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第 1 章 行列
1.1 行列の演算
1.1.1 行列
A 行列
右の表は,2つの店P,Qにおける 3種類の商品R,S,Tの単価を示したものである.この表から,数値だけを同じ並びのまま抜き出して,両側をかっこで囲んで,右のように書くことにする.
R S T
P店 80円 50円 60円Q店 90円 40円 70円
(80 50 60
90 40 70
)
このように,いくつかの数を長方形状に書き並べ,両側をかっこで囲んだものを行列といい,かっこの中のそれぞれの数を,この行列の成分という.
行列において,成分の横の並びを行といい,上から順に,第 1行,第 2行,· · · という.また,成分の縦の並びを列といい,左から順に,第 1列,第 2列,· · · という.
(
8 5 6
9 4 7
)← 第 1行← 第 2行
↑ ↑ ↑第 第 第1 2 3列 列 列
行数がm,列数が nの行列を,m行n列の行列またはm × n行列という.とくに,n× n行列をn次の正方行列という.
例 1.1
(8 5 6
9 4 7
)は,2行 3列の行列である.
(2 −6
0 8
)は,2× 2行列,すなわち 2次の正方行列である.
1
さくらの個別指導 (さくら教育研究所)
2 第 1章 行列
練習 1.1 次の行列は何行何列の行列か.また,正方行列はどれか.
(1)(
3 7 5)
(2)
2 4 −7
−3 5 0
1 6 9
(3)
(1
4
)
行列の中でも,(
3 7 5)のように行が 1行だけの行列を行ベクトル,
(1
4
)の
ように列が 1列だけの行列を列ベクトルということがある.
行列は大文字A,Bなどで表し,成分は小文字a,b,cなどで表すことが多い.また,成分については,第 i行と第 j列の交点にあたる成分を (i, j) 成分という.
A =
(a b
c d
)(1, 2)成分
練習 1.2 練習 1.1(2)の行列について,次の成分をいえ.
(1) (3, 2)成分 (2) (1, 3)成分 (3) (3, 3)成分
B 行列の相等
行列A,Bが,同じ行数,同じ列数をもつとき,AとBは同じ型であるという.また,AとBが同じ型の行列で,しかも対応する (i, j) 成分がすべて一致するとき,A
とBは等しいといい,A = B と書く.たとえば,2次の正方行列では,次のようになる.¶ ³
A =
(a b
c d
),B =
(p q
r s
)のとき
A = B ⇐⇒ a = p, b = q, c = r, d = sµ ´
練習 1.3 次の等式が成り立つとき,x,y,z,wの値を求めよ.
(1)
(4 −3
x 3y
)=
(2z w
−5 −6
)(2)
(2x + y
x− 3y
)=
(1
4
)
さくらの個別指導 (さくら教育研究所)
1.1. 行列の演算 3
1.1.2 行列の加法・減法と実数倍
A 行列の和と差
2つの行列A,Bは同じ型であるとする.このとき,A,Bの (i, j)成分の和を (i, j)
成分とする行列を,AとBの和といい,A + Bと書く.また,A,Bの (i, j)成分の差を (i, j)成分とする行列を,AとBの差といい,A − Bと書く.
[注意]型の異なる 2つの行列については,和,差を定義しない.
2次の正方行列では,和と差は次のようになる.行列の和と差¶ ³
(a b
c d
)+
(p q
r s
)=
(a + p b + q
c + r d + s
)
(a b
c d
)−
(p q
r s
)=
(a − p b − q
c − r d − s
)
µ ´
例 1.2 A =
(1 3
−2 5
),B =
(4 0
2 −1
)のとき
A + B =
(1 + 4 3 + 0
−2 + 2 5 + (−1)
)=
(5 3
0 4
)
A−B =
(1− 4 3− 0
−2− 2 5− (−1)
)=
(−3 3
−4 6
)
練習 1.4 次の計算をせよ.
(1)
(7 4
−3 1
)+
(−2 5
8 −1
)(2)
(2 9
−6 7
)−
(5 6
4 −2
)
(3)
(6 −5 2
0 4 −3
)+
(−4 3 −7
1 8 6
)(4)
(0
4
)−
(3
−1
)
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4 第 1章 行列
行列Aの各成分の符号を変えた数を成分とする行列を−Aで表す.2次の正方行列では,次のようになる.¶ ³
A =
(a b
c d
)について −A =
(−a −b
−c −d
)
µ ´
練習 1.5 次の行列Aについて,−AおよびA + (−A)を求めよ.
(1) A =
(2 −5
4 0
)(2) A =
(2
−1
)
成分がすべて 0である行列を零行列という.
たとえば,
(0 0
0 0
),
(0
0
),
(0 0
)などは,どれも零行列である.これらは,
同じ型ではないが,同じ文字Oで表すことにする.
B 加法についての性質
行列の和の定義より,行列の加法について,次のことが成り立つ.加法についての性質¶ ³
1 A + B =B + A 交換法則
2 (A + B) + C =A + (B + C) 結合法則
3 A + (−A)=O
4 A + O =A
µ ´2が成り立つので,この 3つの行列の和を A + B + C と書く.また,次のことが成り立つ.¶ ³
A + (−B) = A − B A − A = Oµ ´
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1.1. 行列の演算 5
練習 1.6 次の計算をせよ.
(1)
(1 3
2 4
)+
(−3 4
0 −2
)+
(5 −2
−4 3
)
(2)
(2 0
1 −3
)+
(4 −2
5 −1
)−
(3 −1
−6 2
)
C 行列の実数倍
kを実数とするとき,行列Aの各成分の k倍を成分とする行列を kA と書く.2次の正方行列では,次のようになる.行列の実数倍¶ ³
kを実数とするとき k
(a b
c d
)=
(ka kb
kc kd
)
µ ´
練習 1.7 A =
(2 −4
−3 6
)のとき,次の行列を求めよ.
(1) 2A (2)1
2A
(3) (−3)A (4) (−1)A
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6 第 1章 行列
行列の実数倍の定義から,次のことが成り立つ.¶ ³1A = A (−1)A = −A 0A = O kO = O
µ ´また,行列の実数倍について,次のことが成り立つ.実数倍についての性質¶ ³
k,lは実数とする.
1 k(lA) = (kl)A 2 (k + l)A = kA + lA
3 k(A + B) = kA + kB
µ ´前ページに示した行列の実数倍についての性質 1,2,3 が成り立つことを,2次
の正方行列で確かめてみよう.
練習 1.8 行列A =
(a b
c d
),B =
(p q
r s
)と k = 2,l = 3について,次の行列
を求めよ.
(1) k(lA), (kl)A
(2) (k + l)A, kA + lA
(3) k(A + B), kA + kB
行列A,Bなどを含む加法,減法,実数倍の計算については,これまで調べた性質から,ふつうの文字式の計算と同じように行うことができる.
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1.1. 行列の演算 7
例題 1.1 行列A =
(2 4
3 6
),B =
(−2 0
1 4
)に対して,次の等式を満たす行列
Xを求めよ.
2(A + X) = A + 3B
【解】2(A + X) = A + 3B から 2X = −A + 3B
よって X =1
2(−A + 3B)
=1
2
{(−2 −4
−3 −6
)+
(−6 0
3 12
)}
=1
2
(−8 −4
0 6
)
=
(−4 −2
0 3
)
練習 1.9 行列A =
(7 −1
3 2
),B =
(5 4
0 1
)に対して,次の等式を満たす行列
Xを求めよ.
(1) 2A + 3X = B (2) 3(A + X) = X + 2B
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8 第 1章 行列
1.1.3 行列の乗法
A 行列の積
一般に,行列
(a b
c d
)と列ベクトル
(x
y
)の積を次の式で定める.
¶ ³(
a b
c d
)(x
y
)=
(ax + by
cx + dy
)
µ ´1ページに示した 2つの店 P,Qで,商品
Rを 2個,商品 Sを 3個買うとき,P店,Q
店での合計代金は,それぞれ
80× 2 + 50× 3 = 310 (円)
90× 2 + 40× 3 = 300 (円)
(
a b
c d
)(x
y
)=
(ax + by
cx + dy
)
(a b
c d
)(x
y
)=
(ax + by
cx + dy
)
R S
P店 80円 50円Q店 90円 40円
である.上に定義した行列と列ベクトルの積を用いれば,これらの計算を,まとめて次のように書くことができるのである.
(80 50
90 40
)(2
3
)=
(310
300
)
例 1.3
(3 1
4 2
)(5
−6
)=
(3·5 + 1·(−6)
4·5 + 2·(−6)
)
=
(9
8
)
練習 1.10 次の積を計算せよ.
(1)
(1 5
4 6
)(2
3
)(2)
(3 1
0 −2
)(−1
4
)
(3)
(2 7
5 4
)(1
0
)(4)
(−1 4
5 −3
)(0
1
)
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1.1. 行列の演算 9
B 2次の正方行列
2次の正方行列の積を次の式で定める.¶ ³(
a b
c d
)(p q
r s
)=
(ap + br aq + bs
cp + dr cq + ds
)
µ ´(a b
c d
)(p q
r s
)=
(ap + br aq + bs
cp + dr cq + ds
)
(a b
c d
)(p q
r s
)=
(ap + br aq + bs
cp + dr cq + ds
)
例 1.4
(1 2
3 4
)(5 7
6 8
)=
(1·5 + 2·6 1·7 + 2·83·5 + 4·6 3·7 + 4·8
)=
(17 23
39 53
)
練習 1.11 次の積を計算せよ.
(1)
(1 0
2 3
)(6 5
7 4
)
(2)
(1 2
−3 4
)(3 −1
2 1
)
(3)
(3 0
0 3
)(2 1
4 −5
)
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10 第 1章 行列
C 一般の行列の積
Aが l ×m行列,Bがm× n行列のとき,積ABは,Aの第 i行とBの第 j列の成分を順に掛けて加えたものを (i, j)成分とする l× n行列であると定める.行列A
の列数と行列Bの行数が一致しない場合は,AとBの積を定めない.
例 1.5 (1)
1 2 3
4 5 6
7 8 9
x
y
z
=
x + 2y + 3z
4x + 5y + 6z
7x + 8y + 9z
(2)(
3 −4)( 5
2
)= 3·5 + (−4)·2 = 7
← 3× 3 行列と
3× 1 行列の
積は 3× 1 行列
← 1× 2 行列と
2× 1 行列の
積は 1× 1 行列
[注意](2)のように,1× 1行列はかっこを省略することが多い.
練習 1.12 次の積を計算せよ.
(1)
1 0
3 4
2 5
(−6 3
7 5
)
(2)(
2 3 5)
x
y
z
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1.1. 行列の演算 11
1.1.4 行列の乗法の性質
A 乗法の計算法則
行列の乗法について,次の計算法則が成り立つ.行列の乗法の計算法則¶ ³
1 (AB)C =A(BC) 結合法則
2 (A + B)C =AC + BC}分配法則
A(B + C)=AB + AC
3 (kA)B = A(kB) = k(AB) kは実数µ ´
1のことから 3つの行列A,B,Cの積をABCと書く.また,3が成り立つので,(kA)Bと k(AB)を区別せずに kABと書く.上の計算法則が成り立つことを,2次の正方行列で確かめてみよう.
練習 1.13 A =
(a b
c d
),B =
(p q
r s
),C =
(x y
z w
)と実数 k = 3 につい
て,次の行列を求めよ.
(1) (AB)C, A(BC)
(2) (A + B)C, AC + BC
(3) A(B + C), AB + AC
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12 第 1章 行列
(4) (kA)B, A(kB), k(AB)
B 積ABと積BAの違い
上で示したように,行列の乗法についても,数の場合と同様に結合法則,分配法則が成り立つ.数の乗法では,交換法則も成り立つ.では,行列の乗法でも交換法則が成り立つのだろうか.このことについて調べてみよう.
例 1.6 A =
(1 3
2 4
),B =
(2 −1
0 3
)について
AB =
(2 8
4 10
), BA =
(0 2
6 12
)
したがって,この行列A,Bについては,AB 6= BA である.
上の例 1.6からもわかるように,次のことがいえる.¶ ³正方行列の乗法では,交換法則は一般には成り立たない.
µ ´[注意]行列A,Bについて,AB = BA となる場合もある.このとき,AとBは
交換可能であるという.
練習 1.14 A =
(0 2
3 1
),B =
(1 2
3 x
)について,AとBが交換可能であるよ
うに,xの値を定めよ.
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1.1. 行列の演算 13
C 単位行列と零行列
2次の正方行列
(1 0
0 1
)を,2次の単位行列といい,Eで表す.
この単位行列Eと任意の 2次の正方行列A =
(a b
c d
)について
AE = EA = A
が成り立つ.
また,
1 0 0
0 1 0
0 0 1
を 3次の単位行列といい,これもEで表す.
練習 1.15 Eを 3次の単位行列,Bを任意の 3次の正方行列とするとき,次のことが成り立つことを確かめよ.
BE = EB = B
一般に,2次または 3次の正方行列において,次のことがいえる.¶ ³Aを任意の正方行列とし,Aと同じ次数の単位行列をE,零行列をOとすると
AE = EA = A AO = OA = Oµ ´上の性質から,行列のEとOは,数の世界の 1と 0に相当すると考えられる.
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14 第 1章 行列
数の乗法では,次の性質が成り立つ.
a 6= 0, b 6= 0 ならば ab 6= 0
ところが行列では,A 6= O,B 6= Oであっても,AB = O となることがある.具体的に示そう.
例 1.7 A =
(1 2
2 4
),B =
(2 −4
−1 2
)について AB =
(0 0
0 0
)= O
練習 1.16 A =
(2 4
1 2
),B =
(4 a
a b
)のとき,AB = O であるように,a,bの
値を求めよ.
D 行列の累乗
正方行列Aの積AAをA2と書き,AAAをA3と書く.一般に,正方行列Aの n個の積をAnと書く.
例 1.8 A =
(0 −1
1 0
)のとき
A2 =
(0 −1
1 0
)(0 −1
1 0
)=
(−1 0
0 −1
)
A3 = A2A =
(−1 0
0 −1
)(0 −1
1 0
)=
(0 1
−1 0
)
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1.1. 行列の演算 15
練習 1.17 例 1.8の行列Aについて,次の行列を求めよ.
(1) A4 (2) A5 (3) A6
練習 1.18 次の行列Aについて,A2,A3,A4を,それぞれ求めよ.
(1) A =
(0 −2
2 0
)
(2) A =
(1 0
0 2
)
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16 第 1章 行列
(3) A =
(a 0
0 b
)
例題 1.2 行列A =
(a b
0 1
)について,A2 =
(4 −3
0 1
)となるように,a,bの値
を定めよ.
【解】 A2 =
(a b
0 1
)(a b
0 1
)=
(a2 ab + b
0 1
)
よって
(a2 ab + b
0 1
)=
(4 −3
0 1
)
成分を比較して
{a2 = 4 · · · 1©ab + b = −3 · · · 2©
1©から a = ±2
a = 2 のとき 2©から b = −1
a = −2 のとき 2©から b = 3
(答) a = 2, b = −1 または a = −2, b = 3
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1.1. 行列の演算 17
練習 1.19 行列A =
(a 3
2 b
)について,A2 =
(7 0
0 7
)となるように,a,bの値
を定めよ.
練習 1.20 行列A =
(a 0
0 b
)について,A3 =
(1 0
0 8
)となるように,a,bの値
を定めよ.ただし,a,bは実数とする.
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18 第 1章 行列
E ハミルトン・ケーリーの定理
2次の正方行列について成り立つ興味深い等式を示そう.
応用例題 1.1 任意の 2次の正方行列A =
(a b
c d
)について,等式
A2 − (a + d)A + (ad− bc)E = O
が成り立つ.このことを証明せよ.¶ ³
考え方 左辺を直接計算してもよいが,ここでは変形した次の等式を証明してみる.
A2 + (ad− bc)E = (a + d)A
µ ´
[証明] A2 =
(a b
c d
)(a b
c d
)=
(a2 + bc ab + bd
ac + cd bc + d2
)
(ad− bc)E =
(ad− bc 0
0 ad− bc
)
であるから
A2 + (ad− bc)E =
(a(a + d) b(a + d)
c(a + d) d(a + d)
)
= (a + d)
(a b
c d
)
= (a + d)A
よって A2 − (a + d)A + (ad− bc)E = O [証終]
[注意]上で示した事柄を,ハミルトン・ケーリーの定理という.
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1.1. 行列の演算 19
練習 1.21 行列A =
(a b
c d
)について,次のことが成り立つことを,応用例題 1.1
の等式を用いて証明せよ.
(1) a + d = 0, ad− bc = 0 ならば A2 = O
(2) a + d = 0, ad− bc = −1 ならば A2 = E
1.1.5 補充問題
1 A =
(2 −3
1 4
),B =
(1 2
−2 3
),C =
(3 5
1 −2
)のとき,次の計算を
せよ.
(1) 2A− 3B + C (2) 2(A + B)− (B − 3C)
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20 第 1章 行列
2 次の積を計算せよ.
(1)
(4
3
)(−2 1
)(2)
(2 3
)( 1 −4
−2 3
)
3 2次の正方行列において,次の等式が成り立つかどうかを調べよ.
(1) (A + B)2 = A2 + 2AB + B2
(2) (A + E)2 = A2 + 2A + E ただし,Eは単位行列
【答】
1 (1)
(4 −7
9 −3
)(2)
(14 11
3 5
)
2 (1)
(−8 4
−6 3
)(2)
(−4 1
)
3 (1) 成り立たない (2) 成り立つ
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1.2. 行列の応用 21
1.2 行列の応用
1.2.1 逆行列
A 逆行列
行列において,数 aの逆数 a−1に相当する行列を考えてみよう.Aを 2次の正方行列,Eを 2次の単位行列とするとき,
AX = XA = E を満たす正方行列X が存在するならば,この X を Aの逆行列といい,A`1
で表す.この定義から,(A`1)`1 = A である.
¶ ³AA`1 = A`1A = E
µ ´
行列A =
(a b
c d
)の逆行列を求めてみよう.
ハミルトン・ケーリーの定理によると,次の等式が成り立つ.
(a + d)A− A2 = (ad− bc)E
よって,B = (a + d)E − A =
(d −b
−c a
)とおくと
AB = BA = (ad− bc)E · · · 1©
[1]ad− bc 6= 0 のとき1
ad− bcBがAの逆行列である.
[2]ad− bc = 0 のとき 1©より AB = O となる.
Aが逆行列をもつとすると,AB = O の両辺に左からA−1を掛けて
A−1AB = O すなわち B = O ← A−1AB=EB=B
よって,a = b = c = d = 0 となり,A = O である.
すると,任意の正方行列Xに対して AX 6= E となり,Aが逆行列をもつことに矛盾する.したがって,このときAは逆行列をもたない.
2次の正方行列の逆行列¶ ³
A =
(a b
c d
)について,∆ = ad− bc とおく.
∆ 6= 0 のとき,Aは逆行列をもち A`1 =1
∆
(d −b
−c a
)
∆ = 0 のとき,Aは逆行列をもたない.µ ´
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22 第 1章 行列
例 1.9 (1) A =
(2 1
4 3
)について ∆ = 2·3− 1·4 = 2 6= 0
よって,Aは逆行列をもち A−1 =1
2
(3 −1
−4 2
)
(2) B =
(2 1
6 3
)について ∆ = 2·3− 1·6 = 0
よって,Bは逆行列をもたない.
練習 1.22 次の行列は逆行列をもつか.もつ場合は,その逆行列を求めよ.
(1) A =
(2 2
3 4
)
(2) B =
(5 3
2 1
)
(3) C =
(−1 2
−2 4
)
さくらの個別指導 (さくら教育研究所)
1.2. 行列の応用 23
例題 1.3 行列
(a 3
1 a− 2
)が逆行列をもたないように,aの値を定めよ.
【解】行列が逆行列をもたないのは,∆ = 0 のときである.
∆ = a(a− 2)− 3·1 = a2 − 2a− 3 = (a + 1)(a− 3)
よって (a + 1)(a− 3) = 0
これを解いて a = −1, 3
練習 1.23 次の行列が逆行列をもたないように,aの値を定めよ.
(1)
(a 4
3 2
)(2)
(a 4
2 a + 2
)
B 等式AX = Bを満たすX
2次の正方行列A,Bに対して,等式 AX = B を満たす正方行列Xを求めよう.Aが逆行列をもつとき,AX = B の両辺に左からA−1を掛けると
A−1AX = A−1B
が成り立つ.左辺は
A−1AX = EX = X
となるから,次のことがいえる.¶ ³Aが逆行列をもつとき,等式 AX = B を満たす行列Xは
X = A`1Bµ ´[注意] Aが逆行列をもつとき,等式 Y A = B を満たす行列 Y は,等式の両辺に右
からA−1を掛けて,Y = BA−1 となる.
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24 第 1章 行列
例題 1.4 2つの行列A =
(3 1
7 2
),B =
(4 0
6 5
)について,等式 AX = B を満
たす行列Xを求めよ.
【解】Aについて ∆ = 3·2− 1·7 = −1 6= 0
よって,Aは逆行列をもち
A−1 =1
−1
(2 −1
−7 3
)=
(−2 1
7 −3
)
したがって,等式 AX = B を満たす行列Xは
X = A−1B =
(−2 1
7 −3
)(4 0
6 5
)=
(−2 5
10 −15
)
練習 1.24 2つの行列 A =
(2 1
3 2
),B =
(2 4
5 7
)について,等式 AX = B を
満たす行列Xを求めよ.また,等式 Y A = B を満たす行列 Y を求めよ.
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1.2. 行列の応用 25
1.2.2 連立1次方程式と行列
A 連立 1次方程式と行列
連立 1次方程式
{ax + by = p
cx + dy = q· · · 1©
は,行列を用いると,次の式で表される.(
a b
c d
)(x
y
)=
(p
q
)· · · 2©
2©で,A =
(a b
c d
),X =
(x
y
),P =
(p
q
)とおくと, 2©は
AX = P · · · 3©
と表される.この行列Aを,連立 1次方程式 1©の係数行列という.
練習 1.25 次の連立 1次方程式を行列を用いて表せ.
(1)
{2x + 3y = 4
5x + 4y = 3(2)
{x + 2y = −1
4x− 7y = 6
Aが逆行列をもつとき, 3©の両辺に左からA−1を掛けると,前ページと同様にして,X = A−1P が得られる.したがって,次のことが成り立つ.連立 1次方程式の解¶ ³
A =
(a b
c d
),X =
(x
y
),P =
(p
q
)とする.Aが逆行列をもつとき,
方程式 AX = P の解Xは X = A−1Pµ ´一般に,x,yの連立 1次方程式 1©がただ 1組の解をもつのは, 3©において,係数行列Aが逆行列をもつときに限られる.
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26 第 1章 行列
例題 1.5 行列を用いて,次の連立 1次方程式を解け.{5x + 2y = 8
3x + y = 6
【解】行列を用いて表すと
(5 2
3 1
)(x
y
)=
(8
6
)
係数行列
(5 2
3 1
)について ∆ = 5·1− 2·3 = −1 6= 0
ゆえに,係数行列は逆行列をもち
よって
(5 2
3 1
)−1
=1
−1
(1 −2
−3 5
)=
(−1 2
3 −5
)
(x
y
)=
(5 2
3 1
)−1(8
6
)=
(−1 2
3 −5
)(8
6
)=
(4
−6
)
したがって x = 4,y = −6
練習 1.26 行列を用いて,次の連立 1次方程式を解け.
(1)
{2x + y = 3
5x + 3y = 7
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1.2. 行列の応用 27
(2)
{3x + 7y = 10
x + 4y = 5
B 係数行列が逆行列をもたない場合
25ページにおいて, 3©の係数行列Aが逆行列をもたないときは,連立 1次方程式1©は解を無数にもつか解をもたないかのいずれかである.
例 1.10 解を無数にもつ連立 1次方程式{
2x + 3y = 1
4x + 6y = 2←
{2x + 3y = 12x + 3y = 1
係数行列
(2 3
4 6
)について,∆ = 2·6− 3·4 = 0 である.
よって,係数行列は逆行列をもたない.解は 2x + 3y = 1 を満たす x,yの組すべてであり,無数にある.
例 1.11 解をもたない連立 1次方程式{
2x− y = 1
4x− 2y = 3
係数行列
(2 −1
4 −2
)について,∆ = 2·(−2)− (−1)·4 = 0 である.
よって,係数行列は逆行列をもたない.2x− y = 1 のとき 4x− 2y = 2 6= 3 となるので,解はない.
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28 第 1章 行列
応用例題 1.2 連立 1次方程式
{3x + y = kx
2x + 4y = kyが x = 0,y = 0 以外にも解をもつ
ように,定数 kの値を定めよ.¶ ³
考え方 解を無数にもつことになる.x,yの項をすべて左辺に移項して,係数行列が逆行列をもたない条件を求める.
µ ´【解】与えられた連立 1次方程式は,次のように表される.
{(3− k)x + y = 0
2x + (4− k)y = 0すなわち
(3− k 1
2 4− k
)(x
y
)=
(0
0
)
この方程式が,x = 0,y = 0 以外の解をもつのは,係数行列が逆行列をもたないときである.
よって,∆ = 0 より (3− k)(4− k)− 1·2 = 0
整理すると k2 − 7k + 10 = 0 ← (k−2)(k−5)=0
これを解いて k = 2, 5
[注意]上の連立 1次方程式の解は,k = 2 のとき x + y = 0 を満たす x,yの組すべて,k = 5 のとき 2x− y = 0 を満たす x,yの組すべてである.
練習 1.27 連立 1次方程式
{2x + 2y = kx
5x− y = kyが,x = 0,y = 0 以外にも解をもつよ
うに,定数 kの値を定めよ.
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1.2. 行列の応用 29
1.2.3 点の移動と行列
A 点の対称移動と行列
座標平面上の点は,2つの実数の組 (x, y)で表される.ここでは,座標平面上の点の移動を行列で表現する方法を調べよう.
点 (x, y)を,x軸に関して対称移動し,移動後の座標を (x′, y′)で表すとき,{
x′ = x
y′ = −y
すなわち{
x′ = 1·x + 0·yy′ = 0·x + (−1)·y
という関係が成り立つ.
O
y
x
(x, y)
(x,−y)
この式を行列を用いて表すと,次のようになる.(
x′
y′
)=
(1 0
0 −1
)(x
y
)
練習 1.28 点 (x, y)を次のように対称移動する.移動後の点の座標を (x′, y′)で表すとき,点の座標の関係を上のように行列を用いて表せ.
(1) y軸に関して対称移動する.移動後の点の座標は (−x, y)
(2) 原点に関して対称移動する.移動後の点の座標は (−x,−y)
(3) 直線 y = x に関して対称移動する.移動後の点の座標は (y, x)
O
y
x
y = x
(y, x)
(x, y)(−x, y)
(−x,−y)
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30 第 1章 行列
B 1次変換
座標平面上の各点に対応して,同じ平面上の点がただ 1つ定まるとき,この対応を座標平面上の変換といい,点Pに対して点Qが定まるとき,点Qをこの変換による点 Pの像という.変換は記号 f,gなどを用いて表すことにする.
座標平面上の変換 f によって,点 P(x, y)が点Q(x′, y′)に移されるとする.これらの点の座標の関係が,a,b,c,dを定数として
{x′ = ax + by
y′ = cx + dy· · · 1©
という式で表されるとき,この変換 f を 1次変換という.
O
y
x
P(x, y)
f
Q(x′, y′)
1©を行列で表すと,(
x′
y′
)=
(a b
c d
)(x
y
)である.そこで,この 1次変換 fを,
行列
(a b
c d
)の表す 1次変換という.
x軸,y軸,原点,直線 y = x に関する対称移動は,どれも 1次変換である.これらを表す行列は,それぞれ次のようになる.
x軸 y軸 原 点 直線 y = x(
1 0
0 −1
) (−1 0
0 1
) (−1 0
0 −1
) (0 1
1 0
)
例 1.12 行列
(3 2
4 −5
)の表す 1次変換による点 (5, 1)の像は,
(3 2
4 −5
)(5
1
)=
(17
15
)より,点 (17, 15)である.
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1.2. 行列の応用 31
練習 1.29 次の行列の表す 1次変換による与えられた点の像を求めよ.
(1)
(2 4
3 1
),点 (1, 2) (2)
(−1 2
3 −4
),点 (4, 1)
(3)
(3 −2
6 −4
),点 (−3, 5) (4)
(1 0
0 1
),点 (3,−4)
練習 1.30 行列
(a b
c d
)の表す 1次変換について,次のことを確かめよ.
(1) 点 (1, 0)の像は,点 (a, c)である.
(2) 点 (0, 1)の像は,点 (b, d)である.
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32 第 1章 行列
C 1次変換の性質
単位行列
(1 0
0 1
)の表す 1次変換を,とくに恒等変換という.
恒等変換では,任意の点 Pの像は,点 P自身である.
また,任意の行列
(a b
c d
)について
(a b
c d
)(0
0
)=
(0
0
)
が成り立つ.よって,1次変換による原点(0, 0)の像は常に原点である.
例 1.13 点 (1, 0)の像が点 (2, 4),点 (0, 1)の像が点 (1, 5)であるような 1次
変換を表す行列Aを求める.
A =
(a b
c d
)とすると
(a b
c d
)(1
0
)=
(2
4
),
(a b
c d
)(0
1
)=
(1
5
)
よって a = 2, c = 4, b = 1, d = 5
したがって A =
(2 1
4 5
)
一般に,1次変換について次のことが成り立つ.¶ ³点 (1, 0)を点 (a, c)に,点 (0, 1)を点 (b, d)に移す 1次変換を表す行列は,(
a b
c d
)である.
µ ´
練習 1.31 点 (1, 0)を点 (−2, 3)に,点 (0, 1)を点 (1,−4)に移す 1次変換を表す行列を求めよ.
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1.2. 行列の応用 33
一般に,点 (p, r)を点 (a, c)に,点 (q, s)を点 (b, d)に移す 1次変換を表す行列
を Aとすると,A
(p
r
)=
(a
c
),A
(q
s
)=
(b
d
)が成り立つ.このことは,
A
(p q
r s
)=
(a b
c d
)が成り立つことと同じである.
例題 1.6 点 (2, 1)を点 (4,−2)に,点 (5, 3)を点 (7, 1)に移す 1次変換を表す行列Aを求めよ.
【解】条件から,次の等式が成り立つ.
A
(2 5
1 3
)=
(4 7
−2 1
)· · · 1©
行列
(2 5
1 3
)について ∆ = 2·3− 5·1 = 1 6= 0
よって,逆行列は
(2 5
1 3
)−1
=
(3 −5
−1 2
)
したがって, 1©より
A =
(4 7
−2 1
)(2 5
1 3
)−1
=
(4 7
−2 1
)(3 −5
−1 2
)=
(5 −6
−7 12
)
練習 1.32 点 (1, 0)を点 (2, 5)に,点 (3, 4)を点 (−6, 7)に移す 1次変換を表す行列Aを求めよ.
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34 第 1章 行列
応用例題 1.3 直線 y = 2x に関する対称移動 f は 1次変換である.このことを示し,f を表す行列を求めよ.¶ ³
考え方 2点 P,Qが直線 `に関して対称なとき,`は線分 PQの垂直二等分線であることを用いる.
µ ´【解】直線 y = 2x を `とし,`に関して点P(x, y)
と対称な点をQ(x′, y′)とする.直線 PQは `に垂直であり,また線分 PQの中点が `上にあるから
2·y′ − y
x′ − x= −1
y + y′
2= 2·x + x′
2
O
y
x
P(x, y)
Q(x′, y′)
` y = 2x
よって
{x′ + 2y′ = x + 2y
−2x′ + y′ = 2x− y
すなわち
(1 2
−2 1
)(x′
y′
)=
(1 2
2 −1
)(x
y
)
(1 2
−2 1
)−1
=1
5
(1 −2
2 1
)であるから
(x′
y′
)=
(1 2
−2 1
)−1(1 2
2 −1
)(x
y
)
=1
5
(1 −2
2 1
)(1 2
2 −1
)(x
y
)
=1
5
(−3 4
4 3
)(x
y
)
したがって,f は 1次変換で,求める行列は1
5
(−3 4
4 3
)
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1.2. 行列の応用 35
練習 1.33 直線 y = 3x に関する対称移動 f は 1次変換である.このことを示し,f
を表す行列を求めよ.
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36 第 1章 行列
1.2.4 合成変換と逆変換
合成変換
1次変換 f,gを表す行列を,それぞれA,Bとする.f によって点 P(x, y)が点Q(x′, y′)に移され,さらに gによって点Q(x′, y′)が点R(x′′, y′′)に移されるとすると
(x′
y′
)= A
(x
y
),
(x′′
y′′
)= B
(x′
y′
)
であるから,次のことが成り立つ.(
x′′
y′′
)= B
(A
(x
y
))= BA
(x
y
)
O
y
x
P(x, y)
Q(x′, y′)
R(x′′, y′′)
fg
g◦f
よって,行列BAは,点P(x, y)に点R(x′′, y′′)を対応させる 1次変換を表す.この変換を,f と gの合成変換といい,g‹f で表す.¶ ³
1次変換 f,gを表す行列を,それぞれA,Bとすると,合成変換 g◦f も 1次変換で,g◦f を表す行列はBAである.
µ ´
例 1.14 1次変換 f,gを表す行列を,それぞれA =
(2 1
3 0
),B =
(0 2
1 0
)
とするとき,合成変換 g◦f を表す行列は
BA =
(0 2
1 0
)(2 1
3 0
)=
(6 0
2 1
)
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1.2. 行列の応用 37
練習 1.34 1次変換f,gを表す行列を,それぞれ A =
(1 2
0 3
),B =
(−1 0
2 −3
)
とするとき,次の合成変換を表す行列を求めよ.
(1) g◦f
(2) f ◦g
(3) f ◦f
B 逆変換
1次変換 fによって,点P(x, y)が点Q(x′, y′)
に移されるとする.fを表す行列Aが逆行列A−1
をもてば,
A
(x
y
)=
(x′
y′
)から
(x
y
)= A−1
(x′
y′
)
が得られる.よって,行列A−1は,点Q(x′, y′)に点P(x, y)
を対応させる 1次変換を表す.この変換を f の逆変換といい,f`1で表す.
O
y
x
P(x, y)
Q(x′, y′)
f
f−1
¶ ³1次変換 f を表す行列をAとするとき,Aが逆行列をもてば,f の逆変換 f−1が存在する.f−1を表す行列はA−1である.
µ ´
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38 第 1章 行列
例題 1.7 1次変換 fを表す行列を A =
(3 1
2 1
)とするとき,fによって点Q(2, 4)
に移されるもとの点 Pの座標を求めよ.
【解】行列Aについて ∆ = 3·1− 1·2 = 1 6= 0
よって,Aは逆行列をもち A−1 =
(1 −1
−2 3
)
これが f の逆変換 f−1を表す行列である.
A−1
(2
4
)=
(1 −1
−2 3
)(2
4
)=
(−2
8
)
したがって,もとの点 Pの座標は (−2, 8)
練習 1.35 練習 1.34における 1次変換 f,gについて,次の問いに答えよ.
(1) f−1,g−1を表す行列を,それぞれ求めよ.
(2) f によって点Q(4,−1)に移されるもとの点 Pの座標を求めよ.
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1.2. 行列の応用 39
1.2.5 回転移動と1次変換
A 回転移動
座標平面上で,点P(x, y)を原点Oを中心として一定の角 θ 1だけ回転移動する変換を考えよう.点 Pの像を点Q(x′, y′)とする.OP = r とし,動径OPと x軸の正の向きをなす角を αとすると
x = r cos α, y = r sin α · · · 1©
が成り立つ.点Qの座標は
x′ = r cos(α + θ), y′ = r sin(α + θ)
O
y
x
θ r
αP(x, y)
Q(x′, y′)
である.三角関数の加法定理により
x′ = r(cos α cos θ − sin α sin θ)
y′ = r(sin α cos θ + cos α sin θ)
1©を代入すると,次の式が成り立つ.{
x′ = x cos θ − y sin θ
y′ = x sin θ + y cos θ
すなわち
(x′
y′
)=
(cos θ − sin θ
sin θ cos θ
)(x
y
)
したがって,次のことが成り立つ.原点Oの周りに角 θだけ回転する移動¶ ³
原点Oを中心とし,回転角が θの回転移動は 1次変換であり,
それを表す行列は
(cos θ − sin θ
sin θ cos θ
)である.
µ ´
1角 θは数学 IIで扱われている一般角とする.
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40 第 1章 行列
例題 1.8 原点の周りに 30◦だけ回転する 1次変換を表す行列Aを求めよ.また,この回転によって点 P(2, 4)が移る点Qの座標を求めよ.
【解】 A =
(cos 30◦ − sin 30◦
sin 30◦ cos 30◦
)=
√3
2−1
21
2
√3
2
=
1
2
( √3 −1
1√
3
)
また1
2
( √3 −1
1√
3
)(2
4
)=
( √3− 2
1 + 2√
3
)
よって,点Qの座標は (√
3− 2, 1 + 2√
3)
練習 1.36 原点の周りに 45◦だけ回転する 1次変換を表す行列Aを求めよ.また,この回転によって点 P(0, 2)が移る点Qの座標を求めよ.
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1.2. 行列の応用 41
B 回転移動と逆変換
原点の周りに角 θだけ回転する 1次変換 f に対して,逆変換 f−1は,原点の周りに角−θだけ回転する 1次変換である.よって,f−1を表す行列は
(cos(−θ) − sin(−θ)
sin(−θ) cos(−θ)
)
=
(cos θ sin θ
− sin θ cos θ
)
である.
O
y
x
−θ P
Q
f−1
[注意]
(cos θ − sin θ
sin θ cos θ
)−1
=
(cos θ sin θ
− sin θ cos θ
)である.
練習 1.37 原点の周りに 60◦だけ回転する 1次変換を fとするとき,逆変換 f−1を表す行列を求めよ.
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42 第 1章 行列
研究¶ ³
変換の合成の応用
原点を通り,x軸の正の向きとなす角がθである直線 `に関する対称移動を表す変換 hを考えてみよう.右の図のように,直線 `に関して点Pと対称な点をQとする.また,点P,Qを原点の周りに−θだけ回転した点を,それぞれP′,Q′とする.このとき,P′とQ′は x軸に関して対称である.よって,原点の周りに−θだけ回転する変換を f,x軸に関して対称移動する変換を gとすると,原点の周りに θだけ回転する変換はf−1であるから,変換hは
f−1◦(g◦f)
で表される.
O
y
x
P
Q
`
θ
O
y
x
Q′
P′
ゆえに,この変換 hは 1次変換であり,それを表す行列は(
cos θ − sin θ
sin θ cos θ
)(1 0
0 −1
)(cos θ sin θ
− sin θ cos θ
)
=
(cos θ sin θ
sin θ − cos θ
)(cos θ sin θ
− sin θ cos θ
)
=
(cos2 θ − sin2 θ 2 sin θ cos θ
2 sin θ cos θ sin2 θ − cos2 θ
)
となる.すなわち,
(cos 2θ sin 2θ
sin 2θ − cos 2θ
)である.
µ ´
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1.2. 行列の応用 43
1.2.6 補充問題
4 2次の正方行列A,Bがともに逆行列をもつとき,積ABも逆行列をもち,次の等式が成り立つことを証明せよ.
(AB)−1 = B−1A−1
5 1次変換 f,gを表す行列を,それぞれA =
(1 1
2 −1
),B =
(2 0
−3 1
)と
するとき,合成変換 f ◦gによる点 (2,−3)の像を求めよ.
6 点P(3, 1)と x軸に関して対称な点をQとし,Qを原点の周りに 150◦だけ回転した位置にある点をRとする.Rの座標を求めよ.
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44 第 1章 行列
【答】
4 [(AB)(B−1A−1) = E,(B−1A−1)(AB) = E を示す]
5 点 (−5, 17)
6
(1− 3
√3
2,
3 +√
3
2
)
1.3 章末問題
1.3.1 章末問題A
1 次の計算をせよ.
(1)
(3 4
5 8
)(3 −2
0 1
)+
(3 4
5 8
)(1 2
0 3
)
(2)
(1 2
−2 1
)(1 1
1 1
)(3 1
1 3
)
(3)
(cos θ sin θ
− sin θ cos θ
)(cos θ − sin θ
sin θ cos θ
)
(4)
(1 3
0 1
)4
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1.3. 章末問題 45
2 行列 A =
(3 −2
1 5
)が等式 A2 + xA + yE = O を満たすとき,x,yの値を
求めよ.ただし,Eは 2次の単位行列,Oは 2次の零行列とする.
3 2次の正方行列 A,B はともに逆行列をもち,A−1 =
(−1 3
2 −5
),B−1 =
(1 −3
−2 7
)であるという.行列A−1B−1およびABを求めよ.
4 A =
(0 2
−2 4
),E =
(1 0
0 1
)のとき,行列A− kEが逆行列をもたないよ
うに,実数 kの値を定めよ.
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46 第 1章 行列
5 点 (1, 2)を点 (7, 4)に,点 (2,−1)を点 (4, 3)に移す 1次変換を表す行列Aを求めよ.
6 A =
(3 a
b −a
)で表される 1次変換を f とする.合成変換 f ◦f を表す行列が
A自身であるとき,a,bの値を求めよ.
7 原点の周りに 30◦だけ回転して点 (2, 4)に移されるもとの点の座標を求めよ.
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1.3. 章末問題 47
1.3.2 章末問題B
8 2次の正方行列A,Bについて,A + B =
(3 −2
1 1
),A−B =
(1 2
1 3
)で
あるとき,A2 −B2を求めよ.
9 行列 A =
(x 3
−2 y
)が等式 A2 − 7A + 12E = O を満たすとき,x,yの値を
求めよ.ただし,Eは 2次の単位行列で,Oは 2次の零行列とする.
10 行列 A =
(x −1
3 y − 4
)の逆行列がA自身であるように,x,yの値を定めよ.
また,A3を求めよ.
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48 第 1章 行列
11 2次の正方行列において,次の命題は真であるか.真であるときは証明し,真でないときは反例をあげよ.ただし,Eは単位行列とする.
(1) Aが逆行列をもつとき,XA = Y A ならば,X = Y である.
(2) A2 − 2A + E = O ならば A = E である.
12 行列 A =1
2
(1 −√3√3 1
)の表す 1次変換を f とする.
(1) f はどのような 1次変換を表すか.
(2) 逆変換 f−1はどのような 1次変換を表すか.
(3) 合成変換 f ◦(f ◦f)はどのような 1次変換を表すか.また,A3を求めよ.
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1.3. 章末問題 49
ヒント¶ ³
8 関係式から,AとBを求める. 10 A−1 = A から A2 = E
12 f は原点の周りの回転移動を表す.39ページの行列を参照する.µ ´【答】
1 (1)
(12 16
20 32
)(2)
(12 12
−4 −4
)(3)
(1 0
0 1
)(4)
(1 12
0 1
)
2 x = −8,y = 17[
A2 + xA + yE =
(7 + 3x + y −16− 2x
8 + x 23 + 5x + y
)より
7 + 3x + y = 0,−16− 2x = 0,8 + x = 0,23 + 5x + y = 0
]
3 A−1B−1 =
(−7 24
12 −41
),AB =
(41 18
16 7
)
[後半は,まず行列A,Bを求める]
4 k = 2[A− kE =
(−k 2
−2 4− k
)について ∆ = −k(4− k)− 2(−2) = 0
]
5
(3 2
2 1
)
[求める行列をAとすると A
(1 2
2 −1
)=
(7 4
4 3
) ]
6 a = 2,b = −3
[A2 = A より 9 + ab = 3,3a− a2 = a,3b− ab = b,ab + a2 = −a ]
7 点 (√
3 + 2,−1 + 2√
3)[(cos(−30◦) − sin(−30◦)sin(−30◦) cos(−30◦)
)(2
4
)]
8
(3 0
4 3
)
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50 第 1章 行列
[2A =
(4 0
2 4
)から A =
(2 0
1 2
),
2B =
(2 −4
0 −2
)から B =
(1 −2
0 −1
) ]
9 x = 1,y = 6 または x = 6,y = 1[
A =
(x 3
−2 y
)を等式に代入して
x2 − 7x + 6 = 0,y2 − 7y + 6 = 0,x + y − 7 = 0 から]
10 x = 2,y = 2 または x = −2,y = 6,
A3 =
(2 −1
3 −2
)または A3 =
(−2 −1
3 2
)
[A−1 = A より A2 = E, A2 =
(x2 − 3 −x− y + 4
3x + 3y − 12 −3 + (y − 4)2
)]
11 (1) 真 (2) 真でない A =
(2 1
−1 0
)は反例
[(2) ハミルトン・ケーリーの定理を利用する.A =
(a b
c d
)について,
A2 − (a + d)A + (ad− bc)E = O が成り立つから,a + d = 2,ad− bc = 1 で
あればよい.]
12 (1) 原点の周りに 60◦だけ回転する 1次変換
(2) 原点の周りに−60◦だけ回転する 1次変換
(3) 原点に関して対称移動する 1次変換,A3 =
(−1 0
0 −1
)
[(1) A =
(cos 60◦ − sin 60◦
sin 60◦ cos 60◦
)(3) 60◦ × 3 = 180◦ より
]
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