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5.アミノ酸合成法
47
5.アミノ酸合成法
脳や癌のアミノ酸代謝を診断するためには、多くの薬剤が臨床使用されている。主に蛋白質
合成能を診断する目的では、11C-標識のメチオニンやチロシンなどの天然アミノ酸が、また、
18F-標識のフェニルアラニンやチロシン、あるいは、[11C]-aminocyclopentyl carboxlic acid
などの代謝的に安定な人工アミノ酸は、アミノ酸輸送を測定する目的で用いられている 1)。
5-1.[11C]メチオニン合成法
[11C]メチオニン(L−[methyl−11C]methionine)はがん診断に最も一般的に使用されており、
がんや脳組織においては主に蛋白質合成に利用されていることが基礎的臨床的研究により示さ
れている。しかし、メチル基転移反応の寄与も示唆され 2)、蛋白質合成能の半定量的評価ある
いはアミノ酸輸送の測定に使用されることが望ましいと考えられる。
A-1.[11C]よう化メチルによる液相法 (石渡 喜一)
下記の反応スキームにより合成する。
S
NH2
OC
11H3 S
NH2
COOHNaOH/acetone, 120oC, 5 min
11CH3I
[使用試薬]
[11C]よう化メチル(註1)
L−Homocysteine thiolactone・HCl ———Sigma(H 6503)
アセトン———特級試薬
0.5 M HCl
0.5 M NaOH
メイロン(注射用 7%炭酸水素ナトリウム水溶液)———25 mL、1本
註1) メチオニンは血漿中に相当量含まれており、必ずしも高比放射能の薬剤として合成さ
れる必要はないと考えられる。従って、[11C]よう化メチルの合成には 0.1~1 M の
LiAlH4試薬を用いればよい。
[方法]
L−Homocysteine thiolactone・HCl(約 3 mg)を注射用蒸留水(0.05 mL)に溶かし、これ
にアセトン(0.95 mL)を加える。この溶液(0.8 mL)を低温(-15~-20C)に保ち、流速 30-50
48
mL/min の He 気流下の[11C]よう化メチルを吹き込む。
アセトン溶液に、0.5 M NaOH 水溶液(0.8 mL)を加え(註1)、120C で 2~5 分間加熱す
る。(註2)
反応液に 0.5 M 塩酸(0.9 mL)を加え、メイロン(1 mL)を前もって入れた梨型フラスコ
に移し、ロータリエバポレーターにより濃縮乾固する。(註3)
残渣を注射用生理食塩水(9 mL)と注射用蒸留水(3 mL)に溶かし、0.22 m のメンブレ
ンフィルターを通して注射用薬剤とする。
註1) 反応液の NaOH 濃度を高くすると放射化学的収率はあがる傾向があるが、D-メチオニ
ンの割合が増加する。また、アセトンに[11C]よう化メチルを捕集し、L−homocysteine
thiolactone・HCl を溶かした NaOH 溶液(溶解後 2 時間程度まで)を加えて反応して
も、放射化学的収率や光学的純度に影響を与えない。
註2) 収率は、反応時間(2∼10 分)や反応温度(60~120C)にあまり依存しない。
註3) 捕集用のフラスコ内のメイロンを前もって入れておくことにより確実に弱アルカリ性
とする。また、メイロンを使用しないでも溶媒を充分に留去することで最終生成物は
中性の水溶液として得ることができる。
[合成法の特徴と問題点]
A-1の合成法は、Comar らにより開発された方法 3)に準じた方法で、放射化学的収率が高
いこと、薬剤として高比放射能を要求されないこと、また、原料として用いられる
L−homocysteine thiolactone を必ずしも除去しなくてもよいと考えられていることなどから、
最も容易な合成法の 1 つである。
問題点としては、反応時の NaOH 濃度を高くすると光学異性体の D-メチオニンの割合が
4~5%まで増加する 4)ことがあげられるが、臨床使用には実質的にはなんら影響はないと考えら
れる。
A-2.[11C]メチルトリフレートによる液相法 (石渡 喜一)
下記の反応スキームにより合成する。
S
NH2
OC
11H3 S
NH2
COOHAcetone
11CH3OTf/OH-
[使用試薬]
[11C]メチルトリフレート
L−Homocysteine thiolactone・HCl ———Sigma(H 6503)
アセトン———特級試薬
0.05 M HCl
0.1 M NaOH
メイロン(注射用 7%炭酸水素ナトリウム水溶液)
5.アミノ酸合成法
49
[方法]
L−Homocysteine thiolactone・HCl(約 1 mg)を 0.1 M NaOH(0.5 mL)に溶かし、これに
1.0 mL のアセトンを加える。これに室温下で流速 30-50 mL/min の N2気流下の[11C]メチルト
リフレートを吹き込む。直ちに反応液をロータリエバポレーターに移し、反応容器に 1.2 mL
の 0.05 M HCl を加え、ロータリエバポレーターに移送して反応液に合わせて濃縮乾固する。
残渣を0.1 mLの10%アスコルビン酸注射液を含む10 mLの注射用生理食塩水に溶かし、0.22
μm のメンブレンフィルターを通して注射用薬剤とする。
[合成法の特徴と問題点]
東京都健康長寿医療センター研究所では、2005 年 5 月より、多少であるが放射化学的収率の
向上と合成時間の短縮にメリットのある[11C]メチルトリフレートによる液相法を採用している。
また、最近になってパイロジェンを定量評価するとき、メイロンが定量値を過小評価すること
がわかったため、メイロンをアスコルビン酸に置き換えた。
A-3.[11C]よう化メチルによるオンカラム法 6) (岩田 錬)
次の反応スキームにより合成する。
S
NH2
OC
11H3 S
NH2
COOHEtOH-H2O, C18
11CH3I/OH-
[使用試薬]
[11C]よう化メチル
1 M NaOH(註1、註2)
エタノール
L−Homocysteine thiolactoneHCl ———Sigma(H 6503)(註2)
Sep-Pak Plus C18———Waters(註2)
0.5%酢酸水溶液(註3)
註1) 注射用水(50 mL)に特級 NaOH(2.0 g)を溶解する(予め滅菌した 50 mL バイアル
を用意し、ゴム栓をしてシールした状態で長期間使用する)。
註2) 1 M NaOH 水溶液(1 mL)バイアルに取り、これにエタノール(1 mL)を加えて 0.5
M NaOH の H2O−EtOH(1:1)溶液を調製する。この 1 mL に、L−homocysteine
thiolactone・HCl(15 mg)を溶解する。この調製した液(0.4 mL)をシリンジに取り、
C18 カートリッジに注入する。
註3) プラボトル入りの注射用水(500 mL)に容量分析用特級酢酸(2.5 mL)を添加して調
製する。
[方法](註1)
上記の方法に従い調製した C18 カートリッジに、流速 30∼50 mL/min の He 気流下の[11C]
よう化メチルを通し捕集する。
50
捕集後直ちに、中和用の 0.5%酢酸水溶液(3 mL)で C18 カートリッジから反応生成物を洗
い出し、ロータリエバポレーターのフラスコに集める。
過剰の酢酸を溶媒とともに充分留去した後、生理食塩水を加えて残渣を溶かし、メンブレン
フィルターを通し注射用薬剤とする。
註1) 基礎技術1-6を参照のこと。
[合成法の特徴]
オンカラム合成法 5)は化学的観点からは、液相法と何ら変わる点はない。しかしカラム上で
の合成反応は室温でも迅速で、操作の大幅な簡便化と合成時間の短縮がなされている。
注射液の中にエタノールを含むことが許容されるならば、反応液中の[11C]メチオニンの放射
化学的純度は充分高いので、リン酸緩衝液で反応物を C18 カートリッジから溶出し、乾固操作
なしでそのまま注射液として調製できる。
A-4.[11C]メチルトリフレートによるオンカラム法 6) (渡辺 利光)
下記の反応スキームにより合成する。
S
NH2
OC
11H3 S
NH2
COOHC18
11CH3OTf/OH-
[使用試薬]
[11C]メチルトリフレート
L−Homocysteine thiolactone・HCl ———Sigma(H 6503)
1 M NaOH(註1)
0.1 M NaOH(註2、註3)
Sep-Pak Plus C18———Waters(註3)
Sep-Pak Plus Light Accell QMA———Waters(註4)
Sep-Pak Plus Accell CM———Waters(註5)
註1) 注射用水(100 mL)に特級 NaOH(4.0 g)を溶解する。
註2) 注射用水(50 mL)に特級 NaOH(0.2 g)を溶解する(予め滅菌した 50 mL バイアル
を用意し、ゴム栓をしてシールした状態で長期間使用する)。
註3) 0.1 M NaOH 水溶液(1 mL)をバイアルに取り、L−homocysteine thiolactone・HC(l6
mg)を溶解する。この調製した液 0.2 mL をシリンジに取り、C18 カートリッジに注
入する。
註4) 樹脂のイオン形を OH-とする。1 M NaOH(5 mL)をシリンジに取り QMA カートリ
ッジに通した後、注射用蒸留水(10 mL 以上)でよく洗い、最後に空気を通して余分
な水分を除いておく。
註5) 通常イオン形は H+であるので、注射用蒸留水(10 mL 以上)で洗い、最後に空気を通
して余分な水分を除いておく。
5.アミノ酸合成法
51
[方法](註1)
上記の方法に従い調製した C18 カートリッジに、He 気流下(3050 mL/min)[11C]メチル
トリフレートを通し捕集する。
捕集後直ちに、生理食塩水(3~5 mL)で C18 カートリッジから反応生成物を洗い出し、QMA
と CM カートリッジを直列につないだ Sep-Pak カートリッジに通して中和し、そのままメンブ
レンフィルターを通し注射用薬剤とする。
註1) 基礎技術1-6を参照のこと。
[合成法の特徴と注意点]
[11C]メチルトリフレートが[11C]よう化メチルに比べ水溶液への捕集効率が高いために可能な
反応である。アルカリ性の反応液の中和操作のために使い捨てのイオン交換カートリッジを使
用するが、陽イオン交換で NaOH 水溶液中の Na+を除くだけでは、塩酸塩として使用した出
発原料中の Cl-のために酸性になる。このため、反応液を最初に陰イオン交換カートリッジに
通して Cl-を除去し、その後に Na+を除いて最終溶出液を中性にしている。このイオン交換樹
脂の順番を逆にすると、[11C]メチオニンの一部が陽イオン交換カートリッジ中で分解し、放射
化学的純度が低下するので注意する。
本合成法では反応溶媒の留去操作がないため、揮発性の副生成物も最終注射液に混入する可
能性があることに留意する。出発原料の使用量を少なくしているため、[11C]メチルトリフレー
トの比放射能が低い場合、その一部が標識反応に関与しないで残留するか、OH-により分解し
て放射化学的純度を低下させる場合がある。また、合成装置と無菌に保持する目的で使用する
エタノールが流路などに残留している場合、[11C]メチルトリフレートと反応して放射化学的純
度を低下させる。C18 カートリッジに多くの 11C の残留が見られる場合にこの可能性を疑う必
要がある。
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
i) カラム:Capsell Pac C18 UG120(内径 4.6 mm X 長さ 250 mm)、資生堂
溶離液:10 mM HCO2NH4
流 速:2 mL/min
保持時間:2.8 分
ii) カラム:Partisil 10-SCX(内径 4.6 mm X 長さ 250 mm)、Whatmann
溶離液:50 mM citric acid/trisodium citrate(10/1)
流 速:2 mL/min
保持時間:3.4 分
TLC
プレート:シリカゲル、Merck
溶離液:アセトン/20% KCl(5/95)
52
Rf 値:0.83
[化学的純度]
UV 検出器(200 nm)を用いる HPLC による分析方法がある。しかし、メチオニンを精製し
ない場合には、原料由来の非放射性不純物が含まれ実質的には意味ない。
C.その他
[被曝線量]9)
ヒト全身 PET 動態計測による(日本人男)。
実効線量: 5.0 Sv/MBq (ICRP 60)
膵臓:27 Gy/MBq、肝臓:17 Gy/MBq、膀胱壁:15 Gy/MBq
[その他]
ヒト血漿中メチオニン濃度:26~49 mol/L(生化学データブック)
参考文献
1. Vaalburg W., Coenen H.H., Crouzel C., et al.: Nucl. Med. Biol., 19, 227–237 (1992).
2, Ishiwata K., Kubota K., Murakami M., et al.: J. Nucl. Med., 34, 1936–1943 (1993).
3. Comar D., Carton J.-C., Maziere M., Marazano C.: Eur. J. Nucl. Med., 1, 11–14 (1976).
4. Ishiwata K., Ido T., Vaalburg W.: Appl. Radiat. Isot., 39, 311–314 (1988).
5. Någren K., Halldin C.: J. Label. Compd. Radiopharm., 41, 831–841 (1998).
6. Pascali C., Bogni A., Iwata R., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 42, 715–724
(1999).
7. Ishiwata K., Ishii, S., Senda M.: Appl. Radiat. Isot., 44, 1119–1124 (1993).
8. Längström B., Lundqvist H.: Int. J. Appl. Radiat. Isot., 27, 357–363 (1976).
9. Deloar H.M., Fujiwara T., Nakamura T., et al.: Eur. J. Nucl. Med., 25, 629-633 (1998).
5-2.O−[11C]メチル−L−タイロシン合成法 (岩田 錬、石渡 喜一)
O−[11C]メチル−L−タイロシンは、L-タイロシンの水酸基を O-メチル基で置き換えた人工ア
ミノ酸であり、[18F]FET 同様アミノ酸のトランスポータにより細胞内に取り込まれるが蛋白合
成に組み込まれず、このアミノ酸トランスポータの活性を反映する薬剤として開発された。主
に腫瘍に集積し炎症へは取込みは低い。
A.合成法
次の反応スキームにより合成する 1)。
5.アミノ酸合成法
53
NH2NaO
CO2Na
NH2
CO2H
OC11H3
11CH3Iまたは11CH3OTf
DMSO
[使用試薬]
[11C]よう化メチルまたは[11C]メチルトリフレート
L−タイロシン・2Na———Sigma(T1145)
無水 DMSO———Aldrich(27,685-5)
[方法]1,2)
L-タイロシンを溶解した DMSO 溶液(0.3 mL)(註1)に[11C]よう化メチルまたは[11C]メチ
ルトリフレートを流速約 50 mL/min の He 気流でバブリングし捕集する。HPLC で精製する場
合は、水(1 mL)を加えてよく混合した後カラムに導入し、ロータリエバポレーターのフラス
コに分取して溶媒を留去した後残渣を生食に溶解し、O-[11C]メチル-L-タイロシンのフラクシ
ョンをメンブランフィルターに通して無菌バイアルに捕集する。固相抽出カラムで精製する場
合は、水(2 mL)を加えてよく混合した後カラムに導入し、O-[11C]メチル-L-タイロシンのフ
ラクションをメンブランフィルターに通して直接無菌バイアルに捕集する。
註1) 乾燥した小さなバイアルに反応基質の L-tyrosine・2Na(~8 mg)を測り取り、これに
無水 DMSO を基質量の濃度が 1 mg/0.1 mL となるように加える。これを良く振り混ぜ
てしばらく放置し、その澄み液 0.3 mL を使用する。
[合成法の特徴と注意点]
[11C]よう化メチルまたは[11C]メチルトリフレートのいずれを使用しても反応は室温で迅速で
あり、捕集後反応時間を設ける必要はない。ただし、[11C]よう化メチルの場合は捕集効率が低
くなることを考慮する。[11C]メチルトリフレートの場合は使用する反応液の容量を減らしても
捕集効率は充分高いが、導入口への反応液の逆流に注意が必要である。
[分取条件]1,2)
HPLC
カラム:YMC ODS A-324(内径 10 mm X 長さ 300 mm)、ワイエムシー
溶離液:EtOH/AcOH/H2O(10/2.5/87.5)
流 速:4 mL/min
検出器:UV(280 nm)
溶出時間:10.5 分
54
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20
Elution time (min)
O -[11C]Methyl-L-tyrosine
UV
Radioactivity
固相抽出カラムクロマトグラフィ
カラム:SCX+C18(註 1)
溶離液:注射用生理食塩水
流 速:約 5 mL/min
検出器:放射能
溶出時間:8 分
註1) SCX カートリッジ(Bond Elut SCX、Varian 1216-6011B)を注射用蒸留水 10 mL で
洗い空気で水を追い出し、これにエタノール(5 mL)と注射用蒸留水(5 mL)で活性
化した Sep-Pak C18 カートリッジ(Sep-Pak Plus C18、Waters N20229)を接続する。
0 2 4 6 8 10 12 14
Elution time (min)
Rad
ioac
tivi
ty r
esp
on
se
Collect [11C]MTfraction
EOS
5.アミノ酸合成法
55
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
カラム:YMC Pack Pro C18(内径 4.6 mm X 長さ 100)、ワイエムシー
溶離液:EtOH/AcOH/H2O(10/2.5/87.5)
流 速:1.5 mL/min
保持時間:3.9 分
C.その他
[急性毒性]3,4)
雌雄それぞれ 5 匹のラットに、臨床診断での最大投与量の 740 MBq/74 nmol/60 kg の 10,000
倍、予定標準投与量 300 MBq/8.1 nmol(比放射能 37 TBq/mmol)の 91,000 倍にあたる 12.3
mol/2.41 mg/kg の O−メチル−L−タイロシンを単回投与(静注)して、30 分、1、3、6 時間後、
その後 14 日まで 1 日 1 回観察したが、死亡するものはなく、一般状態に異常を認めなかった。
体重増加も正常であり、第 15 日に病理学的検査をおこなった結果、いずれの動物にも異常所見
は認められなかった。LD50:ラット(雌雄、静注)、>12.3 mol/2.41 mg/kg
O−[11C]メチル−L−タイロシン注射液の臨床用調製薬剤 3 ロットについて、雌雄各 3 匹のラッ
トに臨床診断での最大投与量(740 MBq)の 100 倍量(1.23 GBq/kg)を静脈投与し、上記と
同様に 14 日間の観察と第 15 日に病理学的検査をおこなったとき、いずれの動物にも異常所見
は認められなかった。
[突然変異試験(Ames 試験)]3,4)
S. Typhimurium TA98、TA100、TA1535 および TA1537 を用いて調べた O−メチル−L−タ
イロシンの復帰突然変異原性は、5000 g/plate 以下のアッセイで陰性であった。
[被曝線量]3)
臓器 線量(Gy/MBq) 臓器 線量(Gy/MBq)
脳 0.64 大腸上壁 4.98甲状腺 3.62 大腸下壁 4.62胸腺 4.07 副腎 6.17
胸部 3.54 腎臓 4.92
心臓 2.19 睾丸 3.30
肺 4.66 卵巣 15.20
肝臓 2.09 子宮 5.09
膵臓 2.25 膀胱 3.47
脾臓 3.38 骨表部 0.54
胃壁 3.35 骨髄 2.42
小腸壁 5.38 骨 1.88
全身の線量当量は 4.54 Sv/MBq
56
参考文献
1. Iwata R., Furumoto S., Pascali C., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 46, 555–566
(2003).
2. Ishikawa Y., Iwata R., Furumoto S., et al.: Appl. Radiat. Isot., 62, 55–61 (2005).
3. Ishiwata K., Tsukada H., Kubota K., et al.: Nucl. Med. Biol., 32, 253–262 (2005).
4. 東京都老人総合研究所附属診療所短寿命放射性薬剤臨床利用委員会資料.
5-3.[18F]フルオロフェニルアラニン合成法 (村上 松太郎)
[18F]フルオロフェニルアラニン(L−2−[18F]fluorophenylalanine、[18F]Phe)は 1)、生体内に
おける代謝が緩徐で、中性アミノ酸輸送担体によりフェニルアラニンと競合的に血液ー組織間
を移行する。動物実験においては蛋白質合成に利用されていることは示されているが 2)、臨床
的には脳組織および種々の腫瘍等のアミノ酸輸送過程を、定量的あるいは定性的に診断する薬
剤として使用される 3) 。
A.合成法 2)
下記の反応スキームにより合成する。
NH2
CO2H
NH2
CO2H
F18
AcO18F
AcOH
[使用試薬]
L-フェニルアラニン———特級試薬(和光純薬など)
トリフルオロ酢酸———特級試薬(和光純薬など)
L-フルオロフェニルアラニン———和光純薬(065-02371)、東京化成(F 0273)(ラセミ体は
他社も販売)
[方法]
Acetyl [18F]hypofluorite(註1)を流速 200500 mL/min で、氷冷した L-フェニルアラニン
(註2)を含むトリフルオロ酢酸(約 10 mL) 中に吹き込んで反応させる。
反応液をロータリエバポレーターに移し、減圧下トリフルオロ酢酸を留去する。(註3)
残渣を少量の注射用蒸留水によく溶かして HPLC 注入用のシリンジに採り、(註4)HPLC
により分離精製する。UV 検出器(254 nm)により[18F]Phe 画分を分取する。
ロータリエバポレーターにより溶媒を充分留去した後、生理食塩水を加えて残渣を溶かし、
0.22 m のメンブレンフィルターを通して注射薬とする。
註1) Acetyl [18F]hypofluorite の製造法:通常ターゲットのネオンガス中のフッ素ガス濃度
を 0.050.2%とし、[18F]F2 を製造する。これを、酢酸ナトリウム(あるいは酢酸カリ
ウム)を充填した小カラム(内径 4 mm x 長さ 40 mm)に通じて acetyl [18F]hypofluorite
5.アミノ酸合成法
57
とする。
製造法に関し、使用する酢酸カリウムの調製法について詳細な取り扱いを記してい
る報告もあるが 8)、多少収量が落ちるが市販の試薬をそのまま使用して問題はない。た
だし、試薬が湿気を含むようであればその試薬の使用は避けた方がよい。また、無水
の粉末試薬よりは結晶水を含む顆粒状の試薬の方がよい収量を与えるようである。
酢酸ナトリウムのカラムは通常 10 回程度は繰り返し使用できる。ガラスカラムに充
填すると、反応した 18F による放射線によりガラスが黄色に変色する。使用回数とと
もに変色域が広がり、半分を越えたころを交換時の目安とするのが簡便である。
註2) Acetyl hypofluorite 化学量の 1.5~2.0 倍量を勧める。HPLC 分取時に原料ピークを確
認できることで、次に溶出してくるの[18F]Phe ピークを捕えやすい。
註3) 酸化分解を避けるために、約 50C に保った水浴上で減圧留去する。この時点で水分が
混入していると、溶媒減少につれて褐色の程度が増加し、留去終了時点に炭化する傾
向がある。
註4) HPLC 分離の点から 0.5 mL 以下が望ましい。通常、無色透明である。著しく着色し、
炭化していそうな場合には、0.45 m フィルターでろ過してから HPLC に注入するこ
とが望ましい。着色成分は原料の L-フェニルアラニンに先んじて、残留トリフルオロ
酢酸と同容量くらいで流出するため、可溶性の放射能量さえ十分であれば以後の操作、
使用に支障はない。
[HPLC 分取条件]
カラム:Bondapak C18(内径 7.8 mm X 長さ 300 mm)、Waters(註1)
溶離液:CH3OH/0.1%AcOH(10/90)
流 速:4 mL/min
検出器:UV(254 nm)
溶出時間: 8 分
註1)HPLC 分取には、カラムとして YMC-Pack ODS(内径 20 mm X 長さ 150 mm、ワイ
エムシー)を、溶離液として注射用生理食塩水を用いる方法もある 1)。保持時間が流速
10 mL/min として 36 分前後と、多少時間がかかるが分離は良好である。
下図にその溶離パターンの例を示す。
Preparative HPLC Analytical HPLC
0 5 10 15
0 5 10 15 0 5 10 15Elution time (min) Elution time (min)
Rad
ioac
tivity
UV
(254
nm)
UV
(254
nm)
CF
3C
OO
H L-
Phe
3-/4
-F-P
he CF
3C
OO
H
L-P
he
3-/4
-F-P
he
2-F-Phe
2-F-Phe
58
[トラブル処理]
不純物混入を防ぐためには、分取カラムの分離能の低下に常に配慮し 2-フルオロ異性体
[18F]Phe 画分の分取を欲張らないことに尽きる。分取画分に反応溶媒のトリフルオロ酢酸が多
く混入した場合、酸化剤として作用するためか、分取液の濃縮に伴い、[18F]Phe の酸化分解が
起 こ り 放 射 能 の 殆 ど を 失 う こ と が あ る 。 ま た 、 [18F]Phe に 次 い で 溶 出 す る
L−3−[18F]fluorophenylalanine は毒性が強いので、その混入を避けるために[18F]Phe 分取を早
めに切り上げるべきである。
[合成法の特徴と問題点]
本合成法は、特別の熟練や前準備を要することもない簡便な方法である。唯一と言える問題
は、残留溶媒のトリフルオロ酢酸により分取カラムが劣化しやすいことである。トリフルオロ
酢酸を完全に留去するためには、再度エタノール等を加えて共沸除去することも有効かも知れ
ない。すべてのトラブルがカラムの劣化に起因するため常に注意を配りたい。その意味で、分
析システム用にも全く同一系を準備し、分取クロマトに不満が残る場合、再分離を行えるよう
にしている。
L-フェニルアラニンのフッ素化段階でラセミ化は否定しきれないが、構造と反応機構上起こ
りにくいものと思われる。もしも高比率で起こったとしても、本トレーサの使用目的に大きく
障害をもたらすとは考え難い。
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
i) カラム:Bondapak C18(内径 7.6 mm X 長さ 300 mm)、Waters(註1)
溶離液:CH3OH/0.1%AcOH(10/90)
流 速:4 mL/min
保持時間:7.5 分
ii) カラム:Crestpak C18S(内径 4.6 mm X 長さ 150 mm)、日本分光
溶離液:CH3OH/50 mM HCO2NH4(6/4)
流 速:2.0 mL/min
保持時間:2.6 分
註1) 同一充填剤の分析用カラムが経済的であろう(合成法の特徴と問題点の項を参照)。
TLC
プレート:セルロース、Merck
溶離液:n-butanol/AcOH/H2O(20/3/5)
Rf 値:0.4
[化学的純度]
UV 検出器(254 nm)を用いる HPLC による。
5.アミノ酸合成法
59
C.その他
[生理活性]
フルオロフェニルアラニン類の Phe−tRNA synthetase 基質としての性質をラセミ体ながら
も L-フェニルアラニンと比較した報告がある 4)。D-体が全く無効と仮定した場合、上記報告に
よれば、三種異性体 L-2-FPhe、L-3-FPhe、L-4-FPhe の Kmは、L-Phe のそれぞれ 50 倍、
14 倍、5.5 倍となり、L-2-FPhe が同化代謝基質となりにくいことを示している。この代謝さ
れにくい可能性は、村上らによっても別の手法による検討から確認されている 1)。
[毒性]
フルオロフェニルアラニン類の毒性は、代謝結果としてフルオロ酢酸が生じ、これが TCA 回
路の回転を止めることに起因している。クエン酸の蓄積量を TCA 回路停止の指標として LD50
を推測した報告がある 5)。それによれば、L-2-FPhe、L-3-FPhe、L-4-FPhe のマウス LD50
値(mg/kg、腹腔)はそれぞれ 1,000 以上、5.9、1,000 以上となっている。
[薬理作用]
L-3-FPhe はマウスに痙攣を引き起こす。その用量は毒性と相関し、4.2 mg/kg(腹腔)で作
用なく、10 mg/kg 以上(腹腔)で 100%痙攣を引き起こす。
[被曝線量]
臓器 線量(Gy/MBq) 臓器 線量(Gy/MBq)
膵臓 382 胃壁 66
骨表面 147 肝臓 52
小腸壁 118 腎臓 51
大腸壁 97 膀胱 42
全身の線量当量は 59 Sv/MBq6)
参考文献
1. Murakami M., Takahashi K., Kondo Y., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 27,
245–255 (1989).
2. Murakami M., Takahashi K., Kondo Y., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 25,
773–782 (1988).
3. 三浦修一, 村上松太郎, 菅野巌, 他: 日本臨床, 49, 1537–1540 (1991)
4. Santi D. V., Danenberg P. V.: Biochemistry ,10, 4813–4820 (1971).
5. Weissman A., Koe B.K.: J. Pharmacol. Exp. Ther., 155, 135–144 (1967).
6. 東京都健康長寿医療センター研究所附属診療所短寿命放射性薬剤臨床利用委員会資料
5-4.[18F]ボロノフルオロフェニルアラニン合成法 (藤井 亮)
[18F]ボロノフルオロフェニルアラニン(4−borono−2−[18F]fluoro−L−phenylalanine、
60
[18F]FBPA)は、腫瘍の中性子捕捉療法(boron neutron capture therapy、BNCT)に用いら
れるボロノフェニルアラニン(4−[10B]borono−L−phenylalanine)の患部集積性を体外的に計
測するトレーサとして有効であり、また、種々の腫瘍におけるアミノ酸輸送の計測にも有用で
ある 1-7)。
A.合成法
次の反応スキームにより合成する 1)。
NH2BOH
OH
CO2H
NH2BOH
OH
CO2H
F18
AcO18F
THF
[使用薬剤]
Acetyl [18F]hypofluorite(註1)
4−Borono−L−phenylalanineKatchem(チェコ)(註 2)
トリフルオロ酢酸
0.1%酢酸(註 3)
註 1) Acetyl [18F]hypofluorite による[18F]フルオロフェニルアラニン合成と同一方法による。
註 2) 和光純薬を通じて購入可能。価格は時価で、入荷に約 2ヵ月要する。
註 3) 酢酸(精密機器分析用特級試薬)を 500 mL の注射用蒸留水に添加して調製する。
[方法]
4−Borono−L−phenylalanine(30 mg)を溶解したトリフルオロ酢酸(6 mL)中に acetyl
[18F]hypofluorite を流速 150 mL/min で通じる。終了後、反応溶媒を減圧下留去し、0.1%酢酸
(2 mL)に溶解して HPLC により分離精製する。0.1%酢酸で溶出された目的分画を蒸発乾固
したのち注射用生理食塩水に溶かし、最終的に 0.22 m のメンブレンフィルターを通して注射
用薬剤とする。(註1)
註1) 目的分画の0.1%酢酸水溶液に局方アスコルビン酸注射液と局方10%塩化ナトリウム注
射液を加えて pH やイオン強度を調整して注射用薬剤とすることもできる。この場合、
比放射能の測定には、アスコルビン酸を添加する前に分取した液から必要量採取する。
[合成法の特徴と問題点]
溶媒のトリフルオロ酢酸は分取用カラムの劣化を招くことから、溶媒の減圧乾固は十分に行
ったほうが良いが、乾固しすぎると 0.1%酢酸による再溶解の際の回収率が悪くなる。したがっ
て、僅かにトリフルオロ酢酸が残留する程度まで減圧乾固する。カラムは、使用頻度が増すに
つれて分離能が悪くなるが、エタノールにより十分に洗浄することにより回復する(毎回洗浄
したほうが良い)。(編者註1)
編者註1)FBPA は市販されていない。
5.アミノ酸合成法
61
[HPLC 分取条件]
カラム:デルタパック C18(内径 25 mm X 長さ 100 mm)、Waters(編者註1)
溶離液:0.1%AcOH
流 速:10 mL/min
溶出時間:19 分
編者註1) YMC-Pack ODS-A(内径 20 mm X 長さ 150 mm、ワイエムシー)も使用でき
る。
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
i) カラム:YMC-Pack ODS-A(内径 4.6 mm X 長さ 250 mm)、ワイエムシー
溶離液:0.1%AcOH
流 速:0.8 mL/min
検出器:UV(280 nm)
保持時間:19 分
ii) カラム:NVC18(内径 8 mm X 長さ 100 mm)、Waters
溶離液:MeOH/0.8%AcOH, 1 mM EDTA, 1 mM sodium octylsulfate(15/85)
流 速:2 mL/min
保持時間:13.5 分
iii) カラム:TSK-gel Super ODS(4.6 mm X 100 mm)、東ソー
溶離液:50 mM AcOH/50 mM AcONH4(1/1)
流 速:1 mL/min
保持時間:4.3 分
62
[化学的純度]
UV 検出器を用いる HPLC による。
C.その他
[毒性]
[18F]FBPA は生体内で比較的安定であり、代謝を受けず、また蛋白質には殆ど取り込まれな
い。FBPA の毒性は環開裂により生成するモノフルオロ酢酸による TCA サイクルの阻害により
発現すると考えられ、o-置換フルオロ体はモノフルオロ酢酸には代謝変換されないので、毒性
は m-置換体に比べ非常に低い。また、パラボロノフェニルアラニン(4−borono−L−
phenylalanine)については、LD50 が 3000 mg/kg 以上(マウス腹空内投与)であり、毒性が
低い 8)。更に FBPA については、ラットに臨床投与量の約 1,000 倍量にあたる 10 mg/kg の静
脈内投与したとき、何らかの生物学的、解剖学的変化を認めなかった。
[被曝線量]9)
ヒト全身 PET 動態計測による。
実効線量:20 Sv/MBq
膀胱壁:132 Gy/MBq、心臓:41 Gy/MBq、腎臓:38 Gy/MBq
全身:101 Gy/MBq
参考文献
1. Ishiwata K., Ido T., Mejia A.A., et al.: Appl. Radiat. Isot., 42, 325–328 (1991).
2. Ishiwata K., Ido T., Kawamura M., et al.: Appl. Radiat. Isot., 18, 745–751 (1991).
3. Ishiwata K., Ido T., Honda C., et al.: Appl. Radiat. Isot., 19, 311–318 (1991).
4. Ishiwata K., Shino M., Kubota K., et al.: Melanoma Res., 2, 171–179 (1992).
5. Imahori Y., Ueda S., Ohmori Y., et al.: J Nucl Med., 39, 325–333 (1998).
6. Imahori Y., Ueda S., Ohmori Y., et al.: Clin. Cancer Res., 4, 1825–1832 (1998).
7. Imahori Y., Ueda S., Ohmori Y., et al.: Clin. Cancer Res., 4, 1833–1841 (1998).
8. Taniyama K., Fujiwara H., Kuno T., et al.: Pigment Cell Res., 2, 291–296 (1989).
9. 東京都健康長寿医療センター研究所附属診療所短寿命放射性薬剤臨床利用委員会資料.
5-5.[18F]フルオロ−アルファ−メチルタイロシン合成法 (冨吉 勝美)
[18F]フルオロ−アルファ−メチルタイロシン(L−[18F]fluoro−alpha−methyltyrosine、
[18F]FAMT)は、脳神経細胞あるいは悪性腫瘍細胞にアミノ酸トランスポータを介してアミノ
酸プールとして取り込まれた後、タイロシン水酸化酵素の阻害剤として働き、カテコールアミ
ンの生成が押さえられ、タンパク合成過程に進まない性質を有する 1)。そのため、[18F]FAMT
を投与後、脳あるいは腫瘍のイメージングを行うことにより、精神疾患など脳神経細胞の機能
異常を呈する疾患、悪性腫瘍などのカテコールアミンあるいはアミノ酸代謝異常を検出するこ
とが可能である 2,3)。
5.アミノ酸合成法
63
A.合成法
次の反応スキームにより合成する。
AcO18F
AcOH-CF3CO2HOH
CO2H
NH2
C H3
OH
CO2H
NH 2
C H 3F18
[使用試薬]
L−−Methyltyrosine(Aldrich)
酢酸特級試薬
トリフルオロ酢酸特級試薬
メイロン(注射用 7%炭酸水素ナトリウム水溶液)
[方法]4)
Acetyl [18F]hypofluorite(註1)を流速 500 mL/min で、L−−methyltyrosine(20 mg)を
含む酢酸/トリフルオロ酢酸(1/1)溶液(2 mL)に吹き込んで反応させる(註2)。反応液をロ
ータリエバポレーターに移し、減圧下で溶媒を留去する(註3)。残渣を生理食塩水(1.0 mL)
に溶かして、HPLC により分離精製する。UV 検出器(280 nm)により、[18F]FAMT を分取し
たのち、再びロータリエバポレーターにより溶媒を留去し、生理食塩水(5.0 mL)に溶かす。
pH 調整のため、メイロン(0.1 mL)を加え、pH を 6 から 7 に調整した溶液をメンブレンフィ
ルターを通じて、無菌バイアルに入れ注射剤とする。
註1) Acetyl [18F]hypofluorite による[18F]フルオロフェニルアラニン合成と同一方法による。
註2) 酢酸/トリフルオロ酢酸(1/1)溶液が反応中、透明から薄く黄色味を帯びる。反応時間
が長い程、収率が良くなる。
註3) 減圧下で溶媒を留去する際、薄茶色に変色する。
[合成法の特長と問題点]
[18F]FAMT 中には、90%以上の 3-フルオロ体の 3-[18F]FAMT と 10%未満の 2-異性体の
2−[18F]FAMT が存在しており、現在臨床応用では分取していない。(編者註1)
編者註1)2-異性体および 3-異性体はナードから入手可能。
[HPLC 分取条件]
カラム:Lichrosorb RP18-10(内径 10 mm X 長さ 250 mm)、GL サイエンス
溶離液:MeOH/0.1% AcOH(1/9)
流 速:4 mL/min
検出器:UV(280 nm)、放射能検出器
溶出時間:前駆体 8 分、3-[18F]FAMT 15 分、2-[18F]FAMT 17 分
64
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
カラム:Lichrosorb RP18-10(内径 10 mm長さ 250 mm)、GL サイエンス
溶離液:MeOH/0.1% AcOH(1/9)
流 速:6 mL/min
検出器:UV(280 nm)、放射能検出器
保持時間:前駆体 8 分、3−[18F]FAMT 10 分、2−[18F]FAMT 12 分
C.その他
[被曝線量]
健常者 3 人の体内分布および尿のデータから計算された被曝線量を次表に示す。(註1)
[18F]FAMT はそのほとんどが腎臓から膀胱へ排出され、投与後 60 分で全投与量の約 50%、2
時間後にはさらに約 20%が排出される。わずかな取込みが脳、肝臓にみられる
註1) 癌患者の被曝線量も[18F]FAMT が癌部位に集まる以外、ほとんど同じと思われる。
5.アミノ酸合成法
65
臓器 線量(Gy/MBq) 臓器 線量(Gy/MBq)
腎臓 52 小腸壁 15
肝臓 12 大腸壁 14
骨髄 11 膀胱 254
生殖腺 16(男)18(女)
全身等量線量は 25 Sv/MBq
[毒性]
D,L−m−fluoro−−metyltyrosine の LD50(マウス、経口)は 1,000 mg/kg 以上と報告され
ている 5,6)。臨床では、投与量当たり約 1 mg の FAMT が含まれ、平均体重を 60 kg とすれは、
20 g/kg 以下であることから、LD50の 1/50,000 以下であり問題ない。FAMT は褐色細胞腫や
高血圧の治療剤として、1~4 g/日の量を最長 10 ヶ月間経口投与の報告がある。これらは主に胃
腸から吸収され、タイロシン水酸化酵素を阻害剤することから、カテコールアミンの生成を抑
制し、上記の病気による高血圧や発汗、動悸、頭痛の治療として使用されている。
参考文献
1. Tomiyoshi K., Inoue T., Higuchi T., et al.: J. Nucl. Med., 39, 1424–1427 (1998).
3. Inoue T., Tomiyoshi K., Higuchi T., et al.: J. Nucl. Med., 39, 663–667 (1998).
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6. Engelman K., Horwitz D., Jequier E., et al.: J. Clin. Invest., 47, 577–594 (1968).
5-6.[18F]FET 合成法 (林 和孝)
18F-標識したタイロシン誘導体である[18F]FET(O−(2−[18F]fluoroethyl)−L−tyrosine)は、
アミノ酸輸送過程を定量的または定性的に診断する薬剤として使用される。[18F]FET は、タン
パク質合成には取り込まれないが、アミノ酸トランスポータを介して細胞内に輸送されること
から腫瘍への集積は、アミノ酸トランスポータの活性を反映している 1,2)。
A-1.[18F]臭化フルオロエチル法
下記の反応スキームにより合成する。
BrCH2CH2OTf
BrCH2CH2
18FCO2Na
NH2NaO
CO2Na
NH2OF
18
[K+/K.222]18Fo-DCB
66
[使用試薬]
[18O]H2O(註1)
[18F]フッ素イオン(註2)
2−ブロモエチルトリフレート(註3)自家調製品 3)
無水アセトニトリルMerck(1.12636.0050)
Kryptofix 222(K.222)Merck(8.10647.0001)
炭酸カリウム・1.5H2OMerck(1.04926.0050)
L-タイロシンAldrich(T9,040-9)
無水 o-ジクロロベンゼン(o-DCB)Aldrich(24,066-4)
無水 DMSOAldrich(27,685-5)
2.5 M NaOH(註4)
Sep Pak light Accell plus QMAWaters(WAT023525)(註5)
註1) [18F]FDG 合成法参照
註2) [18O]H2O を用い、18O(p,n)18F 反応により製造する。
註3) 名称は、2−bromoethyl trifluoromethanesulfonate。合成後、褐色バイアルに入れ、
N2でパージして冷凍庫で保管する。
註4) 5 M NaOH を希釈して使用する。
註5) QMA カートリッジは、消毒用エタノール、注射用水の順に洗浄後、炭酸カリウム溶液
を通じて炭酸イオン形に変換し、注射用水で充分洗浄したものを使用する。
[方法]
製造した担体無添加の[18F]フッ素イオンを、QMA カートリッジに通じて吸着する。
QMA カートリッジに吸着させた[18F]フッ素イオンを、K.222(15 mg)と炭酸カリウム(2.77
mg)を含む 50%アセトニトリル溶液(0.4 mL)(註1)で溶出し、反応容器に導入する。
He 気流下で加熱し、溶媒を留去する。次に、無水アセトニトリル(0.1 mL)を加え、共沸
乾固させ、充分に反応容器を乾燥する。(註2)
2-ブロモエチルトリフレート(10 L)を含む o-ジクロロベンゼン(150 L)を加え、130C
に加熱し、生成した[18F]フルオロエチルブロマイドを He ガス(30 mL/min)気流下で蒸留す
る。(註3)
蒸留した[18F]フルオロエチルブロマイドを L—タイロシン(4.6 mg)と 2.5 M NaOH(20 L)
を含む DMSO(0.3 mL)に捕捉する。
捕捉後、90C で 10 分間、フルオロエチル化反応を行う。
反応容器を冷却後、HPLC 溶離液(0.2 mL)を加えて攪拌し、反応溶液を HPLC に導入し、
分離精製を行う。
精製した[18F]FET をロータリエバポレーターのフラスコに分取し、溶媒を留去した後、生理
食塩水(10 mL)に溶解し、メンブレンフィルター(0.22 m)に通じ、無菌バイアルに捕集す
る。
註1) 注射用水(2 mL)に溶解させた炭酸カリウム(27.7 mg)とアセトニトリル(2 mL)
に溶解させた K.222(150 mg)を 1 つのバイアルに加え、冷所保存しておいたものを
5.アミノ酸合成法
67
使用する。
註2) ここで、乾固が不完全な場合、次のフッ素化反応の収率が著しく低下する。
註3) 蒸留の時間が長くなると、不純物が混入し、次のフルオロエチル化反応の収率が低下
する。
[合成法の特徴と問題点]
A-1の合成法は、短時間で高収率の[18F]FET を得ることができ、 [18F]フルオロエチルブ
ロマイドは他の化合物のフルオロエチル化反応に応用可能である 4,5) 。
問題点としては、2-ブロモエチルトリフレートを自家調製しなければならないことと、保存
状態により[18F]フルオロエチルブロマイドの合成収率が低下することである。
[HPLC 分取条件]
カラム:YMC-Pak ODS-AQ(内径 10 mm X 長さ 300 mm、5 m)、ワイエムシー
溶離液:CH3CN/50 mM AcONH4/50 mM AcOH(40/460/2.5)
流 速:5.0 mL/min
検出器:UV(280 nm)、NaI(Tl)
保持時間:13.9 分
0 2 4 6 8 10 12 14
[18F
]FE
T
UV (280 nm)
Radioactivity
Retention time (min)
A-2.[18F]フッ素イオン法
下記の反応スキームにより合成する 6)。
CO2t-Bu
NHO
TsOC(Ph)3
CO2t-Bu
NHO
F18
C(Ph)3
NH2OF
18
CO2H
[K+/K.222]18F
HCl
MeCN
68
[使用試薬]
[18O]H2O(註1)
[18F]フッ素イオン(註2)
O-(2-Tosyloxyethyl)-N-trityl-L-tyrosine tert—butylesterABX(305.0012)
無水アセトニトリルMerck(1.12636.0050)
K.222Merck(8.10647.0001)
炭酸カリウム・1.5H2OMerck(1.04926.0050)
2 M 塩酸容量分析用
酢酸ナトリウム・3H2Oアミノ酸自動分析用
Sep Pak light Accell plus QMAWaters(WAT023525)(註3)
註1) [18F]FDG 合成法参照
註2) [18O]H2O を用い、18O(p,n)18F 反応により製造する。
註3) A-1参照
[方法]
製造した担体無添加の[18F]フッ素イオンを、QMA カートリッジに通じて吸着する。
QMA カートリッジに吸着した[18F]フッ素イオンを、K.222(15 mg)と炭酸カリウム(2.77
mg)を含む 50%アセトニトリル溶液(0.4 mL)(註1)で溶出し、反応容器に導入する。
He ガス気流下で加熱し、溶媒を留去する。次に、無水アセトニトリル(0.1 mL)を加え、
共沸留去し充分に反応容器を乾燥する。(註2)
合成前駆体(12 mg)を含む無水アセトニトリル(0.3 mL)を加え、110C で 10 分間、フッ
素化反応を行う。
反応容器を冷却後、90C で 1 分間加熱し、アセトニトリルを留去する。
反応容器を冷却後、2 M 塩酸(0.5 mL)を加え、120C で 10 分間加水分解反応を行う。
反応容器を冷却後、2 M 酢酸ナトリウム(1.5 mL)を加えて攪拌し、反応溶液を HPLC に導
入し、分離精製を行う。
精製した[18F]FET をロータリエバポレーターのフラスコに分取し、溶媒を留去した後、生理
食塩水(10 mL)に溶解し、メンブレンフィルターに通じ、無菌バイアルに捕集する。
註1) A-1参照
註2) A-1参照
[合成法の特徴と問題点]
A-2の合成法による [18F]FET の収率は、K.222 よりも tetra−n−butylammonium
bicarbonate を用いた方が良いと報告されている 6)。しかし、九州大学病院においては、どちら
を用いても収率としてあまり差がなく、合成後の混入量の検定を考慮して K.222 を選択してい
る。
[HPLC 分取条件]
A-1参照
5.アミノ酸合成法
69
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
カラム:コスモシール 5C18-MS-II(内径 4.6 mm X 長さ 250 mm)、ナカライテスク
溶離液:CH3CN/50 mM AcOH/50 mM AcONH4(50/450/2.5)
流 速:1.0 mL/min
検出器:UV(280 nm)、NaI(Tl)
保持時間:6 分
[化学的純度]
K.222:[18F]FDG 合成法参照
C.その他
[毒性]7)
LD50、マウス(静注):>150 g/kg
[被曝線量]7)
ヒト全身 PET 動態計測による。
実効線量:17 Sv/MBq(ICPR 60)
膀胱壁:60 Gy/MBq、子宮:22 Gy/MBq、腎臓:20 Gy/MBq
全身:12 Gy/MBq
参考文献
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