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酸 化 反 応― シ ン ポ ジ ウ ム ―

 現在わが 国の重化学工業 は,石 油を原料 とす る化学工業に切 り換え られつつあ る。 その化学工業の中で酸化反

応に よって主要合成原料 を生産す るものは,特 にその中核であ り,こ の故に酸化反応に関す る研究の進歩 とそ の

工業 の躍進は,ま ことに驚 くべき ものがあ る。 しか し,こ の進歩 と躍進 が既存の種 々の酸化反応工業に立脚 して

い ることは否 めない であろ う。 この趨勢 にかんがみて,こ こに酸化反応のシ ンポジ ウムを企 図 した ところ,多 数

の総説 と研究報文 の投 稿を得,一 望 よ くその研 究 と工業の動 向を傭臓 し得 るにいた った。 ここに投稿 していただ

いた方 々に厚 く感謝 する とともに,本 シ ンポジ ウムを契機 としてわが国の酸化反応工業の ます ます進歩発展す る

ことを望んでや まないo

 なお,本 シソポジウムの企画編 集の労を とられ た松 田住雄,井 本英二両氏に感謝す る。

                           工 業化学 雑誌編集委員長  金   丸    饒

一一 総 説 ・一

酸 化 触 媒

多 羅 間 公 雄

肇  ま  え  が  き

  ある反応 に適 した触媒 を選択せ ん とする場合,従 来 より知 られ

ている多 くの経験的事実か ら,主 体 となる触媒は大体見 当がつ く

ものである◎ しか しその触媒が なぜ よいか,ま た どのよ うな機構

で触媒作用が発揮 され ているかがわか らなければ,そ の触媒 の活

性 を向上 させ,あ るいはよ り有効 に用い よ うとす る場合 に非常な

困難 に遭遇 する。本稿 では酸化反応 に有効 な触媒 を対象 として,

それが なぜ よいか といった問題を中心に して,触 媒選択 に参考 と

な る事項につい て述べ てみたい。

          2  均 一一系 酸 化 触 媒

 2・1触 媒 となる条件

 酸化還元反応 を広 く電 子移 行反応 と解釈すれば,電 子 を相手 に

供与 するものが還元 剤,電 子を受 容す るものが酸 化剤である。 そ

して これ ら酸 化剤,還 元 剤の強 さはその酸 化還 元電位を尺度 とし

て表 わされ る。 この酸 化還元電位 は酸化還元反 応に伴な う自由エ

ネルギー変化 を電位差 で表わ した ものであるか ら,そ の反応 の平

衡状態iを教えるものである。特 に標 準酸化還元電 位は標 準水 素電

極の電 位を基準 と した値で,た とえばAR-Aeな る酸 化 還 元 対

(AoはA蕊 の酸化状態を示す)の 標 準酸 化還 元電 位EOAは,水

素電極反応

        1!2H£ 一→H+十e一

の自由エ ネル ギー変化dFOHを 基 準 とした

        AR→Ae十e幽

な るhalf reactienの 自由エネル ギー変化dFoA

        ∠170A-dFeK

をvolt単 位で表わ した もので

* 京都大学工学部燃料化学教室:京都市左京区吉田.

        E④A-一(dF。A養"0蕊)

で与え られ る◎ ここにFは ファラデ ー23,060ca1/V,  eq.従 って

このEoAが 大 きいほ ど上 のhalf  reactionは 右 に進行 し, ARの

還 元力が強 く,Aoの 酸化力が弱い ことを示す。

 表1に 主なhalf  reactionの 標 準酸 化還元電位 を示 し て あ る

が,こ れ らはいず れ も水溶液 中の値であ る1)。

  すべての酸化還元反応は この よ うなhalf  reactionの 組 合せで

表 わ され る。た とえば

          AR十Bo=BK十Ao

        ここにBoはBRの 酸化状 態

なる反 応は

          AR→Ao十e-

          BR-一 レBo十e葡

な る二つのhalf  reactionの 組 合され たもので,こ の反 応の酸 化

還元電位は

            EO=EOA-EOB

で与え られ,EOA>EOBす なわ ちEO>0の ときはARの 還元力

が強 く,上 の反応は右に進行 し うることを示 す◎

  なお酸化還元電位に対す る温度,濃 度の影響はつ ぎの式で与 え

られ る。

          EA=E・A_`!lllt-1n.S1t'L・                F    a,' R

     ここにRは ボル ツマン定数,a、so, a, Rは それぞれAo,  AR

   の活量で,水 溶液の場合は1,0009の 水の中の当量(eq)数

   に活量係数 を乗 じた もの

  さて上 の

          Ao十BR→AR十B(}            (1)

なる反応系 にA。>Ko>Boの よ うec "AoとBoの 中間 の酸化力を

もつK④ あるいはその還元状態KRを 添加す る と

Page 2: (1) 675 酸化反応 - JST

676             工 業 化 学 雑 誌  第63巻 第5号(1960)            (2)

        Ao十KR-→Ko十AR            (2)

        Ko十BR→Bo十KR            (3)

な る両過程はいずれ も右に進行 し うる◎い ま各過程 の速度をそれ

表1  標 準酸化還 元電位(V)

  酸 化 還 元 対                 Ee

Li→Li+十e-                         3.045

K→K÷ 十e嘘                      2.925

Ba一 勢Ba2÷ 十2e輔                     2.90

Ca→Ca2÷ 十2e-                       2.87

Na→Na』 ←十e葡                                2畢714

Sc→Sc3寺 十3e-                        2。08

A1→A13+十3e轍                             L66

Ti→Ti2や 十・2e-                    1.63

M無 →Mn2や 十2e"                             1.18

V→V2舛2e讐                      !。18

Z並 →Zn2+十2e輯                        0.763

Cr→Cx3+十3e聯                       0.74

Fe→Fe掛 十2e轍                      0,440

Eu2+→Eu3季 十e轍                                 0.43

Cr2◇ →Cr3◇ 十〇備                      0.41

Ti2÷ →Ti3÷ 十e6                    0.37

Co→Ce2+十2e騨                        0.277

V2÷ →V3÷ 十e層                    0.255

Ni→Ni2÷ 十2e輔                   0.250

S20♂ 一→2SO~ 一十4H÷ 十2e-                0・22

Mo→Mo3や 十3e岬                              0.2

Pb-一 ・〉 Pb2÷ 十2e-                       0。126

HS204磐 十2 H20→2  H.SO3  十H+ "・2 e-          0.08

H2→2H夢 十2e響                     O

S並 含争→Sn4+十2  ePt                    -0。15

Cu← →Cu2+÷e鱒                      一〇.153

H2SO3十H黛O→SO~ 轍十4H◎ 十2げ            一〇.17

Ag(8)十Cr→AgC1十 げ               一〇.222

Cu→C穏2や 十2e繍                      一〇.337

V3÷ 十H20→VO2÷ 十2H◇ 十3e-            -e.361

S2032襯 十3HgO→2H2SO3十2  H+十4e嬬         一〇・40

Spes-十6H20→4H2SO3十4H+十2e"        -0,51

21-→12十2e縣                                  一〇.536

HA902十2H20→H3AsO4十2  H← 十2e-             -0.559

H202→02十2H÷ 十2er                            -(》`68

0H十H20→H202十H寺 十e-              -0.72

Np4輝2H20→NpO2÷ 十4H÷+e-          -e.75

Fe2÷ →FeS+十e響                    一 e. 771

2Hg→Hg22+→2e'一                             一〇。789

Ag→Ag寺 十e騨                    一〇.7991

Pd→Pd欝 十2 eww                        --0.987

VO2+→ ・3H.O→V(OH)4や 十2H+十e-          _tO

2Cr→4/2  lva→IC1ゴ 十e轍                一1.06

2Brゴ →Bf2÷2σ                    一LO652

1/212十3H20→103一 十6 H+→5e-               -1」95

M益2+十2H20→M豆02十4H÷ 十2e-            -1.23

Tl+→T13輝2e書                   一1.25

2 Cr3÷ →-7 H20-・ 》Cr2072-十14  H÷ 十6e鱒       一1.33

2C1-→C12÷2e-                      -L3595

Mn2← 十4H2◎ →MnO4昌 十8H← 十5e-            一一L51

Ce3+一 →Ce4斎 十e-                      -1.61

2HzaO→HaOa斗2H÷ 十2e鱒                   一4.77

Cu2や 十〕H20-i>C犠0← 十2Hや 十ゼ            (-L8)

Co2+→Co3や 十げ                      一一1,82

Ag"→Agza+→ ・e営                   一L98

2 SOa2""一 》S2082-"十2e轍                  一2.01

02+H,O→03+2H壷+2げ                一2.07

Ag 2+十H黛O→AgO牽 十2H"一 ・eww           (-2. 1)

2F榊 →F2十2e帥                                 一2,65

25。C,1at醗,1  mol(eq)濃 度を標準状態 とす る

の判定に役 く立つ こともあ る。

 2・2 酸化還元触媒 反応の機構 と触媒定数

  前掲の2,3な る反応過程においてVsの 方がv2よ りも 大 き

い ときは,反 応系でのK。 とKRの 濃度比[KR]ノ 【Ko]は 大 で,

KRが お もな触媒 として働 いてお り,こ の ときの反応速度vは 近

似的 に下式 で与 え られ,vは 被酸化物 の濃度[BR]に よって余 り

            v÷k2[KR■Ao]

          あ は過程(2)の 速度定数

影響を うけない(こ の よ うな反応機構をA機 構 とす る)。 そ して

触媒KRの 触媒定 数は 勉 にほぼ等 しい。

  逆に σ8〈v2の ときは[Ko]ノ[KR]が 大 で, K。 がお もな触媒 で

あ り,そ のときの速度は

            v÷k8[Ko] [BE]

で,速 度 が酸化剤Aeの 濃度 に支 配され ない(こ れ をB機 構 とす

る)。また触媒定 数は 島 で与え られ る。

  もちろん上例は極端に簡単な場合を示 した の で あ っ て,過 程

2,3が 同 じ程度の速度で進む場合には少 し複雑な速度式に なる。

反応機構が上例 よ り複雑 な場合 も,触 媒 の関与す る律速過程 だけ

を取 出せば,上 と同様に簡単化 して取扱 い うる。

  2・3 酸化還元触媒反応 例

  上述 の反応機構 による触媒反応例 を表2に 示 した◎

表2酸 化還元触媒反応例

それVl,v2,v3と し,v2,v3が ともにVlよ り大なる ときはK④

あるいはKRが 上 の反応 の触媒 とな りうるわけ である。

さて,こ れ ら各過程の反応速度の大小を判定す ることはなかな

か困難な ことであ って,実 験に頼 らなければ な らな い こ とが 多

い。 しか し酸,塩 基触媒反応におけ るBr6nstedの 触媒則の ごと

く,同 一種類の反応におい£(は平衡論的に起 り易い過程ほ ど,そ

の速度 も速い とい った少 し荒 っぽいが便利な経験 則が,こ の速度

騨B磁 酸化物A・ 酸化剤KR触 媒K。 機構速獄 文献

1CrS㌔V嚇$20s2-Ag+(Ag3㌔Ag2÷)A2)

Ce・・ 〃 〃 畷 簑綴;13)

20xalate〃Cu2+(Cus÷)A4)

Ag÷

3ビ ニル化合物の重合 〃Ag+(Ag2+)A5)

Cu2+6)

4Mn2÷03Ag+A7)

5鯉 鵬As3、Ce…CI(!Cl2一 高位酸化物)A8)

6As3+MnO"-halideA9)

7Brorr}ideα0べOs4+(Os8や)AlO)

8As3桑(le4+(Os4◇)(》sO4B11)

9Fu醜aricaeidMnOaf

MaleicacidCIO3ew(Os")OsO4B12)

反応例1,2,3で はいずれ もS2082一 に よる酸化反応をAg㌔

Cu2+等 が促進 するので あ って,そ の速度は被酸 化物 の濃度 に よ

っては影響 され ない。 すなわちA機 構 に属す る。

さてAg',Cu2÷ 等がなぜ良い触媒であ るかを考えてみ るに,

halfreaction2SO42-→S2082-十2e"のE。 は表1に あ るよ うに

一2 .01で あ るか ら,こ の反応の触媒のEOは これ より大 き くな

ければな らない◎ しか もA機 構で働 くためには触媒の酸化状態が

不安定,す なわち触媒の 迎 は小 さいはず である。そ こで両条件

を満足す るにはEOが 一2。01に 出来 るだけ近い触媒が適 してい

ることになる。Ag",Cu2+のE。 は それ ぞれ 一1・98,-L8で

この条件をみた して いる。

表2の 反応例8,9はB機 構 の例である。

液相 ばか りでな く気相で も同様 の機構で起 る酸化反応があ る。

た とえぽ

SO,_十11202→SO3∠ ゴF==-16.23kcal

な る反応 はNOを 加 える とつ ぎのよ うに進行す る。

NO十1/202-一 →NO2dF=・-8.15kcal

SO2十NO2-一 →NO十SO3∠F=-8.08kca1(4)

速度は(4)の 過程の方がおそ くB機 構に類す る◇

Page 3: (1) 675 酸化反応 - JST

(3)酸 化 触 媒:多 羅間697

過 酸 化 水 素 の分 解 反 応""3)2H202(aq)→2H20(1)十 〇2は 熱 力

学 的 に は 起 り うるが,触 媒 を 加 え な い と速 度 は 案 外 お そ い ◎ い ま

(1)H202→02十2H÷ 十2e-EeI=-O.68

(皿)2H20-→H202十2H÷ 十2e轍Eo∬=-1.77

な る両halfreacti◎nのEOの 間 のEOを もつ 酸 化 還 元 対(AR・-

Aの を 加 え る と

He.02十Ao→02十AR(5)

H黛02十AR-一 →H20十Ao(6)

な る過 程 を 経 て 分 解 が 起 る。 図1は この 反 応 に 関 係 の あ る酸 化 還

元 対 の 酸 性 域 で のEの 値 を プ ロ ッ トした もの で,そ れ が1,∬ 両

過 程 のEI,Ellに 対 応 す る実 線1,皿 の 間 に は さ まrれた 範 囲 内

に あ る もの は 過 酸 化 水 素 分 解 の 触 媒候 補 で あ る。

P"

図1H202分 解 に 関 係 の あ る 酸 化 還 元 対 のE

1.Cu→Cu2+十2eew8.2Cr3+十7H20→Cr2072『

2.Ag十Cl-→AgCl十e"一 十14H+十6eww

3.31-→13nt十2e響(21  →12十2eっ9.2Cl-→Cl2十2e帰

4.H3AsO3÷H2◎ →H3AsO410.Mn2U4H2(bMnO4-

十2Hや 十2e轍 十8H→ レ十5e-

5.Fe2÷ →Fe3+十e-11,Ce3+→Ce4"十e.

6.2Br-→Br2十2e-12.Co2÷ →C《》3+十e帽

7、1/21za十3H20→103-十6H+十5e"'

反応機構は必ず しも上 のよ うに簡単ではないが,こ の範囲 にあ

る酸化還元対3と5~11は いずれ も触媒作用を示す ことが知 られ

てい る。なか でも3(13"-1-一,12・-1-),6(Br2-Br-),9(Cl2-Cl備)は

ほぼ上述の機構で作用す るのであ って勘,過 程(5),(6)の 速

度定数の測定結果は表3の よ うで,EOが 大で平衡 的に 起 り易い

過程はその速度 も速い ことを示 して いる。 しか し過 程(6)の

EOが 余 り大であ ると過程(5)が 逆におそ くなるので全反応 の

触媒定数はかえ って小 さくな るよ うであ る。

5(Fき+-Fe3・),8(Cr2072-),MoW,Ww(VaとPt一 マ数字で示

したのはその陽イオ ンの化合物中でのイオ ン緬)等 は上 の機構 よ

りもむ しろOH基 生成過程 を含む連鎖機構 で過酸 化水素の分解 を

促進する とされ てい る◎

2・4誘 起 触 媒 作 用

3Mn2÷ 十Cr2072nt十2H+一 →2CrY十3MnO2十H20

な る反 応は このま までは進 まないが,こ の反応系 にイ ソプ ロピル

表3

HzaO2十2X曙 十2H+→X2十2H20

夢8海60[H202][X-1十ke[H202][H+][X-J

keeEee(活 性化工keE6(活 性化工 酸化還元電位の差X一 ネルギー)ネ ルギP・)

(250C)(kcal!mol)(25。C)(kcal1me1)E・=EOx-EOu

I-0.6913.410,410.41.23

Br'2.3×10,s21.11.4xlO-216.70.71

Cl-1.1x10-723.65.Ox10-s20.70.41

×2十H202→2X-十2H◇ ÷O驚

醜 機 雛 禦(keOゐβ十[H+])

ksE5(活 性化工k5e酸 化還元電位の差Xa'ネ ルギρ)

(25◎C)(kcal1m《 》1)(25。C)E醤Eo1-Eex

I26。5x10-10-1.18×10-20。14

Br21.8x10-216-O.38

Cl25x10-312-0。68

アル コールを加え ると

Cr翌[十(CHs)2・CHOH-→CrN十(CHs)2・CO十2H÷

Cry十Mn2+→CrS± 十MnS÷

2Mns÷ 十2H20-→Mn2+十MnO2十4H÷

の よ うな機構で,上 の反応を誘起 させ ることが 出来 る鍵)◎この場

合は誘起剤イ ソプ ロピルアル コールの酸化 消費され る量が多 いの

で,誘 起効果 の 目安で ある誘起係数(1.F.)

LF.=(還 元 剤の酸化量)1(誘 起剤 の酸化量)

は小であ る。 しか し誘起反応の生成物に よって主反応が連鎖的に

進行す るよ うな ときはLF.は 極め て大 とな り,た とえ誘起剤が

再生 されな くとも僅かの量で著 しく反応速度を増大す るので,こ

の種の誘起剤の作用を誘起触媒的 な作用をす ると称す る。

た とえば シュウ酸 と塩素 の反応系にFe2÷ を加え ると

Fe2÷十Cl2→Fe3+十C12一 開始反応

H2C204自H÷ 十HC20べ

1騨 認臨 馳 鴛+c20'一}連鎖反応

雛 誰=謎 蹴c窃}停 止反応の よ うな機構で反応が進み,連 鎖の長 さは100程 度で,Fe2+の

1.F.は 非常に大 きい。 もちろん誘起剤が再生 され る場合 は 真 の

誘起 触媒 であ る粉。

表2の 反応例3に 示 した ビニル化合物 の重 合 に お け るCu2÷,

Ag"等 の作用は この誘起触媒作 用の一 例である。 この重合反応は

S2092  に よるビニル化合物の酸化生成物が連鎖反応 を 開 始 する

のであ るが,触 媒 は主 として この開始反応 を促進 するのであって

重合反応 の誘導期間は著 しく短縮 され,重 合反応 自身 も速 くな る。

アク リロニ トリル の重合におけ る添加剤 の影響を調べた結果の一

例を表4に 示 した。 これ ら添加剤の うちには単 なる誘起剤に相当

す るものもある◎

また前述 の過酸化水素分解反応 も酸化反応 とか重合反応の誘起

に利用 され ることが多 く,た とえば過酸化水素 とFeSO4の 反応

に よ り,ビ 昌ル化合物の重合がつ ぎの よ うな機構で誘起 され る。

Fe2"が 誘起触媒であ る16)。

Fe2÷十H202-→HO十 〇H-十Fe3"

Fe2+十HO30H"一 十Fe3+

OH十CH2:CHR-一 →HOCH2CH

R

HOCII2CH十CH2:CHR-→vHOCH,CHCH2CH

RRR

Page 4: (1) 675 酸化反応 - JST

り や678主 業 化 李 雑 誌 第63巻 第5号(1960)(4)

表4ア ク リPtニ ト リル の 過 硫 酸 塩 に よ る 重 合

反応条件 水2009,ア ク リPtaト リル109,K2S20sO.49,

N2気 中30ec,反 応 時間誘導期 聞後1hr

添 加 量 反 応 後 の 誘 導 期 間 重 合 率添 加 剤(molノ 斑oD

K2S208pH(min)(%)

な し ・-4.5301,5

NaHS()31.03.2086.3

Na2S2040.26。3420.6

Na2SO30.024.1125。4

Thiogly¢ ⑥磁cacid1.02.4118.3

NH20H・HCI1.02.6333.6

N2H,・H2SOa1.02.4381.2

FeSO4・7H201.02.703.6

S戯C12・2H20(inHα)1.01。30◎6.8

Ti2(SO4)3(inH2SO4)1.02.009,6

CuC11.04.4017,6

AgNOs1.03.0079,6

CuSO.・5H201.04.1153.9

C犠(Znに よ り沈 殿)LO4.7320.9

Ag(Znに よ り沈 殿)1.05.41730.O

Fe(還 元)1.02.9169.4

Hydroquinone1.02.6329.4

CatecholO。23.293.4

R㏄orcino10.24.2291.6

Pyrogall《 》10.22.9923.1

PhyloglucinolO.23.8102.5

気相におけ るイ ソプ タンの酸化反応にHBrが 触媒作用をす る

が17),こ れ もやは り誘起触媒の一種であ る。

(CHs)8CH十Br自HBr十(CH3)3・C

(CH3)sC十 〇2→(CHs)sCOO

(CH3)sCOO十HBr→(CH3)s・COOH十Br

の よ うな機構で,過 酸化物,ヒ ドロ過酸化物が生成 し,こ れ らが

さらに連鎖的にイ ソプ タンの酸化を進め るのであ る。

液相におけ る炭化水素類の酸素酸化反応において も,Co,Mn

等の脂肪酸塩が よ く触媒 と して用い られ る18)。これ らの作用 もや

は り誘起触媒作用で,た とえば トルエ ン,キ シ レン等 の酸化にお

け るCo塩 の作用は,こ れ ら炭化水素の 自動酸化で生成 する比較

的安定な ヒ ドロ過酸化物ROOHが

ROOH十C◎2"→RO十Cos+十 〇H-(7)

ROOH十Cos+一 →ROO十Co2+十H+(8)

の よ うに分解 され,生 成 したRO,ROO等 が もとの炭化水素 に

作用 してその酸化を促進す ると考え られ る。

さてCo,Mnの 塩類が有効 な理 由を考 えるに,こ の反応が水

溶液中の反応でないので甚だ定性的な こと しかい えないが,Co2+

輔Co3÷十e- ,Mn2+→Mn3+十 ピ のEoは それ ぞれ 一1.82,-1。51

で,い ずれ もかな り小であ る。 これはCos+,Mn3÷ の酸化力が強

い ことを示す。そ こで過程(8)は 平衡的 にかな り右に偏 って お

り,そ の速度 も速いで あろ う。 また

RO十 〇H一→ROOH十e一

な るhalfreactionのEoは 正確 にはわか らないが おそ らくCo2+,

Mn2+のEOよ りは小 であ って,過 程(7)も 右 に進行 しうるの

であ ろ う。 もちろん反応系で の有機塩類の溶解度 とか,各 反応過

程 の平衡 とか,反 応速度がわか らなければCo塩,Mn塩 が何故

よいかを説 明す ることは出来ず,そ の上 これ ら触媒が単に誘起反

応過程ばか りでな く,連 鎖反応過程,停 止反応過程等に対 して も

影響を及ぼすので注意 しなければな らない。あ る場合には余 り触

媒を多 く用い ると全反応速度がかえ って遅 くな ることもあ る。

要す るに均一系の酸化触媒には一応本章で述べた条件を満足す

るよ うな ものを選び,反 応系のpHと か イオ ン強度 の調節,適 当

な溶媒・反 応件条等の選択に よってそれ らの活性を増進 し,有 効

に使用す ることを考えれば よいわけであ る◎

3固 体 酸 化 触 媒

3・1固 体触媒 と しての問題 点

固体触媒の活性を支配す る因子は極めて多い。 しか し少な くと

も反応体の一方が固体表面 と反応(不 可逆的な化学吸着)す るか,

可逆的な吸着を して活性化 され,反 応にあずか り,触 媒が再生 さ

れ る諸過程が,平 衡論的には もち ろん,速 度論的に も起 りうるこ

とが触媒 と しての資格を もつために必要な条件で あることは,均

一系 の場合 と同様であ る。ただ し触媒が固体 であるため の特性を

見落 してはな らない。た とえば過酸化水素 の水溶液 におけ る分解

で,溶 解 したAgイ オ ンは触媒作用 を示 さないが,固 体 のAgま

たはAgOが あ ると速かに分解が起 ることが知 られ ている19)。

この よ うな固体であ るための特性 と しては,ま ず イオンとか原

子が電子雲が重な る程度の距離で3次 元的な配列(結 晶状態)を

してい るために,イ オ ンとか原子の状態が均一系の場合 とは異な

ってい ることであ る。い ま一つの特性は界面す なわち表面を持つ

ことであ る。 この表面は触媒作用を考 える上 に最 も重要な場所で

あ るが,こ の表面の状態は固体 自体の性質ばか りで な く,外 部 の

雰 囲気に よって も影響を うけ るので,そ の取扱いはい っそ う困難

であ る。普通固体表面には不純物(吸 着ガ ス)が 存在 し,電 気二

重層を生 じて固体か ら自由空間に電子を1個 取 出す に要す るエネ

ルギ ー,仕 事関数に影響を与え ることは よく知 られてい る。 また

液相では特にかな り厚 い流動電気 二重 層が あ って,こ れが 固体表

面での触媒作用に大 きい影響を及ぼす ことも知 られ てい る。た と

えばAuゾ ル触媒に よる過酸化水素 の分解 にξおいて,ζ ポ テ ン

シァル と分解速度 との間に密接な関連があ り,電 気二重層が うす

いほ ど電子移行が起 りやすい結果がえ られて いる20)。

このほか固体触媒では主体 とな る触媒の活性を増進 した り,使

用 しやす くす るために担体,助 触媒等が加 え られ るほか,そ の製

法に も種 々工夫が施 こされ る。 この よ うな ことも均一系では なか

った問題であ る。

このよ うに固体触媒ではや っか いな問題点が多い のであ るが,

ここでは いちお う極 く初歩的 な段階 の問題 だけに注 目して,主 体

触媒の作用が どの程度理解 し,説 明づけ られ るかを述べ ることに

す る。

3・2酸 化還 元機 構による触媒 作用

固体触媒 の場合 も触媒 自身が酸化還元 され るこ とによって触媒

作用が発揮 され ているとす る,い わゆ る酸化還元機構が古 くか ら

考 え られ ている◎

亜硫酸 ガスの酸化 とか無水 フタル酸,無 水 マイ レン酸 の製造 の

触媒 と して広 く用い られてい る酸化 バ ナ ジ ウ ム(V205)の 作用

は,こ の酸化還元機構に よるとされてい る。V205はS窃 等被酸

化物1・cよって容易にV205・2V204あ るい はV20sの 状態 ま で 還

元 され,ま た これ ら低級酸化物は酸素に よってV205ま で酸化 さ

れ るのであ って,た とえばベ ンゼ ン蒸気に よるV205の 還元速 度

と,酸素に よるV20sの 酸 化速 度を測定 した結果の一部を示 したの

が図2で あ る21)。これ ら還元,酸 化過程 の律速段階は,還 元の場 合

は酸素イオ ンの,酸 化の場 合はバナジ ウムイオ ンの表面への拡散

であ って,表 面的には もっと速 かに還元,あ るいは酸化が起 って

定常 的な表面 状態を保 っているのであ る。 この表 面反応速 度は酸

素の同位 元素交換反 応を利 用する ことに よって調べ られ ている。

Page 5: (1) 675 酸化反応 - JST

(5)酸 化 触 媒:多 羅間679

述 べた ように固体表 面の反 応体 に対 す る反 応性(不 可逆 吸着能)

とか,可 逆 吸着 能が,触 媒 として働 らくか ど うかの判定 に役立つ

最 も重要 な因子であ る。

3・3固 体触媒 のガス吸着能

金属酸 化物 の ごときイオ ン結晶の表面においては ガス吸着にあ

ず か る結合 もイオ ン結合的な性 格が強いであろ う◎金属酸化物に

は表5に 示 した よ うに半導体に属す るものが多いので,電 子の授

受 を伴な う吸着が起 ると,酸 化物 の物性が変化す る◎そ こで ガス

吸着のための電気伝導度,熱 起電力,表 面電位,磁 気的性質等種 々

の物性の変化を調ぺ ることに よって逆に ガスの吸着状態を研究す

る ことが できる24>。

表5お もな金 属酸化物 の半導性

ム ノお みらノヒヒム ムノゆ もノ ざノ

図2酸 化 バナジウムの酸化還元 速度

さて図2か ら300。C以 上 の温度 ではベ ンゼ ン分圧PBよ りも酸

素分圧Poを かな り高 くしない とV205が どん どん還元 されて し

ま うこ とがわ か る。V205の 状 態を保ちつつ しか も十分速か に 酸

化還元 が くり返 えされ るにはPB/Poが0.4で は330"c前 後 の温度

が よいこ とになる。実際 には酸 素分圧 を もっ と大 に して,こ れ よ

り少 し高い温度 で反 応を行な ってい る。 この よ うにV205が 還元

されや すいのは結 晶構 造的23)にV205の 格子酸素 には結合 力の異

なるものが あ り,(001)面 に出ている格子酸 素は非常 に取れやす

いことが原 因のよ うである27)◎この ように結 晶構 造上の特異性 に

よって反応性 が左右 され ることは金属酸化物 ではかな り多いので

あって,金 属酸化物 の関与する過程 の反 応熱 とか反 応 自由エネル

ギー変化 な どによ って簡 単にその反応性 を表 わす ことが困難なの

もこの ような点 に理 由が あ るわ けである。 しか しこの よ うな特異

性 を別 に して,極 く定性 的に考 えれ ば,い わ ゆ る酸化還元機構 で

触媒 作用が 発揮 され るためには,そ の金属酸 化物の金属イオ ンが

電 子を授受 しや すい ことが必要であ る◎ この電子授受 の起 り易 さ

は電気伝 導の活性 化エネルギ ーとか,熱 起電力,吸 収 スペ ク トル

等諸物性の測定値か ら知 ることが 出来 るのであ るが,あ ま り広 く

測定値が得 られていない。そ こで金属イオ ンのイオ ン化 エネル ギ

ー1が 一つの 目安 とな る。(も ちろん金属酸化物中で のイオ ン化

エ ネルギ ーは,そ の誘電率 εで補正 した値を用 い るべ き で あ る

か※1,ε の測定例が 少ないので,気 相 におけ る1を そのま ま用

い る)。 い ま,種 々の金属 イオ ンの1を 調 べて み る と22)Ag→

Ag÷,Ag"→Ag2+が それ ぞれ7.57eV,21.48eVで,ま たCu

→Cu÷,Cu÷ →Cu2+が7。72eV,20.29eVで あ り,他 の ものに く

らべかな り小であ る。 したが ってAg20,Cu20はAg÷ または

Cバ を中心 と して酸化還元 されやすい ことがわか る。 エチ レン,

メタノール等 の酸化反応 の実用触媒 としてAg20,Cu20等 が用

い られ るが,こ れ らは上述 のよ うな理由で,比 較的低湿度で も酸

化還元機構 で触媒作用 を発揮 していると考 えられ る。

もちろん このよ うな酸化還元機構において も触媒全体が反応に

関与 してい るのでは な く,表 而的な範囲で,あ る定常状態が保た

れ なが ら反応 にあずか っているのであ るか ら,結 局本章の最初に

※1 普通高周波領域で測定されたεは10前後の値であり,結

品内でのイオン化エネルギーは気相中のIの約1 / 1 0 0程

度 で あ る 。 し か し T i o 2 の ε は 1 0 0 近 く で あ り , ま た

WO3で も76と ε がかな り大 きいので,こ のよ うなもの

では1を その まま用い ることは具 合が悪い。

半導性 金 属 酸 化 物

圃(金 属過剰型陰イナン欠除型)盤 醗 ㌶i(筑 為 細 認 濃8劉 甑

P型(金 属欠除型陰イオソ過剰型)瑠 転r認叢(£。・0・・C「・0・・FeO・MnO・Cu・0・

i型(イ オン伝導を含む)A1203,MgO,CaO,ThO2,CuO

この種 の実験 結果を総括 してみ ると水素,一 酸化炭素,亜 硫酸ガ

ス,炭 化水 素,ア ル コール等はいず れ も電子供 与体 として,正 に

帯電 して吸着 され る。一方酸素,亜 酸化窒素等は電子受容体 と し

て,負 に帯電 して吸着 され るよ うであ る。

さて これ らガ スが酸化物表面の どこに,ど の よ うな状態で吸着

され るかについては,近 年赤外吸収法 とか,核 磁気共鳴吸収法等

に よって 明らかに されつつあ る。

種 々の吸着実験結果か ら判断 して,電 子授受 を伴 な う吸着 の起

る場所を表6に 示 した よ うに仮定す るのが妥当 であ る。

表6ガ ス 吸 着 点

ガスの顯 義駕 綴畷 吸 着 点 吸 蔚 状 態

deRer{菜可叢畷 雛講1臨llll騰

一{縄{;難灘 総 騰 薩1;窮

た とえば水 素のご とき電子供与体がZnO(n型)に 吸着 す る

とき,可 逆的吸着 では格子Zn2÷ イオンが吸着点 とな り,吸 着 の

結果Zバ あ るいはZnが 増す。一一方,P型 のNioに 水素が可

逆的 な吸着を す る と き は,数 の少ない不純物(高 位金属 イオ ン

Ni3う が吸着点 とな り,吸 着に よって これが格子Ni2÷ に変わ る。

したが って,こ の場合は飽和吸着量が比較的少 ない。酸素 のよ う

な電子受容体 の吸着 の場合は,Nioで は格子金属 イオ ンが 吸 鶉

点 とな り,n型 のV20s,ZnO等 では陰 イオ ン欠陥(あ るいは格

子間金属原子)の ごと く数の少ない低位 の金属 イオンが吸着点に

な る。そ こで この場合はp型 の方が飽和吸着量が多いであ ろ う◇

このよ うに吸着点を定めれば,半 導体表面におけ る吸着において

帯構造的 に導かれた と同様 の結論が導かれ るばか りでな く,吸 着

点 とな る金属 イオ ンの電子状態 と,ガ ス吸着能 とを結びつけ るこ

とに よって,金 属酸化物 の種類 とガス吸薪能 との関連性を与え る

こ とが できる◎

もちろん複雑 な分子 の吸着では多点吸着 も起 るので,そ の場合

は吸着点 の幾何学的配列状態 も考慮 され なければ な らない◎

さて金属 イオ ンの電子状態 と吸雑能 の関連 につ い て は,D◎w-

denが 提案 したよ うに結舶場内での金属 イオ ンのd電 子軌道 の分

Page 6: (1) 675 酸化反応 - JST

働 圭 桑 花 牽 雑 註 鎗6き 悉 第5与 く1960)(6)

表7H2-D3交 換反応触媒活性順位

CesO4>Cr203>NiO>ZnO>V203>ChO>CuO>Fe203rsTiO2>V20

半導性PP→ 並pnnpi(無)n・ 簸nゴ電子数8~73~28~7102~310~995~60~10~1

裂状態 とこれ に対 するd電 子の充墳状況 とか ら,水 素の吸着には

4電 子数7個 あるいは3~4個 の金属イオ ンが有効 であ るとされ

ている。 そ してH2-D2交 換反応におけ る金属酸化物触媒の 活 性

順位が表7の よ うであるこ とを た くみ に説明 している25》。

3・4反 応 例

酸化触媒の活性を比較研究す るのに一酸化炭素 の酸化反 応が よ

く利用 され る◎

表8に 示 した よ うにこの反応 ではP型 半導性を示 す金属酸化物

が最 も低温度で活性を示 し,n型,i型 の順 に高温 でなければ活

性 を示 さない26)。

表8CO酸 化反応触媒活性順位

活性温度範囲 触 媒

常温一・8・・C{P型C◎Od電子数7~6〉 鵯 〉灘 〉聖 評 〉(翠2・〉讐 島

18・-4…c{n型CuO>Pb304d電子数9~1010〉 鷺2・>S?,O・>Z牙3>鴨 〉誰?・

seeec以 上{2..X棚0>A{乎 ・

前項で述べた よ うに酸素 のご とき電 子受 容体の吸 着 に はp型

のものが有利 で,触 媒表面 は酸化性雰 囲気にあ ると考え られ るか

ら,こ れ に被酸化物 である一酸 化炭索 が作用 して酸化 され る機構

で反応が進む もの と思われ る。p型 半導体触媒の中で も活性の よ

い触媒 の金属 イオ ンのd電 子数は7~9個 で あって,こ れは酸 素

吸着 に都合 のよい電子 数であろ う。

つ ぎにn型 半導体触媒ではむ しろ逆に被酸化物 と酸素 の競 走

・的吸着に よって,表 面 の雰囲気が,還 元的 にも酸 化的に もな りう

るが,還 元性雰囲気で働 らくときはP型 よ りもむ しろn型 の方

が有効であ り,そ の中で もd電 子数9~10の ものが 活性 である。

さて亜硫酸 ガ スの酸化反応 も,上 述 の一酸化炭 素酸化反応 と同

種 の反 応であ るか ら,酸 化性雰 囲気ではp型 半導体が有効 な触媒

であ り,中 で もCoO,Nio,Cu20等 が よい触媒 にな りうるはず

であるが,し か しこれ らp型 酸化物はいずれ も反応生成物 であ る

SO3と 安定 な硫酸塩 を生成 するので具合が悪い◎実用的には前項

で述べ たV205が 用い られ るほか,Tio2,Fe203も 高温において

触媒 と して使 える。 これ らはいずれ もn型 半導体であ って4電

子数はv205,TiO2と もにo~1個,Fe203は5~6個 であ り,こ

れは ガスの可逆吸着 にはむ しろ都 合の よくない電 子状態であ る。

しか しこれ ら金属酸化物の硫酸塩が比較 的不安定 で分解 しや すい

ことは,こ の電子状態 と関連があ るよ うである◎

さて最後に主触媒に対す る添加物,特 に助 触媒の作用につ いて

一 例をあげて簡単に説明 してお く。V205の ごと くn型 半導体 に

V5+よ りも高 イオ ン緬 の金属酸化物,た とえばMoO3を 少量 加え

ると原子価制御の原理に よって 簸 型性が増 し,逆 に より低 イオ

ン価の金属酸化物を加 えて 捻 型性が減少す ることが,物 性測定

に よ り確かめ られ るが,こ のよ うな添加物 を加 えたV205触 媒 の

酸 素,一 酸化炭素吸蔚能 とか一酸化炭 素の 酸化活性は,V205単

独触媒 よりはいず れの場合 もより活性であ った2η。 これは活性を

支配する因子 として表面の酸素欠陥(n型 性が増す と増加す る)

と,今 一 つ活性酸 素すなわち添 加物 のための結晶の乱れな どに よ

る活性化された格子酸素との二つの因子があり,前者は酸素の活

性化に,後 者は一酸化炭素の活性化にそれぞれ寄与するためと考

えられる。前者の表面酸素欠陥濃度は酸素吸着とそれに伴なう電

気伝導度等物性の変化とを測定することによって求めることがで

き,後 者の活性酸素量は酸素同位元素の交換速度とか,一 酸化炭

素の不可逆吸着量の測定によって知ることができる。

要するに固体触媒の作用が簡単な理論のみで解釈できないこと

は明らかであるが,結 晶場における金属イオンの電子状態がもっ

と研究され,こ れの反応性とが吸着能がある程度理論的に解明で

きるようになれば,固 体触媒の理論的研究はめざましい進歩をす

るであろう◎一 文 献 一一

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