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企業ZOOM IN⇔OUT のト スコ 、 2012 員の に、 である などの ‶ "( )を 映する 「 OJS (オープ ジャッジ システム) 」を した。 員、 員、 などに ぶり され、 その (= ) あり という ある みである。 なら むであろうこの たしてうまく してい るのだろうか。 いと運 した。 本人にも周囲にもメリット 役員を部下である支店長や部長などが評価し、 その結果次第では役員降格の対象になる こん な大胆な制度を取り入れている会社があるのをご 存じだろうか。 もし、 ある取締役が 「自分は役員になったのだ から、 もう ‶上がり" だ」 という意識でいい加減 な仕事をしていたとしたら、 他の役員や部下たち に低い評価を付けられ、 役員降格の対象になるか もしれない。 常に周囲の評価にさらされるため、 役員といえども、 そのポジションを ‶既得権" と 捉えることはできないのだ。 高い意識と向上心を 持って、 自らの責務を果たすことが求められる。 また、 社長などが ‶密室" で行う評価とは違い、 多くの関係者が複数の視点で判定するため、 評価 に透明性・客観性がある。 その結果を株主総会で 公表するので、 株主や従業員からすると、 「なぜ、 この人が役員でいられるのか?」 といった疑念が なくなり、 役員の任命に対する納得感が高まる。 さらに、 評価をする管理職であれば、 自分より ポジションが上の役員に対して、 「もっとこうい う行動をしてほしい」 と意見することもできる。 評価を受ける役員にとっては、 ‶自分が思う自分" と ‶他者から見た自分" のギャップを知り、 意識 や行動を見直すよい機会になる。 制度を受け入れる‶土壌"があった こんな魅力的な制度が、 なぜ多くの企業に広ま らないのか。 それは、 普通の会社では、 「導入し ても、 うまくいくはずがない」 「効果より弊害が 大きい」 と考えられるからだろう。 一般に、 多面評価 (360度評価) に対しては、 労政時報 第3853号/13. 9.27 148 背景と狙い 定年年齢の引き上げをきっかけに導入、 緊張感を持たせてやる気を高める トラスコ中山 役員の昇格・降格に多面評価を反映する「役員OJS制度」 会社概要:1959年創業。 機械工具、 物流機器など工場用副資材 の卸売業として事業を展開するとともに、 自社ブランド TRUSCOの企画開発も行う。 モノづくり現場へさらなる利 便性を提供する ‶プロツールカンパニー" として、 ビジネス フィールドでの存在価値向上に努めている。 社名の 「トラス コ」 とは、 「TRUST+COMPANY:信頼を生む企業」 の造語。 東京本社:東京都港区芝大門1-1-8 大阪本社:大阪府大阪市西区新町1-34-15 資本金:50億2237万円 従業員数:1636人 〈2013年3月末現在〉 http://www.trusco.co.jp/ 取材対応者取締役 経営管理本部 本部長 藪野忠久氏 経営管理本部 経営企画部長 中井一雄氏 経営企画部広報課 山田有希氏

トラスコ中山 - TRUSCO

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Page 1: トラスコ中山 - TRUSCO

企業ZOOM IN⇔OUT

機械工具卸商社のトラスコ中山は、 2012年2月、

役員の昇格・降格に、 部下である管理職などの ‶投

票" (多面評価) を反映する 「役員OJS (オープ

ン ジャッジ システム) 制度」 を導入した。 年1

回、他の役員、執行役員、支店長、部長などに仕事

ぶりや取り組み姿勢を評価され、 その結果次第で

は降格 (=退任) もあり得る という緊張感の

ある仕組みである。 普通の会社なら導入に二の足を

踏むであろうこの制度、 果たしてうまく機能してい

るのだろうか。 導入の狙いと運用状況を取材した。

●本人にも周囲にもメリット

役員を部下である支店長や部長などが評価し、

その結果次第では役員降格の対象になる こん

な大胆な制度を取り入れている会社があるのをご

存じだろうか。

もし、 ある取締役が 「自分は役員になったのだ

から、 もう ‶上がり" だ」 という意識でいい加減

な仕事をしていたとしたら、 他の役員や部下たち

に低い評価を付けられ、 役員降格の対象になるか

もしれない。 常に周囲の評価にさらされるため、

役員といえども、 そのポジションを ‶既得権" と

捉えることはできないのだ。 高い意識と向上心を

持って、 自らの責務を果たすことが求められる。

また、 社長などが ‶密室" で行う評価とは違い、

多くの関係者が複数の視点で判定するため、 評価

に透明性・客観性がある。 その結果を株主総会で

公表するので、 株主や従業員からすると、 「なぜ、

この人が役員でいられるのか?」 といった疑念が

なくなり、 役員の任命に対する納得感が高まる。

さらに、 評価をする管理職であれば、 自分より

ポジションが上の役員に対して、 「もっとこうい

う行動をしてほしい」 と意見することもできる。

評価を受ける役員にとっては、 ‶自分が思う自分"

と ‶他者から見た自分" のギャップを知り、 意識

や行動を見直すよい機会になる。

●制度を受け入れる‶土壌"があった

こんな魅力的な制度が、 なぜ多くの企業に広ま

らないのか。 それは、 普通の会社では、 「導入し

ても、 うまくいくはずがない」 「効果より弊害が

大きい」 と考えられるからだろう。

一般に、 多面評価 (360度評価) に対しては、

労政時報 第3853号/13. 9.27148

�背景と狙い

定年年齢の引き上げをきっかけに導入、

緊張感を持たせてやる気を高める

トラスコ中山役員の昇格・降格に多面評価を反映する「役員OJS制度」

会社概要:1959年創業。 機械工具、 物流機器など工場用副資材の卸売業として事業を展開するとともに、 自社ブランドTRUSCOの企画開発も行う。 モノづくり現場へさらなる利便性を提供する ‶プロツールカンパニー" として、 ビジネスフィールドでの存在価値向上に努めている。 社名の 「トラスコ」 とは、 「TRUST+COMPANY:信頼を生む企業」 の造語。

東京本社:東京都港区芝大門1-1-8大阪本社:大阪府大阪市西区新町1-34-15資本金:50億2237万円従業員数:1636人〈2013年3月末現在〉

http://www.trusco.co.jp/取材対応者: 取締役 経営管理本部 本部長 藪野忠久氏

経営管理本部 経営企画部長 中井一雄氏経営企画部広報課 山田有希氏

Page 2: トラスコ中山 - TRUSCO

トラスコ中山

以下のような問題点を指摘する声が多い。

● 評価結果の妥当性が確保できない

● 人間関係の悪化につながりかねない

● 社員間のなれ合いを助長する

● 実施する上で手間が掛かる

こうしたデメリットを重く見る企業が多いこと

もあって、 多面評価の実施率は低い。 当研究所が

2011年に行った調査でも、 一般社員で9.7%、 管

理職で13.9%にとどまる (第3797号-11. 5.13参

照)。 また、 実施している場合も、 昇給の査定や

昇格判定に用いるのではなく、 本人の ‶気づき"

を促す目的に限定して利用する例が多い。 従業員

に対してでさえこうした状況なのだから、 「多面

評価の結果によっては、 役員を降格の対象とする」

という会社が現れないのも、 当然かもしれない。

ではなぜ、 同社はこの制度の導入に踏み切るこ

とができたのか。 制度の発案者である取締役 経

営管理本部 本部長の藪野忠久氏は、 次のように

語る。

「すでに当社に ‶土壌" があったことが、 背景

にあります。 当社は2001年に、 『オープン ジャッ

ジ システム』 (OJS) という多面評価制度を導入

しました。 全社員が対象であり、 昇格にも給与に

も、 上司以外の評価を反映します。 この制度を10

年以上にわたって運用してきましたので、 こうし

た制度を受け入れる風土ができていたのです」

つまり、 評価をする側もされる側も、 多面評価

をすること・されることに慣れていたため、 多面

評価の ‶弊害" を恐れる必要がなかったのである。

●定年延長を契機に導入

導入のきっかけとなったのは、 役員OJS制度の

導入と同時に行った定年年齢の引き上げである

[図表1]。

同社は、

● 社員の安定的な雇用を保証し、 本人のやる気を

向上させること

● 年金支給開始年齢の引き上げに伴う社員の収入

低下を補完すること

を目的に、 役員・執行役員・一般社員の定年

年齢の引き上げを決めた。 給与などの人件費コス

トは増加するが、 働く人たちの安心感やモチベー

ションの向上を図ることで、 企業価値を高める効

果が期待できると判断した。

この結果、 役員の定年は63歳から65歳に引き上

げられ、 その分、 これまでよりも在任期間が長く

なる可能性が高くなった。 そこで、 個々の役員に

会社経営を担う適性があるかを客観的に評価する

仕組みを取り入れることにした。

「いい人が長くいてくれるのはよいことですが、

そうでない人に居座られると、 会社にとってマイ

ナスです。 透明性・客観性のあるフェアなシステ

ムによって評価し、 周りの人から見ておかしくな

い仕事をしている人に役員を務めてもらえるよう

にしました」 (藪野氏)

もちろん、 降格させること自体が目的ではなく、

この制度によって役員の間によい緊張感が生まれ、

経営幹部のやる気の向上・活性化につながること

を期待している。 また、 執行役員・部長にも同様

労政時報 第3853号/13. 9.27 149

図表1 定年年齢の引き上げ(2012年2月実施)

変更内容

役員および執行役員:63歳定年 � 65歳定年

一般社員:60歳定年 (雇用延長基準をクリアした者は65歳まで契約社員として再雇用)

� 63歳定年 (希望者は全員65歳まで契約社員として再雇用)

役 職 者:58歳役職定年 � 60歳役職定年

※毎年変動があるものの、 定年の引き上げにより 1億~ 3億円の費用増加を見込んでいる。※2003年 7 月より、 退職金を退職時に一括支給するのではなく、 「ファイナンシャルボンド」 という年次払いの支給制度に変更している。

Page 3: トラスコ中山 - TRUSCO

企業ZOOM IN⇔OUT

の制度を導入し、 役員からの降格だけでなく、 役

員への登用に当たっても、 周囲に認められた人を

任命できる仕組みを整えた。

制度の導入に際して、 経営トップや他の役員か

ら反対の声はなかった。 同社の中山哲也社長は、

正義感が強く、 経営の透明性を重視する考えの持

ち主だという。 したがって、 この制度は社長の考

え方に沿うものといえる。 また、 同社の現在の取

締役は皆、 一般社員として同社に入社し、 さまざ

まな経験を積みながら昇進して役員に登用された。

そのため、 以前から運用していたOJSによって、

多面評価の意義を十分に理解していた。

●周囲に認められた人を昇格させる

役員OJS制度について説明する前に、 以前から

行ってきた全社員に対するOJSの概要を簡単に紹

介しておこう。

OJSは、 大きく二つの制度からなる[図表2]。

一つは昇格判定に用いる 「昇格OJS」、 もう一つ

は人事考課に反映する 「人事考課OJS」 である。

昇格OJSは、 S3等級 (主任クラス) 以上への

昇格候補者が対象[図表3]。 昇格審査は立候補制

であり、 一定要件を満たした社員が自ら手を挙げ

てチャレンジする。 そして、 各立候補者に対して、

他の社員が昇格の可否を 「○」 「×」 で投票し、

支持率80%以上であれば合格となる。

投票をするのは、 その昇格候補者を知る全社員。

昇格時期 (4月) に合わせてイントラネット上に

候補者名を公開し、 その人を評価できると思った

社員が投票する。 「その人を知っていて、 責任を

持って評価できる」 という社員であれば、 誰でも

投票に参加できる。 会社や被評価者が評価しても

らう人を指定するのではなく、 評価者自身が判断

する。 所属部署による制約はなく、 過去に一緒に

働いたことがあれば、 現在その人と一緒に仕事を

していなくても構わない。 経験の浅い若手社員や

パートタイマーにも、 投票権がある (等級などに

応じて1票のウエイトは調整する)。

「部下を理解するのには3年掛かりますが、 上

司のことは3日で分かります。 部下は、 上司のこ

とをよく見ているものです。 どんな立場の社員の

意見であっても尊重する方針です」 (藪野氏)

ユニークなのが、 何人に評価してもらったかと

いう 「得票数」 の条件を設けている点である。 等

級ごとに定められた最低得票数に満たなければ、

支持率が高くても昇格することはできない。

「社内での立場が上になるほど、 周囲を巻き込

んで仕事をすることが求められます。 存在感の薄

い人は、 いいも悪いも評価してもらえず、 昇格で

きません。 一つの部署に長くとどまっていると社

内の人脈が広がりませんが、 当社では、 一般社員

も部長クラスも、 3~5年に一度は異動させます。

部門を超えた異動も珍しくありません。 多くの部

署を経験する中で、 存在感のある人は、 自分を支

持してくれる人を増やしていきます」 (藪野氏)

●人事考課の2割に多面評価を反映

人事考課OJSは全社員が対象で、 年2回、 人事

考課の際に実施する[図表4]。 評価者は、 同じ職

場で働く全社員。 【業績】 【姿勢】 【能力】 の三つ

の面から、 その人をそれぞれ5点満点で評価した

労政時報 第3853号/13. 9.27150

�OJSの概要

全社員を対象に多面評価を実施、

評価結果は昇格の判定や人事考課に反映

図表2 OJSの種類

種 類 時期 評 定 者 方 法 結 果

昇格OJS

3月 昇格候補者を知る社員 昇格の可否を (○・×) で判定※必ずコメントする

支持率80%以上で、 得票数を満たした場合、 昇格

人事考課OJS

4月10月

同じ職場で働く社員 【業績】【姿勢】【能力】それぞれの項目で5段階評定※必ずコメントする

人事考課に20%反映

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企業ZOOM IN⇔OUT

●年1回、支店長や部長が役員を評価

役員OJS制度の仕組みは、 [図表6]のとおり。

評価を受けるのは、 社長以外の常勤役員 (取締

役、 監査役)。 社長を対象外としたのは、 「社長の

場合、 社内から見てどうかということよりも、 株

主に評価されるのが一番の ‶オープン ジャッジ"

になります」 (藪野氏) という考えによる。 現在

の対象者は、 取締役4名、 監査役4名の計8名で、

年齢は40代後半~60代である。

実際の投票画面は、 [図表7]のようになってい

る。 六つの項目をそれぞれ4段階で評価する (4

×6=24点満点) とともに、 その役員に向けたコ

メントを記入できるようになっている。

評価項目は、 藪野氏が原案を考え、 ボードメン

バーの意見を踏まえて決定した。

「当社の役員に求められる資質として、 優先順

位の高いものを評価項目に掲げました。 項目が多

すぎると焦点がぼやけてしまいますし、 評価を付

ける側にとっても好ましくありません。 なるべく

シンプルにすることを心掛けました。 こだわった

のは、 当社独自の言い回しにすることです。 当社

においてよく使われる言い方、 納得感のある言い

方にすることで、 これらの項目が一人ひとりの腹

に落ちるようにしました」 (藪野氏)

評価者は、 役員、 執行役員と、 各部署の責任者

(支店長、 センター長、 部長などの役職者) 全員

で、 合計約150人。 前述のように、 一般社員の昇

格OJSでは、 評価するかどうかを個々の社員が決

める。 しかし、 役員OJSの場合は、 評価者全員に

被評価者全員を評価してもらうことにした。

「役員は、 『ボスコン』 と呼ばれる全国責任者会

議などで話す機会が多いので、 支店長や部長が

『この役員のことはよく知らないから、 評価でき

ない』 などということはありません。 全員に評価

してもらうことにしました」 (藪野氏)

実施時期は12~1月。 新年度 (4月~) に間に

合うよう、 この時期に実施する。 投票期間は約1

週間で、 その間に各人がイントラネット上で評価

を行う。 OJSの重要性は階層別研修などで繰り返

し説明しているので、 投票せずに放置する者はい

ない。

労政時報 第3853号/13. 9.27152

�役員OJS制度

役員の行動や姿勢を管理職などが採点、

結果次第では降格となることも

図表4 人事考課OJS

人事考課は 『業績』 『姿勢』 『能力』 『360度評価』 の四つの項目の組み合わせとする。考課評語は、 各評定要素ごとのウエイトづけにより100ポイント満点に換算し、 ポイント数により決定する。

考課のウエイトづけと決定基準は次のとおりとする。

◎ウエイトづけ

資格要素

定型職非役職者のJ等級

監督職非役職者のS等級

管理職M等級または役職者

業績 40 50 60

姿勢 20 10 10

能力 20 20 10

人事考課OJS 20 20 20

合計 100 100 100

◎評語決定基準

ポイント 評語

85~100 A+

79~ 84 A

73~ 78 A-

67~ 72 B+

60~ 66 B

54~ 59 B-

48~ 53 C+

42~ 47 C

20~ 41 C-

◎人事考課による昇格ポイント

考 課 A+ A A- B+ B B- C+ C C-

ポイント 2.5 2 2 1.5 1 0.5 -0.5 -0.5 -1

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企業ZOOM IN⇔OUT

な枠組みは今後も変更する予定はありませんが、

15点という基準が甘くないかどうかは検討しても

よいかと考えています。 18点、 15点という基準は

制度を導入する前に決めたものですので、 適切か

どうか検証が必要と考えています」 (藪野氏)

「誰がどんな評価を付けたかは公表しないと繰

り返し周知していますが、 心理的な抑制は働きま

す。 そのため、 責任者が集まる会議の場などで、

社長や藪野が、 『心配しなくていい』 『正直に評価

してほしい』 と盛んにアナウンスしています。 う

るさいくらいに言っていますので、 真剣に実施し

ていることは伝わっているはずです」 (中井氏)

「われわれ役員は、 いずれ引退します。 甘い評

価を付けて誰が困るかというと、 自分たちの世代

が困るわけです。 ‶おべんちゃら" でよい評価を

付け、 それで残った役員がたくさんいたとしたら、

会社が大変なことになります。 評価をする支店長

や部長には、 『将来を引っ張ってくれる人かどう

かを判断する大事な1票であり、 未来のための投

票』 と説明しています」 (藪野氏)

●役員が自分を振り返るよい機会に

評価を受けた役員は、 自分の点数が高ければ自

信を持って仕事に取り組むことができる。 点数が

低ければ、 自分のやり方が間違っていたかもしれ

ないと振り返る機会になる。 特に自由記入のコメ

労政時報 第3853号/13. 9.27154

図表6 役員OJS制度の内容

●対象:常勤役員 (社長を除く取締役・監査役)●投票者:役員、 執行役員、 部長、 事業所責任者 約150名●評価方法:点数制 ( 6 項目24点満点) コメント

【昇格】 取締役会で選出し、 正式な選任は株主総会にて決定する。執行役員を 3年以上経験し、 2 年連続18点以上取得すること。

【降格】 社長が方針を示し、 取締役会で最終決定する。「役員OJS」 で 2 年連続15点未満の場合、 執行役員への降格の対象となる。

※常勤役員については、 取締役会にて選出し正式な選任は株主総会にて決定するが、「社員の声」 を反映するために実施。※執行役員・部長にも類似した制度を適用している。

図表7 実際に使用した役員オープン ジャッジ システム投票フォーム(2011年12月)

※投票画面内は一個人の抱負を記載している。 その範囲を超えるものではない。

それぞれ4段階で評価

この下にコメント欄(50文字以内) がある

Page 8: トラスコ中山 - TRUSCO

トラスコ中山

ントからは、 得られるものが多いようだ。

「役員ともなると、 誰も意見を言ってくれなく

なります。 自分の進め方が正しいかどうかは、 こ

ういう機会でもないと確認できません。 年に一度、

こうして自分を見つめ直す機会があるかないかは、

大きな違いだと思います」 (藪野氏)

評価結果を受け入れようとせず、 へそを曲げて

しまう役員はいない。

「当社ではOJSを10年以上運用していますので、

役員は、 出世する前から評価されてきています。

1回では理解できなくても、 何度も評価される中

で、 『自分はこういう人間だ』 『周りからはこう見

られている』 ということが分かってきます。 それ

でも簡単に直せるとは限りませんが、 進む方向に

悩んだときなどに、 他者から見た自分の傾向を思

い起こして、 『ちょっと待てよ』 と立ち止まって

考えることができるようになります」 (藪野氏)

役員OJS制度は、 社員の評判もよい。

「支店長や部長にヒアリングしたところ、 『役員

に対して日ごろから意見できる人は少ない。 この

機会に、 自分の思っていることを伝えることがで

きる。 これはすごいことだ』 と言う人が何人もい

ました」 (中井氏)

「私には役員OJSへの投票権はありませんが、

こうして取材を受ける機会が多く、 世間的にも珍

しい取り組みなのだと実感します。 当社は透明性

を重視する会社ですが、 他社で行っていないよう

な仕組みを取り入れてまで透明性を高めようとし

ているところに、 会社の方針が一貫していると感

じます」 (経営企画部広報課 山田有希氏)

株主から見ても、 「今の経営陣は、 身内で固め

て、 勝手なことをしているのではないか」 という

疑念を払ふっ

拭しょく

する効果があり、 経営への信頼感が

高まることが期待できる。

●風土がなければうまくいかない

藪野氏は、 こうした制度をうまく運用する秘ひ

訣けつ

として、 「風土が土台にあることが不可欠」 と指

摘する。

「当社は人と人とのつながりを重視する社風で

す。 例えば、 社内報には、 新入社員紹介や 『赤

ちゃんが生まれました』 といったことを載せてい

ますし、 本人に同意を得て、 社員名簿に顔写真、

住所、 電話番号、 メールアドレス、 趣味、 血液型

まで記載して、 全社員に配布しています。 また、

今の役員は皆、 当社の伝統である厳しい新入社員

研修を乗り越え、 社内でさまざまな部署を経験し

て現在の立場に就きました。 だから、 社員の気持

ちがよく分かります。 そうした人と人とのつなが

り、 相互の信頼がある中で実施するから、 求心力

が保てるのです。 風土という土台がないと、 誹謗

中傷が行われたり、 歪わい

曲きょく

した受け取り方をされか

ねません。 ‶風土ありき" というのが大前提です」

労政時報 第3853号/13. 9.27 155

図表8 役員OJS、執行役員・部長OJSの結果(第2回:2013年実施)

[注] 1. 各24点満点。2. 2012年に実施した第1回の役員OJSでは、 最高点21.7、 最低点18.1、 全体平均20.1だった。 前回と比較すると、 今回は厳しい評価となった。 また、 執行役員・部長OJSの結果を受け、 3名の執行役員が誕生した。

◆役員OJS【取締役】 【監査役】

氏 名 得 点 氏 名 得 点

A 21.1 A 20.1

B 19.8 B 18.9

C 19.5 C 18.7

D 19.0 D 17.7

平 均 19.9 平 均 18.9

前 回 20.6 前 回 19.0

◆執行役員・部長OJS【執行役員・部長】

氏 名 得 点 氏 名 得 点

A 18.9 G 18.0

B 18.8 H 17.9

C 18.7 I 17.6

D 18.3 J 17.3

E 18.1 K 17.2

F 18.1 L 16.6

平 均 18.0 (今回) 22.0 (前回)