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もくじ

本書について……………………………………………………………… 2

茨城大学「根力(ねぢから)育成プログラム」の背景 (1)「根力プログラム」の概要 ……………………………… 3 (2)根力の構成要素 …………………………………………… 4    コラム ◆根力の構成要素と各種能力の対応 …………… 6

PBLとは? (1)なぜPBLか? …………………………………………… 8 (2)PBLの類型 ……………………………………………… 9    コラム ◆ PBLの類型(三重大学の事例) ………………11 (3)PBLを成功に導くポイント ……………………………12 (4)PBL導入のヒント集 ……………………………………15

PBL実践例 ① 問題提起型PBL ……………………………………………20 ② 企画遂行型PBL ……………………………………………25 ③ 地域参画型PBL ……………………………………………30 ④ 産学連携型PBL ……………………………………………35 ⑤ 課外活動型PBL ……………………………………………39

他大学のPBL先進事例紹介 ① 三重大学 ……………………………………………………41 ② 広島大学 ……………………………………………………41 ③ 京都産業大学 ………………………………………………42 ④ 同志社大学 …………………………………………………42 ⑤ 九州工業大学 ………………………………………………43 ⑥ 山形大学 ……………………………………………………43

参考・引用文献一覧 ……………………………………………………44

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本書について茨城大学 大学教育センター キャリア教育部

蜂 屋 大 八

 この PBL ハンドブックは、以下の4章から構成されています。 第1章では、現在の大学教育に求められる能力、その社会的要請の背景に触れ、茨城大学「根力プログラム」がなぜ必要とされているかを理解します。 第2章では、根力プログラムにおいて PBL の推進が図られてきた意図について説明します。「PBL」と言っても、各科目の位置づけや学習到達目標の設定に応じて、いくつかの類型があることを理解します。PBL の目的や学習成果の位置付け方は授業形態によって様々ですが、共通する「作法」を紹介し、各教員に試行いただく際の材料とします。 これに基づき、第3章では、茨城大学内での普及のために開発されている PBL 授業のいくつかのモデルを参照しながら、PBL 型授業設計上の留意点について説明します。担当科目において PBL 型の授業を取り入れたいとお考えになる先生方の参考となれば幸いです。 第4章では、他大学において先進的に開発が進められてきた PBL 授業の実践例について紹介します。もちろん、ここに紹介するのは、先進的実践事例の一部に過ぎません。日々、新しいタイプの PBL が開発されていると言っても過言ではないほど、各大学において特徴的なPBL 授業が開発されています。 本ハンドブックを通じて、PBL 型授業の可能性を感じ取っていただき、一科目でも多くの魅力的な PBL 授業が開発され、学生が意欲を持って主体的に学ぶ学習コミュニティが茨城大学に生まれることを期待いたします。

1茨城大学「根ねぢから

力育成プログラム」の背景

(1)「根力プログラム」の概要

 従来、大学教育の内容は、就業後の自らのキャリア形成に当然資するもの、という暗黙の前提条件に基づいて展開されてきました。また、大学入学者は、自らの生活を自らコントロールする、一個の自立した人間として取り扱われてきました。しかし、昨今の状況は、このような前提に立つことを許さなくなっているのが明らかです。平成24年3月に示された中央教育審議会大学分科会大学教育部会の審議まとめ

「予測困難な時代において生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ」では、先が見通せない社会に学生を送り出さなければならないことを前提に、“ 答えのない問題 ” に対して最善解を導く能力の育成が、大学教育の目標と位置づけられています。 このような状況を踏まえ、本学では、学生自身の目的意識・人生観といったものが、学業に対する態度・成績にも如実に反映されていることに鑑み、「大学での学びの先」や「学生自身のキャリア形成に必要な能力・専門知識」を、強く、具体的に意識させる必要があるとの問題意識を持つに至り、平成22年度から、就業してからも役立つ実学的専門教育を含む体系的な「根力(ねぢから)育成プログラム」を展開してきました。このプログラムは、以下の4つの柱から成り立っています。

① 茨城大学卒業生が最低限有すべき能力を「根力」とし、その構成要素

の定義、それらへの効果的な教育内容・教育方法の展開

② 「PBL(課題対応型学習:Project Based Learning)技法」の導入

③ 学生一人一人の学習過程を「電子ポートフォリオシステム」として

明示

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④ 学生同士の相互教育体制(教育体制の循環)を構築するためのス

テューデントリーダー(SL)制度の構築

(2)根力の構成要素

 昨今の厳しい就職状況の下、企業では「即戦力」となりうる人材を求める傾向が強くなっています。ここでいう「即戦力」とは、周囲の人と円滑に人間関係を構築できる、相手の考えに耳を傾けつつ自分の考えをうまく伝えることができる、独自の視点を持ちつつチーム内で主体的に行動できるなどといった能力や資質のことです。このため、根力育成プログラムでは、表 1「根力の構成要素」のように本学卒業者の能力指標として「根力」を掲げ、その構成要素を定義するとともに、その有効な教育法の一つである PBL 授業の普及・推進を進めています。 PBL 授業は、根力構成要素の育成に適した授業法であると考えられます。しかし、根力は PBL 授業を新たに開講すれば育成されるというものではありません。従来から本学で行われてきた通常の授業の中でも、その育成が図られてきました。その意味では、PBL 以外の科目に含まれる根力要素の抽出と、それらとの連携も重要と考えられます。PBL の目的や学習成果の位置づけ方については次章に記述しますが、PBL は、通常の授業で培われている充分な専門知識やスキル等の獲得を踏まえて、実際にそれを「使う」ことに特化した授業であり、双方がそろって初めて、相乗的に効果を上げていくことができるのです。

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(表2)根力構成要素の各種育成能力との対比表

根力の構成要素と各種能力の対応

 本プログラムが育成を図ろうとしている「根

力」は、経済産業省が企業で必要とされる

能力指標として掲げる「社会人基礎力」を

ベースとしています。また、内閣府の「人間力」

や文部科学省の「学士力」に掲げられてい

る各指標とも多くの重なりが見られます。この

ことから、「根力」を構成する各能力・資質は、

現在の大学卒業者に求められる能力と一致

すると見ることができます。(表2「根力構成

要素と各種育成能力との対比表」参照)

 また、職場において、仕事を上手にこなす

ことができる人材とそうでない人材の違いを調

べ、そこから抽出できる特性をコンピテンシー

と呼びます。いわゆる知識の獲得を目指す学

習の成果とコンピテンシーの有無は、あまり

関係性が見られません。このコンピテンシー

については、OECDのプロジェクト「コンピテ

ンシーの定義と選択:その理論的・概念的

基礎(通称:DeSeCo)」が抽出と定義を進

めてきました。このうち以下の3つは、特に重

要な鍵となる力として、キー・コンピテンシー

と呼ばれています。

①自律的に活動する力

a. 言語、シンボル、テクストを相互作用

的に用いる。

b. 知識や情報を相互作用的に用いる。

c. 技術を相互作用的に用いる。

②道具を相互作用的に用いる力

d. 他人といい関係を作る。

e. 協力する。チームで働く。

f. 争いを処理し、解決する。

③異質な集団で交流する力

g. 大きな展望の中で活動する。

h. 人生計画や個人的プロジェクトを設計

し、実行する。

i. 自らの権利、利害、限界やニーズを表

明する。

 コンピテンシー・マネジメントという言葉が示

すように、コンピテンシーは元々が企業におけ

る人事管理手法の一つです。大学教育にお

いて、昨今、このコンピテンシーが注目される

ようになった背景には、「出口」である就職

状況が芳しくないことから、就職直後から成果

を上げていける人材を育成する際の指標とし

て見えやすかったということが言えるでしょう。

一方、松下(2010)や小方(2001)の文

章からは、大学教育がコンピテンシー教育に

流れることに対し、懐疑的な視点を見ること

ができます。結局は、従来型の教育の体系

性や、そこでの知識やスキルの獲得の重要

性と、コンピテンシーに代表される社会的要

請との融合を図り、双方を相乗的に学習成

果に結び付けていく教育プログラムの構築が

重要であると言えるでしょう。

コラム

(注)本コラムは、以下の文献を参考としました。(1)ドミニク・S・ライチェン、ローラ・H・サルガニク編著 立田慶裕監訳 「キー・コンピテンシー 国際水準の学力をめざして」明石書店、2006 年(2) 松下佳代編著「〈新しい能力〉は教育を変えるか 学力・リテラシー・コンピテンシー」ミネルヴァ書房、2010年(3) 小方直幸「コンピテンシーは大学教育を変えるか」『高等教育研究』第4集、p.71-91、2001 年(4) 佐藤純「コンピテンシー・ディクショナリー ― 各社事例にみる評価と活用 ―」財団法人社会経済生産性本部生産性労働情報センター、2003 年

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(2)PBLの類型

 先に述べたとおり、PBL はいくつかの類型に分類することができます。ここでは、まず、以下の3つの分類で区分してみたいと思います。

①専門教育におけるPBL

 PBL とは、前述のとおり授業形態の一つです。このため、専門科目のように、当該授業を通して伝授すべき知識やスキルが存在することを前提に、その習得を深め(高め)る手段として、PBL が位置づけられるということになります。このような授業では、学生が具体的事例や克服課題と直面し、その解決を図る過程を通じて、より深くより実践的に知識の理解を図ることを目的とします。少人数グループでプロジェクトを完遂させる PBL:Project Based Learning が該当し、工学系のものづくり科目や、理学系の実験系科目などが典型例となります。

②教養教育におけるPBL

 教養教育の場合、その性質上、専門科目のように「知識の伝授」を前提とすることはあまりありません。一つの事象に対して多様に捉える視点、自分とは異なる他者を理解する幅広い視野や、自らの考えを論理的に構築して伝える能力の獲得などが教育目標となります。このため、具体的事象等を取り上げて、自ら考えることを通じ、受講生個人の「気づき」や「啓発」を促す問題提起型の PBL: Problem Based

Learning が適しています。このような学習を通じ、狭い専門分野の限界を知る一方、学問世界の深さの一部を垣間見ることで、学習意欲や専門的志向性を高め、生涯をかけて学び続けるテーマとの出会いを目的とします。

③プロジェクト実施型PBL

 一つのプロジェクトの企画・準備・実施・成果記録のプロセスを、

2PBLとは?

(1)なぜPBLか?

 近年の大学教育改革のキーワードとして、「教える(teaching)から学ぶ(learning)へ」というスローガンはあまりにも有名です。教員が何を教えるかではなく、学生が何を学んだかということが、大学教育のアウトプットの指標としても使われるようになっています。これは、従来の知識習得型授業だけではなく、その習得した知識を活用する能力の育成も大学教育に求められていることを意味します。このような鍛錬の場面を取り入れた授業として、アクティブラーニングという言葉もよく耳にされることと思います。 アクティブラーニングは、学習者の能動的な学習を取り込んだ授業形態の総称で、クリッカーなどを用いた学生参加型授業、協調学習や共同学習とともに、PBL もこれに含まれると理解されます。これらの授業の中には、情報収集、傾聴、問題認識、課題発見、論理的思考、批判・創造的思考、問題克服、解決などの諸要素が含まれています。これらの要素を含むことから、学生が主体的に取り組んだり、体験的に理解したり、他者の理解や自己の相対化が可能となったりするという高い教育効果が生み出されます。 では、PBL とは何の略でしょうか? Project Based Learning や Problem

Based Learning は、すぐに思いつくと思いますが、これらの他にも、Process Based Learning や Program Based Learning という表現も耳にすることがあります。このように「PBL」と略しても、それぞれの内容によって、様々な授業形態が有り得るのです。茨城大学で推進を進めようとしているのは、このうち Project Based Learning の概念に基づく PBL です。次項では、もう少し掘り下げた分類を考えてみたいと思います。

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PBLの類型(三重大学の事例)

 三重大学では、高等教育創造開発センター

を中心に、平成 17年度から全学的に PBL

の展開を推進しています。第2期中期目標に

おいて、教育全体の目標を以下のように設定

し、それを広い範囲で達成する効果的な授

業形態として、PBL(問題発見解決型授業:

Problem Based Learning)を位置づけてい

ます。

 三重大学の PBL教育の基礎要件として

次の3つを掲げることにより、多様な形態の

授業をPBLとして認め合い、広く多彩に展

開していくことを可能としています。

 この3つの要件を明確化しつつ、現段階に

おけるPBL枠組みとして提示されている類型と

して、次の4つのタイプのPBLを示しています。

①問題提示型PBL

 学習の契機となる問題との出会いを、教員

が提示することによって学習が展開していく。

ただし、学習課題の設定や学習の遂行は学

生の自己決定による。

②問題自己設定型PBL

 学習の契機になる問題も学習課題もすべ

て学生自身が設定することによって学習が展

開していく。共通教育、専門指向型授業の

どちらでも可能である。

③プロジェクト型PBL

 学内外の要請や課題設定に基づいて、あ

る企画の遂行・達成を目指して問題解決的な

学習を行う。企画や課題の内容や遂行方法

により、イベントなどの課題実践遂行タイプ、

制作やものづくりを課題とするタイプ、問題

解決のための提案をしていくタイプなどがある。

④実地体験型PBL

 様々な場での実地体験を通して、問題との

出会い、問題・課題の発見、問題解決を進

める学習。体験することに重きを置いている

ため、問題解決の成果より、実地での体験

を重視する。学習内容により、学習課題の

発見を重視するタイプ、専門的な基礎技能を

習得するタイプ、実際の問題解決過程に参

加するタイプがある。

コラム

(注)本コラムは、「三重大学版 Problem-based Learning の手引き」を参考としました。三重大学高等教育創造開発センターのウェブサイトには、PBL関連の貴重な情報が掲載されていますので、参照されることをお勧めします。三重大学高等教育創造開発センター・教育支援のリソースのページhttp://www.hedc.mie-u.ac.jp/resources-teaching.html

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幅広い基盤に立った高度な専門知識や技術を有し、地域のイノベーションを推進できる人財を育成するために、「4つの力」すなわち「感じる力」、「考える力」、

「コミュニケーション力」、それらを総合した「生きる力」を養成する。

(1)問題との出会い、解決すべき課題の発見、学習による知識の獲得、討論を通じた思考の深化、問題解決という学習過程を経る学習を行う(問題基盤性)

(2)学習は、学生による自己決定的で能動的な学習により進行する(学修自己決定性)

(3)学生による自己省察を促し、能動的な学習の過程と結果を把握する評価方法を使用する(形成的評価)

複数の学生の協働で行うことを通じ、自らの個性・能力を認識するとともに、他者の考えや価値観を知り、社会との接点を意識し、自分たちの学習が最終的には社会に結びつくことを理解することを目的とします。このタイプの PBL は、教養教育、専門教育の双方で取り組むことができ、正課外の活動であっても、要件を満たせば PBL として位置づけることができます。

 これらの3つの類型は、カリキュラム上の科目の枠組みから見た分類と言えます。これらを実際に授業とする場合の授業内容に応じて区分してみると、以下の5つに分けることができます。第3章では、この5つの類型に基づき、実践が始まっている PBL の事例を紹介していきます。

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出典: 稲垣忠・鈴木克明編著「教師のためのインストラクションデザイン 授業設計マニュアル」北大路書房、2011年より

(3)PBLを成功に導くポイント

 魅力的な授業を設計するための手法の一つに、教育工学の考え方を取り入れた「インストラクションデザイン(Instruction Design)」と呼ばれるものがあります。中でも、学習の動機づけという点に着目したアメリカの教育工学者ジョン・M・ケラー氏のARCSモデルが、PBL

には適していると考えられます。ARCSモデルは、学習意欲を「注意(Attention)」「 関 連 性(Relevance)」「 自 信(Confidence)」「 満 足 感

(Satisfaction)」の4つの要因で捉えて、学習意欲の向上の方策を導き出しました。 稲垣・鈴木(2011)によれば、学習者の感覚がA → R → C → Sと遷移する過程を通じて、高い意欲で満足感のある学習を修めることができます。A・R・C・Sの4要因の下位分類については、次頁の表3「ARCSモデルの下位分類」のとおりです。

満足感(Satisfaction)では、学習成果を認識し(S-1)、グループのメンバーや教員からの称賛を受け(S-2)、それが公平で客観的なものであること(S-3)で、学習後の満足感を得ることができます。

自信(Confidence)では、努力の結果到達できるゴールを示し(C-1)、成功体験を積み重ねにより自分の成長を実感し(C-2)、それは自分の努力の成果だと認識(C-3)できれば、自信が生まれます。

関連性(Relevance)では、学習者が目指す到達点を決めさせ(R-1)、授業のプロセスを楽しみ(R-2)、自分に関係が深い(R-3)ことが理解できれば、やりがいをもって授業に臨みます。

注意(Attention)では、学習者の興味・関心を惹き(A-1)、好奇心を刺激し(A-2)、それを持続させる(A-3)と、学びにすっと入っている状態になります。A

R

C

S

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(4)PBL導入のヒント集

①教員の関わり方

 PBL 授業の基本は、学生の能動的な学習を引き出すことです。このため、通常の授業のように教員から過大な情報提供があると、学生は受け身になってしまいます。これでは、中身のないだけの普通の授業になってしまいます。 PBL では学生グループでの活動の場面が多くなります。講義室内でのグループ討議、時間外のグループでの企画会議、学外でのグループ活動、成果の取りまとめなど、形態は異なりますが、いずれも学生の能動的な学びのステップとなります。このような場合、教員の関わり方は、「教授者」ではなく、「ファシリテーター」に徹することです。そのためのヒントとして、以下の点を挙げておきましょう。●情報はできるだけ少なく ― 悩ませることが成長を生みます●頃合いを見測る ― 「過保護・過干渉」ではなく「投げっぱなし」でもなく●ベンチマークを設定する ― グループ活動の進捗状況を点検する●正しい答えを求めない ― ある意味、活動成果の全てが正しいのです●到達点は見誤らない ― 学生はゴールを見失いがちです できるだけ学生の主体的行動や思考を導き出すことが、教員の役目です。ただし、「PBL =なんでもあり」ではありません。大学教育の質の低下を招かないよう、エビデンスを残すことも大事なことです。

②プロジェクトとは何か?

 プロジェクトとは、まず最初に実現したい目的があるはずです。それを実現するために、構想の肉付けをして企画にまとめ、実現可能性を検討し、他者の協力を得ながら、その実現に適した手段によって、実行していきます。学生たちが社会に出れば、周囲は見渡す限り大小のプロジェクトに囲まれています。PBL は、学生のうちに「練習」を

 このように、いくつかのポイントを踏まえれば、学生に意欲的な学習の場を提供することができます。もちろん、このようなテクニックの活用以前に、授業における学習目標の設定が PBL に即しているか、どの PBL モデルを適用するか、学生の学習成果をどのように位置づけるかといった授業計画の立案が重要であることは言うまでもありません。

(注)本項は、以下の文献を参考としました。稲垣忠・鈴木克明編著「教師のためのインストラクションデザイン 授業設計マニュアル」北大路書房、2011 年

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な学生が、授業を通じて生き生きした顔になっていく醍醐味を味わうこともできるのです。

④雰囲気作りが重要

 授業開始時には全くの他人同士だった学生が、授業中は主体的に行動できるようにするためのシチュエーションづくりも重要です。このためには、グループ討議やグループ活動を本格化させる前のウォーミングアップを念入りにすることが重要です。 例えば、授業の冒頭で行う自己紹介を取り上げてみましょう。普通に自己紹介をさせると、「○○学科2年の茨城太郎です。出身は地元の梅ヶ丘高校です。血液型はA型です。フットサル部に入っています。趣味は旅行です。よろしくお願いします。」と、30秒程度で終わってしまいますし、個人を特徴づけるものは、「茨城太郎」しかありません。これでは、興味関心を持てませんし、打ち解けようにもネタが見つけられません。こういう場合に有効なのが、図 1「好きなものウェビング」

する良い機会とも言えます。プロジェクトを成功させるヒントとして、以下の点を挙げておきましょう。●目的をきちんと見定める ― 実現できない大きな目的は再考を●目的を自分たちで理解させる ― 「やりたいこと」と「実現すべきこと」は違います●学生だけでできなくてもいい ― 学内外の他者の協力を得ればいいことを体感的に理解する●成功へのプロセスを描けるように ― 「地図」を持たずに森に入れば迷うだけです●他のグループと競争させる ― 切磋琢磨が図られ、「競争」から「共創」へ進展します

③落ちこぼれを作らない

 PBL では、学生が立てた目的を実現できるかどうかを問いますので、それが正解か不正解かということは大きな問題ではありません。不正解ということがあるとすれば、社会的に認知されないような行動をとった場合や明らかに不正義な解を導いた場合など、非常に限られたケースです。つまり、元々持っていた能力や資質に基づいて評価が行われるのではなく、個々人の努力や参画の度合いで評価されるべきと考えます。「落ちこぼれ」を作らないためには、授業への参画度を上げることが求められます。グループ活動では、表に出てこない学生を生まないよう、発表者や記録者を輪番制にしたり、何らかの役割が全員に行きわたるようにして、教員が参画度をチェックできるようにする必要があります。 また、自分の考えを表明する機会も多くなるため、特に話すのが苦手なように見える学生への注意が必要です。発言を通じて自信を無くせば、次回から出席しなくなる可能性もあります。不正解ということがないということを伝え、教員が傾聴の努力をすることで、臆することなく発露できるようになります。一見すると人付き合いが苦手そう 図1

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どのような意味があるのでしょうか。OECD では、公式な学習の他にも、インフォーマル学習やノンフォーマル学習が持つ学習成果に着目し、その認証の必要性を説いています。「公式な学習」については、組織的に行われ、構造化され、デザイン化された学習として明確です。「インフォーマル学習」とは、仕事、家庭生活、余暇に関連した日常活動の結果としての学習で、組織化されておらず、構造的でもありません。しばしば、「経験による学習」とも呼ばれます。 これに対し、「ノンフォーマル学習」とは、学習活動としてはっきりと定義されていないが、他の学習に付随して行われる学習を指します。他の活動から偶発的に起こる副産物的な学習です。PBL との関係が最も深いのは、このノンフォーマル学習と考えます。例えば、ボランティア活動や学生による地域参画活動では、それぞれの活動の本来の目的とは別のところで、参加した学生の「学び」や「気づき」などが生まれています。これらは、ノンフォーマル学習に含めて考えることができ、現在は授業となっていない学生の活動についても、PBL としてその成果を位置付けることができます。このような学習の成果を認証して、根力の伸長に含めていく必要があると言えます。

というツールです。これを使えば、話すネタが広がり、1人あたり3分を超えることもあります。 このように、ウォーミングアップに十分に時間をかけて良い雰囲気を作り出すには、様々なツールを活用することも一考の価値ありです。西村宣幸著「ソーシャルスキルが身につくレクチャー&ワークシート」には、そのような素材がたくさん紹介されていますので、オススメです。

⑤基本的なマナーを身に付けさせる

 PBL では、実際の問題解決の場面に遭遇することが多々あります。例えば、グループ討議だけでも、「自分の主張ばかりを押し付けない(協調性)」「他のメンバーの意見を理解する(傾聴力)」「個々の意見をグループの意見にまとめ上げる(リーダーシップ・創造力)」などの場面が見受けられます。 また、プロジェクトを実行したり、地域に参画するタイプの PBL では、授業ではなく協力者・支援者としての教員との関わりや、地域住民や企業など学外の協力者との関わりの場面も出てきます。このような場面は、社会的常識やマナーを習得する絶好の機会です。授業担当者としては、学内外の協力者への非礼がないかヒヤヒヤドキドキしなければなりませんが、厳しさを伴った実体験が学生を成長させることは間違いありません。相手方への約束の取り方(守り方)、メールを出すタイミングや文面の書き方、感謝の態度の持ち方、トラブルの回避や乗り越え方など、社会人にとっては当たり前のことですが、学生には「学生の常識」なるものがあるようで、それが社会的にはいかに非常識なものであるかということは、何回も時間をかけて訓練させなければなりません。教員が自ら手を出したくなりますが、その気持ちをググッと抑えることが肝要です。

⑥正課外活動における学習成果

 現在、PBL「授業」として単位化されていない PBL 型学習活動には、

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3 く食べる」ということの実例を各回の授業テーマに取り上げ、グループ討議、自己省察、発表、レポートとしての取りまとめを何度も繰り返すことで、他者理解との対比で自己というものを捉えなおしていきます。学生に示している授業のテーマは、以下のようなものです。 「この世に生まれ、ここまで成長を遂げてきた奇跡について考えるとともに、命の誕生、恋愛、DV、正しい食生活等について、具体的事例をとりあげ、グループワークを行う。また、誰もが避けては通れない人生の終わりについても、事例を踏まえて議論し、あえて死というものを考えることで、今を生きることの大切さを共有する。」

 しかし、授業者側が設定する到達目標は、学生向けのものとは異なり、考える「訓練」を通じて自己を理解することです。このことについて、最初から学生に伝えておくと、意識がそちらに向いてしまい、客観的に見つめ直すことを阻害する可能性もあるため、あくまでも授業者側の「心づもり」としておくにとどめておきます。 授業は、一つのテーマに対し、「話題提供」の回(図2①~③)と「討議・発表」の回(図2④~⑦)で1セットとなります。この1セットの中で、学生は何度も自分の考えを振り返る機会を持ちます。一つがとても重い内容の実例を取り上げているため、「話題提供」の回は、こころの動きを感じます。そのファーストインパクトを客観的に捉え、次回までに「こころの動き」をまとめてきます。 グループ討議の回は、まず個々人がまとめてきた「こころの動き」をグループ内で発表し、互いに意見を出し合います。ここで自分の考えと異なる考えに出会います。その回の後半では、グループごとのま

PBL実践例

授 業 名 生きるということ、死ぬということ

科目区分 教養科目・就業力育成ステップアップ系科目

開講形態 半期2単位(講義)

学習到達目標 この授業では、グループ討議での他者の意見への傾聴と数回にわたる課題提出を通じ、自分と異質な考えの受容または反論を導き出す過程で、「答えのない問い」に対して真剣に考えることを経験し、「自分」というものを捉え直します。

科目概要●科目開設の背景 現在の社会情勢下では、以前のような終身雇用を望むことは困難であり、新規卒業者の3割程度が3年以内に転職を経験する実態があります。このような中で就労し、生きていかなければならない学生には、必ずしも就職のやり直しが否定されるものではないことを理解させるとともに、自己実現を図るために自分のこころと対話ができる力を養う必要があります。しかし、多くの学生は、長年の受験対策の勉強の中で、「考える」という経験が少なくなっています。このため、大学在学中に自分自身のこころと対話できるように訓練することで、自分というものをきちんと理解し、自分の言葉で考えを述べることができるようにしたいと考え、この授業を設計しました。●科目の内容 「生まれる」「生きる」「死ぬ」「人を好きになる」「正し

1 問題提起型PBL

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とめを発表します。他のグループという別の考えに、また出会います。グループ発表後、授業担当者からのまとめを行います。ここでまた、異なる考えに出会います。ここまでの気づきの繰り返しの後、授業全体のまとめ(図2⑧、⑨)であらためてレポートにまとめます。

特色 この科目は、ただひたすら考えることを学生に課します。自分の意見を持つという経験が少なかった学生が、グループ討議を通じて、他者の意見と自分の意見との関係性の中で、「自分」というものを認識していきます。うまく授業を進めることができれば、授業開始時と終了時との自己認識の変化に自分で驚く受講生も出てきます。(図3はこの授業の受講者向けに行ったアンケートとその集計結果です。)このような授業は、Problem Based Learning の一つの形と考えますが、授業の前提として、その授業で伝授すべき知識というものが存在しない教養科目の PBL では、このような形の PBL が適していると考えられます。 図3

図2

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授 業 名 プロジェクト実習(スタッフ編)・(リーダー編)

科目区分 人文学部・専門科目(根力育成プログラム)

開講形態 通年2単位(実習)

学習到達目標 学生が自ら企画したプロジェクトの立案・実施・成果の取りまとめまで、事業の遂行過程を通して、根力を構成する様々な能力を実践的に修得する。

科目概要●科目開設の背景 この科目は、一つの企画を実際にやり遂げるプロセスの中で、実行力・企画力・協調性・調整能力等、座学では獲得しにくいスキルを獲得する PBL です。平成24年度は、「スタッフ編」のみを先行開講しましたが、通常の開講形態となる平成25年度からは、前年度にスタッフ編を受講した学生が、並列開講する「リーダー編」の受講生となります。このことで、リーダー編の受講生はチーム内での指導的役割を担っていくとともに、スタッフ編の受講生は、経験者からのアドバイスを受けることより、円滑な事業の遂行が可能となるよう授業が設計されています。●科目の内容 授業は、受講生全員が講義室で受講する授業と、チームごとに適宜行う実践活動で構成されます。このうち、この授業のメインとなるのは、後者のチームごとの活動です。この活動は、チームが立案した企画に応じて、休日を含む適当と判断される日時・場所で行われます。プロジェクト実習の名前のとおり、適切かつフレキシブ

2 企画遂行型PBL なお、これと同様の目的で設計した科目をもう1科目、ご紹介しておきます。この科目は工学部開講の教養科目 PBL で、授業名は『「もののけ姫」を見て考える自然と人間の共生』です。スタジオジブリの映画「もののけ姫」と「風の谷のナウシカ」を題材として取り上げ、そこに描かれている自然と人間、自然と産業の向き合い方についてグループ討議を重ねます。エンジニアを目指す工学部の学生に対し、最も縁遠いところに位置するであろう「自然」や「里の暮らし」を切り口にした討議を課すことは、前述の「訓練」と同じ効果を狙ったものです。この授業の目標も、この「訓練」を通じて、自分のこころと対話できる能力を身に付けるところにあり、自然と人間の共生という学生向けのテーマとは異なるものとなっています。

留意点 他人と話すことが苦手だったり、人前で自分の意見の表明ができない学生であっても、恥ずかしいという気持ちをなくせば、多くの場合において克服できます。そのためには、授業の初期で充分な時間をかけ、クラス内に話しやすい雰囲気を作り出すことが重要です。グループ討議の際のグループ編成については、3~4人で1グループを編成するくらいが良いと思われます。これ以上の人数では、話をしなくても良いメンバーが出てくるからです。司会者・記録者を毎回替えるなど、授業に参画しない学生を出さない工夫が必要です。しかし、この形態の授業で最大の留意点は、授業担当教員が自分の考えを押し付けないことです。一般的な知識伝授型の講義と異なり、このような授業では、教員も含め、確かな答えなど存在しません。もし仮に答えが存在するようなテーマであれば、この授業で取り上げるのに適さないものだとも言えます。「教員の考え=正解ではない」ということを、授業担当者自身が自分に言い聞かせる必要があるでしょう。

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の新規プロジェクトの提案」を排除するものではありません。提案が出揃い質疑応答が済んだ時点で、個々の学生は自分がどのプロジェクトに取り組むかを決定し、プロジェクトチームが結成されます。チームの構成は基本的に学生個々の自由意志に任せますが、プロジェクトを安定的に推進しかつ各メンバーが責任感を持って取り組むためには、1チームの人数を5名以上9名以下程度に収めておく必要があります。このため、展開次第では教員が間に入って「人数調整」を行う必要も出てきます。 こうしてチームが結成されてからは、基本的に各チームに分かれての活動となります。おおむね週に1回の割合でチームごとの会合を行い、そこで話し合われた内容を「議事録」として成文化し、担当教員ならびに顧問教員に報告します。また、チーム内でのメールによる情報交換についても、レナンディ等を介して共有します。教員が個々のチームの活動に全て参加することは不可能ですが、これらに目を通すことにより、チームの活動状況や学生個々の取り組み状況を恒常的に把握します。 さらに、個々のチームの取り組み内容やプロジェクトの進捗状況を、チームを越えて共有するために、しばしば全体での中間発表会を設定します。授業全体の活動のピークを茨苑祭ないしその前後(11月~12月前半くらい)と設定しているため、大規模なグループ活動が想定される夏休み前(7月)、夏休み後(10月)、成果取りまとめ前(12月)に中間発表会を行いました。各チームの達成目標の設定、目標を達成する上でイベントをどう位置付けるかの確認、それらに沿った進捗状況及び予算執行状況の報告等について、パワーポイントを用いたプレ

ルな活動を可能とすることで、学生の自主性を重んじています。図4は平成24年度に行われた授業のスケジュールです。 4~5月は、全員合同の講義室での授業を行います。ここでは、まず今後1年間の活動を行うチーム編成に注力します。教育学部でコーチングを専門とされている先生にご出講戴き、ゲームの要素を取り入れつつ、チームづくりを行いました。単なる受講メンバーとしての関わりではなく、同じ目標を達成していくためのチームへの変革が大切です。次に、先行事例を学びます。初年度はすでにこのような PBL の実践を行っている聖泉大学から、ご担当の先生と中心的役割を果たした学生を招いて、具体的にどのようにして企画を遂行しているのかのノウハウを学びました。 その上で、具体的な企画案を持っている学生が、それぞれの構想するプロジェクトについてプレゼンを行います。平成25年度以降は、授業の構造上必然的に「リーダー編受講生による前年度のプロジェクトの継続発展版企画」が多くなりますが、「スタッフ編受講生による全く

図4

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留意点 企画遂行型 PBL の授業設計において最も重要である一方、学生の理解が難しい留意点として、企画の目的と事業プロセスの位置づけがあげられます。学生は、どうしても、何らかのイベントを実施することが事業の達成であると考えがちです。実際には、そのイベントの実施は、目的を達成するための「手段」あるいは「プロセス」であり、図5のとおり目的自体には成り得ません。学生は、実際の活動を行う中で、どうしても近視眼的になりやすく、イベントの実行だけで満足してしまうケースや、逆に十分な活動実績があるにもかかわらず、位置づけができないために目的を達成していないと思い込んでしまうケースがあります。このようなことを防ぐためには、担当教員が中間発表会等において、各チームの活動実態を把握し、目的の上に落とし込み、学生が行っている活動やイベントのそれぞれが目的の達成に向けた「マイルストーン」であると認識させることが必要と言えます。そのためには、事業の目的や活動計画の項目に分けた「企画書」を、適時提出させることも有益でしょう。

ゼンテーションと質疑応答を行います。チーム間の情報共有と切磋琢磨が図られる機会となります。 1月末には、1年間の活動を通しての成果報告会が行われます。同時に、各チームから選出された委員による編集委員会が組織され、1年間の活動が「成果報告書」にまとめます。この報告書は、次年度のスタッフ編受講者にとって、なによりの「テキスト」となります。また、チーム活動での実績については、チームメンバーの個人評価を相互に行い、成績評価の際に取り入れることとなっています。自己評価に基づいて能力の伸長を把握する事例が多い中、客観性を担保する仕組みとして評価に値するものと言えます。 このように、本実習は、学生の自主活動をできるだけ支援する一方、授業の質の低下を招かない工夫が随所で図られている実践事例と言えるでしょう。

特色 この科目では、授業担当教員に加え、各チームの企画に応じ、適切な指導・助言や支援をいただける方に、「顧問教員」としての協力をお願いしています。学生は、顧問教員から、専門的指導や技術的支援を受けるだけでなく、学外者との連携における仲介等のサポートを受けることが可能となっています。 また、各チームの活動経費として、一定額までの財政支援を行います。財政支援を受けることにより、チーム活動においても、「費用対効果」を念頭に置くことが求められ、緊張感が生まれます。財政支援の面では、活動資金として準備されたもののほか、学内の様々な競争的資金にも、学生の積極的な応募が行われました。 図5

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●科目の内容 授業形態は、①事前学習・オリエンテーション、②現地学習1、③中間学習、④現地学習2、⑤事後学習・課題の取りまとめの構成となっています。このうち、②と④はそれぞれ農家民泊を伴う1泊2日の集中形式で、①・③・⑤は、講義室内での対面式授業です。 平成24年度は、在来品種として地域で大切に栽培されてきたカボチャを高付加価値化する販売戦略の企画をテーマとしました。長年、地域住民が独自にカボチャの販売戦略の試行錯誤を繰り返してきましたが、打開策が見つからず、やむなく安価での取引を続けてきました。今回、地区に実習学生が入ることが地区住民を後押しし、若者らしい学生のアイデアを受けて商品開発へ向かう気運を生み出しました。このように、地域住民だけでは克服できない地域課題の解決を、学生の力を入れることで図っていくということは理想的なケースと言えます。 2回に渡って行われる現地学習の1回目では、地域住民からカボチャの由来、栽培上の工夫、これまで開発してきた商品の事例等の講義を受け、茨城大学がこれまで関わってきた産学連携商品開発等の事例を

授 業 名 地域づくりプロジェクト実習ⅠおよびⅡ

科目区分 人文学部・専門科目(根力育成プログラム)

開講形態 半期2単位集中(実習・演習・実習)

学習到達目標 大学の通常の授業で得られる知識・技能を地域の中で活かしていく感覚を体験的に養うとともに、農家民泊を通じて、中山間地域コミュニティの営みが持つ豊かさを体感する。

科目概要●科目開設の背景 この科目は、常磐太田市里美地区において、中山間地域における住民の暮らしを現地で体験しながら学ぶ PBL です。授業科目の設計は、図6のとおり以下の3段階で行われました。① 学生が、住民とともに地域内を見て回り、住民が見過ごしてきた地

域資源を発掘すると共に、住民が解決を求める地域課題を洗い出す。

② 解決すべき地域課題をテーマとして取り上げ、学生が主体的に課題

解決の方策を練り、住民とともに解決策を見出す。

③ 解決する地域課題に対して学生の視点でより深い考究を重ね、学術

的意味合いを付与して、地域に還元できる形にまとめる。

 これら①~③のそれぞれが別個の科目として配置され、順番を追って履修する形を想定しました。このうち、①は教養科目、②と③は人文学部の専門科目としての開講を目指しましたが、教養科目については科目開設を断念したため、地域住民からあらかじめ提出していただいた地域課題に応える形で、②を平成24年度後期に開設しました。

3 地域参画型PBL

図6

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として設計され、茨城大学と両大学間の単位互換協定に基づき、単位が授与されます。校風や専門分野が異なる他大学の学生との合同授業は、学生に新鮮な気づきを与え、思いがけない成果を生み出します。なお、平成24年度は、この枠組みにより総務省「域学連携」実証研究事業の採択を受け、大学と現地の間の移動手段や講師謝礼等の事業実施経費を賄うことができました。

留意点 地域参画型 PBL の授業設計においては、学生の教育活動の舞台となるフィールドの設定・確保が最も大きな仕事となります。受入地域との間で、いかに強固な連携・協力体制を構築できるかが、授業設計の上での鍵になるとも言えます。この連携体制では、地域と大学の双方がメリットを享受できるようにする必要があると考えます。この場合、大学側が受けるメリットは、PBL の実施そのもののほか、現地滞在期

見聞した後に、学生が開発予定商品ごとの企画会議で取りまとめました。学生が取りまとめた12品目の「商品開発企画書」に基づき、地域住民が実際に商品を試作し、2回目の現地学習が行われます。第2回目は、試作品を地域住

民と学生が検証し、改善点の抽出、改善策の検討、それを踏まえた試作品の改善を行います。その上で、地域住民を招いての発表会・品評会を行い、地域住民からの聞き取りを行います。学生が地域の願いに応えることができたかどうかが、その場で学生に返されることになります。学生にとっては、実際に中山間地域で生きる住民の営みが自分たちの学習の題材として提供され、その学習成果がそこに還元されていき活かされていく、そのためには、真摯に地域の現状と向き合い、自分たちの知識・感覚・構想力の全てを持って応えていく緊張感を体感することができます。この緊張感こそが、地域参画型 PBL の最大の特徴と言えるでしょう。

特色 この科目は、常陸太田市里美地域との連携体制に基づき構想され、同市の積極的支援を受けて実施されています。中でも、同地域在住の「地域おこし協力隊(総務省)」が現地住民との連絡・調整、学生の民泊先の手配、実習中のサポート等、多彩な支援を行っている点が大きいと考えられます。このような現地体験型授業の実施においては、大学教員と地域住民を結びつける役割の方の存在が重要となります。地域おこし協力隊に限らず、地域側に、強力な支援者を見つける(創り出す)ことが、円滑な授業の実施につながります。 また、茨城大学、常磐大学、茨城キリスト教大学の三大学連携事業

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 根力プログラムが目指している就業力の育成は、端的には、職業人として優れた能力を発揮できる人材の育成を目指しており、大学で修得する知識やスキルを、実社会で発揮していける能力を養う必要があります。このためには、大学在学中に行う「就業体験」において、特に企業等の現場で行われる実体験に基づく学習が有効であるとされ、正課内外でのインターンシップが行われてきました。 学生がある一定の目的を持って企業、自治体、地域社会の中に入り、多様な体験学習を行うことは、「大学教育が社会と隔絶した中で行われているのではなく、大学教育の出口が社会であること」を体感する最良の機会となります。さらに、このような社会との関わりを早期に持ったという体験が、学生個人の就業観や職業意識の形成・向上に良い形でフィードバックされることは、キャリア関係の学会でもしばしば報告されています。学生は、体験を通じて自分の知識・能力の不足を体感し、学習の必要性に立ち返るのです。 広い視点から見れば、インターンシップも PBL の一形態ととらえることもできると思います。しかしここでは、単なる「就業体験」で終わるのではなく、学習目標に基づき、企業内で実践的な学びを得ることを目指して行われる産学連携型 PBL の設計についてご紹介します。なお、ここでご紹介する2つの授業は、双方とも平成25年度開講の科目であるため、実施経過・報告については、今後、大学教育センター・根力育成プログラムのウェブサイトで情報提供していきたいと思います。

4 産学連携型PBL間を通じた住民による多彩な教育効果があげられます。これに対し、地域側が受けるメリットがなければ、大学側の一方的搾取となり、住民に疲弊感のみを与える形となり、授業の継続的実施が困難となってしまうケースが多くなります。このため、本科目で工夫されている点は、以下のとおりです。① 住民が抱える地域課題を学生の探求テーマとして設定していること

② 当該テーマについて住民と学生が一緒に考え、ブラッシュアップを

図る場を設けていること

③ 成果発表は、地域住民が参加可能な公開の場で行うこと

④ 学生が取りまとめた成果は、地域課題への返答として、地域に還元

すること

 これらの点に留意し、学生はもちろんのこと、大学と地域の双方がメリットを享受できるような関係の構築が望まれます。

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特色 企業が抱える課題に応えるには、学生の力だけでは実現できない場面に遭遇することも予想されます。まず、自分たちで克服の道筋を探しますが、力不足と判断すれば、実現のための支援者を見つけ出し協力を得ることも、学生自身が行います。他者の協力を得る能力、そしてそのための交渉能力を獲得します。また、自分たちの企画・構想の実現のためには、企業内での高いプレゼンテーション能力が求められます。どのようにすれば自分たちの想いを伝えることができるのか、スライドの作り方、提示資料の収集方法だけではなく、裏付けとなるデータの作成、声の出し方・視線の置き方などについても、実践的なトレーニングを行います。

留意点 企画遂行型 PBL の授業設計同様,企画の達成目標と事業プロセスの関係性を、学生にいかに理解させるかが大事です。学生たちは、種々のイベントの「実施」を目的と捉えがちですが、それぞれのイベントが、沿線活性化という大目標とどのように結びつくのか、それによってどのような人々の利用拡大を目指すのか等の本題を見失わないように支援する必要があります。基本的には,相手方企業への謝礼の支払い等は行わず、学生が創り上げる企画等を成果としてご協力いただくこととなります。実際に活動するのは学生たちですが、その環境整備は授業担当者の仕事です。協力者との意思疎通を図り、学生の行動が非礼に当らないよう、常に注意を払う必要があります。

○専門科目

授 業 名 プロジェクト実習ⅠB(平成25年度開講)

科目区分 人文学部・専門科目(根力育成プログラム)

開講形態 通年2単位(実習)

学習到達目標 民間企業の現場において求められる能力を体験的に獲得する。学生の企画・活動がそのまま当該企業の評価・売り上げにつながる厳しい環境に身を置くことで、対価を得て働くとはどういうことかを知るとともに、自らの思考力・行動力・創造力のレベルを知る。

科目概要 この授業(平成25年度)は、ひたちなか海浜鉄道の沿線活性化を題材とします。同社の課題に対し、学生が持つ知識、スキル、センス、行動力のすべてを結集して、企画・提案を行います。ひたちなか海浜鉄道の社員には、駅構内や営業等、人の目につくところで働く方ばかりではなく、日常的に路線や器具の点検、車両の整備を行う方もいます。まずは、同社を構成する多様なセクションの方々から話を聞き、実際に乗車し、沿線を歩いて、ひたちなか海浜鉄道への理解を深めます。その上で、克服課題の提示を受けて、プロジェクトチーム(小グループ)ごとに、企画・構想を進めます。夏季休業終了時点をめどに各チームのプレゼンテーションを経て、実際に実施する企画を取り上げ、後期はその実行までを実際に行っていきます。同社のみならず、沿線の企業やまちづくり NPO 等との連携を含めた活性化を、プロジェクトの到達目標とします。

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 根力プログラムが育成を目指す就業力は、座学の講義を聞くだけでは十分に修得されず、様々な活動の場における経験を積むことによって身についていくものです。そしてそれらの多くが、単位認定の対象にならない正課外活動として行われています。茨城大学では、常陸大宮市での地域づくり、「大洗支援隊」の活動、県北ジオパークでの活動の他、各種のボランティア活動や学外団体への参加、学生地域参画プロジェクト等、多様な学外学習が行われています。これらは就業力の育成にはとても大きな効果が見込まれますが、現時点では、根力構成要素と関連づけられていないため、それらの活動で修得した知識やスキルとの関係が明らかになっていません。学生にとっては、これらの活動が自らの学生生活のハイライトとなることが多く、さらにそれらの活動の中から自分の興味関心や職業意識とを一致させていく可能性

5 課外活動型PBL○教養科目

授 業 名 干しイモすい~つ開発プロジェクト

科目区分 教養科目(就業力育成ステップアップ系科目)・工学部開講

開講形態 2単位(講義・一部集中講義)

学習到達目標 民間企業の現場において求められる能力を体験的に獲得する。同時に、専門科目とは全く異なる視点が求められる題材に対して、どのようにアプローチし、いかにしてアイデアを実現していくか、思考を深める体験を通じて、就業力の育成を図る。

科目概要 この授業(平成25年度)は、干しイモを使った新しいスイーツの商品開発を題材とします。那珂湊の干しイモ業者から課題の提供を受け、学生のアイデアで新商品を開発します。那珂湊の現場に出向いて、実際の生産担当者から、干しイモの材料となるサツマイモの栽培、工場内での生産工程、商品開発や営業のセクションごとの苦労や工夫・改善等について説明を受けた後、残りの半分の講義を通じて、学生ならではの新商品の企画・提案を行います。 この授業は工学部開講の教養科目です。「ものづくり型授業」は、工学教育の中で普通に行われていますが、工学部の学生が、スイーツの商品開発を行う点が、教養科目としての意味を持ちます。①自分の専門と異なるテーマと向き合い、グループ学習を通じて最善解を見出していく問題提起型 PBL の要素と、②実際の企業での商品開発に携わる経験を通じて創造力や実行力を培う産学連携型 PBL の要素を併せ持つ授業として設計されています。

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4他大学のPBL先進事例紹介

 この項では、他大学の先進的な PBL の事例を紹介します。これから導入する際のとても良い参考になると思いますので、是非、ご参照ください。

「4つの力」スタートアップセミナー

 この科目は、大学で教育を受ける際に必要とされるスキルの獲得を目指す初年次教育ですが、15回の授業1つ1つが PBL として実施されている点が特徴的です。受講生向けの共通テキストが作られているばかりではなく、高等教育創造開発センターの3人の専任教員が、全学部分の27クラスを担当し、授業内容の均質化と高度化を図っています。その努力には脱帽するばかりです。

三重大学高等教育創造開発センターhttp://www.hedc.mie-u.ac.jp/resources-learning.html

教養ゼミ:ハーモナイゼーションPBL

 この教養ゼミでは、医療系学生混成の医療グループや人文社会系学生と理系学生の混成によるプロジェクトグループなど、「超領域」での討論を中心とした方法により、問題発見解決能力の中に「相手の立場

を秘めているにも関わらず、その活動成果と根力の関連性を理解することが困難であるがために、就職活動の際にも、単なる「学生時代の思い出」として主観的な感想を述べるに止まっています。 根力を構成する各種能力要素は、従来型の形式の授業、PBL を中心とした体験型授業、正課外の多様な学習活動の中で多層的に育成されていると考えられます。今後は、根力プログラムを特徴づけるものとして、正課外の学習活動の成果を PBL として位置づけ、それらの蓄積が根力の伸長に結び付いていくとの理解の下、積極的な展開を図っていくことが望まれます。

1 三重大学

2 広島大学

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問題発見・解決能力など、いわば学生の総合的人間力を養成することを目的としています。

同志社大学PBL推進支援センターhttp://pbs.doshisha.ac.jp/

PBLを基軸とする工学教育プログラム

 PBL の実施にあたり、「カリキュラム」だけではなく、「教育環境のトータルデザイン」を最も重要視した取組です。このため、PBL プログラムと空間デザインを有機的につなげたプロジェクトラボラトリが置かれ、様々な PBL が展開されています。

九州工業大学工学部PBL教育推進室http://www.mns.kyutech.ac.jp/~nakao-m/pbl/index.html

エリアキャンパスもがみ

 教養教育における現地体験型の PBL として、「フィールドワーク-共生の森もがみ」が開講されています。中山間地域にある8市町村を山形大学の「エリアキャンパス」と位置づけ、各自治体がコーディネートする授業が、年間20数科目開講され、述べ300人程度の学生が受講しています。過疎地域の暮らしを体験する中から、現在社会の問題点を見出すことを目的とした取組です。

山形大学エリアキャンパスもがみhttp://www.yamagata-u.ac.jp/gakumu/yam/

で理解する能力の育成」「専門外の考えを含め、まとめる能力の育成」と「新しい質の醸成」を目指しています。PBL の進行方法についてのDVD も作成されています。

広島大学教育室http://home.hiroshima-u.ac.jp/hipro/pbl.html

O/OCF-PBL(課題解決型コーオプ教育)

 この科目は、教育課題解決力実践課題について、企業からの提供を受けて行われるものですが、その教育効果評価システムが特徴的と言えます。授業開始時点で、適正科学研究センターの PC エゴグラムという評価指標を用いて自分の「身の丈」を知り、終了時点では、5段階のコンピテンシーレベルで評価を行います。客観的指標に基づき、就業力の伸長度合いを図ろうという点では、先駆的な取組と言えます。

京都産業大学「社会人基礎力」育成http://www.kyoto-su.ac.jp/path/career/neo/program.html

プロジェクト科目

 この科目は、地域企業から課題の提供を受け、学生が企画を遂行していくタイプの PBL として、全国大学の模範例となった取組です。地域社会や企業の方々に講師をお願いし、地域社会と企業がもつ「教育力」を大学の正規の教育課程の中に導入することによって、学生に生きた智恵や技術を学ばせるとともに、「現場に学ぶ」視点を育み、実践的な

3 京都産業大学

5 九州工業大学

6 山形大学

4 同志社大学

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茨城大学 根力育成プログラム

PBLハンドブック ―学生の主体的な学びの実現をめざして―©茨城大学 大学教育センター 2013

2013年 3月31日発行

編 者 茨城大学 大学教育センター

発行者 蜂 屋 大 八発行所 茨城大学 大学教育センター 〒310-8512 茨城県水戸市文京二丁目1番1号 TEL: 029-228-8414 FAX: 029-228-8498

印 刷 いばらき印刷株式会社

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参考・引用文献一覧

○ 稲垣忠・鈴木克明編著「教師のためのインストラクションデザイン 授業設計マニュアル」北大路書房、2011年

○ OECD編著、松田岳士訳「学習成果の認証と評価 働くための知識・スキル・能力の可視化」明石書店、2011年

○ 小方直幸「コンピテンシーは大学教育を変えるか」『高等教育研究』第4集、p.71-91、2001年

○ 経済産業省「社会人基礎力育成の手引き-日本の将来を託す若者を育てるために」学校法人河合塾、2010年

○ 佐藤純「コンピテンシー・ディクショナリー―各社事例にみる評価と活用―」財団法人社会経済生産性本部生産性労働情報センター、2003年

○ 佐藤浩章「大学教員のための授業方法とデザイン」玉川大学出版部、2010年

○ 初年次教育学会編「初年次教育の現状と未来」世界思想社、2013年

○ ドミニク・S・ライチェン、ローラ・H・サルガニク編著 立田慶裕監訳「キー・コンピテンシー 国際水準の学力をめざして」明石書店、2006年

○ 西村宣幸「ソーシャルスキルが身につくレクチャー&ワークシート」学事出版、2008年

○ 松下佳代編著「〈新しい能力〉は教育を変えるか 学力・リテラシー・コンピテンシー」ミネルヴァ書房、2010年

○ 三重大学高等教育創造開発センター「三重大学版 Problem-based Learningの手引き―多様な PBL授業の展開―」