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財政学13地方財政(1)日本の地方財政と政府間財政 201518日(金) 担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授) 1

1 第13回 地方財政(1)日本の地方財政と政府間財政 · 1961(昭和31)年6月 556 1,935 981 3,4722010(平成22)年4月 786 757 184 1,727 1962(昭和37)年10月

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Page 1: 1 第13回 地方財政(1)日本の地方財政と政府間財政 · 1961(昭和31)年6月 556 1,935 981 3,4722010(平成22)年4月 786 757 184 1,727 1962(昭和37)年10月

財政学Ⅱ 第13回 地方財政(1)日本の地方財政と政府間財政 2015年1月8日(金) 担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授)

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Page 2: 1 第13回 地方財政(1)日本の地方財政と政府間財政 · 1961(昭和31)年6月 556 1,935 981 3,4722010(平成22)年4月 786 757 184 1,727 1962(昭和37)年10月

地方制度のあり方(1)

連邦国家と単一国家 連邦国家では、連邦政府(国、中央政府)の下に州政府、さらにその下に地方政府(市町村など)が存在。

州政府は法律の制定など、国に相当する権限を有する。州政府が集まって連邦政府を構成したという歴史的経緯から、連邦政府と州政府は基本的に対等な存在。

アメリカでは、連邦政府は外交や防衛、貨幣発行など、州政府が担えない機能を担う。また、地方政府は州政府の「被造物」とされ、連邦政府が州政府を越えて地方政府に関与することは、基本的にあり得ないこととされる。

例:アメリカ、カナダ、ドイツ、ロシア、ブラジル、インド

単一国家では、中央政府の下に地方政府(都道府県、市町村など)が存在。

地方政府は中央政府の「代理人」という性格が強い。したがって、中央政府は地方政府よりも上位の存在とされる。

例:日本、韓国、イギリス、フランス

中央 - 地方関係を特徴づける概念(スライド2) 集権 - 分権:行財政の規模や権限が中央政府に集中していれば「集権」。地方政府に分散していれば「分権」。

分離 – 融合:中央政府と地方政府の行う仕事が明確に分かれていれば「分離」。地方政府が中央政府の仕事も担っていれば「融合」。

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集権 分権

分離

融合

地方制度のあり方(2)

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地方制度のあり方(3) 日本ではこれまで、国全体の仕事に占める地方政府の割合が大きいものの、実質的な権限や財源は中央政府に集中しており、さらに地方政府の仕事の多くは、中央政府から委託されたものだった。 そのため、日本は「集権 – 融合」型の国家とされる。

かつては都道府県の仕事の7~8割、市町村の仕事の3~4割を、中央政府から委託された仕事(機関委任事務)が占めていたとされる。

機関委任事務は2000年に廃止され、地方政府の事務は法定受託事務と自治事務とされる。

法定受託事務:中央政府が本来行うべきであるが、国民の利便性や事務処理の効率性の観点から地方政府が代わりに行う事務。

例:国政選挙、旅券の交付、国の指定統計、国道の管理

自治事務:法定受託事務以外の事務

例:都市計画の決定、土地改良区の設立認可、飲食店営業の許可、病院・薬局の開設許可

ただし、自治事務に国の関与が全くないというわけではない。

国全体の財源は中央政府に集中しているにもかかわらず、財政支出は地方政府の割合の方が大きく、地方に分散しているため、日本の財政は「集権的分散システム」とも呼ばれる。

「垂直的財政不均衡」の存在。そのギャップを埋めるのが、中央政府から地方政府への財政移転(地方交付税と国庫支出金)。

日本は単一国家であるにもかかわらず、一般政府支出に占める地方政府の割合が7割以上と、アメリカやドイツなどの連邦国家に匹敵する高い割合(スライド5)。

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地方制度のあり方(4) 5

出所:総務省資料

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日本の地方制度(1) 都道府県と市町村の二層制

現在、都道府県の数は47、市町村の数は1,718(市790、町745、村183)。

市町村数は、1888(明治21)年には約7万あったが、「明治の大合併」により翌年には約1.6万、「昭和の大合併」により1956(昭和31)年には約4,600となり、さらにその後「平成の大合併」を経て今日に至る(スライド7)。

特に、市の数が増加する一方で、町村の数は減少の一途をたどる。

都道府県知事と市町村長は公選制。

戦前の都道府県知事は、中央政府(内務省)から派遣された官僚。

東京都の特別区(23区)は、地方自治体として市町村に相当する行政事務を担当。区長も公選制。

そのため、市町村と特別区は合わせて「市区町村」と呼ばれることも。

指定都市に設置される区は、地方自治体としての機能を有しない行政区。

市には指定都市、中核市の制度が設けられており、道府県の事務の一部が移譲される。

指定都市:人口50万人以上の市の中から政令で指定。

中核市:人口20万以上の市の申出に基づき政令で指定。

かつては中核市の下に特例市が存在していたが、2015年4月に制度廃止。

地方制度や地方行財政にかかわる政策を担当する国の機関が総務省。

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7 日本の地方制度(2)

市町村数の変遷年月 市 町 村 計 年月 市 町 村 計

1888(明治21)年 - 71,314 1975(昭和50)年4月 643 1,974 640 3,2571889(明治22)年 39 15,859 1985(昭和50)年4月 651 2,001 601 3,2531922(大正11)年 91 1,242 10,982 12,315 1995(平成7)年4月 663 1,994 577 3,2341945(昭和20)年10月 205 1,797 8,518 10,520 1999(平成11)年4月 671 1,990 568 3,2291947(昭和22)年8月 210 1,784 8,511 10,505 2002(平成14)年4月 675 1,981 562 3,2181953(昭和28)年10月 286 1,966 7,616 9,868 2004(平成16)年5月 695 1,872 533 3,1001956(昭和31)年4月 495 1,870 2,303 4,668 2005(平成17)年4月 739 1,317 339 2,3951956(昭和31)年9月 498 1,903 1,574 3,975 2006(平成18)年3月 777 846 198 1,8211961(昭和31)年6月 556 1,935 981 3,472 2010(平成22)年4月 786 757 184 1,7271962(昭和37)年10月 558 1,982 913 3,453 2014(平成26)年4月 790 745 183 1,7181965(昭和40)年4月 560 2,005 827 3,392出所:総務省ホームページ

71,31415,820

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日本の政府間財政(1) 中央政府と州・地方政府の間の財政的な関係は「政府間財政」と呼ばれる。

国と地方の歳出額の比率は約4:6(スライド9)。 スライド5の図表よりも国の割合が高くなっているのは、社会保障基金を含むため。

国から地方に対して巨額の支出(スライド9)。 その大部分は地方交付税と国庫支出金。

国・地方を通じる純計歳出規模(目的別)(スライド10) 年金、防衛費等を除き、すべての政府支出に地方が関与。

地方の割合が特に高い歳出目的は、衛生費や学校教育費など、地域住民に身近な公共サービス。

国と地方の税収の比率は約6:4(スライド12)。 2004年度から06年度にかけて行われた「三位一体の改革」で国から地方への税源移譲が実施されたことにより、地方税の割合がやや上昇。

しかし、近年では再び国税の割合が上昇し、地方税の割合が低下。

歳出額の比率とちょうど反対。このギャップ(垂直的財政不均衡)を埋めるのが、地方交付税や国庫支出金などの政府間財政移転(スライド13)。

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日本の政府間財政(2) 9

(単位:億円,%)

実 額 指数 国 地 方 (B)-(D) (C)-(E) (F)+(G)(A) (B) (C) (D) (E) (F) (G) (H)

1935年度 167 - 22 21 3 0 19 - 21 - 40 - 47.5 52.5 11.4 12.6 24.01941年度 449 - 81 31 11 0 70 - 31 - 101 - 69.3 30.7 15.6 6.9 22.51961年度 201,708 100 21,645 23,911 10,279 381 11,366 100 23,530 100 34,896 100 32.6 67.4 5.6 11.7 17.32003年度 5,018,891 2,488 887,920 925,818 329,382 12,812 558,538 4,914 913,006 3,880 1,471,544 4,217 38.0 62.0 11.1 18.2 29.32004年度 5,027,608 2,493 916,446 912,479 317,488 12,987 598,958 5,270 899,492 3,823 1,498,450 4,294 40.0 60.0 11.9 17.9 29.82005年度 5,053,494 2,505 934,347 906,973 322,145 12,731 612,202 5,386 894,242 3,800 1,506,444 4,317 40.6 59.4 12.1 17.7 29.82006年度 5,091,063 2,524 909,468 892,106 310,705 12,749 598,763 5,268 879,357 3,737 1,478,120 4,236 40.5 59.5 11.8 17.3 29.02007年度 5,130,233 2,543 879,327 891,476 265,771 12,657 613,556 5,398 878,820 3,735 1,492,376 4,277 41.1 58.9 12.0 17.1 29.12008年度 4,895,201 2,427 902,859 896,915 283,130 11,854 619,729 5,452 885,061 3,761 1,504,790 4,312 41.2 58.8 12.7 18.1 30.72009年度 4,739,339 2,350 1,056,981 961,064 344,179 12,836 712,801 6,271 948,228 4,030 1,661,030 4,760 42.9 57.1 15.0 20.0 35.02010年度 4,802,325 2,381 1,001,107 947,750 339,511 8,507 661,596 5,821 939,243 3,992 1,600,839 4,587 41.3 58.7 13.8 19.6 33.32011年度 4,739,048 2,349 1,058,330 970,026 373,166 7,698 685,164 6,028 962,329 4,090 1,647,492 4,721 41.6 58.4 14.5 20.3 34.82012年度 4,744,749 2,352 1,044,969 964,186 362,159 9,308 682,810 6,007 954,877 4,058 1,637,687 4,693 41.7 58.3 14.4 20.1 34.52013年度 4,831,103 2,395 1,058,980 974,120 367,916 7,676 691,064 6,080 966,444 4,107 1,657,508 4,750 41.7 58.3 14.3 20.0 34.3

出所:総務省『平成27年版地方財政白書』

(G)/(A) (H) /(A)指数 指数 指数 (F)/(H) (G) /(H) (F) /(A)

歳  出  純  計  額 純 計 構成比

国内総生産(支出側)に対する割合国 地  方 合  計

地方財政と国の財政との累年比較

区 分

国内総生産(支出側)

歳出総額国から 地方に対する支

地方から国に対する支

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日本の政府間財政(3) 10

出所:総務省『平成27年版地方財政白書』

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11 日本の政府間財政(4) 国と地方の事務配分

公共資本 教育 福祉 その他高速自動車道 大学 社会保険 防衛国道(指定区間) 私学助成(大学) 医師等免許 外交一級河川 医薬品許可免許 通貨国道(その他) 高等学校・特殊教育学校 生活保護(町村の区域) 警察都道府県道 小・中学校教員の給与・人事 児童福祉 職業訓練一級河川(指定区間) 私学助成(幼~高) 保健所二級河川 公立大学(特定の県)港湾公営住宅市街化区域、調整区域決定都市計画等(用途地域、都市施設) 小・中学校 生活保護(市の区域) 戸籍市町村道 幼稚園 児童福祉 住民基本台帳準用河川 国民健康保険 消防港湾 介護保険公営住宅 上水道下水道 ごみ・し尿処理

保健所(特定の市)出所:神野直彦・小西砂千夫『日本の地方財政』14ページ。

分野

地方

都道府県

地方

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12 日本の政府間財政(5) 国税と地方税の収入状況 (単位:億円,%)

税収総額 国税 地方税(A) (B) (C)

2004 816,417 481,029 335,388 58.9 41.12005 870,949 522,905 348,044 60.0 40.02006 906,231 541,169 365,062 59.7 40.32007 929,226 526,558 402,668 56.7 43.32008 853,894 458,309 395,585 53.7 46.32009 754,262 402,433 351,830 53.4 46.62010 780,237 437,074 343,163 56.0 44.02011 793,468 451,754 341,714 56.9 43.12012 815,098 470,492 344,608 57.7 42.32013 866,016 512,274 353,743 59.2 40.8出所:総務省『平成27年版地方財政白書』より作成。

年度 (B)/(A) (C)/(A)

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日本の垂直的財政不均衡のイメージ

国債等 国 税 地方税 地方債等

国の歳出 地方の歳出

歳入

歳出

財政移転

国の歳入 地方の歳入

出所:真渕勝『行政学』332ページ。

日本の政府間財政(6)

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地方政府の歳出構造(1)

都道府県の歳出で最も大きな割合を占めるのが教育費(スライド15)。 都道府県が公立小中学校の教職員の人件費を負担していることなどによる。

そのため、都道府県の教育費の8割以上を人件費が占める。

市町村の歳出で最も大きな割合を占めるのが民生費(スライド15)。 市町村が児童福祉や老人福祉、生活保護等の社会福祉行政を担っているため。

都道府県と市町村を通じて大きな割合を占めているのは、総務費、民生費、土木費、教育費、公債費(スライド15)。

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地方政府の歳出構造(2) 15

都道府県・市町村の歳出決算額(目的別、2013年度) (単位:百万円,%)区分

議会費 76,326 0.2 359,527 0.7 434,384 0.4総務費 3,433,086 6.9 7,188,053 13.1 10,000,563 10.3民生費 7,521,816 15.0 18,827,557 34.3 23,463,324 24.1衛生費 1,735,412 3.5 4,426,168 8.1 5,988,543 6.1労働費 517,406 1.0 196,004 0.4 620,869 0.6農林水産業費 2,614,580 5.2 1,303,540 2.4 3,500,949 3.6商工費 4,088,633 8.2 1,878,682 3.4 5,915,650 6.1土木費 5,643,727 11.3 6,685,899 12.2 12,125,221 12.4消防費 218,582 0.4 1,856,025 3.4 1,993,060 2.0警察費 3,096,514 6.2 - - 3,096,404 3.2教育費 10,598,294 21.2 5,577,048 10.2 16,087,778 16.5災害復旧費 584,152 1.2 372,710 0.7 882,365 0.9公債費 7,149,837 14.3 6,028,530 11.0 13,127,133 13.5その他 2,774,815 5.5 160,406 0.3 175,785 0.2

合計 50,053,180 100.0 54,860,151 100.0 97,412,028 100.0出所:総務省『平成27年版地方財政白書』より作成。

市町村 純計額都道府県