44
解析力学 講義ノート 1 2003 4 24 ( ) 1 作用原理とラグランジュ方程式 づくラグランジュ う。ニュートン ベクトルに対する あるため、 をしているが、 、他 いる が変わってしまう。ラグランジュ に依ら るため、 に依ら る。 1.1 作用原理 するに あるが、 を、 らか されている にそった さを いた ある。 する q i (i =1, ··· ,N ) 一般化座標 いう。N 。一 に対する運 める ある。 ために 題を えてみよう。 [ ] t = t 0 q i (t 0 )= q 0 i した 体が、 t 1 q i (t 1 )= q 1 i した。 t 0 t t 1 ってゆくか? に対する ある。 作用原理 t = t 0 q 0 i t 1 q 1 i する S [q (t)] t 1 t 0 L(q(t), ˙ q (t),t)dt (1) るよう る。S [q (t)] ラグランジアン L(q(t), ˙ q (t),t) q 1 . ··· ,q N 、そ (一 ˙ q 1 , ··· , ˙ q N および t しておく。そ ある C : q i (t)(i = 1, ··· ,N ) める まる。こ ように める まる う。 を変える するが、 体が し変 させて が変わら いよう ある する 1 1 ハミルトン また れるこ ある。 1

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解析力学 講義ノート12003年 4月 24日 (東島)

1 作用原理とラグランジュ方程式この章では作用原理に基づくラグランジュ方程式の導出を行う。ニュートンの方程式

はベクトルに対する方程式であるため、直角座標系では簡単な形をしているが、極座標や回転座標系など、他の座標を用いると形が変わってしまう。ラグランジュ形式では座標系に依らない作用積分を出発点にとるため、座標の取り方に依らない定式化が可能となる。

1.1 作用原理

物体の位置を指定するには、直線運動ならば直角座標が便利であるが、回転運動ならば回転角度を、滑らかな曲線上に拘束されている場合には曲線にそった長さを用いた方が便利である。物体の位置を指定するのに必要な座標 qi (i = 1, · · · , N)を一般化座標という。N を力学的自由度の数と呼ぶ。一般化座標に対する運動方程式の形を求めるのがこの節の目標である。そのために次の問題を考えてみよう。

[ 問 ] 時刻 t = t0に qi(t0) = q0i を出発した物体が、時刻 t1に qi(t1) = q1

i に到着した。途中の時刻 t0 ≤ t ≤ t1ではどんな経路を通ってゆくか?

この問に対する答が次の作用原理である。

作用原理� ✏時刻 t = t0に q0

i を出発し時刻 t1に q1i に到着する物体は、途中、

S[q(t)] ≡∫ t1

t0

L(q(t), q(t), t)dt (1)

が停留値をとるような経路を通る。S[q(t)]を作用(積分)と呼ぶ。✒ ✑ラグランジアンL(q(t), q(t), t)は一般化座標q1. · · · , qN、その時間微分(一般化速度)q1, · · · , qN、および時間 tの関数としておく。その時間積分である作用は物体の経路 C : qi(t) (i =

1, · · · , N)を定めると値が定まる。このように関数を定めると値が決まる量を汎関数という。経路を変えると作用も変化するが、作用原理は、物体が実際に通るのは、経路を少し変化させても作用が変わらないような経路であると主張する1。

1作用原理はハミルトンの原理または変分原理と呼ばれることもある。

1

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まずこの作用原理からラグランジュの運動方程式を導く。経路C : qi(t)を物体が実際に通る経路だと仮定しておく。この経路を少し変化させた経路をC ′ : q′i(t)とすると、q′i(t)は経路 qi(t)とわずか違うだけなので

q′i(t) = qi(t) + δqi(t) (2)

と書くと δqi(t)は微少量である。δqi(t)のように、同じ時刻で実際の軌道からの仮想的に考えたズレを仮想変位という。2つの経路C, C ′とも、同じ点を出発して同じ点に到着するので、両端では

δqi(t0) = 0, δqi(t1) = 0 (3)

を満たしている。

二つの経路に沿って積分した作用積分の変化は

δS ≡ S[C ′] − S[C]

=

∫ t1

t0

{L(q(t) + δq(t), q(t) + δq(t), t) − L(q(t), q(t), t)} dt

=

∫ t1

t0

∑i

(∂L

∂qi

δqi(t) +∂L

∂qi

δqi(t)

)dt (4)

ここで仮想変位 δqi(t)は同じ時刻における2つの軌道の差を表しているので、時間微分と順序を交換することができる、すなわち

δqi(t) = q′i(t) − qi(t)

=d

dt(qi(t) + δqi(t)) − d

dtqi(t)

=d

dtδqi(t). (5)

2

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式 (5)を (4)に代入して部分積分を行えば

δS =

∫ t1

t0

∑i

(∂L

∂qiδqi(t) +

∂L

∂qi

d

dtδqi(t)

)dt

=

∫ t1

t0

∑i

{∂L

∂qiδqi(t) +

d

dt

(∂L

∂qiδqi(t)

)−(

d

dt

∂L

∂qi

)δqi(t)

}dt

=

[∑i

∂L

∂qiδqi(t)

]t1

t0

+

∫ t1

t0

∑i

{∂L

∂qi− d

dt

∂L

∂qi

}δqi(t)dt (6)

となるが、出発点と終着点は固定しているので式 (3)を代入して、次の式を得る

δS =

∫ t1

t0

∑i

{∂L

∂qi

− d

dt

∂L

∂qi

}δqi(t)dt. (7)

作用原理はどんな変化 δqi(t)に対しても作用積分が停留値をとる、すなわち δS = 0を要求しているので、δqi(t)の係数は零でなければならない。従って、

ラグランジュの運動方程式� ✏作用原理に依れば物体が実際に通る軌道は微分方程式

d

dt

∂L

∂qi

− ∂L

∂qi

= 0 (i = 1, · · · , N) (8)

を満たさなければならない。これをラグランジュの運動方程式という。✒ ✑

1.2 ラグランジアン

前節において、作用原理から物体が実際に通る軌道はラグランジュの方程式を満たすことを示したが、ラグランジアンL(q(t), q(t), t)を与えていなかった。この節ではラグランジアンの形を決める。運動方程式が全ての座標系で同じであるためには、ラグランジアンは座標系に依らな

い量すなわちスカラー量でなければならない。例えば、ベクトルの成分は見る座標系に依るが、ベクトルの長さはどんな座標系から見ても変わらないスカラー量である。ラグランジアンの形を決めるために、ニュートンの運動方程式の形が簡単になる直角座標系で、ラグランジュの運動方程式とニュートンの運動方程式が一致するように、ラグランジアンを定める。物体の座標をベクトル r = (x, y, z)で表すと、ポテンシャルエネルギーU(r)の中で運動する質量mの粒子に対するニュートンの運動方程式は

md2r

dt2= −∇U(r) (9)

となる。運動エネルギー

T (r) =1

2m

(dr

dt

)2

=1

2m(x2 + y2 + z2

)(10)

3

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を用いると、ニュートンの方程式 (11)は

d

dt

∂T

∂x= −∂U

∂x,

d

dt

∂T

∂y= −∂U

∂y,

d

dt

∂T

∂z= −∂U

∂z(11)

と書き換えることができる。一般化座標を q1 = x, q2 = y, q3 = zとすれば、これを

d

dt

(∂T

∂qi

)= −∂U

∂qi(i = 1, 2, 3) (12)

と書くことができる。従って、直角座標系においてはラグランジアンを

L(r, r) = T (r) − U(r) (13)

と選べば、ラグランジュの運動方程式 (8)はニュートンの運動方程式 (11)に一致する。運動エネルギー T (r)もポテンシャルエネルギー U(r)も座標系に依らないスカラー量なので、ラグランジアンを (13)に選んでおけば、ラグランジュの運動方程式 (8)は任意の座標系で成り立つ。ラグランジュ形式では、物体の位置を一意的に表すことができるならば、一般化座標としてどんな変数を用いても良い。

ラグランジアン� ✏ラグランジアンはスカラー量なので、ラグランジアンの中で自由に変数変換を行って良い。一般化座標で表した運動エネルギーとポテンシャルエネルギーをT (qi, qi), U(qi)

とすると、ラグランジアンは

L(q, q, t) = T (q, q, t) − U(q, t) (14)

で与えられる。✒ ✑直角座標では運動エネルギーは qiに依らないが、極座標などの曲線座標系では一般化座標に依存する。また、一般に質量やバネ定数などラグランジアンに入っているパラメーターが時間に依っていても構わない2。

[ 例 ] 2次元の極座標平面上の位置ベクトル r = (x, y) = xex + yeyを極座標 r, φで表すと、x = r cosφ, y =

r sin φより、r = r(cosφ, sinφ) = rerと書くことができる。erと独立な基本ベクトル eφ

∂φer = (− sinφ, cosφ) = eφ (15)

で定義する。r, φをわずかに変化させたときの位置ベクトル rの変化は

dr =

(dr

∂r+ dφ

∂φ

)(rer) = drer + rdφ

∂φer = drer + rdφeφ (16)

となる。2このような場合、ラグランジアンは時間に陽に依存するという。

4

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右図を見れば er方向の微少線分の長さが dr、eφ方向の微少な弧の長さが rdφなることは明らかであろう。従って、速度 v = dr

dtは

v = rer + rφeφ (17)

で与えられる。er · er = eφ · eφ = 1および er · eφ = 0を用いると、運動エネルギーは

T (r, r, φ) =m

2v2 =

m

2(r2 + r2φ2) (18)

となる。従って、ポテンシャルエネルギーを U(r, φ)とすると極座標を用いたときのラグランジアンは

L(r, φ, r, φ) =m

2(r2 + r2φ2) − U(r, φ) (19)

で与えられる。これより

∂L

∂r= mr,

∂L

∂r= mrφ2

∂L

∂φ= mr2φ,

∂L

∂φ= −∂U

∂φ

が得られるので、r, φに対するラグランジュの運動方程式は

m(r − rφ2

)= −∂U

∂r(20)

d

dt

(mr2φ

)= −∂U

∂φ(21)

となる。中心力の場合にはポテンシャルエネルギー U(r)が角度 φに依らないので、式(21)の右辺は零になり、角運動量が保存される。

角運動量保存則� ✏中心力の場合、角運動量

pφ ≡ mr2φ (22)

は時間に依らない保存量である。✒ ✑

5

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解析力学 講義ノート 22003年 5月 8日 (東島)

1.3 対称性と保存則

一般に、ラグランジアンが一般化座標 qiに依らないときには、ラグランジュの運動方程式より

pi ≡ ∂L

∂qi(1)

が時間に依らない保存量であることが分かる。(1)を一般化運動量と呼ぶ。ラグランジアンに現れない一般化座標のことを、角度変数との類推からサイクリック座標という。一般に、サイクリック座標が有れば保存則が存在する。この節では、これを更に一般化して、ラグランジアンが連続的な変換に対し不変なら

ば保存則が存在することを示す。ネーターの定理� ✏

無限小変換

qi(t) −→ q′i(t) = qi(t) + εfi(q, t) (2)

に対しラグランジアンが不変ならば

I =∑

i

∂L(q, q, t)

∂qi(t)fi(q, t) (3)

は保存量である。✒ ✑ここで、εは無限小のパラメーターである。δqi(t) = εfi(q, t)とおいて、ラグランジアンの変化を求めると

δL(q, q, t) = L(q(t) + δq(t), q(t) + δq(t), t) − L(q(t), q(t), t)

=∑

i

(∂L

∂qiδqi(t) +

∂L

∂qiδqi(t)

)

ここで、同じ時刻における変化を考えているので、変分 δと時間微分が交換できることを使うと

δL(q, q, t) =∑

i

(∂L

∂qiδqi(t) +

∂L

∂qi

d

dtδqi(t)

)

=∑

i

d

dt

(∂L

∂qiδqi(t)

)+∑

i

(∂L

∂qi− d

dt

∂L

∂qi

)δqi(t) (4)

1

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ラグランジュの運動方程式を用いると第2項は消える。一方、ラグランジアンが無限小変換 (2)のもとで不変だと仮定しているので、左辺は δL = 0である。従って、(4)より

dI

dt= 0, ここに I =

∑i

∂L

∂qifi

が示される。

[ 例 1 ] 運動量保存則n個の粒子が互いに力を及ぼし合っている系を考える。ポレンシャルエネルギーは2粒子の位置の差だけで決まるとする。それぞれの粒子の位置ベクトルを ri, (i = 1, · · · , n)とすれば、この系のラグランジアンは

L(ri, ri) =

n∑i=1

1

2mir

2i −

∑i>j

U(ri − rj) (5)

原点をどこにとってもよいので、全粒子を一斉に x, y, z3つの方向へ平行移動

ri −→ r′i = ri + ε (6)

してもラグランジアンは不変である。従って、ネーターの定理により系の全運動量

P =n∑

i=1

∂L

∂ri

=n∑

i=1

miri (7)

は時間に依らない保存量である。このように、運動量保存則は空間が一様でどこにも特別な点が無いことの帰結である。

[ 例 2 ] 角運動量保存則中心力ポテンシャルの中にある粒子の運動は

L(r, r) =1

2mr2 − U(r) (8)

で記述される。ここで、ポテンシャルエネルギー U(r)は、中心からの距離 r = |r|だけの関数で方向には依らないとする。この時、単位ベクトルnの方向を向いた回転軸の周りに微少角度 ε回転してもラグランジアンは変わらない。位置ベクトル rの変化は ε = εnとすると

δr = ε × r (9)

となるので、ネーターの定理により

∂L

∂r· (ε × r) = ε ·

(r × ∂L

∂r

)

が保存される。εの係数を �とおくと、3つの角運動量の成分が保存される。

d�

dt= 0, ただし � = r × ∂L

∂r= r × p (10)

2

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このように、角運動量保存則は空間が等方的で特別な方向が無いことに起因している。

[ 例 3 ] エネルギー保存則ラグランジアンが陽に時間に依らないときには、時間の原点をどこにとっても良い。時刻 t = εを新たに時刻 t′ = 0と定めると

t −→ t′ = t − ε (11)

新しい時間を用いて表した座標 q′iを

q′i(t′) = qi(t) (12)

で定義し、時間が同じ値を持つときの座標を比べる

qi(t) −→ q′i(t) = qi(t + ε) = qi(t) + δqi(t), ここに δqi(t) = εqi(t). (13)

同じ時刻における変化を考えているので、変分 δと時間微分は交換することができる。これまでと異なり、この変換ではラグランジアン自身も同じように変化する

L(t) −→ L′(t) = L(t + ε) = L(t) + δL(t), ここに δL(t) = εdL(t)

dt. (14)

一方、一般化座標が (13)の変換を受けることに依るラグランジアンの変化は、ネーターの定理の証明で行った変形 (4)がそのまま使えるので、運動方程式を使った後

δL(q, q) = L(q′(t), q′(t)) − L(q(t), q(t))

=∑

i

d

dt

(∂L

∂qi

δqi(t)

)(15)

となる。二つの式 (14)(15)を比べて

dE

dt= 0, ここに E =

∑i

∂L

∂qiqi − L (16)

を得る1。ラグランジアンが

L(r, r) =1

2mr2 − U(r) (17)

の時には

E =1

2mr2 + U(r) (18)

となり、保存則 (16)はエネルギー保存則を表していることがわかる。このように、エネルギー保存則は時間の一様性に起因している。ラグランジアンが時間に陽による場合には、時間の一様性は破れるのでエネルギー保存則はなりたたない。

1E を時間で微分しラグランジュの運動方程式を用いれば、直接エネルギー保存則を導くことができる

3

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解析力学 講義ノート 32003年 5月 15日 (東島)

1.4 拘束条件がある場合のラグランジュ方程式

この節では、テーブルの上に置かれた物体やジェットコースターの運動など、滑らかな曲面や曲線上に拘束された運動を取り扱う。すなわち、ラグランジアンに現れる一般化座標 qi, (i = 1, · · · , N)が独立ではなく、q1, · · · , qN の間に k個の拘束条件

f�(q1, · · · , qN , t) = 0, (� = 1, · · · , k) (1)

が存在する場合を考える。この場合にも、作用原理より式 (7)は同じようにして導くことができる。しかし、N 個の δqiが独立でないために、ラグランジュの運動方程式 (8)を導くことはできない。この場合2種類の有用な方法がある。

消去法 拘束条件 (eqn:constraints)を従属変数について解いて独立変数で表し、ラグランジアンに代入すればラグランジアンは独立変数だけで表されるので、独立変数に対するラグランジュの方程式が得られる。

ラグランジュの未定乗数法(Lagrange Multiplier Method)拘束条件を用いて従属変数を消去できない場合や、消去すると著しく複雑になる場合に用いられる。

[ 消去法の簡単な例 ]

長さ �の棒の先に質量mの物体をつなぎ、一方の端を固定する。この物体は垂直平面内を運動させる。固定軸からの距離をr、垂直下方から測った物体の角度をφとすれば、ラグランジアンは (??)で与えられる。固定軸からの距離が一定という拘束条件 r = �をラグランジアンに代入し、ポテンシャルエネルギーU(r, φ) = mg�(1−cos φ)

を用いると

L(φ, φ) =m

2�2φ2 − mg�(1 − cosφ). (2)

このようにラグランジュ形式では、ラグランジアンの中で変数変換を行ったり、拘束条件を代入したりして、問題を解くのに便利な座標を用いることができる。

g�

[ ラグランジュの未定乗数法 ]

拘束条件より、時間を動かさない仮想変位 δqiは k個の条件を満たさなければならない

N∑i=1

A�iδqi(t) = 0,

(ただし A�i ≡ ∂f�

∂qi

). (3)

1

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この拘束条件に tの関数 λ�(t)を掛けて tについて積分し �について和をとると

∫ t1

t0

N∑i=1

k∑�=1

λ�(t)A�i(q, t)δqi(t)dt = 0. (4)

この式を作用原理から導いた式 (7)に加えると

∫ t1

t0

N∑i=1

{∂L

∂qi− d

dt

∂L

∂qi+

k∑�=1

λ�(t)A�i(q, t)

}δqi(t)dt = 0 (5)

が得られる。δqi(t) (i = 1, · · · , N)のうち独立なのはN −k個である。λ�(t) (� = 1, · · · , k)

は全く任意なので、i = 1, · · · , kについては

∂L

∂qi− d

dt

∂L

∂qi+

k∑�=1

λ�(t)A�i(q, t) = 0, (i = 1, · · · , k) (6)

が成り立つように λ�(t) (� = 1, · · · , k)を選ぶ。λ�(t) (� = 1, · · · , k)をこのように選ぶと、式 (5)は

∫ t1

t0

N∑i=k+1

{∂L

∂qi− d

dt

∂L

∂qi+

k∑�=1

λ�(t)A�i(q, t)

}δqi(t)dt = 0 (7)

となるが、N − k個の δqk+1, · · · , δqN は独立なので、この式の δqi, (i = k + 1, · · · , N)の係数は零でなければならない

∂L

∂qi− d

dt

∂L

∂qi+

k∑�=1

λ�(t)A�i(q, t) = 0, (i = k + 1, · · · , N) (8)

従って、すべての i = 1, · · · , N に対してこの式が成り立つことになる。

ラグランジュの未定乗数法� �N 個の運動方程式

d

dt

∂L

∂qi− ∂L

∂qi=

k∑�=1

λ�(t)A�i(q, t), (i = 1, · · · , N) (9)

と k個の拘束条件 (1)

f�(q1, · · · , qN , t) = 0, (� = 1, · · · , k)

を連立して解き、N 個の qi(t) (i = 1, · · · , N)と k個の λ�(t) (� = 1, · · · , k)を求める。� �式 (9)の右辺に現れた項

k∑�=1

λ�(t)A�i(q, t) (10)

2

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は、曲面もしくは曲線上に拘束しておくために必要な力(抗力)と解釈することができる。一般には微分形 (3)でしか表すことのできない拘束条件も存在し、ラグランジュの未定

乗数法を適用することができるが、以上の議論では積分して (1)の形に表すことのできる拘束条件に限定した。このように、一般化座標の間の関係式として表すことのできる拘束条件はホロノミックな拘束条件と呼ばれる。ホロノミックな拘束条件の場合には、ラグランジアンに拘束条件に比例する項を付け加えた新たなラグランジアン

L′ = L +

k∑�=1

λ�f�(q, t) (11)

を定義することができる。N 個の qi(t) (i = 1, · · · , N)と k個の λ�(t) (� = 1, · · · , k)を独立変数としてラグランジュの運動方程式を求めると、qiに対する運動方程式 (9)と拘束条件 (1)を得ることができる。

3

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解析力学 講義ノート42003年 5月 22日 (東島)

2 ハミルトン形式

2.1 ハミルトンの正準方程式

Lagrange方程式は自由度の数をN とする時、N 個の一般化座標 qi(t) (i = 1 · · ·N)に対する2階の微分方程式である。Hamiltonの正準方程式は一般化座標 qi(t)及び正準運動量 pi(t)に対する 2N 個の一階微分方程式である。Lagrangian L(q, q, t)は qiと qi の関数であったが、qiと piを独立変数として取り扱うために、次の(ルジャンドル)変換を行いハミルトニアン (Hamiltonian)を定義する。

ハミルトニアン� ✏

H(q, p, t) =

N∑i=1

piqi − L(q, q, t) (1)

ここで、ハミルトニアンは qiと piで表さなければならない。✒ ✑2N 個の変数の qiと piを正準座標と呼ぶ。qiは一般化運動量の定義式

pi ≡ ∂L

∂qi(2)

を qiについて逆に解き消去しておく。Lagrange方程式を用いると

dL(q, q, t) =∑

i

(∂L

∂qidqi +

∂L

∂qidqi

)+

∂L

∂tdt =

∑i

(pidqi + pidqi) +∂L

∂tdt

となることに注意すれば、ハミルトニアンの微分は次のようになる。

dH(q, p, t) =N∑

i=1

(dpiqi + pidqi − ∂L

∂qi

dqi − ∂L

∂qi

dqi

)− ∂L

∂tdt

=∑

i

(qidpi − pidqi) − ∂L

∂tdt (3)

上の式をハミルトニアンの微分の定義

dH(q, p, t) =

N∑i=1

(∂H

∂qidqi +

∂H

∂pidpi

)+

∂H(q, p, t)

∂tdt (4)

と較べるとハミルトンの正準方程式が得られる。

1

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ハミルトンの正準方程式� ✏

dqi

dt=

∂H(q, p, t)

∂pi

,

dpi

dt= −∂H(q, p, t)

∂qi

(5)

✒ ✑ラグランジアンが時間に陽に依存する場合には

dH(q, p, t)

dt=∑

i

(qipi − piqi) − ∂L(q, q, t)

∂t= −∂L(q, q, t)

∂t(6)

となる。すなわち、ラグランジアンが陽に時間に依らなければ、ハミルトニアンは時間に依らない保存量である1。このように、ハミルトンの正準方程式には、正準変数 qi(t), pi(t)がほぼ対等な形で入っ

ている。2N 次元の空間 (q1, · · · , qN , p1, · · ·pN)を相空間 (phase space)と呼ぶ。これに対し、ラグランジュ方程式で取り扱うN 次元の空間 (q1, · · · , qN)を配位空間 (configuration

space)と呼ぶ。配位空間の一点 qi (i = 1, · · · , N)を定めても、速度が決まらないので運動は一意的に定まらない。これに対し、相空間の一点 qi, pi, (i = 1, · · · , N)を選ぶと、既に位置と速度が決まっているので運動は一意的に定まる。すなわち、相空間の点は運動の状態と一対一に対応しており、このため相空間は配位空間より勝っている。

[ 例 ] 調和振動子安定な平衡点の周りでの線形近似は調和振動子になるので重要である。調和振動子のラグランジアンは

L(q, q) =1

2mq2 − 1

2mω2q2 (7)

である。正準運動量は

p =∂L(q, q)

∂q= mq (8)

で与えられるので、ハミルトニアン (1)は

H(q, p) = pq − L(q, q) =p2

2m+

1

2mω2q2 (9)

ここで、(8)を用いて qを消去した。ハミルトンの正準方程式 (5)は

q(t) =p

m, (10)

p(t) = −mω2q (11)

この2式から p(t)を消去して q(t)に関する2階常微分方程式を導くと、

mq = −mω2q (12)

となり、ラグランジュ方程式と一致する。初期条件 q(0) = qo, p(0) = p0を満たす解は

q(t) = q0 cos (ωt) +p0

ωsinωt (13)

p(t) = −q0ω sin (ωt) + p0 cos (ωt). (14)1ラグランジアンに含まれる qi(t), pi(t)以外のパラメーターが時間に依存するとき、Lは陽に時間に依

存するという

2

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ラグランジアンが陽に時間に依らないので、エネルギーは保存される

H(q, p) =p2

2m+

1

2mω2q2 = E (一定). (15)

これより、相空間 ((q, p)平面)における軌道は楕円となることがわかる

q2(2E

mω2

) +p2

2mE= 1. (16)

q軸方向の半径は√

2Emω2、p軸方向の半径は

√2mEで与えられる。エネルギーが大きい

ほど楕円の半径は大きくなる。

ハミルトン正準方程式の数値解法� ✏調和振動子に対するハミルトンの正準方程式の解を図を使って求めよう。簡単のために質量をm = 1、角振動数を ω = 1とおくと、ハミルトニアンはH(q, p) = 1

2p2 + 1

2q2 となる。(q, p)を相空間におけ

るベクトルと見なせば、正準方程式[q

p

]=

[∂H(q,p)

∂p

−∂H(q,p)∂q

]=

[p

−q

](17)

は相空間の各点で定義された流れのベクトル(速度ベクトル場)を与えていると考えることができる。 -2

-1

0

1

2p

-1 1 2

q

時刻 tに相空間の

x =

[q

p

]

にあった点は、この方程式に従って時刻 t + ∆tには

x′ = x + ∆x =

[q

p

]+

[q

p

]∆t

に移動する。相空間における軌跡 (解曲線)を求めるには、微少変位ベクトル∆xの矢印を次々につないでゆけば良い。∆t = 0.1の場合に∆xを (q, p)平面の各点で図示したのが右図である。実線は、時刻 t = 0にそれぞれ (1, 0)、(0, 1.6)にある点の軌跡を表している。相空間の各点におけるベクトル場の矢印は一意に定まっているので、相空間における軌道が交わることはない。矢印は厳密に求めた軌跡の接線になっているので、微少矢印を結んだ数値解は厳密解より少し外側にずれる。時刻 t = 0に原点(q, p) = (0, 0)にある点は永遠に原点にとどまる。この点のように流れのベクトル場が零になる点を平衡点という。

✒ ✑[ 例 ] (不安定な平衡点周りの線形近似)

不安定な平衡点の周りで線形近似をすると、ポテンシャルエネルギーは上に凸な放物線V (q) = −1

2mκ2q2になる。簡単のためにm = 1、κ = 1とおくとハミルトニアンは

H(q, p) =1

2p2 − 1

2q2 (18)

3

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となるので、正準方程式は次のようになる。

[q

p

]=

[∂H(q,p)

∂p

−∂H(q,p)∂q

]=

[p

q

](19)

-2

-1.5

-1

-0.5

0

V(q)

-2 -1 1 2

q

-2

-1

0

1

2

p

-2 -1 1 2q

相空間における軌跡 (解曲線)を求めるには、調和振動子の場合と同じように微少変位ベクトル (∆q, ∆p) ≡ (q, p)∆tの矢印を次々につないでゆけば良い。右図は、∆t = 0.1の場合に (∆q, ∆p)を (q, p)平面の各点で図示したものである。この場合には正準方程式 (19)

から pを消去して、qの2階微分方程式に直すと

q = q (20)

となるが、この方程式は直ちに解くことができるので、相空間における軌跡と比較してみよう。一般解はA, Bを任意定数として

q(t) = Aet + Be−t, p(t) = Aet − Be−t (21)

で与えられるので、初期条件 q(0) = q0, p(0) = p0を課すと

q(t) =q0

2(et + e−t) +

p0

2(et − e−t), (22)

p(t) =q0

2(et − e−t) +

p0

2(et + e−t)

(23)

が解である。また、初期条件 q0, p0を与えたときのエネルギーは、(18)より

E =1

2p2

0 −1

2q20 (24)

である。

• 下図の aは、時刻 t = 0に (2,−2)にある点の軌跡を図示したものである。ポテンシャルの山の右側からエネルギーEa = 0で入ってきた粒子が、次第に減速しながらポテンシャルの山頂(下図の原点)に向けて無限に近づく様子を表している。左の図において、エネルギーとポテンシャルエネルギーの差が運動エネルギーなので、原点に近づくほど運動エネルギーが小さくなることを読みとることができる。実際、(22)より求めたこのときの解

q(t) = −p(t) = 2e−t

は、無限に原点に近づくが有限の時間では決して到達しない。

4

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• 下図の bは、時刻 t = 0に (2,−1.5)にある点の軌跡を図示したものである。ポテンシャルの山の右側から Eb < 0で入射した粒子が、ポテンシャルの壁にぶつかったところで p = 0となり、跳ね返されて p > 0で遠ざかっていく様子を表している。

• 下図の cは、時刻 t = 0に (1.5,−2)にある点の軌跡を図示したものである。ポテンシャルの山の右側からEc > 0で入射した粒子は、山に近づいて減速はするものの、十分なエネルギーを持っているので山を乗り越え、左側に通り過ぎてゆく様子を表している。

• 厳密に原点にある粒子は∆q = ∆p = 0なので、永遠に原点にとどまる。従って、原点は平衡点である。

• 流れ図の矢印が示すように、原点の近くにある粒子も、図の aと (4)以外の点は原点から離れてしまい、下図の (1)または (2)の方向に遠ざかってゆく。このような点を不安定な平衡点と呼ぶ。図の dは、時刻 t = 0に (1, 0)にある粒子の運動を表している。この場合 (22)から求めた解 q(t) = cosh t, p(t) = sinh tは、q = pの方向に向かうことがわかる。同じく、図の eは時刻 t = 0に (0, 1)にある粒子の運動を表している。この場合の解 q(t) = sinh t, p(t) = cosh tも、q = pの方向に向かう。

-2

-1

0

1

2

p

-2 -1 1 2

q

a

b

c

(1)

(2)

(4)

d

e

5

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解析力学 講義ノート52003年 6月 4日 (東島)

2.2 相空間における流れ

ラグランジュ形式で考えた配位空間 (q1, q2, · · · , qN)では、一点を定めても取り得る速度はいろいろなので、その点からどのように運動するかは定まらない。ハミルトン形式で考える相空間 (q1, · · · , qN , p1, · · · , pN)では、一点を定めると位置と運動量が定まっているので、その点における運動は一意的に決まる。相空間の各点における運動を定めるのが速度ベクトル場である。初期条件により定まる点から出発して、矢印をつないでゆくと運動が定まる。相空間の各点は可能な初期条件に対応している。矢印は相空間の各点ごとに定まっているので、各点を通る運動は一意的であり、軌跡は決して交わらない。2N 次元の相空間のベクトルと微分を

x =

x1

····

x2N

=

q1

:

qN

p1

:

pN

≡[

q

p

], ∇H =

∂H∂x1

····

∂H∂xN

=

∂H∂q1

:∂H∂qN∂H∂p1

:∂H∂pN

≡[

∂H∂�∂H∂�

]

で表すと、ハミルトンの正準方程式は

dx

dt=

[∂H(�,�)

∂�

−∂H(�,�)∂�

]≡ J∇H, ここで J ≡

[0 1N

−1N 0

](1)

と書くことができる。1N はN 行N 列の単位行列を表す。相空間の点x = (q, p)と僅かに離れた点x+∆xにおけるハミルトニアンの値の変化は

∆H(x) = H(x + ∆x) − H(x) = ∆x · ∇H(x)

であるが、∆xをエネルギーが一定となる面内に選ぶと∆H(x) = 0なので、∆xと∇H(x)

の内積は零であることがわかる。従って、∇H(q, p)は等エネルギー面に垂直である。

∇H

J∇H

ハミルトンの正準方程式 (1)相空間の点の時間的変化を表す速度ベクトル場 v = d�dtを

与えているが、速度ベクトル vと∇H(x)との内積をとると

v · ∇H(x) = J∇H · ∇H =N∑

i=1

(∂H

∂pi

∂H

∂qi− ∂H

∂qi

∂H

∂pi

)= 0

1

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となる。これは流れの速度ベクトル vが∇Hに垂直であることを示している。∇Hは等エネルギー面に垂直であるので、流れの速度ベクトルはエネルギー一定の面に接していることになる1。

Liouville の定理� �時刻 tに相空間の閉領域D内にある点 xが、時刻 t′ = t + ∆tに閉領域D′の点 x′ =

x + x∆tに移動する時、領域Dと領域D′の体積は等しい。すなわち∫ ∫· · ·∫

D′dq′1 · · · dq′Ndp′1 · · · dp′N =

∫ ∫· · ·∫

D

dq1 · · · dqNdp1 · · ·dpN (2)

� �これを見るために、まず相空間における流れは体積の変化しない非圧縮性の流体と考えることができる事を示す。実際、相空間における速度ベクトル場 v(x) = J∇Hは、

div v ≡ ∇ · v =N∑

i=1

(∂

∂qi

∂H

∂pi

− ∂

∂pi

∂H

∂qi

)= 0 (3)

をみたす。従って、領域D′の体積を領域Dにおける積分で表すときの Jacobianは

∂(x′1, x

′2, · · · , x′

2N )

∂(x1, x2, · · · , x2N )= 1 + ∇ · v∆t + O(∆t)2 (4)

となり、∆tの1次の精度で 1となる。ここで、行列式の非対角成分は∆tに比例するので、行列式を∆tの一次迄求める時には考慮する必要がない。従って∆tを十分小さくとっておけば∫ ∫

· · ·∫

D′dq′1 · · · dq′Ndp′1 · · · dp′N =

∫ ∫· · ·∫

D

∂(x′1, x

′2, · · · , x′

2N )

∂(x1, x2, · · · , x2N )dq1 · · · dqNdp1 · · · dpN

=

∫ ∫· · ·∫

D

dq1 · · · dqNdp1 · · · dpN

となり、体積は変わらないことが示される。無限小の時間発展をを次々と行えば任意の有限時間発展を行うことができるので、領域Dの体積はどんなに時間が経っても変わらないことになる。

2.3 相空間における作用原理

この章の始めでは、ラグランジュの方程式からハミルトンの正準方程式を導いた。配位空間における作用原理よりラグランジュの運動方程式が得られたように、相空間における作用原理からハミルトンの正準方程式を導くことができる。この節では、相空間における作用原理から正準方程式を導く。

1これはエネルギーが保存することから自明であろう。

2

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相空間における作用

S =

∫ t1

t0

(

N∑i=1

piqi − H(q, p, t))dt (5)

は、2N次元の相空間における経路Cを定めると値が定まるので、相空間における経路C

の汎関数である。相空間における作用原理では正準変数 q, pを独立変数として扱う。作用原理は「相空間における経路Cを少し変化させたとき、作用 Sが停留値をとるような運動が実際に実現する」ことを主張する。これを確かめるために、t0 ≤ t ≤ t1における経路Cを qi(t), pi(t)で表し、

qi(t) → q′i(t) = qi(t) + δqi(t)

pi(t) → p′i(t) = pi(t) + δpi(t) (6)

と変化させた経路をC ′とする。経路をCからC ′に変化させたときに作用が停留値をとること、すなわち

δS = S[C ′] − S[C]

=

∫ t1

t0

(N∑

i=1

p′iq′i − H(q′, p′, t))dt −

∫ t1

t0

(N∑

i=1

piqi − H(q, p, t))dt

=

∫ t1

t0

δ(

N∑i=1

piqi − H(q, p, t))dt

= 0 (7)

を要請してハミルトンの正準方程式を導く。ただし、出発点と終点は固定しておく2

δqi(t0) = δqi(t1) = δpi(t0) = δpi(t1) = 0. (8)

(7)に於いて、正準変数 q, pを (6)のように独立に変化させると

δS =

∫ t1

t0

N∑i=1

(δpiqi + piδqi − δqi

∂H(q, p, t)

∂qi

− δpi∂H(q, p, t)

∂pi

)dt (9)

ここで、経路の変化 (6)を同じ時刻で行っているので時間微分と交換できること

δqi(t) = q′i(t) − qi(t) =d

dtδqi(t)

を用いて (9)の部分積分を行うと

δS =

N∑i=1

(pi(t1)δqi(t1) − pi(t0)δqi(t0))

+

∫ t1

t0

N∑i=1

{δpi

(qi − ∂H(q, p, t)

∂pi

)− δqi

(pi +

∂H(q, p, t)

∂qi

)}dt. (10)

2配位空間に於いては出発点と終点の座標を自由に選ぶことができる。相空間では出発点と終点の座標の内2つだけを自由に定めることができるが、残りの2つは運動方程式によって定まってしまう。作用積分の値を比べる経路としては、t = t0と t = t1の両端で同じ座標を持つ経路を選ぶ。

3

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ここで、両端は固定しているので第一項は (8)により落ちる。正準変数 qi, piはすべて独立であるとすると、正準変数の任意の変化に対して作用Sが変化しないためには、δqi, δpi

の係数はすべて零で無ければならない。よってハミルトンの正準方程式を得る

qi =∂H(q, p, t)

∂pi

pi = −∂H(q, p, t)

∂qi

(i = 1, 2, · · · , N).

4

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解析力学 講義ノート62003年 6月 11日 (東島)

4 正準変換ラグランジュの運動方程式は座標変換

qi → Qi = fi(q1, q2, · · · , qN , t) (i = 1, 2, · · · , N) (1)

を行っても形が変わらない。正準形式においては、qi と piを混ぜるもっと広い範囲の変数変換を行っても、正準方程式の形は変わらない。この章では、そのような変換を考える。

(qi, pi)がハミルトンの正準方程式

qi =∂H(q, p, t)

∂pi, pi = −∂H(q, p, t)

∂qi

を満たすとき、Qi(q, p, t), Pi(q, p, t)もまた別の正準方程式

Qi =∂K(Q, P, t)

∂Pi, Pi = −∂K(Q, P, t)

∂Qi

を満たせば、(q, p)から (Q, P )への変換

Qi = Qi(q, p, t) (2)

Pi = Pi(q, p, t)

を正準変換と呼ぶ。正準方程式は相空間における作用原理から導かれ、また正準方程式が成り立てば作用

原理が成り立つ。従って (q, p)に対する作用原理から、(Q, P )に対する作用原理が導かれる事を示せば、(q, p)に対する正準方程式から、(Q, P )に対する正準方程式を導いたことになる。作用原理では両端で変分を固定している。従って

N∑i=1

piqi − H(q, p, t) =

N∑i=1

PiQi − K(Q, P, t) +dF

dt(3)

であれば

∫ t1

t0

{N∑

i=1

piqi − H(q, p, t)

}dt =

∫ t1

t0

{N∑

i=1

PiQi − K(Q, P, t)

}dt + F (t1) − F (t0)

となるが、F (t1)は t1, qi(t1), pi(t1)の関数であり、F (t0)は t0, qi(t0), pi(t0)の関数でであるので変分にはきかない。すなわち、

δ

∫ t1

t0

{N∑

i=1

piqi − H(q, p, t)

}dt = δ

∫ t1

t0

{N∑

i=1

PiQi − K(Q, P, t)

}dt

となり、(q, p)に対する正準方程式から (Q, P )に対する正準方程式を導く事ができる。

1

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従って、変数変換 (2)が正準変換であるための条件は、次の組み合わせが全微分の形

N∑i=1

(pidqi − PidQi) − (H(q, p, t) − K(Q, P, t))dt = dF (4)

になることである。最初に、F が qi, Qi, tの関数である場合を考える。F = F1(qi, Qi, t)と書くと

dF (q, Q, t) =N∑

i=1

(∂F1

∂qi

dqi +∂F1

∂Qi

dQi

)+

∂F1

∂tdt

となるので、これを式 (4)に代入して、独立変数 dqi, dQi, dtの係数をそれぞれ等しくおくと、次の関係式が得られる。

pi =∂F1(q, Q, t)

∂qi, Pi = −∂F1(q, Q, t)

∂Qi(5)

K(Q, P, t) = H(q, p, t) +∂F1(q, Q, t)

∂t

正準変換の例 1

F1(q, Q) =∑

i qiQiは正準変数 qiと piを入れ替える正準変換である。実際、q, Qを独立変数に選んだときの式 (5)より

pi =∂F1(q, Q, t)

∂qi

= Qi, Pi = −∂F1(q, Q, t)

∂Qi

= −qi

従って、Qi = pi, Pi = −qiとなり、qiと piが入れ替わっている1。ラグランジュ形式では qiを qの任意の関数Qi = fi(q1, · · · , qN , t)に変数変換してもラグランジュ方程式の形を変えなかったが、正準変換では qと pの役割を入れ替えることも可能である。

次に独立変数を qi, Piに選ぶために

F = −N∑

i=1

PiQi + F2(qi, Pi, t) (6)

とおけば2

dF = −N∑

i=1

(dPiQi + PidQi) +

N∑i=1

(∂F2

∂qidqi +

∂F2

∂PidPi

)+

∂F2

∂tdt

となるので、これを式 (4) に代入すれば dQi に比例する項は消えてしまう。独立変数dqi, dPi, dtの係数をそれぞれ等しくおくと、

pi =∂F2(q, P, t)

∂qi, Qi =

∂F2(q, P, t)

∂Pi(7)

K(Q, P, t) = H(q, p, t) +∂F2(q, P, t)

∂t

の関係式が得られる。F1や F2のことを正準変換の母関数という。1ただし、正準方程式の形を保つにはどちらかの符号を変えておかねばならない2独立変数を Qiから Pi に変えるこの変換を Legendre変換と呼ぶ

2

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正準変換の例 2

F2(q, P ) =∑

i qiPiは恒等変換である。実際、q, P を独立変数に選んだときの式 (7)より

pi =∂F2(q, P, t)

∂qi= Pi, Qi =

∂F2(q, P, t)

∂Pi= qi

正準変換の例 3

母関数 F2(q, P, t) =∑N

i=1 fi(q1, · · · , qN , t)Piによって引きおこされる正準変換は

Qi =∂F2(q, P, t)

∂Pi= fi(q1, · · · , qN , t) (8)

pi =∂F2(q, P, t)

∂qi

=N∑

j=1

∂fj

∂qi

Pj =N∑

j=1

∂Qj

∂qi

Pj (9)

となるがN∑

i=1

∂Qj

∂qi

∂qi

∂Qk= δjk

を用いて (9)を Piについて解くと

Pi =

N∑j=1

∂qj

∂Qipj (10)

変換 (8)は点変換と呼ばれ、ラグランジュ形式で許される最も一般的な変数変換であるが、正準変換はもっと一般的な変換も許している。piの変換則は ∂

∂qiの変換則と同じもの

である。

[ 練習問題 ]

1. 独立変数を pi, Qiに選ぶために F =∑

i piqi + F3(pi, Qi, t)とすれば、次の関係式が得られることを示せ。

qi = −∂F3(p, Q, t)

∂pi, Pi = −∂F3(p, Q, t)

∂Qi(11)

K(Q, P, t) = H(q, p, t) +∂F3(p, Q, t)

∂t(12)

2. 独立変数を pi, Piに選ぶためにF =∑

i(piqi − PiQi) + F4(pi, Pi, t)とすれば、次の関係式が得られることを示せ。

qi = −∂F4(p, P, t)

∂pi, Qi =

∂F4(p, P, t)

∂Pi(13)

K(Q, P, t) = H(q, p, t) +∂F4(p, P, t)

∂t(14)

3. 質量m1とm2の粒子がポテンシャルU(r1 − r2)の力を及ぼし合っている場合のラグランジアンは

L =m1

2r2

1 +m2

2r2

2 − U(r1 − r2) (15)

一つの慣性系から速度V で等速直線運動をする慣性系への座標変換

r −→ r′ = r − V t (16)

をガリレイ変換という。正準方程式の形が2つの慣性系で同じになるように、ガリレイ変換に対する正準変換の母関数を求めよ。

3

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4.1 無限小正準変換

εを無限小のパラメーターとして、

F2 =∑

i

qiPi + εG(q, P, t) (17)

とすれば、この F2によって引き起こされる正準変換は

pi =∂F2(q, P, t)

∂qi= Pi + ε

∂G(q, P, t)

∂qi

Qi =∂F2(q, P, t)

∂Pi= qi + ε

∂G(q, P, t)

∂Pi

∆qi = Qi − qi, ∆pi = Pi − piを εの1次の精度で求めると

∆qi = ε∂G(q, p, t)

∂pi, ∆pi = −ε

∂G(q, p, t)

∂qi(18)

となる。ここで、変数 P と pの差は εの程度なので、G(q, p, t)の中では P を pで置き換えた。G(q, p, t)を無限小正準変換の生成子という。この式を

∆x = εJ∇G (19)

と書けば、ハミルトンの正準方程式と同じ形である。すなわち、相空間における運動はハミルトニアンを生成子とする正準変換と見なすことができる。また、無限小正準変換は相空間における流れのベクトル場を定義することがわかる。

無限小正準変換の例

1. 無限小平行移動Qi = qi + ε, Pi = piは全運動量で生成される。

Qi = qi + ε = qi + ε∂G(q, p, t)

∂pi

Pi = pi = pi − ε∂G(q, p, t)

∂qi

を満たす生成子G(q, p, t)を求めると

G(q, p, t) =∑

i

pi = Ptotal

2. z軸周りの無限小回転 (θ = ε)は全角運動量の z成分によって生成される。

X = x cos θ − y sin θ = x − εy = x + ε∂G

∂px

Y = x sin θ + y cos θ = y + εx = y + ε∂G

∂py

より無限小正準変換の生成子G(x, y, px, py, t)を求めると

G = xpy − ypx = Lz = 角運動量の z成分 (20)

同じく、x, y軸周りの回転は、角運動量の x, y成分 Lx, Lyで生成される。

4

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解析力学 講義ノート72003年 6月 26日 (東島)

5 ラグランジュ括弧とポアッソン括弧

5.1 正準変換の条件

正準変換には、時間はパラメーターとして入っているだけであり、時間を一定に保った変換を考えてもかまわない。正準変換の母関数 F の時間依存性は、ハミルトニアンK

を変えるだけであり、正準変数の変換は同じ形である。従って、dt = 0とおいて次の式を正準変換の条件と考えることができる。

正準変換の条件� ✏相空間の点 (q1, · · · , qN , p1, · · · , pN)が次の変換により (Q1, · · · , QN , P1, · · · , PN)に移るとき

Qi = Qi(q, p). (1)

Pi = Pi(q, p), (2)

この変換が正準変換であるための条件は次の式が全微分となることである

N∑i=1

(pidqi − PidQi) = dF. (3)

✒ ✑[ 例題 ] 一次変換Q = αq + βp, P = γq + δpが正準変換となるためには、定数 α, β, γ, δ

はどのような条件を満たさなければならないか?[ 答 ]

PdQ− pdq = (γq + δp)(αdq + βdp) − pdq

= γαqdq + δβpdp+ δαpdq + γβqdp− pdq

= d(1

2γαq2 +

1

2δβp2 + γβqp) + (δα− γβ − 1)pdq

これが全微分になるのは δα− γβ = 1の時である。(了)

式 (3)の右辺は全微分の形なので、左辺を相空間における任意の閉曲線 Cに沿って積分したものは零になる。

∮C

N∑i=1

(pidqi − PidQi) = 0 (4)

1

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ただし、左辺第2項では閉曲線 C 上の点 (q, p)が変換 (1)(2)によって閉曲線 C ′ 上の点(Q,P )に移る時に∮

C

N∑i,j=1

Pi(q, p)

(∂Qi(q, p)

∂qjdqj +

∂Qi(q, p)

∂pjdpj

)≡∮

C′

N∑i=1

PidQi (5)

と考えて相空間における線積分を行う。

C

Phase Space

D

C’

D’

(Q,P)(q,p)

従って、(1)(2)が正準変換である条件は、任意の閉曲線Cに対して∮C

N∑i=1

pidqi =

∮C′

N∑i=1

PidQi (6)

が成り立つことである。次のこの線積分を面積分に書き換えるためにストークスの定理を使う。

ストークスの定理� ✏閉じた曲線に沿った線積分は面積分の形に書くことができる。平面上に座標 (u, v)をとり、閉じた曲線C0に囲まれた領域をD0とすれば∮

C

(Au(u, v)du+ Av(u, v)dv) =

∫ ∫D

(∂Av

∂u− ∂Au

∂v

)dudv. (7)

✒ ✑相空間における閉曲線Cを含む曲面を考えて、曲線に囲まれた曲面の領域をDとする。

閉曲線Cを境界とする曲面は任意に取って良い。任意の2次元曲面は2つの座標で表すことができるので、その曲面上の点を座標 (u, v)で表す。閉曲線Cが (u, v)平面では閉曲線C0に対応し、閉曲線Cにより囲まれる曲面が (u, v)平面では領域D0に対応するものとする。

2

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曲面D上では (qi, pi)は (u, v)の関数なので、式 (6)の左辺を式 (7)の左辺の形に表せば

∮C

N∑i=1

pidqi =

∮C0

N∑i=1

pi

(∂qi∂udu +

∂qi∂vdv

)(8)

となるので次のようにおけばよい

Au(u, v) =N∑

i=1

pi∂qi∂u, Av(u, v) =

N∑i=1

pi∂qi∂v. (9)

これを用いて式 (7)の右辺を計算すると

∂Av

∂u− ∂Au

∂v=

N∑i=1

(∂pi

∂u

∂qi∂v

− ∂pi

∂v

∂qi∂u

)=

N∑i=1

∂(pi, qi)

∂(u, v), (10)

ただし、ヤコビアンは次の式で定義される

∂(pi, qi)

∂(u, v)=

∣∣∣∣∣∂pi

∂u∂pi

∂v∂qi

∂u∂qi

∂v

∣∣∣∣∣ =∂pi

∂u

∂qi∂v

− ∂pi

∂v

∂qi∂u. (11)

式 (10)をストークスの定理に代入すると

∮C

N∑i=1

pidqi =

∫D

N∑i=1

dpidqi (12)

ただし、ここで相空間における曲面上の面積分を

∫D

N∑i=1

dpidqi ≡∫

D0

N∑i=1

∂(pi, qi)

∂(u, v)dudv (13)

で定義した。変換 (1)(2)によって曲面DはD′に移る。曲面D′上の (Q,P )は (q, p)の関数であり、曲面D上では (q, p)は (u, v)の関数なので、曲面D′上の (Q,P )も (u, v)の関数である。従って、曲面D′上の面積分を同じように定義する

∫D′

N∑i=1

dPidQi =

∫D0

N∑i=1

∂(Pi, Qi)

∂(u, v)dudv. (14)

積分不変式� ✏式 (3)の左辺が全微分となる条件、すなわち正準変換の条件は

∫D

N∑i=1

dpidqi =

∫D′

N∑i=1

dPidQi (15)

と表される。すなわち、相空間における任意の2次元曲面上の領域における面積分は正準変換の不変量である。右辺の積分領域D′は領域Dを正準変換 (1)(2)で写像した領域である。

✒ ✑

3

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5.2 シンプレクティック変換

(15)の被積分関数に (13)(14)を代入すると∫D0

N∑i=1

∂(pi, qi)

∂(u, v)dudv =

∫D0

N∑i=1

∂(Pi, Qi)

∂(u, v)dudv.

これが任意の積分領域に対して成り立つためには、被積分関数自身が等しくなければならない。これより次のことが分かる。

ラグランジュの括弧式� ✏uと vのラグランジュの括弧式を

{u, v}q,p ≡N∑

i=1

(∂qi∂u

∂pi

∂v− ∂pi

∂u

∂qi∂v

)(16)

で定義すれば、正準変換の条件 (15)は次のように書くことができる。

{u, v}q,p = {u, v}Q,P (17)

ラグランジュの括弧式は正準変換に不変であるので、添え字の q, pは省いても良い。特に u, vとして qiや pjを取ると

{qi, qj} = 0, {pi, pj} = 0, {qi, pj} = δij (18)✒ ✑[ 証 ]

{qi, pj}q,p =N∑

k=1

(∂qk∂qi

∂pk

∂pj− ∂pk

∂qi

∂qk∂pj

)=

N∑k=1

δikδjk = δij (了)

相空間における流れの所で使ったベクトル記号を用いることにして、2N 個の正準座標をまとめて縦ベクトルで表す。

x =

x1

····x2N

=

q1:

qNp1

:

pN

, X =

X1

····

X2N

=

Q1

:

QN

P1

:

PN

, J ≡

[0 1N

−1N 0

]

1N はN 行N 列の単位行列を表す。xT , XT は転置した横ベクトルを表すことする。この記号を用いると、ラグランジュ括弧式は

{u, v}q,p =N∑

i=1

(∂qi∂u

∂pi

∂v− ∂pi

∂u

∂qi∂v

)=∂x

∂u

T

· J ∂x∂v

(19)

{u, v}Q,P =

N∑i=1

(∂Qi

∂u

∂Pi

∂v− ∂Pi

∂u

∂Qi

∂v

)=∂X

∂u

T

· J ∂X∂v

(20)

4

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と書くことができる。変数変換

xi → Xi = Xi(x1, · · · , x2N ) (21)

を行ったとき

∂Xi

∂u=

∑j

∂Xi

∂xj

∂xj

∂u=∑

j

Mij∂xj

∂u

となる。ここで行列M を

Mij =∂Xi

∂xj(22)

で定義した。ベクトル記号を用いると

∂X

∂v= M

∂x

∂v,

∂X

∂u

T

=∂x

∂u

T

MT . (23)

これを式 (20)に代入し、式 (19)と較べると、行列M が次の条件を満たすときに変数変換 (21)が正準変換になることが分かる。

シンプレクティック行列� ✏変数変換 (21)が正準変換になる必要十分条件は

MTJM = J. (24)

この条件式を満たすM をシンプレクティック行列と呼ぶ。✒ ✑この式の両辺の行列式を求めると det J は両辺でキャンセルするので

(detM)2 = 1

従って、

detM = ±1

となり、正準変換は相空間の体積を変えないことが分かる (Liouvilleの定理)

dQ1 · · · dQNdP1 · · · dPN = ±dq1 · · ·dqNdp1 · · · dpN .

特に、恒等変換から連続的に無限小変換で結ばれる正準変換の場合には

detM = 1

となる。

シンプレクティック行列の条件式 (24)に右からM−1を掛けると

MTJ = JM−1

5

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この式に両側から J を掛けて

J2 = −1 (25)

を用いると

JMT = M−1J

この式の左からM を掛けると、シンプレクティック行列の条件を次のように書くこともできる

MJMT = J (26)

5.3 ポアッソン括弧

ポアッソン括弧� ✏qk, pk (k = 1, 2, · · · , N)を正準変数とするとき、次の式で定義されるポアッソン括弧(Poisson Bracket)は正準変換に不変である。

[u, v] =

N∑k=1

(∂u

∂qk

∂v

∂pk− ∂v

∂qk

∂u

∂pk

)(27)

✒ ✑[ 証 ] 再びベクトル記法を用いることにして、相空間における微分を次のように表す

∇ =

∂∂x1

····∂

∂x2N

=

∂∂q1

:∂

∂qN∂

∂p1

:∂

∂pN

, ∇′ =

∂∂X1

····∂

∂X2N

=

∂∂Q1

:∂

∂QN∂

∂P1

:∂

∂PN

(28)

この記法を用いると、ポアッソン括弧式は次のように表すことができる。

[u, v]q,p =N∑

k=1

(∂u

∂qk

∂v

∂pk

− ∂v

∂qk

∂u

∂pk

)=

2N∑i,j=1

∂u

∂xi

Jij∂v

∂xj

= (∇u)T · J (∇v) (29)

さて、

∇iv =∂v

∂xi=∑

j

∂v

∂Xj

∂Xj

∂xi=∑

j

Mji∂v

∂Xj(30)

をベクトル記法で書くと

∇v = MT ∇′v (31)

(∇v)T = (∇′v)TM (32)

6

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これを (31)に代入すると

[u, v]q,p = (∇u)T · J (∇v)

= (∇′u)T ·MJMT (∇′v)

= (∇′u)T · J (∇′v)

= [u, v]Q,P (33)

となり、ポアッソン括弧式が正準変換に不変であることがわかる。ここで、M がシンプレクティック行列であること (26)を用いた。

定義に従って計算すると

[qi, pj] =

N∑k=1

(∂qi∂qk

∂pj

∂pk− ∂pj

∂qk

∂qi∂pk

)=

N∑k=1

δikδjk = δij (34)

[qi, qj] =N∑

k=1

(∂qi∂qk

∂qj∂pk

− ∂qj∂qk

∂qi∂pk

)= 0 (35)

[pi, pj] =

N∑k=1

(∂pi

∂qk

∂pj

∂pk− ∂pj

∂qk

∂pi

∂pk

)= 0 (36)

となる。ポアッソンの基本括弧式� ✏

正準変数に対するポアッソン括弧式を基本括弧式と呼ぶ。

[qi, qj] = 0

[pi, pj] = 0 (37)

[qi, pj] = δij✒ ✑ポアッソン括弧の計算するには、この基本括弧式といくつかの公式を使うと見通しよ

く計算できる。ポアッソン括弧の性質� ✏

[u, v] = −[v, u] (38)

[αu+ βv, w] = α[u, w] + β[v, w] (α, βは定数) (39)

[uv, w] = u[v, w] + [u, w]v (40)

[qi, F (q, p)] =∂F

∂pi

, [pi, G(q, p)] = −∂G∂qi

(41)

[u, [v, w]] + [v, [w, u]] + [w, [u, v]] = 0 (Jacobi恒等式) (42)✒ ✑このうち (38)(39)(41)は定義から明らかであろう。(40)は

∂(uv)

∂qk=∂u

∂qkv + u

∂v

∂qk,

∂(uv)

∂pk

=∂u

∂pk

v + u∂v

∂pk

7

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を定義式に代入すれば直ちに示すことができる。ヤコビ恒等式の証明をしておこう。まず反対称行列 Jijを用いたポアッソン括弧の定義式 (31)から出発しよう。ただし、ここでは微分を次の記号で表すことにする

∂u

∂xi

≡ u,i∂2u

∂xi∂xj

≡ u,ij (43)

そうすればポアッソン括弧を次のように書くことができる

[v, w] =

2N∑k,l=1

v,k Jklw,l (44)

ヤコビ恒等式の最初の2項は

[u, [v, w]] + [v, [w, u]] = [u, [v, w]]− [v, [u, w]]

=∑ij

u,i Jij([v, w]),j −∑ij

v,i Jij([u, w]),j

=∑ij

∑kl

JijJkl (u,i (v,k w,l ),j −v,i (u,k w,l ),j )

=∑ij

∑kl

JijJkl(u,i v,k −v,i u,k )w,lj +∑ij

∑kl

JijJkl(u,i v,kj −v,i u,kj )w,l (45)

となる。ここで

([v, w]),j =∑kl

Jkl(v,k w,l ),j =∑kl

Jkl(v,kj w,l +v,k w,lj )

を用いた。式 (45)の第一項の u,i v,k −v,i u,kは iと kの入れ替えに反対称なので、JijJkl

を i, kの入れ替えに反対称化してもよい。

第一項 =∑ij

∑kl

1

2(JijJkl − JkjJil)(u,i v,k −v,i u,k )w,lj

そうすると、JijJkl − JkjJilの部分は lと jの入れ替えに対し反対称になるが、微分は順序を交換できるのでw,ljは l, jの入れ替えに対し対称である。従って、第一項は l, jについて和をとると、必ず逆符号の項が現れるため零になってしまう。式 (45)の第2項∑

ij

∑kl

JijJkl(u,i v,kj −v,i u,kj )w,l

の最後の項で iと jを入れ替えると Jijが反対称なので∑ij

∑kl

JijJkl(u,i v,kj +v,j u,ki )w,l

=∑ij

∑kl

JijJkl(u,i v,j ),k w,l

=∑kl

Jkl[u, v],k w,l

= [[u, v], w] = −[w, [u, v]] 了

8

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[ 練習問題 1 ]

3次元空間における角運動量Lx = ypz − zpy , Ly = zpx −xpz , Lz = xpy − ypxの Poisson

Blacket を次の順序で求めよ。

• 基本括弧式を用いて [x, Lz], [y, Lz], [z, Lz ]を求めよ。

• [px, Lz], [py, Lz], [pz, Lz]を求めよ。

• [Lx, Ly], [Ly, Lz], [Lz, Lx]を求めよ。

5.4 ポアッソン括弧を用いた正準変換の条件

シンプレクティック行列であるための条件 (26)は (24)と同値なので、q, pからQ,P への変数変換Q = Q(q, p), P = P (q, p)が正準変換であるための条件はMJMT = J である。この条件を書き下して、2N × 2N 行列の (i, j)成分を見てみよう。

2N∑k,l=1

∂Xi

∂xk

Jkl∂Xj

∂l= Jij (46)

ここで、添え字 i, jを 1から N までと N + 1から 2N までに分け、kに関する和も k =

1, · · · , N 迄の場合と k = N + 1, · · · , 2N の場合を分けて考えるとN∑

k=1

(∂Qi

∂qk

∂Qj

∂pk

− ∂Qi

∂pk

∂Qj

∂qk

)= 0

N∑k=1

(∂Qi

∂qk

∂Pj

∂pk− ∂Qi

∂pk

∂Pj

∂qk

)= δij (47)

N∑k=1

(∂Pi

∂qk

∂Pj

∂pk− ∂Pi

∂pk

∂Pj

∂qk

)= 0

N∑k=1

(∂Pi

∂qk

∂Qj

∂pk− ∂Pi

∂pk

∂Qj

∂qk

)= −δij

これをポアッソン括弧を用いて書く。正準変換の条件� ✏

q, pからQ,P への変数変換Q = Q(q, p), P = P (q, p)が正準変換であるための必要十分条件は

[Qi, Pj] = 0, (48)

[Qi, Pj] = δij (49)

[Pi.Pj] = 0 (50)

すなわち、新しい変数がポアッソンの基本括弧式 (37)を満たすことである。✒ ✑

9

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[ 練習問題 2 ]

1自由度の系 (N=1)を考える。q, pからQ,P への変数変換Q = Q(q, p), P = P (q, p)が正準変換であるための条件はMJMT = J である。ただし、

M =

[∂Q∂q

∂Q∂p

∂P∂q

∂P∂p

]J =

[0 1

−1 0

]

これを具体的に書き下し、正準変換の条件を次のように書くことが出来ることを示せ。

[Q,Q] = 0, [P, P ] = 0, [Q,P ] = 1

5.5 ポアッソン括弧を用いた定式化

ポアッソン括弧を用いてハミルトンの正準方程式を書いてみよう。正準方程式

dqidt

=∂H

∂pi(51)

dpi

dt= −∂H

∂qi

の右辺に式 (41)を用いると正準方程式は次のように書くことができる。

ポアッソン括弧を用いた正準方程式� ✏

dqidt

= [qi, H ] (52)

dpi

dt= [pi, H ]

ポアッソン括弧を用いると qと pに対する正準方程式は全く同じ形になる。✒ ✑正準変数 qi, piの関数 F (q, p)の時間的変化はハミルトンの正準方程式 (51)を用いて計算される

dF (q, p)

dt=

∑i

(∂F

∂qi

dqidt

+∂F

∂pi

dpi

dt

)

=∑

i

(∂F

∂qi

∂H

∂pi

− ∂F

∂pi

∂H

∂qi

)

= [F (q, p), H ]

この式は運動方程式 (52)を特別な場合として含んでいる。

物理量の時間的変化� ✏

dF (q, p)

dt= [F (q, p), H ] (53)

✒ ✑

10

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正準変数 q, pの関数F (q, p)が時間によらず一定であるとき、F のことを運動の積分という。運動の定数または保存量ということもある。F が保存量であるための条件はハミルトニアンとのポアッソン括弧が零になることである。F (q, p)とG(q, p)がともに保存量であれば、そのポアッソン括弧 [F,G]もまた保存量で

ある。実際、F (q, p), G(q, p)が保存量ならば、[F,H ] = 0, [G,H ] = 0なので、ヤコビの恒等式 (42)を用いると

[H, [F,G]] = [G, [F,H ]] − [F, [G,H ]] = 0

となり確かに [F,G]が保存量であることがわかる。

5.6 対称性と保存則

生成子G(q, p, t)で生成される無限小正準変換

∆qi = ε∂G(q, p, t)

∂pi

, ∆pi = −ε∂G(q, p, t)

∂qi(54)

は、ポアッソン括弧の性質 (41)を用いると

∆qi = ε [qi, G] , ∆pi = ε [pi, G] (55)

と書くことができる。また一般に qi, piの関数 F (q, p)の変化は

∆F (q, p) =∑

i

(∆qi

∂F

∂qi+ ∆pi

∂F

∂pi

)

= ε∑

i

(∂G

∂pi

∂F

∂qi− ∂G

∂qi

∂F

∂pi

)

= ε [F,G] (56)

と表される。生成子G(q, p, t)で生成される無限小正準変換にたいしてハミルトニアンが不変である

とき、考えている系は対称性を持つという。ハミルトニアンの変化は (56)より

∆H(q, p) = ε [H,G] (57)

で与えられるので、対称性がある場合

[H,G] = 0 (58)

が成り立つ。この時にはGの時間変化 (53)は

dG(q, p)

dt= [G(q, p), H ] = 0 (59)

となり、Gは保存量であることが分かる。すなわち、対称性がある場合には対称性の生成子は保存量である。

[ 練習問題 3 ] (無限小正準変換の例)

次のことを示せ。

11

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1. 無限小平行移動 (Ptotal =∑

i pi)

∆qi = ε [qi, Ptotal]

∆pi = ε [pi, Ptotal]

2. 単位ベクトルnで指定される軸周りの無限小回転 (θ = ε)

∆xi = ε [xi,n · L]

∆pi = ε [pi,n · L]

[ 練習問題 4 ] (角運動量保存則)

ハミルトニアンが回転対称である場合、角運動量が保存する事を示そう。

• r =√x2 + y2 + z2と Li (i = x, y, z)のポアッソン括弧を求めよ。

• p2 = p2x + p2

y + p2zとLi (i = x, y, z)のポアッソン括弧を求めよ。

• ハミルトニアンH = 12m

p2 + V (r)と Li (i = x, y, z)のポアッソン括弧を求めよ。

5.7 ポアッソン括弧と量子力学

量子力学はハイゼンベルグによって作られた。量子力学では物理量は演算子で表される。古典力学から量子力学に移行することを量子化と呼ぶ。まず演算子の性質を決めるのが正準交換関係であり、演算子の時間依存性を決めるのがハイゼンベルグの運動方程式である。古典力学の物理量A, Bに対応する演算子を A, Bとすると、量子化するにはポアッソン括弧を交換子で置き換える

[A,B] −→ 1

i�(AB − BA). (60)

特に、ポアッソンの基本括弧式は次の交換関係で置き換えられる

[qi, qj ] = 0 −→ 1

i�(qiqj − qj qi) = 0,

[qi, pj] = δij −→ 1

i�(qipj − pj qi) = δij , (61)

[pi, pj] = 0 −→ 1

i�(pipj − pj pi) = 0.

この右辺が量子力学における演算子を特徴づける。演算子の時間発展を決めるハイゼンベルグの運動方程式は、運動方程式 (53)のポアッソン括弧を交換子と置き換えて得られる。

dF (q, p)

dt=

1

i�(F (q, p)H(q, p) −H(q, p)F (q, p)) (62)

正準交換関係 (61)とハイゼンベルグの運動方程式 (62)が量子力学の基本方程式である。

12

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解析力学 講義ノート82003年 7月 3日 (東島)

6 力学における場の考え方

6.1 配位空間における場としての作用

作用原理によれば、時刻 t1に場所 q1を出発して時刻 t2に場所 q2に到達する物体が実際に通る経路は、作用積分

S[C] =

∫ t2

t1 C

L(q(t), q(t))dt (1)

が停留値をとるような経路である。作用積分の値は途中通る経路Cに依るのだが、色々な経路について積分してみたときに少しくらい経路を変化させても作用積分が変化しないような経路が実際に通る経路として選ばれる。出発点と到達点を定めると途中に通る経路が定まり、作用積分の値が定まる。従って、実際に通る経路に沿って計算した作用積分は、出発点の位置 q1と時刻 t1および到着点の位置 q2と時刻 t2の関数となるので、S(q1, t1, q

2, t2)と書くことができる。これをハミルトンの主関数と呼ぶ。次に、出発点と到着点の位置と時刻を動かしてみよう。出発点および到着点の位置と

時刻を定めると、それに応じて途中の経路が定まり、作用積分の値が定まる。出発点を1カ所選んでおけば、各時刻に配位空間の各点で作用積分の値が定まるので、この作用積分の値を配位空間の各点に定義された場と考えることができる。この場の満たす方程式を求めてみる。出発点と到着点の位置と時刻を次のように動かしてみる

q1 −→ q1′ = q1 + ∆q1, t1 −→ t′1 = t1 + ∆t1, (2)

q2 −→ q2′ = q2 + ∆q2, t2 −→ t′2 = t2 + ∆t2. (3)

q

t

q1 q 2

t 1

t2

q+dqq+Dqq

C C’

1

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出発点と到着点の位置と時刻が変化すれば、それに応じて途中実際に通る経路もCからC ′に変化する。元々、経路C上にある点(時刻 t、位置 q)が経路C ′上の点

q −→ q′ = q + ∆q, t −→ t′ = t + ∆t, (4)

に移動するものとする。ここでの∆q(t) = q′(t′) − q(t)と、作用原理で考えた同じ時刻における変化 δq(t) = q′(t) − q(t)との違いは

∆q(t) = q′(t′) − q(t) = q′(t + ∆t) − q(t)

= q′(t) + ∆tq(t) − q(t)

= δq(t) + ∆tq(t) (5)

であたえられる。ここで∆tは小さい量としているので最後の項では qと q′との違いは高次の微少量として無視した。さて、実際に運動が起きる2つの経路関する作用積分の変化を求めるのに、同じ時刻

における被積分関数を比べることにすれば、出発点と到着点の積分領域の変化を考慮する必要がある

∆S(q1, t1, q2, t2) =

∫ t2+∆t2

t1+∆t1 C′L(q′(t′), q′(t′))dt′ −

∫ t2

t1 C

L(q(t), q(t))dt

= L(q2, q2)∆t2 − L(q1, q1)∆t1 +

∫ t2

t1

(L(q′, q′) − L(q, q)) dt

= [L∆t]t2t1 +

∫ t2

t1

δL(q, q)dt. (6)

同じ時刻におけるラグランジアンの変化は作用原理で使った変分なので、運動方程式を導いたときと同じ計算をすればよい。 d

dtδq(t) = δq(t)に注意して部分積分を行うと

∆S(q1, t1, q2, t2) = [L∆t]t2t1 +

∫ t2

t1

∑i

(δqi

∂L(q, q)

∂qi

+ δqi∂L(q, q)

∂qi

)dt

= [L∆t]t2t1 +

[∑i

∂L

∂qiδqi

]t2

t1

+

∫ t2

t1

∑i

(∂L(q, q)

∂qi− d

dt

∂L(q, q)

∂qi

)δqidt (7)

ここで、実際に運動が起きる経路を考えているので最後の項は運動方程式により零になる。右辺第2項に (5)を用いると

∆S(q1, t1, q2, t2) =

[∑i

pi∆qi − (∑

i

piqi − L)∆t

]t2

t1

=

[∑i

pi∆qi − H∆t

]t2

t1

=∑

i

p2i ∆q2

i − H∆t2 −∑

i

p1i ∆q1

i + H∆t2 (8)

2

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これより、次の関係式が得られる

p2i =

∂S

∂q2i

, H(q2i , p

2i ) = −∂S

∂t(9)

p1i = − ∂S

∂q1i

, H(q1i , p

1i ) =

∂S

∂t

初期値 t1, q1を固定して、到達点を色々動かすために t2, q2i を改めて t, qiと書くことに

すれば (9)より

pi =∂S

∂qi(10)

H(qi, pi) = −∂S(qi, t)

∂t(11)

(10)を (11)に代入すれば、ハミルトンの主関数 S(qi, t)は

H(qi,∂S

∂qi

) = −∂S(qi, t)

∂t(12)

という偏微分方程式を満たすことが分かる。これをハミルトン・ヤコビの偏微分方程式という。

S

ハミルトンの主関数 S(qi, t)は空間の各点に場を定義している。時間が経つと S(qi, t)

が一定となる面は配位空間の中を波となって次々に移動してゆく。その場の時間的空間的変化を決定するのがハミルトン・ヤコビの偏微分方程式である。粒子の運動量は (10)

より

p(q, t) = ∇S(q, t) (13)

で与えられるので、運動量の方向は S(qi, t)一定の面に垂直である。丁度光が位相一定の面に垂直な方向に進むのと同じように、粒子は配位空間の中で S(qi, t)一定の面に垂直な方向に進む。

3

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6.2 正準変換とハミルトン・ヤコビの偏微分方程式

ハミルトンの主関数 S(Q, t1, q, t)は時刻 tにおける正準変数 q, pから時刻 t1における初期値Q, P への正準変換の母関数と見なすことができる。これを見るために、q, Qを独立変数に選んだ場合の正準変換 (q, p) → (Q, P )

pi =∂F1(q, Q, t)

∂qi

, (i = 1, · · · , N) (14)

Pi = −∂F1(q, Q, t)

∂Qi

(15)

K(Q, P, t) = H(q, p, t) +∂F1(q, P, t)

∂t(16)

を考える。新しいハミルトニアンKがゼロになるように母関数F1(q, Q, t)を選べば、Q, P

に対する正準方程式より、

Qi =∂K

∂Pi

= 0

Pi = − ∂K

∂Qi= 0

となるので、新しい正準変数 Q, P は定数となり初期値と見なすことができる。(14)および (16)はハミルトン・ヤコビ方程式 (10)(11)に一致するので、ハミルトンの主関数S(Q, t1, q, t)は時刻 tにおける正準変数 q, pから時刻 t1における初期値Q, P への正準変換の母関数であることがわかる。

[ 例題 1 ] 自由粒子の場合にハミルトンの主関数を求め、ハミルトン・ヤコビの偏微分方程式を満たすことを確かめよ。[ 解 ] 時刻 t1に点 q1を出発し時刻 t2に点 q2に到着する自由粒子は速度

q =q2 − q1

t2 − t1

で等速直線運動をするのでハミルトンの主関数は

S(q1, t1, q2, t2) =

∫ t2

t1

m

2q2dt =

m

2· (q2 − q1)

2

t2 − t1(17)

これより

∂S(q1, t1, q2, t2)

∂q2

= m · q2 − q1

t2 − t1= p2, −∂S(q1, t1, q2, t2)

∂t2=

m

2·(

q2 − q1

t2 − t1

)2

=p2

2

2m

となり、たしかに (9)を満たすことが分かる。

4

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6.3 ハミルトン・ヤコビの偏微分方程式を用いた解法

この節では、ハミルトン・ヤコビの偏微分方程式を用いて力学の問題を解く方法について述べる。ここで用いるハミルトン・ヤコビ偏微分方程式は前節のものと同じであるが、正準変換の母関数に入ってくる定数を正準運動量と見なす方が自然なので、Qと P

の役割を入れ替えて母関数F2(q, P, t)による正準変換を用いることにする。q, P を独立変数に選んだ場合の正準変換 (q, p) → (Q, P )は

pi =∂F2(q, P, t)

∂qi, (i = 1, · · · , N) (18)

Qi =∂F2(q, P, t)

∂Pi(19)

K(Q, P, t) = H(q, p, t) +∂F2(q, P, t)

∂t(20)

であった。新しいハミルトニアンKがゼロになるように母関数F2(q, P, t)を選べば、Q, P

に対する正準方程式より、

Qi =∂K

∂Pi

= 0

Pi = − ∂K

∂Qi

= 0

となるので、新しい正準変数は定数となる。ハミルトン・ヤコビの方法� ✏

ハミルトン・ヤコビの偏微分方程式

H

(qi,

∂S(q, t)

∂qi

)+

∂S(q, t)

∂t= 0 (21)

の「完全解」とは、任意定数αi (i = 1, · · · , N)をN 個含む解のことをいう。ただし、Sの微分しか (21)に現れないので、Sの単なる定数項は除いておく。この任意定数を新しい運動量 Piと見なす。式 (19)で求められる共役な座標もまた定数なので、これを βiとおくことができる。すなわち

∂S(q, t, α)

∂αi

= βi (22)

この式を qiについて解けば、qiを 2N個の任意定数αi, βiと時間の関数として表すことができる。2N 個の初期条件よりこれらの定数を決めれば、qi(t)が完全に定まり、piは (18)に Sを代入した

pi =∂S(q, t, α)

∂qi(23)

を使えば求めることができるというのがハミルトン・ヤコビ方程式を用いた解法である。

✒ ✑

5

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[ 例題 2 ] 自由粒子の場合にハミルトン・ヤコビ方程式を解け。[解] 偏微分方程式の一般解を求めるのは難しいが、自由度はN = 1なので任意定数を一個含む解を求めれば良い。ハミルトン・ヤコビ方程式 (21)の時間依存性は時間に関する一階微分が足し算の形で入っているだけなので、次のような形を仮定して解いてみる。

S(q, t) = W (q) − αt. (24)

αを定数とすれば、W (q)に関する微分方程式に帰着するので簡単に積分することができる。変数 qと tが (24)のように和の形に分かれている時、変数分離形と呼ぶ。変数分離形の仮定 (24)を自由粒子に対するハミルトンヤコビ方程式に代入すると

1

2m

(dW (q)

dq

)2

= α

これを解くと

W (q) =√

2mαq (25)

となるので、これを (24)に代入すると

S(q, α, t) =√

2mαq − αt (26)

ここで、Sを定数 αの関数と見なした。この αを正準変換で移った新しい運動量 P と見なすと、新しい座標Qも定数なので

Q =∂S(q, α, t)

∂α=

√m

2αq − t = β (27)

p =∂S(q, α, t)

∂q=

√2mα

(27)を逆に qについて解いて、定数 α, βを含む次の解を得る。

q =

√2α

m(t + β), p =

√2mα.

6.4 調和振動子に対するハミルトン・ヤコビの方法

1

2m(∂S

∂q)2 +

mω2

2q2 +

∂S

∂t= 0 (28)

の解を次のように変数を分離した形

S(q, t) = W (q) − αt (29)

に仮定すると

1

2m

(∂W (q)

∂q

)2

+mω2

2q2 = α (30)

6

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これよりW (q)を求めると

W (q) =√

2m

∫ √α − mω2

2q2dq. (31)

(29)(31)を (22)に代入すると√m

2

∫1√

α − mω2

2q2

dq − t = β. (32)

この積分を実行すると

1

ωsin−1

(√mω2

2αq

)− t = β.

これを qについて解くと

q(t) =

√2α

mω2sinω(t + β)

ここで、α, βを初期条件を満たすように決めればよい。p(t)の方は (23)から求めることができる。

p(t) =√

2m

√α − mω2

2q2 =

√2mα cosω(t + β) (33)

新しい運動量に選んだ定数 αは、(30)から分かるようにエネルギーである。共役な新しい座標 βは位相を表している。

6.5 中心力ポテンシャルに対するハミルトン・ヤコビの方法

ポテンシャルエネルギーが r = |�x|だけの関数の場合の2次元の極座標を用いるのが便利である。この場合のハミルトニアンは

H =1

2m

(p2

r +p2

φ

r2

)+ V (r) (34)

エネルギーが保存する場合には、調和振動子の場合に行ったように、時間依存性を次の形に分離する事ができる。

S(r, φ, t) = W (r, φ) − α1t (35)

の形に仮定すると、W (r, φ)は次の形のハミルトンヤコビ方程式の解である。

1

2m

((∂W (r, φ)

∂r

)2

+1

r2

(∂W (r, φ)

∂φ

)2)

+ V (r) = α1 (36)

7

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φ依存性と r依存性が次のように分離する場合を考える。

W (r, φ) = W1(r) + α2φ (37)

これを (38)に代入すると

1

2m

((dW1(r)

dr

)2

+α2

2

r2

)+ V (r) = α1 (38)

これを解いて (37)に代入すると

W (r, φ, α1, α2) =

∫dr

√2m(α1 − V (r)) − α2

2

r2+ α2φ (39)

ここで (22)を用いると

∂W (r, φ, α1, α2)

∂α1=

∫mdr√

2m(α1 − V (r)) − α22

r2

= t + β1 (40)

∂W (r, φ, α1, α2)

∂α2

= −∫

α2dr

r2

√2m(α1 − V (r)) − α2

2

r2

+ φ = β2 (41)

これを r, φ について解けば、4 個の任意定数を含む解が求められる。この任意定数はr, pr, φ, pφの4つの初期条件により決められる。pr, pφは (23)から求めることができる。

pr =∂W (r, φ, α1, α2)

∂r=

√2m(α1 − V (r)) − α2

2

r2

pφ =∂W (r, φ, α1, α2)

∂φ= α2

(40)が時間依存性を決めるのに対し、(41)は時間を含まないので軌道を決める式である。

8