを最小限にする目的で,すべての推奨決定は各章の担当者ではなく,委員会全員の投票とし,全体のコンセンサスを重視した.

8 資 金

本ガイドラインの作成に要した資金は日本整形外科学会および日本手外科学会より拠出されたものであり,その他の組織・企業からの支援は一切受けていない.

9 まとめ

本ガイドラインは前版同様,臨床,実践の場において橈骨遠位端骨折の診断・治療に携わる医師を支援することを目的として作成した.現段階での最新の診断・

8 前 文 9.まとめ

治療技術とそのエビデンスを提供するものとして有用なものと自負しているが,実際,どのように使用するかはこの本を手にとった各自の裁量に委ねなければならない.日本手外科学会の代議員の方々に構造化抄録を作成していただき,本委員会のメンバーで幾度となく点検して作成した本誌を,ぜひ何度も読み返し日常診療に生かしていただきたい.

橈骨遠位端骨折という日常ありふれた外傷でありながら,手術療法を必要とする分野であるせいか,洗練されたプランニングにより作成された文献は少なく,特に海外と比較し本邦では症例数の多い文献をみることが少なかった.本邦でも多施設共同研究などの必要性を痛感させられた一面であり,今後論文を作成される方々はぜひ考慮していただきたい.

診療ガイドラインの取り扱いについて,その法的側面として,「実際に行った治療がガイドラインと齟齬があっても注意義務違反は問われないが,説明義務違反は問われる」という現状がある.したがって,医師は最新版の診療ガイドラインの存在と内容を知っておき,必要に応じて患者に説明する必要がある.そして推奨に則らない診療を行うときは,その理由をカルテに記載しておくことが強く勧められている,という現状をしっかりと認識しておかなければならない.

本ガイドライン最終案を2016年12月16日~ 2017年1月13日まで,日本整形外科学会ならびに日本手外科学会のホームページに掲載しパブリックコメントを募集した.会員の方々より多くの提言や助言をいただき,委員会で議論し修正を行った.この場を借りて深謝申し上げたい.必ずしもすべての意見を反映するにはいたらなかったが,いただいた提言・助言は今後の改訂に向けた問題提起とする所存である.

最後に本ガイドライン作成期間中に,前委員会の委員長であられ,今回の委員会にも多大な助力をいただいた澤泉卓哉前日本医科大学教授が急逝されるという悲劇に直面した.本書を先生のご霊前にお届けすることにより,様々なご指導をいただいたお礼とさせていただきたい.また作成に際し,厚いご協力をいただいた国際医学情報センターの水野友里子氏,逸見麻理子氏,および南江堂に紙面をお借りして深謝する.

文 献 1) RJ01441 佐々木孝.臨整外 2002;37:1029. 2) RJ01681 佐々木孝ほか.日手会誌 1986;3:515. 3) RF01742 Cooney WP 3rd et al. J Bone Joint Surg Am 1979;61:840.

1第

橈骨遠位端骨折の疫学

10 第1章 橈骨遠位端骨折の疫学

解 説

①発生率諸外国における成人(16歳以上)の橈骨遠位端骨折の年間発生率は人口1万人あた

り14.5〜 28人(男性10〜17人,女性18.9〜 37人)であり,女性は男性の1.9〜3倍も多く発生している(R2F00016,R2F00483,R2F00013,R2F00543,R2F00481).本邦における全年齢を対象とした橈骨遠位端骨折の疫学調査でも,人口1万人あたりの発生率は10.9〜14人,性差も男性:女性=1:3.2で諸外国と大差ない(R2J00024,RJ00483,RJ01470).橈骨遠位端骨折の発生率は加齢とともに増加し,70歳以上では若年に比べて男性で2倍,女性で17.7倍となるものの,80歳を超えたあたりがピークとなり,以後は減少に転じる(R2F00016,R2F00483,R2F00499,RJ00483).発生率の経年的な動向に関しては増加(R2F00483,R2F00543,RJ00483),不変(R2F00013),減少(R2F00016)と一貫性がみられず,本邦の調査でも発生率に経年的な増減は認められていない(R2J00024).②受傷機転立位からの転倒(低エネルギー骨折)が最多であり,原因の49 〜 77%を占める

(R2F00013,R2F00450,R2F00481).低エネルギー骨折は女性で有意に多く発生し,転落・交通事故などの高エネルギー骨折は男性に多い(R2F00499,R2F00481).本骨折の受傷場所は屋外,受傷時期は冬季が多いことも特徴である(R2F00013,R2J00024,RJ01470,RJ01535,R2F00481).なお,利き手・非利き手での発生に差はない(R2F00450).③骨折形態骨折の転位方向は背側が圧倒的に多く(R2F00013,R2F00481),AO分類では関節外骨折であるA型が54 〜 66%,部分関節内骨折であるB型が9〜 14%,完全関節内骨折であるC型が25 〜 32%を占める(R2F00013,R2F00450).年齢とともにA型とC型の発生率は増加し,受傷外力が強くなるほどC型が増えるが,B型の発生に年齢や受傷外力の影響はみられない(R2F00013,R2F00450).また,有意にA型は女性,B型は男性に多く発生する(R2F00481).

文 献 1) R2F00016 WilckeMK,etal.ActaOrthop2013;84:292 2) R2F00483 TsaiCH,etal.OsteoporosInt2011;22:2809 3) R2F00013 SigurdardottirK,etal.ActaOrthop2011;82:494 4) R2F00543 Mellstrand-NavarroC,etal.BoneJointJ2014;96-B:963 5) R2F00481 FlinkkiläT,etal.OsteoporosInt2011;22:2307 6) R2J00024 佐久間真由美ほか.OsteoporoJpn2012;20:245 7) RJ00483 萩野浩.整・災外1999;42:1021 8) RJ01470 SakumaM,etal.JBoneMineralMetab2008;26:373

1 橈骨遠位端骨折の発生状況は?Clinical Question

11Clinical Question 1

9) R2F00499 DiamantopoulosAP,etal.PLoSOne2012;7:e43367 10) R2F00450 KooOT,etal.OrthopSurg2013;5:209 11) RJ01535 菅原長弘ほか.山形病医誌2009;43:19

12 第1章 橈骨遠位端骨折の疫学

解 説

橈骨遠位端骨折の発生にかかわる危険因子としては高齢(R2F00477,R2F00679)や女性(R2F00679),低体重(R2F00477),BMI低値(R2F00477),独居(R2F00477),グルココルチコイドの使用歴(R2F00477),骨粗鬆症や骨量減少(R2F00106,R2F00477,R2F00568,R2F00475,R2F00679),氷晶雨や路面の凍結,低気温といった気象(R2F00498,R2F00481),中手骨における骨皮質の多孔性や橈骨遠位端部の骨微細構造の劣化(R2F00500,R2F00585,R2F00332),血清ビタミンD低値(R2F00126),片脚起立時間が15秒未満(R2F00475),骨芽細胞分化にかかわるRUNX2の11A対立遺伝子を保有(R2F00501),テストステロン低値(R2F00531)などが指摘されている(表1).なお,高エネルギー骨折の危険因子は男性(オッズ比7.01),田舎暮らし(オッズ比2.08),夏季(オッズ比2.38)と報告されている(R2F00499).また,本骨折では早期閉経(R2F00126,R2F00568),中手骨や𦙾骨遠位部における皮質骨の菲薄化(R2F00500,R2F00585)との関連も指摘され,男性においては都会暮らし(R2F00499),女性では骨折の既往(R2F00126,R2F00568)との関係もみられる.

2 橈骨遠位端骨折の発生にかかわる危険因子は?Clinical Question

表1 橈骨遠位端骨折発生の危険因子

危険因子 オッズ比またはハザード比高齢女性低体重BMI低値独居グルココルチコイドの使用歴骨粗鬆症や骨量減少の有病率氷晶雨や路面の凍結,低気温といった気象中手骨における骨皮質の多孔性や橈骨遠位端部の骨微細構造の劣化血清ビタミンD低値片脚起立時間15秒未満RUNX2の11A対立遺伝子の保有テストステロン低値

1.01 〜 1.023.770.990.951.57 *4.86 *1.73 〜 10.02 *1.24 〜 2.51.42 〜 2.98 *

1.7 〜 6.27 *5.11.7 〜 1.91.15 〜 2.07

*年齢やBMI,骨密度などの交絡因子を調整したあとのオッズ比またはハザード比

13Clinical Question 2

文 献 1) R2F00477 ØyenJ,etal.OsteoporosInt2010;21:1247 2) R2F00679 HarnessNG,etal.JHandSurgAm2012;37:1543 3) R2F00106 ØyenJ,etal.BMCMusculoskeletDisord2011;12:67 4) R2F00568 ØyenJ,etal.JBoneJointSurgAm2011;93:348 5) R2F00475 SakaiA,etal.OsteoporosInt2010;21:733 6) R2F00498 GiladiAM,etal.PlastReconstrSurg2014;133:321 7) R2F00481 FlinkkiläT,etal.OsteoporosInt2011;22:2307 8) R2F00500 DhainautA,etal.PLoSOne2013;8:e68405 9) R2F00585 RozentalTD,etal.JBoneJointSurgAm2013;95:633 10) R2F00332 ChristenD,etal.JBoneMinerRes2013;28:2601 11) R2F00126 ØyenJ,etal.Bone2011;48:1140 12) R2F00501 MorrisonNA,etal.PLoSOne2013;8:e72740 13) R2F00531 RistoO,etal.AgingMale2012;15:59 14) R2F00499 DiamantopoulosAP,etal.PLoSOne2012;7:e43367

14 第1章 橈骨遠位端骨折の疫学

解 説

橈骨遠位端骨折の70〜 90%は保存的に治療され,特に60歳以上に対しては有意に保存療法が選択されている(RJ01535,R2F00450,R2F00554).一方,手術療法が治療法全体に占める割合は20〜 30%になっており,この割合には経年的な増加がみられる(R2F00783,R2F00543,R2F00016,R2F00554,R2F00577).男女間で選択される治療法の差は非常に少ないものの,手術療法に女性が占める割合は男性よりも高い(男:女=1:2.7〜3.5)[R2F00783,R2F00543].手術療法が最も増加している世代は50 〜 74歳であり(特に60歳未満),2005 〜 2010年の間に41%も増加していた(R2F00543).近年,手術療法の内容にも劇的な変化がみられており,2006〜2008年でプレートによる観血的整復内固定(openreductionandinternalfixation:ORIF)が創外固定の2倍にまで増加し,この変化は女性で著しい(R2F00783).プレート増加・創外固定減少の傾向は各年代で等しく認められ(R2F00016),特に50 〜 74歳では2005 〜 2010年の間でプレート使用は4.4倍となり,創外固定の使用は77%も減少するなど顕著である(R2F00543).なお,経皮的鋼線固定の実施状況に変化はみられていない(R2F00783).治療法の選択は患者や実施者の状態に影響される.患者が高齢や男性,黒人,併存疾患を有する場合は有意にORIFが選択されず,社会経済上位者に対してはORIFが施行されやすい(R2F00577).その一方で,人種間では治療法の選択に差はないとする報告もある(R2F00554).術者の年齢は有意に手術療法の選択と関連しており,若い術者,特に40歳以下ほど創外固定や経皮的鋼線固定と比べてORIFを施行する傾向にある.このようにORIFを選択する割合は術者の年齢とともに直線的に減少する(R2F00715).米国手外科学会員に代表される手外科を専門とする医師はそれ以外の医師と比べて有意にORIFを施行し(約2.7 〜 2.8倍),それには地域や手外科の修練状況も大きく関与している(R2F00715,R2F00577,R2F00554,R2F00650).言い換えると一般整形外科医は手外科医よりも有意に保存療法を選択していることになる(オッズ比5.7)(R2F00554).

文 献 1) RJ01535 菅原長弘ほか.山形病医誌2009;43:19 2) R2F00450 KooOT,etal.OrthopSurg2013;5:209 3) R2F00554 ChungKC,etal.JBoneJointSurgAm2009;91:1868 4) R2F00783 MattilaVM,etal.JTrauma2011;71:939 5) R2F00543 Mellstrand-NavarroC,etal.BoneJointJ2014;96-B:963 6) R2F00016 WilckeMK,etal.ActaOrthop2013;84:292 7) R2F00577 ChungKC,etal.JBoneJointSurgAm2011;93:2154 8) R2F00715 WaljeeJF,etal.JHandSurgAm2014;39:844 9) R2F00650 ChungKC,etal.JHandSurgAm2011;36:1288

3 橈骨遠位端骨折に対して行われる治療法の傾向は?Clinical Question

15Clinical Question 4

解 説

橈骨遠位端骨折の受傷後1年以内に続発する大腿骨近位部骨折は人口1万人あたり84.6人にのぼり,非骨折群と比べると5.67倍の発生率になる.多変量解析でも橈骨遠位端骨折後に大腿骨近位部骨折が有意に発生すると報告されている(ハザード比3.45)(R2F00785).この大腿骨近位部骨折は橈骨遠位端骨折の受傷後1ヵ月以内での発生が最多となっており,ほかの主要な骨脆弱性骨折も橈骨遠位端骨折の受傷後10年以内に発生する危険性が有意に高くなっている(R2F00106).

文 献 1) R2F00785 ChenCW,etal.JTraumaAcuteCareSurg2013;74:317 2) R2F00106 ØyenJ,etal.BMCMusculoskeletDisord2011;12:67

4 橈骨遠位端骨折と他の骨脆弱性骨折の発生に 関連はあるか?

Clinical Question

2第

診  断

18 第2章 診 断 Clinical Question 1

解 説

橈骨遠位端骨折の骨折型の分類については,海外ではAO分類(図1,RJ01678),●Frykman分類,Melone分類,Cooney分類,Mayo分類,Fernandez分類などが頻用され,エビデンスの検討が行われている.いずれの分類法においても,検者間および同一検者内でのばらつきは比較的少なく,分類法による差は明らかではない.また,検者が経験のある整形外科医や手外科専門医であるほど,検者間および同一検者内の再現性は良好であった.国内ではAO分類に加えて斎藤分類が用いられることが多いが,その再現性について統計学的なエビデンスの報告はない.本ガイドライン作成のため過去17年間(1998 ~ 2014年)にわたって収集した文献5,325編のうち各分類法の使用頻度は,国内外でAO分類が最も多く,近年よく用いられている.次いでFrykman分類,斎藤分類であるが,ともに近年減少している.その他はMelone分類,Cooney分類,Mayo分類,Fernandez分類などがある.なお,治療に直結した分類法について検証した文献はない.

サイエンティフィックステートメント

観察論文(6)●● 橈骨遠位端骨折55例について,手関節単純X線正面・側面像を用いて,外傷医45名がAO分類,Frykman分類,Fernandez分類およびOlder分類に従って分類を行い,検者間および同一検者内での再現性について検討した.AO分類はほかと比較して再現性が高かった(RF01721 CCS).●● 橈骨遠位端骨折98例について,手関節単純X線正面・側面像を用いて,シニアレジデント3名がAO分類,Frykman分類,Fernandez分類に従って分類を行い,検者間および同一検者内での再現性について検討した.Fernandez分類はほかと比較して再現性が高かった(R2F00423 CCS).●● 橈骨遠位端骨折200例について,手関節単純X線正面・側面像を用いて,経験の異なる整形外科医6名が,Frykman分類,AO分類に従って分類を行い,検者間および同一検者内での再現性について検討した.Frykman分類はAO分類と比較して再現性が高かった(RF00626 CCS).●● 橈骨遠位端骨折55例について,手関節単純X線正面・側面・斜位像を用いて,手外科医2名と放射線科医2名がMayo分類,AO分類,Frykman分類,Melone分類を用いて分類を行い,検者間および同一検者内での再現性について検討した.Mayo分類は他と比較して再現性が高かったが,どの分類もfair(k係数0.21~ 0.4)からmoderate(k係数0.41 ~ 0.6)の再現性があった(RF00890 CCS).●● 橈骨遠位端骨折43例について,手関節単純X線正面・側面像を用いて,10年以上経験がある整形外科医5名がCooney分類,AO分類,Frykman分類を用いて分類

1 推奨できる骨折型分類はあるか?Clinical Question

19Clinical Question 1

を行い,検者間および同一検者内での再現性について検討した.Cooney分類はほかと比較して再現性が高かったが,どの分類もfair(k係数0.21 ~ 0.4)からmoder­ate(k係数0.41 ~ 0.6)の再現性があった(RF01163 CCS).●● 橈骨遠位端骨折30例の手関節単純X線正面・側面像を,経験の異なる整形外科医32名と非臨床医4名が,AO分類と関節面の転位の有無について判定を行い,検者間および同一検者内での再現性について検討した.経験のある整形外科医ほど再現性に優れていた(RF00757 CCS).

図1 橈骨遠位端骨折AO分類

A 関節外骨折

B 関節内部分骨折:骨折線は関節面にかかっているが骨幹端部や骨端部の連続性は保たれている

C 関節内完全骨折:骨折は関節面と骨幹端部にあり骨幹部と連続性が断たれている

A1 尺骨関節外骨折で橈骨骨折はないA2 橈骨関節外骨折で骨折線は単純A3 橈骨関節外骨折で骨折線は粉砕

B1 橈骨関節内部分骨折(sagittal)B2 橈骨関節内部分骨折(背側 Barton)B3 橈骨関節内部分骨折

(掌側 Barton, Smith 骨折 Thomas 分類Ⅱ型)

C1 橈骨関節内完全骨折で関節面および骨幹端部の骨折線は単純であるC2 橈骨関節内完全骨折で関節面の骨折線は単純だが骨幹端部の骨折線は粉砕しているC3 橈骨関節内完全骨折で関節面および骨幹端部の骨折線は粉砕している

A3A2A1

B3B2B1

C3C2C1

(堀内行雄:MB Orthop 2000;13(6):1-12;図5)

20 第2章 診 断 Clinical Question 2

文 献● 1)● RJ01678● 堀内行雄.MB●Orthop●2000;13:1● 2)● RF01721● Ploegmakers●JJ,●et●al.●Injury●2007;38:1268● 3)● R2F00423● Siripakarn●Y,●et●al.●J●Med●Assoc●Thai●2013;96:52● 4)● RF00626● Illarramendi●A,●et●al.●Int●Orthop●1998;22:111● 5)● RF00890● Andersen●DJ,●et●al.●J●Hand●Surg●Am●1996;21:574● 6)● RF01163● Jin●WJ,●et●al.●J●Hand●Surg●Eur●Vol●2007;32:509● 7)● RF00757● Kreder●HJ,●et●al.●J●Bone●Joint●Surg●Br●1996;78:726

21Clinical Question 2

解 説

単純X線計測値を求めるには,正しい手関節単純X線正面,側面像の2方向撮影を行う必要がある(図2).手関節正面像は,肩関節を90°外転し,肘関節を台と同じ高さで90°屈曲位にして,カセットを手掌下において背掌側方向に撮影する.側面像は,体幹に上腕をつけて肘関節を90°屈曲にして橈尺側方向に撮影する.このとき手関節が掌屈,背屈,橈尺屈しないように注意する(RF01441).骨折の転位の程度を評価する単純X線計測値として,橈骨遠位端掌側傾斜(pal­mar●tilt:PT),橈骨遠位端尺側傾斜(radial●inclination:RI),尺骨変異(ulnar●vari­ance:UV)がよく用いられ,健側値を基準とする場合が多い.PTは手関節側面像における橈骨骨軸への垂線と橈骨関節面とのなす角で表され(RF01441),volar●tiltやpalmar●angulationと呼ばれることもある.またマイナスの場合はdorsal● tiltと表現することがある.RIは手関節正面像における橈骨長軸への垂線と橈骨関節面とのなす角で表され(RF01441),radial● tiltと呼ばれることもある.UVは手関節正面像における橈骨尺側関節面と尺骨関節面の高さの差を表し,尺骨関節面のほうが高い(尺骨が長い)場合はulnar●plus●varianceと表す.なお,橈骨遠位端長(radial● length:RL)は手関節正面像において,橈骨長軸に垂直な線で橈骨茎状突起先端を通る線と尺骨関節面に引いた線との距離を表す.手関節健側の単純X線計測値の平均は,PTが平均8~15°,RIが平均23~27°,UVが平均+1 ~ 2●mmである.

サイエンティフィックステートメント

●● 健側単純X線計測値は,PTが平均14.5±4.3°(0~22°),RIが平均20°(16~28°),RLが平均11 ~ 12●mmであった(RF01441 review).

単純X線計測値の基準は?2Clinical Question

図2 手関節単純X線計測値

palmar tiltradialinclination

radial lengthulnar plusvariance

22 第2章 診 断 Clinical Question 3

観察論文(3)●● 橈骨遠位端骨折60例の健側単純X線計測値は,PTが平均11°(1~ 21°),RIが平均23°(13 ~ 30°),RLが平均13●mmであった(RF01722 CCS).●● 橈骨遠位端骨折54例の健側単純X線計測値は,PTが7.9±4.l°(0 ~ 15°),RIが26.6± 2.9°(20 ~ 30°),RLが13.2± 1.8●mm(8 ~ 18●mm)であった(RF00408●CCS).●● 橈骨遠位端骨折126例の健側単純X線計測値は,PTが13.9±4.7°(2 ~ 28°),RIが25.4±3.0°(11~33°),UVが+1.5±1.4●mm(−1~5●mm),RLが9.3±4.1●mm(3~ 15●mm)であった(RJ01055 case●series).

文 献● 1)● RF01441● Metz●VM,●et●al.●Orthop●Clin●North●Am●1993;24:217● 2)● RF01722● Gartland●JJ,●et●al.●J●Bone●Joint●Surg●Am●1951;33:895● 3)● RF00408● Smilovic●J,●et●al.●Croat●Med●J●2003;44:740● 4)● RJ01055● 南野光彦ほか.日手会誌2000;17:16

23Clinical Question 3

解 説

単純X線正面・側面像の2方向以外に,手関節斜位像,X線装置の管球を遠位に30°傾斜した正面像,管球を遠位に15°または22°傾斜した側面像は,関節内骨折の評価に有用である.手関節を75°掌屈し,橈骨遠位端背側骨皮質を接線方向から撮影する軸射像(skyline●view:スカイラインビュー)は,骨片の整復程度やスクリューの背側骨皮質突出を評価できる.

サイエンティフィックステートメント

観察論文(7)●● 橈骨遠位端関節内骨折15例に対して,手関節単純X線正面,側面,斜位像を用いて,橈骨関節面の関節面離開(gap)と関節面段差(step­off)を計測し,検者間および同一検者内での再現性について検討した.gapについてはCTが優れていたが,step­offについては,単純X線3方向とCTとで有意な差を認めなかった(RF00944●CCS).●● 手関節周辺骨折61例に対して,手関節単純X線正面,側面,斜位像とCTを行い,橈骨遠位端骨折の有無を検討した結果,単純X線はCTと同様に骨折の診断に有用であった(RF00092 case●series).●● 新鮮凍結上肢7肢,橈骨遠位端関節内骨折の骨折型モデル15種類を用いてX線学的検討を行った結果,手関節単純X線正面・側面像に,X線装置の管球を遠位に22°傾斜した側面像を加えることにより,月状骨窩の骨片の陥没程度をより正確に評価できた(RF00917 case●series).●● 解剖屍体50肢の橈骨遠位端関節面の解剖的,X線学的検討を行った.X線装置の管球を遠位に30°傾斜した正面像は橈骨掌背側縁を明瞭に描出し,月状骨窩関節面の背尺側骨片(die­punch骨片)の評価に役立ち,管球を遠位に15°傾斜した側面像は橈骨関節面や掌背側縁を明瞭に描出することができた(RF00889 case●series).●● 手術を行った橈骨遠位端骨折30例で,X線装置の管球を遠位に15°傾斜した側面像は通常の側面像より橈骨関節面や掌背側縁および関節内骨折の評価に優れていた(RJ01233 CCS).●● 橈骨遠位端関節内骨折189例に対して,通常の側面像とX線装置の管球を遠位に15°傾斜した側面像において2名の検者が4回ずつ橈骨遠位端掌側傾斜を測定した.遠位に15°傾斜した側面像の方が,橈骨関節面と手根骨やプレートの遠位スクリューと重ならないため検者間信頼性が高かった(R2F00220 CCS).●● スクリューを刺入した骨モデルを用いて,手関節を75°掌屈し背側骨皮質を接線方向から撮影するskyline●viewと通常の側面撮影,回内斜位撮影とでスクリューの背側骨皮質突出の検出率を比較した.skyline●viewは回内斜位撮影,側面撮影よりスクリューの背側骨皮質突出を検出するのに優れていた(R2F00740 CCS).

単純X線正面・側面像の2方向以外にどのような 撮影方法が有用か?3

Clinical Question

24 第2章 診 断 Clinical Question 4

文 献● 1)● RF00944● Katz●MA,●et●al.●J●Hand●Surg●Am●2001;26:415● 2)● RF00092● Welling●RD,●et●al.●AJR●Am●J●Roentgenol●2008;190:10● 3)● RF00917● Lundy●DW,●et●al.●J●Hand●Surg●Am●1999;24:249● 4)● RF00889● Mekhail●AO,●et●al.●J●Hand●Surg●Am●1996;21:567● 5)● RJ01233● 森田晃造ほか.日手会誌2006;23:854● 6)● R2F00220● Rajabi●B,●et●al.●Hand●Surg●2011;16:259● 7)● R2F00740● Riddick●A●P,●et●al.●J●Hand●Surg●Eur●Vol●2012;37:407

25Clinical Question 4

解 説

CTは関節内骨折に対する診断や治療方法の選択に有用で,再現性に優れている.特に冠状断像や矢状断像が有用で,さらに3D­CTを加えることでより正確で詳細な関節内骨折の評価が行える.ただし,CT検査による放射線被曝のリスクよりも,得られる情報の有益性が勝ると医師が判断した場合に行うべきである.

サイエンティフィックステートメント

観察論文(5)●● 橈骨遠位端関節内骨折117例について,整復後に単純X線のみの場合とCTを追加した場合とで骨折評価[関節面段差(step­off)や関節面離開(gap),関節面中央の陥没骨折の有無,3つ以上の粉砕骨片の有無]が変わるかを検討した.CTを併用することで,より正確な骨折評価が得られた(R2F00564 case●series).●● 橈骨遠位端関節内骨折15例について,手関節単純X線正面・側面・斜位像を用いて,橈骨関節面のgapやstep­offの計測と治療法の選択を行い,さらに2~ 4週間後,単純X線像にCT(水平断,矢状断,冠状断)を加えて同様の計測と検討を行った.CTは単純X線像と比較して優れた再現性があり,CTを加えたことで再現性が高くなった(RF00944 cohort●study).●● 橈骨遠位端骨折が疑われた22例について,まず手関節単純X線正面・側面・斜位像で骨折の有無を検討し,その後CTで骨折の有無を検討した.CTは単純X線像で骨折を認めた16例に加え,さらに3例の骨折を認めた(RF00871 case●series).●● 橈骨遠位端関節内骨折30例について,まず手関節単純X線正面・側面像と2D­CT(冠状断,矢状断)を用いて,冠状面における骨折線の有無,橈骨関節面中央部の関節内骨片の陥没の有無,粉砕の程度の評価と治療法を選択し,2週間後に単純X線像と3D­CTで,4週間後に単純X線像と2D­CTと3D­CTで同様の評価を行った.3D­CTは関節内骨折の評価の再現性が高く,2D­CTは3D­CTを組み合わせることにより再現性が高められた(RF00727 cohort●study).●● 手関節単純X線正面・側面像で,橈骨手根関節面に骨折が認められた橈骨遠位端骨折121例について,単純X線像とCTを用いて,橈骨尺側切痕(sigmoid●notch)に骨折があるかを比較検討した.検出率は,単純X線が66.9%,CTが81.9%でCT

関節内骨折の診断にCTは有用か?4Clinical Question

推奨文

関節内骨折の診断にCTは有用であり強く推奨する.推奨の強さ エビデンス総体の総括1(強い) B(中)

26 第2章 診 断 Clinical Question 5

が優れていた.CTと比較して,単純X線の感度は74.7%,特異度は68.2%,陽性予測率は91.4%,陰性予測率は37.5%,偽陽性率は31.8%,偽陰性率は25.3%であった(R2F00172 case●series).

文 献● 1)● R2F00564● Arora●S,●et●al.●J●Bone●Joint●Surg●Am●2010;92:2523● 2)● RF00944● Katz●MA,●et●al.●J●Hand●Surg●Am●2001;26:415● 3)● RF00871● Johnston●GH,●et●al.●J●Hand●Surg●Am●1992;17:738● 4)● RF00727● Harness●NG,●et●al.●J●Bone●Joint●Surg●Am●2006;88:1315● 5)● R2F00172● Heo●YM,●et●al.●Clin●Orthop●Surg●2012;4:83

27Clinical Question 5

解 説

臨床的に骨折が疑われ,単純X線像で明らかな骨折線を認めない不顕性骨折の診断に,MRIは有用である.

サイエンティフィックステートメント

観察論文(2)●● 臨床的に新鮮手関節周辺骨折が疑われ,単純X線正面・側面像で明らかな骨折線を認めない56例に対してMRI検査を行った結果,橈骨遠位端骨折を11例(19.6%)に,舟状骨骨折を7例に,それ以外の骨折を2例に認めた(RF01718 case●series).●● 臨床的に手関節部骨折が疑われ,単純X線像で明らかな骨折線を認めない125例に対してMRI検査を行った結果,骨折を78例に認め,うち橈骨遠位端骨折は42例(33.6%)に認めた(RF01719 case●series).

文 献● 1)● RF01718● Mack●MG,●et●al.●Eur●Radiol●2003;13:612● 2)● RF01719● Pierre­Jerome●C,●et●al.●Emerg●Radiol●2010;17:179

不顕性骨折の診断に有用な検査法は?5Clinical Question

28 第2章 診 断 Clinical Question 7

解 説

橈骨遠位端骨折における三角線維軟骨複合体(triangular●fibrocartilage●com­plex:TFCC)損傷の診断には,手関節鏡,MRI,手関節造影などが用いられている.各検査方法におけるTFCCの合併率は,手関節鏡では42.0 ~ 73.1%,MRIでは45.0%,手関節造影では13.6%と検査法により異なる.なお,TFCC損傷による遠位橈尺関節(distal●radioulnar● joint:DRUJ)不安定性を評価する方法として,徒手的なDRUJ●ballottement●testが知られているが,橈骨遠位端骨折に伴う場合,橈骨骨折自体の安定性に大きく影響を受けるため,橈骨の内固定後に行われている.しかし,検者の主観や経験に大きく依存し,客観的評価は困難という問題点がある.

サイエンティフィックステートメント

観察論文(6)●● 手術療法を行った橈骨遠位端骨折154例169手(32手が関節内骨折)について,手関節鏡で外傷性TFCC損傷を71手(42.0%)に認めた(RJ01163 case●series).●● 手術療法を行った橈骨遠位端骨折118例(関節内骨折88例,関節外骨折30例)について,手関節鏡でTFCC損傷54例(45.8%)を認めた(RF00898 case●series).●● 鏡視下手術を行った橈骨遠位端骨折264手において,TFCC損傷は162手(61.4%)に認め,外傷性断裂は106手(40.2%)であった(R2J00407 case●series).●● 橈骨遠位端骨折89例(AO分類A2:4例,A3:10例,C1:2例,C2:24例,C3:49●例)について手関節鏡を行い,TFCC損傷(59%),舟状月状骨靱帯損傷(54.5%),月状三角骨靱帯損傷(34.5%)を認めた.骨折型との統計学的関連は認めなかった(R2F00829 case●series).●● 橈骨遠位端関節内骨折60例についてMRIを行い,TFCC損傷27例(45.0%)を認めた(RF01168 case●series).●● 橈骨遠位端関節内骨折22例について,手関節造影と手関節鏡を行った.橈骨手根関節の手関節造影で3例(13.6%)の遠位橈尺関節への漏出像を認め,手関節鏡ではさらに1例を含む4例の関節円板(articular●disc)断裂を認めた(RF00638 case●series).

文 献● 1)● RJ01163● 河野正明ほか.日手会誌2005;22:14● 2)● RF00898● Richards●RS,●et●al.●J●Hand●Surg●Am●1997;22:772● 3)● R2J00407● 安部幸雄.整・災外●2014;57:165● 4)● R2F00829● Ogawa●T,●et●al.●BMC●Sports●Sci●Med●Rehabil●2013;5:19● 5)● RF01168● Bombaci●H,●et●al.●J●Hand●Surg●Eur●Vol●2008;33:322● 6)● RF00638● Grechenig●W,●et●al.●Invest●Radiol●1998;33:273

TFCC損傷の合併率とその診断方法は?6Clinical Question

29Clinical Question 7

解 説

橈骨遠位端骨折における舟状月状骨(scapholunate:SL)靱帯損傷の診断には,単純X線正面像での健側との比較,手関節鏡,MRI,手関節造影などが用いられている.各検査方法におけるSL靱帯損傷の合併率は,単純X線像では4.7 ~ 41.1%,手関節鏡では26.3 ~ 54.5%,MRIで6.7 ~ 28.9%,関節造影では36.4%である.なお,単純X線正面像によるSL靱帯損傷の診断については,SL間距離を3●mm以上とすることが多いが,個人差があるため,健側との比較も重要である.

サイエンティフィックステートメント

観察論文(9)●● 橈骨遠位端骨折95例で,単純X線正面像でSL間距離が2●mmを超え,SL靱帯損傷と診断した症例は39例(41.1%)であった(RF00019 case●series).●● 保存療法を行った橈骨遠位端骨折424例429手で,SL靱帯損傷の臨床症状があり,単純X線正面像でSL間距離が3●mm以上で,SL靱帯損傷と診断した症例は20手(4.7%)であった(RF00891 cohort●study).●● 839例の橈骨遠位端骨折のうち,受傷当初のX線写真にて舟状月状骨解離を認めたものは215例(25.6%)であった(R2F00850 case●series).●● 手術療法を行った橈骨遠位端骨折118例(関節内骨折88例,関節外骨折30例)について,手関節鏡でSL靱帯損傷は31例(26.3%)に認めた(RF00898 case●series).●● 橈骨遠位端骨折に合併する手根骨間の靱帯損傷を手関節鏡視下に評価した.SL靱帯損傷の合併率は264関節中91関節(34.5%)であった(R2J00407 case●series).●● 橈骨遠位端骨折89例(AO分類A2:4例,A3:10例,C1:2例,C2:24例,C3:49●例)について手関節鏡を行い,TFCC損傷(59%),SL靱帯損傷(54.5%),月状三角骨靱帯損傷(34.5%)を認めた.骨折型との統計学的関連は認めなかった(R2F00829●case●series).●● 橈骨遠位端関節内骨折60例についてMRIを行い,SL靱帯損傷4例(6.7%)を認めた(RF01168 case●series).●● 橈骨遠位端骨折21例についてMRIを行い,SL靱帯損傷6例(28.9%)を認めた(RF01743 case●series).●● 橈骨遠位端関節内骨折22例について,手関節造影と手関節鏡を行った.橈骨手根関節の手関節造影で8例(36.4%)のSL間から手根中央関節への漏出像を認めたが,手関節鏡では1例(偽陽性)を除く7例(31.8%)でSL靱帯損傷を認めた(RF00638●case●series).

舟状月状骨靱帯損傷の合併率とその診断方法は?7Clinical Question

30 第2章 診 断 Clinical Question 8

文 献● 1)● RF00019● Laulan●J,●et●al.●Acta●Orthop●Belg●1999;65:418● 2)● RF00891● Tang●JB,●et●al.●J●Hand●Surg●Am●1996;21:583● 3)● R2F00850● Gunal●I,●et●al.●Eur●J●Orthop●Surg●Traumatol●2013;23:877● 4)● RF00898● Richards●RS,●et●al.●J●Hand●Surg●Am●1997;22:772● 5)● R2J00407● 安部幸雄.整・災外●2014;57:165● 6)● R2F00829● Ogawa●T,●et●al.●BMC●Sports●Sci●Med●Rehabil●2013;5:19● 7)● RF01168● Bombaci●H,●et●al.●J●Hand●Surg●Eur●Vol●2008;33:322● 8)● RF01743● Spence●LD,●et●al.●Skeletal●Radiol●1998;27:244● 9)● RF00638● Grechenig●W,●et●al.●Invest●Radiol●1998;33:273

31Clinical Question 8

解 説

橈骨遠位端骨折における尺骨茎状突起骨折の合併率は51.8 ~ 65.9%である.

サイエンティフィックステートメント

観察論文(4)●● 橈骨遠位端骨折160例166骨折で尺骨茎状突起骨折86骨折(51.8%)の合併を認めた.内訳は茎状突起長の25%未満が4骨折,25~ 49%が21骨折,50~ 74%が16骨折,75 ~ 99%が10骨折,100%以上(茎状突起から骨頭にかけての骨折)が35骨折であった(RF00963 case●series).●● 保存療法を行った橈骨遠位端骨折126例で尺骨茎状突起骨折83例(65.9%)の合併を認めた(RJ01055 case●series).●● 橈骨遠位端骨折50例で尺骨茎状突起骨折27例(54.0%)の合併を認めた(RF01087●case●series).●● 掌側ロッキングプレート固定を行った橈骨遠位端骨折118例において尺骨茎状突起骨折68例(58%)の合併を認めた(R2F00948 CCS).

文 献● 1)● RF00963● May●MM,●et●al.●J●Hand●Surg●Am●2002;27:965● 2)● RJ01055● 南野光彦ほか.日手会誌2000;17:16● 3)● RF01087● Lindau●T,●et●al.●J●Hand●Surg●Br●1997;22:638● 4)● R2F00948● Zenke●Y,●et●al.●J●Bone●Joint●Surg●Br●2009;91:102

尺骨茎状突起骨折の合併率は?8Clinical Question

3第

治  療

34 第3章 治 療 3.1.治療総論

解 説

橈骨遠位端骨折では,関節外骨折と関節内骨折とでは病態,治療成績が大きく異なることからこれらを分けて考える.また,高齢者は背景に骨粗鬆症があること,活動性が低いため変形が残存しても機能障害が比較的生じにくいことから高齢者と青壮年者を分けて考える.

青壮年における治療法について述べる.成人における手術療法と保存療法の比較研究では,最終経過観察時のX線評価は手術療法が優れており,機能評価は両者に有意差はないとする高いエビデンスの文献がある.一方,近年の内固定材料の進歩により,特に早期機能回復の点で手術療法は有用であるとする高いエビデンスの文献がある.また低いエビデンスではあるが,高度な変形が残存すると握力の低下,可動域制限,疼痛などの臨床症状が残存する可能性を指摘する文献もある.以上より,活動性の高い青壮年において手術療法は有用であると考えられ,推奨度を2とした.

高齢者における報告では,変形が残存しても患者の主観的評価は良好で,手術療法と保存療法で臨床成績に有意差はないとする高いエビデンスの文献がある.また,高齢者の不安定型骨折に対する掌側ロッキングプレートと保存療法の比較でも臨床成績に有意差はない.よって高齢者における手術療法は保存療法より必ずしも有用であるとはいえない.ただし年齢のみで判断するのではなく,高齢者でも活動性の高さや社会的背景,健康状態,早期の機能回復の有利性に配慮して,手術療法が有用と考えられる場合には青壮年と同様に手術を考慮してもよい.

サイエンティフィックステートメント

介入論文(6) ● 高齢者(60歳以上)の不安定型橈骨遠位端骨折に対するギプス固定,掌側ロッキングプレート固定,non-bridging創外固定,bridging創外固定および経皮的鋼線固定

1 関節外骨折に対して手術療法は 保存療法より有用か?

Clinical Question

推奨文

青壮年者および活動性の高い高齢者の不安定型関節外骨折*に対して手術療法は保存療法より有用である.

(*不安定型骨折の定義についてはp.5「前文 6.注意事項 1)不安定型骨折の定義」を参照)

推奨の強さ エビデンス総体の総括2(弱い) C(弱)

3.1.治療総論

353.1.治療総論

に関するsystematic reviewを行った.ギプス固定は手術療法よりもX線評価で劣るものの,機能的には有意差がなかった.また,合併症はギプス固定が最も少なく,掌側ロッキングプレート固定は再手術を要する重大合併症が多かった(R2F00642 review).

● 成人(平均60歳)の背側転位型関節外骨折に対するbridging創外固定59例とギプス固定66例の治療成績を,平均経過観察期間8年の無作為化比較試験で検討した.X線像上の整復位の保持については創外固定の方が有意に良好であったが,機能評価(Gartland and Werleyの評価,握力,関節可動域)に有意差はなかった

(RF01127 RCT). ● 成人(平均53歳)の関節外骨折において,ギプス固定59例と創外固定54例を比較した.術後2年の最終経過観察時の機能評価で有意差はなく,X線評価では創外固定が良好な傾向を示したが有意差はなかった(RF01284 RCT).

● 成人(平均60歳)の関節外骨折に対して,徒手整復・ギプス固定による保存療法50例と経皮的鋼線固定48例を比較検討した.術後1年の最終経過観察時で両者の機能評価に有意差はなかった.X線評価(側方偏位,橈骨短縮)では,経皮的鋼線固定が有意に優れていた(RF01101 RCT).

● 成人不安定型関節外骨折に対する経皮的鋼線固定29例と掌側ロッキングプレート固定27例を術後6週,3,6 ヵ月で比較した.術後3,6 ヵ月の機能評価[DASH(dis-abilities of the arm, shoulder and hand)スコア,Gartland and Werleyの評価]において掌側ロッキングプレート固定は経皮的鋼線固定よりも有意に良好であり,X線評価もすべての経過中で有意に良好であった(R2F00250 RCT).

● 60歳以上の骨脆弱性橈骨遠位端関節外骨折40例に対して,ギプス固定または創外固定を無作為に割り付け,その治療成績を比較した.X線評価は創外固定群で有意に良好であったが,患者立脚型評価[SF-36(36-Item Short-Form Health Survey),Horesh Demerit Point System]は2群間で有意差はなかった(RF01611 RCT).観察論文(2)

● 青壮年者(65歳未満)216例の橈骨遠位端関節外骨折について前向きに調査した.尺骨変異(ulnar variance:UV)が3 mm以上の群では3 mm未満の群より患者立脚型評価[PRWE(Patient-Rated Wrist Evaluation),DASHスコア]において有意に不良であった.橈骨遠位端尺側傾斜(radial inclination:RI)が15°未満の群は15°以上の群よりPRWEが高かった.遺残変形を許容範囲群と非許容範囲群に分類し比較した結果,患者立脚型評価(PRWE,DASHスコア)において非許容範囲群は有意に不良であった(RF01040 cohort study).

● 高齢者(70歳以上)のAO分類AおよびC橈骨遠位端骨折において,ギプス固定61例と掌側ロッキングプレート固定53例の比較を行った.関節外骨折における両者のX線評価では掌側ロッキングプレート固定が有意に良好であったが,最終経過観察時の関節可動域,握力,DASHスコア,PRWE,Green and O’ Brienの評価で2群間に有意差はなかった.疼痛(visual analogue scale:VAS)はギプス固定が有意に低値であった(RC00291 CCS).

36 第3章 治 療 3.1.治療総論

文 献 1) R2F00642 Diaz-Garcia RJ, et al. J Hand Surg Am 2011;36:824 2) RF01127 Young CF, et al. J Hand Surg Br 2003;28:422 3) RF01284 Kreder HJ, et al. J Orthop Trauma 2006;20:115 4) RF01101 Stoffelen DV, et al. J Hand Surg Br 1999;24:89 5) R2F00250 McFadyen I, et al. Injury 2011;42:162 6) RF01611 Moroni A, et al. Scand J Surg 2004;93:64 7) RF01040 Grewal R, et al. J Hand Surg Am 2007;32:962 8) RC00291 Arora R, et al. J Orthop Trauma 2009;23:237

373.1.治療総論

解 説

青壮年者の関節内骨折においては,掌側ロッキングプレートが保存療法より優れていたという高いエビデンスがあること,関節内に2 mm以上の関節面段差

(step-off)がある場合は変形性関節症を発生する可能性が高いことから,手術療法が推奨される.また,高齢者においても低いエビデンスではあるが,手術療法が保存療法より優れているという報告があること,成人の比較研究においても同様の結果であることより,手術療法を考慮してもよいと考えられ,推奨度を2とした.ただし,CQ3-1-1と同様に,個人の活動性や社会的背景,健康状態などを総合的に考慮して治療法を選択する必要がある.

サイエンティフィックステートメント

介入論文(1) ● 青壮年の橈骨遠位端関節内(AO分類BまたはC)骨折に対して掌側ロッキングプレート32例と保存療法32例を比較した.術後6週,最終経過観察時の握力,可動域において掌側ロッキングプレート固定が有意に良好であった.最終経過観察時のDASH(disabilities of the arm, shoulder and hand)スコア,Green and O’ Brienの評価ともに掌側ロッキングプレート固定のほうが有意に良好で,X線評価[橈骨遠位端尺側傾斜(radial inclination:RI),橈骨遠位端掌側傾斜(palmar tilt:PT),橈骨遠位端長(radial length:RL)]においても有意に良好であった(R2F00356 RCT).観察論文(4)

● 青壮年者(50歳未満)の橈骨遠位端骨折169例を受傷後18 ヵ月以上で評価した.受傷後平均4.9年において,step-offの残存は手関節可動域制限と巧緻運動障害に関連していた.関節面離開(gap)の残存は予後に影響がなかった(RF01112 case series).

● 高齢者(55歳以上)の転位のある関節内骨折に対して,徒手整復・ギプス固定23例と経皮的鋼線固定23例の治療成績を比較検討した.経皮的鋼線固定は徒手整復・ギプス固定よりもSarmientoにより修正されたGartland and Werleyの評価,X線評価(PT,RI,RL)で有意に優れていた(RF00553 CCS).

● 成人(平均64歳)のAO分類A3,C1,C2橈骨遠位端骨折に対して髄内釘50例,

関節内骨折に対して手術療法は 保存療法より有用か?2

Clinical Question

推奨文

転位のある関節内骨折に対して手術療法は保存療法より有用である.推奨の強さ エビデンス総体の総括2(弱い) C(弱)

38 第3章 治 療 3.1.治療総論

掌側ロッキングプレート40例,保存療法46例の治療成績を比較検討した.Mayo Wrist Scoreにおいて髄内釘固定および掌側ロッキングプレート固定は有意差がなかったが,保存療法は有意に劣っていた(R2J00706 CCS).

● 高齢者(75歳以上)のAO分類AおよびC橈骨遠位端骨折に対する掌側ロッキングプレート固定の利点と問題点を保存療法と比較し検討した.最終経過観察時のDASH(disabilities of the arm, shoulder and hand)スコア,Mayo Wrist Scoreに差はなかった.まず徒手整復・外固定の保存療法を試み,そのなかで骨折型や個人の活動性などを総合的に考慮したうえで手術適応を明確にするべきである

(R2J00192 CCS).

文 献 1) R2F00356 Sharma H, et al. J Orthop Sci 2014;19:537 2) RF01112 Gliatis JD, et al. J Hand Surg Br 2000;25:535 3) RF00553 Board T, et al. Injury 1999;30:663 4) R2J00706 黒田司.日手会誌2012;29:62 5) R2J00192 児玉成人ほか.日手会誌2013;30:5

393.1.治療総論

解 説

青壮年者の不安定型骨折で高度な変形が残存した場合,低いエビデンスではあるが,握力の低下,可動域制限,疼痛などの臨床症状が残存するという報告がある.よって青壮年で徒手整復後の残存変形が高度な場合には,手術療法による解剖学的整復位の再獲得が望ましい.

一方,高齢者においては,変形が残存しても患者の主観的評価は良好であるとする低いエビデンスの文献がある.また,不安定型骨折に対する掌側ロッキングプレートと保存療法の比較においても臨床成績に有意差がない.以上より,高齢者における残存変形の許容範囲は青壮年の基準値よりも大きい.

全年齢の患者において,徒手整復後の残存変形が許容されるか否かは,活動性や健康状態なども考慮したうえで総合的に判断する必要がある.

サイエンティフィックステートメント

観察論文(9) ● 成人(平均54歳)の背屈転位型橈骨遠位端関節外骨折に対する保存療法54例のX線評価および機能評価を検討した.X線評価と機能評価に有意な相関があった.許容範囲のX線指標は,橈骨遠位端背側傾斜(dorsal tilt:DT)は10 未゚満,橈骨遠位端尺側傾斜(radial inclination:RI)の損失は3 以゚下,橈骨短縮は2 mm以下であった(RF00408 case series).

● 青壮年者(65歳未満)216例の橈骨遠位端関節外骨折について前向きに調査した.尺骨変異(ulnar variance:UV)が3 mm以上の群では3 mm未満の群より患者立脚型評価[PRWE(Patient-Rated Wrist Evaluation),DASH(disabilities of the arm, shoulder and hand)スコア]において有意に不良であった.RIが15°未満の群は15°以上の群よりPRWEが高かった.変形が許容範囲群と非許容範囲群に分類し比較した結果,患者立脚型評価(PRWE,DASHスコア)において非許容範囲群は有意に不良であった(RF01040 cohort study).

● 青壮年者(50歳未満)の橈骨遠位端骨折169例を受傷後18 ヵ月以上,平均経過観察

関節外骨折における徒手整復後の 残存変形は許容できるか?3

Clinical Question

推奨文

青壮年者では徒手整復・ギプス固定後のpalmar tiltは−10°未満かつulnar plus vari anceは健側と比較し2 mm以下の差異であればほぼ許容される.

高齢者では許容される値は青壮年の基準値より大きい.推奨の強さ エビデンス総体の総括2(弱い) C(弱)

40 第3章 治 療 3.1.治療総論

期間4.9年で評価した.橈骨遠位端掌側傾斜(palmar tilt:PT)が−10°以上の症例では日常生活動作,就労,手関節外観に影響があった.RIは影響がなかった.UVは治療成績に影響を及ぼさなかったが,外観においては有意差を認めた(RF01112 case series).

● 高齢者(50歳以上)の橈骨遠位端骨折に対する保存療法74例において,X線評価とDASHスコアの相関性について検討した.X線評価(UV,PT,RI)における骨折整復の許容性とDASHスコアは相関しなかった(RF00379 case series).

● 高齢者(50歳以上)の橈骨遠位端骨折に対するギプス固定74例について,整復許容群(DT<10°,PT<20°)47例と,非許容群(DT>10°,PT>20°)27例に分類し臨床成績を比較した.SF-12(12-Item Short-Form Health Survey),DASHスコア,患者満足度で両群に有意差はなかった(RF00981 CCS).

● 高齢者(70歳以上)のAO分類AおよびC橈骨遠位端骨折において,ギプス固定61例と掌側ロッキングプレート固定53例の比較を行った.関節外骨折における両者のX線評価では掌側ロッキングプレート固定が有意に良好であったが,最終経過観察時の関節可動域,握力,DASHスコア,PRWE,Green and O’ Brienの評価で2群間に有意差はなかった.疼痛(visual analogue scale:VAS)はギプス固定が有意に低値であった(RC00291 CCS).

● 成人(平均62歳)のAO分類AおよびC橈骨遠位端骨折の保存療法260例において,X線評価の転位の程度と臨床成績の相関を検討した.X線評価(UV,PT,RI)における転位の残存の程度は,長期の臨床成績にほとんど影響を及ぼさなかった

(R2F00748 case series). ● 成人(平均 65 歳)の橈骨遠位端関節外骨折に対する保存療法 385 例において,QuickDASHスコアとX線評価が相関するかどうかを検討した結果,有意な相関はなかった(R2F00752 case series).

● 成人(平均50歳)の橈骨遠位端骨折手術患者50例,平均経過観察期間2.4年でSF-36(36-Item Short-Form Health Survey)を用いて評価しX線評価との関連を調査した.X線評価(RI,PT,UV)における転位の残存の程度とSF-36に有意な相関はなかった(RF00344 case series).

文 献 1) RF00408 Smilovic J, et al. Croat Med J 2003;44:740 2) RF01040 Grewal R, et al. J Hand Surg Am 2007;32:962 3) RF01112 Gliatis JD, et al. J Hand Surg Br 2000;25:535 4) RF00379 Jaremko JL, et al. Clin Radiol 2007;62:65 5) RF00981 Anzarut A, et al. J Hand Surg Am 2004;29:1121 6) RC00291 Arora R, et al. J Orthop Trauma 2009;23:237 7) R2F00748 Finsen V, et al. J Hand Surg Eur Vol 2013;38:116 8) R2F00752 Bentohami A, et al. J Hand Surg Eur Vol 2013;38:524 9) RF00344 Fernandez JJ, et al. Clin Orthop Relat Res 1997;341:36

413.1.治療総論

解 説

X線評価で関節内に2 mm以上の関節面段差(step-off)の残存は,X線像上の変形性関節症の発生に関連するという高いエビデンスがあり,手術療法による解剖学的整復位の再獲得が望ましい.関節面離開(gap)と関節症の発生については関連したという報告と関連しなかったという報告があり,いずれも観察研究のみでエビデンスは低く,許容範囲について明確に結論はできない.

一方,X線像上の変形性関節症の発生と臨床症状の発症の明らかな相関性はないというエビデンスもあるため,関節面の転位の残存が臨床症状に影響する可能性は限定的であることに留意する必要がある.特に活動性の低い高齢者では臨床症状が発症しない可能性が高く,許容範囲は青壮年の基準値より大きい.

サイエンティフィックステートメント

観察論文(8) ● step-offと外傷後関節症に関するエビデンスを評価した.橈骨遠位端骨折において2 mm以上のstep-offは早期の外傷後関節症の発生と強い相関を示した.一方,外傷後5年以内では画像上の関節症は臨床症状に明確には関連しなかった(R2F00883 review).

● 成人で2 mm以上の転位のある橈骨遠位端関節内骨折についてギプス固定33例と観血的手術(創外固定またはノンロッキングプレート固定,経皮的鋼線固定)57例を比較した.Sarmientoにより修正されたGartland and Werleyの評価,X線評価ともに観血的手術群はギプス固定群よりも優れていた(RF00558 CCS).

● 成人(平均50歳)の橈骨遠位端骨折手術患者50例,平均経過観察期間2.4年でSF-36(36-Item Short-Form Health Survey)を用いて評価しX線評価との関連を調査した.X線評価における1 mm以上の転位の残存は,SF-36の低値と関節症の発生に有意に関連していた(RF00344 case series).

● 青壮年者(50歳未満)の橈骨遠位端関節内骨折76例を平均経過観察期間4.9年で評価した.step-offの残存は手関節可動域制限と巧緻運動の困難さに関連していたが,step-offの程度と予後は相関していなかった.gapの残存が2 mm以下,2 ~

関節内骨折における徒手整復後の 残存変形は許容できるか?4

Clinical Question

推奨文

青壮年者ではX線評価で2 mm未満のgap,step-offの残存は許容される.高齢者では関節面の残存変形の許容範囲は青壮年の基準値より大きい.推奨の強さ エビデンス総体の総括2(弱い) C(弱)

42 第3章 治 療 3.1.治療総論

4 mm,4 mm以上の3群に分類して検討した結果,gapの大きさはいずれの臨床評価にも影響しなかった(RF01112 case series).

● 成人(平均62歳)のAO分類AおよびC橈骨遠位端骨折における保存療法260例において,X線上の転位の程度と臨床成績の相関を検討した.gap,step-offの転位の残存の程度は長期的な臨床成績にほとんど影響を及ぼさなかった(R2F00748 case series).

● 青壮年者(40歳以下)の橈骨遠位端骨折106例について,受傷後平均38年でX線評価および機能評価を行い検討した.関節内骨折の68%に関節症の進行を認めたが DASHスコアは同年代の健常者に比べて差がなく,患者立脚型評価(Patient Eval-uation Measure)の低下は10%以下であった.関節内骨折の整復が不十分であっても長期間で症状を有する変形性関節症を生じるとは限らない(RF00793 case series).

● 成人での橈骨遠位端関節内骨折に対して掌側ロッキングプレート固定を行った93例について調査した.1 mm以上の関節面転位の残存は,術後3 ヵ月では有意にミシガン手の質問票(Michigan Hand Outcomes Questionnaire)に影響を及ぼしていたが,術後1年で差はなくなり,臨床成績は年齢と収入だけに影響されていた

(RF01027 CCS). ● 高齢者(50歳以上)の橈骨遠位端骨折における保存療法74例について,転位の残存とDASH(disabilities of the arm, shoulder and hand)スコアとの関連性について調査した.関節面に1 mm以上のgapやstep-offが残存してもDASHスコアに影響はなかった(RF00379 cohort study).

文 献 1) R2F00883 Giannoudis P V, et al. Injury 2010;41:986 2) RF00558 Kapoor H, et al. Injury 2000;31:75 3) RF00344 Fernandez JJ, et al. Clin Orthop Relat Res 1997;341:36 4) RF01112 Gliatis JD, et al. J Hand Surg Br 2000;25:535 5) R2F00748 Finsen V, et al. J Hand Surg Eur Vol 2013;38:116 6) RF00793 Forward DP, et al. J Bone Joint Surg Br 2008;90:629 7) RF01027 Chung KC, et al. J Hand Surg Am 2007;32:76 8) RF00379 Jaremko JL, et al. Clin Radiol 2007;62:65

433.1.治療総論

解 説

橈骨遠位端骨折の合併症(合併損傷を除く)として様々な病態が報告されている.そのほとんどは症例報告で,頻度についての疫学的な報告は少ない 1 ~ 4).

過去の報告に記載された橈骨遠位端骨折の合併症とその頻度は以下のごとくである.

手根管症候群・正中神経障害:0 ~ 22% 1 ~ 12)

変形性手関節症・変形性遠位橈尺関節症:7 ~ 65% 2, 4, 13, 14)

長母指伸筋(EPL)腱皮下断裂:0.8 ~ 4.9% 1, 4, 10, 15 ~ 21)

屈筋腱皮下断裂:0.4 ~ 12% 1 ~ 3, 22)

遷延治癒・偽関節:0.7 ~ 4% 2, 4)

許容できない変形治癒:5.3% 2, 4)

コンパートメント(区画)症候群:0.4 ~ 0.7% 2 ~ 4)

骨萎縮・骨密度の減少:0.2% 4)

複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome:CRPS)・反射性交感神経性ジストロフィー(reflex sympathetic dystrophy:RSD):0.3~35% 1, 2, 4, 23, 24)

その他に,頻度は少ないものの,橈骨神経障害4),尺骨神経障害(Guyon管症候群を含む)4),Dupuytren 拘縮2, 4),

手根不安定症4),血管損傷・動静脈瘻 3, 25),腱鞘炎・腱炎 2, 4, 17),腱陥入・腱絞扼 26), 肺塞栓 27)などの報告があり,注意を要する.

サイエンティフィックステートメント

● 橈骨遠位端骨折の各種合併症の発生頻度について文献的reviewを行った.合併症として,EPL腱断裂(3%),手根管症候群(2 ~ 14%),橈骨神経障害,橈骨動脈損傷,CRPS(8 ~ 35%)などがある(R2F00283 literature review).

● 橈骨遠位端骨折の合併症について文献的reviewを行った.合併症として,正中神経障害(0 ~ 17%),EPL断裂(3%),遷延治癒・偽関節,CRPS,関節症,変形治癒,腱障害(断裂,運動制限,ばね現象,腱鞘炎),Dupuytren拘縮などがある.

(R2F00202 literature review). ● 橈骨遠位端骨折の軟部組織合併症について文献的reviewを行った.合併症として,正中神経障害(4%),尺骨神経障害,CRPS,コンパートメント症候群,EPL腱損傷,屈筋腱損傷,遠位橈尺関節不安定症などがある(R2F00203 literature review).

● 橈骨遠位端骨折の各種合併症の発生頻度について過去の報告(後ろ向き研究のみ)をまとめたところ,合併症として神経障害(0 ~ 17%),腱障害(0 ~ 5%),遷延治癒および偽関節(0.7 ~ 4%),変形治癒(5%), RSD などの疼痛症候群(0.3 ~ 8%)などの記載があった(RF00946 literature review).

橈骨遠位端骨折の合併症と発生率は?5Clinical Question

44 第3章 治 療 3.2.保存療法

文 献 1) R2F00283 Meyer C, et al. Instr Course Lect 2014;63:113 2) R2F00202 Turner RG, et al. Hand Clin 2010;26:85 3) R2F00203 Davis DI, et al. Hand Clin 2010;26:229 4) RF00946 McKay SD, et al. J Hand Surg Am 2001;26:916 5) R2J00690 藤井裕子ほか.日手会誌2012;28:417 6) R2F00742 Ng CY, et al. J Hand Surg Eur Vol 2012;37:464 7) R2F00789 Niver GE, et al. Orthop Clin North Am 2012;43:521 8) R2J00206 後藤真一ほか.日手会誌2014;30:723 9) R2F00351 Itsubo T, et al. J Orthop Sci 2010;15:518 10) R2J00746 丹羽智史ほか.日手会誌2013;30:45 11) RJ00498 林未統ほか.整・災外 2002;45:1153 12) RJ01120 林未統ほか.日手会誌2003;20:390 13) R2J00528 矢野公一ほか.中部整災誌 2012;55:915 14) R2J00420 佐竹寛史ほか.整形外科 2013;64:441 15) R2J00037 長尾聡哉ほか.骨折 2009;31:490 16) R2J00761 久我研作ほか.日手会誌2014;30:519 17) R2J00192 児玉成人ほか.日手会誌2013;30:5 18) R2J00392 白川健ほか.整・災外 2009;52:1467 19) R2J00636 水沢慶一ほか.日手会誌2010;26:460 20) R2F00671 Roth KM, et al. J Hand Surg Am 2012;37:942 21) R2J00473 文浩光ほか.中四整外会誌 2011;23:333 22) R2J00100 橋本忠晃ほか.整形外科 2011;62:531 23) R2F00091 Jellad A, et al. Arch Phys Med Rehabil 2014;95:487 24) R2F00507 Dilek B, et al. Rheumatol Int 2012;32:915 25) R2F00273 O’ Toole RV, et al. Injury 2013;44:437 26) R2F00991 Okazaki M, et al. J Hand Surg Eur Vol 2009;34:479 27) R2J00088 江口英人ほか.神奈川整災外研会誌 2012;25:39

453.2.保存療法

解 説

高齢者の橈骨遠位端骨折に対して正確な解剖学的整復を目的として徒手整復を必要とするか否かは議論の分かれるところである.実際に徒手整復施行の有無で手関節機能や患者立脚型評価に差はないが,患者の活動性などの諸条件を十分考慮する必要がある.一方で,高度な変形は手関節機能や患者立脚型評価を有意に悪化させるという報告もあることから,現時点では活動性の高い高齢者には徒手整復を試みたほうがよいといえる.また,手術が必要な場合でも,手術待機期間中に高度な転位を残したままにすることは,患者の苦痛が持続するだけでなく,複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome:CRPS)などの合併症を引き起こす可能性がある.その観点からも徒手整復することが望ましい.したがって,推奨度を2とした.

サイエンティフィックステートメント ● 65歳以上の高齢者橈骨遠位端骨折30例で徒手整復後に外固定した群と徒手整復せずに外固定した群を前向き比較検討した結果,臨床評価,合併症,整容において差はなかった(RC00058 review).介入論文(2)

● 中等度から高度に転位した橈骨遠位端骨折に保存療法を施行した83例のうち,徒手整復を行った62例(平均61.7歳)と徒手整復を行わなかった21例(平均61.5歳)の治療成績を比較した.徒手整復の有無にかかわらず日常生活上支障のないレベルまで回復しており,手関節可動域やDASH(disability of the arm, shoulder and hand)スコアに有意差はなかった(R2F00244 N-RCT).

● 不安定型骨折や徒手整復後の整復位が不良な75例に対し,手術に同意した40例(男性6,女性34例)は手術療法を行い,手術に同意しなかった35例(男性5,女性30例)には保存療法を行った.平均年齢は保存療法75.8歳,手術療法71.5歳であった.受傷後6 ヵ月までの治療成績は保存療法を行った群が劣っていたが,受傷後1

高齢者に徒手整復は必要か?1Clinical Question

3.2.保存療法

推奨文

高度な転位を伴う高齢者の橈骨遠位端骨折に対しては徒手整復を行うことを提案する.

推奨の強さ エビデンス総体の総括2(弱い) C(弱)

46 第3章 治 療 3.2.保存療法

年では2群間に有意差はなかった(R2F00232 N-RCT).観察論文(2)

● 徒手整復および外固定で保存療法を行った75歳以上の不安定型橈骨遠位端骨折62例に対し,X線評価,QuickDASHスコアを調査した.変形が高度でも患者の主観的評価は高く,生活に支障をきたさないため,治療方法の選択においては日常生活の活動性など患者側の諸条件を十分考慮して決定すべきである(R2J00005 case series).

● 橈骨遠位端骨折を受傷した50 ~ 70歳の女性に対し,徒手整復および外固定で整復位を許容できた34例と高度変形[尺骨変異(ulnar variance)≧3 mm,橈骨遠位端背側傾斜(dorsal tilt)≧15°]と愁訴が残存した13例をDASHスコア,visual ana-logue scale(VAS),臨床評価で比較した.高度変形群は受傷後1年で治療成績が有意に劣っていたが,受傷後2 ~ 4年では治療成績は有意に改善していた(R2F00737 case series).

文 献 1) RC00058 Handoll HHG, et al. Cochrane Database Syst Rev 2008:CD000314 2) R2F00244 Neidenbach P, et al. Injury 2010;41:592 3) R2F00232 Chan YH, et al. Hand Surg 2014;19:19 4) R2J00005 南野光彦ほか.MB Orthop 2010;23:1 5) R2F00737 Brogren E, et al. J Hand Surg Eur Vol 2011;36:568

473.2.保存療法

解 説

徒手整復にfinger trapを用いるべきか否かについては整復度に差はなく,現時点では結論が出ていない.したがって,明確な推奨はできない.しかし,finger trapを用いた牽引は暴力的な整復を回避でき,患者にとって愛護的な可能性がある.

サイエンティフィックステートメント ● 橈骨遠位端骨折における徒手整復とfinger trapを併用した整復の間でX線学的整復位および疼痛に有意差は見られなかった(RF00394 review).介入論文(1)

● 橈骨遠位端骨折225例において,徒手整復にfinger trapを使用した群と使用しなかった群の治療成績を比較した.X線指標(橈骨遠位端背側傾斜:dorsal tilt,橈骨短縮長:radial shortening)および疼痛に有意差はなかった(RF01735 RCT).観察論文(3)

● 転位のある橈骨遠位端骨折に対しfinger trapを用いて整復を行った後ろ向き研究(R2F01138:43例,R2F00082:63例,RJ01447:50例 case series)において,良好な整復位が得られた.

文 献 1) RF00394 Handoll HHG, et al. Cochrane Database Syst Rev 2003:CD003763 2) RF01735 Earnshaw SA, et al. J Bone Joint Surg Am 2002;84:354 3) R2F01138 Kodama N, et al. J Hand Surg Am 2014;39:1287 4) R2F00082 Wichlas F, et al. Arch Orthop Trauma Surg 2013;133:1073 5) RJ01447 高畑智嗣.臨整外 2004;39:23

徒手整復にfinger trapは有用か?2Clinical Question

推奨文

finger trapを用いた徒手整復は考慮してもよい.推奨の強さ エビデンス総体の総括3(なし) C(弱)

48 第3章 治 療 3.2.保存療法

解 説

無麻酔下徒手整復と静脈内区域麻酔,血腫内局所麻酔薬浸潤麻酔(hematoma block,いわゆる血腫麻酔),あるいは吸入や静脈内麻酔による全身麻酔など何らかの麻酔を用いた徒手整復を比較した文献では,各方法での整復の成否に差はなかった.しかし,整復時の疼痛および簡便性を考慮して,血腫麻酔を推奨するものが多かった.ただし,実際には血腫麻酔は完全な除痛効果が得られるとは限らず,また筋弛緩が十分に得られないため,整復が不十分なことがあることも考慮すべきである.麻酔薬に関しては静脈内区域麻酔と血腫麻酔においてはlidocaineを使用しているが,その量や濃度にいまだ一定の見解はない.また,伝達麻酔による整復を比較検討した文献もないため,麻酔法や麻酔薬の種類や量においては今後さらなる検討が必要である.しかし,現時点では患者の苦痛の軽減という観点からは何らかの麻酔を行うことが推奨される.したがって,推奨度を1とした.

サイエンティフィックステートメント ● 橈骨遠位端骨折の徒手整復について,無麻酔下徒手整復19例と静脈内区域麻酔下徒手整復19例を比較し,整復度に差はなかった.しかし,整復中に痛みを訴えた患者は無麻酔群のほうが有意に多かった(RF00394 review).

● 橈骨遠位端骨折の徒手整復において静脈内区域麻酔と血腫麻酔を比較し,整復の成功率,疼痛の程度および安全性で有意差はなかった(RF00004 review).介入論文(2)

● 橈骨遠位端骨折の整復時の血腫麻酔の有用性を検証した.propofol 静脈麻酔群と 2% lidocaine 10 mL血腫麻酔群各48例を疼痛,整復度で比較し,その結果と安全性から血腫麻酔が推奨された(R2F00439 RCT).

● 橈骨遠位端骨折の整復時に血腫内lignocaine注射(2%,5 mL)とEntonox®(medical 50% nitrous oxide and 50% oxygen mixture)吸入のどちらが疼痛軽減に有用かを検討した.血腫内麻酔群34例,Entonox吸入群33例を無作為に振り分け,整復中の疼痛と整復度を比較した結果,血腫麻酔が推奨された(R2C00047 RCT).

徒手整復に麻酔は有用か?3Clinical Question

推奨文

麻酔の有無は整復の成否を左右しないが,患者の苦痛の軽減を考慮すれば麻酔を行うことが望ましい.

推奨の強さ エビデンス総体の総括1(強い) B(中)

493.2.保存療法

観察論文(2) ● 橈骨遠位端骨折35例の徒手整復に血腫麻酔(2% lidocaine 10 mL)を使用し,使用前と比較して有意に除痛効果が得られた.hematoma blockは安全で,迅速にでき,骨折の整復も良好であった(RF01679 case series).

● 橈骨遠位端骨折40例の徒手整復に静脈内区域麻酔(0.5% lidocaine 20 mL)を使用し,37例で疼痛なく整復可能であった(RJ01076 case series).

文 献 1) RF00394 Handoll HHG, et al. Cochrane Database Syst Rev 2003:CD003763 2) RF00004 duKamp A. Accid Emerg Nurs 2000;8:233 3) R2F00439 Myderrizi N, et al. Med Arh 2011;65:239 4) R2C00047 Man KH, et al. Hong Kong J Emerg Med 2010;17:126 5) RF01679 Ogunlade SO, et al. West Afr J Med 2002;21:282 6) RJ01076 高畑智嗣.日手会誌2001;18:299

50 第3章 治 療 3.2.保存療法

解 説

橈骨遠位端骨折における外固定の範囲や期間についてのエビデンスは限定的で,現時点で結論は出ていない.橈骨遠位端骨折の保存療法において,外固定期間は4~ 6週とされているが,Cochrane Database(2008)によれば,3 ~ 4週と5 ~ 6週の外固定期間で治療成績を比較し,疼痛や患者立脚型評価,合併症では差はなかったが,3および6 ヵ月の握力と手関節可動域の回復は3 ~ 4週の外固定のほうが有意に早かった.しかし,3年後の追跡調査では差がなかった.また,外固定範囲は同様にsugar tong splint固定と前腕ギプス固定を比較し,橈骨遠位端背側傾斜(dorsal tilt)の平均値には統計学的有意差があったが,許容しがたい背屈変形や短縮の発生に有意差はなかった.また,上腕ギプス群と前腕ギプス群の比較では6週の時点では前腕ギプス群のほうが解剖学的整復位は有意によかったが,手関節機能評価や合併症に有意差はなかった.また,別の文献では,前腕ギプス40例,sugar tong splint固定30例,前腕スプリント31例でX線評価,手関節機能評価を比較し,その治療成績に差はなかった.これらの結果からも外固定の範囲と期間に関しては,骨折型,不安定性,年齢や活動性を考慮して決定すべきである.

サイエンティフィックステートメント ● 3 ~ 4週と5 ~ 6週の外固定期間で治療成績を比較し,疼痛や合併症,患者立脚型評価では差はなかったが,3および6 ヵ月の握力と手関節可動域の回復は3 ~ 4週の外固定のほうが有意に早かった.しかし,3年後の追跡調査では差がなかった.また,外固定範囲は同様にsugar tong splint固定と前腕ギプス固定を比較し,橈骨遠位端背側傾斜の平均値には統計学的有意差があったが,許容しがたい背屈変形や短縮の発生には有意差はなかった.また,上腕ギプスと前腕ギプス群の比較では6週の時点では前腕ギプス群のほうが整復位保持に優れていたが,手関節機能評価や合併症に有意差はなかった(RC00058 review).介入論文(1)

● 18歳以上の転位のある橈骨遠位端骨折に対し徒手整復を行い,外固定を前腕ギプス40例,sugar tong splint固定30例,前腕スプリント31例に振り分けた.X線評価,手関節機能評価を8週,6 ヵ月で比較したが,いずれにおいても有意差はなかった.しかし,sugar tong splint固定で矯正損失が大きい傾向にあった(R2F00150 RCT).

文 献 1) RC00058 Handoll HHG, et al. Cochrane Database Syst Rev 2008:CD000314 2) R2F00150 Grafstein E, et al. CJEM 2010;12:192

4 外固定の範囲とその期間は?Clinical Question

513.2.保存療法

5 外固定時の手関節と前腕の肢位は?Clinical Question

解 説

橈骨遠位端骨折,特に背屈転位型骨折(Colles骨折)の場合,徒手整復後の外固定の肢位は軽度掌屈位から中間位とされているが,固定肢位について比較したエビデンスの高い文献は前版と同じく渉猟しえなかった.唯一,Cochrane Database

(2008)において,前腕の固定肢位については3文献,手関節の固定肢位についても2文献で検討しているが,その結論は出ていない.Cotton-Loder肢位(手関節最大掌屈・尺屈位,前腕回内位)は手指自動屈曲が制限されるだけでなく,手指浮腫の増強,手関節拘縮,複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome:CRPS)などの合併症が起こりやすく,行うべきではない.また,1990年のGuptaによる背屈位ギプス固定についての追試は散見されるが,この方法は経験と技術が必要で,治療成績も観察研究に限られる.また,不適切な背屈位固定は再転位を助長する可能性があり,注意を要する.

サイエンティフィックステートメント ● 前腕の固定肢位についてはGibson(1983),Wahlstrom(1982),Wilson(1984)の文献で合計150例のColles骨折に対しX線指標,手関節機能,合併症について検討しているが,固定範囲の条件の違い,あるいは,文献により評価していない項目もあり,どの固定肢位がよいかについては結論が出ていない.Wilsonらは前腕回内位と回外位の比較でX線指標,手関節機能に差はなかったと報告している(RC00058 review).観察論文(2)

● 橈骨遠位端骨折120例123手について変形の程度および保存療法時の手関節固定角度を調査した.初療時のギプス固定角度が強いほど,手関節可動域が悪化する傾向があり,手関節を30°以上掌屈位で固定すると中手指節(MP)関節屈曲が不十分となり伸展拘縮が生じやすい(RJ00897 case series).

● 背屈転位型橈骨遠位端骨折86例に対し,徒手整復後背屈位ギプス固定を行い,施行症例の約90%が保存療法で治癒し,臨床成績もおおむね良好であった(R2J00406 case series).

文 献 1) RC00058 Handoll HHG, et al. Cochrane Database Syst Rev 2008:CD000314 2) RJ00897 瀧川宗一郎ほか.東日整災外会誌 1998;10:374 3) R2J00406 高畑智嗣.整・災外 2014;57:151

52 第3章 治 療 3.2.保存療法

6 保存療法の合併症は?Clinical Question

解 説

橈骨遠位端骨折の保存療法の合併症については様々な病態が報告されている.しかし,保存療法のみに注目した合併症の発生率についてはほとんど記載がない.reviewにおいて,橈骨遠位端骨折の合併症の一部として,保存療法の合併症の記載があり,それによれば,主たるものとして,骨関節合併症では変形性手関節症,変形治癒,手関節拘縮,手指拘縮,神経合併症では手根管症候群,複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome:CRPS),腱合併症としては長母指伸筋

(EPL)腱皮下断裂が報告されている 1 ~ 7).McKayらは前向きコホート研究において124例の保存療法のうち,26例(21%)に合併症が発生したと報告しているが 5),詳細についての記載はない.SharmaらはRCTで保存療法32例において,手根管症候群7例(22%),重度手指拘縮10例(31%),変形治癒12例(38%),尺側部痛12例(38%)の合併症が発生したと報告している 4).reviewにおいて保存療法におけるEPL腱皮下断裂のみ発生率の記載があり,0.07 ~ 0.88%2)あるいは3%3)と報告されている.以下に観察研究(case seriesあるいはcase report)における保存療法の合併症を記載する.

● 手根管症候群・正中神経障害(2 ~ 22%)4, 8 ~ 20)

● 変形性手関節症・変形性遠位橈尺関節症(0.8 ~ 80%)[※これらはX線像上の関節症変化であり,無症状の例も含まれている]10, 11, 21 ~ 25)

● EPL腱皮下断裂(0.4 ~ 4.9%)7, 12, 24, 26 ~ 52)

● 手関節拘縮・手指拘縮(0.8 ~ 31%)11, 13, 14, 53, 54)

● CRPS(2 ~ 26%)8, 9, 11, 12, 14, 26, 53, 55 ~ 58)

● 許容できない変形治癒(15.6 ~ 37.5%)4, 13, 17, 26, 53, 59 ~ 64)

● 偽関節(2%)8, 59, 65 ~ 67)

● 腱鞘炎・ばね指(2.2 ~ 3.1%)10, 11, 13)

● 尺側部痛(2 ~ 37.5%)4, 8, 24)

● 骨萎縮・骨密度の減少(0.2%)68 ~ 70)

● 皮膚障害(7%)53)

● 屈筋腱皮下断裂 25, 50, 71 ~ 78)

● その他,頻度の少ないものとして,尺骨神経障害 79),橈骨神経障害 11),手根不安定症 11),尺骨頭掌側亜脱臼 80),遅発性動静脈瘻 81)などの報告がある.

文 献 1) R2F00202 Turner RG, et al. Hand Clin 2010;26:85 2) R2F00203 Davis DI, et al. Hand Clin 2010;26:229 3) R2F00283 Meyer C, et al. Instr Course Lect 2014;63:113 4) R2F00356 Sharma H, et al. J Orthop Sci 2014;19:537

533.2.保存療法

5) RF00946 McKay SD, et al. J Hand Surg Am 2001;26:916 6) RF01053 Gehrmann SV, et al. J Hand Surg Am 2008;33:421 7) RJ01073 清重佳郎.日手会誌2001;18:15 8) R2F00150 Grafstein E, et al. CJEM 2010;12:192 9) R2F00232 Chan YH, et al. Hand Surg 2014;19:19 10) R2F00563 Egol KA, et al. J Bone Joint Surg Am 2010;92:1851 11) R2F00718 Lutz K, et al. J Hand Surg Am 2014;39:1280 12) R2F00748 Finsen V, et al. J Hand Surg Eur Vol 2013;38:116 13) R2F00969 Tan V, et al. J Hand Surg Am 2012;37:460 14) RF00558 Kapoor H, et al. Injury 2000;31:75 15) RF01145 Bienek T, et al. J Hand Surg Br 2006;31:256 16) RF01730 Stewart HD, et al. Injury 1985;16:289 17) R2F00086 Megerle K, et al. Arch Orthop Trauma Surg 2013;133:1321 18) RJ00176 中村光伸ほか.関東整災外会誌 1998;29:374 19) RJ00498 林未統ほか.整・災外 2002;45:1153 20) RJ00817 東良和ほか.中部整災誌 2006;49:1087 21) R2F00576 Arora R, et al. J Bone Joint Surg Am 2011;93:2146 22) RF00793 Forward DP, et al. J Bone Joint Surg Br 2008;90:629 23) RF01044 Foldhazy Z, et al. J Hand Surg Am 2007;32:1374 24) RF01127 Young CF, et al. J Hand Surg Br 2003;28:422 25) R2J00528 矢野公一ほか.中部整災誌 2012;55:915 26) R2F00165 Brogren E, et al. Clin Orthop Relat Res 2013;471:1691 27) R2F00671 Roth KM, et al. J Hand Surg Am 2012;37:942 28) R2F00737 Brogren E, et al. J Hand Surg Eur Vol 2011;36:568 29) RF00121 Skoff HD. Am J Orthop 2003;32:245 30) R2F00991 Okazaki M, et al. J Hand Surg Eur Vol 2009;34:479 31) R2J00239 安部幸雄ほか.MED REHABIL 2012;145:23 32) R2J00260 岳原吾一ほか.関節の外科 2010;37:77 33) R2J00392 白川健ほか.整・災外 2009;52:1467 34) R2J00636 水沢慶一ほか.日手会誌2010;26:460 35) R2J00761 久我研作ほか.日手会誌 2014;30:519 36) R2J00473 文浩光ほか.中四整外会誌 2011;23:333 37) RJ00188 遠藤寛興ほか.岩手病医会誌 2002;42:121 38) RJ00328 畑中渉ほか.骨折 2003;25:821 39) RJ00532 松本和ほか.整形外科 2002;53:1564 40) RJ00608 田口学ほか.整外と災外 2005;54:143 41) RJ00766 矢野智則ほか.中部整災誌 2002;45:737 42) RJ00786 清水隆昌ほか.中部整災誌 2004;47:1231 43) RJ00853 村上大気ほか.鳥取赤十字病医誌 2007;16:25 44) RJ00857 平野裕司ほか.島根医 2000;20:178 45) RJ00876 近藤喜久雄ほか.東海整外外傷研会誌 2005;18:82 46) RJ00926 大滝宗典ほか.東日整災外会誌 2007;19:111 47) RJ00933 森優ほか.東北整災外会誌 2004;48:58 48) RJ00939 鵜木栄樹ほか.東北整災外紀 1999;43:264 49) RJ01030 吉川泰弘ほか.日手会誌1998;15:250 50) RJ01079 織田道広ほか.日手会誌 2001;18:498 51) RJ01104 香月憲一ほか.日手会誌2002;19:375 52) RJ01403 畑中渉ほか.北海道整外外傷研会誌 2003;19:27 53) R2F00033 Kilic A, et al. Acta Orthop Traumatol Turc 2009;43:229

54 第3章 治 療 3.2.保存療法

54) R2F00401 Jongs RA, et al. J Physiother 2012;58:173 55) R2F00091 Jellad A, et al. Arch Phys Med Rehabil 2014;95:487 56) R2F00507 Dilek B, et al. Rheumatol Int 2012;32:915 57) R2J00390 久保田聡ほか.神奈川整災外研会誌 2012;24:193 58) RJ00147 松村崇史ほか.漢方と最新治療 2002;11:311 59) RF00909 Segalman KA, et al. J Hand Surg Am 1998;23:914 60) RF00024 Arslan H, et al. Acta Orthop Belg 2003;69:23 61) RF00661 Bushnell BD, et al. J Am Acad Orthop Surg 2007;15:27 62) RF01273 Thivaios GC, et al. J Orthop Trauma 2003;17:326 63) RF01353 Ring D, et al. J Surg Orthop Adv 2004;13:161 64) RJ00096 戸部正博ほか.MB Orthop 2005;18:41 65) RF00292 Prommersberger KJ, et al. Chir Main 2002;21:113 66) RF01107 Smith VA, et al. J Hand Surg Br 1999;24:601 67) RF01651 Shin EK, et al. Tech Hand Up Extrem Surg 2005;9:21 68) RF00815 van der Poest Clement E, et al. J Bone Miner Res 2000;15:586 69) RJ00725 奥田敏治ほか.中部整災誌 1997;40:897 70) RJ01363 奥田敏治ほか.別冊整形外 1998;33:94 71) R2F00214 Ishii T, et al. Hand Surg 2009;14:35 72) R2F01217 Huh SW, et al. J Plast Surg Hand Surg 2014;48:350 73) R2J00100 橋本忠晃ほか.整形外科 2011;62:531 74) R2J00270 木下豪紀ほか.関東整災外会誌 2011;42:203 75) RF00921 Wada A, et al. J Hand Surg Am 1999;24:534 76) RJ00785 佐藤敦ほか.中部整災誌 2004;47:1229 77) RJ00852 峯牧子ほか.中部整災誌 2008;51:155 78) RJ00963 飯野潤二ほか.日災医会誌 1997;45:296 79) R2F00622 Gong HS, et al. J Hand Surg Am 2010;35:233 80) R2J00420 佐竹寛史ほか.整形外科 2013;64:441 81) RF01391 Bederman SS, et al. J Trauma 2007;63:30

553.2.保存療法

解 説

橈骨遠位端骨折の整復状態については,X線透視を用いて確認するのが一般的である.しかし,X線透視装置が必要で,少なからず利便性に欠けるだけでなく,患者および医療従事者の被曝も問題となる.超音波検査は骨表面の形状より,転位の状況や整復状態の描出が推測可能であり,特に救急対応時にはその場で施行できる簡便性もあり有用であるという文献が散見される.しかし,X線透視のように整復中に骨折部および全体の骨形態を確認できるわけではなく,また,関節面の評価ができない欠点もある.したがって,超音波検査はX線透視による評価に勝るものでないため,状況によっては考慮してもよい.いずれも観察研究のため,エビデンスは低く,明確に推奨することはできない.

サイエンティフィックステートメント

観察論文(3) ● 整復評価に超音波検査を用いた62例(平均年齢62歳)を,徒手整復後に単純X線検査で整復状態を評価した102例と比較した.超音波検査群がX線検査群に比べ,橈骨遠位端掌側傾斜(palmar tilt)はより改善し,また手術に至った例が有意に少なく,整復状態も良好であった(R2F00532 case series).

● 超音波を使用して救急室で整復することが有用か否かを検証するため,転位のある橈骨遠位端骨折に対し,超音波を使用して救急室で整復を行った46例と,超音波を使用せずに整復した44例の整復度をX線写真にて比較した.整復の成功率は超音波使用群で83%,非使用群で80%と差がなかった(R2F00605 case series).

● 橈骨遠位端骨折に対する整復の成否を評価するため,超音波検査を使用した43例を,X線透視35例,何も使用せず徒手整復を行った22例と比較した.骨折部の転位距離は超音波像とX線像で有意差はなかった.一方,3群でのX線指標は,整復前,整復後に有意差はなかった.ただし,超音波による整復評価では何も使用せず行った整復法よりは成功率が高かった(R2F01138 case series).

整復評価に超音波検査は有用か?7Clinical Question

推奨文

橈骨遠位端骨折の整復評価に超音波検査は用いてもよい.推奨の強さ エビデンス総体の総括3(なし) C(弱)

56 第3章 治 療 3.3.手術療法/ 3.3.1.手術療法総論

文 献 1) R2F00532 Ang SH, et al. Am J Emerg Med 2010;28:1002 2) R2F00605 Chinnock B, et al. J Emerg Med 2011;40:308 3) R2F01138 Kodama N, et al. J Hand Surg Am 2014;39:1287

573.3.手術療法/ 3.3.1.手術療法総論

3.3.1.手術療法総論

1 適切な手術時期はいつか?Clinical Question

解 説

適切な手術時期に関するエビデンスは観察研究が数編あるのみである.その結果は「早期手術が望ましい」と結論づけるものと「待機手術でも成績は変わらない」とするものに分かれ,見解は一致していない.一般的には日数の経過とともに骨新生が進み,骨片の可動性が低下するとされることから,受傷後早期ほど整復操作を行いやすく,良好な整復位を得やすくなると予想される.以上よりできるだけ早期,遅くとも受傷後3週以内に手術を施行することが望ましいと考えられ,推奨度を2とした.

サイエンティフィックステートメント

観察論文(3) ● 受傷後21日以上経過してから角度固定型掌側ロッキングプレート固定を施行した橈骨遠位端骨折40例(遅延群)と受傷後21日未満で手術を施行した75例(早期群)の術後成績を比較検討した.遅延群で合併症(腱刺激症状,感覚神経障害)を2例に生じたためQuickDASH(disabilities of the arm, shoulder and hand)スコアに有意差を認めたが,前述の2例を除外すると有意差はなかった.また,X線評価の推移にも有意差はなかった(R2F01097 CCS).

● 受傷後15日以上経過してから掌側ロッキングプレート固定を施行した橈骨遠位端骨折20例(遅延群)と受傷後15日未満で手術を施行した19例(早期群)の術後成績を関節外骨折,関節内骨折に分けてそれぞれ比較検討した.関節外骨折では遅延群の橈骨遠位端掌側傾斜(palmar tilt:PT)が,関節内骨折では遅延群のPT,尺骨変異(ulnar variance:UV)および関節面離開(gap)が有意に劣っており,早期手術が必要と考えられた(R2J00756 CCS).

● 掌側ロッキングプレート固定を施行した背側転位型橈骨遠位端骨折20例において,術前のPT,UV,および受傷から手術までの期間と術後のPT,UVの相関を調査した.受傷から手術までの期間とPTの矯正損失の間に有意な相関を認めたこ

3.3.手術療法

推奨文

早期に手術を行うことが望ましい.推奨の強さ エビデンス総体の総括2(弱い) C(弱)

58 第3章 治 療 3.3.手術療法/ 3.3.1.手術療法総論

とから,手術までの待機期間は短いほうが矯正損失を少なくできると考えられる(RJ01682 case series).

文 献 1) R2F01097 Weil YA, et al. Injury 2014;45:960 2) R2J00756 有薗行朋ほか.日手会誌2014;30:471 3) RJ01682 仲西康顕ほか.日手会誌 2009;25:671

593.3.手術療法/ 3.3.1.手術療法総論

2 高齢者に手術療法は有用か?Clinical Question

解 説

高齢者は橈骨遠位端骨折後に変形が残存しても主観的評価は手術と遜色がないと報告されている.一方で,変形の程度と臨床成績は相関しているという報告もあり,高齢者橈骨遠位端骨折に対する手術の是非についてはいまだ一定の見解を得ていない.しかしながら,高齢者でも活動性が高い,下肢機能が低く上肢を支持として使用しなければならない,患肢が利き手,あるいは独居や介護者といった早期に患肢の使用を要する,などの身体的・社会的背景を考慮し,掌側ロッキングプレートなどの強固な内固定を選択してもよいと考えられる.以上より,推奨度を2とした.

サイエンティフィックステートメント ● 60歳以上の不安定型橈骨遠位端骨折に対するギプス固定,掌側ロッキングプレート固定,non-bridging創外固定,bridging創外固定および経皮的鋼線固定に関するsystematic reviewを行った.ギプス固定ではX線計測値が不良であるものの,機能的には手術療法との差はなかった.また,合併症はギプス固定が最も少なく,掌側ロッキングプレート固定は再手術を要する重大合併症が多かった(R2F00642 review).

● 成人橈骨遠位端骨折における過去の文献のreviewより,高齢者では保存療法による骨折部の短縮・角状変形・粉砕を生じることが多く,再転位により再整復を要する例が若年者と比較して多いとされている.一方で,解剖学的整復が術後成績向上に寄与するとされている(R2C00038 literature review).

● 成人橈骨遠位端骨折における過去の文献のreviewより,骨粗鬆症による骨脆弱性を有する高齢者橈骨遠位端骨折の整復・外固定は必ずしも満足な結果が得られず,より解剖学的な整復および信頼できる内固定が望ましいとされている(R2C00021 literature review).

● 高齢者橈骨遠位端骨折の手術に関する文献のreviewを行った.身体的要求の低い高齢者では変形を残しても保存療法が好ましく,活動的な高齢者に対しては掌側ロッキングプレート固定が推奨される(RF01053 literature review).

推奨文

活動性が高い,または早期に患肢の使用を要する高齢者には手術療法を提案してもよい.

推奨の強さ エビデンス総体の総括2(弱い) B(中)

60 第3章 治 療 3.3.手術療法/ 3.3.1.手術療法総論

介入論文(1) ● 60歳以上の骨脆弱性橈骨遠位端関節外骨折40例について,無作為にギプス固定を行った群または創外固定を行った群へ割り付け,その治療成績を比較した.X線評価は創外固定群で有意に良好であったが,患者立脚型評価[SF-36(36-Item Short-Form Health Survey),Horesh Demerit Point System]は2群間で有意差はなかった(RF01611 RCT).観察論文(6)

● 65歳以上の橈骨遠位端骨折に対してギプス固定を行った46例と手術(掌側ロッキングプレートまたは創外固定+経皮的鋼線固定)を行った44例の術後成績を比較した.X線評価,握力は手術群が有意に優れていたが,関節可動域(前腕回内外,手関節掌背屈)およびDASH(disabilities of the arm, shoulder and hand)スコアは2群間で有意差はなかった(R2F00563 CCS).

● 橈骨遠位端骨折70例に掌側ロッキングプレート固定を行い,その術後成績を70歳以上と70歳未満に分けて調査した.握力は70歳未満群が有意に優れていたが,関節可動域(前腕回内外,手関節掌背屈)およびGartland and Werleyの評価に有意差を認めず,高齢者に対しても良好な術後成績が得られていた(R2J00160 CCS).

● 55歳以上の橈骨遠位端骨折53例に対して,手術介入[経皮的鋼線固定,観血的整復固定(open reduction and internal fixation:ORIF),ORIF+創外固定]の有無によって術後成績に違いがあるかを調査した.X線評価のうち橈骨遠位端背側傾斜(dorsal tilt)にのみ有意差を認めたが,関節可動域(前腕回内外,手関節掌背屈),握力,ほかのX線評価[橈骨短縮(radial shortening),関節面離開(gap),関節面段差(step-off)],患者立脚型評価[DASHスコア,PRWE(Patient Rated Wrist Evaluation),MASS07]および医療者側評価(Gartland and Werleyの評価,Jebsen-Taylorテスト)に有意差はなかった(R2F00158 CCS).

● 60歳以上の橈骨遠位端骨折52例にギプス固定による保存療法を施行し,X線評価[橈骨遠位端掌側傾斜(palmar tilt:PT),橈骨遠位端尺側傾斜(radial inclination:RI),尺骨変異(ulnar variance:UV)],DASHスコア,およびMayo Wrist Scoreの相関を調査した.X線評価のうちPTおよびUVはDASHスコア,Mayo Wrist Scoreのいずれとも相関しており,PT −5°以上,UV 3 mm以下ならば良好な臨床成績が期待できる(R2F00355 case series).

● 70歳以上の高齢者橈骨遠位端骨折に対してギプス固定を行った61例と掌側ロッキングプレート固定を行った53例の治療成績を比較した.関節可動域(前腕回内外,手関節掌背屈),握力,患者立脚型評価(DASHスコア,PRWE)および医療者側評価(Green and O’ Brienの評価)のいずれも2群間で有意差はなかった.疼痛はギプス固定群で,X線評価は掌側ロッキングプレート固定群で有意に良好であった

(RC00291 CCS). ● 徒手整復・外固定施行後に骨折部の再転位を生じた60歳以上の不安定型橈骨遠位端骨折20例に対するプレート固定の術後成績は良好で,合併症も若年者と変わりなかった(RF00957 case series).

613.3.手術療法/ 3.3.1.手術療法総論

文 献 1) R2F00642 Diaz-Garcia RJ, et al. J Hand Surg Am 2011;36:824 2) R2C00038 Hoare CP, et al. Cochrane Database of Systematic Reviews 2014:CD011213 3) R2C00021 Handoll HHG, et al. Cochrane Database of Systematic Reviews 2013:CD006951 4) RF01053 Gehrmann SV, et al. J Hand Surg Am 2008;33:421 5) RF01611 Moroni A, et al. Scand J Surg 2004;93:64 6) R2F00563 Egol KA, et al. J Bone Joint Surg Am 2010;92:1851 7) R2J00160 細見僚ほか.日手会誌2010;26:576 8) R2F00158 Synn AJ, et al. Clin Orthop Relat Res 2009;467:1612 9) R2F00355 Kodama N, et al. J Orthop Sci 2014;19:292 10) RC00291 Arora R, et al. J Orthop Trauma 2009;23:237 11) RF00957 Jupiter JB, et al. J Hand Surg Am 2002;27:714

62 第3章 治 療 3.3.手術療法/ 3.3.1.手術療法総論

3 関節内骨折の手術で透視下整復は有用か?Clinical Question

解 説

関節内骨折に対して,X線透視下整復により良好な術後成績が得られることは広く知られており,その低侵襲性から整復の第一選択であることはいうまでもない.したがって,推奨度を1とした.しかしながら,許容できる整復位(CQ3-1-4参照)が得られない場合は,透視下のみに固執することなく,関節面の鏡視下または直視下整復も試みるべきである.

サイエンティフィックステートメント

介入論文(1) ● 橈骨遠位端関節内骨折40例に対して関節鏡視・X線透視併用またはX線透視単独での整復を無作為に割り付け,経皮的鋼線固定およびbridging創外固定を追加してその術後成績を比較した.関節可動域(前腕回内外,手関節掌背屈),X線評価,DASH(disabilities of the arm, shoulder and hand)スコア,およびMayo Wrist Scoreのいずれも関節鏡視・X線透視併用が優れていたが,X線透視単独でも良好な術後成績が得られていた(RF00794 RCT).観察論文(4)

● 透視下整復および掌側ロッキングプレート固定を施行したAO分類C3の橈骨遠位端骨折78例について術後X線評価[橈骨遠位端掌側傾斜(palmar tilt:PT),橈骨遠位端尺側傾斜(radial inclination:RI),尺骨変異(ulnar variance:UV),および矯正損失],DASHスコア,およびMayo Wrist Scoreを調査した.また,関節面の透視下整復の程度を確認するために関節鏡視下評価を施行した.いずれの臨床評価においても術後成績は良好で,関節面の整復も関節面離開(gap)は平均1.1 mm,関節面段差(step-off)は平均0.2 mmと良好に整復されていた(R2J00668 case series).

● 透視下整復および掌側ロッキングプレート固定を施行した橈骨遠位端関節内骨折44例について術後X線評価(PT,RI,UV,gap,step-off),DASHスコア,およびMayo Wrist Scoreを調査したところ,いずれの臨床評価においても術後成績は良好であった(R2J00462 case series).

● 透視下整復および掌側プレート固定を施行した橈骨遠位端関節内骨折81例における平均9年の経過観察において,X線評価(PT,RI,UV),疼痛(visual analogue

推奨文

関節内骨折に対する術中透視下整復は有用であり,強く推奨する.推奨の強さ エビデンス総体の総括1(強い) B(中)

633.3.手術療法/ 3.3.1.手術療法総論

scale:VAS),DASHスコアを調査するとともに,関節鏡を用いて関節面の状態を評価した.関節面の整復が不良な症例ほど関節症性変化を伴ってはいたものの,臨床成績には影響せず,術後成績は良好に維持されていた(R2F00075 case series).

● 橈骨遠位端関節内骨折30例に対して関節鏡視下またはX線透視下に整復およびbridging創外固定を施行し,術後成績を比較した.関節可動域(前腕回内外,手関節掌背屈)は関節鏡視下整復が優れていたが,X線評価,DASHスコア,およびKnirk and Jupiterの関節症評価に有意差はなく,関節鏡視下整復・透視下整復のいずれの臨床評価も良好であった(RF00225 CCS).

文 献 1) RF00794 Varitimidis SE, et al. J Bone Joint Surg Br 2008;90:778 2) R2J00668 坂野裕昭ほか.日手会誌2011;27:579 3) R2J00462 坂野裕昭.整外最小侵襲術誌 2009;52:35 4) R2F00075 Lutz M, et al. Arch Orthop Trauma Surg 2011;131:1121 5) RF00225 Ruch DS, et al. Arthroscopy 2004;20:225

64 第3章 治 療 3.3.手術療法/ 3.3.1.手術療法総論

4 関節内骨折に関節鏡視下手術は有用か?Clinical Question

解 説

近年,橈骨遠位端関節内骨折に対する関節鏡視下整復の報告が増加してきている.関節鏡を使用することにより,関節内骨片の関節面離開(gap)・関節面段差

(step-off)の程度や骨片の回旋などを正確に把握できるだけでなく,固定後の整復の評価も可能なことから,関節内骨折の整復には有用である.しかしながら,治療に際し手関節鏡の設備が必要であり,かつその手技には熟練を要することから,本骨折の手術に携わるすべての医師が施行可能ではないのが現状である.以上より,推奨度を2とした.

サイエンティフィックステートメント ● 膝関節・足関節および足部・股関節・肩関節・肘関節・手関節における関節鏡補助下骨接合術に関する文献のreviewを行った.橈骨遠位端関節内骨折においては,いずれの文献も症例数は多くないもののその術後成績は良好であった

(R2F00912 literature review).介入論文(2)

● 70歳未満の橈骨遠位端関節内骨折96例を無作為に関節鏡視下または直視下に割り付けて整復し,経皮的鋼線固定およびbridging創外固定を追加,その術後成績を比較した.関節可動域(前腕回内外,手関節掌背屈),握力,X線評価および医療者側評価(Gartland and Werleyの評価,Green and O’ Brienの評価)のいずれも関節鏡視下整復が優れていた(RF00693 RCT).

● 橈骨遠位端関節内骨折40例に対して関節鏡視・X線透視併用またはX線透視単独での整復を無作為に割り付け,経皮的鋼線固定およびbridging創外固定を追加してその術後成績を比較した.関節可動域(前腕回内外,手関節掌背屈),X線評価,DASH(disabilities of the arm, shoulder and hand)スコア,およびMayo Wrist Scoreのいずれも関節鏡視・X線透視併用が優れていた(RF00794 RCT).観察論文(6)

● 65歳以上の橈骨遠位端関節内骨折32例に対して透視下整復ののちに掌側ロッキングプレートを仮固定し,関節鏡視下整復を追加してプレートで本固定した.術後のMayo Wrist Scoreは良好であった(R2J00011 case series).

推奨文

関節内骨折に対する関節鏡視下整復は有用である.推奨の強さ エビデンス総体の総括2(弱い) B(中)

653.3.手術療法/ 3.3.1.手術療法総論

● 単純X線撮影でgap・step-offが1 mm以上であった橈骨遠位端関節内骨折117例に対し,透視下整復を施行したのちに関節鏡を施行した.透視下整復後の約15%に追加鏡視下整復を要した(R2J00543 case series).

● 橈骨遠位端関節内骨折121例に可能な限りの透視下整復を行ったのちに関節鏡を施行したところ,24.7%の症例に2 mm以上のgap・step-offが残存しており,そのほとんどで鏡視下整復の追加により転位を整復できた(R2J00288 case series).

● 橈骨遠位端関節内骨折44例に透視下整復を行い,gap・step-offを1 mm以内に整復したのちに関節鏡を施行したところ,step-offは良好に整復されていたものの,約25%で1 mm以上のX線透視では同定できないgapが残存していた(R2J00462 case series).

● 透視下整復・掌側ロッキングプレート固定を施行した橈骨遠位端関節内骨折70例の術前・術後の単純X線およびCTでのgap・step-offを計測するとともに,透視下整復後の関節鏡視所見と比較した.透視下整復後1 mm以上のgapが残存した例は約57%,1 mm以上のstep-offが残存した例は約21%であった.また,関節鏡でのgapおよびstep-offの同定は感度:90%,特異度:70%であった(R2F00352 case series).

● 橈骨遠位端関節内骨折30例に対して関節鏡視下またはX線透視下に整復およびbridging創外固定を施行し,術後成績を比較した.関節可動域(前腕回内外,手関節掌背屈)は関節鏡視下整復が優れていたが,X線評価,DASHスコア,およびKnirk and Jupiterの関節症評価に有意差はなく,関節鏡視下整復・透視下整復のいずれの臨床評価も良好であった(RF00225 CCS).

文 献 1) R2F00912 Atesok K, et al. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc 2011;19:320 2) RF00693 Doi K, et al. J Bone Joint Surg Am 1999;81:1093 3) RF00794 Varitimidis SE, et al. J Bone Joint Surg Br 2008;90:778 4) R2J00011 安部幸雄.MB Orthop 2010;23:51 5) R2J00543 片山健ほか.中部整災誌 2013;56:951 6) R2J00288 安部幸雄ほか.骨折 2010;32:17 7) R2J00462 坂野裕昭.整外最小侵襲術誌 2009;52:35 8) R2F00352 Ono H, et al. J Orthop Sci 2012;17:443 9) RF00225 Ruch DS, et al. Arthroscopy 2004;20:225

66 第3章 治 療 3.3.手術療法/ 3.3.2.経皮的鋼線固定

3.3.2.経皮的鋼線固定

1 経皮的鋼線固定は有用か?Clinical Question

解 説

安価で簡便な経皮的鋼線固定は青壮年や小児において保存療法より画像評価,機能評価ともに優れるという報告が以前は多くなされていた.しかし,近年は掌側ロッキングプレートの出現によって,経皮的鋼線固定による治療の報告は減少している.良好な初期固定性を有する掌側ロッキングプレートとの比較研究において,経皮的鋼線固定は術後6 ヵ月までの臨床成績が劣るものの,術後12 ヵ月以上になると臨床成績に両者間での有意差はなくなっていた.このように経皮的鋼線固定の臨床成績は劣るものではないが,前版のガイドラインでも記述されているように高齢者に対する経皮的鋼線固定の適応は限定されること,また,粗鬆骨における固定力不足,刺入鋼線の弛みや鋼線露出による感染,早期の社会復帰が困難などの欠点もあり,現在ではその適応は限られているといってよい.ただし,その有用性は決して否定できるものではなく,臨床的には多発外傷で緊急の場合や患者の全身状態が悪く長時間の麻酔が制限される場合,夜間などでロッキングプレートの手配や準備ができない状況下などにおいては治療選択肢のひとつになりうるため,推奨度を2とした.

サイエンティフィックステートメント ● 成人のAO分類A3,C2,C3骨折に対する経皮的鋼線固定(179例),創外固定(140例)と各種プレート固定(328例)の臨床成績を術後3,6 ヵ月,1年で比較したメタ解析である.プレート固定はその他の固定法と比較して,術後3,6 ヵ月のDASHスコアにおいて有意に良好であった.しかし,術後12 ヵ月以降になると3群間で有意差はなくなった(R2F01123 meta-analysis).介入論文(5)

● 成人の不安定型関節外骨折に対して経皮的鋼線固定(29例)と掌側ロッキングプレート固定(27例)を施行した症例の臨床成績を術後6週,3,6ヵ月で比較検討した.掌側ロッキングプレート固定を施行した症例の術後3,6 ヵ月のDASH(disability of

推奨文

経皮的鋼線固定は,ほかの手術療法よりその利点が上回る場合に有用である.推奨の強さ エビデンス総体の総括2(弱い) C(弱)

673.3.手術療法/ 3.3.2.経皮的鋼線固定

the arm, shoulder and hand)スコアおよびGartland and Werleyの評価は経皮的鋼線固定を施行した症例よりも有意に良好であった(R2F00250 RCT).

● 成人のAO分類A3,C2,C3骨折に対して経皮的鋼線固定(64例)と角度固定型掌側ロッキングプレート固定(66例)の臨床成績を比較検討した.術後6週までは掌側ロッキングプレート固定における関節可動域(前腕回内外・手関節掌背屈)・画像評価・医療者側評価(Mayo Wrist Score)および患者立脚型評価(DASHスコア)は,経皮的鋼線固定を施行した症例よりも有意に良好であった.握力は全経過で有意に掌側ロッキングプレート固定が良好であった.掌側ロッキングプレート固定の治療成績は術後1年までの全経過で経皮的鋼線固定よりも良好であることから,早期の社会復帰を希望する患者には勧められる(R2F00589 RCT).

● 成人AO分類A2,C3骨折に対する経皮的鋼線固定(230例)と掌側ロッキングプレート固定(231例)の臨床成績を比較検討した.患者立脚型評価法であるDASHスコアおよびPRWE(Patient-Rated Wrist Evaluation)に関して,術後3,6,12 ヵ月で両者間の有意差はなかった.またQOL(quality of life)に関係した健康度を示すEuroQolや合併症の発生頻度にも有意差はなかった.なお,経皮的鋼線固定には掌側ロッキングプレート固定と比べて,安価で,特別な手術機材を必要としない利点もある(R2F01068 RCT).

● 成人のAO分類A2,A3,C1,C2骨折に対して経皮的鋼線固定を施行した22例と掌側ロッキングプレート固定を施行した23例の術後成績を比較した.DASHスコアは術後12週までは掌側ロッキングプレート固定が有意に良好であったが,その後に有意差はなくなった.握力,つまみ力,関節可動域は掌側ロッキングプレート固定が術後9週まで有意に良好な値を示した.ただし,術後1年では手関節可動域の尺屈のみが有意に良好であった.画像評価は両群間で有意差がなかった.掌側ロッキングプレート固定は経皮的鋼線固定よりも早期の機能回復が良好であるものの,術後1年で治療成績の差は認められなかった(RC00280 RCT).

● 40 ~ 60歳のFernandez分類Ⅲ型(AO分類C)骨折に対して,経皮的鋼線固定を施行した57例と掌側ロッキングプレート固定を施行した57例の臨床成績を術後1年で比較した.両群間にDASHスコアの有意差はなかったが,Mayo Wrist Score,画像評価において掌側ロッキングプレート固定は有意に良好であった.両群間で手関節掌背屈の可動域に有意差はなかったが,前腕回内外と握力において掌側ロッキングプレート固定は経皮的鋼線固定よりも有意に優れていた(R2F01016 RCT).

文 献 1) R2F00250 McFadyen I, et al. Injury 2011;42:162 2) RC00280 Rozental TD, et al. J Bone Joint Surg Am 2009;91:1837 3) R2F00589 Karantana A, et al. J Bone Joint Surg Am 2013;95:1737 4) R2F01016 Bahari-Kashani M, et al. Trauma Mon 2013;17:380 5) R2F01068 Costa ML, et al. BMJ 2014;349:g4807 6) R2F01123 Kasapinova K, et al. Prilozi 2014;35:225

68 第3章 治 療 3.3.手術療法/ 3.3.2.経皮的鋼線固定

2 経皮的鋼線固定の合併症は?Clinical Question

解 説

経皮的鋼線固定の合併症を明記した最新の文献はないが,合併症の記載を確認できた文献より抽出した発生頻度を以下に示す.ただし,鋼線に関連する合併症以外は一般的な橈骨遠位端骨折に伴って起こりうる合併症が含まれている.

● 鋼線刺入部周囲感染2 ~ 40% 1 ~ 20)

● 橈骨神経障害0~12% (このうちの多くは橈骨神経浅枝障害) 2, 4, 5, 7, 10 ~ 12, 17, 18, 20 ~ 23)

● 正中神経障害2 ~ 3% 2, 3, 5, 10, 14, 18, 23)

● 関節拘縮0.4 ~ 6.0% 4, 16, 20, 22)

● 複合性局所疼痛症候群 (complex regional pain syndrome:CRPS) 0~11% 2, 3, 7, 9, 17, 21)

● 腱断裂1 ~ 6% 1, 2, 9, 12, 19, 24)

● 矯正位損失,変形治癒1% 9, 17, 25)

● 鋼線埋没・迷入0 ~ 9% 5, 7, 9, 10, 20, 23)

最も報告が多かった合併症は刺入した鋼線周囲の感染であった.神経障害では橈骨神経障害が最多であり,鋼線を抜去することで多くの症例が自然に軽快していた.経皮鋼線固定に特有な合併症は鋼線の埋没や迷入であった.

その他,尺骨神経障害 18),骨萎縮,再骨折 12, 14)などの報告がある.

文 献 1) R2F00019 Desai A, et al. Acta Orthop Belg 2009;75:310 2) R2F00023 Hollevoet N, et al. Acta Orthop Belg 2011;77:180 3) R2F00142 Dzaja I, et al. Can J Surg 2013;56:378 4) R2F00237 Das AK, et al. Indian J Orthop 2011;45:422 5) R2F00250 McFadyen I, et al. Injury 2011;42:162 6) R2F00358 Lakshmanan P, et al. J Orthop Surg(Hong Kong)2010;18:85 7) R2F00459 Saddiki R, et al. Orthop Traumatol Surg Res 2012;98:61 8) R2F00490 Sadighi A, et al. Pak J Biol Sci 2010;13:706 9) R2F00522 Subramanian P, et al. Tech Hand Up Extrem Surg 2012;16:120 10) R2F00589 Karantana A, et al. J Bone Joint Surg Am 2013;95:1737 11) R2F00780 Hull P, et al. J Trauma 2011;70:125 12) R2F01068 Costa ML, et al. BMJ 2014;349:g4807 13) R2F01099 Mirhamidi SM, et al. Int J Clin Exp Med 2013;6:133 14) R2F01152 Tronci V, et al. Acta Biomed 2013;84:38 15) R2J00779 亀山真.日創外固定骨延長会誌 2010;21:103 16) R2C00063 Mardani KM, et al. Shiraz E-Med J 2011;12:155 17) RF00751 Lenoble E, et al. J Bone Joint Surg Br 1995;77:562 18) RF00977 Harley BJ, et al. J Hand Surg Am 2004;29:815 19) RF01045 Oshige T, et al. J Hand Surg Am 2007;32:1385 20) RJ01150 多田博.日手会誌 2004;21:549 21) R2F00517 Chen Y, et al. Surg Radiol Anat 2010;32:711

693.3.手術療法/ 3.3.2.経皮的鋼線固定

22) R2J00833 外間浩.MB Orthop 2014;27:19 23) RF00714 Strohm PC, et al. J Bone Joint Surg Am 2004;86-A:2621 24) R2J00139 佐竹寛史ほか.東日整災外会誌 2014;26:90 25) R2J00613 笠島俊彦ほか.日手会誌 2009;25:836

70 第3章 治 療 3.3.手術療法/ 3.3.3.創外固定

3.3.3.創外固定

1 創外固定は有用か?Clinical Question

解 説

創外固定は低侵襲で比較的強い固定力が得られる利点があり,手関節を固定するbridging創外固定と,固定しないnon-bridging創外固定の2種類がある.両者の臨床成績を比較した報告において有意差はないが,non-bridging創外固定は骨片の大きさや骨折型によってその適応が制限され,また術者の技術を必要とする.一方,bridging創外固定は手関節可動域訓練の開始がnon-bridging創外固定よりも遅れるものの,粉砕骨折や開放骨折など様々な骨折型にも用いられ,その手技は簡便である.掌側ロッキングプレートと創外固定の臨床成績の比較では,術後6 ヵ月までは掌側ロッキングプレート固定がDASH(disability of the arm, shoulder and hand)スコア,握力,関節可動域の点において創外固定よりも有意に良好であるが,12 ヵ月以降になると両者間で有意差はなくなる.したがって,創外固定の適応は,開放骨折や軟部組織の状態が不良な場合,およびプレートが準備できない状況などにある.一方,創外固定ピンの露出による感染や神経障害,関節拘縮などの欠点もあるため,その使用は限定的であることから推奨度を2とした.

サイエンティフィックステートメント ● 成人のAO分類AからC骨折に対して,non-bridgingとbridging創外固定を比較した8文献(1,151例)より臨床成績を比較検討した.高齢者では両群間において骨折型や機能評価,画像評価の有意差はなかった.しかし,全年齢層を対象にするとnon-bridging創外固定はbridging創外固定と比較して橈骨遠位端長(radial length:RL)の保持と術後早期の可動域に関しては良好な成績であった.なお,non-bridging創外固定は技術的に熟練した治療者が行うべきである(R2F00246 review).

● 成人のAO分類AからC骨折に対して創外固定(351例)と各種プレート固定(356例)の臨床成績(9文献,707例)を比較したメタ解析である.プレート固定が創外固定よりもDASHスコア,尺骨変異(ulnar variance:UV)と感染率において有意に良好であった(R2F00271 meta-analysis).

推奨文

創外固定は,ほかの手術療法よりその利点が上回る場合に有用である.推奨の強さ エビデンス総体の総括2(弱い) C(弱)

713.3.手術療法/ 3.3.3.創外固定

● 成人不安定型骨折(AO分類C3)に対して創外固定(365例)と各種プレート固定(373例)の臨床成績(10文献,732例)を比較したメタ解析である.プレート固定は術後3 ヵ月まではDASHスコア,橈骨遠位端尺側傾斜(radial inclination:RI)において創外固定より有意に良好であった(R2F00293 meta-analysis).

● 成人不安定型骨折に対し創外固定(417例)と各種プレート固定(407例)の臨床成績(11文献,824例)を術後3,6 ヵ月と1年で比較したメタ解析である.プレート固定を施行した症例では術後3 ヵ月までの握力と可動域,そして術後1年間の全経過観察においてDASHスコア,RIが創外固定を施行した症例よりも有意に良好であった.また,創外固定はプレート固定よりも感染率が高かった(R2F00462 meta-analysis).

● 成人のAO分類A3,C2,C3骨折に対する経皮的鋼線固定(179例),創外固定(140例)と各種プレート固定(328例)の臨床成績を術後3,6 ヵ月,1年で比較したメタ解析である.プレート固定群ではノンロッキングやロッキング,背側設置や掌側設置など多様なプレートが使用されていたが,この各種プレート固定群はその他の固定法群と比較して,術後3,6 ヵ月においてDASHスコアが有意に優れていた.しかし,術後1年以降になると3群間で臨床成績の有意差がなくなるため,特にどの固定法を強く推奨するという結果は導き出せなかった(R2F01123 meta-analysis).

● 成人不安定型骨折に対するbridging創外固定および経皮的鋼線固定(90例)と掌側ロッキングプレート固定(84例)の臨床成績(3文献,174例)を術後3,6 ヵ月と1年で比較したメタ解析である.掌側ロッキングプレート固定(84例)はいずれの時期においてもDASHスコアが有意に低かったが,握力,可動域に関して有意差はなかった.画像評価では掌側ロッキングプレート固定が橈骨遠位端掌側傾斜(palmar tilt:PT)で有意に良好であった以外に有意差はなかった.全経過を通して,掌側ロッキングプレート固定では創外固定よりも有意に良好な機能回復が認められたが,臨床的に差異が明らかなのは術後3 ヵ月間のみであった(R2F01124 meta-analysis).介入論文(2)

● 70歳以下の不安定型骨折(AO分類AおよびC1)に対しbridging創外固定に経皮的鋼線固定を追加した30例と掌側ロッキングプレート固定33例の臨床成績を術後 3,6,12 ヵ月で比較検討した.DASH スコア,PRWE(Patient-Rated Wrist Evaluation)と握力においては,掌側ロッキングプレート固定が術後3 ヵ月と6 ヵ月で有意に良好であったが,12 ヵ月では差がなかった.関節可動域は掌側ロッキングプレート固定が術後3 ヵ月で手関節尺屈以外の全てで,術後6 ヵ月では手関節背屈,前腕回内外で創外固定と比較し有意に良好であったが,術後12 ヵ月では有意差は認められなかった.最終調査時の画像評価では,橈骨短縮や背屈転位といった矯正損失が掌側ロッキングプレート固定で有意に少なかった.なお,創外固定は平均5週で抜去されていた(R2F00010 RCT).

● 成人の不安定型骨折(AO分類A2,A3,C1,C2,C3)に対して,bridging創外固定と経皮的鋼線固定を併用した54例と掌側ロッキングプレート固定50例との臨床成績を比較した.術後16週のQuickDASHスコア,握力,関節可動域,画像評価のすべてにおいて,両者間で有意差はなかった.術後26週では掌側ロッキングプ

72 第3章 治 療 3.3.手術療法/ 3.3.3.創外固定

レート固定を施行した症例がMayo Wrist Score,関節可動域(手関節背屈および橈屈,前腕回内),握力(健側比)において有意に良好であった.しかし,術後52週になるとMayo Wrist Score,関節可動域(前腕回外)のみが有意に優れていた.画像評価ではUVに関して全経過観察期間を通して掌側ロッキングプレート固定群が有意に良好であった(R2F00704 RCT).観察論文(1)

● 65歳以上の不安定型骨折(AO分類A2,A3,C1,C2,C3)にnon-bridging創外固定(25例)と角度固定型ロッキングプレート固定(25例)を使用し術後臨床成績を比較検討した.画像評価では術後整復位維持は角度固定型ロッキングプレート固定がnon-bridging創外固定よりも有意に優れていた.両群ともに握力の回復が不良であったが,Mayo Wrist Scoreに関して両群間で有意差はなかった(R2J00007 case control study).

文 献 1) R2F00010 Wilcke MK, et al. Acta Orthop 2011;82:76 2) R2F00246 Modi CS, et al. Injury 2010;41:1006 3) R2F00271 Esposito J, et al. Injury 2013;44:409 4) R2F00293 Cui Z, et al. Int Orthop 2011;35:1333 5) R2F00462 Wang J, et al. Orthop Traumatol Surg Res 2013;99:321 6) R2F00704 Williksen JH, et al. J Hand Surg Am 2013;38:1469 7) R2F01123 Kasapinova K, et al. Prilozi 2014;35:225 8) R2F01124 Walenkamp MM, et al. Strategies Trauma Limb Reconstr 2013;8:67 9) R2J00007 坂野裕昭.MB Orthop 2010;23:15

733.3.手術療法/ 3.3.3.創外固定

2 創外固定の合併症は?Clinical Question

解 説

創外固定に伴う合併症を明記した最新の文献はない.合併症の記載を確認できた文献から抽出した発生頻度を以下に示す.ただし,創外固定ピンに関連する合併症以外は一般的な橈骨遠位端骨折に伴って起こりうる合併症が含まれている.

● ピン刺入部周囲感染0 ~ 27% 1 ~ 35)

● 橈骨神経障害0 ~ 13% 1 ~ 4, 6, 8, 13, 19, 22 ~ 25, 28 ~ 30, 32, 35 ~ 37)

● 正中神経障害2 ~ 29% 1, 3, 8, 13, 15, 23 ~ 25, 32, 36, 38, 39)

● 関節拘縮0 ~ 20% 11, 13, 17, 18, 23, 25, 34, 35, 40, 41)

● 複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome:CRPS)0 ~ 10% 1, 9, 10, 12,

13, 15, 18 ~ 20, 22, 24, 26, 28, 31 ~ 33, 36)

● 長母指伸筋(EPL)腱断裂1% 13, 17, 22, 29, 31, 33)

● 矯正位損失,変形治癒2 ~ 21% 1 ~ 3, 8, 10, 11, 13, 17, 20, 31, 33, 34, 38 ~ 40, 42 ~ 44)

● ピン折損1 ~ 5% 7, 13, 40)

● コンパートメント症候群2% 20)

最も報告の多い合併症はピン周囲の感染であった.このピン周囲感染は多くの報告で創外固定の抜去時期(平均5 ~ 6週)まで注意深く観察されたのち,創外固定を抜去することで重度の障害にまで至らなかったとしている.次に報告の多い合併症は神経障害であり,その多くは橈骨神経浅枝の障害でピン抜去とともに改善していた.

non-bridging創外固定では正中神経障害の報告があった.矯正位損失,変形治癒の報告も多数認めたが,最終的には許容可能な範囲の変形であった.なお,non-bridging創外固定においてはEPL腱断裂やピン折損が特徴的な合併症であった.

その他,bridging創外固定では中手骨骨折 12)が報告されている.

文 献 1) R2F00006 Abramo A, et al. Acta Orthop 2009;80:478 2) R2F00010 Wilcke MK, et al. Acta Orthop 2011;82:76 3) R2F00014 Landgren M, et al. Acta Orthop 2011;82:610 4) R2C00056 Ismat UM. J Postgrad Med Inst 2012;26:311 5) R2F00064 Drobetz H, et al. ANZ J Surg 2011;81:46 6) R2F00224 Estrella EP, et al. Hand Surg 2012;17:173 7) R2F00246 Modi CS, et al. Injury 2010;41:1006 8) R2F00271 Esposito J, et al. Injury 2013;44:409 9) R2F00431 Pradhan RL, et al. Kathmandu Univ Med J(KUMJ)2009;7:369 10) RF00558 Kapoor H, et al. Injury 2000;31:75 11) R2F00561 Hove LM, et al. J Bone Joint Surg Am 2010;92:1687 12) R2F00627 Aktekin CN, et al. J Hand Surg Am 2010;35:736 13) R2F00653 Richard MJ, et al. J Hand Surg Am 2011;36:1614

74 第3章 治 療 3.3.手術療法/ 3.3.4.プレート固定

14) R2F00659 Grewal R, et al. J Hand Surg Am 2011;36:1899 15) R2F00704 Williksen JH, et al. J Hand Surg Am 2013;38:1469 16) R2F00718 Lutz K, et al. J Hand Surg Am 2014;39:1280 17) R2F00723 Andersen JK, et al. J Hand Surg Eur Vol 2009;34:475 18) R2F00907 Siripakarn Y, et al. J Med Assoc Thai 2013;96:446 19) R2F01092 Kulshrestha V, et al. Indian J Orthop 2011;45:527 20) R2F01105 Jorge-Mora AA, et al. J Hand Microsurg 2012;4:50 21) R2J00007 坂野裕昭.MB Orthop 2010;23:15 22) R2J00021 坂野裕昭.MB Orthop 2014;27:37 23) R2J00154 佐藤光太朗ほか.日手会誌 2010;26:30 24) R2J00210 伊藤聰一郎ほか.日生体電気物理刺激研会誌 2013;27:25 25) R2J00572 佐藤光太朗ほか.東日整災外会誌 2011;23:263 26) R2J00591 栗山幸治ほか.日手会誌 2009;25:342 27) R2J00779 亀山真.日創外固定骨延長会誌 2010;21:103 28) R2C00021 Handoll HHG, et al. Cochrane Database of Systematic Reviews 2013:CD006951 29) RF00013 Atroshi I, et al. Acta Orthop 2006;77:445 30) RF00207 Westphal T, et al. Arch Orthop Trauma Surg 2005;125:507 31) RF00760 McQueen MM. J Bone Joint Surg Br 1998;80:665 32) RF00977 Harley BJ, et al. J Hand Surg Am 2004;29:815 33) RF01126 Krishnan J, et al. J Hand Surg Br 2003;28:417 34) RF01127 Young CF, et al. J Hand Surg Br 2003;28:422 35) RJ01150 多田博.日手会誌 2004;21:549 36) R2F00611 Mirza A, et al. J Hand Surg Am 2009;34:603 37) R2F00259 Jeudy J, et al. Injury 2012;43:174 38) R2F00462 Wang J, et al. Orthop Traumatol Surg Res 2013;99:321 39) R2F00293 Cui Z, et al. Int Orthop 2011;35:1333 40) R2F00645 Kurylo JC, et al. J Hand Surg Am 2011;36:1131 41) R2J00613 笠島俊彦ほか.日手会誌 2009;25:836 42) R2J00377 林淳慈ほか.骨折 2013;35:801 43) R2F01145 Shaftel ND, et al. J Hand Surg Eur Vol 2014;39:429 44) R2F00761 Farah N, et al. J Hand Surg Eur Vol 2014;39:423

753.3.手術療法/ 3.3.4.プレート固定

解 説

背側ロッキングプレート固定とほかの治療法との比較研究は,掌側ロッキングプレート固定との比較の2編のみである.いずれも掌側ロッキングプレートと背側ロッキングプレートのどちらを使用するかは術者の判断により決定されており,エビデンスレベルの低い症例比較であった.しかし,背側ロッキングプレート固定は,掌側からでは整復困難な背側転位例や背側骨片の粉砕例などに限定した場合に有用な可能性がある.背側ロッキングプレートは転位した背側骨片を直接的に整復,固定できるといった利点を有する反面,合併症として長母指伸筋(EPL)などの伸筋腱障害の発生が懸念されるが,最近ではこの点を考慮した,プレート厚が薄くデザイン性に優れたものが使用できるようになってきている.

サイエンティフィックステートメント

観察論文(2) ● AO分類C3背側転位型粉砕骨折においてロッキングプレートを使用して治療した背側ロッキングプレート固定22例,掌側ロッキングプレート固定19例を比較した.X線評価では差がなかったが,手関節可動域の背屈(術後1,3,6 ヵ月),Gartland and Werleyの評価および握力(術後3,6 ヵ月)では背側ロッキングプレート固定が,手関節可動域の掌屈(術後1,3,6 ヵ月)では掌側ロッキングプレート固定が有意に良好であった.しかし,術後9,12 ヵ月時には両群間における有意差はなくなっていた(R2F00644 CCS).

● 橈骨遠位端骨折においてロッキングプレートを使用して治療した背側ロッキングプレート固定39例と掌側ロッキングプレート固定266例を比較した.DASH

(disabilities of the arm, shoulder and hand)スコア,握力,X線評価では差がなかったが,Gartland and Werleyの評価(術後6,12 ヵ月)と手関節可動域の掌背屈および尺屈と前腕回外可動域(術後6 ヵ月)では掌側ロッキングプレート固定が有意に

3.3.4.プレート固定

1 背側ロッキングプレート固定は有用か?Clinical Question

推奨文

背側ロッキングプレート固定は,他の手術療法よりその利点が上回る場合に行うことを考慮してもよい.

推奨の強さ エビデンス総体の総括2(弱い) D(とても弱い)

76 第3章 治 療 3.3.手術療法/ 3.3.4.プレート固定

良好であった.ただし,合併症の発生率については掌側ロッキングプレート固定(15%)が背側ロッキングプレート固定(5%)より高かった(R2F00253 CCS).

文 献 1) R2F00644 Chou YC, et al. J Hand Surg Am 2011;36:974 2) R2F00253 Matschke S, et al. Injury 2011;42:385

773.3.手術療法/ 3.3.4.プレート固定

2 掌側ロッキングプレート固定は有用か?Clinical Question

解 説

現在,掌側ロッキングプレート固定は本骨折に対する最も一般的な手術療法となっている.掌側ロッキングプレート固定の治療成績はギプス固定のみならず,経皮的鋼線固定,bridging創外固定などの主な手術療法よりも優れており,その傾向は術後6 ヵ月までの比較的早期に強いことが明らかとなった.したがって,青壮年者のみならず活動性の高い高齢者や独居など社会的背景により早期に手関節の機能を回復する必要性のある患者では極めて有用な治療法といえる.掌側ロッキングプレート固定の利点は,ほかの術式より初期固定性が良好なこと,早期から手が使用可能なこと,異物の体外露出もないことなどである.一方,本法の欠点としては屈筋腱や伸筋腱障害,神経障害などの二次的手術を要する合併症が多いこと,さらにプレート抜去の必要性や高コストといった点もあげられる.したがって,推奨度を2とした.これらの合併症を回避するためには,局所解剖や使用するプレートの特徴を熟知したうえで,正確な手技と正しい手順に基づいた手術が行われるべきである.

サイエンティフィックステートメント ● 成人不安定型骨折に対するbridging創外固定および経皮的鋼線固定90例と掌側ロッキングプレート固定84例の臨床成績(3文献,174例)を術後3,6 ヵ月,1年で比較したメタ解析である.掌側ロッキングプレート固定(84例)はいずれの時期においてもDASH(disabilities of the arm, shoulder and hand)スコアが有意に低かったが,握力,可動域に関しては有意差がなかった.X線評価では掌側ロッキングプレート固定が橈骨遠位端掌側傾斜(palmar tilt:PT)で有意に良好であった以外,橈骨遠位端尺側傾斜(radial inclination:RI),尺骨変異(ulnar variance:UV),橈骨遠位端長(radial length:RL)に有意差はなかった.全経過を通して,掌側ロッキングプレート固定は創外固定よりも有意に良好な機能回復を示したが,臨床的に違いが明らかなのは術後3 ヵ月間のみであった(R2F01124 meta-analysis).

● 60歳以上の不安定型骨折に対する5つの治療法(掌側ロッキングプレート固定,non-bridging創外固定,bridging創外固定,経皮的鋼線固定およびギプス固定)に

推奨文

掌側ロッキングプレートは初期固定性に優れていることから早期の機能回復には有用であるが,合併症には十分留意すべきである.

推奨の強さ エビデンス総体の総括2(弱い) A(強)

78 第3章 治 療 3.3.手術療法/ 3.3.4.プレート固定

関する21文献,1,010例のsystematic reviewである.ギプス固定ではX線評価が不良であるものの,機能的には手術療法との差はなかった.一方,合併症はギプス固定で最も少なかったのに対して,掌側ロッキングプレート固定は再手術を要する重大な合併症が多かった(R2F00642 review).介入論文(13)

● 50歳以上の背側転位型骨折に対する経皮的鋼線固定20例と掌側ロッキングプレート固定20例を比較した.DASHスコア,握力,可動域には両群間に有意差はなかった.X線評価ではUVの矯正のみ掌側ロッキングプレート固定のほうが有意に優れていた(R2F00023 RCT).

● 成人の不安定型関節外骨折に対する経皮的鋼線固定29例と掌側ロッキングプレート固定27例を術後6週,3,6 ヵ月で比較した.掌側ロッキングプレート固定はDASHスコアおよびGartland and Werleyの評価が3,6 ヵ月において経皮的鋼線固定よりも有意に良好であり,X線評価でもすべての経過中で有意に良好な成績であった(R2F00250 RCT).

● 成人のAO分類A3,C2,C3骨折に対して経皮的鋼線固定64例と掌側ロッキングプレート固定66例を比較した.掌側ロッキングプレート固定の治療成績は術後1年までの全経過で経皮的鋼線固定より良好であったが,有意差があるのは6週時のみであった.握力は全経過で有意差をもって掌側ロッキングプレート固定が良好であった.可動域については,6週の時点では手関節掌背屈,前腕回内外で掌側ロッキングプレート固定が有意に良好であったが,12週以降では有意差はなかった.X線評価でも1年後のPTとRLは掌側ロッキングプレート固定が有意に良好であった.術後早期の治療成績とX線評価において掌側ロッキングプレート固定が優れるため,早期の社会復帰を希望する患者には勧められるが,最終結果として経皮的鋼線固定を否定できる要素もない(R2F00589 RCT).

● 成人 AO 分類 A2,C3 骨折に対する経皮的鋼線固定術 230 例と掌側ロッキングプレート固定231例を比較した.患者立脚型評価法であるDASHスコアおよびPRWE(Patient-Rated Wrist Evaluation)では3,6,12 ヵ月で有意差はなかった.またQOL(quality of life)に関する健康度を示すEuroQol,合併症の発生頻度にも有意差はなかった.経皮的鋼線固定は安価で,特別な手術機材を必要としない利点がある(R2F01068 RCT).

● 成人のAO分類A2,A3,C1,C2骨折に対する経皮的鋼線固定22例と掌側ロッキングプレート固定23例を比較した.DASHスコアは術後12週までは掌側ロッキングプレート固定が有意に良好であったが,その後に有意差はなかった.握力,ピンチ力,関節可動域は掌側ロッキングプレート固定が術後9週まで有意に良好な値を示した.ただし,術後1年では手関節可動域の尺屈のみが有意に良好であった.X線評価では両群に有意差はなかった.掌側ロッキングプレート固定は経皮的鋼線固定よりも早期の機能回復が良好であるが,術後1年ではほぼ差はない(RC00280 RCT).

● 40 ~ 60歳のFernandez分類Ⅲ型(AO分類C)骨折に対する経皮的鋼線固定57例と掌側ロッキングプレート固定57例を術後1年で比較した.DASHスコアに差はなかったが,Mayo Wrist Score,X線評価では掌側ロッキングプレート固定が有意に良好であった.関節可動域では手関節掌背屈には有意差はないが,前腕回内外と

793.3.手術療法/ 3.3.4.プレート固定

握力では掌側ロッキングプレート固定が有意に良好であった(R2F01016 RCT). ● 40 ~ 80歳の転位の大きい関節内骨折に対して,bridging創外固定に経皮的鋼線固定を追加した39例と掌側ロッキングプレート固定36例を比較した.6 ヵ月後の最終調査時,Green and O’ Brienの評価および握力で掌側ロッキングプレート固定が有意に良好であったが,関節可動域,X線評価,Knirk and Jupiterの関節症評価には有意差はなかった(R2F00259 RCT).

● 成人のAO分類A2,A3,C1,C2,C3骨折に対して,bridging創外固定に経皮的鋼線固定を追加した54例と掌側ロッキングプレート固定50例を比較した.術後16週ではQuickDASHスコア,握力,関節可動域,X線評価のすべてにおいて有意差はなかった.26週では掌側ロッキングプレート固定において,Mayo Wrist Score,関節可動域(手関節背屈および橈屈,前腕回内),握力(健側比)で有意に良好であったが,術後52週では,Mayo Wrist Score,関節可動域のうち前腕回外のみ有意に良好であった.X線評価ではUVが全経過観察期間で掌側ロッキングプレート固定が有意に良好であった(R2F00704 RCT).

● 成人のAO分類AからC骨折に対して,bridging創外固定に経皮的鋼線固定を追加した38例と掌側ロッキングプレート固定39例の臨床成績を術後3,6 ヵ月,1年で比較した.全経過中でDASHスコア,握力,X線評価では有意差はなかった.関節可動域については掌側ロッキングプレート固定が,3 ヵ月後の手関節背屈・橈屈および前腕回内外,6 ヵ月後の手関節背屈と前腕回内,1年後の前腕回内で有意に良好であった(RC00282 RCT).

● 成人の不安定型背側転位型(AO分類AおよびC1)骨折に対するbridging創外固定に経皮的鋼線固定を追加した30例と掌側ロッキングプレート固定33例の臨床成績を術後3,6,12 ヵ月で比較した.DASHスコア,PRWEと握力においては,掌側ロッキングプレート固定が術後3,6 ヵ月で有意に良好であったが,12 ヵ月では差がなかった.関節可動域は3 ヵ月後では手関節尺屈以外のすべてで,6 ヵ月後では手関節背屈,前腕回内外で掌側ロッキングプレート固定が有意に良好であったが,12 ヵ月後では有意差はなかった.最終調査時のX線評価では,橈骨短縮や背屈転位といった矯正損失が掌側ロッキングプレート固定で有意に少なかった(R2F00010 RCT).

● 25 ~ 89歳のAO分類A2,A3,B1.1,B1.2といった比較的単純な骨折型の症例に対して,髄内釘と掌側ロッキングプレート固定の治療成績を比較した.術後6週ではDASHスコア,Mayo Wrist Score,関節可動域において髄内釘が有意に良好であったが,3 ヵ月~ 1年では有意差はなかった.X線評価は全経過において同等であった

(R2F00758 RCT). ● 30歳代後半~ 60歳代のAO分類B,Cに対する保存療法32例と掌側ロッキングプレート固定32例を術後6週,3,6,12,18,24 ヵ月で比較した.最終調査時DASHスコア,Green and O’ Brienの評価ともに掌側ロッキングプレート固定の方が有意に良好であった.握力,関節可動域ともに6週の時点でも最終調査時でも掌側ロッキングプレート固定が有意に良好であった.最終調査時のX線評価ではRI,PT,RLで掌側ロッキングプレート固定が有意に良好であった(R2F00356 RCT).

● 65歳以上のAO分類AからC骨折に対して,掌側ロッキングプレート固定36例と保存療法37例を術後6,12週,6,12 ヵ月で比較した.DASHスコアおよびPRWE

80 第3章 治 療 3.3.手術療法/ 3.3.4.プレート固定

では,12週までは掌側ロッキングプレート固定が有意に良好であったが,6,12 ヵ月では有意差はなかった.握力は掌側ロッキングプレート固定が全経過で有意に良好であったが,関節可動域は全経過で有意差はなかった.X線評価では掌側ロッキングプレート固定が全例で良好な整復位が得られており,保存療法の全例で変形治癒[橈骨遠位端背側傾斜(dorsal tilt:DT)>10°,橈骨短縮>2 mm,関節面段差

(step-off)>1 mm]をきたしていた.術後12 ヵ月における矯正損失はDT,RI,UVにおいて有意に掌側ロッキングプレート固定で少なかった(R2F00576 RCT).

文 献 1) R2F01124 Walenkamp MM, et al. Strategies Trauma Limb Reconstr 2013;8:67 2) R2F00642 Diaz-Garcia RJ, et al. J Hand Surg Am 2011;36:824 3) R2F00023 Hollevoet N, et al. Acta Orthop Belg 2011;77:180 4) R2F00250 McFadyen I, et al. Injury 2011;42:162 5) R2F00589 Karantana A, et al. J Bone Joint Surg Am 2013;95:1737 6) R2F01068 Costa ML, et al. BMJ 2014;349:g4807 7) RC00280 Rozental TD, et al. J Bone Joint Surg Am 2009;91:1837 8) R2F01016 Bahari-Kashani M, et al. Trauma Mon 2013;17:380 9) R2F00259 Jeudy J, et al. Injury 2012;43:174 10) R2F00704 Williksen JH, et al. J Hand Surg Am 2013;38:1469 11) RC00282 Egol K, et al. J Bone Joint Surg Br 2008;90-B:1214 12) R2F00010 Wilcke MK, et al. Acta Orthop 2011;82:76 13) R2F00758 Safi A, et al. J Hand Surg Eur Vol 2013;38:774 14) R2F00356 Sharma H, et al. J Orthop Sci 2014;19:537 15) R2F00576 Arora R, et al. J Bone Joint Surg Am 2011;93:2146

813.3.手術療法/ 3.3.4.プレート固定

3 ノンロッキングプレート固定は有用か?Clinical Question

解 説

本邦では2002年にKamanoらが背側転位型橈骨遠位端骨折に対する掌側ノンロッキングプレート固定をはじめて報告し,良好な機能評価とX線評価を示し合併症もなかったとしている.しかし,これまでにノンロッキングプレート固定が経皮的鋼線固定やbridgingおよびnon-bridging創外固定よりも有用であるという比較研究はない.一方,2000年に掌側ロッキングプレート固定が報告されてからはノンロッキングプレート固定との比較研究が国内外で多数報告され,掌側ロッキングプレート固定の優位性を示す報告が多い.背側ノンロッキングプレート固定との比較研究では機能評価およびX線評価ともに掌側ロッキングプレート固定が優位であったとされる.また,掌側ノンロッキングプレート固定との比較研究では,機能評価に有意差はなくX線評価において有意にノンロッキングプレート固定が矯正損失をきたしたとする報告が多い.また,患者の身体的・経済的負担を考慮しても,ほかの手術法と比較してノンロッキングプレート固定が推奨されるエビデンスはない.

サイエンティフィックステートメント

介入論文(1) ● 55歳以上の高齢者の背側転位型橈骨遠位端骨折に対して掌側ロッキングプレート固定22例と掌側ノンロッキングプレート固定31例を無作為割り付けで選択し,比較した.術前と術後最終調査時のX線評価[橈骨遠位端掌側傾斜(palmar tilt:PT),橈骨遠位端長(radial length:RL),橈骨遠位端尺側傾斜(radial inclination:RI)]やGartland and Werleyの評価において有意差はなかった.しかし関節可動域は手関節掌屈のみ掌側ロッキングプレート固定群が有意に良好であった.両群とも腱障害や神経障害をきたした症例はなかった(RF01684 RCT).なお,本報告における掌側ロッキングプレートは本邦ではすでに販売停止となったDistal Radi-us Plate ®(マティス社,東京)であり,現在広く用いられているアナトミカルロッキングプレートとは仕様が異なる.観察論文(9)

● 成人の背側転位型橈骨遠位端骨折において,掌側ノンロッキングプレート固定30

推奨文

ノンロッキングプレート固定の有用性は限定的である.推奨の強さ エビデンス総体の総括3(なし) C(弱)

82 第3章 治 療 3.3.手術療法/ 3.3.4.プレート固定

例と掌側ロッキングプレート固定30例を比較した.DASH(disabilities of the arm, shoulder and hand)スコア,Mayo Wrist Score,Green and O’ Brienの評価,Gartland and Werleyの評価のすべてにおいて有意差はなかった.掌側ノンロッキングプレート固定群で有意に優れていたのは前腕回内可動域のみであった.掌側ロッキングプレート固定群で有意に優れていたのは術後のPTとRIであった.海綿骨移植を併用したのは,掌側ノンロッキングプレート固定群25例,掌側ロッキングプレート固定群13例で有意差を認めた(R2F00468 CCS).

● 成人の不安定型橈骨遠位端骨折において,掌側ノンロッキングプレート固定30例と掌側ロッキングプレート固定50例を比較した.Mayo Wrist Scoreに有意差はなかった.X線評価で尺骨変異(ulnar variance:UV)の矯正損失のみ掌側ロッキングプレート固定が有意に小さかった.掌側ノンロッキングプレート固定では骨癒合完成までUVが増加する(RJ01215 CCS).

● 成人のAO分類C骨折において,掌側ノンロッキングプレート固定57例と掌側ロッキングプレート固定43例を比較した.Mayo Wrist Scoreおよび関節可動域の背屈,橈屈,尺屈,回外において掌側ロッキングプレート固定が有意に優れていた.斎藤評価および握力に有意差はなかった.手術時と骨癒合時のX線評価の比較では,掌側ノンロッキングプレート固定においてUVとPTで有意差をもって矯正損失をきたした(RJ01240 CCS).

● 成人のAO分類C型骨折における掌側ノンロッキングプレート固定31例と掌側ロッキングプレート固定37例を比較した.Mayo Wrist Score,関節可動域,握力,術後合併症において有意差はなかったが,X線評価ではUVとPTの術後整復位維持は掌側ロッキングプレート固定群が有意に良好であった.特に背側転位型骨折と60歳以上の症例においてその傾向が強かった(RJ01241 CCS).

● 60歳以上の女性で背側転位型骨折と掌側転位型骨折を含む症例群を対象に,掌側ノンロッキングプレート固定21例と掌側ロッキングプレート固定42例を比較した.掌側ノンロッキングプレート固定は背側転位型,掌側転位型,AO分類CのいずれもUV,PTの矯正損失が有意に大きかった.関節可動域は手関節背屈が掌側ロッキングプレート固定で有意に良好であったが,握力,Mayo Wrist Scoreでは有意差はなかった(RJ01466 CCS).

● 成人のAO分類AからC骨折において,掌側ノンロッキングプレート固定32例と角度可変型掌側ロッキングプレート固定32例を比較した.Mayo Wrist Scoreで有意差はなかった.X線評価においてPT,RI,UVのいずれも角度可変型掌側ロッキングプレート固定群が有意差をもって矯正損失が少なかった(RJ01661 CCS).

● 成人の背側転位型AO分類C型骨折において背側ノンロッキングプレート固定40例と掌側ロッキングプレート固定53例を比較した.斎藤評価と握力は有意差がなかった.Mayo Wrist Score,手関節背屈,前腕回外で掌側ロッキングプレート固定が有意に優れていた.術直後と骨癒合時のX線評価の比較では,背側ノンロッキングプレート固定においてUVとPTで有意差をもって矯正損失をきたした(RJ01677 CCS).

● 成人の背側転位型橈骨遠位端骨折に対し,掌側ノンロッキングプレート固定を行った33例の臨床成績を調査した.平均年齢は54歳(23 ~ 75歳),術後平均経過観察期間14 ヵ月(12 ~ 30 ヵ月)であった.Gartland and Werleyの評価でexcellent 12

833.3.手術療法/ 3.3.4.プレート固定

例,good 20例,fair 1例であった.X線評価でPT,RI,RL,UVは術前と比較し,最終調査時に有意に改善した.合併症は認めなかった(RF00358 CCS).

● 成人の背側転位型橈骨遠位端骨折に対し,背側ノンロッキングミニプレート固定を行った34例35手(8例で掌側支持プレート固定の追加,19例に関節面の直下の骨欠損に対して腸骨から骨移植の追加)の臨床成績を調査した.平均年齢は39歳(17 ~ 67歳),術後平均経過観察期間は36 ヵ月(7 ~ 69 ヵ月)であった.Mayo Wrist Scoreでexcellent 12例,good 4例,fair 8例であった.PTは平均6°であり,関節面段差(step-off)は18骨折中3例(2例が1 mm,1例が2 mm)に認めた.関節症性変化は25 ヵ月以上追跡できた関節内骨折10例中6例に確認できた(Knirk and Jupiterによる関節症評価でgrade 1が5例,grade 2が1例)(R2F00993 CCS).

文 献 1) RF01684 Koshimune M, et al. J Hand Surg Br 2005;30:499 2) R2F00468 Osti M, et al. Orthopedics 2012;35:1613 3) RJ01215 古田和彦ほか.日手会誌 2006;23:287 4) RJ01240 亀井秀造ほか.日手会誌 2006;23:883 5) RJ01241 川崎恵吉ほか.日手会誌 2006;23:888 6) RJ01466 門馬秀介ほか.関東整災外会誌 2008;39:137 7) RJ01661 瀬戸信一朗ほか.日手会誌 2008;25:106 8) RJ01677 高井盛光ほか.骨折 2009;31:233 9) RF00358 Kamano M, et al. Clin Orthop Relat Res 2002;397:403 10) R2F00993 Hems TE, et al. J Hand Surg Eur Vol 2010;35:56

84 第3章 治 療 3.3.手術療法/ 3.3.4.プレート固定

4 角度固定型(単方向性)掌側ロッキング プレート固定は有用か?

Clinical Question

解 説

ここではプレートと遠位ロッキングスクリューとの角度が定方向性である角度固定型(単方向性)掌側ロッキングプレート(fixed angle locking plate / monoaxial locking plate:MLP)を検討した.掌側ロッキングプレートは当初MLPが作製され,その後ロッキングスクリューの挿入方向に自由度がある角度可変型(多方向性)掌側ロッキングプレート(variable angle / polyaxial locking plate:PLP)が作製された.MLPは,ロッキングスクリューとプレート連結部の角度安定性があり,保存療法における外固定,経皮的鋼線固定,創外固定,ノンロッキングプレート,PLPに比べて固定性は良好である.また,ピンや鋼線などの体外への異物露出がなく,早期の機能評価や最終的なX線評価も良好であることから,早期の社会復帰には有用である,との報告が多い.しかし,1年以降の機能評価に関しては,保存療法,経皮的鋼線固定および創外固定追加,ノンロッキングプレート,背側プレートと比べても,有意な差が証明されていない.また,屈筋腱や伸筋腱損傷,神経障害などの合併症や,プレート抜去のための再手術とそれに伴う患者の負担,医療費の増大などの欠点もある.以上より,推奨度を2とした.

サイエンティフィックステートメント

介入論文(7) ● 背側転位型橈骨遠位端関節外骨折に対するMLP群(27例)と経皮的鋼線固定群(29例)を,術後 6 週,3,6 ヵ月で比較した.MLP は DASH(disabilities of the arm, shoulder and hand)スコアとGartland and Werleyの評価において術後3,6 ヵ月で有意に良好で,X線評価もすべての経過中で有意に良好であった(R2F00250 RCT).

● AO分類A3,C2,C3橈骨遠位端骨折に対するMLP群(66例)と経皮的鋼線固定群(64例)を,術後6,12週,1年で比較した.MLPのほうが有意に良好なものは,全経過中の握力,6週での手関節背屈と前腕回内外とDASHスコア,1年での橈骨遠位端掌側傾斜(palmar tilit:PT)と橈骨遠位端長(radial length:RL)であった

(R2F00589 RCT).

推奨文

角度固定型(単方向性)掌側ロッキングプレートは固定性に優れ,早期の社会復帰に有用であるが,合併症には十分留意すべきである.

推奨の強さ エビデンス総体の総括2(弱い) A(強)

853.3.手術療法/ 3.3.4.プレート固定

● 粉砕型橈骨遠位端骨折に対するMLP群(36例)と創外固定群(39例)を,術後6週,6 ヵ月で比較した.MLPのほうが有意に良好なものは,6週,6 ヵ月のGreen and O’ Brienの評価,6 ヵ月の握力であった.全期間において関節可動域とX線評価には有意な差はなかった(R2F00259 RCT).

● 不安定型橈骨遠位端骨折に対するMLP群(50例)と経皮的鋼線固定に創外固定追加群(54例)を,術後16,26,52週で比較した.MLPのほうが有意に良好なものは,26週のMayo Wrist Score,可動域(手関節背屈,橈屈,前腕回内),握力,52週のMayo Wrist Score,可動域(前腕回外),全期間での尺骨変異(ulnar variance:UV)であった(R2F00704 RCT).

● 転倒(高エネルギー外傷を除く)による50歳以上の背側転位型橈骨遠位端骨折に対するMLP群(20例)と経皮的鋼線固定群(20例)を,術後5週,3 ヵ月,1年以上で比較した.MLPのほうが有意に良好なものは,1年以上でのUVのみで,全期間のDASHスコア,握力,関節可動域には差がなかった(R2F00023 RCT).

● 高齢者の背側転位型橈骨遠位端骨折に対するMLP群(22例)とノンロッキングプレート群(31例)を,術後6 ヵ月以上(平均12 ヵ月)で比較した.X線評価・臨床評価(Gartland and Werleyの評価,関節可動域)ともに有意な差はなかった(RF01684 RCT).

● 65歳以上のAO分類AおよびC骨折に対するMLP群(36例)と保存療法群(37例)を,6,12週,6,12 ヵ月で比較した.握力は全経過でMLPが有意に良好であったが,可動域は全経過で有意差はなかった.DASHスコアとPRWE(Patient-Rated Wrist Evaluation)は,術後12週まではMLPが有意に良好であったが,術後6 ヵ月以降では有意差はなかった.X線評価では,術後12 ヵ月における橈骨遠位端背側傾斜(dorsal tilt:DT),橈骨遠位端尺側傾斜(radial inclination:RI),UVの矯正損失はMLPで有意に少なく,保存療法群の全例で変形治癒[DT>10°,橈骨短縮>2 mm,関節面段差(step-off)>1 mm]をきたしていた(R2F00576 RCT).

文 献 1) R2F00250 McFadyen I, et al. Injury 2011;42:162 2) R2F00589 Karantana A, et al. J Bone Joint Surg Am 2013;95:1737 3) R2F00259 Jeudy J, et al. Injury 2012;43:174 4) R2F00704 Williksen JH, et al. J Hand Surg Am 2013;38:1469 5) R2F00023 Hollevoet N, et al. Acta Orthop Belg 2011;77:180 6) RF01684 Koshimune M, et al. J Hand Surg Br 2005;30:499 7) R2F00576 Arora R, et al. J Bone Joint Surg Am 2011;93:2146

86 第3章 治 療 3.3.手術療法/ 3.3.4.プレート固定

5 角度可変型(多方向性)掌側ロッキング プレート固定は有用か?

Clinical Question

解 説

ここでは,ロッキングスクリューの挿入方向に自由度がある角度可変型(多方向性)掌側ロッキングプレート(variable angle / polyaxial locking plate:PLP)について検討した.PLPは開発から間もないためかエビデンスの高い文献は少ない.PLPはそのスクリュー刺入方向の自由度から,プレート設置位置にも自由度が得られ,種々の骨折型への応用が期待されている.高齢者やAO分類C3骨折に対しては,自由にロッキングスクリューを軟骨下や各骨片に狙って挿入でき,関節辺縁骨折に対しては,プレートを十分な支持(buttress)効果が得られるように設置することも可能である.一方,角度固定型(単方向性)掌側ロッキングプレート(fixed angle locking plate / monoaxial locking plate:MLP)に比べて,X線透視・手術時間の延長,煩雑な手術手技,角度安定性(スクリューとプレートとの間の固定力)の低下に伴う遠位ロッキングスクリューの使用本数の増加やそれに伴うコスト上昇,などの欠点がある.ただし,PLPとMLPとの間で,X線評価と機能評価において有意な差はない.PLPは,ノンロッキングプレート固定,経皮的鋼線固定や創外固定と比べて固定性が高く,X線評価も良好であることから,MLPと同様に早期の社会復帰には有用である.以上より,推奨度を2とした.

サイエンティフィックステートメント

介入論文(3) ● 関節外と橈骨遠位端単純関節内骨折に対するPLP群(31例)と髄内釘群(31例)を,術後6週,3,12 ヵ月で比較した.関節可動域,DASH(disabilities of the arm, shoulder and hand)スコア,Mayo Wrist Scoreは,6週では髄内釘が良好であったが,3,12 ヵ月では有意な差はなかった.X線評価は全期間で有意な差はなかった

(R2F00758 RCT). ● 橈骨遠位端関節内骨折(AO分類C1,2,3)に対するPLP群(22例)と背側ロッキングプレート群(20例)を,術後6週,3,6,12 ヵ月で比較した.PLPのほうが有意に良好なものは,全期間での手関節掌背屈と握力,3 ヵ月以降の前腕回内外,6 ヵ月までの疼痛スコアであった.12ヵ月でのX線評価では,橈骨遠位端掌側傾斜(palmar

推奨文

角度可変型(多方向性)掌側ロッキングプレートは多様な骨折型に有用であるが,手術手技が若干煩雑なことに留意すべきである.

推奨の強さ エビデンス総体の総括2(弱い) B(中)

873.3.手術療法/ 3.3.4.プレート固定

tilt:PT)以外は有意な差はなかった(R2F00894 RCT). ● 橈骨遠位端関節内骨折(AO分類B,C1,C2)に対するPLP群(39手)と経皮的鋼線固定群(38手)を術後12 ヵ月で比較した.PLP群のほうが,AO分類CにおけるMayo Wrist Scoreと橈骨遠位端尺側傾斜(radial inclination:RI)が有意に良好であったが,AO分類BにおけるDASHスコア,Mayo Wrist ScoreとX線評価には有意な差はなかった(R2F01152 N-RCT).観察論文(4)

● 橈骨遠位端骨折に対するPLP群(65例)とMLP群(42例)を術後7 ヵ月以降(他覚的評価は4 ヵ月以降)で比較した.X線評価,疼痛(visual analogue scale:VAS),Mayo Wrist Score,DASHスコアともに有意な差はなかった(R2F00806 CCS).

● 橈骨遠位端骨折に対するPLP群(41例)とMLP群(41例)を術後6 ヵ月以降で比較した.PTの矯正損失はMLPが有意に少なかった.Mayo Wrist Scoreと合併症の発生率は,有意な差がなかった(R2J00616 CCS).

● 高齢者の橈骨遠位端骨折に対するPLP群(25例)とMLP群(21例)を術後6 ヵ月以降で比較した.MLP群はPTの保持が有意に良好で,PLP群は手関節背屈,前腕回内外の改善が有意に良好であった(R2J00085 CCS).

● 橈骨遠位端骨折に対するPLP群(32例)と掌側ノンロッキングプレート群(32例)を術後12 ヵ月で比較した.PTの矯正損失はPLPが有意に少なかったが,Mayo Wrist Scoreには有意な差がなかった(RJ01661 CCS).

文 献 1) R2F00758 Safi A, et al. J Hand Surg Eur Vol 2013;38:774 2) R2F00894 Jakubietz MG, et al. J Orthop Surg Res 2012;7:8 3) R2F01152 Tronci V, et al. Acta Biomed 2013;84:38 4) R2F00806 Marlow WJ, et al. Acta Orthop Belg 2012;78:309 5) R2J00616 川崎恵吉ほか.日手会誌 2010;26:23 6) R2J00085 浅野研一ほか.骨折 2014;36:188 7) RJ01661 瀬戸信一朗ほか. 日手会誌 2008;25:106

88 第3章 治 療 3.3.手術療法/ 3.3.4.プレート固定

6 掌側ロッキングプレートに骨 (人工骨) 移植は有用か?Clinical Question

解 説

掌側ロッキングプレート固定における骨(人工骨)移植が有用であるという研究,あるいは不要であるという比較研究の報告はわずかである.人工骨の使用の有無により,X線評価で有意に矯正損失を生じた,もしくは生じなかったという,相反する報告がそれぞれ少数存在し,いまだ結論には至っていない.以前は骨補填に対して自家骨移植が行われていたが,最近は生体親和性,骨伝導能に優れた人工骨が出現し,またその形状や硬度も選択可能となった.人工骨移植は自家骨移植に比べて,採骨に伴う合併症(採骨部痛,神経血管損傷など)を回避でき,人工骨の多くは将来的に自家骨に置換され,さらに固定性が増加するという,大きな利点が存在する.掌側ロッキングプレートの固定性が十分であることから,橈骨遠位端骨折の全例に人工骨を使用する必要はなく,骨粗鬆症を有する高齢者,骨折部の空隙,関節面および骨幹端の皮質骨の粉砕,などで必要に応じて使用されるべきである.一方,人工骨移植を行うことの欠点としては,コストの上昇と異物反応(たとえばアレルギーなど)である点,などが考えられる.以上より,推奨度を2とした.

現在日本国内で販売されている人工骨ハイドロキシアパタイト(hydroxyapatite:HAP):非置換材料(ハードタイプ)b型リン酸三カルシウム( b-tricalcium phosphate:b-TCP):吸収置換型材料

(ハードタイプ)a型リン酸三カルシウム( a-tricalcium phosphate:a-TCP):硬化型材料(ペー

ストタイプ)HAP+タイプⅠコラーゲン:複合材料(スポンジタイプ)

サイエンティフィックステートメント

介入論文(1) ● 65歳以上の橈骨遠位端骨折に対して掌側ロッキングプレート固定を行った50例のうち,人工骨(a-TCP)を移植した25例と移植しなかった25例を,術後12 ヵ月で比較した.X線評価も機能評価,握力,関節可動域,疼痛(visual analogue scale:

推奨文

高度に骨が脆弱な症例や骨折部に大きな空隙を生じた場合に,骨(人工骨)移植は有用である.

推奨の強さ エビデンス総体の総括2(弱い) B(中)

893.3.手術療法/ 3.3.4.プレート固定

VAS),Mayo Wrist Score,DASH(disabilities of the arm, shoulder and hand)スコアのいずれも2群間に差はなかった(R2F00569 RCT).観察論文(3)

● 橈骨遠位端骨折に対して掌側ロッキングプレート固定を行った143手のうち,自家骨移植を追加した38手と,骨移植をしなかった105手を比較した.移植群で,橈骨遠位端掌側傾斜(palmar tilt:PT)の矯正損失が有意に少なかったが,関節可動域,疼痛,Hand20には有意な差がなかった(R2J00604 CCS).

● 50歳以上の骨幹端の粉砕を伴う橈骨遠位端骨折に対して掌側ロッキングプレート固定を行った25手のうち,人工骨(HA)移植を行った7例と行わなかった18例を比較した.非移植群で尺骨変異(ulnar variance:UV)が有意に増加したが,関節可動域,握力,斎藤の評価に有意な差はなかった(R2F00217 CCS).

● CT矢状断像上で背側に20 mm2 の骨欠損を生じた橈骨遠位端骨折に対して,掌側ロッキングプレート固定を行った24例のうち,人工骨移植(a-,b-TCP)を行った3例と行わなかった21例を,術後平均6.8 ヵ月で比較した.X線評価,関節可動域,握力,Hand20において2群間に有意な差はなかった(R2J00564 CCS).

文 献 1) R2F00569 Kim JK, et al. J Bone Joint Surg Am 2011;93:609 2) R2J00604 渥美覚ほか.日手会誌 2009;25:690 3) R2F00217 Goto A, et al. Hand Surg 2011;16:29 4) R2J00564 丹羽智史ほか.東海整外外傷研会誌 2012;25:119

90 第3章 治 療 3.3.手術療法/ 3.3.4.プレート固定

7 関節内粉砕骨折に複数プレートは有用か?Clinical Question

解 説

橈骨遠位端骨折に対する複数プレートの使用については,Medoffのfragment-specific fixation(FSF)法が提唱されている.しかし,複数プレートの有無による比較研究は少なく,エビデンスレベルも高くない.現在本邦では,FSF法に用いられているプレートシステムの代わりに,ほかのプレートを使用して,2 ヵ所以上の部位(掌側,背側,橈側)に設置して固定する方法が報告されている.複数プレート群は,創外固定群や掌側ロッキングプレート単独群と比較して,その優劣は報告者によって異なっており結論は出ていない.複数プレートを使用することは,手技の煩雑さ,複数部位の展開による腫脹の増大や手術時間の延長,腱障害(橈側や背側プレートによる伸筋腱)や神経障害(橈側プレートによる橈骨神経浅枝),コストの上昇,などの欠点もあるが,固定性は増加し,特に掌側ロッキングプレートのみでは対処困難な関節内粉砕骨折例には有用である.以上より,推奨度を2とした.

サイエンティフィックステートメント

介入論文(2) ● 65歳以下の不安定型橈骨遠位端骨折に対して治療したFSF群(26例)と徒手整復後の創外固定群(24例)を,術後1年で比較した.DASH(disabilities of the arm, shoulder and hand)スコアとX線評価には差はなかったが,握力,関節可動域,変形癒合による再手術の頻度については,FSF群が有意に優れていた(R2F00006 RCT).

● 65歳以下の不安定型橈骨遠位端骨折に対して行ったFSF群(26例)と徒手整復後の創外固定群(24例)の報告(R2F00006)の,さらに中長期経過(術後3 ~ 7年)を調査した.術後平均5年で両群間のQuickDASHスコア,握力,可動域,X線評価に有意な差はなかった(R2F00014 RCT).観察論文(2)

● AO分類C3背側転位型橈骨遠位端骨折に対して背側+橈側または掌側からロッキングプレートを用いて固定した2枚プレート群(22例)と,掌側のみの1枚プレート群(19例)を,術後3,6,9,12 ヵ月で比較した.術後3,6 ヵ月でのみ,2枚プレー

推奨文

複数プレートは,掌側ロッキングプレート単独では固定性が不十分と考えられる場合には有用であるが,合併症には十分留意すべきである.

推奨の強さ エビデンス総体の総括2(弱い) B(中)

913.3.手術療法/ 3.3.4.プレート固定

ト群は手関節背屈可動域,握力,Gartland and Werleyの評価が,1枚プレート群は手関節掌屈が有意に良好であったが,9,12 ヵ月ではその差はなくなっていた.X線評価は有意な差がなかった.2枚プレート群の1例で反射性交感神経性ジストロフィーを,1枚プレート群の4例で一過性の正中神経領域のしびれを生じていた

(R2F00644 CCS). ● AO分類C3橈骨遠位端骨折に対して角度可変型ロッキングプレートを用いた背側および橈側からの2枚プレート固定群(21例)と,掌側からの1枚プレート群(30例)を比較した.2枚プレート固定群のほうが橈骨長の矯正損失は有意に少なかったが,手関節背屈可動域が有意に劣っていた(R2J00655 CCS).

文 献 1) R2F00006 Abramo A, et al. Acta Orthop 2009;80:478 2) R2F00014 Landgren M, et al. Acta Orthop 2011;82:610 3) R2F00644 Chou YC, et al. J Hand Surg Am 2011;36:974 4) R2J00655 泉山公ほか. 日手会誌 2010;27:248

92 第3章 治 療 3.3.手術療法/ 3.3.4.プレート固定

8 掌側ロッキングプレート固定後の外固定は有用か?Clinical Question

解 説

掌側ロッキングプレートの固定力は良好で,通常術後外固定を行わなくても手術で得られた橈骨の整復位を保持することができる.しかし,術後6週までの外固定の有無は関節可動域,握力,Mayo Wrist Score,DASH(disability of the arm shoulder and hand)スコアのいずれにも影響しないことが示されている.術後疼痛の緩和目的や尺骨茎状突起骨折・三角線維軟骨複合体損傷などの合併損傷がある場合,プレートの固定性に不安のある症例には短期間の外固定は有用であるため,推奨度を2とした.

サイエンティフィックステートメント

介入論文(2) ● 掌側ロッキングプレート固定後,1週間外固定を行った15例と外固定を行わなかった15例を比較した.術後6 ヵ月までの評価で関節可動域,握力,DASHスコア,X線評価に有意差がなかった.ただし,疼痛(visual analogue scale:VAS)に関しては外固定を行った群のほうが良好な結果であった(R2J00629 RCT).

● 掌側ロッキングプレート固定後,外固定を1週行った群28例と6週行った群26例を比較した.術後3,6 ヵ月の両時点で関節可動域,握力,Mayo Wrist Score,DASHスコアに両群間の有意差はなく,6週間の外固定は術後成績に影響しなかった

(RF00743 RCT).観察論文(3)

● 不安定型橈骨遠位端骨折に対し掌側ロッキングプレート固定を行った40例中37例に外固定を行わず術直後から手関節可動域訓練を行った.平均11 ヵ月(6 ~ 18 ヵ月)までにX線評価上矯正損失はなく,Mayo Wrist Scoreでexcellent 29例,good 10例,fair 1例であり,術直後より可動域訓練を行っても良好な臨床成績が得られた(RJ01285 case series).

● 掌側ロッキングプレート固定後2週間の外固定を行った固定群41例と術後2日からリハビリテーションを開始した早期群44例を比較した.手関節掌背屈可動域,握力,DASHスコアの経時的変化(4,8,12週)において2群間に有意差はみられ

推奨文

掌側ロッキングプレート固定後は,術後の疼痛緩和目的や合併損傷例では短期間の外固定が有用である.

推奨の強さ エビデンス総体の総括2(弱い) B(中)

933.3.手術療法/ 3.3.4.プレート固定

なかった(R2J00580 CCS). ● 掌側プレート固定後1週間で可動域訓練を行った14例と,6週間の外固定後に可動域訓練を開始した患者9例を比較した.手関節背屈40°,掌屈40°の機能的可動域を獲得するまでの期間は早期運動群のほうが短かったが,術後6 ヵ月での最終的な関節可動域,握力には有意差はなかった(R2F00339 CCS).

文 献 1) R2J00629 古田和彦ほか.日手会誌 2010;26:245 2) RF00743 Lozano-Calderon SA, et al. J Bone Joint Surg Am 2008;90:1297 3) RJ01285 長田伝重ほか.日整会誌 2006;80:422 4) R2J00580 竹内佳子ほか.日ハンドセラピィ会誌 2013;6:3 5) R2F00339 Valdes K. J Hand Ther 2009;22:312

94 第3章 治 療 3.3.手術療法/ 3.3.4.プレート固定

9 掌側ロッキングプレートの抜去は必要か?Clinical Question

解 説

一般に国内では内固定材料を抜去することが多いのに対し,国外ではむしろ内固定材料を抜去しないことが多い.特に米国では保険制度上,固定材料の抜去は術後合併症が発生した場合に限られ,掌側ロッキングプレートの抜去も合併症の発生が危惧される場合に考慮される.近年,国内外ともに掌側ロッキングプレート固定後の屈筋腱損傷が多数報告され,プレート抜去時の術中所見より損傷原因はプレート遠位縁と屈筋腱が接触するためと考えられている.早期のプレート抜去は屈筋腱断裂の発生回避に有用であると予想される.しかしながら,プレート抜去例を抽出した観察研究ではプレート抜去前後で臨床成績に有意な差を認めていない.しかし,屈筋腱とプレート遠位縁の接触を示唆する所見を有し,屈筋腱損傷が危惧される場合はプレート抜去を考慮するべきである.

サイエンティフィックステートメント

観察論文(4) ● 不安定型橈骨遠位端骨折の手術療法に用いた掌側ロッキングプレートを抜去した24例において,抜去直前と抜去後4週目に斎藤の評価法(1983),VAS(visual analogue scale),X線側面像から橈骨月状骨角,有頭月状骨角,橈骨舟状骨角を比較検討した.プレート抜去後の臨床成績には有意な差を認めなかったが,手関節掌屈時のVAS,手関節掌屈可動域,有頭月状骨角は有意( p<0.05)に改善していた

(R2J00039 case series). ● 橈骨遠位端骨折に対し,掌側ロッキングプレート固定後6 ヵ月以上経過観察が可能であった20例において長母指屈筋(FPL)腱の腱刺激症状と腱断裂との関係について評価した.平均年齢61.8歳,AO分類A2:4例,A3:3例,B1:1例,B3:3例,C1:4例,C2:2例,C3:3例,平均経過観察期間は13.1 ヵ月であった.結果,20例中10例に腱刺激症状を認め,その発生時期は術後1 ~ 8 ヵ月(平均3.1 ヵ月)であった.母指自動屈曲時の疼痛,手関節部に腱刺激症状を有した10例中8例にプレート抜去を行い,8例中3例に腱の部分損傷を認めた(R2J00054 case series).

● 橈骨遠位部にプレートを1 mm以内に密着すること,橈骨遠位端掌側傾斜(palmar tilt:PT)が5°以上の整復固定をすること, 軟部組織によりプレート最遠位部を被覆すること,以上の3項目に留意し,プレート固定を施行した126例中36例にプレート抜去を行った.プレート最遠位部が被覆できず,PTが5°未満の1例にFPL腱断裂を認めた(R2J00165 case series).

● 橈骨遠位端骨折にプレート固定を行い骨癒合後抜去した27例28手において超音波検査を行い,FPL腱とプレートまでの距離と,プレートによるFPL腱の圧迫の有無を調査した.さらに,プレート抜去時にはFPL腱とプレート遠位部の間の介在組織を観察し,介在組織がない,またはFPL腱とプレートが直接接触している

953.3.手術療法/ 3.3.4.プレート固定

ものを高リスク群,介在物のあるものを低リスク群として調査した.FPL腱–プレート間の距離(超音波)と介在組織厚(術中)に相関関係を認めた(r =-0.619,p=0.0003).距離0.7 mm未満をFPL腱損傷の高リスクとすると,その検出感度は95%,特異度は88%であり,距離0.9 mm未満の感度は100%,特異度は44%であった(R2J00179 case series).

文 献 1) R2J00039 古田和彦ほか.骨折 2010;32:255 2) R2J00054 多田薫ほか.骨折 2011;33:783 3) R2J00165 岩田勝栄ほか.日手会誌 2011;28:5 4) R2J00179 平野知恵子ほか.日手会誌 2012;29:229

96 第3章 治 療 3.3.手術療法/ 3.3.4.プレート固定

10 掌側ロッキングプレート固定の術後合併症は?Clinical Question

解 説

掌側ロッキングプレート固定の術後合併症について文献内に記載を認めた各合併症とその発生頻度は以下のごとくである.

● 長母指伸筋(EPL)腱断裂・伸筋腱断裂0 ~ 30% 1 ~ 47)

● 手根管症候群・正中神経障害0~9.9% 1, 3, 5, 7~12, 14, 18, 20~22, 25, 27, 30, 31, 34, 35, 38, 39, 44, 48~97)

● 長母指屈筋(FPL)腱断裂0 ~ 9.3% 6, 9 ~ 12, 18, 20 ~ 25, 31, 42 ~ 44, 47 ~ 49, 53 ~ 55, 58, 59, 62, 63, 66,

68 ~ 70, 73, 75, 77, 78, 82, 85, 87, 92, 94, 95, 98 ~ 155)

● 複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome:CRPS)・反射性交感神経性ジストロフィー 0 ~ 8.7% 3, 5, 8, 10, 12, 13, 21, 25, 27, 31, 34, 38, 44, 47, 50, 55, 57, 64, 68, 69, 72, 76, 77,

79, 82, 87 ~ 89, 97, 153, 156 ~ 165)

● スクリューの関節内穿破・関節内刺入0~7.1% 11, 18, 31, 39, 45, 50, 64, 71, 77, 95, 97, 136, 166 ~ 170)

● 感染0 ~ 5.6% 9, 10, 12, 31, 40, 44, 55, 67, 68, 70, 72, 89, 94, 97, 136, 139, 156, 160, 163, 165, 171)

● 橈骨神経浅枝障害0 ~ 0.7% 94)

掌側プレートによる伸筋腱断裂は EPL 腱断裂の報告が多く,総指伸筋腱,固有示指伸筋腱断裂の報告もある19, 36).損傷原因はスクリューの背側突出が多い97, 166, 168).また,術中のドリル操作による損傷・断裂と,骨折に伴う特発性伸筋腱断裂とを鑑別する手段はない.神経障害については正中神経障害の報告が多いが,プレート固定によるものか,骨折に伴う合併症や潜在していた障害かの鑑別は困難であった.その他,橈骨神経浅枝領域の感覚障害 94),一過性の前骨間神経麻痺の症例報告がある 125).

屈筋腱断裂ではFPL腱断裂が最も多く.次いで示指深指屈筋腱断裂の報告が多い.橈骨遠位掌側部の形状は関節縁に向かって弧状を呈しており,皮質骨の峰状の隆起部位,いわゆるwatershed lineの中央~尺側に屈筋腱は走行する.掌側ロッキングプレート固定後に屈筋腱断裂を生じた症例では,プレート抜去時の術中所見からプレート遠位縁と屈筋腱との接触が損傷原因であるとする報告が多い.プレートと屈筋腱との接触の要因は遠位骨片の背屈転位や短縮,プレート設置位置の不良,プレートと骨の形状の不一致,遠位設置型掌側ロッキングプレート,プレート遠位最掌側部の軟部組織による被覆不足が示唆され,多くの因子が関係し一要因のみに限定されていない 19, 98 ~ 124, 138).

CRPSの報告は介入研究,観察研究ともに国内より国外での報告例が多く,平均発生率は国外3.7%,国内1.3%であった.その他,インプラント折損 63, 66, 82, 126 ~

129),異所性骨化 130),肺塞栓 131, 132),異物残存 133),血腫 134)の合併症報告がある.

973.3.手術療法/ 3.3.4.プレート固定

文 献 1) R2F00040 Sugun TS, et al. Acta Orthop Traumatol Turc 2012;46:22 2) R2F00073 Konstantinidis L, et al. Arch Orthop Trauma Surg 2010;130:751 3) R2F00074 Sonderegger J, et al. Arch Orthop Trauma Surg 2010;130:1263 4) R2F00146 Valbuena SE, et al. Chir Main 2010;29:109 5) R2F00215 Yasuda M, et al. Hand Surg 2009;14:93 6) R2F00218 Sahu A, et al. Hand Surg 2011;16:113 7) R2F00221 Moriya K, et al. Hand Surg 2011;16:263 8) R2F00227 Loveridge J, et al. Hand Surg 2013;18:159 9) R2F00253 Matschke S, et al. Injury 2011;42:385 10) R2F00281 Johnson NA, et al. Injury 2014;45:528 11) R2F00292 Kwan K, et al. Int Orthop 2011;35:389 12) R2F00362 Phadnis J, et al. J Orthop Surg Res 2012;7:4 13) R2F00468 Osti M, et al. Orthopedics 2012;35:1613 14) R2F00560 Gruber G, et al. J Bone Joint Surg Am 2010;92:1170 15) R2F00712 Fowler JR, et al. J Hand Surg Am 2013;38:2198 16) R2F00845 Kim JK, et al. Clin Orthop Relat Res 2013;471:2030 17) R2F00998 Sugun TS, et al. J Hand Surg Eur Vol 2011;36:320 18) R2F01078 Lebailly F, et al. Eur J Orthop Surg Traumatol 2014;24:877 19) R2J00048 前田利雄ほか.骨折 2011;33:280 20) R2J00075 森田晃造ほか.骨折 2012;34:767 21) R2J00139 佐竹寛史ほか.東日整災外会誌 2014;26:90 22) R2J00151 国立真以ほか.日手会誌2009;25:805 23) R2J00181 板寺英一ほか.日手会誌2012;29:246 24) R2J00192 児玉成人ほか.日手会誌2013;30:5 25) R2J00198 近藤秀則ほか.日手会誌2013;30:337 26) R2J00199 田口学ほか.日手会誌2014;30:492 27) R2F00296 Pretell MJ, et al. Int Orthop 2012;36:1435 28) R2J00331 木佐貫修ほか.骨折 2011;33:548 29) R2J00345 上野幸夫ほか.骨折 2012;34:209 30) R2J00349 中道亮ほか.骨折 2012;34:225 31) R2J00426 近藤秀則ほか.整外Surg Tech 2014;4:146 32) R2J00453 岡崎大紀ほか.整外と災外 2014;63:44 33) R2J00475 高橋基城ほか.中四整外会誌 2013;25:313 34) R2J00488 小田智之ほか.中部整災誌 2010;53:27 35) R2J00495 渡邉益宜ほか.中部整災誌 2010;53:891 36) R2J00550 國分直樹ほか.東海整外外傷研会誌 2010;23:94 37) R2J00564 丹羽智史ほか.東海整外外傷研会誌 2012;25:119 38) R2J00620 田口学ほか.日手会誌 2010;26:116 39) R2J00645 岡崎真人ほか.日手会誌 2010;27:61 40) R2J00652 川崎恵吉ほか.日手会誌 2010;27:234 41) R2J00653 山口和男ほか.日手会誌 2010;27:239 42) R2J00667 河本正昭.日手会誌 2011;27:575 43) R2J00681 藤原達司ほか.日手会誌 2011;28:203 44) R2J00695 川崎恵吉ほか.日手会誌 2012;28:465 45) R2J00715 前田利雄ほか.日手会誌 2012;29:242 46) R2J00741 小島安弘ほか.日手会誌 2013;30:16

98 第3章 治 療 3.3.手術療法/ 3.3.4.プレート固定

47) R2J00747 大野克記ほか.日手会誌 2013;30:48 48) R2F00010 Wilcke MK, et al. Acta Orthop 2011;82:76 49) R2F00033 Kilic A, et al. Acta Orthop Traumatol Turc 2009;43:229 50) R2F00062 Patel S, et al. Ann R Coll Surg Engl 2014;96:49 51) R2F00190 Lee SK, et al. Eur J Orthop Surg Traumatol 2013;23:407 52) R2F00257 Gong HS, et al. Injury 2011;42:1266 53) R2F00298 Zehir S, et al. Int Orthop 2014;38:1655 54) R2F00356 Sharma H, et al. J Orthop Sci 2014;19:537 55) R2F00367 Matschke S, et al. J Orthop Trauma 2011;25:312 56) R2F00444 Giannotti S, et al. Musculoskelet Surg 2013;97:61 57) R2F00457 Chappuis J, et al. Orthop Traumatol Surg Res 2011;97:471 58) R2F00481 Flinkkila T, et al. Osteoporos Int 2011;22:2307 59) R2F00567 Soong M, et al. J Bone Joint Surg Am 2011;93:328 60) R2F00589 Karantana A, et al. J Bone Joint Surg Am 2013;95:1737 61) R2F00606 Sato K, et al. J Hand Surg Am 2009;34:27 62) R2F00646 Yu YR, et al. J Hand Surg Am 2011;36:1135 63) R2F00653 Richard MJ, et al. J Hand Surg Am 2011;36:1614 64) R2F00704 Williksen JH, et al. J Hand Surg Am 2013;38:1469 65) R2F00721 Wong TC, et al. J Hand Surg Eur Vol 2009;34:173 66) R2F00775 Figl M, et al. J Trauma 2010;68:992 67) R2F00780 Hull P, et al. J Trauma 2011;70:125 68) R2F00781 Lattmann T, et al. J Trauma 2011;70:1510 69) R2F00894 Jakubietz MG, et al. J Orthop Surg Res 2012;7:8 70) R2F01068 Costa ML, et al. BMJ 2014;349:g4807 71) R2F01097 Weil YA, et al. Injury 2014;45:960 72) R2F01124 Walenkamp MM, et al. Strategies Trauma Limb Reconstr 2013;8:67 73) R2F01152 Tronci V, et al. Acta Biomed 2013;84:38 74) R2F01163 Ahsan ZS, et al. Hand(N Y)2012;7:276 75) R2J00085 浅野研一ほか.骨折 2014;36:188 76) R2J00154 佐藤光太朗ほか.日手会誌 2010;26:30 77) R2J00210 伊藤聰一郎ほか.日生体電気物理刺激研会誌 2013;27:25 78) R2J00231 田中聡一ほか.臨整外 2013;48:689 79) R2J00297 森谷史朗ほか.骨折 2010;32:244 80) R2J00313 山口和男ほか.骨折 2010;32:693 81) R2J00329 辻英樹ほか.骨折 2011;33:539 82) R2F00353 Abe Y,et al. J Orthop Sci 2013;18: 398 83) R2J00366 吉川泰弘ほか.骨折 2013;35:257 84) R2J00382 吉川泰弘ほか.骨折 2014;36:184 85) R2J00401 森谷浩治ほか.整・災外 2013;56:173 86) R2J00423 森谷浩治ほか.整形外科 2014;65:107 87) R2J00616 川崎恵吉ほか.日手会誌 2010;26:23 88) R2J00628 戸部正博ほか.日手会誌 2010;26:242 89) R2J00698 牧野仁美ほか.日手会誌 2012;28:478 90) R2J00699 佐藤光太朗ほか.日手会誌 2012;28:571 91) R2J00707 上野幸夫ほか.日手会誌 2012;29:67 92) R2J00710 善財慶治ほか.日手会誌 2012;29:79 93) R2J00725 河村真吾ほか.日手会誌 2013;29:513 94) R2J00731 三竹辰徳ほか.日手会誌 2013;29:695 95) R2J00746 丹羽智史ほか.日手会誌 2013;30:45

993.3.手術療法/ 3.3.4.プレート固定

96) R2J00759 細川高史ほか.日手会誌 2014;30:483 97) R2J00760 今谷潤也ほか.日手会誌 2014;30:487 98) R2C00053 Bentohami A, et al. J Hand Surg Eur Vol 2013:epub 99) R2F00271 Esposito J, et al. Injury 2013;44:409 100) R2F00283 Meyer C, et al. Instr Course Lect 2014;63:113 101) R2F00293 Cui Z, et al. Int Orthop 2011;35:1333 102) R2F00462 Wang J, et al. Orthop Traumatol Surg Res 2013;99:321 103) R2F01031 Asadollahi S, et al. J Orthop Traumatol 2013;14:227 104) R2J00103 建部将広.整外Surg Tech 2014;4:190 105) R2F00231 Chiu YC, et al. Hand Surg 2013;18:403 106) R2F00836 Ward JP, et al. Bull NYU Hosp Jt Dis 2012;70:273 107) R2F01037 Lifchez SD. Plast Reconstr Surg 2010;125:21 108) R2F01077 Cho CH, et al. Clin Orthop Surg 2012;4:325 109) R2F01084 Adham MN, et al. Hand(N Y)2009;4:406 110) R2F01146 Nagura I, et al. Kobe J Med Sci 2012;58:82 111) R2F01217 Huh SW, et al. J Plast Surg Hand Surg 2014;48:350 112) R2J00114 森重昌志ほか.整外と災外 2013;62:779 113) R2J00128 川口誠司ほか.中部整災誌 2010;53:915 114) R2J00204 原敬ほか.日手会誌2014;30:715 115) R2J00229 加藤直樹ほか.臨整外 2013;48:287 116) R2J00266 大場良輔ほか.関東整災外会誌 2009;40:320 117) R2J00446 山下尚寛ほか.整外と災外 2013;62:231 118) R2J00492 井上淳ほか.中部整災誌 2010;53:297 119) R2J00493 望月正孝ほか.中部整災誌 2010;53:299 120) R2J00501 兵田暁ほか.中部整災誌 2010;53:1159 121) R2J00510 金澤智子ほか.中部整災誌 2011;54:385 122) R2J00524 若林徹ほか.中部整災誌 2012;55:399 123) R2J00585 三宅啓介ほか.日形会誌 2012;32:589 124) R2J00879 緒方正明ほか.中部整災誌 2012;55:919 125) R2F01012 Kanatani T, et al. Kobe J Med Sci 2012;58:96 126) R2J00353 田口学ほか.骨折 2012;34:486 127) R2F00934 Khan SK, et al. Strategies Trauma Limb Reconstr 2012;7:45 128) R2J00206 後藤真一ほか.日手会誌2014;30:723 129) R2J00438 井上三四郎ほか.整外と災外 2011;60:621 130) R2F00703 Ifedi BO, et al. J Hand Surg Am 2013;38:1259 131) R2J00064 渡邊牧人ほか.骨折 2012;34:409 132) R2F00113 Igeta Y, et al. BMC Res Notes 2014;7:36 133) R2F00143 Lucchina S, et al. Chin J Traumatol 2010;13:123 134) R2F00070 Hoang-Kim A, et al. Arch Orthop Trauma Surg 2009;129:105 135) R2C00048 Han SL, et al. Int J Clin Pract 2012;66:199 136) R2F00638 Soong M, et al. J Hand Surg Am 2011;36:3 137) R2F00686 White BD, et al. J Hand Surg Am 2012;37:2035 138) R2F01098 Dy CJ, et al. Instr Course Lect 2014;63:27 139) R2F01205 Glueck DA, et al. Hand(N Y)2009;4:330 140) R2J00070 辻英樹ほか.骨折 2012;34:690 141) R2J00079 近藤秀則ほか.骨折 2013;35:805 142) R2J00156 多田薫ほか.日手会誌 2010;26:43 143) R2J00166 安岡寛理ほか.日手会誌 2011;28:9 144) R2J00172 森田晃造ほか.日手会誌 2012;28:586

100 第3章 治 療 3.3.手術療法/ 3.3.4.プレート固定

145) R2J00203 頭川峰志ほか.日手会誌2014;30:712 146) R2J00343 亀山真ほか.骨折 2012;34:25 147) R2J00369 山田宏毅ほか.骨折 2013;35:267 148) R2J00374 吉田紘二ほか.骨折 2013;35:535 149) R2J00407 安部幸雄.整・災外 2014;57:165 150) R2J00451 倉明彦ほか.整外と災外 2013;62:774 151) R2J00503 山崎豊弘ほか.中部整災誌 2010;53:1407 152) R2J00506 大島隆司ほか.中部整災誌 2011;54:377 153) R2J00523 岩田浩和ほか.中部整災誌 2012;55:397 154) R2J00538 川島健志ほか.中部整災誌 2013;56:583 155) R2J00647 土肥大右.日手会誌2010;27:70 156) R2F01117 Kato S, et al. Nagoya J Med Sci 2014;76:101 157) R2F00038 Orhun H, et al. Acta Orthop Traumatol Turc 2011;45:261 158) R2F00071 Figl M, et al. Arch Orthop Trauma Surg 2009;129:661 159) R2F00908 Fok MW, et al. J Wrist Surg 2013;2:247 160) R2F01105 Jorge-Mora AA, et al. J Hand Microsurg 2012;4:50 161) R2J00283 佐竹信爾ほか.骨折 2009;31:664 162) R2F00335 Dhainaut A, et al. J Clin Densitom 2010;13:418 163) R2J00336 上野幸夫ほか.骨折 2011;33:576 164) R2J00596 太田剛ほか.日手会誌 2009;25:365 165) R2J00685 上野幸夫ほか.日手会誌 2012;28:309 166) R2F00962 Pace A, et al. J Hand Surg Am 2010;35:1015 167) R2J00362 今谷潤也ほか.骨折 2013;35:20 168) R2J00722 長谷川康裕ほか.日手会誌 2013;29:496 169) R2J00723 森谷史朗ほか.日手会誌 2013;29:499 170) R2J00767 神田俊浩ほか.日手会誌 2014;30:691 171) R2J00043 川崎恵吉ほか.骨折 2011;33:12

1013.3.手術療法/ 3.3.4.プレート固定

11 掌側ロッキングプレート固定に合併する腱損傷の 診断に対して,超音波検査は有用か?

Clinical Question

解 説超音波検査は腱の形態,滑走,周囲組織の状態の観察が可能である.腱損傷を有

する症例において,プレート抜去前の超音波検査で得られた所見と術中の肉眼的所見は一致しており,有用である.

サイエンティフィックステートメント

観察論文(4) ● 橈骨遠位端骨折にプレート固定を行い骨癒合後抜去した27例28手に超音波検査を行い,長母指屈筋(FPL)腱とプレートまでの距離と,プレートによるFPL腱の圧迫の有無を調査した.さらに,プレート抜去時にはFPL腱とプレート遠位部の間の介在組織を観察し,介在組織がない,またはFPL腱とプレートが直接接触しているものを高リスク群,介在物のあるものを低リスク群として調査した.FPL腱–プレート間の距離(超音波)と介在組織厚(術中)に相関を認めた.距離0.7 mm未満をFPL腱損傷の高リスクとすると,その検出感度は95%,特異度は88%であり,距離0.9 mm未満の感度は100%,特異度は44%であった(R2J00179 case series).

● 橈骨遠位端骨折に掌側ロッキングプレート固定を行った30例30手を対象とした.術後超音波検査でインプラントの設置状態を,近位設置型7例,近位突出型15例,遠位設置型8例に分類し,FPL腱とインプラントの位置関係および腱の圧排の有無を検討した.骨折型はAO分類でA3:12例,B3:6例,C1:3例,C2:3例,C3:6例であった.FPL腱とインプラントの最小距離は遠位設置型で有意に小さく,FPL腱とインプラントの接触は近位設置型では認めず,近位突出型で6例(40%),遠位設置型で5例(62.5%)に認めた.FPL腱のインプラントによる圧排は,遠位設置型の5例のみに認め,うち1例でプレート抜去時にFPL腱が部分断裂していた(R2J00343 case series).

● 橈骨遠位端骨折に掌側ロッキングプレート固定を行った20例において,プレート抜去前と抜去後3週目に前腕回外・手関節軽度背屈位での超音波長軸像を観察した.また,母指屈伸時のプレートとFPL腱による轢音の有無を観察した.平均年齢59.7歳,骨折型はAO分類A3:1例,B2:1例,C1:12例,C2:5例,C3:1例で あった.結果,20例中13例にFPL腱の圧排を,2例に轢音を認めた.轢音を認めた2例中1例でプレート抜去時の術中所見においてFPL腱と示指深指屈筋腱の部分断裂を認めた(R2J00647 case series).

● 橈骨遠位端骨折に対し,掌側ロッキングプレート固定を行った30例のうち,母指指節間(IP)関節の深屈曲時にFPL腱走行部の不快感,摩擦感,引っ掛かり,いずれかの症状を有した5例(平均年齢45.2歳)と前述の症状を有さない25例(平均年齢60.3歳)を対象とした.超音波短軸像によるプレート最掌側部位からFPL腱までの距離,単純X線側面像によるプレート最掌側部位と橈骨最掌側縁までの距離を

3.4.その他の骨折,治療法102 第3章 治 療

計測し比較検討した.超音波短軸像から得たプレート最掌側部位とFPL腱の距離が0.5 mmの場合,感度80%・特異度84%でともに高く,単純X線側面像から得られた最掌側部位と橈骨最掌側縁までの距離の感度60%・特異度40%より優れていた(R2J00776 case series).

文 献 1) R2J00179 平野知恵子ほか.日手会誌 2012;29:229 2) R2J00343 亀山真ほか.骨折 2012;34:25 3) R2J00647 土肥大右.日手会誌 2010;27:70 4) R2J00776 服部惣一ほか.日整外超音波研会誌 2012;23:14

1033.4.その他の骨折,治療法

3.4.その他の骨折,治療法

1 超音波パルスや電気刺激は骨癒合促進に有用か?Clinical Question

解 説

超音波パルスや電気刺激は骨癒合を促進し,遷延治癒例や新鮮骨折の治療に使用されている.橈骨遠位端骨折に使用する場合には,創外固定やギプスなどの外固定除去時期を早める効果がある.また,電気刺激は浮腫の軽減や早期の機能回復に有用とされている.ただし,橈骨遠位端骨折の発生部位は海綿骨の豊富な骨幹端部であり,遷延癒合例自体が少ない.また費用対効果を考慮すると適応が開放骨折や高度粉砕骨折例などに限られるため,推奨度を2とした.

サイエンティフィックステートメント

介入論文(3) ● 背屈転位型の橈骨遠位端骨折に対し徒手整復・ギプス固定で治療した60例61手において30手に超音波パルスを使用し,31手はプラセボ対照群とした.1日20分,10週間使用し,骨癒合までの期間は超音波使用群(61±3日)がプラセボ群(98±5日)より有意に短かった.超音波使用群では矯正損失がプラセボ群より少なかった(RF00687 RCT).

● 喫煙の有無における超音波治療の有用性について検討した.徒手整復,ギプス固定で治療した橈骨遠位端骨折の骨癒合期間は,超音波治療群ではプラセボ対照群と比較し喫煙者で51%,非喫煙者で34%の期間短縮が得られた(RC00050 RCT).

● 閉経後女性の橈骨遠位端骨折に対しギプス固定治療中の電気刺激の有用性を調査した.関節外骨折60例のうち30例に10日間電気刺激を行い,刺激を行わない対照群と比較した.ギプス除去後2 ~ 3日間の疼痛,手の周囲径,手関節,前腕の可動域,合併症を調査したところ,刺激群は浮腫の軽減,手関節掌背屈,前腕の回外の可動域改善に有用であった(R2F00515 RCT).観察論文(1)

● 高齢者の関節内粉砕骨折に対し,交流電気刺激付き創外固定(45例)の仮骨形成の観察と,掌側ロッキングプレート固定(71例)と比較した橈骨短縮量を検討した.電気刺激群において3 ~ 4週で仮骨を観察し,通常の骨折治癒過程より早いと判

推奨文

超音波パルス,電気刺激ともに骨癒合の促進に有用であり,使用を考慮してもよい.推奨の強さ エビデンス総体の総括2(弱い) B(中)

104 第3章 治 療 3.4.その他の骨折,治療法

断した.橈骨短縮量は創外固定が掌側ロッキングプレート固定に比し有意に小さかった(R2J00210 case series).

文 献 1) RF00687 Kristiansen TK, et al. J Bone Joint Surg Am 1997;79:961 2) RC00050 Cook SD, et al. Clin Orthop Relat Res 1997;337:198 3) R2F00515 Lazovic M, et al. Srp Arh Celok Lek 2012;140:619 4) R2J00210 伊藤聰一郎ほか.日生体電気物理刺激研会誌 2013;27:25

1053.4.その他の骨折,治療法

2 髄内釘固定は有用か?Clinical Question

解 説

ここでいう髄内釘とは,本邦で唯一使用可能なMICRONAIL ®(Microport Or-thopaedics, Japan)である.髄内釘固定は関節外骨折,単純関節内骨折に選択すればギプス固定より臨床成績が優れており,掌側ロッキングプレート固定とほぼ同等の治療成績が得られる.ただし,橈骨神経浅枝障害は合併症として注意する必要がある.また,抜釘は困難であり,骨癒合後に抜釘の必要性を考慮する患者に対する使用は慎重に検討しなければならない.したがって,推奨度を2とした.

サイエンティフィックステートメント

介入論文(2) ● 不安定型橈骨遠位端骨折に対し,non-bridging創外固定(30例)と髄内釘固定(31例)を比較した.術後12週の時点でDASH(disabilities of the arm, shoulder and hand)スコア,患者満足度,X線評価上の整復位に差はなく,握力は髄内釘固定が優れていた.手術時間は創外固定が有意に短かった(R2F00902 RCT).

● 関節外,単純関節内骨折に対し髄内釘固定(31例)と角度可変型掌側ロッキングプレート固定(31例)の治療成績を比較した.術後6週,3,12 ヵ月でX線検査,関節可動域,DASHスコア,Mayo Wrist Scoreを評価した.6週では髄内釘固定のほうが関節可動域,DASHスコア,Mayo Wrist Scoreにおいて優れ,3および12 ヵ月では有意差はなかった.髄内釘の欠点は橈骨神経浅枝障害と,適応が限定されることである(R2F00758 RCT).観察論文(2)

● 髄内釘固定(31例)とギプス固定(32例)による不安定型橈骨遠位端関節外骨折および単純関節内骨折における治療成績を比較した.握力,関節可動域,X線検査,DASHスコア,合併症について1,2,4,6,12 ヵ月で観察した.手関節掌背屈は髄内釘固定において2,6,12 ヵ月時点で有意に良好であった.経過を通して握力,DASHスコアは髄内釘固定が有意に良好であった.転位,合併症はギプス固定に有意に多く発生していた(R2F00969 CCS).

● 橈骨遠位端関節外骨折,単純関節内骨折(AO分類A3, C1, C2)に対する髄内釘固定(52手),掌側ロッキングプレート固定(40手),ギプス固定(46手)の治療成績を

推奨文

髄内釘は,適応を選べば有用であり行うことを提案する.推奨の強さ エビデンス総体の総括2(弱い) B(中)

106 第3章 治 療 3.4.その他の骨折,治療法

比較した.髄内釘固定,掌側ロッキングプレート固定の整復位維持は良好で,ギプス固定では有意な矯正損失を認めた.関節可動域,握力,Mayo Wrist Scoreは髄内釘固定および掌側ロッキングプレート固定において良好で,ギプス固定では劣っていた(R2J00706 CCS).

文 献 1) R2F00902 Schonnemann JO, et al. J Plast Surg Hand Surg 2011;45:232 2) R2F00758 Safi A, et al. J Hand Surg Eur 2013;38:774 3) R2F00969 Tan V, et al. J Hand Surg Am 2012;37:460 4) R2J00706 黒田司.日手会誌 2012;29:62

1073.4.その他の骨折,治療法

3 合併する遠位橈尺関節不安定症の診断と治療は?Clinical Question

解 説

遠位橈尺関節(distal radioulnar joint:DRUJ)の不安定性の診断について,主観的評価として徒手検査法であるDRUJ ballottement testがある.画像診断では,X線検査,CT,MRI,関節造影,関節鏡がある.

橈骨遠位端骨折に合併する急性の DRUJ 不安定症の原因には橈骨尺側切痕(sigmoid notch)や尺骨頭の骨折,三角線維軟骨複合体(triangular fibrocartilage complex:TFCC)損傷や尺骨茎状突起骨折があるが,これらのすべてがDRUJの不安定性に関与するわけではない.橈骨遠位端骨折の整復固定後に徒手検査法でDRUJの不安定性を認める際には尺骨骨折の骨接合やTFCC断裂の修復術を考慮すべきであるが,術中の評価は徒手検査,X線検査に限られ,客観的かつ正確に不安定性を評価できないことが,手術療法の必要性を明確に決定できない要因である.術前のX線で,遠位骨片の橈側への転位,橈骨遠位端尺側傾斜(radial inclina-tion:RI)の減少,高度の橈骨短縮,尺骨茎状突起骨片の橈側への4 mm以上の転位は,TFCCの尺骨小窩断裂,ひいてはDRUJの不安定性を示唆させる所見と報告されている.また,尺骨茎状突起基部あるいは骨幹部骨折にはTFCC尺骨小窩断裂が合併することや,TFCC自体が骨片に付着している可能性がある.これらの所見より,術前にDRUJの不安定性を疑い,術中に徒手検査とともにDRUJへの関節鏡で尺骨小窩部分を鏡視して判断するのが確実と考える.不安定性を認めれば尺骨の骨接合やTFCCの縫合を考慮するが,その方法,時期ともに,エビデンスのある報告はない.

慢性期のDRUJ障害として,橈骨遠位端変形治癒では橈骨遠位端背側傾斜(dor-sal tilt:DT)25°以上,短縮5 mm以上でDRUJの機能障害がおこるとされている.治療としてはTFCC再建術,尺骨短縮術,Sauvé-Kapandji(S-K)法やDarrach法,棚形成術などが行われている.S-K法やDarrach法,棚形成術はDRUJ関節面の破壊が著しい場合に適応となる救済手術であり,除痛効果や術後の回旋運動の改善は得られるものの,青壮年者では長期成績がよくないとの報告もある.

サイエンティフィックステートメント ● 画像診断では,DRUJの関節適合性はCTによって良好に描出できる.TFCC損傷の診断は関節造影,MRIでは正確な部位診断は不十分であり,関節鏡が最良とされ,橈骨遠位端骨折時にも関節鏡検査が必要である.TFCC損傷に伴うDRUJ不安定症は修復により良好な治療成績が報告されているが,治療が不必要とする意見もある.DRUJの安定機構とその障害は様々であり,障害の治療の必要性も明らかになっていない(RF00073 review).

108 第3章 治 療 3.4.その他の骨折,治療法

①診断観察論文(3)

● 51例の橈骨遠位端骨折(平均年齢41歳)において,43例にTFCCの断裂を認めた(24例:周辺部,10例:実質部,9例:周辺部と実質部の合併).1年後,周辺部断裂11例のうち10例にDRUJの不安定性を認めた.これらの最終成績はGartland and Werleyの評価にて不良な傾向にあった.この不安定性はX線検査では診断できなかった.尺骨茎状突起骨折の合併あるいはその偽関節はむしろ不安定性のない群に多かった(RF00931 case series).

● DRUJ 不安定症の診断には CT が用いられ,epicenter method, radioulnar line method, modified radioulnar line methodの3つがその判定方法として提唱されているが,いずれの方法も症状と関連しない偽陽性が多く,両側を撮影することと身体所見との対比が重要である(RF00361 case series).

● 橈骨遠位端骨折における骨片の転位の程度,尺骨茎状突起骨折の有無とTFCC尺骨小窩断裂との関連を29例において X線所見と鏡視所見にて検討した.遠位骨片の橈側への転位,RIの減少,橈骨短縮の増大,尺骨茎状突起骨片の橈側への4 mm以上の転位はTFCC尺骨小窩断裂を示唆させる所見であった.橈側転位はロジスティック回帰分析にて独立した危険因子であった.DT,尺骨変異はTFCC尺骨小窩断裂とは相関していなかった(R2F00427 case series).②治療観察論文(5)

● 骨粗鬆のない橈骨遠位端骨折76例においてDRUJ不安定性のみられた27例の成績は疼痛(visual analogue scale:VAS),Gartland and Werleyの評価において不良であった.17例にDRUJの疼痛を認めた.この不安定性はX線検査では証明できなかった(RF00351 CCS).

● 橈骨遠位端関節内骨折において,DRUJの解剖学的整復が不十分な場合,手関節の機能低下の原因になっていた.また,尺骨茎状突起骨折の合併はDRUJにおける機能障害を引き起こす一因となっていた(RF01096 case series).

● 橈骨遠位端骨折に合併したDRUJ不安定症30例の治療成績を調査した.橈骨は掌側ロッキングプレートで固定し,TFCCは直視下修復を行った.平均43 ヵ月の追跡調査ではGartland and Werleyの評価にてexcellent 88.6%, good 5.7%, fair 5.7%であった(R2F00521 case series).

● 橈骨遠位端骨折に対し掌側ロッキングプレート固定を行い,術中に尺骨頭の不安定性を評価した84例を12 ヵ月以上追跡調査した.術後は4週間の外固定を行った.84例中19例に尺骨頭の不安定性を認め,65例において安定していた.これら2群間に可動域,握力,Mayo Wrist Score,DASH(disabilities of the arm, shoulder and hand)スコア,VASで有意差はなかった(R2F00375 cohort study).

● S-K法は有用ではあるが,絶対的ではない.術後の前腕回旋運動の改善は明らかであるが,疼痛の改善は確実ではない.職場復帰は,重労働に従事している人ほど復帰が困難であった.特に青壮年者で成績が悪く,手関節に大きな負担のかかる青壮年者に対するS-K法の適応は限られたものである(RF00771 case series).

1093.4.その他の骨折,治療法

文 献 1) RF00073 Lindau T, et al. Acta Orthop Scand 2002;73:579 2) RF00931 Lindau T, et al. J Hand Surg Am 2000;25:464 3) RF00361 Pan CC, et al. Clin Orthop Relat Res 2003:148 4) RF00351 Lindau T, et al. Clin Orthop Relat Res 2000:229 5) RF00771 Carter PB, et al. J Bone Joint Surg Br 2000;82:1013 6) RF01096 Stoffelen D, et al. J Hand Surg Br 1998;23:507 7) R2F00521 Argintar E, et al. Tech Hand Up Extrem Surg 2010;14:226 8) R2F00427 Nakamura T, et al. J Wrist Surg 2014;3:12 9) R2F00375 Kim JK, et al. J Orthop Trauma 2013;27:735

110 第3章 治 療 3.4.その他の骨折,治療法

4 合併するTFCC損傷は治療すべきか?Clinical Question

解 説

橈骨遠位端骨折に合併する三角線維軟骨複合体(triangular fibrocartilage com-plex:TFCC)損傷の頻度は骨折型を問わずおよそ60%程度と報告されている.実質部の断裂は放置してもかまわず,後日,手関節尺側部痛が発現したら手術を考慮する.周辺部断裂のうち,尺骨小窩断裂は遠位橈尺関節(distal radioulnar joint:DRUJ)の不安定性をきたし,長期的に治療成績の不良をきたすため,一期的に修復を勧める意見もある.しかし手関節鏡でTFCC尺骨小窩断裂を確認し,なおかつ前向き研究にて治療,非治療を比較検討した文献はなく,一期的縫合の必要性についてのエビデンスに乏しい.その他の周辺部断裂については,一期的修復は非修復と比較し成績は良好であったとするものの,観察論文であり,やはりエビデンスに乏しい.したがって推奨度を2とした.

サイエンティフィックステートメント

介入論文(1) ● 尺骨茎状突起骨折を伴った橈骨遠位端関節外骨折41例に対し,2年間の追跡調査を行った.22例は橈骨を徒手整復後,ギプス固定を行い,19例は橈骨を徒手整復後,尺骨茎状突起骨折を固定しTFCC断裂を縫合あるいは放置とした.2群間に有意差はなく,橈骨の関節外骨折においてTFCC損傷を修復する優位性はない(RF00047 RCT).観察論文(10)

● 橈骨遠位端骨折86例(平均年齢52.1歳)に対し2年6 ヵ月の追跡調査を行った.TFCC損傷合併は42例で,このうち① 26例は実質部断裂で放置,② 11例は尺骨茎状突起骨折とTFCC尺骨茎状突起からの剝離断裂で骨折を引き寄せ鋼線締結

(tension band wiring)にて固定,③ 5例は骨折がなく,TFCC尺骨茎状突起からの剝離断裂で鏡視下縫合を行った.①は②,③と比較し機能評価は有意に良好であり,TFCC実質部損傷は放置してもよい(RJ01089 case series).

● 橈骨遠位端骨折59例のうちDRUJ不安定性を認めTFCC損傷部を縫合した群13例,損傷は認めたもののDRUJの不安定性はなく縫合しなかった群32例,損傷を認

推奨文

合併するTFCC損傷すべてを修復する必要はなく,DRUJの不安定性を認める場合には縫合することを考慮してもよい.

推奨の強さ エビデンス総体の総括2(弱い) C(弱)

1113.4.その他の骨折,治療法

めなかった群14例の3群を比較検討した.尺側部痛は縫合群で少なかった.DRUJ不安定性の残存は放置群,非損傷群の6 ~ 7%に残存したものの症状との関連は不明であった(R2J00193 CCS).

● 掌側ロッキングプレート固定を行い,TFCC損傷のPalmer分類1Bを合併していた35例(追跡期間は33.5週)を対象とした.内訳は尺骨茎状突起骨折のみ16例,尺骨茎状突起骨折にTFCC 1D損傷を合併した2例,尺骨小窩断裂を合併した10例,尺骨茎状突起骨折とTFCC尺骨小窩断裂7例であった.これらに対し尺骨茎状突起骨折は引き寄せ鋼線締結を行い,TFCC尺骨小窩断裂は縫合した.尺側部痛は3例に残存し,斎藤の評価ではexcellent 31例,good 4例であった(R2J00145 case series).

● 掌側ロッキングプレート固定を行いTFCC周辺部断裂を合併していた23例(平均年齢61歳)を対象とした.内訳は尺骨茎状突起からの剝離断裂16例(縫合3例),尺骨小窩断裂3例(縫合3例),橈側部断裂2例(経皮的鋼線固定1例,ギプス固定1例),遠位部断裂1例(放置),背側部~尺骨茎状突起からの剝離断裂1例(縫合)であった.21例のMayo Wrist Scoreによる成績は excellent 18例,good 3例であった.Goodの3例はすべて放置群であり,不良例をつくらないという観点から縫合は有意義と考えられた(R2J00084 case series).

● 橈骨遠位端骨折91例(橈骨の骨接合はロッキングプレート87例,non-bridging創外固定2例,経皮的鋼線固定2例)を4群に分類した.内訳は① TFCC剝離損傷と尺骨茎状突起骨折に経皮的鋼線固定16例,② TFCC断裂のみを縫合した16例,③尺骨茎状突起骨折のみを外固定16例,④ TFCC損傷,尺骨茎状突起骨折ともになし43例であった.①②③は術後3週間,外固定を行った.4群間で疼痛,機能評価に有意差はなかった(R2J00066 case series).

● 橈骨遠位端骨折に合併したTFCC損傷放置例の長期経過を調査した.38例を13 ~15年間追跡した.握力は不安定群が83%,安定群が103%であった.Gartland and Werleyの評価は不安定群で5,安定群で1,DASH(disabilities of the arm, shoulder and hand)スコアは不安定群14に対し安定群5であった(R2F00681 case series).

● 掌側ロッキングプレート固定38例(平均年齢73.4歳)に対し,平均経過観察期間24.4週の追跡調査を行った.尺骨茎状突起骨折は22例に,尺骨遠位部骨折は4例に合併していた.TFCC損傷は34例(89%)に合併しており,内訳はPalmar分類2C 2例,尺骨茎状突起骨折のみ5例,尺骨小窩断裂4例,尺骨茎状突起骨折と尺骨小窩断裂4例,尺骨茎状突起骨折と2C断裂2例,尺骨茎状突起骨折とTFCC橈側部分断裂3例,1D断裂14例であった.これらの治療成績は握力73%で,斎藤の評価にてexcellent 35例,good 3例であった(R2J00013 case series).

● 掌側ロッキングプレート固定41例(平均年齢58.1歳)のうち,TFCC損傷合併30例,合併なし11例を調査した.41例のうち尺骨茎状突起骨折を合併したのは26例

(64%)で,このうちTFCC損傷は21例に合併していた.TFCC損傷の内訳は穿孔14例,橈側縁断裂11例,尺骨小窩断裂8例で,尺骨小窩断裂は縫合した.最終成績はMayo Wrist Scoreにて83.5点であった(RJ01534 case series).

● 橈骨遠位端骨折60例(平均年齢59歳)においてTFCC損傷合併の傾向を調査した.TFCC断裂の合併は37例(61.7%)で,このうち外傷性断裂は27例(Palmer分類1A:21例,1B:2例,1A+1B:3例,1D:1例),変性断裂は10例であった.TFCC

112 第3章 治 療 3.4.その他の骨折,治療法

損傷なしあるいは治療例の握力は健側比86%に対し,損傷あり,未治療例の握力は73%と有意に劣っていた(RJ01236 case series).

● 橈骨遠位端骨折264関節のうちTFCC損傷の合併は162関節(61.4%)であった.このうち外傷性断裂は106関節(40.2%)であった.TFCC実質部断裂は搔爬し,背側部,尺骨茎状突起剝離断裂は関節包縫合を行い,尺骨小窩断裂は修復した.橈骨遠位端骨折に掌側ロッキングプレート固定を行った145例のMayo Wrist Scoreはexcellent 112例,good 31例,fair 2例であった(R2J00407 case series).

文 献 1) RF00047 af Ekenstam F, et al. Acta Orthop Scand 1989;60:393 2) RJ01089 河野正明ほか.日手会誌 2002;18:564 3) R2J00193 領家幸治ほか.日手会誌 2013;30:26 4) R2J00145 森谷浩治ほか.日手会誌 2009;25:361 5) R2J00084 安部幸雄.骨折 2014;36:179 6) R2J00066 小原由紀彦ほか.骨折 2012;34:475 7) R2F00681 Mrkonjic A, et al. J Hand Surg Am 2012;37:1555 8) R2J00013 森谷浩治.MB Orthop 2010;23:65 9) RJ01534 小原由紀彦ほか.埼玉医会誌 2008;43:313 10) RJ01236 安部幸雄.日手会誌 2006;23:868 11) R2J00407 安部幸雄.整・災外 2014;57:165

1133.4.その他の骨折,治療法

5 合併する尺骨茎状突起骨折に内固定は有用か?Clinical Question

解 説

尺骨茎状突起骨折に対する内固定を考慮する際,最も重要となる判断基準は遠位橈尺関節(distal radioulnar joint:DRUJ)の不安定性である.尺骨茎状突起基部あるいは骨幹端部を含んだ骨折には三角線維軟骨複合体(triangular fibrocartilage complex:TFCC)が骨片に付着している可能性がある.橈骨遠位端骨折に対してまず骨接合を行ったのちに,術中DRUJの不安定性を徒手検査などで精査する.診断についてはCQ3-4-3を参照されたい.

明らかな健側との差を認めた場合,まず尺骨茎状突起基部あるいは骨幹端部を含んだ骨折に対し骨接合を行う.どのような固定法がよいか,に関するエビデンスはない.骨接合後も不安定性が残存しているようであればTFCC損傷の修復を考慮する.しかしすべてのDRUJ不安定性が愁訴を生じるわけではなく,また橈骨に対しロッキングプレート固定を行えば,たとえDRUJに不安定性を認めても成績は良好であったとする報告もあり,上記処置の適応は限定的であるべきかもしれない(青壮年,利き手などに適応となる).DRUJに不安定性を認めない尺骨茎状突起骨折はたとえ偽関節になってもほとんど愁訴がみられないとされているが,時に疼痛の原因となることもしばしば経験するところである.総じて,推奨度を2とした.

サイエンティフィックステートメント ● 橈骨遠位端骨折を掌側プレート(ノンロッキングかロッキングかの記載なし)で固定したあと,DRUJが安定していれば尺骨茎状突起骨片の大きさにかかわらず内固定は行わない.不安定性があれば内固定を行うか,もしくは前腕回外位で安定性が得られれば,前腕回外位での外固定を行う.ただし,今後の無作為化試験が必要と述べている(R2F01046 review).観察論文(4)

● 橈骨遠位端骨折における骨片の転位の程度,尺骨茎状突起骨折の有無とTFCC尺骨小窩断裂との関連を29例においてX線所見と鏡視所見にて検討した.遠位骨片の橈側への転位,橈骨遠位端尺側傾斜(radial inclination:RI)の減少,橈骨短縮の増大,尺骨茎状突起骨片の橈側への4 mm以上の転位は,TFCC尺骨小窩断裂を示

推奨文

DRUJの不安定性がある場合には内固定を行うことを考慮してもよい.推奨の強さ エビデンス総体の総括2(弱い) C(弱)

114 第3章 治 療 3.4.その他の骨折,治療法

唆させる所見であった.橈側転位はロジスティック回帰分析にて独立した危険因子であった.橈骨遠位端掌側傾斜(palmar tilt:PT),尺骨変異(ulnar variance:UV)はTFCC尺骨小窩断裂とは相関しなかった(R2F00427 case series).

● 118例の掌側ロッキングプレート固定において50例は尺骨茎状突起骨折がなく,41例は基部骨折を,27例は先端部の骨折を合併していた.この3群間において臨床的,X線学的において最終成績に有意差はなかった.最終的に5例(4.2%)に尺側部痛を認めたが,尺骨茎状突起偽関節と尺側部痛の関連性を認めず,橈骨の短縮に伴うUVの増加が尺側部痛の原因となっていた(R2F00948 CCS).

● 橈骨遠位端骨折を掌側ロッキングプレートにて固定する際に,合併する尺骨茎状突起基部骨折を固定した20例と,放置した28例の2群間で,関節可動域,握力,DASH(disabilities of the arm, shoulder and hand)スコア,尺側部痛の有無,Mayo Wrist Scoreを比較した.Mayo Wrist Scoreにてexcellentは固定群15例,放置群21例,goodは固定群5例,放置群7例で差がなく,またその他の項目でも2群間で有意差を認めなかった.ただし,12週までの記録では放置群が固定群と比較し握力で有意に優れていた(R2F00225 CCS).

● 橈骨遠位端骨折を尺骨茎状突起骨折の合併,治療に応じて3群に分類し比較した.内訳は①尺骨茎状突起骨折なし,橈骨は経皮的鋼線固定あるいは創外固定(30例),②尺骨茎状突起骨折あり,橈骨は創外固定(31例),③尺骨茎状突起骨折あり,橈骨は経皮的鋼線固定(30例),であった.術後24 ヵ月の時点で尺骨茎状突起骨折を合併した群は,橈骨遠位端骨折単独群と比較して疼痛,DASHスコアにおいて不良であった.この結果は尺骨茎状突起の骨折型とは関連性はなかった.尺骨茎状突起骨折を合併した症例は軟部組織損傷がより重度なため,この結果になったと考えられた(R2F00891 CCS).

文 献 1) R2F01046 Wysocki RW, et al. J Hand Surg Am 2012;37:568 2) R2F00427 Nakamura T, et al. J Wrist Surg 2014;3:12 3) R2F00948 Zenke Y, et al. J Bone Joint Surg Br 2009;91:102 4) R2F00225 Zenke Y, et al. Hand Surg 2012;17:181 5) R2F00891 Belloti JC, et al. J Orthop Sci 2010;15:216

1153.4.その他の骨折,治療法

6 合併する尺骨遠位端骨折に内固定は有用か?Clinical Question

解 説

尺骨遠位端骨折の手術療法の必要性は尺骨茎状突起骨折同様,遠位橈尺関節(distal radioulnar joint:DRUJ)の不安定性の有無が適応の判断となる.内固定材料として様々なプレートが使用されているが,材料による優劣を示したエビデンスはない.高齢者においては橈骨の骨接合とともに尺骨遠位端の一期的切除により良好な成績が得られることもある.さらに高齢者においては橈骨のみ骨接合を行い,尺骨は術後2週間程度の外固定により良好な成績を得ることもある.以上より合併する尺骨遠位端骨折に対する内固定を推奨する明確な根拠はない.

サイエンティフィックステートメント

観察論文(3) ● 手術療法を行った橈骨遠位端骨折に合併した尺骨遠位端骨折41例に対して4 ヵ月以上の追跡調査を行った.内訳は尺骨茎状突起骨折37例,尺骨頭・骨幹端部骨折4例であった.このうち尺骨頭・骨幹端部骨折の1例のみ内固定を行い,あとは放置した.茎状突起骨折の22例で偽関節となった.最終成績はMayo Wrist Scoreにてexcellent 5例,good 30例,fair 5例,poor 1例であった.尺側部痛と尺骨茎状突起骨折偽関節との関連性はなかった.橈骨遠位端骨折に合併した尺骨遠位端骨折の治療は,DRUJの高度の不安定性をきたす例,尺骨の骨片の高度の不安定性を示す例,DRUJの関節面段差(step-off)を認めた例以外に内固定は不要であった(R2J00721 case series).

● 尺骨遠位端の粉砕骨折を伴った70歳以上の橈骨遠位端骨折23例に対し,掌側ロッキングプレート固定とともに尺骨遠位端切除を行った.平均19 ヵ月の追跡調査において,最終の平均値は前腕回内外可動域164°,握力健側比69%となり,全例ADL(activities of daily living)は受傷前のレベルに復帰した.Gartland and Werleyの評価にてexcellent 15例,good 8例であった.高齢者では尺骨遠位の一期的切除術の成績は良好であった(R2F00760 case series).

● 65歳以上の橈骨遠位端骨折に合併した不安定型尺骨遠位端骨折の治療成績を調査した.橈骨は掌側ロッキングプレートにて固定した.最初の29例は尺骨遠位端骨折をノンロッキングプレートで固定し,後半の32例は放置した.手術例は術後2週

推奨文

内固定あるいは一期的切除を考慮してもよいが明確な推奨はできない.推奨の強さ エビデンス総体の総括3(なし) D(とても弱い)

116 第3章 治 療 3.4.その他の骨折,治療法

間シーネ固定を行い,続く1週間は着脱可能なスプリントで固定した.尺骨の非手術例は術後4週間,上腕からのギプス固定を行った.両群の最終成績に有意差はなく,DRUJの関節症変化もなかった.非手術群で1例に変形治癒を認めたが,成績はGartland and Werleyの評価にてgoodであった.65歳以上では橈骨遠位端骨折に合併した尺骨遠位端骨折は保存的に治療可能であった(R2F00690 CCS).

文 献 1) R2J00721 大塚純子ほか.日手会誌 2013;29:485 2) R2F00760 Yoneda H, et al. J Hand Surg Eur 2014;39:293 3) R2F00690 Cha SM, et al. J Hand Surg Am 2012;37:2481

1173.4.その他の骨折,治療法

7 合併する手根骨間靱帯損傷は治療すべきか?Clinical Question

解 説

橈骨遠位端骨折に合併する舟状月状骨(scapholunate:SL)靱帯損傷の頻度は,X線検査や手関節鏡による評価で13.4 ~ 48.2%と報告されている.SL靱帯損傷を放置した場合,同部の疼痛が残存し成績低下の原因になっていたとする観察研究がある.また手関節鏡視下に評価しSL間の不安定性の高度であった断裂例の非治療例は,治療例と比較して成績が劣っていたとする文献もあるが,これらはいずれも観察研究であり,文献数も少なく治療の必要性を明確に推奨することはできない.

サイエンティフィックステートメント

観察論文(3) ● 839関節の橈骨遠位端骨折のうち,受傷当初のX線像にて舟状月状骨解離(scapho-lunate dissociation:SLD)を認めたものは215関節(25.6%),整復後もSLDが残存したものは112関節(13.4%)であった.追跡調査が可能であった93関節のうち79関節でSL部分に疼痛を認め,成績低下の原因となっていた(R2F00850 case series).

● 橈骨遠位端骨折112例のうちSL靱帯損傷を合併した54例(平均年齢63歳,関節外骨折15例,関節内骨折39例)において,靱帯損傷のGeissler分類による重症度はgradeⅠ:28関節,Ⅱ:3関節,Ⅲ:19関節,Ⅳ:4関節であった.gradeⅢの非治療例(14例)は手関節掌背屈制限,握力低下を認めたが,一方gradeⅢ,Ⅳの治療例(7例)の成績は良好であった(RJ01527 case series).

● 橈骨遠位端骨折に合併する手根骨間の靱帯損傷を手関節鏡視下に評価した.SL靱帯損傷の合併率は264関節中91関節(34.5%),Geissler分類による重症度はgradeⅠ:50関節,Ⅱ:9関節,Ⅲ:25関節,Ⅳ:7関節であった.月状三角骨靱帯損傷の合併率は43関節(16.3%),gradeⅠ:35関節,Ⅱ:7関節,Ⅲ:1関節であった.三角線維軟骨複合体損傷も含めた総合成績は145関節でMayo Wrist scoreにてexcellent 112関節,good 31関節,fair 2関節,DASH(disabilities of the arm, shoul-der and hand)スコアは平均4.1点であった(R2J00407 case series).

推奨文

靱帯修復を行うことを考慮してもよいが明確な推奨はできない.推奨の強さ エビデンス総体の総括3(なし) C(弱)

118 第3章 治 療 3.4.その他の骨折,治療法

文 献 1) R2F00850 Gunal I, et al. Eur J Orthop Surg Traumatol 2013;23:877 2) RJ01527 安部幸雄ほか.骨折 2009;31:158 3) R2J00407 安部幸雄.整・災外 2014;57:165

1193.4.その他の骨折,治療法

8 変形治癒に対する矯正骨切りの適応は?Clinical Question

解 説

橈骨遠位端骨折変形治癒に対する矯正骨切りには,橈骨の短縮に対する矯正,軸転位や回旋転位に対する矯正,関節面の変形矯正があるが,変形があるからといって必ずしも有症状になるとは限らず,青壮年者の方が高齢者と比較し有症状になりやすい.何らかの症状を有する症例は矯正骨切りの適応となる.

矯正骨切りは手関節痛や前腕の回旋制限などを改善させるために,橈骨の短縮変形では橈骨の延長や尺骨の短縮が,軸転位や回旋転位では開大式楔状骨切り

(open wedge osteotomy)や閉鎖式楔状骨切り(closed wedge osteotomy)などが選択される.すでに遠位橈尺関節(distal radioulnar joint:DRUJ)の関節症変化がみられる場合は,Sauvé-Kapandji法や尺骨頭形成を併用する必要性も考慮する.橈骨の矯正骨切りにはコンピュータ補助手術が導入され,より正確かつ簡便な方法が可能となってきている.

関節面に対する矯正骨切りは2 mm以上の関節面離開(gap),関節面段差(step-off)の残存とともに,疼痛などの症状を認め,特に青壮年においては将来的な関節症変化の進展を防止する目的で適応となる.関節軟骨の再建が困難な場合は骨軟骨移植(肋軟骨や膝関節軟骨)を施行した報告もみられる.

矯正骨切りの治療成績は良好であるものの健側には及ばず,正常なレベルへの機能回復を保障するものではなく,あくまでも正確な初期治療が重要である.高度な関節変形や関節軟骨欠損では全手関節固定や,今後本邦でも可能となるであろう人工手関節置換の適応となる.

サイエンティフィックステートメント ● 橈骨遠位端関節外骨折変形治癒に対する矯正骨切りの適応として,疼痛,関節可動域制限,整容的問題,活動性が高く将来的に症状悪化が予想される青壮年者があげられる.到達目標は橈骨手根関節,手根中央関節,DRUJの正常な動きを獲得することであるとしている.手関節の掌背屈変形,DRUJの不適合について,それぞれに有用な矯正骨切りや短縮術をあげている.関節内骨折では1 ~ 2 mm以上の関節面段差(step-off)がX線上の関節症変化や臨床上不良な結果につながる.関節内の骨切りの目標は機能的で痛みのない手関節を維持し関節の適合性を回復させ,関節軟骨を維持することにある.骨切りはなるべく早期に行うことが良好な成績につながる.コンピュータ補助手術も有用である(RF01464 review).観察論文(6)

● 橈骨遠位端関節外骨折変形治癒に対して開大式楔状骨切りを施行した31例の追跡調査(平均7年)を行った.平均で橈骨遠位端長(radial length:RL)5mm,橈骨遠位端掌側傾斜(palmar tilt:PT)25°,橈骨遠位端尺側傾斜(radial inclination:RI)9°の改善を得た.可動域は前腕回内10°,回外20°,手関節背屈10°,掌屈20°の改善

120 第3章 治 療 3.4.その他の骨折,治療法

を認めた.機能的には良好であったが健側には及ばなかった.握力は健側比82%,DASH(disabilities of the arm, shoulder and hand)スコアは21であった.5例で移植骨が吸収され再手術が必要であった.1例で関節症のため全手関節固定が行われた.矯正骨切りの成績は良好であったが,健側には及ばないため,変形治癒をきたさない初期治療が重要であった(RF01607 case series).

● 橈骨遠位端骨折変形治癒30例のうち,神経伝導速度検査により19例で手根管症候群に該当する異常を認めた.このうち7例が感覚異常を訴えた.X線像による変形程度と神経症状の関連性はなかった.橈骨の矯正骨切りにより全例で症状は改善した.変形治癒に伴う臨床上,症状に現れない正中神経障害は高い確率で存在した.矯正骨切りのみでこれらの症状は改善した(R2F00086 case series).

● すべての変形治癒が有症状のために矯正手術が必要となるわけではない.矯正手術を希望した38例と矯正手術を希望しなかった65例の比較検討を行った.平均年齢は手術例46歳,非手術例59歳で有意差を認めたが,性別,変形程度には有意差を認めなかった.年齢のみが矯正手術を必要とする因子であった(R2F00031 CCS).

● 橈骨矯正骨切りを施行した22例に対し平均13年の追跡調査を行った.平均値で手関節掌背屈は健側比72.5%,握力は71%,DASHスコアは16であった.アライメントは維持されていたが,有症状の関節症変化を13例に認めた(R2F00729 case series).

● 掌側転位型の変形治癒に対し開大式楔状骨切りを施行した28例の追跡調査(平均25 ヵ月)を行った.平均値にてVAS(visual analogue scale)は術前45が術後3に改善し,前腕回外は術前16°が術後80°へ,DASHスコアは術前55が術後9へ改善した.X線評価ではPTは術前32°が術後10°へ,RIは術前17°が術後21°へ,尺骨変異(ulnar variance:UV)は術前5.9mmが術後−0.1 mmへ変化し,骨癒合は52日で得られた.合併症はなく,Mayo Wrist Scoreによる評価はexcellent 16例,good 10例,fair 2例であった(R2F00606 cohort study).

● 変形治癒が上肢機能に及ぼす影響を受傷後2年間調査した.123例における初期治療はギプス固定が46例,創外固定や経皮的鋼線固定が77例であった.固定後3,6 ヵ月,1,2年でDASHスコアを調査した.変形治癒の定義は短縮変形(UV≧1 mm),背屈変形[橈骨遠位端背側傾斜(dorsal tilt)≧10°]とした.患者は①変形なし35例,②短縮または背屈変形65例,③短縮および背屈変形23例,の3群に分類した.DASHスコアは③にて経時的に悪化し,①,②とは有意差を認めた(R2F00165 cohort study).

文 献 1) RF01464 Slagel BE, et al. Orthop Clin North Am 2007;38:203 2) RF01607 Krukhaug Y, et al. Scand J Plast Reconstr Surg Hand Surg 2007;41:303 3) R2F00086 Megerle K, et al. Arch Orthop Trauma Surg 2013;133:1321 4) R2F00031 Hollevoet N, et al. Acta Orthop Belg 2013;79:643 5) R2F00729 Lozano-Calderon SA, et al. J Hand Surg Eur 2010;35:370 6) R2F00606 Sato K, et al. J Hand Surg Am 2009;34:27 7) R2F00165 Brogren E, et al. Clin Orthop Relat Res 2013;471:1691

1213.4.その他の骨折,治療法

9 方形回内筋の修復または温存は有用か?Clinical Question

解 説

橈骨遠位端骨折に対し掌側ロッキングプレートにて固定を行う際,方形回内筋を温存した,いったん切離し修復した,切離したまま,の比較研究がある.術後早期(6週以内)において温存群が切離縫合群より,あるいは修復群が非修復群より疼痛,関節可動域,握力,手関節機能などで良好であったとする報告がある.6週以降の経過において有意差はみられなかった.したがって,手関節の最終経過観察時において有意差はないが,早期の機能回復に方形回内筋の温存は有用と考えられることを考慮し,推奨度を2とした.

サイエンティフィックステートメント

介入論文(2) ● 橈骨遠位端骨折に対し掌側ロッキングプレート固定を施行した際の,方形回内筋の温存群と切離・縫合群との前向き比較研究である.温存群56手,切離・縫合群43手において,術後1週と3週における前腕回内外の可動域,VAS(visual ana-logue scale)で,温存群が良好で,日常生活動作への復帰は温存群3.1週,切離縫合群5.7週であった(R2J00628 RCT).

● 掌側ロッキングプレート固定における方形回内筋修復群(62例)と非修復群(50例)との比較では,術後1年において疼痛,前腕回内外,DASH(disabilities of the arm, shoulder and hand)スコアに有意差はなく修復する利点を見い出せなかった

(R2F00374 N-RCT).観察論文(3)

● 掌側ロッキングプレート固定における方形回内筋温存群(30例)と切離縫合群(35例)を比較した.術後1,2,6週にて疼痛,関節可動域,握力,手関節機能で温存群が良好であった.3,12 ヵ月では有意差はなかった.合併症,X線所見では差を認めなかった(R2F01157 CCS).

● 掌側ロッキングプレート固定における方形回内筋修復群(33例)と非修復群(24例)で関節可動域,握力,VASを比較調査した.1年以上の経過観察において,術後6週の時点でのみ握力,掌屈で修復群が良好であった(R2F00707 CCS).

● 背屈転位型の橈骨遠位端骨折に対し掌側ロッキングプレート固定の際に,方形回内

推奨文

方形回内筋の修復または温存は,早期の機能回復に有用であり推奨する.推奨の強さ エビデンス総体の総括2(弱い) B(中)

122 第3章 治 療 3.4.その他の骨折,治療法

筋切離修復群(36例)と温存群(30例)の治療成績を比較した.平均22.7 ヵ月の追跡にて両群間に可動域,握力,DASHスコア,VAS,整容面で有意差を認めなかった(R2F00368 cohort study).

文 献 1) R2J00628 戸部正博ほか. 日手会誌2010;26:242 2) R2F01157 Fan J, et al. Chin Med J(Engl)2014;127:2929 3) R2F00707 Tosti R, et al. J Hand Surg Am 2013;38:1678 4) R2F00374 Hershman SH, et al. J Orthop Trauma 2013;27:130 5) R2F00368 Zenke Y, et al. J Orthop Trauma 2011;25:425

4第

リハビリテーション

124 第4章 リハビリテーション Clinical Question 2

1 手関節以外のリハビリテーションは有用か?Clinical Question

解 説

橈骨遠位端骨折の治療中には肩や手指の拘縮も生じることがあり注意が必要である.手関節部の固定期間中でも手関節以外のリハビリテーションとして患側の肩,肘,手指の可動域訓練や健側の筋力強化・可動域訓練を行うことは拘縮予防や早期回復が期待できるため推奨する.

サイエンティフィックステートメント

介入論文(2)●● 6週間の創外固定を行った橈骨遠位端骨折患者で,創外固定器装着中から45分の手指の可動域訓練を週3回行った群11例と行わなかった対照群11例を比較した.12週までの調査期間にリハビリテーションの早期介入は対照群と比較して手指の可動範囲が有意に改善していたが,握力には差がなかった(R2F00169 RCT).●● ギプスによる保存療法を行った橈骨遠位端骨折患者で健側の手関節・手指の筋力,可動域訓練が患側の筋力,関節可動域の改善にどう影響するかを調査した.骨折後12週では,健側の訓練を行った群27例では行わなかった群24例よりも患側の握力および関節可動域が有意に改善していた(R2F00090 RCT).観察論文(1)●● 手術後あるいは保存療法としてギプス固定を行った橈骨遠位端骨折22例について,受傷後早期(平均4.5日)から肩,肘,手指の自動可動域訓練の作業療法を行った8例(早期群)とギプス固定(平均27.8日)除去後から作業療法を行った14例(対照群)を比較した.肩,肘の拘縮は早期群では生じなかったが,対照群では14.3%に生じていた.手指拘縮は早期群の12.5%,対照群の78.6%に生じていた.早期群は対照群と比較してギプス除去直後の手関節可動域が有意に大きかった(RJ00676 CCS).

文 献● 1)● R2F00169● Kuo●LC,●et●al.●Clin●Rehabil●2013;27:983.● 2)● R2F00090● Magnus●CR,●et●al.●Arch●Phys●Med●Rehabil●2013;94:1247.● 3)● RJ00676● 大野英子ほか.総合リハ●2006;34:981.

推奨文

固定中の手関節以外のリハビリテーションは拘縮予防に有用である.推奨の強さ エビデンス総体の総括2(弱い) C(弱)

125Clinical Question 2

2 リハビリテーションプログラムの指導は有用か?Clinical Question

解 説

橈骨遠位端骨折後,リハビリテーションプログラムを患者本人に指導し自宅で練習した場合には,作業療法士が介入して通院リハビリテーションを行った場合と比べて優るとも劣らない成績が得られる.また,クリニカルパスは掌側ロッキングプレート固定後のリハビリテーション指導の手段として利用することもできる.骨折後には患者本人がリハビリテーションの具体的な内容を理解し行えるように指導することは機能回復に有用であり推奨する.ただし,通院でのリハビリテーションは拘縮が強い症例などには有用であり,また患者の満足度も高い.

サイエンティフィックステートメント

介入論文(5)●● 掌側ロッキングプレート固定を行った橈骨遠位端骨折患者94例の後療法において,自宅練習の指導のみを行った48例と作業療法を行った46例とを比較し,作業療法が術後成績に及ぼす効果を検討した.3ヵ月での握力,つまみ力,6ヵ月での握力,手関節背屈可動域,Mayo●Wrist●Scoreは自宅練習群の方が作業療法を行った群に比して有意に良好な結果であった.DASH(disability●of●the●arm●shoulder●and●hand)スコアには有意差はなかった(R2F00574 RCT).●● 掌側ロッキングプレート固定を受け術後2週間外固定を行った橈骨遠位端骨折患者を,術後1週から医師が指導した自宅での自動運動療法を1日2回(1回約20分)行った23例(自宅療法群)と,セラピストに1回20 ~ 30分間,合計12回のリハビリテーションを受けた23例(セラピスト群)の2群に分けて比較した.6週間のリハビリテーション後,両群とも臨床成績が改善していたが,自宅療法群では握力が健側の54%,手関節可動域が健側の79%に回復し,PRWE(Patient-Rated●Wrist●Evaluation)も平均18.5点であるのに比較して,セラピスト群は握力が32%,手関節掌背屈可動域が52%と有意に低く,PRWEは平均36.1点であり自宅療法群が有意によい結果であった(RC00267 RCT).●● 経皮的鋼線固定後あるいは保存療法としてギプス固定を行った橈骨遠位端骨折患者について,外固定除去後に,セラピストの指導を受けて肩,肘,手関節,手指関節の自動運動やストレッチ体操,握力のリハビリテーションを行った28例(リハ

推奨文

患者へのリハビリテーションプログラムの指導は機能回復に有用である.推奨の強さ エビデンス総体の総括2(弱い) B(中)

126 第4章 リハビリテーション Clinical Question 2

ビリ群)と,リハビリテーションを何も行っていない28例(リハビリなし群)を比較した.治療開始3,6週後で握力や手関節可動域には両群間で有意差がなかった.ただし,リハビリなし群と比べるとリハビリ群では全例治療に満足し,疼痛やQuickDASHスコアが有意に優れていた(RC00268 RCT).●● 保存療法を行った橈骨遠位端関節外骨折患者において,ギプス除去後にセラピストの指導で自宅での手関節自動運動のみを行った群18例と,セラピストによるリハビリテーション(6週間)を併用した群(23例)を比較した.ギプス除去後6週と24週で両群間の手関節可動域,握力,PRWEに有意な差はなかった(RF00208 RCT).●● ギプス固定による保存療法を行った橈骨遠位端骨折例について,受傷後から肩,肘,手関節,手指の自動運動(1日3回)の指導のみを行った群14例と,受傷後から自動運動(1日3回)指導に加えてギプス除去後に作業療法(週2回,合計平均37.5回)を加えた群16例を前向きに比較した.受傷後5週,3,9ヵ月のどの時点でも可動域と握力に関して両群間に有意差はなかった(RF00631 CCT).観察論文(4)●● 掌側プレート固定を行った橈骨遠位端骨折症例において,クリニカルパスを導入し作業療法士により術翌日から早期リハビリテーションを行った50例を,パス導入以前の症例で手術直後からは作業療法を行わなかった非施行群43例と比較した.両群において術後12週での手関節可動域,手指拘縮,握力に有意な差はなかった(R2J00623 CCS).●● ギプス固定により保存的に治療した橈骨遠位端骨折110例について,ギプス除去後に指示されたプログラムで手指,手関節,肘,肩関節の自主練習だけを行った70例(単独群)と,ギプス除去後4~ 6週で手関節拘縮が強いときにセラピストによるリハビリテーションも併用して行った40例(併用群)とを比較した.35週後,併用群は全例治療に満足していたが,両群とも臨床成績は改善し,握力と手関節可動域は両群間で有意差はなかった(RF00188 CCS).●● 橈骨遠位端骨折に対する掌側プレート固定後,外固定を1週間以上行ってから作業療法を開始した非早期群28例,1週以内に作業療法を開始した早期群29例,1週以内にクリニカルパス(3日目から術後6週まで可動域訓練)を利用し作業療法を開始したパス群45例を比較した.早期群とパス群では非早期群と比して有意に良好な可動域を示していた.パスを使用した群では最大可動域に到達する時期が早かった(R2J00625 CCS).●● 橈骨遠位端骨折に対する掌側ロッキングプレート固定後で外来用リハビリテーションクリニカルパスを利用したパスあり群36例と,パスなし群52例との間で手関節可動域,握力,DASHスコアを6~ 12 ヵ月まで比較し調査した.パスあり群では手関節可動域と握力が術後1~ 3ヵ月後の早期に,DASHスコアが術後1ヵ月時点において有意に良好な結果であった.しかし,最終的にはどの指標にも有意差がなくなっていた(R2J00799 CCS).

文 献● 1)● R2F00574● Souer●JS,●et●al.●J●Bone●Joint●Surg●Am●2011;93:1761● 2)● RC00267● Krischak●GD,●et●al.●Arch●Phys●Med●Rehabil●2009;90:537● 3)● RC00268● Kay●S,●et●al.●Aust●J●Physiother●2008;54:253

127Clinical Question 2

● 4)● RF00208● Maciel●JS,●et●al.●Arch●Orthop●Trauma●Surg●2005;125:515● 5)● RF00631● Christensen●OM,●et●al.●Int●Orthop●2001;25:43● 6)● R2J00623● 後藤真一.日手会誌●2010;26:132● 7)● RF00188● Oskarsson●GV,●et●al.●Arch●Orthop●Trauma●Surg●1997;116:373● 8)● R2J00625● 桂理ほか.日手会誌●2010;26:225● 9)● R2J00799● 杉野健作ほか.日臨整誌●2010;35:174

128 第4章 リハビリテーション Clinical Question 3

解 説

橈骨遠位端骨折後6ヵ月までに機能回復は大きく進み,さらに骨折後1年以上にわたり緩徐に回復が続く.患者満足度の観点からは骨折後6ヵ月の時点で手関節背屈可動域と握力は十分に回復するが,加齢は回復を遅らせる要因である.握力の回復は可動域の回復よりも時間がかかる傾向がある.また,変形治癒例では握力と可動域が正常まで回復することは困難な場合がある.

サイエンティフィックステートメント

介入論文(1)●● 転位のある橈骨遠位端関節内骨折患者を対象にギプス固定16例または創外固定17例を6週間行い,術後2年までの握力変化を比較した.固定開始後より握力強化の理学療法を行ったが,握力回復には1年かかった.創外固定を行った女性での回復が遅かった(RF01609 RCT).観察論文(9)●● ギプス固定,経皮的鋼線固定,プレート固定を受けた橈骨遠位端骨折患者42例を対象にPRWE(Patient-Rated●Wrist●Evaluation)を用いて6ヵ月までの変化を前向きに検討した.疼痛も機能障害も3ヵ月では軽度,6ヵ月では最小限にまで改善していた(R2F00929 cohort●study).●● 橈骨遠位端骨折に対してギプスによる保存療法または経皮的鋼線固定や創外固定による手術療法を行った123例を対象に受傷後2年まで前向きにDASH(disability●of●the●arm●shoulder●and●hand)スコアによる機能評価を行った.DASHスコアは受傷後6ヵ月までに大きく改善し,その後も改善が続いていた.X線評価上変形治癒のない例,橈骨の1●mm以上の短縮または10°以上の橈骨遠位端背側傾斜(dorsal●tilt:DT)が残る変形治癒例,両方の変形のある変形治癒例の受傷後6 ヵ月でのDASHスコアは各々,13,16,23であった.受傷2年では1●mm以上の短縮と10°以上のDTを有する変形治癒例のDASHスコアは23であり,変形のない例の9.9と比べて改善が劣っていた(R2F00165 cohort●study).●● 掌側ロッキングプレート固定を行った橈骨遠位端骨折患者125例を対象に,患者満足度が得られるのに必要な握力,鍵つまみ力,手関節可動域のカットオフ値に関して術後3ヵ月時点でのミシガン手の質問票(Michigan●Hand●Outcomes●Questionnaire:MHQ)を用いて調査した.患者が不満足から満足と感じるカットオフ値は握力65%,鍵つまみ力87%,手関節可動域95%の回復と判明した(R2F00338●cohort●study).●● 保存療法を行った橈骨遠位端骨折87例を対象に長期成績[9~ 13年(平均11年)]を調査した.最終時X線上,DTは60歳未満では平均13°,60歳以上で平均18°残存していた.受傷後6ヵ月で握力は健側の約77%,手関節可動域は健側の約86%

受傷後6ヵ月までに手関節機能は十分に回復するか?3Clinical Question

129Clinical Question 3

まで回復していた.受傷後6ヵ月までは手関節可動域のほうが握力と比較して回復が早かった.60歳以上の患者は握力も可動域も回復が遅かった(RF01044 case●series).●● 手術療法(プレート固定18例,創外固定9例,経皮的鋼線固定8例,関節鏡視のみ1例)を行った橈骨遠位端骨折36例の成績を調査した.術後6ヵ月間機能訓練を行った結果,関節可動域がほぼ正常に回復するまでには,前腕回内外が術後約1ヵ月,手関節掌背屈は術後3~ 4 ヵ月を要した.握力は術後3ヵ月で健側の57.1%,6 ヵ月では69.8%まで回復した(RJ00964 case●series).●● 保存療法または手術療法を行った橈骨遠位端骨折36例の成績を調査した.外固定除去後に機能訓練を行い,最終調査時(平均6.3 ヵ月)では握力は14.6●kg(健側比66.6%),可動域は背屈が55.4°(健側比92%),掌屈が41.6°(健側比78%),回内が84.5°(健側比95%),回外が88.6°(健側比98%)に回復した(RJ01643 case●series).●● 掌側ロッキングプレート固定を行った橈骨遠位端骨折49例の成績を調査した.術後外固定を行わず機能訓練を行った結果,手関節可動域は背屈と掌屈がそれぞれ,術後3ヵ月で67°と60°,6ヵ月で73°と64°,1年で75°と66°であった.一方,握力は術後3 ヵ月で健側の63 ~ 78%,6 ヵ月で78 ~ 90%,1年で85 ~ 99%であった(RF01683 case●series).●● 掌側ロッキングプレート固定を行った橈骨遠位端骨折53例を対象に手関節可動域,握力,DASHスコアを用いて成績を左右する因子を調査した.術後6ヵ月では高齢であるほど手関節可動域とDASHスコア(70歳以上では平均20.6,69歳以下では平均8.12)が不良であった.また,術後橈骨遠位端掌側傾斜の矯正が少ないほど掌屈可動域とDASHスコアが不良であった(R2J00666 case●series).●● 掌側ロッキングプレート固定を行った橈骨遠位端骨折122例を対象に機能回復遅延に影響する因子を前向きに検討した.術後6ヵ月では手関節可動域に関しては骨折型が,握力に関しては加齢と低骨密度が,MHQによる機能評価に関しては高エネルギー外傷と骨折の重症度とが関係していた.術後12 ヵ月では,握力とMHQ評価に関して加齢と低骨密度が関係していた(R2F00719 case●series).

文 献● 1)● RF01609● Lagerstrom●C,●et●al.●Scand●J●Rehabil●Med●1999;31:55● 2)● R2F00929● Kasapinova●K,●et●al.●Prilozi●2009;30:185● 3)● R2F00165● Brogren●E,●et●al.●Clin●Orthop●Relat●Res●2013;471:1691● 4)● R2F00338● Chung●KC,●et●al.●J●Hand●Ther●2009;22:302● 5)● RF01044● Foldhazy●Z,●et●al.●J●Hand●Surg●Am●2007;32:1374● 6)● RJ00964● 安部幸雄ほか.日災医会誌●1999;47:542● 7)● RJ01643● 中村智.日手会誌●2008;24:919● 8)● RF01683● Osada●D,●et●al.●J●Hand●Surg●Am●2008;33:691● 9)● R2J00666● 古田和彦ほか.日手会誌●2011;27:571● 10)● R2F00719● Roh●YH,●et●al.●J●Hand●Surg●Am●2014;39:1465

5第

機能評価,予後

132 第5章 機能評価,予後 Clinical Question 1

解 説

橈骨遠位端骨折の治療成績を判定するための総合的な評価基準には複数の評価方法が存在する.評価基準は患者立脚型評価と医療者側評価に分類される.

今回のガイドライン作成にあたって対象とした2009 ~ 2014年までの文献で,最も使用頻度が高かった評価法は,患者立脚型評価ではDASH(disabilities of the arm, shoulder and hand)スコア,医療者側評価ではMayo Wrist Scoreであった.また,患者立脚型評価と医療者側評価の両方が用いられていた文献が93編存在した.前版(1998 ~ 2009年)と比較すると,従来から用いられてきた医療者側評価と合わせて患者立脚型評価での報告の頻度が増えている(表1).

①患者立脚型評価患者立脚型評価とは,患者自身が自身の症状をアンケート形式で回答し点数化

するものである.・DASHスコア

DASHは,30項目に及ぶ上肢の日常生活動作の不自由度と疼痛を含む評価法である. 評価の対象に年齢制限は設けられていないが,一般的には18 ~ 65歳を対象としている(Institute for Work & Health http://www.dash.iwh.on.ca/faq).QuickDASHはDASHの評価項目のうち11項目を抽出した簡易版である.橈骨遠位端骨折において,DASHスコアが治療成績とよく相関するとの報告(R2J00744)や,65歳以上の高齢者にとって,質問内容が回答しやすい(R2J00072)などの報告がある.

1 一般的に用いられている評価法は?Clinical Question

表1 各評価法が用いられた文献数

評価方法 1998 ~ 2009 2009 ~ 2013患者立脚型評価 DASH(QuickDASH) 93 220(20)

PRWE 25 42Hand20 0 12MHQ 6 7SF-36 16 13

医療者側評価 Mayo Wrist Score 143 250Gartland and Werley 109 64斎藤の評価法(1983) 244 24日本手外科学会 手関節機能評価

(Cooneyの評価法の改変)1 24

PRWE:Patient-Rated Wrist Evaluation,MHQ:Michigan Hand Outcomes Questionnaire(ミシガン手の質問票),SF-36:36-Item Short-Form Health Survey

133Clinical Question 1

・PRWE(Patient-Rated Wrist Evaluation)PRWEは,手関節痛と手関節を使用する生活動作に関する質問票である.前述

のDASHが上肢全体を対象とする評価であるのに対して,PRWEは手関節に特異的な評価であるため,手関節の症状が反映されやすく,橈骨遠位端骨折後の治療成績を評価するのに適しているとする報告がある(R2J00162).・Hand20

Hand20は,日本で開発されたイラストつきの20項目の質問からなる上肢機能評価の質問票であり,質問項目が直感的に理解しやすく高齢者にも回答しやすい

(R2H00001).・MHQ(Michigan Hand Outcomes Questionnaire)

MHQは利き手を考慮した手に関する質問票で,両手,片手を使用する生活動作や疼痛,仕事,整容面,満足度を含む評価法である.・SF-36(36-Item Short-Form Health Survey)

SF-36は,個人の健康に関連した生活の質を評価するものである.①身体機能,②日常役割機能(身体),③日常役割機能(精神),④全体的健康感,⑤社会生活機能,⑥体の痛み,⑦活力,⑧心の健康,からなる8つの健康概念を測定する.国民標準値が設定されている.

※MHQおよびSF-36の使用に関しては使用許諾が必要である.

②医療者側評価医療者側評価は,患者の症状や身体所見,X線像をもとに医療者側が評価し患

者の状態を数値化するものである.・Mayo Wrist Score(Cooneyの評価),およびその改変版

国際的に使用されている手関節機能評価法であり,橈骨遠位端骨折治療の機能評価法としても最も使用頻度が高い.CooneyがGreen and O’Brien scoreを元に改変し,1987年に自身の論文のなかで公表した.Cooney自身(1994,1996年)やKrimmer(2000年)による複数の改変版が存在し,評価項目やexcellentの基準が版ごとに多少異なっている.・Gartland and Werleyの評価,および斎藤の評価(1983)

Gartland and Werleyの評価,斎藤の評価は橈骨遠位端骨折に特有の評価基準である.自覚的評価として疼痛や脱力,生活動作や労働力低下などの項目を有し,他覚的評価として手関節の可動域や握力,X線評価,合併症の項目を含む.・日本手外科学会 手関節機能評価(Cooneyの評価法の改変)

Mayo Wrist Scoreをもとに,日本手外科学会により2006年に公表された.元々のMayo Wrist Scoreとは評価項目および点数配分,総合的な成績判定基準が異なる.

各評価法のウェブサイト・文献を表2に表す.

134 第5章 機能評価,予後 Clinical Question 2

文 献 1) R2J00744 岡崎敦ほか.日手会誌 2013;30:38 2) R2J00072 古田和彦ほか.骨折 2012;34:736 3) R2J00162 高田逸朗ほか.日手会誌 2010;27:74 4) R2H00001 Suzuki M, et al. J Bone Joint Surg Br 2010;92:963

表2 各評価法のウェブサイト及び文献

DASH日本語版,QuickDASH日本語版

http://www.jssh.or.jp/doctor/jp/infomation/dash.html

PRWE日本語版 http://www.jssh.or.jp/doctor/jp/infomation/dash.htmlHand20 http://www.handfrontier.org/?page_id=21MHQ http://mhq.lab.medicine.umich.edu/homeSF-36 https://www.sf-36.jpMayo Wrist Score Cooney WP, Bussey R, et al. Difficult wrist fractures.

Perilunate fracture-dislocations of the wrist. Clin Or-thop Relat Res. 1987 Jan; (214):136-47.

Gartland and Werleyの評価

Gartland JJ, Werley CW. Evaluation of healed Colles’ fractures. J Bone Joint Surg (Am) 1951;33:895-907

斎藤の評価法(1983) 斎藤英彦:治療成績評価法.橈骨遠位端骨折 - 進歩と治療法の選択 -(斎藤英彦ほか編),第1版,金原出版,271-282. 2010 Saito H, et al: Classification of fractures at the dis-tal end of the radius with reference to treatment of comminuted fractures. In Boswick JA, editor. Current concepts in hand surgery. Philadelphia: Lea & Febiger; p129-145 1983.http://www.jssh.or.jp/doctor/jp/publication/kinouhy-ouka4th.html

日本手外科学会 手関節障害の機能評価表(Cooneyの評価法の改変)

http://www.jssh.or.jp/doctor/jp/publication/kinouhy-ouka4th.html

135Clinical Question 2

解 説

妥当性とは,検者が測定しようと思っている事象をどれだけ的確に測定できるかということである.疾患の重篤性や,治療効果を評価する際に,用いる評価法の妥当性が検証されていることは重要である.

従来,橈骨遠位端骨折の治療成績は主に医療者側評価によって行われてきた.これらは疼痛や脱力などの主観的評価,握力や可動域などの客観的評価,復職状況などの社会的評価やX線画像評価を総合的に評価するものである.しかし,これら医療者側評価の妥当性についてはまだ十分に検証されていない.また,医療者側評価だけでは,患者の実際の生活の質(quality of life:QOL)を詳細に評価できないことが指摘されるようになってきた.

これに対して1990年代頃から,医療者側ではなく,患者の視点に立ち,患者のQOLを評価する患者立脚型評価が開発されてきた.現在,橈骨遠位端骨折患者に対して妥当性の検証されている患者立脚型評価法は,DASH(disability of the arm, shoulder and hand),PRWE(Patient-Rated Wrist Evaluation),ミシガン手の質問票(Michigan Hand Outcomes Questionnaire:MHQ),Hand20,SF-36(36-Item Short-Form Health Survey)である.これらの評価法は信頼性や反応性についても検証されており,治療の有用性や,異なる治療法を比較するために有用な評価法であると考えられる.

サイエンティフィックステートメント ● 90例の上肢疾患を有する患者のDASHスコアとSF-36の関連性(級内相関係数 −0.36 ~−0.62)から,DASHスコアの妥当性が検証された(RF01727).

● 上肢の筋骨格系に問題を有する労働者270例について,DASHスコアの妥当性,信頼性が検証された(RF01728).

● 手術療法を要した橈骨遠位端骨折107例について,DASHスコアGerman versionの信頼性,妥当性が検証された(RF01729).

● 患者の疼痛と日常生活動作を定量化するためにPRWEが考案され,橈骨遠位端骨折患者101例を用いた分析から,PRWEは十分な信頼性と妥当性を有していた

(RF01253). ● 99例の橈骨遠位端骨折患者に対してスウェーデン版PRWEでの評価が行われ,良好な反応性,妥当性,信頼性が報告されている(R2F00511).

● 橈骨遠位端骨折59例に対して,受傷時,受傷後3,6 ヵ月のPRWE,DASHスコア,SF-36が計測され,その分析からPRWEの反応性が最も高く,続いてDASHスコア,SF-36の順であった(RF00929).

● 200例の手外科疾患症例に対して,MHQの妥当性,信頼性が検証された(RF01726). ● 橈骨遠位端骨折47例に対して,受傷後3,6 ヵ月,1年の時点でMHQと客観的所

妥当性の検証されている評価法は?2Clinical Question

136 第5章 機能評価,予後 Clinical Question 3

見が計測され,MHQは客観的所見と同様に,手の機能改善をよく反映していた(RF01028). ● 橈骨遠位端骨折30例を含む上肢運動器疾患患者431例に対して,Hand20の妥当性を検証し,DASHスコアと比較して評価項目記入の欠損が少なかったと報告している(R2H00001).

● 筋骨格系疾患を有する労働者53例に対して,SF-36を含む5つの健康感の変化を評価する尺度を計測し,SF-36が最も良好な反応性と信頼性を示した(RF01724).

● 橈骨遠位端骨折21例について,SF-36を含む3種類の質問票と理学的所見を計測し,治療後3 ヵ月でのSF-36の日常役割機能と体の痛みは有意に改善した(RF01725).

● 手術療法を要した橈骨遠位端骨折50例の最終調査時(平均2.4年)にSF-36が計測され,関節内変形治癒はSF-36の身体的健康度,精神的健康度に関与していた

(RF00344).

文 献 1) RF01727 SooHoo NF, et al. J Hand Surg Am 2002;27:537 2) RF01728 Kitis A, et al. Appl Ergon 2009;40:251 3) RF01729 Westphal T, et al. Z Orthop Ihre Grenzgeb 2002;140:447 4) RF01253 MacDermid JC, et al. J Orthop Trauma 1998;12:577 5) R2F00511 Wilcke MT, et al. Scand J Plast Reconstr Surg Hand Surg 2009;43:94 6) RF00929 MacDermid JC, et al. J Hand Surg Am 2000;25:330 7) RF01726 Chung KC, et al. J Hand Surg Am 1998;23:575 8) RF01028 Kotsis SV, et al. J Hand Surg Am 2007;32:84 9) R2H00001 Suzuki M, et al. J Bone Joint Surg Br 2010;92:963 10) RF01724 Beaton DE, et al. J Clin Epidemiol 1997;50:79 11) RF01725 Amadio PC, et al. J Hand Surg Am 1996;21:781 12) RF00344 Fernandez JJ, et al. Clin Orthop Relat Res 1997;341:36

137Clinical Question 3

解 説

橈骨遠位端骨折の変形治癒は大きく分けて2種類存在する.関節を支える部分が変形する関節外変形治癒と,関節そのものが変形する関節内変形治癒である

(CQ3-4-8参照).これらはいずれも,高齢者や,長期の経過観察における機能的予後との間に明確な関連性が示されていない.しかし,青壮年,活動性の高い患者や,短,中期の経過観察では,機能的予後に影響すると考えられるため,変形治癒を予防できる治療法の選択が望ましい.

サイエンティフィックステートメント

観察論文(▶関節外骨折変形治癒,8) ● 50歳以上(平均年齢68.5歳)の橈骨遠位端骨折74例に対して,保存療法(ギプス固定6週間以内)を行った.X線評価における整復位の許容範囲を6つの指標[橈骨遠位端尺側傾斜(radial inclination:RI)>15°,橈骨遠位端掌側傾斜(palmar tilt:PT)10°≦PT≦20°,橈骨長(radial height:RH)>5 mm,尺骨変異(ulnar variance:UV)>−5 mm,関節面段差(step-off)<1 mm,関節面離開(gap)<1 mm] で定めた.受傷後6 ヵ月で,6指標すべてが許容範囲内であったのは21例(29%)のみで,52例(71%)で少なくとも1つが,32例(44%)で2つ以上が許容範囲を逸脱した.いずれの指標も患者立脚型評価[DASH(disabilities of the arm, shoulder and hand)スコア,SF-12(12-Item Short-Form Health Survey)]と相関を認めず,53例(72%)で患者満足度は高かった(RF00379 cohort study).

● 50歳以下[平均年齢35歳(17 ~ 49歳)]の橈骨遠位端骨折169例に対して,保存療法(45例)または手術療法(経皮的鋼線固定16例,創外固定61例,鋼線固定と創外固定併用4例,鋼線固定10例,スクリュー固定30例,ノンロッキングプレート固定3例)を行った.平均経過観察期間4.9年(1.5 ~ 8.7年)で,PTが−10°以下となった群のみ,患者立脚型評価(Patient Evaluation Measure Questionnaire for Hand Surgery:PEM)における日常の活動性,仕事といった評価項目で影響がみられた.手関節痛の発生頻度や強さには影響がなかった(RF01112 case series).

● 平均年齢52歳の橈骨遠位端骨折120例で,PRWE(Patient-Rated Wrist Evaluation)と,骨折型(AO分類),教育レベル,性別,保険加入の有無,年齢,受傷時の橈骨短縮(radial shortening:RS),整復後のRSとの関連性を検討した.治療法は保存療法,手術療法(経皮的鋼線固定,創外固定,内固定など)が半数ずつ選択された.受傷6 ヵ月後のPRWEは,保険加入の有無と最も強く相関し,続いて教育レベル,受傷時のRSと相関を認めた.また,手関節の障害程度(可動域,握力,巧緻性の障害)と中等度相関した(RF00846 cohort study).

● 平均年齢46歳(18 ~ 76歳)の橈骨遠位端骨折で,経皮的鋼線固定を行った30例(AO分類A2 5例,A3 9例,C1 4例,C2 12例)で,PRWE,X線評価,臨床評価の

変形治癒は機能的予後に影響するか?3Clinical Question

138 第5章 機能評価,予後 Clinical Question 3

関連性を検討した.術後1年で,PRWEと相関を認めたものはRS,PT,1 mm以上のgapの残存であった(RF00592 cohort study).

● 平均年齢58歳(18 ~ 89歳)の関節外橈骨遠位端関節外骨折に対して,保存療法140例,手術療法82例(骨折観血的手術17例,経皮的鋼線固定40例,鋼線固定と創外固定併用12例,創外固定1例,記載なし12例)を行い,このうち評価不可能であった6例を除外した216例で検討した.X線評価の許容範囲(PT≦−10°,RI≧15°,RS<3 mm)を定めたところ,受傷後1年で,65歳未満では,変形を認めた群でDASHスコア,PRWEが不良であった.一方65歳以上では,両群間に有意差を認めなかった.年齢と関係なく,許容範囲からの逸脱はDASHスコア,PRWEの不良と相関を認めた.特に65歳以上では,変形治癒に伴い患者立脚型評価が不良となる患者の割合が,65歳未満と比較して,3 ~ 4倍ほど少なくなる傾向にあった

(RF01040 cohort study). ● 平均年齢60歳(18 ~ 86歳)の橈骨遠位端骨折に対して,6週間のギプスシーネ固定による保存療法を行った235例で,術後3,6 ヵ月におけるX線評価と医療者側評価の関連性を検討した.Sarmientoにより修正されたLidstörmのX線評価で,整復位をexcellent,good,fair,poorの4群に分類し,Gartland and Werleyの評価で,excellentまたはgoodとなった割合(%)を求めた.受傷後3 ヵ月では,整復位excellent群で65%,整復位poor群で25%とX線評価と医療者側評価の間に関連性を認めたが,受傷後6 ヵ月では,有意差を認めなかった(整復位excellent群で75%,整復位poor群で81%)(RF01730 case series).

● 40歳以下[平均年齢25歳(16 ~ 40歳)]の橈骨遠位端骨折106例(関節内骨折40例,関節外骨折66例)に対して,保存療法を105例,手術療法(スクリュー固定)を1例に施行した.Jupiter and Fernandezの指標に従い,関節外骨折後の変形治癒(RI<20°,PT<0°,RS≧2 mmのいずれか1つを認めるもの)を定めたところ,69例(65%)で1つ以上の指標が変形治癒となり,このうち19例(18%)で3つの指標すべてが変形治癒となった.平均経過観察期間38年(33 ~ 42年)で,関節外骨折後の変形治癒とDASHスコア,PEMに有意な相関を認めなかった(RF00793 case series).

● 平均年齢63歳(19 ~ 88歳)の橈骨遠位端骨折123例(関節外骨折88例,関節内骨折35例)に対して,46例で整復後にギプス固定,77例で整復後に手術療法(創外固定63例,経皮的鋼線固定9例,創外固定と経皮的鋼線固定併用5例)を行った.1 mm以上のRSと−10°以下のPTの両方を認める変形治癒群のみ,受傷から2年でDASHスコアが改善しなかったが,どちらか単独の変形治癒の群はDASHスコアが改善した(R2F00165 cohort study).観察論文(▶関節内骨折変形治癒,6)

● 18歳以上(平均年齢49歳)の橈骨遠位端骨折で,徒手整復後に整復位を得られず,掌側ロッキングプレート固定によって治療された93例(AO分類A 42%,B 9%,C 49%)をミシガン手の質問票(Michigan Hand Outcomes Questionnaire:MHQ)で評価した.術後3 ヵ月では,1 mm以上のgap,step-offが予後不良因子となったが,術後1年では,関節内変形治癒は予後不良因子とならず,高年齢と低収入が予後不良因子となった(RF01027 cohort study).

● 平均年齢50歳(18 ~ 85歳)の橈骨遠位端骨折50例(AO分類A2 1例,A3 12例,B2 3例,C1 12例,C2 12例,C3 10例)に対して,手術療法(創外固定と鋼線固定

139Clinical Question 3

併用24例,ノンロッキングプレート固定20例,鋼線固定4例,創外固定2例)を施行した.最終調査時[平均経過観察期間2.4年(4 ~ 63 ヵ月)]で1 mm以上の関節内変形治癒を認めた群は,最終経過観察時のSF-36(36-Item Short-Form Health Survey)の値が有意に低かった(RF00344 case series).

● 平均年齢32歳(17 ~ 42歳)の関節内橈骨遠位端骨折16例(AO分類B2 1例,B3 3例,C1 1例,C2 10例,C3 1例)に対して,手術療法(ノンロッキングプレート固定2例,鋼線固定14例)を施行した.平均経過観察期間15年(13 ~ 17年)におけるMusculoskeletal Functional Assessment(MFA)は,すべての患者で健常者と有意差なく,Hand Function Sort(HFS)は14例(88%)で日常生活に支障がない状態であった.平均経過観察期間7年で行った先行研究と比較し,関節症変化が進行していたが,機能的予後との間に相関を認めなかった(RF01014 case series).

● 40歳以下[平均年齢25歳(16-40歳)]の橈骨遠位端骨折106例(関節内骨折40例,関節外骨折66例)に対し,保存療法を105例,手術療法(スクリュー固定)を1例に施行した.術後平均経過観察期間38年(33 ~ 42年)で,関節内骨折40例のうち,27例(68%)で関節症変化が出現したが,最終経過観察時のDASHスコア,PEMは90%以上が健常者と同じレベルを保持していた(RF00793 case series).

● 平均年齢38歳(17 ~ 60歳)の関節内橈骨遠位端骨折81例(AO分類C1 10例,C2 46例,C3 25例)に対して,腸骨移植を併用した掌側ノンロッキングプレート固定を行った.平均経過観察期間9年(6 ~ 18年)で,健側と比較しgap,step-offの残存で有意差を認め,これら変形治癒は関節症の進行と相関を認めた.関節症変化は,掌背屈の可動域減少と相関を認めたが,痛みの程度,DASHスコア,握力,橈尺屈の可動域とは相関を認めなかった(R2F00075 case series).

● 平均年齢46歳(18 ~ 76歳)の橈骨遠位端骨折に対して,経皮的鋼線固定を行った30例(AO分類A2 5例,A3 9例,C1 4例,C2 12例)を用いて,PRWE,X線評価,臨床成績の関連性を検討した.術後1年で,PRWEと相関を認めたものはRS,PT,1 mm以上のgapであった(RF00592 cohort study).

文 献 1) RF00379 Jaremko JL, et al. Clin Radiol 2007;62:65 2) RF01112 Gliatis JD, et al. J Hand Surg Br 2000;25:535 3) RF00846 MacDermid JC, et al. J Clin Epidemiol 2002;55:849 4) RF00592 Karnezis IA, et al. Injury 2005;36:1435 5) RF01040 Grewal R, et al. J Hand Surg Am 2007;32:962 6) RF01730 Stewart HD, et al. Injury 1985;16:289 7) RF00793 Forward DP, et al. J Bone Joint Surg Br 2008;90:629 8) RF01027 Chung KC, et al. J Hand Surg Am 2007;32:76 9) RF00344 Fernandez JJ, et al. Clin Orthop Relat Res 1997;341:36 10) RF01014 Goldfarb CA, et al. J Hand Surg Am 2006;31:633 11) R2F00075 Lutz M, et al. Arch Orthop Trauma Surg 2011;131:1121 12) R2F00165 Brogren E, et al. Clin Orthop Relat Res 2013;471:1691

140 第5章 機能評価,予後 Clinical Question 4

解 説

骨折後の不安定性(再転位)を予測する患者因子として,年齢,性別,利き手,受傷機転,喫煙歴や飲酒歴,骨折既往,骨粗鬆症などがある.さらに骨折因子として,骨折型,骨折の転位や粉砕の程度,靱帯損傷やほかの骨折など合併損傷の有無が存在し,治療因子として,麻酔や徒手整復の方法,外固定の方法や部位が再転位を予測する可能性がある.これらの因子が複合的に影響しあって,骨折部の再転位が起こるとされている.

現在まで提示されてきた予測因子は,年齢,受傷時の骨折部の粉砕,骨折部の著しい軸転位,尺骨骨折の合併,関節内骨折などである.

これらの予測因子を伴う骨折に対しては,保存療法中に再転位を起こす可能性が高いと考えられる.再転位を防ぐために,受傷直後から手術療法を選択するか,あるいはある程度の再転移に許容して疼痛や可動域制限が生じた際に矯正手術を行うか,などを念頭に置いて治療方針を決定することが望ましい.

サイエンティフィックステートメント ● 平均年齢62歳(18 ~ 97歳)の橈骨遠位端骨折に対して,背側シーネ固定を用いて保存療法を行った267例で検討を行った.受傷後8週で,4 mm以上の橈骨短縮

(radial shortening: RS),または30°以上の橈骨背屈変形を整復後の再転位と定義したところ,受傷時5 mm以上のRSが再転位の最も重要な予測因子であり,続く因子は骨折部の粉砕,年齢であった.受傷時に5 mm以上のRSを認めると,80%以上の確率で再転位を起こすことがわかった(RF01732 cohort study).

● 平均年齢54歳(13 ~ 93歳)の橈骨遠位端骨折に対して,前腕ギプス固定を用いて保存療法を行った112例で検討を行った.整復後の再転位の危険性(Stewartのスコア)は,年齢(60歳以上),受傷時−20°以上の橈骨遠位端掌側傾斜(palmar tilt:PT),骨折部の背側粉砕,関節内骨折,尺骨骨折の5つの因子と強く相関した.5つの因子のうち,3つ以上の因子を有する骨折は不安定であり,ギプス固定中に再転位する可能性が高かった(RF00531 cohort study).

● 平均年齢57歳(23 ~ 80歳)の橈骨遠位端骨折に対して,上腕からのスプリント固定2週間,前腕ギプス固定2週間による保存療法を行った105例のうち,追跡調査が可能であった80例で検討を行った.年齢,骨折部の粉砕,尺骨変異(ulnar vari-ance:UV)またはRSを因子としたMackenneyの公式,およびAdolphsonの公式をもとに,受傷時の骨折部不安定性スコアを算出した.整復位の許容範囲[−15°<PT<20°,橈骨遠位端尺側傾斜(radial inclination:RI)>15°,RS<5 mm,関節面段差(gap)<2 mm]を定めたところ,不安定性スコアが低いと判定された症例の約半数が,最終経過観察時(3 ~ 7 ヵ月)には整復位の許容範囲を逸脱し,実際は不安定であった(RF01383 Cohort).

骨折の不安定性(再転位)を予測する患者因子, 骨折因子は存在するか?4

Clinical Question

141Clinical Question 4

● 5.5年以上の追跡が可能であった,平均年齢59歳(14 ~ 100歳)の橈骨遠位端骨折4,024例で,整復後2,6週,骨癒合時における再転位の予測因子を検討した.受傷時に転位のある骨折群(UV>3 mm,PT<−10°)と,転位の軽度な骨折群(UV≦3 mm,PT≧−10°)に分類し,多変量解析を用いて解析を行ったところ,再転位の予測因子は,年齢,骨折部の粉砕,受傷時のUVであった(RF00730 cohort study).

● Lafontaine因子(年齢≧60歳,受傷時PT≦−20°,骨折部の背側粉砕,関節内骨折, 尺骨骨折の合併)を3つ以上含み,不安定性を有する平均年齢60歳(16 ~ 87歳)の橈骨遠位端骨折50例に対して,整復後にsugar tong splint固定を用いて保存療法を行った.整復不良[橈骨長(radial height:RH)の損失≧2 mm,RIの変化量≧5°,PTの損失≧10°,step-off残存≧1 mm]の予測因子は年齢のみであった.Lafontaine因子を3つ以上含む不安定型橈骨遠位端骨折で,整復後再転位する確率が50%である年齢は58歳であり,年齢が高くなるほど再転位の確率は上昇した

(RF00982 cohort study). ● 平均年齢65歳の橈骨遠位端関節外骨折に対して,6週間のギプス固定を行った71例を用いて再転位の予測因子を検討した.不安定性(再転位)[PT<−15°,PT>20°,UV>4 mm,RI<10°]の予測因子は,早期転位(1週間)では受傷時のRSとPTであったが,晩期転位(6週間)では,受傷時のRSとPTに加えて,年齢と受傷時のRIが予測因子となった(RF00202 cohort study).

文 献 1) RF01732 Abbaszadegan H, et al. Acta Orthop Scand 1989;60:646 2) RF00531 Lafontaine M, et al. Injury 1989;20:208 3) RF00730 Mackenney PJ, et al. J Bone Joint Surg Am 2006;88:1944 4) RF01383 Jeong GK, et al. J Trauma 2004;57:1043 5) RF00982 Nesbitt KS, et al. J Hand Surg Am 2004;29:1128 6) RF00202 Leone J, et al. Arch Orthop Trauma Surg 2004;124:38

142 索 引

索 引

あ 行

遠位橈尺関節・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28,・107,・110

か 行

外固定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50,・92開大式楔状骨切り・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 119角度可変型掌側ロッキングプレート・・・・・・・84,・86角度固定型掌側ロッキングプレート・・・・・・・・・・ 84合併症・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43,・52,・96観血的整復内固定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14関節外骨折・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34関節鏡視下手術・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・64関節内骨折・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25,・37

危険因子・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12機能的予後・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 137

経皮的鋼線固定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66,・68

高エネルギー骨折・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10拘縮予防・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 124高齢者・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7,・45,・59骨移植・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 88骨折形態・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10

さ 行

再転位・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 140斎藤の評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 133佐々木の不安定型Colles骨折の判定基準・・・・・・・ 6三角線維軟骨複合体・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28,・110残存変形・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 39,・41

軸射像・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23尺骨遠位端骨折・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 115尺骨茎状突起骨折・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31,・113尺骨変異・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21舟状月状骨・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29,・117

舟状月状骨解離・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 117手関節機能・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 128手根骨間靱帯損傷・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 117手術時期・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 57受傷機転・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10掌側ロッキングプレート固定・・・・・・・・・ 77,・96,・101人工骨移植・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 88

髄内釘固定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 105スカイラインビュー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23

成人・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7

創外固定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・70,・73

た 行

多方向性掌側ロッキングプレート・・・・・・・・・84,・86単純X線計測値・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21単方向性掌側ロッキングプレート・・・・・・・・・・・・ 84

超音波検査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 55超音波パルス・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 103

低エネルギー骨折・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10手関節機能・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 128電気刺激・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 103

橈骨遠位端尺側傾斜・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21橈骨遠位端掌側傾斜・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21橈骨遠位端長・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21透視下整復・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・62徒手整復・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45

な 行

日本手外科学会 手関節機能評価・・・・・・・・・・・ 133

ノンロッキングプレート固定・・・・・・・・・・・・・・・・ 81

は 行

背側ロッキングプレート固定・・・・・・・・・・・・・・・・ 75発生率・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10

和文索引

143

不安定型骨折・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5複合性局所疼痛症候群・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45,・51複数プレート・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 90不顕性骨折・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27プレート抜去・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 94

閉鎖式楔状骨切り・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 119変形治癒・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 119,・137

方形回内筋・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 121

ま 行

麻酔・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 48

ら 行

リハビリテーション・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 124リハビリテーションプログラム・・・・・・・・・・・・・ 124

欧文索引

AO分類・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10,・18

bridging創外固定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・70,・73

closed・wedge・osteotomy・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 119complex・regional・pain・syndrome(CRPS)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45,・51

Cooneyの不安定型骨折の判定基準・・・・・・・・・・・・ 6Cooney分類・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18CT・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25

DASH(disabilities・of・the・arm,・shoulder・and・hand)スコア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 132distal・radioulnar・joint(DRUJ)・・・・・・・ 28,・107,・110DRUJ・ballottement・test・ ・・・・・・・・・・・・・・・ 28,・107DRUJ不安定性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28,・113

Fernandez分類・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18finger・trap・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47fixed・angle・locking・plate・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 84Frykman分類・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18

Gartland・and・Werleyの評価・・・・・・・・・・・・・・・ 133

Hand20・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 133

Mayo・Wrist・Score・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6,・133Mayo分類・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18Melone分類・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18MHQ(Michigan・Hand・Outcomes・Questionnaire)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 133

monoaxial・locking・plate(MLP)・・・・・・・・・・・・・・ 84

non-bridging創外固定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・70,・73

open・reduction・and・internal・fixation(ORIF)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14

open・wedge・osteotomy・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 119

palmar・angulation・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21palmar・tilt(PT)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21,・39polyaxial・locking・plate(PLP)・・・・・・・・・・・・・84,・86PRWE(Patient-Rated・Wrist・Evaluation)・・・・ 133

radial・inclination(RI)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21radial・length(RL)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21radial・tilt・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21

scapholunate(SL)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29,・117scapholunate・dissociation(SLD)・・・・・・・・・・・・ 117SF-36(36-Item・Short-Form・Health・Survey)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 133

skyline・view・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23

TFCC損傷・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28,・110triangular・fibrocartilage・complex(TFCC)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28,・110

ulnar・plus・variance・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21ulnar・variance(UV)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21,・39

variable・angle・locking・plate・・・・・・・・・・・・・・84,・86volar・tilt・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21

定価は表紙に表示してあります.落丁・乱丁の場合はお取り替えいたします.ご意見・お問い合わせはホームページまでお寄せ下さい.

Printed and Bound in JapanISBN978─4─524─25286─2

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2012年 3 月 1 日 第1版第1刷発行2013年 5 月 1 日 第1版第2刷発行2017年 5 月10日 改訂第2版発行

橈骨遠位端骨折診療ガイドライン2017(改訂第2版)

監 修 日本整形外科学会    日本手外科学会編 集 日本整形外科学会診療ガイドライン     委員会     橈骨遠位端骨折診療ガイドライン     策定委員会発行者 小立鉦彦発行所 株式会社 南 江 堂 113─8410 東京都文京区本郷三丁目42 番 6 号 (出版)03─3811─7236 (営業)03─3811─7239ホームページ http://www.nankodo.co.jp/

印刷・製本 小宮山印刷工業装丁 土屋みづほ

The Japanese Orthopaedic Association, 2017

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