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患者急変対応システム: パフォーマンスとトレーニング プログラムのデザイン 池上敬一 獨協医科大学越谷病院救命救急センター 日本医療教授システム学会 120417@埼玉県立小児医療センター 1 12417日火曜日

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患者急変対応システム総論と、院内でRRSを導入する手順(Rapid Response Team導入)をまとめました。

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患者急変対応システム:パフォーマンスとトレーニング

プログラムのデザイン池上敬一

獨協医科大学越谷病院救命救急センター日本医療教授システム学会

120417@埼玉県立小児医療センター

112年4月17日火曜日

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ストーリー• 患者急変対応システム

• なぜ必要か?

• グローバルモデルの紹介

• パフォーマンス

• 教育→学習→パフォーマンス

• 院内でのトレーニング体制

• 病院横断的なチーム、ワイガヤ

• パフォーマンス・コンサルティング、トレーニング・マネジャー

• パフォーマンス向上のノウハウを蓄積

• 教育、学習、パフォーマンスの科学・ツール・方法

212年4月17日火曜日

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病院は安全?有害事象と予期せぬ死亡の発生頻度

•有害事象• 6.8%(日本)• 4-16%(欧米)•予期せぬ死亡(看取り以外の死亡)•入院患者の0.4-0.7%

312年4月17日火曜日

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予期せぬ死亡は突然発生?

• 予期せぬ死亡の60-70%の症例では、心停止の6-8時間前に前兆がある

• それなのになぜ心停止が起こるのか?• 前兆に気づけばまだよい• 適切な対応ができない• コミュニケーションが不十分• 対応のトレーニングが不十分• その場に居合わせた人たちの恊働が不十分

412年4月17日火曜日

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日本医療機能評価機構「医療事故情報収集等事業」第18回報告書(090929)

国立病院機構、国立高度専門医療センターなど273施設。今年1-6月。

医療事故報告件数946件(昨年659件)。 死亡76件(8%)、障害残存381件(41.3%) 原因:技術・手技が未熟(テクニカルエラー)4.4% 原因(複数回答):ノン・テクニカルエラー57.6%

確認を怠った、判断を誤った、観察を怠った、説明不足、連携ができていなかった

512年4月17日火曜日

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日本医療機能評価機構「医療事故情報収集等事業」第18回報告書(090929)

技術・手技(テクニカルスキル)だけが事故の原因となることは少ない(4.4%)。

「確認」「アセスメント」「意思決定」「観察」「説明」「連携・チームワーク」といったノン・テクニカルスキル(暗黙知)が事故の大きな原因(57.6%)。

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612年4月17日火曜日

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チームダイナミクス Closed-loopコミュニケーション明確なメッセージ明確な役割と責任自分の限界を知る知識の共有建設的な介入再評価と要約 アメリカ心臓協会ACLS/PALS

712年4月17日火曜日

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Check: 病院では「予期せぬ危険」が起こっているAction: とりあえず安全を担保する必要があるPlan: 医療者のパフォーマンスを向上する「仕組み」が必要Do: 「仕組み」で医療者の成長と発達を継続的に支援する

“CAPD”サイクル

812年4月17日火曜日

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患者急変対応システムRapid Response Systems (RRS)• 管理系• 導入を決定し、予算・リソース・権限を与える

• 入力系• 患者急変への気づき(看護師、研修医、家族)• システムを「ON」にする(METを要請する)• Medical Emergency Teamが到着するまでの対応

• 出力系• METによるクリティカルケア・安定化

912年4月17日火曜日

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患者急変対応システム

4

3939393939

患者急変発生・通常モードで対応不可・迅速対応が必要

急変発生の察知

RRSの起動・RRT/METの要請

早期問題解決・安定化・専門治療

METの現場への派遣と必要な処置

MET; Medical Emergency Team初動に引続き必要な医療を行う

事後検証とシステム改善

病院管理者:システム導入とモニタ

「入力」系 「出力」系

「管理」系1012年4月17日火曜日

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患者急変対応システムRapid Response Systems (RRS)• パフォーマンス・トレーニング・チーム

• 事前

• RCA、パフォーマンス評価

• 必要なトレーニングのデザイン

• 実施(シミュレーション+現場での学習)

• イベント

• 記録

• 事後

• デフュージョン

• 検証、ヒアリング、評価

1112年4月17日火曜日

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オランダの病院(500床)METの例

• Performance/Training Team• ノン・テクニカルスキル重視のトレーニング

• 主治医、病棟の看護師、クリティカルケアが専門の医師および看護師:4名

• 主治医の立場を尊重・主治医にアドバイス• “Medical Education Team”

• 「来てくれてありがとう」、「何かあったらまたよんでください」・・・職場文化が前提

1212年4月17日火曜日

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オランダの大学病院(500床)2008RRSでMETが要請された頻度・理由年間300回弱

日中1/3、夜1/3、深夜1/3要請理由

スタッフの懸念:110回努力呼吸:75回 SAT低下:62回意識の変容:35回ショック:28回頻脈:24回 41

1312年4月17日火曜日

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オランダの大学病院(500床)METが行った処置(2008)

• トップ4(処置全体の50%)• ルート確保・点滴、酸素投与• 動脈血ガス分析、抗生剤投与

• その他(40%)• 利尿剤投与、気道吸引• X線撮影、超音波検査、CT• CPAP、12誘導心電図• 専門科へのコンサルト• 吸入療法、鎮静・鎮痛剤投与、輸血

1412年4月17日火曜日

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オランダの大学病院(500床)RRSの効果(2008)

• RRSの使用頻度が高まるにつれ予期せぬ心停止の頻度は低下する

• 早期発見、早期対応がキー• 新人看護師、研修医で十分対応可• むしろ学習効果が期待できる

• ICUへの移動は20%1512年4月17日火曜日

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Change in MET use over time at Austin

MET calls in 2007: 147/month

Ken Hillman

1612年4月17日火曜日

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Correlation between MET calls and cardiac arrests

Dose and cardiac arrests at AustinKen Hillman

1712年4月17日火曜日

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1812年4月17日火曜日

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1912年4月17日火曜日

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Ken Hillman

2012年4月17日火曜日

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Ken Hillman

2112年4月17日火曜日

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We thought we had to put a MET in place and all would be ok – we were wrong

We have learned education was vital We have learned that education must

never stop We have learned that targeting all

people and all aspect of the process is vital

MET = Medical Education TeamRinaldo Bellomo in Copenhagen 2009

Evolution

2212年4月17日火曜日

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Challenges Lack of evidence Lack of resourcesA hospital wide plan is needed”No quick fixes”

2312年4月17日火曜日

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先行研究

•組織のリーダーシップ・支援が不可欠•MET<<RRT•導入から効果発現まで時間を要する• RRS導入チームの存在•組織内の文化・学習に対する価値観

2412年4月17日火曜日

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RRS(広義)とは患者安全に関わるパフォーマンスを継続的に向上する職場内学習・訓練体制=人材育成の仕組み

2512年4月17日火曜日

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RRS導入=人材育成のイノベーション• 効果・効率・魅力を高める• デザイン• 学習サイエンス、教授システム学(ID)

• インストラクション• ID美学原理、ARCSモデル、ID第一原理

• エキスパート養成

2612年4月17日火曜日

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RRS導入=人材育成のイノベーション• 効果的・効率的・魅力的を高める• デザイン• 学習サイエンス、教授システム学(ID)

• インストラクション• ID美学原理、ARCSモデル、ID第一原理

• エキスパート養成

「予期せぬ死亡の回避」を目標に、トレーニングプログラムを段階的に導入する.そのプロセスのなかでサイエス・方法論を学習する.次のステップへ進む.

2712年4月17日火曜日

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トレーニングを始めるまえに、まず現状分析

2812年4月17日火曜日

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パフォーマンスが低い原因職場環境要因・仕事が分かりにくい・上司のコーチング・業務の仕組み・職種間の対話・情報システム・評価・インセンティブ

個人の内的要因・仕事の知識・スキル・やる気・業務経験

知識・スキルの獲得が問題解決に本当に有効?

2912年4月17日火曜日

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職場の環境• 学習成果の導入を回避する文化• いつもの方法に固執する• 新しい手順の導入への抵抗• 新しいことをしようとする同僚へのいじめ

• 学習成果の導入を推進する文化• よりよいアウトカムの追求• チェンジすることへの抵抗が少ない• 知の共有、コーチング、対話の文化がある

3012年4月17日火曜日

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トレーニングが有効な場合

• 職場のパフォーマンスが低い原因が、個人の能力不足だと特定されている

• トレーニングを受けることが職種・業務のパフォーマンス向上に必要である

• パフォーマンスを向上することが事業ニーズ・ミッション遂行に合っている

• 「いつか役に立つ」ではなく、明日から必要とされるパフォーマンス

3112年4月17日火曜日

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Rapid Response Teamトレーニングプログラム策定の前提

• 「予期せぬ死亡」…解決すべき課題が存在する• 管理者:「予期せぬ死亡」の回避は病院が解決すべき重要課題であり事業化する

• 管理者:予算、リソースを投入してRRTの育成を支援する

• RRTの育成を担当するチームが存在する• プログラムの策定に必要なリソースが利用できる

3212年4月17日火曜日

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RRTのミッション

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患者急変発生・通常モードで対応不可・迅速対応が必要

急変発生の察知

RRSの起動・RRT/METの要請

早期問題解決・安定化・専門治療

METの現場への派遣と必要な処置

MET; Medical Emergency Team初動に引続き必要な医療を行う

事後検証とシステム改善

病院管理者:システム導入とモニタ

「入力」系 「出力」系

「管理」系

RRT・急変対応

3312年4月17日火曜日

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急変対応パス 「6つの要素」

初期観察(INITIAL OBSERVATION)

周囲の状況(SCENE)

・現場、患者の 状況、関係者

患者(PATIENT)

・おもな訴えを聴取・一次評価(primary survey)を開始

即時評価と即時蘇生(QUICK ASSESSMENT & RESUSCITATION)

・致死的状態・不安定を即座に認識し直ちに治療・病態の鑑別と「とりあえずの診断」を生成する

詳細な評価(DETAILED ASSESSMENT)

出来事(Event)

・何が・どうして

二次評価(Secondary survey)

・バイタルサイン・診察

簡単な検査(Diagnostic)

・血糖値、ECG

・SpO2など

反応の確認反応なし→即時蘇生・気道確保・補助換気/酸素治療・心肺蘇生/除細動・ショック離脱

患者情報(入手可能な場合)

緊急度の判断・収集した情報(データ)をもとに緊急度(心停止の近接性)を判断

致死的(Life threatening)

・短時間で心停止に至る

重篤(Critical)

・専門的な検査や治療が必要

緊急性なし(Non-emergent)

・時間的余裕がある

継続的な処置と決着(disposition)(ONGOING MANAGEMENT)

再評価、再評価に応じた処置の修正、再評価

・蘇生チーム要請・医師連絡・経過観察

報告・連絡・依頼はI-SBAR-Cで行なう

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パフォーマンス目標• 患者情報から起こりうる急変を予測できる• 患者のアセスメント能力の向上• 前兆(なにか変?)を発見し、報告・相談ができる(言語化、SBAR)

• 対応パスを用いて必要な処置を迅速に行なう• 対応パスを終了する(決着をつける)• 経験を将来に活用できるように振り返り学習ができる

3512年4月17日火曜日

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「急変対応」の分類•即時蘇生で救命すべき「急変」•数分から30分で心停止に至る•心停止、気道閉塞・低酸素血症、ショック、外傷

•上記以外の「急変」•心停止まで数時間を要する

3612年4月17日火曜日

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何を教えるのか?•ステップ1:初心者•態度、知識、知的スキル、手技•ステップ2:中堅•認知能力•ステップ3:エキスパート•パフォーマンスの維持・深化

3712年4月17日火曜日

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初心者:態度、知識、知的スキル、手技

• 態度• 行動を選択する

• 知識(言語情報)• 説明できる

• 知的スキル(問題解決)• アルゴリズム、ガイドラインを使える

• 手技(テクニカルスキル)3812年4月17日火曜日

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初心者:AEDの使い方

• 態度• AEDの知識、場面の知識、結末の予測

• 知的スキル(問題解決)• 心停止を認識できる• CPRを開始できる、AEDを使用できる

• 手技(テクニカルスキル)• 質の高いCPR、AEDによる除細動

3912年4月17日火曜日

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中堅:認知能力

4012年4月17日火曜日

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概念化• 予測

• いまこの選択をしたら、その結果としてこんなことが起こるだろう

• 手順

• 「説明」だけでは、実際の操作・手順が理解できない場合がある・・・シミュレーションで実際に操作することが効果的

• 実験

• 失敗した経験をもとに、「あのときは計画がまずくてうまくいかなかった」ので、「こんどは計画を立て直して(具体的な工夫を加え)やってみよう。きっと成功するはずだ」

• 評価

• 価値観と規範を理解し、行動をとるべきか否かを判断する

4112年4月17日火曜日

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分析• 診断

• 複雑な状況の原因として関連する要因を探索する

• ドメイン特異的

• プランニング

• ゴールを達成するための計画を立案する

• ドメイン特異的

• 因果関係

• 連続するできごとの因果関係を見出すことができる

• ドメイン特異的

• 判断

• 客観的に判断する能力

• 指導者、同僚からのフィードバックが不可欠(判断のプロセスで)

4212年4月17日火曜日

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社会性• 影響力

• 人にやってもらいたいことを依頼したとき、その人がどのような反応を示すかを理解し、そのプロセスを改善する(意識的、無意識的)

• チームワーク

• チームでゴールを達成する、役割を分担する、メンバーからの建設的なインプットを活用する、人間関係の調整と紛争への対応

• 交渉力

• 公式・非公式の取引

• 交渉の学習は交渉の失敗を通じて学習される

• 記述力

• 問題が発生した時、状況を意識的かつ創造的に記述することで、解決すべき問題を明らかにする

• 問題解決の第一歩

• 実際の経験を通して学習

4312年4月17日火曜日

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何で教えるのか?• ステップ1:初心者• BLS, ACLS, PALS:インストラクション• 教授システム学、インストラクターコンピテンシー

• ステップ2:中堅• 応用シミュレーション、デブリーフィング• 学習科学、経験学習理論、デブリーフィング

• ステップ3:エキスパート• 応用シミュレーション、自己振り返り

4412年4月17日火曜日

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シミュレーション• ACLS, PALSのシナリオ•知的スキルを使うためのトリガー•受講後、シナリオは記憶しない•経験学習としてのシミュレーション•ストーリーとして長期記憶•学習ポイントが埋め込まれている

4512年4月17日火曜日

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どうやって教えるのか?• 原則1• 学習経験を物語化する(主人公は学習者)• 学習活動をテーマ化、コンテキスト、助演

• 原則2• 動機付けのデザイン• ARCSモデル(注意、関連、自信、満足)

• 原則3• 現実の課題、活性化、例示、応用、統合

4612年4月17日火曜日

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RRT開発チームの成長• ステップ1• BLS, ACLS, PALSのインストラクション

• ステップ2• 日本医療教授システム学会(JSISH)• Instructional Systems Design研究会

• ステップ3• JSISH• デザイン研究

4712年4月17日火曜日

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まとめ

•RRSの導入はトップダウン、実践はRRTのトレーニングプログラムから

•まずBLS, ACLS, PALSを導入する•教授システム学、学習理論を強化する•職場内学習環境をデザインする•上記をチームアプローチで推進する

4812年4月17日火曜日