13
Activity Report 2008-3 KEK Progress Report 2008-3 1.2 Geant4、高度放射線医療のためのシミュレーション基盤の開発 佐々木節、村上晃一、岩井剛、歳藤利行、川端節彌 1.2.1 はじめに Geant4 の維持、開発は、世界中の研究機関共同による Geant4 コラボレーション組織 の下で行われている。計算科学センターは、日本グループの活動のホストとしての役割を果し ている。また、ユーザサポートとして、研究会や講習会などを定期的に開催している。研究開 発面では、Geant4 の利用促進という観点から、高エネルギー、原子核実験にとどまらず、 学際分野への応用を広げる活動を積極的に行っている。2007 年度は、以下のテーマの共同 研究を行った。 · JST/CREST プロジェクト「高度放射線医療のためのシミュレーション基盤の構築」 · AIL 日仏共同研究 New developments of the Geant4 Monte Carlo simulation toolkit· 放医研 HIMAC 共同実験、P152 / P231「宇宙・医療分野へのエマルションチェン バー技術の応用のための研究」/「炭素線治療における線量計算の精密化のための Charge-Changing Cross Section の測定」 · 大学連携支援事業「シミュレーション・ソフトウェア Geant4 を用いた加速器物理 の教育コンテンツ作成と学習支援システムの開発」 1.2.2 Geant4 コラボレーションの運営 Geant4 コラボレーションでは、様々な委員会のもと、コラボレーションの運営が図られ ている。日本グループからも Oversight Board Steering Board の委員として、コラボレ ーションの運営に携わっている。日本グループは、トラッキング、粒子と物理過程、ユー ザインターフェース、可視化、ドキュメンテーション管理、ウェブサービスなど主要な部 分の責任者となり、 Geant4 の開発に主要な貢献を果している。 2007 年度は、 3 回のバージ ョンリリース(8.39.09.1)6 件のマイナーパッチを公開した。 1.2.3 ユーザサポート ユーザサポート活動として、研究会や講習会なども定期的に開催している。2007 年度開 催した講習会・セミナーとその参加者数を下表に示した。東北大の講習会では、初めての 試みとして、VMWare の仮想マシン上に Geant4 一式をインストールした教材を用意し、 演習に用いた。その結果、インストール等のユーザ環境によるトラブルはほとんどなく、 スムースな実習が行えた。また、2 月のセミナーでは、Geant4 がインストールされた LiveDVD を作成して配布した。DVD から Geant4 がインストールされた Linux システム

1.2 Geant4、高度放射線医療のためのシミュレーション基盤の ... …research.kek.jp/group/crc/act/ProgRep2008-3/1.2.Geant4... · 2009. 6. 4. · ザインターフェース、可視化、ドキュメンテーション管理、ウェブサービスなど主要な部

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Activity Report 2008-3 KEK Progress Report 2008-3

1.2 Geant4、高度放射線医療のためのシミュレーション基盤の開発

佐々木節、村上晃一、岩井剛、歳藤利行、川端節彌

1.2.1 はじめに

Geant4 の維持、開発は、世界中の研究機関共同による Geant4 コラボレーション組織

の下で行われている。計算科学センターは、日本グループの活動のホストとしての役割を果し

ている。また、ユーザサポートとして、研究会や講習会などを定期的に開催している。研究開

発面では、Geant4 の利用促進という観点から、高エネルギー、原子核実験にとどまらず、

学際分野への応用を広げる活動を積極的に行っている。2007 年度は、以下のテーマの共同

研究を行った。 · JST/CREST プロジェクト「高度放射線医療のためのシミュレーション基盤の構築」 · AIL 日仏共同研究 「New developments of the Geant4 Monte Carlo simulation

toolkit」 · 放医研 HIMAC 共同実験、P152 / P231「宇宙・医療分野へのエマルションチェン

バー技術の応用のための研究」/「炭素線治療における線量計算の精密化のための

Charge-Changing Cross Section の測定」 · 大学連携支援事業「シミュレーション・ソフトウェア Geant4 を用いた加速器物理

の教育コンテンツ作成と学習支援システムの開発」 1.2.2 Geant4 コラボレーションの運営

Geant4 コラボレーションでは、様々な委員会のもと、コラボレーションの運営が図られ

ている。日本グループからも Oversight Board や Steering Board の委員として、コラボレ

ーションの運営に携わっている。日本グループは、トラッキング、粒子と物理過程、ユー

ザインターフェース、可視化、ドキュメンテーション管理、ウェブサービスなど主要な部

分の責任者となり、Geant4 の開発に主要な貢献を果している。2007 年度は、3 回のバージ

ョンリリース(8.3、9.0、9.1)と 6 件のマイナーパッチを公開した。

1.2.3 ユーザサポート ユーザサポート活動として、研究会や講習会なども定期的に開催している。2007 年度開

催した講習会・セミナーとその参加者数を下表に示した。東北大の講習会では、初めての

試みとして、VMWare の仮想マシン上に Geant4 一式をインストールした教材を用意し、

演習に用いた。その結果、インストール等のユーザ環境によるトラブルはほとんどなく、

スムースな実習が行えた。また、2 月のセミナーでは、Geant4 がインストールされた

LiveDVD を作成して配布した。DVD から Geant4 がインストールされた Linux システム

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Activity Report 2008-3 KEK Progress Report 2008-3

が立上げられるので、Geant4 のデモ用途として有用であった。VMWare 環境を利用した教

材を使った講習会の成功事例はフランスからも報告されており、今後、日仏の共同研究や

コラボレーション活動の枠組の中でも、こうした講習用教材、デモンストレーション素材

の共有をしていくことを計画している。

実施日時 実施場所 参加人数 2007 年 8 月 3−4 日 北里大 23 名

2007 年 10 月 17−19 日 東北大 60 名 2008 年 2 月 12 日 東大 56 名

研究会関連では、2 月に 5th Geant4 Space Users’ Workshop が東大で開催された。計算

科学センターからは、Scientific and Program Committee、Local Organization Committeeの委員としてワークショップの運営に協力した。また、Geant4 の開発者側からの報告とし

て、開発状況の報告を行った。この研究会は、Geant4 の宇宙分野関連のユーザのための国

際ワークショップで、宇宙分野での利用例の報告や新しい機能要件の収集の場として機能

している。 1.2.4 高度放射線医療のためのシミュレーション基盤の開発 がんの放射線治療、特に粒子線治療をシミュレーションするために必要なソフトウェア一

式を開発することを目標の研究を続けている。粒子線治療には、陽子線、または炭素線が

用いられている。双方とも、線量分布が局所化し、がんをピンポイントで治療することが

可能であり、なおかつ副作用を軽減できることが知られている。炭素線は、陽子線に比べ

て、さらに生物学的効果が高く、線量分布の局所性も高いので、陽子線よりもさらにすぐ

れた性質があると考えられている。しかし、炭素と物質の相互作用は複雑で、技術的に利

用するには未だ解明すべきことが多くある。陽子線、炭素線両方の場合に対して、実験結

果との詳細な比較を行いつつ、結果の正当性の検証を慎重に行ってきた。 開発しているソフトウェアを大きく分けると、各施設の実装に用いるソフトウェアツー

ルキット、粒子と物質の相互作用を扱い、線量を計算するための線量計算エンジン、可視

化ソフトウェア、グリッドコンピューティング対応部分に分けられる。各施設に対応する

ために必要なソフトウェアツールキットは、これまでに、放射線医学研究所(炭素)、国立が

んセンター東病院(陽子)、兵庫県立粒子線医療センター(陽子、炭素)、米国カリフォルニ

ア州立大学サンフランシスコ校(陽子)、イタリア CATANA(陽子、炭素)、ドイツ GSI(炭素)の各施設の実装に用いられている。以下の表に国内外の粒子線治療施設の対応状況を示し

た。それぞれの施設は、異なった照射ビームラインを使用しているが、すでに用意されて

いるソフトウェア部品を利用してシミュレーションのためのジオメトリの実装をすること

が可能となっている。オブジェクト指向法を採用して設計実装が行われているため、容易

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Activity Report 2008-3

に新しい施設の実装が行えるようなっている

施設 加速器

HIBMC Gantry

(日本)

シンクロ

トロン

NCC Gantry

(日本)

サイクロ

トロン

UCSF

(米国)

サイクロ

トロン

HIMAC

(日本)

シンクロ

トロン

HIBMC

(日本)

シンクロ

トロン

GSI

(ドイツ)

シンクロ

トロン

CATANA

(イタリア)

シンクロ

トロン

これらの各施設と協力し、シミュレーション結果の正当性の検証に取り組んでいる。下

図は、兵庫県医療センターでの、実際の患者に対する線量分布を治療計画装置と我々のシ

ミュレーション・ソフトウェアの間で比較を行った例である。左側の画像は、本プロジェ

クトで開発を行っている gMocren算の高速化のため、粒子と物質の

出てくる。

KEK Progress Report 2008

設の実装が行えるようなっている。

国内外粒子線治療施設対応の状況 ビーム線種・エネルギー ビーム拡散方式

陽子線: 150,190,230 MeV

ワブラー磁石

散乱体

陽子線: 150,190,235 MeV

散乱体

二重散乱体

陽子線: 67.5 MeV

炭素線: 400 MeV/u ワブラー磁石

散乱体

炭素線: 320 MeV/u ワブラー磁石

散乱体

炭素線: ~ 400 MeV/u ビームスキャン

ニング

陽子線: 45 ~ 100 MeV

炭素線: ~ 50 MeV/u

これらの各施設と協力し、シミュレーション結果の正当性の検証に取り組んでいる。下

図は、兵庫県医療センターでの、実際の患者に対する線量分布を治療計画装置と我々のシ

ミュレーション・ソフトウェアの間で比較を行った例である。左側の画像は、本プロジェ

gMocren によって可視化されたものである。治療計画装置は、計

算の高速化のため、粒子と物質の相互作用を正確に扱っていないので、テール部分に差が

KEK Progress Report 2008-3

ビーム拡散方式 レンジ調整

リッジフィルター

リッジフィルター

プロペラ板

リッジフィルター

リッジフィルター

ビームスキャン リッジフィルター

プロペラ板

これらの各施設と協力し、シミュレーション結果の正当性の検証に取り組んでいる。下

図は、兵庫県医療センターでの、実際の患者に対する線量分布を治療計画装置と我々のシ

ミュレーション・ソフトウェアの間で比較を行った例である。左側の画像は、本プロジェ

によって可視化されたものである。治療計画装置は、計

テール部分に差が

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Activity Report 2008-3

シミュレーション

治療計画装置

CT 画像と Geant4 で計算した線量分布を同時に

ェア gMocren の開発を継続して行った

機能を追加した。線量分布の表示機能、カラーマップの編集機能、放射線飛跡のオーバレ

イ機能などを追加した。 計算の高速化のため、グリッド技術を利用し、並列計算をするための基盤整備も進んで

いる。ヨーロッパで開発された

ている NAREGI の双方の環境で実行できるようになった。今後は、物理プロセスの計算精

度の向上に努めると共に、GSI果の正当性の検証を行っていく。また、台湾において

ど、新たな施設が次々と建設される予定があるので、それらの施設への対応も検討してい

る。また、グリッド化に頼るだけではなく、コード全体の見直しを図るほか、ア

ムの検討を行い、計算時間の短縮を図ることが必要とされ

KEK Progress Report 2008

シミュレーション(左)と治療計画装置(右)による CT 画像上の線量分布

治療計画装置(実線)とシミュレーション結果(点)の比較

で計算した線量分布を同時に 3 次元表示するための画像処理ソフトウ

の開発を継続して行った。これまでの 3 次元表示機能に加えて、様々な操作

機能を追加した。線量分布の表示機能、カラーマップの編集機能、放射線飛跡のオーバレ

、グリッド技術を利用し、並列計算をするための基盤整備も進んで

ヨーロッパで開発された gLite と呼ばれるミドルウエア、および日本国内で開発され

の双方の環境で実行できるようになった。今後は、物理プロセスの計算精

GSI 等の施設で用いられているビースキャニング法に対する結

果の正当性の検証を行っていく。また、台湾において 3 つの粒子線施設の建設が決まるな

ど、新たな施設が次々と建設される予定があるので、それらの施設への対応も検討してい

る。また、グリッド化に頼るだけではなく、コード全体の見直しを図るほか、ア

ムの検討を行い、計算時間の短縮を図ることが必要とされている。

KEK Progress Report 2008-3

画像上の線量分布

次元表示するための画像処理ソフトウ

次元表示機能に加えて、様々な操作

機能を追加した。線量分布の表示機能、カラーマップの編集機能、放射線飛跡のオーバレ

、グリッド技術を利用し、並列計算をするための基盤整備も進んで

と呼ばれるミドルウエア、および日本国内で開発され

の双方の環境で実行できるようになった。今後は、物理プロセスの計算精

ング法に対する結

つの粒子線施設の建設が決まるな

ど、新たな施設が次々と建設される予定があるので、それらの施設への対応も検討してい

る。また、グリッド化に頼るだけではなく、コード全体の見直しを図るほか、アルゴリズ

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Activity Report 2008-3

gMocren

1.2.5 放医研 P152 / P231

実際に炭素線のシミュレーションを行っていると、核破砕反応

が、比較する実験データはなかなか存在しない。そこで、

を利用したビームテスト実験を計画した。

取し、シミュレーションモデルの基礎データや検証に貢献していくことが目標である。

HIMAC P152 実験では、エマルジョンチェンバーを利用して、炭素イオンと水、ポリカーボネー

トの荷電変換断面積の測定を行った。

の 8Be、9B の生成断面積測定の解析が行

P152 実験の後継として、HIMAC

能を改良するために、エマルジョンと

と CR-39 のデータは、独立の読出し装置で解析されるので、それぞれの測定の位置合せが最

初の課題となる。現在、位置合せの解析が行われていて、概ね良好な結果を得ている

には、エマルジョンと CR-39 での

の電荷識別はでいないが、CR

KEK Progress Report 2008

gMocren による 3 次元表示と処理機能

P152 / P231 実験 実際に炭素線のシミュレーションを行っていると、核破砕反応のモデルの精度が重要となる

が、比較する実験データはなかなか存在しない。そこで、放射線総合研究所の

を利用したビームテスト実験を計画した。炭素線の核破砕反応に関する系統的なデータを

モデルの基礎データや検証に貢献していくことが目標である。

実験では、エマルジョンチェンバーを利用して、炭素イオンと水、ポリカーボネー

トの荷電変換断面積の測定を行った。今年度は、バイプロダクションとして、炭素線

の生成断面積測定の解析が行われ、投稿論文として準備中である。

HIMAC P231 実験が採択された。P231 実験では、荷電識別の性

能を改良するために、エマルジョンと CR-39 の複合型の検出器を開発している。

のデータは、独立の読出し装置で解析されるので、それぞれの測定の位置合せが最

。現在、位置合せの解析が行われていて、概ね良好な結果を得ている

でのパルスハイトの分布を示す。エマルジョン単体では、

CR-39 とハイブリッドにすることで、これらの大きい電荷の識別が可

KEK Progress Report 2008-3

の精度が重要となる

放射線総合研究所の HIMAC 施設

炭素線の核破砕反応に関する系統的なデータを採

モデルの基礎データや検証に貢献していくことが目標である。これまで、

実験では、エマルジョンチェンバーを利用して、炭素イオンと水、ポリカーボネー

今年度は、バイプロダクションとして、炭素線の水中で

準備中である。

実験では、荷電識別の性

ている。エマルジョン

のデータは、独立の読出し装置で解析されるので、それぞれの測定の位置合せが最

。現在、位置合せの解析が行われていて、概ね良好な結果を得ている。下図

エマルジョン単体では、Z=3 以上

とハイブリッドにすることで、これらの大きい電荷の識別が可

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Activity Report 2008-3

能になっている。

1.2.6 教育分野への応用

Geant4 を放射線教育の分野に応用のための開発を行っている

程を記述でき、個々の素粒子の反応を可視化する機能を持っている。そのため、

放射線教育に利用することは非常に有用である。教育用のコースマテリアルとして、放射

線教育のためのドキュメンテーションのウェブ上での編集管理手法の検討と、

った教育用アプリケーションの開発を行った

ョン例のプロトタイプを作成してきたが、

として実装し、Web サービスとして広く利用してもらうことを目標

コンテンツに関しては、

っている。これらのコンテンツを教育用コースマテリアルとして再編集

ス側には電磁相互作用の開発者がいるので

ーションの整備に関して共同で

Web アプリケーションの開発は

イプの作成を行った。Pythonプリケーションを容易に開発できる。これまで

発し、Python 上から Geant4リを用いた「仮想実験室」ウェブアプリケーションのプロトタイプの例を下図に示した。

を利用することで、GUI のようなアプリケーションを

の技術は今も急速に進歩しているので、

必要となる。また、Web サービス

KEK Progress Report 2008

を放射線教育の分野に応用のための開発を行っている。Geant4

程を記述でき、個々の素粒子の反応を可視化する機能を持っている。そのため、

放射線教育に利用することは非常に有用である。教育用のコースマテリアルとして、放射

線教育のためのドキュメンテーションのウェブ上での編集管理手法の検討と、

った教育用アプリケーションの開発を行った。これまで、GUI を使った教育アプリケーシ

ョン例のプロトタイプを作成してきたが、さらに進んで、これらを Web アプリケーション

サービスとして広く利用してもらうことを目標としている

、物理過程の詳細を記述したドキュメントが既に

テンツを教育用コースマテリアルとして再編集していく

側には電磁相互作用の開発者がいるので、コースマテリアルの編集手法

共同で作業を行った。 アプリケーションの開発は、Python ベースのフレームワークを用いて、プロトタ

Python をソフトウェアバスとして利用することで、様々な形態のア

プリケーションを容易に開発できる。これまで、Geant4 の Python インターフェースを

Geant4 を直接コントロールできている。JavaScript

ウェブアプリケーションのプロトタイプの例を下図に示した。

のようなアプリケーションを Web 上で実現できる。Web

急速に進歩しているので、フレームワークや JavaScript ライブラリの

サービスでシミュレーション環境を提供することを考えると、

KEK Progress Report 2008-3

Geant4 は豊富な物理過

程を記述でき、個々の素粒子の反応を可視化する機能を持っている。そのため、Geant4 を

放射線教育に利用することは非常に有用である。教育用のコースマテリアルとして、放射

線教育のためのドキュメンテーションのウェブ上での編集管理手法の検討と、Geant4 を使

を使った教育アプリケーシ

アプリケーション

としている。 既に Geant4 にそろ

していく。フラン

コースマテリアルの編集手法やドキュメンテ

ベースのフレームワークを用いて、プロトタ

をソフトウェアバスとして利用することで、様々な形態のア

インターフェースを開

JavaScript の ExtJS ライブラ

ウェブアプリケーションのプロトタイプの例を下図に示した。Ajax技術

Web アプリケーション

ライブラリの評価がまだ

環境を提供することを考えると、分散環境へ

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Activity Report 2008-3

の対応は必須であり、今後の課題である。

への Web インターフェースなどの実装を

「仮想実験室」

KEK Progress Report 2008

必須であり、今後の課題である。バックエンドのクラスタ環境との接続や、グリッド環境

インターフェースなどの実装を進めていく計画である。

「仮想実験室」ウェブアプリケーションの実装例

KEK Progress Report 2008-3

バックエンドのクラスタ環境との接続や、グリッド環境

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1.3 GRACE 植田高寛、A.Bredenstein、鈴木聡

湯浅富久子、石川正、金子敏明、川端節彌

1.3.1 はじめに 平成 16 年度より、「素粒子物理学における自動計算」プロジェクトが日仏露の3国間の

国際共同研究により開始された。本機構においては、素粒子原子核研究所および共通研究

基盤施設・計算科学センターがこの国際共同研究に参加している。また NLO イベントジェ

ネレータの開発は平成 17年より開始した日仏 2国間共同研究(日本学術振興会)の一環で

進めている。またフランスとの AIL に GRACE グループも参加している。

1.3.2 QCD の NLO 計算のための解析的ライブラリ LHC 実験を解析するためには、摂動論的 QCD の信頼できる計算結果とそれに基づくイベ

ントジェネレータの整備が不可欠である。最低次のトリーレベルの計算では、結果が繰り

込み点に強く依存しており、理論計算が十分な信頼性が得られない。これを改善するため

には、少なくとも NLO と呼ばれる次の摂動の次数を計算する必要がある。一方、摂動論的

QCD では極めて軽いクォークと質量のないグルーオンの反応が主となるため、電弱理論と

は異なる赤外発散の処理が行われており、イベントジェネレータと連結させるためには、

その処理法に基づき信頼性のある効率的なテンソル・ループ積分法が不可欠となる。

平成 19 年度には NLO 計算の自動化実現のため、これまで解析的計算と数値計算とを組

み合わせた方法によりボックス・テンソルループ積分ライブラリを開発したが、これをよ

り効率化し精度を向上させるため、純解析的方法によるものに開発を行った。

1.3.3 仮想光子パートン分布と構造関数 仮想光子の輻射補正による構造を表すために、核子の場合の類推として、パートン分布

関数、および構造関数を定義することができる。その一部は LEP 実験で測定されているが、

将来の ILC 実験では、さらなる精密測定が可能になると期待される。これらの関数は、一

般には非摂動論的な寄与を含むが、高エネルギー領域では、QCD の持つ漸近的自由性という

特徴から、摂動論的 QCD により計算可能な寄与が支配的になる。

これまでに非偏極の場合の仮想光子構造関数については、摂動論的 QCD による NNLO まで

の寄与が計算されていたが、平成 19 年度は、非偏極仮想光子内パートン分布関数について

の NNLO までの評価を行った。また、非偏極仮想光子構造関数については、標的質量効果を

取り入れた場合についての評価も行った。

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1.3.4 LHC プロセスの輻射補正計算 A.Bredenstein が平成 19 年 11 月 30 日に外国人特別研究員として、GRACE グループに滞

在して LHC 実験解析を目的とした、pp→ttbb+X に関する研究を進めている。彼らのグルー

プにおいても自動化のためのループ計算ライブラリが整備され、1ループ積分の 5点関数ま

で計算可能となっており、GRACE グループとの研究情報交換を行った。今後 GRACE グループ

で開発しているループ計算ライブラリとの比較を行い、それぞれのライブラリの信頼性を

一層向上させることができることが期待される。

1.3.5 完全数値的ループ積分法 場の理論の摂動論での高次補正の解析のためには、ループ積分と呼ばれる多次元の複素

積分を求めることが必要である。このループ積分を多倍長ライブラリを使い「全てを数値

的に扱う方法」で計算することを目標に研究をすすめている。これまでの研究で、

(ア) ループ積分に現れる解析性を指定する微小量(ε)を有限化する。

(イ) εを減少させていき対応する積分値の数列を求める。

(ウ) 加速法によりε→0における数列の極限を求める。

ことにより目的の積分結果を得るという手法が、ある特定の物理プロセスに対して有効

であることがわかっている。ループ積分は多次元積分であるがεが有限の場合、適切な多

次元数値積分法を用いればεに対応した積分値の数列を数値的に求めることができる。

(1) 弱電磁理論における直接積分法

平成 19 年度前半には、赤外発散をもつループ積分の計算を実施した。具体的には、1ル

ープ積分のバーテックス型およびボックス型について、他倍長ライブラリを用いることで

大変精度よく計算できることを示した。計算時間の短縮という課題は残ったが、得られた

成果を 2007 年 4 月の ACAT2007 国際会議で発表した。

平成 19 年度後半には、多次元数値積分法について調査・研究を行った。二重指数関数型

積分方法(DE 法)がこれまでの DQ(Quadpack パッケージ)法に比べて、「CPU 時間を事前

に評価できる」、「並列化が容易である」という利点をもつため、この方法を用いて赤外発

散をもつ1ループ積分の計算を実施した。さらに並列化された DE 法では計算時間を大幅に

短縮することができた。得られた成果を 2008 年 3月の情報処理学会 HPC/ARC 研究会で発表

した。並行して Bailey アルゴリズムによる多倍長計算法の評価を行い、同じく 2008 年 3

月の情報処理学会 HPC/ARC 研究会で研究成果を発表した。

(2) Sector decomposition アルゴリズムによる数値計算

QCD における赤外発散を含むループ積分では、発散する積分を定義するために、おもに次

元正則化という手法が用いられる。これは、4次元空間での積分を n次元空間での積分に解

析接続して定義しようというものであり、n → 4 の極限で現れる発散は、1/(n-4)k の形の

極として表される。Sector decomposition アルゴリズムを用いると、一般のループ積分に

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対し、赤外発散の極を機械的に取り出すことができ、そのローラン展開の係数は、多次元

数値積分により求めることができる。

平成 19 年度は、この sector decomposition アルゴリズムを数式処理ソフトウェア FORM

を用いて実装し、さらにローラン展開の係数の多次元数値積分を、ε→ 0 における極限を

適当な加速法によって求めることで、次元正則化における 1 ループ積分のバーテックス型

およびボックス型について計算することができるシステムを作成した。

1.3.6 超対称性理論における GRACE 超対称性理論、とりわけ電弱相互作用の標準模型を超対称性に拡張した MSSM 模型

(Minimal Supersymmetric extension of the Standard Model)の研究は進められてきてい

る。この模型は電弱相互作用の標準模型の超対称性を満たすように拡張した最小の模型で

はあるが、マヨラナ粒子の存在、フェルミ粒子数の非保存等の超対称性に特有な問題を有

している。MSSM 模型のボルン反応の断面積を自動的に計算するプログラム GRACE/SUSY は既

に完成しており、1ループの高次補正計算の自動化に向けて開発を進めてきた。模型に現

れる粒子の数が多く一次のファインマングラフの量は膨大なものになり、しかも繰り込み

理論は非常に複雑なものとなり、自己検査機能が不可欠である。GRACE/SUSY においても標

準模型と同様、非線型ゲージ項を導入し、ゲージパラメータを数値的に変化させることに

より、個々のグラフの寄与は変わるが、全グラフとしては不変であるという物理的な要請

により、この巨大なプログラムの検査を行った。電弱相互作用の susy 粒子以外の部分につ

いては検査を終え、また SUSY-QCD の部分も取り入れたところである。ヒッグス粒子や SUSY

粒子の 2 体崩壊プロセスおよびリニアコライダーにおけるチャージーノ対生成のプロセス

に関する物理結果を公表した。また現在も物理解析を共同研究者が中心となって進めてい

る。

発表論文

[1]Two-body and three-body decays of charginos in one-loop order in the MSSM.

by J.Fujimoto et.al.(including T.Ishikawa)

Phys.Rev.D75:113002,2007.

[2]Results from GRACE/SUSY at one-loop.

by J.Fujimoto et.al.(including T.Kaneko and T.Ishikawa)

International Linear Collider Workshop (LCWS06), Bangalore, India, 9-13 Mar 2006.

Pramana 69:943-946,2007

[3]Status reports from the GRACE group.

by Y.Yasui et.al.(including T.Ishikawa, T.Ueda and F.Yuasa)

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Activity Report 2008-3 KEK Progress Report 2008-3

International Linear Collider Workshop (LCWS07 and ILC07), Hamburg, Germany, 30

May - 3 Jun 2007.

e-Print: arXiv:0710.2957 [hep-ph]

[4]Precise Numerical Evaluation of the Scalar One-Loop Integrals with the Infrared

Divergence.

by F.Yuasa et.al.(including T.Ishikawa)

11th International Workshop on Advanced Computing and Analysis Techniques in

Physics Research (ACAT 2007), Amsterdam, The Netherlands, 23-27 Apr 2007.

e-Print: arXiv:0709.0777 [hep-ph]

[5]NNLO QCD analysis of the virtual photon structure functions

by K.Sasaki, T.Ueda, T.Kitadono and T.Uematsu

8th International Symposium on Radiative Corrections (RADCOR 2007): Application

of Quantum Field Theory to Phenomenology, Florence, Italy, 1-6 Oct 2007.

e-Print: arXiv:0801.3533 [hep-ph]

[6]Virtual Photon Structure Functions to NNLO in QCD.

by T.Ueda, T.Uematsu and K.Sasaki

International Conference on the Structure and Interactions of the Photon and the

17th International Workshop on Photon-Photon Collisions and International Workshop

on High Energy Photon Linear Colliders, Paris, France, 9-13 Jul 2007. e-Print:

arXiv:0801.2811 [hep-ph]

[7]Target Mass Corrections for the Virtual Photon Structure Functions to the

Next-to-next-to-leading Order in QCD.

by T.Kitadono, T.Uematsu, T.Ueda and K.Sasaki

Phys.Rev.D77:054019,2008.

[8]Adler-Bardeen theorem for the axial anomaly and the first moment of the polarized

virtual photon structure function.

by T.Ueda, K.Sasaki and T.Uematsu

17th International Spin Physics Symposium (SPIN06), Kyoto, Japan, 2-7 Oct 2006.

Published in AIP Conf.Proc.915:482-485,2007

[9] Parton distributions in the virtual photon up to NNLO in QCD and

Page 12: 1.2 Geant4、高度放射線医療のためのシミュレーション基盤の ... …research.kek.jp/group/crc/act/ProgRep2008-3/1.2.Geant4... · 2009. 6. 4. · ザインターフェース、可視化、ドキュメンテーション管理、ウェブサービスなど主要な部

Activity Report 2008-3 KEK Progress Report 2008-3

factorization scheme dependence,

by Takahiro Ueda, Tsuneo Uematsu and Ken Sasaki

Prepared for RADCOR 2007.

[10] Mixed QCD-electroweak contribution of Higgs-plus-dijet production at the LHC,

by A.Bredenstein, K.Hagiwara and B. Jager

Physical Review D77 (2008)073004

[11]Bailey アルゴリズムによる多倍長演算の性能評価

石川 正 濱口 信行 情報処理学会研究報告

Vol.2008, No.19 (2008/3/5・6) pp. 25~30 2008-ARC-177-(5)

[12]二重指数関数型積分法の素粒子物理学への応用

湯浅 富久子 濱口 信行

情報処理学会研究報告

Vol.2008, No.19 (2008/3/5・6) pp. 31~36 2008-ARC-177-(6)

会議での発表等

(a) Precise Numerical Evaluation of the Scalar One-Loop Integrals with the Infrared

Divergence.

F.Yuasa

11th International Workshop on Advanced Computing and Analysis Techniques in

Physics Research (ACAT 2007), Amsterdam, The Netherlands, 23-27 Apr 2007.

(b) NNLOまでの QCD高次補正を取り入れた仮想光子中のパートン分布関数の解析

植田高寛

日本物理学会第 62回年次大会、北海道大学、2007年 9月 21-24日

(c) Parton distributions of the virtual photon up to the NNLO in QCD

植田高寛

KEK研究会『核子の構造関数 2008』、KEK、2008年 1月 12日

(d) 二重指数関数型積分法の素粒子物理学への応用

湯浅 富久子

情報処理学会 HPC/ARC 研究会・北海道大学 2008 年 3月 5-6 日

(e) Two-photon 過程における構造関数と R2γ-ratio

植田高寛

日本物理学会第 63回年次大会、近畿大学、2008年 3月 22-26日

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Activity Report 2008-3 KEK Progress Report 2008-3