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房室ブロック患者における自己房室伝導の評価とペースメーカー設定に関して 倉敷中央病院 田中 翔平 【患者背景】 84 歳女性。下腿浮腫、呼吸苦を主訴に 2015 8 月に来院され、来院時検査 では BNP 高値、心電図の胸部誘導にて T 波の陰転化を認め(1)入院精査となった(AV 隔は 160ms 前後)。心臓超音波検査では左室の壁運動異常等は認めず、 CK 値も低値であり、 心不全加療が優先され、後の冠動脈評価目的の RI 検査では虚血を疑う所見なく、以後近医 で心不全フォローされていた。今回、半年後フォロー時の心電図において CAVB を認め入 院精査となった(2)(12015 8 月、心不全入院時の 12 誘導心電図) (2:胸部誘導のみ) 【適応経緯】β遮断薬内服中であった為、内服を中止し入院管理下で 1 週間経過観察した。 入院 1 週間後も AVB 続いており(3)PM 植込みとなった(4)

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倉敷中央病院

田中翔平

【患者背景】 84歳女性。下腿浮腫、呼吸苦を主訴に 2015年 8月に来院され、来院時検査では BNP高値、心電図の胸部誘導にて T波の陰転化を認め(図 1)入院精査となった(AV間隔は 160ms前後)。心臓超音波検査では左室の壁運動異常等は認めず、CK値も低値であり、心不全加療が優先され、後の冠動脈評価目的の RI検査では虚血を疑う所見なく、以後近医で心不全フォローされていた。今回、半年後フォロー時の心電図において CAVB を認め入院精査となった(図 2)。 (図 1:2015年 8月、心不全入院時の 12誘導心電図)

(図 2:胸部誘導のみ)

【適応経緯】β遮断薬内服中であった為、内服を中止し入院管理下で 1週間経過観察した。入院 1週間後も AVB続いており(図 3)、PM植込みとなった(図 4)。

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(図 3:β遮断薬中止し、入院 1週間後の心電図(胸部誘導のみ))

(図 4:PM植込み後 12誘導心電図、すべて AsVp波形)

【デバイス情報】本体はMedtronic社製、Advisa DR MRI ADR01。リードは心房 4574-53、心室 5076-58を使用した。設定は DDD60/120、AV180/150とした。 【その他の特記事項】翌日のホルター心電図検査において、Vp率 95.96%中、Fusion拍が71.42%であった(図 5)。

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(図 5:ホルター心電図での拍数と Vpacing波形、fusion波形)

ホルター心電図の解析結果を踏まえ、改めて AV自己伝導の評価を行った。DDD AV270/240の longAV設定において、Rate70ppmではApVs 240ms、Rate80ppmではApVs 240-250ms、Rate90ppm では V pacing(fusion 波形)となり、Rate 上昇に伴う房室伝導時間の延長を認めた。(※sensedAV 間隔は Rate50-60bpm で 210ms 前後であった)。84 歳と高齢であり、ADL も低いことから Rate が高くなる機会は少ないと考え、DDD 60/120、AV270/240 の設定で退院 1ヵ月後外来でのフォローとした。(図 6-1,6-2,6-3) (図 6-1:Rate70bpm、ApVs時 240ms)

(図 6-2:Rate80bpm、ApVs時 240-250ms)

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(図 6-3:Rate90bpm、ApVp時 260ms(※fusion波形))

【フォロー経過】 植込み 1ヵ月後外来時の心電図ではすべて AsVpであった(図 7)。PMチェックでの Pacing率も Vp 率 94.7%と AV270/240 の longAV 設定下においても高い Vp 率を認め、Rate も60-80bpm台が多い経過であった(図 8)。 (図 7:植込み 1ヶ月後外来時 12誘導心電図)

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(図 8:植込み後 1ヶ月間の Pacing率)

また、今回の症例では PAF等のイベントも認めていない(図 9)。 (図 9:Clinical Status、Cardiac Compass Trends)

自己心拍優先機能(MVP)の導入も考慮したが、最終的に本症例では AV間隔の設定を植込み時と同様の AV180/150 に戻した。創部チェック、リードチェック共に異常無く、1 年後フォローとなっている。 【論点】自己の房室伝導が不安定な症例において、植込み急性期での房室伝導はどのよう

に評価し、どのような設定を行うことが最良か。自己心拍優先機能の導入も含めた各病院

での考え方や設定変更のタイミング等をディスカッションさせて頂きたい。